特許第6124256号(P6124256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6124256
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】車両用エアバック装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/231 20110101AFI20170424BHJP
   B60R 21/205 20110101ALI20170424BHJP
【FI】
   B60R21/231
   B60R21/205
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-150063(P2013-150063)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-20585(P2015-20585A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(72)【発明者】
【氏名】小森 克也
【審査官】 鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−232178(JP,A)
【文献】 特開2005−162195(JP,A)
【文献】 特開2000−159049(JP,A)
【文献】 特開平9−99795(JP,A)
【文献】 特開2002−160599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/231
B60R 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグを収容する収容部を有し、前記収容部の開口から前記エアバッグを膨張させて展開する車両用エアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、その膨張時に乗員の頭部を拘束する拘束面が、前記開口の水平方向左側の開口端部を中心とし、前記エアバッグの膨張方向と平行で前記開口の中心を通る中心線上の所定点を通る左側円弧と、前記開口の水平方向右側の開口端部を中心とし、前記所定点を通る右側円弧とを有するように形成されている
ことを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エアバッグを収容する収容部を有し、ガス発生器から供給される膨張用ガスにより、収容部の開口からエアバッグを膨張・展開させる車両用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス発生器から供給されるガスを利用した車両用エアバッグ装置では、車両の前方衝突時での乗員への拘束性能を高めるために、エアバッグを位置精度よく膨張・展開させることが要求されている。そこで、エアバッグの膨張・展開時に、エアバッグの前部の上面をウィンドシールドに圧接させるとともに、前部の下面をインストルメントパネルの上面を形成する上部パネルに圧接させることにより、エアバッグの位置を固定し、膨張・展開時のエアバッグの位置精度の向上を図るものがある。しかしながら、ウィンドシールドと前記上部パネルとの組み合わせ体の形状や、この上部パネルへのエアバッグの取付位置は各種車両毎に千差万別であるため、このような構成では、車種ごとにエアバッグ装置の設計変更が必要になり、車両コストの面で好ましくない。
【0003】
そこで、従来では、エアバッグの膨張・展開時の位置精度を向上しつつ、各種車両に共通して使用することができる車両用エアバッグ装置が提案されている(特許文献1参照)。この車両用エアバッグ装置は、アウタバッグ内に収容されたインナバッグを備えるエアバッグ装置であり、インナバッグが上下に重ねられて車両の平面視での外縁部同士が互いに縫合された上、下布材で構成されている。そして、ガス発生器からのガスが、まず、インナバッグに供給されてインナバッグが膨張するが、インナバッグの上、下布材が比較的剛性が大きい材料で形成されているため、膨張したときのインナバッグの形状が安定する。また、インナバッグの下布材の後端部にガス噴出口が設けられていることから、インナバッグの形状の安定化によりインナバッグ内に供給されたガスがこのガス噴出口を通って、アウタバッグの後部内の所望部に向かって正確に噴出する。このとき、アウタバッグは、その下面がインストルメントパネルの上面を形成する上部パネルに圧接することにより、アウタバッグの後部側が、乗員の所望方向に向かって位置精度よく膨張・展開する。
【0004】
この構成によると、ウィンドシールドに圧接させることなく、エアバッグを位置精度よく膨張・展開させることができるため、車種の違いにより、ウィンドシールドと前記上部パネルとの組み合わせ体の形状や、この上部パネルへのエアバッグの取付位置が異なる場合であっても、エアバッグ装置を各種車両に共通して使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−179952号公報(段落0032〜0056、図1等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した車両用エアバッグ装置では、エアバッグを乗員側に向けて位置精度よく膨張・展開させることができるが、膨張・展開時のエアバッグの支持構造が、アウタバッグの下面をインストルメントパネルの上部パネルのみで支持する、所謂、片持ち構造であるため、膨張・展開時にエアバッグが左右に振れてしまう可能性がある。この場合、エアバッグの乗員の頭部までの距離が一定になりにくく、エアバッグの乗員への拘束性能が不安定になる。特に、エアバッグの乗員の頭部を拘束する拘束面の形状がエアバッグの左右方向に湾曲し、その曲率が大きく形成されている場合、エアバッグが左右に振れたときのエアバッグの拘束面と乗員の頭部までの距離のばらつきが顕著化する。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、膨張・展開時にエアバッグが左右にふれても、乗員への拘束性能が安定する車両用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明の車両用エアバッグ装置は、エアバッグを収容する収容部を有し、前記収容部の開口から前記エアバッグを膨張させて展開する車両用エアバッグ装置であって、前記エアバッグは、その膨張時に乗員の頭部を拘束する拘束面が、前記開口の水平方向左側の開口端部を中心とし、前記エアバッグの膨張方向と平行で前記開口の中心を通る中心線上の所定点を通る左側円弧と、前記開口の水平方向右側の開口端部を中心とし、前記所定点を通る右側円弧とを有するように形成されていることを特徴としている(請求項1)。
【発明の効果】
【0009】
請求項1にかかる発明によれば、エアバッグの前記拘束面が、収容部の開口の水平方向左側の開口端部を中心とし、前記中心線上の所定点を通る左側円弧と、開口の水平方向右側の開口端部を中心とし、所定点を通る右側円弧とを有するように形成されている。ところで、エアバッグが左右に振れずに膨張・展開した場合、エアバッグの拘束面におけるエアバッグの膨張方向と平行で収容部の開口の中心を通る中心線上の所定点付近で乗員の頭部が拘束される。そして、膨張・展開時にエアバッグが左側に振れた場合、エアバッグは収容部の開口における水平方向左側の開口端部を基点として回転し、右側に振れた場合、エアバッグは開口の水平方向右側の開口端部を基点として回転する。
【0010】
したがって、例えば、エアバッグが左側に振れて膨張・展開すると、乗員の頭部は、エアバッグの拘束面における右側円弧の部分で拘束されることになるが、エアバッグの拘束面の右側円弧は、収容部の開口の水平方向右側の開口端部を中心とし、前記所定点を通る円弧であるため、エアバッグの拘束面により拘束された乗員の頭部と収容部の開口との距離が、収容部の開口から前記所定点までの距離として維持される。エアバッグが右側に振れた場合も同様に、乗員の頭部と収容部の開口との距離が、収容部の開口から前記所定点までの距離として維持される。すなわち、膨張・展開時にエアバッグが左右のどの位置に振れようとも、エアバッグの拘束面により拘束された乗員の頭部の位置が、収容部の開口から前記所定点までの距離として一定に保たれるため、膨張・展開時のエアバッグが左右に振れた場合であっても、乗員への拘束性能を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態を示し、膨張展開した状態での車両用エアバッグ装置付近の概略側面図である。
図2図1の膨張展開した状態のエアバッグの斜視図である。
図3図1の膨張展開した状態のエアバッグの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態にかかる車両用エアバッグ装置1について、図1図3を参照して説明する。なお、図1は膨張展開した状態での車両用エアバッグ装置付近の概略側面図、図2は膨張展開した状態のエアバッグの斜視図、図3は膨張展開した状態のエアバッグの平面図である。
【0013】
(構成)
図1に示すように、助手席用の車両用エアバッグ装置1が配設された車両では、フロントガラス2が、インストルメントパネル3の前端部から直立に近い状態で斜め上方後方に立設されている。
【0014】
車両用エアバッグ装置1は、助手席(図示省略)の前方で、フロントガラス2の後方に位置するインストルメントパネル3の上部の内側に配設され、通常時には折り畳まれたエアバッグ4と、エアバッグ4に供給する膨張用ガスを発生させるガス発生器であるインフレータ5と、エアバッグ4およびインフレータ5を収容するケース6(本発明の「収容部」に相当)とを備える。
【0015】
ケース6は、その上部に矩形状の開口6aが形成された箱型形状を有し、この開口6aが乗員側に向くように、側面視で若干後方側に傾いた状態で、インストルメントパネル3の上部に内面側から固定されている。このとき、エアバッグ7の膨張・展開前のケース6の開口6aは、インストルメントパネル3に当接しており、これによりケース6の開口6aが閉塞される。また、ケース6の底部の中央部には、インフレータ5を固定するためのインフレータ取付穴が形成されており、このインフレータ取付穴に上方からインフレータ5が固定されている。また、ケース6の底部にインフレータ5を固定した状態で、ケース6の内部に折り畳まれたエアバッグ4が収容されている(図1のケース6内の破線部参照)。なお、インフレータ5は、点火装置、伝火剤、ガス発生剤等で構成されており、ガス発生剤は、衝突時などにエアバッグ4を膨張・展開させるための窒素ガス発生源となっている。
【0016】
また、インストルメントパネル3には、ケース6の開口6aを塞ぐ部分である閉塞部3aに、薄厚の脆弱部が形成されており、図1および図2に示すように、エアバック4がインフレータ5から供給される膨張用ガスにより膨張する際、その膨張力により、インストルメントパネル3の閉塞部3aの脆弱部を基点として、インストルメントパネル3の閉塞部3aが、前側半分と後側半分とに分かれて破れる。これにより、ケース6の開口6aの閉塞状態が開放され、膨張用ガスのさらなる供給により、エアバッグ4が車両後方上方に向かって膨出する。また、エアバッグ4の左右両側面それぞれには、ベントホール(図示せず)が設けられており、車両の衝突によって乗員が前のめりになって膨張・展開したエアバッグ4に突っ込んだとき、両ベントホールからエアバッグ4内の膨張用ガスを流出させてその衝撃をより効率良く吸収するように構成されている。
【0017】
ここで、車両用エアバッグ装置1の動作について、簡単に説明すると、車両用エアバッグ装置1のエアバッグ4の膨張・展開は、マイクロコンピュータ構成のエアバッグコンピュータ(エアバッグECU)で管理されており、このエアバッグECUが、車両に設けられた加速度センサにより検出された車両の減速度の情報などに基づいて、車両が障害物などに衝突したか、すなわち、エアバック4を膨張・展開させるか否かを判断する。そして、エアバッグECUがエアバッグ4を膨張・展開させると判断すると、インフレータ5の点火装置に通電を開始する。この通電により点火装置内のフィラメントが加熱し、これにより着火剤に着火する。その後、伝火剤、ガス発生剤へと極めて短時間で火炎が伝播し、ガス発生剤から多量の窒素ガスが発生する。この窒素ガスがフィルタを通過して、冷却および燃えかすの除去が行われてエアバッグ4内に供給される。
【0018】
このように構成された車両用エアバッグ装置1では、膨張・展開時に、エアバッグ4が上下、左右に振れた場合であっても、エアバッグ4による乗員への拘束性能が安定するように構成されている。まず、図1を参照してエアバッグ4が上下方向に振れた場合について具体的に説明すると、この実施形態の車両用エアバッグ装置1では、エアバッグ4の膨張方向は矢印αに設定されており、エアバッグ4が上下に振れずに膨張・展開した場合、車両が減速したときに発生する慣性力により移動した乗員の頭部Mが、エアバッグ4の膨張方向と平行で、ケース6の開口6aの水平方向後側の開口端部6a1(以下、後側開口端部6a1という)を通る直線とエアバッグ4の乗員の頭部を拘束する拘束面4aとが交差する所定点P1付近に当たることで、頭部Mが拘束される。なお、この実施形態において、後側開口端部6a1とエアバッグ4の拘束面4aの所定点P1との距離S1は、車両衝突時に乗員に作用する衝撃をエアバッグ4で吸収するのに必要な最小ストロークよりも若干長くなるように設定されている。
【0019】
ところで、膨張・展開時にエアバッグ4が上下方向に振れる場合、エアバッグ4は、ケース6の後側開口部6a1を中心として上下に回転する。そこで、この実施形態では、エアバッグ4の拘束面4aが、ケース6の後側開口端部6a1を中心とし、エアバッグ4の拘束面4aの所定点P1を通る上下方向の円弧Q1を有するように形成されている。このようにすると、例えば、エアバッグ4の拘束面4aにおける、所定点P1よりも上側の円弧Q1上の点P2とケース6の後側開口端部6a1との距離、および、所定点P1よりも下側の円弧Q1上の点P3とケース6の後側開口端部6a1との距離それぞれが、所定点P1とケース6の後側開口端部6a1との距離S1と同じになる。すなわち、膨張・展開時にエアバッグ4が上下に振れても、点P2から点P3の円弧の範囲では、エアバッグ4の拘束面4aによる乗員の頭部Mの拘束ストローク(距離S1)が一定になる。
【0020】
次に、膨張・展開時にエアバッグ4が左右に振れた場合について説明すると、図3に示すように、エアバッグ4が右側に振れた場合、エアバッグ4は、ケース6の開口6aの水平方向右側の開口端部(以下、右側開口端部6a2という)を中心に右方向に回転し、左側に振れた場合、エアバッグ4は、ケース6の開口6aの水平方向左側の開口端部(以下、左側開口端部6a3という)を中心に左方向に回転する。そこで、この実施形態では、エアバッグ4の拘束面4aが、ケース6の開口6aの左側開口端部6a3を中心とし、エアバッグ4の膨張方向(矢印α)と平行で開口6aの中心を通る中心線R上の所定点P1を通る左右方向の左側円弧Q3と、ケース6の開口6aの右側開口端部6a2を中心とし、所定点P1を通る左右方向の右側円弧Q2とを有するように形成されている。
【0021】
このようにすると、ケース6の右側開口端部6a2からエアバッグ4の拘束面4aの所定点P1までの距離と、ケース6の左側開口端部6a3からエアバッグ4の拘束面4aの所定点P1までの距離とが同じ距離になる。また、エアバッグ4の拘束面4aの右側円弧Q2の範囲において、エアバッグ4の拘束面4aとケース6の右側開口端部6a2との距離が等しくなるとともに、エアバッグの拘束面4aの左側円弧Q3の範囲において、エアバッグ4の拘束面4aとケース6の左側開口端部6a3との距離が等しくなる。すなわち、膨張・展開時にエアバッグ4が左右に振れた場合であっても、エアバッグ4の拘束面4aにおける右側円弧Q2および左側円弧Q3の範囲内では、エアバッグ4の拘束面4aによる乗員の頭部Mの拘束ストローク(距離S2)が一定になる。なお、エアバッグ4の拘束面4aを、右側円弧Q2と左側円弧Q3との境界ができないように、両円弧Q2,Q3をなだらかに繋げる構成であってもかまわない。
【0022】
したがって、上記した実施形態によれば、エアバッグ4の拘束面4aが、ケース6の後側開口端部6a1を中心とし、エアバッグ4の拘束面4aの所定点6a1を通る上下方向の円弧Q1を有するように形成されている。このようにすると、膨張・展開時にエアバッグ4が上下に振れても、エアバッグ4の拘束面4aの円弧Q1を有する範囲(例えば、点P2から点P3の円弧の範囲)では、エアバッグ4の拘束面4aによる乗員の頭部Mの拘束ストローク(距離S1)が一定になるため、車両用エアバッグ装置1の乗員の頭部Mへの拘束性能が安定する。
【0023】
さらに、エアバッグ4の拘束面4aは、ケース6の開口6aの左側開口端部6a3を中心とし、エアバッグ4の膨張方向(矢印α)と平行でケース6の開口6aの中心を通る中心線R上の、エアバッグ4の拘束面4aの所定点P1を通る左右方向の左側円弧Q3と、開口6aの右側開口端部6a2を中心とし、この所定点P1を通る左右方向の右側円弧Q2とを有するように形成されている。このようにすると、膨張・展開時にエアバッグ4が左右に振れても、エアバッグ4の拘束面4aにおける右側円弧Q2および左側円弧Q3の範囲内では、エアバッグ4の拘束面4aによる乗員の頭部の拘束ストローク(距離S2)が一定になるため、車両用エアバッグ装置1の乗員の頭部Mへの拘束性能が安定する。
【0024】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能であり、例えば、上記した実施形態では、車両用エアバッグ装置1を車両の助手席用として使用する場合について説明したが、運転席用のエアバッグ装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0025】
1… 車両用エアバッグ装置
4… エアバッグ
4a… 拘束面
6… ケース(収容部)
6a… 開口
6a2… 右側開口端部
6a3… 左側開口端部
P1… 所定点
Q2… 右側円弧
Q3… 左側円弧
R… 中心線
図1
図2
図3