(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[電力管理システムの構成例]
図1は、本発明の実施形態における電力管理システムの構成例を示している。この図に示す電力管理システムは、例えば或る一定範囲の地域における複数の施設100と、電力管理装置200とを備えて構成される。複数の施設100と電力管理装置200とはネットワークNWで通信可能に接続される。
施設100は、例えば住宅、商業施設、産業施設、公共施設などのうちのいずれかである。
【0013】
電力管理装置200は、地域における複数の施設100において使用される電力を管理する。
そのうえで、本実施形態における電力管理装置200は、施設100ごとに備えられる蓄電池を管理する蓄電池管理装置200Aとしての機能を備える。蓄電池管理装置200Aは、地域における複数の蓄電池の劣化が抑制されるように運転制御(劣化抑制制御)を行う。
なお、このようなエネルギー管理システムは、例えばTEMS(Town Energy Management System)やCEMS(Community Energy Management System)などといわれるものに対応する。
【0014】
[施設における電力系統の構成例]
図2は、施設100における電力系統の構成例を示している。この図に示す施設100においては、太陽電池101、パワーコンディショナ(PCS:Power Conditioning System)102、蓄電池103、インバータ104、電力経路切替部105、負荷106及び施設内電力管理装置107を備える。
【0015】
太陽電池101は、光起電力効果により光エネルギーを電力に変換する電力発生装置(太陽光発電装置)である。太陽電池101は、例えば施設100の屋根などのように太陽光を効率的に受けられる場所に設置されることで、太陽光を電力に変換する。
パワーコンディショナ102は、太陽電池101から出力される直流の電力を交流に変換する。
【0016】
蓄電池103は、充電のために入力される電力を蓄積し、また、蓄積した電力を放電して出力する。この蓄電池103には、例えばリチウムイオン電池などを採用することができる。
【0017】
インバータ104は、複数の蓄電池103ごとに対応して備えられるもので、蓄電池103に充電するための電力の交流直流変換または蓄電池103から放電により出力される電力の直流交流変換を行う。つまり、蓄電池103が入出力する電力の双方向変換を行う。
具体的に、蓄電池103に対する充電時には、商用電源ACまたはパワーコンディショナ102から電力経路切替部105を介して充電のための交流の電力がインバータ104に供給される。インバータ104は、このように供給される交流の電力を直流に変換し、蓄電池103に供給する。
また、蓄電池103の放電時には、蓄電池103から直流の電力が出力される。インバータ104は、このように蓄電池103から出力される直流の電力を交流に変換して電力経路切替部105に供給する。
【0018】
電力経路切替部105は、施設内電力管理装置107の制御に応じて電力経路の切り替えを行う。上記の制御に応じて、電力経路切替部105は、施設100において、商用電源ACを負荷106に供給するように電力経路を形成することができる。
【0019】
また、電力経路切替部105は、施設100において、太陽電池101により発生された電力をパワーコンディショナ102から負荷106に供給するように電力経路を形成することができる。
また、電力経路切替部105は、施設100において、商用電源ACと太陽電池101の一方または両方から供給される電力をインバータ104経由で蓄電池103に充電するように電力経路を形成することができる。
また、電力経路切替部105は、施設100において、蓄電池103から放電により出力させた電力を、インバータ104経由で負荷106に供給するように電力経路を形成することができる。
【0020】
負荷106は、施設100において自己が動作するために電力を消費する機器や設備などを一括して示したものである。
【0021】
施設内電力管理装置107は、施設100における電力を管理する。このために、施設内電力管理装置107は、施設100における電気設備(太陽電池101、パワーコンディショナ102、蓄電池103、インバータ104、電力経路切替部105、負荷106のすべてまたは一部)を制御する。
【0022】
図2には、蓄電池103の劣化抑制制御に関連する施設内電力管理装置107の構成例が示されている。
この図に示す施設内電力管理装置107は、制御部111、状態検出部112、運用履歴情報記憶部113および通信部114を備える。
制御部111は、同じ施設100における電力管理のために、太陽電池101、パワーコンディショナ(PCS:Power Conditioning System)102、蓄電池103、インバータ104、電力経路切替部105、負荷106を制御する。
【0023】
状態検出部112は、同じ施設100における蓄電池103についての所定の状態を検出する。状態検出部112は、所定の状態として、例えば、蓄電池103の蓄電容量(満充電時の蓄電量)、蓄電池103の内部抵抗(インピーダンス)などを検出することができる。
あるいは、状態検出部112は、充電容量や内部抵抗のほかに、蓄電池103の充放電曲線特性(一定電流による充電、放電を行った場合の電圧変化を示す特性)、蓄電池103の温度、蓄電池103の外形変化などであってもよい。また、状態検出部112は、これらの状態のうちの2以上を組み合わせて検出してもよい。
【0024】
運用履歴情報記憶部113は、運用履歴情報を記憶する。運用履歴情報は、同じ施設100における蓄電池103の運用に関する履歴を示す。例えば、運用履歴情報は、これまでの蓄電池103の運用において行われた充電、放電に関する各種の履歴を含む。
制御部111は運用履歴情報を管理する。例えば制御部111は、蓄電池103が運用される状態を監視することにより、その運用実績から運用履歴情報を生成する。制御部111は、上記のように生成した運用履歴情報を運用履歴情報記憶部113に記憶させる。
通信部114は、ネットワークNWを経由して電力管理装置200と通信を実行する。
【0025】
状態検出部112により検出された蓄電池103の所定の状態を示す状態情報は、例えば制御部111の制御によって、通信部114から電力管理装置200に対して送信される。また、運用履歴情報記憶部113に記憶される運用履歴情報も、制御部111の制御によって通信部114から電力管理装置200に対して送信される。
【0026】
[電力管理装置の構成例]
図3は、電力管理装置200における蓄電池管理装置200Aの構成例を示している。この図に示す蓄電池管理装置200Aは状態情報取得部201、運用履歴情報取得部202、モデルデータ記憶部203、モデル部204、乖離判定部205、劣化要因推定部206、劣化要因データベース記憶部207、劣化抑制制御部208、モデル変更部210、蓄電池情報生成部211、情報出力部212及び通信部213を備える。
【0027】
状態情報取得部201は、各施設100の施設内電力管理装置107から状態情報を取得する。
施設内電力管理装置107は、例えば一定時間ごとのタイミングで、あるいは、状態情報取得部201の要求に応答して状態情報を送信する。このように送信された状態情報は、通信部213にて受信される。状態情報取得部201は、通信部213により受信された状態情報を取得する。
【0028】
運用履歴情報取得部202は、各施設100の施設内電力管理装置107から運用履歴情報を取得する。
施設内電力管理装置107は、例えば一定時間ごとのタイミングで、あるいは、運用履歴情報取得部202の要求に応答して運用履歴情報を送信する。このように送信された運用履歴情報は、通信部213にて受信される。運用履歴情報取得部202は、通信部213により受信された運用履歴情報を取得する。
【0029】
モデルデータ記憶部203は、各施設100の蓄電池103ごとに対応する基本モデルデータ及び劣化モデルデータを記憶する。
図4は、モデルデータ記憶部203の記憶内容として、1つの蓄電池103に対応する記憶内容例を示している。
この図に示すように、モデルデータ記憶部203は、蓄電池103ごとに対応して、基本モデルデータ301と劣化モデルデータ302を記憶する。
【0030】
基本モデルデータ301は、蓄電池103の内部状態を推定するための基本モデルを示すデータである。
劣化モデルデータ302は、基本モデルに蓄電池の劣化機能を与える劣化モデルを示すデータである。
【0031】
また、本実施形態におけるモデルデータ記憶部203は、同じ
図4に示すように、劣化モデルデータ302として、サイクル劣化モデルデータ311と保存劣化モデルデータ312を記憶する。
サイクル劣化モデルデータ311は、サイクル劣化としての劣化機能を基本モデルに与えるデータである。サイクル劣化は、例えば充放電サイクルを繰り返すことによる蓄電池103の劣化であり、充放電サイクルの回数に依存する。
保存劣化モデルデータ312は、保存劣化としての劣化機能を基本モデルに与えるデータである。保存劣化は、例えば蓄電状態の蓄電池に発生する劣化であり、蓄電池103の充電が完了してから放電を開始するまでの保存時間に依存する。
【0032】
図3において、モデル部204は、運用履歴情報取得部202が取得した運用履歴情報に基づいて、基本モデルと劣化モデルとにしたがって各施設100の蓄電池103ごとの所定の状態を推定する。
この際、モデル部204は、モデルデータ記憶部203に記憶される蓄電池103ごとの基本モデルデータ301と劣化モデルデータ302(サイクル劣化モデルデータ311、保存劣化モデルデータ312)とを読み出す。そして、モデル部204は、蓄電池103ごとに読み出した基本モデルデータ301、サイクル劣化モデルデータ311、保存劣化モデルデータ312のそれぞれが示す基本モデル、サイクル劣化モデル、保存劣化モデルにしたがって、蓄電池103ごとの所定の状態を推定する。この際、モデル部204は、運用履歴情報に基づくことにより、現在における所定の状態を蓄電池103ごとに推定する。
なお、モデル部204が推定する所定の状態は、状態検出部112が検出する状態に対応したものであればよい。例えば、状態検出部112が蓄電容量を検出するのであれば、モデル部204も蓄電容量を推定すればよい。
【0033】
乖離判定部205は、複数の蓄電池103のうち、状態情報取得部201により取得された状態情報が示す所定の状態とモデル部204により推定された所定の状態とが、劣化モデルでは想定外の劣化要因による劣化の発生に応じた一定以上の乖離を示している蓄電池103があるか否かについて判定する。
具体例として、乖離判定部205は、蓄電池103ごとに応じて、状態情報が示す所定の状態と、モデル部204により推定された所定の状態との差が一定以上であるか否かについて判定すればよい。あるいは、乖離判定部205は、蓄電池103ごとに応じて、状態情報が示す所定の状態に対するモデル部204により推定された所定の状態の乖離率が一定以上であるか否かについて判定すればよい。
なお、以降において、状態情報が示す蓄電池103の所定の状態については実状態といい、モデル部204により推定された蓄電池103の所定の状態については推定状態という。
【0034】
劣化要因推定部206は、実状態と推定状態とが一定以上の乖離を示している蓄電池103があると乖離判定部205により判定された場合に、その蓄電池103の劣化要因を推定する。この際、劣化要因推定部206は、運用履歴情報取得部202により取得された運用履歴情報を、劣化要因データベース記憶部207に記憶される劣化要因データベースと照合する。
【0035】
劣化要因データベース記憶部207は、劣化要因データベースを記憶する。
図5は、劣化要因データベース記憶部207が記憶する劣化要因データベース400の内容例を示している。
劣化要因データベース400は、蓄電池の劣化要因ごとに運用条件が対応付けられている。運用条件は、対応の劣化要因を引き起こす可能性が高い運用の仕方を示している。ここでは、運用条件の例として、温度情報、温度環境該当時間、放電電流レート、放電時間、容量減少率が示されている。
【0036】
具体的に、「負極:Li析出」(蓄電池103の負極のLi(リチウム)の析出)の劣化要因の項目には、運用条件として、「温度環境」が10℃以下で、かつ、「温度環境該当時間」が30%以上であることが示されている。
これは、蓄電池103が10℃以下の温度環境におかれていた時間が、これまでの運用実績により示される総時間に対して30%以上という運用であった場合には、今回の蓄電池103の劣化を引き起こした劣化要因が負極のLiの析出であることを示す。
また、「負極:集電体剥離」の 項目は、「放電電流レート」が2C以上で、かつ、「放電時間」が20%以上であることが示されている。
これは、これまでの運用期間において2Cの放電電流レートにより放電を行った時間が、これまでの運用における総放電時間の20%以上という運用であった場合に、今回の蓄電池103の劣化を引き起こした劣化要因が負極の集電体の剥離によるものであることを示す。
【0037】
劣化要因推定部206は、運用履歴情報に基づいて、劣化要因データベース400の運用条件と照合すべき照合情報(温度環境と温度環境該当時間との関係を示す情報、放電電流レートと放電時間の関係を示す情報、容量減少率など)を生成する。
そして、劣化要因推定部206は、生成した照合情報を劣化要因データベース400における運用条件と照合し、運用条件に適合した照合情報に対応付けられている劣化要因の項目を特定する。劣化要因推定部206は、このように特定した劣化要因の項目が示す劣化要因を推定結果として出力する。
【0038】
劣化抑制制御部208は、劣化要因推定部206により推定された劣化要因による劣化が抑制されるように、地域における複数の蓄電池103の運転を制御する。つまり、劣化抑制制御部208は、同じ施設100における蓄電池103だけではなく、他の施設100における各蓄電池103の運転も制御する。
【0039】
上記のように、まず、劣化抑制制御部208が同じ施設100における蓄電池103を対象として劣化抑制制御を行うことにより、今回推定された想定外の劣化要因による劣化の進行を以降において抑制することができる。
一方、各施設100における蓄電池103の運用環境はそれぞれが異なっている。このため、他の施設100における蓄電池103が劣化要因推定部206により推定されたのと同じ劣化要因を主要因として劣化が進行している状態とは限らない。
【0040】
しかし、同じ施設100に設置されているということは、例えば温度環境など、互いに近い運用条件の要素も少なからず存在する。このことからすれば、他の施設100における蓄電池103も、劣化要因推定部206により推定された劣化要因による劣化が将来的に生じる可能性はある程度高いと考えられる。
そこで、劣化抑制制御部208は、他の施設100における蓄電池103についても劣化要因推定部206により推定されたのと同じ劣化要因に応じた劣化抑制制御を行う。これにより、他の施設100における蓄電池103が、今回推定された劣化要因により劣化が進行してしまうことを未然に抑制できる。
【0041】
また、劣化抑制制御部208は、劣化抑制制御を行うにあたり、制御パターンテーブル記憶部209が記憶する制御パターンテーブルを参照する。
制御パターンテーブルは、劣化要因ごとに、その劣化要因による蓄電池103の劣化を抑制するために劣化抑制制御部208が実行すべき制御内容を示している。
一例として、或る劣化要因による劣化については、高温の環境のもとでの単位時間あたりの充放電サイクルの頻度が高いという運用により生じやすい傾向にある。制御パターンテーブルにおいて、この劣化要因に対しては、例えば蓄電池103を低温環境にするとともに、単位時間あたりの充放電サイクルの頻度を一定以下となるように制御するという制御内容が対応付けられる。
劣化抑制制御部208は、制御パターンテーブルから、劣化要因推定部206により推定された劣化要因に対応付けられている制御内容を取得し、取得した制御内容にしたがって、同じ施設100を含む各施設100の蓄電池103の運転制御(劣化抑制制御)を実行する。
【0042】
モデル変更部210は、劣化要因推定部206により推定された劣化要因に基づいて劣化モデルを変更する。このために、本実施形態のモデル変更部210は、モデルデータ記憶部203に記憶される劣化モデルデータ302を変更する。
【0043】
蓄電池情報生成部211は、モデル部204により推定された蓄電池103の所定の状態に基づいて、蓄電池103についての所定の情報を示す蓄電池情報を生成する。
一例として、蓄電池情報生成部211は、蓄電池103の余寿命を推定し、推定した余寿命を蓄電池情報として生成する。この場合、モデル部204は、蓄電池103についての現在以降の所定の状態の変化を推定する。蓄電池情報生成部211は、例えばこの推定結果に基づいて蓄電池103が寿命となるときを推定する。これにより、蓄電池情報生成部211は、現在から蓄電池103が寿命となるまでの余寿命を推定できる。
【0044】
情報出力部212は、蓄電池情報生成部211が生成した蓄電池情報を出力する。例えば、情報出力部212は、蓄電池情報を表示により出力する。蓄電池情報が余寿命である場合、情報出力部212は、蓄電池103の余寿命を示す画像を所定の態様により表示する。
通信部213は、ネットワークNWを経由して施設100の施設内電力管理装置107と通信を実行する。
【0045】
[モデルに関する説明]
ここで、モデルデータ記憶部203に記憶されるモデルデータ(基本モデルデータ301、劣化モデルデータ302)によりモデル部204に適用されるモデルについて説明する。
【0046】
図6は、基本モデルに対応する一次元充放電モデル500を示す概念図である。
図6(a)は、蓄電池(リチウムイオン電池)の基本構成を示すイメージ図であり、
図6(b)は、それを一次元にモデル化したイメージ図である。
一次元充放電モデル500は、蓄電池103を、負極501と正極502とセパレータ503をそれぞれ面方向に均質化した一次元モデルとして扱う。負極501としての負極合材層には負極活物質511が存在し、正極502としての正極合材層には正極活物質512が存在する。
また、負極501、正極502、セパレータ503による一次元充放電モデル500は、固相と液相に分けられる。
【0047】
一次元充放電モデル500の負極501、正極502、セパレータ503の各領域における放電時におけるLiとLiイオンの放電時における輸送過程イメージは以下のようになる。
つまり、負極501の固相(活物質)では、Liは中心から表面への拡散フラックスが生じる。正極502の固相では、Liは表面から中心へと拡散する。
負極501の液相(空隙)では、界面反応によって固相から放出されたLiイオンがセパレータ503の方向に輸送される。ここで、セパレータ503は反応が無いため、Liイオンは正極502の方向に泳動しながら拡散していく。正極502の液相は、界面反応によって固相へLiイオンが吸収される。
【0048】
負極501としての負極合材層と、正極502としての正極合材層は、それぞれ、固相におけるLi濃度と電位、液相における塩濃度と電位が算出される。セパレータは、塩濃度と電位が算出される。
このような、基本モデルは、例えば以下の文献に記載されている。
“Journal of The Electrochemical Society,141(1),1-10(1994)”
【0049】
また、劣化モデルのうちサイクル劣化モデルは、前述もしたように、充放電サイクルを繰り返すことによる蓄電池103の劣化である。サイクル劣化モデルでは、充放電が行われるのに応じて負極活物質511の表面に不働態SEI(Solid Electrolyte Interface)膜が形成され、このSEIが成長していくことにより蓄電容量の低下やインピーダンス(内部抵抗)の増加などの劣化をもたらすものとしている。サイクル劣化モデルは、このSEI膜の成長による状態変化をモデル化したものである。
【0050】
また、劣化モデルのうち保存劣化モデルは、前述のように蓄電状態の蓄電池に発生する劣化である。保存劣化モデルも、例えば、保存時間の経過に応じた特定の活物質の特性変化や特定の構造の変化などが劣化をもたらすものとして、このような劣化要因の変化による蓄電池の状態変化をモデル化したものである。
なお、本実施形態において述べたサイクル劣化モデルについては、例えば以下の文献に記載されている。
“Journal of The Electrochemical Society,151(2),A196-A203(2004)”
【0051】
図7は、サイクル劣化モデルを求めるための手順例を示している。本実施形態では、例えば予め試験を行うことで、
図7に示す手順にしたがって、サイクル劣化モデルを求めておく。そして、
図7の手順によって求められたサイクル劣化モデルのデータ(例えばファイル)をサイクル劣化モデルデータ311としてモデルデータ記憶部203に記憶させておくものである。なお、この図に示す手順は、例えばサイクル劣化モデルを求めるための数値計算用のプログラムを実行するコンピュータにより実現できる。
【0052】
まず、コンピュータは、記憶装置に記憶されている初期条件設定データを読み出し、この読み出した初期条件設定データにより初期条件を設定する(ステップS101)。
次に、コンピュータは、基本モデルにより放電解析を行うことで今回のサイクルの放電に応じた蓄電池103の状態を求める(ステップS102)。
次に、コンピュータは、基本モデルにより充電解析を行うことで今回のサイクルの充電に応じた蓄電池103の状態を求める(ステップS103)。
次に、コンピュータは、例えば今回のステップS102とS103の解析結果と、前回までのステップS102とS103の解析結果とに基づいて、劣化計算を行う(ステップS104)。これにより、今回までの充放電サイクル回数に応じた蓄電容量、インピーダンス(抵抗)などの劣化状態が求められる。
【0053】
ステップS102〜S104は、1回の充放電サイクルに応じた処理である。そこで、コンピュータは、例えば試験時に行った充放電サイクル回数に応じた規定の充放電サイクル回数によるステップS102〜S104の処理を繰り返し実行したか否かについて判定する(ステップS105)。
ここで、規定の充放電サイクルに応じた回数のステップS102〜S104の処理を実行していないと判定した場合(ステップS105−NO)、コンピュータは、ステップS102に処理を戻す。これにより、次の充放電サイクルに応じたステップS102〜S104の処理が実行される。
一方、規定の充放電サイクルに応じた回数のステップS102〜S104の処理を実行したと判定した場合(ステップS105−YES)、コンピュータは、これまでの処理により求められたサイクルごとの劣化の状態に基づいてサイクル劣化モデルを生成する。そして、コンピュータは、生成したサイクル劣化モデルを出力する(ステップS106)。
【0054】
なお、サイクル劣化モデルを生成するための試験における充放電サイクル回数は、例えばある程度の劣化状態を出現させればよく、数百回程度である。また、保存劣化モデルを生成するための試験における保存時間は例えば数ヶ月程度である。
【0055】
[乖離判定部、劣化要因推定部、劣化抑制制御部、モデル変更部の処理の具体例]
図8を参照して、乖離判定部205による判定手法の一具体例について説明する。この説明にあたり、実状態と推定状態は蓄電容量であるものとする。これまでの説明から理解されるように、蓄電池103は劣化の進行に応じて蓄電容量が減少する。
【0056】
図8における曲線f1は、モデルデータ記憶部203が記憶する基本モデルデータ301と劣化モデルデータ302に基づいて推定される、充放電サイクル回数に応じた蓄電容量の変化を示している。
また、曲線f2は、状態検出部112により検出された実状態としての蓄電容量についての充放電サイクル回数に応じた変化を示している。
なお、下限許容値limは、蓄電池103が寿命に至ったとする状態に対応する蓄電容量の値である。
【0057】
乖離判定部205は、例えば状態情報取得部201により実状態が取得されるごとに、その検出された実状態としての蓄電容量と、現在の充放電サイクル回数に対応する曲線f1での蓄電容量とを比較する。そして、各施設100の蓄電池103のうち、両者の蓄電容量が一定以上の乖離を示している蓄電池103があるか否かについて判定する。
図8においては、充放電サイクル回数がN回目になったときに、曲線f1での蓄電容量(推定蓄電量)と実状態の蓄電容量(実蓄電量)とが一定以上に乖離した例を示している。したがって、
図8の例に対応して、乖離判定部205は、充放電サイクル回数がN回目のときに、推定蓄電量と実蓄電量とが一定以上の乖離を示したと判定する。
このように推定蓄電量と実蓄電量とが一定以上の乖離を示す状態は、想定外の劣化要因による劣化が生じたことを示している。ここで、例えば蓄電池103の運用条件を特に変更しなければ、想定外の劣化要因が解消されることはないので、さらに、この想定外の劣化要因による蓄電池103の劣化が進行してしまう。
そこで、今回の想定外の劣化要因による劣化の進行を抑制するために、劣化要因推定部206と劣化抑制制御部208は、例えば以下のように処理を実行する。
【0058】
まず、劣化要因推定部206は、今回の蓄電池103の劣化を引き起こした劣化要因を推定する。このために、前述もしたように、劣化要因推定部206は、運用履歴情報記憶部113に記憶されている運用履歴情報を基に照合情報を生成し、この照合情報と、劣化要因データベース400における運用条件とを照合する。
【0059】
具体例として、照合情報により、蓄電池103が10℃以下となる低温の温度環境となる時間(温度環境該当時間)が、これまでの運用期間における40%以上であることが示されているとする。また、照合情報により、100サイクルあたりの容量減少率が40%以上であったことが示されているとする。また、照合情報により、放電電流レートが0.5Cで100%の時間にわたって運用したことが示されているとする。
【0060】
この照合状態と
図5の劣化要因データベース400の運用条件とを照合した場合、まず、「負極:集電体剥離」の劣化要因に対応する容量減少率は100サイクルあたり30%以上である。この条件には、100サイクルあたりの容量の低下率が40%以上という照合情報が該当する。しかし、「負極:集電体剥離」の劣化要因に対応する放電電流レートが2C以上であるのに対して、照合情報の放電電流レートは0.5Cであるため、放電電流レートについては運用条件に該当しない。したがって、劣化要因推定部206は、「負極:集電体剥離」は、今回の蓄電池103の劣化を引き起こした劣化要因ではないと判定する。
【0061】
一方、「負極:Li析出」の劣化要因に対応する容量減少率は100サイクルあたり40%以上であり、照合情報が示す100サイクルあたりの容量減少率も40%以上であるから、この照合情報は、「負極:Li析出」の劣化要因の運用条件に該当する。
また、「負極:Li析出」の劣化要因に対応する温度環境と温度環境該当時間は10℃以下、30%以上であり、照合情報が示す温度環境と温度環境該当時間は10℃以下、40%以上であるから、この照合情報も「負極:Li析出」の劣化要因の運用条件に該当する。そこで、劣化要因推定部206は、今回の蓄電池103の劣化を引き起こした劣化要因は、「負極:Li析出」であると推定する。
【0062】
制御パターンテーブル記憶部209が記憶する制御パターンテーブルには、例えば、
図5の劣化要因データベースと同じ劣化要因ごとに制御パターンが対応付けられている。そこで、劣化抑制制御部208は、制御パターンテーブルから「負極:Li析出」の劣化要因に対応付けられている制御パターンを取得し、この取得した制御パターンにより、同じ施設100と他の施設100の各蓄電池103の運転制御を実行する。
【0063】
なお、制御パターンテーブルと劣化要因データベースを例えば1つに統合したデータベースまたはテーブルの情報としてもよい。
【0064】
また、
図8のように推定蓄電量と実蓄電量とが一定以上の乖離を示す状態は、想定外の劣化要因による劣化が生じたことを示している。例えば
図7の手順にしたがって生成される劣化モデルは、いくつかの劣化要因を想定したうえで劣化計算を行うことにより得られるものである。
したがって、このように推定蓄電量と実蓄電量とが一定以上の乖離を示すこととなった場合、その蓄電池103については、これまでの劣化モデルでは適切な状態推定を行えないことになる。これに伴い、蓄電池情報生成部211が推定する蓄電池103の余寿命についても大きな誤差を生じる可能性がある。
【0065】
そこで、モデル変更部210は、今回において想定外の劣化が生じたと推定された蓄電池103(劣化蓄電池)について今回の劣化を引き起こした劣化要因が反映される劣化モデルを得るために、例えば以下のように処理を実行する。
【0066】
つまり、モデル変更部210は、劣化モデルデータ302を変更するにあたり、推定された劣化要因に基づいて抵抗成分を設定する。なお、モデル変更部210は、抵抗成分を設定するにあたり、例えば時間などについての所定の関数を利用した演算により抵抗成分を求める。ここで、前述の具体例のように劣化要因推定部206が推定した「負極:Li析出」の劣化要因に応じて求められた抵抗成分をRnとする。
【0067】
モデル変更部210は、抵抗成分Rnを付加するように劣化蓄電池の劣化モデルを変更する。この際、モデル変更部210は、抵抗成分Rnが付加された劣化モデルとなるように、劣化蓄電池に対応する劣化モデルデータ302を変更する。
モデル変更部210は、劣化モデルデータ302を変更するにあたり、サイクル劣化モデルデータ311と保存劣化モデルデータ312を変更すればよい。あるいは、モデル変更部210は、劣化要因推定部206により推定された劣化要因に応じて、サイクル劣化モデルデータ311と保存劣化モデルデータ312のうちでいずれか適切な方を変更してもよい。
【0068】
このように劣化モデルデータ302が変更されるのに応じて、この劣化モデルデータ302を利用してモデル部204が推定する劣化蓄電池の状態は
図8と異なってくる。
図9において、曲線f3は、抵抗成分Rnを付加したことにより変更された劣化モデルに基づく充放電サイクル回数に応じた蓄電容量の変化を示している。なお、この図において曲線f2は、
図8と同じく、実状態としての蓄電容量についての充放電サイクル回数に応じた変化を示している。
【0069】
曲線f3と曲線f2とを比較して分かるように、曲線f3は、曲線f2に近似したものとなっている。つまり、劣化蓄電に生じた劣化についての劣化要因が劣化モデルに反映されたことにより、予測される劣化状態が実状態の劣化状態に近いものとなっている。
【0070】
これにより、蓄電池情報生成部211が行う寿命の推定についてもその精度の低下を抑制できる。
具体的に、
図8及び
図9のようにモデル部204により充放電サイクル回数に応じた蓄電容量が推定される場合、蓄電池情報生成部211は以下のように寿命推定を行うことができる。
例えば、劣化モデルに基づく曲線f1、f3によっては、蓄電容量が下限許容値limとなるときの充放電サイクル回数を予測できる。この蓄電容量が下限許容値limとなるときの充放電サイクル回数とは、すなわち、蓄電池103が寿命となるときの充放電サイクル回数である。
【0071】
そこで、蓄電池情報生成部211は、劣化モデルを利用して、例えば蓄電池103が寿命となるときの充放電サイクル回数を予測する。この予測された充放電サイクル回数から、運用履歴情報が示す現在の充放電サイクル回数を減算すれば、蓄電池103が寿命となるまでの充放電サイクル回数を予測することができる。つまり、蓄電池103の余寿命が予測される。
【0072】
ここで、想定外の劣化要因による劣化が生じた劣化蓄電池の余寿命は短くなる可能性が高い。しかし、この劣化蓄電池の劣化モデルが変更されないとすると、蓄電池情報生成部211は、充放電サイクル回数がN回目のときにおける劣化蓄電池の余寿命Lfを、
図8の曲線f1に基づいて予測することになる。このように予測される蓄電池103の余寿命Lfは、実際よりも長いものとなってしまい、大きな誤差を生じる。
これに対して、
図9のように劣化蓄電池の劣化モデルが変更された場合、蓄電池情報生成部211が予測する劣化蓄電池の余寿命Lfは、
図8と比較して大幅に短縮されている。このように、劣化蓄電池の劣化モデルが変更されることで、蓄電池情報生成部211は、想定外の劣化要因による劣化が生じたことによって短縮した余寿命を
図9の場合よりも高い精度で推定することができる。
これにより、本実施形態によっては、例えば余寿命などの蓄電池103についての劣化状態を推定するにあたり、想定外の劣化要因による劣化が発生した場合における推定精度の低下を有効に抑制できるものである。
【0073】
[処理手順例]
図10は、蓄電池103に対する劣化抑制制御のために蓄電池管理装置200Aが実行する処理手順例を示している。
蓄電池管理装置200Aにおいて、状態情報取得部201は、各施設100の施設内電力管理装置107から送信される状態情報を取得する(ステップS201)。
また、運用履歴情報取得部202は、各施設100の施設内電力管理装置107から送信される運用履歴情報を取得する(ステップS202)。
次に、モデル部204は、基本モデルデータ301が示す基本モデルと、劣化モデルデータ302が示す劣化モデルとにしたがって現在における施設100の蓄電池103ごとの状態を推定する(ステップS203)。
【0074】
乖離判定部205は、ステップS201により取得した状態情報が示す実状態と、ステップS203により推定された状態(推定状態)とを蓄電池103ごとに比較する(ステップS204)。そして、乖離判定部205は、ステップS204による比較結果から、各設備100の蓄電池103のうちで、実状態と推定状態とが一定以上の乖離を示している蓄電池103(劣化蓄電池)があるか否かについて判定する(ステップS205)。
【0075】
劣化蓄電池がない場合には(ステップS205−NO)、この図に示す処理を終了する。
これに対して、劣化蓄電池がある場合(ステップS205−YES)、劣化要因推定部206は、以下の処理を実行する。つまり、劣化要因推定部206は、ステップS202により取得した運用履歴情報から生成した照合情報を劣化要因データベース400と照合することにより、劣化蓄電池の劣化要因を推定する(ステップS206)。
【0076】
劣化抑制制御部208は、ステップS206により推定された劣化要因に応じた劣化抑制制御を、同じ施設100の蓄電池103と他の施設100の各蓄電池103を対象として実行する(ステップS207)。この際、劣化抑制制御部208は、前述のように、ステップS206により推定された劣化要因に対応付けられた制御パターンを制御パターンテーブルから取得し、この取得した制御パターンによる各蓄電池103への制御を実行する。
【0077】
また、モデル変更部210は、例えば前述のように、ステップS206により推定された劣化要因に応じた抵抗成分が劣化モデルに付加されるように、劣化蓄電池に対応してモデルデータ記憶部203に記憶される劣化モデルデータ302を変更する(ステップS208)。
【0078】
なお、制御パターンテーブルにおいて劣化要因に対応付けられる制御内容としては、例えば、対応の劣化要因による蓄電池103の劣化を抑制するためにユーザが行うべき運用の仕方を示す情報を、劣化蓄電池を備える施設100の施設内電力管理装置107に通知するようにしてもよい。施設内電力管理装置107は、この通知を例えば表示などにより出力する。
一例として、劣化蓄電池について推定された劣化要因による劣化は、低温の環境で、かつ、単位時間における保存時間が長いことにより生じやすい傾向にあるとする。この場合、制御パターンテーブルにおいてこの劣化要因に対応付けられた制御内容は、例えば低温環境を避け、保存時間が短くなるように単位時間における充放電サイクルの頻度を高くするという蓄電池の運用指示を通知するする、というものである。
例えば、劣化抑制制御部208は、この制御内容にしたがって、上記の内容の運用を指示する通知を、劣化蓄電池を備える施設100の施設内電力管理装置107に送信する。この通知を受信した施設内電力管理装置107は、例えば、「蓄電池の周囲温度を下げないようにしてください。また、いまよりも蓄電池を充放電させる頻度を高くするように施設内で運用してください」などといった表示を行う。
この表示を見た施設100のユーザは、例えば、蓄電池103をヒーターで温めるようにしたり、蓄電池103の充放電の頻度を高くするような運転パターンに変更するなど、蓄電池103の運用を替えて、劣化進行抑制のための対策を講じることができる。
【0079】
また、本実施形態の電力管理システムにおいても、電力管理装置200の制御により、施設100間で蓄電池103の電力を融通し合うことができるように構成してよい。
【0080】
なお、
図10に示す劣化モデルの変更のための処理は、例えば、各施設100の蓄電池103の運用過程において、一定回数の充放電サイクルが行われるごとに実行すればよい。あるいは、一定時間が経過するごとに実行してもよい。
また、これまでの説明では、蓄電池103の劣化抑制制御を実行する蓄電池管理装置200Aとしての機能を電力管理装置200が備えるものとしているが、電力管理装置200と蓄電池管理装置200Aとをそれぞれ個別の装置として構成してもよい。
【0081】
また、
図2、
図3における各機能部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによりモデルの変更を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0082】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0083】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。