【0021】
シトクロムP450(CYP)の各分子種とその基質となりうる化合物との具体例を以下に示す。
(CYP1A2)
amitriptyline, caffeine, clomipramine, clozapine, cyclobenzaprine, estradiol, fluvoxamine, haloperidol, imipramine, mexiletine, naproxen, olanzapine, ondansetron, acetaminophen, propranolol, riluzole, ropivacaine, tacrine, theophylline, tizanidine, verapamil, R-warfarin, zileuton, zolmitriptan
(CYP2B6)
bupropion, cyclophosphamide, efavirenz, ifosphamide, methadone, sorafenib
(CYP2C8)
amodiaquine, cerivastatin, paclitaxel, repaglinide, sorafenib, torsemide
(CYP2C9)
非ステロイド性抗炎症薬:diclofenac, ibuprofen, lornoxicam, meloxicam, S-naproxen, piroxicam, suprofen
経口血糖降下剤:tolbutamide, glipizide
アンジオテンシンII阻害薬:losartan, irbesartan
スルホニル尿素系薬剤:glyburide, glibenclamide, glipizide, glimepiride, tolbutamide
その他:amitriptyline, celecoxib, fluoxetine, fluvastatin, glyburide, nateglinide, phenytoin-4-OH2, rosiglitazone, tamoxifen, torsemide, S-warfarin
(CYP2C19)
プロトンポンプ阻害薬:lansoprazole, omeprazole, pantoprazole, rabeprazole
抗てんかん剤:diazepam, phenytoin, S-mephenytoin, phenobarbitone
その他:amitriptyline, carisoprodol, citalopram, chloramphenicol, clomipramine, clopidogrel, cyclophosphamide, hexobarbital, imipramine, indomethacin, R-mephobarbital, moclobemide, nelfinavir, nilutamide, primidone, progesterone, proguanil, propranolol, teniposide, R-warfarin
(CYP2D6)
tamoxifen
β遮断薬:carvedilol, S-metoprolol, propafenone, timolol
抗うつ薬:amitriptyline, clomipramine, desipramine, fluoxetine, imipramine, paroxetine
抗精神病薬:haloperidol, perphenazine, risperidone, thioridazine, zuclopenthixol
その他:alprenolol, amphetamine, aripiprazole, atomoxetine, bufuralol, chlorphenimipramine, chlorpromazine, codeine, debrisoquine, dexfenfluramine, dextromethorphan, donepezil, duloxetine, encainide, flecainide, fluvoxamine, lidocaine, metoclopramide, methoxyamphetamine, mexiletine, minaprine, nebivolol, nortriptyline, ondansetron, oxycodone, perhexiline, phenacetin, phenformin, promethazine, propranolol, sparteine, tramadol, venlafaxine
(CYP2E1)
麻酔薬:enflurane, halothane, isoflurane, methoxyflurane, sevoflurane
その他:acetaminophen, aniline, benzene, chlorzoxazone, ethanol, N,N-dimethylformamide, theophylline
(CYP3A4,5,7)
マクロライド系抗生物質:clarithromycin, erythromycin (not 3A5)
抗不整脈薬:quinidine (not 3A5)
ベンゾジアゼピン系薬物:alprazolam, diazepam, midazolam, triazolam
免疫調節剤:cyclosporine, tacrolimus (FK506)
抗HIV薬:indinavir, nelfinavir, ritonavir, saquinavir
消化管運動改善薬:cisapride
抗ヒスタミン薬:astemizole, chlorpheniramine, terfenadine
カルシウム拮抗薬:amlodipine, diltiazem, felodipine, lercanidipine, nifedipine, nisoldipine, nitrendipine, verapamil
HMG−CoA還元酵素阻害薬:atorvastatin, cerivastatin, lovastatin, simvastatin
ステロイド類:estradiol, hydrocortisone, progesterone, testosterone
その他:alfentanil, aprepitant, aripiprazole, boceprevir, buspirone, caffeine, cilostazol, cocaine, dapsone, dexamethasone, dextromethorphan, docetaxel, domperidone, eplerenone, fentanyl, finasteride, gleevec, haloperidol, imipramine, irinotecan, LAAM, lidocaine, methadone, nateglinide, ondansetron, pimozide, propranolol, quetiapine, quinine, risperidone, salmeterol, sildenafil, sirolimus, sorafenib, sunitinib, tamoxifen, taxol, telaprevir, terfenadine, torisel, trazodone, vincristine, zaleplon, ziprasidone, zolpidem
本発明においては、目的に応じて、前記放射性化合物、蛍光性化合物、常磁性化合物又は磁気共鳴性化合物を単独で、又は2種以上組み合わせて用いる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
コラゲナーゼ還流法により調製したラット遊離肝細胞を2×10
6個/mLになるように蒸留水に懸濁し、ホモジナイザーで機械的にホモジネートを調製した。このホモジネート200μLに対し、蒸留水で20μMの濃度に調製した5 (and 6)-carboxy-2’
,7’-dichlorofluorescein diacetate(CDFDA)を加え(終濃度10μM)、37℃で5分間インキュベーションした。400μLの氷冷1%Tritonを加えて反応を停止させ、高速遠心操作(15000rpm、10min、4℃)により上清に含まれる5 (and 6)-carboxy-2’
,7’-dichlorofluorescein(CDF)及びCDFDAを回収した。CDFの蛍光強度は蛍光プレートリーダーで測定した。99℃で5分間熱変性させたホモジネートではCDFの蛍光がほぼ観察されず、その蛍光強度は熱変性しなかった場合の約2%程度であった(
図3)。このことからCDFDAがラット肝細胞中に含まれる酵素により代謝され、CDFを含む蛍光物質が得られることがわかった。
【0032】
このことにより、代謝酵素によって化学形が変化することにより初めて測定可能な信号(この場合は蛍光)を発し、その代謝物(この場合はCDFという蛍光物質)が排出トランスポーターなどの作用により速やかに排出される場合、細胞外排出の律速段階は酵素反応であるため、その排出速度が代謝酵素活性を示すことになる。すなわち、サンドイッチ培養ラット肝細胞においては、顕微鏡下で蛍光物質は胆管腔に局在しており、観察される蛍光強度が酵素活性を反映している。また、肝臓や腎臓のように排出先が胆管腔や尿細管腔のように排泄系である場合には、イメージングにより、体外測定が容易になる。
【0033】
前記の熱変性しなかった場合は肝臓組織の代謝機能が正常の場合に対応し、前記の熱変性させた場合は肝臓組織の代謝機能が異常であるときの典型例に対応する。
【0034】
したがって、本発明の検査薬によれば、肝臓等の組織における代謝機能を測定できることがわかる。
【0035】
(実施例2)
文献(Dunn, J., Yarmush, M., Koebe, H., & Tompkins, R.: Hepatocyte function and extracellular matrix geometry: long-term culture in a sandwich configuration. FASEB J., 3: 174-177, 1989)記載の方法に従い、ラット肝から遊離肝細胞を単離後、予めコラーゲンコートしておいた35mmプレートに播種した。細胞を接着させるために37℃、5%CO
2条件下で2〜6時間培養した後、William’s E medium(WEM)へと培地を交換した。播種から24時間後に培地をマトリゲル含有WEMへ交換し、細胞にマトリゲルを重層しサンドイッチ培養した。播種後4日後に実験に供した。敷石上に培養された細胞間隙にサンドイッチ培養ラット肝細胞(SCRH)特徴的な胆管腔の形成が促された。次に、細胞内で蛍光物質に代謝されるdihydrofluorescein diacetate(H2FDA)10μMをサンドイッチ培養したラット肝細胞とインキュベートし(37℃、pH7.4)、蛍光顕微鏡により胆管腔に蓄積される蛍光物質の蛍光強度を経時的に測定し、定量化した。H2FDAと胆汁酸トランスポーターBSEP(Bile Salt Efflux Pump)の阻害剤であるトログリタゾン50μMを共存させた場合(
図4、○)、非存在時(
図4、●)で有意な蛍光が観察された6分以降15分までの蛍光強度は非存在時(
図4、●)と比較して有意に減少した。
【0036】
肝細胞に取り込まれた後に代謝変化を受けて初めて蛍光を発するH2FDAを用いることにより、代謝酵素によって化学形が変化することにより初めて測定可能な信号(この場合は蛍光)を発し、その代謝物がトランスポーターなどの作用により速やかに排出される場合、細胞外排出の律速段階は酵素反応であるため、その排出速度が代謝酵素活性を示すことになり、肝臓や腎臓のように排出先が胆管腔や尿細管腔のように排泄系である場合には、イメージングにより、体外測定が可能になる。特に、H2FDAでは、実施例1とは異なって酵素によって生成する複数の蛍光代謝物の存在が確認されているが、特定の代謝酵素による代謝以降に複数の代謝物が存在しても、それらの代謝物のすべてがBSEPのようないずれかの排出トランスポーターの基質として速やかに細胞外に排出されれば、代謝酵素活性をイメージングできる。
【0037】
(実施例3)
ラット肝細胞内への蓄積を増加させるために脂溶性を高め、未代謝状態でも蛍光を持つように合成された加水分解酵素で構造変換する蛍光性化合物30μMをサンドイッチ培養したラット肝細胞に取込ませ、蛍光顕微鏡により胆管腔に蓄積される蛍光物質の蛍光強度を測定し、定量化した。前記蛍光性化合物と胆汁酸トランスポーターBSEPの阻害剤であるトログリタゾン50μMを共存させた場合(
図5、○)、24分までの蛍光強度は非存在時(
図5、●)と比較して有意に減少した。
【0038】
肝細胞に取り込まれた物質の胆管腔排泄を確認できる実験系であるサンドイッチ培養ラット肝細胞に対して、ここでは未代謝状態でも蛍光を発する加水分解酵素で構造変換する蛍光性化合物を用いた場合でも、それが肝細胞内の酵素(エステラーゼ)によって代謝されて化学形が変化し、その標識代謝物が排出トランスポーターなどの作用により速やかに排出される場合、細胞外排出の律速段階は酵素反応であるため、肝臓や腎臓のように排出先が胆管腔や尿細管腔のように排泄系である場合には、イメージングにより、体外測定が可能になる。このように、生成する代謝物がトランスポーターなどの作用により速やかに排出されれば、投与するプローブが代謝を受ける前から測定可能な信号(この場合は蛍光)を発していても、その排出速度が代謝酵素活性を示すことになるため、実施例1及び2のように代謝によって蛍光物質に変化する必要はなく、このイメージングに用いるプローブの標識には蛍光・発光体に加えて放射性化合物、例えば加水分解酵素で構造変換する放射性化合物を用いることも可能であり、放出される放射線をその種類に応じてPETやSPECTなどのカメラで体外検出し、標的組織を経時的にイメージングすることにより、非侵襲的に体深部の代謝酵素活性を測定できる。また同様に、標識に常磁性金属や磁気共鳴核種を用いることにより、MRIやCSI装置でそれらに由来するMR信号を体外検出し、標的組織を経時的にイメージングすることにより、非侵襲的に体深部の代謝酵素活性を測定できる。
【0039】
放射性カルボン酸エステルを用いた分子イメージングでは、肝臓組織において、代謝機能が正常であれば、イメージング像は速やかに消失するが、肝臓組織において、代謝酵素の異常・機能低下があれば、イメージング像が長時間観察される(
図2)。
【0040】
(実施例4)放射性天然アミノ酸のマウス体内分布動態と放射性代謝物の分析
放射性核種標識アミノ酸として、L−又はD−メチオニン(L−/D−Met)の[S−methyl−
3H]標識体(S−L−/D−Met;American Radiolabeled Chemicals)と[1−carboxyl−
14C]標識体(1−L−/D−Met;American Radiolabeled Chemicals)を用い、ダブルトレーサー法により検討した。
【0041】
5週齢ddY系雄性マウスにS−/1−L−Met(L−Met)又はS−/1−D−Met(D−Met)を尾静脈投与し、10、30、60分後にマウスを心臓採血後に屠殺して、肝臓、胆嚢、十二指腸、膵臓、腎臓を摘出した。質重量を秤量した摘出臓器の一部にSolvable(Parkin Elmer)を加え、加温振透して溶解した後、液体シンチレーターUltima Gold(Parkin Elmer)を加えて液体シンチレーションカウンター(Aloka、LSC−5100)にて単位重量当たりの放射能集積率を算出した。
【0042】
組織中放射性代謝物の評価には、[S−methyl−
14C]−L−Met(S−L−Met;American Radiolabeled Chemicals)又は[S−methyl−
14C]−D−Met(S−D−Met;American Radiolabeled Chemicals)を投与後10分のマウスの肝臓、腎臓を摘出し、これらに重炭酸緩衝液を加えホモジナイズした後、最終濃度5%となるように100%トリクロロ酢酸(Nacalai tesque)を加え、混和した。この沈殿画分をグラスフィルター(GC−50、Toyo)に捕集し、氷冷5%トリクロロ酢酸で洗浄した後、150℃、1時間加熱処理することによりタンパクを固定し、その放射能を測定したものをタンパク画分への組み込み率として評価した。また、前記のトリクロロ酢酸を加えたホモジネートを遠心分離し、その上清をシリカゲル薄層板(Merck社Art.5553)にスポット後、展開溶媒(ブタノール:酢酸:水=4:1:1)で展開した。
14C専用イメージングプレート(BAS−SR2025,Fuji Film)に露光後、BAS5000(Fuji Film)を用いて解析し、未変化体残存率から代謝物存在率を算出した。
【0043】
図6にS−L−Met又はS−D−Met投与後10分のマウスから摘出した代謝性組織である肝臓及び腎臓中の代謝物存在率を示す。S−D−Metを投与したマウス肝臓又は腎臓に存在する放射能は、約80%が未変化体として存在していたのに対し、S−L−Met投与マウスにおいては未変化体は約40%以下しか存在しておらず、約20〜50%は放射性代謝物として存在していることを確認した。これら全く同じ分子構造を有する2種の光学異性体の相異は専ら酵素反応によるものであり、この傾向は標識部位が異なる1−L−/D−体でも同様である。
【0044】
S−/1−L−Met(L−Met)及びS−/1−D−Met(D−Met)投与後10、30、60分のマウス体内分布における血液、肝臓、胆嚢、十二指腸、膵臓、腎臓における単位重量当たりの集積率を表1に示した。
【0045】
【表1】
【0046】
L−MetはD−Metに比べて、投与後早期より顕著な肝臓集積を示し、その後の胆嚢移行を経て十二指腸に至る胆汁排泄が確認された。これらL−体のD−体との差異は、栄養素である天然アミノ酸L−Metは胆汁中には排泄されないことを考慮すると、
図6に示した肝臓における放射性代謝物の有無の違いによるものである。肝臓におけるL−Metに特徴的な低分子代謝にメチル基転移反応が知られているが、特にS−methyl基に標識部位を有するS−L−Met(臨床PET製剤は
11C標識体)においては、放射性代謝物にメチル基受容体化合物が含まれており、イメージで検出し得るこの排泄速度がメチルトランスフェラーゼの酵素活性を示すことになる。
【0047】
(実施例5)放射性ヨウ素標識放射性医薬品の放射性代謝物の分析
125I標識イオマゼニル(
125I−IMZ(臨床PET製剤は
123I標識体))は日本メジフィジックス社より提供を受けた。
【0048】
125I−IMZの生理食塩溶液0.1ml(370kBq)を体重約25gのddY系雄性マウスに尾静脈より投与し、10分後にエーテル麻酔にて屠殺した。胆嚢より胆汁を採取した後、肝臓、胆嚢、腎臓を摘出した。
【0049】
摘出臓器100mgを精秤し、Krebs−Ringerリン酸緩衝溶液(pH7.4)900μlを加えて、超音波ホモジナイザーにてホモジナイズした。このホモジネートに最終濃度5%となるように100%トリクロロ酢酸(Nacalai tesque)を加え、混和した。遠心分離(15000rpm、5分間)した後、その上清を文献(吉村弘一,他:核医学,32: 1037-1043, 1995)記載の方法に従い、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(Merck社Art.5553、展開溶媒;酢酸エチル:アセトン:アンモニア水(28)=90:10:1)にて分析した。胆嚢から採取した胆汁も全量をKrebs−Ringerリン酸緩衝溶液(pH7.4)に混和し、同様にトリクロロ酢酸処理後、遠心分離した上清を分析した。投与前の未変化体の結果とともに
図7に示す。
【0050】
マウス生体内の肝臓において、
125I−IMZは容易に代謝され、肝細胞中には未変化体は僅かに検出されるのみで、原点付近にとどまる水溶性放射性代謝物を含むいくつかの放射性代謝物が検出された。また、肝臓から排泄された胆汁中には未変化の
125I−IMZはほとんど検出されず、その大部分が原点付近の水溶性放射性代謝物であった。
【0051】
以上のように、肝臓に取り込まれた
125I−IMZは代謝酵素によって代謝され、生成した水溶性放射性代謝物が胆汁中に排泄されていることがわかった。これらの傾向を利用し、個体差、病態の変化による胆汁排泄される放射性代謝物の量の相違を分子イメージングによる肝臓からの消失速度あるいは胆汁排泄の速度を測定することにより、薬物代謝機能を測定が可能であることが確認された。