(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
薄板、フィルム、若しくは膜状に形成された帯状の基材に原子層堆積膜が成膜された積層体を、インラインの工程内でロールツーロール方式によって搬送する積層体の製造装置であって、
前記基材の厚み方向の一方の面を支持する支持体と、
前記支持体の外面に沿って前記基材を一方向へ搬送する搬送機構と、
前記支持体の外面との間に前記基材が挿入されるように配置され、該基材の厚み方向の他方の面に前記原子層堆積膜を成膜させるALD成膜部と、
前記基材の搬送方向において前記ALD成膜部の下流に設けられ、前記原子層堆積膜の表面に、前記原子層堆積膜に機械部品を接触させることなく、前記原子層堆積膜より膜厚の厚いオーバーコート層を形成させるオーバーコート形成部と、
前記基材の搬送方向において前記オーバーコート形成部の下流に設けられ、前記オーバーコート層を接触面として前記積層体をロール状に巻き取る巻取り機構と、
を備えることを特徴とする積層体製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0041】
《実施形態の概要》
本発明の実施形態に係る積層体は、基本的には、基材の表面に原子層堆積膜が形成され、さらに、その原子層堆積膜の表面を覆うようにオーバーコート層が形成された構成となっている。このオーバーコート層は、基材やALD膜の特性を阻害しないものであれば、どのような特性を有する層であっても構わない。なお、膜厚方向に延びる貫通孔をオーバーコート層に生じさせるために要する外力の大きさが、膜厚方向に延びる貫通孔を原子層堆積膜に生じさせるために要する外力の大きさよりも大きいことが必要である。言い換えると、オーバーコート層は、原子層堆積膜よりも機械的強度が高い膜である必要がある。あるいは、オーバーコート層は、原子層堆積膜と同等の機械的強度を有している場合は、原子層堆積膜の膜厚よりも厚い膜厚で形成された層である必要がある。
【0042】
なお、本発明の実施形態に係る積層体は、基材と原子層堆積膜との間にアンダーコート層を備えていてもよい。すなわち、基材の表面にアンダーコート層を形成し、さらに、アンダーコート層の表面に原子層堆積膜を形成し、その原子層堆積膜の表面を覆うようにオーバーコート層を形成した構成であってもよい。
【0043】
《第1実施形態》
図1は、本発明の第1実施形態にかかる積層体の構成を示す断面図である。
図1に示すように、第1実施形態の積層体1aは、高分子材料で形成された基材2と、基材2の表面に膜状に形成された原子層堆積膜(以下、ALD膜という)4と、ALD膜4よりも機械的強度の高い膜で該ALD膜4を覆うオーバーコート層(以下、OC層という)5とを備えて構成されている。なお、OC層5は、ALD膜4と同等の機械的強度を有していて、ALD膜4よりも膜厚の厚い膜で該ALD膜4を覆ってもよい。
【0044】
すなわち、ALD膜4よりも機械的強度の高いOC層5をALD膜4の表面に成膜すれば、ALD膜4が傷ついて膜厚方向に貫通孔が生じる程度の大きさの外力が働いても、OC層5は、その程度の外力では膜厚方向に貫通孔が生じるおそれはない。したがって、ALD膜4の表面にOC層5を成膜することによって、積層体1aのガスバリア性を高めることができる。また、ALD膜4と同等の機械的強度を有したOC層5を成膜した場合は、ALD膜4よりも膜厚の厚い膜でOC層5を成膜すれば、ALD膜4が傷ついて膜厚方向に貫通孔が生じても、OC層5は、その程度の外力では膜厚方向に貫通孔が生じるおそれはない。したがって、積層体1aのガスバリア性を高めることができる。
【0045】
なお、OC層5は、水系バリアコートで形成されていて、その水系バリアコートは、官能基がOH基またはCOOH基を有している。また、OC層5は、無機物質を含有していてもよい。水系バリアコートは、水系の有機高分子、金属アルコキシドやシランカップリング剤などの有機金属化合物からなる加水分解重合体、およびそれらの複合体からなるバリア性を有するコート膜のことで、水系の有機高分子としてはポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0046】
有機金属化合物としては、金属アルコキシドがあり、一般式としてR1(M−OR2)で表わされるものである。但し、Rl、R2は炭素数1〜8の有機基、Mは金属原子である。なお、金属原子Mは、Si、Ti、Al、Zrなどである。
【0047】
金属原子MがSiでRl(Si−OR2)で表わされるものとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラプトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランなどがある。
【0048】
金属原子MがZrでR1(Zr−OR2)で表わされるものとしては、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロボキシジルコニウム、テトラプトキシジルコニウムなどがある。
【0049】
金属原子MがTiでR1(Ti−OR2)で表わされるものとしては、テトラメトキシチタニウム、テトラエトキシチタニウム、テトライソプロボキシチタニウム、テトラプトキシチタニウムなどがある。
【0050】
金属原子MがAlでR1(AI−OR2)で表わされるものとしては、テトラメトキシアルミニウム、テトラエトキシアルミニウム、テトライソプロポキシアルミニウム、テトラプトキシアルミニウムなどがある。
【0051】
また、無機化合物としては、無機物質を無機粒子とした場合の材料候補については、体質顔料の候補より、例えば、粘度鉱物の一種であるカオリナイトより粒径が大きい、ハロイサイト、炭酸カルシウム、無水ケイ酸、含水ケイ酸、またはアルミナなどが挙げられる。また、無機物質を層状化合物とした場合は、人口粘土、フッ素金雲母、フッ素四ケイ素雲母、テニオライト、フッ素バーミキュライト、フッ素ヘクトライト、ヘクトライト、サポライト、スチブンサイト、モンモリロナイト、バイデライト、カオリナイト、またはフライボンタイトなどが挙げられる。
【0052】
さらに、層状粘度鉱物として、パイロフェライト、タルク、モンモリロナイト(人口粘土と重複)、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、バーミュキュライト、セリサイト、海緑石、セラドナイト、カオリナイト、ナクライト、デッカイト、ハロサイト、アンチゴライト、クリソタイル、アメサイト、クロンステダイト、シャモサイト、緑泥石、アレバルダイト、コレンサイト、またはトスダイトなどの無機物質を層状化合物として用いることもできる。
【0053】
なお、体質顔料以外の無機粒子(球状粒子)としては、多結晶性化合物である、ジルコニア、チタニアなどの金属酸化物、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどの一般化学式がMM’O
Xなどで表されるに金属原子(M、M’…)が2種以上含まれる金属酸化物、などである。
【0054】
《第2実施形態》
図2は、本発明の第2実施形態にかかる積層体の構成を示す断面図である。
図2に示すように、第2実施形態の積層体1bが
図1に示す第1実施形態の積層体1aと異なるところは、基材2とALD膜4との間にアンダーコート層(以下、UC層という)3が介在されている点である。なお、UC層3は、無機物質を含有していてもよいし、有機高分子を含有していてもよい。
【0055】
すなわち、積層体1bは、高分子材料で形成された基材2と、基材2の表面に形成された膜状もしくはフィルム状のUC層3と、UC層3の厚み方向の両面のうち基材2と接する面と反対側の面上に形成されたALD膜4と、ALD膜4よりも機械的強度の高い膜で該ALD膜4を覆うOC層5とを備えて構成されている。なお、OC層5は、ALD膜4と同等の機械的強度を有していて、ALD膜4よりも膜厚の厚い膜で該ALD膜4を覆ってもよい。ここで、UC層3は、無機物質を含有している場合と、有機高分子を含有している場合とがあるので、両者についてそれぞれ説明する。
【0056】
〈無機物質を含有するUC層〉
図2に示すように、積層体1bは、基材2とALD膜4との間に、無機物質が分散されたUC層3を備えていて、ALD膜4の表面にOC層5が形成されている。ALD膜4の前駆体はガス状の物質であり、UC層3の表面に露出された無機物質に結合しやすい特性を有している。さらに、UC層3の表面には、多数の無機物質が露出しているので、各無機物質に結合したALD膜4の前駆体同士が、互いに結合する。これにより、UC層3の面方向に成長する二次元状のALD膜4が生じる。その結果、積層体1bの膜厚方向にガスが透過するような隙間が生じ難くなり、ガスバリア性の高い積層体1bを実現することができる。
【0057】
すなわち、(1)ALD膜4の前駆体の吸着サイトの密度を高くすること、(2)ALD膜4の前駆体が高分子の基材2へ拡散することを阻止すること、の2点を実現するために、高分子の基材2上に無機物質を含有するUC層3を設けている。言い換えると、ALD膜4の前駆体の吸着サイトを高密度で高分子の基材2の表面に二次元的に配置させるために、ALD法のプロセスに先立って、高分子の基材2上に無機物質を含有するUC層3を設ける。なお、ALD膜4の前駆体の吸着サイトの密度を高くするためには、高密度にある無機物質の吸着サイトを利用する。このようにして、高分子の基材2上に無機物質(無機化合物)を含有するUC層3を設けることにより、前駆体を含むガスはUC層3の無機物質を透過することができなくなる。
【0058】
以上述べたように、第2実施形態の積層体1bは、
図2に示すように、高分子材料で形成された基材2と、基材2の表面に形成された膜状もしくはフィルム状のUC層3と、UC層3の厚み方向の両面のうち基材2と接する面と反対側の面上に形成されたALD膜4と、ALD膜4上に形成されたOC層5とを備えている。なお、UC層3は、バインダーに無機物質(無機材料)が添加された構成となっている。すなわち、ALD膜4の前駆体は、UC層3に含まれる無機物質と相互に結合して、ALD膜4がUC層3を覆うように膜状に形成されている。
【0059】
ここで、UC層3の特徴について説明する。UC層3は、バインダーと無機物質(無機材料)から形成されている。このとき、無機物質は高分子と異なりフリーボリュームが小さい。また、無機物質は、高分子のようにガラス点移転が存在しないので、高温プロセスでも特性が変化しない。すなわち、高分子は、ガラス点移転以上では非結晶部分はブラウン運動を開始し、フリーボリュームでのガス拡散速度は大きくなるが、無機物質はこのようにガラス点移転による現象は存在しない。
【0060】
また、UC層3に用いられる無機物質は層状化合物である。したがって、このような層状化合物の無機物質は、基材2のコーティング表面にほぼ平行に配向される。また、ALD法における前駆体ガスを含んだ全てのガスは、層状化合物の無機物質の内部を拡散することはできない。
【0061】
さらに、層状化合物の無機物質の表面が露出するようにUC層3の表面をエッチングする。すなわち、基材2の上に露出したUC層3における層状化合物の無機物質の表面に、所望の官能基を導入させるためにプラズマ処理を行ってUC層3の表面をエッチングする。これによって、ALD膜4の前駆体はUC層3の無機物質に結合しやすくなる。
【0062】
上記のような特性を有するUC層3を、例えば、高分子の基材2の表面に設ける場合は、基材2の表面には前駆体の吸着サイトが高密度に配置される。しかも、UC層3における層状化合物の無機物質は基材2の表面に平行に配置される。したがって、UC層3は、基材2の表面積を殆んど均一に覆うために、吸着サイトは二次元的に配置され、ALD膜4の二次元成長が促進される。さらに、UC層3における層状化合物の無機物質の部分は、ALD膜4を形成するためのALDのプロセス温度が高温となっても、一般の可塑性高分子のようにガラス転移しないため、安定したALD膜4の膜成長が行われる。
【0063】
なお、UC層3のバインダーは、有機バインダー、無機バインダー、または有機・無機混合のハイブリッドバインダーのいずれであってもよい。
【0064】
このような構成の積層体1bによれば、ALD膜4に対向するUC層3の面に層状化合物の無機物質が露出するので、該無機物質の外面にALD膜4の前駆体が結合する。特に、無機物質を粒子状や層状構造にすることによってALD膜4の前駆体との結合力を高めることができる。さらに、好ましくは、該無機物質をゾル状またはゲル状の重合体にすることにより、最適な結合力が得られる。
【0065】
また、本実施形態の積層体1bによれば、官能基が高密度に配置された表面が形成されるので、ALD法だけではなく、他の薄膜成長法(例えば、真空蒸着、スパッタリング、CVDなど)においても、核密度の高い成長モードにより緻密な薄膜形成を行うことが期待できる。
【0066】
次に、UC層3に用いられる無機化合物(無機物質)について詳細に説明する。無線物質は次の点に留意して選択される。すなわち、無機粒子からなる無機物質の選択要素としては、無機粒子の形状は、球状に近い粒子と板状の粒子とがあるが、いずれの粒子も使用することができる。
【0067】
無機粒子の粒子サイズ(粒子径)については、基材2の平滑性に影響しないように、平均粒子径1μm以下、好ましくは0.1μm以下とする。また、無機粒子のサイズは、UC層3の光学特性(すなわち、光線透過率、へイズ:全透過光に対する拡散透過光の割合)への影響を極力避けるために、可視光線の波長より十分小さな粒子サイズのものが望ましい。なお、無機物質が層状化合物の場合は、アスペクト比(Z)が50以上、厚みが20nm以下のものを選択する。但し、Lを平均粒子径、aを無機粒子の材料の厚みとしたとき、Z=L/aである。
【0068】
無機粒子の光学特性については、透明なバリアコーティングの観点から着色は好ましくない。特に、UC層3のバインダーと無機粒子との屈折率のマッチングをとる必要がある。すなわち、UC層3において、バインダーの屈折率と無機粒子の屈折率が大きく異なると、UC層3の界面における反射が大きくなる。その結果、UC層3における光線透過率の低下やヘイズ(曇り具合)の増大につながる。
【0069】
無機粒子の分散性については、バインダーへの分散が良いために、二次凝集が起き難い。また、無機物質が層状化合物の場合は、バインダーとの親和性(インターカレーション:化学結合)がよい。
【0070】
無機粒子の安定性については、積層体1bが太陽電池として使用される場合は20〜30年の使用期間が想定されるので、積層体1bが高温・高湿及び極低温で長期間使用されても無機物質が化学的に安定である必要がある。なお、無機物質の安全性については、積層体1bの製造過程、使用中、及び廃棄処理、のあらゆる段階において環境に害を及ぼさないことが必要である。
【0071】
次に、UC層3に添加される無機物質の種類について説明する。UC層3に用いられる無機物質を無機粒子とした場合の材料候補については、体質顔料の候補より、例えば、粘度鉱物の一種であるカオリナイトより粒径が大きい、ハロイサイト、炭酸カルシウム、無水ケイ酸、含水ケイ酸、またはアルミナなどが挙げられる。また、無機物質を層状化合物とした場合は、人口粘土、フッ素金雲母、フッ素四ケイ素雲母、テニオライト、フッ素バーミキュライト、フッ素ヘクトライト、ヘクトライト、サポライト、スチブンサイト、モンモリロナイト、バイデライト、カオリナイト、またはフライボンタイトなどが挙げられる。
【0072】
さらに、層状粘度鉱物として、パイロフェライト、タルク、モンモリロナイト(人口粘土と重複)、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、バーミュキュライト、セリサイト、海緑石、セラドナイト、カオリナイト、ナクライト、デッカイト、ハロサイト、アンチゴライト、クリソタイル、アメサイト、クロンステダイト、シャモサイト、緑泥石、アレバルダイト、コレンサイト、またはトスダイトなどの無機物質を層状化合物として用いることもできる。
【0073】
なお、体質顔料以外の無機粒子(球状粒子)としては、多結晶性化合物である、ジルコニア、チタニアなどの金属酸化物、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどの一般化学式がMM’O
Xなどで表されるに金属原子(M、M’…)が2種以上含まれる金属酸化物、などである。
【0074】
〈有機高分子を含有するUC層〉
図2に示すように、積層体1bは、基材2とALD膜4との間に有機高分子を含有するUC層3を備えていて、ALD膜4の表面にOC層5が形成されている。UC層3は有機高分子を含有する層であり、この有機高分子はALD膜4の前駆体が結合する結合部位を有している。すなわち、UC層3に含有されている有機高分子は、ALD膜4の前駆体と結合しやすい結合部位として、多数の官能基を有している。したがって、有機高分子の各官能基に結合した前駆体同士は、互いに結合する。これによって、UC層3の面方向に成長する二次元状のALD膜4が生じる。その結果、積層体1bの膜厚方向にガスが透過するような隙間が生じ難くなり、ガスバリア性の高い積層体1bを実現することができる。なお、UC層3には、有機高分子の他に無機物質が分散されていてもよい。すなわち、UC層3に無機物質が添加されていることにより、有機高分子と無機物質とが相俟って、ALD膜4の前駆体の吸着密度をさらに向上させることができる。
【0075】
すなわち、(1)ALD膜4の前駆体の吸着サイトの密度を高くすること、(2)ALD膜4の前駆体の高分子基材への拡散を阻止すること、の2点を実現するために、高分子の基材2の上に有機高分子を含有するUC層3を設けてもよい。このように、UC層3は、有機高分子の材料を含有していて、ALD膜4の前駆体の吸着サイトを確保している。すなわち、UC層3に含有されている有機高分子は、ALD膜4の前駆体が吸着しやすい官能基を有している。したがって、ALD膜4の前駆体が、UC層3に含有されている有機高分子の官能基と結合することにより、ALD膜はUC層3を覆うように膜状に形成される。
【0076】
すなわち、
図2に示すように、積層体1bは、高分子材料で形成された基材2と、基材2の表面に形成された膜状もしくはフィルム状のUC層3と、UC層3の厚み方向の両面のうち基材2と接する面と反対側の面上に形成されたALD膜4と、ALD膜4の表面を覆うOC層5とを備えている。UC層3は、有機高分子の材料を含有していて、ALD膜4の前駆体の吸着サイトを確保している。UC層3に含有されている有機高分子は、ALD膜4の前駆体が吸着しやすい官能基を有している。したがって、ALD膜4の前駆体が、UC層3に含有されている有機高分子の官能基と結合することにより、ALD膜はUC層3を覆うように膜状に形成される。
【0077】
ここで、基材2上の吸着サイトをUC層3に含有されている有機高分子によって確保するために、ALD膜4の前駆体が吸着しやすい官能基を有する有機高分子を選択する必要がある。また、官能基の密度が高い有機高分子を選択する必要がある。さらには、プラズマ処理や加水分解処理によって基材2に表面処理を施すことにより、有機高分子の表面を改質して有機高分子の官能基を高密度化することが望ましい。このとき、有機高分子に無機化合物を添加することにより、前駆体の吸着密度をさらに高めることもできる。
【0078】
なお、UC層3は、ALD膜4の前駆体が吸着しやすい官能基を有する有機高分子が含有されているものを選択する必要がある。例えば、UC層3の有機高分子の材料としてナイロン−6を用いた場合は、官能基がアミド基であるために前駆体が非常に吸着し易いので、ナイロン−6はUC層3に用いる有機高分子の材料として望ましい。一方、前駆体が吸着し難いメチル基を有するポリプロピレン(PP)などをUC層3に用いることは好ましくない。
【0079】
すなわち、ALD膜4の前駆体が吸着し難い官能基(メチル基)を有するPPをアンダーコートに用いると、ALD膜の前駆体のPPへの吸着性が低いために、ポリマーとの境界のALD膜が疎にしまってガスバリア性が低下してしまう。ところが、ALD膜の前駆体が吸着し易い官能基(アミド基)を有するナイロン−6をアンダーコートに用いると、ALD膜の前駆体のナイロン−6への吸着性が高いために、ポリマーとの境界のALD膜の密度が高くなるためガスバリア性が向上する。
【0080】
ALD膜4の前駆体が吸着しやすい官能基を有する有機高分子の材料としては、上記以外に、イソシアネート基を有するウレタン樹脂、イミド基を有するポリイミド樹脂、スルフォン基を有するポリエーテルスルフォン(PES)、及びエステル基を有するポリエチレンテレフタレート(PET)などがある。
【0081】
すなわち、UC層3に含有する有機高分子の官能基はO原子を有するか、N原子を有するものが望ましい。O原子を有する官能基としては、OH基、COOH基、COOR基、COR基、NCO基、またはSO
3基などがある。また、N原子を有する官能基はNH
x基(Xは整数)がある。
【0082】
UC層3に用いられる有機高分子は使用される溶媒によって水系と溶剤系とに分類される。水系の有機高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。また、溶剤系の有機高分子としては、アクリルエステル、ウレタンアクリル、ポリエステルアクリル、ポリエーテルアクリルなどが挙げられる。
【0083】
次に、UC層3に用いられる有機高分子のさらに詳細な具体例について説明する。
1.O原子含有樹脂の有機高分子
O原子含有樹脂の有機高分子として好ましい材料は、次のようなものである。水酸基(OH)含有樹脂として、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、多糖類などである。なお、多糖類は、セルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルポキシメチルセルローズなどのセルロース誘導体、キチン、キトサンなどである。また、カルボニル基(COOH)含有樹脂として、カルボキシビニルポリマーなども好ましい材料である。
【0084】
それ以外のO原子含有樹脂の有機高分子としては、ケトン基(CO)含有樹脂の、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、脂肪族ポリケトンなどである。また、エステル基(COO)含有樹脂の、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ボリブチレンナフタレート(PBN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などを用いることもできる。その他、上記の官能基を含むエポキシ系樹脂やアクリル系樹脂などを用いてもよい。
【0085】
2.N原子含有樹脂の有機高分子
N原子含有樹脂の有機高分子として好ましい材料は、次のようなものである。イミド基(CONHCO)含有樹脂の、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、脂環族ポリイミド、溶剤可溶型ポリイミドなどである。なお、脂環族ポリイミドについては、通常は、芳香族ポリイミドは芳香族テトラカルボン酸無水物と芳香族ジアミンから得られるが、透明性がないため、ポリイミドの透明化として酸二無水物あるいはジアミンを脂肪族または脂環族に置き換えることも可能である。また、脂環族カルボン酸は、1,2,4,5−シクロへキサンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物などがある。さらに、溶剤可溶型ポリイミドとしては、γ−プチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどがある。
【0086】
また、N原子含有樹脂の有機高分子の好ましい材料として、アミド基(NHCO)含有樹脂の、ナイロン−6、ナイロン−6,6、メタキシレンジアミン−アジピン酸縮重合体、ポリメチルメタクリルイミドなどもある。さらに、イソシアネート基(NHCOO)含有樹脂のウレタン樹脂などもある。なお、ウレタン樹脂は密着層としても使用することができる。その他、アミノ基(NH)含有樹脂を使用することもできる。
【0087】
3.S原子含有樹脂の有機高分子
S原子含有樹脂の有機高分子として使用できる材料は、次のようなものがある。すなわち、スルホニル基(SO
2)含有樹脂の、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリスルフォン(PSF)、ポリフェニルスルフォン(PPS)などである。このうち、PESとPSFは耐熱性が高い材料である。さらに、ポリマーアロイ、ポリブチレンテレフタレート系ポリマーアロイ、ポリフェニレンスルフイド系ポリマーアロイなども有機高分子として使用できる。なお、ポリマーアロイは、上記の高分子を必要に応じてポリマーの複合化(アロイ、ブレンド、コンボジット)してもよい。
【0088】
《実施例》
次に、上記の実施形態に基づいて実現したオーバーコート層を備えた積層体の具体的な実施例について説明する。最初に、ALD膜からなるガスバリア層の一般的な成膜方法について説明する。なお、ここでは、基材の表面にUC層を形成したときのALD膜の成膜方法について説明する。
【0089】
〈ALD膜からなるガスバリア層の成膜方法〉
1.Al
2O
3の成膜
先ず、高分子基板の上面または高分子基板にUC層を設けた上面に、原子層堆積法(ALD法)によってAl
2O
3膜を成膜した。このとき、原料ガスはトリメチルアルミニウム(TMA)とした。また、原料ガスと同時に、プロセスガスとしてO
2とN
2を、パージガスとしてO
2とN
2を、反応ガス兼プラズマ放電ガスとしてO
2を、それぞれ、成膜室へ供給した。その際の処理圧力は10〜50Paとした。さらに、プラズマガス励起用電源は13.56MHzの電源を用い、ICP(Inductively Couple Plasma)モードによってプラズマ放電を実施した。
【0090】
また、各ガスの供給時間は、TMAとプロセスガスを60msec、パージガスを10sec、反応ガス兼放電ガスを5secとした。そして、反応ガス兼放電ガスを供給するのと同時に、ICPモードにてプラズマ放電を発生させた。なお、このときのプラズマ放電の出力電力は250wattとした。また、プラズマ放電後のガスパージとして、パージガスO
2とN
2を10sec供給した。なお、このときの成膜温度は90℃とした。
【0091】
上記のようなサイクル条件におけるAl
2O
3の成膜速度は次のようになった。すなわち、単位成膜速度が1.4〜1.5Å/サイクルであるために、70サイクルの成膜処理を実施して膜厚10nmの成膜を行ったところ、成膜の合計時間は約30minとなった。
【0092】
2.TiO
2の成膜
先ず、高分子基板の上面または高分子の基材の表面にUC層を設けた上面に、ALD法によってTiO
2膜を成膜した。このとき、原料ガスは四塩化チタン(TiCl
4)とした。また、原料ガスと同時に、プロセスガスとしてN
2を、パージガスとしてN
2を、反応ガス兼プラズマ放電ガスとしてO
2を、それぞれ、成膜室へ供給した。その際の処理圧力は10〜50Paとした。さらに、プラズマガス励起用電源は13.56MHzの電源を用い、ICPモードにてプラズマ放電を実施した。
【0093】
また、各ガスの供給時間は、TiCl
4とプロセスガスを60msec、パージガスを10sec、反応ガス兼放電ガスを3secとした。そして、反応ガス兼放電ガスを供給すると同時に、ICPモードにてプラズマ放電を発生させた。なお、このときのプラズマ放電の出力電力は250wattとした。また、プラズマ放電後のガスパージとして、パージガスO
2とN
2を10sec供給した。このときの成膜温度は90℃とした。
【0094】
上記のようなサイクル条件におけるTiO
2の成膜速度は次のようになった。すなわち、単位成膜速度が約0.9Å/サイクルであるため、110サイクルの製膜処理を実施して膜厚10nmの成膜を行ったところ、成膜処理の合計時間は約43minとなった。
【0095】
〈オーバーコート層の水蒸気透過率〉
次に、上記の実施形態に基づいて実現したオーバーコート層(OC層)を備えた積層体の水蒸気透過率の実験結果について、幾つかの実施例を説明する。なお、ここで行った各実施例の実験結果は、上記の実施形態で実現した積層体のガスバリア性について、水蒸気透過度測定装置(モダンコントロール社製 MOCON Aquatran(登録商標))を用いて、40℃/90%RHの雰囲気で水蒸気透過率を測定したものである。
図3は、OC層を有する本実施例の積層体と、OC層を設けない比較例の積層体とについて、水蒸気透過率(WVTR)を比較した図である。したがって、
図3を参照しながら各実施例の優位性について説明する。
【0096】
〈実施例1〉
図3に示すように、実施例1では、100μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)の高分子基材上に、UC層を形成しないで、直接、ALD膜としてAlO
x薄膜を形成した。なお、AlO
x薄膜(ALD膜)は、原材料をTMA(トリメチルアルミニウム)として、プラズマ処理によって10nmの膜厚を形成した。
【0097】
また、ALD膜の表面には、有機無機複合コート膜によってOC層を形成した。このときのOC層(有機無機複合コート膜)の原材料は、加水分解TEOS(テトラエトキシシラン)とPAV(ポリビニルアルコール)である。なお、SiO
2とPVAの組成比は70%対30%である。OC層は、コート剤として固形分5%溶液を調整し、120℃−1minの加工条件で、バーコートにて膜厚0.5μmを形成した。
【0098】
このようにして形成した実施例1の積層体の試料を用いて、ガスバリア性の特性について測定を行った。その結果、水蒸気透過率(WVTR)の初期測定値は7.5×10
−3〔g/m
2/day〕であり、冷熱試験後のWVTRは9.8×10
−3〔g/m
2/day〕であった。すなわち、実施例1の積層体は、冷熱試験を行ったところ、WVTRは約3割ほど増加している。なお、冷熱試験は、冷熱衝撃試験(JIS C 0025に準拠)であり、−30℃(30min)/85℃(30min)、50サイクルの条件で行なった。後述する実施例および比較例の冷熱試験も同様の条件で行なった。
【0099】
〈実施例2〉
図3に示すように、実施例2では、100μm厚のPETの高分子基材上に、ウレタン系コート剤を用いてUC層を形成した。このUC層のウレタン系コート剤は、市販のアクリルポリオール、HEMA(メタクリル酸2-ヒドロキシメチル)/MMA(メタクリル酸メチル)系共重合ポリマー、HAMA30mol%分子量1万、TDI(トルエンジイソシアネート)アダクト系硬化剤を原材料とした。なお、原材料の組成比は、NCO/OH=0.5である。UC層は、コート剤として固形分3%溶液を調整し、120℃−1minの加工条件で、バーコートにて膜厚0.1μmを形成した。
【0100】
次に、UC層の上のALD膜として、AlO
x薄膜を形成した。なお、AlO
x薄膜は、原材料をTMAとして、プラズマ処理によって10nmの膜厚を形成した。
【0101】
さらに、ALD膜の表面には、有機無機複合コート膜によってOC層を形成した。このときのOC層(有機無機複合コート膜)の原材料は、加水分解TEOS、シラン化合物、及びPAVであり、SiO
2とPVAの組成比は85%対15%である。OC層は、コート剤として固形分5%溶液を調整し、120℃−1minの加工条件で、バーコートにて膜厚0.5μmを形成した。
【0102】
このようにして形成した実施例2の積層体の試料を用いて、ガスバリア性の特性について測定を行った。その結果、WVTRの初期測定値は3.1×10
−3〔g/m
2/day〕であり、冷熱試験後のWVTRは6.4×10
−3〔g/m
2/day〕であった。すなわち、実施例2の積層体は、冷熱試験を行ったところ、WVTRは約2倍に増加している。
【0103】
〈実施例3〉
図3に示すように、実施例3では、100μm厚のPETの高分子基材上に、無機含有ウレタン系コート剤を用いてUC層を形成した。UC層のウレタン系コート剤は、市販のアクリルポリオール、HEMA/MMA系共重合ポリマー、HAMA30mol%分子量1万、TDIアダクト系硬化剤、及び有機ベントナイトを原材料とした。なお、原材料の組成比は、NCO/OH=0.5であり、無機物質は15wt%である。UC層は、コート剤として固形分3%溶液を調整し、120℃−1minの加工条件で、バーコートにて膜厚1μmを形成した。
【0104】
次に、UC層の上のALD膜としてAlO
x薄膜を形成した。なお、AlO
x薄膜(ALD膜)は、原材料をTMAとしてプラズマ処理によって10nmの膜厚を形成した。
【0105】
また、ALD膜の表面には、有機無機複合コート膜によってOC層を形成した。このときのOC層(有機無機複合コート膜)の原材料は、加水分解TEOS、シラン化合物、PAV、及び平均粒径が0.5μmの有機ベントナイトであり、SiO2とPVAの組成比は85%対15%である。OC層は、コート剤として固形分5%溶液を調整し、120℃−1minの加工条件で、バーコートにて膜厚0.5μmを形成した。
【0106】
このようにして形成した実施例3の積層体の試料を用いて、ガスバリア性の特性について測定を行った。その結果、WVTRの初期測定値は0.8×10
−3〔g/m
2/day〕であり、冷熱試験後のWVTRは2.1×10
−3〔g/m
2/day〕であった。すなわち、実施例3の積層体は、冷熱試験を行ったところ、WVTRは2.5倍ほど増加している。
【0107】
〈実施例4〉
図3の実施例4に示すように、実施例4では、100μm厚のPETの高分子基材上に、無機含有ウレタン系コート剤を用いてUC層を形成した。UC層の無機含有ウレタン系コート剤は、市販のアクリルポリオール、HEMA/MMA系共重合ポリマー、HAMA30mol%分子量1万、TDIアダクト系硬化剤、及びTiO
2超微粒子ゾルを原材料とした。なお、原材料の組成比は、NCO/OH=0.5であり、無機物質は30wt%である。UC層は、コート剤として固形分3%溶液を調整し、120℃−1minの加工条件で、バーコートにて膜厚0.1μmを形成した。
【0108】
次に、UC層の上のALD膜として、TiO
x薄膜を形成した。なお、TiO
x薄膜(ALD膜)は、原材料をTiCl
4として、プラズマ処理によって10nmの膜厚を形成した。
【0109】
また、ALD膜の表面には、有機無機複合コート膜によってOC層を形成した。このときのOC層(有機無機複合コート膜)の原材料は、加水分解TEOS、シラン化合物、PAV、及び平均粒径が20nmのTiO
2の微粒子であり、SiO
2とPVAの組成比は85%対15%である。OC層は、コート剤として固形分5%溶液を調整し、120℃−1minの加工条件で、バーコートにて膜厚0.5μmを形成した。
【0110】
このようにして形成した実施例4の積層体の試料を用いて、ガスバリア性の特性について測定を行った。その結果、WVTRの初期測定値は1.9×10
−3〔g/m
2/day〕であり、冷熱試験後のWVTRは2.1×10
−3〔g/m
2/day〕であった。すなわち、実施例4の積層体は、冷熱試験を行ったところ、WVTRは1割ほど増加している。
【0111】
《比較例》
次に、本実施例に係るOC層を備えた積層体にける水蒸気透過率の優位性を示すために、
図3に示すような比較例と対比してみる。
【0112】
〈比較例1〉
図3に示すように、比較例1では、高分子の基材としてPETの延伸フィルム(100μm厚)を用意した。そして、この基材の表面にはUC層を設けないで、ALD膜としてAlO
x膜を成膜した。AlO
x薄膜は、原材料をTMAとして、プラズマ処理によって10nmの膜厚を形成した。なお、ALD膜の表面にはOC層は設けない。
【0113】
このようにして形成した比較例1の積層体の試料を用いて、ガスバリア性の特性について測定を行った。その結果、WVTRの初期測定値は8.5×10
−3〔g/m
2/day〕であり、冷熱試験後のWVTRは120.2×10
−3〔g/m
2/day〕であった。すなわち、比較例1の積層体は、冷熱試験を行ったところ、WVTRは14倍以上に増加している。
【0114】
〈比較例2〉
図3の比較例2に示すように、比較例2では、高分子の基材としてPETの延伸フィルム(100μm厚)を用意した。そして、100μm厚のPETの基材上には、実施例2と同様に、ウレタン系コート剤を用いてUC層を形成した。UC層のウレタン系コート剤は、市販のアクリルポリオール、HEMA/MMA系共重合ポリマー、HAMA30mol%分子量1万、TDIアダクト系硬化剤を原材料とした。なお、原材料の組成比は、NCO/OH=0.5である。UC層は、コート剤として固形分3%溶液を調整し、120℃−1minの加工条件で、バーコートにて膜厚0.1μmを形成した。
【0115】
次に、UC層の上のALD膜として、TiO
x薄膜を形成した。なお、TiO
x薄膜(ALD膜)は、原材料をTiCl
4として、プラズマ処理によって10nmの膜厚を形成した。また、ALD膜の表面にはOC層を形成しない。
【0116】
このようにして形成した比較例2の積層体の試料を用いて、ガスバリア性の特性について測定を行った。その結果、WVTRの初期測定値は4.1×10
−3〔g/m
2/day〕であり、冷熱試験後のWVTRは80.4×10
−3〔g/m
2/day〕であった。すなわち、比較例2の積層体は、冷熱試験を行ったところWVTRは約20倍増加している。
【0117】
〈考察〉
すなわち、実施例1乃至実施例4のようにOC層を設けた場合の積層体のガスバリア特性は、水蒸気透過率(WVTR)の初期値に比べて、冷熱試験後のWVTRの値はそれほど増加していない。一方、比較例1、比較例2のようにOC層を設けない場合のガスバリア特性は、WVTRの初期値に比べて冷熱試験後のWVTRの値が1桁以上(10倍以上)増加している。この原因は、比較例1、比較例2の積層体の試料はALD膜の表面にOC層を設けないために、熱ストレスなどによってALD膜に貫通孔が生じてガスバリア性が著しく低下したものと考えられる。一方、実施例1乃至実施例4の積層体の試料は、ALD膜の表面にOC層を設けて外部ストレスに対する保護を行ったので、熱ストレスなどによってALD膜が損傷しないために積層体のガスバリア性が低下しないものと考えられる。
【0118】
《まとめ》
以上述べたように、本発明の積層体によれば、高分子の基材上に形成したALD膜の表面にOC層を設けることにより、環境変化等などによるストレスや機械的な外力によってOC層が傷つかないために、積層体のガスバリア性を高くすることができる。また、薄いALD膜であってもOC層が外力による損傷を防止するために、薄いALD膜の膜厚でも所望の性能を実現することができる。
【0119】
以上、本発明に係る積層体の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、本発明の具体的な構成は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、それらは本発明に含まれる。また、本発明は、上記発明によって実現された積層体をフィルム状に形成したガスバリアフィルムにも適用される。
【0120】
《積層体の製造方法の実施形態》
本発明の実施形態に係る積層体の製造方法は、最初の工程で、基材の外面に沿って薄膜状の原子層堆積膜を形成する。そして、インラインの次工程で、原子層堆積膜がローラ等の剛体に接触する前に、その原子層堆積膜の表面にオーバーコート層を形成する。具体的には、通常は、原子層堆積膜が形成された基材はロール状に巻かれて次工程へと搬送されるが、本実施形態では、原子層堆積膜が形成された基材をロール状にするために基材の進行方向を変えるための進行方向変更用のローラが原子層堆積膜に接触する前に、原子層堆積膜の表面にオーバーコート層を形成する。望ましくは、積層体の製造工程中において、原子層堆積膜が形成された基材の形状が、原子層堆積膜の形成時の形状から変化する前に、原子層堆積膜の表面にオーバーコート層を形成する。これによって、基材の変形に起因する原子層堆積膜の傷を防いで、良好なガスバリア性を維持することができる。
【0121】
ここで、オーバーコート層は、原子層堆積膜よりも機械的強度が高い膜であることが必要である。あるいは、オーバーコート層は、原子層堆積膜と同等の機械的強度を有している場合は、原子層堆積膜の膜厚よりも厚い膜厚で形成された層であることが必要である。その理由は、原子層堆積膜が外力で傷ついて膜厚方向に貫通孔が生じても、オーバーコート層は、その程度の外力では膜厚方向に貫通孔が生じないために、積層体のガスバリア性を良好に維持できることにある。なお、基材と原子層堆積膜との間には、アンダーコート層が形成されていてもよいし、アンダーコート層は形成されていなくてもよい。
【0122】
本発明の実施形態に係る積層体の製造方法は、ALD膜4とOC層5とをインラインの直列工程内で形成するインラインのオーバーコート形成部を備えた積層体製造装置によって実現される。このとき、本実施形態に係る積層体の製造方法は、
図1に示すようなUC層が形成されていない積層体1aでも、
図2に示すようなUC層3が形成されている積層体1bでも適用することができる。すなわち、UC層の有無に関わらず、インラインでALD膜4とOC層(保護コート)5とを形成するときに、巻取り状(フィルム状)の基材に対して、ロールツーロール方式でALD膜4の薄膜を堆積させる積層体1a,1bの製造工程に適用することができる。
【0123】
一般的に、基材2上に形成(堆積)されたALD膜4は、緻密な薄膜であって、極めて薄い膜厚(例えば、10nm)でも優れたガスバリア性を発揮することができる。ところが、ALD膜4は膜厚が薄いため、ロールツーロール方式でALD法を用いて薄膜を堆積(成膜)する場合、ALD膜4を成膜後の積層体1(1a,1b)は、搬送系のガイドローラなどとの接触や、巻き取る際における基材同士の接触などによって、ALD膜4に傷やピンホールなどが発生するおそれがある。このようにして、傷やピンホールがALD膜4に生じると、積層体1のガスバリア性能が低下してしまう。
【0124】
ALD膜4に生じる微小な欠陥は、ガスバリア性の要求が低い積層体1の場合(例えば、水蒸気透過率(WVTR)が1.0g/m
2/day程度の場合)では、実用上の問題にはならない。ところが、WVTRが1×10
−3g/m
2/day以下のように、高いガスバリア性を必要とする積層体1の場合は、気密性に問題が生じる。
【0125】
例えば、ALD膜4を成膜後の積層体1をガイドローラに接触させる(巻取る)前後において、光学顕微鏡でALD膜4の表面を観察すると、積層体1をガイドローラに接触させる前にはALD膜4には傷がなかったが、積層体1をガイドローラに接触させた後にはALD膜4に多数の傷が発生している。このような傷は、ALD膜4の表面をH
2SO
4(硫酸)で処理することにより、傷の下の基材2(例えば、PET:ポリエチレンテレフタレート)が溶解するために容易に観察することができる。すなわち、ALD膜4を成膜後の積層体1をガイドローラで1回巻き取ると、WVTRは1×10
−3g/m
2/day以上増加するおそれがある。
【0126】
そこで、ガイドローラと積層体1との接触や、積層体1を巻き取った際の積層体1同士の接触などに起因する、ALD膜4の傷やピンホール(貫通孔)を防止のために、ALD膜4の成膜直後のインラインにおいて、積層体1がガイドローラに接触する前に、保護コートとしてオーバーコート層(OC層)5の成膜処理を行う。
【0127】
このときのOC層5の材質は、有機ポリマーが望ましく、アクリルエステルモノマーやアクリルモノマーとアクリルエステルオリゴマーの混合物などが例として挙げられる。また、保護コートとなるOC層5の厚みは1μm以上が望ましい。なお、ALD膜4の表面にOC層5によって保護コートを成膜する方法は、機械部品がALD膜4の表面に直接触しない方法で行われる。
【0128】
OC層5による保護コートの成膜プロセスは、ALD膜4の成膜とインラインで行うため、両者のコーティング速度、及び真空度の適正範囲は同等でなければならない。また、OC層5によって保護コートを行う際には、ALD膜4のコート面が接触することは、ピンホールや傷の発生原因になるので望ましくなく、非接触でOC層5の保護コートができる方法が望ましい。
【0129】
また、ALD膜4の成膜を真空下において行う場合は、所望の真空度を保つために、OC層5を保護コートするプロセスはガスを多量に発生させてはならない。以上のような観点から、OC層5による保護コートの成膜プロセスは、真空プロセス、非接触、かつ、コート剤に溶媒を用いない(つまり、揮発性ガスの発生の少ない)フラッシュ蒸着法が適している。
【0130】
〈第3実施形態:フラッシュ蒸着法によるOC層の形成〉
第3実施形態では、フラッシュ蒸着法によってOC層を形成する積層体の製造方法について説明する。フラッシュ蒸着法は、真空中でモノマー、オリゴマー等を所望の厚みでコーティングする手段であり、非接触で、溶媒などの多量の揮発成分を発生させることなく、かつ低熱負荷によって真空中において基材にアクリル層を堆積させることができる。このとき、常温において液体であり、溶媒を含まないアクリルモノマー、アクリルオリゴマー等が使用される。
【0131】
図4は、本発明の第3実施形態に適用される、フラッシュ蒸着法によってOC層を形成する積層体製造装置10aの概略構成図である。この積層体製造装置10aは、ALD膜4を成膜するALD成膜機構11と、ALD成膜機構11の下流側に設けられて、ALD膜4の表面にOC層5を形成させるオーバーコート形成部21と、ドラム13及び各種ローラ(繰出しローラ14a、巻取りローラ18bなど)とによって構成されている。
【0132】
ALD成膜機構11とドラム13及び各種ローラを含めた要素の構成は次のようになっている。すなわち、薄板、フィルム、若しくは膜状に形成された帯状に長い基材12の厚さ方向の一方の面を支持するドラム(支持体)13と、ドラム13に沿って基材12を一方向へ搬送する繰出しローラ14a及び小ローラ14bからなる搬送機構14と、基材12に対してプラズマ前処理を行うプラズマ前処理部16と、ドラム13の表面との間に基材12が挿入されるように配置され、基材12の厚み方向の他方の面にALD膜の前駆体を付着させるALD成膜部17a,17b,17cと、基材12の搬送方向においてオーバーコート形成部21の下流に設けられ、ALD膜4及びOC層5が形成された基材12をロール状に巻き取るダンサーローラ18a及び巻取りローラ18bからなる巻取り機構18とを備えて構成されている。
【0133】
巻取り機構18のダンサーローラ18aは、基材12が巻取りローラ18bに巻き取られるときに所定のテンションを加える機能を有している。また、
図4では、ALD成膜部17a,17b,17cは3個表示されているが、実際には、ALD膜4に所望の膜厚が実現できるALD法の成膜サイクルに対応した個数を設ける必要がある。例えば、ALD膜4を10nmの膜厚にするときにALD法の成膜サイクルが70サイクル必要であれば、70個のALD成膜部を設ける必要がある。なお、繰出しローラ14a、ドラム13、及び巻取りローラ18bの回転方向は
図4の矢印方向(反時計方向)である。
【0134】
また、ALD膜4の表面にOC層5を形成(コーティング)させるオーバーコート形成部21は、原料タンク22、原料配管23、原料搬送ポンプ24、アトマイザー(噴霧器)25、気化器(エバポレータ)26、気体配管27、コーティングノズル28、及びALD膜4の表面にコーティングされたOC層5(アクリル層)を架橋・硬化さるために電子線やUV(紫外線)を照射する照射部29を備えて構成されている。
【0135】
なお、ドラム(支持体)13は、ALD成膜部17a,17b,17cと巻取機構18との間で基材12が一定の形状に維持されるように該基材12を支持している。これによって、ALD膜4の表面にOC層5が均一にコーティングされる。
【0136】
次に、
図4に示す積層体製造装置10aを用いてフラッシュ蒸着によってOC層5を形成す動作について説明する。先ず、ALD成膜機構11においては通常のALD法によって基材2にALD膜4を成膜する。ここでは、高分子の基材2に対して、酸化アルミニウム(Al
2O
3)からなるALD膜4の薄膜を巻取り式のALD法で成膜する場合について説明する。
【0137】
先ず、ステップ1において、フィルム状の高分子の基材2として、100μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)の延伸フィルムを巻き取り、これを積層体製造装置10における搬送機構14の繰出しローラ14aに取り付ける。
【0138】
そして、ステップ2において、搬送機構14の巻出し軸である小ローラ14bから繰り出されたフィルム状の基材12は、ドラム(支持体)13によって裏面が支持されながら、プラズマ前処理部16で酸素プラズマ雰囲気に暴露されて表面の改質が行われる。このときのプラズマ処理の条件は、基材12の詳細な特性に合わせて適宜選定される。
【0139】
次に、ステップ3において、基材12は、プラズマ処理の終了後に不活性ガス(窒素ガス)の雰囲気にあるALD成膜機構11のALD成膜部17aのパージ領域17a1へ移動する。
【0140】
続いて、ステップ4において、基材12は、ALD成膜部17aのゾーンに入り、パージ領域17a1を通過した後に、第一前駆体領域17a2の雰囲気でトリメチルアルミニウムが吸着される。この第一前駆体領域17a2は、窒素ガスとトリメチルアルミニウムとの雰囲気、圧力約10〜50Pa、内壁温度約70℃に保たれている。
【0141】
次に、ステップ5において、基材12は次のセクションのパージ領域17a1へ移動し、その雰囲気において過剰な第一前駆体が除去される。
【0142】
さらに、ステップ6において、基材12は、パージ領域17a1から第二前駆体領域17a3へ移動する。この第二前駆体領域17a3は、窒素ガスと水の雰囲気において、圧力約10〜50Pa、内壁温度約70℃に保たれている。この第二前駆体領域17a3においては、水が基材12に吸着しているトリメチルアルミニウムと反応する。
【0143】
次に、ステップ7において、基材12は、第二前駆体領域17a3とパージ領域17a1との間の仕切り板に設けられたスリット(図示せず)を通過して次のパージ領域17a1へ搬送され、このパージ領域17a1で過剰な第二前駆体が除去される。
【0144】
以上のようなステップ1からステップ7によるALD膜4の成膜処理が1サイクルとなって、基材12の表面に1層分の積層体のALD膜4が形成される。
図4では、3個のALD成膜部17a,17b,17cによる3サイクルが示されているが、実際には、70個のALD成膜部17によって70サイクルの成膜処理が行われ、約10nmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)の薄膜が基材12の表面にALD膜4として形成される。
【0145】
ALD成膜部17a,17b,17cで酸化アルミニウム(Al
2O
3)の薄膜によるALD膜4が形成された基材12は、保護コートとなるOC層5を形成するオーバーコート形成部21へ搬送される。
【0146】
オーバーコート形成部21におけるフラッシュ蒸着においては、原料タンク22から、原料搬送ポンプ24によって原料配管23に送出されたコート材料(アクリルモノマーなど)は、アトマイザー(噴霧器)25に滴下される。そして、アトマイザー(噴霧器)25に滴下されたコート材料(アクリルモノマーなど)は、気化器(エパボレーター)26の壁面に接触するのと同時に気体状になる。
【0147】
そして、気化器26内で気体状(ガス状)になったコート材料は、高温に保たれた気体配管27を通して、コーティングノズル28へ拡散される。さらに、コーティングノズル28から噴霧状に流出したガス状のコート材料は、基材12の表面に凝集される。次に、基材12の表面に凝集したコート材料によって形成されたOC層5は、照射部29から照射される電子線やUV光線によって架橋・硬化される。なお、OC層5のコーティングのセクション(オーバーコート形成部21)は、コート材料の架橋の阻害にならないように、通常は窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気に保たれている。
【0148】
また、OC層5のコーティングの厚みは、気化器26に単位時間に滴下されるコート材料の量を調節することによって任意に調整することができる。例えば、OC層5のコーティング膜厚を厚くしたい場合は、気化器26へのコート材料の滴下量を増やし、OC層5のコーティング膜厚を薄くしたい場合は、気化器26へのコート材料の滴下量を減らす。このようにして、OC層5のコーティング膜厚の均一性は単位時間あたりの材料の滴下量を一定に保つことによって制御することができる。
【0149】
すなわち、ALD成膜機構11において酸化アルミニウム(Al
2O
3)によるALD膜4の薄膜が形成された基材12は、途中で機構部品などに接触することなく、保護コート(OC層5)を形成するオーバーコート形成部21へ搬送される。一方、オーバーコート形成部21では、コーティングノズル28からアクリルコート剤(例えば、アクリルモノマー、オリゴマー、光開始剤など)が蒸気放出されている。したがって、酸化アルミニウム(Al
2O
3)によるALD膜4が成膜された基材12がコーティングノズル28を通過する際には、酸化アルミニウム(Al
2O
3)の薄膜の表面にアクリルコート剤によるOC層5が凝集される。
【0150】
次に、酸化アルミニウム(Al
2O
3)の薄膜(ALD膜4)の表面にアクリルコート剤のOC層5が堆積した基材フィルム(積層体1)は、照射部29においてUVランプまたは電子線の照射ゾーン(照射部29)に搬送される。ここで、基材フィルム(積層体1)が、UV光線または電子線を照射する照射部29を通過する際に、アクリルコート剤が硬化されて約1μmのOC層5が形成される。
【0151】
このようにしてフラッシュ蒸着によってOC層5が形成された基材フィルム(積層体1)は、巻取り機構18に搬送され、ダンサーローラ18aによって一定のテンションが加えられながら、巻取りローラ18bに巻き取られる。したがって、酸化アルミニウム(Al
2O
3)の薄膜(ALD膜4)が、巻取り機構18(ダンサーローラ18aや巻取りローラ18b)に直接的に接触することはなくなる。また、基材フィルム(積層体1)が巻取りローラ18bに巻き取られた後も、酸化アルミニウム(Al
2O
3)の薄膜(ALD膜4)同士が直接接触するおそれもなくなる。その結果、巻取りローラ18bに巻き取られた基材フィルム(積層体1)のALD膜4にピンホールや傷が発生するおそれがなくなるので、高品質な積層体1を巻取り状態で生産することができる。
【0152】
〈第4実施形態:CVDによるOC層の形成〉
第4実施形態では、CVD、すなわち化学蒸着法によってOC層を形成する積層体の製造方法について説明する。
図5は、本発明の4実施形態に適用される、CVDによってOC層を形成する積層体製造装置10bの概略構成図である。基材12にALD膜4を成膜するALD成膜機構11とドラム13及び各種ローラを含めた構成については
図4と同じであるので、それらの構成については説明は省略する。
【0153】
オーバーコート形成部31は、例えば13.56MHzのプラズマ用の高周波電力を供給するRF(Radio Frequency:高周波)電源32と、プラズマ用の高周波電力の周波数マッチングを行うマッチングボックス33と、化学蒸着を行うためのプラズマ放電用の電極34と、オゾンやO
2などのガスを供給するガスタンク35と、オゾンやO
2などの雰囲気ガスの供給量を計測する雰囲気ガスフローメータ36と、CVD用のHMDSO(Hexamethyldisiloxane:ヘキサメチルジシロキサン)などのフルオロカーボンガスを供給する原料タンク37と、HMDSOなどのフルオロカーボンガスの供給量を計測する原料ガスフローメータ38とを備えて構成されている。
【0154】
次に、
図5に示す積層体製造装置10bを用いてCVDによってOC層5を形成す動作について説明する。先ず、前述の第3実施形態で述べたフラッシュ蒸着の場合と同様の方法により、ALD成膜機構11において、通常のALD法によって高分子の基材12の表面に10nm厚のAl
2O
3膜からなるALD膜4を成膜する。
【0155】
ALD成膜部17a,17b,17cでAl
2O
3の薄膜(ALD膜4)が成膜された基材12は、第3実施形態で述べた場合と同様にオーバーコート形成部31へ移動する。そして、Al
2O
3の薄膜が成膜された基材12は、オーバーコート形成部31を通過する際に、通常のCVD法によってSiO
2の薄膜が1μmの厚みで形成される。
【0156】
このとき、オーバーコート形成部31においては、RF電源32から、周波数13.56MHzの高周波電力1.0kWをCVDの電極34へ印加する。また、原料タンク37から、成膜圧力が10Paのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を供給する。このときのHMDSOの導入量は100sccmとする。また、ガスタンク35からのオゾンガスの導入量は100sccmとする。一方、CVDの電極34における電極間距離は30mmとする。また、基材12は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を100μm厚とした。
【0157】
このようにしてCVDによってOC層5が形成された基材フィルム(積層体1)は、巻取り機構18に搬送され、ダンサーローラ18aによって一定のテンションが加えられながら、巻取りローラ18bに巻き取られる。したがって、Al
2O
3の薄膜(ALD膜4)が、巻取り機構18(ダンサーローラ18aや巻取りローラ18b)に直接的に接触することはなくなる。また、基材フィルム(積層体1)が巻取りローラ18bに巻き取られた後も、Al
2O
3の薄膜(ALD膜4)同士が直接接触するおそれもなくなる。その結果、巻取りローラ18bに巻き取られた基材フィルム(積層体1)のALD膜4にピンホールや傷が発生するおそれがなくなるので、高品質な積層体1を巻取り状態で生産することができる。
【0158】
〈積層体の製造工程〉
以上説明した内容に基づき、
図4または
図5に示す積層体製造装置10a,10bによる積層体1の製造工程について説明する。
図6は、本発明の実施形態において、UC層を設けない場合の積層体の製造工程を要約したフローチャートである。また、
図7は、本発明の実施形態において、UC層を設けた場合の積層体の製造工程を要約したフローチャートである。
【0159】
最初に、
図6を用いてUC層を設けない場合の積層体1aの製造工程について説明する。先ず、高分子の基材2の外面に沿って薄膜状のALD膜4を形成する(ステップS1)。次に、ALD膜4の形成と直列の工程内にあるインラインにおいて、ALD膜4の外面に沿って、該ALD膜4よりも機械的強度の高いOC層5を形成して積層体1aを生成する(ステップS2)。なお、ステップS2では、ALD膜4の外面に沿って、該ALD膜4と同等の機械的強度を有すると共に該ALD膜4よりも膜厚の厚い膜でOC層5を形成して積層体を生成してもよい。次に、OC層5を巻取りローラ18bに接触させて積層体1aを巻取り収納する(ステップS3)。
【0160】
これによって、ALD膜4よりも機械的強度が高いOC層5がダンサーローラ18aや巻取りローラ18bに接触し、ALD膜4はダンサーローラ18aや巻取りローラ18bに直接接触することがなくなるので、ALD膜4が傷つくおそれはなくなる。その結果、積層体1aのガスバリア性を良好に維持しながら、該積層体1aを巻取りローラ18bに巻き取ることができる。また、OC層5がALD膜4と同等の機械的強度であっても、OC層5はALD膜4よりも膜厚が厚ければ、ALD膜4が多少傷つく程度の外力が加わってもOC層5に貫通孔が生じるおそれはない。その結果、積層体1aのガスバリア性を良好に維持することができる。
【0161】
次に、
図7を用いてUC層を設けた場合の積層体1bの製造工程について説明する。先ず、高分子の基材2の外面に沿って、無機物質または有機高分子の少なくとも一方を含有するUC層3を形成する(ステップS11)。次に、UC層3の表面に露出した無機物質または有機高分子の少なくとも一方と結合するように、UC層3の表面に薄膜状のALD膜4を形成する(ステップS2)。さらに、ALD膜4の形成と直列の工程内にあるインラインにおいて、ALD膜4の外面に沿って、該ALD膜4よりも機械的強度の高いOC層5を形成して積層体1bを生成する(ステップS3)。なお、ステップS3では、ALD膜4の外面に沿って、該ALD膜4と同等の機械的強度を有すると共に該ALD膜4よりも膜厚の厚い膜でOC層5を形成して積層体1bを生成してもよい。次に、OC層5を巻取りローラ18bに接触させて積層体1bを巻取り収納する(ステップS4)。
【0162】
これによって、ALD膜4よりも機械的強度が高いOC層5がダンサーローラ18aや巻取りローラ18bに接触し、ALD膜4はダンサーローラ18aや巻取りローラ18bに直接接触することがなくなるので、ALD膜4が傷つくおそれはなくなる。その結果、積層体1bのガスバリア性を良好に維持することができる。また、OC層5がALD膜4と同等の機械的強度であっても、OC層5はALD膜4よりも膜厚が厚ければ、ALD膜4が多少傷つく程度の外力が加わってもOC層5に貫通孔が生じるおそれはない。その結果、積層体1bのガスバリア性を良好に維持することができる。
【0163】
《実施例》
〈実施例1〉
実施例1では、
図4の積層体製造装置10aを用いてフラッシュ蒸着によってOC層を形成した。すなわち、
図8に示すように、実施例1では、高分子基材のフィルムとして巻き取られた100μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)の延伸フィルムを、積層体製造装置10aの繰出しローラ14aに取り付けた。そして、小ローラ14bから繰り出されたフィルム(基材12)をプラズマ処理部16で300W、180secの条件でO
2プラズマの雰囲気に暴露して表面の改質を行った。さらに、プラズマ処理の後、ドラム13によって同フィルムをN
2ガス雰囲気のALD成膜形成部11へ移動した。
【0164】
続いて、同フィルムをALD成膜部17aに導入し、O
2ガスとN
2ガスの混合雰囲気であるパージ領域17a1を通過させた後、内壁温度が約70℃に保たれた10〜50PaのN
2ガスとトリメチルアルミニウム(TMA)雰囲気である第一前駆体領域17a2にてTMAを同フィルムの表面に吸着させた。
【0165】
さらに、同フィルムを次のパージ領域17a1へ移動させ、そこで過剰な第一前駆体を除去した。そして、同フィルムをパージ領域17a1から第二前駆体領域17a3へ移動させ、内壁温度が約70℃に保たれた10〜50PaのN
2ガスとH
2Oガスの混合雰囲気である第二前駆体領域17a3にてH
2Oをフィルムに吸着させた。このときに、H
2OとTMAが反応して同フィルムの表面に酸化アルミニウム(Al
2O
3)が生成された。
【0166】
次に、同フィルムを、第二前駆体領域17a3とパージ領域17a1との間の仕切り板に設けられたスリットに通して、次のパージ領域17a1へ搬送し、このパージ領域17a1で過剰な第二前駆体を除去した。
【0167】
以上のような操作を1サイクルとし、ALD成膜部17a→ALD成膜部17b→ALD成膜部17c…というように、70サイクルの成膜処理を行った結果、約10nmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)の薄膜(バリア層)がフィルムの表面に形成された。
【0168】
次に、ALD成膜機構11で酸化アルミニウム(Al
2O
3)の薄膜が形成されたフィルムをオーバーコート形成部21へ搬送した。オーバーコート形成部21では、フィルムの表面の酸化アルミニウム(Al
2O
3)の上に、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートと、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレートとの、90/10(重量%)の混合物からなる、厚み1μmの未硬化のフラッシュ蒸着による被膜層を積層した。
【0169】
続いて、フラッシュ蒸着による被膜層に対して照射部29から電子線を照射して被膜層を硬化させ、厚み1μmのアクリルコート層(アクリル系樹脂)をオーバーコート層(OC層)として形成した。次に、フラッシュ蒸着によってOC層が形成されたフィルムを巻取機構18へ搬送し、OC層が形成されたフィルムをダンサーローラ18aによって一定のテンションにして、同フィルムを巻取りローラ18bに巻き上げた。
【0170】
このようにして形成した実施例1のフィルム(積層体)の試料を用いて、ガスバリア性の特性について測定を行った。その結果、水蒸気透過率(WVTR)の測定値は1.5×10
−3〔g/m
2/day〕であった。
【0171】
〈実施例2〉
実施例2では、
図5の積層体製造装置10bを用いてCVDによってOC層を形成した。すなわち、
図8に示すように、実施例2では、実施例1と全く同様な方法で、ALD成膜機構11にて約5nmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)の薄膜(バリア層)を100μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)の延伸フィルム上に形成した。
【0172】
次に、ALD成膜部機構11で酸化アルミニウム(Al
2O
3)の薄膜を形成したフィルムをオーバーコート形成部31へ搬送した。オーバーコート形成部31では、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)100sccmと、オゾン100sccmの混合ガスをCVDの電極34間に導入し、RF電源32から周波数13.56MHzの高周波電力1.0kWを電極34間に印可してプラズマ化した。そして、同フィルムの表面の酸化アルミニウム(Al
2O
3)上に、OC層として約1μmの酸化ケイ素膜(SIO
2膜)を形成した。
【0173】
次に、CVDによってOC層が形成されたフィルムを巻取り機構18へ搬送し、OC層が形成されたフィルムをダンサーローラ18aによって一定のテンションにして、同フィルムを巻取りローラ18bに巻き上げた。
【0174】
このようにして形成した実施例2の積層体の試料を用いて、ガスバリア性の特性について測定を行った。その結果、水蒸気透過率(WVTR)の測定値は2.2×10
−3〔g/m
2/day〕であった。
【0175】
《比較例》
次に、本実施例に係るOC層を備えた積層体にける水蒸気透過率の優位性を示すために、
図8に示すような比較例と対比してみる。
【0176】
〈比較例1〉
図8に示すように、比較例1では、実施例1と全く同様な方法で、ALD成膜機構11にて約5nmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)の薄膜(バリア層)を、100μm厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)の延伸フィルム上に形成した。次に、OC層を形成しない状態で、同フィルムを巻取り機構18へ搬送した。そして、OC層が形成されていないフィルムをダンサーローラ18aによって一定のテンションにして、同フィルムを巻取りローラ18bに巻き上げた。
【0177】
このようにして形成した比較例1の積層体の試料を用いて、ガスバリア性の特性について測定を行った。その結果、水蒸気透過率(WVTR)の測定値は3.0×10
−2〔g/m
2/day〕であった。すなわち、比較例1のようにOC層を設けないフィルム(積層体)を巻取り機構18で巻き取った場合は、実施例1、実施例2に示すようにOC層を設けたフィルム(積層体)を巻取り機構18で巻き取った場合に比べて、WVTRが1桁ほど低下している。言い換えると、OC層を設けないフィルム(積層体)を巻取り機構18で巻き取るとガスバリア性が著しく劣化する。
【0178】
《まとめ》
以上述べたように、本発明によれば、高分子の基材上に形成したALD膜の表面にOC層を設けることにより、ロールツーロール方式の積層体製造装置による機械的な外力(ストレス)によってOC層に傷やピンホールが生じないため、積層体のガスバリア性を高くすることができる。その結果、高品質なALD膜コートのフィルムを巻取り方式によって高速生産することができる。
【0179】
以上、本発明に係る積層体の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、本発明の具体的な構成は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、それらは本発明に含まれる。また、上記の実施形態では、積層体の製造方法、及び積層体製造装置について述べたが、これに限定されることなく、本発明によって実現された積層体をフィルム状に形成したガスバリアフィルムの製造方法や製造装置にも適用できることは勿論である。