(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、プラズマ処理又はマイクロ波処理を行う工程は時間と手間がかかり、多孔質膜の製造効率を低下させてしまう。また、吹き付け工程とは別に、予め無機粒子をクリーニングしたとしても、その後に空気等に接触して表面が再汚染されることを防ぐためには、クリーニングした無機粒子を不活性雰囲気に密封する等の煩雑な取扱いが要求される。また、クリーニング後の保存期間が異なると、再汚染や活性度の経時変化にバラツキが生じてしまう。このため、無機粒子を予めクリーニングする方法は実際には実用性に欠けるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、清浄な表面を有する無機粒子からなる多孔質膜を効率よく成膜できる成膜方法の提供を課題とする。また、その成膜方法に適した成膜装置、その成膜方法により成膜された多孔質膜が備えられた光電極、及びその光電極が備えられた色素増感太陽電池の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 無機粒子及び酸化性ガスを含むエアロゾルを被処理基材に吹き付けることにより、前記被処理基材上に前記無機粒子からなる多孔質膜を成膜することを特徴とする成膜方法。
[2] キャリアガス中に分散された前記無機粒子と、前記酸化性ガスとを混合することにより、前記エアロゾルを発生することを特徴とする前記[1]に記載の成膜方法。
[3] 前記エアロゾルを搬送する搬送管の長さを調整することにより、前記エアロゾル中において前記無機粒子と前記酸化性ガスとが接触する時間を調整することを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の成膜方法。
[4] 前記エアロゾル中において前記酸化性ガスによって前記無機粒子をクリーニングすることを特徴とする前記[1]〜[3]の何れか一項に記載の成膜方法。
[5] 前記エアロゾルを前記被処理基材に吹き付けることにより、前記被処理基材の表面を前記酸化性ガスによってクリーニングすることを特徴とする前記[1]〜[4]の何れか一項に記載の成膜方法。
[6] 前記[1]〜[5]の何れか一項に記載された成膜方法により成膜された多孔質膜が備えられたことを特徴とする光電極。
[7] 前記[6]に記載の光電極が備えられたことを特徴とする色素増感太陽電池。
[8] キャリアガス中に分散された無機粒子と酸化性ガスとを混合し、エアロゾルを発生する混合部と、前記エアロゾルをノズルへ向けて搬送する搬送部と、前記エアロゾルを吹き出す前記ノズルと、が備えられたことを特徴とする成膜装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成膜方法によれば、清浄な表面を有する無機粒子からなる多孔質膜を効率よく成膜できる。また、多孔質膜中の比表面積を増やすために、吹き付ける無機粒子の粒径を小さくした場合にも、無機粒子の表面が充分にクリーニングされているため、粒子−粒子界面の接合強度及び粒子−被処理基材間の接合強度を充分に高めて、構造的強度及び導電性に優れた多孔質膜を成膜できる。
【0010】
また、前記エアロゾルの発生及び吹き付けの過程で、同時並行的に、無機粒子のクリーニングを行うことができる。クリーニングされた無機粒子は即座に成膜に供されるので、無機粒子が再汚染されることが無い。このため、構造的強度及び導電性に優れた多孔質膜を効率良く成膜することができる。さらに、被処理基材に吹き付けるガス中には無機粒子だけでなく酸化性ガスが含まれているため、当然に被処理基材へ酸化性ガスが吹き付けられる。したがって、吹き付け初期には被処理基材の表面をクリーニングし、吹き付け後期には形成途中の多孔質膜の表面もクリーニングすることができる。この結果、構造的強度及び導電性に優れた多孔質膜を効率的に成膜することができる。
【0011】
本発明の光電極を構成する多孔質膜は、構造的強度に優れると共に、導電性にも優れる。これは粒子−粒子界面及び粒子−被処理基材間に電気抵抗を上げる不純物質(汚染物質)が実質的に存在しないためである。
本発明の色素増感太陽電池は、構造的強度及び導電性に優れる光電極を備えているため、光電変換効率に優れる。
【0012】
本発明の成膜装置によれば、無機粒子及び酸化性ガスを含むエアロゾルの発生と、エアロゾルの基材への吹き付けとを連続的に(シームレスに)行うことができるため、多孔質膜の成膜効率に優れる。また、エアロゾルを発生する混合部、エアロゾルをノズルへ搬送する搬送部、及びノズル先端から噴射されたエアロゾルが基材に到達して多孔質膜を形成するまでの過程において、連続的に無機粒子のクリーニングを行うことができる。この結果、構造的強度及び導電性に優れた多孔質膜を効率的に成膜することができる。
また、ステージに固定された被処理基材に限らず、ロールトゥロール方式で搬送される被処理基材に対しても、本発明の成膜装置は適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されない。
【0015】
《成膜方法》
本発明の第一実施形態の成膜方法は、無機粒子及び酸化性ガスを含むエアロゾルを被処理基材に吹き付けることにより、前記被処理基材上に前記無機粒子からなる多孔質膜を成膜する方法である。
【0016】
<材料>
前記無機粒子の種類は特に制限されず、従来公知の無機粒子が適用可能である。色素増感太陽電池の光電極を構成する多孔質膜を成膜する観点からは、10nm〜100μm程度の粒径(粒子直径)に成形された無機半導体からなる無機粒子が好ましい。このような無機半導体として、例えば、従来公知の光電極を構成する酸化物半導体が挙げられる。より具体的には、酸化チタン、酸化亜鉛等が例示できる。前記無機粒子として、1種の無機粒子を使用してもよいし、2種以上の無機粒子を併用してもよい。
【0017】
多孔質膜を効率よく形成するために、粒径が比較的小さい無機粒子を使用することがある。粒径の小さい無機粒子を吹き付ける場合、一般的には、被吹き付け面に対する粒子の衝突エネルギーが小さく、新生面が表出する粒子の脆性変形も起こり難いため、粒子−粒子間及び粒子−粒子間の接合強度を向上させることが比較的難しい。一方、本実施形態においては、酸化性ガスによって無機粒子の表面から有機物やその他の不純物が除去され、更に粒子表面が活性化されているため、前記接合強度を向上させることができる。すなわち、粒径が比較的小さい無機粒子を用いた場合にも、本実施形態の成膜方法によれば、構造的強度及び導電性に優れた多孔質膜を成膜することができる。
【0018】
本実施形態の成膜方法において、被処理基材に吹き付ける前記無機粒子として、平均粒子径が互いに異なる、小径粒子と大径粒子とを併用することが好ましい。例えば、小径粒子及び大径粒子からなる混合粒子を被処理基材に吹き付けることによって、被処理基材の表面に積もった小径粒子の上に大径粒子が衝突し、この小径粒子を被処理基材の表面及び/又は隣接する別の小径粒子に確実に接合させることができる。これにより、一層容易に多孔質膜を成膜することができる。さらに、比較的低速で粒子の吹き付けを行った場合でも多孔質膜を成膜することできる。小径粒子と大径粒子の粒子径の関係については、前述した特許文献1に開示された発明を参照すればよい。
【0019】
前記無機粒子の平均粒径を求める方法としては、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置の測定により得られた体積平均径の分布のピーク値として決定する方法やSEM観察によって複数の無機粒子の長径を測定して平均する方法が挙げられる。平均を算出する際の測定数は多いほど好ましいが、例えば30〜100個の無機粒子の長径を測定して平均値を算出する方法が挙げられる。前記無機粒子の1次粒子径は前記SEM観察によって測定することが好ましい。
【0020】
前記酸化性ガスとしては、無機粒子の表面に付着している有機物又はその他の不純物を除去可能な酸化力を有するガスであれば特に制限されず、例えば、オゾンガス、NOxガス、SOxガス等が挙げられる。NOxガスの具体例としては、例えば一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、五酸化二窒素等が挙げられる。前記酸化性ガスは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記被処理基材としては、無機粒子からなる多孔質膜を成膜可能な基材であれば特に制限されず、例えば、ガラス基板、金属製基板、樹脂製基板、樹脂製フィルム、樹脂製シート等が挙げられる。被処理基材上に成膜された多孔質膜は、通常、光電極の用途に適した充分な構造的強度及び導電性を有するため、別途焼成処理を施さなくてもよいが、目的に応じて焼成処理を施してもよい。焼成処理を施さない場合、被処理基材として、耐熱性の低い樹脂製基材を使用することができる。
【0022】
前記被処理基材の厚みは特に制限されないが、吹き付けられた無機粒子が貫通しない程度の厚みを有することが好ましい。
なお、被処理基材を構成する材料(化学成分)及び厚みは、使用する酸化性ガスによって著しく腐食されることがないように適宜選択することが好ましい。
【0023】
前記エアロゾルを発生する方法としては、前記無機粒子からなる粉体を前記酸化性ガス中に分散させて発生してもよいし、予め前記無機粒子を別のキャリアガス中に分散させた第一エアロゾルを発生し、この第一エアロゾルと酸化性ガスとを混合して吹き付け用の第二エアロゾルを発生してもよい。
【0024】
前記エアロゾル(吹き付け用の第二エアロゾル)1リットル中の無機粒子の重量としては、0.002〜0.2g/Lが好ましく、0.005〜0.05g/Lがより好ましく、0.005〜0.025g/Lがさらに好ましい。
上記0.002〜0.2g/Lの範囲であると、前記エアロゾル中に無機粒子を均一に分散させ、前記エアロゾル中の酸化性ガスを無機粒子に効率よく作用させることができる。なお、前記エアロゾル中の酸化性ガスの濃度は、高濃度であるほど前記作用が高まることを考慮して、適宜設定することができる。
【0025】
また、第一エアロゾルを発生する場合、無機粒子と別のキャリアガスの混合比は特に制限されず、適宜設定することができる。
【0026】
前記別のキャリアガスとしては、例えば、O
2、N
2、Ar、He又は空気などの一般的なガスを用いることができる。有機物やその他の不純物が混入していないキャリアガスを用いることが好ましい。キャリアガスは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
<AD法による成膜>
以下、
図1を参照して、本発明の実施形態の一例を説明する。尚、以下の説明で用いる図面は模式的なものであり、長さ、幅、及び厚みの比率等は実際のものと同一とは限らず、適宜変更できる。
【0028】
図1は、第一実施形態の成膜方法に適用可能な成膜装置10(第二実施形態)の概略構成図である。但し、第一実施形態の成膜方法に適用可能な成膜装置は、
図1に示す構成に限定されない。
【0029】
《成膜装置》
第二実施形態の成膜装置10は、キャリアガス中に分散された無機粒子と酸化性ガスとを混合し、エアロゾル(第二エアロゾル)を発生する混合部と、前記エアロゾルをノズルへ向けて搬送する搬送部と、前記エアロゾルを吹き出すノズルと、が備えられている。
【0030】
前記混合部は、キャリアガスが充填された第一ガスボンベ55、第一エアロゾル発生器58、酸化性ガス発生装置11、及び、酸化性ガスと第一エアロゾルを混合して第二エアロゾルを発生する混合器14を備えている。なお、
図1に示す装置の変形例として、酸化性ガス発生装置11に代えて、酸化性ガスが充填された第二ガスボンベ及びマスフロー制御器を備えた構成も挙げられる。
【0031】
前記搬送部は、混合器14とノズル52を接続する第三搬送管15を備えている。
【0032】
ノズル52は、第三搬送管15を介して搬送された、無機粒子及び酸化性ガスを含む第二エアロゾルを、成膜室51内において基台63に載置された被処理基材の成膜面71に吹き付け可能なように、被処理基材53に対向して配置されている。
【0034】
第一ガスボンベ55には、無機粒子54を分散して第一エアロゾルを発生するとともに、第一エアロゾル及び酸化性ガスを含む第二エアロゾルを加速させて被処理基材53に吹き付けるためのキャリアガス(以下、搬送ガスという。)が充填されている。
第一ガスボンベ55には、第一搬送管56の第一端部が接続されている。第一ガスボンベ55から供給される搬送ガスは、第一搬送管56に供給される。
【0035】
第一搬送管56には、前段側から順に、マスフロー制御器57と、第一エアロゾル発生器58と、搬送ガス中の無機粒子54の分散具合を適度に調整可能な解砕器59及び分級器61とが設けられている。解砕器59により、無機粒子54同士が湿気等で付着した状態を解くことができる。また、仮に、解砕器59を通過した無機粒子の凝集塊があったとしても、その凝集塊は分級器61で除くことができる。
【0036】
マスフロー制御器57により、第一ガスボンベ55から第一搬送管56に供給される搬送ガスの流量を調整することができる。第一エアロゾル発生器58には、無機粒子54が装填されている。無機粒子54はマスフロー制御器57から供給された搬送ガス中に分散されて、解砕器59及び分級器61へ搬送される。第一搬送管56の第二端部は、混合器14に接続されている。分級器61を経た無機粒子54を含む第一エアロゾルは混合器14へ搬送される。
【0037】
酸化性ガス発生装置11は、第一エアロゾルと混合して第二エアロゾルを発生するとともに、第二エアロゾルを加速させて被処理基材53に吹き付けるための酸化性ガスを発生する装置である。このような装置として、例えば、公知のオゾン発生装置を挙げることができる。酸化性ガス発生装置11から供給される酸化性ガスは、第二搬送管12を介して混合器14に供給される。
【0038】
混合器14は第一エアロゾルと酸化性ガスとを混合する容器(空間)を備えていることが好ましい。このような混合器14として、例えば、公知のガス混合器を用いてもよいし、第一エアロゾルと酸化性ガスとが合流するための空間を提供する単純な接続管を用いてもよい。混合器14で形成された第二エアロゾルの流量、流速等を調整する方法は特に制限されず、第一ガスボンベの圧力を利用してもよいし、酸化性ガス発生装置による酸化性ガスの供給圧力を利用してもよいし、前記ガス混合器によって第二エアロゾルを加速してもよい。また、各エアロゾルの流量、流速を制御するために、必要に応じて、搬送管の適当な位置にマスフロー制御器やポンプ等を設置してもよい。
【0039】
混合器14以降の経路において、酸化性ガスは無機粒子と接触することにより、無機粒子の表面に付着した有機物や不純物を除去し、無機粒子の表面を活性化する。通常、酸化チタン等からなる無機粒子の表面に存在するOH基は不純物等によって不活性化されているが、この不純物等を酸化性ガスで分解及び除去することができるため、無機粒子の表面に活性なOH基が現れ、反応性(無機粒子間の接合性)が向上する。
【0040】
一般に、表面に活性なOH基が現れた無機粒子同士は凝集し易い性質を帯びる。このような粒子を粉体として取り扱うと、凝集塊が発生してしまう。吹き付け用の粉体中に凝集塊が混入していると均質な膜の形成が難しくなる問題がある。
【0041】
一方、本実施形態の成膜方法においては、表面に活性なOH基が現れた無機粒子はエアロゾル状態にあるため、凝集塊が形成される問題は殆ど生じないという利点がある。したがって、表面の反応性が高い無機粒子を吹き付け可能であるため、高い構造的強度を有する均質な多孔質膜を成膜することができる。さらに、多孔質膜を構成する粒子間に有機物やその他の不純物が存在しないため、高い導電性を有する多孔質膜を成膜することができる。
【0042】
また、第一実施形態の成膜方法においては、無機粒子が搬送ガス中に分散された状態で酸化性ガスと接触するため、無機粒子のクリーニング処理が均一に行われるという利点がある。
【0043】
第一実施形態とは異なる方法として、粉体状態の無機粒子に酸化性ガスを導入した場合、粉体内部に埋もれている無機粒子は酸化性ガスと接触し難いため、クリーニング処理が不均一になるという不都合がある。また、第一実施形態とは異なる別の方法として、無機粒子をプラズマ処理する場合、キャリアガス中に分散させた無機粒子のガス流をプラズマ空間(高エネルギー空間)に通す方法が考えられる。しかし、プラズマ処理によって無機粒子を充分にクリーニングするためには、無機粒子を含むガス流の線速(流速)を遅くして、通過時間を稼ぐ必要がある。しかし、このような方法は実用的ではない。
【0044】
第二実施形態の成膜装置10において、混合器14で発生された第二エアロゾルは第三搬送管15に導入される。第三搬送管15中においても、無機粒子と酸化性ガスの接触は起こるので、無機粒子のクリーニング処理が継続される。第三搬送管15の長さを長くする程、又は第三搬送管15を流れる第二エアロゾルの流速を遅くする程、第三搬送管15中における無機粒子のクリーニング処理の時間を長くすることができる。すなわち、第三搬送管15の長短(長さ)を調整することにより、無機粒子のクリーニング処理時間の長短を簡便に調整することができる。
【0045】
第三搬送管15の材料は特に制限されないが、酸化性ガスによる腐食に対する耐性を有する材料が好ましい。このような材料は、使用する酸化性ガスの種類に応じて公知の材料を適用可能である。例えば、テフロン(登録商標)、ナイロンなどの樹脂が好適な材料として挙げられる。さらに、好適な例として、石英ガラス管からなる第三搬送管15の使用が挙げられる。石英ガラス管は酸化性ガスに対する耐食性を有するとともに、紫外線(UV)を透過する性質をもつ。この性質を利用して、第三搬送管15の外周に紫外線照射装置を配設し、第三搬送管15中の第二エアロゾルに対してUV照射することができる。この装置構成において、第二エアロゾルを構成する酸化性ガスがオゾンガスである場合、UV照射によってオゾンガスのクリーニング力(酸化性)を向上させることができる。また、第二エアロゾルを構成する無機粒子が酸化チタンである場合、UV照射によって、酸化チタンが有する光触媒効果を利用したセルフクリーニングを行うことができる。
【0046】
第二搬送管12の材料は特に制限されないが、酸化性ガスによる腐食に対する耐性を有する材料が好ましい。第二搬送管12の材料として、前述した第三搬送管15と同じ材料が例示できる。なお、金属は酸化性ガスによる腐食が生じる可能性があるため、使用する場合には注意を要する。例えば、金属管の内表面を樹脂でコーティングする対処方法が挙げられる。
【0047】
ノズル52は、図示略の開口部が基台63上の被処理基材53に対向するように配置されている。ノズル52には、第三搬送管15の第二端部が接続されている。無機粒子54、酸化性ガス及び搬送ガスを含む第二エアロゾルは、ノズル52の開口部から被処理基材53に向けて噴射される。
【0048】
基台63の上面72には、被処理基材53の一方の面73が当接するように、被処理基材53が載置されている。また、被処理基材53の他方の面71(成膜面)はノズル52の開口部に対向している。ノズル52から酸化性ガス及び搬送ガスと共に噴射される無機粒子54は成膜面71に衝突し、無機粒子54からなる多孔質膜が成膜される。
【0049】
第二実施形態の成膜装置10においては、無機粒子54と共に酸化性ガスが成膜面71に吹き付けられる。この酸化性ガスによって、成膜面71に付着している有機物や不純物を除去することができる。すなわち、吹き付け初期には被処理基材53の表面をクリーニングし、吹き付け後期には形成途中の多孔質膜の表面もクリーニングすることができる。この結果、無機粒子−被処理基材間の接合強度及び無機粒子同士の接合強度を高めて、構造的強度及び導電性に優れた多孔質膜を成膜することができる。
【0050】
成膜装置10の基台63を構成する部材は、無機粒子54の平均粒径、硬度、吹き付け速度に応じて、成膜面71上における、無機粒子54と被処理基材53の衝突エネルギー及び無機粒子54同士の衝突エネルギーが適度に制御される材質からなることが好ましい。このような部材であると、無機粒子54の成膜面71への密着性を高め、且つ、堆積する無機粒子54同士が容易に接合されるため、多孔度の高い多孔質膜を容易に成膜することができる。
【0051】
被処理基材53は、吹き付けられた無機粒子54が成膜面71に食い込み、貫通せずに無機粒子54と密着可能な材質からなることが好ましい。このような被処理基材53として、例えば樹脂製フィルム(樹脂製シート)が挙げられる。AD法によれば常温で成膜可能であるため、被処理基材53に高度な耐熱性は要求されない。より具体的な被処理基材53の選択は、無機粒子54の材料、吹き付け速度等の成膜条件、多孔質膜の用途に応じて適宜行えばよい。
【0052】
成膜室51には真空ポンプ62が接続されており、必要に応じて成膜室51内が減圧される。また、成膜室51には図示略の基台交換手段が備えられている。
【0053】
<吹き付け方法>
以下、無機粒子54の吹き付け方法の一例を説明する。
まず、真空ポンプ62を稼動させて成膜室51内を減圧する。成膜室51内の圧力は特に制限されないが、5〜1000Paに設定することが好ましい。この程度に減圧することにより、成膜室51内の対流を抑制し、無機粒子54を成膜面71の所定の箇所に吹き付けることが容易になる。
【0054】
次に、搬送ガスを第一ガスボンベ55から第一搬送管56へ供給し、搬送ガスの流速及び流量をマスフロー制御器57により調整する。搬送ガスとしては、例えば、O
2、N
2、Ar、He又は空気などの一般的なガスを用いることができる。
搬送ガスの流速及び流量は、混合器14への第一エアロゾルの供給量、並びに、ノズル52から吹き付ける無機粒子54の材料、平均粒径、流速及び流量に応じて、酸化性ガス発生装置11から混合器14に供給される酸化性ガスの流速及び流量と連動しつつ、適宜設定すればよい。
【0055】
無機粒子54を第一エアロゾル発生器58に装填し、第一搬送管56内を流れる搬送ガス中に無機粒子54を分散させて、加速する。さらに、第二搬送管12を介して酸化性ガス発生装置11から酸化性ガスを混合器14に供給する。混合器14において、第一エアロゾルと酸化性ガスが混合された第二エアロゾルが発生されるとともに、混合器14に供給される搬送ガス及び/又は酸化性ガスの供給圧力によって第二エアロゾルが加速される。加速された第二エアロゾルは、所定の配管長に調整された第三搬送管15を経て、ノズル52から被処理基材53へ向けて噴射される。
【0056】
ノズル52の開口部から、亜音速〜超音速の速度で無機粒子54を噴射させて、被処理基材53の成膜面71に堆積させる。この際、無機粒子54の成膜面71への吹き付け速度は、例えば、10〜1000m/sに設定することができる。しかし、この吹き付け速度は特に限定されず、被処理基材53の材質に応じて適宜設定すればよい。
【0057】
無機粒子54の吹き付けを継続することにより、被処理基材53の成膜面71に接合した無機粒子54に対して、次々に無機粒子54が衝突し、無機粒子54同士の衝突によってそれぞれの無機粒子54の表面に新生面が形成され、この新生面において無機粒子54同士が接合される。無機粒子54同士の衝突時には無機粒子54全体が溶融するような温度上昇は生じないため、新生面においてガラス質からなる粒界層は殆ど形成されない。
【0058】
無機粒子54からなる多孔質膜が所定の膜厚(例えば1μm〜100μm)になった時点で、無機粒子54の吹き付けを停止する。
以上の工程により、被処理基材53の成膜面71の上に無機粒子54からなる所定の膜厚の多孔質膜が成膜される。
【0059】
第一実施形態の成膜方法及び第二実施形態の成膜装置によれば、酸化性ガスによる無機粒子及び成膜面のクリーニング処理と無機粒子の吹き付けとを同時並行的に行うことができるので、無機粒子のクリーニング処理のために、時間と手間を要する別の大掛かりな工程を設ける必要がない。このため、構造的強度及び導電性に優れる多孔質膜を簡便且つ効率的に製造することができる。
【0060】
なお、以上ではAD法による製膜方法を例示したが、本発明の製膜方法はAD法に限定されない。従来公知の粉体吹き付け法である、スプレー法、コールドスプレー法、静電スプレー法等を用いて、酸化性ガスと共に無機粒子を被処理基材に吹き付けることにより、多孔質膜を製膜してもよい。
【0061】
《多孔質膜》
第一実施形態の成膜方法により成膜された多孔質膜は、前述した理由から、構造的強度及び導電性(電子伝導性)に優れる。このような多孔質膜を半導体からなる無機粒子で構成し、色素増感太陽電池の光電極として用いることにより、優れた光電変換効率を有する色素増感太陽電池が得られる。
なお、第一実施形態の成膜方法によって形成された多孔質膜の用途は、光電極に限られない。
【0062】
《光電極》
本発明の第三実施形態の光電極は、第一実施形態の成膜方法によって成膜した多孔質膜に増感色素を吸着させた光電極である。増感色素の種類は特に制限されず、従来公知の色素が適用できる。すなわち、第一実施形態の成膜方法の工程に、多孔質膜に増感色素を吸着させる工程を加えることにより、第三実施形態の光電極を製造方法することができる。
【0063】
多孔質膜に増感色素を吸着させる方法としては、形成した多孔質膜を増感色素溶液に浸漬させる方法が好ましい。一方、吹き付け前の無機粒子に増感色素を予め吸着させる方法では、吹き付け時における酸化性ガスとの接触によって増感色素が分解されてしまうため、好ましくない。
【0064】
第三実施形態の光電極は、第一実施形態の成膜方法によって成膜された多孔質膜を用いること以外は、常法により製造することができる。例えば、透明基材上に成膜した多孔質膜に対して、前記増感色素を吸着させる工程によって増感色素を吸着させ、必要に応じて引き出し配線を多孔質膜に電気的に接続することにより、第三実施形態の光電極を作製することができる。
【0065】
第三実施形態の光電極において、多孔質膜が形成される基材は特に制限されず、例えば透明導電膜が表面に形成された樹脂フィルム若しくは樹脂シートを用いることができる。前記樹脂としては、可視光の透過性を有するものが好ましく、例えばポリアクリル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド等が挙げられる。これらのなかでは、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)が、透明フィルムとして大量に生産および使用されていて入手が容易なため好ましい。このような樹脂製の基板を用いることにより、薄くて軽いフレキシブルな色素増感太陽電池を製造することができる。
【0066】
第三実施形態の光電極における前記増感色素は特に限定されず、公知の色素増感太陽電池に使用されている増感色素を用いることができる。前記増感色素としては、例えば、シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)(一般にN3と呼ばれる。)、N3のビス−TBA塩(一般にN719と呼ばれる。)、トリ(チオシアナト)−(4,4’,4”−トリカルボキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン)ルテニウムのトリス−テトラブチルアンモニウム塩(一般にブラックダイと呼ばれる)などのルテニウム錯体が挙げられる。また、前記増感色素として、クマリン系、ポリエン系、シアニン系、ヘミシアニン系、チオフェン系、インドリン系、キサンテン系、カルバゾール系、ペリレン系、ポルフィリン系、フタロシアニン系、メロシアニン系、カテコール系及びスクアリリウム系の各種有機色素も例示できる。
【0067】
《色素増感太陽電池》
本発明の第四実施形態の色素増感太陽電池は、第三実施形態の光電極と、対向電極と、電解液若しくは電解質層とを備えている。電解液は、光電極と対向電極の間において封止材によって封止されていることが好ましい。
【0068】
前記電解液は、従来公知の色素増感太陽電池で使用されている電解液を適用できる。電解液には、酸化還元対(電解質)が溶解されている。電解液には、フィラーや増粘剤などの他の添加剤が含まれていてもよい。
【0069】
また、電解液に代えて電解質層(固体電解質層)を適用してもよい。前記電解質層は、電解液と同様の機能を有し、ゲル状又は固体状の何れかの状態である。前記電解質層としては、例えば電解液にゲル化剤又は増粘剤を加え、必要に応じて溶媒を除去することにより、電解液をゲル化又は固体化して得たものが適用できる。ゲル状又は固体状の電解質層を用いることにより、色素増感太陽電池から電解液が漏出する虞がなくなる。
【0070】
前記封止材としては、電解液を電池セル内部に保持できる部材であることが好ましい。このような封止材としては、例えば、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の合成樹脂が適用可能である。
【0071】
第四実施形態の色素増感太陽電池は、第三実施形態の光電極を用いること以外は、常法により製造することができる。例えば、前記光電極と前記対向電極の間に前記電解液若しくは電解質を配置して封止し、必要に応じて引き出し配線を光電極及び/又は対向電極に電気的に接続することにより、第四実施形態の色素増感太陽電池を作製することができる。
【実施例】
【0072】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
まず、1次粒子の平均粒子径が15nmのTiO
2粒子(前記小径粒子)および1次粒子の平均粒子径が2μmのTiO
2粒子(前記大径粒子)を10:90の重量比で混合した混合粒子を予め準備した。
次に、搬送ガスとしての窒素ガスに前記混合粒子を分散させたエアロゾル(前記第一エアロゾル)を発生し、この第一エアロゾルに、オゾナイザ(オゾン発生器)を用いて、酸素ガスの約10%がオゾンとなった酸素とオゾンの混合ガスを混合することにより、第二エアロゾルを得た。第二エアロゾル中に分散された前記混合粒子の濃度は、0.002〜0.2g/Lの範囲になるように調整した。また、第二エアロゾル中の酸化性ガスであるオゾンの濃度は、5〜8体積%となるように調整した。
上記で得られた第二エアロゾルを所定の吹き付け速度で被処理基材に吹き付けるAD法によって、TiO
2からなる多孔質膜(厚み約10μm)を成膜した。被処理基材として、ITO膜を表面に備えたPEN基板を用いた。このITO膜からなる成膜面に対して、従来方法においてはアルコール等によって表面を洗浄することが行われる。しかし、本実施例においては、このような表面洗浄処理は行わず、上記AD法で吹き付ける第二エアロゾル中の酸化性ガス(オゾン)によって成膜面を清浄化した。
【0074】
[実施例2]
被処理基材である前記ITO−PEN基板の成膜面を清浄化する前処理をAD法の前に予め行った。具体的には、UV光を成膜面に照射することによって、雰囲気中の酸素をオゾンに変換するとともに、成膜面に付着した有機物のC−C結合を切断し、発生したオゾンによって前記有機物をCO
2に分解して、成膜面から前記有機物質を除去する前処理を行った。この前処理以外は、実施例1と同様にAD法を実施し、TiO
2からなる多孔質膜(厚み約10μm)を成膜した。
【0075】
[比較例1]
搬送ガスとしての窒素ガスに、実施例1と同じ混合粒子を分散させたエアロゾルを発生し、所定の吹き付け速度で被処理基材に吹き付けるAD法によって、TiO
2からなる多孔質膜(厚み約10μm)を成膜した。
前記エアロゾル中に分散された前記混合粒子の濃度は、0.002〜0.2g/Lの範囲になるように調整した。また、被処理基材として、実施例1と同様に、ITO膜を表面に備えたPEN基板を用いた。この際、成膜前に予め成膜面を洗浄する前処理は行わなかった。
【0076】
[比較例2]
被処理基材である前記ITO−PEN基板の成膜面に対して、実施例2と同様の前処理を行った。この前処理以外は、比較例1と同様にAD法を実施し、TiO
2からなる多孔質膜(厚み約10μm)を成膜した。
【0077】
<色素増感太陽電池の作製と性能評価>
実施例1〜2および比較例1〜2で作成したTiO
2からなる多孔質膜を光電極として備えた色素増感太陽電池を以下のように作製した。
増感色素(N719、ソラロニクス社製)が0.3mM濃度で溶解されたアセトニトリルを溶媒とする増感色素溶液に、前記多孔質膜が成膜された前記基板を室温で24時間浸漬した。
次に、前記増感色素を担持した多孔質膜を備えた光電極をアルコールで軽く洗浄した後、前記多孔質膜の周りを囲うようにポリイミド製スペーサー(厚み30μm)を配し、この中に電解液(Iodolyte50、ソラロニクス社製)を注いだ。続いて、空気が入らないように、白金コーティング付きガラスからなる対極を被せて、ダブルクリップで光電極と対極とを挟んで圧着し、色素増感太陽電池の簡易セルを得た。電極の有効面積は4mm角であった。
I‐V特性測定装置を備えたソーラーシミュレーター(AM1.5、100mW/cm
2)を用いて、作製した各簡易セルの短絡電流Isc(mA)、解放電圧Voc(V)、曲線因子FF、及び光電変換効率η(%)を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1と比較例1の対比から、被処理基材に吹き付けるエアロゾル中に酸化性ガスを含有させることにより、色素増感太陽電池の用途に適した多孔質膜が得られることが理解される。実施例1の多孔質膜を用いた色素増感太陽電池の光電変換効率が優れている理由の一つとして、酸化性ガスによってTiO
2粒子の表面を吹き付け中に清浄化できたことが考えられる。すなわち、TiO
2粒子表面の不純物が除去されて、不純物が粒子間に入らないために粒子同士の接合が良くなり、粒子間での電子の授受が向上した結果、短絡電流及び光電変換効率が向上したと考えられる。
【0080】
実施例1と実施例2の対比および比較例1と比較例2の対比から、成膜面を予め酸化性ガス及びUV照射によって清浄化することによって、光電変換効率をより向上させられることが明らかである。なお、UV照射は、比較的高エネルギーの光であるため、成膜面に付着している汚染物質を分解除去する効果を有していると考えられる。
【0081】
また、比較例1と比較例2の光電変化効率の差は約0.4%であるところ、実施例1と実施例2の光電変換効率の差は0.1%未満である。このことから、被処理基材に吹き付けるエアロゾル中に酸化性ガスを含有させることにより、従来必要であった成膜面を予め清浄化する前処理を省くことが可能であるといえる。即ち、本発明によれば、上記前処理を省いた場合の光電変換効率の損失を格段に少なくすることができる。言い換えると、本発明によれば前処理を省くことができるので、優れた多孔質膜を従来の成膜方法よりも効率よく製造することができる。
【0082】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。