(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被測定者に装着される電極と、前記電極へ供給される刺激電流を生成する刺激電流生成手段とを備え、前記電極から前記被測定者に付与される前記刺激電流に基づいて、前記被測定者が感じている痛みを測定する人体用の痛み測定装置において、
前記刺激電流に基礎をおく値の対数値または対数的数値となる痛みの計測値と、前記被測定者が選択したVAS(Visual Analogue Scale)またはフェイススケールの値との関係を表示する手段を有する、
ことを特徴とする痛み測定装置。
被測定者に装着される電極と、前記電極へ供給される刺激電流を生成する刺激電流生成手段とを備え、前記電極から前記被測定者に付与される前記刺激電流に基づいて、前記被測定者が感じている痛みを測定する人体用の痛み測定装置において、
前記被測定者が感じている痛みに対応する刺激電流の値となる痛み対応電流値の対数値または対数的数値と、前記被測定者が選択したVASまたはフェイススケールの値との関係を表示する手段を有する、
ことを特徴とする痛み測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(痛み測定装置の概略構成)
図1は、本発明の実施の形態1にかかる痛み測定装置1の構成を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す痛み測定装置1の本体部4およびその周辺機器の概略構成を示すブロック図である。
図3は、
図1に示すパーソナルコンピュータ6の画面表示の一例を示す図である。
【0014】
本形態に係る痛み測定装置1は、病気やけが等の原因で、被測定者2が感じている痛みを客観的に測定するための装置である。すなわち、本形態の痛み測定装置1は、被測定者2が感じている痛みを定量的に評価するための装置である。この痛み測定装置1は、
図1に示すように、被測定者2の上腕部2aの内側に装着される電極バンド3と、電極バンド3に所定の刺激電流を供給する本体部4と、痛みを測定する際に被測定者2が操作するハンドスイッチ5と、本体部4に対して所定の動作信号を出力したり、痛みの測定結果を表示するパーソナルコンピュータ(PC)6と、痛みの測定結果を印刷用紙等に印刷して出力するプリンタ7とを備えている。電極バンド3、ハンドスイッチ5、PC6およびプリンタ7は、所定のケーブルによって、本体部4に接続されている。なお、PC6を接続しないようにしてもよい。
【0015】
なお、本形態では、被測定者2の上腕部2aの内側に電極バンド3が装着されているが、電極バンド3の装着位置は、筋肉の量および汗腺が少なく、かつ、装着が容易な箇所であれば、上腕部2aの内側以外であっても良い。たとえば、電極バンド3の装着位置はかかとであっても良い。このように、筋肉の量が少ない箇所に電極バンド3を装着することで、筋肉の断続的または連続的な収縮を防ぐことができる。電極バンド3には、2つの電極3a,3aが設置されており、刺激電流は電極3aに供給される。
【0016】
本体部4は、
図2に示すように、MPU(Micro Processing Unit)9と、昇圧トランス10と、電圧制御回路11と、出力制御回路12と、保護回路13と、電流検出回路14と、外部RAM15と、不揮発性メモリ16と、画像表示手段17と、表示手段ドライバ18と、アドレスデコーダ19と、I/F(インターフェース)回路20とを備えている。
【0017】
MPU9は、図示を省略するROM、RAM、タイマーおよび出力インターフェースを内部に備えている。MPU9の内部のROMには、電極3aに供給される刺激電流の電流値から被測定者2が感じている痛みの度合いを算出したり、被測定者2が選択したVASまたはフェイススケールの値と痛み計測値との関係から痛みの要因を分類する、または痛みの原因を特定するための処理を行うプログラムが予め記憶されている。そして、MPU9に、I/F回路20を介してPC6から動作信号が入力されると、MPU9は、外部RAM15の一時記憶機能を利用しつつ内部のROMに記憶されたプログラムにしたがってPC6からの動作信号を処理し、所定のアルゴリズムを実行する。また、所定のアルゴリズムを実行することで、MPU9は昇圧トランス10、電圧制御回路11、出力制御回路12に駆動信号をそれぞれ供給する。
【0018】
昇圧トランス10は、MPU9からの駆動信号に応じて、図示を省略する直流電源からの電圧を昇圧する。より具体的には、昇圧トランス10は、タイマーを使用したMPU9からの方形波状の駆動信号によりトランジスタを駆動して、直流電源からの電圧を昇圧する。たとえば、昇圧トランス10は、直流電源によって印加される12Vの電圧を100V〜120Vに昇圧する。電圧制御回路11は、MPU9からの駆動信号に応じて、昇圧トランス10から出力された直流電圧出力を調整する。また、
図2に示すように、電圧制御回路11での電圧値を検出するための検出信号が電圧制御回路11から出力され、MPU9に入力される。MPU9に入力された検出信号に基づいて、規定値以上の電圧が出力制御回路12から出力されないように制御される。
【0019】
出力制御回路12は、電圧制御回路11から出力された整流電圧をPWM(Pulse Width Modulation)によって制御するためのPWM制御回路である。この出力制御回路12は、MPU9からの駆動信号に応じて、たとえば、5V〜100Vの範囲のパルス状の電圧を出力する。保護回路13は、所定値以上の電流が出力制御回路12から被測定者2に装着された電極3aへ供給されるのを防止するリミッタ回路である。
図2に示すように、この保護回路13から電流制限値を検出するための検出信号が出力され、MPU9に入力される。
【0020】
電流検出回路14は、保護回路13から電極3aを経て被測定者2に付与される電流の実効値を検出するための回路である。本形態の電流検出回路14は、たとえば、抵抗やオペアンプにより構成されるものである。
図2に示すように、電極3aに供給される刺激電流(すなわち、被測定者2に付与される刺激電流)の電流値を検出するための検出信号が電流検出回路14から出力され、MPU9に入力される。本形態では、出力制御回路12から電極3aへ供給される刺激電流(すなわち、被測定者2に付与される刺激電流)の波形は、50Hz周期のパルス波形となっている。
【0021】
このように、本形態では、MPU9、直流電源(図示省略)、昇圧トランス10、電圧制御回路11、出力制御回路12、保護回路13および電流検出回路14によって、電極3aへ供給される刺激電流を生成する刺激電流生成手段が構成されている。
【0022】
外部RAM15は、上述のように、MPU9が所定のアルゴリズムを実行するためのメモリである。この外部RAM15は、MPU9の内部のRAMの容量が十分であれば、設ける必要はない。不揮発性メモリ16は、出力制御回路12から出力される電圧の上昇速度(すなわち、電極3aに供給される刺激電流の増加度)や、電流検出回路14に供給される電圧の制限値等の所定の設定値、または、過去の所定回数の痛みの測定データが記憶されたメモリである。
【0023】
画像表示手段17は、電圧制御回路11での電圧値や電極3aに供給される刺激電流の電流値を本体部4の外部に表示する液晶表示装置等の表示装置である(
図1参照)。この画像表示手段17には、MPU9から出力され表示手段ドライバ18で処理された画像データが表示される。
【0024】
アドレスデコーダ19は、外部RAM15や表示手段ドライバ18と、MPU9との間で信号をやりとりするための論理回路である。また、I/F回路20は、MPU9とPC6との間で信号のやりとりをしたり、MPU9からプリンタ7へ信号を供給するための回路である。
【0025】
ハンドスイッチ5は、被測定者2が電極3aへの刺激電流の供給を停止するためや刺激電流の供給を開始するためのものである。また、PC6は、
図1に示すように、痛み測定装置1における痛みの測定結果を表示するための表示部6aを備えている。この表示部6aは、たとえば、液晶表示装置である。また、表示部6aには、たとえば、痛み測定装置1での測定結果が
図3のように表示される。
図3に示す表示部6aの表示内容については後述する。
【0026】
(刺激電流の特性)
図4は、
図1に示す電極3aから被測定者2に付与される刺激電流の各周波数成分ごとの刺激の強さを表すパワースペクトルのピーク値を示すグラフである。
図5は、
図1に示す電極3aから被測定者2に付与される刺激電流の各周波数成分ごとの刺激の強さを表すパワースペクトルの実際の変化を説明するためのグラフである。
【0027】
本願出願人は、どのような刺激電流であれば、痛みを伴わない電気刺激によって、被測定者2が感じている痛みの度合いを広範囲で測定することができるのかを長年研究してきた。その研究の結果、痛みを伴わない電気刺激によって、被測定者2が感じている痛みの度合いを広範囲で正確に測定することができる刺激電流が所定の特性を有することが判明した。そして、本形態の痛み測定装置1では、この特有の性質を有する刺激電流を発生させることとした。以下、痛みを伴わない電気刺激によって、被測定者2が感じている痛みの度合いを広範囲で正確に測定することができる刺激電流(すなわち、本形態において、電極3aから被測定者2に付与される刺激電流)の特性について説明する。
【0028】
痛みを伴わない電気刺激によって、被測定者2が感じている痛みの度合いを広範囲で測定することができる刺激電流(すなわち、本形態の刺激電流)の各周波数成分ごとの刺激の強さを表すパワースペクトル(具体的には、刺激電流のパルス波の各周波数成分ごとの刺激の強さを表すパワースペクトル)は、50Hzの整数倍の周波数ごとにピーク値を有し、これ以外の周波数では、ピーク値を有さない特殊なパターンを示す。すなわち、
図5に模式的に示すように、本形態における刺激電流のパワースペクトルは、50Hz、100Hz、150Hz・・・というように、50Hzごとにピーク値を有し、これ以外の周波数では、ピーク値を有さない。なお、刺激電流のパワースペクトルは各周波数によって、
図5に示すように増減する。
【0029】
図4には、本形態の刺激電流のパワースペクトルのピーク値のみを点で示している(グラフG1、G2参照)。また、
図4には、参考として、従来から、本願出願人が痛み測定装置に使用していた矩形状のパルス波からなる刺激電流(以下、従来の刺激電流と表記する)のパワースペクトルのピーク値のみを示している(グラフG3、G4参照)。ここでは、従来の刺激電流のパルス波として、50Hz周期のパルス波を用いている。本願出願人の研究の結果、偶然にも、従来の刺激電流のパワースペクトルも本形態の刺激電流のパワースペクトルと同様に、50Hzの整数倍の周波数ごとにピーク値を有し、これ以外の周波数では、ピーク値を有さない特殊なパターンを示すことがわかった。
図4では、本形態の刺激電流のパワースペクトルのピーク値と区別するため、従来の刺激電流のパワースペクトルのピーク値間を実線で結んだ状態が図示されている。なお、
図4では、横軸が周波数(単位Hz)であり、縦軸が刺激の強さ(単位dB(デジベル))である。また、
図4は、縦軸に加え、横軸も対数目盛となった両対数のグラフである。
【0030】
ここで、
図4に示すパワースペクトルのピーク値を有する本形態の刺激電流および従来の刺激電流の電流値は等しくなっている。また、各刺激電流の電流値の増減に比例して、
図4に示すパワースペクトルの各ピーク値(すなわち、各周波数成分ごとの刺激の強さ)は増減する。
【0031】
図4には、本形態の刺激電流のパワースペクトルのピーク値の推移を表すグラフとして、グラフG1とグラフG2との2つのグラフが示されている。グラフG1とグラフG2との差は、測定時の刺激電流のばらつき等によって生じている。同様に、
図4には、従来の刺激電流のパワースペクトルのピーク値の推移を表すグラフとして、グラフG3とグラフG4との2つのグラフが示されており、グラフG3とグラフG4との差も、測定時の刺激電流のばらつき等によって生じている。
【0032】
図4からわかるように、グラフG1、G2と、グラフG3、G4とでは、変化のパターンが大きく相違する。グラフG1、G2からわかるように、本形態の刺激電流のパワースペクトルのピーク値は、50Hzから500Hzの範囲で略等しくなっている。特に、グラフG1では、50Hzから1050Hzの範囲で、本形態の刺激電流のパワースペクトルのピーク値が略等しくなっている。また、本形態の刺激電流のパワースペクトルのピーク値は、50Hzから2000Hzの範囲で最大となっている。より具体的には、グラフG1では、1050Hz付近のパワースペクトルのピーク値が最大となり、グラフG2では、150Hz付近のパワースペクトルのピーク値が最大となっている。これに対して、グラフG3、G4からわかるように、従来の刺激電流のパワースペクトルのピーク値は、100Hz以上の周波数では減少している。特に、500Hz以上の周波数では急激に減少している。
【0033】
ここで、単純な正弦波の刺激電流(一定の周波数成分のみを有する刺激電流)を被測定者2に付与した場合には、
図4に示すように、瞬間的な鋭い痛みや圧、温度の伝達に関与するAδ線維を効率良く刺激するのは、250Hzの周波数成分を有する刺激電流であり、接触や圧の伝達に関与し、痛みの伝達に関与しないAβ線維を効率良く刺激するのは、2000Hzの周波数成分を有する刺激電流であることが従来から知られている。また、単純な正弦波の刺激電流を被測定者2に付与した場合には、持続的な鈍い痛みの伝達に関与するC線維を効率良く刺激するのは、5Hzの周波数成分を有する刺激電流であることが従来から知られている。
【0034】
本形態の刺激電流および従来の刺激電流には、Aδ線維を効率良く刺激する250Hzの周波数成分とAβ線維を効率良く刺激する2000Hzの周波数成分とが含まれている。また、本形態の刺激電流および従来の刺激電流には、C線維を効率良く刺激する5Hzの周波数成分が全く含まれていないか、あるいは、250Hzや2000Hzの周波数成分と比較すると無視できる程度のわずかな(たとえば、250Hzや2000Hzの周波数成分の1000分の1以下の)5Hzの周波数成分が含まれている。
【0035】
なお、Aδ線維への刺激に関与するのは、刺激電流のパワースペクトルの50Hzから500Hzまでの積分値であり、Aβ線維への刺激に関与するには、刺激電流のパワースペクトルの50Hzから3000Hzの範囲までの積分値であると考えられている。
【0036】
(痛みの測定方法)
図6は、
図1に示す痛み測定装置1での痛みの測定方法の考え方を説明するためのグラフである。
図7は、
図1に示す痛み測定装置1での痛みの測定手順を示すフローチャートである。
【0037】
以下、痛み測定装置1での痛みの測定方法を説明する。
【0038】
本形態では、被測定者2が感じている痛みを測定するため(すなわち、痛みを定量的に評価するため)、大きさの異なる2つの刺激電流の電流値が測定される。
図6に示すように、1つは、被測定者2に付与される刺激電流の電流値を0から徐々に増加させたときに、被測定者2が最初に電気刺激を感じたときの刺激電流の電流値(すなわち、感知閾値。以下、この電流値を「最小感知電流値」という。)であり、もう1つは、刺激電流の電流値をさらに増加させたときに被測定者2が病気等を原因として感じている痛みの感覚と同程度の感覚を与える刺激電流の電流値(以下、この電流値を「痛み対応電流値」という。)である。
【0039】
最小感知電流値は、痛みを定量的に評価するための基準値となる。すなわち、最小感知電流値で痛み対応電流値を割った値を痛み指数と定義し、この痛み指数によって、被測定者2が感じている痛みを定量的に評価する。痛みの要因が同じであっても、痛みの感じ方は人それそれで違うため、痛み指数で痛みを評価することで、痛みの感じ方の個人差の影響を抑制した定量的な痛みの評価が可能となる。
【0040】
さらに、本形態では、下式によって定義される痛み度から算出される痛み計測値によって、被測定者2が感じている痛みを評価し、痛み計測値とVASとの対応関係に基づいて、痛みの要因を分類したり、痛みの原因を特定したりする。ここで、痛み計測値の役割は、痛み度の数値を0から100の範囲として、同じく0から100に対応するVASの値に適合させるものである。さらに、痛み止めの投薬などにより、最小感知電流値が上昇したときに、極端な数値変動を起こし難いようにするものである。なお、VASの値は、0から10または0から20などもあるが、ここでは0から100を採用する。
【0041】
痛み指数を
(痛み指数)=(痛み対応電流値)/(最小感知電流値)
と定義する。続いて、痛み度を
(痛み度)=(((痛み対応電流値)−(最小感知電流値))/(最小感知電流値))×100
と定義する。
【0042】
ここで、痛み度を用いた痛み計測値その1の式は、以下に示す2つの式のいずれかを適用する。
(痛み計測値その1)=Log
e29.046(痛み度)−111.6
(痛み計測値その1)=Log
e38((痛み度)+100)−175
【0043】
または、痛み指数を用いた痛み計測値その2の式は、以下に示す式を適用する。
(痛み計測値その2)=100×Log
10(痛み指数)
【0044】
または、痛み計測値その3として、以下に示す式を適用してもよい。以下の式によれば、対数は用いていないが対数的数値を算出することができる。
(痛み計測値その3)=(((痛み指数)−1)/(痛み指数))×100
【0045】
痛み測定装置1での痛みの測定手順は、たとえば、
図7に示すフローチャートのようになる。すなわち、被測定者2が感じている痛みを測定する際には、まず、電極パッド3を被測定者2に装着する(ステップS1)。その後、被測定者2に付与される刺激電流の電流値を0から徐々に増加させる。そして、被測定者2は、最初に電気刺激を感じたときに、手で持っているハンドスイッチ5のスイッチを押す。ハンドスイッチ5のスイッチを押すことで刺激電流が止まり、そのときの電流値が最小感知電流値としてMPU9に記憶される(ステップS2)。なお、このとき刺激電流を止めずに、その値のみをMPU9に記憶させるようにしても良い。
【0046】
その後さらに、刺激電流の電流値を増加させ、被測定者2が感じている痛みの感覚と同程度の強度に感じる異種の電気刺激(痛みを伴わない電気刺激)を感じたときに、被測定者2は、手で持っているハンドスイッチ5のスイッチを押す。ハンドスイッチ5のスイッチを押すことで刺激電流が止まり、そのときの電流値が痛み対応電流値としてMPU9に記憶される(ステップS3)。MPU9では、記憶した痛み対応電流値を同じく記憶した最小感知電流値で割ることにより、痛み指数を算出する(ステップS4)。続いて、MPU9は、上記の痛み度の算出式に基づいて痛み度を算出する(ステップS5)。さらに、MPU9は、上記の痛み計測値その1の算出式に基づいて痛み計測値を算出する(ステップS6)。または、上記の痛み度の算出式の代わりに、上記の痛み指数の算出式に基づいて痛み指数を算出し(ステップS4)、算出した痛み指数から痛み計測値その2またはその3を算出してもよい(ステップS6)。
【0047】
その後、被測定者2が感じている痛みの感覚に対応したVASの値が入力されてMPU9に記憶される(ステップS7)。被測定者2がVASの値を選択する方法は、
図8に示すように、VASの数値またはフェイススケールが印刷された紙面やVASの数値またはフェイススケールが表示された画面を被測定者2に示し、被測定者2自身に、被測定者2が感じている痛みの度合に応じたVASの数値またはフェイススケールを指で指示してもらうことで選択する。なお、VASの数値またはフェイススケールをPC6の表示部6aに表示するようにしても良い。また、VASの値の入力のステップは、
図7の例では、ステップS7として説明するが、被測定者2によるVASの値の選択が終了していれば、VASの値の入力は、
図7に示すフローチャートのスタートからエンドまでのいずれのタイミングで行っても良い。
【0048】
次に、VASの値と痛み計測値のデータについて所定回数の過去のデータが有る場合には(ステップS8でYes)、MPU9は、痛みの要因の分類処理を実施する(ステップS9)。一方、VASの値と痛み計測値のデータについて所定回数の過去のデータが無い場合には(ステップS8でNo)、処理は、ステップS10に進む。
【0049】
ステップS10では、ステップS2で測定された最小感知電流値、ステップS3で測定された痛み対応電流値、ステップS4で算出された痛み指数、ステップS6で算出された痛み計測値、ステップS7で入力されたVAS値、ステップS8でYesの場合はステップS9で実施された痛みの要因の分類結果が、PC6の表示部6aに表示される。また、上記の各種の測定結果がプリンタ7で印刷用紙に印刷されたり、PC6に測定結果のデータが保存され(ステップS11)、痛みの測定が終了する。
【0050】
ここで、ステップS9の痛みの要因の分類処理について
図9を参照しながら説明する。なお、この処理は、痛みの原因を特定する処理でもある。痛みの要因は、(1)侵害受容性疼痛、(2)心因性疼痛、(3)神経障害性疼痛に大きく分類される。侵害受容性疼痛は、痛みを感じる侵害受容器が刺激されて起こる急性の痛みである。心因性疼痛は、心理的な要因に影響される痛みである。神経障害性疼痛は、末梢神経や中枢神経の障害などに起因する慢性的な痛みである。
【0051】
図9の例では、過去6回の痛みの測定データが不揮発性メモリ16に記憶されている。たとえば、過去6回の痛みの測定データが
図9に実線で示す経過d1のような状況になる場合は、客観的データと言える横軸の痛みの計測値の減少率と比較して主観的と言える縦軸のVASの値の減少率は小さい。このことから、実際の痛みの減少の割に、被測定者2が感じている痛みの減少は少ないことがわかる。よって、経過d1は、上述の(2)に相当する心因性疼痛として特定され分類される。同様に、過去6回の痛みの測定データが
図9に一点鎖線で示す経過d2のような状況になる場合は、客観的データと言える横軸の痛みの計測値の減少率と比較して主観的と言える縦軸のVASの値の減少率は大きい。このことから、被測定者2が感じている痛みの減少の割に、実際の痛みの減少は少ないことがわかる。よって、経過d2も上述の(2)に相当する心因性疼痛に分類される。また、過去6回の痛みの測定データが
図9に破線で示す経過d3のような状況になる場合は、横軸の痛みの計測値の減少率と縦軸のVASの値の減少率とがほぼ等しい。このことから、心理的な要因は比較的小さいと判断できるので、上述の(1)に相当する侵害受容性疼痛に分類される。その他に、図示は省略するが、痛み計測値とVASの値の双方が共に時間の経過に伴って減少せず、慢性的な痛みの継続を示す場合には、上述の(3)に相当する神経障害性疼痛に分類される。
【0052】
なお、最小感知電流値、痛み対応電流値、痛み指数、VASおよび痛み計測値は、たとえば、
図3に示すように、表示部6aに表示される。すなわち、最小感知電流値、痛み対応電流値および痛み指数は、表示部6aにおいて、測定データ表示領域α1および測定結果表示領域α2に表示される。VASおよび痛み計測値は、表示部6aにおいて、測定データ表示領域α2およびα7に表示される。その他に、表示部6aにおいて、測定データ表示領域α6aには、フェイススケールが表示され、測定データ表示領域α6bには、VASが表示される。たとえば、被測定者に対し、測定データ表示領域α6aに表示されているフェイススケールの痛みに対応した位置を指示してもらうことで、測定データ表示領域α6bに表示されているVASの値を決定することができる。
【0053】
図3に示す表示例では、測定データ表示領域α1には、「Minimum」の表示の下に最小感知電流値の3回の測定値およびその平均値が表示されている。また、測定データ表示領域α1には、「Pain」の表示の下に痛み対応電流値の3回の測定値(
図3の表示例では1回のみ測定を実施)およびその平均値が表示されている。さらに、測定データ表示領域α1には、「Pain Ratio」の表示の右横に痛み指数が表示されている。この測定データ表示領域α1に表示された痛み指数は、痛み対応電流の平均値を最小感知電流の平均値で割った値である。また、痛み対応電流値の表示の右横には、最小感知電流の平均値と痛み対応電流の平均値とが積上げ縦棒グラフで表示されている。
図3では、黒色で示す部分が最小感知電流の平均値であり、白色で示す部分が痛み対応電流の平均値である。
【0054】
また、
図3に示す表示例では、測定結果表示領域α2には、6人の被測定者2の痛みの測定結果が表示されている。具体的には、測定結果表示領域α2には、「Min Ave」の表示の下に、各被測定者2の最小感知電流値の平均値が表示され、「Pain Ave」の表示の下に、各被測定者2の痛み対応電流値の平均値が表示されている。また、「Pain Ratio」の表示の下には、各被測定者2の痛み指数が表示され、左端には、各測定者2の最小感知電流の平均値と痛み対応電流の平均値とが積上げ横棒グラフで表示されている。
図3では、黒色で示す部分が最小感知電流の平均値であり、白色で示す部分が痛み対応電流の平均値である。さらに、測定結果表示領域α2には、「VAS」の表示の下に、各被測定者2のVASの値が表示されている。また、「痛み計測値」の表示の下には、各被測定者2の痛み計測値が表示されている。上述の表示は、1人の被測定者2に対する過去6回の痛みの測定結果であってもよい。また、測定結果表示領域α2のVASの値および痛み計測値が一人の被測定者2に対する過去6回の測定結果である場合などのように、
図7のフローチャートのステップS8がYesとなる場合には、測定結果表示領域α2の下部の「分類」の表示の横に「侵害受容性疼痛」などの分類結果が表示される。
【0055】
なお、表示部6aでは、被測定者データ表示領域α3に、被測定者2の性別、年齢等の各種情報が表示され、グラフタイプ表示領域α4に、測定データ表示領域α1および測定結果表示領域α2に表示されるグラフのタイプが表示され、グラフスケール表示領域α5に、測定データ表示領域α1および測定結果表示領域α2に表示されるグラフのスケールが表示されている。
【0056】
(刺激電流が被測定者に与える痛み)
図10は、被測定者2が痛みを感じる刺激電流の電流値である痛み発生電流値および最小感知電流値の測定結果を示すグラフであり、(A)は本発明の実施の形態にかかる刺激電流を被測定者2に付与したときの測定結果を示し、(B)は従来の矩形波からなる刺激電流を被測定者2に付与したときの測定結果を示す。
【0057】
8人の被測定者2に対して本形態の刺激電流を付与したとき、
図10(A)に示すように、最小感知電流値は、3.36±0.76mAであった。また、刺激電流の電流値を、痛み測定装置1の上限値となる約33mAまで増加させたが、刺激電流によって被測定者2が痛みを感じることはなかった。なお、被測定者2は、刺激電流によって痛みを感じることはなかったが、痛みと同程度の強度に感じる異種の刺激(すなわち、痛みを伴わない刺激)を感じており、この刺激の大きさから痛みの定量的な評価が可能であった。
【0058】
これに対して、8人の被測定者2に対して従来の矩形波からなる刺激電流を付与したときは、
図10(B)に示すように、最小感知電流値は、0.79±0.24mAであった。また、刺激電流を増加させると、被測定者2は刺激電流によって痛みを感じた。この被測定者2が痛みを感じる刺激電流の電流値である痛み発生電流値は、6.66±3.03mAであった。
【0059】
(本形態の主な効果)
本形態の痛み測定装置1では、パワースペクトルのピーク値が
図4のグラフG1、G2で示すように推移する刺激電流が電極3aから被測定者2に付与される。そのため、
図10(A)を用いて説明したように、被測定者2が刺激電流によって新たな痛みを感じることなく、被測定者2の感じている痛みの測定が可能になる。この測定値は従来に比べ、より客観的なものである。
【0060】
この本形態の効果を
図11を用いてより詳細に説明する。
図11は、本発明の実施の形態にかかる刺激電流および従来の矩形波からなる刺激電流が、Aδ線維およびAβ線維にそれぞれ与える刺激の強さを説明するための模式的なグラフである。
【0061】
上述のように、Aδ線維への刺激に関与するのは、パワースペクトルの50Hzから500Hzまでの積分値であり、Aβ線維への刺激に関与するには、パワースペクトルの50Hzから3000Hzまでの積分値であると考えられている。したがって、ここでは、パワースペクトルの50Hzから500Hzまでの積分値を、Aδ線維への刺激に関与する刺激強さの総和値と定義する。また、パワースペクトルのピーク値の50Hzから3000Hzまでの積分値を、Aβ線維への刺激に関与する刺激強さの総和値と定義する。
【0062】
また、Aδ線維の刺激強さの総和値であって、被測定者2が刺激を感じる最小値(以下、この値を「Aδ線維の感知閾値」とし、
図11にもこのように表記する)は、Aβ線維の刺激強さの総和値であって、被測定者2が刺激を感じる最小値(以下、この値を「Aβ線維の感知閾値」とし、
図11にもこのように表記する)の約3分の1であることが知られている。また、Aδ線維の刺激強さの総和値であって、被測定者2が痛みを感じる最小値(以下、この値を「Aδ線維の疼痛閾値」とし、
図11にもこのように表記する)は、Aδ線維の感知閾値の約5倍であることが知られている。以上から、
図11では、縦軸を刺激強さの総和値とするとともに、Aδ線維の感知閾値、Aβ線維の感知閾値およびAδ線維の疼痛閾値の比率を縦軸の値として表示している。
図11の縦軸では、Aδ線維の感知閾値の大きさを「1」としているため、Aβ線維の感知閾値の大きさは「3」、Aδ線維の疼痛閾値は「5」となる。なお、Aβ線維は痛みの伝達に関与しないため、理論上は、Aβ線維の疼痛閾値は存在しないと考えられる。
【0063】
本形態の刺激電流の特性を示す
図4のグラフG1またはグラフG2から、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比を算出すると、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比は約1:6であった。一方、従来の刺激電流の特性を示す
図4のグラフG3またはグラフG4から、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比を算出すると、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比は約1:2であった。なお、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比は、Aδ線維への刺激と関連するパワースペクトルのピーク値の50Hzから500Hzの範囲での総和値と、Aβ線維への刺激と関連するパワースペクトルのピーク値の50Hzから3000Hzの範囲での総和値との比と等しくなる。
【0064】
このAδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比、および、上述した刺激電流が被測定者2に与える痛みの測定結果(
図10に示す測定結果)から、本形態の刺激電流を用いた場合には、刺激電流を大きくしていっても、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比は常に1:6であるため、Aβ線維が最初に電気刺激を感知する(すなわち、最小感知電流値の測定の際にはAβ線維が関与する)と考えられる。一方、従来の刺激電流を用いた場合には、刺激電流を大きくしていっても、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比は常に1:2であるため、Aδ線維が最初に電気刺激を感知する(すなわち、最小感知電流値の測定の際にはAδ線維が関与する)と考えられる。
【0065】
すなわち、本形態の刺激電流を用いた場合、刺激電流の電流値を0から次第に増加させたときには、Aδ線維の刺激強さの総和値がAδ線維の感知閾値に達するよりも先に、Aβ線維の刺激強さの総和値がAβ線維の感知閾値に達する。換言すれば、本形態の刺激電流は、Aδ線維よりも先にAβ線維を刺激する。また、本形態の刺激電流では、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比が約1:6であるため、
図11に示すように、Aβ線維の刺激強さの総和値がAβ線維の感知閾値に達する(すなわち、Aβ線維の刺激強さの総和値がB点の位置になる)とき、Aδ線維の刺激強さの総和値は「0.5」であり、Aδ線維の感知閾値には達していない(すなわち、A点の位置になる)。
【0066】
一方、従来の刺激電流を用いた場合、刺激電流の電流値を0から次第に増加させたときには、Aβ線維の刺激強さの総和値がAβ線維の感知閾値に達するよりも先に、Aδ線維の刺激強さの総和値がAδ線維の感知閾値に達する。また、従来の刺激電流では、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比が約1:2であるため、
図11に示すように、Aδ線維の刺激強さの総和値がAδ線維の感知閾値に達する(すなわち、Aδ線維の刺激強さの総和値がC点の位置になる)とき、Aβ線維の刺激強さの総和値は「2」であり、Aβ線維の感知閾値には達していない(すなわち、D点の位置になる)。
【0067】
なお、
図11では、A点とB点とを実線で結び、C点とD点とを二点鎖線で結んでいるが、これは、グラフの見やすくするための便宜上の直線であり、これらの直線は特に意味を持たない。
【0068】
ここで、刺激電流の電流値をさらに増加させた場合を考える。刺激電流を増加させると、刺激強さの総和値が上昇する。そして、Aδ線維の刺激強さの総和値がAδ線維の疼痛閾値に達すると被測定者2は、刺激電流によって新たな痛みを感じる。そのため、これ以上の電流値の刺激電流を与えることは、被測定者2にとって酷であり、刺激電流によって被測定者2が新たな痛みを感じ始めた以降は、痛みの測定を継続することはできない。すなわち、被測定者2が電気刺激を感じ始めてから、電気刺激による痛みを感じるまでの間で痛み測定装置1による痛みの測定が可能となる。換言すると、Aδ線維の刺激強さの総和値がE点に達するまで(刺激強さの総和値が「5」となるまで)が、痛みを伴わない刺激電流による被測定者2の痛みの測定可能範囲となる。
【0069】
本形態の刺激電流を用いた場合、最小感知電流値は、Aβ線維が最初に電気刺激を感知したとき、すなわち、Aβ線維の刺激強さの総和値がB点に達したときの刺激電流の値である。このとき、Aδ線維の刺激強さの総和値は、上述のように、0.5であり、A点の位置になるため、Aδ線維の刺激強さの総和値がA点からE点の範囲にあれば、痛みを伴わない刺激電流による痛みの測定が可能となる。すなわち、Aδ線維の刺激強さの総和値が0.5から5の範囲であれば痛みの測定が可能であり、痛みを伴わない刺激電流として、最小感知電流値の10倍の電流値の刺激電流を被測定者2に付与することが可能になる。なお、この痛みの測定可能範囲に対応するAβ線維の刺激強さの総和値の範囲は3から30となる。
【0070】
これに対して、従来の刺激電流を用いた場合、最小感知電流値は、Aδ線維が最初に電気刺激を感知したとき、すなわち、Aδ線維の刺激強さの総和値がC点に達したときの刺激電流の値である。したがって、Aδ線維の刺激強さの総和値がC点からE点の範囲にあれば、痛みを伴わない刺激電流による痛みの測定が可能となる。すなわち、Aδ線維の刺激強さの総和値が1から5の範囲にあるときのみに痛みの測定が可能であり、痛みを伴わない刺激電流として、最小感知電流値の5倍の電流値の刺激電流しか被測定者2に付与ことができない。なお、この痛みの測定可能範囲に対応するAβ線維の刺激強さの総和値の範囲は2から10となる。
【0071】
このように、従来の刺激電流を用いた場合には、最小感知電流値の5倍の電流値の刺激電流しか被測定者2に付与できなかったのに対し、本形態の刺激電流を用いた場合には、最小感知電流値の10倍の電流値の刺激電流を痛みを与えずに被測定者2に付与することができる。すなわち、本形態の刺激電流を用いた場合には、痛みを伴わない刺激電流によって被測定者2の痛みを測定できる範囲は、従来の刺激電流と用いた場合の2倍になり、被測定者2が感じている痛みの度合いを広範囲で測定することが可能となる。また、本形態の刺激電流を用いた場合には、痛みを伴わない刺激電流によって痛みの度合いを広範囲で測定することができるため、
図10(A)を用いて説明したように、刺激電流の電流値を、痛み測定装置1の上限値となる約33mAまで増加させても、刺激電流によって被測定者2が痛みを感じることはない。すなわち、Aδ線維の刺激強さの総和値がAδ線維の疼痛閾値に達する前に、痛みと同程度の強度に感じる異種の刺激(すなわち、痛みを伴わない刺激)によって被測定者2の痛みの定量的な評価を終わらせることができ、刺激電流によって被測定者2が新たな痛みを感じることはない。
【0072】
以上のように、本形態の刺激電流を用いた場合、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比(すなわち、Aδ線維への刺激と関連するパワースペクトルのピーク値の50Hzから500Hzの範囲での総和値と、Aβ線維への刺激と関連するパワースペクトルのピーク値の50Hzから3000Hzの範囲での総和値との比)は約1:6となっており、刺激電流の電流値を0から次第の増加させたとき、Aδ線維よりも先にAβ線維を刺激電流が刺激する。そのため、痛みを伴わない電気刺激によって、被測定者2が感じている痛みの度合いを広範囲で測定することが可能となる。
【0073】
また、本形態の刺激電流には、Aδ線維を効率的に刺激する250Hzの周波数成分とAβ線維を効率的に刺激する2000Hzの周波数成分とが含まれている。そのため、被測定者2が感じている痛みにより近い感覚の異種の電気刺激によって痛みを測定することが可能となる。すなわち、痛みの伝達に関与するAδ線維を効率的に刺激する250Hzの周波数成分を含まない刺激電流を被測定者2に付与すれば、より広範囲で、痛みを伴わない異種の電気刺激を被測定者2に付与することも可能となる。しかし、痛みの伝達に関与するAδ線維を効率的に刺激する250Hzの周波数成分を全く含まなければ、痛みとは全く異なる感覚の刺激と被測定者2が感じている実際の痛みとを比較することになり、痛みの適切な評価が困難となる。これに対し、本形態のように、250Hzの周波数成分と2000Hzの周波数成分とを刺激電流に含ませた場合には、被測定者2が感じている痛みにより近い感覚の異種の電気刺激によって痛みを測定することが可能となる。
【0074】
なお、本形態の痛み測定装置1では、刺激電流に、持続的な鈍い痛みの伝達に関与するC線維を刺激する5Hzの周波数成分が含まれていない。そのため、この痛み測定装置では、C線維の刺激に起因する持続的な鈍い痛みを被測定者は感じない。
【0075】
また、本形態の刺激電流では、パワースペクトルのピーク値は、少なくとも50Hzから500Hzの間で略等しく、かつ、50Hzから2000Hzの間で最大となっている。そのため、刺激電流の波形の生成が容易になる。
【0076】
また、本形態のように、VASまたはフェイススケールと痛み計測値との関係を用いることにより、次のことが可能となる。すなわち、個々の痛み測定装置1の痛みの測定結果をVASという一般的な値に対応させることで、複数の被測定者2の間での痛みの測定結果の比較を行うことが可能になる。また、被測定者2の実際の痛みの測定結果と被測定者2が選択したVASの値との対応関係を解析することで、痛みの要因の分類または痛みの原因の特定を行うことができ、これにより病名診断を行うことができる。
【0077】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形可能である。
【0078】
上述した実施の形態では、VASやフェイススケールを利用したが他の主観的な痛み表示手段を採用してもよい。また、痛み計測値の代わりに痛み対応電流値を常用対数または自然数対数などで表示した数値を用いてもよい。すなわち、
図9のX軸にこの値を用いてもよい。
【0079】
上述した実施の形態の刺激電流では、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比は約1:6である。しかし、
図11からわかるように、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比が1:3以上であれば、すなわち、Aβ線維の刺激強さの総和値をAδ線維の刺激強さの総和値で割った値が3以上であれば、刺激電流の電流値を0から次第に増加させたとき、Aδ線維よりも先にAβ線維を刺激することができ、従来に比べ痛みを広範囲で測定することが可能となる。
【0080】
また、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比が1:12よりも大きくなると、すなわち、Aβ線維の刺激強さの総和値をAδ線維の刺激強さの総和値で割った値が12よりも大きくなると、痛みの伝達に関与しないAβ線維への刺激が相対的に強くなり、被測定者2が感じている痛みにより近い感覚の異種の電気刺激によって痛みを測定することが難しくなる。そのため、痛みにより近い感覚の異種の電気刺激によって痛みを測定するためには、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比が1:12以下となることが好ましい。
【0081】
このように、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比を1:3から1:12の範囲とすることで、痛みを伴わない電気刺激によって、被測定者2が感じている痛みの度合いを広範囲で測定することが可能となる。また、痛みを伴なわず、かつ、被測定者2が感じている痛みにより近い感覚の異種の電気刺激によって痛みを測定することが可能となる。
【0082】
また、上述した効果を有する刺激電流のパワースペクトルのピーク値の推移は、
図4に示すグラフG1やグラフG2には限定されない。刺激電流の電流値を0から次第に増加させたとき、Aδ線維よりも先にAβ線維を刺激する、あるいは、Aδ線維の刺激強さの総和値とAβ線維の刺激強さの総和値との比が1:3から1:12の範囲であるという条件を満足するのであれば、刺激電流のパワースペクトルのピーク値は、
図12(A)に示すグラフG3や
図12(B)に示すグラフG4のように推移しても良い。
【0083】
すなわち、
図12(A)に示すように、パワースペクトルのピーク値は、パワースペクトルのピーク値間を結んだ曲線の極大値が250Hz近傍および2000Hz近傍に現われるように推移しても良い。この場合、
図12(A)の実線で示すように、250Hz近傍および2000Hz近傍の極大値が等しく、かつ、この極大値がパワースペクトルのピーク値の最大値となるように、パワースペクトルのピーク値が推移をしても良いし、
図12(A)の破線で示すように、250Hz近傍の極大値がパワースペクトルのピーク値の最大値となっても良い。また、
図12(A)の二点鎖線で示すように、2000Hz近傍の極大値がパワースペクトルのピーク値の最大値となっても良い。
【0084】
また、
図12(B)の実線で示すように、パワースペクトルのピーク値は、250Hz近傍から2000Hz近傍に向かって次第に増加するとともに、その後、次第に減少するように推移しても良いし、
図12(B)の破線で示すように、パワースペクトルのピーク値は、250Hz近傍から周波数が大きくなるにつれ、次第に減少するように推移しても良い。
【0085】
なお、
図12(A)、(B)に示すように、刺激電流は、50Hzから3000Hzの範囲の周波数成分のみを有することが好ましい。50Hz以下の周波数成分および3000Hz以上の周波数成分は、Aδ線維およびAβ線維の刺激に関与しない。そのため、刺激電流が50Hzから3000Hzの範囲の周波数成分のみを有する場合には、小さな刺激電流で効率的にAδ線維およびAβ線維を刺激することができる。
【0086】
さらに、上述した形態では、刺激電流に250Hzの周波数成分と2000Hzの周波数成分とが含まれている。この他にもたとえば、刺激電流に250Hzの周波数成分は含まないが250Hz近傍の周波数成分を含むようにすることで、Aδ線維を刺激しても良い。同様に、刺激電流に2000Hzの周波数成分は含まないが2000Hz近傍の周波数成分を含むようにすることで、Aβ線維を刺激しても良い。
【0087】
また、痛みの要因や原因を(1)侵害受容性疼痛、(2)心因性疼痛、(3)神経障害性疼痛の3つに分類したり、特定したりしたが、(1)の侵害受容性疼痛と、その他に分類したり、(2)の心因性疼痛と、その他に分類したり、(1)の侵害受容性疼痛と(3)の神経障害性疼痛と、その他の3つに分類したりなど、上述の(1)(2)(3)のいずれか1つまたは複数を含むものに分類したり、特定したりするようにしてもよい。