特許第6124227号(P6124227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6124227
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】ナノカーボンを含有する天然ゴム
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/02 20060101AFI20170424BHJP
   C01B 32/152 20170101ALI20170424BHJP
   C01B 32/158 20170101ALI20170424BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170424BHJP
   C08C 1/14 20060101ALI20170424BHJP
   C08J 3/215 20060101ALI20170424BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20170424BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20170424BHJP
【FI】
   C08L7/02
   C01B31/02 101F
   C08K3/04ZNM
   C08C1/14
   C08J3/215CEQ
   B82Y30/00
   B82Y40/00
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-525392(P2015-525392)
(86)(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公表番号】特表2015-532660(P2015-532660A)
(43)【公表日】2015年11月12日
(86)【国際出願番号】MY2012000221
(87)【国際公開番号】WO2014021704
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2015年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】515028931
【氏名又は名称】アムリル・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】AMRIL AG
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(72)【発明者】
【氏名】スリナ・イズメイル
(72)【発明者】
【氏名】アゼミ・ビン・サムスリ
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−101958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/02
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C01B 32/152
C01B 32/158
C08C 1/14
C08J 3/215
C08K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5pphr(ゴム100重量部当たり重量部)以下のナノカーボンを含む天然ゴム組成物であって、ここに組成物は、水性媒体中のナノカーボンの均一なナノカーボン分散液および天然ゴムラテックスの混合物が凝固および乾燥されてなる乾燥物であり、
ここにナノカーボンはゴム組成物に配合する前に酸処理に付されておらず且つ前記乾燥物はフォームラバーでない、天然ゴム組成物。
【請求項2】
ナノカーボンが<50μmの長さおよび<20nmの外径を有するカーボンナノチューブを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ナノカーボンが>85%のC−純度および検出不可能な遊離のアモルファスカーボンを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
組成物が2pphr(ゴム100重量部当たり重量部)以上のナノカーボンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
ナノカーボンを含む天然ゴム組成物の製造法であって、以下の工程:
水性媒体中のナノカーボンの均一な分散液を提供し
のナノカーボンの分散液を天然ゴムラテックスと混合して混合物を得、ついで
その混合物を凝集および乾燥して乾燥物を得ることを含み、
ここに、ナノカーボンはゴム組成物に配合する前に酸処理に付されておらず、天然ゴム組成物は5pphr(ゴム100重量部当たり重量部)以下のナノカーボンを含み、且つ前記乾燥物はフォームラバーでない、該製造法。
【請求項6】
ナノカーボンが<50μmの長さおよび<20nmの外径を有するカーボンナノチューブを含む、請求項記載の製造法。
【請求項7】
ナノカーボンが>85%のC−純度および検出不可能な遊離のアモルファスカーボンを有する、請求項記載の製造法。
【請求項8】
組成物が2pphr(ゴム100重量部当たり重量部)以上のナノカーボンを含む、請求項記載の製造法。
【請求項9】
ナノカーボンの分散液が界面活性剤を含む、請求項記載の製造法。
【請求項10】
ナノカーボン分散液中のナノカーボンの濃度が2〜10重量%である、請求項記載の製造法。
【請求項11】
ナノカーボンの分散液を提供する工程が、界面活性剤を含有する水性媒体中のナノカーボンのスラリーを形成し、ついでそのスラリーを粉砕に付する工程を含む、請求項記載の製造法。
【請求項12】
粉砕がボールミリングである、請求項11に記載の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化天然ゴムの調製におけるナノカーボン(カーボンナノチューブおよび/またはカーボンナノファイバー)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、1〜50 nmの範囲の典型的な直径および広範囲の全長を有する縦長柱状に配置された共有結合炭素原子からなるユニークな原子構造を有する炭素の同素体である(Rubber Nanocomposites:Preparation, Properties and Applications;Sabu ThomasおよびRanimol Stephen編, John Wiley & Sons, 2010)。物理的および化学的特性に関する急速に増加する知見に基づいて、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバー(CNTまたはCNF)のようなナノサイズの炭素構造が電界効果トランジスタ、一次元量子細線、電界エミッターおよび水素吸蔵を包含する広範な産業上の適用を有することが見出されている。個々のカーボンナノチューブは、高いアスペクト比(300〜1000)、高い可撓性および機械的、電気的および熱的特性のユニークな組合せによって特徴付けられる。これらの特性は非常に低い質量密度と組み合わさって、高性能ポリマーコンポジット用の理想的な強化ファイバーとしてカーボンナノチューブを潜在的に有用なものとしている。
【0003】
しかしながら、ポリマーマトリクスを強化するものとしてのカーボンナノチューブの有効な使用の主な課題の一つは、充填剤の形状およびアスペクト比から独立してコンポジットにおける良好な分散を達成することである。ポリマーマトリクス内にCNTの均一な分散液が得られなければ、機械的強度および他の関連のある物理的特性における向上は達成されない。他の一般的な充填剤に用いるように混合工程を介してCNTを乾燥天然ゴムに直接的に配合することは、例えばカーボンブラックの配合のように簡単ではない。ゴムは非常に粘性の材料である。CNTのような非常に軽量の材料を天然ゴムおよび他のエラストマーのような非常に粘性の媒体に分散することは、非常に困難な作業である。2−ロールミル、ニーダーおよび密閉式混合機のような慣用的な混合機あるいは二軸押出機でさえ、ゴムマトリクス中のCNTの有効な分散を提供することはできない。
【0004】
ポリマー用のナノ粒子充填剤に関する大部分の報告および刊行物は熱可塑性物質に関するものであり、乾燥ゴムに関するものはほとんどない。その主な理由は、ナノ粒子充填剤を熱可塑性物質に混合するよりもゴムに混合する方が困難であることである。ゴムの分子量は実質的に熱可塑性物質の分子量よりも大きいため後者よりも前者の方が遙かに粘性の物質であるからである。混合の最も重要な態様は、ゴムマトリクス中の充填剤の最終的な分散である。
【0005】
カーボンナノチューブは通常は大部分が凝集物からなるものとして供給されるが、強化は個々の粒子から生じる。インターカーレーションおよびエクスフォリエーションは、各々、ポリマーマトリクスとのCNTの分散および相互作用を示す。インターカーレーションおよびエクスフォリエーションが混合の間に達成されない場合は、最終的な成果は非常に低い機械的強度となる。したがって、慣用的な方法を用いたCNTとゴムとの混合では、望ましい物理的特性および機械的強度が生じない。この課題の根本原因は、高粘度の乾燥ゴムに起因してゴムマトリクス中のナノカーボンの分散が不十分なことに関連している。
【0006】
中国特許出願公開CN 1663991 Aは、CNTによって修飾した粉体天然ゴムおよびその調製法を記載している。その粉体天然ゴムは、天然ゴムラテックスの乾燥ゴムに対するCNTの質量比が1%〜50%の範囲にあることを特徴とする。修飾ゴムの調製法には、CNTを酸処理に付してそれを親水性にすることが要求される。その方法には、さらに、処理したCNTを分散剤および脱イオン水と混合してCNT/水スラリーを形成し;そのスラリーのpH値を9〜12に修飾し;そのスラリーを天然ゴムラテックスと混合してCNTを添加した天然ゴム液体ラテックスを形成し;ついで、そのラテックスをスプレードライしてCNTで修飾した粉体天然ゴムを得る工程が含まれる。
【0007】
同様に、中国特許出願公開CN 1673261 Aは、CNTおよび天然ゴムラテックスの乾燥ゴムの総固形分含量が5%〜30%の範囲にあることを特徴とする、カーボンナノチューブを添加した天然ゴム液体スラリーならびにかかる天然ゴム液体スラリーの調製法を記載しており、該調製法には、(i)CNTが親水性になるようにその表面を処理し;(ii)CNTと分散剤および脱イオン水とを混合してCNT/水懸濁液を得、ここに該CNTに対する分散剤の質量比は5%〜20%の範囲であり;(iii)懸濁液のpHを9〜12に調整し;ついで、(iv)pH調整したCNT/水懸濁液を天然ラテックスと均一に混合して、CNTを添加した天然ゴム液体スラリーを得る、工程が含まれる。
【0008】
しかしながら、ナノカーボン強化天然ゴムの調製を単純化することおよびその機械的特性を改善することの要望は存在し続けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、結果としてゴムマトリクス中のナノカーボンの凝集および非常に不十分な分散につながり、それが不十分な機械的特性、特に不十分な機械的強度を生じるという、乾燥天然ゴムの非常に高い粘度の課題を克服する単純な方法を提供することにある。本発明のさらなる目的は、改善された硬度、改善されたモジュラスおよび/または改善された引っ張り強度のような改善された物理的および機械的特性を有するかまたは生じる、ナノカーボンで強化された天然ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的を達成するために、本発明は、ゴム100部当たり5部(pphr)以下のナノカーボンを含む天然ゴム組成物を提供し、ここにナノカーボンはゴム組成物に配合する前に酸処理に付されていない天然ゴム組成物を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、ナノカーボンを含む天然ゴム組成物の製造法も提供し、ここに該方法には以下の工程:(i)水性媒体中のナノカーボンの分散液を提供し、ついで(ii)ナノカーボンの分散液を天然ゴムラテックスと合する、が含まれ;ここに該ナノカーボンはゴム組成物に配合する前に酸処理に付されず、天然ゴム組成物が5 pphr以下のナノカーボンを含む製造法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、5 pphrのCNTと混合した加硫天然ゴムの破壊表面の10,000−倍に拡大した走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図2図2は、本発明に従って得た2 pphrのCNTを充填した加硫天然ゴムの破壊表面の10,000−倍に拡大したSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明に使用する天然ゴムは、いずれの天然ゴムとすることもできる。天然ゴムは、ラテックスの形態、すなわち、水性媒体中のゴム微粒子の安定な分散液(エマルション)の形態で用いる。ラテックスはラテックス濃縮物、例えばいわゆる高アンモニア(HA)天然ゴム(NR)ラテックスとして提供することができる。かかる濃縮物は、ラテックスをナノカーボン分散液と合する前に、蒸留水で希釈することができる(ラテックスの粘度を低下させて、ナノカーボン分散液との混合を容易にするため)。
【0014】
好ましい天然ゴムは、Standard Malaysian Rubber (SMR)、例えばSMR 10である。
【0015】
本発明においてラテックスとして使用することができる他の型の天然ゴムは、エポキシ化天然ゴム(ENR)、例えばENR 25およびENR 50のような化学的に修飾した天然ゴムである。
【0016】
本明細書で用いる「ナノカーボン」なる語は、ナノサイズの粒子形態の炭素、特にカーボンナノチューブ(CNT)、グラファイトナノファイバー(GNF)および/またはカーボンナノファイバー(CNF)を示す。カーボンナノチューブが好ましい。カーボンナノチューブは一重化、二重化または複数の重化のいずれかとすることができる。好ましいカーボンナノチューブは、<50 μmの長さおよび/または<20 nmの外径を有する。好ましいカーボンナノチューブは>85%のC−純度および検出不可能な遊離のアモルファスカーボンを有する。かかるカーボンナノチューブは、典型的には、0.05〜1.5 mmの平均寸法を有する凝集した束の形態で供給される。
【0017】
ナノカーボンは、本発明においては酸処理に付すことなく用いる。特に、ナノカーボンはそれをより親水性にするいずれの処理にも付さない。
【0018】
ナノカーボンは水性媒体に分散して、ナノカーボン分散液を形成する。ついで、ナノカーボン分散液を天然ゴムラテックスと合する。
【0019】
本発明において使用するナノカーボン分散液中のナノカーボンの濃度は、一般的に1〜50重量%である。好ましくは濃度は、2〜10重量%であり、より好ましくは3〜5重量%である(分散液の総重量に対するナノカーボンの重量として表して)。
【0020】
ナノカーボンの分散には、界面活性剤および所望により安定剤を含有する水性媒体中のナノカーボンのスラリーを形成する工程が含まれる。ついで、そのようにして形成したスラリーは、好ましくは粉砕、例えばボールミリングによる粉砕に付してナノカーボンのいずれの凝集粒子または凝集物も破壊する。この粉砕工程により、均一なナノカーボンの分散が生じる。この粉砕工程は、典型的には、6〜48時間、好ましくは12〜24時間行う。
【0021】
ナノカーボン分散液および/または天然ゴムラテックスのpHは、分散液とラテックスとを合する前に2のpHが同様または同一になるように調整する。好ましくは、ナノカーボン分散液のpHと天然ゴムラテックスのpHとの間の差は、分散液およびラテックスを合する前に、2 pH単位未満、より好ましくは1 pH単位未満、最も好ましくは0.5 pH単位未満である。典型的に、本発明に使用する天然ゴムラテックスのpHは10〜12(供給者から受領した時点で)であり、ナノカーボン分散液のpHを天然ゴムラテックスのpHに、必要であれば、KOHのような塩基をラテックスと混合する前に分散液に添加することによって調整する。
【0022】
ナノカーボン分散液および天然ゴムラテックスは、例えば前者を後者を含有する容器に満たすことによって、ナノカーボン分散液(および所望により界面活性剤)を天然ゴムラテックスに添加することによって合することができる。このようにして得た混合物は、一般的に、均一な混合物が得られるまで機械的攪拌に付する。
【0023】
ついで、天然ゴムラテックスおよびナノカーボンを含有する混合物は、公知の方法、例えば酢酸を添加することによって凝固させることができる。そのようにして形成した凝固ゴムは、水洗し、搾って過剰量の界面活性剤および水を除去することができる。凝固ゴムは小粒に切断し、水洗することができる。ついで、小粒は完全に乾燥するまで、例えば電気加熱オーブン中で、乾燥することができる。得られた乾燥物は、粒状化した形態で用いることができ、またはベール形態(ブロックゴム)に圧縮することができる。この乾燥生成物は、SMRグレードのような慣用的な乾燥ゴムのような広範な種々の天然ゴム適用の天然ゴムマスターバッチとして用いることができる。
【0024】
本発明の天然ゴム組成物には、5 pphr以下のナノカーボン、好ましくは、2 pphr未満のナノカーボン(「pphr」とはゴム100部(重量部)当たりの部(重量部)を表し;したがって、組成物にはゴム100 g当たり、5 g以下のナノカーボンが含まれる)が含まれる。5 pphrを超えるナノカーボンを含む組成物は、劣る機械的特性を生じることが判明した。
【0025】
好ましくは、組成物には2〜5 pphr、より好ましくは2.5〜4.5 pphr、未だより好ましくは3〜4 pphrのナノカーボンが含まれる。
【0026】
したがって、本発明の組成物および方法は、ナノカーボンと乾燥ゴムとを直接的に混合した場合のナノカーボンの不十分な分散の課題を克服し、ゴム組成物の改善された物理的特性および機械的強度を与える。
【0027】
特に、引っ張り強度を用いて、本発明のゴム組成物から生じた加硫ゴムの品質を評価することができる。それは、不十分な充填剤の分散、不完全な成型および不純物から生じる欠陥に敏感だからである。(これは、充填剤の凝集物が欠陥として作用し、機能不全が生じる高い応力濃度の部位を提供するためである)。不十分な充填剤の分散と低い引っ張り強度との間には強い相関関係が存在する。
【0028】
本発明は、天然ゴムマトリクス中にナノカーボンを効果的かつ均一に分散する単純な方法を提供する。ゴムラテックスは液体形態であるため、乾燥ゴムを使用することから生じる非常に粘性の媒体の課題は排除される(高粘度の乾燥ゴムはナノカーボンの分散に関する課題を生じ、その結果としてナノカーボンは低い機械的強度につながるゴムマトリクス中の大きな凝集粒子を形成する)。本発明は、ナノカーボンの酸処理を行う必要性を不要にし、改善された硬度、改善されたモジュラスおよび/または改善された引っ張り強度のような良好な物理的および機械的特性を生じる点において、先行技術(特にCN 1663991 AおよびCN 1673261 A)の教示を超える改善も提供する。
【実施例】
【0029】
本発明を以下の実施例によって説明するが、それらは本発明を限定することを意図するものではない。
【0030】
実施例において用いるナノカーボンは<50 μmの長さおよび<20 nmの外径を有するカーボンナノチューブからなり、それは>85%のC−純度および検出不可能な遊離のアモルファスカーボンを有する。本発明による実施例では、それは供給されたまま、すなわち前処理なしに用いることができる。その状態では、それは0.05〜1.5 mmの平均寸法を有するCNTの凝集した束として存在する。
【0031】
実施例に記載するすべてのパーセンテージは、別段指摘しない限り、重量%である。ゴムの技術分野で一般的なように、"pphr"とはゴム100部当たりの部を表す。
【0032】
実施例1
1.ナノカーボンスラリーおよびナノカーボン分散液の調製
1%ナノカーボン分散液は以下のようにして調製した:3 gのナノカーボンを15 gの界面活性剤および282 gの蒸留水を含むガラス製ビーカー(500 ml)に注入した。その混合物を機械式攪拌機で80 rpmにて約10分間攪拌してナノカーボンスラリーを得た。ナノカーボンのいずれの凝集粒子も粉砕するためにそのスラリーをボールミルに移した。ボールミルを24時間行ってナノカーボン分散液を得、ついでそれをプラスチック製容器に移した。
界面活性剤は、10%〜20%溶液の形態で用いた。
同様にして、3%ナノカーボン分散液を、9 gのナノカーボン、45 gの界面活性剤および246 gの蒸留水から調製した。
分散液のpHを、それに添加するラテックスのものに(KOHを添加することによって)調整した。
【0033】
2.ナノカーボン−含有天然ゴムマスターバッチの調製
前記したように調製したナノカーボン分散液は、高アンモニア天然ゴムラテックス濃縮物(HA NRラテックス)と混合した。ラテックス濃縮物は、ラテックスの粘度を低下させてナノカーボン分散液との混合を容易にするために、蒸留水で最初に希釈してその濃度を低下させた。その場合、ナノカーボン分散液との混合は、約5 pphrの界面活性剤(5%〜20%溶液として用いた)の存在下で行った。
【0034】
ナノカーボン分散液および界面活性剤は、天然ゴム(NR)ラテックスを含むビーカーに満たした。その混合物を機械的攪拌に付した。
【0035】
ついで、NRラテックスを酢酸で凝固させた。形成した凝固ゴムを水洗し、搾って過剰量の界面活性剤および水を除去した。凝固ゴムは小粒に切り、水洗した。ついで、小粒を完全に乾燥するまで電気加熱オーブン中で乾燥させて、ナノカーボン−含有天然ゴムマスターバッチを得た。
【0036】
分散液中のナノカーボンの量ならびに分散液およびラテックスの量は、ゴムに対するナノカーボンの所定の比(本明細書中では、pphrで表す)が得られるように選択する。より詳細には、本発明によるマスターバッチには、2 pphrのナノカーボンが含まれた。
比較するために、各々5 pphrおよび10 pphrのナノカーボンを含む混合物をSMR 10から調製した。ナノカーボンは、399 ml容量の研究室用密閉式混合機(Haake)中でSMR 10と直接的に混合した。その他、比較用の混合物中のすべての配合成分は、本発明によるマスターバッチと同一のものとした。
【0037】
3.物理的特性の検査
前記したように調製したマスターバッチは以下のようにして調製し、加硫した:
ゴムコンパウンドは、硫黄、促進剤、酸化亜鉛およびステアリン酸を含むマスターバッチを2−ロールミルまたは研究室用密閉式混合機のいずれかを用いることによって混合して調製した。配合ゴムの加硫特徴は、150℃で加硫計によって測定した。均一な厚さの加硫シートを圧縮成型によって調製し、150℃の加硫の最適な状態で加硫した。
【0038】
ついで、硬度(International Rubber Hardness Degree (IRHD)による)、100%および300%のモジュラス(厳密にいえば、100%および300%引っ張った状態の応力;Ml00およびM300)および引っ張り強度を、標準的な方法によって測定した。引っ張り強度はISO 37に従って引っ張り試験機を用いることによって測定した。結果を以下の表に示す:
【0039】
【表1】
【0040】
データは、加硫ゴムの物理的特性がゴムに配合するナノカーボンの量およびナノカーボンをゴム組成物に配合する方法によって影響されることを示している。2 pphrのナノカーボンを含む組成物は、5および10 pphrのナノカーボンを含む比較組成物よりもより高い硬度、より高いモジュラスおよびより大きな引っ張り強度を与えた。
【0041】
このことは、比較組成物におけるよりも、本発明による組成物においてはナノカーボンがより良好に分散していることを示している。
【0042】
実施例2
ゴムにおけるナノカーボンの分散の程度の検査は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって行った。SEM像は、以下のようにして得た加硫ゴム化合物の破損面を記録したものである:
(a)5 pphrのナノカーボンを慣用的な混合装置(比較のため;本発明によらない)を用いることによって、SMR 10(Standard Malaysian Rubber 10, 周知の技術的に規格化されたゴム)と直接的に混合
(b)3 pphrのナノカーボンを実施例1に記載したゴムに配合。
【0043】
表面形状のSEM像を各々図1および2に示す。図1は大きな凝集粒子として存在する価値がないナノカーボンの明瞭な証拠を示す。それに対して、図2は凝集の証拠を示していない、すなわちナノカーボンがゴムマトリクス中で均一に分散していることを示す。
【0044】
この実験の証拠は、慣用的な混合機を用いたナノカーボンと乾燥ゴムの直接的な混合では、ゴムマトリクス中の均一なナノカーボンの分散液の生成に十分でないことを示している。
【0045】
実施例3
ナノカーボンスラリーを形成する前にナノカーボンを酸処理に付した以外は、以下のようにして実施例1の手順を繰り返した:1 gのナノカーボンを10 mlの硫酸および硝酸を含有する酸溶液(硫酸:硝酸の体積比=3:1)に添加した。その混合物を30分間煮沸した。その後、ナノカーボンを濯ぎ、乾燥させて煮沸する酸で処理したナノカーボンを得た。
酸処理したナノカーボンを用いて、ラテックスマスターバッチを実施例1と同様に調製した;ナノカーボンの量は2 pphrとした。硬度、引っ張り強度および破断時の伸び量を測定した。その結果を、非処理ナノカーボンを用いて得た対応する結果と一緒に以下の表に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
明らかに、本発明に従って非処理ナノカーボンを用いて得た機械的特性は、先行技術に係る酸処理したナノカーボンを用いて得た結果よりも顕著に良好であった。
図1
図2