(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明の画像形成装置の一実施形態としての複写機の概略構成図である。
図1に示す複写機1は、所謂タンデム型のカラー複写機であり、コンピュータから画像データを受信して画像を出力するプリンタとしての機能も有している。
【0016】
この複写機1は、各色の画像データに対応して画像形成を行う画像形成プロセス部10、複写機1全体の動作を制御する制御部20、原稿の画像を読み取り画像データを生成する画像読取部30、例えばパーソナルコンピュータ(PC)3等といった外部装置に接続されて画像データを受信する通信部21、画像読取部30や通信部21から画像データを入手し、その画像データに対して画像処理を施す画像処理部25、ユーザからの操作入力の受付やユーザに対する各種情報の表示を行うユーザインターフェース(UI)部22、複写機1の温湿度環境を検知する環境センサ26、各部に電力を供給する主電源28を備えている。
【0017】
画像読取部30は、原稿が静止させた状態で置かれる第1プラテンガラス31と搬送中の原稿を読み取るための光開口部を形成する第2プラテンガラス32を備えている。
【0018】
第1プラテンガラス31上の原稿は、第1プラテンガラス31に対して開閉自在なプラテンカバー33によって覆われて第1プラテンガラスに密着する。また、プラテンカバー33には、プラテンカバー33の開閉状態を検知する不図示の開閉検知センサが設けられていて、プラテンカバー33の開閉状態に関する情報が制御部20に送信される。
【0019】
さらに画像読取部30は、複数の原稿を収容し、各原稿の片面または両面が第2プラテンガラス32を通過するように搬送するフィーダ34を備えている。このフィーダ34には、原稿が収容されたことを検知する不図示の原稿検知センサが設けられていて、原稿の有無に関する情報が制御部20に送信される。
【0020】
画像形成プロセス部10には、4つの画像形成エンジン50Y,50M,50C,50Kが備えられている。これらの4つの画像形成エンジン50Y,50M,50C,50Kは、それぞれイエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C)および黒(K)の色のトナーでトナー像を形成するエンジンである。以下の説明において、各色を区別する必要のない場面では、色を表わすY,M,C、Kの符号は省略し、数字のみの符号で説明する。
【0021】
各画像形成エンジン50には、矢印A方向に回転する感光体ドラム51が備えられている。感光体ドラム51には、その表面に、静電電位分布による静電潜像が形成される。また、各感光体ドラム51の周囲には、帯電器52、露光器53、現像器54、一次転写器55およびクリーナ56が備えられている。ここで、一次転写器55は、感光体50との間に中間転写ベルト60を挟んで、中間転写ベルト60の内側に配置されている。また、現像器54には、各画像形成エンジン50に応じた色のトナーを含んだ現像剤が収容されている。
【0022】
中間転写ベルト60は、複数のロール61に巻き架けられて矢印B方向に循環移動する無端形状のベルトである。この中間転写ベルト60の周りには、二次転写器70およびクリーナ71が配置されている。
【0023】
画像形成プロセス部10内の下部には3台の用紙トレイT1,T2,T3が備えられている。各用紙トレイT1,T2,T3には、プリント前の用紙がそれぞれ積み重ねられて収容されている。これらの用紙トレイT1,T2,T3は、用紙の補充のために複写機1の筐体から引出し自在となっている。各用紙トレイT1,T2,T3には、互いに異なる紙質の用紙(例えば薄紙、普通紙、コート紙、光沢紙など)や互いに異なる寸法の用紙が収容され得る。画像形成プロセス部10には、各用紙トレイT1,T2,T3に対応してピックアップロール41と捌きロール42が備えられており、各用紙トレイT1,T2,T3で兼用の搬送ロール43と待機ロール44も備えられている。
【0024】
画像形成プロセス部10内の上部には定着器80と搬送ロール45と排出ロール46が備えられていて、排出ロール46から画像形成プロセス部10の外に出た排出部には用紙積載トレイ47が設けられている。この定着器80が本発明にいう定着器の一例に相当する。
<画像形成処理の説明>
本実施形態の複写機1では、画像読取部30の第1プラテンガラス31に置かれた原稿やフィーダ34に収容された原稿に関するユーザからの複写指示をUI部22にて受け付けると、複写機1の制御部20が複写指示を認識する。また、通信部21にて印刷ジョブ(一連の画像データ)を受信した場合は複写機1の制御部20が受信を認識する。制御部20によるこのような認識の結果、複写機1は、制御部20による動作制御の下で、画像読取部30にて生成された画像データや通信部21にて受信された印刷ジョブに対して、以下のような画像形成処理を実行する。
【0025】
まず、PC3や画像読取部30からの画像データには画像処理部25により予め定められた画像処理が施される。それにより、各色毎の画像データに分解されて画像形成プロセス部10の各画像形成エンジン50Y,50M,50C,50Kに送られる。そして、例えば黒(K)色トナー像を形成する画像形成エンジン50Kでは、感光体ドラム51が矢印A方向に回転しながら帯電器52により表面が一様に帯電され、画像処理部25から送信されたK色画像データに応じて変調された露光光を露光器53が出射して感光体ドラム51を走査露光する。それにより、感光体ドラム51上にはK色画像に関する静電潜像が形成される。感光体ドラム51上に形成されたK色の静電潜像は現像器54により現像剤中のK色のトナーで現像され、感光体ドラム51上にK色のトナー像が形成される。同様に、黒(K)色以外の画像形成エンジン50Y,50M,50Cにおいても、それぞれイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各色トナー像が形成される。
【0026】
各画像形成エンジン50の感光体ドラム51に形成された各色トナー像は、一次転写器55により矢印B方向に移動する中間転写ベルト60上に順次に静電転写(一次転写)され、各色トナーが重畳された重畳トナー像が形成される。一次転写後に感光体ドラム51に残存しているトナーは、クリーナ56によって感光体ドラム51上から除去される。また、中間転写ベルト60上の重畳トナー像は、中間転写ベルト60の移動に伴って二次転写器70の配置箇所へと搬送される。
【0027】
一方、ピックアップロール41は、3つの用紙トレイT1,T2,T33のうち、UI部22の操作で指定された用紙を収容した用紙トレイから用紙を1枚取り出す。複数枚重なって取り出されたときは、捌きロール42が確実に1枚に分離する。そして、用紙は搬送ロール43により
図1に破線で示す搬送路上を矢印D1方向に搬送されて待機ロール44に達する。待機ロール44まで搬送されてきた用紙は、中間転写ベルト60上の重畳トナー像が二次転写器70の位置に達するタイミングで用紙もその二次転写器70に達するようにタイミングを調整して矢印D2方向に送り出される。そして、重畳トナー像は、二次転写器70が形成する転写電界により、搬送されてきた用紙上に一括して静電転写(二次転写)される。二次転写後に中間転写ベルト60に残存しているトナーはクリーナ71によって中間転写ベルト60上から除去される。
【0028】
画像形成エンジン50から二次転写器70に至る要素を合わせたものが、記録材にトナー像を形成するトナー像形成器の一例に相当する。
【0029】
二次転写器70によりトナー像の転写を受けた用紙は、その未定着のトナー像を保持したまま矢印D3方向に搬送されて定着器80に達する。定着器80に搬送された用紙上のトナー像は、定着器80によって熱および圧力を受け、用紙上に定着される。そして、定着画像が形成された用紙は矢印D4方向に搬送され、搬送ロール45によりさらに矢印D5方向に搬送され、排出ロール46により用紙積載トレイ47に積載される。
【0030】
このようにして、複写機1での画像形成処理がプリント枚数分のサイクルだけ繰り返し実行される。
<定着器の構造の説明>
次に、定着器80の構造について説明する。
【0031】
図2は、定着器の構造を示した断面図である。
【0032】
定着器80には、誘導加熱器81、加熱ベルト82、加圧ロール83、および励磁回路84が備えられている。誘導加熱器81は交流磁界を発生させて加熱ベルト82を電磁誘導により加熱するものであり、励磁回路84は、誘導加熱器81に交流磁界発生の電力を供給するものである。加熱ベルト82は矢印C1方向に回転し、未定着トナー像を保持して矢印D3方向に搬送されてくる用紙に接触することで用紙上のトナーを加熱する。
【0033】
加熱ベルト82が、本発明にいう定着部材の一例に相当し、加圧ロール83が、本発明にいう加圧部材の一例に相当する。
【0034】
加熱ベルト82の内側には、誘導加熱器81側に磁性体の発熱部材821が備えられており、また、加圧ロール83側に押圧部材822が備えられている。また、発熱部材821と押圧部材822との間には、それらを支える支持構造823が示されている。さらにここには、加熱ベルト82の内面に接して加熱ベルト82の温度を測定する温度センサ824も示されている。
【0035】
発熱部材821は、誘導加熱器81が発生させる交流磁界を導いて磁路を形成することで、誘導加熱器81による加熱ベルト82の加熱効率を高める部材である。この発熱部材821が、本発明にいう磁性部材の一例に相当する。
【0036】
押圧部材822は、加熱ベルト82の内面の、加熱ベルト82を挟んで加圧ロール83に対面する位置に配備されて、その押圧面822aを加熱ベルト82の内面に向け、その押圧面822aで加熱ベルト82の内面に接して加熱ベルト82を加圧ロール83に向けて押圧する部材である。押圧部材822は、加圧ロール83と押圧部材822との間に加熱ベルト82を挟んだ状態でニップ部を形成する。このニップ部で加圧ロール83と加熱ベルト82との間に挟まれながら用紙が通過する。用紙には加熱ベルト82による熱と加圧ロール83による圧力が加えられて未定着のトナー像が定着される。
【0037】
支持構造823は剛性の高い材料で組み立てられていてニップ部の圧力(ニップ圧)における長手方向の均一性を維持している。
【0038】
加圧ロール83は、加熱ベルト82の外面に押し当てられて矢印C2方向に、例えば140mm/sのプロセススピードで回転し、矢印D3方向に搬送されてきた用紙を加熱ベルト82との間に挟んで、例えば20kgfの荷重で加圧するロールである。この加圧ロール83の表面は、押圧されたときに押圧部材822の押圧面822aの形状に沿うように変形する弾性体となっている。
【0039】
誘導加熱器81には、誘導加熱用の励磁コイル811が、加熱ベルト82の外周面と例えば0.5〜2mmの間隙を保持して配備されている。この励磁コイル811は、導線を束ねたリッツ線が閉ループ状に巻かれたものであり、励磁コイル811に励磁回路84から交流電流が供給されることにより、励磁コイル811の周囲には、閉ループ状に巻かれたリッツ線を中心とする交流磁界が生成される。この励磁コイル811が、本発明にいう磁界発生手段の一例に相当し、励磁回路84が、本発明にいう電力供給器の一例に相当する。
【0040】
誘導加熱器81には、励磁コイル811を挟んで加熱ベルト82とは反対側に、交流磁界の磁路を形成する磁心812も備えられている。磁心812は、例えばフェライト樹脂等といった高透磁率の材料で形成されている。磁心812は、励磁コイル811にて生成された交流磁界による磁力線が、励磁コイル811から加熱ベルト82を横切って発熱部材821に向かい、発熱部材821の中を通過して励磁コイル811に戻るといった磁力線の通路(磁路)を形成する。磁心812によって磁路が形成されることにより、励磁コイル811にて生成された交流磁界(磁力線)が加熱ベルト82の磁心812と対向する領域に集中される。
【0041】
図3は、交流磁界によって定着ベルトが発熱する状態を説明する図である。
【0042】
この
図3に示すように、加熱ベルト82は、耐熱性の高い合成樹脂の基材層825、基材層825の上に積層された導電層826、トナー像の定着性を向上させる弾性層827、最上層に被覆され離型性が高い材質の表面離型層828を有する多層ベルトである。導電層826は、誘導加熱器81にて生成される交流磁界によって電磁誘導加熱される発熱体の層であり、例えば鉄、コバルト、ニッケル、銅、クロム等といった金属が用いられる。
【0043】
磁心812から出た交流磁界(磁力線)が加熱ベルト82の導電層826を横切る際に、導電層826には、その交流磁界の変化を妨げる磁界を生成するように渦電流が発生する。そして、渦電流Iが導電層826を流れることによって、導電層826の抵抗値Rに比例したジュール熱W(W=I
2R)が発生し、加熱ベルト82が加熱される。
【0044】
また、加熱ベルト82よりも弱いが発熱体821も交流磁界によって渦電流が発生して発熱する。この発熱体821の発熱によって加熱ベルト82の温度が安定化する。
<定着器の駆動機構の説明>
図4は、定着器の駆動機構を示した正面図である。
【0045】
この
図4には、用紙が突入する側から見た定着器80が示されている。定着器80には、加圧ロール83および加熱ベルト82の駆動源として駆動モータ85が備えられている。
【0046】
加圧ロール83には、駆動モータ85の軸に固定された伝達ギヤ91と、加圧ロール83の回転軸96に固定された不図示の伝達ギヤとを介して、駆動モータ85からの回転駆動力が伝達される。
【0047】
一方、加熱ベルト82は、加圧ロール83が接触している場合には加圧ロール83が従動回転させるが、ここでは、そのような従動回転以外の駆動系も用意されている。
【0048】
加熱ベルト82の内部に設けられた支持構造823(
図3参照)の両端部には、加熱ベルト82の両端部の断面形状を円形に維持しながら加熱ベルト82を周方向に回転駆動するエンドキャップ部材86が回転自在に支持されている。そして、加熱ベルト82は、両端部からエンドキャップ部材86を介した回転駆動力を直接的に受けて回転移動する。駆動モータ85からの回転駆動力は、伝達ギヤ91,92を介してシャフト93に伝達され、シャフト93に結合された伝達ギヤ94から両端のエンドキャップ部材86のギヤ部95に伝達される。それによって、エンドキャップ部材86から加熱ベルト82に回転駆動力が伝わり、エンドキャップ部材86と加熱ベルト82とが一体となって回転駆動される。なお、伝達ギヤ92とシャフト93との間には不図示のトルクリミッタが配置されていて、加熱ベルト82が加圧ロール83に従動する場合には、伝達ギヤ91からシャフト93へは回転駆動力が伝達されない。
【0049】
さらに定着器80には、加圧ロール83を加熱ベルト82に対して接近乖離させるリトラクト機構が備えられている。リトラクト機構には、支持体97に回転自在に支持された回転軸98と、予め定められた角度範囲内で回転軸98を変位させる変位モータ90と、回転軸98の両端部で加圧ロール83の回転軸96に対向する位置に固定され、回転軸98の変位により揺動するカム99、が備えられている。さらに、加圧ロール83を加熱ベルト82から離間する方向(図の下方向)に付勢するバネ88も備えられている。このリトラクト機構が、本発明にいう移動器の一例に相当する。
<リトラクト動作の説明>
図5,6は、リトラクト機構が加圧ロール83を加熱ベルト82に接離させる際の動作を説明する図である。
【0050】
図5には、リトラクト機構によって加圧ロールが定着ベルトに接触された状態が示され、
図6には、加圧ロールが加熱ベルトから乖離された状態が示されている。
【0051】
図5に示すように、カム99の頂部F0が加熱ベルト82の中央方向を向くように変位モータ90(
図4参照)が回転軸98を変位させた状態では、カム99の頂部F0が加圧ロール83の回転軸96をバネ88(
図4参照)の付勢力に抗して加熱ベルト82側に押し込む。それにより、加圧ロール83は加熱ベルト82の外面に押し当てられる。
【0052】
一方、
図6に示すように、カム99の頂部F0が加熱ベルト82の中央方向とは角度θだけ傾くように、変位モータ90(
図4参照)が回転軸98を変位させた状態では、加圧ロール83の回転軸96はバネ88(
図4参照)の付勢力によりカム99の側面F1に沿って加熱ベルト82側から
図6の矢印E方向に移動する。それにより、加圧ロール83は、加熱ベルト82から離間する。
【0053】
図5に示す加圧ロール83の位置が本発明にいう加圧位置の一例に相当し、
図6に示す加圧ロール83の位置が本発明にいう離間位置の一例に相当する。
<制御部の内部構成の説明>
図7は、制御部の内部構成を概略的に示したブロック図である。
【0054】
制御部20は、予め定められたプログラムに従ってデジタル演算処理を実行するメインCPU110と、メインCPU110の作業用メモリ等として用いられるRAM112と、メインCPU110での処理に使用される各種設定値等が格納されるROM113と、書き換え可能で電源供給が途絶えた場合にもデータを保持できる、電池によりバックアップされたフラッシュメモリ等の不揮発性メモリ(NVM)114と、制御部20に接続される各構成部(例えば、励磁回路84、温度センサ824、駆動モータ85、変位モータ90など)との信号が入出力されるインターフェース(I/F)部115とを備えている。
【0055】
そして、メインCPU110が、本発明の異常検知プログラムの一実施形態を不図示の外部記憶装置から主記憶装置(RAM112)に読み込んで実行することで、制御部20は、本発明の異常検知装置の一実施形態として機能する。
【0056】
なお、この異常検知プログラムに関するその他の提供形態としては、予めROM113に格納された状態にて提供され、RAM112にロードされる形態がある。さらに、EEPROM等の書き換え可能なROM113を備えている場合には、メインCPU110がセッティングされた後に、プログラムだけがROM113にインストールされ、RAM112にロードされる形態がある。また、インターネット等のネットワークを介して制御部31にプログラムが伝送され、制御部31のROM113にインストールされ、RAM112にロードされる形態がある。さらにまた、DVD−ROMやフラッシュメモリ等の外部記録媒体からRAM112にロードされる形態がある。
【0057】
図8は、制御部20が実行する機能の一部を表した機能ブロック図である。
【0058】
ここでは、制御部20が有する各種の機能のうち、定着器80を制御する定着器制御部120の機能と、励磁コイル811の異常を検知する異常検知部130の機能が示されている。この異常検知部130の機能が、本発明にいう異常検知装置の一実施形態としての機能である。
【0059】
定着器制御部120は、上述したリトラクト機構による加圧ロール83の移動を制御するリトラクト制御部121と、定着器80の温度センサ824から加熱ベルト82の温度値を取得する温度検知部122と、その取得された加熱ベルト82の温度値と予め決められている加熱ベルト82の目標温度との差分に基づいて、励磁コイル811に入力されるべき電力値を決定し、決定された設定電力値を励磁回路84に設定する電力設定部123とを備えている。
【0060】
異常検知部130は、励磁回路84によって実際に励磁コイル811に入力された電力値を取得する電力検知部131と、その取得された電力値と電力設定部123が設定した電力値との差分に基づいた後述する処理で励磁コイル811の異常を判定する異常判定部132と、この異常判定部132が異常の判定を実行するタイミング(時間帯)を制御する判断制御部133とを備えている。判断制御部133は、定着器80で後述するような状況変化が発生するタイミングを避けた時間帯に異常判定部132が異常の判定を実行するように制御する。
<電力設定の処理>
電力設定部123で用いられる目標温度は、製造者によって複写機1に予め設定されている温度である。電力設定部123が電力値を決定する手法を具体的に説明すると、電力設定部123には加熱ベルト82の温度と目標温度との差分と設定電力との関係を示すテーブル情報が予め用意されていて、そのテーブル情報に基づいて、温度センサ824から温度検知部122が取得した温度値と目標温度との差分に対応する設定電力値が電力設定部123によって決定される。
【0061】
図9は、設定電力値の具体的例を示すグラフである。
【0062】
図9の横軸は経過時間を表し、縦軸は、左が加熱ベルト82の温度を表し、右が設定電力値を表している。そして、グラフ中の点線が加熱ベルト82の温度変化の一例を示し、実線が加熱ベルト82の温度と目標温度との差分の例を示し、一点鎖線が設定電力の例を示している。
【0063】
本実施形態では、50ms毎に設定電力値が更新される。そして、
図9のグラフに示す例では、まず、加熱ベルト82の温度が室温からトナーの定着温度(約170度)まで上昇するように、設定電力値は、0w(ワット)から1100wに設定されている。加熱ベルト82の温度がトナーの定着温度に達すると、設定電力値は、加熱ベルト82の温度と目標温度との差分に応じて1100wから200wまで順次に減少する。これは、トナーの定着温度を維持しつつ、低電力化を図るためである。
【0064】
図8に示す定着器制御部120ではこのような処理で設定電力値が決定されて励磁回路84に設定される。
<励磁コイルの異常検出の処理>
次に、
図8に示す異常判定部132における異常の検出方法を具体的に説明する。
【0065】
図10は、励磁コイル811に実際に入力された入力電力値と、励磁回路84に設定された設定電力値との関係を示す図である。
【0066】
異常判定部132は、50msのフィードバック周期毎に、入力電力値と設定電力値との差分が予め決められた閾値(例えば±150W)以上であるか否かを判定する。例えば、励磁コイル811のレアショート(巻線間のショート)が発生した場合、励磁コイル811の負荷が小さくなるため、励磁コイル811に流れる電流が増加し、入力電力値が設定電力値よりも増加する。このため、入力電力値が、電力設定部123によって設定された設定電力値から大きく乖離する場合には、異常判定部132は、励磁コイル811に異常が発生した可能性を示す異常状態と判定する。異常判定部132にはカウンタが備えられていて、入力電力値と設定電力値との差分が閾値以上である(即ち異常状態である)場合、異常判定部132は、カウンタのカウント値を1増加する。
図10中でグラフのピークに添えられた数値はこのカウンタのカウント値を表している。
【0067】
異常判定部132は、
図10(A)に示すように、予め決められた回数(ここでは一例として6回)連続でカウント値が増加した場合には、励磁コイル811に異常が発生したと判断する。即ち、励磁コイル811の異常状態が300ms以上継続した場合に、励磁コイル811の異常が確定する。また、入力電力値と設定電力値との差分が、+150Wの閾値と−150Wの閾値とを交互に超えていなくてもよい。例えば、入力電力値と設定電力値との差分が、2回以上+150Wの閾値又は−150Wの閾値を超えていてもよい。
【0068】
また、異常判定部132は、
図10(B)に示すように、入力電力値と設定電力値との差分が一度でも閾値未満になる場合は、カウンタのカウント値をクリアする。これにより、励磁コイル811の異常の検出精度の低下が回避される。尚、異常判定部132は、定着器80がオフになっている場合にもカウント値をクリアする。
【0069】
さらに、
図10(C)に示すように、異常判定部132は、設定電力値が変動し、前回の設定電力値(例えば
図10(C)のX)と今回の設定電力値(
図10(C)のY)との差分が予め決められた閾値(例えば±100W)以上である場合には、カウンタのカウント動作を停止し、カウント値をクリアする。これにより、励磁コイル811の異常の検出精度の低下が回避される。尚、前回の設定電力値と今回の設定電力値との差分と比較する閾値は、入力電力値と設定電力値との差分と比較する閾値と同一であってもよい。
<異常検出の検出タイミングの制御>
次に、
図8に示す判断制御部133によって異常判定部132の異常検出のタイミングが制御される処理を具体的に説明する。
【0070】
図11は、判断制御部133による制御を表したフローチャートである。
【0071】
判断制御部133は、異常判定部132による上述した異常検知の処理に先立って、まず、温度検知部122で取得された温度を確認して、異常判定部132による異常検知を行うべき温度範囲内であるか判定する(ステップS02)。この温度範囲は、予め複写機1の製造者によって設定された温度範囲であり、加熱ベルト82がこの温度範囲内にある場合には定着器80の発熱部材821で透磁率変化が生じないと確認されている温度範囲である。発熱部材821は磁性体の部材であり、磁性体の種類に固有の温度を境として透磁率が不連続に変化する。このような透磁率の変化は、発熱部材821、励磁コイル811、および磁心812によって形成される磁気回路の特性変化を生み、結果として励磁コイル811におけるインピーダンス変化と同様の負荷変化を生じるので、入力電力値と設定電力値との差分を生じることとなる。しかしながら、定着器80において透磁率の変化は予定されている正常な状態の範囲内で生じる現象である。従って、透磁率の変化に起因した入力電力値と設定電力値との差分が誤って励磁コイル811の異常と判断される事態を避けるため、判断制御部133は、上述した温度範囲外の場合(ステップS02のNo)には異常判定部132による異常検知を回避してステップS10に進み、励磁コイル811は正常であるものとして動作を続ける。この結果、異常判定部132による異常検知の精度が向上する。
【0072】
一方、ステップS02で、上述した温度範囲内であると判定された場合(ステップS02のYes)には、次に、ステップS04に進み、リトラクト制御部121によるリトラクト機構の制御で加圧ロール83が加熱ベルト82に押し付けられるラッチタイミングであるか否かが判定される。加圧ロール83が加熱ベルト82に押し付けられると、加熱ベルト82が加圧され、その加圧された圧力が定着器80の押圧部材822、支持構造823、発熱部材821へと順次に伝わり、加熱ベルト82や発熱部材821の位置が励磁コイル811に対して動くこととなる。そのため、発熱部材821、励磁コイル811、および磁心812によって形成される磁気回路の特性変化を生み、結果として励磁コイル811におけるインピーダンス変化と同様の負荷変化を生じるので、入力電力値と設定電力値との差分を生じることとなる。
【0073】
上述した透磁率の変化と同様に、加圧ロール83の加熱ベルト82への押し付け(加圧)も、定着器80において予定されている正常な状態の範囲内で生じる現象である。従って、加圧ロール83の押し付け(加圧)の開始に起因した入力電力値と設定電力値との差分が誤って励磁コイル811の異常と判断される事態を避けるため、判断制御部133は、ラッチタイミングの場合(ステップS04のYes)にも、異常判定部132による異常検知を回避してステップS10に進み、励磁コイル811は正常であるものとして動作を続ける。この場合も、異常判定部132による異常検知の精度が向上する。
【0074】
ステップS04で、ラッチタイミングではないと判定された場合(ステップS04のNo)には、ステップS06に進み、異常判定部132によって上述した異常検知の処理が実行される。そして、カウント値が予め決められた回数連続して増加すると(ステップS06のYes)、励磁コイル811の異常検知が確定し、ステップS08に進んで異常検知時の処理が実行される。具体的には、励磁回路84から励磁コイル811への電力供給が制御部20によって停止される。
【0075】
なお、上記説明では、定着器80で予め想定されている状況変化の例として、発熱部材821の透磁率変化と加圧ロールによる加熱ベルトの加圧開始とが示されているが、本発明にいう「予め想定されている状況変化」としては、例えば加熱ベルトからの加圧ロールの離間などもあり得る。
【0076】
また、上記説明では、本発明の実施形態としてタンデム型のカラー複写機を例示したが、本発明の画像形成装置は、レボルバ型のカラー複写機やモノクロ複写機であってもよい。また、本発明の画像形成装置はファクシミリやプリンタに応用されてもよい。
【0077】
また、上記説明では、本発明にいうトナー像形成器として、電子写真方式のものが例示されているが、本発明にいうトナー像形成器は、例えば個々のトナー粒子を電極アレイで個別に飛翔させる電極アレイ方式のものであってもよい。
【0078】
また、上記説明では、本発明にいう定着器として、発熱部材が加熱ベルトに接触した蓄熱方式の定着器が例示されているが、本発明にいう定着器は、発熱部材が加熱ベルトから離間した速熱方式の定着器であってもよい。