(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
測定電流が流れる被測定導線と、該被測定導線から電気的に絶縁された磁気コアにより前記被測定導線と磁気的に結合されている励磁コイルとを備えた電流検知装置において、
前記磁気コアを飽和状態又はその近傍の状態で、前記励磁コイルに供給する励磁電流の向きを反転させる矩形波電圧を発生する矩形波発振回路と、
該矩形波発振回路から出力される前記矩形波電圧のデューティ変化に基づいて前記測定電流を検知するデューティ検出回路と、
前記励磁コイルに直列接続された可変抵抗部と、
前記励磁コイルの巻数を切り替え可能な巻数切替手段と、を備え、
前記可変抵抗部と前記巻数切替手段とは、電流検出感度重視の電流検出特性と、電流検出範囲重視の電流検出特性とを選択可能に連動されている
ことを特徴とする電流検知装置。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の電流検知装置として、種々のものが提案されているなかで、簡素な構成で微小電流の検知が可能なものとして、フラックスゲート型の電流センサが知られている(例えば、特許文献1参照)。
図5は、従来例に係る電流検知装置を示す説明図であって、
図5(a)はセンサ部の構成図であり、
図5(b)は励磁コイルに励磁電流を流した時の各磁気コアの磁束密度を示す図であり、
図5(c)は各磁気コアの磁束密度を正弦波で表現した図である。なお、
図5(b),(c)において、縦軸は磁束密度B、横軸は時間tを示している。
図5(a)に示すように、この電流検知装置のセンサ部は、第1,第2の磁気コア(以下、単にコアともいう)101,102と、励磁コイル13と、検出コイル14とを備えて構成されている。
【0003】
コア101は、軟磁性体により円環状に構成されている。コア102は、コア101と同等であり、そのコア101に対して同軸上に所定幅だけ離間して平行に配置されている。励磁コイル13は、各コア101,102に分けて、それぞれ等しく半分ずつ巻回された2組のコイルを直列接続して構成されている。検出コイル14は、各コア101,102の両方に挿通して掛け渡すように巻回されている。なお、両コア101,102は、材質、形状、寸法及び磁気特性の全てを同等にすることを目標に製造されている。
【0004】
励磁コイル13には三角波の励磁電流Iwを流すため、三角波発振器Wが接続されている。この励磁コイル13は、これに励磁電流Iwを流した時、両コア101,102に、互いに逆相の磁場が発生して相殺するような巻線形態で巻回されている。
図5(b)上のグラフは、三角波の励磁電流Iwにより、上側のコア101に生じる磁束密度Bの経時変化を示している。同様に、
図5(b)下のグラフは、三角波の励磁電流Iwにより、下側のコア102に生じる磁束密度Bの経時変化を示している。また、検出コイル14には不図示の検出回路が接続されている。そして、両コア101,102の中心部に被測定導線2が挿通されている。
【0005】
コア101,102の材質は、その磁気特性が、いわゆるB−H曲線で示される軟質磁性体である。すなわち、磁場Hが所定範囲内では、磁場Hと磁束密度Bとは直線的な関係にある。また、磁場Hが所定範囲を超えると、磁束密度Bが変化しない磁気飽和の状態となる。したがって、励磁コイル13に三角波の励磁電流Iwを流すと、各コア101,102に発生する磁束密度Bは、
図5(b)に実線で示すように上下対称の台形波状に変化する。そして、上述した相殺するような巻線形態のため、相互位相が180°ずれた状態となる。つまり、逆相である。
【0006】
ここで、被測定導線2に矢印で示す下向きに直流の測定電流Iが流れている時、この測定電流Iに相当する磁束密度Bが重畳される。その結果、
図5(b)に破線で示すように、磁束密度Bは、凸部が上向きの台形の幅が拡大され、凸部が下向きの台形の幅が縮小された波形となる。すなわち、測定電流Iが流れることで、各コア101,102に発生する磁束密度Bは、破線で図示するように上下非対称に変化する。そのため、検出コイル14には、
図5(c)に破線で示すように、励磁電流Iwの2次高調波成分の電圧が誘起される。
【0007】
図5(c)上段のグラフは、
図5(b)上段に示したコア101の磁束密度Bを、説明の便宜上、台形波から正弦波(起電力に対応)に矯正した図である。同様に、
図5(c)中段の波形は、
図5(b)下段に示したコア102の磁束密度Bを、台形波から正弦波に矯正した図である。
図5(c)上・中段の波形は、
図5(b)上・下段に示した相互に逆位相の台形波に基づいているので、逆位相である。すなわち、各コア101,102に発生する起電力は、逆位相で打ち消し合っている。
【0008】
一方、
図5(b)に破線で図示した台形波に対応し、
図5(c)に破線で図示するような、2倍の周波数の2次高調波が表れる。2つの基本波は180°ずれた逆位相のため相殺していたが、2次高調波の位相は360°ずれて同位相となり一致する。また、検出コイル14は、両コア101,102に挿通して掛け渡すように巻回されているため、各コア101,102それぞれの磁束変化により発生する誘起電圧は、各コア2つ分が加算されて検出される。したがって、
図5(c)の最下段に示すように、検出コイル14は、各コアから誘起される2次高調波成分の2倍相当の正弦波信号を検出する。この検出コイル14で捉えられた検出信号は、被測定導線2を流れる測定電流Iに対応している。したがって、この検出コイル14の検出信号を処理することで、測定電流Iを検出することができる。なお、被測定導線2が複数であれば、それらの方向性を考慮した合計電流値、すなわち、微小差電流値を検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1(a)は、本発明に係る電流検知装置の実施形態を示す概略構成図である。
図1(b)は、
図1(a)の電流検知装置の要部回路図である。
図1(a),(b)に示すように、電流検知装置100は、被測定導線2と、磁気コア(単にコアともいう)3と、励磁コイル40と、矩形波発振回路5と、デューティ検出回路6と、可変抵抗部8と、タップ切替スイッチ(巻数切替手段)24と、を備えて構成されている。
【0018】
被測定導線2が複数であれば、それら被測定導線2aに流れる電流Iaと被測定導線2bに流れる電流Ibとの微小差を測定電流Iとして、電流検知装置100が検出する。一般的な設備であれば、正常に動作している時は、I=Ia−Ib=0である。なお、被測定導線2が1本でも検出可能である。したがって、以下の説明では、被測定導線2は、本数に関わらず、単に被測定導線2という。
【0019】
円環状のコア3は、被測定導線2から電気的に絶縁されており、コア3の中心を被測定導線2が挿通されている。励磁コイル40は、コア3を介して被測定導線2と磁気的に結合されている。矩形波発振回路5は、矩形波電圧Vaを発生する。矩形波電圧Vaは、コア3を飽和状態又はその近傍の状態で、励磁コイル40に供給する励磁電流Iexの向きを反転させる。デューティ検出回路6は、矩形波発振回路5から出力される矩形波電圧Vaのデューティ変化に基づいて測定電流Iを検知する。励磁コイル40と可変抵抗部8とは直列接続され、矩形波発振回路5の出力端子VAからグランドGNDの間に介挿されている。可変抵抗部8は、複数の抵抗Ra〜Rdと、これら複数の抵抗Ra〜Rdを切り替え接続可能な抵抗切替スイッチ16とを備えている。なお、可変抵抗部8に含まれる各抵抗値は、Ra<Rb<Rc<Rdであり、抵抗切替スイッチ16で選択された抵抗をRXとする。つまり、直列抵抗RXの値を加減したい場合は、抵抗切替スイッチ16により、Ra<Rb<Rc<Rdのなかから適宜選択する
【0020】
巻数切替手段を構成するタップ切替スイッチ24は、励磁コイル40の有する複数のタップ15を切り替えて、矩形波発振回路5の出力端子VAに接続することが可能である。すなわち、励磁コイル40の巻数に応じて配置したタップ15を、タップ切替スイッチ24で切り替えることにより、励磁コイル40の巻数を変化させることが可能である。このタップ切替スイッチ24と、抵抗切替スイッチ16とは、それぞれの切り替え動作が連動可能である。電流検知装置100は、測定電流Iを検出する際、コア3に巻回された励磁コイル40の巻数によって、電流検出特性が変化する。その変化する電流検出特性とは、電流検出範囲及び電流検出感度である。つまり、タップ切替スイッチ24と、抵抗切替スイッチ16とを適宜操作することにより、電流検知装置100の電流検出範囲及び電流検出感度を任意に設定することが可能である。
【0021】
以下、電流検知装置100について、より詳しく説明する。
直流電流検知装置100は、測定電流Iが流れる被測定導線2に対して電気的絶縁を保ちながら測定電流Iを検知するものである。この直流電流検知装置100は、コア3と、励磁コイル40と、矩形波発振回路5と、デューティ検出回路6と、可変抵抗部8と、タップ切替スイッチ24とを備えている。コア3は、測定電流Iが流れる被測定導線2に対して電気的絶縁を保ちながら磁気的結合するように、被測定導線2を囲むように配置されている。励磁コイル40は、コア3に対して電気的絶縁を保ちながら磁気的結合するように、コア3に巻回されている。
【0022】
矩形波発振回路5は、非反転入力部E、反転入力部D及び出力端子VAを有するオペアンプ51と、そのオペアンプ51が適切に動作できる設定をするように、抵抗R1,R3,RXを備えて配線されている。励磁コイル40は、オペアンプ51の反転入力部Dと出力端子VAとを結ぶ負帰還経路に接続されている。矩形波発振回路5は、設定した閾値に応じて、コア3を飽和状態又はその近傍の状態で、励磁コイル40に供給する励磁電流Iexの極性を繰り返し反転することにより、矩形波電圧Vaを発生する。デューティ検出回路6は、矩形波発振回路5から出力される矩形波電圧Vaのデューティ変化に基づいて測定電流Iを検知する。
【0023】
図1(b)に示すように、矩形波発振回路5は、コンパレータとして動作するオペアンプ51を備えている。このオペアンプ51の出力部VAは、矩形波発振回路5の出力端子VAに接続されているので、同一符号VAを付して出力端子VAともいう。このオペアンプ51の出力端子VAと反転入力部Dとの間には、励磁コイル40が接続されている。また、オペアンプ51の非反転入力部Eは、抵抗R1を介してグランドGNDに接続されている。そして、オペアンプ51の出力端子VAとグランドGNDと間には、分圧抵抗R3,R1が直列に介挿されている。これら分圧抵抗R3と分圧抵抗R1との接続点Eは、オペアンプ51の非反転入力部Eに接続されている。したがって、これらに同一符号Eを付している。
【0024】
オペアンプ51の非反転入力部Eには、分圧抵抗R3と分圧抵抗R1との分圧比によって生成された閾値電圧Veが入力されている。一方、オペアンプ51の反転入力部Dには、励磁コイル40と抵抗RXとの接続点Dに発生する電圧Vdが入力される。なお、オペアンプ51の反転入力部Dは、励磁コイル40と抵抗RXとの接続点Dに接続されているので、同一の符号Dを付している。オペアンプ51は、コンパレータとして機能する。すなわち、閾値電圧Veと電圧Vdとを比較した結果、矩形波電圧Vaを出力端子VAから出力する。
【0025】
矩形波発振回路5は、設定した閾値Veに応じて、コア3を飽和状態又はその近傍の状態で、励磁コイル40に供給する励磁電流Iexの増減方向を反転させる矩形波電圧Vaを発生する。すなわち、オペアンプ51の出力端子VAと、グランドGNDとの間で、発振出力が出力される。デューティ検出回路6は、矩形波発振回路5から出力される矩形波電圧Vaのデューティ変化に基づいて、測定電流Iを検知する。なお、矩形波発振回路5と、デューティ検出回路6と、可変抵抗部8と、タップ切替スイッチ24とについては、さらに詳しく説明する。
【0026】
図2は、本発明に係る電流検知装置の実施形態における励磁コイルの巻数に対する、電流検出感度及び電流検出範囲を示す図である。
図2において、横軸は励磁コイル40の巻数、縦軸は電流検出感度及び電流検出範囲を示している。より詳細には、励磁コイル40の巻数に対する電流検出範囲を、2種類の破線で示しており、どちらも、巻数が増えるとともに電流検出範囲も大きくなる。また、太実線及び太破線は、励磁電流Iexが小さい(直列抵抗大)時の特性21である。そして、細実線及び細破線は、励磁電流Iexが大きい(直列抵抗小)時の特性22を示している。
【0027】
図1に示した可変抵抗部8は、直列抵抗を大きくして励磁電流Iexを小さくすることによって、
図2に太実線及び太破線で示す特性21を実現する。逆に、直列抵抗を小さくして励磁電流Iexを大きくすることによって、
図2に細実線及び細破線で示す特性22を実現する。
【0028】
図2に示すように、励磁コイル40の巻数を増やすことで、電流検出範囲は拡大するが、電流検出感度は低下する。逆に、励磁コイル40の巻数を減らすことで、電流検出範囲は縮小するが、電流検出感度は高くなる。
図2における、特性21,22の差異は、抵抗Ra〜Rdを、抵抗切替スイッチ16により切り替えて、励磁電流Iexを変化させることにより生じる。すなわち、励磁電流Iexが小さい時の特性21と、励磁電流Iexが大きい時の特性22との差異を示すように、電流検出感度と、電流検出範囲に違いが生じる。また、励磁コイル40の巻数に応じて配置したタップ15を、タップ切替スイッチ24で、切り替えることにより、巻数を変化させる。それと同時に、抵抗Ra〜Rdを、抵抗切替スイッチ16切り替えて、励磁電流Iexも変化させることができる。
【0029】
このように、電流検知装置100は、その用途に応じて、タップ切替スイッチ24と、抵抗切替スイッチ16とを連動して切り替え操作することができる。例えば、電流検出範囲は狭くても良いが高感度で検出したい場合と、その逆に、感度は低くても良いが広範囲の電流を検出したい場合とに区別して対応することができる。このように、1台の電流検知装置100で、使用条件に応じた電流検出特性の切り替え設定ができる。また、電流検出特性ばかりでなく、抵抗Ra〜Rdを抵抗切替スイッチ16により切り替えて励磁電流Iexを変化させることにより、電流検知装置100の消費電流を低化させることも可能になる。つまり、用途に応じて、必要最小限の消費電流に設定して用いることも可能である。
【0030】
図1において、電流検知装置100は、被測定導線2の電流Iを検出する。例えば、漏電検知等の対象物に設けられ、往復の電流が10A〜800A程度で流れる被測定導線2a,2bの微小な差異電流を検知する。漏電検知等の対象物が、健全状態では被測定導線2a,2bに流れる電流の和はゼロである。しかし、漏電や地絡などの事故時には、被測定導線2a,2bに流れる電流の和がゼロにならない。したがって、検出対象とする15mA〜500mA程度の微小な差異電流、すなわち、測定電流Iが流れる。これら被測定導線2a,2bを取り巻いてリング状のコア3が設けられている。つまり、コア3内に被測定導線2a,2bが挿通されている。コア3には、励磁コイル40が巻回されている。この励磁コイル40に矩形波発振回路5から励磁電流Iexが供給される。
【0031】
図3は、矩形波発振回路の基本動作を説明するため、出力電圧波形と励磁コイルの電流波形とを示す模式図である。
図3(a)において、横軸は時間t、縦軸はオペアンプ51の出力端子VAにおける矩形波電圧Vaを示している。
図3(b)において、横軸は時間t、縦軸は励磁電流Iexを示している。なお、縦軸に示す(±Ith1)は、閾値電圧Ve=(±Vth1)である時に対応している。閾値電圧に対して、接続点Dの電圧Vdが比較されて、その比較出力が
図3(a)に示す矩形波の矩形波電圧Vaとして出力端子VAから出力される。
図3(a)に示すように、時点t1において、オペアンプ51の出力端子VAの矩形波電圧Vaがハイレベルとなると、これが励磁コイル40に印加される。このため、励磁コイル40を矩形波電圧Vaと抵抗RXとに応じた励磁電流Iexで励磁する。この励磁電流Iexは、
図3(b)に示すように、矩形波電圧Vaの立ち上がり時点t1から急峻に立ち上がり、その後緩やかに増加する。
【0032】
時点t1において、オペアンプ51の非反転入力端子Eには、閾値電圧Vth1が入力されている。一方、オペアンプ51の反転入力端子Dの電圧Vdは、励磁コイル40の励磁電流Iexの増加に応じて上昇する。その後、
図3(b)のF点において、電圧Vdが非反転入力端子Eの閾値電圧Vth1を上回る。そうすると、オペアンプ51の矩形波電圧Vaが、
図3(a)に示す時点t2において、ローレベルに反転する。
【0033】
時点t2以降、励磁コイル40を流れる励磁電流Iexの向きが反転し、励磁電流Iexが急峻に低下し、その後緩やかに低下する。時点t2以降、閾値電圧Vthは、矩形波電圧Vaがローレベルとなっていることにより、閾値電圧Vth1も低い電圧(−Vth1)となっている。そして、オペアンプ51の反転入力端子Dの電圧Vdが、励磁コイル40の励磁電流Iexの減少に応じて減少する。それから、時点t3において、反転入力端子Dの電圧Vdは、非反転入力端子Eの閾値電圧(−Vth1)を下回る。そうすると、
図3(a)に示す時点t3において、オペアンプ51の矩形波電圧Vaは、時点t1と同様にハイレベルに反転する。
【0034】
このように、
図3(a)t1〜t3・・・で示すように、矩形波電圧Vaは、ハイレベル及びローレベルを繰り返す矩形波電圧Vaとなる。つまり、矩形波発振回路5が非安定マルチバイブレータとして動作する。そして、励磁コイル40の励磁電流Iexは、
図3(b)に示すように増加及び減少を繰り返す。
図4は、B−H特性線図、及びコアのインダクタンス特性を示す特性線図である。
図4(a)の横軸はコア3を磁化しようとする磁界の強さH(A/m)、縦軸は磁界Hにより磁化されたコア3の磁束密度B(T)である。また、
図4(b)の横軸は、励磁コイル40に流す励磁電流Iexであり、縦軸はコアのインダクタンスL(H)である。
【0035】
図4(a)に示すように、パーマロイ等の高透磁率材料で構成されたコア3は、磁界Hの強さに対するコア3の磁束密度Bの関係は、いわゆるB−H特性であり非線形である。そのため、被測定導線2a,2bの差電流Ia−Ib=I=0の時、
図4(b)に示すように飽和電流付近Gで、コア3のインダクタンスLが急激に消失する。ここで、コア3を貫通する被測定導線2a,2bに微小な差電流、すなわち測定電流I=Cが生じると、
図4(b)の破線に示すように、インダクタンス特性が、励磁電流Iexを相当に流した方向にシフトする。その結果、インダクタンスLが消失するタイミングが変化する。
【0036】
なお、
図4(b)における横軸上のGからJまでの間をCと示しているが、このCは、その横軸のスケールから直読できる電流値ではないことを説明する。被測定導線2に測定電流I=Cが流れると、右ねじの法則により、その被測定導線2の周囲に磁力線が発生する。この磁力線は、円環状のコア3に沿って発生するので、測定電流Iが(0→C)上昇した分だけ、コア3の磁束密度Bが上昇する。一方、コア3に巻回されている励磁コイル40に励磁電流Iexを流した場合にも、コア3の磁束密度Bが上昇する。ただし、被測定導線2と、励磁コイル40とは、コア3に対する磁気結合の形態が異なる。そのため、被測定導線2と、励磁コイル40とに、それぞれ流す測定電流Iと、励磁電流Iexとでは、コア3の磁束密度Bを上昇させる能力も異なる。したがって、
図4(b)に示すGからJまでの区間において、コア3の磁束密度Bを上昇させるために必要な励磁電流Iex=Cというわけではない。
【0037】
なお、環状のコア3に挿通されている被測定導線2を1次巻線とし、コア3に巻回されて励磁コイル40を2次巻線と考えることもできる。そうすれば、コア3の磁束密度Bを所定量だけ上昇させるために要する所定の電流値を、1次巻線に流れる測定電流Iと、2次巻線に流れる励磁電流Iexとの両方から求めることができる。ここでいう、所定の電流値については、
図4(b)における横軸上のG,Jが該当する。したがって、
図4(b)における横軸上のG,Jに示す励磁電流Iexから、測定電流I=Cを算出することが可能となる。
【0038】
ここで、
図3(b)のFに示した、励磁電流Iexの向きが切り換わる電流(+Ith1)を、
図4のGに示した励磁電流Iexの値に一致させるように設定する。すなわち、被測定導線2の電流I=0において、コア3のインダクタンスLが飽和する励磁電流Iex=(+Ith1)となるように設定する。そうすると、
図4(b)に示すように、測定電流Iが上昇した(I=0→C)相当分だけ、励磁電流Iexも(G→J)と変化する。つまり、インダクタンスLを飽和させる励磁電流Iexは、被測定導線2の測定電流Iの変化に伴って変化する。したがって、励磁電流Iexの向きが切り換わる電流も、
図3(b)においてF→Hに示すように変化する。
【0039】
この励磁電流Iexの向きを切り換えるように作用する測定電流Iが変化することにより、励磁コイル40と抵抗RXとの接続点Dの電圧Vdの上昇タイミングが遅れる。そのため、電圧Vdが、閾値電圧Vth1を上回るタイミングが遅れることになる。このように、測定電流Iが上昇した(I=0→C)相当分だけ、矩形波電圧Vaの立ち下がり時点は、
図3(a)で破線に示すように遅れる。その結果、矩形波電圧Vaのデューティ比が変化する。
【0040】
図1に示すように、デューティ検出回路6は、矩形波発振回路5の出力端子VAに接続されている。このデューティ検出回路6は、矩形波電圧Vaがハイレベル状態を維持している時間と、ローレベル状態を維持している時間とを計測することにより、デューティ比を検出する。検出したデューティ比に基づいて、被測定導線2の電流Cを検知することができる。
【0041】
また、
図1に示す励磁コイル40の巻数Nと電流検出感度及び電流検出範囲との関係は、
図2に示すようになる。すなわち、電流検出感度は、
図2に実線で図示する双曲線状の特性線で表されるように、励磁コイル40の巻数Nが少ない領域では感度が高く、励磁コイル40の巻数Nが増加するにつれて徐々に双曲線状に減少する。逆に、電流検出範囲は、
図2に破線で図示する双曲線状の特性線で表されるように、励磁コイル40の巻数Nが少ない領域では、電流検出範囲が狭く、励磁コイル40の巻数Nが増加するにつれて徐々に電流検出範囲が広くなる。このように、タップ切替スイッチ24で固定端子Ts1,Ts2,Ts3及びTs4の順に選択することにより、電流検出感度は高感度状態から低感度状態に徐々に切換わり、逆に電流検出範囲は、狭い範囲から広範囲に徐々に切換わることになる。
【0042】
したがって、電流検出範囲が狭くて良いが、電流検出感度を高めたいときには、巻数Nが小さくなるようにタップ切替スイッチ24で固定端子Ts1を選択する。これによって、励磁コイル40の巻数Nが少なくなり、電流検出感度を高めることできる。ここで、さらに電流検出感度を高めたい場合には、
図2において、太実線で示す特性21に設定するように、直列抵抗RX=Rd(大)にし、励磁電流Iexを小さくする。すなわち、直列抵抗RXの値を大きくしたい場合は、抵抗切替スイッチ16により、Ra<Rb<Rc<RdのなかからRdを選択する。
【0043】
逆に、電流検出感度は低くて良いが、電流検出範囲は広くしたときには、巻数Nが大きくなるようにタップ切替スイッチ24で固定端子Ts4を選択する。これによって、励磁コイル40の巻数Nが多くなり、電流検出範囲を広くすることができる。ここで、さらに電流検出範囲を広げたい場合には、
図2において、細破線で示す特性22に設定するように、直列抵抗RX=Ra(小)にし、励磁電流Iexを大きくする。すなわち、直列抵抗RXの値を小さくしたい場合は、抵抗切替スイッチ16により、Ra<Rb<Rc<RdのなかからRaを選択する。
【0044】
したがって、1つの電流検知装置で、電流検出感度重視の電流検出特性と電流検出範囲重視の電流検出特性との両方を、適宜選択して使い分けられる。さらに電流検出感度を高めたい場合や、電流検出範囲を広げたい場合にも、ある程度の機能を増強するように対応可能である。すなわち、タップ切替スイッチ24及び抵抗切替スイッチ16によって、電流検知装置100の検出特性を、使用条件に応じた所望の特性に設定することができる。なお、タップ切替スイッチ24は、上述した固定端子Ts1又はTs4のみならず、適宜Ts2,Ts3も選択可能である。同様に、抵抗切替スイッチ16は、上述したRa又はRdのみならず、適宜Rb,Rcも選択可能である。
【0045】
なお、上記実施形態においては、タップ切替スイッチ24で励磁コイル40の巻数Nを4段階に選択する場合について説明したが、これに限定されるものではない。励磁コイル40のタップ15の数を増やすとともに、タップ切替スイッチ24の切替選択肢を、タップ15の数と同数に設定することで対応できる。また、上記実施形態においては、1つの励磁コイル40の巻数Nをタップ切替スイッチ24で選択する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、巻数の異なる複数の励磁コイルをコア3に巻装し、複数の励磁コイルを選択スイッチで選択するようにしてもよい。
【0046】
また、上記実施形態においては、
図1に示した可変抵抗部8は、複数の抵抗Ra〜Rdを適宜切替選択する構造であったが、これに限定されるものではない。例えば、無段階の摺動抵抗でも構わない。あるいは、複数の抵抗のうち任意本数を、適宜直並列につなぎかえることにより、所望の抵抗値を得るようにしても良い。また、これら抵抗切替スイッチ16は、適切な制御信号により、トランジスタスイッチをオン・オフさせる構成が好ましい。
なお、被測定導線は、2本に限らず何本でも構わない。また、1本の被測定導線に流れる微小電流を検出することもできる。
【0047】
以上、説明したように、本発明に係る電流検知装置の実施形態によれば、コアを1つにして、小型化及びコストダウンを可能とする。また、2つのコアの欠点であった磁気特性の差異による出力誤差も生じることなく微小電流の検出を可能とする。しかも、検出範囲及び検出感度の点で使用条件に応じて任意に電流検出特性を設定することにより1台の使用範囲を広げることが可能となる。