【文献】
江頭伸昭他、日薬理誌(Folia Pharmacol.Jpn)、2010年、 136巻5号、275−279頁,文献全体
【文献】
Dr. Ellen Smith, et al., Treating Pain from Chemotherapy-induced Peripheral Neuropathy, NCL Cancer B,文献全体
【文献】
Sarah J.L. Flatters, et al., Acetyl-l-carnitine prevents and reduces paclitaxel-induced painful peripheral neuropathy,Neuroscience Letters, 2006, 397(3), pp219-223
【文献】
Patrick M. Dougherty, et al., Taxol-induced sensory disturbance is characterized by preferential imp,文献全体
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防及び/又は治療のための医薬であって、該抗癌剤がタキサン系薬剤及び白金製剤からなる群より選択される1種類以上であって、トロンボモジュリンを有効成分として含有する該医薬。
卵巣癌、非小細胞癌、乳癌、胃癌、子宮体癌、頭頸部癌、食道癌、小児腫瘍、悪性星細胞腫、神経膠腫、絨毛性疾患、胚細胞腫瘍、肺癌、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿道腫瘍、前立腺癌、子宮頸癌、神経芽細胞種、小細胞肺癌、骨肉種、悪性胸膜中皮種、悪性骨腫瘍、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌を患った癌患者に投与される請求項1〜14のいずれかに記載の医薬。
トロンボモジュリンが形質転換細胞(該形質転換細胞は、下記(i−1)又は(i−2)のいずれかのアミノ酸配列をコードするDNAが宿主細胞にトランスフェクトされた形質転換細胞である)より取得されるペプチドであって、該ペプチドがトロンボモジュリン活性を有するペプチドである請求項1〜16のいずれかに記載の医薬。
(i−1)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列、又は
(i−2)上記(i−1)との相同性が90%以上であるアミノ酸配列。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、抗癌剤による治療に起因する末梢性神経障害性疼痛に対して有効な予防及び/又は治療を可能にする医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、抗癌剤に起因する神経障害に対処するために抗癌剤の減量や抗癌剤投与の中断を余儀なくされるという現状、及び抗癌剤に起因する神経障害に対して有効な予防法及び治療法が未だ確立されていないという現状を問題点として強く認識し、抗癌剤に起因する神経障害、その中でも抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛を効果的に予防及び/又は治療するための医薬を提供することが重要な課題であると考えた。抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛は日常生活を困難にし、癌治療中止の最大要因の一つであるため、抗癌剤に起因する異痛症の問題を解決することは、患者の生活の質を向上させるのみならず、癌治療の継続という意味から、癌治療において重要と考えたからである。
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことにトロンボモジュリンが、抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛、具体的には異痛症に対して優れた予防及び/又は治療効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。これまでにトロンボモジュリンが抗癌剤に起因する神経障害、さらには抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛を予防及び/又は治療するということは報告も示唆もされていない。また、特許文献9には、造血細胞移植の前処置による浮腫や腹水の貯留等による体重増加を伴う疼痛に効果があることが開示されている。しかしながら、抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛についてはなんら開示、示唆は無い。
【0015】
すなわち。本発明としては、以下のものが挙げられる。
〔1〕抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防及び/又は治療のための医薬であって、トロンボモジュリンを有効成分として含有する該医薬。
〔2〕トロンボモジュリンが可溶性トロンボモジュリンある上記〔1〕に記載の医薬。
〔3〕トロンボモジュリンがヒトトロンボモジュリンである上記〔1〕に記載の医薬。
〔4〕末梢性神経障害性疼痛が四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下、異痛症、痛覚過敏及び運動機能障害からなる群より選択される1種類以上である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の医薬。
【0016】
〔5〕末梢神経障害性疼痛が異痛症である上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の医薬。
〔6〕異痛症が機械的異痛症である上記〔5〕に記載の医薬。
〔6−2〕異痛症が冷異痛症である上記〔5〕に記載の医薬
〔7〕抗癌剤が、タキサン系薬剤及び白金製剤からなる群より選択される1種類以上である、上記〔1〕〜〔6−2〕のいずれかに記載の医薬。
〔7−2〕タキサン系薬剤がパクリタキセル及びドセタキセルからなる群より選択される1種類以上である上記〔7〕に記載の医薬。
〔7−3〕白金製剤がオキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン、及びネダプラチンからなる群より選択される1種類以上である上記〔7〕に記載の医薬。
【0017】
〔8〕抗癌剤がパクリタキセルである上記〔1〕〜〔6−2〕のいずれかに記載の医薬。
〔8−2〕抗癌剤がオキサリプラチンである上記〔1〕〜〔6−2〕のいずれかに記載の医薬。
〔9〕抗癌剤がFOLFOX療法又はFOLFIRI療法で投与される上記〔1〕〜〔6−2〕のいずれかに記載の医薬。
〔10〕トロンボモジュリンが間歇投与される上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の医薬。
【0018】
なお、上記〔1〕〜〔9〕のように引用する項番号が範囲で示され、その範囲内に〔7−2〕等の枝番号を有する項が配置されている場合には、〔7−2〕等の枝番号を有する項も引用されることを意味する。以下においても同様である。
【0019】
〔10−2〕間歇投与が一週間に一回の投与である上記〔10〕に記載の医薬。
〔10−3〕間歇投与が毎日投与である上記〔10〕に記載の医薬。
〔10−4〕トロンボモジュリンが一週間に一回投与される上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の医薬。
〔10−5〕トロンボモジュリンが毎日投与される上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の医薬。
【0020】
〔11〕卵巣癌、非小細胞癌、乳癌、胃癌、子宮体癌、頭頸部癌、食道癌、白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、神経膠腫、絨毛性疾患、胚細胞腫瘍、肺癌、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿道腫瘍、前立腺癌、子宮頸癌、神経芽細胞種、小細胞肺癌、骨肉種、悪性胸膜中皮種、悪性骨腫瘍、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌を患った癌患者に投与されることを特徴とする上記〔1〕〜〔10−5〕のいずれかに記載の医薬。
【0021】
〔12〕抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防及び/又は治療のために抗癌剤と組み合わせて投与するための医薬であって、トロンボモジュリンを有効成分として含有する該医薬。
〔12−2〕抗癌剤がタキサン系薬剤又は白金製剤である上記〔12〕に記載の医薬。
〔12−3〕抗癌剤がパクリタキセルである上記〔12〕に記載の医薬。
〔12−4〕抗癌剤がオキサリプラチンである上記〔12〕に記載の医薬。
【0022】
〔13〕トロンボモジュリンが、下記(i−1)又は(i−2)のいずれかのアミノ酸配列をコードするDNAを宿主細胞にトランスフェクトして調製された形質転換細胞より取得されるペプチドであって、該ペプチドがトロンボモジュリン活性を有するペプチドある上記〔1〕〜〔12−4〕のいずれかに記載の医薬。
(i−1)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列、又は
(i−2)上記(i−1)のアミノ酸配列の1つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
〔13−2〕トロンボモジュリンが、下記(i−1)のアミノ酸配列をコードするDNAを宿主細胞にトランスフェクトして調製された形質転換細胞より取得されるペプチドであって、該ペプチドがトロンボモジュリン活性を有するペプチドある上記〔1〕〜〔12−4〕のいずれかに記載の医薬。
(i−1)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列。
【0023】
〔14〕トロンボモジュリンが、下記(i−1)又は(i−2)のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチドであって、該ペプチドがトロンボモジュリン活性を有するペプチドである上記〔1〕〜〔12−4〕のいずれかに記載の医薬;
(i−1)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜516位のアミノ酸配列、又は
(i−2)上記(i−1)のアミノ酸配列の1つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
〔14−2〕トロンボモジュリンが、下記(i−1)のアミノ酸配列を含むペプチドであって、該ペプチドがトロンボモジュリン活性を有するペプチドである上記〔1〕〜〔12−4〕のいずれかに記載の医薬;
(i−1)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜516位のアミノ酸配列。
【0024】
〔14−3〕トロンボモジュリンが、
(i)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第367〜480位のアミノ酸配列を含み、かつ下記(ii−1)又は(ii−2)のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチドであって、該ペプチドがトロンボモジュリン活性を有するペプチドである上記〔1〕〜〔12−4〕のいずれかに記載の医薬;
(ii−1)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜244位のアミノ酸配列、又は
(ii−2)上記(ii−1)のアミノ酸配列の1つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
【0025】
〔14−4〕トロンボモジュリンが、
(i)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第367〜480位のアミノ酸配列を含み、かつ下記(ii−1)のアミノ酸配列を含むペプチドであって、該ペプチドがトロンボモジュリン活性を有するペプチドである上記〔1〕〜〔12−4〕のいずれかに記載の医薬;
(ii−1)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜244位のアミノ酸配列。
【0026】
〔15〕抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防及び/又は治療のための方法であって、トロンボモジュリンを哺乳動物に投与する工程を含む該方法。
〔15−2〕上記〔1〕〜〔14−4〕に記載の特徴を有する上記〔15〕に記載の方法。
〔16〕抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防及び/又は治療のための医薬を製造するためのトロンボモジュリンの使用。
〔16−2〕上記〔1〕〜〔14−4〕に記載の特徴を有する上記〔16〕に記載の使用。
【0027】
〔17〕抗癌剤を投与されている哺乳類動物に対して該抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防及び/又は治療のための方法であって、トロンボモジュリンを該哺乳動物に投与する工程を含む該方法。
〔17−2〕上記〔1〕〜〔14−4〕に記載の特徴を有する上記〔17〕に記載の方法。
〔17−3〕該抗癌剤と同時に、又は時間を変えてトロンボモジュリンを該哺乳動物に投与する工程を含む上記〔17〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明により抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛を効果的に予防及び/又は治療することが可能となる。これまで抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛に対処するため、抗癌剤の減量や癌化学療法の中断を余儀なくされていたが、本発明によって適切な癌化学療法を継続することが可能となり、患者の生活の質の向上に対して貢献することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明をいくつかの好ましい態様(本発明を実施するための好ましい形態:以下、本明細書において「実施の形態」と略すことがある)について具体的に説明するが、本発明の範囲は下記に説明する特定の態様に限定されることはない。
【0031】
本実施の形態の抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防剤及び/又は治療剤の有効成分として有用なトロンボモジュリンとしては可溶性のトロンボモジュリンが挙げられる。
【0032】
本実施の形態におけるトロンボモジュリンは、(1)トロンビンと選択的に結合して(2)トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用を有することが知られている。また、(3)トロンビンによる凝固時間を延長する作用、(4)トロンビンによる血小板凝集を抑制する作用、及び/又は(5)抗炎症作用が通常認められることが好ましい。これらトロンボモジュリンの持つ作用をトロンボモジュリン活性と呼ぶことがある。
トロンボモジュリン活性としては、上記(1)及び(2)の作用を有し、さらに上記(1)〜(4)の作用を有していることが好ましい。また、トロンボモジュリン活性としては、(1)〜(5)の作用を全て備えていることがより好ましい。
【0033】
トロンボモジュリンのトロンビンとの結合作用は、例えば、Thrombosis and Haemostasis 1993 70(3):418−422やThe Journal of Biological Chemistry 1989 264(9):4872−4876を初めとする各種の公知文献に記載の試験方法により確認できる。トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用は、例えば、特開昭64−6219号公報を初めとする各種の公知文献に明確に記載された試験方法によりプロテインCの活性化を促進する作用の活性量やその有無を容易に確認できるものである。また、トロンビンによる凝固時間を延長する作用、及び/又はトロンビンによる血小板凝集を抑制する作用についても同様に容易に確認できる。さらには、抗炎症作用についても、例えばBlood 2008 112:3361−3670、The Journal of Clinical Investigation 2005 115(5):1267−1274を初めとする各種の公知文献に記載の試験方法により確認できる。
【0034】
本実施の形態におけるトロンボモジュリンとしては、トロンボモジュリン活性を有していれば特に限定されないが、界面活性剤の非存在下で水に可溶な可溶性トロンボモジュリンであることが好ましい。可溶性トロンボモジュリンの溶解性の好ましい例示としては、水、例えば注射用蒸留水に対して(トリトンX−100やポリドカノール等の界面活性剤の非存在下、通常は中性付近にて)、1mg/mL以上、または10mg/mL以上が挙げられ、好ましくは15mg/mL以上、または17mg/mL以上が挙げられ、さらに好ましくは20mg/mL以上、25mg/mL以上、または30mg/mL以上が例示され、特に好ましくは60mg/mL以上が挙げられ、場合によっては、80mg/mL以上、または100mg/mL以上がそれぞれ挙げられる。可溶性トロンボモジュリンが溶解し得たか否かを判断するに当たっては、溶解した後に、例えば白色光源の直下、約1000ルクスの明るさの位置で、肉眼で観察した場合に、澄明であって、明らかに認められるような程度の不溶性物質を含まないことが端的な指標となるものと理解される。また、濾過して残渣の有無を確認することもできる。
【0035】
トロンボモジュリンは上記に示した通り、トロンボモジュリン活性を有していれば、その分子量は限定されないが、分子量の上限としては100,000以下が好ましく、90,000以下がより好ましく、80,000以下がさらに好ましく、70,000以下が特に好ましく、分子量の下限としては、50,000以上がさらに好ましく、60,000以上が特に好ましい。可溶性トロンボモジュリンの分子量は、たん白質の分子量を測定する通常の方法で容易に測定が可能であるが、質量分析法にて測定することが好ましく、MALDI−TOF−MS法がより好ましい。目的の範囲の分子量の可溶性トロンボモジュリンを取得するためには、後述の通り、可溶性トロンボモジュリンをコードするDNAをベクターにより宿主細胞にトランスフェクトして調製された形質転換細胞を培養することにより取得される可溶性トロンボモジュリンをカラムクロマトグラフィー等により分画することで取得することができる。
【0036】
本実施の形態におけるトロンボモジュリンとしては、ヒト型のトロンボモジュリンにおいてトロンボモジュリン活性の中心部位として知られている配列番号1の第19〜132位のアミノ酸配列を包含していることが好ましく、配列番号1の第19〜132位のアミノ酸配列を包含していれば特に限定されない。該配列番号1の第19〜132位のアミノ酸配列は、トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用、すなわちトロンボモジュリン活性を有する限り自然または人工的に変異していてもよく、すなわち配列番号1の第19〜132位のアミノ酸配列において1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加していても良い。許容される変異の程度は、トロンボモジュリン活性を有すれば特に限定されないが、例えばアミノ酸配列として50%以上の相同性が例示され、70%以上の相同性が好ましく、80%以上の相同性がより好ましく、90%以上の相同性がさらに好ましく、95%以上の相同性が特に好ましく、98%以上の相同性が最も好ましい。このようにアミノ酸配列の1つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加しているアミノ酸配列を相同変異配列という。これらの変異については後述の通り、通常の遺伝子操作技術を用いれば容易に取得可能である。トロンボモジュリンは上記配列を有し、少なくともトロンボモジュリン全体としてトロンビンと選択的に結合してトロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用を有していれば特に限定されないが、同時に抗炎症作用を有することが好ましい。
【0037】
配列番号3の配列は、配列番号1の第125位のアミノ酸であるValがAlaに変異したものであるが、本実施の形態におけるトロンボモジュリンとして、配列番号3の第19〜132位のアミノ酸配列を包含していることも好ましい。
【0038】
このように本実施の形態におけるトロンボモジュリンとしては、配列番号1もしくは配列番号3の第19〜132位の配列、またはそれらの相同変異配列を少なくとも有し、少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチド配列を包含していれば特に限定されないが、配列番号1もしくは配列番号3における第19〜132位もしくは第17〜132位の配列からなるペプチド、または上記配列の相同変異配列からなり少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチドが好ましい例として挙げられ、配列番号1もしくは配列番号3の第19〜132位の配列からなるペプチドがより好ましい。また、配列番号1もしくは配列番号3における第19〜132位もしくは第17〜132位の相同変異配列からなり少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチドがより好ましい別の態様もある。
【0039】
また、本実施の形態におけるトロンボモジュリンの別の態様として、配列番号5の第19〜480位のアミノ酸配列を包含していることが好ましく、配列番号5の第19〜480位のアミノ酸配列を包含していれば特に限定されない。該配列番号5の第19〜480位のアミノ酸配列は、トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用、すなわちトロンボモジュリン活性を有する限りその相同変異配列であってもよい。
【0040】
配列番号7の配列は、配列番号5の第473位のアミノ酸であるValがAlaに変異したものであるが、本実施の形態におけるトロンボモジュリンとして、配列番号7の第19〜480位のアミノ酸配列を包含していることも好ましい。
【0041】
このように本実施の形態におけるトロンボモジュリンとしては、配列番号5もしくは配列番号7の第19〜480位の配列、またはそれらの相同変異配列を少なくとも有し、少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチド配列を包含していれば特に限定されないが、配列番号5もしくは配列番号7における第19〜480位もしくは第17〜480位の配列からなるペプチド、または上記配列の相同変異配列からなり少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチドが好ましい例として挙げられ、配列番号5もしくは配列番号7の第19〜480位の配列からなるペプチドがより好ましい。また、配列番号5もしくは配列番号7における第19〜480位もしくは第17〜480位の相同変異配列からなり少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチドがより好ましい別の態様もある。
【0042】
また本実施の形態におけるトロンボモジュリンの別の態様として、配列番号9の第19〜515位のアミノ酸配列を包含していることが好ましく、配列番号9の第19〜515位のアミノ酸配列を包含していれば特に限定されない。該配列番号9の第19〜515位のアミノ酸配列は、トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用、すなわちトロンボモジュリン活性を有する限りその相同変異配列であってもよい。
【0043】
配列番号11の配列は、配列番号9の第473位のアミノ酸であるValがAlaに変異したものであるが、本実施の形態におけるトロンボモジュリンとして、配列番号11の第19〜515位のアミノ酸配列を包含していることも好ましい。
【0044】
このように本実施の形態におけるトロンボモジュリンとしては、配列番号9もしくは配列番号11の第19〜515位の配列、またはそれらの相同変異配列を少なくとも有し、少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチド配列を包含していれば特に限定されないが、配列番号9もしくは配列番号11における第19〜516位、第19〜515位、第17〜516位、もしくは第17〜515位の配列からなるペプチド、または上記配列の相同変異配列からなり少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチドがより好ましい例として挙げられ、配列番号9における第19〜516位、第19〜515位、第17〜516位、もしくは第17〜515位の配列からなるペプチドが特に好ましい。これらの混合物も好ましい例として挙げられる。また、配列番号11における第19〜516位、第19〜515位、第17〜516位、もしくは第17〜515位の配列からなるペプチドが特に好ましい別の態様もある。これらの混合物も好ましい例として挙げられる。さらにそれらの相同変異配列からなり、少なくともトロンボモジュリン活性を有するぺプチドも好ましい例として挙げられる。トロンボモジュリンは、同時に抗炎症作用を有することが好ましい。
【0045】
相同変異配列を有するペプチドとは、上述した通りであるが、対象とするペプチドのアミノ酸配列中1つ以上、すなわち1つまたは複数のアミノ酸、さらに好ましくは数個(例えば1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個)のアミノ酸が置換、欠失、付加していてもよいペプチドをも意味する。許容される変異の程度は、トロンボモジュリン活性を有すれば特に限定されないが、例えばアミノ酸配列として50%以上の相同性が例示され、70%以上の相同性が好ましく、80%以上の相同性がより好ましく、90%以上の相同性がさらに好ましく、95%以上の相同性が特に好ましく、98%以上の相同性が最も好ましい。
【0046】
さらに、本実施の形態におけるトロンボモジュリンとしては、特開昭64−6219における配列番号14(462アミノ酸残基)からなるペプチド、配列番号8(272アミノ酸残基)からなるペプチド、または配列番号6(236アミノ酸残基)からなるペプチドも好ましい例として挙げられる。
【0047】
本実施の形態におけるトロンボモジュリンとしては、配列番号1または配列番号3の第19〜132位のアミノ酸配列を少なくとも有しているペプチドであれば特に限定されないが、その中でも配列番号5または配列番号7の第19〜480位のアミノ酸配列を少なくとも有しているペプチドであることが好ましく、配列番号9もしくは配列番号11の第19〜515位のアミノ酸配列を少なくとも有しているペプチドであることがより好ましい。配列番号9もしくは配列番号11の第19〜515位のアミノ酸配列を少なくとも有しているペプチドとしては、配列番号9もしくは配列番号11のそれぞれにおける第19〜516位、第19〜515位、第19〜514位、第17〜516位、第17〜515位、もしくは第17〜514位の配列からなるペプチドがより好ましい例として挙げられる。また、配列番号9もしくは配列番号11のそれぞれにおける第19〜516位、第19〜515位、第19〜514位、第17〜516位、第17〜515位、もしくは第17〜514位の配列からなるペプチドの、配列番号9もしくは配列番号11それぞれについての混合物もより好ましい例として挙げられる。
【0048】
上記混合物の場合、配列番号9もしくは配列番号11のそれぞれにおける第17位から始まるペプチドと第19位から始まるペプチドの混合割合としては、(30:70)〜(50:50)が例示され、(35:65)〜(45:55)が好ましい例として挙げられる。
また、配列番号9もしくは配列番号11のそれぞれにおける第514位、第515位、及び第516位で終わるペプチドの混合割合としては、(0:0:100)〜(0:90:10)が例示され、場合によっては、(0:70:30)〜(10:90:0)、(10:0:90)〜(20:10:70)が例示される。
これらペプチドの混合割合は、通常の方法により求めることができる。
【0049】
なお、配列番号1の第19〜132位の配列は、配列番号9の第367〜480位の配列に相当し、配列番号5の第19〜480位の配列は、配列番号9の第19〜480位の配列に相当する。また、配列番号3の第19〜132位の配列は、配列番号11の第367〜480位の配列に相当し、配列番号7の第19〜480位の配列は、配列番号11の第19〜480位の配列に相当する。さらに、配列番号1、3、5、7、9、および11のそれぞれにおける第1〜18位の配列は、全て同一の配列である。
【0050】
これら本実施の形態におけるトロンボモジュリンは後述の通り、これらのペプチドをコードするDNA(具体的には、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、または配列番号12等の塩基配列)をベクターにより宿主細胞にトランスフェクトして調製された形質転換細胞より取得することができる。
【0051】
さらに、これらのペプチドは、前記のアミノ酸配列を有すればよく、糖鎖が付いていても、また付いていなくともよく、この点は特に限定されるものではない。また遺伝子操作においては、使用する宿主細胞の種類により、糖鎖の種類や、付加位置や付加の程度は相違するものであり、いずれも用いることができる。糖鎖の結合位置および種類については、特開平11−341990号公報に記載の事実が知られており、本実施の形態におけるトロンボモジュリンについても同様の位置に同様の糖鎖が付加する場合がある。本実施の形態のトロンボモジュリンにはフコシルバイアンテナリー型とフコシルトリアンテナリー型の2種類のN結合型糖鎖が結合し、その比率は(100:0)〜(60:40)が例示され、(95:5)〜(60:40)が好ましく、(90:10)〜(70:30)がより好ましい例として挙げられる。これらの糖鎖の比率は、生物化学実験法23 糖蛋白質糖鎖研究法、学会出版センター(1990年)などに記載の2次元糖鎖マップによって測定できる。さらに、本実施の形態のトロンボモジュリンの糖組成を調べると、中性糖、アミノ糖及びシアル酸が検出され、たん白質含量に対し、それぞれ独立に重量比で1〜30%の比率が例示され、2〜20%が好ましく、5〜10%がより好ましい。これら糖含量は、新生化学実験講座3 糖質I糖タンパク質(上)、東京化学同人(1990年)に記載の方法(中性糖:フェノール−硫酸法、アミノ糖:エルソン−モルガン法、シアル酸:過ヨウ素酸−レゾルシノール法)によって測定できる。
後述の通り、トロンボモジュリンの取得は遺伝子操作により取得することに限定されるものではないが、遺伝子操作により取得する場合には、発現に際して用いることができるシグナル配列としては、配列番号9の第1〜18位のアミノ酸配列をコードする塩基配列、配列番号9の第1〜16位のアミノ酸配列をコードする塩基配列、その他公知のシグナル配列、例えば、ヒト組織プラスミノゲンアクチベータのシグナル配列を利用することができる(国際公開88/9811号公報)。
【0052】
トロンボモジュリンをコードするDNA配列を宿主細胞へ導入する場合には、好ましくはトロンボモジュリンをコードするDNA配列を、ベクター、特に好ましくは、動物細胞において発現可能な発現ベクターに組み込んで導入する方法が挙げられる。発現ベクターとは、プロモーター配列、mRNAにリボソーム結合部位を付与する配列、発現したい蛋白をコードするDNA配列、スプライシングシグナル、転写終結のターミネーター配列、複製起源配列などで構成されるDNA分子であり、好ましい動物細胞発現ベクターの例としては、Mulligan RCら[Proc Natl Acad Sci USA 1981,78:2072−2076]が報告しているpSV2−Xや、Howley PMら[Methods in Emzymology 1983,101:387−402、Academic Press]が報告しているpBP69T(69−6)などが挙げられる。また、微生物において発現可能な発現ベクターに組み込む別の好ましい態様もある。
【0053】
これらのペプチドを製造するに際して用いることのできる宿主細胞としては、動物細胞が挙げられる。動物細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS−1細胞、COS−7細胞、VERO(ATCC CCL−81)細胞、BHK細胞、イヌ腎由来MDCK細胞、ハムスターAV−12−664細胞等が、またヒト由来細胞としてHeLa細胞、WI38細胞、ヒト293細胞、PER.C6細胞が挙げられる。CHO細胞が極めて一般的であり好ましく、CHO細胞においては、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)欠損CHO細胞がさらに好ましい。
【0054】
また、遺伝子操作の過程やペプチドの製造過程において、大腸菌等の微生物も多く使われ、それぞれに適した宿主−ベクター系を使用することが好ましく、上述の宿主細胞においても、適宜のベクター系を選択することができる。遺伝子組換え技術に用いるトロンボモジュリンの遺伝子は、クローニングされており、そしてトロンボモジュリンの遺伝子組換え技術を用いた製造例が開示されており、さらにはその精製品を得るための精製方法も知られている[特開昭64−6219号公報、特開平2−255699号公報、特開平5−213998号公報、特開平5−310787号公報、特開平7−155176号公報、J Biol Chem 1989,264:10351−10353]。したがって本実施の形態で用いるトロンボモジュリンは、上記の報告に記載されている方法を用いることにより、あるいはそれらに記載の方法に準じることにより製造することができる。例えば特開昭64−6219号公報では、全長のトロンボモジュリンをコードするDNAを含むプラスミドpSV2TMJ2を含む、Escherichia coli K−12 strain DH5(ATCC寄託番号67283号)が開示されている。また、この菌株を生命研(現独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)の菌株(Escherichia coli DH5/pSV2TM J2)(FERM BP−5570)を用いることもできる。この全長のトロンボモジュリンをコードするDNAを原料として、公知の遺伝子操作技術によって、本実施の形態のトロンボモジュリンを調製することができる。
【0055】
本実施の形態におけるトロンボモジュリンは、従来公知の方法またはそれに準じて調製すればよいが、例えば、前記山本らの方法[特開昭64−6219号公報]、または特開平5−213998号公報を参考にすることができる。すなわちヒト由来のトロンボモジュリン遺伝子を遺伝子操作技術により、例えば、配列番号9のアミノ酸配列をコードするDNAとなし、さらに必要に応じた改変を行うことも可能である。この改変としては、例えば、配列番号11のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号12の塩基配列よりなる)となすために、配列番号9の第473位のアミノ酸をコードするコドン(特に、配列番号10の第1418位の塩基)に、Zoller MJら[Methods in Enzymology 1983,100:468−500、Academic Press]の方法に従って、部位特異的変異を行う。例えば、配列番号10の第1418位の塩基Tは、配列番号13に示された塩基配列を有する変異用合成DNAを用いて塩基Cに変換したDNAとなすことができる。
【0056】
このようにして調製したDNAを、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に組み込んで、形質転換細胞とし、適宜選択し、この細胞を培養して得た培養液から、公知の方法により精製されたトロンボモジュリンが製造できる。前述の通り配列番号9のアミノ酸配列をコードするDNA(配列番号10)を前記宿主細胞にトランスフェクトすることが好ましい。
本実施の形態におけるトロンボモジュリンの生産方法は、上記の方法に限定されるものではなく、例えば、尿や血液、その他体液等から抽出精製することでも可能であるし、またトロンボモジュリンを生産する組織またはこれら組織培養液等から抽出精製することも、また必要によりさらに蛋白分解酵素により切断処理することも可能である。
【0057】
上記の形質転換細胞を培養するにあたっては、通常の細胞培養に用いられる培地を使用することが可能であり、その形質転換細胞を各種の培地にて事前に培養して、最適の培地を選択することが好ましい。例えば、MEM培地、DMEM培地、199培地などの公知の培地を基本培地とし、さらに改良あるいは各種培地用のサプリメントを添加した培地を使用すればよい。培養方法としては、血清を添加した培地で培養する血清培養、又は血清を添加しない培地で培養する無血清培養が挙げられる。培養方法は特に限定されることはないが、無血清培養が好ましい。
【0058】
血清培養において、培地に血清を添加する場合はウシ血清が好ましい。ウシ血清には、ウシ胎児血清、新生仔ウシ血清、仔ウシ血清、成牛血清などがあるが、細胞培養に適したものであれば、どれを使用してもよい。一方、無血清培養において、使用する無血清培地は、市販の培地を使用することが可能である。各種細胞に適した無血清培地が市販されており、例えばCHO細胞に対しては、インビトロジェン社からCD−CHO、CHO−S−SFMII、CHO−III−PFMが、アーバイン サイエンティフィック社からIS CHO、IS CHO−CD培地などが販売されている。これらの培地をそのまま、改良あるいはサプリメントを添加して使用してもよい。さらに、無血清培地としては、インスリン、トランスフェリン、及び亜セレン酸をそれぞれ5mg/Lとなるように添加したDMEM培地が例示される。このように、本実施の形態のトロンボモジュリンを産生できる培地であれば、特に限定されない。培養方法は特に限定されず、バッチ培養、繰り返しバッチ培養、フェドバッチ培養、灌流培養等どのような培養法でもよい。
【0059】
上記細胞培養方法により本実施の形態におけるトロンボモジュリンを製造する場合、タンパク質の翻訳後修飾により、N末端アミノ酸に多様性が認められる場合がある。例えば、配列番号9における第17位、18位、19位、もしくは22位のアミノ酸がN末端となる場合がある。また、例えば第22位のグルタミン酸がピログルタミン酸に変換されるように、N末端アミノ酸が修飾される場合もある。第17位または19位のアミノ酸がN末端となることが好ましく、第19位のアミノ酸がN末端となることがより好ましい。また、第17位のアミノ酸がN末端となることが好ましい別の態様もある。以上の修飾や多様性等については配列番号11についても同様な例が挙げられる。
【0060】
さらに、配列番号10の塩基配列を有するDNAを用いて可溶性トロンボモジュリンを製造する場合、C末端アミノ酸の多様性が認められることがあり、1アミノ酸残基短いペプチドが製造される場合がある。すなわち、第515位のアミノ酸がC末端となり、さらに該第515位がアミド化されるといったように、C末端アミノ酸が修飾される場合がある。また、2アミノ酸残基短いペプチドが製造される場合もある。すなわち、第514位のアミノ酸がC末端となる場合がある。したがって、N末端アミノ酸とC末端アミノ酸が多様性に富んだペプチド、又はそれらの混合物が製造されることがある。第515位のアミノ酸又は第516位のアミノ酸がC末端となることが好ましく、第516位のアミノ酸がC末端となることがより好ましい。また、第514位のアミノ酸がC末端になることが好ましい別の態様もある。以上の修飾や多様性等については配列番号12の塩基配列を有するDNAについても同様である。
【0061】
上記方法で得られるトロンボモジュリンは、N末端及びC末端に多様性が認められるペプチドの混合物である場合がある。具体的は、配列番号9における第19〜516位、第19〜515位、第19〜514位、第17〜516位、第17〜515位、もしくは第17〜514位の配列からなるペプチドの混合物が挙げられる。
【0062】
次いで上記により取得された培養上清、または培養物からのトロンボモジュリンの単離精製方法は、公知の手法[堀尾武一編集、蛋白質・酵素の基礎実験法、1981]に準じて行うことができる。例えば、トロンボモジュリンと逆の電荷を持つ官能基を固定化したクロマトグラフィー担体と、トロンボモジュリンの間の相互作用を利用したイオン交換クロマトグラフィーや吸着クロマトグラフィーの使用も好ましい。また、トロンボモジュリンとの特異的親和性を利用したアフィニティークロマトグラフィーも好ましい例として挙げられる。吸着体の好ましい例として、トロンボモジュリンのリガンドであるトロンビンやトロンボモジュリンの抗体を利用する例が挙げられる。この抗体としては、適宜の性質、あるいは適宜のエピトープを認識するトロンボモジュリンの抗体を利用することができ、例えば、特公平5−42920号公報、特開昭64−45398号公報、特開平6−205692号公報などに記載された例が挙げられる。また、トロンボモジュリンの分子量サイズを利用した、ゲル濾過クロマトグラフィーや限外濾過が挙げられる。そしてまた、疎水性基を固定化したクロマトグラフィー担体と、トロンボモジュリンのもつ疎水性部位との間の疎水結合を利用した疎水性クロマトグラフィーが挙げられる。また、吸着クロマトグラフィーとしてハイドロキシアパタイトを担体として用いることも可能であり、例えば、特開平9−110900号公報に記載した例が挙げられる。これらの手法は適宜組み合わせることができる。精製の程度は、使用目的等により選択できるが、例えば電気泳動、好ましくはSDS−PAGEの結果が単一バンドとして得られるか、もしくは単離精製品のゲル濾過HPLCまたは逆相HPLCの結果が単一のピークになるまで純粋化することが望ましい。もちろん、複数種のトロンボモジュリンを用いる場合には、実質的にトロンボモジュリンのみのバンドになることが好ましいのであり、単一のバンドになることを求めるものではない。
【0063】
本実施の形態における精製法を具体的に例示すれば、トロンボモジュリン活性を指標に精製する法が挙げられ、例えばイオン交換カラムのQ−セファロースFast Flowで培養上清または培養物を粗精製しトロンボモジュリン活性を有する画分を回収し、ついでアフィニティーカラムのDIP−トロンビン−アガロース(diisopropylphosphorylthrombin agarose)カラムで主精製しトロンボモジュリン活性が強い画分を回収し、回収画分を濃縮し、ゲル濾過にかけトロンボモジュリン活性画分を純品として取得する精製方法[Gomi K et al、Blood 1990;75:1396−1399]が挙げられる。指標とするトロンボモジュリン活性としては、例えばトロンビンによるプロテインC活性化の促進活性が挙げられる。その他に、好ましい精製法を例示すると以下の通りである。
【0064】
トロンボモジュリンと良好な吸着条件を有する適当なイオン交換樹脂を選定し、イオン交換クロマト精製を行う。特に好ましい例としては、0.18mol/L NaClを含む0.02mol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で平衡化したQ−セファロースFast Flowを用いる方法である。適宜洗浄後、例えば0.3mol/L NaCl含む0.02mol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で溶出し粗精製品のトロンボモジュリンを得ることができる。
【0065】
次に、例えばトロンボモジュリンと特異的親和性を持つ物質を樹脂に固定化しアフィニティークロマト精製を行うことができる。好ましい例としてDIP−トロンビン−アガロースカラムの例と、抗トロンボモジュリンモノクローナル抗体カラムの例が挙げられる。DIP−トロンビン−アガロースカラムは、予め、例えば、100mmol/L NaClおよび0.5mmol/L塩化カルシウムを含む20mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で平衡化せしめ、上記の粗精製品をチャージして、適宜の洗浄を行い、例えば、1.0mol/L NaClおよび0.5mmol/L塩化カルシウムを含む20mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で溶出し精製品のトロンボモジュリンを取得することができる。また抗トロンボモジュリンモノクローナル抗体カラムにおいては、予めCNBrにより活性化したセファロース4FF(GEヘルスケアバイオサイエンス社)に、抗トロンボモジュリンモノクローナル抗体を溶解した0.5mol/L NaCl含有0.1mol/L NaHCO3緩衝液(pH8.3)に接触させ、セファロース4FFに抗トロンボモジュリンモノクローナル抗体をカップリングさせた樹脂を充填したカラムを、予め例えば0.3mol/L NaCl含む20mmol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.3)で平衡化し、適宜の洗浄の後、例えば、0.3mol/L NaCl含む100mmol/Lグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)にて溶出せしめる方法が例示される。溶出液は適当な緩衝液で中和し、精製品として取得することもできる。
【0066】
次に得られた精製品をpH3.5に調整した後に、0.3mol/L NaClを含む100mmol/Lグリシン塩酸緩衝液(pH3.5)で平衡化した陽イオン交換体、好ましくは強陽イオン交換体であるSP−セファロースFF(GEヘルスケアバイオサイエンス社)にチャージし、同緩衝液で洗浄して得られた非吸着画分を得る。得られた画分は適当な緩衝液で中和し、高純度精製品として取得することができる。これらは、限外濾過により濃縮することが好ましい。
【0067】
さらに、ゲル濾過による緩衝液交換を行うことも好ましい。例えば、50mmol/L NaClを含む20mmol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.3)で平衡化せしめたSephacryl S−300カラムもしくはS−200カラムに、限外濾過により濃縮した高純度精製品をチャージし、50mmol/L NaClを含む20mmol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.3)で展開分画し、トロンビンによるプロテインC活性化の促進活性の確認を行って活性画分を回収し、緩衝液交換した高純度精製品を取得することができる。このようにして得られた高純度精製品は安全性を高めるために適当なウイルス除去膜、例えばプラノバ15N(旭化成メディカル株式会社)を用いて濾過することが好ましく、その後限外濾過により目的の濃度まで濃縮することができる。最後に無菌濾過膜により濾過することが好ましい。
【0068】
本実施の形態における「癌化学療法」とは、抗癌剤を用いて癌を治療する方法を意味する。
本実施の形態における「抗癌剤」としては、抗癌作用を持つ薬剤であり、投与することにより副作用として末梢性神経障害性疼痛の症状を呈するものであれば特に限定されないが、例えば、核酸の代謝を阻害する抗癌剤(白金製剤等)、微小管重合を阻害する抗癌剤(ビンカアルカロイド系薬剤)、微小管脱重合を阻害する抗癌剤(タキサン系薬剤)、ホルモン拮抗作用を有する抗癌剤(抗エストロゲン剤等)、細胞内のシグナル伝達を阻害する抗癌剤(プロテオソーム阻害剤等)、悪性腫瘍に特異的な分子標的に作用する抗癌剤(チロシンキナーゼ阻害剤、抗体製剤等)、又は非特異的な免疫賦活作用を有する抗癌剤(溶連菌製剤等)が挙げられ、核酸の代謝を阻害する抗癌剤又は微小管重合もしくは脱重合を阻害する抗癌剤が好ましい。例えば、抗癌剤としてはタキサン系薬剤及び白金製剤からなる群より選択される1種類以上の抗癌剤が挙げられ、タキサン系薬剤又は白金製剤が好ましく、タキサン系薬剤がより好ましい。また、別の態様として白金製剤が好ましい場合がある。
【0069】
タキサン系製剤としては、パクリタキセル、ドセタキセル、又はタモキシフェン等が挙げられ、パクリタキセル及びドセタキセルからなる群より選択される1種類以上であることが好ましく、パクリタキセルがより好ましい。
【0070】
白金製剤としては、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン、又はネダプラチン等が挙げられ、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン、及びネダプラチンからなる群より選択される1種類以上であることが好ましく、オキサリプラチンが好ましい。
【0071】
本実施の形態の医薬が予防及び/又は治療の対象とする抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛は、一種類の抗癌剤を用いた単剤療法は勿論のこと、作用機序の異なる複数の薬剤を組み合わせて投与する多剤併用療法に起因する末梢性神経障害性疼痛も包含するものである。多剤併用療法としては、例えば、FOLFOX療法又はFOLFIRI(フォルフィリ)療法などが挙げられるがこれらに限定されることはない。本実施の形態の医薬の適用対象としては、例えば、FOLFOX療法が好ましい。また、別の態様としてFOLFIRI療法が好ましい場合もある。
【0072】
FOLFOX療法は、オキサリプラチン、フルオロウラシルおよびレボホリナートを組み合わせて行う癌化学療法の一つである。FOLFOX療法は、投与方法によって、例えば、FOLFOX2、FOLFOX3、FOLFOX4、FOLFOX6、mFOLFOX6、FOLFOX7、mFOLFOX7等に分類される。
【0073】
FOLFIRI療法は、イリノテカン、フルオロウラシル、レボホリナートもしくはロイコボリンを組み合わせて行う癌化学療法の一つである。
【0074】
核酸の代謝を阻害する抗癌剤としては、例えば、アルキル化剤(例えば、シクロフォスファミド、ニムスチン)、抗腫瘍性抗生物質(例えば、ドキソルビシン、マイトマイシンC、プレオマイシン)、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、イリノテカン、エトポシド)、白金製剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、ピリミジン代謝阻害剤(例えば、メルカプトプリン、フルダラビン)、又は葉酸合成阻害剤(例えば、メトトレキサート)が挙げられる。中でも白金製剤が好ましく、最も末梢性神経障害性疼痛を引き起こしやすい抗癌剤であり該末梢性神経障害性疼痛を治療する方法が強く望まれているとの観点ではオキサリプラチンがより好ましい。
【0075】
微小管重合もしくは脱重合を阻害する抗癌剤としては、ビンカアルカロイド系薬剤(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン)、タキサン系薬剤(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、タモキシフェン)、又は抗アンドロゲン剤(例えば、フルクミド)が挙げられる。中でもタキサン系薬剤が好ましく、パクリタキセルがより好ましい。
【0076】
ホルモン拮抗作用を有する抗癌剤としては、例えば、抗エストロゲン剤(例えば、タモキシフェン)、又は抗アンドロゲン剤(例えば、フルタミド)が挙げられる。
【0077】
細胞内のシグナル伝達を阻害する抗癌剤としては、例えば、プロテオソーム阻害剤(例えば、ボルテゾミブ)が挙げられる。
【0078】
悪性腫瘍に特異的な分子標的に作用する抗癌剤としては、例えば、BCR/ABLチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、イマチニブ)、EGFRチロシンキザーゼ阻害剤(例えば、ゲフィニチブ)、抗体製剤(例えば、リツキシマブ、トラスツズマブ、トシリツマブ)、又は砒素製剤が挙げられる。
【0079】
非特異的な免疫賦活作用を有する抗癌剤としては、例えば、溶連菌製剤又はかわらたけ多糖体製剤が挙げられる。
【0080】
本実施の形態における「抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛」とは、上記で例示したような抗癌剤を投与することに起因して生じる末梢性神経障害性疼痛を意味する。「化学療法による末梢神経障害性疼痛」と呼ばれることもある。末梢性神経障害性疼痛としては、四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下、異痛症、痛覚過敏及び運動機能障害が挙げられる。その他、末梢性神経障害性疼痛としては刺痛や焼けるような痛み等の廃痛、四肢末端のしびれ、灼熱感等の知覚異常、冷感刺激に対する過敏等の知覚過敏、感覚消失・感覚麻庫や違和感等の感覚異常、知覚性運動失調、筋力の低下が例示される。異痛症(「アロディニア」と呼ばれることもある)とは、通常では痛みを引き起こさない刺激(例えば、軽い接触や圧迫、軽度の低温刺激)を痛みとして感じる症状を意味する。抗癌剤に起因する異痛症には、抗癌剤投与直後から出現する急性異痛症と抗癌剤治療の継続に伴って遅発性に現れる慢性異痛症があり、これらの異痛症も本実施の形態における抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛に含まれる。急性異痛症はオキサリプラチンに特徴的である。抗癌剤に起因する異痛症の診断基準としては、DEB−NTC(Debiopharm社:神経症状−感覚性毒性基準)やCTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)等が用いられる。
【0081】
本実施の形態において、末梢性神経障害性疼痛のうち異痛症としては、通常では痛みを引き起こさない刺激を痛みとして感じる症状であれば特に限定されないが、例えば機械的異痛症又は冷異痛症が挙げられ、機械的異痛症が好ましい。また、別の態様としては、冷異痛症が好ましい場合もある。
【0082】
機械的異痛症としては、通常では痛みを引き起こさない触覚刺激を痛みとして感じる症状が挙げられる。例えば、シャツのボタンを留める、財布の中の硬貨を取り出す、歩行する等の日常的動作が困難になる等の症状が挙げられる。
【0083】
冷異痛症としては、通常では痛みを引き起こさない低温刺激を痛みとして感じる症状が挙げられる。例えば、水を使った炊事や洗濯、水の入ったコップを持つ、冬場の外出等の日常的動作が困難になる等の症状が挙げられる。
【0084】
本実施の形態において、トロンボモジュリンは、抗癌剤を投与する前に投与することができ(予防的投与)、また、抗癌剤を投与した後に投与することもできる(治療的投与)。抗癌剤を投与した後に投与することが好ましい。また、別の態様として、抗癌剤を投与する前に投与することが好ましい場合もある。さらに、トロンボモジュリンと抗癌剤を同時に投与することもできる。以下の試験例1に示す通り、抗癌剤を投与する直前又は抗癌剤の投与と同時にトロンボモジュリンを投与することは、好ましい予防的投与の態様の一つである。
また、予防的投与又は治療的投与のいずれにおいても、抗癌剤を投与している最中にもトロンボモジュリンを投与することができる。
効果の持続性の観点から、予防的投与であることが好ましい。言い換えれば、本実施の形態における医薬としては、抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防のための医薬であることが好ましい。
【0085】
抗癌剤を投与する前にトロンボモジュリンを投与する場合、抗癌剤投与前何時間でトロンボモジュリンを投与するかについては、末梢性神経障害性疼痛を予防する効果を発揮できれば特に限定されないが、抗癌剤投与前9日以後が好ましく、7日以後がより好ましく、5日以後がさらに好ましく、3日以後が特に好ましく、1日以後が最も好ましい。別の態様として、12時間以後がこの上なく好ましい。例えば、抗癌剤投与前にアナフィラキシーショックの予防のためのステロイド剤と同時に、又は別々にトロンボモジュリンを投与することができる。また、一般的に抗癌剤を静脈内に点滴投与する際に直前投与される制吐剤、抗アレルギー剤、及び/又は抗炎症剤などとともに、あるいはそれらに先立って、又はそ(れら)の投与の後、抗癌剤投与に先立ってトロンボモジュリンを投与することもできる。
【0086】
抗癌剤を投与した後にトロンボモジュリンを投与する場合、抗癌剤投与後何時間でトロンボモジュリンを投与するかについては、末梢性神経障害性疼痛を治療する効果を発揮できれば特に限定されないが、抗癌剤投与後8日以前が好ましく、6日以前がより好ましく、4日以前がさらに好ましく、2日以前が特に好ましく、6時間以前が最も好ましい。別の態様として、1時間以前がこの上なく好ましい。
【0087】
本実施の形態における医薬は、担体を含有することができる。本発明で用いることのできる担体としては、水溶性の担体が好ましく、例えば、ショ糖、グリセリン等や、その他の無機塩のpH調整剤等を添加剤として加えて調製することができる。さらに必要に応じて、特開平1−6219号公報および特開平6−321805号公報に開示される通り、アミノ酸、塩類、糖質、界面活性剤、アルブミン、ゼラチン等を添加しても良いし、また、防腐剤を添加することも好ましく、例えば、パラ安息香酸エステル類が好ましい例として挙げられ、パラ安息香酸メチルが特に好ましい例として挙げられる。防腐剤の添加量は、通常0.01〜1.0%(重量%を示す、以下同じ)が例示され、好ましくは0.1〜0.3%が挙げられる。これらの添加方法は特に限定されないが、凍結乾燥とする場合には、通常行われるように、例えば、抗癌剤を含有する溶液とトロンボモジュリン含有溶液を混合した後、添加物を添加混合する方法や、またはあらかじめ添加物を水、注射用蒸留水あるいは適当な緩衝液に溶解した抗癌剤に混合した後、トロンボモジュリン含有溶液を添加混合にする方法にて溶液を調製し、凍結乾燥する方法が挙げられる。本実施の形態における医薬が各薬剤成分を組み合わせてなる薬剤である場合には、各薬剤は、適宜の製造方法により担体を添加して製造することが好ましい。本実施の形態における医薬としては、注射液の形態で提供されても、また凍結乾燥製剤を使用時に溶解して使用する形態で提供されてもよい。
【0088】
製剤化工程においては、アンプルまたはバイアルに、水、注射用蒸留水あるいは適当な緩衝液1mLあたり0.05〜15mg、好適には0.1〜5mgのトロンボモジュリンと、上記添加物を含有する溶液を、例えば0.5〜10mL充填した後に凍結し、減圧下のもとで乾燥する方法が例示される。またはそのままに水溶液注射用製剤として調製できる。
【0089】
本実施の形態における医薬は、非経口投与法、例えば静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与などによって投与することが望ましい。また経口投与、直腸内投与、鼻内投与、舌下投与なども可能である。本実施の形態における医薬が各薬剤成分を組み合わせてなる薬剤である場合には、それぞれの薬剤成分は、適宜の投与方法により投与することが好ましい。
【0090】
静脈内投与の場合、一度に所望の量を投与する方法または点滴静脈内投与が挙げられる。
一度に所望の量を投与する方法(静脈内急速投与)は投与時間が短い点で好ましい。一度に投与する場合には、注射器での投与に要する時間に通常幅があるが、投与に要する時間としては、投与する液量にもよるが、5分以下が例示され、3分以下が好ましく、2分以下がより好ましく、1分以下がさらに好ましく、30秒以下が特に好ましい。また下限としては特に限定されないが、1秒以上が好ましく、5秒以上がより好ましく、10秒以上がさらに好ましい。投与量は上記の好ましい投与量であれば特に限定されない。また、点滴静脈内投与はトロンボモジュリンの血中濃度を一定に保つことが容易な点で好ましい。
【0091】
本発明における薬剤の1日の投与量は、患者の年齢、体重、疾患の程度、投与経路などによっても異なるが、一般的にトロンボモジュリンの量として、上限としては20mg/kg以下が好ましく、10mg/kg以下がより好ましく、5mg/kg以下がさらに好ましく、2mg/kg以下が特に好ましく、1mg/kg以下が最も好ましく、下限としては0.001mg/kg以上が好ましく、0.005mg/kg以上がより好ましく、0.01mg/kg以上がさらに好ましく、0.02mg/kg以上が特に好ましく、0.05mg/kg以上が最も好ましい。
【0092】
静脈内急速投与の場合、上記の好ましい投与量であれば特に限定されないが、1日の投与量の上限としては1mg/kg以下が好ましく、0.5mg/kg以下がより好ましく、0.1mg/kg以下がさらに好ましく、0.08mg/kg以下が特に好ましく、0.06mg/kg以下が最も好ましく、下限としては0.005mg/kg以上が好ましく、0.01mg/kg以上がより好ましく、0.02mg/kg以上がさらに好ましく、0.04mg/kg以上が特に好ましい。
体重が100kgを超える患者に投与する場合には、血液量が体重とは比例せず、体重に対する血液量が相対的に低下するという観点から、6mgの固定用量で投与することが好ましい場合がある。
【0093】
点滴静脈内投与の場合、上記の好ましい投与量であれば特に限定されないが、1日の投与量の上限としては1mg/kg以下が好ましく、0.5mg/kg以下がより好ましく、0.1mg/kg以下がさらに好ましく、0.08mg/kg以下が特に好ましく、0.06mg/kg以下が最も好ましく、下限としては0.005mg/kg以上が好ましく、0.01mg/kg以上がより好ましく、0.02mg/kg以上がさらに好ましく、0.04mg/kg以上が特に好ましい。
【0094】
本実施の形態における医薬は、トロンボモジュリンの投与後、抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防及び/又は治療の効果が確認されるものであれば特に限定されないが、その効果は、トロンボモジュリンの投与後24時間以内に確認されることが例示され、12時間以内に効果が確認されることが好ましく、6時間以内に効果が確認されることがより好ましく、3時間以内に効果が確認されることがさらに好ましく、1時間以内に効果が確認される場合が特に好ましく、30分以内に効果が確認される場合が最も好ましい。このように、本実施の形態における医薬は、抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防及び/又は治療の効果が早期に確認されることを特徴とする場合がある。
【0095】
また本実施の形態における医薬は、間歇投与製剤又は持続投与製剤として処方することが可能であるが、間歇投与製剤として処方することが好ましい。
【0096】
間歇投与とは、1回以上、好ましくは複数回、連続的でなく、ある時間をおいて体内へ薬剤を投与又は放出することをいう。例えば、間歇投与としては1日1〜2回の投与でもよく、1日1回の投与が好ましい。また、間歇投与としては毎日、一週間に1〜3日、又は一週間に1〜5日の投与であってもよいが、一週間に1日が好ましい。また別の態様として、一週間に5日が好ましい場合がある。さらに別の態様として、毎日が好ましい場合がある。
【0097】
また、間歇投与としては、一日一回、一週間に一回、一週間に三回、一週間に五回、又は二週間に一回の投与であってもよいが、一週間に一回が好ましい。また、別の態様として一週間に五回が好ましい場合がある。さらに別の態様として毎日が好ましい場合がある。また、場合によっては二週間に一回の投与も好ましい。
【0098】
持続投与とは、薬剤を一定時間以上、例えば少なくとも5分以上連続的に体内へ放出する投与方法を意味し、全身性投与あるいは末梢組織への局所投与であれば投与経路は問わないが、例えば、インフュージョンポンプや輸液ポンプなどの機器を使った投与又は手動での投与、生体内で分解される高分子を担体として用いる徐放製剤などが挙げられる。
【0099】
本実施の形態における医薬を投与される患者は抗癌剤を投与される患者であれば特に限定されないが、具体的には癌患者が例示される。癌患者としては、例えば、卵巣癌、非小細胞癌、乳癌、胃癌、子宮体癌、頭頸部癌、食道癌、白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、神経膠腫、絨毛性疾患、胚細胞腫瘍、肺癌、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿道腫瘍、前立腺癌、子宮頸癌、神経芽細胞種、小細胞肺癌、骨肉種、悪性胸膜中皮種、悪性骨腫瘍、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌を患った癌患者が例示される。
【0100】
本実施の形態における医薬は、抗癌剤に起因する末梢神経障害の対処法として使用されている他剤、例えば、ステロイド、抗うつ薬、抗てんかん薬、オピオイドなどの中から一つ、もしくは複数の薬剤を選択して、併用もしくは合剤として調剤し投与することができる。また、理学療法、マッサージや鍼などの補完療法などと組み合わせてトロンボモジュリンを投与することも可能である。
【0101】
また、本発明により、抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防及び/又は治療のための医薬であって、抗癌剤と組み合わせて投与される、トロンボモジュリンを有効成分として含有する該医薬が提供される。本実施の形態におけるトロンボモジュリンとしては、上記の可溶性トロンボモジュリンとしての好ましい例が挙げられる。また、本実施の形態における抗癌剤としては、上記の抗癌剤としての好ましい例が挙げられる。さらに、本実施の形態における末梢性神経障害性疼痛としては、上記の末梢性神経障害性疼痛としての好ましい例が挙げられる。
【0102】
また、本発明により、抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防及び/又は治療のための医薬であって、トロンボモジュリン、及び抗癌剤を有効成分として含有する該医薬が提供される。
【0103】
さらに、抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防及び/又は治療のための方法であって、トロンボモジュリンを哺乳動物に投与する工程を含む該方法も本発明の範囲に含まれる。
【0104】
さらに、抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛の予防及び/又は治療のための医薬を製造するためのトロンボモジュリンの使用も本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0105】
以下に本発明の試験例および実施例を挙げて詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0106】
[配列表の説明]
配列番号1:TME456の生産に用いた遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号2:配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号3:TME456Mの生産に用いた遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号4:配列番号3のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号5:TMD12の生産に用いた遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号6:配列番号5のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号7:TMD12Mの生産に用いた遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号8:配列番号7のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号9:TMD123の生産に用いた遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号10:配列番号9のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号11:TMD123Mの生産に用いた遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号12:配列番号11のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号13:部位特異的変異を行う際に使用する変異用合成DNA
【0107】
試験例に用いる本発明におけるトロンボモジュリンは、前記山本らの方法(特開昭64−6219号に記載の方法)に従って製造した。以下にその製造例を示す。なお、今回の製造例で得られたトロンボモジュリンは、ラットおよびサルを用いた単回および反復静脈内投与試験、マウス生殖試験、局所刺激性試験、安全性薬理試験、ウイルス不活化試験などによりその安全性が確認されている。
【0108】
[製造例1]
<トロンボモジュリンの取得>
上記の方法、すなわち、配列番号9のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号10の塩基配列よりなる)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして、この形質転換細胞の培養液より前述した定法の精製法にて、50mmol/L NaClを含む20mmol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.3)で活性画分を回収した高純度精製品を取得した。さらに限外濾過を行って濃度が11.2mg/mLのトロンボモジュリン(以下、TMD123と略すことがある)溶液を取得した。
<添加剤溶液調製>
10Lのステンレス製容器に、塩酸アルギニン(味の素社製)480gを量り入れ、注射用水を5L加えて溶解した。1mol/L水酸化ナトリウム溶液を添加して、pHを7.3に調整した。
【0109】
<薬液調製・充填 >
上記添加剤溶液全量を20Lのステンレス製容器に入れ、上記得られたTMD123溶液2398mL(可溶性トロンボモジュリンのたん白質量として26.88gに相当。ただし12%過量仕込み。)加え混合攪拌した。さらに注射用水を加えて全量を12Lとして均一に混合撹拌した。この薬液を、孔径が0.22μmのフィルター(ミリポア製MCGL10S)で濾過滅菌した。濾過液を1mLずつバイアルに充填し、ゴム栓を半打栓した。
【0110】
<凍結乾燥>
凍結乾燥→窒素充填→ゴム栓全打栓→キャップ巻締めの順で以下の条件にて凍結乾燥工程を行い、1容器中に可溶性トロンボモジュリン2mg、塩酸アルギニン40mgを含むTMD123含有製剤を得た。
<凍結乾燥条件>
予備冷却(15分かけて室温から15℃)→ 本冷却(2時間かけて15℃から−45℃)→ 保持(2時間 −45℃)→ 真空開始(18時間 −45℃)→ 昇温(20時間かけて−45℃から25℃)→ 保持(15時間25℃)→ 昇温(1時間かけて25℃から45℃)→ 保持(5時間45℃)→ 室温(2時間かけて45℃から25℃)→ 復圧窒素充填(−100mmHgまで)→ 全打栓 → キャップ巻締め
【0111】
[製造例2]
配列番号11のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号12の塩基配列よりなる)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして、この形質転換細胞の培養液より前述した定法の精製法にて精製されたトロンボモジュリン(以下、TMD123Mと略すことがある)溶液を取得し、上記と同様の方法によりTMD123Mの凍結乾燥製剤を取得する。
【0112】
[製造例3]
配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号2の塩基配列よりなる)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして、この形質転換細胞の培養液より前述した定法の精製法にて精製されたトロンボモジュリン(以下、TME456と略すことがある)を取得し、上記と同様の方法によりTME456の凍結乾燥製剤を取得する。
【0113】
[製造例4]
配列番号3のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号4の塩基配列よりなる)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして、この形質転換細胞の培養液より前述した定法の精製法にて精製されたトロンボモジュリン(以下、TME456Mと略すことがある)を取得し、上記と同様の方法によりTME456Mの凍結乾燥製剤を取得する。
【0114】
[製造例5]
配列番号5のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号6の塩基配列よりなる)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして、この形質転換細胞の培養液より前述した定法の精製法にて精製されたトロンボモジュリン(以下、TMD12と略すことがある)を取得し、上記と同様の方法によりTMD12の凍結乾燥製剤を取得する。
【0115】
[製造例6]
配列番号7のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号8の塩基配列よりなる)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして、この形質転換細胞の培養液より前述した定法の精製法にて精製されたトロンボモジュリン(以下、TMD12Mと略すことがある)を取得し、上記と同様の方法によりTMD12Mの凍結乾燥製剤を取得する。
【0116】
[試験例1]パクリタキセルによるマウス異痛症に対する作用
抗癌剤に起因する異痛症に対するトロンボモジュリンの効果を確認するため、抗癌剤のパクリタキセルをマウスに投与した場合に生じる機械的刺激による異痛症に対するトロンボモジュリンの作用を調べた。TMD123を被験薬としてマウスに腹腔内投与し、以下の試験を行った。
【0117】
(1)パクリタキセル投与誘発異痛症モデルマウスの作製
実験動物として4−5週齢のddY系雄性マウス(20〜30g)を用い、マウスにパクリタキセル(以下、PTXと略すことがある)を4mg/kg、腹腔内に投与した。投与は1日おきに計4回実施した(day0、2、4、6)。対照群にはPTXの溶媒すなわち、Cremophor ELとエタノールを1対1で混合した溶液0.5mLを生理食塩水で1.5mLに希釈したものを同様に投与した。
パクリタキセルは、パクリタキセル(100mg:LKT Laboratories, Inc.)を使用した。
【0118】
(2)被験薬の投与
予防効果を評価する実験では、実験動物を対照群、PTX投与群、PTX及びトロンボモジュリン0.1、1、あるいは10mg/kgの投与群(PTX+TM投与群)の5群構成とした。治療効果を評価する実験では、PTX投与群、PTX及びトロンボモジュリン10mg/kg投与群(PTX+TM投与群)の2群構成とした。予防実験ではPTX+TM投与群には、PTX投与開始日からトロンボモジュリンであるTMD123を1日1回、7日間腹腔内投与した。また、治療実験ではPTX最終開始8−9日後にTMD123を単回腹腔内投与した。対照群及びPTX投与群にはTMD123の溶媒を同様に投与した。
【0119】
(3)統計処理
成績の統計学的処理は、2群間の比較にはWilcoxonテスト、3群以上の群間の比較にはKruskal−WallisのHテストおよびLSD(least significant difference)−typeテストを用いて行い、危険率5%以下を有意差有りとした。(図中の*、**、***:対照群とPTX投与群との測定値の比較、p<0.05、p<0.01、p<0.001;図中の†と†††:PTX投与群とPTX及び被験薬投与群との測定値の比較、p<0.05とp<0.001)。
【0120】
(4)フォン・フライ試験(von Frey test)
上記のマウスについて、von Frey filamentを用いたup−down法により痛覚閾値を測定した。即ち、0.008、0.02、0.04、0.07、0.16、0.4、0.6、1.0gの強度のvon Frey filamentを使用し、マウスの後肢足底を6秒間刺激し続け、刺激した足を上げる、振る、舐めるなどの反応を観察した。刺激は強度の弱いものからはじめ、反応がない場合は、1つ強いもので再度刺激し、反応が見られた場合は、30秒以上の間隔をあけて1つ弱い強度で刺激した。これらの刺激を始めて反応した時から5回繰り返し、50%反応するフィラメントの強度を侵害受容閾値とした。
PTX投与前にベースライン閾値を測定し、その後、PTX投与日および投与開始8または9日目に痛覚閾値を測定し、経過観察を行った。治療実験では、8日目以降に痛覚閾値が十分に低下していること確認した後、測定試験を実施した。
【0121】
上記試験結果(von Frey filamentを用いたup−down法)のうち、TMD123の予防的投与の結果を
図1に、TMD123の治療的投与の結果を
図2示す。PTX投与群では、対照群に比べて痛覚閾値(Threshold)が有意に低下したのに対し、PTX+TM予防的投与群ではPTX投与群で認められた閾値の低下を有意に抑制した。また、PTX+TM治療的投与群では、PTX投与で認められる閾値の低下を投与30分後から有意に上昇させ、投与後3時間以上持続していた。
【0122】
以上の結果から、トロンボモジュリンは、PTXによる機械的異痛症に対して、即効性と持続性に優れた予防及び/又は治療効果を有することが確認された。
【0123】
[試験例2]低温刺激試験1(cold plate test)
以下に示す方法で低温刺激による異痛症を観察することにより、本発明の抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛に対する効果を確認することができる。
(1)パクリタキセル投与誘発異痛症モデルラットの作製
実験動物として5週齢のSD系雄性ラット(150〜200g)を用い、ラットにPTXを4mg/kg、腹腔内に投与した。投与は1日おきに計4回実施する(day0、2、4、6)。対照群にはPTXの溶媒すなわち、Cremophor ELとエタノールを1対1で混合した溶液0.5mLを生理食塩水で1.5mLに希釈したものを同様に投与する。
【0124】
(2)被験薬の投与
実験動物を、対照群、PTX投与群、PTX及びトロンボモジュリン投与群(PTX+TM投与群)の3群に群構成する。PTX+TM投与群には、予防的投与としてPTX投与開始日からトロンボモジュリンであるTMD123を1日1回、7日間腹腔内投与(10mg/kg)する。また、治療的投与として、PTX最終投与翌日に単回腹腔内投与(10mg/kg)する。対照群及びPTX投与群にはTMD123の溶媒を同様に投与する。
【0125】
(3)cold plate test
上記の5群のラットについて、冷感閾値解析デバイスの8℃に制御した冷刺激部の先端を用いて、左右後肢の裏に交互に5回ずつ刺激を与えた時の回避行動の潜時を計測し、低温刺激による異痛症を観察することにより、本発明の抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛に対する効果を確認することができる。例えばCut off timeは15秒とした。PTX投与5時間前、PTX投与1時間後、PTX投与2、3、5、7、9、11日後、PTX投与15日後でかつ被験薬投与前、PTX投与15日後でかつ被験薬投与6時間後、PTX投与17及び19日後でかつ被験薬投与前、PTX投与22日後でかつ休薬3日後、PTX投与26日後でかつ休薬7日後、PTX投与29日後でかつ休薬10日後に測定試験を実施することができる。
なお、実験条件は適宜変更することができる。
【0126】
[試験例3]低温刺激試験2
試験例2と同様の方法でPTXを投与したラットを用い、以下に示す方法で低温刺激による異痛症を観察することにより、本発明の抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛に対する効果を確認することもできる。
【0127】
底が金網になっているケージにラットを入れて1時間馴化させた後、MicroSprayer(PENN−Century社製)を用いて後足にアセトン0.05mLを5秒間かけて噴霧し、アセトンの気化時の冷却作用を利用して冷刺激を与える。噴霧開始から40秒間ラットの回避反応を観察し、反応するまでの時間(潜時)を記録した。試験は左右3回ずつ行って平均値を算出する。PTX投与5時間前、PTX投与1時間後、PTX投与2、3、5、7、9、11日後、PTX投与15日後でかつ被験薬投与前、PTX投与15日後でかつ被験薬投与6時間後、PTX投与17及び19日後でかつ被験薬投与前、PTX投与22日後でかつ休薬3日後、PTX投与26日後でかつ休薬7日後、PTX投与29日後でかつ休薬10日後に測定することができる。
なお、実験条件は適宜変更することができる。
【0128】
[試験例4]オキサリプラチンによるラット異痛症に対する作用
試験例1〜3と同様に、ラットを用いてオキサリプラチン投与によるフォン・フライ試験および低温刺激試験を検討する。これらの試験例により本発明の抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛に対する効果を確認することができる。
【0129】
[試験例5]in vitro神経細胞変性
以下の方法により、本発明の末梢神経障害の軽減作用の効果を確認することができる。
パクリタキセル処置により起こる神経細胞変性に対する作用を検討することを目的として、神経分化・突起伸展のモデル細胞株であるラット副腎クロム親和性細胞種(Pheochromocytoma 12:PC12)及び脊髄後根神経節(Dorsal root ganglia:DRG)の細胞を用いる。
【0130】
(1)細胞の培養
PC12細胞は、5%ウシ胎児血清、10%ウマ血清、100単位/mLペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco BRL社製)を含むRPMI1640培地(MP Biomedicals社製)を用い、37℃、5%CO
2インキュベーターで培養する。また、DRG細胞は、SD系雄性ラットより取り出し初代培養した後、L4−5のDRG5節をコラゲナーゼタイプI(フナコシ社製)及びディスパーゼI( 三光純薬社製)にて処理し、24穴プレートに藩種し培養した。なお、培養は10%ウシ胎児血清、100Unit/mLペニシリン−ストレプトマイシンを含むDulbecco’s modified Eagle’s培地(DMEM培地、MP Biomedical社製)を用い、37℃、5%CO
2インキュベーターで培養する。
【0131】
(2)薬物の処置及び神経突起の長さの測定
PC12細胞を24穴プレートに10,000細胞/穴で播種し、3時間後にフォスコリン0.01mmol/Lを処置して突起を伸展させ、24時間後に被験液の処置を行う。また、DRG細胞については、1週間培養して細胞の接着及び突起の伸展を確認後、被験液の処置を行う。なお被験液は、パクリタキセル10ng/mLのみ添加、あるいはパクリタキセル10ng/mLと被験薬(10ng/mLから0.1mg/mL)を添加する。被験液処置した24及び96時間後に被験薬を含む新しい培地に交換し、168時間後にトリパンブルー染色液にて死細胞を染め分け、光学顕微鏡で写真を撮像する(倍率200倍、3視野/穴)。撮像後、解析ソフトImage Jにて生細胞における突起の長さを測定する。
なお、実験条件は適宜変更することができる。
【0132】
[試験例6]パクリタキセルによるラット異痛症に対する作用
試験例1と同様に、以下に示す方法で抗癌剤のパクリタキセルをラットに投与した場合に生じる機械的刺激による異痛症に対するトロンボモジュリンの作用を調べた。TMD123を被験薬としてラットに腹腔内投与し、以下の試験を行った。
【0133】
(1)パクリタキセル投与誘発異痛症モデルラットの作製
実験動物として5−6週齢のWistar系雄性ラット(200〜250g)を用い、ラットにPTXを2mg/kg、腹腔内に投与した。投与は1日おきに計4回実施した(day0、2、4、6)。対照群にはPTXの溶媒すなわち、Cremophor ELとエタノールを1対1で混合した溶液0.5mLを生理食塩水で1.5mLに希釈したものを同様に投与した。
【0134】
(2)被験薬の投与
ラットを用いた予防効果を評価する実験では、実験動物を対照群、PTX投与群、PTX及びトロンボモジュリン10mg/kgの投与群(PTX+TM投与群)の3群構成とした。予防的投与としてPTX投与開始日からトロンボモジュリンであるTMD123を1日1回、7日間腹腔内投与(10mg/kg)した。
【0135】
(3)統計処理
成績の統計学的処理は、Kruskal−WallisのHテストおよびLSD(least significant difference)−typeテストを用いて行い、危険率5%以下を有意差有りとした。(図中の*、**:対照群とPTX投与群との測定値の比較、p<0.05、p<0.01;図中の†と††:PTX投与群とPTX及び被験薬投与群との測定値の比較、p<0.05とp<0.01)。
【0136】
(4)ランダール−セリット試験(Randall−Selitto test)
上記ラットについて、Randall LO.ら、Arch.Int.Pharmacodyn.Ther.1957.111,409−419に記載の足圧痛法(Randall−Selitto test)に準じて測定した。すなわち、右後肢足を圧刺激鎮痛効果装置で次第に加圧して、啼鳴反応または逃避反応を示したときの圧力を疼痛閾値とした。
【0137】
ラットを用いたTMD123の予防的投与の結果を
図3に示す。PTX投与群では、対照群に比べて痛覚閾値(Threshold)が有意に低下したのに対し、PTX+TM投与群ではPTX投与群で認められた閾値の低下を有意に抑制した。また、ラットを用いた試験においてPTX+TM投与群は、PTX投与で認められる閾値の低下を28日間有意に抑制した。
【0138】
以上の結果からも、トロンボモジュリンは、PTXによる機械的異痛症に対して、即効性と持続性に優れた予防効果を有することが確認された。
【0139】
[試験例7]抗癌剤に起因する末梢神経障害性疼痛のヒトにおける予防効果
例えば、大腸癌を始めとする癌患者等の悪性腫瘍を有する患者に対し、FOLFOX6又はmFOLFOX6等により、1クール2週間とする化学療法を12クール行うに際し、各クールの抗癌剤投与直前、投与中、及び投与直後にTMD123(例えばリコモジュリン(登録商標)(旭化成ファーマ社製))を投与する。
【0140】
化学療法終了後、化学療法の脱落率、末梢性神経障害性疼痛の発現率、又はQOL、或いは凝結学的検査値の変化、腫瘍に対する効果などを調べることにより、本発明の抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛のヒトにおける予防効果を確認することができる。
なお、抗癌剤の種類、抗癌剤やTMD123の投与量、投与タイミング、1クールの期間、又はクール数等は、技術常識に照らして適宜変更することができる。