(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カプセル粒子群(A)は、スプレークーリング法により、前記粒子(a1)が前記腸溶性マトリックス(a2)に内包されたものである、請求項1に記載の経口製剤。
前記カプセル粒子群(A)に対する前記腸溶性マトリックス(a2)の配合割合((a2)/(A))が、50質量%以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口製剤。
前記粒子(a1)が前記腸溶性マトリックス(a2)に分散された分散体を造粒して、前記カプセル粒子群(A)を得る造粒工程(α)と、前記カプセル粒子群(A)を、前記水溶液(B)に分散させる分散工程(β)とを有する、請求項1に記載の経口製剤の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<経口製剤>
本発明の経口製剤は、カプセル粒子群(A)が水溶液(B)に分散されたものである。なお、該経口製剤は、カプセル粒子群(A)と共に水不溶性成分(C)が水溶液(B)中に分散されていてもよい。
経口製剤の形状としては、カプセル粒子群(A)が水溶液(B)中に分散していれば特に限定されず、例えば、液状の他、ゾル状、ゲル状等が挙げられる。
以下、カプセル粒子群(A)、水溶液(B)及び水不溶性成分(C)について詳述する。
【0009】
[カプセル粒子群(A)]
カプセル粒子群(A)は、粒子(a1)が腸溶性マトリックス(a2)に内包されている。なお、カプセル粒子群(A)は、粒子(a1)及び腸溶性マトリックス(a2)以外に、任意成分(a3)が含まれていてもよい。
【0010】
カプセル粒子群(A)の体積中位径は、100〜1000μmである。該体積中位径は、100〜900μmが好ましく、100〜500μmがより好ましい。
カプセル粒子群(A)の体積中位径が前記下限値以上であれば、水溶性薬効成分の溶出がより長期に抑えられ、また、経口製剤の不快臭、不快味も抑えられる。一方、前記上限値以下であれば、水溶性薬効成分の溶出がより長期に抑えられ、また、経口製剤の不快臭、不快味も抑えられる他、経口製剤の服用性がより良好になる。
なお、本明細書において体積中位径とは、体積基準で求めた粒度分布の全体積を100%とした累積体積分布曲線において50%となる点の粒子径、すなわち体積基準累積50%径(D50)を意味する。また、粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LS13320型、ベックマン・コールター(株)製)により測定される。
【0011】
カプセル粒子群は、水溶性薬効成分の溶出をより長期に抑え、また、水溶性薬効成分の不快臭、不快味も抑える点から、スプレークーリング法及び滴下法のうちいずれかのカプセル粒子群の製造方法で造粒されたものが好ましく、スプレークーリング法が最も好ましい。
【0012】
経口製剤中のカプセル粒子群(A)の濃度は、0.1〜10質量%が好ましい。前記下限値以上であれば、外観的に分散均一性が保たれる。一方、前記上限値以下であれば、経口製剤の服用性がより良好になる。
【0013】
(粒子(a1))
粒子(a1)は、水溶性薬効成分からなる粒子の集合体である。
なお、本明細書において「水溶性」とは、25℃の水100mLに、対象が0.1g以上溶解することを意味する。
水溶性薬効成分は、水溶性の薬効成分であれば特に限定されないが、本発明による作用効果をより享受できる点から、不快臭、不快味を有するものや水溶液中で安定性が低いものが好ましい。
薬効成分としては、医薬成分及び機能性成分等が挙げられる。
医薬成分としては、通常の医薬の他、生薬等が挙げられる。
機能性成分としては、例えば、グルクロノラクトン、ビタミンB1、ビタミンB2及びアスコルビン酸等のビタミン、システイン、メチオニン、アルギニン、アラニン及びアスパラギン酸等のアミノ酸、ラクトフェリン、コラーゲン及び酵素等のタンパク質、ショウキョウ等の生薬、ラクトミン、ビフィズス菌及び乳酸菌等の生菌等が挙げられる。中でも、アミノ酸が好ましく、含硫アミノ酸がより好ましい。含硫アミノ酸としては、システイン、メチオニン、シスチン、シスタチオニン、タウリン等が挙げられる。
カプセル粒子群(A)において、水溶性薬効成分は1種のみ含んでいてもよく、2種以上を組合せて含んでいてもよい。
【0014】
粒子(a1)の体積中位径は、0.1〜20μmであることが好ましく、0.1〜10μmがより好ましく、0.1〜5μmが最も好ましい。粒子(a1)の体積中位径が前記上限値以下であれば、水溶性薬効成分の溶出がより長期に抑えられ、また、経口製剤の不快臭、不快味も抑えられる。一方、0.1μm以上であれば、粉砕時の取り扱いが容易である。
【0015】
(腸溶性マトリックス(a2))
本明細書における腸溶性マトリックス(a2)とは、腸溶性成分からなるマトリックスである。腸溶性成分とは、水溶性薬効成分以外の成分で、胃で溶解せず且つ腸で溶解する成分である。腸溶性成分としては、例えば、常温(15〜25℃)で固体であり水に不溶性且つ腸の消化液に含まれる酵素により分解され溶解する成分や、常温で固体でありpHが酸性条件で水に不溶性且つ中性条件で溶解する成分等が挙げられる。なお、本明細書において「水に不溶性」とは、25℃の水100mLに対象を溶解し飽和させた場合において、該対象の溶解量が0.1g未満であることを意味する。
腸溶性マトリックス(a2)の種類は、特に限定されず、例えば、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル、植物油やその水添脂、動物脂やその水添脂、脂肪酸、高級アルコール類等の油脂や、耐酸性高分子、疎水性高分子、食品用樹脂等が挙げられる。
具体的には、植物油やその水添脂としてはパーム油(融点:34〜40℃)、硬化パーム油、硬化菜種油、硬化ヒマシ油、カルナウバロウ、動物脂やその水添脂としては牛脂油(融点:40〜56℃)、硬化豚脂油(融点:55〜60℃)、硬化牛脂油(融点:50〜60℃)、脂肪酸としてはパルミチン酸(融点:63℃)、ステアリン酸(融点:70℃)、高級アルコール類としてはステアリルアルコール(融点:60℃)が挙げられる。また、耐酸性高分子としては、オイドラギットL等のアクリル酸系ポリマー、疎水性高分子としてはエチルセルロース、ツエイン、食品用樹脂としてはシェラックが挙げられる。
中でも、水溶性薬効成分の溶出をより長期に抑え、また、水溶性薬効成分の不快臭、不快味も抑える点から、保存温度によりカプセル粒子群が融解しない腸溶性マトリックスが好ましい。該腸溶性マトリックスの中でも、同様の点から、油脂が好ましく、融点が50℃以上の油脂がより好ましい。さらに、融点が50℃以上の油脂の中でも、同様の点から、植物油やその水添脂、高級アルコール類が好ましく、硬化パーム油、硬化菜種油、硬化ヒマシ油、カルナウバロウ、ステアリルアルコールがより好ましく、硬化パーム油が最も好ましい。
腸溶性マトリックス(a2)は、2種以上の混合物としてもよい。
【0016】
カプセル粒子群(A)に対する腸溶性マトリックス(a2)の配合割合((a2)/(A))は、50質量%以上が好ましく、50〜99質量%であることがより好ましく、60〜95質量%であることがさらに好ましく、70〜90質量%であることが最も好ましい。
(a2)/(A)が前記下限値以上であれば、水溶性薬効成分の溶出がより長期に抑えられ、また、経口製剤の不快臭、不快味も抑えられる。一方、前記上限値以下であれば、カプセル粒子群(A)中の粒子(a1)の配合割合を高められることから、経口製剤中のカプセル粒子群(A)の濃度を低くできるため、経口製剤の服用性がより良好になる。
【0017】
(任意成分(a3))
カプセル粒子群(A)は、粒子(a1)及び腸溶性マトリックス(a2)以外に、任意成分(a3)が含まれていてもよい。
任意成分(a3)としては、例えば、粒子(a1)中の水溶性薬効成分以外の薬効成分、添加剤等が挙げられる。
粒子(a1)中の水溶性薬効成分以外の薬効成分としては、常温で液状又はゲル状であるが、融解した腸溶性マトリックス(a2)と混合し常温にすると固形状になる薬効成分が挙げられる。具体的には、ローヤルゼリー、はちみつ等が挙げられる。
添加剤としては、各種甘味剤(白糖、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース等)、保存剤(安息香酸等)、安定化剤(エデト酸ナトリウム、水溶性高分子等)、酸化防止剤、着香剤・香料、清涼化剤、着色剤、pH調整剤、及び緩衝剤等が挙げられる。
これら任意成分(a3)の含有割合は、本発明の効果を妨げない範囲で適宜設定することができる。
【0018】
[水溶液(B)]
水溶液(B)は、無機塩、ポリオール及び有機酸から選択される少なくとも1種の成分(b1)の濃度が0.8〜5.0mol/Lである水溶液である。また、該水溶液(B)は、成分(b1)以外の水溶性成分(b2)が含まれていてもよい。
【0019】
(成分(b1))
成分(b1)は、無機塩、ポリオール及び有機酸から選択される少なくとも1種である。これらのうち、より低濃度で水溶性薬効成分の溶出がより長期に抑えられ、また、経口製剤の不快臭、不快味がより抑えられる点から、無機塩及びポリオールから選択される少なくとも1種の成分が好ましく、ポリオールがより好ましい。
無機塩としては、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。具体的には、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、臭化ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。中でも、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムが好ましい。
【0020】
ポリオールとしては、糖類及びグリコール類等が挙げられる。中でも、糖類が好ましい。
具体的な糖類としては、グルコース及び果糖等の単糖、トレハロース等の二糖、白糖、並びに、ソルビトール、グリセリン、マンニトール及びエリスリトール等の糖アルコール等が挙げられる。中でも、グルコース、トレハロース、白糖、ソルビトール、グリセリン、エリスリトールが好ましい。グルコール類としては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられる。中でも、エチレングリコール、プロピレングリコールが好ましい。
有機酸としては、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酪酸、酢酸等が挙げられる。中でも、乳酸、リンゴ酸、クエン酸が好ましい。
【0021】
水溶液(B)における成分(b1)の濃度は、0.8〜5.0mol/Lである。該濃度は、1.0〜5.0mol/Lが好ましく、1.8〜5.0mol/Lがより好ましく、2.2〜5.0mol/Lがさらに好ましく、3.2〜5.0mol/Lが特に好ましく、3.8〜5.0mol/Lが最も好ましい。
成分(b1)の濃度が前記下限値以上であれば、水溶性薬効成分の溶出がより長期に抑えられ、また、経口製剤の不快臭、不快味も抑えられる。一方、前記上限値以下であれば、成分(b1)及び他の成分の析出が抑えられ、また、成分(b1)が有する不快臭、不快味も抑えられる。
【0022】
(水溶性成分(b2))
水溶液(B)は、カプセル粒子群(A)からの水溶性薬効成分の溶出を抑制する効果を損なわない範囲で、成分(b1)以外の水溶性成分(b2)が含まれていてもよい。
水溶性成分(b2)は、水に溶解するものであれば、常温で、固体でもよく、液体でもよい。水溶性成分(b2)の種類としては、例えば、公知の水溶性の薬効成分及び添加剤等が挙げられる。
水溶性の薬効成分の種類は、特に限定されないが、本発明による作用効果を享受する点から、上記の粒子(a1)で用いる水溶性薬効成分とは異なる水溶性の薬効成分であることが好ましく、さらに不快臭、不快味を有しないものがより好ましい。
水溶性の添加剤の種類は、経口製剤に通常配合する水溶性の添加剤であり、上記の成分(b1)以外であれば特に限定されない。水溶性の添加剤としては、例えば、甘味剤(アスパルテーム、アセスルファムカリウム等)、保存剤(安息香酸等)、安定化剤(エデト酸ナトリウム、水溶性高分子等)、酸化防止剤、着香剤・香料、清涼化剤、着色剤、pH調整剤、及び緩衝剤等が挙げられる。
水溶性成分(b2)の含有割合は、成分(b1)の濃度に影響を与えず、本発明の効果を妨げない限りにおいて、水に溶解できる範囲で適宜設定することができる。
【0023】
[水不溶性成分(C)]
本発明の経口製剤は、カプセル粒子群(A)と共に水不溶性成分(C)が水溶液(B)中に分散されていてもよい。
水不溶性成分(C)としては、特に限定されず、例えば、公知の水不溶性の薬効成分及び添加剤等が挙げられる。
水不溶性成分(C)の含有割合は、本発明の効果を妨げない範囲で適宜設定することができる。なお、経口製剤において、水不溶性成分(C)は水溶液(B)に溶解せず存在している。そのため、水不溶性成分(C)の含有割合は、上述の水溶液(B)における成分(b1)の濃度に影響がない。
【0024】
<経口製剤の製造方法>
本発明の経口製剤の製造方法は、造粒工程(α)と分散工程(β)とを有する。なお、造粒工程(α)後、分散工程(β)前に、被覆工程(γ)を行ってもよい。
【0025】
[造粒工程(α)]
造粒工程(α)は、水溶性薬効成分からなる粒子(a1)が腸溶性マトリックス(a2)に分散された分散体を造粒して、体積中位径が100〜1000μmのカプセル粒子群(A)を得る工程である。
造粒方法は、公知の造粒方法であれば特に限定されないが、中でも、スプレークーリング法(α1)及び滴下法(α2)が好ましく、スプレークーリング法(α1)がより好ましい。
以下、スプレークーリング法(α1)及び滴下法(α2)による造粒について詳述する。
【0026】
(スプレークーリング法(α1)による造粒)
スプレークーリング法(α1)による造粒は、分散操作(α1−1)及び造粒操作(α1−2)を有する。
分散操作(α1−1):
分散操作(α1−1)は、粒子(a1)を腸溶性マトリックス(a2)に分散して分散液を得る操作である。
粒子(a1)は、市販されているものでもよいし、粒子(a1)を粉砕処理して得たものでもよい。
粉砕処理して得る場合の粉砕方法としては、ピンミル法、ジェットミル法、ビーズミル法等が挙げられる。中でも、処理速度と粉砕能力の点から、ピンミル法、ジェットミル法が好ましい。また、粉砕方式としては、カプセル粒子群(A)からの水溶性薬効成分の溶出の抑制をより良好にする点から、乾式が好ましい。
粉砕処理は、これらの粉砕方法のうち1種のみ行ってもよく、2種以上を組合せて行ってもよい。
【0027】
分散液は、融解した腸溶性マトリックス(a2)に粒子(a1)を加え、ホモミキサーやスターラー等を用いて撹拌することにより得られる。
腸溶性マトリックス(a2)の融解は、例えば、使用する腸溶性マトリックス(a2)の融点よりも10〜30℃高い温度まで加熱して行えばよい。腸溶性マトリックス(a2)の融解における加熱温度が前記下限値以上であれば、腸溶性マトリックス(a2)を充分に融解できる。一方、前記上限値以下であれば、腸溶性マトリックス(a2)の分解を防げる。また、加熱温度を100℃以上にしても溶融できない腸溶性マトリックス(a2)の場合(シェラック、ツエイン等)は、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトン、クロロホルム、ジエチルエーテル等の有機溶媒を加えることで、該腸溶性マトリックス(a2)を溶解し、分散液として使用できる。
【0028】
分散液中の水溶性薬効成分の量は、5〜40質量%が好ましい。分散液中の水溶性薬効成分の量が前記下限値以上であれば、水溶性薬効成分の配合量が少量になりすぎず、配合ぶれを抑えることができる。一方、前記上限値以下であれば、腸溶性マトリックス(a2)に分散した際に分散液の粘度が高くなりすぎないため、スプレークーリングで造粒しやすくなる。
【0029】
分散液中の腸溶性マトリックス(a2)の量は、50〜95質量%が好ましく、より好ましくは60〜95質量%である。分散液中の腸溶性マトリックス(a2)の量が前記下限値以上であれば、粒子(a1)を分散させた際、分散液の粘度が高くなりすぎず、スプレークーリングが行いやすくなる。一方、前記上限値以下であれば、水溶性薬効成分の配合量が少量になりすぎず、配合ぶれを抑えることができる。
必要に応じて、分散液に任意成分を配合させることができる。
【0030】
造粒操作(α1−2):
造粒操作(α1−2)は、分散操作(α1−1)で得られた分散液をスプレークーリング法(α1)で造粒してカプセル粒子群(A)を得る操作である。
スプレークーリング法とは、分散操作(α1−1)で得られた分散液を、噴霧しつつ、冷却凝固させることにより造粒する方法のことである。スプレークーリング法は、医薬品の製造において通常用いられる噴霧冷却機、例えば、OUDT−25型(大川原化工機社製)等を用いて行えばよい。
【0031】
スプレークーリング法(α1)においては、例えば、噴霧速度(噴霧液圧力)、冷却温度、噴霧方式等を調節することにより、カプセル粒子群の体積中位径、粒子の真球度等を制御することができる。
噴霧速度は、10〜500kg/時間が好ましい。噴霧速度が前記下限値以上であれば、カプセル粒子群の体積中位径を100μm以上にすることができる。一方、前記上限値以下であれば、カプセル粒子群の体積中位径を1000μm以下にすることができる。なお、噴霧速度は、噴霧液圧力を調節することにより制御できる。例えば、カプセル粒子群の体積中位径を大きくするには、噴霧速度を前記範囲内で大きくすればよい。
冷却温度は、5〜50℃が好ましく、より好ましくは10〜40℃である。冷却温度が前記下限値以上であれば、ノズルのつまりの発生を抑えることができる。一方、前記上限値以下であれば、硬化できなかった噴霧液が装置に付着することを防げる。
噴霧方式は、カプセル粒子群(A)からの水溶性薬効成分の溶出の抑制をより良好にする点から、加圧噴霧が好ましい。
【0032】
スプレークーリング法(α1)により得たカプセル粒子群は、その集合体の体積中位径が100〜1000μmの範囲にあれば、そのまま本発明のカプセル粒子群(A)とすることができる。
また、カプセル粒子群の体積中位径を所望の粒度分布にするために、医薬の製造で通常用いられる篩機を使用して、篩分してもよい。
【0033】
(滴下法(α2)による造粒)
滴下法としては、例えば、特開昭58−22062号公報、及び特開昭59−131355号公報に開示される、多重ノズルを用いる方法等が挙げられる。
滴下法においては、予め、カプセル皮膜調製液及びカプセル充填液を調製する。
二重ノズルを用いる場合、例えば、カプセル皮膜調製液を第1ノズルに、カプセル充填液を第2ノズルに供給する。そして、各ノズルの環状孔先端からこれらの液を同時に押出し、冷却液に滴下することにより、カプセル粒子群を得ることができる。ノズルから押出される各液の温度は、特に限定されず、好ましくは15〜70℃、より好ましくは20〜65℃である。
冷却液としては、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、植物油脂(ヤシ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、ゴマ油、ナタネ油、グレープ種子油、及びこれらの混合物等)、流動パラフィン及びこれらの混合物等が挙げられる(特開2013−71934を参照)。冷却液は、典型的には20℃以下であり、好ましくは1〜18℃である。
【0034】
[被覆工程(γ)]
被覆工程(γ)は、造粒工程(α)で得られたカプセル粒子群(A)を、油脂(a4)によって被覆する工程であり、任意で行われる。該被覆工程により、カプセル粒子群(A)中の個々の粒子が油脂(a4)により被覆された粒子の集合体(以下、「被覆粒子群」という。)が得られる。
油脂(a4)としては、腸溶性マトリックス(a2)で用いられる油脂と同様のものが挙げられる。また、油脂(a4)の種類は、上記の造粒工程(α)で用いた腸溶性マトリックス(a2)と同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
被覆方法は、公知の被覆方法でよく、特に限定されない。
【0035】
[分散工程(β)]
分散工程(β)は、水溶液(B)に、上述の造粒工程(α)で得られたカプセル粒子群(A)、又は任意の被覆工程(γ)で得られた被覆粒子群を分散させる工程である。また、該分散工程(β)においては、必要により、水不溶性成分(C)をさらに分散させてもよい。
水溶液(B)は、水に、成分(b1)及び必要に応じて水溶性成分(b2)を溶解して得られる。成分(b1)は、水溶液(B)中の濃度が0.8〜5.0mol/Lとなるように溶解される。該濃度は、1.0〜5.0mol/Lが好ましく、1.8〜5.0mol/Lがより好ましく、2.2〜5.0mol/Lがさらに好ましく、3.2〜5.0mol/Lが特に好ましく、3.8〜5.0mol/Lが最も好ましい。
なお、各成分の混合手順は適宜設定され、例えば、水に成分(b1)及び必要に応じて水溶性成分(b2)を溶解させてから、カプセル粒子群(A)及び必要に応じて水不溶性成分(C)を分散させてもよく、又は、水にカプセル粒子群(A)及び必要に応じて水不溶性成分(C)を分散させてから、成分(b1)及び必要に応じて水溶性成分(b2)を溶解させてもよい。
【0036】
以上、本発明によれば、粒子(a1)を所定の腸溶性マトリックス(a2)で内包したカプセルを、成分(b1)が所定の濃度で溶解する水溶液(B)に分散させているため、水溶性薬効成分が長期に渡って溶出しにくく、経口製剤の安定性が優れている。
また、水溶性薬効成分として不快臭、不快味を有するものを用いた場合には、該不快臭、不快味が長期に渡って抑えられるため、経口製剤は服用しやすい。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
<原料>
[成分(b1)]
塩化ナトリウム:渡辺ケミカル(株)製「塩化ナトリウム」
塩化マグネシウム:(株)ニューメタルスエンドケミカルスコーポレーション製「塩化マグネシウム」
グルコース:日本食品化工(株)製「日食メディカロース」
トレハロース: 林原(株)製「トレハ」
白糖:小堺製薬(株)製「白糖(粉末)」
ソルビトール:メルク(株)製「パーテックM」
グリセリン:メルク(株)製「グリセリン」
エリスリトール:カーギル(株)製「Zerose Erythritol STD GRAN」
プロピレングリコール: メルク(株)製「プロピレングリコール」
エチレングリコール: 和光純薬工業(株)製「エチレングリコール」
乳酸:(株)武蔵野化学研究所「ムサシノ乳酸90F」
リンゴ酸:磐田化学工業(株)製「DL-リンゴ酸」
【0039】
[腸溶性マトリックス(a2)]
硬化パーム油:理研ビタミン(株)製「スプレーファットPM」、融点:58℃
硬化菜種油:理研ビタミン(株)製「スプレーファットNR-100」
ステアリルアルコール:高級アルコール工業(株)製「ハイノール18SS」
カルナウバロウ:フロイント産業(株)製「ポリッシングワックス-105」
牛脂:ミヨシ油脂(株)製「ITD」
ツエイン:小林香料(株)製「小林ツエインDP-N」
シェラク:(株)岐阜セラツク製造所製「日本薬局方精製セラックPEARL-N811医薬用」
【0040】
[粒子(a1)の原料]
システイン:日本プロテイン(株)製「L−システイン 日本薬局方「製造専用」」
メチオニン:アルプス薬品工業(株)製「メチオニン」
グルクロノラクトン:Forever(株)製「グルクロノラクトン」
ビタミンB1:Dsm Nutritional Products(株)製「チアミン硝化物」
アスコルビン酸:扶桑化学工業(株)「日本薬局方アスコルビン酸」
ショウキョウ:松浦薬業(株)製「ショウキョウ」
ラクトフェリン:森永乳業(株)製「ラクトフェリン」
ビフィズス菌:森永乳業(株)製「ビフィズス菌」
【0041】
<実施例1>
[造粒工程(α)]
システインを、ピンミル粉砕機(パウレック(株)製)を用いて乾式粉砕し、体積中位径5μmの粒子群を得た。
硬化パーム油80質量部を80℃で融解し、ここに前記システインの粒子群20質量部を分散させて分散液を得た(分散操作(α1−1))。この分散液におけるシステイン粒子群と硬化パーム油との配合割合は、カプセル粒子群中の各成分の含有割合が、システイン20質量%、硬化パーム油80質量%となる割合である。
冷却噴霧機「OUDT−25型」(大川原化工機社製)を用いて、スプレークーリング法(噴霧液圧力0.15MPa)により、該分散液を造粒して、カプセル粒子群を得た(造粒操作(α1−2))。得られたカプセル粒子群は、体積中位径が350μmであった。
【0042】
[分散工程(β)]
2.8mol/Lのグルコース溶液に、上記で得られたカプセル粒子群を0.3質量%となるように分散して経口製剤を得た。
下記評価方法には、該経口製剤と、該経口製剤をドリンク瓶に100mLずつ分注して、該ドリンク瓶を密栓し、40℃で4ヶ月間保存した後の経口製剤を用いた。なお、該評価方法において、40℃で4ヶ月間の保存は、50℃で1ヶ月の保存で代用してもよい(表1の実施例1及び比較例1参照。比較例1については後述する。)。
【0043】
[評価方法]
(残存率)
残存率の評価は、40℃で4ヶ月間保存した後におけるカプセル粒子群中に残存するシステイン量を、保存前と比較することにより行った。
保存の前後において、カプセル粒子群中のシステインを定量した。定量手順としては、まず、定量分析用ろ紙「No.5C」(アドバンテック社製)を用いたろ過により、経口製剤からカプセル粒子群を分離・洗浄し、40℃で1時間乾燥させた。次いで、該カプセル粒子群にクロロホルムを加え、硬化パーム油を溶解させた。次いで、アスコルビン酸を5質量%含む水50mLを添加し、よく混合し、静置して、水相と油相に相分離させた。HPLC((株)島津製作所社製)を用いて、水相に分配したシステイン量を定量した。保存前のカプセル粒子群中のシステイン量を「X」、保存後のカプセル粒子群中のシステイン量を「Y」として、下式により残存率(%)を算出した。
残存率(%)=(Y/X)×100
なお、残存率は、値が高いほど、保存中にシステインが経口製剤に溶出した量が少ないことを意味する。また、残存率が50%以上であれば、長期保存しても水溶性薬効成分が溶出しにくい、安定性が良好な経口製剤と評価できる。
【0044】
(不快臭、不快味の抑制効果)
10名の被験者に、40℃で4ヶ月間保存した後の経口製剤の不快臭、不快味について、下記評価基準に従って評価させた。被験者10名の評価の平均値を求め、これを評価結果とした。なお、評価の平均値が3.0以上であれば、不快臭、不快味の抑制効果が良好と評価できる。
「評価基準」
5:不快臭、不快味は感じない。
4:不快臭、不快味はほとんど感じない。
3:不快臭、不快味をやや感じる。
2:不快臭、不快味を感じる。
1:不快臭、不快味を非常に感じる。
【0045】
<実施例2〜16及び比較例1>
実施例2〜16は、グルコースの代わりに、表1に示す量で成分(b1)を用いた以外は、実施例1と同様に経口製剤を製造し、評価を行った。
比較例1では、グルコースを加えない以外は、実施例1と同様に経口製剤を製造し、評価を行った。
実施例1〜16及び比較例1の製造条件と評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1の通り、水溶液(B)中に成分(b1)を含まない比較例1の経口製剤のシステイン残存率は25%、不快臭、不快味の抑制効果は1.0と低かった。
これに対し、水溶液(B)中に成分(b1)を含む実施例1〜16の経口製剤のシステイン残存率は70%以上、不快臭、不快味の抑制効果は3.2以上と高かった。
特に、成分(b1)として、糖類であるグルコース、トレハロース、白糖、ソルビトール、グリセリン、エリスリトールを用いた実施例1〜6の経口製剤のシステイン残存率は95%以上、不快臭、不快味の抑制効果は4.4以上と顕著に高かった。
【0048】
<実施例17〜21及び比較例2>
グルコースを表2に示す量で用いた以外は、実施例1と同様に経口製剤を製造し、評価を行った。
実施例17〜21及び比較例2の製造条件と評価結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2の通り、グルコースを0.3mol/Lで含む比較例2の経口製剤のシステイン残存率は48%、不快臭、不快味の抑制効果は2.8と低かった。
これに対し、グルコースを0.8mol/L以上含む実施例17〜21の経口製剤のシステイン残存率は78%以上、不快臭、不快味の抑制効果は3.2以上と高かった。
特に、グルコースを1.9mol/L以上含む実施例19〜21の経口製剤のシステイン残存率は91%以上、不快臭、不快味の抑制効果は4.6以上と顕著に高かった。
【0051】
<実施例22〜28>
硬化パーム油に代えて、表3に示す腸溶性マトリックス(a2)を用いた以外は、実施例1と同様に経口製剤を製造し、評価を行った。
実施例22〜28の製造条件と評価結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3の実施例22〜24に示す通り、腸溶性マトリックス(a2)として、硬化菜種油、ステアリルアルコール、カルナウバロウを用いても、経口製剤のシステイン残存率は83%以上、不快臭、不快味の抑制効果は4.1以上と高かった。
また、実施例25〜28に示す通り、腸溶性マトリックス(a2)として、牛脂、ツエイン、シェラックを用いても、経口製剤のシステイン残存率は64%以上、不快臭、不快味の抑制効果は3.2以上と、グルコース(b1)を含まない比較例1(表1参照)に比べ高かった。特に、グルコース(b1)の濃度を3.2mol/Lまで上げた実施例28の経口製剤のシステイン残存率は88%、不快臭、不快味の抑制効果は4.2であり、2.8mol/Lの実施例25よりもさらに高かった。
【0054】
<実施例29〜31及び比較例3,4>
カプセル粒子群(A)の体積中位径を表4に示すようにした以外は、実施例1と同様に経口製剤を製造し、評価を行った。
実施例29〜31及び比較例3,4の製造条件と評価結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4の通り、カプセル粒子群(A)の体積中位径が50μmの比較例3の経口製剤のシステイン残存率は43%、不快臭、不快味の抑制効果は2.5と低かった。
また、カプセル粒子群(A)の体積中位径が1100μmの比較例4の経口製剤のシステイン残存率も45%、不快臭、不快味の抑制効果は2.6と低かった。
これらに対して、カプセル粒子群(A)の体積中位径が150、450、850μmの実施例29〜31の経口製剤のシステイン残存率は85%以上、不快臭、不快味の抑制効果は4.1以上と高かった。特に、カプセル粒子群(A)の体積中位径が150、450μmの実施例29、30の経口製剤のシステイン残存率は91%以上、不快臭、不快味の抑制効果は4.7以上と顕著に高かった。
【0057】
<実施例32〜59及び比較例5〜11>
実施例32〜59は、システインに代えて、表5,6に示す水溶性薬効成分を用いた以外は、実施例1と同様に経口製剤を製造し、評価を行った。また、比較例5〜11は、システインに代えて、表5,6に示す水溶性薬効成分を用いた以外は、比較例1と同様に経口製剤を製造し、評価を行った。
実施例32〜47及び比較例5〜8の製造条件と評価結果を表5に示し、実施例48〜59及び比較例9〜11の製造条件と評価結果を表6に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
表5,6の通り、水溶液(B)中にグルコースを含まない比較例5〜11の経口製剤の薬効成分残存率は45%以下、不快臭、不快味の抑制効果は3.2以下であった。
これに対して、水溶液(B)中にグルコースを含む実施例32〜59の経口製剤の薬効成分残存率は81%以上、不快臭、不快味の抑制効果は4.0以上と高かった。特に、グルコース(b1)の濃度を2.2mol/L以上とした実施例32,33,36,37,40,41,44,45,48,49,52,53,56,57の経口製剤の薬効成分残存率は98%以上、不快臭、不快味の抑制効果は4.8以上と顕著に高かった。
【0061】
<実施例60,61及び比較例12>
実施例60,61は、カプセル粒子群の造粒方法をスプレークーリング法に代えて、滴下法で行った以外は、実施例1と同様に経口製剤を製造し、評価を行った。また、比較例12は、カプセル粒子群の造粒方法をスプレークーリング法に代えて、滴下法で行った以外は、比較例1と同様に経口製剤を製造し、評価を行った。
なお、滴下法は以下の手順により行った。
【0062】
[滴下法]
硬化パーム油240g及びシステイン60gをホモミキサーにて均一になるまで混合して、カプセル充填液を得た。
ゼラチン(ゼリー強度130ブルーム、ニッピ社製)35質量部、グリセリン15質量部及び精製水50質量部を均一になるまで混合した後、60℃で加熱溶解し、カプセル皮膜調製液を調製した。
二重ノズルのうち、第1ノズルにカプセル被膜調整液を、第2ノズルにカプセル充填液を供給した。両液を同時に押出し、冷却液に滴下して、2層構造のカプセル粒子群を形成した。冷却液には、中鎖脂肪酸トリグリセリド(日油(株)製)を用いた。
次いで、カプセル粒子群を60℃温水中で撹拌して、ゼラチン層を除去した後、通気乾燥(20〜30℃)させ、水分を除去した。
【0063】
実施例60,61及び比較例12の製造条件と評価結果を表7に示す。
【0064】
【表7】
【0065】
表7の通り、水溶液(B)中にグルコースを含まない比較例12の経口製剤のシステイン残存率は27%、不快臭、不快味の抑制効果は1.1と低かった。
これに対して、実施例60の経口製剤のシステイン残存率は60%、不快臭、不快味の抑制効果は3.2と高かった。
これは、スプレークーリング法(実施例1)ほどではないが、他のカプセル粒子群(A)の造粒方法でも、水溶液(B)に成分(b1)を溶解することで、システイン残存率及び不快臭、不快味の抑制効果がより優れたものになることを意味する。
また、グルコース(b1)の濃度を3.2mol/Lまで上げた実施例61の経口製剤のシステイン残存率は89%、不快臭、不快味の抑制効果は4.3と、グルコース(b1)の濃度が2.8mol/Lの実施例60よりもさらに高くなった。
【0066】
<実施例62〜64>
システインの粒子群の体積中位径を表8に示すようにした以外は、実施例1と同様に経口製剤を製造し、評価を行った。
実施例62〜64の製造条件と評価結果を表8に示す。
【0067】
【表8】
【0068】
実施例62〜64の結果、粒子(a1)の体積中位径が20μm以下であれば、経口製剤のシステイン残存率は78%以上、不快臭、不快味の抑制効果は3.7以上と高いことが分かった。また、体積中位径が小さいほど、システイン残存率及び不快臭、不快味の抑制効果がより優れていた。
【0069】
<実施例65〜67>
システインと硬化パーム油の配合割合を表8に示すようにした以外は、実施例1と同様に経口製剤を製造し、評価を行った。
実施例65〜67の製造条件と評価結果を表8に示す。
実施例65〜67の結果、(a2)/(A)が50質量%以上であれば、経口製剤のシステイン残存率は76%以上、不快臭、不快味の抑制効果は3.9以上と高いことが分かった。また、(a2)/(A)が高いほど、システイン残存率及び不快臭、不快味の抑制効果がより優れていた。
【0070】
<処方例1,2>
表9は、水溶液(B)に水溶性成分(b2)を加えた処方例1,2を示す。
処方例1,2では、水溶液(B)に、表9に示す量で成分(b1)を加え、さらに表9に示す量で成分(b2)を加えた以外は、実施例1と同様に経口製剤を製造した。
【0071】
【表9】