(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6123407
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20170424BHJP
B62D 3/12 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
B62D5/04
B62D3/12 503Z
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-64252(P2013-64252)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-189060(P2014-189060A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】東條 宏計
【審査官】
飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0152645(US,A1)
【文献】
米国特許第04898581(US,A)
【文献】
特開平06−011058(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/026583(WO,A2)
【文献】
欧州特許出願公開第02473767(EP,A2)
【文献】
独国特許発明第102009039832(DE,B3)
【文献】
中国特許出願公開第102483172(CN,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00279028(EP,A2)
【文献】
独国特許出願公開第03705357(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/00−5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラック軸と平行に電動モータを配置し、前記電動モータ軸部に設けたプーリと前記ラック軸のボールねじ軸部に回動嵌合されたボールナットに設けられたプーリとの間にベルトを巻き掛けた減速装置と、前記減速装置および前記ラック軸の主要部を収容するラックハウジングと、前記ラックハウジングに収納された前記減速装置の下方に配置された排水装置とを備え、
前記排水装置は、前記ラックハウジングの内部空間と連通するケース入口と前記ラックハウジングの外部と連通するケース出口とを有する排水ケースと、弾性部材からなる排水バルブとを備え、
前記ベルトを介して前記電動モータの駆動力が前記ラック軸に伝達される電動パワーステアリング装置において、
前記排水ケースは、前記ケース入口の内面の周縁部に溝部が設けられ、
前記排水バルブは、柱状に形成され排水ケースに固定された本体部と、前記本体部の前記ケース入口側の一端に一体に形成され前記ケース入口に対向して配置されたフランジ部とを有し、前記排水ケースの底面に前記ケース入口に向けて突出する凸部が設けられ、前記本体部の前記ケース入口とは反対側の他端に前記凸部と嵌合する凹部が設けられ、前記凸部と前記凹部とを嵌合させることにより前記排水ケースに固定され、
前記フランジ部は、中央部に前記ケース入口に向けて盛り上がる形状の盛上部と、周縁部に平坦で環状のシール部とを有し、前記シール部は、前記本体部の柱状の軸方向に前記盛上部より前記ケース入口から遠くに設けられ、前記盛上部と前記シール部との間の部分は前記盛上部から前記シール部に向けて前記ケース入口とは反対側へ傾斜した面を有し、前記シール部を前記ケース入口の内面の周縁部に面接触させることにより閉弁状態とするとともに、前記溝部と前記シール部との間に環状空間を形成し、前記シール部が弾性変形して前記ケース入口の内面の周縁部との間に隙間が形成されることにより開弁状態とすることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックハウジングおよび排水装置を有する電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置(EPS)は、油圧式のパワーステアリング装置と比較して、レイアウトの自由度が高く、エネルギー消費量が小さいという特徴がある。このため、近年では小型車両のみならず大型車両においてもEPSの採用が検討されるようになっており、これに対応すべく大出力のEPSに対する需要が拡大する傾向にある。この需要動向に対応するため、ラックピニオン式の操舵機構のラック軸に、大きな減速比を設定して高いラック軸力を発生させることができるボールねじ機構を組み込み、ラック軸にボールねじ機構を介して電動モータからのアシスト力を伝えるラックアシストタイプと呼ばれるEPSが普及しつつある。このラックアシストタイプのEPSとして、ラック軸と平行に電動モータを配置し、電動モータ軸部に設けられたプーリとラック軸のボールねじ軸部に回動嵌合されたボールナットに設けられたプーリとの間にベルトを巻き掛けた減速装置と、これらを収容するラックハウジングとを備え、このベルトを介して電動モータの駆動力がボールナットからラック軸に伝達されるようにしたベルト駆動方式のEPSが知られている。このEPSは、路面に比較的近い車体下部に取り付けられることから、ラック軸の端部が蛇腹状に形成された樹脂製のブーツにより包囲されている。
【0003】
ところで、車両の悪路走行時に飛び石などがブーツに衝突し、その衝撃力によりブーツが損傷すると、その損傷箇所からラックハウジング内に水が浸入する場合がある。ラックハウジング内に浸入した水は自然には排出されず、この状態で低温環境下におかれると、ベルト駆動方式のEPSでは、減速装置の周辺に滞留した水の凍結により、ベルトとプーリとの間が固着されてベルト駆動することができない場合がある。例えば、特許文献1では、ラックハウジングに排水装置を備え、ラックハウジングの内部空間に浸入した水を排出することができるEPSが開示されている。
図5に示すように、この排水装置200は、第1排水ケース220および第2排水ケース230からなる排水ケース210と、弾性部材からなる排水バルブ240とを備えている。第1排水ケース220および第2排水ケース230は、それぞれラックハウジングの内部空間と連通するケース入口221およびラックハウジングの外部と連通するケース出口231を有している。排水バルブ240は、本体部241およびフランジ部242を有し、フランジ部242とケース入口221の内面の突起部222とが接触することにより、ケース入口221を閉鎖している。ラックハウジングの内部空間に浸入した水は、ケース入口221を介して排水ケース220の内部に流れ込み、フランジ部分242の上部に滞留する。そして、
図6に示すように、水の圧力によりフランジ部分242が弾性変形し、ケース入口221の内面の突起部222とフランジ部分242との間に隙間が形成され、この隙間から流出した水がケース出口231を介してラックハウジングの外部に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2009 039 832号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記EPSの排水装置200においては、排水バルブ240のフランジ部分242に水が一様に広がって滞留すると、水の圧力が小さくなって排水性が低下する場合があるという問題があった。また、フランジ部分242とケース入口221の内面の突起部222との接触面積が小さいために密封性が低く、例えば、水没した際にケース出口231からラックハウジングの内部空間に水が浸入する場合があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、本発明が解決しようとする課題は、ラックハウジングの排水性と密封性を高くすることにより、厳しい環境下での使用が可能な電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係わる発明は、ラック軸と平行に電動モータを配置し、前記電動モータ軸部に設けたプーリと前記ラック軸のボールねじ軸部に回動嵌合されたボールナットに設けられたプーリとの間にベルトを巻き掛けた減速装置と、前記減速装置および前記ラック軸の主要部を収容するラックハウジングと、前記ラックハウジングに収納された前記減速装置の下方に配置された排水装置とを備え、前記排水装置は、前記ラックハウジングの内部空間と連通するケース入口と前記ラックハウジングの外部と連通するケース出口とを有する排水ケースと、弾性部材からなる排水バルブとを備え、前記ベルトを介して前記電動モータの駆動力が前記ラック軸に伝達される電動パワーステアリング装置において、前記排水ケースは、前記ケース入口の内面の周縁部に溝部が設けられ、前記排水バルブは、柱状に形成され排水ケースに固定された本体部と
、前記本体部の
前記ケース入口側の一端に
一体に形成され前記ケース入口に対向して配置されたフランジ部とを有し、
前記排水ケースの底面に前記ケース入口に向けて突出する凸部が設けられ、前記本体部の前記ケース入口とは反対側の他端に前記凸部と嵌合する凹部が設けられ、前記凸部と前記凹部とを嵌合させることにより前記排水ケースに固定され、前記フランジ部は、中央部に前記ケース入口に向けて盛り上がる形状の盛上部と、周縁部に
平坦で環状のシール部とを有し、
前記シール部は、前記本体部の柱状の軸方向に前記盛上部より前記ケース入口から遠くに設けられ、前記盛上部と前記シール部との間の部分は前記盛上部から前記シール部に向けて前記ケース入口とは反対側へ傾斜した面を有し、前記シール部を前記ケース入口の内面の周縁部に
面接触させることにより閉弁状態とするとともに、前記溝部と前記シール部との間に環状空間を形成し、前記シール部が弾性変形して前記ケース入口の内面の周縁部との間に隙間が形成されることにより開弁状態とすることを特徴とする。
【0008】
上記のように構成した請求項1の発明によれば、ラックハウジングの内部空間に浸入した水は、ケース入口を介して、排水装置に流れ込む。排水装置に流れ込んだ水は、排水バルブのフランジ部にある中央部の盛上部にとどまることなく周縁部へ流れる。閉弁状態において、フランジ部の周縁部へ流れた水は、ケース入口の内面の周縁部に設けられた溝部とシール部との間に形成された環状空間に滞留する。環状空間に滞留した水が所定量に達すると、水の圧力によってシール部が弾性変形し、シール部とケース入口との間には隙間が形成され、開弁状態となる。開弁状態において、環状空間に滞留した水は、隙間を介して排水ケースの下側の空間に流れ込み、ケース出口からラックハウジングの外部へ排出される。また、環状空間に滞留した水が流出して所定量以下になると、水の圧力が減少することにより、排水バルブのシール部がケース入口の周縁部に密着して、閉弁状態に戻る。このように、電動パワーステアリング装置は、排水装置に流れ込んだ水が環状空間に効率的に集められるので、排水性を向上させることができる。また、この排水装置は閉弁状態において、シール部とケース入口の周縁部との間の密着している面積が大きいので、ケース出口154からの水の浸入を防いで、電動パワーステアリング装置の密封性を高くすることができる。
また、排水装置の組み付けにおいて、排水バルブは、排水バルブ本体部の凹部と排水ケース底面の凸部とが嵌合することにより排水ケースに固定されるので、容易に組み付けをおこなうことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ラックハウジングの排水性と密封性を高くすることにより、厳しい環境下での使用が可能な電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置のラックシャフトの中心軸方向を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の排水装置の閉弁状態を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の排水装置の開弁状態を示す断面図である。
【
図5】従来の電動パワーステアリング装置の排水装置の閉弁状態を示す断面図である。
【
図6】従来の電動パワーステアリング装置の排水装置の開弁状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の電動パワーステアリング装置を図面に従って説明する。
図1に示されるように、電動パワーステアリング装置1は、ステアリング装置本体10、ラックハウジング20、アシスト装置30、および排水装置100を有し、ステアリングホイール2の操作をアシスト装置30によりアシストするラックパラレル型の電動パワーステアリング装置として構成されている。
【0014】
ステアリング装置本体10は、コラムシャフト11、インターミディエイトシャフト12、ピニオンシャフト13、ラックシャフト14、ラックアンドピニオン機構15、ボールジョイント16、ブーツ17、およびタイロッド18を有している。
そして、ステアリングホイール2の回転にともないコラムシャフト11、インターミディエイトシャフト12、およびピニオンシャフト13を一体的に回転させている。このピニオンシャフト13の回転により、ラックシャフト14を長手方向に移動させている。ラックシャフト14の移動により、ボールジョイント16を介してタイロッド18を動作させ、ナックル4を介して転舵輪3の転舵角を変化させている。
【0015】
ラックシャフト14は、ギア形成部分14Aおよびねじ形成部分14Bを有し、ギア形成部分14Aには、中心軸方向の所定範囲にわたり複数のラックギア14Cが形成されている。また、ねじ形成部分14Bには、中心軸方向の所定範囲にわたりラックねじ14Dとしての雄ねじが形成されている。
【0016】
ラックアンドピニオン機構15は、ピニオンシャフト13のピニオンギア13Aおよびラックシャフト14のラックギア14Cによって、ピニオンシャフト13の回転をラックシャフト14の並進に変換している。
【0017】
ラックハウジング20は、第1ハウジング21および第2ハウジング22が互いに結合され、内部空間23が形成している。この内部空間23に、ピニオンシャフト13、ラックシャフト14、ボールジョイント16、アシスト装置30を構成する減速装置50、ボールねじ装置60、および支持装置70を収容している。
【0018】
ブーツ17は、弾性樹脂材料により形成され、ラックハウジング20の端部およびタイロッド18に取り付けられている。このブーツ17は、ラックシャフト14におけるラックハウジング20からの突出部分であるボールジョイント16およびタイロッド18を覆い、ラックハウジング20の外部から内部空間23に異物が浸入することを抑制している。
【0019】
アシスト装置30は、電動モータ40、減速装置50、ボールねじ装置60、および支持装置(図示せず)を有している。そして、電動モータ40の回転を減速装置50によりボールねじ装置60に伝達して、ボールねじ装置60を回転させることにより、ラックシャフト14の中心軸方向に作用する力をラックシャフト14に付与している。
【0020】
排水装置100は、減速装置50の下方に設けられた第2ハウジング22の弁固定部分25に取り付けられ、ラックハウジング20の内部空間23に浸入した水をラックハウジング20の外部に排出している。
【0021】
次にアシスト装置30の構成について説明する。
図2に示すように、電動モータ40は、ラックハウジング20の外面に取り付けられている。この電動モータ40は、モータ本体41およびモータシャフト42を有し、モータ本体41が第1ハウジング21に固定され、減速装置50を介してボールねじ装置60を回転させている。
【0022】
モータシャフト42は、モータ本体41およびラックハウジング20の内部空間23にまたがって配置され、モータ本体41に電流が供給されることにより回転している。
【0023】
ボールねじ装置60は、ラックシャフト14のねじ形成部分14Bの周囲に取り付けられ、ラックシャフト14の中心軸まわりにおいてラックシャフト14に対して回転している。このボールねじ装置60は、ナット61およびボール62を有し、ナット61の回転によりラックシャフト14の中心軸方向に作用する力をラックシャフト14に付与している。
【0024】
減速装置50は、駆動プーリ51、従動プーリ52、および伝達ベルト53を有し、駆動プーリ51がモータシャフト42に固定され、従動プーリ52が回転支持部品71に固定されている。この駆動プーリ51および従動プーリ52には、伝達ベルト53が巻き掛けられ、駆動プーリ51の回転を従動プーリ52により減速している。
【0025】
支持装置70は、ラックシャフト14のねじ形成部分14Bおよびボールねじ装置60の周囲に配置されている。この支持装置70は、ラックハウジング20およびラックシャフト14に対するナット61の回転を支持している。
【0026】
また、回転支持部品71は、ナット61の外周に固定され、ボールベアリング72を介してハウジングに20回転自在に支持され、伝達ベルト53の回転にともないラックシャフト14の中心軸まわりにおいてラックシャフト14に対して回転している。
【0027】
次にアシスト装置30の動作について説明する。
アシスト装置30は、ステアリングホイール2(
図1参照)の回転に応じて電動モータ40のモータシャフト42および駆動プーリ51を回転させている。この駆動プーリ51は、伝達ベルト53を介して従動プーリ52、回転支持部品71、およびナット61を回転させ、ボール62を介してラックシャフト14の中心軸方向に作用する力をラックシャフト14に付与している。
【0028】
次に排水装置100の構成について説明する。
図3に示すように、排水装置100は、排水ケース110、排水バルブ160、およびシールリング190により構成されている。この排水ケース110は、樹脂材料により形成された第1排水ケース120および第2排水ケース150が互いに結合されている。
【0029】
第1排水ケース120は、ケース入口132、ケースねじ133およびリング溝134を有し、外周面136に形成されたケースねじ133により第2ハウジング22の弁固定部分25に取り付けられている。この第1排水ケース120は、ケース入口132を介してラックハウジング20の内部空間23と連通している。また、ケース入口132の内面132aの周縁部には、溝部138が形成されている。
【0030】
第1排水ケース120のケース上部分130は、円筒形状に形成され、上部周壁部分131の内周面137により上部空間135を有している。ケース上部分130は、ケース入口132を介して上部空間135とラックハウジング20の内部空間23とを互いに連通している。
【0031】
第1排水ケース120のケース下部分140は、六角形状に形成され、下部周壁部分141、区切部分142、開口部分143を有している。ケース下部分140は、外周面146が第2ハウジング22の外部に位置する状態において弁固定部分25に取り付けられている。
【0032】
第2排水ケース150は、ケース下部分140に対応する六角形状に形成され、周壁部分151、底壁部分152、ケース出口154、および内側空間155を有している。この第2排水ケース150は、外周面156がケース下部分140の内周面147に対向して第1排水ケース120に取り付けられ、周壁部分151が内周面147に圧入されることにより第1排水ケース120に固定されている。そして、ケース出口154を介して内側空間155とラックハウジング20の外部の空間と連通している。ケース出口154は、底壁部分152を貫通し、第2排水ケース150の中心軸まわりに等間隔に複数個形成されている。また、底壁部分152には、中央部に排水バルブ160を固定する凸部153が設けられている。
【0033】
シールリング190は、弾性樹脂材料により円環形状に形成され、第1排水ケース120のリング溝134に嵌め込まれ、第2ハウジング22の弁固定部分25と第1排水ケース120の外周面136との間をシールしている。
【0034】
排水バルブ160は、例えばシリコンゴムなど、排水ケース110の樹脂材料よりも高い弾性を有する弾性樹脂材料からなり、本体部161と本体部161の一端のフランジ部162とが一体に形成されている。
【0035】
本体部161は、柱状に形成され、他端の底部に凹部180が設けられている。また、排水バルブ160は、本体部161の凹部180と第2排水ケース150の凸部153とが嵌合することにより、排水ケース110に固定されている。排水ケース110に固定された排水バルブ160は、フランジ部162がケース入口132に対向して配置される。
【0036】
フランジ部162は、排水ケース110のケース入口132の径よりも大きく、中央部にケース入口132に向けて盛り上がる形状の盛上部170を有し、周縁部に環状のシール部171を有している。シール部171は、ケース入口132の内面132aの周縁部に押し付けられ、押し付けにより生じる復元力により、ケース入口132の内面132aの周縁部に密着し、これにより溝部138とシール部171との間の環状空間139が形成される。
【0037】
排水装置100は、排水バルブ160と排水ケース110により弁体を構成し、ケース入口132とケース出口154との間の閉弁状態または開弁状態を生成している。この排水装置100は、シール部171がケース入口132の内面132aの周縁部と密着することにより閉弁状態とされ、シール部171が弾性変形して、ケース入口132の内面132aの周縁部との間に隙間が形成されることにより開弁状態とされる。
【0038】
上記のように構成された電動パワーステアリング装置1によれば、
図1のブーツ17が損傷すると、電動パワーステアリング装置1の外部の水が、損傷部分からブーツ17の内部に浸入し、さらにラックハウジング20の開口部分を介して内部空間23に浸入する。
【0039】
ラックハウジング20の内部空間23に浸入した水は、第1ハウジング21または第2ハウジング22の壁面上を移動し、減速装置50の下方に設けられた第2ハウジング22のハウジング底壁部分24の壁面上に到達する。
【0040】
図3に示すように、ハウジング底壁部分24の壁面上に到達した水は、第2ハウジング22の弁固定部分25に取り付けられた排水装置100のケース入口132を介して、第1排水ケース120の上部空間135に流れ込む。第1排水ケース120の上部空間135に流れ込んだ水は、排水バルブ160のフランジ部162にある中央部の盛上部170にとどまることなく周縁部へ流れる。閉弁状態において、フランジ部162の周縁部へ流れた水は、ケース入口132の内面132aの周縁部に設けられた溝部138とシール部171との間に形成された環状空間139に滞留する。
【0041】
図4に示すように、環状空間139に滞留した水が所定量に達すると、水の圧力によってシール部171が弾性変形して下方に撓む。このシール部171の弾性変形により、シール部171とケース入口132の内面132aとの間には隙間が形成され、環状空間139と第2排水ケース150の内側空間155とが連通して開弁状態となる。この開弁状態において、環状空間139に滞留した水は、隙間を介して第2排水ケース150の内側空間155に流れ込み、水はケース出口154からラックハウジング20の外部へ排出される。
【0042】
また、環状空間139に滞留する水が流出して所定量以下になると、水の圧力が減少することにより、排水バルブ160のシール部171が復元する。これにより、シール部171がケース入口132の周縁部に密着し、環状空間139と第2排水ケース150の内側空間155との隙間が閉鎖して、閉弁状態に戻る。
【0043】
このように、電動パワーステアリング装置1は、排水装置100に流れ込んだ水が環状空間139に効率的に集められて排水されるので、排水性を向上させることができる。また、排水装置100は閉弁状態において、シール部171とケース入口132の内面132aの周縁部との間の密着している面積が大きいので、ケース出口154からの水の浸入を防いで、電動パワーステアリング装置1の密封性を高くすることができる。
【0044】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1:ステアリング装置、 2:ステアリングホイール、 3:転舵輪、 4:ナックル、 10:ステアリング装置本体、 11:コラムシャフト、 12:インターミディエイトシャフト、 13:ピニオンシャフト、 13A:ピニオンギア、 14:ラックシャフト、 14A:ギア形成部分、 14B:ねじ形成部分、 14C:ラックギア、 14D:ラックねじ、 15:ラックアンドピニオン機構、 16:ボールジョイント、 17:ブーツ、 18:タイロッド、 20:ラックハウジング、 21:第1ハウジング、 22:第2ハウジング、 23:内部空間、 24:ハウジング底壁部分、 25:弁固定部分、 30:アシスト装置、 40:電動モータ、 41:モータ本体、 42:モータシャフト、 50:減速装置、 51:駆動プーリ、 52:従動プーリ、 53:伝達ベルト、 60:ボールねじ装置、 61:ナット、 62:ボール、 70:支持装置、 71:回転支持部品、 72:ボールベアリング、 100:排水装置、 110:排水ケース、 120:第1排水ケース、 130:ケース上部分、 131:上部周壁部分、 132:ケース入口、 132a:内面、 133:ケースねじ、 134:リング溝、 135:上部空間、 136:外周面、 137:内周面、 138:溝部、 139:環状空間、 140:ケース下部分、 141:下部周壁部分、 142:区切部分、 143:開口部分、 146:外周面、 147:内周面、 150:第2排水ケース、 151:周壁部分、 152:底壁部分、 153:凸部、 154:ケース出口、 155:内側空間、 156:外周面、 157:内周面、 160:排水バルブ、 161:本体部、 162:フランジ部、 170:盛上部、 171:シール部、 180:凹部、 190:シールリング、 200:排水装置、 210:排水ケース、 220:第1排水ケース、 221:ケース入口、 222:突起部、 230:第2排水ケース、 231:ケース出口、 240:排水バルブ、 241:本体部分、 242:フランジ部分、 250:シールリング