(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0019】
<アルミニウム箔への保護層形成方法>
本発明のアルミニウム箔への保護層形成方法は、熱処理工程と、保護層形成用組成物調整工程と、保護層形成工程とを有する。
【0020】
熱処理工程では、アルミニウム箔を80℃〜160℃で1時間以上保持する熱処理を行って熱処理済アルミニウム箔を得る。
【0021】
アルミニウムとしては、純アルミニウムまたはアルミニウム合金が挙げられる。純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称し、また種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称す。アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Fe系、Al−Si系、Al−Mg系、AL−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系が挙げられる。またアルミニウム合金としては、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al−Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al−Fe系)が挙げられる。
【0022】
ここで集電体とは、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。
【0023】
アルミニウム箔の厚みは、10μm〜100μmであることが好ましく、15μm〜30μmであることがさらに好ましい。この範囲の厚みを有するアルミニウム箔は集電体用に好適に用いられる。
【0024】
アルミニウム箔を80℃〜160℃で1時間以上保持する熱処理により、アルミニウム箔を軟化させることなく脱脂してアルミニウム箔表面のぬれ性を向上させることができる。
【0025】
処理温度が80℃未満では長時間をかけても脱脂効果が少なく、160℃を超えると箔が軟化し、アルミニウム箔の強度が低下する。1時間未満の処理時間では脱脂効果に乏しい。80℃〜160℃という温度で熱処理を行うので処理時間が長時間となっても強度が低下するおそれはない。ただし100時間を超える長時間熱処理を行っても脱脂効果が飽和してそれ以上の効果が得られない。このため処理時間は100時間以下が好ましい。この温度範囲であれば、処理温度が高いほど短時間で脱脂される。
【0026】
熱処理を行う時のアルミニウム箔の形態は、ロール状の形態でも積層状の形態でもよい。
【0027】
保護層形成用組成物調整工程では、水に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、導電性粒子と、を分散させて保護層形成用組成物を調整する。
【0028】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を保護層形成用組成物に含有させると、理由は不明であるが、アルミニウム箔への保護層形成用組成物のぬれ性が向上する。
【0029】
そして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の含有割合は、導電性粒子に対して0.5質量%以上7質量%未満である。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の含有割合は導電性粒子に対して2質量%以上5質量%以下となるように含有させるのがさらに好ましい。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の含有割合が導電性粒子に対して0.5質量%より少ないとぬれ性改良効果が少なく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の含有割合が導電性粒子に対して7質量%以上であると、導電性粒子が凝集しやすい。
【0030】
またポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、形成された保護層に含有されて、保護層内の導電性粒子の結着剤として作用すると考えられる。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、高電圧をかけても分解されないので、集電体の保護層において、安定的に結着効果を発揮できる。
【0031】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の形態は、粒子状であると好ましい。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が粒子状であると、スラリー中にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が含有されても導電性粒子を凝集させにくい。
【0032】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が粒子状である場合は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の平均粒径D
50は、300nm未満であることが好ましく、50nm以上150nm以下であることがさらに好ましい。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の平均粒径D
50が300nm以上あると、保護層の厚みが厚くなりすぎるため好ましくない。
【0033】
水は、蒸留水やイオン交換水など、不純物を取り除いたものが好ましい。
【0034】
導電性粒子の粉体比抵抗は、1E+3Ωcm以下であることが好ましく、1E+2Ωcm以下であることがさらに好ましい。粉体比抵抗が1E+3Ωcm以下であれば、保護層に適切な導電性を付与することができ、保護層が電池の中において電気抵抗となるのを抑制できる。
【0035】
導電性粒子の平均粒径D
50は、300nm未満であることが好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。導電性粒子の平均粒径D
50が300nm以上あると、保護層を均一にするために保護層の厚みを厚くする必要があるので好ましくない。保護層の厚みは、導電性粒子の平均粒径D
50の4倍〜6倍程度の厚みになることが好ましい。その理由は例えば100nmの厚みの保護層に対して導電性粒子を並べるときに、導電性粒子が5段程度積み重なっているほうが、つまり導電性粒子の平均粒径D
50が20nmであるほうが、電解液とアルミニウム箔の接触を効率的に防止できるからである。
【0036】
導電性粒子は、酸化インジウム(In
2O
3)、酸化インジウム(In
2O
3)にZn、Mo、W、Ti、Zr、Sn及びHから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、酸化亜鉛(ZnO)、酸化亜鉛(ZnO)にGa、Al及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、過酸化亜鉛(ZnO
2)、酸化錫(II)(SnO)、酸化錫(IV)(SnO
2)、酸化錫(VI)(SnO
3)、酸化錫(IV)(SnO
2)にF、W、Ta、Sb及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、二酸化チタン(TiO
2)、二酸化チタン(TiO
2)にNb元素を添加したもの、三酸化二チタン(Ti
2O
3)、酸化ルテニウム(RuO
2)、酸化ニッケル(NiO)、酸化タンタル(Ta
2O
3)、酸化タングステン(III)(W
2O
3)、酸化タングステン(IV)(WO
2)、酸化タングステン(VI)(WO
3)、酸化クロム(Cr
2O
3)、窒化チタン(TiN)、窒化ゲルマニウム(Ge
3N
4)、窒化ランタン(LaN)、炭化タングステン(WC)、炭化タンタル(TaC)、炭化チタン(TiC)並びに炭素(C)から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0037】
酸化インジウムにZn、Mo、W、Ti、Zr、Sn及びHから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したものとして、例えば、In
2O
3−ZnO(IZO)、In
2O
3−SnO
2(ITO)が挙げられる。酸化錫にF、W、Ta、Sb、P及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したものとして、例えば、フッ素添加酸化錫(FTO)、アンチモン添加酸化錫(ATO)、タンタル添加酸化錫(TaTO)、リン添加酸化錫(PTO)が挙げられる。酸化亜鉛にGa、Al及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したものとして、例えば、ガリウム添加酸化亜鉛(GZO)、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO)、ホウ素添加酸化亜鉛(BZO)が挙げられる。酸化チタンにNb元素を添加したものとして、TiO
2;Nbと表記されるチタンニオブ酸化物が挙げられる。
【0038】
上記導電性粒子の中でも特にSnO
2が好ましい。SnO
2は十分な導電性を有し、かつ大気中の酸素、電解液及び電解塩に耐性があり、また高電圧においてもその耐性を発揮する。またSnO
2は耐酸化性にも優れている。そのため保護層にSnO
2が含まれると保護層のアルミニウム箔の保護効果が高い。
【0039】
保護層形成工程では、熱処理済アルミニウム箔の表面に保護層形成用組成物を塗布し、乾燥して、熱処理済アルミニウム箔の表面に保護層を形成する。
【0040】
保護層形成用組成物の塗布には、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。
【0041】
乾燥は、保護層形成用組成物から水を蒸発させることができる温度及び時間で行えばよい。例えば、保護層形成用組成物を塗布した熱処理済アルミニウム箔の表面に60℃〜120℃で2分〜30分乾燥させることによって保護層を形成できる。
【0042】
保護層は、その厚みが100nm以上300nm未満となるように形成されることが好ましい。厚みが300nm以上の保護層を有する集電体を正極に用いるリチウムイオン二次電池は、正極における正極活物質の含有割合が小さくなって、リチウムイオン二次電池の充放電容量が低下する。保護層の厚みが100nmより薄いと、保護層による集電体の保護効果が得られにくい。
【0043】
上記工程を経ることによって、保護層形成用組成物の熱処理済アルミニウム箔への接触角を大幅に低減でき、アルミニウム箔へより厚みの薄い保護層を形成できる。
【0044】
<リチウムイオン二次電池用集電体>
本発明のリチウムイオン二次電池用集電体は、アルミニウム箔と、上記アルミニウム箔への保護層形成方法を経て形成された保護層と、からなり、保護層の厚みは100nm以上300nm未満であることを特徴とする。
【0045】
アルミニウム箔の説明は上記アルミニウム箔への保護層形成方法に記載したことと同様である。
【0046】
上記保護層は、導電性粒子とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とからなる。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の含有割合は、導電性粒子に対して0.5質量%以上7質量%未満であり、導電性粒子に対して非常に少ない。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、保護層における含有割合が少ないので、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)によって保護層の導電性が下がる影響は少ない。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、導電性粒子同士の結着剤としての作用を奏すると推測される。導電性粒子及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)についての説明は上記したアルミニウム箔への保護層形成方法に記載したことと同様である。
【0047】
凝集しにくい状態の保護層形成用組成物を使用して保護層を形成しているので、形成された保護層において、導電性粒子は、凝集の少ない状態でより均一に分散されている。従って上記方法で形成された保護層は、導電性粒子が均一に分散されており、アルミニウム箔を電解液から均一に保護する。
【0048】
保護層の厚みは100nm以上300nm未満である。100nm以上300nm未満の保護層を有する集電体を用いるリチウムイオン二次電池は、初期容量を低減させずに保存特性を向上できる。
【0049】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用集電体を有することを特徴とする。上記リチウムイオン二次電池用集電体は正極用集電体として用いられることが好ましい。従って、以下には、上記リチウムイオン二次電池用集電体を正極用集電体として用いた態様を説明する。上記リチウムイオン二次電池用集電体は負極用集電体に用いることももちろん可能である。
【0050】
本発明のリチウムイオン二次電池用集電体を有するリチウムイオン二次電池は、初期容量を下げずに保存特性を向上できる。
【0051】
本発明のリチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、正極、負極、セパレータ、電解液を有する。
【0052】
正極は、上記リチウムイオン二次電池用集電体と、リチウムイオン二次電池用集電体に配置された正極活物質層とを有する。
【0053】
正極活物質層は、正極活物質と結着剤とを含む。正極活物質層には必要に応じて導電助剤をさらに含んでも良い。
【0054】
正極活物質としては、リチウム含有化合物あるいは他の金属化合物よりなるものを用いることができる。リチウム含有化合物としては、例えば、層状構造を有するリチウムコバルト複合酸化物、層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物、一般式:Li
aCo
pNi
qMn
rD
sO
x (Dは、Al、Mg、Ti、Sn、Zn、W、Zr、Mo、Fe及びNaから選択される少なくとも一種、p+q+r+s=1、0<p<1、0≦q<1、0≦r<1、0≦s<1、0.8≦a<2.0、−0.2≦x−(a+p+q+r+s)≦0.2)で表される層状構造を有するリチウムコバルト含有複合金属酸化物、一般式:LiMPO
4で示されるオリビン型リチウムリン酸複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)、一般式:Li
2MPO
4Fで示されるフッ化オリビン型リチウムリン酸複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)、一般式:Li
2MSiO
4で示されるケイ酸塩系型リチウム複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)を用いることができる。また他の金属化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム若しくは二酸化マンガンなどの酸化物、または硫化チタン若しくは硫化モリブデンなどの硫化物が挙げられる。
【0055】
正極活物質は、化学式:LiMO
2(MはNi、Co及びMnから選択される少なくとも1つである)で表されるリチウム含有酸化物よりなることが好ましく、さらに上記した層状構造を有するリチウムコバルト含有複合金属酸化物よりなることが好ましい。
【0056】
リチウム含有酸化物としては、例えば、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.6Co
0.2Mn
0.2O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2、LiCoO
2、LiNi
0.8Co
0.2O
2、LiCoMnO
2を用いることができる。中でもLiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2は、熱安定性の点で好ましい。
【0057】
正極活物質はその平均粒径D
50が1μm〜20μmである粉末形状であることが好ましい。正極活物質の平均粒径D
50が1μmより小さいと正極活物質の比表面積が大きくなり正極活物質と非水電解液との反応面積が増える。正極活物質の平均粒径D
50が20μmより大きいとリチウムイオン二次電池の抵抗が大きくなり、リチウムイオン二次電池の出力特性が下がるおそれがある。平均粒径D
50は、粒度分布測定法によって計測できる。平均粒径D
50とはレーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が50%に相当する粒子径のことである。つまり、平均粒径D
50とは、体積基準で測定したメディアン径を意味する。
【0058】
結着剤は、上記正極活物質及び導電助剤を集電体に繋ぎ止める役割を果たす。結着剤として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンおよびフッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびポリ酢酸ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂、ポリイミドおよびポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、並びにスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴムを用いることができる。
【0059】
導電助剤は、必要に応じて電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(登録商標)(KB)、気相法炭素繊維(VGCF)等を単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、正極に含有される活物質100質量部に対して、1質量部〜30質量部程度とすることができる。
【0060】
上記集電体の表面に正極活物質層を配置するには、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に正極活物質を直接塗布すればよい。具体的には、正極活物質、結着剤及び必要に応じて導電助剤を含む正極活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶媒を加えてスラリーとする。結着剤は、あらかじめ結着剤を溶媒に溶解させた溶液または分散させた懸濁液としてから用いてもよい。上記溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)を例示できる。上記スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。乾燥は、常圧条件で行ってもよいし、真空乾燥機を用いた減圧条件下で行ってもよい。乾燥温度は適宜設定すればよく、上記溶媒の沸点以上の温度が好ましい。乾燥時間は塗布量及び乾燥温度に応じ適宜設定すればよい。正極活物質層の密度を高めるべく、乾燥により正極活物質層を形成させた後の集電体に対し、圧縮工程を加えてもよい。
【0061】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。負極活物質層は、負極活物質、結着剤を含み、必要に応じて導電助剤を含む。集電体、結着剤、導電助剤は正極で説明したものと同様である。
【0062】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物、あるいは高分子材料などを用いることができる。
【0063】
炭素系材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が挙げられる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0064】
リチウムと合金化可能な元素は、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biである。中でも、リチウムと合金化可能な元素は、珪素(Si)または錫(Sn)であるとよい。
【0065】
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、例えば、ZnLiAl、AlSb、SiB
4、SiB
6、Mg
2Si、Mg
2Sn、Ni
2Si、TiSi
2、MoSi
2、CoSi
2、NiSi
2、CaSi
2、CrSi
2、Cu
5Si、FeSi
2、MnSi
2、NbSi
2、TaSi
2、VSi
2、WSi
2、ZnSi
2、SiC、Si
3N
4、Si
2N
2O、SiO
v(0<v≦2)、SnO
w(0<w≦2)、SnSiO
3、LiSiOあるいはLiSnOが使用できる。リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、珪素化合物または錫化合物が好ましい。珪素化合物としては、SiO
x(0.3≦x≦1.6)が好ましい。錫化合物としては、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)を例示できる。
【0066】
高分子材料としては、ポリアセチレン、ポリピロールを例示できる。
【0067】
セパレータは正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータは、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、あるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミックス製の多孔質膜が使用できる。
【0068】
電解液は、溶媒とこの溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
【0069】
溶媒として、例えば、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類が使用できる。環状エステル類として、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンが使用できる。鎖状エステル類として、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステルが使用できる。エーテル類として、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンが使用できる。
【0070】
また上記電解液に溶解させる電解質として、例えば、LiClO
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩を使用することができる。
【0071】
電解液として、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの溶媒にLiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3などのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を使用することができる。
【0072】
上記リチウムイオン二次電池は車両に搭載することができる。上記リチウムイオン二次電池は、優れた保存特性を有するため、そのリチウムイオン二次電池を搭載した車両は、寿命、出力の面で高性能となる。
【0073】
車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、電動フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
【0074】
以上、本発明のアルミニウム箔への保護層形成方法、リチウムイオン二次電池用集電体及びリチウムイオン二次電池の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0076】
<凝集率測定>
試験例1のスラリーとして、イオン交換水に平均粒径D
50が20nmのSnO
2粉末が4質量%濃度で含有されているSnO
2水分散体を準備した。
【0077】
試験例1のスラリーに、平均粒径D
50が100nmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子(質量平均分子量100万)を、スラリー中に含有されるSnO
2の質量に対して2質量%濃度となるように添加したものを試験例2のスラリーとした。
【0078】
試験例1のスラリーに上記したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を、スラリー中に含有されるSnO
2の質量に対して5質量%濃度となるように添加したものを試験例3のスラリーとした。
【0079】
試験例1のスラリーに上記したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を、スラリー中に含有されるSnO
2の質量に対して6質量%濃度となるように添加したものを試験例4のスラリーとした。
【0080】
試験例1のスラリーに上記したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を、スラリー中に含有されるSnO
2の質量に対して7質量%濃度となるように添加したものを試験例5のスラリーとした。
【0081】
試験例1のスラリーに上記したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を、スラリー中に含有されるSnO
2の質量に対して7.5質量%濃度となるように添加したものを試験例6のスラリーとした。
【0082】
試験例1のスラリーに上記したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を、スラリー中に含有されるSnO
2の質量に対して10質量%濃度となるように添加したものを試験例7のスラリーとした。
【0083】
試験例1のスラリーに、2−プロパノールを、スラリー中に含有されるSnO
2の質量に対して2質量%濃度となるように添加したものを試験例8のスラリーとした。
【0084】
試験例1のスラリーに、エタノールを、スラリー中に含有されるSnO
2の質量に対して2質量%濃度となるように添加したものを試験例9のスラリーとした。
【0085】
粒度分布測定機を用いて各溶液中に含まれる粒子のキュムラント平均粒径を測定し、凝集率を算出した。凝集率は下記式を用いて算出した。キュムラント平均粒径とは、動的光散乱法により得られたデータをCumulant法により解析して算出した平均粒径である。
【0086】
凝集率(%)=(試験例2〜9のスラリーの各キュムラント平均粒径)−(試験例1のスラリーのキュムラント平均粒径)/(試験例1のスラリーのキュムラント平均粒径)×100
【0087】
キュムラント平均粒径は、粒度分布測定装置(HORIBA NANO PARTICLE ANALYZER SZ−100)を用い、試料屈折率2.00、分散媒1.33、測定繰り返し回数3回の測定条件で測定した粒度分布より計算した。
【0088】
試験例2〜9のスラリーの凝集率を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すように、2−プロパノールやエタノールを添加すると混合比率が2質量%でも、凝集率100%以上の凝集がおこることがわかった。それに対して、PTFEを混合比率が2質量%以上7質量%未満となるように入れてもほとんど凝集がおこらず、SnO
2が良好に分散していることがわかった。
【0091】
<接触角測定>
市販の厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。
【0092】
準備したアルミニウム箔をそのまま使用したものをアルミニウム箔Aとした。アルミニウム箔を100℃で5時間熱処理したものをアルミニウム箔Bとした。アルミニウム箔を120℃で5時間熱処理したものをアルミニウム箔Cとした。アルミニウム箔を150℃で5時間熱処理したものをアルミニウム箔Dとした。
【0093】
上記したアルミニウム箔A〜Dに対する試験例1のスラリー及び試験例2のスラリーの接触角を測定した。接触角の測定は、スラリー0.005ccを注射器により箔表面に滴下し、液滴の接触角を接触角測定器(FACE社製、品番CA−150)を用いて測定した。測定は0.005ccのスラリーをアルミニウム箔に滴下し、その時アルミニウム箔上でできる液滴を拡大して観察して、頂点から接触端とアルミニウム箔面とからなる接触角を計測した。
【0094】
結果を表2及び
図1に示す。
図1は、アルミニウム箔の熱処理温度と、試験例1のスラリー及び試験例2のスラリーと各温度の熱処理済アルミニウム箔に対する接触角と、を比較するグラフである。
【0095】
【表2】
【0096】
表2及び
図1の結果からわかるように、熱処理を行っていないアルミニウム箔Aに対して、熱処理を100℃〜150℃で行ったアルミニウム箔B〜Dへの試験例1及び試験例2のスラリーの接触角が低減することがわかった。また試験例1のスラリーと試験例2のスラリーの接触角を比較すると、PTFEを少量加えた試験例2のスラリーは、試験例1のスラリーと比較して劇的に接触角が低減することがわかった。試験例1のスラリーの各アルミニウム箔への接触角の数値からアルミニウム箔を熱処理しただけでは接触角を50°より小さくできないことがわかった。スラリーにPTFEを加えることによって熱処理しないアルミニウム箔でも33°までは接触角を下げることができた。さらに、アルミニウム箔に熱処理を加えることで接触角を30°以下に低減でき、特に150℃の熱処理を加えたアルミニウム箔では10°以下と画期的に接触角が下がることがわかった。
【0097】
(アルミニウム箔への保護層の形成)
(実施例1)
アルミニウム箔Dの表面に、保護層の厚みがなるべく薄くなるように試験例2のスラリーをドクターブレードを用いて塗布した。スラリーを塗布後のアルミニウム箔Dを80℃で15分乾燥した。これにより保護層が形成された実施例1の集電体を形成した。実施例1の集電体の保護層の厚みは100nmであった。
【0098】
(実施例2)
アルミニウム箔Dに代えてアルミニウム箔Cを用い、保護層の厚みをなるべく小さくするように試験例2のスラリーを塗布した以外は実施例1と同様にして実施例2の集電体を得た。実施例2の集電体の保護層の厚みは200nmであった。
【0099】
(比較例1)
保護層を形成せず、アルミニウム箔Aそのものを比較例1の集電体とした。
【0100】
(比較例2)
アルミニウム箔Dに代えてアルミニウム箔Aを用い、保護層の厚みをなるべく小さくするように試験例2のスラリーを塗布した以外は実施例1と同様にして比較例2の集電体を得た。比較例2の集電体の保護層の厚みは300nmであった。
【0101】
<ラミネート型リチウムイオン二次電池作製>
(実施例1)
実施例1の集電体を正極用集電体として用いた実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を次のようにして作製した。まず正極活物質としてLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2と導電助剤としてアセチレンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、それぞれ88質量部、6質量部、6質量部として混合し、この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて、正極活物質層用スラリーを作製した。
【0102】
上記実施例1の集電体に正極活物質層用スラリーをのせ、ドクターブレードを用いてスラリーが膜状になるように実施例1の集電体に塗布した。スラリーを塗布した集電体を80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した後、ロ−ルプレス機により、実施例1の集電体と実施例1の集電体上の塗布物を強固に密着接合させた。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、厚さ50μm程度の正極とした。
【0103】
負極は以下のように作製した。負極活物質として、平均粒径D
50が4μmのSiO及び平均粒径D
50が20μmの天然黒鉛を準備した。バインダー樹脂としてポリアミドイミド樹脂(PAI)を準備した。導電助剤としてAB(アセチレンブラック)を準備した。
【0104】
SiO/天然黒鉛/アセチレンブラック(導電助剤)/PAI(バインダー)=32/50/8/10(質量比)の割合で混合して混合物とした。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて、スラリーを作製した。
【0105】
このスラリーを厚み20μmの銅箔にドクターブレードを用いて膜状になるように塗布した。スラリーを塗布した銅箔を乾燥後プレスし、接合物を得た。接合物を200℃で2時間、真空乾燥機で加熱乾燥して、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。負極の負極活物質層の厚みは30μmであった。
【0106】
上記の正極および負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極および負極の間に、セパレータとしてポリプロピレン樹脂からなる矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)をEC:DEC=3:7(体積比)で混合した溶媒に1モルのLiPF
6を溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極および負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以上の工程で、実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0107】
(比較例1)
実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池における実施例1の集電体の代わりに比較例1の集電体を用いた以外は実施例1と同様にして比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0108】
(比較例2)
実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池における実施例1の集電体の代わりに比較例2の集電体を用いた以外は実施例1と同様にして比較例2のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0109】
<60℃保存試験>
実施例1、比較例1及び比較例2のラミネート型リチウムイオン二次電池を用いて60℃保存特性を評価した。60℃保存試験は、60℃の温度で4.5Vの電圧をかけた状態で30日間保持した。
【0110】
なお保存試験を行う前にコンディショニング処理を実施した。コンディショニング処理では、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を4.5Vまで段階的に充電し、最終的に1Cレートで4.5Vまで充電後、5時間CV充電した。そして、0.33Cレートで2.5Vまで放電後、2.5Vで5時間CV放電した。
【0111】
コンディショニング処理後に、25℃で0.33Cで4.5Vまで、CCCV充電をし、10分間保持して、0.33Cで2.5VまでCC放電を行い、10分間保持した。この放電容量を測定し、これを初期容量とした。結果を表3に示す。
【0112】
60℃保存試験後の実施例1、比較例1及び比較例2のラミネート型リチウムイオン二次電池を室温で5時間以上放冷した後で、各ラミネート型リチウムイオン二次電池を初期容量の測定と同様にして充放電を行い0.33Cでの放電容量を測定し、これを60℃保存試験後の容量とした。なお、60℃保存試験の容量維持率は、60℃保存後容量維持率(%)=(60℃保存試験後の容量/初期容量)×100で求めた。結果を表3に示す。
【0113】
【表3】
【0114】
表3の結果から、実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池は保護層の形成されていない集電体を用いた比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池と比べて、60℃保存後容量維持率(%)が大幅に向上した。この結果より保護層による集電体の保護作用が確認できた。
【0115】
また実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池は、比較例2のラミネート型リチウムイオン二次電池と比較すると集電体の保護層の厚みを大幅に薄くすることができた。実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池において、保護層の厚みを大幅に薄くできた理由は、上記の接触角の測定で説明したように、アルミニウム箔の熱処理と、ぬれ性改良材であるPTFEの添加により大幅に接触角が低減できたことによるものと推察する。
【0116】
上記した凝集率の測定で説明したように、PTFEを少量添加してもSnO
2の凝集はほとんどみられないため、実施例1及び比較例2のラミネート型リチウムイオンにおいては両者ともSnO
2が均一に分散された保護層が形成できていると考える。
【0117】
このようなSnO
2が均一に分散された保護層が形成できたので、実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池は保護層の厚みが薄くても、60℃保存後容量維持率が高く、保護層の保護効果が高かったと推測する。実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池は、比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池と比較して、初期容量が同じであった。このことから集電体に100nmの厚みの保護層が形成されても初期容量が下がらないことが確認できた。また300nmの厚みの保護層が形成された集電体を用いた比較例2のリチウムイオン二次電池は少しではあるが初期容量が下がることがわかった。ここから保護層の厚みは300nm未満が好ましいことがわかった。