特許第6124112号(P6124112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6124112
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】交流電動機の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/16 20160101AFI20170424BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   H02P6/16
   H02P27/06
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-23996(P2013-23996)
(22)【出願日】2013年2月12日
(65)【公開番号】特開2014-155356(P2014-155356A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】徐 金塀
(72)【発明者】
【氏名】劉 江桁
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−088154(JP,A)
【文献】 特開2011−080793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電動機に取り付けられた回転角度センサの出力信号をフィードバックして前記電動機を可変速運転する交流電動機の制御装置において、
前記電動機の運転指令によって与えられた指令回転方向と前記回転角度センサの出力信号から得られた検出回転方向とが一致するか否かの判断を第1判断として実行し、前記第1判断により前記指令回転方向と前記検出回転方向とが一致すると判断される時に、前記指令回転方向と前記電動機の実回転方向とが一致するか否かの判断を第2判断として実行する相順マッチング判断部と、
前記第2判断により前記指令回転方向と前記実回転方向とが一致すると判断される時に、前記回転角度センサの出力信号から前記回転角度センサの軸倍数を検出する軸倍数検出部と、
前記相順マッチング判断部の判断結果に応じて、前記交流電動機に印加される電圧相順または前記回転角度センサの出力線の配線の正常・異常を検出し、かつ、前記軸倍数検出部により検出した軸倍数と前記交流電動機の磁極数とがマッチングするか否かの判断を第3判断として実行する正常・異常検出部と、
を備えたことを特徴とする交流電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した交流電動機の制御装置において、
前記正常・異常検出部は、
前記交流電動機に印加される電圧相順または前記回転角度センサの出力線の配線の異常を検出した時に、前記電圧相順の変更操作または前記回転角度センサの出力線の配線変更操作を行わせると共に、前記第3判断により前記軸倍数と前記交流電動機の磁極数とがマッチングしないと判断した時に、アラーム出力を行うことを特徴とする交流電動機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した交流電動機の制御装置において、
前記回転角度センサがレゾルバであることを特徴とする交流電動機の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載した交流電動機の制御装置において、
前記電動機の実回転方向を、前記相順マッチング判断部への入力信号に基づいて検出することを特徴とする交流電動機の制御装置。
【請求項5】
交流電動機に取り付けられた回転角度センサの出力信号をフィードバックして前記電動機を可変速運転する交流電動機の制御方法において、
前記電動機の運転指令によって与えられた指令回転方向と前記回転角度センサの出力信号から得られた検出回転方向とが一致するか否かを判断する第1判断ステップと、
前記第1判断ステップにより前記指令回転方向と前記検出回転方向とが一致すると判断される時に、前記指令回転方向と前記電動機の実回転方向とが一致するか否かを判断する第2判断ステップと、
前記第2判断ステップにより前記指令回転方向と前記実回転方向とが一致すると判断される時に、前記回転角度センサの出力信号から前記回転角度センサの軸倍数を検出する軸倍数検出ステップと、
前記軸倍数検出ステップにより検出した軸倍数と前記交流電動機の磁極数とがマッチングするか否かを判断する第3判断ステップと、
を有し、
前記第1判断ステップまたは前記第2判断ステップにより、それぞれ不一致と判断される時、及び前記第3判断ステップによりマッチングしないと判断される時に、異常処理を行うことを特徴とする交流電動機の制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載した交流電動機の制御方法において、
前記異常処理は、
前記第1判断ステップまたは前記第2判断ステップにより、それぞれ判断対象となる両方向が不一致と判断される時に、前記交流電動機に印加される電圧相順または前記回転角度センサの出力線の配線が異常と判断して前記電圧相順の変更または前記出力線の配線変更を行うステップと、前記第3判断ステップにより、前記軸倍数と前記交流電動機の磁極数とがマッチングしないと判断された時にアラーム出力を行うステップと、
を有することを特徴とする交流電動機の制御方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載した交流電動機の制御方法において、
前記回転角度センサの軸倍数を、前記回転角度センサの出力信号から生成したZ相パルスに基づいて検出することを特徴とする交流電動機の制御方法。
【請求項8】
請求項5〜7の何れか1項に記載した交流電動機の制御方法において、
前記第3判断ステップによりマッチングすると判断された時に、前記回転角度センサの出力信号に基づいて前記電動機を可変速運転することを特徴とする交流電動機の制御方法。
【請求項9】
請求項5〜8の何れか1項に記載した交流電動機の制御方法において、
前記電動機の実回転方向を、前記相順マッチング判断部への入力信号に基づいて検出することを特徴とする交流電動機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レゾルバ等の回転角度検出センサによりフィードバックされる情報を用いて交流電動機を可変速運転する制御装置に関する。詳しくは、回転角度センサにより検出される交流電動機の回転方向や実際の回転方向が運転指令による回転方向やユーザが希望する方向と一致するか否かを判断し、交流電動機に印加される電圧の相順や回転速度センサの出力線の配線の正常・異常を検出可能とした交流電動機の制御装置及び制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交流電動機の回転角度センサとしては、パルスエンコーダやレゾルバが広く用いられている。パルスエンコーダでは、一般にA相、B相、Z相のパルスを出力する。A相パルス及びB相パルスは相互に90度の位相差を有しており、各相パルスの立上り、立下りの順序が異なるため、これらの順序を監視すれば電動機の回転方向を検出することができ、A相パルスまたはB相パルスをカウントすれば回転子の回転角度や回転速度を求めることができる。
また、Z相パルスは電動機の一回転に一つだけ出力される。このZ相パルスを回転角度の基準(原点)として使用することにより回転子の一回転ごとに角度誤差を除去できるため、Z相パルスは通常、クリア信号(パルス)と呼ばれている。
更に、回転角度センサとしてレゾルバを用いる場合には、レゾルバの出力信号であるsin波,cos波をR/D(レゾルバ/ディジタル)変換器に入力してA相、B相、Z相の各パルスを生成し、これらのパルスを用いて前記同様に回転角度の検出や角度誤差の除去を行っている。
【0003】
回転角度センサを用いて交流電動機をベクトル制御する場合、電動機に三相交流電圧を印加する動力線のU,V,W相の配線(電圧相順)、または回転角度センサの出力線(出力線)の配線が誤っていると、例えば、回転角度センサにより検出した回転速度が実際の回転速度に対して負の数となり、結果的に制御不能となって電動機が暴走するおそれがある。
また、交流電動機の電圧相順と回転方向との関係はメーカによって異なり、動力線をU,V,Wの相順で接続したときに電動機が反時計回り(CCW)で回転することもあれば、時計回り(CW)で回転することもある。つまり、動力線のU,V,Wの相順に合わせて電動機を接続しても、そのときの電動機の回転方向は必ずしもユーザが所望する回転方向と一致するわけではない。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば、特許文献1に示す交流電動機の制御方法が提供されている。
図7は、特許文献1に記載された制御装置の構成図である。図7において、誘導電動機100に取り付けられた回転角度センサとしてのパルスエンコーダ201の出力信号は速度・電動機回転方向検出回路202に入力され、速度・電動機回転方向検出信号aが生成される。また、電動機100の電流及び電圧が電流センサ203及び電圧センサ204により検出され、速度・電動機回転方向推定演算回路205に入力されて速度・電動機回転方向推定信号bが生成される。
【0005】
これらの信号a,bと、通常運転時にスイッチ206を介して入力される正転・逆転の極性付き速度指令cとがPE(パルスエンコーダ)・電動機回転方向判断回路207に入力される。この判断回路207では、パルスエンコーダ201及び電動機100の回転方向が速度指令による回転方向に一致しているか否かが判断され、その判断結果が記憶装置208に記憶される。パルスエンコーダ201により検出した回転方向が異常である場合には、記憶装置208に記憶された情報に基づき、検出回転方向変更回路209を介して速度・電動機回転方向検出回路202がパルスエンコーダ201の出力信号を補正する。また、電動機100の回転方向が異常である場合には、記憶装置208に記憶された情報に基づいて出力電圧指令相順変更回路210に相順変更指令が送られ、PWM制御回路211及びインバータ212を介して電動機100に印加する三相交流電圧の相順が変更される。
【0006】
なお、極性付き速度指令cとスイッチ213を介して入力される電動機速度との偏差は速度制御器214に入力され、この偏差をゼロにするように動作するベクトル制御演算回路215によって生成された出力電圧指令が、スイッチ216を介して出力電圧指令相順変更回路210に入力される。
また、217はオープンループによるV/F一定制御を行う場合にオンされるスイッチであり、オープンループ制御時には、極性付き速度指令cがスイッチ217を介しV/F制御演算回路218に入力されて出力電圧指令が生成され、この出力電圧指令が、スイッチ216を介して出力電圧指令相順変更回路210に入力される。
更に、ブロック220は、パルスエンコーダ201及び電動機100の回転方向の判断をオフラインにて実行するためのものであり、予めパターン化された速度指令や正逆転信号を、スイッチ206を介して速度制御器214側に出力するように構成されている。
【0007】
図8は、この従来技術の動作を示すフローチャートである。
前述したように、電動機100に所望の回転方向の運転指令(速度指令)を与え、パルスエンコーダ201からのフィードバック信号に基づいて回転方向を検出する(ステップS1,S2)。そして、検出した回転方向と運転指令による回転方向とを比較することにより、両回転方向が一致するか否かを判断する(ステップS3)。これらの処理は、主に図7の速度・電動機回転方向検出回路202、PE・電動機回転方向判断回路207等によって実行される。
【0008】
次に、ステップS3の判断結果が「YES」である場合には、電動機100の電流及び電圧から電動機100の実際の回転方向を回転速度と共に検出し、検出した実回転方向が運転指令と同方向か否かを判断する(ステップS4,S5)。そして、ステップS5の判断結果が「YES」である場合には、電動機100の動力線及びパルスエンコーダ201の出力線の配線が正常であると判断して終了する(ステップS6)。これらの処理は、主に図7の速度・電動機回転方向推定演算回路205、PE・電動機回転方向判断回路207等によって実行される。
【0009】
なお、ステップS3の判断結果が「NO」である場合には、電動機100の実回転方向を検出してその実回転方向が運転指令による回転方向と同方向か否かを判断し(ステップS7,S8)、その結果に応じてパルスエンコーダ201の異常判断及び出力線の入れ替え(ステップS9,S10)、または、電動機100の異常判断及び相順変更を行い(ステップS12,S13)、これらの判断・処理結果を記憶装置208に記憶する(ステップS11,S14)。
更に、ステップS5の判断結果が「NO」である場合には、電動機100及びパルスエンコーダ201の異常判断、並びに、相順変更及びパルスエンコーダ201の出力線の入れ替えを行い(ステップS15,S16)、これらの判断・処理結果を記憶装置208に記憶する(ステップS17)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−88154号公報(段落[0013]〜[0016],[0018]〜[0021]、図1図6等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図7図8に示した従来技術では、パルスエンコーダ201により検出した回転方向が運転指令による回転方向と一致するか否かを判断し、更に、電動機100の電流及び電圧から検出した実際の回転方向が運転指令による回転方向と一致するか否かを判断することにより、電動機100の電圧相順及びパルスエンコーダ201の出力線の配線の正常、異常を検出している。また、この従来技術によれば、電動機100の実際の回転方向を検出する際に、巻線の断線や短絡等を検出することも可能となっている。
ところが、この従来技術では、電動機100の電流及び電圧から検出した回転方向が必ずしも実際の回転方向と一致しない場合がある。
【0012】
一方、回転角度センサとしてレゾルバを用いる場合には、電動機100の磁極数とレゾルバのロータの磁極数(以下、単にレゾルバの磁極数という)とをマッチングさせる必要がある。
前述したごとく、レゾルバの出力信号はR/D変換器によりA相、B相、Z相の各パルスに変換される。電動機100の磁極数とレゾルバの磁極数とが等しく、または、電動機100の磁極数がレゾルバの磁極数の整数倍である場合には、電動機100が電気角で360°×N(Nは整数)回転する都度、R/D変換器からクリア信号としてのZ相パルスが1個出力される。このため、Z相パルスを用いてレゾルバによる検出角度の基準(原点)を決定することにより角度誤差が累積するのを解消し、高精度な電動機制御を行うことができる。
【0013】
しかし、電動機の磁極数とレゾルバの磁極数とが一致しない、または両者が整数倍の関係にない場合には、電動機100の回転角度が電気角0°〜360°の間にR/D変換器からZ相パルスが不規則に出力されてしまい、結果として電動機100を高精度に制御することができなくなる。
この点、特許文献1に記載された従来技術では、回転角度センサとしてレゾルバを使用した場合に、電動機100の磁極数とレゾルバの磁極数とがマッチングしているか、すなわち両者の磁極数が整数倍の関係にあるか否かを判断することができない。このため、Z相パルスが所望のタイミングで発生せず、レゾルバによる検出角度の誤差が累積して電動機100の高精度な制御が不可能になるという問題があった。
【0014】
そこで、本発明の解決課題は、交流電動機の実際の回転方向を正確に検出してユーザが所望する回転方向と一致するか否かを判断することはもとより、回転角度センサの磁極数と交流電動機の磁極数とのマッチングについても判断可能とし、電圧相順や回転角度センサの配線、磁極数の異常等を検出して、所定の異常処理を実行可能とした交流電動機の制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の制御装置は、請求項1,3に記載するように、交流電動機に取り付けられたレゾルバ等の回転角度センサによる検出信号をフィードバックして電動機を可変速運転する交流電動機の制御装置を対象とするものである。
そして、この制御装置は、交流電動機の運転指令に基づく指令回転方向と回転角度センサの出力信号から得られた検出回転方向とが一致するか否かの判断を第1判断として実行し、この第1判断により指令回転方向と検出回転方向とが一致すると判断される時に、指令回転方向と電動機の実回転方向とが一致するか否かの判断を第2判断として実行する相順マッチング判断部を備える。
また、前記第2判断により指令回転方向と実回転方向とが一致すると判断される時に、回転角度センサの出力信号から回転角度センサの軸倍数を検出する軸倍数検出部を備え、更に、相順マッチング判断部の判断結果に応じて、交流電動機に印加される電圧相順または回転角度センサの出力線の配線の正常・異常を検出し、かつ、軸倍数検出部により検出した軸倍数と交流電動機の磁極数とがマッチングするか否かの判断を第3判断として実行する正常・異常検出部と、を備えている。
【0016】
また、請求項2に記載するように、前記正常・異常検出部は、交流電動機に印加される電圧相順または回転角度センサの出力線の配線の異常を検出した時に、電圧相順の変更操作または回転角度センサの出力線の配線変更操作を行わせると共に、第3判断により回転角度センサの軸倍数と交流電動機の磁極数とがマッチングしないと判断した時にアラーム出力を行うものである。
ここで、請求項4または9に記載するように、電動機の実回転方向は、相順マッチング判断部への入力信号に基づいて検出することが望ましい。
【0017】
更に、本発明の制御方法は、請求項5に記載するように、交流電動機に取り付けられたレゾルバ等の回転角度センサの出力信号をフィードバックして電動機を可変速運転する交流電動機の制御方法を対象としている。
この制御方法は、交流電動機の運転指令によって与えられた指令回転方向と回転角度センサの出力信号から得られた検出回転方向とが一致するか否かを判断する第1判断ステップと、第1判断ステップにより指令回転方向と検出回転方向とが一致すると判断される時に、指令回転方向と電動機の実回転方向とが一致するか否かを判断する第2判断ステップとを有する。また、第2判断ステップにより指令回転方向と実回転方向とが一致すると判断される時に、回転角度センサの出力信号から回転角度センサの軸倍数を検出する軸倍数検出ステップを有する。更に、軸倍数検出ステップにより検出した軸倍数と交流電動機の磁極数とがマッチングするか否かを判断する第3判断ステップを有する。
そして、第1判断ステップまたは第2判断ステップにより、それぞれ不一致と判断される時、及び第3判断ステップによりマッチングしないと判断される時に、異常処理を行うものである。
【0018】
なお、請求項6に記載するように、前記異常処理は、第1判断ステップまたは第2判断ステップにより、それぞれ判断対象となる両方向が不一致と判断される時に、交流電動機に印加される電圧相順または回転角度センサの出力線の配線が異常と判断して電圧相順の変更または出力線の配線変更を行うステップと、第3判断ステップにより、回転角度センサの軸倍数と交流電動機の磁極数とがマッチングしないと判断された時にアラーム出力を行うステップと、を有するものである。
【0019】
ここで、請求項7に記載するように、回転角度センサの軸倍数は、回転角度センサの出力信号から生成したZ相パルスの数をカウントして検出することが望ましい。
【0020】
なお、第3判断ステップに移行する際には、第1判断ステップ及び第2判断ステップにおいて何れも各回転方向が一致すると判断されており、更に第3判断ステップによって回転角度センサの軸倍数と交流電動機の磁極数とがマッチングすると判断された場合には、交流電動機の電圧相順、回転角度センサの出力線の配線、軸倍数等が何れも正常である。従って、請求項8に記載するように、回転角度センサの出力信号に基づいて交流電動機を可変速運転しても特に支障は生じない。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、回転角度センサによる交流電動機の検出回転方向と指令回転方向とを比較し、更に、実回転方向と指令回転方向とを比較すると共に、これらの比較結果により異常と判断された場合には、交流電動機の電圧相順や回転角度センサの出力線の配線を自動的に変更して交流電動機を正常に可変速運転することができる。
また、回転角度センサの軸倍数(磁極数)が交流電動機の磁極数とマッチングしていない異常時にはアラーム出力を発生させることにより、回転角度センサの点検、交換等を促すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態が適用される交流電動機の駆動システムを示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態の動作を示すフローチャートである。
図3】指令回転方向が正転である場合の接続状態及びカウンタ値の状態の説明図である。
図4】指令回転方向が逆転である場合の接続状態及びカウンタ値の状態の説明図である。
図5】レゾルバの軸倍数の検出原理を説明するための図である。
図6】レゾルバの軸倍数の検出処理を示すフローチャートである。
図7】特許文献1に記載された従来技術の構成図である。
図8】特許文献1に記載された従来技術の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。なお、以下では回転角度センサとしてレゾルバを用いた場合を説明するが、本発明は、例えば特許第4691459号の段落[0023]に記載されているように、4個の磁気抵抗素子からなるブリッジ回路を交流励磁し、ロータ磁石の回転による磁界強度の変化を上記ブリッジ回路により検出する回転角度センサを用いた場合にも適用可能である。
【0024】
図1は、この実施形態に係る制御装置が適用される交流電動機の駆動システムを示すブロック図である。
図1において、制御装置20は、速度制御演算部21、PWMインバータ22、R/D変換器23、相順マッチング判断部24、軸倍数検出部25、正常・異常検出部26及び記憶装置27を備えている。PWMインバータ22の三相出力端子U,V,Wに接続された交流電動機10の回転軸には回転角度検出センサとしてのレゾルバ11が直結され、レゾルバ11の出力線12はR/D変換器23の入力端子S1,S2,S3,S4に接続されている。なお、上記出力線12からは、位相が電気角で90°ずれたsin波形及びcos波形の角度検出信号が出力される。
【0025】
R/D変換器23は、レゾルバ11の出力信号に基づいてA相パルス,B相パルス,Z相パルスを生成する。これらの各相パルスは、速度制御演算部21、相順マッチング判断部24及び軸倍数検出部25に入力されている。速度制御演算部21には、運転指令(極性付き速度指令)及び前記各相パルスと、検出器28により検出した交流電動機10の端子電圧及び電流が入力され、PWMインバータ22に対する三相の電圧指令V,V,Vが出力される。電圧指令V,V,Vは相順マッチング判断部24にも入力されており、相順マッチング判断部24の出力信号は、軸倍数検出部25の出力信号と共に正常・異常検出部26に入力されている。なお、相順マッチング判断部24には、交流電動機10の実際の回転方向を示す信号も外部から入力されている。
更に、速度制御演算部21及び正常・異常検出部26には、記憶装置27が接続されている。
【0026】
ここで、相順マッチング判断部24は、電圧指令V,V,Vから検出した運転指令による回転方向(以下、指令回転方向ともいう)とレゾルバ11及びR/D変換器23により検出した回転方向(以下、検出回転方向ともいう)とが一致するか否かを検出するものである。
また、軸倍数検出部25は、R/D変換器23から出力される各相パルスに基づいて軸倍数を検出する。軸倍数とは、レゾルバ11のロータが1回転する間に出力されるsin波形及びcos波形が何周期分であるかを示すパラメータであり、例えば、ロータが1回転する間に出力されるsin波形及びcos波形が5周期分であれば、軸倍数は5であり、この軸倍数はレゾルバの11の磁極数に一致する。
【0027】
正常・異常検出部26は、相順マッチング判断部24の出力に基づいて交流電動機10に印加される電圧相順の正常・異常、レゾルバ11の出力線の配線の正常・異常を検出すると共に、交流電動機10の磁極数とレゾルバ11の軸倍数とのマッチング判断を行ってレゾルバ11の正常・異常を検出する。そして、これらの判断の結果、異常が検出された場合には、交流電動機10の電圧相順の変更やレゾルバ11の出力線の配線の変更を自動的に行い、必要に応じてアラーム出力を行うように構成されている。
【0028】
次に、この実施形態の動作を、図2のフローチャートを参照しつつ説明する。
まず、運転指令(極性付き速度指令)が速度制御演算部21に入力される(ステップS101)。この運転指令には、交流電動機10の回転方向(正転、逆転)を示す情報が含まれている。速度制御演算部21は、レゾルバ11による検出情報を用いずに、例えばセンサレス制御やV/f制御等により電圧指令V,V,Vを生成してPWMインバータ22を制御し、交流電動機10を駆動する。
【0029】
次いで、相順マッチング判断部24は、レゾルバ11の出力信号に基づいてR/D変換器23が出力するA相パルス及びB相パルスから、交流電動機10の回転方向を検出する(ステップS102)。そして、この検出回転方向が運転指令に基づく指令回転方向と一致するか否かを判断し(ステップS103)、一致する場合には、外部からの実回転方向の入力を待つ(ステップS103 YES,S104)。また、検出回転方向が指令回転方向と一致しない場合には、正常・異常検出部26が異常を検出し、交流電動機10の印加電圧の相順変更(動力線の配線変更)、または、レゾルバ11の出力線の配線変更を自動的に実行し(ステップS103 NO,S109)、更にステップS101以降の処理を再度実行する。なお、正常・異常検出部26による検出結果や変更前後の電圧相順、レゾルバ11の出力線の配線状態等は、記憶装置27に適宜、記憶される。
ここで、正常・異常検出部26の出力を用いて電圧相順の変更やレゾルバ11の出力線の配線を変更する操作は、周知の配線変更操作によって容易に実現可能である。
【0030】
なお、レゾルバ11による検出回転方向が指令回転方向と同じである場合(ステップS103 YES)でも、前述したように、交流電動機10のメーカの仕様により、実回転方向がユーザの所望する回転方向、すなわち指令回転方向と異なる場合がある。この場合、制御装置20自身では、実回転方向が指令回転方向と一致しているか否かを判断することができない。
そこで、この実施形態では、カメラにより撮影した画像や目視にて検出した実回転方向を示す信号を外部から相順マッチング判断部24に入力し、この実回転方向を指令回転方向と比較することにより、特許文献1等の従来技術に比べて一層正確に回転方向の一致不一致を判定可能としたものである。
【0031】
すなわち、相順マッチング判断部24は、カメラによる撮影画像や目視に基づいて外部から入力された実回転方向と、指令回転方向とが一致するか否かを判断し(ステップS104,S105)、両方向が一致する場合には、正常・異常検出部26が交流電動機10の電圧相順及びレゾルバ11の配線が正常であると判断すると共に、軸倍数検出部25によりレゾルバ11の軸倍数(磁極数)を検出する(ステップS105 YES,S106)。また、実回転方向が指令回転方向と異なる場合には、正常・異常検出部26により異常と判断して、交流電動機10の相順変更及びレゾルバ11の出力線の配線変更を自動的に実行し(ステップS105 NO,S110)、更にステップS101以降の処理を再度、実行する。
【0032】
次に、正常・異常検出部26は、レゾルバ11の軸倍数が交流電動機10の磁極数とマッチングしているか否かを判断し(ステップS107)、マッチングしている場合にはレゾルバ11が正常であると判断して、その旨及び軸倍数を記憶装置27に記憶して終了する(ステップS107 YES,S108)。なお、記憶装置27に記憶された電圧相順及びレゾルバ11の軸倍数は、次に交流電動機10を運転する際の情報として使用される。
また、レゾルバ11の軸倍数が交流電動機10の磁極数とマッチングしていない場合、正常・異常検出部26はレゾルバ11が異常であると判断してアラーム出力を行い、終了する(ステップS107 NO,S111)
【0033】
上記の各処理を、図3に基づいて具体的に説明する。ここでは、ユーザが所望する回転方向(指令回転方向)が正転であり、制御装置20の相順マッチング判断部24は、A相パルス及びB相パルスに基づいて交流電動機10が正転していると判断される場合に内部のカウンタをカウントアップするものとして説明する。
【0034】
図3(a)は、交流電動機10の動力線の配線及びレゾルバ11の出力線の配線が正常であり、指令回転方向とレゾルバ11による検出回転方向とが一致する場合である。この場合には図2のステップS103の判断結果が「YES」となり、交流電動機10を支障なく可変速運転することができる。
【0035】
しかし、カウンタ値の状態により交流電動機10が正転していると判断される場合でも、図3(d)に示すように、交流電動機10及びレゾルバ11の配線が何れも誤っていて交流電動機10の実際の回転方向が指令回転方向と一致しておらず、逆転している場合があるため、ステップS104により外部からの実回転方向の入力を待つ。
なお、図3(a)では、交流電動機10及びレゾルバ11の配線が正常であるため、実回転方向と指令回転方向とが一致していて前記ステップS105の判断結果が「YES」となり、その後にステップS106による軸倍数の検出、ステップS107によるマッチング判断が順次、実行される。
【0036】
図3(b)は、交流電動機10の動力線が誤配線していて電圧相順が誤っているが、レゾルバ11の出力線は正しく配線されている場合である。この場合には、カウンタ値がカウントダウンするので交流電動機10が逆転していることが検出され、この検出回転方向は指令回転方向である正転とは異なっている。よって、ステップS103の判断結果は「NO」となり、ステップS109の処理に移行する。ステップS109において、交流電動機10の電圧相順またはレゾルバ11の出力線の配線を変更することにより、図3(a)または図3(d)の何れかの状態になる。
【0037】
図3(c)は、交流電動機10の動力線の配線すなわち電圧相順は正常であるが、レゾルバ11の出力線が誤配線されている状態である。この場合、最初は交流電動機10が正転するが、レゾルバ11による検出回転方向が逆転であってカウンタ値がカウントダウンし、指令回転方向とは異なるのでステップS103の判断結果は「NO」となり、ステップS109の処理に移行する。すなわち、図3(b)の場合と同じ処理が実行される。
【0038】
図3(d)は、交流電動機10の動力線の配線及びレゾルバ11の出力線が何れも誤配線されている状態である。この場合、レゾルバ11による検出回転方向は指令回転方向と一致しているので、ステップS103の判断結果は「YES」となり、交流電動機10の可変速運転には問題ないが、前述したように交流電動機10の実回転方向が指令回転方向とは異なる可能性がある。従って、ステップS105により外部から入力された実回転方向を指令回転方向と比較し、その結果に応じてステップS106以下、またはステップS110の処理を実行する。
【0039】
図4は、指令回転方向が逆転である場合の接続状態及びカウンタ値の状態を示している。この場合、制御装置20の相順マッチング判断部24は、カウンタ値がカウントダウンすることから回転方向が逆転であることを検出する。
図4(a)〜(d)の各ケースにおいて、図3(a)〜(d)と異なるのはカウンタ値の変化(カウントアップ/カウントダウン)がそれぞれ逆になっている点であり、レゾルバ11による検出回転方向と指令回転方向との一致不一致、及び、実回転方向と指令回転方向との一致不一致に応じた処理内容は、図2と同様である。
【0040】
次に、図5は、交流電動機10の回転速度が一定である場合のレゾルバ11の軸倍数の検出原理を説明するための図である。ここでは、交流電動機10の極対数が3(磁極数が6)である場合につき説明する。極対数が3の交流電動機10では、電動機が一回転(機械角で360°)する周期が電気角では3周期分に相当する。従って、図5に示すように、レゾルバ11の軸倍数が1,3,6である場合、Z相パルス(クリア信号)の周期と交流電動機10の電気角の周期とは整数比となる。
【0041】
軸倍数が1の場合のZ相パルスは、電動機の電気角3周期分で1個発生し、軸倍数が3の場合のZ相パルスは、電動機の電気角1周期分で各1個発生し、軸倍数が6の場合のZ相パルスは、電動機の電気角1周期分及び半周期分で各1個発生する。よって、例えば軸倍数が3または6の場合に電動機の電気角1周期分で各1個発生するZ相パルスを用いて基準(原点)を決定すれば、レゾルバ11による検出角度の誤差を解消して角度検出精度を高めることができる。
しかし、図5における軸倍数が2の場合には、電動機の電気角3周期分がZ相パルスの2周期分に相当しており、電気角の周期とZ相パルスの周期とが整数比の関係になく、Z相パルスが電動機の電気角の1周期内の時点で発生する。このため、レゾルバ11による検出角度の誤差を運転中に簡単に修正できなくなり、交流電動機10を制御できなくなる可能性がある。
従って、交流電動機10の磁極数とレゾルバ11の軸倍数とは、図5における軸倍数1,3,6の場合のように、所定の整数比の関係にあることが望ましい。
【0042】
なお、図6は、レゾルバ11の軸倍数の検出処理を示すフローチャートである。
交流電動機10を一定速度で回転させ(ステップS201)、機械角1回転につき発生するZ相パルス数を記録する(ステップS202)。このZ相パルスの数は、図5に示したようにレゾルバ11の軸倍数に相当するので、Z相パルスの数から軸倍数を直ちに検出することができる(ステップS203)。
こうして検出したレゾルバ11の軸倍数を用いて、図2のステップS107により交流電動機10の磁極数とのマッチング判断が行われ、その結果に応じて前述したステップS108またはステップS111の処理を実行して終了する。
【0043】
以上のように本発明によれば、レゾルバ11による検出回転方向と指令回転方向とを比較し、更に、実回転方向と指令回転方向とを比較すると共に、これらの比較結果により異常と判断された場合には、交流電動機10の電圧相順の変更やレゾルバ11の出力線の配線の変更を自動的に行って交流電動機10を正常に可変速運転することができる。
また、レゾルバ11の軸倍数が交流電動機10の磁極数とマッチングしていない異常時にはアラーム出力を発生させることにより、レゾルバ11の点検、交換等を促すことが可能である。
【符号の説明】
【0044】
10:交流電動機
11:レゾルバ
12:出力線
20:制御装置
21:速度制御演算部
22:PWMインバータ
23:R/D変換器
24:相順マッチング判断部
25:軸倍数検出部
26:正常・異常検出部
27:記憶装置
28:検出器
図1
図2
図3
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図5
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図8