(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記成形品が、前記加飾樹脂シートと、その後面に配置された樹脂成形体とから構成されていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の加飾樹脂シートを備えた成形品。
前記支持体の前面が前記加飾用凸部の高さよりも大きな高低差を備えた実質的に立体形状のものであり、これにより前記加飾樹脂シートを実質的に立体形状に形成することを特徴とする請求項8又は9に記載の加飾樹脂シートの製造方法。
請求項8〜11の何れかに記載の加飾樹脂シートの製造方法を行う過程中又は過程後に、前記加飾樹脂シートの後面に樹脂成形体からなる加飾対象物を配置して一体化することを特徴とする加飾樹脂シートを備えた成形品の製造方法。
前記立体装飾部を備えた前記加飾樹脂シートと前記加飾対象物とを別工程で作成した後に、前記加飾樹脂シートと前記加飾対象物とを一体化することを特徴とする請求項12に記載の加飾樹脂シートを備えた成形品の製造方法。
請求項8〜12の何れかに記載の加飾樹脂シートの製造方法を行う過程中又は過程後に、前記被加工シートをインモールド成形することにより、前記立体装飾部の高さを小さくすることを特徴とする加飾樹脂シートを備えた成形品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、立体的な装飾効果を高めた新たな立体装飾部を備えた成形品とその製造方法の提供することを課題とするものである。
特に金属的反射は、反射面と光源と観察者との関係において、入射角と反射角が等しくなった場合に限り、キラッと光っているという観察者に与えることができるが、両角度が等しくない場合には金属光沢を感じるという視覚効果を与える程度に止まってしまう。
【0006】
そのため、平面状態にあっては、キラッと光っているという視覚効果を与えることができるのは、偶然が支配する限られた角度条件下にとどまり、常に強い装飾効果を与えることはできない。本発明は、キラッと光っているという視覚効果をより広い条件で観察者に与えることができるとともに、これにより立体的な装飾効果をより効果的に発揮することができる新たな立体装飾部を備えた成形品とその製造方法の提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、立体装飾部の立体形状を、前記成形品の前面側から見て視認できるように構成されたことを特徴とする加飾樹脂シートを備えた成形品を提供する。前記加飾樹脂シートは、熱可塑性と透光性を有する合成樹脂のシート本体と、前記シート本体の後面側に配置された立体装飾部を備える。前記立体装飾部は、装飾用反射部とその後面に配置された厚盛り部とを備える。前記装飾用反射部は、金属箔やホログラム箔などに代表される金属的反射をなすための金属的反射層を備え、前記厚盛り部が前記装飾用反射部の少なくとも一部の後面を含む位置に配置されている。前記厚盛り部を後面側に備えた前記立体装飾部の外縁の角は、前記シート本体の厚さ方向の断面において、水平方向に向かうに従って垂直方向の位置が変化する立体屈曲面を備える。前記立体屈曲面を含む前記立体装飾部の立体形状が、前記成形品の前面側から見て視認できるように構成されている。
【0008】
前記立体装飾部は、前記金属的反射層と、その前面側に配置された透光性を有する着色インキによる着色層とが厚み方向に重ねられた層を備えるものとすることができる。前記厚盛り部と前記金属的反射層と前記着色層とは、平面視において、それぞれの外縁が互いに一致していると共に前記立体装飾部の外縁に対して一致しているものとすることが好ましい。前記立体装飾部の少なくとも一部は、前記立体装飾部の周囲に位置する領域に対して、立体形状、色彩及び金属的反射の3点において異なっているものとすることができる。
【0009】
前記成形品は、前記加飾樹脂シートのみから構成されることもできるし、前記加飾樹脂シートと他の成形品が一体化されたものとすることもできる。
前記加飾樹脂シートの前面側は、加飾用凸が表面に突出して存在するものであってもよく、内部に存在するものであってもかまわない。
内部に存在する場合、前記成形品はその前面側の表面が平坦であり、当該平坦な表面は、シート本体の前面側の表面により規定されているか、あるいは、前記シート本体の前面側に配置された透明被覆体の表面により規定されているものとすることができる。
【0010】
また、前記成形品は全体としての立体形状を備えたものとすることができる。前記全体としての立体形状は、前記シート本体がその厚み方向において、前記加飾用凸部の高さよりも大きな高低差によって規定されるものである。言い換えれば、前記加飾用凸部は前記高低差よりも小さく微細な凸部とすることができる。
また、前記成形品は、前記加飾樹脂シートと、その後面に配置された樹脂成形体とから構成することができる。
【0011】
本発明は、立体装飾部の立体形状を、前記成形品の前面側から見て視認できるように構成されたことを特徴とする加飾樹脂シートを備えた成形品の製造方法を提供する。
【0012】
前記加飾樹脂シートを製造する方法は、被加工シートを形成する工程と、被加工シートを成形する成形工程とを含む。
前記被加工シートを形成する工程は、熱可塑性と透光性を有する被加工シートの後面側に装飾用反射部を形成する装飾ステップと、前記装飾用反射部の後面側に厚盛り部を形成する厚盛りステップとを含む工程とを含む。前記装飾ステップは、金属箔又はホログラム箔による金属的反射層を、前記被加工シートの後面側に形成する工程であり、前記厚盛りステップは、前記装飾ステップと前記成形工程との間に行われるものである。前記成形工程は、前記被加工シートを軟化させる軟化ステップと、支持体の前面に対して前記被加工シートの後面を配置した状態で前記被加工シートを前記支持体に密着させる密着ステップとを含んだ真空成形又は圧空成形を行うものである。前記成形工程により、前記立体装飾部として前方へ突出する加飾用凸部が前記厚盛り部の位置する被加工シートの前面側に形成される。
【0013】
前記装飾ステップは、前記着色層と前記金属的反射層とを厚み方向に重ねて形成する工程として実施することができ、前記成形工程により、前記加飾用凸部の角に、水平方向に向かうに従って垂直方向の位置が変化する立体屈曲面が形成され、前記金属的反射層のうち少なくとも一部が、前記立体屈曲面を含む前記加飾用凸部に配置される。
【0014】
前記支持体の前面は、前記加飾用凸部の高さよりも大きな高低差を備えない実質的に平板状のものとすることができる。前記成形工程においては、前記被加工シートは平板状態を維持しながら前記支持体上で平板状に成形されると共に、前記厚盛り部の有無又は厚みの相違により、前記厚盛り部が配置された前記金属的反射層が前記シート本体と共に変形することにより、前記金属的反射層のクラックの発生を抑制しつつ前記シート本体の前面側に突出する前記加飾用凸部が形成される。
【0015】
また、前記支持体の前面は、前記加飾用凸部の高さよりも大きな高低差を備えた実質的に立体形状のものとすることもでき、これにより前記加飾樹脂シートを実質的に立体形状に形成することができる。
前記加飾樹脂シートは、樹脂成形体などからなる加飾対象物に対して一体化することにより、前記加飾対象物の表面装飾用の成形シートとして用いることができる。この一体化は、前記加飾樹脂シートの製造方法を行う過程中又は過程後に行うことができる。
また、前記立体装飾部を備えた前記加飾樹脂シートと前記加飾対象物とを別工程で作成した後に、前記加飾樹脂シートと前記加飾対象物とを一体化することもできる。
また、前記加飾樹脂シートの製造方法を行う過程中又は過程後に、前記被加工シートをインモールド成形することにより、前記立体装飾部の高さを小さくすることもできるし、前記成形品の前面側の表面を平坦なものとすることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、立体的な装飾効果を高めた新たな立体装飾部を備えた成形品とその製造方法を提供することができたものである。
特に本発明は、キラッと光っているという視覚効果をより広い条件で観察者に与えることができることにとどまらず、これにより立体的な装飾効果をより効果的に発揮することができる新たな立体装飾部を備えた成形品とその製造方法の提供することができたものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明に係る立体装飾部を備えた成形品の主要部をなす加飾樹脂シート51について
図1〜
図3を参照して説明する。
【0019】
(加飾樹脂シート51について)
図1(A)に本発明の第1の実施の形態に係る加飾樹脂シート51を示す。この加飾樹脂シート51は、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ABS樹脂などの各種熱可塑性樹脂からなる単層フィルム又は複層フィルムなどの合成樹脂製のシート本体2を備え、その平坦な前面に部分的に加飾用凸部3が形成されたものである。シートの厚み方向において、シート本体2の平坦な前面は加飾用凸部3に比して相対的な高さの小さな表面凹部6となるものであり、この表面凹部6と加飾用凸部3による凹凸を有するシートが、第1の実施の形態に係る加飾樹脂シート51である。この加飾用凸部3と表面凹部6との高さの差は、50〜200μm程度が適当であるが、種々の高さとして実施することができる。
【0020】
加飾樹脂シート51は、シート本体2の後面側に立体装飾部54を備える。立体装飾部54は、印刷インキなどで形成された装飾用反射部52と、装飾用反射部52の後面に配置された厚盛り部53を備えるものであり、厚盛り部53は上記の加飾用凸部3と対応する位置に形成されており、表面凹部6に対応する位置には形成されていない。加飾樹脂シート51は、その後面側に必要に応じて他の背面層4を設けることもできるし、設けずに実施することもできる。背面層4としては、合成樹脂製フィルムや紙や金属などの種々の素材を貼り付けたり一体成形したりして配置することができる。
【0021】
なお、装飾用反射部52と厚盛り部53はシート本体2の後面側に配置する方が好ましいが、加飾樹脂シート51が複数層の積層体の場合には、その層間に配置してもかまわない。また、この立体装飾部54は、イラストや写真等の種々の絵柄や文字を表示してこれらを立体的に表現するものであるが、一般の凹凸のない印刷と併用して実施することも当然可能である。
【0022】
装飾用反射部52は、透光性を備えた着色インキによる着色層59の後面側に、金属箔やホログラム箔などの反射箔57を含む金属的反射層55が配置され、これらが直接又は間接的に厚み方向に重ねられたものである。着色層59は種々の印刷技術により実施することができ、加飾樹脂シート51の前面側に色彩を与える共に文字、図形、模様などの視覚的表現をなす。金属的反射層55は鏡面状の反射や金属的光沢を与えるものである。金属的反射層55単独、又は、金属的反射層55と着色層59との併用によって、装飾用反射部52が形成されたものである。
【0023】
着色層59は、合成樹脂に対する印刷用のインキを、種々の方法でシート本体2の後面側に印刷することによって形成される。
金属的反射層55は、転写箔の手法により、金属箔や
ホログラム箔などの反射箔57を転写して形成されるものであることが好ましく、転写用のバインダ層56によって定着されている。バインダ層56は、経時変化でバインダ層56の割れやクラックを起こさないインキを使用することが適当であり例えば透明なシルクインキを採用することができる。これにより成形工程においてバインダ層56が金属的反射層55と一体化し、奇麗な鏡面を保ちながら、3D効果のある加飾性の高いシートを作ることが出来る。金属的反射層55は、シルク印刷(銀ペーストインキ)やホットスタンプでも実施してもかまわないが、転写箔を用いる方が有利である。転写箔は、シルク印刷(銀ペーストインキ)より鏡面性が高く、シルク印刷には作れない
ホログラム箔の使用も可能である点、又、ホットスタンプには鏡面性はあるがクラックを起こす可能性が高い点で、転写箔を用いる方が有利である。
【0024】
反射箔57の後面側には、ピンホールを目立たなくするためのシルク印刷などで白色インキを形成するなどした調整層58を設けて実施することもできる。
表現される図形や模様の装飾効果を高めために、金属的反射層55と着色層59とは、選択的に用いられるもので、金属的反射層55と着色層59とが重ねられた部分、金属的反射層55のみの部分、着色層59の部分、金属的反射層55及び着色層59が存在しない部分を備えたものとして実施することができ、これらを巧みに組み合わせることにより多様な表現が可能となる。本発明において装飾用反射部52は金属的反射層55を備えたものであり、金属的反射層55のみを備えたものであるか、あるいは金属的反射層55と着色層59とが重ねられた部分とを備えた部分を指すものである。
【0025】
この装飾用反射部52のみでは、その装飾効果は平面的に止まるものであり、これを3Dの立体的な装飾効果に高めるために厚盛り部53が配置されている。これによって装飾用反射部52に対して、さらに立体的な装飾効果を発揮させることができるものである。
そして、この装飾用反射部52と厚盛り部53とが平面視において略同一の位置に配置された加飾用凸部3を有する一方、表面凹部6には装飾用反射部52と厚盛り部53とを配置しないことにより、加飾用凸部3の周囲に位置する領域に対して、立体形状、色彩及び金属的反射の3点において異なっているものとすることがきる点で加飾効果を高める点で最も好ましい構成と言えるが、前述のように、これ以外の形態を組み合わせることにより多様な表現も可能となる。
【0026】
この実施の形態にあっては、加飾樹脂シート51の前面側の表面は、上記のように装飾用反射部52と加飾用凸部3による立体的な装飾効果を発揮する反面、厚盛り部53を含む加飾樹脂シート51の後面は比較的平坦で凹凸が小さいものとして実施することができる。そのため、加飾樹脂シート51を他の物品に接着剤や粘着剤によって貼り付けたり、加飾樹脂シート51を用いて種々の内容物を収納するケースを作成したりする際にも、支障を生ずる恐れが少なくすることができるが、他の目的で後面側の凹凸の方を大きくするような加工を施すなどして実施することも可能である。
【0027】
(加飾樹脂シート51の形成)
次にこの加飾樹脂シート51の製造方法について説明する。
本発明の実施の形態に係る加飾樹脂シート51は、被加工シート1を形成する工程と成形工程とを含むもので、被加工シートを形成する工程によって形成された被加工シート1の前面に対して、凹凸を付与する成形工程によって完成される。
【0028】
(被加工シート1を形成する工程の概要)
被加工シート1を形成する工程は、装飾ステップの次に厚盛りステップを行うものである。即ち、被加工シートを形成する工程は、熱可塑性と透光性を有するシート本体2の後面に対して装飾用反射部52を形成する装飾ステップの次に、少なくとも装飾用反射部52の後面に厚盛り部53を形成する厚盛りステップを行うものである。
【0029】
シート本体2には、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ABS樹脂などの各種熱可塑性樹脂からなる単層フィルム又は複層フィルムを用いることができ、その厚みは、例えば、0.1〜1.0mm程度とすることができ、より好ましくは0.1〜0.5mmである。
【0030】
(被加工シートを形成する工程の詳細について)
前述のとおり被加工シートを形成する工程は、装飾ステップと厚盛りステップを行う工程であるがこれらのステップについてより詳しく説明する。
【0031】
(装飾ステップについて)
まず装飾ステップについて説明すると、まずシート本体2の後面に印刷によって着色層59が形成される。この印刷にはオフセット印刷やシルク印刷やインクジェット印刷を用いることができるが、グラビア印刷等の他の印刷方法を用いることもできる。この着色層59は、透光性を有するインキを用いて、金属的反射層55に対して入出力する光を前方の観察者に届くようにするものであるが、一部には透光性のないインキを用いることもできるもので、例えば、装飾効果を高める観点から金属的光沢のある部分とない部分とを混在させたい場合や、観察者に見せたくない装置等を隠蔽するために、一部に透光性のないインキを用いるようことができる。
【0032】
この着色層59の層厚みは、オフセット印刷の場合には1μm前後、シルク印刷の場合には10μm前後が適当であり、1〜15μm程度の範囲が好ましいものであるが、適宜変更して実施し得る。なお、金属的反射層55による反射効果を付与しない部分については、金属的反射層55の後面側に着色層59を形成してもかまわない。
【0033】
次に、金属的反射層55が形成される。この金属的反射層55は、転写箔を用いて金属箔や
ホログラム箔などの反射箔57を含むもので、まず、反射箔57の転写用にバインダ層56を作る。バインダ層56は、反射箔57を定着させるものであればよいが、例えば透明なシルクインキで形成することができる。特に、経時変化でバインダ層56の割れやクラックを起こさないインキを使用することが適当である。これにより成形工程においてバインダ層56が金属的反射層55と一体化し、奇麗な鏡面を保ちながら、3D効果のある加飾性の高いシートを作ることが出来る。金属的反射層55は、シルク印刷(銀ペーストインキ)やホットスタンプでも実施してもかまわないが、転写箔を用いる方が有利である。転写箔は、シルク印刷(銀ペーストインキ)より鏡面性があり、シルクインキ印刷には作れない
ホログラム箔の使用も可能である点、又、ホットスタンプには鏡面性はあるがクラックを起こす可能性が高い点で、転写箔を用いる方が有利である。
【0034】
この反射箔57の後面側には、ピンホールを目立たなくするためのシルクインキなどの調整層58を形成して実施することもできる。
表現される図形や模様の装飾効果を高めために、金属的反射層55と着色層59とは、選択的に用いられるもので、金属的反射層55と着色層59とが重ねられた部分、金属的反射層55のみの部分、着色層59の部分、金属的反射層55及び着色層59が存在しない部分を巧みに組み合わせることにより多様な表現が可能となるが、本発明において装飾用反射部52は金属的反射層55単独、あるいは、金属的反射層55と着色層59とが重ねられた部分を指すものであり、被加工シート1の少なくとも一部には装飾用反射部52を含むものである。
【0035】
バインダ層56と反射箔57と調整層58の厚み合計は、約15〜50μmが適当であるが、適宜変更して実施し得る。そして装飾用反射部52の厚みは、着色層59を加えたものであり、約20〜60μmが適当であり、これらの各層のそれぞれの厚みは1〜15μm程度が適当であるが、適宜変更して実施し得る。
【0036】
(厚盛りステップについて)
次に厚盛りステップについて説明すると、このステップは被加工シート1における装飾用反射部52の少なくとも一部の後面に厚盛り部53を形成するものである。
【0037】
厚盛り部53は、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂やこれらの混合物又は化合物などの熱可塑性の樹脂によって形成されるが、透明であってもよく、着色インキと同様に顔料などで着色されたものであってもかまわない。厚盛り部53は着色層59と同様に印刷によって形成することができるが他の手法によって形成してもよい。この厚盛り部53は、その厚みが加飾用凸部3の高さを左右する大きな要因となるため50〜200μmが適当であるがこれに限るものではない。この厚みを得るために、層厚みの大きなシルクスクリ−ン印刷を行うことが有利である。その際、1回から、5回程度の複数回の印刷を施してもよい。部分的に印刷回数を変えるなどして厚みの異なる複数種類の厚盛り部53を形成してもよい。他方厚盛り部53の高さを同じにすることによって、印刷を施す際の印刷の版を共通して用いることができ生産効率を高めることができ、シートの後面側に生じる微細な凹凸の高さを平面にそろえやすくできる。
【0038】
厚盛り部53は、金属的反射層55と着色層59とが重ねられた領域のほか、金属的反射層55のみの部分、着色層59の領域、金属的反射層55及び着色層59が存在しない領域にも形成することができる。装飾用反射部52の全体に形成してもよいが、その一部分にのみ形成してもよく、金属的反射層55、着色層59及び厚盛り部53を多様に組み合わせて多彩な立体彩色反射の加飾効果を発現させることができる。厚盛り部53と金属的反射層55との2つの層の外縁(平面視における外周線)、又は厚盛り部53と金属的反射層55と着色層59との3つの層の外縁(平面視における外周線)を一致させておくことによって、金属的反射効果がある領域、又は、着色された金属的反射効果がある領域のみが、他の平面的な領域から盛り上がることになるため、平面部分と立体部分(加飾用凸部3)との装飾表現に際立った差異が生じるため、最も効果的に装飾効果を得る部分を含むことができるが、上述のように、金属的反射層55、着色層59及び厚盛り部53を多様に組み合わせて多彩な立体彩色反射の加飾効果を発現させることもできる。
【0039】
また、被加工シート1シートの最後面に、上記の各層とは異なる層(例えば樹脂層やインキ層)を配置してもかまわないし、例えば被加工シート1シートの全体の最後面に異なる層を配置して成形すると成形後のシート後面の凹凸を極めて小さなものにすることもできる。なお、異なる層の層厚みを大きくすると成形工程後の前面の加飾用凸部3を鮮明に突出させることが困難になるため、その厚みは60μm以下に止める方が好ましいが、後述のように種々の技術を組み合わせて実施することも可能である。
【0040】
(成形工程について)
成形工程は、完成された被加工シート1に対して、真空成形又は圧空成形を行うことによって好適になされ得る。この成形工程は、軟化ステップと密着ステップとを含むものであり、
図1(B)(C)と
図2を参照して具体的なステップを説明する。
【0041】
まず、
図2(A)に示すように、被加工シート1は成形機の保持枠84によって支持されている。この保持枠84は、被加工シート1の周囲をクランプするもので、被加工シート1が矩形の場合にはその4辺をクランプする。但し、被加工シート1を支持できることを条件に、対向する2辺のみをクランプするなど、成形機の構造などに応じて種々変更し得るし、クランプしない形式のものであってもかまわない。
【0042】
被加工シート1及び保持枠84の下方には、吸引部83を備えたテーブル81が配置され、テーブル81の上に支持体82としての多孔質板82が載置されている。保持枠84の上方には上部ヒーター85が配置されており、テーブル81の下方には下部ヒーター86が配置されている。被加工シート1は、厚盛り部53を備えた後面側を多孔質板82に向けて(図では後面側を下方に向けて)保持枠84により支持されている。
【0043】
図2(B)及び
図1(B)に示す軟化ステップにあっては、上部ヒーター85と下部ヒーター86とにより被加工シート1が加熱される。その際、図の例では上部ヒーター85が被加工シート1の真上に移動するようにし、他のステップでは横方向に退避するようにしているが、加熱の構造や動きは成形機の構造などに応じて種々変更し得る。この被加工シート1に対する加熱によって、溶融状態となり、被加工シート1は多孔質板82に向けてドローダウンする。
【0044】
図2(C)及び
図1(C)に示す密着ステップでは、被加工シート1がドローダウンすると共にテーブル81及び多孔質板82が上昇して被加工シート1を多孔質板82の前面(図では上面)に配置する。テーブル81及び多孔質板82は、多数の微細孔を備えた多孔質板から構成されている。多孔質板82の前面に対して被加工シート1の後面を接触させた状態で、吸引部83によって吸引がなされ、多孔質板82の多数の微細孔から加熱されドローダウンした被加工シート1が吸引される。
【0045】
多孔質板82は平板部を全面に備えた平板状であり、その前面(図では上面)は、平滑であることが好ましい。被加工シート1は、平板状態で多孔質板82上にドローダウンされ、平板状態を維持しながら多孔質板82上で均一に吸引されて平板状に成形される。
ここで、前述のとおり、被加工シート1の後面(図では下面)には、厚盛り部53の有無により凹凸が形成されているが、この吸引によって、被加工シート1は多孔質板82に密着し、その後面(図では下面)は厚盛り部53の有無に関わらず被加工シート1の平面に近づくように変形すると共に、被加工シート1の前面(図では上面)は厚盛り部53の有無(もしくは被加工シート1の厚みの多少)によって、凹凸が形成される。即ち、被加工シート1の有るところ(もしくは厚みの大きいところ)の前面は加飾用凸部3となり、被加工シート1の無いところ(もしくは厚みの小さなところ)の前面は凹部となった加飾樹脂シート51が形成される。その際、形成される凹凸に応じて、被加工シート1に配置された各層が変形するが、装飾用反射部52(特に反射箔57)が、シート本体2及び厚盛り部53と共に伸ばされることにより、装飾用反射部52(特に反射箔57)のクラックの発生を抑制しつつ、加飾樹脂シート51のシート本体2の前面に0.1〜0.3mm程度の高さで突出する加飾用凸部3が形成される。
【0046】
その際、被加工シート1には成形に伴う伸縮が生じるが、被加工シート1は平板状態を維持しながら多孔質板82上で平板状に成形されるため、全体が均一な条件で成形に伴う伸縮が生じる。これにより、装飾用反射部52(特に反射箔57)のクラックの発生を抑制しつつシート本体2の前面に突出する加飾用凸部3を形成することが可能となる。
【0047】
ただし、立体屈曲面が全体として均一な条件で成形に伴う伸縮が生じるものであれば、成形品全体としてより大きな凹凸を備えているものであってもかまわない。例えば、成型品全体としては、斜面や湾曲形状のより大きな凹凸(前述の加飾用凸部より大きな高低差)を備えたものであっても、微視的には加飾用凸部3の高さにおいて上記と同等であれば、言い換えれば加飾用凸部3の形成される周辺領域が、全体として均一な条件で成形に伴う伸縮が生じる場合などでは、クラックの発生を抑制しながら装飾用反射部52(特に反射箔57)を形成することが可能となる。
【0048】
なお、この加飾用凸部3は、多孔質板82の凹凸ではなく、厚盛り部53の有無又は厚みの相違によって形成される。
従って、前述の微視的な意味での平板状、最も望ましくは多孔質板82が平板であることが好ましく、成形時における保持枠84が被加工シート1をクランプしている高さは、多孔質板82の上面の高さと略等しいことが望ましい。言い換えれば、シート状の加飾樹脂シート51を形成する場合には、平板状の多孔質板82の表面は、実質的に平面状(即ち、凹凸があったとしても被加工シート1の厚みよりも小さな高低差程度に止まっているもの)であることが適当であるが、全体として大きな凹凸を備えた金型を用いて実施することも可能である。
【0049】
例えば、多孔質板82の厚みは10mm前後とし、保持枠84のクランプ位置は保持枠84の下端から約10mmの位置とすることによって、保持枠84をテーブル81に当接させた状態で吸引をなせば、被加工シート1は略平板状を保った状態で成形され得る。
多孔質板82には、多孔質な木材やコルク板や金属板を用いることができ、金属板としてはポーラスなアルミニウムやその合金製の薄板材を用いることができる。特に、その前面は平滑であることが好ましく、空気通気性を確保する孔は100μm未満、特に10〜20μm程度の微細孔であることが好ましい。
【0050】
この成形工程によって得られた加飾樹脂シート51は、
図1(B)の成形前の状態から
図1(C)の成形後の状態に示すように、加飾用凸部3の角は自然な曲面や斜面による立体屈曲面(水平方向に向かうに従って垂直方向の位置が変化する面)となる。また、成形後の厚盛り部53の平均厚みは、成形前の約10%程度減少する。なお
図1などの各図は、説明のための図であるため各層の厚みなどの寸法を正確に示したものではない。この立体屈曲面に沿って、内部の反射箔57も変形して配置されて曲面や斜面の反射面を形成する。これによって、
図3(A)に示されるように、その加飾用凸部3の平面的な模様に加えて立体屈曲面の角度に応じて、金属的反射層55が多様な方向に反射すると共に観察者の位置の変化により反射光が見える箇所が変化するため、立体的な加飾効果を高めることができる。これに対して、
図3(B)にあっては、成形工程を施さない被加工シート1を示したものであるが、平面的な美観のみを得ることができるに止まる。なお、加飾用凸部3の角に金属的反射層55が配置されるようにするために、成形前の被加工シート1における厚盛り部53の平面視の大きさを反射箔57よりも一回り小さくしておくことが好ましく、例えば厚盛り部53の厚みの70〜150%の長さ分、具体的には約0.05〜0.5mm、より好ましくは約0.1〜0.2mmの幅で、平面視において金属的反射層55の外縁(外周辺)が厚盛り部53の外縁よりもはみ出すようにしておくことが適当である。これによって、成形工程後の加飾用凸部3と金属的反射層55との平面視における大きさを一致させることができ、立体屈曲面を備えた加飾用凸部3の全体が金属的な反射効果を備え、平坦な箇所では金属的反射層55がなく金属的反射光を発しないようにすることによって3D的な装飾効果を際立って発揮させることができる点で有利である。
【0051】
シートの厚み方向に沿う断面において、加飾用凸部3の角の立体屈曲面は、少なくとも80度、望ましくは160度以上の円弧状をなすことが適当である。これによって、金属的反射層55によるピカッと光るような反射光を、観察者の目の高さ如何にかかわらず受光することができる。しかも、観察者の目の高さが変化することによって、加飾用凸部3のうちピカッと光る個所が次々と変化するため、加飾用凸部3の立体感をより強く観察者に感じさせることができる点で、有利である。
【0052】
但し、目的とする図柄の意匠効果から種々変更することができるものであり、金属的反射層55が厚盛り部53よりも大きな部分や、金属的反射層55が厚盛り部53よりも小さな部分や、等しい部分などを適宜並存混在させてもかまわない。
例えば被加工シート1の全面に着色層59を形成し金属的反射層55をその一部にのみ配置してもよい。また、厚盛り部53を形成する領域は、金属的反射層55のみの部分、着色層59のみの部分、金属的反射層55と着色層59との双方の部分など、意匠効果から種々選択することができ、一つの加飾樹脂シート51においてこれらを組み合わせることもできる。
【0053】
(加飾樹脂シート51からパッケージングケースの製造)
加飾樹脂シート51は、それ単独又は他の物と併用して、種々の利用が可能であるが、例えば、シート製のパッケージングケースの定法に従って箱体に形成することができる(
図4及び
図5参照)。具体的には、加飾樹脂シート51をトムソンなどの金型で打ち抜くと共に折り目線の加工を施し、必要に応じて貼り付けなどの加工を施して、パッケージングケースを完成させることができる。加飾樹脂シート51をパッケージングケースに加工する工程についてはシート製のパッケージングケースの製造における種々の方法を採用することができる。
【0054】
図4、
図5に示すパッケージングケース100は、六面体の箱体で、胴部を構成する4つの側面シート101と、一つの側面シート101に連設された蓋シート102と、4つの側面シート101のそれぞれから連設された底シート103を備えており、底シート103が組み合わされて底部が構成されるものである。
【0055】
このパッケージングケース100は、1枚の加飾樹脂シート51を木型に沿って切り抜くと共に折り目線を形成することにより製造することができる。この例では、側面シート101や蓋シート102には、その全部や一部に立体装飾部54が形成されており、この立体装飾部54は
図3(A)に示ように加飾用凸部3に対応するように形成されており、金属光沢を有する装飾と立体的な装飾とを融合させた新たな3D効果を有する立体的な装飾となっているものである。
【0056】
なおパッケージングケースの形態は、
図4に示すように一部分に立体装飾部54を設けたものなど、種々変更して実施することができるものであり、本体と蓋体とが分離しているものであってもかまわないし、胴部が円筒形状をなすものであってもかまわないし、合成樹脂製シートを折り目線で曲げたり、折り目線を用いずに湾曲させたり、貼り合わせたりするなど、種々の加工を組み合わせて形成されるパッケージングケースとして実施することができる。
【0057】
(加飾樹脂シート51の前面側について)
上述の加飾樹脂シート51は、前面側の表面に加飾用凸部3と表面凹部6とからなる微細な加飾用の凹凸を備えている。
これに対して、
図6の例では、加飾樹脂シート51の前面側に、アクリル板等のアクリルシートなどの透明被覆体41を配置するなどして、表面を平滑にしたものとして実施されている。透明被覆体41と加飾樹脂シート51との間は、粘着剤や接着剤などのシート間接合剤42によって接合されている。粘着剤や接着剤は透明性の高いものが適当であり、且つ、シート間に気泡が混入し難いものを用いることが望ましい。例えば、接着剤としては、UV接着剤に代表される紫外線などの活性エネルギー線硬化型接着剤を用いることが有利である。
【0058】
透明被覆体41の厚みは加飾樹脂シート51の厚みより大きなものであってもよく、小さなものであってもかまわない。
この例では、透明被覆体41の表面は、加飾用の凹凸が存在しない平滑な表面となっているが、これを前面側から観察した場合、透明被覆体41及びシート間接合剤42を通して、内部の立体装飾部54が見える。この立体装飾部54は、前述の各例と同様に、後面側の厚盛り部53によって立体的な形状を備えており、外部からその立体形状を認識することができる。特に、立体装飾部54を、その周囲に位置する領域に対して、立体形状、色彩及び金属的反射の3点において異なっているものとすることがきる点で高い加飾効果を得ることができるものであり、種々の製品に適用した場合、表面が平滑であるにも関わらず内部に立体的な装飾を備えた製品を得ることができる。
【0059】
(第2の実施の形態(
図7〜
図9参照))
前述の第1の実施の形態にあっては、支持体82として平板状の多孔質板を用いることにより、実質的に平面状の加飾樹脂シート51を成形したものであったが、この第2の実施の形態にあっては加飾樹脂シート51が全体として立体形状を備え、前記立体形状は、前記シート本体がその厚み方向において、前記加飾用凸部3の高さよりも大きな高低差によって規定されているものである。
【0060】
具体的には、
図8(A)に示すように、成形工程に用いる支持体82について立体形状(厚み方向(図では上下方向)において、加飾用凸部3の高さよりも大きな高低差を備えている形状)を備えた立体的なものを用いるものである。この支持体82としては、真空・圧空成形の際に用いる合成樹脂成型用の金型を用いることができる。
【0061】
得られた加飾樹脂シート51は、全体として立体形状を備えるものであって、その立体形状による高低差よりも小さな加飾用凸部3を備えているものである。
加飾樹脂シート51は、その内部の層構造や製造方法は、支持体82の構成のみが異なるだけで、先の
図1、
図2に示すものと実質的に同様であり、その詳しい説明は省略するが、以下、その製造方法の概要を示す。
【0062】
まず、
図2(A)に対応する
図7(A)に示すように、立体形状を備えた支持体82がテーブル81の上に配置され、その上方から前述の被加工シート1が供給される。次に、
図7(B)に示すように、被加工シート1が上部ヒーター85及び下部ヒーター86により加熱されて支持体82上にドローダウンして吸引がなされる。最後に、
図8(A)に示すように、吸引によって、被加工シート1は支持体82に密着し、全体が支持体82の形状に沿って立体的に変形すると共に、被加工シート1の前面(図では上面)は厚盛り部53(
図7及び
図8では図示せず)の有る部分のみが、加飾用凸部3となって前面側に突出する。
【0063】
これにより、
図8(B)に示すように、全体として立体形状を備えたシートであって、その前面に微細な加飾用凸部3が形成された加飾樹脂シート51が得られるものである。
図9は、表面に凹凸を備えていない被加工シート(
図9(A1)(A2)参照)と、第1の実施の形態に係る加飾樹脂シート(
図9(B1)(B2)参照)と、第2の実施の形態に係る加飾樹脂シート(
図9(C1)(C2)参照)とを対比するものであり、この
図9に示されているように、加飾用凸部自体の構成としては、第1の実施の形態と同様であるが、第1の実施の形態よりも立体感がより向上したシートを得ることができたものである。
【0064】
第3の実施の形態(
図10、
図11参照)
加飾樹脂シート51は、それを単独で用いることも可能であるが、他の物品に貼り付けて用いることも可能である。言い換えれば、この加飾樹脂シート51は、樹脂成形体などの加飾対象物の表面を装飾するための表面装飾用シートとして実施することができるものである。
【0065】
貼り付けの方法は、特に問うものではなく接着剤や粘着剤を用いることもでき、成型技術を適用することも可能である。加飾対象物の材質としては、金属、板材、紙材、合成樹脂やこれらの複合材料製など、種々の材質を選択して用いることができる。
合成樹脂による樹脂成形体を用いた加飾対象物については、貼合成型技術を適用することが可能である。貼合成型技術の方法としては、インモールド成形とアウトモールド成形のいずれも適用することができるが、まず第3の実施の形態としてインモールド成形の例を示し、次に第4の実施の形態としてアウトモールド成形の例を示す。
【0066】
図10及び
図11は、インモールド成形の説明図であり、
図10(A)に示ように、樹脂成型用の金型201、201を開き、金型の内部に表面に加飾用凸部3を備えた加飾樹脂シート51を配置する。
次に、
図10(B)、
図11(A)に示ように、金型201、201を閉じて、溶融した合成樹脂を射出口202から、金型201、201内にて射出成型するとともに、その表面に加飾樹脂シート51を貼り付けるものである。なお、
図11(A)に示すように、必要に応じてバッカーシート7を加飾樹脂シート51の後面に配置しておいてもよい。
【0067】
これにより、
図10(C)、
図11(B)に示すような、加飾対象物91(この例では樹脂成形体)とその前面に配置された加飾樹脂シート51とが一体となったインサート成形品を得ることができる。
なお、金型201内にインサートする加飾樹脂シート51は、射出される溶融樹脂の熱と圧力で賦形されるが、金型外で予備加熱しておいて金型201にインサートし、真空引きによって予備賦形した後に樹脂を射出するものであってもよい。また、第2の実施の形態に示すような全体的に高低差などを有する所定形状に予備賦形した加飾樹脂シート51を用いて、これを必要に応じて所定のキャビティ形状に切り出して、金型201にインサートして樹脂を射出するようにしてもよい。
【0068】
射出成形後の加飾樹脂シート51は、その加飾用凸部3が、成形前の高さを保ったものとして実施することもできるし、前面の加飾用凸部3が成形前の高さよりも小さくなっているものとしても実施することもできる。
この高さの調整は、インサート成形時の樹脂の導入圧力や、インサート成形時に常用されるバッカーシートの有無並びにその厚みや、予備加熱の有無、予備賦形の有無を調整することによって、種々変更することができる。
【0069】
図12(A)に射出成形後に得られた加飾樹脂シートを示す。これとの比較のために、
図12(B)に立体装飾部を形成するための成形工程を行っていない被加工シートを示す。
図12(A)に示す加飾樹脂シートは、前面側の表面の凹凸が実質的に消滅して、実質的に平らな前面となっているが、透明感のあるシート本体2の内部には、
図11(B)に示すように厚盛り部53によって盛り上げられた金属的反射層55と着色層59とを備えた立体装飾部54が立体感のある凸部として前面側から視認可能に残存する。その結果、
図6に示す例と同様に、内部に立体感のある立体装飾部54が存在すると共に前面の表面が平坦な成形品を得ることができる。言い換えれば、表面が平坦である一方、内部に深度(奥行き)の立体感のある美観を発揮することができる形態となっているものである。
【0070】
なお、この例の成形品を得るためには、
図11(A)に示すように金型201内で成形される前の加飾樹脂シート51の状態において、加飾用凸部3の高さ(平坦な表面凹部6からの加飾用凸部3の頂部までの厚み方向長さ)が、シート本体2の厚み以下のものとして実施することにより、得られた成形品の表面が平面状であって内部に残存する立体装飾部54の立体感が良好なものを得ることができる点で有利である。他方、加飾用凸部3の高さがシート本体2の厚みを超えるものとして実施した場合には、相対的に立体装飾部54の高さ(厚み)を大きくすることができるため、成形品の表面の平滑性が悪くなる傾向を示すものの、内部の立体装飾部54の立体感を高めることができるという利点がある。
【0071】
第4の実施の形態(
図13参照)
次に、
図13は、アウトモールド成形の例を示すものである。アウトモールド成形は、加飾樹脂シート51の上下の差圧を利用して加飾対象物91に貼り付けて賦形するもので、種々の形態のものが提案され実用化されており、これらを適宜選択して用いることができる。
【0072】
その一例を
図13を参照して説明すると、
図13(A)に示すように、チャンバー301内のテーブル302に加飾対象物91を配置し、加飾樹脂シート51の上下の空間であるチャンバー301内を、チャンバー301に接続された真空ポンプ(図示せず)などによって、減圧する。必要に応じて接着剤が塗布された加飾樹脂シート51をヒーター303によって減圧下で加熱する。
【0073】
次に、
図13(B)に示すように、テーブル302を必要に応じて上昇させると共にチャンバー301内の加飾樹脂シート51の上の空間に対して大気圧を導入あるいは加圧(圧空)することによって、加飾樹脂シート51を加飾対象物91に押しつけて貼り合わせする。これにより、
図13(C)に示すように、加飾樹脂シート51を加飾対象物91の表面に貼り付けることができる。なお、加飾対象物91がアンダーカットされている場合にも、圧力差によって加飾樹脂シート51がアンダーカット部分にも巻き付けられるため、貼り合わせが可能である。なお、ヒーター303により加熱に代えて又は併用して熱板を利用してもかまわないし、また、圧空の際に水蒸気を導入してもかまわないし、種々の方法を採用して実施することができる。
【0074】
第5の実施の形態(
図14参照)
次に、
図14に示す第5の実施の形態は、後面に厚盛り部53が突出した状態の被加工シート1を、
図10の例と同様に、インサート成形用の金型201内に配置し、加飾対象物91用の樹脂を射出することにより、加飾対象物91の成形と、その前面側の立体感のある立体装飾部54とを同時に加工する例である。
【0075】
厚盛り部53が後面に突出した状態の被加工シート1には
図1(B)に示すものと同様のものを用いることができ、インサート成形に関して
図10及び
図11に示す同様の工程をなすことができる。
この加工によって、
図11(B)に示すものと同様の成形品を得ることができるものである。詳しくは、金型201内の加飾樹脂シート51の後面側から、加飾対象物91用の溶融樹脂が射出されることにより、後面に突出している厚盛り部53が前面側に押し上げられ、金属的反射層55と着色層59とを備えた立体装飾部54が立体感のある凸部として前方へ突出せんとする。他方、加飾樹脂シート51の前面は金型201の内面に押し付けられることになる。その結果、内部に立体感のある凸部が存在すると共に前面の表面に現れる凹凸が
図1(A)に示すものと比して小さくなった成形品を得ることができる。なお、前面の表面の凹凸の有無や高さは、インサート成形時の樹脂の導入圧力や、インサート成形時に常用されるバッカーシートの有無並びにその厚みや、予備加熱の有無、予備賦形の有無を調整することによって、種々変更することができるが、何れの場合にあっても、内部に金属的反射層55と着色層59とを備えた立体装飾部54が立体感のある凸部として残存する。従って、この内部の凸部を透明感のあるシート本体2の前面側から視認することによって、深度(奥行き)の立体感のある美観を看者が感じることができる形態を備えた加飾樹脂シートと加飾対象物91とを同時に成形することがてきるものである。
【0076】
(第5の実施の形態のアウトモールド成形への適用)
さらに図示は省略するが、
図13に示す第4の実施の形態を実施する際に、加飾樹脂シート51に代えて、後面に厚盛り部53が突出した状態の被加工シート1(
図1(B)に示すものと同じ形態のもの)を用いることもできる。
【0077】
これにより、
図13(C)に示すものと同様に、真空圧空成形により加飾対象物91の表面に被加工シート1が貼り付けられると共に、被加工シート1は同真空圧空成形により厚盛り部53によって前面側の表面に加飾用凸部3が形成された加飾樹脂シート51となる。
変更例(
図15参照)
上述の各実施の形態の他、本発明は種々変更して実施することができる。例えば、先の各例では、金属的反射層55と着色層59とは、平面視において、それぞれの外縁が互いに一致していると共に厚盛り部53に対して僅かに広く形成されれているものとして実施することによって、立体装飾部54の立体感が他の部分に比して強調されると共に、金属的な反射が立体装飾部54のみに表現されることにより、極めて3D効果の高い表面加飾された成形品を得ることができたものである。また、上述の製造方法を採用することにより、立体装飾部54によって、例えば細かな図柄や文字などを表現する場合にも、立体装飾部54のみに良好な3D効果を付与することができたものである。
【0078】
他方、成形品の全体に金属光沢などの金属的な加飾を付与する場合には、
図15に示すように、金属的反射層55を成形品の平面方向の全体に付与することもできる。この金属的反射層55は、先の例と同様、転写箔、シルク印刷(銀ペーストインキ)、ホットスタンプなどの技術を用いて形成することができるが、シルバーシート等の金属箔シートやホログラムシートとして市場に提供されている既成の反射箔シートを用いて実施することもできる。反射箔シートは、粘着剤や接着剤によってシート本体2の後面側の全体に接合して用いることができる。
【0079】
また、着色層59についても、シート本体2の後面全体に形成することもできるし、一部に形成することもでき、この着色層59の後面に金属反射シートによる金属的反射層55が形成されるものである。
そして、金属的反射層55の後面側に厚盛り部53が部分的に形成される。
【0080】
得られた被加工シート1は、前述までの加飾樹脂シート51と同様に、インモールド成形やアウトモールド成形などの各実施の形態に示す加工方法により加工が施されることにより、加飾樹脂シート51並びにこれを備えた加飾対象物91が製造されるものである。
立体的な装飾効果を高めた凹凸を前面側に備えた成形品とその製造方法を提供する。加飾樹脂シート51は、シート本体2の後面側に立体装飾部54とその後面に配置された厚盛り部53を備える。装飾用反射部52は、金属箔やホログラム箔などの金属的反射層55を含み、金属的反射層55の少なくとも一部の後面に厚盛り部53が配置されている。シート本体2を平面状の支持体上で真空圧空成形することによって、厚盛り部53の有無によって、シート本体2の前方へ突出する加飾用凸部3が形成される。