(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5〜45重量部、有機繊維(B)を1〜45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10〜94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(LA)が0.3〜3mmであり、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(LB)が0.5〜5mmであり、数平均繊維径(dB)が1〜10μmである繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
前記有機繊維(B)がポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維およびフッ素繊維からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5〜45重量部、有機繊維(B)を1〜45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10〜94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1〜25重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(dB)が1〜10μmであり、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5〜45重量部、熱可塑性樹脂(C)を35〜94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1〜25重量部含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1〜45重量部、熱可塑性樹脂(H)を35〜94重量部、化合物(I)を1〜25重量部含み、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(dB)が1〜10μmである有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
前記有機繊維(B)がポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維およびフッ素繊維からなる群より選択される少なくとも1種である請求項6〜8のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品(以下、「成形品」という場合がある)は、少なくとも炭素繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)を含む。本発明の成形品は、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)よりも低い化合物(D)をさらに含むことが好ましい。
【0013】
炭素繊維(A)は、連続した強化繊維束であり、強化材として成形品に高い力学特性を付与するものである。有機繊維(B)も連続した強化繊維束であり、柔軟性を持つことが特徴である。有機繊維(B)は柔軟性を有することから、成形時に折れにくく、湾曲して長い繊維長を保ったまま成形品中に存在しやすい。そのため、剛直でもろく、絡まりにくく折れやすい炭素繊維(A)のみから構成される繊維束に比べて、有機繊維(B)を含む繊維束(E)を用いることにより、強化材として成形品に高い衝撃強度を付与することができる。熱可塑性樹脂(C)は比較的高粘度の、例えば靭性などの物性が高いマトリックス樹脂であり、成形品において炭素繊維(A)および有機繊維(B)を強固に保持する役割をもつ。
【0014】
本発明の成形品は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5〜45重量部(5重量部以上45重量部以下)含有する。炭素繊維(A)の含有量が5重量部未満であると、成形品の曲げ特性および衝撃強度が低下する。炭素繊維(A)の含有量は10重量部以上が好ましい。また、炭素繊維(A)の含有量が45重量部を超えると、成形品中の炭素繊維(A)の分散性が低下し、成形品の衝撃強度の低下を引き起こすことが多い。炭素繊維(A)の含有量は30重量部以下が好ましい。
【0015】
炭素繊維(A)の種類として特に制限はないが、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが例示される。PAN系炭素繊維はポリアクリロニトリル繊維を原料とする炭素繊維である。ピッチ系炭素繊維は石油タールや石油ピッチを原料とする炭素繊維である。セルロース系炭素繊維はビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とする炭素繊維である。気相成長系炭素繊維は炭化水素などを原料とする炭素繊維である。これらのうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましい。また、導電性を付与するために、ニッケル、銅またはイッテルビウムなどの金属を被覆した炭素繊維を用いることもできる。
【0016】
炭素繊維(A)としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が、0.05〜0.5であるものが好ましい。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面に十分な官能基量を確保でき、より強固な接着性を得ることができることから、曲げ強度および引張強度がより向上する。0.08以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましい。また、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取り扱い性、生産性のバランスから、一般的に0.5以下が好ましい。表面酸素濃度比は、0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
【0017】
炭素繊維(A)の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求める。まず、炭素繊維表面にサイジング剤などが付着している場合には、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去する。炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べて、測定サンプルとする。測定サンプルをX線光電子分光装置の試料チャンバーにセットし、試料チャンバー中を1×10
−8Torrに保ち、X線源としてAlKα1、2を用いて、測定を行う。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC
1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1,202eVに合わせる。K.E.として1,191〜1,205eVの範囲で直線のベースラインを引くことによりC
1sピーク面積を求める。K.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことによりO
1sピーク面積を求める。
【0018】
ここで、表面酸素濃度比は、上記O
1sピーク面積とC
1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光装置として、国際電気(株)製モデルES−200を用いる場合には、感度補正値を1.74とする。
【0019】
表面酸素濃度比[O/C]を0.05〜0.5に調整する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法を挙げることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
【0020】
炭素繊維(A)を強化繊維束とした場合の単繊維数には、特に制限はないが、100〜350,000本が好ましく、生産性の観点から、20,000〜100,000本がより好ましい。
【0021】
炭素繊維(A)とマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂(C)の接着性を向上する等の目的で、炭素繊維(A)は表面処理されたものであってもかまわない。表面処理の方法としては、例えば、電解処理、オゾン処理、紫外線処理等を挙げることができる。
【0022】
炭素繊維(A)の毛羽立ちを防止したり、炭素繊維(A)とマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂(C)との接着性を向上する等の目的で、炭素繊維はサイジング剤が付与されたものであってもかまわない。サイジング剤を付与することにより、熱可塑性樹脂(C)との接着性および成形品の曲げ強度および衝撃強度をより向上させることができる。
【0023】
サイジング剤としては、具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル、乳化剤あるいは界面活性剤などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。サイジング剤は、水溶性もしくは水分散性であることが好ましく、炭素繊維(A)との濡れ性に優れるエポキシ樹脂が好ましい。中でも多官能エポキシ樹脂がより好ましい。
【0024】
多官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、マトリックス樹脂との接着性を発揮しやすい脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。脂肪族エポキシ樹脂は、柔軟な骨格のため、架橋密度が高くとも靭性の高い構造になりやすい。炭素繊維/熱可塑性樹脂間に存在させた場合、柔軟で剥離しにくくさせるため、成形品の強度をより向上させることができる。
【0025】
多官能の脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。ジグリシジルエーテル化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテルおよびポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテルおよびポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物としては、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アラビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類トリメチロールプロパングリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、脂肪族多価アルコール等が挙げられる。
【0026】
上記脂肪族エポキシ樹脂の中でも、3官能以上の脂肪族エポキシ樹脂が好ましく、反応性の高いグリシジル基を3個以上有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物がより好ましい。脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物は、柔軟性、架橋密度、マトリックス樹脂との相溶性のバランスがよく、接着性をより向上させることができる。これらの中でも、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類がさらに好ましい。
【0027】
サイジング剤の付着量は、炭素繊維(A)とサイジング剤との合計重量を100重量%として、0.01重量%以上10重量%以下が好ましい。サイジング剤付着量が0.01重量%以上であれば、熱可塑性樹脂(C)との接着性がより向上する。0.05重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上がさらに好ましい。一方、サイジング剤付着量が10重量%以下であれば、熱可塑性樹脂(C)の物性をより高いレベルで維持することができる。5重量%以下がより好ましく、2重量%以下がさらに好ましい。サイジング剤の付着量は、例えばサイジング剤が付着した炭素繊維を窒素雰囲気下で500℃×15分間加熱して、加熱前後の重量変化から500℃×15分間の加熱で焼き飛ばされたサイジング剤の重量を算出することにより求めることができる。
【0028】
サイジング剤の付与手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、サイジング剤を溶媒(分散させる場合の分散媒含む)中に溶解または分散させたサイジング処理液を調製し、該サイジング処理液を炭素繊維に付与した後に、溶媒を乾燥・気化させて除去する方法が挙げられる。サイジング処理液を炭素繊維に付与する方法としては、例えば、ローラーを介して炭素繊維をサイジング処理液に浸漬する方法、サイジング処理液の付着したローラーに炭素繊維を接する方法、サイジング処理液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などが挙げられる。また、サイジング処理液の付与方法は、バッチ式および連続式のいずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましい。この際、炭素繊維(A)に対するサイジング剤の付着量が適正範囲内で均一になるように、サイジング処理液濃度、温度、糸条張力などを調整することが好ましい。また、サイジング処理液付与時に炭素繊維(A)を超音波で加振させることがより好ましい。
【0029】
乾燥温度と乾燥時間はサイジング剤の付着量によって調整すべきである。サイジング処理液に用いる溶媒の完全な除去、乾燥に要する時間を短くし、一方、サイジング剤の熱劣化を防止し、サイジング処理された炭素繊維(A)が固くなって拡がり性が悪化することを防止する観点から、乾燥温度は、150℃以上350℃以下が好ましく、180℃以上250℃以下がより好ましい。
【0030】
サイジング処理液に使用する溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン等が挙げられるが、取扱いが容易であることおよび防災の観点から、水が好ましい。従って、水に不溶、若しくは難溶の化合物をサイジング剤として用いる場合には、乳化剤、界面活性剤を添加し、水性分散液として用いることが好ましい。具体的には、乳化剤または界面活性剤としては、スチレン−無水マレイン酸共重合体、オレフィン−無水マレイン酸共重合体、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリアクリル酸ソーダ等のアニオン系乳化剤、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン等のカチオン系乳化剤、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンエーテルエステル共重合体、ソルビタンエステルエチルオキサイド付加物等のノニオン系乳化剤等を用いることができる。相互作用の小さいノニオン系乳化剤が、サイジング剤に含まれる官能基の接着効果を阻害しにくく好ましい。
【0031】
本発明の成形品における炭素繊維(A)の平均繊維長(L
A)は、0.3〜3mm(0.3mm以上3mm以下)である。炭素繊維(A)の平均繊維長(L
A)が0.3mm未満である場合、成形品における炭素繊維(A)の補強効果が十分に発現せず、曲げ強度および引張強度が低下する。L
Aは0.5mm以上が好ましい。一方、炭素繊維(A)の平均繊維長(L
A)が3mmを超える場合、炭素繊維(A)同士の単繊維間における絡み合いが増加し、成形品内で均一分散しにくくなるため、曲げ強度、引張強度および分散性が低下する。L
Aは2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましく、1.2mm以下がさらに好ましい。ここで、本発明における炭素繊維(A)の「平均繊維長」とは、重量平均分子量の算出方法を繊維長の算出に適用し、単純に数平均を取るのではなく、繊維長の寄与を考慮した下記の式から算出される平均繊維長を指す。ただし、下記の式は、炭素繊維(A)の繊維径および密度が一定の場合に適用される。
【0032】
平均繊維長=Σ(Mi
2×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの炭素繊維の個数。
【0033】
上記平均繊維長の測定は、次の方法により行うことができる。成形品を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させる。炭素繊維が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50〜200倍)にて観察する。無作為に選んだ1,000本の炭素繊維(A)の繊維長を計測して、上記式から平均繊維長(L
A)を算出する。
【0034】
なお、成形品中における炭素繊維(A)の平均繊維長は、例えば、成形条件などにより調整することができる。成形条件としては、例えば、射出成形の場合、背圧や保圧力などの圧力条件、射出時間や保圧時間などの時間条件、シリンダー温度や金型温度などの温度条件などが挙げられる。背圧などの圧力条件を増加させることで、シリンダー内での剪断力を高めることができるため、炭素繊維(A)の平均繊維長を短くすることができる。また、射出時間を短くすることでも射出時の剪断力を高くすることができ、炭素繊維(A)の平均繊維長を短くすることができる。さらにシリンダー温度や金型温度などの温度を下げることで、流動する樹脂粘度を上げることができ剪断力を高めることができるため、炭素繊維(A)の平均繊維長を短くすることができる。本発明においては、上記のように条件を適宜変更することにより、成形品中における炭素繊維(A)の平均繊維長を所望の範囲とすることができる。
【0035】
本発明の成形品における炭素繊維(A)の数平均繊維径(d
A)は特に限定されないが、成形品の力学特性と表面外観の観点から、1〜20μmが好ましく、3〜15μmがより好ましい。
【0036】
ここで、本発明における炭素繊維(A)の「数平均繊維径」とは、下記の式から算出される平均繊維径を指す。
【0037】
数平均繊維径=Σ(di×Ni)/Σ(Ni)
di:繊維径(μm)
Ni:繊維径diの炭素繊維の個数。
【0038】
上記数平均繊維径の測定は、次の方法により行うことができる。成形品を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させる。炭素繊維が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(200〜1000倍)にて観察する。無作為に選んだ10本の炭素繊維(A)の繊維径を計測して、上記式から数平均繊維径を算出する。ここで、炭素繊維の繊維径とは、
図4に示すように、観察される炭素繊維(A)の繊維輪郭部A上の任意の点Bと、繊維輪郭部A(4)と向かい合う繊維輪郭部A’(5)との最短距離(6)を、炭素繊維(A)1本あたり無作為に選んだ20箇所について計測した合計200箇所の数平均値とする。観察画面内で炭素繊維(A)が10本に満たない場合には、観察画面を計測可能な新しい観察画面に適宜移動させて計測する。
【0039】
炭素繊維の繊維径は成形前後で基本的に変化しないため、成形材料に用いる炭素繊維として、種々の繊維径を有する炭素繊維から所望の繊維径を有するものと選択することにより、成形品中の炭素繊維の繊維径を上記範囲にすることができる。
【0040】
本発明の成形品は、前述した炭素繊維(A)に加えて有機繊維(B)を含有する。炭素繊維(A)などの無機繊維は剛直で脆いため、絡まりにくく折れやすい。そのため、無機繊維だけからなる繊維束は、成形品の製造中に切れ易かったり、成形品から脱落しやすいという課題がある。そこで、柔軟で折れにくい有機繊維(B)を含むことにより、成形品の衝撃強度を大幅に向上させることができる。本発明において、成形品中の有機繊維(B)の含有量は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、1〜45重量部(1重量部以上45重量部以下)である。有機繊維(B)の含有量が1重量部未満である場合、成形品の衝撃特性が低下する。有機繊維(B)の含有量は5重量部以上が好ましい。逆に、有機繊維(B)の含有量が45重量部を超える場合、繊維同士の絡み合いが増加し、成形品中における有機繊維(B)の分散性が低下し、成形品の衝撃強度の低下を引き起こすことが多い。有機繊維(B)の含有量は30重量部以下が好ましい。
【0041】
有機繊維(B)の引張破断伸度は、有機繊維の平均繊維長を後述する範囲に調整し、衝撃強度をより向上させる観点から、10%以上が好ましく、20%以上がさらに好ましい。一方、繊維強度および成形品の剛性を向上させる観点から、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。
【0042】
有機繊維(B)の引張破断伸度(%)は、次の方法により求めることができる。標準状態(20℃,65%RH)の室内で、つかみ間隔250mm、引張速度300mm/分の条件で引張試験を行い、繊維切断時の長さを測定し(ただし、チャック近傍で切断した場合はチャック切れとしてデータから除く)、次式により小数点2桁まで算出し、小数点2桁目を四捨五入する。データ数n3の平均値を求め、本発明における引張破断伸度とする。
【0043】
引張破断伸度(%)=[(切断時の長さ(mm)−250)/250]×100
有機繊維(B)は、成形品の力学特性を大きく低下させない範囲で適宜選択することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリーレンスルフィド、液晶ポリエステル等の樹脂を紡糸して得られる繊維を挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。これらの有機繊維(B)の中から、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂(C)との組み合わせにより適宜選択して用いることが好ましい。特に、熱可塑性樹脂(C)の成形温度(溶融温度)に対して、有機繊維(B)の溶融温度が30℃〜150℃高いことが好ましく、50℃〜100℃高いことがより好ましい。あるいは、熱可塑性樹脂(C)と非相溶性である樹脂を用いてなる有機繊維(B)は、成形品内に繊維状態を保ったまま存在するため、成形品の衝撃強度をより向上できるため好ましい。溶融温度の高い有機繊維(B)として、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維、フッ素樹脂繊維などが挙げられ、本発明においては、有機繊維(B)としてこれらからなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維を用いることが好ましい。
【0044】
本発明の成形品における有機繊維(B)の平均繊維長(L
B)は、0.5mm〜5mm(0.5mm以上5mm以下)である。有機繊維(B)の平均繊維長(L
B)が0.5mm未満である場合、成形品における有機繊維(B)の補強効果が十分に発現せず、衝撃強度が低下する。L
Bは1mm以上が好ましく、1.5mm以上がさらに好ましい。一方で、平均繊維長(L
B)が5mmを超える場合、有機繊維(B)同士の単糸間での絡み合いが増加し、成形品内で均一分散しにくくなるため、衝撃強度が低下する。L
Bは4mm以下が好ましく、3mm以下がさらに好ましい。ここで、本発明における有機繊維(B)の「平均繊維長」とは、炭素繊維(A)と同様に、重量平均分子量の算出方法を繊維長の算出に適用し、単純に数平均を取るのではなく、繊維長の寄与を考慮した下記の式から算出される平均繊維長を指す。ただし、下記の式は、有機繊維(B)の繊維径および密度が一定の場合に適用される。
【0045】
平均繊維長=Σ(Mi
2×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの有機繊維の個数。
【0046】
上記平均繊維長の測定は、次の方法により行うことができる。成形品を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させる。有機繊維が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50〜200倍)にて観察する。無作為に選んだ1,000本の有機繊維(B)の繊維長を計測して、上記式から平均繊維長(L
B)を算出する。
【0047】
なお、成形品中における有機繊維(B)の平均繊維長は、例えば、前述の有機繊維(B)の種類や、成形条件などにより調整することができる。成形条件としては、例えば、射出成形の場合、背圧や保圧力などの圧力条件、射出時間や保圧時間などの時間条件、シリンダー温度や金型温度などの温度条件などが挙げられる。背圧などの圧力条件を増加させることで、シリンダー内での剪断力を高めることができるため、有機繊維(B)の平均繊維長を短くすることができる。また、射出時間を短くすることでも射出時の剪断力を高くすることができ、有機繊維(B)の平均繊維長を短くすることができる。さらにシリンダー温度や金型温度などの温度を下げることで、流動する樹脂粘度を上げることができ剪断力を高めることができるため、有機繊維(B)の平均繊維長を短くすることができる。本発明においては、上記のように条件を適宜変更することにより、成形品中における有機繊維(B)の平均繊維長を所望の範囲とすることができる。
【0048】
また、本発明の成形品における有機繊維(B)は、その数平均繊維径(d
B)が1〜10μm(1μm以上10μm以下)であることを特徴とする。有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)が10μmを超える場合、数平均繊維径(d
B)が10μm以下の有機繊維と比較して、同じ重量でも少ない本数の有機繊維しか成形品中に存在させることができず、衝撃強度向上に寄与する有機繊維の本数およびその表面積を大きくすることができないため、衝撃強度を向上させることができない。有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)は8μm以下が好ましい。一方、有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)が1μm未満であると、成形品内で均一分散しにくく分散性が低下し、結果として衝撃特性が低下する。数平均繊維径(d
B)は3μm以上が好ましい。
【0049】
ここで、本発明における有機繊維(B)の「数平均繊維径」とは、下記の式から算出される平均繊維径を指す。
【0050】
数平均繊維径=Σ(di×Ni)/Σ(Ni)
di:繊維径(μm)
Ni:繊維径diの有機繊維の個数。
【0051】
上記数平均繊維径の測定は、次の方法により行うことができる。成形品を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させる。有機繊維が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(200〜1000倍)にて観察する。無作為に選んだ10本の有機繊維(B)の繊維径を計測して、上記式から数平均繊維径を算出する。ここで、有機繊維の繊維径とは、
図4に示すように、観察される有機繊維(B)の繊維輪郭部A上の任意の点Bと、繊維輪郭部A(4)と向かい合う繊維輪郭部A’(5)との最短距離(6)を、有機繊維(B)1本あたり無作為に選んだ20箇所について計測した合計200箇所の数平均値とする。観察画面内で有機繊維(B)が10本に満たない場合には、観察画面を計測可能な新しい観察画面に適宜移動させて計測する。
【0052】
有機繊維の繊維径は成形前後で基本的に変化しないため、成形材料に用いる有機繊維として、種々の繊維径を有する有機繊維から所望の繊維径を有するものを選択することにより、成形品中の有機繊維の繊維径を上記範囲にすることができる。
【0053】
また、本発明の成形品中における有機繊維(B)は、そのアスペクト比(L
B[μm]/d
B[μm])が250以上であることが好ましい。アスペクト比を大きくする手段としては、平均繊維長を長くすること、数平均繊維径を小さくすることが挙げられる。アスペクト比を大きくすることは、成形品中に繊維長の長い有機繊維(B)を、繊維径を小さくすることにより多数本含有することを意味しており、有機繊維(B)のアスペクト比を250以上とすることにより、より繊維軸方向に長い繊維となり、表面積が大きくなることから、衝撃時に加えられた荷重を効率的に有機繊維に伝わりやすくすることができ、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。アスペクト比は350以上がより好ましい。ここで、アスペクト比(L
B/d
B)は、先に記載した平均繊維長L
Bと数平均繊維径d
Bとを用いて算出する。なおアスペクト比は3,000以下であることが成形品中での有機繊維(B)の均一分散を良好に保つという観点から好ましい。
【0054】
成形品中における有機繊維(B)のアスペクト比を上記範囲にするための手段としては、例えば、成形品中における平均繊維長L
Bと数平均繊維径d
Bとを前述の好ましい範囲にすることなどが挙げられる。
【0055】
また、本発明の成形品中における炭素繊維(A)の換算本数n
Aに対する有機繊維(B)の換算本数n
Bの比(n
B/n
A)は、0.5以上であることが好ましい。ここで換算本数とは、成形品1g中の炭素繊維または有機繊維の本数を表す指標であり、各々の数平均繊維径d(μm)、平均繊維長L(mm)、繊維含有量w(質量%)、比重ρ(g/cm
3)から、下記式により算出される数値である。
【0056】
換算本数=((1×w/100)/((d/2)
2×π×L×ρ))×10
9
π:円周率
換算本数の比(n
B/n
A)が0.5以上であると、耐衝撃特性を向上させる有機繊維(B)が炭素繊維(A)の本数の半分以上含まれることになる。炭素繊維(A)は剛直で脆いため絡まりにくく折れやすいが、柔軟で折れにくい有機繊維(B)が炭素繊維(A)の半数以上成形品中に存在することで、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。換算本数の比(n
B/n
A)は1以上がより好ましい。
【0057】
ここで、炭素繊維(A)あるいは有機繊維(B)の比重は、炭素繊維(A)あるいは有機繊維(B)の一部を成形品から取り出して液浸法により測定することができる。液浸法の液としては蒸留水を用い、0.5gの炭素繊維(A)あるいは有機繊維(B)の比重を3回測定して、その平均値を算出することにより比重を求めることができる。成形品から炭素繊維(A)を取り出すには、有機繊維(B)およびマトリックス樹脂を所定の温度で焼き飛ばして炭素繊維(A)のみを残存させる方法や、マトリックス樹脂と有機繊維を可溶な溶媒に溶かしてから炭素繊維(A)を取り出す方法がある。有機繊維を取り出す方法は、炭素繊維(A)と有機繊維(B)との比重差を利用して取り出す方法がある。マトリックス樹脂のみ可溶な溶媒に溶かして炭素繊維(A)と有機繊維(B)を取り出してから、例えば有機繊維(B)よりも比重が大きく、炭素繊維(A)よりは比重が小さい溶媒に入れることで、有機繊維(B)のみが溶媒に浮かぶ状況となり、有機繊維(B)を取り出すことが可能となる。
【0058】
また、換算本数を上記範囲とする手段としては、例えば、成形品中における有機繊維の数平均繊維径および平均繊維長を上記した好ましい範囲とすること、炭素繊維(A)、有機繊維(B)の量を前述の好ましい範囲とすることなどが挙げられる。
【0059】
本発明の成形品は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂(C)を10〜94重量部(10重量部以上94重量部以下)含有する。熱可塑性樹脂(C)の含有量が10重量部未満の場合、繊維の分散性が低下し、衝撃強度が低下する。熱可塑性樹脂(C)の含有量は20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましい。一方、熱可塑性樹脂(C)の含有量が94重量部を超える場合、相対的に炭素繊維(A)、有機繊維(B)の含有量が少なくなるため、繊維による補強効果が低くなり、衝撃強度が低下する。熱可塑性樹脂(C)の含有量は85重量部以下が好ましく、75重量部以下がより好ましい。
【0060】
本発明において熱可塑性樹脂(C)は、成形温度(溶融温度)が200〜450℃であるものが好ましい。例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ハロゲン化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリールスルホン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリーレンサルファイドスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。これらはいずれも、電気絶縁体に相当する。これらを2種以上用いることもできる。これらの樹脂は、末端基が封止または変性されていてもよい。
【0061】
前記熱可塑性樹脂(C)の中でも、軽量で力学特性や成形性のバランスに優れるポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂がより好ましく、耐薬品性や吸湿性にも優れることから、ポリプロピレン樹脂がさらに好ましい。
【0062】
ポリプロピレン樹脂は、無変性のものであっても、変性されたものであってもよい。
【0063】
無変性のポリプロピレン樹脂としては、具体的には、プロピレンの単独重合体や、プロピレンとα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンおよび他の熱可塑性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体との共重合体などが挙げられる。共重合体としては、ランダム共重合体またはブロック共重合体が挙げられる。α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、1−ノネン、1−オクテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等の、プロピレンを除く炭素数2〜12のα−オレフィンなどが挙げられる。共役ジエンまたは非共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。プロピレンの単独重合体は、成形品の剛性をより向上させる観点から好ましい。プロピレンとα−オレフィン、共役ジエンおよび非共役ジエンなどとのランダム共重合体あるいはブロック共重合体は、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から好ましい。
【0064】
また、変性ポリプロピレン樹脂としては、酸変性ポリプロピレン樹脂が好ましく、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはカルボン酸塩基を有する、酸変性ポリプロピレン樹脂がより好ましい。上記酸変性ポリプロピレン樹脂は種々の方法で得ることができる。例えば、無変性のポリプロピレン樹脂に、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、および/または、ケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体を、グラフト重合することにより得ることができる。
【0065】
ここで、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、または、ケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、例えば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物、エチレン系不飽和カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0066】
エチレン系不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などが例示される。その無水物としては、ナジック酸TM(エンドシス−ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが例示できる。
【0067】
エチレン系不飽和カルボン酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
【0068】
これらを2種以上用いることもできる。これらの中でも、エチレン系不飽和カルボン酸の酸無水物類が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0069】
成形品の曲げ強度および引張強度を向上させるためには、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂を共に用いることが好ましい。特に難燃性および力学特性のバランスの観点から、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂の重量比が95/5〜75/25となるように用いることが好ましい。より好ましくは95/5〜80/20、さらに好ましくは90/10〜80/20である。
【0070】
ポリアミド樹脂は、アミノ酸、ラクタム、あるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とする樹脂である。その主要原料の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0071】
本発明においては、耐熱性や強度に優れるという点から、200℃以上の融点を有するポリアミド樹脂が特に有用である。その具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2−メチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ナイロン6、ナイロン66がより好ましい。
【0072】
ポリアミド樹脂の重合度には特に制限はないが、98%濃硫酸25mLにポリアミド樹脂0.25gを溶解した溶液を25℃で測定した相対粘度が1.5〜5.0の範囲であることが好ましく、2.0〜3.5の範囲のポリアミド樹脂がより好ましい。
【0073】
ポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。2種以上の二価フェノールまたは2種以上のカーボネート前駆体を用いて得られる共重合体であってもよい。反応方法の一例として、界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。例えば、特開2002−129027号公報に記載のポリカーボネート樹脂を使用できる。
【0074】
二価フェノールとしては、例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン(ビスフェノールAなど)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ビスフェノールAが好ましく、耐衝撃特性により優れたポリカーボネート樹脂を得ることができる。一方、ビスフェノールAと他の二価フェノールを用いて得られる共重合体は、高耐熱性または低吸水率の点で優れている。
【0075】
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的には、ホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0076】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体からポリカーボネート樹脂を製造するにあたっては、必要に応じて触媒、末端封止剤、二価フェノールの酸化を防止する酸化防止剤などを使用してもよい。
【0077】
また、ポリカーボネート樹脂は、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であってもよいし、芳香族または脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよいし、二官能性脂肪族アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂であってもよいし、二官能性カルボン酸および二官能性脂肪族アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよい。また、これらのポリカーボネート樹脂を2種以上用いてもよい。
【0078】
ポリカーボネート樹脂の分子量は特定されないが、粘度平均分子量が10,000〜50,000のものが好ましい。粘度平均分子量が10,000以上であれば、成形品の強度をより向上させることができる。15,000以上がより好ましく、18,000以上がさらに好ましい。一方、粘度平均分子量が50,000以下であれば、成形加工性が向上する。40,000以下がより好ましく、30,000以下がさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂を2種以上用いる場合、少なくとも1種の粘度平均分子量が上記範囲にあることが好ましい。この場合、他のポリカーボネート樹脂として、粘度平均分子量が50,000を超える、好ましくは80,000を超えるポリカーボネート樹脂を用いることが好ましい。かかるポリカーボネート樹脂は、エントロピー弾性が高く、ガスアシスト成形等を併用する場合に有利となる他、高いエントロピー弾性に由来する特性(ドリップ防止特性、ドローダウン特性、およびジェッティング改良などの溶融特性を改良する特性)を発揮する。
【0079】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、塩化メチレン100mLにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(η
sp)を次式に代入して求めたものである。
【0080】
η
sp/c=[η]+0.45×[η]
2(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10
−4×M
0.83
c=0.7
本発明の成形品は、炭素繊維(A)と有機繊維(B)と熱可塑性樹脂(C)に加えて、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を含むことが好ましい。200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)(「化合物(D)」という場合がある)の200℃における溶融粘度は、5Pa・s以下が好ましく、2Pa・s以下がより好ましく、1.5Pa・s以下がさらに好ましい。この範囲内に調整することで、炭素繊維(A)および有機繊維(B)の成形時の分散性をより向上させ、成形品の曲げ強度および引張強度をより向上させることができる。ここで、熱可塑性樹脂(C)および化合物(D)の200℃における溶融粘度は、40mmのパラレルプレートを用いて、0.5Hzにて、粘弾性測定器により測定することができる。
【0081】
なお、本発明の成形品は、後述する本発明の成形材料を用いることにより得ることができる。成形材料を製造するに際して、後述するように、まずはじめに炭素繊維(A)のロービング、有機繊維(B)のロービング、または炭素繊維(A)と有機繊維(B)を有する繊維束(E)を作製する。次いで、溶融させた化合物(D)を炭素繊維(A)のロービング、有機繊維(B)のロービング、または繊維束(E)に含浸させてそれぞれ複合体(G)、(J)、(F)を作製する。このとき化合物(D)を供給する際の溶融温度(溶融バス内の温度)は100〜300℃が好ましいことから、化合物(D)の炭素繊維(A)のロービング、有機繊維(B)のロービング、または繊維束(E)への含浸性の指標として、化合物(D)の200℃における溶融粘度に着目した。200℃における溶融粘度が上記の好ましい範囲であれば、かかる好ましい溶融温度範囲において、含浸性に優れるため、炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性がより向上し、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。
【0082】
化合物(D)としては、例えば数平均分子量が200〜50,000の化合物が例示できる。数平均分子量が200〜50,000の化合物は、常温においては通常比較的脆く破砕しやすい固体であったり、液体であることが多い。かかる化合物は低分子量であるため、高流動性であり、炭素繊維(A)と有機繊維(B)の熱可塑性樹脂(C)内への分散効果を高めることができる。すなわち、数平均分子量が200以上であれば、成形品の力学特性、特に曲げ強度および引張強度をより向上させることができる。数平均分子量は1,000以上がより好ましい。また、数平均分子量が50,000以下であれば、粘度が適度に低いことから、成形品中に含まれる炭素繊維(A)および有機繊維(B)への含浸性に優れ、成形品中における炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。数平均分子量は3,000以下がより好ましい。なお、かかる化合物の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0083】
化合物(D)としては、熱可塑性樹脂(C)と親和性の高いものが好ましい。熱可塑性樹脂(C)との親和性が高い化合物(D)を選択することによって、熱可塑性樹脂(C)と効率よく相溶するため、炭素繊維(A)や有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。
【0084】
化合物(D)は、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂(C)との組み合わせに応じて適宜選択される。例えば、成形温度が150℃〜270℃の範囲であればテルペン樹脂が好適に用いられ、270℃〜320℃の範囲であればエポキシ樹脂が好適に用いられる。具体的には、熱可塑性樹脂(C)がポリプロピレン樹脂である場合には、化合物(D)はテルペン樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂(C)がポリカーボネート樹脂である場合は、化合物(D)はエポキシ樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂(C)がポリアミド樹脂である場合は、化合物(D)はテルペンフェノール樹脂が好ましい。
【0085】
本発明の成形品における化合物(D)の含有量は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、1〜25重量部(1重量部以上25重量部以下)が好ましい。化合物(D)の含有量が1重量部以上であれば、成形品内での炭素繊維(A)および有機繊維(B)の流動性がより向上し、分散性がより向上する。2重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましい。一方、化合物(D)の含有量が25重量部以下であれば、成形品の曲げ強度、引張強度および衝撃強度をより向上させることができる。20重量部以下がより好ましく、15重量部以下がさらに好ましい。
【0086】
化合物(D)は、10℃/分昇温(空気中)条件で測定した成形温度における加熱減量が5重量%以下であることが好ましい。かかる加熱減量が5重量%以下の場合、炭素繊維(A)および有機繊維(B)へ含浸した際に分解ガスの発生を抑制することができ、成形した際にボイドの発生を抑制することができる。また、特に高温における成形において、発生ガスを抑制することができる。3重量%以下がより好ましい。
【0087】
ここで、化合物(D)の成形温度における加熱減量とは、加熱前の化合物(D)の重量を100%として、前記加熱条件における加熱後の化合物(D)の重量減量率を表し、下記式により求めることができる。なお、加熱前後の重量は、白金サンプルパンを用いて、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件にて、成形温度における重量を熱重量分析(TGA)により測定することにより求めることができる。
【0088】
加熱減量[重量%]={(加熱前重量−加熱後重量)/加熱前重量}×100
本発明において、化合物(D)として好ましく用いられるエポキシ樹脂は、2つ以上のエポキシ基を有する化合物であって、実質的に硬化剤が含まれておらず、加熱しても、いわゆる三次元架橋による硬化をしないものである。化合物(D)はグリシジル基を有することが好ましく、炭素繊維(A)および有機繊維(B)と相互作用しやすくなり、含浸時に繊維束(E)と馴染みやすく、含浸しやすい。また、成形加工時の炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性がより向上する。
【0089】
ここで、グリシジル基を有する化合物としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0090】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エーテル結合を有する脂肪族エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0091】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0092】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、アミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0093】
脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート等が挙げられる。
【0094】
中でも、粘度と耐熱性のバランスに優れるため、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0095】
また、化合物(D)として用いられるエポキシ樹脂の数平均分子量は、200〜5,000であることが好ましい。エポキシ樹脂の数平均分子量が200以上であれば、成形品の力学特性をより向上させることができる。800以上がより好ましく、1,000以上がさらに好ましい。一方、エポキシ樹脂の数平均分子量が5,000以下であれば、繊維束(E)への含浸性に優れ、炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。4,000以下がより好ましく、3,000以下がさらに好ましい。なお、エポキシ樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0096】
また、テルペン樹脂としては、例えば、有機溶媒中でフリーデルクラフツ型触媒存在下、テルペン単量体を、必要に応じて芳香族単量体等と重合して得られる重合体または共重合体などが挙げられる。
【0097】
テルペン単量体としては、例えば、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノーレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等の単環式モノテルペンなどが挙げられる。また、芳香族単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。
【0098】
中でも、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネンが熱可塑性樹脂(C)との相溶性に優れるため好ましく、さらに、これらのテルペン単量体の単独重合体がより好ましい。また、これらテルペン樹脂を水素添加処理して得られる水素化テルペン樹脂が、より熱可塑性樹脂(C)、特にポリプロピレン樹脂との相溶性に優れるため好ましい。
【0099】
また、テルペン樹脂のガラス転移温度は、特に限定しないが、30〜100℃であることが好ましい。ガラス転移温度が30℃以上であると、成形加工時に化合物(D)の取扱性に優れる。また、ガラス転移温度が100℃以下であると、成形加工時の化合物(D)を適度に抑制し、成形性を向上させることができる。
【0100】
また、テルペン樹脂の数平均分子量は、200〜5,000であることが好ましい。数平均分子量が200以上であれば、成形品の力学特性、特に曲げ強度および引張強度をより向上させることができる。また、数平均分子量が5,000以下であれば、テルペン樹脂の粘度が適度に低いことから含浸性に優れ、成形品中における炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。なお、テルペン樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0101】
テルペンフェノール樹脂は、テルペン単量体とフェノール類を、触媒により反応させたものである。ここで、フェノール類としては、フェノールのベンゼン環上に、アルキル基、ハロゲン原子および/または水酸基を1〜3個有するものが好ましく用いられる。その具体例としては、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、t−ブチルフェノール、ノニルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、クロロクレゾール、ヒドロキノン、レゾルシノール、オルシノールなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、フェノールおよびクレゾールが好ましい。
【0102】
また、テルペンフェノール樹脂の数平均分子量は、200〜5,000であることが好ましい。数平均分子量が200以上であれば、成形品の曲げ強度および引張強度をより向上させることができる。また、数平均分子量が5,000以下であれば、テルペンフェノール樹脂の粘度が適度に低いことから含浸性に優れ、成形品中における炭素繊維(A)や有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。なお、テルペンフェノール樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0103】
本発明の成形品は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記(A)〜(D)に加えて他の成分を含有してもよい。他の成分の例としては、熱硬化性樹脂、炭素繊維以外の無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤などが挙げられる。
【0104】
続いて、本発明の成形品の製造方法について説明する。
【0105】
好ましくは後述する本発明の成形材料を成形することにより、成形品を得ることができる。成形方法としては、射出成形、オートクレーブ成形、プレス成形、フィラメントワインディング成形、スタンピング成形などの生産性に優れた成形方法を挙げることができる。これらを組み合わせて用いることもできる。また、インサート成形、アウトサート成形などの一体化成形を適用することができる。さらに、成形後に、加熱による矯正処置や、熱溶着、振動溶着、超音波溶着などの生産性に優れた接着工法を活用することもできる。これらの中でも、金型を用いた成形方法が好ましく、特に射出成形機を用いた成形方法により、連続的に安定した成形品を得ることができる。射出成形の条件としては、特に規定はないが、例えば射出時間:0.5秒〜10秒、より好ましくは2秒〜10秒、背圧力:0.1MPa〜10MPa、より好ましくは2MPa〜8MPa、保圧力:1MPa〜50MPa、より好ましくは1MPa〜30MPa、保圧時間:1秒〜20秒、より好ましくは5秒〜20秒、シリンダー温度:200℃〜320℃、金型温度:20℃〜100℃の条件が好ましい。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型の温度を示す。これらの条件、特に射出時間、背圧力および金型温度を適宜選択することにより、成形品中の強化繊維の繊維長を容易に調整することができる。
【0106】
次に、本発明の成形品を得るために適した、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(「成形材料」という場合がある)について説明する。本発明においては、(1)炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5〜45重量部(5重量部以上45重量部以下)、有機繊維(B)を1〜45重量部(1重量部以上45重量部以下)、熱可塑性樹脂(C)を10〜94重量部(10重量部以上94重量部以下)、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1〜25重量部(1重量部以上25重量部以下)含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)が1〜10μm(1μm以上10μm以下)であり、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである成形材料(以下、「第一の態様の成形材料」という場合がある)や、(2)炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5〜45重量部(5重量部以上45重量部以下)、熱可塑性樹脂(C)を35〜94重量部(35重量部以上94重量部以下)、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1〜25重量部(1重量部以上25重量部以下)含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1〜45重量部(1重量部以上45重量部以下)、熱可塑性樹脂(H)を35〜94重量部(35重量部以上94重量部以下)、化合物(I)を1〜25重量部(1重量部以上25重量部以下)含み、有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)が1〜10μm(1μm以上10μm以下)である有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む成形材料(以下、「第二の態様の成形材料」という場合がある)を、本発明の成形品を得るための成形材料として好適に用いることができる。
【0107】
まず、第一の態様の成形材料について説明する。前述した成形品を得るために用いられる、本発明の第一の態様の成形材料は、少なくとも炭素繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および化合物(D)を含み、有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)が1〜10μm(1μm以上10μm以下)であることを特徴とする。また、本発明の第一の態様の成形材料は、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に、前記化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)を含み、複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含む構成を有する。炭素繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および化合物(D)の効果は、本発明の成形品について先に説明したとおりである。
【0108】
本発明の第一の態様の成形材料は、熱可塑性樹脂(C)内に、連続繊維束である炭素繊維(A)および有機繊維(B)の各単繊維間に化合物(D)が満たされている複合体(F)を有する。複合体(F)は、化合物(D)の海に、炭素繊維(A)および有機繊維(B)が島のように分散している状態である。
【0109】
本発明の第一の態様の成形材料は、前記繊維束(E)に前記化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に、熱可塑性樹脂(C)を含む。成形材料の長手方向に対して垂直な断面において、熱可塑性樹脂(C)が複合体(F)の周囲を被覆するように配置されているか、複合体(F)と熱可塑性樹脂(C)が層状に配置され、最外層が熱可塑性樹脂(C)である構成が望ましい。
【0110】
本発明の第一の態様の成形材料において、化合物(D)は低分子量である場合が多く、常温においては通常比較的脆く破砕しやすい固体であったり、液体であることが多い。複合体(F)の外側に、熱可塑性樹脂(C)を含む構成とすることにより、高分子量の熱可塑性樹脂(C)が複合体(F)を保護し、成形材料の運搬や取り扱い時の衝撃、擦過などによる化合物(D)の破砕、飛散などを抑制し、成形材料の形状を保持することができる。本発明の成形材料は、取り扱い性の観点から、成形に供されるまで前述の形状を保持することが好ましい。
【0111】
複合体(F)と熱可塑性樹脂(C)は、境界付近で部分的に熱可塑性樹脂(C)が複合体(F)の一部に入り込み、相溶しているような状態であってもよいし、繊維束(E)に熱可塑性樹脂(C)が含浸しているような状態になっていてもよい。
【0112】
本発明の第一の態様の成形材料は、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在することが好ましい。ここで、繊維束(E)断面とは、繊維束(E)の繊維長手方向に対して垂直な断面を指す。繊維束(E)断面において、炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在することにより、成形時の炭素繊維(A)および有機繊維(B)の絡み合いを抑制し、炭素繊維(A)および有機繊維(B)が均一に分散した成形品を得ることができる。このため、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。ここで、本発明において「偏在」とは、繊維束(E)断面において、炭素繊維(A)と有機繊維(B)がそれぞれ全ての領域において均等に存在するのではなく、部分的に偏って存在することを言う。例えば、
図1に示すような、繊維束(E)断面において、炭素繊維(A)が有機繊維(B)を内包している形態や、
図2に示すような、有機繊維(B)が炭素繊維(A)を内包している形態などのいわゆる芯鞘型構造や、
図3に示すような、繊維束(E)断面において、炭素繊維(A)の束と有機繊維(B)の束がある境界部によって分けられた状態でそれぞれ存在している構造などが、本発明における「偏在」の態様として挙げられる。ここで、本発明において「内包」とは、炭素繊維(A)を芯部、有機繊維(B)を鞘部に配する状態や、または、有機繊維(B)を芯部、炭素繊維(A)を鞘部に配する状態をいう。
図3に示す態様の場合、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)のそれぞれ少なくとも一部がいずれも外層の熱可塑性樹脂(C)に接している。このとき、炭素繊維(A)または有機繊維(B)が熱可塑性樹脂(C)に接している態様には、炭素繊維(A)または有機繊維(B)が化合物(D)を介して熱可塑性樹脂(C)に接している態様も含むものとする。
【0113】
なお、本発明において、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)、有機繊維(B)が偏在していることを確認する方法としては、例えば、成形材料の繊維長手方向に対して垂直な断面を倍率300倍に設定した光学顕微鏡にて観察し、得られた顕微鏡像の画像処理を行い解析する手法が挙げられる。
【0114】
繊維束(E)の断面において炭素繊維(A)、有機繊維(B)を偏在させる方法としては、炭素繊維(A)の束と有機繊維(B)の束とを引き揃えて上記成形材料を作製する方法が挙げられる。それぞれの束同士を引き揃えて成形材料を作製することで、炭素繊維(A)と有機繊維(B)とが独立した繊維束として存在することになり、偏在させることができる。使用する炭素繊維(A)の束と有機繊維(B)の束の単繊維数を多くすると束を大きくでき、単繊維数を少なくすると束を小さくでき、束の大きさを変えて偏在させることが可能である。
【0115】
本発明の第一の態様の成形材料は、繊維束(E)の長さと成形材料の長さが実質的に同じであることが好ましい。繊維束(E)の長さが成形材料の長さと実質的に同じであることにより、成形品における炭素繊維(A)と有機繊維(B)の繊維長を長くすることができるため、より優れた力学特性を得ることができる。なお、成形材料の長さとは、成形材料中の繊維束(E)配向方向の長さである。また、「実質的に同じ長さ」とは、成形材料内部で繊維束(E)が意図的に切断されていたり、成形材料全長よりも有意に短い繊維束(E)が実質的に含まれたりしないことである。特に、成形材料全長よりも短い繊維束(E)の量について限定するわけではないが、成形材料全長の50%以下の長さの繊維束(E)の含有量が、全繊維束(E)中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。成形材料は、長手方向にほぼ同一の断面形状を保ち連続であることが好ましい。
【0116】
第一の態様の成形材料の長さは、通常3mm〜15mmの範囲である。
【0117】
第一の態様の成形材料の各構成要素(A)〜(D)としては、本発明の成形品について先に説明した(A)〜(D)を用いることができる。また、本発明の成形品について他の成分として例示したものを含有することもできる。
【0118】
第一の態様の成形材料は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5〜45重量部(5重量部以上45重量部以下)含有する。成形品の曲げ特性および衝撃強度をより向上させる観点から、炭素繊維(A)の含有量は10重量部以上がより好ましい。一方、成形品中の炭素繊維(A)の分散性を向上させ、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から、炭素繊維(A)の含有量は30重量部以下がより好ましい。また、前記(A)〜(C)の合計100重量部に対して、有機繊維(B)を1〜45重量部(1重量部以上45重量部以下)含有する。成形品の衝撃特性をより向上させる観点から、有機繊維(B)の含有量は5重量部以上が好ましい。一方、成形品中の有機繊維(B)の分散性を向上させ、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から、有機繊維(B)の含有量は30重量部以下がより好ましい。また、前記(A)〜(C)の合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂(C)を10〜94重量部(10重量部以上94重量部以下)含有する。熱可塑性樹脂(C)の含有量は20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましい。成形品の衝撃強度を向上させる観点から、熱可塑性樹脂(C)の含有量は85重量部以下が好ましく、75重量部以下がより好ましい。
【0119】
また、第一の態様の成形材料中における有機繊維(B)は、その数平均繊維径(d
B)が1~10μm(1μm以上10μm以下)であることを特徴とする。有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)は成形材料の製造前後で基本的には変化しないため、原料としての有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)を1〜10μmとすることにより、成形材料中における有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)を前述の所望の範囲に容易に調整することができる。成形材料中における有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)は3μm以上がより好ましく、また、8μm以下がより好ましい。
【0120】
ここで、本発明における有機繊維(B)の「数平均繊維径」とは、下記の式から算出される平均繊維径を指す。
【0121】
数平均繊維径=Σ(di×Ni)/Σ(Ni)
di:繊維径(μm)
Ni:繊維径diの有機繊維の個数。
【0122】
成形材料中における有機繊維の数平均繊維径は、成形品中における有機繊維の数平均繊維径と同様に求めることができる。
【0123】
また、(A)〜(C)の合計100重量部に対して、化合物(D)を1〜25重量部(1重量部以上25重量部以下)含有する。成形加工時の炭素繊維(A)および有機繊維(B)の流動性および分散性を向上させる観点から、化合物(D)の含有量は2重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましい。一方、成形品の曲げ強度、引張強度および衝撃強度をより向上させる観点から、化合物(D)の含有量は20重量部以下がより好ましく、15重量部以下がさらに好ましい。
【0124】
次に、本発明の第二の態様の成形材料について説明する。前述した成形品を得るために用いられる、本発明の第二の態様の成形材料は、少なくとも炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)(「炭素繊維強化成形材料」という場合がある)と、少なくとも有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)(「化合物(I)」という場合がある)を含み、有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)が1〜10μm(1μm以上10μm以下)である有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)(「有機繊維強化成形材料」という場合がある)を含む。炭素繊維強化成形材料(X)は、炭素繊維(A)に、前記化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)を含み、複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含む構成を有する。また、有機繊維強化成形材料(Y)は、有機繊維(B)に、前記化合物(I)を含浸させてなる複合体(J)を含み、複合体(J)の外側に熱可塑性樹脂(H)を含む構成を有することが好ましい。炭素繊維(A)および有機繊維(B)の効果は、本発明の成形品について先に説明したとおりである。また、熱可塑性樹脂(C)および熱可塑性樹脂(H)は比較的高粘度の、例えば靭性などの物性が高いマトリックス樹脂であり、成形時に炭素繊維(A)または有機繊維(B)に含浸され、成形品において炭素繊維(A)または有機繊維(B)を強固に保持する役割をもつ。なお、熱可塑性樹脂(H)は、先に説明した熱可塑性樹脂(C)において例示した樹脂を用いることができ、熱可塑性樹脂(C)と熱可塑性樹脂(H)は同一の樹脂であっても、異なる樹脂であってもよい。また、化合物(D)および化合物(I)は、炭素繊維(A)または有機繊維(B)と共に複合体を形成し、成形時にマトリックス樹脂(熱可塑性樹脂(C)または(H))を炭素繊維(A)または有機繊維(B)に含浸させることを助け、また炭素繊維(A)または有機繊維(B)がマトリックス樹脂(熱可塑性樹脂(C)または(H))中に分散することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つものである。なお、化合物(I)は、先に説明した化合物(D)において例示した化合物を用いることができ、化合物(D)と化合物(I)は、同一の化合物であっても、異なる化合物であってもよい。
【0125】
本発明における炭素繊維強化成形材料(X)は、熱可塑性樹脂(C)内に、連続繊維束である炭素繊維(A)の各単繊維間に化合物(D)が満たされている複合体(G)を有する。複合体(G)は、化合物(D)の海に、炭素繊維(A)が島のように分散している状態であることが好ましい。また、有機繊維強化成形材料(Y)も同様に、有機繊維(B)の各単繊維間に化合物(I)が満たされている複合体(J)を有し、化合物(I)の海に、有機繊維(B)が島のように分散している状態であることが好ましい。
【0126】
本発明の第二の態様の成形材料における炭素繊維強化成形材料(X)は、前記炭素繊維(A)に前記化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に、熱可塑性樹脂(C)を含む。炭素繊維強化成形材料(X)の長手方向に対して垂直な断面において、熱可塑性樹脂(C)が複合体(G)の周囲を被覆するように配置されているか、複合体(G)と熱可塑性樹脂(C)が層状に配置され、最外層が熱可塑性樹脂(C)である構成が望ましい。有機繊維強化成形材料(Y)も同様に、前記有機繊維(B)に前記化合物(I)を含浸させてなる複合体(J)の外側に、熱可塑性樹脂(H)を含むことが好ましい。有機繊維強化成形材料(Y)の長手方向に対して垂直な断面において、熱可塑性樹脂(H)が複合体(J)の周囲を被覆するように配置されているか、複合体(J)と熱可塑性樹脂(H)が層状に配置され、最外層が熱可塑性樹脂(H)である構成が望ましい。
【0127】
第二の態様の成形材料において、化合物(D)および化合物(I)は低分子量である場合が多く、常温においては通常比較的脆く破砕しやすい固体であったり、液体であることが多い。炭素繊維強化成形材料(X)または有機繊維強化成形材料(Y)においては、複合体(G)または複合体(J)の外側に、熱可塑性樹脂(C)または(H)を含む構成とすることにより、高分子量の熱可塑性樹脂(C)または(H)が複合体(G)または複合体(J)を保護し、成形材料の運搬や取り扱い時の衝撃、擦過などによる化合物(D)または(I)の破砕、飛散などを抑制し、成形材料の形状を保持することができる。本発明の第二の態様の成形材料は、成形に供されるまで前述の形状を保持することが好ましい。
【0128】
炭素繊維強化成形材料(X)における、複合体(G)と熱可塑性樹脂(C)は、境界付近で部分的に熱可塑性樹脂(C)が複合体(G)の一部に入り込み、相溶しているような状態であってもよいし、炭素繊維(A)に熱可塑性樹脂(C)が含浸しているような状態になっていてもよい。
【0129】
また、炭素繊維強化成形材料(X)における炭素繊維(A)は、炭素繊維強化成形材料(X)の長さと実質的に同じ長さであることが好ましい。炭素繊維(A)の長さが炭素繊維強化成形材料(X)の長さと実質的に同じであることにより、成形品における炭素繊維(A)の繊維長を長くすることができるため、優れた力学特性を得ることができる。なお、炭素繊維強化成形材料(X)の長さとは、炭素繊維強化成形材料中の炭素繊維(A)の配向方向の長さである。また、「実質的に同じ長さ」とは、成形材料内部で炭素繊維(A)が意図的に切断されていたり、成形材料全長よりも有意に短い炭素繊維(A)が実質的に含まれたりしないことである。特に、成形材料全長よりも短い炭素繊維(A)の量について限定するわけではないが、成形材料全長の50%以下の長さの炭素繊維(A)の含有量が、全炭素繊維(A)中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。成形材料は、長手方向にほぼ同一の断面形状を保ち連続であることが好ましいが、これに限定されるものではない。炭素繊維強化成形材料(X)の長さは、通常3mm〜15mmの範囲である。本発明における有機繊維強化成形材料(Y)は、有機繊維(B)と熱可塑性樹脂(H)および化合物(I)を含み、前記有機繊維(B)に前記化合物(I)を含浸させてなる複合体(J)の外側に、熱可塑性樹脂(H)を含む構造であるか、または、複合体(J)と熱可塑性樹脂(H)の溶融混練により得られるペレットであってもよい。
【0130】
本発明の第二の態様の成形材料は、有機繊維強化成形材料(Y)が溶融混練により得られるペレットである場合は、有機繊維(B)の平均繊維長が0.1mm〜10mmの範囲であることが好ましい。有機繊維(B)の平均繊維長の長さが前記範囲であることにより、成形品における有機繊維(B)の繊維長を長くすることができるため、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。1.5mm〜10mmの範囲がより好ましい。
【0131】
また、有機繊維強化成形材料(Y)が有機繊維(B)に前記化合物(I)を含浸させてなる複合体(J)の外側に、熱可塑性樹脂(H)を含む構造である場合には、有機繊維(B)は、有機繊維強化成形材料(Y)の長さと実質的に同じ長さであることが好ましい。有機繊維(B)の長さが有機繊維強化成形材料(Y)の長さと実質的に同じであることにより、成形品における有機繊維(B)の繊維長を長くすることができるため、優れた力学特性を得ることができる。なお、有機繊維強化成形材料(Y)の長さとは、有機繊維強化成形材料中の有機繊維(B)の配向方向の長さである。また、「実質的に同じ長さ」とは、成形材料内部で有機繊維(B)が意図的に切断されていたり、成形材料全長よりも有意に短い有機繊維(B)が実質的に含まれたりしていないことである。より具体的には、有機繊維強化成形材料(Y)における有機繊維(B)の長手方向の端部間の距離が、有機繊維強化成形材料(Y)の長手方向の長さと同じことを指し、成形材料全長の50%以下の長さの有機繊維(B)の含有量が、全有機繊維(B)中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。成形材料は、長手方向にほぼ同一の断面形状を保ち連続であることが好ましいが、これに限定されるものではない。また、有機繊維強化成形材料(Y)の長さは、通常3mm〜15mmの範囲である。
【0132】
ここで、本発明の成形材料における「平均繊維長」とは、成形品中の平均繊維長と同様に求めることができる。
【0133】
第二の態様の成形材料の各構成要素(A)〜(D)としては、本発明の成形品について先に説明した(A)〜(D)を用いることができる。また、(H)および(I)としては、それぞれ本発明の成形品について先に説明した(C)および(D)を用いることができる。さらに、本発明の成形品について他の成分として例示したものを含有することもできる。
【0134】
第二の態様の成形材料において、炭素繊維強化成形材料(X)は、炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5〜45重量部(5重量部以上45重量部以下)含有する。成形品の曲げ特性および衝撃強度をより向上させる観点から、炭素繊維(A)の含有量は10重量部以上がより好ましい。一方、成形品中の炭素繊維(A)の分散性を向上させ、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から、炭素繊維(A)の含有量は30重量部以下がより好ましい。また、熱可塑性樹脂(C)を35〜94重量部(35重量部以上94重量部以下)含有する。熱可塑性樹脂(C)の含有量は20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましい。成形品の衝撃強度を向上させる観点から、熱可塑性樹脂(C)の含有量は85重量部以下が好ましく、75重量部以下がより好ましい。
【0135】
また、化合物(D)を1〜25重量部(1重量部以上25重量部以下)含有する。成形加工時の炭素繊維(A)および有機繊維(B)の流動性および分散性を向上させる観点から、化合物(D)の含有量は2重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましい。一方、成形品の曲げ強度、引張強度および衝撃強度をより向上させる観点から、化合物(D)の含有量は20重量部以下がより好ましく、15重量部以下がさらに好ましい。
【0136】
有機繊維強化成形材料(Y)は、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および化合物(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1〜45重量部(1重量部以上45重量部以下)含有する。成形品の衝撃特性をより向上させる観点から、有機繊維(B)の含有量は5重量部以上が好ましい。一方、成形品中の有機繊維(B)の分散性を向上させ、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から、有機繊維(B)の含有量は30重量部以下がより好ましい。また、熱可塑性樹脂(H)を35〜94重量部(35重量部以上94重量部以下)含有する。熱可塑性樹脂(H)の含有量は20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましい。成形品の衝撃強度を向上させる観点から、熱可塑性樹脂(H)の含有量は85重量部以下が好ましく、75重量部以下がより好ましい。
【0137】
また、化合物(I)を1〜25重量部含有する。成形加工時の炭素繊維(A)および有機繊維(B)の流動性および分散性を向上させる観点から、化合物(I)の含有量は2重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましい。一方、成形品の曲げ強度、引張強度および衝撃強度をより向上させる観点から、化合物(I)の含有量は20重量部以下がより好ましく、15重量部以下がさらに好ましい。
【0138】
本発明の第二の態様の成形材料における、炭素繊維強化成形材料(X)は、例えば、次の方法により得ることができる。まず、炭素繊維(A)のロービングを繊維長手方向にし、次いで、溶融させた化合物(D)を炭素繊維束に含浸させて複合体(G)を作製し、さらに、溶融した熱可塑性樹脂(C)で満たした含浸ダイに複合体(G)を導き、熱可塑性樹脂(C)を複合体(G)の外側に被覆させ、ノズルを通して引き抜く。冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、成形材料を得る方法である。熱可塑性樹脂(C)は、複合体(G)の外側に含まれていれば、炭素繊維束中に含浸されていてもよい。また、本発明の第二の成形材料における、有機繊維強化成形材料(Y)は、例えば、前述した炭素繊維強化成形材料(X)と同様の方法により製造してもよい。その他の方法として、例えば次の方法により得ることができる。まず、溶融させた化合物(I)を有機繊維束に含浸させて複合体(J)を作製し、複合体(J)を、熱可塑性樹脂(H)と共に単軸または二軸押出機内にて、溶融混練し、ダイ先端から吐出されるストランドを冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、成形材料を得る方法である。
【0139】
本発明の第二の態様の成形材料における、炭素繊維強化成形材料(X)および有機繊維強化成形材料(Y)をドライブレンドにて混合し、成形することにより、炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性に優れ、衝撃強度および低温衝撃強度に優れる繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。炭素繊維強化成形材料(X)と有機繊維強化成形材料(Y)の混合比としては、炭素繊維強化成形材料(X)と有機繊維強化成形材料(Y)の合計100重量部に対して、炭素繊維強化成形材料(X)を50〜80重量部、有機繊維強化成形材料(Y)を20〜50重量部含有することが好ましい。さらに、溶融混練により製造した有機繊維強化成形材料(Y)を用いることで、より生産性よく繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。成形方法としては、金型を用いた成形方法が好ましく、射出成形、押出成形、プレス成形など、種々の公知の手法を用いることができる。特に射出成形機を用いた成形方法により、連続的に安定した成形品を得ることができる。
【0140】
また、本発明の第二の形態の成形材料中における有機繊維(B)は、その数平均繊維径(d
B)が1~10μm(1μm以上10μm以下)であることを特徴とする。有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)は成形材料の製造前後で基本的には変化しないため、原料としての有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)を1〜10μmとすることにより、成形材料中における有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)を前述の所望の範囲に容易に調整することができる。成形材料中における有機繊維(B)の数平均繊維径(d
B)は3μm以上がより好ましく、また、8μm以下がより好ましい。
【0141】
ここで、本発明における有機繊維(B)の「数平均繊維径」とは、下記の式から算出される平均繊維径を指す。
【0142】
数平均繊維径=Σ(di×Ni)/Σ(Ni)
di:繊維径(μm)
Ni:繊維径diの有機繊維の個数。
【0143】
成形材料中における有機繊維の数平均繊維径は、成形品中における有機繊維の数平均繊維径と同様に求めることができる。
【0144】
また、本発明の第一および第二の態様の成形材料は、有機繊維(B)のアスペクト比(L
B[μm]/d
B[μm])が500以上であることが好ましい。
【0145】
本発明の成形品中の有機繊維(B)のアスペクト比について先に説明したとおり、アスペクト比を大きくする手段としては、平均繊維長を長くすること、数平均繊維径を小さくすることが挙げられる。アスペクト比を大きくすることは、成形材料中に繊維長の長い有機繊維(B)を、繊維径を小さくすることにより多数本含有することを意味しており、有機繊維(B)のアスペクト比を500以上とすることにより、より繊維軸方向に長い繊維となり、表面積が大きくなることから、衝撃時に加えられた荷重を効率的に有機繊維に伝わりやすくすることができ、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。また、成形品中における有機繊維のアスペクト比を、前述の所望の範囲に容易に調整することができる。成形材料中における有機繊維のアスペクト比は1,000以上がより好ましい。なおアスペクト比は3,000以下であることが成形品中での有機繊維(B)の均一分散を良好に保つという観点から好ましい。
【0146】
成形材料中の有機繊維(B)のアスペクト比は、成形材料中に存在する有機繊維(B)の平均繊維径と数平均繊維長から算出することができる。成形材料中における有機繊維(B)の数平均繊維径は、前述の方法により求めることができる。また、成形材料中における有機繊維(B)の平均繊維長は、次の方法により測定することができる。成形材料を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させる。有機繊維が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50〜200倍)にて観察する。無作為に選んだ1,000本の有機繊維(B)の繊維長を計測して、上記式から平均繊維長(L
B)を算出する。
【0147】
平均繊維長=Σ(Mi
2×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの有機繊維の個数。
【0148】
成形材料中の有機繊維(B)のアスペクト比を上記好ましい範囲にするための手段としては、例えば、成形材料中における有機繊維(B)の平均繊維長と数平均繊維径を前述の好ましい範囲にすることなどが挙げられる。
【0149】
次に、本発明の成形材料の製造方法について説明する。
【0150】
本発明の第一の態様の成形材料は、例えば、次の方法により得ることができる。まず、炭素繊維(A)のロービングおよび有機繊維(B)のロービングを繊維長手方向に対して並列に合糸し、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を有する繊維束(E)を作製する。次いで、溶融させた化合物(D)を繊維束(E)に含浸させて複合体(F)を作製し、さらに、溶融した熱可塑性樹脂(C)で満たした含浸ダイに複合体(F)を導き、熱可塑性樹脂(C)を複合体(F)の外側に被覆させ、ノズルを通して引き抜く。冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、成形材料を得る方法がある。熱可塑性樹脂(C)は、複合体(F)の外側に含まれていれば、繊維束(E)中に含浸されていてもよい。
【0151】
また、本発明の第二の態様の成形材料は、例えば、次の方法により得ることができる。炭素繊維(A)のロービングを繊維長手方向に対して引き出し、次いで、溶融させた化合物(D)を炭素繊維(A)のロービングに含浸させて複合体(G)を作製し、さらに、溶融した熱可塑性樹脂(C)で満たした含浸ダイに複合体(G)を導き、熱可塑性樹脂(C)を複合体(G)の外側に被覆させ、ノズルを通して引き抜く。冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、炭素繊維強化成形材料(X)を得る。また、数平均繊維径(d
B)が1〜10μmである有機繊維(B)のロービングを繊維長手方向に対して引き出し、次いで、溶融させた化合物(I)を有機繊維(B)のロービングに含浸させて複合体(J)を作製し、さらに、溶融した熱可塑性樹脂(H)で満たした含浸ダイに複合体(J)を導き、熱可塑性樹脂(H)を複合体(J)の外側に被覆させ、ノズルを通して引き抜く。冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、有機繊維強化成形材料(Y)を得る。または、溶融させた化合物(I)を有機繊維束に含浸させて複合体(J)を作製し、複合体(J)を、熱可塑性樹脂(H)と共に単軸または二軸押出機内にて、溶融混練し、ダイ先端から吐出されるストランドを冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、有機繊維強化成形材料(Y)を得る。そして、有機繊維強化成形材料(X)および(Y)の2種の成形材料をドライブレンドして成形材料とする方法がある。熱可塑性樹脂(C)または(H)は、炭素繊維(A)のロービングまたは有機繊維(B)のロービングの外側に含まれていれば、炭素繊維(A)のロービングまたは有機繊維(B)のロービング中に含浸されていてもよい。
【0152】
本発明の成形品は、衝撃強度に優れる繊維強化熱可塑性樹脂成形品であり、本発明の成形品の用途としては、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール等の自動車部品に好適である。また、電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、“レーザーディスク(登録商標)”、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品も挙げられる。また、パーソナルコンピューター、携帯電話などに使用される筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持するキーボード支持体に代表される電気・電子機器用部材なども挙げられる。なかでも、外観は高いレベルを要求されにくいが衝撃強度が特に重視される用途として、アンダーカバー、フロントエンド、ラジエータサポート、フロントエンドなどの内部に組み込まれるモジュール等の部品類が好ましい。
【実施例】
【0153】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。まず、本実施例で用いる各種特性の評価方法について説明する。
【0154】
(1)溶融粘度測定
各実施例および比較例に用いた熱可塑性樹脂(C)、(H)、化合物(D)および(I)について、40mmのパラレルプレートを用いて、0.5Hzにて、粘弾性測定器により200℃における溶融粘度を測定した。
【0155】
(2)成形品および成形材料中における炭素繊維(A)および有機繊維(B)の平均繊維長の測定
成形品または成形材料を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させた。炭素繊維(A)または有機繊維(B)が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50〜200倍)にて観察した。無作為に選んだ1,000本の炭素繊維(A)と、同様に無作為に選んだ1,000本の有機繊維(B)について、それぞれ繊維長を計測して、下記式から平均繊維長を算出した。
【0156】
平均繊維長=Σ(Mi
2×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの繊維の個数。
【0157】
(3)成形品および成形材料中における炭素繊維(A)および有機繊維(B)の数平均繊維径の測定
成形品または成形材料を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させた。炭素繊維(A)または有機繊維(B)が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(5〜1000倍)にて観察した。無作為に選んだ10本の炭素繊維(A)または有機繊維(B)の繊維径を計測して、下記式から数平均繊維径を算出した。ここで、炭素繊維(A)または有機繊維(B)の繊維径とは、
図4に示すように、観察される炭素繊維(A)または有機繊維(B)の繊維輪郭部A上の任意の点Bと、繊維輪郭部A(4)と向かい合う繊維輪郭部A’(5)との最短距離(6)を、炭素繊維(A)または有機繊維(B)1本あたり無作為に選んだ20箇所について計測した合計200箇所の数平均値とした。なお、観察画面内で炭素繊維(A)または有機繊維(B)が10本に満たない場合には、観察画面を計測可能な新しい観察画面に適宜移動させて計測した。
【0158】
数平均繊維径=Σ(di×Ni)/Σ(Ni)
di:繊維径(μm)
Ni:繊維径diの繊維の個数。
【0159】
(4)成形品における炭素繊維(A)および有機繊維(B)の換算本数比(n
B/n
A)の測定
各実施例および比較例により得られたISO型ダンベル試験片より炭素繊維(A)および有機繊維(B)を取り出し、その比重を、液浸法により測定した。炭素繊維は試験片を500℃で30分間窒素雰囲気下で熱処理することで取り出した。有機繊維(B)は試験片を1クロロナフタレンに溶解させて炭素繊維(A)と有機繊維(B)とを取り出し、クロロホルム中に投入することで炭素繊維(A)を沈め、有機繊維(B)を浮かべて分離して取り出した。なお、液浸法の液としては蒸留水を用い、5本の試験片の比重を測定して、その平均値を算出した。前述の方法で求めた各々の数平均繊維径d(μm)、平均繊維長L(mm)、繊維含有量w(質量%)、比重ρ(g/cm
3)から、下記式により算出した。
【0160】
換算本数=((1×w/100)/((d/2)
2×π×L×ρ))×10
9
(5)引張破断伸度測定
有機繊維(B)の引張破断伸度(%)は、標準状態(20℃,65%RH)の室内で、つかみ間隔250mm、引張速度300mm/分の条件で引張試験を行い、繊維切断時の長さを算出し(ただし、チャック近傍で切断した場合はチャック切れとしてデータから除く)、次式により小数点2桁まで算出し、小数点2桁目を四捨五入した。各有機繊維(B)についてデータn3の平均値を求め、引張破断伸度とした。
【0161】
引張破断伸度(%)=[(切断時の長さ(mm)−250)/250]×100
(6)成形品の曲げ強度測定
各実施例および比較例により得られたISO型ダンベル試験片について、ISO 178に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子半径5mm)を用いて支点距離を64mmに設定し、試験速度2mm/分の試験条件にて曲げ強度を測定した。試験機として、“インストロン”(登録商標)万能試験機5566型(インストロン社製)を用いた。
【0162】
(7)成形品のシャルピー衝撃強度測定
各実施例および比較例により得られたISO型ダンベル試験片の平行部を切り出し、(株)東京試験機製C1−4−01型試験機を用い、ISO179に準拠してVノッチ付きシャルピー衝撃試験を実施し、衝撃強度(kJ/cm
2)を算出した。
【0163】
(8)成形材料の生産性評価
有機繊維強化成形材料(Y)の時間当たりにおける製造量について計量を行った。10kg/時間以上をA、それ未満をBとした。
【0164】
(9)成形材料を用いて得られた成形品の繊維分散性評価
各実施例および比較例により得られた、80mm×80mm×2mmの試験片の表裏それぞれの面に存在する未分散炭素繊維束の個数を目視でカウントした。評価は50枚の成形品について行い、その合計個数について繊維分散性の判定を以下の基準で行い、A、Bを合格とした。
A:未分散炭素繊維束が1個未満
B:未分散炭素繊維束が1個以上5個未満
C:未分散炭素繊維束が5個以上10個未満
D:未分散炭素繊維束が10個以上。
【0165】
(参考例1)炭素繊維(A)の作製
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本、単繊維径7μm、単位長さ当たりの質量1.6g/m、比重1.8g/cm
3、表面酸素濃度比[O/C]0.2の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維のストランド引張強度は4,880MPa、ストランド引張弾性率は225GPaであった。続いて、多官能性化合物としてポリグリセロールポリグリシジルエーテルを2重量%になるように水に溶解させたサイジング剤母液を調製し、浸漬法により炭素繊維にサイジング剤を付与し、230℃で乾燥を行った。こうして得られた炭素繊維のサイジング剤付着量は1.0重量%であった。
【0166】
(参考例2)有機繊維(B)
ポリエステル(PET)繊維1:東レ(株)製“テトロン”(登録商標)56T−36−262(単繊維繊度1.6dtex、繊維径12μm、融点260℃)を用いた。破断伸度を上記(5)に記載の方法により測定した結果、15%であった。
【0167】
ポリエステル(PET)繊維2:東レ(株)製“テトロン”(登録商標)56T−72−262(単繊維繊度0.78dtex、繊維径8μm、融点260℃)を用いた。破断伸度を上記(5)に記載の方法により測定した結果、15%であった。
【0168】
ポリエステル(PET)繊維3:東レ(株)製“テトロン”(登録商標)33T−288−262(単繊維繊度0.11dtex、繊維径3μm、融点260℃)を用いた。破断伸度を上記(5)に記載の方法により測定した結果、15%であった。
【0169】
ポリエステル(PET)繊維4:東レ(株)製“テトロン”(登録商標)2200T−480−705M(単繊維繊度4.6dtex、繊維径20μm、融点260℃)を用いた。破断伸度を上記(5)に記載の方法により測定した結果、15%であった。
【0170】
(参考例3)熱可塑性樹脂(C)および(H)
PP:ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J137)とマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”(登録商標)QE840)(PP)を重量比85/15でペレットブレンドしたものを用いた。200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、50Pa・sであった。
【0171】
PC:ポリカーボネート樹脂(出光(株)製“パンライト”(登録商標)L−1225L)を用いた。前述したポリプロピレン樹脂と同様に、200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、14,000Pa・sであった。
【0172】
(参考例4)化合物(D)および(I)
固体の水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製“クリアロン”(登録商標)P125、軟化点125℃)を用いた。これを含浸助剤塗布装置内のタンク内に投入し、タンク内の温度を200℃に設定し、1時間加熱して溶融状態にした。この時の、200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、1Pa・sであった。
【0173】
(製造例1)炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X−1)
上記に示した炭素繊維(A)束に、表1に示す割合で化合物(D)を含浸させて得られた複合体(G)を、(株)日本製鋼所製TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通した。一方、表1に示した熱可塑性樹脂(C)をTEX−30α型2軸押出機のメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融混練した。2軸押出機からダイ内に溶融した熱可塑性樹脂(C)を吐出し、複合体(G)の周囲を被覆するように連続的に配置した。得られたストランドを冷却後、カッターでペレット長7mmに切断して、炭素繊維(A)束の長さと成形材料の長さが実質的に同じである長繊維ペレット(X−1)とした。この時、(A)、(C)および(D)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が30重量部となるように、炭素繊維(A)束の引取速度を調整した。
【0174】
(製造例2)炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X−2)
上記に示した、製造例1と同様にして長繊維ペレット(X−2)を作製した。この時、(A)、(C)および(D)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が40重量部となるように、炭素繊維(A)束の引取速度を調整した。
【0175】
(製造例3)有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y−1)
上記に示した有機繊維(B)束に、表1に示す割合で化合物(I)を含浸させた複合体(J)を、(株)日本製鋼所製TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通した。一方、表1に示した熱可塑性樹脂(H)をTEX−30α型2軸押出機のメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融混練した。2軸押出機からダイ内に溶融した熱可塑性樹脂(H)を吐出し、複合体(J)の周囲を被覆するように連続的に配置した。得られたストランドを冷却後、カッターでペレット長7mmに切断して、有機繊維(B)束の長さと成形材料の長さが実質的に同じである長繊維ペレット(Y−1)とした。この時、(B)、(H)および(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が30重量部となるように、有機繊維(B)束の引取速度を調整した。
【0176】
(製造例4)有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y−2)
上記に示した、製造例3と同様にして長繊維ペレット(Y−2)を作製した。この時、(B)、(H)および(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が40重量部となるように、有機繊維(B)束の引取速度を調整した。
【0177】
(製造例5)有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y−3)
上記に示した、製造例3と同様にして長繊維ペレット(Y−3)を作製した。この時、(B)、(H)および(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が50重量部となるように、有機繊維(B)束の引取速度を調整した。
【0178】
(製造例6)有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y−4)
上記に示した有機繊維(B)束に、表1に示す割合で化合物(I)を含浸させた複合体(J)を、(株)日本製鋼所製TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)内で溶融させた熱可塑性樹脂(H)と共に、スクリュー回転速度を200rpmに設定し、シリンダー内で溶融混練し、ダイ先端から吐出されるストランドを冷却固化後、カッターでペレット長7mmに切断しペレット(Y−4)を作製した。この時、(B)、(H)および(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が30重量部となるように、有機繊維(B)束の引取速度を調整した。
【0179】
(製造例7)有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y−5)
スクリュー回転速度を180rpmに設定したこと以外は、上記に示した製造例6と同様にしてペレット(Y−5)を作製した。
【0180】
(製造例8)有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y−6)
スクリュー回転速度を160rpmに設定したこと以外は、上記に示した製造例6と同様にしてペレット(Y−6)を作製した。
【0181】
(実施例1)
(株)日本製鋼所製TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイを設置した長繊維強化樹脂ペレット製造装置を使用し、押出機シリンダー温度を220℃に設定し、表2に示した熱可塑性樹脂(C)をメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融混練した。200℃にて加熱溶融させた化合物(D)を、(A)〜(C)の合計100重量部に対し、8重量部となるように吐出量を調整し、溶融した熱可塑性樹脂(C)を吐出するダイス口(直径3mm)へ供給して、炭素繊維(A)および有機繊維(B)からなる繊維束(E)の周囲を被覆するように連続的に配置した。この時の繊維束(E)内部断面は、炭素繊維(A)および有機繊維(B)が偏在していた。偏在状態は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)のそれぞれ少なくとも一部が、熱可塑性樹脂(C)に接していた。得られたストランドを冷却後、カッターでペレット長7mmに切断し、長繊維ペレットとした。この時、(A)〜(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が20重量部、有機繊維(B)が10重量部となるように、引取速度を調整した。
【0182】
こうして得られた長繊維ペレットを、(株)日本製鋼所製射出成形機J110ADを用いて、射出時間5秒、背圧5MPa、保圧力20MPa、保圧時間10秒、シリンダー温度230℃、金型温度60℃の条件で射出成形することにより、成形品としてのISO型ダンベル試験片および80mm×80mm×2mmの試験片を作製した。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型の温度を示す。得られた試験片(成形品)を、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間静置後に特性評価に供した。前述の方法により評価した評価結果をまとめて表2に示した。
【0183】
(実施例2)
有機繊維(B)にポリエステル(PET)繊維3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表2に示した。
【0184】
(実施例3)
(A)〜(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が35重量部、熱可塑性樹脂(C)が55重量部、化合物(D)が10重量部となるように吐出量を調整した以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表2に示した。
【0185】
(実施例4)
(A)〜(C)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が30重量部、熱可塑性樹脂(C)が50重量部、化合物(D)が10重量部となるように吐出量を調整した以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表2に示した。
【0186】
(実施例5)
(A)〜(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が30重量部、熱可塑性樹脂(C)が60重量部、化合物(D)が11重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表3に示した。
【0187】
(実施例6)
(A)〜(C)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が30重量部、熱可塑性樹脂(C)50重量部、化合物(D)が14重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表3に示した。
【0188】
(実施例7)
繊維束(E)において、炭素繊維(A)が有機繊維(B)を内包するように配列した以外は、実施例1と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表3に示した。
【0189】
(実施例8)
繊維束(E)において、有機繊維(B)が炭素繊維(A)を内包するように配列した以外は、実施例1と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表3に示した。
【0190】
(実施例9)
製造例1により得られた長繊維ペレット(X−1)と製造例3により得られた長繊維ペレット(Y−1)を、(X−1)および(Y−1)の合計100重量部に対して、(X−1)が67重量部、(Y−1)が33重量部となるようにドライブレンドして成形材料を作製した。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が22重量部、有機繊維(B)が12重量部、熱可塑性樹脂(C)が66重量部、化合物(D)が9重量部となり、この成形材料について、前述の方法により評価した評価結果をまとめて表4に示した。
【0191】
(実施例10)
製造例1により得られた長繊維ペレット(X−1)、製造例4により得られた長繊維ペレット(Y−2)と、表4に示した熱可塑性樹脂(C)のペレットを、(X−1)が17重量部、(Y−2)が75重量部、(C)が8重量部となるようにドライブレンドした以外は、実施例9と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が6重量部、有機繊維(B)が33重量部、熱可塑性樹脂(C)が61重量部、化合物(D)が10重量部となり、この成形材料の評価結果はまとめて表4に示した。
【0192】
(実施例11)
製造例2により得られた長繊維ペレット(X−2)および製造例4により得られた長繊維ペレット(Y−2)を、(X−2)および(Y−2)の合計100重量部に対して、(X−2)が75重量部、(Y−2)が25重量部となるようにドライブレンドした以外は、実施例9と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が33重量部、有機繊維(B)が11重量部、熱可塑性樹脂(C)が56重量部、化合物(D)が11重量部となり、この成形材料の評価結果はまとめて表4に示した。
【0193】
(実施例12)
長繊維ペレット(Y−1)にかえて製造例6により得られたペレット(Y−4)を用いた以外は、実施例9と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が22重量部、有機繊維(B)が11重量部、熱可塑性樹脂(C)が67重量部、化合物(D)が9重量部となり、この成形材料の評価結果はまとめて表4に示した。
(実施例13)
製造例7により得られたペレット(Y−5)を用いた以外は、実施例12と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が22重量部、有機繊維(B)が11重量部、熱可塑性樹脂(C)が67重量部、化合物(D)が9重量部となり、この成形材料の評価結果はまとめて表4に示した。
(実施例14)
製造例8により得られたペレット(Y−6)を用いた以外は、実施例12と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が22重量部、有機繊維(B)が11重量部、熱可塑性樹脂(C)が67重量部、化合物(D)が9重量部となり、この成形材料の評価結果はまとめて表4に示した。
【0194】
(比較例1)
有機繊維(B)にPET繊維4を用いたこと以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0195】
(比較例2)
(A)〜(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が3重量部、熱可塑性樹脂(C)が87重量部、化合物(D)が6重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0196】
(比較例3)
(A)〜(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が50重量部、熱可塑性樹脂(C)が40重量部、化合物(D)が14重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0197】
(比較例4)
(A)〜(C)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が50重量部、熱可塑性樹脂(C)が30重量部、化合物(D)が16重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0198】
(比較例5)
射出成形における背圧力を20MPaとした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0199】
(比較例6)
射出成形における射出時間を0.5秒とし、背圧力を15MPaとした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0200】
(比較例7)
有機繊維(B)にPET繊維1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0201】
(比較例8)
(A)〜(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が3重量部、有機繊維(B)が20重量部、熱可塑性樹脂(C)が77重量部、化合物(D)が8重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表6に示した。
【0202】
(比較例9)
(A)〜(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が10重量部、有機繊維(B)が50重量部、熱可塑性樹脂(C)が40重量部、化合物(D)が16重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0203】
(比較例10)
繊維束(E)内部断面において、炭素繊維(A)および有機繊維(B)が均一に混在する状態で配列させた以外は、実施例1と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表6に示した。
【0204】
(比較例11)
製造例1により得られた長繊維ペレット(X−1)と、表7に示した熱可塑性樹脂(C)ペレットを、(X−1)および(C)の合計100重量部に対して、(X−1)が67重量部、(C)が33重量部となるようにドライブレンドした以外は、実施例7と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が20重量部、有機繊維(B)が0重量部、熱可塑性樹脂(C)が80重量部、化合物(D)が5重量部となり、この成形材料の評価結果はまとめて表7に示した。
【0205】
(比較例12)
製造例1により得られた長繊維ペレット(X−1)、製造例5により得られた長繊維ペレット(Y−3)と、表7に示した熱可塑性樹脂(C)ペレットを、(X−1)、(Y−3)および(C)の合計100重量部に対して、(X−1)が10重量部、(Y−3)が20重量部、(C)が70重量部となるようにドライブレンドした以外は、実施例7と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が3重量部、有機繊維(B)が11重量部、熱可塑性樹脂(C)が86重量部、化合物(D)が3重量部となり、この成形材料の評価結果はまとめて表7に示した。
【0206】
【表1】
【0207】
【表2】
【0208】
【表3】
【0209】
【表4】
【0210】
【表5】
【0211】
【表6】
【0212】
【表7】
【0213】
実施例1〜14いずれの材料も、炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性に優れ、高い衝撃強度(シャルピー衝撃強度)、を示した。特に有機繊維(B)のアスペクト比に関しては250以上とすることで、衝撃強度も大きく向上してくることがわかった。
【0214】
一方、比較例1、7では、有機繊維(B)の数平均繊維径が大きいため、衝撃強度が不十分であった。比較例2、8、12は、炭素繊維(A)の含有量が少ないため、衝撃強度および曲げ強度が低い結果となった。比較例3は、炭素繊維(A)の含有量が多いため、分散性が低く、衝撃強度が低い結果となった。比較例4、9は、有機繊維(B)の含有量が多いため、有機繊維(B)同士の絡み合いが多く、分散性が低く、また、繊維同士の接触増加による繊維破断が起きたため、衝撃強度が低い結果となった。比較例5、6では、炭素繊維(A)または有機繊維(B)の平均繊維長が短いため、繊維補強効果が弱く、衝撃強度が低い結果となった。比較例10は、成形材料の繊維束(E)内部断面において、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を均一に混在する状態で配列させたので、繊維束(E)内での繊維同士の絡み合いが多く、炭素繊維(A)の平均繊維長が短くなり、また、成形品内に均一分散せず、衝撃強度が低い結果となった。比較例11は、有機繊維(B)を含まないため、繊維補強効果が弱く、衝撃強度が低い結果となった。
炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5〜45重量部、有機繊維(B)を1〜45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10〜94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L