特許第6123387号(P6123387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6123387
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20170424BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20170424BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20170424BHJP
   C08K 5/41 20060101ALI20170424BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20170424BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08K3/36
   C08K5/548
   C08K5/41
   B60C1/00 A
   B60C11/00 B
   B60C1/00 B
   B60C1/00 Z
   B60C1/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-53527(P2013-53527)
(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公開番号】特開2014-177588(P2014-177588A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2016年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】亀田 慶寛
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−036321(JP,A)
【文献】 特開2011−140612(JP,A)
【文献】 特開2011−140613(JP,A)
【文献】 特開2011−140547(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/057365(WO,A1)
【文献】 特開2012−144598(JP,A)
【文献】 特開昭60−199643(JP,A)
【文献】 特開2010−260920(JP,A)
【文献】 特開2012−180408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを50〜120重量部、メルカプト基及び/又はブロックされたメルカプト基を有するシランカップリング剤を2.4〜12重量部、下記式(1)で表わされるS−(アミノアルキル)チオ硫酸又はその金属塩を0.03〜2重量部配合したことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【化1】
(式中、nは1〜10の整数を表す。)
【請求項2】
前記シリカのCTAB比表面積が180〜280m2/gであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、下記式(2)で表わされるメルカプトシラン化合物、または下記式(3)および(4)の構造を有する共重合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【化2】
(式中、R1,R2,R3は互いに独立して、水素、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、鎖長が4〜30の直鎖ポリエーテル基、炭素数6〜30のアリール基から選ばれると共に、少なくとも1つは前記アルコキシ基、少なくとも1つは前記直鎖ポリエーテル基であり、R4は炭素数1〜30のアルキレン基である。)
【化3】
(式中、R5およびR6で環構造を形成してもよく、R5は水素、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基或いはアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニル基或いはアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニル基或いはアルキニレン基、前記アルキル基或いはアルケニル基の末端がヒドロキシル基若しくはカルボキシル基で置換された基から選ばれ、R6は炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニレン基から選ばれ、xは1以上の整数である。)
【化4】
(式中、R7およびR8で環構造を形成してもよく、R7は水素、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基或いはアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニル基或いはアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニル基或いはアルキニレン基、前記アルキル基或いはアルケニル基の末端がヒドロキシル基若しくはカルボキシル基で置換された基から選ばれ、R8は炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数2〜30アルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニレン基から選ばれ、yは1以上の整数である。)
【請求項4】
請求項1,2又は3に記載のタイヤ用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低転がり抵抗性、操縦安定性及び加工性のバランスを改良するようにしたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤに対する要求性能として、地球環境問題への関心の高まりに伴い燃費性能が優れることが求められている。燃費性能を向上するためには転がり抵抗を低減すること必要である。このため空気入りタイヤを構成するゴム組成物の発熱を抑えることにより、タイヤにしたときの転がり抵抗を小さくすることが行われている。ゴム組成物の発熱性の指標としては一般に動的粘弾性測定による60℃のtanδが用いられ、ゴム組成物のtanδ(60℃)が小さいほど発熱性が小さくなる。
【0003】
ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくする方法として、シリカを配合することが多い。ここでシリカはゴム中で凝集しやすいため、通常シランカップリング剤がシリカと共に配合される。とりわけメルカプト基を有するシランカップリング剤を配合することにより、ゴム組成物のtanδ(60℃)を大幅に小さくできることが知られている。しかしながら、メルカプト基を有するシランカップリング剤を配合すると、ゴム組成物のスコーチが短くなり早期加硫を起こしやすくなって加工性が悪化すること、またゴム硬度が低下してタイヤにしたときの操縦安定性が低下することという問題があった。
【0004】
特許文献1は、特定のジエン系ゴムにメルカプト基を有するシランカップリング剤及びイミダゾール化合物を配合したマスターバッチからなるタイヤ用ゴム組成物が、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくし、高粘度化を抑制し加工性を改良することを記載している。しかし、このゴム組成物では、ゴム組成物のゴム硬度を確保し、操縦安定性を維持、向上する効果が必ずしも十分ではなく更なる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−153865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低転がり抵抗性、操縦安定性及び加工性のバランスを従来レベル以上に改良するようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを50〜120重量部、メルカプト基及び/又はブロックされたメルカプト基を有するシランカップリング剤を2.4〜12重量部、下記式(1)で表わされるS−(アミノアルキル)チオ硫酸又はその金属塩を0.03〜2重量部配合したことを特徴とする。
【化1】
(式中、nは1〜10の整数を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴムに、シリカ、メルカプト系シランカップリング剤及び特定のS−(アミノアルキル)チオ硫酸又はその金属塩を配合したので、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくしながら、ゴム硬度を維持・向上すると共に、スコーチが悪化するのを抑制し加工性を従来レベル以上に改良することができる。
【0009】
シリカとしては、CTAB比表面積が180〜280m2/gであることが好ましく、
低転がり抵抗性及び操縦安定性のバランスをより高くすることができる。
【0010】
メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、下記式(2)で表わされるメルカプトシラン化合物、または下記式(3)および(4)の構造を有する共重合物が好ましい。
【化2】
(式中、R1,R2,R3は互いに独立して、水素、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、鎖長が4〜30の直鎖ポリエーテル基、炭素数6〜30のアリール基から選ばれると共に、少なくとも1つは前記アルコキシ基、少なくとも1つは前記直鎖ポリエーテル基であり、R4は炭素数1〜30のアルキレン基である。)
【化3】
(式中、R5およびR6で環構造を形成してもよく、R5は水素、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基或いはアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニル基或いはアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニル基或いはアルキニレン基、前記アルキル基或いはアルケニル基の末端がヒドロキシル基若しくはカルボキシル基で置換された基から選ばれ、R6は炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニレン基から選ばれ、xは1以上の整数である。)
【化4】
(式中、R7およびR8で環構造を形成してもよく、R7は水素、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基或いはアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニル基或いはアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニル基或いはアルキニレン基、前記アルキル基或いはアルケニル基の末端がヒドロキシル基若しくはカルボキシル基で置換された基から選ばれ、R8は炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数2〜30アルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニレン基から選ばれ、yは1以上の整数である。)
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、転がり抵抗を小さくし燃費性能を改良しながら、操縦安定性を従来レベル以上に改良することができる。またタイヤ用ゴム組成物の加工性が優れているので、空気入りタイヤの品質を高くするとともに安定的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等が挙げられる。なかでも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。これらジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを50〜120重量部、好ましくは55〜100重量部配合する。シリカを配合することにより、ゴム組成物の損失正接(tanδ)等の動的粘弾性特性を改質し、発熱を抑え転がり抵抗を低減して燃費性能を高くすると共に、ウェット性能を改良することができる。シリカの配合量が50重量部未満であると、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくする効果が十分に得られない。シリカの配合量が120重量部を超えると、tanδ(60℃)が却って悪化する。
【0014】
シリカとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。シリカは、市販されているものの中から適宜選択して使用することができる。また通常の製造方法により得られたシリカを使用することができる。
【0015】
シリカのCTAB比表面積は、特に限定されるものではないが、好ましくは180〜280m2/g、より好ましくは190〜250m2/gであるとよい。シリカのCTAB比表面積が180m2/g未満であると操縦安定性が悪化し好ましくない。またシリカのCTAB比表面積が280m2/gを超えると、転がり抵抗が悪化し好ましくない。なおシリカのCTAB比表面積はJIS K6217−3に準拠して求めるものとする。
【0016】
本発明では、シリカ以外の他の充填剤を配合することができる。他の充填剤としては、例えばカーボンブラック、クレー、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等を例示することができる。なかでもカーボンブラック、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムが好ましい。他の充填剤を配合することによりゴム組成物の強度及び硬度を高くすることができ、タイヤにしたときの操縦安定性を改良することができる。またタイヤ用ゴム組成物がカーボンブラックを含むことにより、ゴム組成物の強度及び耐摩耗性を向上することができる。
【0017】
本発明のゴム組成物において、メルカプト基及び/又はブロックされたメルカプト基を有するシランカップリング剤(以下、「メルカプト系シランカップリング剤」ということがある。)をシリカと共に配合することにより、シリカの分散性を向上しシリカの性能を十分に発現させることができる。メルカプト系シランカップリング剤は、その化学構造にメルカプト基(−SH)、ブロックされたメルカプト基の少なくとも一つを必ず含むメルカプトシラン化合物である。このメルカプトシラン化合物は、その化学構造にSi−O結合を有する。Si−O結合としては、例えばSi−O−の酸素原子に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子等が結合した構造を例示することができる。なかでもSi−O−H,Si−O−Cの構造を有する結合であるとよい。
【0018】
本発明では、メルカプト系シランカップリング剤を配合することによりシリカとの親和性を高くして、その分散性を改良することにより、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくする作用効果を引き出すことができる。メルカプト系シランカップリング剤の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し2.4〜12重量部にする。メルカプト系シランカップリング剤の配合量が2.4重量部未満であると、シリカの分散性を向上する効果が十分に得られない。またメルカプト系シランカップリング剤が12重量部を超えると、シランカップリング剤同士が縮合してしまい、所望の効果を得ることができなくなる。
【0019】
またシリカとの関係では、メルカプト系シランカップリング剤の配合量を、シリカ配合量の好ましくは4〜18重量%、より好ましくは6〜15重量%にするとよい。
【0020】
メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、メルカプト基を有するシラン化合物であれば特に制限されるものではない。またブロックされたメルカプト基を有するシランカップリング剤としては、メルカプトシラン化合物のメルカプト基の水素が、炭化水素基で置換されたシラン化合物であるとよい。炭化水素基としては、炭素数2〜10のアルカノイル基が好ましく、とりわけ−CO−(CH26CH3が好ましい。
【0021】
本発明において、メルカプト系シランカップリング剤としては、好ましくは下記式(2)で表わされるメルカプトシラン化合物、または下記式(3)および(4)の構造を有する共重合物であるとよい。
【化5】
(式中、R1,R2,R3は互いに独立して、水素、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、鎖長が4〜30の直鎖ポリエーテル基、炭素数6〜30のアリール基から選ばれると共に、少なくとも1つは前記アルコキシ基、少なくとも1つは前記直鎖ポリエーテル基であり、R4は炭素数1〜30のアルキレン基である。)
【化6】
(式中、R5およびR6で環構造を形成してもよく、R5は水素、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基或いはアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニル基或いはアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニル基或いはアルキニレン基、前記アルキル基或いはアルケニル基の末端がヒドロキシル基若しくはカルボキシル基で置換された基から選ばれ、R6は炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニレン基から選ばれ、xは1以上の整数である。)
【化7】
(式中、R7およびR8で環構造を形成してもよく、R7は水素、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基或いはアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニル基或いはアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニル基或いはアルキニレン基、前記アルキル基或いはアルケニル基の末端がヒドロキシル基若しくはカルボキシル基で置換された基から選ばれ、R8は炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニレン基から選ばれ、yは1以上の整数である。)
【0022】
上記記一般式(2)で表されるメルカプト系シランカップリング剤において、R1,R2,R3は互いに独立して、水素、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、鎖長が4〜30の直鎖ポリエーテル基、炭素数6〜30のアリール基である。好ましくは水素、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、鎖長が10〜29の直鎖ポリエーテル基である。直鎖ポリエーテル基は、好ましくは式−O−(R11−O)p−R12で表される。ポリエーテル部分(R11−O)pにおいて、R11は炭素数2〜4のアルキレン基であり、好ましくはエチレン基、トリメチレン基(―CH2CH2CH2―)、プロピレン基である。R11は、一つの種類でも複数の種類でもよい。pは、エーテル部分の繰り返し数の平均値であり、2〜15の数、好ましくは3〜10、より好ましくは3.5〜8の数である。R12は炭素数10〜16、好ましくは11〜15のアルキル基である。アルキルポリエーテル基は複数種の混合物であってもよく、例えば―O―(CH2CH2−O)5−(CH210CH3、―O―(CH2CH2−O)5−(CH211CH3、―O―(CH2CH2−O)5−(CH212CH3、―O―(CH2CH2−O)5−(CH213CH3、―O―(CH2CH2−O)5−(CH214CH3、―O―(CH2CH2−O)3−(CH212CH3、―O―(CH2CH2−O)4−(CH212CH3、―O―(CH2CH2−O)6−(CH212CH3、―O―(CH2CH2−O)7−(CH212CH3等が例示される。
【0023】
式(2)において、R1,R2,R3のうち、少なくとも1つは炭素数1〜8のアルコキシ基、少なくとも1つは鎖長が4〜30の直鎖ポリエーテル基であり、式(2)で表されるメルカプト系シランカップリング剤は、アルコキシ基および直鎖ポリエーテル基を必ず有する。
【0024】
またR4は炭素数1〜30のアルキレン基、好ましくは炭素数1〜12のアルキレン基である。
【0025】
本発明で好適に使用される上記式(2)で表されるメルカプトシラン化合物としては、例えば[C1123O(CH2CH2O)5](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1225O(CH2CH2O)3](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1225O(CH2CH2O)4](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1225O(CH2CH2O)5](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1225O(CH2CH2O)6](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1327O(CH2CH2O)3](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1327O(CH2CH2O)4](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1327O(CH2CH2O)5](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1327O(CH2CH2O)6](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1429O(CH2CH2O)3](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1429O(CH2CH2O)4](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1429O(CH2CH2O)5](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1429O(CH2CH2O)6](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1531O(CH2CH2O)5](CH2CH2O)2Si(CH23SH、
[C1123O(CH2CH2O)52(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1225O(CH2CH2O)32(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1225O(CH2CH2O)42(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1225O(CH2CH2O)52(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1225O(CH2CH2O)62(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1327O(CH2CH2O)32(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1327O(CH2CH2O)42(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1327O(CH2CH2O)52(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1327O(CH2CH2O)62(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1429O(CH2CH2O)32(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1429O(CH2CH2O)42(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1429O(CH2CH2O)52(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1429O(CH2CH2O)62(CH2CH2O)Si(CH23SH、
[C1531O(CH2CH2O)52(CH2CH2O)Si(CH23SH、等が例示される。なかでも[C1327O−(CH2CH2O)52(CH2CH2O)Si(CH23SH、[C1327O−(CH2CH2O)5](CH2CH2O)2Si(CH23SHが好ましい。
【0026】
また上記式(2)で表される化合物のメルカプト基をブロックしたメルカプトシラン化合物としては、例えば(CH3CH2O)3Si(CH23S−CO−(CH26CH3(モーメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製NXT)が例示される。
【0027】
上記一般式(3)及び(4)で表わされるセグメントを有するメルカプトシラン化合物において、R5およびR6で環構造を形成してもよく、R7およびR8で環構造を形成してもよい。R5およびR7は水素、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基或いはアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニル基或いはアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニル基或いはアルキニレン基、前記アルキル基或いはアルケニル基の末端がヒドロキシル基若しくはカルボキシル基で置換された基から選ばれる。上述したアルキル基、アルキニル基、アルキニレン基、アルキレン基、アルケニレン基およびアルキニレン基は、それぞれ分岐、非分岐のいずれでもよい。
【0028】
6およびR8は、炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニレン基から選ばれる。上述したアルキレン基、アルケニレン基およびアルキニレン基は、それぞれ分岐、非分岐のいずれでもよい。
【0029】
上記式(3)で表わされるセグメントの含有率は好ましくは20〜99モル%、好ましくは30〜95モル%である。式(3)のセグメントの含有率が20モル%未満では、低転がり抵抗、ウェット性能及び耐摩耗性のバランスをとることが困難になる。また、式(3)のセグメントの含有率が99モル%を超えると、シランカップリング剤を介したゴムとシリカとの化学的な結合が充分に生じず、低転がり抵抗、ウェット性能及び耐摩耗性が悪化する。
【0030】
上記式(4)で表わされるセグメントの含有率は好ましくは1〜80モル%、好ましくは5〜70モル%である。式(4)で表わされるセグメントの含有率が1モル%未満では、シランカップリング剤を介したゴムとシリカとの化学的な結合が十分に生じず、低転がり抵抗、ウェット性能及び耐摩耗性が悪化する。式(4)で表わされるセグメントの含有率が80モル%を超えると、加工性と低転がり抵抗、ウェット性能及び耐摩耗性などの性能とのバランスをとることが困難になる。
【0031】
本発明において、好適に使用される一般式(3)及び(4)で表わされるセグメントを有するメルカプト系シランカップリング剤としては、たとえば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のNXT−Z30(R5,R7:エチル基、R6,R8:エチレン基、式(3)で表わされるセグメントが70モル%、式(4)で表わされるセグメントが30モル%、メルカプト基の含有量:4%)、NXT−Z45(R5,R7:エチル基、R6,R8:エチレン基、式(3)で表わされるセグメントが55モル%、式(4)で表わされるセグメントが45モル%、メルカプト基の含有量:6%)、NXT−Z60(R5,R7:エチル基、R6,R8:エチレン基、式(3)で表わされるセグメントが40モル%、式(4)で表わされるセグメントが60モル%、メルカプト基の含有量:9%)などがあげられる。
【0032】
本発明で使用するメルカプト系シランカップリング剤として、上記式(2)で表わされるメルカプトシラン化合物および式(3)および(4)の構造を有する共重合物以外のメルカプトシラン化合物を使用することができる。このようなメルカプト系シランカップリング剤として、例えば3−メルカプトプロピル(トリメトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(トリエトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(ジエトキシメトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(トリプロポキシシラン)、3−メルカプトプロピル(ジプロポキシメトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(トリブトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(ジブトキシメトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(ジメトキシメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(メトキシジメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(ジエトキシメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(エトキシジメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(ジプロポキシメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(プロポキシジメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(ジイソプロポキシメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(イソプロポキシジメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(ジブトキシメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(ブトキシジメチルシラン)、2−メルカプトエチル(トリメトキシシラン)、2−メルカプトエチル(トリエトキシシラン)、メルカプトメチル(トリメトキシシラン)、メルカプトメチル(トリエトキシシラン)、3−メルカプトブチル(トリメトキシシラン)、3−メルカプトブチル(トリエトキシシラン)等を例示することができる。なかでも3−メルカプトプロピル(トリメトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(トリエトキシシラン)が好ましい。
【0033】
本発明のゴム組成物において、ジエン系ゴム100重量部に対し、下記式(1)で表わされるS−(アミノアルキル)チオ硫酸又はその金属塩を0.03〜2重量部を配合する。
【化8】
(式中、nは2〜10の整数を表す。)
【0034】
上記式(1)において、nは1〜10の整数を表し、好ましくは2〜6、より好ましくは3〜4の整数である。S−(アミノアルキル)チオ硫酸としては、S−(アミノメチル)チオ硫酸、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸、S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸、S−(4−アミノブチル)チオ硫酸、S−(5−アミノペンチル)、S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸、S−(7−アミノペプチル)チオ硫酸、S−(8−アミノオクチル)チオ硫酸、S−(9−アミノノニル)チオ硫酸、S−(10−アミノデシル)チオ硫酸が例示される。なかでもS−(3−アミノプロピル)チオ硫酸、S−(4−アミノブチル)チオ硫酸が好ましい。
【0035】
上記式(1)表わされるS−(アミノアルキル)チオ硫酸の金属塩は、金属イオンとして、例えばリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオン、亜鉛イオンを例示することができる。
【0036】
メルカプト基を有するシランカップリング剤をシリカと共存させたゴム組成物では、シリカに対するメルカプト基の強い作用により、シリカが凝集するのを抑制しtanδ等の動的粘弾性の挙動を改良する効果が得られる反面、加硫系配合剤と反応しやすく早期加硫を起こしやすいこと及びゴム硬度を低下させることが従来問題となっていた。これに対し本発明では、上述したS−(アミノアルキル)チオ硫酸を、シリカ及びメルカプト系シランカップリング剤と共に配合することにより、S−(アミノアルキル)チオ硫酸のアミノ基がメルカプト系シランカップリング剤へ作用することにより、ゴム組成物の耐スコーチ性を改良し早期加硫を抑制すると共に、ゴム成分を改質してゴム硬度を改良することができる。このためゴム組成物のtanδ(60℃)、ゴム硬度及び加工性のバランスを従来レベル以上に向上することができる。
【0037】
S−(アミノアルキル)チオ硫酸の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し0.03〜2重量部、好ましくは0.05〜1.5重量部にする。S−(アミノアルキル)チオ硫酸の配合量が0.03重量部未満であると、ゴム組成物のtanδ(60℃)、ゴム硬度及び加工性を改良する効果が十分に得られない。またS−(アミノアルキル)チオ硫酸の配合量が2重量を超えると、物性改善効果はみられなくなる。
【0038】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤのキャップトレッド部、アンダートレッド部、サイドウォール部、ビードフィラー部、及びカーカス層、ベルト層、ベルトカバー層などのコード用被覆ゴム、ランフラットタイヤにおける断面三日月型のサイド補強ゴム層、リムクッション部などに好適に使用することができる。これらの部材に本発明のゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、走行時の発熱性が小さくなるので、転がり抵抗を小さくし燃費性能を改良することができる。同時に、ゴム組成物の機械的特性の改良により、操縦安定性、加工性を従来レベル以上に維持・向上することができる。
【0039】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
表3に示す共通配合剤を配合し、表1,2に示す配合からなる13種類のタイヤ用ゴム組成物(実施例1〜7、比較例1〜6)を、硫黄、加硫促進剤を除く成分を1.8Lの密閉型ミキサーで160℃、5分間混練し放出したマスターバッチに、硫黄、加硫促進剤を加えてオープンロールで混練することにより調製した。
【0041】
なお、表1,2中、SBRが37.5重量部の油展オイルを含むため、配合量の欄に実際の配合量と共に、括弧内に油展オイルを除いた正味のSBR配合量を記載した。また、表3に記載した配合剤の量は、表1,2に記載したジエン系ゴム100重量部(正味のゴム量)に対する重量部で表わした。
【0042】
得られた13種類のゴム組成物を、下記に示す方法で耐スコーチ性を評価した。
【0043】
耐スコーチ性
得られたゴム組成物をJIS K6300−1:2001に準じて、L形ロータを使用し、試験温度125℃の条件で、スコーチタイムを測定した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数として「耐スコーチ性」の欄に示した。この指数が大きいほどスコーチ時間が長く耐スコーチ性が優れることを意味する。
【0044】
次に13種類のタイヤ用ゴム組成物を、それぞれ所定形状の金型中で、150℃、15分間加硫して試験片を作製し、下記に示す方法によりゴム硬さ及び動的粘弾性(60℃のtanδ)の評価を行った。
【0045】
ゴム硬さ
得られた試験片を用いJIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度25℃で測定した。得られた結果は、比較例1の値を100として「ゴム硬度」の欄に示した。ゴム硬度の指数が大きいほど操縦安定性が優れることを意味する。
【0046】
動的粘弾性(60℃のtanδ)
得られた試験片をJIS K6394に準拠して、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件で、温度60℃における損失正接tanδを測定した。また得られた結果は、比較例1の値を100とする指数として「tanδ(60℃)」の欄に示した。tanδ(60℃)の指数が小さいほど発熱性が小さく、タイヤにしたとき転がり抵抗が小さく燃費性能が優れることを意味する。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
なお、表1,2において使用した原材料の種類を下記に示す。
SBR:スチレン−ブタジエンゴム、旭化成ケミカルズ社製タフデンE580、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)社製ショウブラックN339
シリカ1:ローディア社製Zeosil 1165MP、CTAB比表面積が160m2/g
シリカ2:ローディア社製Zeosil 200MP、CTAB比表面積が200m2/g
カップリング剤1:硫黄含有シランカップリング剤、エボニックデグサ社製Si69、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
カップリング剤2:前記式(2)で表わされるメルカプト系シランカップリング剤、信越シリコーン社製KBM−803、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(CH2CH2O)Si(CH23SH
カップリング剤3:前記式(2)で表わされる化合物のメルカプト基がブロックされたシランカップリング剤、モーメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製NXT、(CH3CH2O)3Si(CH23S−CO−(CH26CH3
カップリング剤4:ブロックされたメルカプト基を有するシランカップリング剤、モーメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製NXT−Z45、前記式(3)及び(4)で表わされるセグメントを有し、R5,R7がエチル基、R6,R8がエチレン基、式(3)のセグメントが55モル%、式(4)のセグメントが45モル%
カップリング剤5:前記式(2)で表わされるメルカプト系シランカップリング剤、エボニックデグサ社製Si363、[C1327O(CH2CH2O)52(CH2CH2O)Si(CH23SH
有機チオ硫酸1:S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸(住友化学社製)
有機チオ硫酸2:S−(4−アミノブチル)チオ硫酸(住友化学社製)
加硫促進剤2:フレキシス社製Perkacit TBzTD
加硫促進剤3:住友化学社製ソクシノールD−G
【0050】
【表3】
【0051】
なお、表3において使用した原材料の種類を下記に示す。
アロマオイル:ジャパンエナジー社製プロセスX−140
老化防止剤:精工化学社製オゾノン6C
ワックス:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
硫黄:細井化学工業社製油処理硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ−G
【0052】
表2から明らかなように実施例1〜7のタイヤ用ゴム組成物は、耐スコーチ性、ゴム硬さ及びtanδ(60℃)のバランスが従来レベル以上に向上することが確認された。
【0053】
表1から明らかなように、比較例2〜5のゴム組成物は、tanδ(60℃)を低減するものの、S−(アミノアルキル)チオ硫酸を配合していないので、ゴム硬度が低下する。また比較例2,4及び5のゴム組成物は、耐スコーチ性が悪化する。
【0054】
比較例のゴム組成物は、メルカプト基及び/又はブロックされたメルカプト基を有するシランカップリング剤を使用していないので、耐スコーチ性が悪化すると共に、ゴム硬度を改良する効果及びtanδ(60℃)を低減する効果が不十分である。