特許第6122942号(P6122942)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6122942カーリーヘア、癖毛又は縮れ毛の半永久的矯正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6122942
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】カーリーヘア、癖毛又は縮れ毛の半永久的矯正方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/36 20060101AFI20170417BHJP
   A61Q 5/04 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   A61K8/36
   A61Q5/04
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-257248(P2015-257248)
(22)【出願日】2015年12月28日
(62)【分割の表示】特願2012-554338(P2012-554338)の分割
【原出願日】2011年2月23日
(65)【公開番号】特開2016-47851(P2016-47851A)
(43)【公開日】2016年4月7日
【審査請求日】2016年1月25日
(31)【優先権主張番号】MC2010A000028
(32)【優先日】2010年2月24日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】マンノッツィ,アルデラーノ
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−537620(JP,A)
【文献】 特開2007−314528(JP,A)
【文献】 特開2003−137758(JP,A)
【文献】 特表2013−531046(JP,A)
【文献】 GADD et al.,An Apparatus to Investigate the Ironing of Chemically Treated Sheepskins,Journal of the Textile Institute,1979年,Vol.70, Issue 7,pp.318-320
【文献】 International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook,2004年,10th Edition Vol.1,p.551
【文献】 International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook,2004年,10th Editon Vol.2,p.1191
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
DB等 JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半永久的毛髪矯正方法であって、次の各段階:
a)グリオキシル酸を含む溶液を毛髪に塗布する段階と、
b)物質を毛髪に15〜120分間持続的に接触させる段階と、
c)毛髪を乾燥させる段階と、
d)200±50℃の温度で毛髪矯正アイロンを用いて毛髪を矯正する段階とを有することを特徴とする方法。
【請求項2】
段階a)の前に塩基性pHのシャンプーで予備洗浄を行い、段階d)の後にすすぎを行うことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
段階d)の後に酸性pH洗浄によって洗髪することを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
段階b)は60±30分間行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記グリオキシル酸を水溶液に溶解することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記グリオキシル酸を重量比5%〜25%で水溶液に溶解することを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記グリオキシル酸を油状溶液に乳化させることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記グリオキシル酸をヨウ化カリウム、ジヒドロキシアセトン、オゾン化ホホバ油及び2,4−ヘキサジエナールからなる群より選ばれる物質の少なくとも1種と混合することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、カーリーヘア、癖毛又は縮れ毛の半永久的矯正に使用される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1.グリオキシル酸:α−ケト酸の1種であり、結晶一水和物(CAS番号:563−96−2)又は水溶液(CAS番号:298−12−4)として存在し得る。
主な同義語:ホルミルギ酸;α−ケト酢酸;グリオキサル酸;オキサルアルデヒド酸;オキソ酢酸;オキソエタン酸及びその他。化粧品分野での使用は安全と考えられており、pH緩衝剤機能を示す制約なしに用いることが可能である。
【0003】
2.α−ケト酸:α−ケト酸は、カルボキシル基の炭素原子に対してα位にカルボニル基を有する酸である。
【0004】
3.半永久的:カーリーヘアや癖毛を処理し、洗浄回数が5回を超える条件で持続的に矯正すること。
【0005】
4.毛髪矯正アイロン:熱と圧力を組み合わせて毛髪の矯正に用いる電気加熱装置。通常、種々の材料で覆われた2個の平坦な加熱要素で構成されており、該要素間で毛束を一度にプレスする。毛髪矯正アイロンは、一般に市場に出回っている。
【0006】
5.ヘアドライヤー:抵抗加熱とファンを有する通常の毛髪乾燥装置。
【0007】
6.緩衝剤:水に溶解し、酸や塩基の適度な添加に対して溶液内でのpH変化を防止する(緩衝する)物質。
【0008】
ヒトの毛髪は次の2種類に分類される。
第1の毛髪の種類は、いわゆる「アフロ」ヘア(直径が70〜100ミクロンの毛髪)であり、一般に色が濃く、ケラチン(ヒトの毛髪の主タンパク質)のアミノ酸鎖間のジスルフィド基の量に応じて大なり小なりカールしていることを特徴とする。
第2の毛髪の種類は、いわゆる「コーカジアン」ヘア(直径が「アフロ」ヘアに比べて小さい毛髪)であり、色は濃い場合も薄い場合もあり、ケラチン構造のジスルファイトブリッジの量が少ないために「アフロ」ヘアと比べてあまりカールしていないことを特徴とする。
【0009】
カーリーヘアや癖毛を矯正するのに現在用いられている技法は次の3種類である。
a.基本的には2個のホットプレート(100℃を超える温度)で構成された電気プレートを用いた処理。該プレート間に毛髪を設置し、プレスして所望のスタイリングを得る。その効果は水とシャンプーで1回洗浄すると消える。
b.低温での化学的及び機械的処理:化学物質を毛髪に塗布し、100℃未満の温度で処理し、各毛髪の性状を一時的に変えること(その効果は水とシャンプーで洗髪すると消える)。
c.高温での化学的及び機械的処理:化学物質を毛髪に塗布し、100℃を超える温度で処理し(上述のa)と同様の技法)、各毛髪の性状を一時的に変えること(その効果は水とシャンプーで洗髪すると消える)。
【0010】
現在の問題は、人のカーリーヘア、癖毛又は縮れ毛を矯正することができる化学物質は市場では知られているが、前記物質(即ち、ホルムアルデヒドや水酸化ナトリウム、硫黄化合物等)が、人への毒性や毛髪への攻撃性が高いという欠点を有していることである。
【0011】
また、化学物質を用いたこのような方法の場合でも、処理した毛髪が矯正後に矯正状態を長期間維持することは保証されないことについて言及する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、新しい化学的−機械的方法(上述のc)で説明したものと同様)を案出し、毛髪を半永久的に矯正することである(一旦処理した毛髪は、洗浄回数が5回を超えても矯正状態を維持する)。この革新は、高温での機械的処理と組み合わせた際に、現在の技術水準とは異なり、カーリーヘアや癖毛から真っ直ぐで、柔らかく、光沢があり、広がらない毛髪を得ることができる(前記特徴は水とシャンプーで繰り返し洗浄した後も維持される)化学物質のグループを同定することにある。
【0013】
本発明の更なる目的は、上述の特徴を有する方法を案出し、緩衝剤を非常に低い割合で用い、如何なる場合にも公知の方法で用いる値よりも低くして、処理した毛髪にかかるストレスを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらの目的は本発明によって達成されるが、本発明は添付した独立請求項1に記載の特徴を有する。
【0015】
従属請求項には、有利な実現が現れる。
【0016】
本発明の方法によって、約200℃(±50℃)の温度でのホットプレートを用いた機械的プレスと緩衝剤を含む溶液を用いた予防的毛髪処理との複合作用がもたらされる。
【0017】
より正確には、該方法は、
a)α−ケト酸類由来の緩衝酸剤を含む溶液を毛髪に塗布することと、
b)前記物質を毛髪に15〜120分間持続的に接触させることと、
c)毛髪を乾燥させることと、
d)約200±50℃の温度で毛髪矯正アイロンを用いて毛髪を矯正することを有する。
【0018】
特に、本発明の方法によって、毛髪構造が半永久的に変えられ、その状態が洗髪を通常の条件下で繰り返した後でも維持されることが分かった。
【0019】
化粧品分野で既に用いられている化学物質に対して研究を行い、毛髪に対して試験を行った結果、pH緩衝特性が既に知られており、機械的矯正と併用するとカーリーヘア、癖毛又は縮れ毛を特徴付ける典型的な屈曲を半永久的に除去することができる幾つかの物質が選択された。
【0020】
特に、毛髪の「屈曲」の低減や除去は、毛髪のくし通りの良さや各毛髪の全体的な広がりの低減として表現されるが、これは、前記屈曲の除去(その結果としての、空間を占めていた毛髪の広がりの低減)に起因する。
【0021】
本発明の更なる特徴は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の方法において実験を行った、欧州化粧品成分一覧表に含まれ、緩衝機能を有する物質の内、グリオキシル酸が最良の結果をもたらした。
【0023】
試験においては、グリオキシル酸(10g)を水(100mL)に溶解した。
より正確には、重量比を5〜25%とした。
【0024】
特に、毛髪を塩基性pH(7.5〜8.5)のシャンプーで洗浄した後、前記グリオキシル酸溶液を塗布した(塗布はハード毛ブラシやスプレーで行ってもよく、他の如何なる方法で行ってもよい)。
【0025】
しかし、前記塩基性シャンプーを用いた前記予備洗浄が半永久的な毛髪矯正にとって必須であることが示されなかったことに留意する必要がある。
【0026】
毛髪を該物質に60分間(±30分)接触させたままにした後、ヘアドライヤーで乾燥させた。
【0027】
一旦乾燥させて、平均温度約200℃(±50℃)に加熱した毛髪矯正アイロンで毛髪を矯正した。アイロンプレートの材料が本発明の方法に影響を及ぼさないことに留意する必要がある。
【0028】
最後に、毛髪を水で再度すすぐか、又はシャンプーで再度洗浄し、乾燥させた。
【0029】
処理終了時には、毛髪は光沢があり、真っ直ぐで、広がらず、感触が柔らかく、特に心地よかった。
【0030】
試験によって、本発明が天然の毛髪及び化学的に染色又は漂白した毛髪の両方に対して有効であることが示された。
【0031】
毛髪シャンプーの通常の使用条件下で少なくとも6回の洗浄、すすぎ及び乾燥に亘って処理の有効性が維持されることが実験的に示された(本明細書の末尾に添付された表(表1−A〜1−D)に記載の値によって確認される)。
【0032】
グリオキシル酸溶液に追加の物質の1種を添加して更なる試験を行った。
【0033】
各物質の試験は、グリオキシル酸溶液(100mL)に追加の物質の1種(10g)を添加して得た混合物にて行った。
【実施例】
【0034】
前記混合物の典型的な組成を以下に示す。
実施例1:
水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100mL
グリオキシル酸・・・・・・・・・・・・・・ 10g
ヨウ化カリウム・・・・・・・・・・・・・・ 10g
実施例2:
水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100mL
グリオキシル酸・・・・・・・・・・・・・・ 10g
ジヒドロキシアセトン・・・・・・・・・・・ 10g
実施例3:
水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100mL
グリオキシル酸・・・・・・・・・・・・・・ 10g
オゾン化ホホバ油・・・・・・・・・・・・・ 10g
不活性乳化剤(グリセロール)・・・・・・・ 10g
実施例4:
水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100mL
グリオキシル酸・・・・・・・・・・・・・・ 10g
オゾン化ホホバ油・・・・・・・・・・・・・ 10g
2,4ヘキサジエナール・・・・・・・・・・ 10g
【0035】
実施例3においては、毛髪矯正に対して不活性な乳化剤(グリセロール)を溶液に添加して、オゾン処理ホホバ油が水溶液に容易に分散するようにした。
【0036】
実施例3で得られた混合物は、ホホバ油を用いたので油状混合物である。
【0037】
実施例1、2、3及び4に記載の混合物を用いて行った処理の終了時でも、毛髪は光沢があり、真っ直ぐで、広がらず、感触が柔らかく、特に心地よかった。更に、持続性に関しても毛髪矯正の試験を行った。
【0038】
水溶液で得られた効果が、前記物質が市販の化粧品処方の一部である場合(即ち、化粧品分野で通常用いられる他の物質と混合した場合)にも再現できるかどうか確認するために更なる試験を行った。
【0039】
市場に出回っている毛髪処理化粧品にグリオキシル酸(更に、実施例1、2、3及び4に記載のヨウ化カリウム、ジヒドロキシアセトン、オゾン化ホホバ油及び2,4ヘキサジエナールとグリオキシル酸との混合物)を添加して更なる試験を行った。
【0040】
特に、INOARコスメティコス社(ブラジル、サンパウロ)製の化粧品(「トラタメントゥ・カピラール・マロキーノ」として知られる)の処方を用いて毛髪矯正試験を行った。該製品からは毛髪矯正用活性成分を除去した。
【0041】
前記化粧品(100mL)にグリオキシル酸(10g)を添加し、上述のページに記載のものと同様の毛髪処理操作を行った。得られた結果は、水中でのグリオキシル酸の割合が同じ場合の結果と一致した。
【0042】
処理終了時には、毛髪は持続的に光沢があり、真っ直ぐで、広がらず、感触が柔らかく、特に見た目がよかった。
【0043】
酸性水(100mL)の代わりに化粧品(100mL)を用い、実施例1、2、3及び4の混合物と同一の4種類の混合物を用いて行った4種類の試験から同様の結果が得られた。
【0044】
毛髪は真っ直ぐで、広がらず、感触が柔らかで、日光又は人工光に当てた際に特に光沢があった。
【0045】
実験的には、追加の物質の最良の範囲は5%〜25%であり、その各々の重量割合が5%〜25%に含まれるようにし、カーリーヘア、癖毛又は縮れ毛の矯正に対して不活性な物質を用いて100となるようにすることが最終的に確認された。
【0046】
毛髪矯正効果(その結果としての広がりの低減)は、通常のヘアドライヤーで約50〜60℃の温度で毛髪を加熱した際には評価していないが、約200±50℃の温度で数秒間処理した場合には最初のすすぎ及び/又はシャンプー洗浄までは毛髪矯正効果がはっきりと明らかであることが試験によって示されたことに留意する必要がある。
【0047】
また、前記試験によって、本発明で規定される接触時間及び本発明の混合物と各毛髪との接触時間が長い程、毛髪矯正効果が高くなることも示された。
【0048】
【表1-A】
【0049】
【表1-B】
【0050】
【表1-C】
【0051】
【表1-D】