【文献】
Chinese Journal of Aesthetic Medicine,2010年,Vol.19, No.7,p.999-1002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
皮膚のシミ、ソバカスなどの色素沈着は、ホルモンの異常や紫外線、皮膚局所の炎症が原因となってメラニンが過剰に形成され、これが皮膚内に沈着するものと考えられている。皮膚の色素沈着の原因となるこのメラニンは、表皮基底層にある色素細胞(メラノサイト)内で合成され、メラノソームと呼ばれる小胞に貯蔵される。このメラノソームがメラノサイト内を移動し、周囲角化細胞(ケラチノサイト)に取り込まれ、皮膚が黒色化する。このメラノサイト内におけるメラニンは、チロシンが酵素チロシナーゼの作用によりドーパキノンを経て酵素的または非酵素的な酸化反応により黒色のメラニンへと変化して生成される。そこでこれまで、第一段階の反応であるチロシナーゼの活性を抑制することが、メラニンの生成を抑制するうえで重要であると考えられ、チロシナーゼ活性を阻害する物質の開発が行われてきた。
【0003】
しかしながら、チロシナーゼの活性を抑制する化合物はハイドロキノンを除いてはその効果が緩慢であるため、皮膚色素沈着の改善効果が十分でないことがある(特許文献1))一方で、ハイドロキノンは効果が認められるが、感作性があるため一般の使用が制限されている。そこで、チロシナーゼ活性阻害以外の作用機序による美白剤の開発が望まれている。
【0004】
一方、骨髄由来の樹状細胞で、皮膚などの重層扁平上皮に特有の細胞であるランゲルハンス細胞は、抗原処理、抗原提示能力によって皮膚免疫機能の中心的な役割を演じているとされており、外部からの異物としての抗原の進入に対し、すみやかに接触して処理し、リンパ節へ移動してT細胞にそれを提示し、以後の一連の免疫応答反応が始まると考えられている。ランゲルハンス細胞は加齢とともにその数が減少することが知られており、皮膚老化の一因を担うと考えられており、またランゲルハンス細胞は紫外線や接触刺激などのストレス下での、皮膚免疫の低下が知られている(特許文献4及び5)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、より効果的な美白方法を提供することを目的とするものである。さらに、本発明は、より効率的かつ簡便に被験物質の美白効果を評価できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、加齢に応じて減少することが知られているランゲルハンス細胞の存在領域について研究を行ったところ、シミの部位においてランゲルハンス細胞が有意に減少していることを驚くべきことに見出した(
図1〜
図3)。この知見に基づき、ランゲルハンス細胞がシミの形成に寄与していると仮説を立て鋭意研究を行ったところ、ランゲルハンス細胞が、メラノサイトによるメラニン合成応答を抑制すること(
図4)が確認された。この知見に基づき、本願発明者らは、ランゲルハンス細胞を活性化することによるメラニン産生抑制方法、美白方法、並びにランゲルハンス細胞の活性を指標としたメラニン産生抑制効果又は美白効果について薬剤をスクリーニングする方法を発明するに至った。さらに、当該スクリーニング方法を介し、βグルカンがメラニン産生抑制効果又は美白効果を有することを突き止め、βグルカンを含むメラニン産生抑制剤又は美白剤を完成するに至った。
【0008】
より具体的に、本願発明は以下のものに関する:
(1) ランゲルハンス細胞を活性化させる工程を含む、メラニン産生抑制方法。
(2) 前記ランゲルハンス細胞の活性化工程が、β−グルカンを投与することを含む、項目(1)に記載のメラニン産生抑制方法。
(3) 項目(1)又は(2)に記載の前記メラニン産生抑制方法を含む美白方法。
(4) ランゲルハンス細胞を含む培養物中に、候補薬剤を添加する工程;及び
ランゲルハンス細胞の活性を指標として、メラニン産生抑制効果を判定する工程
を含む、メラニン産生抑制効果又は美白効果について薬剤をスクリーニングする方法。
(5) 前記活性が、ランゲルハンス細胞を誘因する活性又はランゲルハンス細胞増殖を促進する活性である、項目(4)に記載の方法。
(6) ランゲルハンス細胞活性化剤を含む、美白剤。
(7) 前記ランゲルハンス細胞活性化剤がβ−グルカンである、項目(6)に記載の美白剤。
(8) ランゲルハンス細胞活性化剤を含む、メラニン産生抑制剤。
(9) 前記ランゲルハンス細胞活性化剤がβ−グルカンである、項目(8)に記載のメラニン産生抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、ランゲルハンス細胞を活性化させることにより、メラニン産生を抑制することが可能となった。また、ランゲルハンス細胞の活性を指標として、メラニン産生抑制効果又は美白効果を有する薬剤をスクリーニングすることが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、シミ部位と、通常部位(対照)におけるランゲルハンス細胞を抗CD1a抗体を用いて蛍光染色して示した図である。蛍光を発している細胞がCD1aを発現するランゲルハンス細胞を示し、シミ部位では通常部位に比較してランゲルハンス細胞が減少している一方で、暗褐色のメラノサイトが多数存在することが分かる。
【
図2】
図2は、男性の肩部の皮膚におけるシミ部位と通常部位(対照)における表皮面積あたりのランゲルハンス細胞の数を示す図である。シミ部位においてランゲルハンス細胞の数が有意に低いことが示された。
【
図3】
図3は、女性の顔面の皮膚におけるシミ部位と通常部位(対照)における表皮面積あたりのランゲルハンス細胞の数を示す図である。7名の被験者の全てにおいて、シミ部位におけるランゲルハンス細胞の数が有意に低いことが示された。
【
図4】
図4は、B16メラノーマ細胞とランゲルハンス細胞の共培養の効果を示す図である。B16メラノーマ細胞に対して、ATPの添加によりメラニン合成が有意に促進されること、さらには、B16メラノーマ細胞とランゲルハンス細胞を共存下で培養した場合、ATP添加によるメラニン合成が有意に抑制されることが示された。
【
図5】
図5は、ケラチノサイトとランゲルハンス細胞との共培養の効果を示す図である。ATPの添加によって、ケラチノサイトによるメラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)の生成が促進されるが、ランゲルハンス細胞との共培養により、α-MSHの生成が抑制されることが示された。
【
図6】
図6は、紫外線照射によるケラチノサイトによるATP放出量を示す図である。紫外線照射によりケラチノサイトからのATP放出量が増加すること、さらにランゲルハンス細胞の共存下では、ATP放出量が低下することが示された。
【
図7】
図7は、ATP添加によってメラノサイトが生成するメラニン量を示す図である。0.3〜3μMまで、ATPの濃度依存的にメラニン量が増加することが示された。
【
図8】
図8は、グルカン処理されたランゲルハンス細胞とメラノーマ細胞(B16細胞)の共培養の効果を示す図である。B16細胞に対し、ATPを添加することにより、メラニン合成が有意に増加すること、並びにB16細胞とランゲルハンス細胞を共存下で培養した場合に、ATP添加によるメラニン合成が有意に抑制されること、さらにはランゲルハンス細胞をグルカンで前処理することにより、さらにメラニン合成が低下することが示された。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のメラニン産生抑制方法は、in vivo、ex vivo又はin vitroにおいて、ランゲルハンス細胞を活性化させる工程を含む。本発明において、ランゲルハンス細胞は、骨髄由来の樹状細胞であり、有棘層の中から上層に存在する遊走性を有する細胞であり、CD1a等のマーカーを発現する細胞である。ランゲルハンス細胞の機能として、外界から侵入した異物を補足・認識してT細胞へ提示する機能、癌細胞を認識する機能、免疫寛容を誘導する機能、細胞外のATPを分解する機能などが挙げられ、ランゲルハンス細胞は主に皮膚における免疫応答反応に関与する細胞である。ここで、ランゲルハンス細胞の活性化とは、ランゲルハンス細胞の有する機能のうちの少なくとも1つを亢進することをいうが、さらにランゲルハンス細胞の増殖、誘因、又は減少の抑制も含むものとする。
【0012】
In vivoにおけるランゲルハンス細胞の活性化は、β−グルカンなどのランゲルハンス細胞活性化剤を、経口、又は非経口投与、例えば経皮、皮内、皮下、筋中、経静脈、経動脈などで投与することによる。顔面や、シミ、ソバカスなどの部位に局所的に投与する観点からは、経皮、皮内又は皮下投与が好ましい。Ex vivo 又はin vitroにおけるランゲルハンス細胞の活性化は、ex vivo 又はin vitroで培養されているランゲルハンス細胞を含む培養物にβ−グルカンなどのランゲルハンス細胞活性化剤を投与することにより行われる。
【0013】
ランゲルハンス細胞活性化剤としては、本願発明の一態様であるメラニン産生抑制効果又は美白効果について薬剤をスクリーニングする方法により同定された薬剤が挙げられ、例えばβ−グルカンが挙げられる。これらの他にランゲルハンス細胞活性化剤としては、本技術分野において知られているランゲルハンス細胞減少抑制剤、例えばクジン、エンジュ、オウバク、カンゾウ、シコン、テンチャ、トウキなどから選ばれる植物抽出物なども挙げられる(特許文献5)。
【0014】
β−グルカンは、グルコースがβ1,3−型で結合した多糖であり、任意の植物、菌類、細菌由来であってもよいし、合成されたもの、例えばβ−グルカン合成酵素を用いて合成されたものであってもよい。その重量平均分子量は、1,000〜5,000,000ダルトンあり、好ましくは10,000〜1,000,000ダルトン、さらに好ましくは100,000〜500,000ダルトンである。β−グルカンの由来元は、例えばアガリクス、霊芝などのキノコ類、パン酵母、ビール酵母などの酵母などが挙げられる。本実施例ではスエヒロタケ由来のβ−グルカンが用いられており、スエヒロタケのβ−グルカンを用いる点から、その重量平均分子量は500,000ダルトン以下、例えば450,000ダルトンが好ましい。任意の植物、菌類、細菌に由来するβ−グルカンは、天然物であるため全ての結合がβ1,3型で結合していないものも含まれうる。例えば酵母由来のβ−グルカンでは、β1,6型の結合が含まれることがあるが、そのようなものにおいても、主な結合がβ1,3型で結合されていれば、本発明のβ−グルカンに該当するものとする。
【0015】
メラニンは、基底層に存在するメラノサイトにより生成され、メラニンを含むメラノソームがメラノサイトからケラチノサイトへと供与される。より具体的に、メラノサイトは、紫外線の照射などにより生成した活性酸素やメラノサイト刺激ホルモン(MSH)、エンドセリンなどの情報伝達物質を介して活性化され、チロシンからドーパ、ドーパキノンなどを介してメラニンを生成する。
【0016】
本発明におけるメラニン産生抑制方法は、本発明の別の態様である美白方法に応用することができる。美白方法とは、皮膚中のメラニン量を低下させることにより、美容上又は医療上好ましい程度に肌を白くする方法をいい、顔や手足を含む全身の皮膚の美白及びシミ、くすみ、肝斑、ソバカスなどの局所的な色素沈着部位の美白の両方を包含する。メラノサイトで生成されたメラニンは、基底層においてケラチノサイトに受け渡され、皮膚のターンオーバーによりメラニンを含むケラチノサイトは表皮から脱落する。皮膚のターンオーバーは常に行われているため、基底層のメラノサイトにおいてメラニン産生が抑制されることにより、ターンオーバーを介して次第に美白効果が現れる。本発明におけるメラニン産生抑制方法又は美白方法は、医師の診察の下で行われる医療目的の他、美容販売員、エステティシャンなどにより行われる美容目的で行われうる。
【0017】
本発明のメラニン産生抑制方法及び美白方法は、従来のメラニン産生抑制方法又は美白方法において用いられているハイドロキノンなどのチロシナーゼ活性阻害剤などに比較して、過剰な刺激応答反応の沈静化に基づいて恒常性維持をもたらすことによるため、メラノサイトの生理的機能自体を阻害することがない点で優れていると考えられる。
【0018】
本発明の別の態様では、本発明は、メラニン産生抑制効果又は美白効果について薬剤をスクリーニングする方法にも関する。この方法は、ランゲルハンス細胞を含む培養物中に、候補薬剤を添加する工程;及びランゲルハンス細胞の活性を指標として、メラニン産生抑制効果又は美白効果を判定する工程を含む。ランゲルハンス細胞の活性の指標として用いられるものとして、ランゲルハンス細胞数、培地中のメラノサイト刺激ホルモン量、培地中のATP量が挙げられる。すなわち、ランゲルハンス細胞を含む培養物中でランゲルハンス細胞を増加、培地中のメラノサイト刺激ホルモン量を低下、又は培地中のATP量を低下させることができる候補薬剤を、メラニン産生抑制効果又は美白効果を有する薬剤としてスクリーニングすることができる。
【0019】
本発明のスクリーニング方法により、従来は、メラニン産生抑制効果又は美白効果を調べるためには、メラノサイトの活性を抑制する薬剤を調べる必要があったが、本願発明は、複数の細胞種が存在する実際の皮膚に近い状態での刺激応答反応が反映される点で従来のスクリーニング方法に比べて優れている。
【0020】
ランゲルハンス細胞を含む培養物には、皮膚切片、皮膚から取得して継代培養されたランゲルハンス細胞、或いは幹細胞や分化能を有する細胞から分化させたランゲルハンス細胞様細胞の培養物を含む。ランゲルハンス細胞を含む培養物として、例えば線維芽細胞、又は幹細胞(例えば上皮幹細胞、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞)からin vitroで分化された線維芽細胞を、コラーゲン、フィブリン、ポリ乳酸などのポリマーや、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などの多糖類により構成された培養支持体上で培養して得られた三次元培養皮膚から得られた角層シートも含まれる。三次元培養皮膚として、LabCyte EPI−MODEL(株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)から商業的に入手可能なヒト3次元培養表皮モデル製品が用いられる。幹細胞としては、ES細胞、iPS細胞、造血幹細胞が挙げられるが、これらに限られるものではなく、ランゲルハンス細胞へ分化可能で自己増殖可能な細胞の全てが包含される。分化能を有する細胞としては、臍帯血の血液細胞やヒト末梢血単球が挙げられ、これらの細胞はランゲルハンス細胞へと分化させることが可能である。ランゲルハンス細胞を含む培養物には、ランゲルハンス細胞の他、皮膚を構成する細胞、例えば、ケラチノサイト、メラノサイト、α樹状細胞、メルケル細胞などの細胞が含まれてもよい。
【0021】
候補薬剤とは、ランゲルハンス細胞の活性化、より好ましくは増殖、誘因、又は減少の抑制といった効果を発揮しうる可能性のある薬剤をいい、例えば化合物ライブラリーや、微生物、動植物等の抽出物のライブラリーなどが候補薬剤として用いられる。
【0022】
ランゲルハンス細胞の活性を指標とするとは、ランゲルハンス細胞の増殖、誘因、又は減少の抑制を指標とすることであり、より好ましくはランゲルハンス細胞を含む培養物における、ランゲルハンス細胞の誘因又は減少の抑制を指標とすることである。メラニン産生抑制効果の判定は、対照となる候補薬剤未添加培養物に比較して、候補薬剤を添加した培養物にランゲルハンス細胞の数が多い場合に、添加した候補薬剤がメラニン産生抑制効果及び美白効果を有すると判定することができる。好ましくは、候補薬剤を添加した場合に、対照に比較して有意差をもってランゲルハンス細胞の数が多い場合に、メラニン産生抑制効果及び美白効果を有すると判定することができる。
【0023】
ランゲルハンス細胞の数は、ランゲルハンス細胞特異的マーカー、例えばCD1a、CD39、CD207などに対する抗体を用いてセルソーターによって、又はこれらの抗体を用いた免疫染色を用いて判定される。セルソーターを用いて細胞数を計測する場合、トリプシンを用いて培養物を個々の細胞へと分離することが必要となる。免疫染色を用いて判定する場合、個別に染色された細胞の数を計測してもよいが、ハイスループットスクリーニングにおいてスクリーニングを自動化する観点から、免疫染色で染色後の、染色部位の面積や染色量に基づいて判定が行われてもよい。
【0024】
薬剤のスクリーニングとは、候補薬剤ライブラリーから自動化されたロボットなどを用いて、本発明に係るスクリーニングを行うハイスループットスクリーニング、並びにヒトが手動で行うスクリーニングの両方を含む。
【0025】
本発明のさらに別の態様では、上記スクリーニング方法の結果、メラニン産生抑制効果及び美白効果を有すると判定されたメラニン産生抑制剤又は美白剤にも関する。例えば、本明細書中において、β-グルカンがメラニン産生抑制効果又は美白効果を有することが示されているため、本発明は、β-グルカンを含むメラニン産生抑制剤又は美白剤にも関する。さらに、本発明においてβ-グルカンは、ランゲルハンス細胞活性化剤又は減少抑制剤として用いることができる。
【0026】
メラニン産生抑制剤又は美白剤は、顔、手脚を始め全身における日焼け後の又は生来の皮膚の色を、美容上又は医療上好ましい程度にまで白化させるため、或いはシミ、くすみ、ソバカス、肝斑など、褐変した一部の皮膚を周囲の皮膚の色へと戻すために用いられる。メラニン産生抑制剤又は美白剤は、経口、又は非経口、例えば経皮、皮内、筋中、静脈内、動脈内投与されてもよいが、顔面や、シミ、ソバカス、くすみ、肝斑などの色素沈着部位に局所的に投与する観点からは、経皮、皮内又は皮下投与が好ましく、経皮投与が最も好ましい。経皮投与される場合、メラニン産生抑制剤又は美白剤は、皮膚外用剤に配合される。皮膚外用剤中の配合量は、特に限定されないが、通常0.01質量%〜2質量%の範囲で配合される。より好ましくは、配合量の上限は、0.5、1.0、及び2.0質量%の中から選択され、配合量の下限は、0.01、0.05、及び0.1質量%の中から選択される任意の範囲で配合されてもよい。
【0027】
本発明のメラニン産生抑制剤又は美白剤には、β-グルカンに加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、通常の化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる他の成分、例えば油分、湿潤剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、界面活性剤、防腐剤、保湿剤、香料、水、アルコール、増粘剤、粉末、着色剤、生薬、その他各種薬効成分等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0028】
さらに、本発明のメラニン産生抑制剤又は美白剤には、他の一般的に知られている美白剤、例えばビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸、ルシノール、エラグ酸、トラネキサム酸、リノール酸等も適宜配合することができる。その他の美白剤として、植物抽出物が、その安全性や皮膚への刺激の穏やかさを期待して種々開発されており、本発明のメラニン産生抑制剤又は美白剤は、これらの植物抽出物を含んでもよい。植物抽出物の一例として、キク科植物、トウダイグサ科植物などの抽出物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明のメラニン産生抑制剤又は美白剤は、化粧料、医薬品、又は医薬部外品に含まれてもよい。好ましい態様では本発明のメラニン産生抑制剤又は美白剤が含まれる化粧料、医薬品は、皮膚外用剤の形態をとる。その剤型は、皮膚に適用可能であれば特に限定されず、例えば、溶液状、乳化状、固形状、半固形状、粉末状、粉末分散状、水−油二層分離状、水−油−粉末三層分離状、軟膏状、ゲル状、エアゾール状、ムース状、スティック状等、任意の剤型が適用できる。また、その使用形態も任意であり、例えば化粧水、乳液、クリーム、ローション、パック、エッセンス、ジェル等のフェーシャル化粧料や、ファンデーション、化粧下地、コンシーラー等のメーキャップ化粧料、さらには浴用剤などに用いられる。
【0030】
以下、具体例を挙げてさらに本発明を説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
実施例1:シミ部位におけるランゲルハンス細胞数の測定
健常男性の肩から皮膚をパンチバイオプシーで採取し、凍結切片を作製して、一次抗体として200倍希釈の抗CD1a抗体(R&D社)、二次抗体として200倍希釈のFITC標識抗マウスIgG抗体(SIGMA社)を用い、反応時間をそれぞれ1時間として、蛍光免疫染色を行い、顕微鏡下で撮影した。結果を
図1に示す。基底層にメラニンの沈着が見られるシミ部位では、蛍光染色されたランゲルハンス細胞の数が減少しているのがわかった。
【0032】
健常男性11名の肩のシミ部位とその近傍からパンチバイオプシーで直径2mmの皮膚を採取し、凍結切片を作製した。抗CD1a抗体(R&D社)及びFITC標識抗マウスIgG抗体(SIGMA社)を用いて、上記と同様に蛍光免疫染色を行い、顕微鏡下で表皮面積当たりのCD1a陽性のランゲルハンス細胞数を計数し、結果を
図2に示した。シミ部位では、近傍部位に比べ、ランゲルハンス細胞の数が有意に少なかった。
【0033】
健常女性7名の顔から、シミ部位とその近傍の皮膚を2mmのパンチバイオプシーで採取し、凍結切片を作製した。抗CD1a抗体(R&D社)及びFITC標識抗マウスIgG抗体(SIGMA社)を用いて、上記と同様に蛍光免疫染色を行い、顕微鏡下で表皮面積当たりのCD1a陽性のランゲルハンス細胞数を計数し、結果を
図3に示した。シミ部位では、近傍部位に比べ、ランゲルハンス細胞の数が有意に少なかった。
【0034】
実施例2:ランゲルハンス細胞によるメラノサイト(B16細胞)からのメラニン合成の抑制
臍帯血由来のCD34陽性の造血幹細胞(LOZNA社から購入)から、Mollah ZUらの論文(.J Invest Dermatol 120, 256-265 (2003))に記載された方法に従って、G−CSF、SCF、Flt3L、TNFα、TGFβ(Peprotec社)の存在下で2週間培養してランゲルハンス細胞様細胞(LC細胞)を準備した。96穴プレートに20,000個のB16メラノーマ細胞を播種し、10%の牛胎児血清を含むDMEM培地(ニッスイ社)中で24時間培養し、対照群(ATP(−)LC(−))、ATP添加及びLC未添加群(ATP(+)、LC(−))、ATP添加及びLC添加群(ATP(+)LC(+))を準備した。LC添加は、24時間培養後のメラノーマ細胞に対し10,000個の上記ランゲルハンス細胞様細胞を添加することにより行われた。ATPの添加は、ランゲルハンス細胞様細胞の添加の5分後、又はLC未添加群では同じタイミングで、100μMのATPを添加することにより行われた。1時間後に培養液を交換することによって培養液中のランゲルハンス細胞様細胞及びATPを除去した後、さらに24時間培養した。培養後、分光光度計(BechMark Plus, BIORAD社)を用いて、メラニン定量に用いられる405nmの吸光度を測定した。
【0035】
実施例1の結果により、シミの部位においてランゲルハンス細胞が有意に減少していることが示された(
図1〜
図3)。さらに実施例2により、ランゲルハンス細胞が、メラノサイトによるメラニン合成応答を抑制すること(
図4)が確認され、ランゲルハンス細胞がシミの形成に寄与していることが示された。これらの実験結果により、本発明のうち、ランゲルハンス細胞を活性化することによるメラニン産生抑制方法、美白方法がサポートされる。
【0036】
実施例3:ランゲルハンス細胞によるケラチノサイトからのメラノサイト刺激ホルモン(MSH)の産生抑制
24穴用のカルチャーインサートにヒト表皮ケラチノサイトを300,000個/50μl CnT07培地(CELLnTEC advanced cell systems社)播種し、2日後にカルチャーインサート内の培養液を除いて、さらにCnT02−3DT培地(CELLnTEC advanced cell systems社)を用いて7日間培養することにより、重層化した表皮様構造を作製した。ATP未添加LC未添加群(ATP(−))、ATP添加LC未添加群(ATP(+))、ATP添加LC添加群(ATP(+)LC(+))の表皮用構造を準備した。LC添加は、下層の培養液に実施例2で準備したランゲルハンス細胞様細胞を10,000個添加することにより行われた。ATPの添加は、ランゲルハンス細胞様細胞の添加の5分後、又はLC未添加群では同じタイミングで100μMのATPを添加することにより行われた。1時間後に培養液を交換することによって培養液中のランゲルハンス細胞及びATPを除去した後、さらに48時間培養した。培養後、培養液を回収して、ELISAキット(Phoenix Pharmaceuticals Inc.社)によってαMSHを定量し、結果を
図5に示した。
【0037】
実施例4:紫外線照射による増大したケラチノサイトからのATP放出、並びにランゲルハンス細胞存在下における当該ATP放出の低下
96穴プレートに2,000個の正常ケラチノサイトをCnT07培地(CELLnTEC advanced cell systems社)中で播種し、4日間培養した。3群のケラチノサイト培養物を準備し、対照群(UV照射無し、ランゲルハンス細胞様細胞添加無し)、UV照射群(UV照射有り、ランゲルハンス細胞様細胞添加無し)、LC細胞添加群(UV照射有り、ランゲルハンス細胞様細胞添加有り)に分けた。LC細胞添加群に実施例2で準備した2,000個のランゲルハンス細胞様細胞を添加し、添加後にUV照射を行った。UV照射群及びLC細胞添加群に30mJ/平方cmの紫外線を照射し、10分後に培養液を回収し、市販のルシフェリン−ルシフェラーゼアッセイキット(Perkin Elmer社)を用いて、培養液中のATP量を測定し、結果を
図6に示した。
【0038】
実施例5:ATP添加に応答する培養皮膚におけるメラニン含量の変化
ヒトメラノサイト450,000個を10cmシャーレに播種し、medium254培地で10日間培養し、0.3から300μMのATPを添加してさらに5日間培養したものを、65℃の1MのNaOH+10%DMSO溶液中で溶解し、吸光度(400nm)を測定し、結果を
図7に示した。
【0039】
実施例3〜5の結果により、ランゲルハンス細胞が、ケラチノサイトによるメラノサイト刺激ホルモンの放出を抑制すること(
図5)、ランゲルハンス細胞がケラチノサイトから放出される細胞外刺激伝達因子であるATPを抑制していること(
図6)が確認された。さらに、培養皮膚モデルにおいて、メラニン含量を示す吸光度がATP添加により増加したことが示された(
図7)。これらの結果に基づき、本発明者らは、紫外線などの刺激により、ランゲルハンス細胞の活性(すなわちATPase活性等)が低下することにより、細胞外ATP及びα-MSHの産生増加を招き、それによりメラニン産生が増加してシミが形成するというシミ形成メカニズムを明らかにした。
【0040】
実施例6:ランゲルハンス細胞を活性化することによるメラノーマ細胞からのメラニン合成の抑制
マウスメラノーマB16細胞を96穴マイクロプレートに播種し、10%の牛胎児血清を含むDMEM(ニッスイ)培地中で37℃にて培養した。B16細胞の培養物を、溶媒対照群、ATP群(ATPのみを添加し、LC細胞を添加しない)、LC群(LC細胞の添加後、ATPを添加する)、グルカン処理LC群(グルカン前処理したLC細胞の添加後、ATPを添加する)にわけ、メラニン合成に対する影響を調べた。LC細胞としては、実施例2に記載の臍帯血由来の造血幹細胞から分化させたランゲルハンス細胞様細胞を用いた。LC群及びグルカン処理LC群においてLC細胞の添加の一時間後に終濃度100μMとなるようにATPを添加した。グルカン前処理LC細胞群においては、予めランゲルハンス細胞様細胞培養液に1%β−グルカン(スエヒロタケ由来、重量平均分子量:450,000ダルトン)を添加し、その24時間後にPBS洗浄したLC細胞をB16細胞の培養物に加え、37℃で培養した。それぞれの群においてATP添加後2日間の培養した後に吸光光度計(BechMark Plus, BIORAD社)を用いて405nmでの吸光度を測定した。培地のみの吸光度をバックグラウンドとして差し引いた値を表1及び
図8に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例7:β−グルカンによるランゲルハンス細胞の活性化
実施例2に従い分化させた10,000個のランゲルハンス細胞様細胞を96穴プレート上の穴に播種し、0%、0.1%、1%のβ−グルカン(スエヒロタケ由来、重量平均分子量450,000ダルトン)を添加して、24時間培養した。血球計算版を用いて細胞数を計数した結果、表2に示すように、β−グルカンの濃度依存的にランゲルハンス細胞の増加が示された。
【表2】
【0043】
実施例6の結果により、細胞外刺激伝達因子であるATPによって促進されたメラノーマからのメラニン合成が、ランゲルハンス細胞の存在によって抑制されること、さらにグルカン処理をランゲルハンス細胞に行うことにより、その抑制効果が向上したことが示された。さらに実施例7の結果により、β−グルカンによってランゲルハンス細胞の活性化(増加)することが示された。ランゲルハンス細胞の活性化作用を有することが示されたβグルカンは、ランゲルハンス細胞の活性化を指標としてメラニン産生抑制効果又は美白効果について薬剤をスクリーニングすることにより得られた薬剤であり、このようなスクリーニング方法が実施可能であることが示された。