【実施例】
【0064】
〈実施例1:トランスフェクションデバイスの実施形態の設計〉
本明細書に記載されているトランスフェクションデバイスの実施形態は、
図1のパネルAからDに示される。デバイスの主要構成要素は、先端アセンブリ、USBコンバーター(103)とRS232インターフェース(104)によって先端アセンブリへ接続されたコンピュータープログラム可能なシリンジポンプ(101)、(102)、そして電力供給装置(110)である。
図1のパネルAに示されるように、シリンジポンプ(101)、(102)は、ジャンプボックス(106)の金属蓋(105)の内部側面へ付けられている。USBコンバーター(103)及び、前記シリンジポンプを外部コンピュータへ接続するRS232インターフェース(104)も、ジャンプボックス(106)の金属蓋(105)の内部側面に付けられている。ハードウェアは、実験室における前記デバイスの使用中は見えない。RS232インターフェース(104)及びUSBコンバーター(103)を介して通信する外部コンピュータは、データ解析ソフトウェアMATLAB(Mathworks、Natick、MA)を用いて、シリンジポンプ(101)、(102)を制御するために使用される。代替的に、トランスフェクションデバイスは、単純なグラフィカルユーザーインターフェース・ソフトウェア(LabWindows(登録商標)/CVI Run−Time Engine 8.5.1(National Instruments、Austin、Texas)を使用する。
【0065】
ジャンプボックス(106)の右側にあるプログラム可能なシリンジ及びポンプ機構(101),(102)の位置は、
図1Bに示される。ホウケイ酸ガラスシリンジ(101)は、潤滑及び耐溶剤性のためのUHMWPE(超高分子量ポリエチレン)シール(107)を有する。タイゴン(登録商標)チューブ(109)は、ジャンプボックス(106)の金属蓋(105)を通じて、追加のチューブによってソーダ石灰ガラスキャピラリーチューブ(先端)の近接端部に接続する。前記キャピラリーチューブは、寸法:内径1.1−1.2mm、壁厚0.2mm、長さ75mmである典型的な先端(
図3パネルA)である。
【0066】
電力供給装置(110)は、ジャンプボックス(106)内部の左下に位置する(
図1パネルC)。電力供給装置(110)は、ディストリビュータ・ボード及び平らなコントロールパネルの基準である、単相24V、2.5A電力供給装置(PHOENIX CONTACT GmbH Co. KG, Step Power, Blomberg、Germany)である。電力供給装置(110)は待機損失が少なく、高効率である。代替的に、電力アダプターは24V、2.5Aの出力をもつFSP60−11(FSP North America)である。電源は、100−240V、2.0A、50−60Hzの入力を要する。
【0067】
図1パネルD内に示されるように、ジャンプボックス(106)は、滅菌状態にある組織培養フローフード内に位置する。使用中、金属蓋(105)は閉位置に、外蓋は開位置(111)にとどまる。
【0068】
〈実施例2:トランスフェクション中の流体サイクルパラメーター〉
本実施例は、本明細書中に記載されている方法及びシステム、又はデバイスで用いられる先端アセンブリの先端を通じた流体サイクル中の一般的な流体パラメーターを示す。
【0069】
流体中の細胞へ導入されるべき細胞及び組成物を含有する混合物は、本明細書に記載されているトランスフェクションデバイスの先端へ反復的に引き込まれ、なおかつ前記先端から押し出されることで、結果的に流入と流出のサイクルを生じる。戻り行程が後続する実行行程はサイクルを構成する。戻り行程及び実行行程は同じパラメーターに従って作動する。実施例1に記載されているプログラム可能なシリンジ(101)、(102)は、フローサイクルを生む。
図2において、流体サイクルの実施形態におけるシリンジプランジャー(1008)の動きを示した略図が示され、横軸には時間、縦軸には表示されているサイクル間に、その時間でプランジャーが位置するシリンジの長さに沿った位置が示されている。
【0070】
この実施形態において、以下のコマンドシーケンスが使用された:
/1L14v400V900c200A500M200gL20v100v1000c1000A400M100A0G8L14v400V900c200A0R
【0071】
左から右へ進むこのコマンドシーケンスにおけるプランジャー運動及び関連するパラメーターが本明細書に記載される。前記コマンドシーケンスでのプランジャー位置は、接頭辞としてとして加えられた文字Aで、
図2内の縦座標上に示されたプランジャー位置と対応する。例えば、
図2内でのプランジャー位置(500)は、コマンドシーケンスにおける位置A(500)である。
図2は、以下のように実行された8つのサイクルを示す:
【0072】
L14は初速ランプ(加速)であり、v400は始動速度であり、V900はこのランプ間での最大速度である。A500は、シリンジプランジャー(108)が先端を充填し(loading)、最初に移動する位置である。A500は充填位置と呼ばれる。プランジャーがA500に達する場合、c200は遮断速度である。M200は充填位置での200ミリ秒(ms)の一次停止である。サイクルは200msの一時停止の後に始まり、コマンドシーケンスでのgで示される。サイクルのランプには、加速L14がある初速ランプを除いて、最大加速L20、始動速度100(v100)、最大速度1000(v1000)及び終速又は終了速度1000(c1000)がある。位置A400への下降運動は、流量を最初の充填容量未満までに減らし、循環容量を先端に残す。M100は、ランプ位置がA400からA0まであった後の、100ミリ秒の一次停止を示す。これは、最初のサイクルの終了を表わし、コマンドシーケンスでのGで示される。数字8は、このコマンドシーケンスが8つのサイクルを有していることを示す。最初のサイクルは、充填工程を含む点で、後続するサイクルとは異なる。コマンドシーケンスの終わりは、速度ランプL14、始動速度v400、最大速度V900、終了位置A0、及び終速c200のサイクルである。文字「R」は終端で実行コードを表わす。
【0073】
本明細書に記載されている実施例において、類似のサイクルが、細胞、プラスミドDNA又はsiRNA又はmiRNAと共に使用された。
【0074】
〈実施例3:先端アセンブリの設計〉
生細胞へ物質を導入するデバイスを生産するために、ホウケイ酸ガラスチューブは、開口部の大きさを縮小するため1つの端(先端)を精密に火炎研磨された。このデバイスを用いて、細胞は、細胞の通過用にこれまで使用されてきたものよりも、直径がかなり小さく、異なる先端形状を有する通路を通じて送られ、結果通路の直径が狭まったため細胞の速度がかなり上昇した。ガラスチューブの出口先端アセンブリの狭小化は、生細胞への遺伝物質の導入のためにより大きな流体速度を生み出した。最も重要なこととして、前記細胞は、流体速度の変化の結果として、必然的に流体圧力の迅速な変化を経験した。流体経路の狭まった部分の内面の曲率は、細胞孔形成及び細胞膜の開口に寄与した。さらに、高度に研磨された端は、細胞が流体経路に沿ったエッジに遭遇した際に、剪断力が生じるのを防ぐために作られため、研磨された端は、細胞の生存率を向上させたことが観察された。
【0075】
本明細書に記載されている実施例は、先端アセンブリ及び細胞へ物質を導入するための使用方法を記載する。
図3パネルA及び
図4パネルAは、流体、収縮部につながるチャンネル部分、及び流体を放出するための遠位の開口部を推進するポンプなど、圧力を適用するフローデバイスに近接した、上端開口部を有する先端の内面の典型的な形状を示した三次元表現の図面である。チャンネル部分は、収縮部より大きな内径及び断面積を有する。
【0076】
図3パネルB及び
図4パネルBは、それぞれ
図3パネルA及び
図2パネルBの先端アセンブリのプロットを示すために用いられる8次多項式関数のグラフである。前記グラフは、横座標上の先端の長さに応じて、縦座標上で流体経路の中心軸からの先端のラジアル距離を示す。前記プロットは、以下のものを含む長さに沿った流体経路を示す:チャンネル部分及び収縮部に近接する開口部から遠位の開口部までの先端の内面。
【0077】
図4Cは、先端アセンブリの代わりにフロースルーアセンブリを有するシステムのフロースルー実施形態を示す。この実施形態において、流体はフローデバイスに近接する侵入チャンネル部分を通過した後、収縮に入り、次に別のチャンネル部分である出口チャンネル部分に入る。先端アセンブリの場合のように、前記収縮は、遠位端にある代わりに、2つのチャンネル部分の間にある。流体は、前記収縮を通して前後に通過するか一度流れる。類似又は非類似の直径又は形状をもつ多数の収縮は、前記フロースルーアセンブリの関連実施形態において想定される。前記フロースルーアセンブリは、流体が容器へ流れ込まずむしろ前記システムを出る前に出口チャンネルを通して続くような先端アセンブリとは異なる。
【0078】
〈実施例4:先端アセンブリの構成及び適応〉
本明細書における方法での使用に適した先端アセンブリは、様々な異なる物質、及び異なる大きさと形状で構成されたものを含む。細胞及び物質を有する流体は先端アセンブリへ導入され、物質を細胞へ導入するための先端アセンブリの有効性は、細胞ランスフェクションの技術者によって決定される。先端アセンブリの設計の適応は、変化する流体経路形状、収縮部分の数、及び有機又は無機の薬剤の存在を含む組成物における物質の濃度を変動することによって、構造を作り出すことを含む。
【0079】
先端アセンブリは様々な既知の種類の貯蔵槽及びフローデバイスと共に使用され得る。例えば、貯蔵槽は、遠心分離チューブ、ビン、バッグ又はボトルであり、前記フローデバイスは、携帯型の200μLピペットまたは手押ポンプである。先端アセンブリの各々は、多数の先端アセンブリの各々、及び先端アセンブリにおける物質の変動濃度の各々についてデータ(例えば圧力差、細胞膜多孔度、トランスフェクション効率、細胞内での物質の存在、及び細胞の生存率)を得ることにより適応される。
【0080】
図5は、貯蔵層と流体フローデバイスに近接する頂部に示される開口部である近接開口部(900)、取り付け部分(902)、フローデバイスに取り付けられたときに先端アセンブリを取り外すための先端アセンブリショルダー(901)、チャンネル部分(903)、収縮部分(904)、及び一番下に示されている遠位の開口部(905)を含むボディを有する、典型的な先端アセンブリの三次元表現の図面である。流体経路方向は近接開口部(900)から遠位の開口部(905)へ進行する。チャンネル部分(903)は、収縮部分(904)より大きな内径及び断面積を有する。先端アセンブリショルダー(901)は、取り付け部分(902)の外部表面から横方向へ伸びる。フローデバイスの実施形態のより低いエジェクターセクションは、先端をフローデバイスから取り除く。
【0081】
作動するために、特定の実施形態におけるフローデバイス又は流体取扱デバイスは、前記取付け部分で先端アセンブリに取り付けられた。細胞及び物質を含有している流体は、先端アセンブリのねじれ部分からチャンネル部分を通って、遠位の開口部から先端アセンブリへと引き込まれる。流体表面の頂部メニスカスとフローデバイスの端は、異なる物質が各先端で使用され得るように、流体の間でフローデバイスとの接触を防ぐのに充分な距離で離れている。流体デバイスは、チャンネル部分からねじれ部分及び遠位の開口部を通じて流体を促進し、前記チャンネル部分と比べて減少した圧力がねじれ部分で達成され、流体中で含有される細胞において孔を形成し、前記流体に含まれる物質は前記細胞へと導入される。関連実施形態において、前記細胞を含有する流体は、先端アセンブリの収縮部分を通り抜ける際、十分な流体速度が得られるようにより長い流体経路へ引き込まれる。
【0082】
先端アセンブリは、上記の実施例の条件の下、使用された方法によって評価される。得られたデータは細胞の生存率及び前記細胞内の物質の存在を測定ために使用された。データは、生細胞と非分裂細胞中において、流体の流体圧力を低下させ、細胞の膜多孔度を上昇させることにより、先端アセンブリ物質を細胞の中へ導入したことを示す。これらの先端アセンブリは、以前の方法及びデバイスよりも、物質を細胞へ導入することについて、より効果的、より効率的、より便利であることが本明細書の実施例により示された(実施例6参照)。
【0083】
〈実施例5:ヒト内皮細胞における遺伝物質の発現〉
ほとんどの一次細胞に類似するヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)は、ヌクレオフェクション、エレクトロポレーションのような既知のトランスフェクション方法を用いた、及びリポフェクタミンのような現在のトランスフェクション製品を用いた、未熟なトランスフェクション率によって特徴づけられる。本明細書の方法及び先端アセンブリは、HUVEC細胞を、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)とヒト・ブタ内在性レトロウイルス受容体(HuPAR2)の融合タンパク質をコードするプラスミド(核周囲の細胞内の膜の区画に特異的に局在化するタンパク質)でトランスフェクトするために使用された。
【0084】
本明細書の実施例は、高感度GFP(EGFP)標識C末端HuPAR−2融合タンパク質(HuPAR−2/EGFP)を産生した。HuPAR−2オープンリーディングフレーム(ORF)は、KpnIとBglIIの制限部位を含有しているプライマー:5′−ACGCGGTACCCAGGGGTCTACACAGTCCTTT−3′(配列番号:1)及び5′−ACGCAGATCTAGCATCTTTGGACCTACCTAG−3′(配列番号:2)を使用することによってTopo−pCRIIクローンから増幅された。産生物は、Topo−pCRII(Invitrogen Life Technologies)へクローンを作成され、KpnIとBglIIを使用して切り取られた。この断片は、EGFP融合ベクターEGFP−N1(BD Biosciences CLONTECH;San Jose、CA)のKpnI及びBglIIの断片においてEGFP ORFの上流及びイン・フレームでクローンを作成された。
【0085】
HUVEC細胞はATCC内皮細胞培地中で育成され、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS;Sigma−Aldrich,St.Louise,MO)内の懸濁されたEGFPとHuPAR2の融合タンパク質をコードするベクター(35μg/ml;7005塩基対)と接触させられた。トランスフェクションは本明細書の前記システムと方法を使用用いて行なわれた。35mMガラス底ペトリ皿の表面に定着及び付着させるために、細胞は15分間前記皿上に播種された。増殖培地は加えられ、前記細胞は5%のCO
2及び37°Cで24時間培養された。
【0086】
細胞は、レーザー走査共焦点蛍光顕微鏡及び、コントラストが高められた明視野顕微鏡検査、すなわちDIC(微分干渉工学顕微鏡)を使用して視覚化され、蛍光はトランスフェクションの24時間後に10つの無作為に選ばれた顕微鏡視野で分析された。HUVEC細胞の総数及びGFP−HuPAR2蛍光を示す細胞の数が測定され、GFP−HuPAR2蛍光とのHUVEC細胞の割合が計算され、比較された(表1)。表2は、データの統計解析を示す。
【0087】
HUVEC細胞の顕微鏡写真は蛍光顕微鏡法を使用して分析された。70%のトランスフェクション効率より高い平均が培養HUVEC細胞について達成されたことが観察された。表1及び表2を参照。ひとつの細胞、及び複数の細胞についての代表的なDIC顕微鏡写真データ及び蛍光顕微鏡写真データは
図6パネルAとBに示され、これらのデータは前記細胞が効率的にトランスフェクトされた細胞であったことを示す。暗い果粒は、ひとつのHUVEC細胞(
図6パネルA左の顕微鏡写真)及び複数のHUVEC細胞(
図6パネルB)の核を囲む膜区画においてDICによって観察された。HUPAR2タンパク質は、特に、核周囲の細胞内の膜区画内で局在化し、本明細書で観察される細胞は、本明細書の方法及びシステムを用いてGFP−HuPAR2プラスミドをトランスフェクトされた細胞の核周囲の細胞内の膜区画内において染色する、有意なGFP蛍光を示した。
図6パネルAの中央の顕微鏡写真。DIC顕微鏡写真及び蛍光顕微鏡写真を重ね合わせると、GFP−HuPAR2が特に核周囲の細胞内の膜区画内において局在化されたことを示す。これらのデータは、HUVEC細胞がシステム、本明細書の方法を使用して、うまくトランスフェクトされたことを示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
この実施例における細胞は、大きなプラスミド(7005塩基対)であるあらかじめ冷凍されたベクターをトランスフェクトされ、本明細書の方法及び先端アセンブリは、遺伝物質をトランスフェクト及び形質導入する際、及び他の方法によってはるかに非効率的であると証明されている環境下において驚くほどより効率的であった。
【0091】
〈実施例6:HUVEC細胞へのEGFP−CDC42プラスミドの導入〉
本明細書の方法及びシステム又はデバイスは、長年実験室において増殖されてきた形質転換細胞よりも、トランスフェクションに対してより繊細かつ通常より脆弱な一次細胞をトランスフェクトすることにより検証された。一次HUVEC(ヒト臍静脈内皮細胞)はこの目的のために選ばれた。
【0092】
HUVECは、EGFP−CDC42(高感度緑色蛍光タンパク質−細胞分裂制御タンパク質42)融合タンパク質をコードするプラスミドをトランスフェクトされた。細胞と混合されたプラスミド濃度は70μg/mlであった。細胞は、トランスフェクションの前に2日間培養することによりコンフルエントとなるようにされ、細胞培養基質から細胞を脱離され、トランスフェクションのために流体中で懸濁された。
【0093】
トランスフェクションは以下のパラメーターを使用して行なわた:流体加速度6μl/s/s、流量160μl/s、循環容量50μl、サイクルの2回連続セットで各セットは2.5mlのシリンジによって促進された先端を介して流体の流出入を25つ有する。63μlの容積は、500,000個の細胞及びプラスミドを含有していた。
【0094】
トランスフェクションの24時間後にレーザー走査蛍光顕微鏡で撮られた細胞の画像は、点状の(又は斑点のある)細胞内EGFP−CDC42蛍光を示した。蛍光は細胞質であり細胞の周囲にあり、CDC42の局所化と一致しており、核から排除された(
図7パネルA)。20つの無作為に選択された20x拡大顕微鏡視野において蛍光性細胞がサンプルされた。結果は、前記細胞の88.2%(135/153)のプールされた平均がEGFP蛍光様のCDC42を表示したことを示した。AMAXA Nucleofactor(商標)(Lonza Cologne GmbH、Cologne、Germany)エレクトロポレーション・ユニットを使用するトランスフェクションは比較のために検証され、トランスフェクションがなかった又はトランスフェクション効率が低い(30%未満)ことが観察された。
【0095】
本明細書の方法及びトランスフェクションデバイスを用いてEGFP−CDC42プラスミドをトランスフェクトされたHUVEC細胞の画像は、画像化前に分裂した細胞内でのEGFP発現のうちの1つを含む(
図7パネルB)。細胞分裂における役割があるタンパク質の発現パターンと一致して、EGFP蛍光は娘細胞間の部位に局在化する。
【0096】
本明細書の方法及びトランスフェクションデバイスを用いてEGFP−CDC42をトランスフェクトされたHUVEC細胞のEGFP蛍光は、正常なPMT感受性で観察され、より高いPMT感受性で観察されたものと比較された(
図7パネルC及びD)。正常なPMT感受性では、ほとんどの蛍光は、大きな果粒へ局在化されることが観察された(
図7パネルC)。より高いPMT感受性では、EGFP−CDC42発現は、よりサイズの小さい多数の細胞内果粒内の細胞のサブセットにおいて検出された(
図7パネルD)。より高いPMT感度で走査することは、正常なPMT感度の大きな果粒で観察された潜在的な自己蛍光をオフセットすることが観察された。より小さな顆粒における蛍光は、走査方式の高感度レーザー光線を用いて光退色することにより検証され、EGFP−CDC42融合タンパク質の発現に特異的なものであることが観察された。
【0097】
上記の実施例は、本明細書に記載されている方法及びデバイスが、一次細胞へのプラスミドの効率的な移動をもたらし、前記プラスミドがmRNAへ転写され、前記mRNAはタンパク質へ翻訳され、そして前記タンパク質は正確な局在化を発現し、それによりトランスフェクションの成功をもたらしたことを実証する。
【0098】
〈実施例7:HUVEC細胞への7kbのEGFP−アクチンプラスミドの導入〉
トランスフェクションの成功は、トランスフェクションに続くmRNAの複製数の測定を用いて検証され得る。mRNAの複製数の測定は、発現されている蛍光性タンパク質特有の性質により蛍光シグナルが弱い場合、又は高い自己蛍光バックグラウンドがある場合のような状況において、有用である。
【0099】
P5マウスからの一次HUVEC細胞は、細胞骨格のアクチンフィラメント成分におけるEGFPアクチンの発現を観察するために、本明細書に記載されている方法及びデバイスを用いてEGFPアクチン融合タンパク質をコードする7kbのプラスミドをトランスフェクトされた。500,000個の細胞は、終末濃度70μg/mlのEGFPアクチン発現プラスミドが加えられ、細胞と混合された1500μl遠心分離チューブ内の100μlのリン酸塩緩衝食塩水において懸濁された。
【0100】
以下のパラメーターがトランスフェクションに用いられた:流体加速6μl/s/s、流量160μl/s、循環容量60μl、使用されたシリンジの容量2.5ml、及び先端を介した流体運動の25サイクルの3連続セットから成る連続するフローサイクル。細胞は培養内で48時間育成され、トランスフェクションから結果として生じるmRNAの産生は、1細胞当たりのmRNAの正確な複製数を測定する方法を使用して評価された。Shih et al. 2005,Exp Mol Pathol 79:14。
【0101】
結果は、
図8パネルA、B及びCに示される。トランスフェクションされたデバイスでトランスフェクトされた細胞は、
図8パネルCにおいてTCとして表示される。対照として、細胞もプラスミドの不在下でトランスフェクションプロトコルを受ける。これらの細胞は、EGFPアクチンmRNAの複製数について検査もされた(
図8パネルCでCTと表示される)。細胞はAMAXA Nucleofector(商標)エレクトロポレーション・ユニットを用いてトランスフェクトもされ、
図8パネルCでAMAXAと表示される。AMAXA Nucleofector(商標)エレクトロポレーターを用いてトランスフェクトされた細胞は、対照細胞については1細胞当たりのmRNAの複製が平均たったの0.08のバックグラウンドであったのに反し、1細胞当たり平均1152.75のmRNAの複製の産生をもたらした。対照的に、トランスフェクションデバイスでトランスフェクトされた細胞は、1細胞当たり平均3652.66のEGFPアクチンmRNAの複製の産生をもたらした(
図8パネルC)。類似の条件下で行なわれた別の試験において、比較可能な平均のmRNAの複製数が観察された(AMAXA Nucleofector(商標)エレクトロポレーターでのトランスフェクションで1細胞当たりmRNAの1152.75の複製対本明細書に記載されているトランスフェクションデバイスでのトランスフェクションで1細胞当たりmRNAの3853.95の複製)。これらの結果は、本明細書に記載されているトランスフェクションデバイスを使用したトランスフェクションが、1細胞当たりのEGFPアクチンmRNAの複製数の劇的な増加をもたらし、そしてこの増加が再現可能であったことを示す。
【0102】
故に、mRNA複製数の測定は、本明細書に記載されている方法及びデバイスが、一次細胞においてでさえ効率的なトランスフェクションを達成するのに有用であることを裏付けた。
【0103】
〈実施例8:ジャーカット細胞への遺伝物質の導入〉
本明細書の方法及びシステムを用いて、トランスフェクション受容体として不応性(refractory)だと知られている細胞であるタイプジャーカット細胞は、EGFP(Addgene、Cambridge、MA)でトランスフェクション効率について検証された。およそ250,000個の細胞が50μlのトランスフェクション培地(transfection medium)、HBSS(ハンクス平衡塩類溶液、Invitrogen Carlsbad、CA)不在のカルシウム又はマグネシウムにおいて懸濁され、0.2%w/vのEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含有した。対照として、模擬のトランスフェクトされたサンプルは、プラスミド不在でトランスフェクトされた。他のトランスフェクションは、プラスミドの2.0μg(細胞との全容量55μl、36μg/ml)、5.0μg(細胞との全容積62.5μl、80μg/ml)、又は10.0μg(細胞の全容積75μl、130μg/ml)を含有していた。トランスフェクション・パラメーターは以下の通りであった:液体加速6μl/s/s、流量160μl/s、2.5mlのシリンジを用いた循環容量60μl、先端を介した25の流出入から成る連続的なサイクル。細胞は培養内で48時間育成され、EGFP蛍光(FL1−Hチャンネル内)はフローサイトメトリー(
図9)を用いて定量化された。
【0104】
細胞の10%がEGFP蛍光の最大強度の50−90%を示したことが観察された。5.0μgのプラスミドで処理された細胞から得られたデータは、プラスミド不在の対照トランスフェクション内で観察されたバックグラウンドレベルよりも高いEGFP蛍光を示した。2.0又は10.0μgのプラスミドのいずれかを用いて観察された蛍光強度は、バックグラウンドレベルにあった。
【0105】
〈実施例9:本明細書のトランスフェクションシステムを用いた一次のマウスの脳の星状細胞のトランスフェクション〉
本明細書に記載されている方法及びトランスフェクションシステム又はデバイスは、幾つかの変更を伴い、一次細胞の別の種類のトランスフェクションを検証するために使用された。
【0106】
一次星状細胞(1−200万個の細胞)はマウス脳から分離され、DMEM培地(ダルベッコ変法イーグル培地、Invitrogen、Carldbad、CA)内で懸濁され、トランスフェクションまで細胞培養インキュベーター(加湿、37°C及び5%CO
2)内で維持された。トランスフェクションのために、細胞は、20μg/mlのEGFP対照プラスミド(Invitrogen、Carlsbad、CA)又は20μg/mlのCy3標識miRNA(AM17011、25塩基対設計RNAオリゴヌクレオチド、Ambion、Austin、TX)を含有する100μlのHBSS(Ca
2+/Mg
2+free)内で遠心分離にかけられ再懸濁された。
【0107】
細胞は以下のように準備された先端を用いてトランスフェクトされた。0.88mmの内径、1.23mmの外径、0.14mmmの壁厚をもつ特注生産のフリントグラスチューブは、本明細書に記載されているような曲率を得るために加熱された。先端の開口部に最も近い、縮小するほぼ円筒状の部分をもつ250μm長のさらなる追加のマイクロチャンネルが、前記先端の構成へ加えられた。前記先端は最終的に直径175から200μmの小さな先端開口部となった。(
図3パネルC及びD)。
【0108】
EGFPプラスミドでのトランスフェクションは、200μmの直径の先端を用いて行われ、Cy3標識miRNAでのトランスフェクションは、175μmの直径の先端を用いて行なわれた。
【0109】
細胞の混合物とEGFPプラスミド又はmiRNAは、本明細書に記載されている方法及びトランスフェクションデバイスを使用して、60−100回反復的に先端を通過した。混合物は60−80μlの循環容量で先端へ引き込まれた。このトランスフェクションで用いられる先端開口部のより小さな直径を考慮して、循環パラメーターは実施例6から8で用いられたもの、実施例2で一般に記載されたものから変更された。流入パラメーターのみが変更された。詰まることなく細胞懸濁が先端へスムーズに移入できるよう、流入速度は50−80μl/sに減らされ、加速は1−4μl/sに減らされた。故に、より低い流入及び最大流出速度(240μl/s)の非対称のサイクルが利用される。トランスフェクション後、細胞は3日間細胞培養インキュベーター内で培養されインキュベートされ、次に、共焦点顕微鏡を用いて画像化のためにスライドガラスに固定され、取り付けられた。
【0110】
より縮小した先端開口部を備え、近接端部に追加のマイクロチャンネルを含有する先端アセンブリ(
図3C及びD)を用いた一次星状細胞のトランスフェクションは、細胞へのEGFPプラスミド又はCy3識別miRNAのトランスフェクションの成功をもたらした。トランスフェクションの3日後に観察された代表的な画像は、
図10パネルA−Fに示される。パネルA及びBは、EGFP蛍光強度の変動レベルをもつ細胞を示す。パネルCは、バックグラウンド蛍光と同等又はほんの少し高い蛍光強度を備えた細胞のクラスター中の一つの明るい蛍光性細胞を示す。
図Dは、トランスフェクトされた一次星状細胞の蛍光画像の、同じ細胞の明視野画像上への重ね合わせを示す画像である。画像は、高感度蛍光トランスフェクトされた細胞は、一次マウス脳星状細胞の形態特性を有する培養基質上に広がることを示す。
【0111】
上記のバックグラウンドの蛍光を有する細胞を観察することにより、トランスフェクションの1日後に測定されたトランスフェクション効率は、13.8%(5つの異なる顕微鏡視野から237個の細胞)であると測定された。効率は、トランスフェクションの3日後には29.8%まで上昇することが観察された(13の異なる顕微鏡視野から188個の細胞)。
【0112】
パネルE及びFは、細胞の細胞質における内部以降されたCy3標識miRNAの中等レベル(パネルE)又は高いかバックグラウンドレベル(パネルF)のどちらかを有しているトランスフェクトされた一次マウス脳星状細胞を示す。miRNAは核から排除される。標識miRNAは、小さな丸い蛍光性スポットとして現れる。バックグラウンドより上に蛍光を有する細胞を観察することにより、トランスフェクションの3日後に測定されたトランスフェクション効率は、40.9%(3つの顕微鏡視野から41個の細胞)であると測定された。
【0113】
この実施例はさらに、一次細胞のトランスフェクションの成功のために、本明細書に記載されている方法及びトランスフェクションデバイスの適用可能性を実証し、それによって、本明細書の方法及びデバイスの実用性を拡大する。
【0114】
〈実施例10:本明細書のシステム及び方法を用いた細胞内の遺伝物質の発現〉
本明細書に記載されているシステム及び方法は、次のものから成る群から選ばれた細胞へ遺伝物質を導入するために使用される:上皮細胞、造血性細胞、幹細胞、脾臓細胞、腎細胞、膵臓細胞、肝細胞、神経細胞、膠細胞、平滑又は横紋筋細胞、精細胞、心細胞、肺細胞、眼球細胞、骨髄細胞、胎児臍帯血細胞、始原細胞、末梢血単核細胞、白血球細胞、リンパ球、生きている分裂終了細胞、生理学的に不活発な細胞、阻害された細胞、UV不活性化細胞、除核細胞、無核細胞、熱殺菌された細胞、非再生細胞、原核細胞、及び人工膜を有する合成細胞。
【0115】
細胞とGFP−HuPAR2をコードするプラスミド(実施例5参照)又は別のプラスミドとの混合物、又は、例えば、治療上のタンパク質だけをコードするプラスミド又はEGFPのような蛍光性タンパク質をコードするレポータープラスミドをもつプラスミドの混合物を含有する流体は、本明細書のトランスフェクションデバイスの先端へ反復的に引き込まれそして押し出され、流体サイクルを生み出した。(実施例2及び
図2)。流体サイクルは、トランスフェクションをもたらす。前記システムは、実施例3−4及び
図3−4に記載されている先端アセンブリを使用する。トランスフェクションの後、育成培地が加えられ、細胞は12−24時間37°C及び5%のCO
2でインキュベートされる。次に前記細胞は、レーザー走査共焦点蛍光顕微及びコントラストが高められた明視野顕微鏡を用いて、生存率について評価され、さらには視覚化される。細胞は、トランスフェクションのために負の対照をもたらすためにプラスミドの不在下でトランスフェクトされる。