【文献】
Michael Sweeney et.al.,Advanced Manufacturing Technologies for Reduced Cost and Weight in Portable, Ruggedized, VIS-IR, Multi-mode Optical Systems, for Land, Sea, and Air,Proceedings of SPIE,2011年 4月25日,vol.8012,p.801227-1 - p.801227-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
少なくとも1つの実施例の様々な態様が、添付図面−縮尺通りに描かれていない−を参照しながら以降で論じられる。図面は、本願の様々な態様及び実施例の図示並びにさらなる理解を与えるように含まれ、かつ、本願明細書の一部に含まれて、かつ本願明細書の一部を構成するが、本発明を限定するものと解されてはならない。図、詳細な説明、又は請求項中の技術的部位に参照符号が続く場合、その参照符号は、図と明細書の理解しやすさを向上させるためだけに含まれる。図中、様々な図に示されている各(略)同一の構成要素は同様の参照番号によって表される。簡明を期すため、すべての構成要素はどの図にも図示されている訳ではない。
【0013】
現在の高精度光学デバイスは、様々な機能を実行するように構成されている。様々な機能には、多重波長イメージング(たとえば可視と赤外イメージング)並びにレーザー測距、レーザー目標指示、及び/又はレーザー目標識別が含まれる。近年、人間が携帯可能な(たとえばハンドヘルド)多機能、多重波長の光学デバイスの開発に関する関心が高まってきている。これらのデバイスが、意図する/必要とされるように動作し、かつ、容易に人間が携帯可能になるためには、これらのデバイスは、ある温度範囲にわたって光学的位置合わせ(ボアサイトとも呼ばれる)を維持し、軽量で(たとえば数ポンドの重さしかない)、かつ、体積に余裕がなければならない。従来の多重開口屈折型光学アセンブリは、これらの目標を余裕を持ってかつ高い信頼性で満たすことができない。光学アセンブリにおいて反射型ミラーを用いることで、温度に対するボアサイトの維持に関する懸念は解決される。しかし体積の大きい人間が携帯可能な高精度光学デバイスという観点において、従来のアルミニウム合金ミラーは、重さやコストを含む複数の欠点を有する。
【0014】
従って、本願の態様及び実施例は、アルミニウム合金基板ではなく低密度基板−たとえばマグネシウム又はマグネシウム合金−上でシングルポイントダイアモンド切削(SPDT)処理を実行することによって生成される反射ミラーに関する。マグネシウムは、高精度反射ミラーの生成に広く用いられるアルミニウム6061-T6よりも約35%密度が低い。それに加えて、マグネシウムミラーの実施例は、後述するように、ミラーの重さをさらに減少させるように設計された構造部位を有して良い。従ってマグネシウムミラーを使用することで、人間が携帯可能なデバイスにとっての顕著な重さの利点が与えられ得る。マグネシウムミラーはまた、後述するように、アルミニウムミラーに対して顕著なコストの利点をも与えうる。本明細書で論じられる例は、成形又は鋳型造形されたマグネシウム又はマグネシウム合金で構成されるミラー基板が、広帯域の光学表面の性質を実現するようにSPDTを用いることによって製造されて良いことを示している。それに加えて、マグネシウムミラーは、後述するように、表面仕上げ法との相性が良いことで、現在のSPDTの能力を超えるように表面仕上げを改善することが示される。
【0015】
本明細書で述べる方法及び装置の実施例は、以降の詳細な説明で述べられる又は添付図面に示される部材の構成及び配置の詳細に限定されないことに留意して欲しい。当該方法及び装置は、他の実施例においても実施可能で、かつ、様々な方法で実施可能である。具体的な実施例は例示目的で与えられているだけであり、限定を意図するものではない。具体的には、1つ以上の実施例に関連して述べられる作用、構成要素、及び部位は、他の実施例における同様の機能から排除されると解されてはならない。
【0016】
また本明細書で用いられる語句は、説明目的であり、限定と解されてはならない。前後、左右、上下、及び垂直と水平は、説明の便宜を図るためであり、本願システム及び方法又はそれらの構成要素を一の空間上の向きに限定するものではない。
【0017】
「マグネシウム」という語句が形容詞として用いられる場合、純粋なマグネシウムとマグネシウム合金の両方を網羅することを意図している。マグネシウム合金は、主成分としてマグネシウムを有する化合物である。
【0018】
図1を参照すると、一の実施例によるマグネシウムミラーの製造方法の一例の流れ図が示されている。製造方法の実施例及び具体例は、引き続き
図1を参照しながら以降で説明する。
【0019】
一の実施例によると、ミラーはマグネシウム基板から生成される。前記マグネシウム基板は、前記ミラーの反射表面を供するように加工及び任意でさらに処理される表面を有する。一の実施例では、基板の表面は、SPDTとして知られる高精度の方法を用いて加工される(工程110)。当業者に知られているように、SPDTは、天然又は合成のダイアモンド先端部を有するシングルポイント切断装置を備える旋盤を用いる精密素子の機械加工方法である。ダイアモンド切削処理は、金属(たとえばアルミニウム6061-T6)、プラスチック、及び他の材料から高品質の非球面光学素子を製造するのに広く用いられている。ここで本明細書で開示されているように、マグネシウム及びマグネシウム合金は、光学品質の表面を実現するようにダイアモンドポイント切削されて良い。
図2は、旋盤上でダイアモンドシングルポイント切削された複数の異なるマグネシウム試料210の像を表している。物体220が、マグネシウムミラー試料210の反射表面による反射を示す参照として像中に存在する。
【0020】
ミラーの反射表面の表面仕上げ品質(滑らかさ)は、SPDT装置が残した微小部位の平均(RMS)ピーク・トゥ・バレー(PV)として測定される。表面仕上げは一般に、3次元(3D)の白色光走査型干渉計を用いて測定される。アルミニウム6061-T6ダイアモンドポイント切削は典型的には、約80ÅのRMSの表面仕上げを実現しうる。表面仕上げ品質は、たとえば亜鉛、クロム、及び鉄のような合金元素によってSPDT後に残される欠陥又はアーティファクトによって制限される。後述する例は、マグネシウム基板のSPDTが、同一又は類似の製造方法を用いることによってアルミニウム6061-T6以上の表面仕上げを実現しうることを示す。
【0021】
再度
図1を参照すると、一の実施例では、SPDT処理110は、自由形式のSPDT処理(工程410)を用いて、表面に垂直なすなわち軸上の位置で軸から外れた複数のミラーの製造を実現することで余分なミラーの部分の重さを排除する工程を含む。軸から外れた光学デバイスとは、開口部の光軸がその開口部の力学的中心と一致しないため、光学表面が回転対称性を有しない光学デバイスのことである。回転対称性を有しない表面のSPDTは、スローツールサーボデバイスを用いて実現されうる。係るデバイスでは、ダイアモンド切削旋盤
は、2つの直線軸(x軸とz軸)及びスピンドルすなわち回転軸(c軸)を有する。ダイアモンドツールは旋盤のz軸に沿って設けられる。回転対称性を有しない表面を備える光学デバイスはc軸上に設けられる。加工される光学表面を画定する光学方程式が、光学デバイスの機能する表面全体にわたるダイアモンドツールの移動を制御するツールの移動経路を生成するのに用いられる。ツールの移動経路はコンピュータ可読ファイルとして符号化される。SPDT機械は、コンピュータによって制御されることで、回転対称性を有しない光学表面を生成するようにツールの経路を実行する。従来、軸から外れたミラーは、遠心力によって生じる変形を解決するように設計される。自由形式のSPDTを用いることによって、遠心力は顕著に減少するので、ミラーの設計は、たとえば後述するように設計された構造部位を加えることによって重さを抑制するように最適化することができる。
【0022】
SPDT処理が実行されるマグネシウム基板は、たとえばマグネシウム若しくはマグネシウム合金を成形し(工程120)、マグネシウム若しくはマグネシウム合金を加工し(工程125)、又は、チキソトロピーを利用してマグネシウム合金を鋳型造形することによって生成されて良い。マグネシウム(又はマグネシウム合金)が生成されうる他の方法には、鍛造、圧縮成形、及びホットプレスが含まれる。マグネシウム基板はメッキされて良い(工程115)。メッキはたとえば、マグネシウムによる電解メッキ、銅メッキ、又は、無電解プロセスを用いたニッケルメッキであって良い。
【0023】
成形されたマグネシウム基板は、SPDTによって実現可能な表面仕上げを制限する有孔性を示す。しかし後述するように、一の実施例によると、マグネシウム基板は、そのマグネシウム基板の表面仕上げを多くの用途向けの光学品質にまで改善しうる一部の表面仕上げ処理と相性の良いことが示された。チキソトロピック流体は、材料が流れるときには壊れるが、留まっているときには粘性を持つ。マグネシウム合金については、チキソトロピーを利用した鋳型造形は、注入成形と類似の機械を使用する。単一工程のチキソトロピーを利用した鋳型造形処理の一例では、室温のマグネシウム合金チップ(約4mmのチップサイズ)が、加熱されたバレル容器に供給される(マグネシウムチップの参加を防止するためアルゴン雰囲気下で維持される)。このとき、マグネシウムチップが半固体状態になるように加熱され、剪断力が球状スラリーを生成するように印加される。続いてスラリーは、プラスチックの注入成形に類似した鋳型造形のため、ダイに注入されて良い。
【0024】
マグネシウム合金は、ミラー基板のチキソトロピーを利用した鋳型造形に適することが分かった。ミラー基板に適したマグネシウム合金の例には、マグネシウムAZ91-DとAM60Bが含まれる。マグネシウムAZ91-Dは、約90%のマグネシウム、9%のアルミニウム、並びに、微量の亜鉛、シリコン、及び鉄(鉄は0.005%未満)を含む高純度合金である。マグネシウムAZ91-Dは、優れた腐食耐性を有し、広く入手可能で、かつ、比較的安価である。下の表1はマグネシウムAZ91-Dの典型的な物理特性を含む。
【0025】
【表1】
一の実施例によると、マグネシウムAZ91-Dは、アモルファスになることができるため、チキソトロピーを利用したミラー基板の鋳型造形によく適している。その結果、グレイン構造は十分に細かなものとなり、以降の例で示すように、合金が到達可能な優れた表面仕上げ品質となる。それに加えて、チキソトロピーを利用した鋳型造形中、合金は高温高圧(たとえば約560〜630℃の温度でかつ約500〜1200kgf/cm
2の注入圧力)下で混合されるので、結果として得られる基板は、非常に安定かつ密で、成形されたマグネシウム基板内に存在する孔の数は少ない。これもまた、チキソトロピーを利用した鋳型造形されるマグネシウム基板が80Å未満のRMSの表面仕上げを得ることを可能にすることに寄与する。さらにチキソトロピーを利用した鋳型造形は、対比可能なアルミニウム6061-T6基板よりもはるかに費用対効果よく(特に体積)マグネシウム基板を生成することを可能にする。たとえばチキソトロピーを利用して鋳型造形されたマグネシウムミラー基板のコストは、対比可能なアルミニウム6061-T6ミラー基板よりも1桁よりも小さい。
【0026】
本明細書で開示されているように、アルミニウム6061-T6合金で構成される基板の処理から生じる道具の摩耗と比較して、マグネシウム基板−チキソトロピーを利用して鋳型造形されたマグネシウムAZ91-Dで構成される基板を含む−用のダイアモンド切断道具の摩耗が顕著に緩和されることがさらに分かった。さらに後述するように、SPDTが15個のチキソトロピーを利用して鋳型造形されたマグネシウム基板上に実行された。その後測定可能な道具のばらつきは見つからなかった。対照的に、道具のばらつきは典型的には、15個のアルミニウム6061-T6基板の処理後には測定可能であり、道具の切断経路は、道具のばらつきを解決するために調節される必要がある。道具の摩耗は、特に大容量デバイスにとっては重要なコスト因子である。アルミニウム6061-T61合金基板からの道具の摩耗に寄与する重要な因子は、切断具のダイアモンドチップと反応することで化学的な摩耗を引き起こす合金内の相当量の鉄の存在である。対照的に、複数のマグネシウム合金−マグネシウムAZ91-D及び他のマグネシウムAZ91合金を含む−は、微量の鉄(マグネシウムAZ91-D及びマグネシウムAZ91-E、優れた腐食耐性を有する他の高純度合金であれば0.005%を超えない)しか含まないか、又は、全く鉄を含まないので、ダイアモンドチップでの化学的摩耗は顕著に緩和される。それに加えて、マグネシウム合金−たとえばAZ91シリーズの合金−は、アルミニウム6061-T6合金よりも柔らかく、延性があり、かつ、密度が低い(約35%)。その結果、切断具での機械的摩耗は減少する。より純度の高いアルミニウム合金(鉄の含有量の少ない)が利用可能であるが、アルミニウム6061-T6は、温度と時間に対して非常に安定していることを示しているので、現在のところ、高精度光学ミラーに用いられる最も有名な合金である。よってアルミニウム6061-T6よりもマグネシウム合金の道具の摩耗が緩和されるというのは重要な利点である。道具の摩耗が緩和されることで、道具の交換毎のコストが減少するだけではなく、製造処理中での道具の監視及び/又は調節に係る設定時間や労働者のコストも減少しうる。
【0027】
チキソトロピーを利用して鋳型造形されたマグネシウム合金を用いる他の利点は、鋳型造形処理に用いられるダイが、多数の形状及び部位のうちの任意のものをマグネシウム基板に与えるように構成されうることである。たとえば
図3Aを参照すると、設計された構造部位−たとえば支柱320及び溝すなわち凹部330−を含むマグネシウムミラー310の典型的な背面(つまり非反射表面)が表されている。ミラー310の背面は、さらなる加工コストを発生させることなく、高スティフネス及び低重量のミラーを供する多数の薄い支持ウエブを備えるように設計されて良い。その理由は、これらの部位は容易にチキソトロピーを利用して鋳型造形されうるからである。それに加えて、ミラー310は、製造信頼性を改善する部位を含んで良い。たとえば
図3Bは、ミラー基板内でのSPDTによって設ける際の応力を緩和する孤立した切れ込み340を含むミラー310の一部を表している。設けた部位もミラー構造に含まれて良い。上記及び他の部位は、チキソトロピーを利用して鋳型造形処理中、容易かつ安価にマグネシウム基板となるように鋳型造形されうる。対照的に、現在のところ、アルミニウムミラーにそのような部位を加工して生成するのは困難及び/又は途方もなく高価である。一例では、チキソトロピーを利用して鋳型造形されたマグネシウムAZ91-Dで構成され、かつ、3インチ×3インチ(75mm×75mm)の開口部を有する図示された構造部位を含むミラー310は、約1.47オンス(42g)の重さを有する。よって、アルミニウムよりもマグネシウムの密度が低く、かつ、重さを減少させる部位を含むことができるため、マグネシウムミラーの実施例は、対比可能なアルミニウム6061-T6で構成されるミラーよりも3〜4倍軽量である一方で、体積の観点でも製造上の余裕があり、かつ、たとえば表面仕上げ品質のような優れた光学特性を有する。より軽量のミラーは、それらのミラーが直接的に用いられる光学アセンブリの重さを減少させるだけではなく、より軽量のジンバル、トルク発生装置、角度レゾルバ、及び光学アセンブリを動かす他のデバイスを可能にする。その結果、システムの全体の重さが顕著に減少する。
【0028】
高精度光学デバイスにおいて用いられるミラーの重要な要素は、時間及び温度に対する光学的安定性である。後述するように、マグネシウムミラーが適切な熱処理されることで、光学的に安定で、かつ、SPDTアルミニウム合金により実現可能な表面仕上げ以上の表面仕上げを得ることができることを示す実験データが得られた。これらの結果は、マグネシウムが一般的には光学的に不安定であることを考慮すると予想外である。広く用いられているアルミニウム6061-T6合金は、合金を構成する元素としてマグネシウムを含む。このアルミニウム6061-T6合金中のマグネシウム合金を構成する元素はよく、特にミラー基板が湿度の高い環境に曝される場合、酸化及び他の反応に起因して、アルミニウム6061-T6の表面に欠陥を生じさせる。アルミニウム6061-T6合金中でのマグネシウムの存在に関するこの既知の懸念は、既知のマグネシウムの高い反応性と共に、マグネシウムから光学部品を生成しようとする試みが、光学系が安定しないために成功しないこと、及び、許容可能な表面仕上げ品質が実現できないことを示唆している。
【0029】
上述したように、ある実施例によると、SPDTを用いて生成されたマグネシウムミラーは、表面の滑らかさを改善する表面仕上げ方法(工程150)との相性がよい。後述する例は、マグネシウム基板が、少なくとも約58Å〜80Åの表面仕上げ品質を有するようにSPDTを用いて製造されうることを示している。この品質の仕上げは、多くの用途−特に関心反射放射線が相対的に長波長(たとえば約3μmよりも長い波長)である用途−で適切な低散乱を供する。短波長(たとえば可視光を用いた用途)については、表面仕上げは、十分な低散乱を実現するために改善される必要があると考えられる。上述したことに加えて、一部の成形されたマグネシウム基板は、少なくとも一部の用途については、SPDT後でも十分良好な表面仕上げを有していないため、表面仕上げを改善することが望ましい。従って一部の実施例では、仕上げ処理(工程150)は、ミラーの表面仕上げを改善するようにSPDT後に適用されて良い。
【0030】
SPDTによって典型的に実現可能な80〜90ÅRMSを超えるように改善される表面仕上げ品質を有するアルミニウムミラーを生成する一の方法が特許文献2に記載されている。この方法は、薄膜技術を用いてミラー基板の表面を覆うように薄膜仕上げ層を生成する工程、及び、前記仕上げ層の表面を研磨する工程を有する。続いて薄い反射層が、仕上げ層の研磨された表面上に生成される。任意で薄いオーバーコーティングが、反射層の保護及び/又は選択された波長帯での反射率の増大のために反射層を覆うように堆積されて良い。
【0031】
ある例では、特許文献2に記載された仕上げ処理の実施例が、表面仕上げを改善するようにダイアモンド切削されたマグネシウムミラーに適用される。
図4を参照すると、高精度マグネシウムミラー410の一例の概略的部分断面図が示されている。ミラー410は、上述した成形若しくはチキソトロピーを利用して鋳型造形されたマグネシウム又はマグネシウム合金(たとえばマグネシウムAZ91-D)で構成される基板420を有する。基板420は、上述したSPDTを用いて処理される表面430を有する。SPDT処理(工程110)の完了後、仕上げ層440が、たとえば薄膜気相成長法を用いて表面430上に堆積される(工程160)。特許文献2で述べられているように、仕上げ層440は、研磨可能な任意の適切な材料を含んで良い。そのような材料にはたとえば、ニッケル−クロム合金又はアモルファスシリコンが含まれる。仕上げ層440は約5000Åの厚さを有して良い。仕上げ層440が薄いので、上側表面450は最初、少なくともある程度SPDT表面430に適合する。従って工程170では、表面450が研磨される。続いて薄い反射層460が、たとえば薄膜気相成長法を用いて研磨された表面450上に生成される(工程180)。特許文献2で述べたように、薄い反射層は、任意の反射材料−たとえば銀、金、又はアルミニウム−を含んで良い。反射層は、約2000〜5000Åの厚さを有して良い。反射層460は、放射線480を反射しうる高精度反射表面470を供する。反射層460が薄膜であるため、その表面は少なくとも実質的に研磨された表面450に適合する。
【0032】
他の実施例によると、マグネシウムミラーの表面形状は、SPDT後に、磁性流体による仕上げ(工程190)をミラー表面に行うことによって現在のダイアモンドポイント切削の能力を超えて改善されうる。他の例では、コンピュータ制御された研磨(CCP)−たとえば磁性流体による仕上げ−が、未処理又はメッキされたマグネシウム基板に対して直接行われても良い(
図1の工程115)。磁性流体による仕上げ(MRF)は、コンピュータ制御された精密な表面仕上げ処理である。上述したように、SPDT処理後のミラーの表面仕上げは干渉計によって測定されて良い。MRFは、干渉計データを用いて光学表面の除去マップを特定する。前記除去マップは、ピークトゥバレーのばらつきを減少させるように表面を選択的に加工することを可能にする。MRF処理は、仕上げ装置として、干渉計により制御された磁性流体を用いた(MR)仕上げ用スラリー(キャリア領域内に存在するカルボニル鉄で構成されるマイクロメートルサイズの磁性粒子の懸濁物)を用いる。MRスラリーの薄いリボンが回転する輪に引き込まれる。輪の下に位置する電磁石が、MRスラリーを数ミリ秒で硬化させる。MRスラリーは、電磁石の電磁場から遠ざかることで本来の粘性に戻る。MRスラリーに抗するように光学表面を押すことによって生じる剪断応力は、光学表面にわたる研磨圧力を発生させる。コンピュータ制御されたアルゴリズムは、干渉計によって特定される除去マップを生成し、かつ、MRスラリーの滞在時間と位置を計算することで、基板表面の選択された部分の決定論的除去を実現する。それによって表面が研磨され、かつ、仕上げされた基板の表面形状が「滑らかになる」。MRF又は他のCCP法が、単独又は上述した薄膜仕上げ処理と併用されてマグネシウム基板に用いられて良い。
【0033】
[例]
上記及び他の実施例の機能と利点が、以降の例からより十分に理解される。例は、本来例示を意図したものであり、本明細書で述べたシステム及び方法の技術的範囲を限定するものと解されてはならない。後述する各例では、SPDTが、Pretech社が製造するPrecision350SPDT旋盤を用いて球状のマグネシウム基板上で実行された。複数のミラーが、ダイアモンドポイント切削され、(後述する例1で述べるように)熱処理され、かつ、仕上げされた。これらのミラーのデータ及び試験結果が以降の例で与えられる。後述する被処理基板の像は、Zygo社が製造する干渉計を用いて撮像された。ミラー表面は、干渉試験を容易にし、かつ、以下の例1で述べる長期間安定性試験の結果を改変してしまう恐れのある測定誤差を抑制する球形状であった。
【0034】
[例1]
上述したように、長期間にわたる光学的安定性は、精密光学ミラーによって重要な基準である。従って長期間の安定性に関する加速試験が、例示されたマグネシウムミラーの光学的安定性を判断するため、その例示されたマグネシウムミラー上で実行された。15個のチキソトロピーを利用して鋳型造形されたマグネシウムAZ91-Dミラーが、ダイアモンドポイント切削され、かつ、3つの群に分割された。続いてこれらのミラーのうちの12個(3つの群の各群から4個)が、3つの異なるサイクル/処理条件−1つの条件が複数のミラーからなる各群に適用される−を用いて処理された。12個のミラーが、約107℃から約-35℃まで熱サイクルを受け、かつ、10サイクルの各サイクル後に干渉計によって再試験された。ミラーの試験結果を示すグラフを表す
図5を参照すると、条件設定のサイクルは、熱/冷試験(データ点510)、浸漬試験(データ点520)、及び極低温試験(データ点530)を含む。各試験は、環境科学技術研究所(IEST)が広めているMIL-STD-810の第”G”版と呼ばれる10の温度サイクルにわたって実行された。
【0035】
ミラーの目標の仕様は、RMS表面形状(実際の光学表面と理想的な光学表面との差異)で与えられる。目標の最大値は0.030であり、これは約λ/33のRMS波面の誤差に相当する。
図5で表されているように、データは、マグネシウムAZ91-Dミラーが長期間にわたって光学的に安定であり得ることを示している。
【0036】
[例2]
この例は、マグネシウムAZ91-Dで作られるチキソトロピーを利用して鋳型造形されたマグネシウム基板にSPDTを用いる開示された方法を示している。
【0037】
図6Aと
図6Bを参照すると、SPDT後の典型的なミラーの表面の微視的像が表されている。
図6Aは、ミラーの反射表面の一部の拡大像(倍率約20倍)を表している。表面仕上げは約90Åと測定された。約80〜90ÅのRMSの表面仕上げは、アルミニウム6061-T6基板では典型的である。よってこの例は、アルミニウム6061-T6合金の表面仕上げ品質と少なくとも同程度の表面仕上げが、チキソトロピーを利用して鋳型造形されたAZ91-D合金でも実現可能であることを示している。
図6Aと
図6B内に存在する反転印620は、SPDT処理に関係するものである。反転印620が生成された理由は、「空気のみ」(air only)で、冷却せずに切断されたため、冷却による減摩が存在しないことに起因する「摩擦が誘起する」道具の滑らかさが小さいためである。
【0038】
図6Cは、
図6Aに図示された境界610内部のさらなる拡大図(倍率約100倍)である。
図6Dは、表面仕上げにおけるピークトゥバレーを表す対応像である。
図6Cを参照して分かるように、少量のグレイン構造が表されている。しかしこの例は、約30ÅのRMSに接近する表面仕上げが、AZ91-D合金によって実現可能であることを示している。
【0039】
[例3]
この例は、マグネシウムAZ91-Dで作られるチキソトロピーを利用して鋳型造形されたマグネシウム基板にSPDTを用いる開示された方法をさらに示している。この例では、冷却材(無臭の石油スピリット)が、潤滑さを供し、かつ、例2に存在する「滑らかさ」(たとえば反転印620)を排除するのに用いられた。それに加えて、この例において用いられるミラー基板は、前述したように、背面上の設計された構造部位を備えて生成された。
【0040】
図7Aと
図7Bを参照すると、典型的なチキソトロピーを利用して鋳型造形されたマグネシウムミラー基板の反射表面の一部の像が表されている。この例では、約58ÅのRMSの表面仕上げが実現された。この表面仕上げ品質の水準は、アルミニウム6061-T6基板で一般的に実現される水準よりも20〜30%高く、かつ、多くの用途で十分な低散乱を供することができる。よってさらなる仕上げ処理を実行する必要が低下する又はなくなる。
【0041】
[例4]
上述したように、ダイアモンド切削された複数のミラー基板のうちの選ばれたものが、本明細書で開示された処理を用いて仕上げされた。この例は、チキソトロピーを利用して鋳型造形されたマグネシウムAZ91-Dで作られたミラー基板と、特許文献2に記載された仕上げ処理の実施例との相性を示している。ダイアモンド切削された表面を覆うように堆積された仕上げ層は、シリコンで作られ、かつ、厚さが約12000Åであった。仕上げ層は、上述したように、ミラー表面を生成するように研磨された。
【0042】
図8A〜
図8Cは、上述したように生成された典型的なミラーの一部の像を表している。実験データは、チキソトロピーを利用して鋳型造形されたマグネシウムAZ91-D基板と、上述の仕上げ処理との相性を示している。
【0043】
図8Aは、仕上げ工程160-180の前の典型的なミラーのダイアモンドポイント切削された表面430の表面仕上げを表している。表面は、約80ÅのRMSの表面仕上げを有する。
【0044】
図8Bは、仕上げ層の堆積後であって研磨工程170の前の典型的なミラーの表面450の表面仕上げを表している。表面は依然として、約80ÅのRMSの表面仕上げを有する。有害な材料も処理の相互作用も存在しない。
【0045】
図8Cは、研磨工程180後の表面仕上げを表している。ミラーの表面はここでは、約13ÅのRMSの表面仕上げを有する。これは、マグネシウム基板が、例外的な表面仕上げ品質を実現する上で、特許文献2で述べた表面仕上げ方法と相性が良いことを示している。
【0046】
[例5]
開示された方法は、上述の薄膜仕上げ処理の後、典型的なマグネシウムミラー基板に磁性流体による仕上げを行うことによって示された。この例では、SPDT後、厚さが約12000Åのシリコンの仕上げ層が、上の例4で述べたように堆積された。仕上げ層は、サブミクロンダイアモンドスラリーを用いて事前研磨された。その後磁性流体による仕上げが、表面形状と仕上げを改善するように研磨された表面に行われた。
図9A〜
図9C及び
図10A〜
図10dに示された実験データは、マグネシウム基板とMRF処理との相性を示している。
【0047】
図9Aは、典型的なミラーのダイアモンドポイント切削された表面の表面仕上げを表している。表面は、上述の例と同様に、約80ÅのRMSの表面仕上げを有する。
図9Bは、上述した薄膜堆積160及び事前研磨工程170後の典型的なミラーの表面仕上げを表している。表面は、約20ÅのRMSの表面仕上げを有する。
図9Cは、MRF処理が表面に用いられた後の表面仕上げを表している。MRF処理は、ミラーの表面仕上げを約10ÅのRMSにまで改善する。よってMRF及び/又は薄膜仕上げ処理は、表面仕上げを約20Å未満のRMS及びλ/20の表面形状にまで改善するようにマグネシウムミラー基板に用いられて良い。
【0048】
図10A〜
図10Dは、典型的なミラーのうちの2つについての別な実験データを表している。
【0049】
図10Aは、SPDT処理後であって上述の薄膜仕上げ層の堆積後の第1の典型的なマグネシウム基板の表面の像である。
図10Bは、MRFの適用後の同一の典型的なマグネシウム基板の表面の対応する像である。この例では、MRF処理は、表面形状を約λ/100にまで改善した。
【0050】
図10Cは、SPDT処理後であって上述の薄膜仕上げ層の堆積後の他の典型的なマグネシウム基板の表面の像である。
図10Dは、MRFの適用後の同一の典型的なマグネシウム基板の表面の対応する像である。この例では、MRF処理は、表面形状を約λ/80にまで改善した。
【0051】
これらの例は、マグネシウム基板が、光学品質のミラー表面を実現するためにSPDTを用いて処理されうることを示している。MRFを含む表面仕上げ処理は、現在のところSPDTで実現可能なものを超えるように表面仕上げ及び/又は表面形状を改善するように用いられ得る。マグネシウム基板は、長期間にわたって光学的に安定であることを示し、かつ、費用対効果良く重さを最適化する設計が可能である。それにより精密な人間が携帯可能な光学デバイスに適したものとなる。