特許第6122617号(P6122617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6122617疎水性を向上させた高分子電解質膜電極接合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6122617
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】疎水性を向上させた高分子電解質膜電極接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20170417BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20170417BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20170417BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20170417BHJP
【FI】
   H01M4/88 K
   H01M4/88 H
   H01M4/86 H
   H01M4/86 M
   H01M8/02 E
   H01M8/10
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-246482(P2012-246482)
(22)【出願日】2012年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-11154(P2014-11154A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年10月30日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0070376
(32)【優先日】2012年6月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】504459146
【氏名又は名称】韓国科學技術研究院
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】洪 普 基
(72)【発明者】
【氏名】金 世 勳
(72)【発明者】
【氏名】文 明 ウン
(72)【発明者】
【氏名】李 光 烈
(72)【発明者】
【氏名】呉 奎 煥
(72)【発明者】
【氏名】許 殷 奎
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−049110(JP,A)
【文献】 特開2003−059506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜電極接合体(MEA)を構成する触媒層の表面触媒担持体にプラズマエッチングして高アスペクト比のナノサイズの突起によって形成された凹凸構造を形成する段階と、
前記触媒担持体に形成された前記凹凸構造上に疎水性薄膜を形成する段階と、を含むことを特徴とする疎水性を向上させた高分子電解質膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記凹凸構造を形成する段階では、プラズマエッチングのためのプラズマの照射時間、加速電圧、及びエッチング圧力のうち何れか1つ以上を調節して凹凸構造のサイズ及び形状を制御することを特徴とする請求項1に記載の疎水性を向上させた高分子電解質膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記プラズマエッチングのためのプラズマの加速電圧は−100Vb〜−1000Vbであり、プラズマのエッチング圧力は1Pa〜10Paであることを特徴とする請求項2に記載の疎水性を向上させた高分子電解質膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
前記プラズマエッチングには、イオンビーム方式、ハイブリッドプラズマ化学蒸着方式、及び大気圧プラズマ方式からの1つ以上を選択して行うことを特徴とする請求項1に記載の疎水性を向上させた高分子電解質膜電極接合体の製造方法。
【請求項5】
前記プラズマエッチングは、プラズマ化学蒸着(PECVD)方式またはプラズマーアシスト化学蒸着(PACVD)方式であることを特徴とする請求項1に記載の疎水性を向上させた高分子電解質膜電極接合体の製造方法。
【請求項6】
前記疎水性薄膜は、ケイ素と酸素を含む炭化水素系薄膜、またはフッ素を含む炭化水素系薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の疎水性を向上させた高分子電解質膜電極接合体の製造方法。
【請求項7】
前記疎水性薄膜は、1〜100nmの厚さであることを特徴とする請求項1または6に記載の疎水性を向上させた高分子電解質膜電極接合体の製造方法。
【請求項8】
触媒層の表面触媒担持体に高アスペクト比のナノサイズの突起によって形成された凹凸構造が形成され、前記凹凸構造上に疎水性薄膜が形成されることにより、超疎水性表面を有することを特徴とする疎水性を向上させた高分子電解質膜電極接合体。
【請求項9】
前記疎水性薄膜は、ケイ素と酸素を含む炭化水素系薄膜、またはフッ素を含む炭化水素系薄膜であることを特徴とする請求項に記載の疎水性を向上させた高分子電解質膜電極接合体。
【請求項10】
前記疎水性薄膜は、1〜100nmの厚さであることを特徴とする請求項またはに記載の疎水性を向上させた高分子電解質膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜電極接合体及びその製造方法に関するものであって、より詳細には、触媒層表面の疎水性を高めた高分子電解質膜電極接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質膜燃料電池(PEMFC:Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)において電気を発生させる電気化学反応は、燃料電池の酸化極のアノード(Anode)に供給された水素が、水素イオンのプロトン(Proton)と電子に分離され、電子は外部回路を介してカソードに移動することで電気を発生し、プロトンは高分子電解質膜を介して還元極のカソード(Cathode)側に移動して酸素分子と反応して水を生成する。
【0003】
PEMFCに使用される高分子電解質膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)は、通常、高分子電解質膜とアノード及びカソードの触媒層(Catalyst Layer)で構成される。
【0004】
高分子電解質膜には、様々な構造を有する過フッ化スルホン酸系(PFSA:Per−Fluorinated Sulfonic Acid)、あるいは炭化水素系(Hydrocarbon)イオノマー(Ionomer)が使用される。
【0005】
触媒層は白金(Pt)を基材とした単一金属、二元系(Binary)合金、あるいは三元系(Ternary)合金(Alloy)で構成された触媒と、この触媒を担持する触媒担持体(Catalyst Support)、これらの混合に用いられるバインダー(Binder)で構成される。
【0006】
特に、触媒担持体には、電気伝導性、比表面積(Specific Surface Area)、及び耐久性に優れ、PEMFCの運転環境で安定して用いられるカーボンブラックなどの炭素粉末が多く使用されており、代表的な具体例として「Vulcan XC72R」及び「Black Pearls 2000」(ともに、Carbot Corp社製)、「Ketjen EC300J」及び「Ketjen EC600JD」(ともに、Ketjen Black International社製)、「Shawinigan」(Chevron社製)、「Denka Black」(Denka社製)などが挙げられる[非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4]がある。最近では、燃料電池のセル性能と耐久性を増加させるために、触媒支持体としてカーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nano Tube)やカーボンナノファイバー(CNF:Carbon Nano Fiber)(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)による反応表面積を増加させた物質、さらに、ナノ構造薄膜フィルム(NSTF:Nano Structured Thin Film)などの研究も盛んである(非特許文献7、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0007】
燃料電池内の電気化学反応で生成した水は、その量が適切である場合は高分子電解質膜の加湿性を維持する好ましい役割をするが、過度になると、その水を適切に除去しないと高電流密度によりフラッディング(Flooding)現象が発生し、このフラッディング現象により、反応気体が効率的に燃料電池セル内に供給されるのを妨げて電圧損失が大きくなる[非特許文献8]という弊害をもたらすことがある。
【0008】
特に、MEAのカソード側で酸素還元反応(ORR:Oxygen Reduction Reaction)により水が生成したとき、MEA触媒層が親水性(Hydrophilicity)または低い疎水性(Hydrophobicity)であると、酸素還元反応で生成した水を円滑に排出できなくなり、それによって、空気中の酸素が電解質膜に円滑に供給されなくなる物質伝達損失(Mass Transport Loss)を誘発して燃料電池セルの性能を低下させる原因となる。また、水がカソード側からアノード側に逆拡散(Back Diffusion)してアノード側でもフラッディング現象が発生すると、水素がアノードの触媒層を介して電解質膜に供給されることを妨げる可能性がある(非特許文献9、非特許文献10)。
【0009】
そこで、カソードとアノードの触媒層の両方について疎水性を高くして、燃料電池の電気化学反応と関連した水を円滑に排出することができるのが好ましい。しかしながら、上述したカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、ナノ構造薄膜フィルム(NSTF)などの素材は、MEA触媒担持体が一定水準の疎水性が得られるようにするが、これらを用いて製造したMEA触媒層は、一般的に水に対する接触角が150°以下の約120〜140°程度の疎水性を有するため、水を排出する能力があまり高くないという問題がある。
【0010】
従来、触媒担持体として用いたカーボンブラックの「Vulcan XC−72」粉末にC高周波(r.f.:Radio Frequency)プラズマエッチング(Plasma Etching)処理をしてCF基を表面に導入することで、カーボンブラック自体の接触角を79°から156°に増加させるという報告はあるが(非特許文献11)、このように表面処理したカーボンブラックをMEAの触媒層の製造に用いてMEA化した時の実際の触媒層接触角、及びMEA触媒層内の表面構造の維持安定性に対する結果は報告されていない。また、触媒担持体の原材料の炭素物質にプラズマ表面処理した後、その上に触媒層を形成させるため、触媒担持体の疎水性表面構造が実際のMEA触媒層では十分に発現できないていないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】A.J.L.Steinbach、G.D.Vernstrom、M.K.Debe、and R.Atanasoski;米国特許公開第2010/0047668号明細書
【特許文献2】M.K.Debe、R.J.Ziegler、and S.M.Hendricks;米国特許公開第2008/0020923号明細書
【特許文献3】M.K.Debe、S.M.Hendricks、G.D.Vernstrom、A.K.Schmoeckel、R.Atanasoski、and C.V.Hamilton、Jr.;米国特許公開第7,622,217号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】V.Mehta and J.S.Cooper、J.Power Sources、114、32(2003)
【非特許文献2】F.Barbir、PEM Fuel Cells:Theory and Practice、Elsevier Academic Press、London、UK(2005)
【非特許文献3】J.Larminie and A.Dicks、Fuel Cell Systems Explained、2nd Ed.、John Wiley & Sons、England(2005)
【非特許文献4】X.Yu and S.Ye、J.Power Sources、172、133(2007)
【非特許文献5】C.Wang、M.Waje、X.Wang、J.M.Tang、R.C.Haddon and Y.S.Yan、Nano Lett.、4、345(2004)
【非特許文献6】M.Tsuji、M.Kubokawa、R.Yano、N.Miyamae、T.Tsuji、M.S.Jun、S.Hong、S.Lim、S.H.Yoon and I.Mochida、Langmuir、23、387(2007)
【非特許文献7】M.K.Debe、A.K.Schmoeckel、G.D.Vernstrom、and R.Atanasoski、J.Power Sources、161、1002(2006)
【非特許文献8】M.M.Saleh、T.Okajima、M.Hayase、F.Kitamura、and T.Ohsaka、J.Power Sources、167、503(2007)
【非特許文献9】R.O’ Hayre.S.W.Cha、W.Colella、and F.B.Prinz、Fuel Cell Fundamentals、New York、John Wiley & Sons(2006)
【非特許文献10】J.O’ Rourke、M.Ramani、and M.Arcak、Int J Hydrogen Energy、34、6765(2009)
【非特許文献11】H.Shioyama、K.Honjo、M.Kiuchi、Y.Yamada、A.Ueda、N.Kuriyama、T.Kobayashi、J.Power Sources、161、836(2006)
【非特許文献12】T.−Y.Kim、B.Ingmar、K.Bewilogua、K.H.Oh、and K.−R.Lee、Chemical Physics Letters、436、199(2007)
【非特許文献13】T.G.Cha、J.W.Yi、M.−W.Moon、K.−R.Lee、and H.−Y.Kim、Langmuir、26、8319(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のような点を改善するためになされた本発明の目的は、燃料電池のセルを構成するMEA触媒層表面の疎水性(Hydrophobicity)を高く超疎水性にした高分子電解質膜電極接合体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するための本発明の高分子電解質膜電極接合体の製造方法は、MEAを構成する触媒層の表面触媒担持体にプラズマエッチングによる高アスペクト比のナノパターンを形成する段階と、触媒担持体に形成されたナノパターン上に疎水性薄膜を形成する段階とを含んで構成される。
【0015】
ここで、ナノパターンを形成する段階では、プラズマエッチングのためのプラズマの照射時間、加速電圧、及びエッチング圧力のうち何れか1つ以上を調節してナノパターンのサイズ及び形状を制御することができる。
【0016】
また、本発明の高分子電解質膜電極接合体は、触媒層の表面触媒担持体に高アスペクト比のナノパターンが形成され、このナノパターン上に疎水性薄膜が形成されることにより、超疎水性表面を有する疎水性を向上させている。
【0017】
好ましくは、高アスペクト比のナノパターンは、微細突起構造からなり、例えば、直径が1〜100nmの微細突起構造で形成されるか、または触媒担持体の各粒子表面に1〜20nmの幅と1〜1000nmの長さを有する突起状に形成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明による高分子電解質膜電極接合体は、反応表面積が広くなり、純水との接触角が大きく増加して超疎水性表面の性質を有するようになる。それによって、本発明の高分子電解質膜電極接合体は、燃料電池セルへの適用時、電気化学反応に係る面積が増加し、かつ、超疎水性表面は自己洗浄機能及び水滴をはじく機能を有するため、燃料電池の電気化学反応により生成した水を円滑に排出してセル性能を維持するための表面素材として使用することができる。
また、本発明による高分子電解質膜電極接合体は、工程が簡素であり商業化が容易である利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明によるMEAを構成する触媒層の表面触媒担持体に高アスペクト比のナノパターンを形成する過程を概略的に示す模式図である。
図2】実施例1におけるMEA触媒層の酸素プラズマエッチング前後の写真である。
図3】実施例1におけるCFプラズマエッチング後の写真である。
図4】実施例2における水滴の形状を撮影した光学顕微鏡の写真である。
図5】実施例3における酸素プラズマエッチングとCFプラズマエッチングにおいて、プラズマ処理時間を変えての表面静的接触角測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、燃料電池スタック用MEA触媒層の撥水性を高めるために超疎水性化した高分子電解質膜電極接合体及びその製造方法に関するもので、高分子電解質膜燃料電池(PEMFC:Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)などに用いられる高分子電解質膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)の触媒層の触媒担持体に、高アスペクト比を有するナノパターンを形成して比表面積を増加させると共に、そのナノパターンの表面上に疎水性薄膜をコーティングして水に対する疎水性を増加させて触媒効率を高めている。
【0021】
本発明では、乾式プラズマ表面処理技術を用いてMEA触媒層の球形の炭素系触媒担持体をエッチングしてナノニードル(Needle)やナノピラー(Pillar)などのナノ構造、すなわち高アスペクト比を有する突起構造のナノパターンを形成し、かつナノ構造の表面に疎水性炭素薄膜をコーティングすることにより疎水性を高めて触媒層の表面に超疎水性を付与している。
【0022】
超疎水性表面を有するMEA素材は、燃料電池セルへの適用時、電気化学反応中に生成した水を効果よくセルの外部に排出する役割を行うことができる。
【0023】
本発明のプラズマ処理によるMEA表面改質方法は、従来のMEA製造工程による疎水性の付与を超えて、CFプラズマや酸素プラズマによりMEA触媒層の表面をエッチングして高アスペクト比のナノパターンを実現することにより、ナノパターンによる比表面積の大きい表面を形成し、その表面上に疎水性を有する炭素薄膜をコーティングすることにより、接触角が150°以上の超疎水性を安定して付与することができる。
【0024】
このプラズマ乾式処理工程だけでもMEA表面触媒層の構造的改質と共に化学的改質が得られ、燃料電池システムに適する高疎水性を容易に付与することができる。特に、この方式は触媒担持体の原材料物質でなく、予めMEAで製造された完成品の触媒層を直接表面改質することで、触媒層内の触媒担持体の表面に形成された超疎水性構造をさらに変形あるいは破損することなく、MEAでそのまま発現及び使用できるという長所がある。
【0025】
このようなMEA触媒層表面の表面積及び疎水性の増加は、下記のように固体表面でのナノ構造(あるいはナノパターン)形成技術と高疎水性あるいは超疎水性(Super Hydrophobicity)発現メカニズムによるものと理解される。
【0026】
一般に固体表面の疎水性は、固体表面の化学的特性によるものであるが、固体表面に微細なパターンを形成させると、疎水性が顕著に増加して超疎水性を有するようになる。例えば、化学的に疎水性を有する表面において、平らな表面に比べて表面に微細な突起構造や気孔構造が形成された表面は、純水との接触角(Contact Angle)が約150°〜170°と大きく超疎水性を有すると共に、接触角ヒステリシス(Contact Angle Hysteresis)が10°未満で小さくなる条件では、固体表面の水滴が容易に除去される自己洗浄(Self−Cleaning)機能を有するようになる。
【0027】
従って、超疎水性表面を製作するためには、化学的に表面エネルギーの低い表面層を形成しなければならず、それと共に物理的あるいは構造的な表面粗さ(Surface Roughness)が存在しなければならない。表面粗さは、微細な突起や気孔のサイズ分布が非常に重要な役割をする。
【0028】
最近、マイクロサイズの粗さの上にナノサイズの粗さが同時に存在するハス(Lotus)状の構造が提案されている。ハス状の構造にはμスケールのバンプ(Bump)とnmスケールのナノピラー(Nanopillar)が存在することが報告されており、かつ表面にワックス(Wax)のような表面エネルギーの低い化学物質が分布されて超疎水性を維持すると知られている。このような突出形状の粗さだけでなく、陥没形態の気孔のような構造もほぼ同様な特性を示す。特に、気孔は、ナノ(Nano)及びマイクロ(Micro)サイズのものが複合的に存在し、表面化学組成が調節されることにより、疎水性の表面、さらに超疎水性の表面が形成される(非特許文献12、非特許文献13)。
【0029】
本発明では、このような表面の物理的構造と共に化学特性が得られる疎水性を向上させたメカニズムを、MEA触媒層の表面に適用することにより、MEA触媒層表面に超疎水性を付与することができる。具体的には、MEAを構成する触媒層内の触媒担持体の表面にプラズマエッチングによるナノパターンと、プラズマコーティングによる疎水性炭素薄膜をそれぞれ形成することにより、MEAの触媒層表面に超疎水性を付与することができる。すなわち、構造的制御と化学的制御を同時に行うことにより、超疎水性が得られる。
【0030】
以下、本発明を当該技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるように説明する。
本発明のMEAは、触媒層の表面触媒担持体に形成した高アスペクト比のナノパターン及び疎水性薄膜を含んで構成される。
【0031】
図1は、本発明によるMEAの製造過程を概略的に示す模式図である。本発明によるMEAは、触媒担持体を形成している球形粒子形状の炭素粉末にプラズマエッチングして高アスペクト比のナノパターンを形成し、その後で、プラズマ蒸着により疎水性を有する疎水性炭素薄膜を蒸着して超疎水性の表面を形成する。
【0032】
この超疎水性表面の形成には、触媒担持体を形成している球形粒子形状のカーボンブラックなどの炭素粉末表面に、酸素プラズマエッチングまたはCFプラズマエッチングにより直径1〜100nmのナノニードルやナノピラーなどの微細突起構造のナノパターンを形成することが好ましい。
【0033】
触媒担持体のナノパターンは、ナノサイズの突起と気孔を有する凹凸構造に形成される。特に、触媒担持体の各球形粒子は、数十〜数百nmサイズを有する炭素であって、表面に1〜20nmの幅と1〜1000nmの長さを有するナノニードルやナノピラーのような突起形状が形成されて高アスペクト比のナノパターンを形成するようになり、それによって、表面積が向上する結果を得ることができる。
【0034】
このような高アスペクト比のナノパターンにより、MEAの表面積は、処理前のMEA表面積に比して約1〜10倍程度増加する効果が得られる。
【0035】
図1に示すように、高分子電解質膜上の触媒層をプラズマ表面処理して形成されたナノパターンと触媒担持体粒子のパターンは、サイズの異なる二重(複合)突起構造の表面を形成して、超疎水性及び自己洗浄特性を有するハスの表面と同様の表面構造を形成する。
【0036】
上記のように表面積が増加した触媒担持体の表面に、さらに疎水性ナノ薄膜をコーティングすることにより、疎水性が増加し、触媒担持体表面の接触角は150°以上になる。
【0037】
従来のMEAの触媒層は、炭素担持白金触媒(Pt/C)及びバインダーなどで構成され、表面接触角が約120〜140°程度で高い水準ではあるが、超疎水性を得るためには表面接触角を150°以上にしなければならない。
【0038】
本発明ではプラズマエッチングにより形成された高アスペクト比のナノパターンのサイズが、従来の触媒層表面と比較して非常に小さく、高アスペクト比の表面粗さが形成されて、150°以上の接触角が得られる。また、疎水性薄膜コーティングを表面に均一に導入することにより、表面エネルギーが全体的に非常に低い状態になり、均一な超疎水性表面を形成することができる。
【0039】
疎水性を高めるための疎水性炭素薄膜は、例えば、ケイ素と酸素を含む炭化水素系薄膜、フッ素(F)を含む炭化水素系薄膜が挙げられる。この疎水性薄膜の厚さは、好ましくは1〜100nm、さらに好ましくは1〜10nmである。
【0040】
ケイ素と酸素を含む炭化水素系薄膜の一例は、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO:Hexamethyldisiloxane)を前駆体として用いてケイ素と酸素を含む炭素薄膜を蒸着したものであり、その時、ヘキサメチルジシロキサンにアルゴン(Ar)ガスを適切に混合して疎水性を制御することができる。
【0041】
本発明の超疎水性MEAの製造方法は、(a)プラズマエッチングを用いてMEAを構成する触媒層内の表面触媒担持体(触媒支持体)にエッチングによる高アスペクト比のナノパターンを形成する段階と、(b)MEAの触媒層表面(すなわち、触媒層表面の触媒担持体のナノパターンの上)に疎水性薄膜を形成する段階とからなる。
【0042】
プラズマエッチングは、イオンビーム(Ion Beam)方式、ハイブリッド(Hybrid)プラズマ化学蒸着方式、及び大気圧プラズマ方式のうち何れか1つ以上を選択して行うことができる。
【0043】
(a)段階のプラズマエッチングは、プラズマ化学蒸着PECVD(Plasma−Enhanced Chemical Vapor Deposition)またはプラズマーアシスト化学蒸着PACVD(Plasma−Assisted Chemical Vapor Deposition)方式のプラズマエッチングで行うことができ、この時、O、Ar、N、CF、HF、またはSiFガスを用いることができる。
【0044】
後述する実施例に示すように、プラズマエッチングされた触媒層の一部分を拡大して見ると、ナノサイズの高アスペクト比の突起が数多く形成されたことを確認することができる。
【0045】
プラズマエッチングによる高アスペクト比のナノ突起のサイズ及び形状は、プラズマの照射時間、加速電圧、及びエッチング圧力のうち何れか1つ以上を調節することにより制御でき、所望するサイズ及び形状のナノ突起構造を得るための好ましい条件は、加速電圧が−100Vb〜−1000Vbで、エッチング圧力が1Pa〜10Paである。プラズマの照射時間については、実施例3で述べる。
【0046】
(b)段階は、(a)段階で形成された高アスペクト比のナノパターンを有する触媒担持体の表面に疎水性薄膜を形成する段階である。
【0047】
エッチングされた触媒担持体の表面に疎水性薄膜を蒸着して形成する時、ヘキサメチルジシロキサンガス、あるいはヘキサメチルジシロキサンガスに、分率が0よりも大きく30体積%以下でアルゴンガスを加えた混合ガスを用いることができる。
【0048】
本発明は疎水性薄膜を蒸着する場合により限定されることはなく、疎水性薄膜を形成するための様々な方法を用いてもよい。
【0049】
疎水性を増加させるための疎水性炭素薄膜の表面特性は、PECVD装置の高周波(r.f.:Radio Frequency)電源と前駆体ガス内のアルゴン分率に依存する。従って、高周波電源と前駆体ガス内のアルゴン分率を適切に調節して疎水性を調節して向上された薄膜を形成することができる(非特許文献12)。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の理解を助けるために実施例を挙げて、燃料電池のセルを構成するMEAの触媒層表面の疎水性を増加させて超疎水性化したMEA、およびその製造過程を詳細に説明するが、下記実施例は本発明を例示するためのもので、本発明を限定するものではない。
【0051】
この実施例では、商品化されている過フッ化スルホン酸系MEAを用いており、アノードとカソードは両方とも炭素担持白金(Pt/C)触媒で、触媒担持体を形成する炭素粒子のサイズが10〜300nmの範囲で不均一に混在している。
【0052】
[表面処理−1]:MEAの触媒層表面を、13.56MHzの高周波PECVDを用いた酸素プラズマエッチングで処理した。この時、ガスとして酸素だけを用い、エッチング圧力が10Pa、高周波電圧が−100Vb〜−800Vbの条件で酸素プラズマエッチングを行った。
【0053】
[表面処理−2]:表面処理−1でエッチングした触媒層表面に、ケイ素−酸素が混合された炭素薄膜を形成して疎水性を高めた。具体的には、13.56MHzの高周波PECVDにより触媒担持体のエッチングされた表面に、ヘキサメチルジシロキサンを用いて疎水性薄膜を蒸着した。この時、前駆体ガス内のアルゴンガスの分率を0体積%に維持し、高周波電圧を−400Vbに固定し、疎水性薄膜の厚さが約10nmの一定に蒸着し、チャンバー内の圧力を5Paとした。
【0054】
[表面処理−3]:表面処理−1と同様にして、MEAの触媒層表面をプラズマエッチングしたが、ここでは、酸素プラズマの代わりにCFプラズマを用いた。
【0055】
[表面処理−4]:表面処理−3でエッチングした触媒層表面に、表面処理−2と同様にして炭素薄膜を形成した。
【0056】
[表面処理−5]:MEAの触媒層表面を酸素プラズマエッチングとCFプラズマエッチングで、それぞれ処理時間が異なるようにして行って疎水性薄膜を形成した。この時、疎水性薄膜のコーティングの厚さを5nmとした。
【0057】
〔実施例1〕
表面処理−1と表面処理−3でそれぞれプラズマエッチングにより表面処理した前後の写真を撮影し、その測定結果を図2及び図3に示した。
図2の(A)はMEA触媒層の酸素プラズマエッチング前、および(C)は表面処理−1による酸素プラズマエッチング30分処理後の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)写真である。図2の(B)は酸素プラズマエッチング前、および(D)と(E)は酸素プラズマエッチング30分処理後の透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)写真である。
【0058】
また、表面処理−3によるMEA触媒層をCFプラズマエッチング30分処理後について、図3の(A)はそのSEM写真、(B)と(C)はそのTEM写真である。
【0059】
図2の(A)に示すように、触媒担持体は球形に形成されており、図2の(B)に示すように、触媒担持体に約2〜3nmサイズの白金粒子が均一に分散されている。
【0060】
酸素プラズマエッチング処理後の写真である図2の(C)に示すように、触媒担持体表面に高アスペクト比を有する突起構造のナノパターンが形成されており、図2の(D)と(E)に示すように、触媒担持体の一側が長い針(Needle)のように変化している。このような長い針のような高アスペクト比のナノパターンは、触媒担持体に担持された金属粒子に対するプラズマエッチング速度が触媒担持体を形成する炭素粒子に対するエッチング速度よりも顕著に遅いために現れる。具体的には、金属粒子は一種のエッチング停止(Etching Stop)の役割をして金属粒子の周辺はエッチングがあまり進まず、炭素粒子の部分だけにエッチングが進行してプラズマ入射方向(表面に対して垂直方向)に平行した高アスペクト比の触媒担持体を形成するようになる。
【0061】
また、図3に示すように、酸素プラズマの代わりにCFプラズマを用いてエッチングしても酸素プラズマエッチングとほぼ同様の結果が得られた。図3の(A)はCFプラズマ30分処理後のMEA触媒層表面を撮影したSEM写真で、触媒担持体の表面に高アスペクト比のナノパターンが形成されている。ただし、酸素プラズマエッチングを用いた場合(表面処理−1)、触媒担持体表面にナノパターンが針状に形成され、CFプラズマエッチングを用いた場合(表面処理−3)、触媒担持体表面にナノパターンがピラー(Pillar)状に形成されていることが、TEM写真で確認できる(図3の(B)、(C)参照)。
【0062】
〔実施例2〕
MEAの触媒層表面に5μLの水滴を注意深く滴下(Gentle Landing)し、MEA触媒層表面の静的接触角(Static Contact Angle)を、ゴニオメーター(Goniometer)〔Data Physics Instrument GmbH社製、“OCA 20L”〕を用いて測定した。図4は、水滴の形状を撮影した光学顕微鏡の写真である。図中、(A)はプラズマエッチング処理前(すなわち、超疎水性表面の処理前)、(B)表面処理−2で酸素プラズマエッチングによりで30分処理した後、疎水性カーボンナノ薄膜をコーティングして超疎水性化、(C)は表面処理−4でCFプラズマエッチングにより30分処理した後、疎水性カーボンナノ薄膜をコーティングして超疎水性化した結果である。ゴニオメーターは、表面に固着された水滴(Sessile Droplet)の光学的写真撮影と接触角の測定が可能である。
【0063】
この結果から、超疎水性表面処理前(図4の(A))のMEA触媒層の表面静的接触角は約133°であったが、酸素プラズマエッチングと疎水性薄膜コーティング処理後(図4の(B))、及びCFプラズマエッチングと疎水性薄膜コーティング処理後(図4の(C))の表面静的接触角はそれぞれ約160°及び152°で、疎水性が大きく増加したことが分かる。
【0064】
〔実施例3〕
表面処理−5により酸素プラズマエッチングあるいはCFプラズマエッチングを異なる処理時間で行った後の表面静的接触角を、実施例2と同様にして、ゴニオメーターを用いてそれぞれ測定した。結果を図5に示した。
【0065】
酸素プラズマエッチングは、炭素素材と反応して触媒担持体表面を形成する炭素粒子をエッチングするが、この時、炭素素材と酸素プラズマが結合してCOあるいはCOガスを形成することにより触媒担持体表面をエッチングする。特に、触媒担持体を形成する数十〜数百nmサイズの球形炭素粒子の表面がエッチングにより尖った形態の10〜20nmの幅と100〜200nmの長さを有するナノ突起構造の触媒担持体粒子を形成するようになる。触媒担持体の表面積はエッチング前に比べて約7〜15倍増加されることになる。
【0066】
表面静的接触角は、ナノパターンのアスペクト比と疎水性炭素薄膜の形成条件に応じて調節されるが、このようにプラズマエッチング処理時間を調節することによっても静的接触角が制御され得ることがわかる。
【0067】
このように本発明による製造方法を用いて触媒担持体の表面に高アスペクト比のナノパターンを形成することにより、反応表面積と疎水性が増加して超疎水性触媒層を有するMEAを製造でき、それによって、MEAの表面は自己洗浄機能と水滴をはじく機能を有するようになる。このような超疎水性触媒層を有するMEAを燃料電池セルに適用して、燃料電池の電気化学反応時に生成した水を円滑に排出してセル性能を維持することができる。すなわち、MEAの触媒層表面の疎水性を増加させて超疎水性化することにより、MEAの水排出性を画期的に増加させることができる。
【0068】
以上、本発明に対して詳細に説明したが、本発明の権利範囲は上述した説明により限定されることはなく、特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を用いた当業者の様々な変形及び改良形態も本発明の権利範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5