【文献】
飯塚 信夫,EViewsによる経済予測とシミュレーション入門,日本評論社,2006年10月30日,初版,pp.103-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記算出された将来月(t+1)以降の月次財務データを前記読み出された過去の月次財務データとともに所定の図表に生成して前記制御部に接続された出力装置に送信し、前記算出された売上の月次データと前記所定科目の経費の月次データに基づく複数のデータの組のそれぞれの相関係数を所定の図表に生成して前記制御部に接続された前記経費分析データ記憶部に格納することを特徴とする請求項1に記載の財務予測システム。
前記制御部は、前記算出された売上の月次データと前記所定科目の経費の月次データとに基づく複数のデータの組のそれぞれの相関係数から、前記選択された所定科目の経費が固定費か又は変動費かの区分を行うことを特徴とする請求項1に記載の財務予測システム。
前記制御部は、前記予測された将来月(t+1)以降の月次財務データ含む前記過去及び将来の月次財務データの中から売上の月次時系列データを選択し、前記選択された過去及び将来の売上の月次財務データの要因分解分析を行い所定の図表に生成して前記制御部に接続された出力装置に送信することを特徴とする請求項1に記載の財務予測システム。
前記制御部が、前記算出された将来月(t+1)以降の月次財務データを前記読み出された過去の月次財務データとともに所定の図表に生成して前記制御部に接続された出力装置に送信するステップと、
前記算出された売上の月次データと前記所定科目の経費の月次データに基づく複数のデータの組のそれぞれの相関係数を所定の図表に生成して前記制御部に接続された前記経費分析データ記憶部に格納するステップと、を含むことを特徴とする請求項5に記載の財務予測方法。
前記制御部が、前記算出された売上の月次データと前記所定科目の経費の月次データとに基づく複数のデータの組のそれぞれの相関係数から、前記選択された所定科目の経費が固定費か又は変動費かの区分を行うステップをさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の財務予測方法。
前記制御部が、前記予測された将来月(t+1)以降の月次財務データ含む前記過去及び将来の月次財務データの中から売上の月次時系列データを選択し、前記選択された過去及び将来の売上の月次財務データの要因分解分析を行い所定の図表に生成して前記制御部に接続された出力装置に送信するステップを含むことを特徴とする請求項5に記載の財務予測方法。
直前月(t)以前の複数月に亘る過去の月次財務データを格納する財務データ記憶部と、前記複数月に亘る過去の月次財務データを時系列分析するために利用する複数の時系列分析モデルを格納する分析モデル記憶部と、前記複数の時系列分析モデルのいずれか1つを利用して予測された将来月(t+1)以降の月次財務データを格納する予測データ記憶部と、前記複数月に亘る過去の月次財務データの中の所定科目の経費及び売上の月次時系列データに基づいて算出された、前記売上の月次時系列データに対する前記所定科目の経費の月次時系列データの相関係数を含む評価データを保存する経費分析データ記憶部と、前記将来の財務データを予測する所定の処理及びシステム全般の制御を行う制御部と、を備えたコンピュータに過去の財務データに基づいて将来の財務データの予測及び売上に対する所定科目の経費の相関評価のための演算処理を実行させる財務予測プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記財務データ記憶部から前記複数月に亘る過去の月次財務データを読み出すステップと、
前記読み出された複数月に亘る過去の月次財務データの時系列的変化に最も適合する時系列分析モデルを前記分析モデル記憶部に格納された前記複数の時系列分析モデルの中から所定の評価規準を利用して選択するステップと、
前記選択された時系列分析モデルを利用して前記読み出された過去複数月の月次財務データから、将来月(t+1)以降の月次財務データを予測するステップと、
前記読み出した複数月に亘る過去の月次財務データの中から所定科目の経費の月次データと売上の月次データとを選択して、前記選択された過去複数月に亘る売上の月次データを時系列に配置したデータ行に対して、前記選択された過去複数月に亘る所定科目の経費の月次データを月単位で順次シフトさせて時系列に配置した複数のデータ行を生成し、前記売上のデータ行と前記所定科目の経費の複数のデータ行のそれぞれとの2つのデータ系列からなるデータの組(tuple)をそれぞれ設定し、前記設定されたデータの組のそれぞれについて前記2つのデータ系列の間の相関係数を算出するステップと、を実行させることを特徴とする財務予測プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態による財務予測システムの全体構成を示す図である。
【0015】
図1に示す本発明の一実施形態による財務予測システム10は、汎用のコンピュータシステムであって、中央処理装置(CPU)、並びにROM及びRAM(図示せず)等を有して、データの転送、データ演算、及び一時データを格納して所定のプログラムを実行する制御部12と、各種のプログラム及びデータを格納するHDD(Hard Disk Drive)等からなる記憶部14と、ユーザからの指令や各種データの入力を受け付ける入力装置16と、液晶ディスプレイ等の表示装置17と、紙媒体への書き込みを行うプリンタまたはコンピュータ読み取り可能な記録媒体への書き込みを行うデータ書き込み装置等の出力装置18と、を備える。さらに、外部のクライアント端末20等とのネットワーク接続を行う通信部15を備える。入力装置16、表示装置17、及び出力装置18は、コンピュータに接続された外部装置13として構成されるか又はコンピュータ内に一体に含まれる形態で構成される。
【0016】
財務予測システム10は、制御部12がROM、RAM、又はHDDに格納されたOS(Operating System)、財務予測プログラム、及び財務データを読み込み、実行することで、財務予測処理を行う。本実施形態における財務予測プログラムは、例えば、統計分析ソフトとして「R」を利用し、CSVデータ形式の財務データを、表計算ソフトのExcel(登録商標)をインターフェイスに利用して読み込む構成とすることで、ユーザが簡単な操作で本システムを動作させることができるので好適である。但し、本発明において適用可能な財務予測プログラムは、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明の一実施形態による財務予測システム10は、単独のコンピュータで構成される形態に限定されるものではなく、ネットワーク接続された複数台のコンピュータによって構成され得る。或いは、財務予測システム10は、外部のクライアント端末20からの要求に応答して、財務予測処理を実行し、処理結果をクライアント端末に送信する形態で構成され得る。
【0018】
記憶部14には、各種データが格納され、データ項目に応じた記憶領域として、財務データ記憶部14a、分析モデル記憶部14b、予測データ記憶部14c、及び経費分析データ記憶部14dを備える。記憶部14は、HDD又はSSD(Solid State Drive)等の不揮発性の記憶装置であることがのぞましい。また、記憶部14は、1台の記憶装置である必要はなく、ネットワークで接続されて複数台に分散された記憶装置であってもよい。すなわち、記憶部14は、財務予測システム10に内蔵されるか又はネットワークで接続された外部のデータサーバで構成される。
【0019】
財務データ記憶部14aは、複数の会計期又は複数月に亘る過去の月次財務データを格納する記憶手段である。財務データ記憶部14aに格納される月次財務データは、財務予測システム10による財務予測及び経費分析の対象となる企業における事業の売上や各財務科目の経費等を含む月次ベースの実績データである。すなわち、直前月(t)以前の複数月に亘る過去の月次財務データである。
【0020】
月次財務データは、例えば、財務予測システム10を構成するコンピュータ内または外部のクライアントコンピュータ(以下、クライアント端末と呼ぶ)内にインストールされた一般的な会計ソフトを利用して作成される。月次財務データに含まれる売上や経費等の財務項目(又は費目)は、任意に選択可能である。また、作成された月次財務データは、CSVデータ形式で財務データ記憶部14aに格納される。なお、月次財務データがクライアント端末で作成される場合、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に保存された形態で財務予測システム10に提供されるか又はクライアント端末からネットワーク接続を介して財務予測システム10に提供される。
【0021】
分析モデル記憶部14bは、過去の月次財務データを時系列分析するための複数の時系列分析モデルを格納する記憶手段である。具体的には、数学的手法に基づく時系列分析モデルとして、AR(自己回帰)モデル、MA(移動平均)モデル、ARMAモデル(自己回帰移動平均モデル)、ARIMAモデル(自己回帰和分移動平均モデル)、ARCHモデル(分散自己回帰モデル)、GARCHモデル等が格納される。
【0022】
予測データ記憶部14cは、財務データ記憶部14aに格納された過去の月次財務データに、分析モデル記憶部14bに格納された複数の時系列分析モデルのいずれか1つを利用して、制御部12によって予測された将来月(t+1)以降の月次財務データ、すなわち、月次ベースの財務予測データを格納する記憶手段である。月次ベースの財務予測データは、例えば、過去の複数月の月次売上の推移に連結した将来の複数月に亘る売上の予測値である。財務データに含まれる複数の科目(又は費目)の中から、いずれの科目を選択するかはユーザが任意に選択可能である。
【0023】
経費分析データ記憶部14dは、過去及び将来の月次財務データの中から売上の月次時系列データ及び所定科目の経費の月次時系列データを選択し、売上の月次時系列データに対して選択された所定科目の経費の月次時系列データを月単位で順次シフトさせてマトリックス状に配列した相関係数評価表の各セル(要素)に対応するデータを格納する記憶手段である。
【0024】
以下、本発明の一実施形態による財務予測方法について、
図2及び
図3を参照しながら説明する。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態による財務予測方法を示すフローチャートである。
図3は、本実施形態による財務予測方法に対応した財務予測システムの機能的構成を示すブロック図である。
【0026】
図3に示すように、本実施形態による財務予測システム10は、制御部12で実行される財務予測プログラム100で具現されるシステムである。財務予測プログラム100は、CSVデータ形式の財務データを受信し、財務予測及び統計分析の結果を出力する手段であるインターフェイスモジュール100a、財務予測及び統計分析を実行する手段である統計演算モジュール100b、及びインターフェイスモジュール100aと統計演算モジュール100bとを連携させるツールである連携モジュール100cを備える。インターフェイスモジュール100aには、例えば、表計算ソフトのExcel(登録商標)が利用され、統計演算モジュール100bには、例えば、統計分析ソフト「R」が利用され、連携モジュール100cには、例えば、RExcelが利用される。但し、本発明において適用可能なプログラムモジュールは、これらに限定されない。
【0027】
図2を参照すると、ユーザにより、財務予測システム10が起動されると、財務予測システム10は、過去の月次財務データを受信する(S100)。過去の月次財務データは、例えば、予測対象企業の過去1年以上の期間の月次財務データであり、一般的な会計ソフトを利用して作成され、CSV形式で出力される。
【0028】
月次財務データが、財務予測システム10を構成するコンピュータ内に実装された会計ソフトから出力される場合、ユーザは、当該会計ソフトに対して月次財務データの出力指令を入力し、月次財務データを受信する財務予測システム10のインターフェイスモジュール100aのマクロを実行する指令を財務予測システム10に入力する。これら2つのユーザ入力に応答して、財務予測システム10の制御部12は、会計ソフトから出力される月次財務データを財務予測システム10に取り込むステップS100を実行する。
【0029】
一方、月次財務データが、ネットワーク接続されたクライアント端末20から出力される場合、ユーザは、財務予測システム10の通信部15を介して、クライアント端末20に対して月次財務データの出力を要請する指令を送信し、月次財務データを受信する財務予測システム10のインターフェイスモジュール100aのマクロを実行する指令を財務予測システム10に入力する。これらの2つのユーザ入力により、財務予測システム10の制御部12は、クライアント端末20から出力された月次財務データを財務予測システム10に取り込むステップS100を実行する。
【0030】
この後、財務予測システム10は、受信した過去の月次財務データを財務データ記憶部14aに格納する。なお、月次財務データは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形態で提供されて入力装置16を介して受信することもできる。
【0031】
次に、財務予測システム10は、ステップS100で受信した過去の月次財務データに含まれる全ての財務項目に対して、記憶部14の分析モデル記憶部14bに格納された複数の時系列分析モデルの中から、各財務項目の月次データの時系列的変化に最も適合する時系列分析モデルを、所定の評価規準及び評価式を利用して選定する(S110)。財務予測システム10が、最適な時系列分析モデルを選定するための評価規準には、例えば、赤池情報量規準(AIC)が利用される。
【0032】
最適な時系列分析モデルの選定は、売上及び各財務項目、すなわち、所定科目の経費ごとに財務予測システム10が自動的に実行する。但し、最適な時系列分析モデルの選定方法は、これに限定されない。例えば、売上に対して最適な時系列分析モデルを、財務予測システム10が所定の評価規準を利用して自動的に選定し、売上に対して選定された時系列分析モデルを、他の財務項目にも適用する設定とすることも可能である。また、財務予測システム10は、予測する内容や期間を指定する別途のユーザ入力に基づいて、指定された予測対象の財務項目、具体的には、予測対象の経費科目及び予測期間を指定する情報パラメータに基づき、売上及び指定された所定の科目の経費について、それぞれ過去複数月の月次データに対して、その時系列的変化に最も適合する時系列分析モデルを、所定の評価規準及び評価式を利用して選定してもよい。
【0033】
その後、財務予測システム10は、売上及び全ての財務項目のそれぞれに対して、ステップS110で選定された時系列分析モデルを利用して将来月の月次データ値の予測処理を行う(S120)。すなわち、財務予測システム10は、売上及び全ての財務項目(各科目の経費)ごとの過去複数月の月次財務データから、当該項目に最適な時系列分析モデルを利用して、それぞれの将来月の予測データ値を算出する。例えば、財務予測システム10は、過去の月次財務データの中から月次売上データについて予測する場合、過去1年以上の期間の月次売上データの推移に最も適合する時系列分析モデルを、評価規準AICを利用して選定し、選定された時系列分析モデルを利用して将来期の売上の予測値を所望の月数分算出する。これにより、単純な回帰分析に基づく予測値よりも精度の高い予測値を算出することができる。
【0034】
本実施形態による財務予測方法では、財務予測システム10が、財務予測プログラム100を実行して、ステップS100からステップS120までの一連のステップを、自動的に進行させるため、ユーザによる操作は、上述した会計ソフトに対する月次財務データの出力指令及び月次財務データを受信する財務予測システム10のインターフェイスモジュール100aのマクロを実行する指令の2つに簡略化される。したがって、ユーザは、数学的知識を必要とせずに、高度な予測モデルに基づく予測結果を得ることができる。なお、本実施形態による財務予測システムは、受信した過去の月次財務データに含まれる全ての財務項目に対して、予測計算を行うことに代えて、実行する予測の内容を指定することも可能である。この場合、予測を行う財務項目(勘定科目又は仕訳科目)や予測期間などを設定するユーザ入力を受け付ける構成をさらに備える。
【0035】
以下、本実施形態による財務予測システム及び財務予測方法を適用して、月次財務データの予測処理を実施した例を詳細に説明する。具体的には、財務項目の中から、売上について、従来の予測処理と本発明の財務予測方法による予測処理とを比較して説明する。
【0036】
図4は、過去の月次売上データに基づいて算出した従来の分析モデルによる売上予測結果と本実施形態の財務予測方法による売上予測結果とを示す概略図であり、(a)は、従来の分析モデルによる予測結果、(b)は、本実施形態による予測結果を示す図である。
【0037】
図4の(a)に示す従来の分析モデルによる予測結果は、古典的回帰モデルを利用した予測処理により得られた結果の一例である。従来の分析モデルによる予測処理は、まず、過去の財務データの中から、例えば、過去1年間の月次売上データを読み出し、月を独立変数、月次の売上値を従属変数とする直線回帰式を算出する。
図4の(a)の過去の売上推移の折れ線に重ねて実線で示した斜線は、過去の月次データに対する近似線を示す。その後、当該直線を将来方向へ延長して、当月(図中、垂直の破線で表示)以降の予測値とする。
図4の(a)の破線で示した斜線は、将来月の予測値を示す。この例では、当月に対し、来月以降は、売上が伸びると予測されるが、その後の数か月の売上予測は、単純減としか予測されない。つまり、従来の分析モデルでは、予測結果の精度が低い。
【0038】
図4の(b)に示す本実施形態による予測結果は、上述した本発明の一実施形態による財務予測システム及び財務予測方法により得られた予測結果の一例である。本実施形態による予測処理は、まず、
図4の(a)に示す例と同様に過去の月次財務データの中から、過去1年間以上のユーザが指定する任意期間の月次売上データを読み出す。そして、読み出した期間の月次売上データの時系列的変化に最も適合する時系列分析モデルをAICにより選定する。その後、
図4の(b)に示すように選定された時系列分析モデル、この例ではARIMA予測モデルを利用して、来月以降の予測値を算出する。
【0039】
なお、本実施形態による財務予測システムは、時系列分析モデルを適用した予測値の算出時に、誤差項の標準偏差も算出して予測データ記憶部14cに格納する。これにより、例えば、
図4の(b)に示すように、売上値の予測処理において、平均値または中央値の予測だけでなく、分散を有した上限値及び下限値の予測が可能となる。したがって、時系列分析モデルにより算出された売上等の予測値とユーザから提供される予測期間に対する計画値とを比較して信頼区間による検定を実行し、その結果を出力する構成を備える。
【0040】
次に、本発明の一実施形態による財務予測システムの経費分析機能について説明する。
【0041】
本発明の一実施形態による財務予測システム10は、売上に対する各経費の影響、具体的に、これらのデータ間の相関性を評価する機能を備える。本財務予測システム10は、売上の月次時系列データに対して、評価対象となる所定科目の経費の月次時系列データを月単位で順次にシフトさせたデータ系列を設定し、売上と、月単位で順次にシフトさせた所定科目の経費のそれぞれとの2つのデータ系列間の相関性をそれぞれ評価する。
【0042】
言い換えると、月次売上データに対して、評価対象科目の月次経費データを月単位のラグ(lag)を付して配列した行列表を設定し、月次売上の行とラグが付された月次経費の行との時系列データの組について、相関係数を算出し、ラグが付された月次経費の各行ごとの相関係数を算出して、相関が認められるか又は相関係数が極大となるラグ行(月単位で月次時系列データをシフトさせた行)を見出す処理を実行する。これらの処理の詳細は後述する。
【0043】
その後、財務予測システム10は、算出された各ラグ行に対応する相関係数に基づき、月次売上に対して評価した所定科目の月次経費が相関ありと判定された場合、当該所定科目の経費を変動費に区分する。一方、算出された各ラグ行に対応する相関係数から、月次売上に対して当該所定科目の月次経費は相関なしと判定された場合、財務予測システム10は、当該所定科目の経費を固定費に区分する。すなわち、本実施形態による財務予測システム10は、一般の経理上又は簿記上の固定費・変動費区分とは別個の、独立した数学的根拠に基づき、評価対象科目の経費が固定費か又は変動費かを区分する。
【0044】
本発明の一実施形態による財務予測システム10によれば、クライアント企業の事業形態に即した、実績データに基づく、より精度の高い固定費・変動費の区分推定が実行されるため、より向上した経費分析機能が提供される。また、各ラグにおける相関係数の変化を評価することにより、支出した経費が何か月後の売上に反映されているかを認識できるため、削減すべき固定費の選択などの経営判断に有効な情報を提供できる効果を奏する。
【0045】
図5は、本発明の一実施形態による財務予測システムに含まれる経費分析機能の実行段階を示すフローチャートであり、
図6は、経費分析に使用する相関係数評価表の一例を示す図である。
【0046】
図6に示す相関係数評価表300は、行列表であり、第1のデータ行301に各月の売上値が行方向に沿った各セルに時系列に入力される。そして、第2のデータ行302には、評価対象科目の経費として、例えば、広告宣伝費の月次データが、売上月に対応する月のセルに入力される。すなわち、第2のデータ行302は「ラグ0」のデータ行である。次いで、第3のデータ行303には、広告宣伝費の月次データが該当月に対して1か月遅れた月のセルに入力される。つまり、第3のデータ行303は、「ラグ1」のデータ行である。以降の行についても、同様に順次1か月遅れた月のセルに評価対象科目の経費である広告宣伝費の月次データが入力される。
【0047】
図5に示すように、財務予測システム10は、入力装置16を介してユーザから売上に対する経費の影響を評価する指令を受信すると、財務予測プログラムを実行して、財務データ記憶部14aに格納された過去の月次財務データの中から、例えば、過去1年間以上のユーザが指定する任意期間の月次売上の時系列データを読み出す(ステップS200)。また、財務予測システム10は、ユーザ入力に基づき、評価対象科目の経費を選択し、選択された評価対象科目の経費の過去1年間以上のユーザが指定する任意期間の月次データを財務データ記憶部14aから読み出す(ステップS210)。
【0048】
次に、財務予測システム10は、月次売上データに対して、読み出した月次経費データを、
図6の相関係数評価表300に示すように、順次シフトさせて、すなわち、1か月のラグ(lag)を付けて、対応する各セルに入力する(ステップS220)。そして、所定の遅れ期間(ラグ数)に対応する相関係数評価表の各セルへの入力が完了した後、第1のデータ行301の月次売上に対する第2のデータ行以降の各データ行の広告宣伝費の月系列データについて、それぞれ相関係数を算出する(ステップS230)。
【0049】
続いて、財務予測システム10は、算出された各データ行に対する相関係数に基づいて、各経費が売上と相関しているか否かを判定する。また、相関があると判断された場合、売上に当該経費の影響が発現する月を特定する(ステップS240)。この判定ステップは、相関係数が算出された全ての経費に対して実行され、相関の有無に基づいて、それぞれの経費を実績ベースの固定費又は変動費として区分する(ステップS250)。固定費か又は変動費かを判断する詳しい方法は後述する。
【0050】
その後、財務予測システム10は、相関係数評価表の各セルに入力された数値データ、第2のデータ行以降の各データ行に対する相関係数の算出結果の数値データ、及び各経費の実績をベースにした固定費又は変動費区分のデータを、経費分析データ記憶部14dに保存する(ステップS260)。
【0051】
なお、本実施形態による財務予測システム10は、ユーザ入力に基づき、指定された複数の所定科目の経費について、上述したステップを繰り返し、それぞれの評価対象科目の経費と売上との相関係数を同様に順次的なラグを付して算出するが、本発明による財務予測システムの構成は、これに限定されない。例えば、本財務予測システム10は、月次財務データに含まれる全ての財務項目、すなわち、全科目の経費について、上述した相関性評価のステップを繰り返して、各科目の経費と売上との相関係数を算出し、算出した結果データを経費分析データ記憶部14dに保存する構成としてもよい。
【0052】
以上、本発明の一実施形態による財務予測システムは、
図6に示す影響評価対象の経費の相関係数評価表の算出結果から、当該経費が固定費か又は変動費かを判断する。
【0053】
図7は、
図6に示す相関係数評価表の算出結果のコレログラムを示す図である。
図6及び
図7を参照すると、月次売上に対する月次広告宣伝費の相関係数評価表の算出結果において、各ラグに対応する相関係数の値は、「ラグ0」では「−0.068」であり、相関が認められないが、「ラグ2」での相関係数の値は、「0.8441」となっており、強い相関が認められる。すなわち、売上に対する所定科目の経費を、従来のように当該経費の計上月に対応する月次の売上に基づいて評価すると、両者の間に相関が認められないため、この経費は固定費と認識されるが、ラグを加えた評価を行うことにより、当該経費が発生した月から遅れて(タイムラグを有して)売上に寄与していることが発見される。この場合、当該経費は、実際には変動費に区分されるべき科目であることが認識される。
【0054】
本発明の一実施形態による財務予測システムは、上述のように、ある科目の経費を削減すべき固定費の対象に加えるか否かを検討する際の経営判断において、ラグを勘案した相関評価を実行させることにより、検討対象の経費を簿記若しくは会計上の区分ではなく、実績データに基づく実体ベースで固変分解することが可能となり、より精度の高い根拠データを提供することができる。
【0055】
なお、説明の便宜上、
図6に示す相関係数評価表では、ラグ1からラグ6に沿って、各ラグ行のデータ数、すなわち、月次の数値データが表示されたセルの数が異なっているように見えるが、各ラグ行間で計算の精度を合わせるため、計算対象期間(月数)が同じになるよう設定し得ることは、当業者には容易に理解される。また、上述した将来月の予測値を用いることも可能である。
【0056】
図8は、本実施形態による財務予測システムによって算出された売上に対する複数科目の経費の相関係数の一例を示す図である。
図7に示すように、各科目の経費の相関係数を、ラグを含めて対比すると、売上との相関が希薄な科目を、より細かく順位付けすることができる。すなわち、「ラグ0」では、リース料及び広告宣伝費は、ともに相関係数が低いが、「ラグ3」では、広告宣伝費は売上と相関がある一方、リース料は一貫して相関が認められない。
【0057】
したがって、本発明の一実施形態による財務予測システムは、上述した経費分析による各科目の経費の相関係数の算出結果及びこの算出結果に基づく固定・変動区分により、経費削減項目の順序表を生成し得る。そして、当該順序表に基づく削減項目を反映させた将来財務データを計算して表示し得る。これにより、経営指標改善のための提案データを容易に生成することができる。
【0058】
本実施形態による財務予測システム10の制御部12は、以上で算出された将来月以降の月次財務データを過去の月次財務データとともに所定の図表、例えば、
図4の(b)に示すような図に生成して出力装置18に送信し、また算出された相関係数評価表の各セルの相関係数を所定の図表、例えば、
図6及び
図7に示すような図に生成して出力装置18に送信し、所定の媒体に書き込むように制御する。また、作成されたそれぞれの図表を表示装置17に表示するよう制御する。
【0059】
図9は、本実施形態による財務予測システムによって出力された財務予測推移の一例を示す図である。なお、本実施形態による財務予測システムは、要因分析機能を備え、過去の売上の月次推移の波形を、トレンド要因、季節要因、及びノイズの3要素の波形に分解して、それぞれの要因のデータ値を出力装置18に送信し、またそれぞれのデータを表示装置17に表示することも可能である。
【0060】
上述した財務予測方法は、アセンブラ、C、C++、C#、Java(登録商標)、R言語などのレガシープログラミング言語やオブジェクト指向プログラミング言語などで記述されたコンピュータによる実行可能なプログラムにより実現でき、ROM、EEPROM、EPROM、フラッシュメモリ、フレキシブルディスク、CD−ROM、CD−RW、DVD、SDカード、MOなど装置可読な記録媒体に格納して頒布することができる。
【0061】
以上、本発明の財務予測システムによれば、会計ソフトによって予め作成された月次財務データを受信して、月次財務データの変化に最も適合する時系列分析モデルを自動的に選択し、選択された時系列分析モデルを利用して将来の月次財務データを算出し、算出された将来月以降の月次財務データを含む過去及び将来の月次財務データ基づいて、売上と所定科目の経費との相関関係を評価できるため、専門知識や経験が少ない者であっても財務予測技術を簡単に利用できる。
また、本システムへの入力データは一般的なファイル形式で構成されるため、異なる種類のアプリケーションソフト間のデータ交換が容易であり、使用者の利便性が高いという利点を有する。
【0062】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更実施することが可能である。
【課題】過去の財務データに基づいて将来の財務データを予測し、売上に対する各経費の固変分解を行う財務予測システム、財務予測方法、及び財務予測プログラムを提供する。
【解決手段】本発明の財務予測システムは、過去の月次財務データを格納する財務データ記憶部と、時系列分析モデルを格納する分析モデル記憶部と、予測された将来の月次財務データを格納する予測データ記憶部と、算出された売上に対する所定科目の経費の相関係数を格納する経費分析データ記憶部と、将来の財務データを予測する所定の処理及びシステム全般の制御を行う制御部と、を備え、制御部は、月次財務データの時系列変化に最も適合する時系列分析モデルを所定の評価規準を利用して選択し、選択された時系列分析モデルを利用して将来月以降の月次財務データを予測し、過去の月次財務データから売上及び所定科目の経費の月次時系列データに基づき、売上に対する所定科目の経費相関係数を算出する。