特許第6123985号(P6123985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6123985-半割りスラスト軸受 図000002
  • 特許6123985-半割りスラスト軸受 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6123985
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】半割りスラスト軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/20 20060101AFI20170424BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20170424BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   F16C33/20 Z
   F16C17/04 Z
   F16C9/02
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-281385(P2012-281385)
(22)【出願日】2012年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-126069(P2014-126069A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082108
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】福田 光俊
【審査官】 岩谷 一臣
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−201145(JP,A)
【文献】 特開2012−047276(JP,A)
【文献】 実開昭63−158620(JP,U)
【文献】 特開平02−076925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C3/00−9/06、17/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半円リング形状の裏金上に軸受合金層と樹脂コーティング層とが順次積層されて該樹脂コーティング層の表面が軸受面となっており、かつ該軸受面に略半径方向の油溝が形成された半割りスラスト軸受において、
上記油溝の側壁面は軸受面に向かって拡開する傾斜面となっており、かつ上記樹脂コーティング層は上記軸受面から側壁面にかけて、該側壁面を構成する裏金の露出面と軸受合金層の露出面との両者を滑らかに覆う被覆部を有しており、
上記樹脂コーティング層は、少なくとも油溝に隣接した箇所において、半割りスラスト軸受の半径方向の中央部分が両端部分に比較して軸方向に突出した中高形状となっていることを特徴とする半割りスラスト軸受。
【請求項2】
上記被覆部は、上記油溝の全面を覆っていることを特徴とする請求項1に記載の半割りスラスト軸受。
【請求項3】
上記被覆部は、上記軸受合金層8を覆って油溝の底面に隣接した位置まで伸びていることを特徴とする請求項1に記載の半割りスラスト軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半円リング形状の半割りスラスト軸受に関し、より詳しくは、軸受面に略半径方向の油溝が形成された半割りスラスト軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半割りスラスト軸受として、半円リング形状の裏金上に軸受合金層と樹脂コーティング層とが順次積層されて該樹脂コーティング層の表面が軸受面となっており、かつ該軸受面に略半径方向の油溝が形成された半割りスラスト軸受が知られている(特許文献1の図7)。
半割りスラスト軸受は、例えばクランク軸のスラスト面に当接してスラスト荷重を受け止めるようになっており、上記油溝内の油は、クランク軸のスラスト面の回転に伴なって、該油溝の側壁面を流動して軸受面に流出してその部分を潤滑するようになる。
そして上記油溝は、樹脂コーティング層と軸受合金層とを貫通して裏金に至る深さを有しており、したがって油溝の側壁面は、裏金と軸受合金層と樹脂コーティング層の各露出面から構成されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−201145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで従来は、油溝内の油が軸受面に流出することに対して格別の配慮はなされておらず、上記油溝内の油は、油溝の側壁面を構成する裏金と軸受合金層と樹脂コーティング層の各露出面を順次流動して上記軸受面に流出することになる。
その結果として、油溝内の油は滑らかに軸受面に流出しておらず、従来、充分な油量を軸受面に供給するには油溝を大きくしたり供給油量を増大させていた。
本発明はそのような事情に鑑み、油溝内の油が滑らかに軸受面に流出することができるようにして、油溝を大きくしたり供給油量を増大させる必要性を低減することができるようにした半割りスラスト軸受を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明は、半円リング形状の裏金上に軸受合金層と樹脂コーティング層とが順次積層されて該樹脂コーティング層の表面が軸受面となっており、かつ該軸受面に略半径方向の油溝が形成された半割りスラスト軸受において、
上記油溝の側壁面は軸受面に向かって拡開する傾斜面となっており、かつ上記樹脂コーティング層は上記軸受面から側壁面にかけて、該側壁面を構成する裏金の露出面と軸受合金層の露出面との両者を滑らかに覆う被覆部を有しており、
上記樹脂コーティング層は、少なくとも油溝に隣接した箇所において、半割りスラスト軸受の半径方向の中央部分が両端部分に比較して軸方向に突出した中高形状となっていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、上記油溝の側壁面は軸受面に向かって拡開する傾斜面となっており、かつ上記樹脂コーティング層の被覆部は上記軸受面から側壁面にかけて、該側壁面を構成する裏金の露出面と軸受合金層の露出面との両者を滑らかに覆っているので、上記油溝内の油は従来のように裏金と軸受合金層との各露出面を順次流動して上記軸受面に流出することがなく、従来に比較して、油溝内の油をその被覆部により滑らかに側壁面から軸受面に流出させることができるようになる。
したがって油溝を大きくしたり供給油量を増大させることなく、充分な量の油を軸受面に供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施例を示す正面図。
図2図1のII−II線に沿う拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について本発明を説明すると、図1において、半割りスラスト軸受1は半円リング形状に形成されており、その一方の表面が、例えば図示しないクランク軸のスラスト面に当接してスラスト荷重を受け止める軸受面2となっている。
上記半円リング形状となっている軸受面2の中央側の2箇所に略半径方向の油溝3を形成してあり、また半円リング形状の円周方向両側に上記軸受面2から周方向端4に向って下降する、すなわち軸受面2から半割りスラスト軸受1の裏面側に向かって傾斜するスラストリリーフ5を形成してある。
【0009】
上記半割りスラスト軸受1は、図2に誇張して示すように、例えば鋼板などの裏金7に銅系合金、錫系合金、鉛系合金またはアルミニウム系合金などの軸受合金層8をライニングしたバイメタル材から構成してあり、さらに上記軸受合金層8の表面に固体潤滑剤を含有する樹脂コーティング層9を形成してある。
上記油溝3の両側の側壁面3aは、それぞれ軸受面2に向かって拡開する傾斜面となっており、かつ上記樹脂コーティング層9は、上記軸受面2から側壁面3aにかけて両者を滑らかに覆う被覆部9aを有しており、両被覆部9aは上記油溝3の底面3bの全域を覆っている。つまり樹脂コーティング層9の被覆部9aは、油溝3の全面を覆っている。
【0010】
上記樹脂コーティング層9は、その断面形状を、図1に示す半径方向の中央部分X1が両端部分X2、X3に比較して軸方向に突出した中高形状としてある。この中高形状は、例えば上記樹脂コーティング層9を形成する際に、最初に軸受面2を含む軸受合金層8の表面の全域に均一に樹脂コーティングを施し、次に半径方向の中央部分のみに樹脂コーティングを重ね塗りすることによって形成することができる。したがって本実施例では、軸受面2の円周方向の全領域で、半径方向の断面形状が中高形状となっている。
なお、樹脂コーティング層9を中高形状とする他の製造方法としては、塗料の粘度を調整し表面張力を利用して中高形状としたり、塗装後表面を削って中高形状としてもよい。
【0011】
上記樹脂コーティング層9に用いられる樹脂材料としては、例えば一般的なエポキシ樹脂や耐熱性の高いPAI樹脂、PI樹脂、PBI樹脂、PEEK樹脂、フッ素系樹脂等を用いることができる。またそれらの樹脂と他の樹脂を混合し、ポリマーアロイ化したものも用いることができる。またそれらの樹脂と基材や添加物との密着性を向上させるためにカップリング材を適宜加えてもよい。
また、上記樹脂コーティング層9に含有される固体潤滑剤としては、例えばグラファイト、カーボンなどの炭素系固体潤滑剤、MoS2などを用いることができる。また耐磨耗性向上を目的として窒化物、酸化物、硬質粒子などを用いることができる。
さらに上記樹脂コーティング層9の厚さは、半径方向の中央部分X1が最も厚く3〜20μmとなっており、半径方向の両端部分X2、X3で1μm程度となっている。
【0012】
以上の構成を有する半割りスラスト軸受1によれば、上記油溝3の側壁面3aは軸受面2に向かって拡開する傾斜面となっており、かつ上記樹脂コーティング層9の被覆部9aは、上記軸受面2から側壁面3aにかけて両者を滑らかに覆っている。
したがって図示しないクランク軸のスラスト面が図2の矢印A方向に回転された際には、油溝3内の油は特に図2の左側の被覆部9aにより滑らかに側壁面3aから軸受面2に流出して、軸受面2とクランク軸のスラスト面との間を効果的に潤滑するようになる。これに対し、例えば軸受合金層8における軸受面2側表面と側壁面3a側表面との連続部分に存在する角部Cで例示するように、油溝3内の油が軸受面2に流出する流路にそのような角部Cが存在する場合には、その角部Cは油溝3内の油が軸受面2側に流出するのを阻害するようになる。
しかるにそのような角部Cがなく、軸受面2から側壁面3aにかけて両者を滑らかに覆っている被覆部9aは、油溝3を大きくしたり供給油量を増大させることなく、充分な量の油を軸受面3に供給することに寄与する。
さらに本実施例においては、樹脂コーティング層9の被覆部9aは、油溝3の底面3bを含めてその全面を覆っているので、底面3bが露出している場合に比較して、気泡が付着するのを抑え、キャビテーションエロージョンを防止できる。
【0013】
また本実施例では、上記樹脂コーティング層9は中高形状となっているので、クランク軸のスラスト面が僅かに振れ回されて該スラスト面と軸受面2とが接触した際に、特に油溝3における半径方向両端部分X2、X3がスラスト面と接触しようとした際に、上記中高形状と角部Cのない滑らかな被覆部9aの形状とにより両者が局部的に強く接触するのを防止することができ、それによって半径方向両端部分X2、X3における損傷を低減することができる。
また上記樹脂コーティング層9は固体潤滑材を含有しているので、接触時のフリクション低減にも効果がある。
【0014】
なお、上記実施例では樹脂コーティング層9の被覆部9aは、油溝3の底面3bを含めてその全面を覆っているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、底面3bやこれに隣接した側壁面3aの一部を露出させてもよい。この場合には、被覆部9aは、上記軸受面2から側壁面3aにかけて両者を滑らかに覆うように形成するために、少なくとも軸受合金層8を完全に覆うような深さにまで形成することが望ましい。
また上記実施例では油溝3の両側の側壁面3aをそれぞれ軸受面2に向かって拡開する傾斜面とし、かつ樹脂コーティング層9の被覆部9aによって軸受面2から側壁面3aにかけて両者を滑らかに覆わせているが、図2における回転方向の前方側(図2の左側)のみに傾斜面と被覆部9aとを設けてもよい。
【符号の説明】
【0015】
1 半割りスラスト軸受 2 軸受面
3 油溝 3a 側壁面
3b 底面 5 スラストリリーフ
7 裏金 8 軸受合金層
9 樹脂コーティング層 9a 被覆部
X1 中央部分 X2、X3 両端部分
図1
図2