(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、コンピュータを上記各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
被印刷物の乾燥によって、排出される溶剤を燃焼させ、発生熱によって乾燥を行う装置は従来から知られている。しかし、輪転機などを対象にした大規模なシステムであり、インク消費量の変動もマクロに見れば無視できるレベルであった。このようなシステムではほぼ一定量の有機化合物を除去することができる大きな装置を連続的に駆動すればよい。例えば、送風量を一定にし、ヒーター加熱温度が一定になるように調整する。しかし、業務用又は家庭用のプリンタのようなシステムでは消費量の変動が大きくなり、特に有機化合物の発生量が少ないときに、従来の制御方法では消費電力が大きくなってしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、少ない電力で印刷時に発生する有機化合物を低減可能なインクジェット記録装置、インクジェット記録装置の制御方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るインクジェット記録装置は、上記の課題を解決するために、インクを記録媒体に吐出する吐出手段と、上記吐出手段から吐出された上記インクから発生して、当該インク外に放出された有機化合物を分解する分解手段と、上記放出された有機化合物及び上記分解手段のうち少なくとも一方を加熱する加熱手段と、送風することによって、上記放出された有機化合物を上記分解手段まで導く第一の送風手段と、上記第一の送風手段の送風量及び上記加熱手段の出力を制御する制御手段とを備え、上記制御手段は、所定の時間内に上記吐出手段から吐出されるインクの量に応じて、上記第一の送風手段の送風量及び上記加熱手段の出力を制御することを特徴とする。
【0011】
所定の時間内に吐出手段から吐出されるインクの量に応じて第一の送風手段の送風量及び加熱手段の出力を制御することができる。例えば、制御手段がインクの量に応じて第一の送風手段の送風量を調整することで、失われる熱量を最低限にし、効率よく有機化合物を分解手段まで導くことができる。その結果、送風により失われる熱量を補うために加熱手段が加えるべき熱量も減少する。したがって、インクジェット記録装置における消費電力を低減することができる。
【0012】
よって、本発明に係るインクジェット記録装置は、少ない電力で印刷時に発生する有機化合物を低減することができる。
【0013】
本発明に係るインクジェット記録装置は、上記分解手段内部の温度を測定する分解手段温度測定手段をさらに備え、上記制御手段は、上記分解手段温度測定手段の測定値に応じて上記加熱手段の出力を補正することが好ましい。
【0014】
オープンループ制御により加熱手段を制御した場合、分解手段の温度が意図した範囲に収まらないことがある。このとき、分解手段の温度が意図した範囲よりも小さい可能性があることを考慮し、加熱手段の出力を高めに設定する必要がある。一方、分解手段内部の温度を把握できる場合、加熱手段の出力を高めに設定する必要がなく、消費電力を低減することができる。他にも、分解手段内部の温度が上がりすぎていた場合に、第一の送風手段の送風量を上昇させて、分解手段の温度を下げることも可能である。
【0015】
本発明に係るインクジェット記録装置は、上記第一の送風手段により上記分解手段まで導かれる上記放出された有機化合物の温度を測定する気体温度測定手段をさらに備え、上記制御手段は、上記気体温度測定手段の測定値に応じて上記加熱手段の出力を補正することが好ましい。
【0016】
分解手段に導かれる有機化合物の温度によって、分解手段の降下温度及び気体における有機化合物の含有量が変化する。有機化合物の温度を予め把握することにより、分解手段の温度変化をさらに精度よく見積もることができ、加熱手段の出力を好適に補正することができる。よって、インクジェット記録装置の消費電力を低減することができる。
【0017】
本発明に係るインクジェット記録装置は、送風することによって、上記吐出手段が上記記録媒体に印刷を行う領域における気体を流動させる第二の送風手段を有し、上記制御手段は、上記第二の送風手段の送風量を上記第一の送風手段の送風量よりも少なくなるように制御することが好ましい。
【0018】
吐出手段が記録媒体に印刷を行う領域にて、局所的に有機化合物の濃度が上昇し、有機化合物が液化するおそれがある。しかし、第二の送風手段により印刷を行う領域における気体を流動させることで、局所的に有機化合物の濃度が上昇することを抑制できるため、有機化合物が印刷を行う領域にて液化することを抑制できる。さらに、第二の送風手段の送風量を第一の送風手段の送風量よりも少なくなるように制御することで、インクジェット記録装置外への有機化合物の流出を抑制するとともに、分解手段に流入する気体における有機化合物の濃度が安定して、インクジェット記録装置の制御が安定する。
【0019】
本発明に係るインクジェット記録装置では、上記第二の送風手段は、上記吐出手段が上記記録媒体に印刷を行う領域に、上記分解手段から排出される気体の少なくとも一部を排出するものであることが好ましい。
【0020】
分解手段から排出される高温の気体(有機化合物が分解された後の気体)を記録媒体に印刷を行う領域に環流させると、当該領域における気体の飽和量が上昇してインクの乾燥を促進することができる。
【0021】
本発明に係るインクジェット記録装置では、上記吐出手段が上記記録媒体に印刷を行う領域における温度を測定する印刷領域温度測定手段をさらに備え、上記制御手段は、上記印刷領域温度測定手段の測定値に応じて上記第一の送風手段の送風量及び上記加熱手段の出力を制御することが好ましい。
【0022】
吐出手段が記録媒体に印刷を行う領域の温度を測定することにより、吐出手段から吐出されたインクから発生して、当該インク外に放出される有機化合物の量を見積もることができる。そして、放出される有機化合物の量に応じて第一の送風手段の送風量及び加熱手段の出力を制御するため、分解手段にて有機化合物を効率よく分解することができる。
【0023】
本発明に係るインクジェット記録装置の制御方法は、インクを記録媒体に吐出する吐出手段と、上記吐出手段から吐出されたインクから発生して、当該インク外に放出された有機化合物を分解する分解手段と、上記放出された有機化合物及び上記分解手段のうち少なくとも一方を加熱する加熱手段と、送風することによって、上記放出された有機化合物を上記分解手段まで導く第一の送風手段とを備えるインクジェット記録装置の制御方法であって、所定の時間内に上記吐出手段から吐出されるインクの量に応じて、上記第一の送風手段の送風量を制御する送風制御工程と、上記加熱手段の出力を制御する出力制御工程とを包含することを特徴とする。
【0024】
本発明に係るインクジェット記録装置の制御方法は、本発明に係るインクジェット記録装置と同様の効果を奏する。
【0025】
本発明に係るプログラムは、上記インクジェット記録装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、コンピュータを上記各手段として機能させる。
【0026】
本発明の各態様に係るインクジェット記録装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記インクジェット記録装置が備える各手段として動作させることにより上記インクジェット記録装置をコンピュータにて実現させるプログラムも、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るインクジェット記録装置、インクジェット記録装置の制御方法及びプログラムは、少ない電力で印刷時に発生する有機化合物を低減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第一実施形態]
以下、本発明の実施の形態について、図を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係るインクジェット記録装置を示す図である。
【0030】
〔インクジェット記録装置100〕
本発明の第一実施形態に係るインクジェット記録装置100は、ヘッド(吐出手段)1と、ガイド機構2と、プラテン3と、第一流路4と、送風ファン(第一の送風手段)5と、分解装置(分解手段)6と、第二流路7と、温度測定部(印刷領域温度測定手段)11とを備えている。インクジェット記録装置100は、インクをメディア(記録媒体)20に吐出するために使用される。また、インクジェット記録装置100は、ヘッド1とメディア20との位置を相対的に移動させて、メディア20に印刷を行っている。
【0031】
インクジェット記録装置100は、ヘッド1の移動方向(矢印X方向)と、メディア20の移動方向が交差した状態でメディア20に印刷を行うシリアルヘッド式のインクジェットプリンタである。
【0032】
(ヘッド1)
ヘッド1は、インクをメディア20に吐出する。また、ヘッド1は、ガイド機構2に沿って、
図1中の矢印X方向に走査しながら、所望の画像をメディア20に描画する。
【0033】
(メディア20)
メディア(記録媒体)20は、ヘッド1から吐出されるインクを付着させるものである。記録媒体としては、インクを付着させることができる媒体であれば限定されず、例えば、板状部材、シート状の部材等が挙げられる。
【0034】
本実施形態において、メディア20はプラテン3に載置されている。プラテン3は、メディア20に描画された画像を乾燥するために、ヒーター等を備えている。
【0035】
(インク)
本発明に用いるインクとしては、例えば、水性インク、溶剤インク、熱硬化型インク、紫外線硬化型インク、電子線硬化型インク等のインクが挙げられる。本発明において分解の対象となる有機化合物は、インクに予め含まれる揮発性有機化合物、紫外線硬化型インク等に含まれる重合開始剤が紫外線の照射を受けることにより分解され残った分解生成物等である。本実施形態において、これらインクは、ヘッド1からメディア20に吐出され、プラテン3で加熱されることにより、インクに含まれる水、有機化合物等が揮発する。プラテン3の加熱温度は、例えば、40℃以上、70℃以下であることが好ましい。以下、インク外に放出される有機化合物が揮発性有機化合物(VOC)である場合について説明する。
【0036】
<揮発性有機化合物>
揮発性有機化合物(VOC)は、常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化学物質であり、水性インク、溶剤インク、熱硬化型インク、紫外線硬化型インク等のインクに使用される有機溶剤である。揮発性有機化合物としては、例えば、グリコールエーテル系溶剤、ラクトン系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン等の炭化水素系溶剤、また、ジクロロメタン、フロン類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコール、テトラリン、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールエチルメチルエーテル及びエチレングリコールモノメチルエーテル等の有機化学物質が挙げられる。
【0037】
(第一流路4)
第一流路4は、揮発性有機化合物を分解装置6に導くための流路である。
図1の矢印に示すように、揮発性有機化合物は、第一流路4及び送風ファン5を介して、分解装置6まで移動する。
【0038】
(送風ファン5)
送風ファン5は、第一流路4に設けられ、分解装置6が設けられている方向に送風することにより、揮発性有機化合物を分解装置6まで導くためのファンである。これにより、発生した揮発性有機化合物をインクジェット記録装置100の外部に漏らすことなく、効率よく分解装置6まで導くことができる。また、後に詳述するが、送風ファン5は制御部(制御手段)30により送風量が制御されており、制御部30からの指示に応じて、送風ファン5は送風量を調整する。
【0039】
(分解装置6)
分解装置6は、ヘッド1からメディア20に吐出されたインクから発生して、当該インク外に放出された揮発性有機化合物を分解するための装置である。ヘッド1からメディア20に吐出されたインクから発生して、当該インク外に放出された揮発性有機化合物としては、例えば、メディア20にインクが付着した後に、当該インクから揮発した揮発性有機化合物が挙げられる。
【0040】
次に、分解装置6の構成について説明する。分解装置6はヒーター(加熱手段)31、温度測定部(分解手段温度測定手段)32を備えている。
【0041】
ヒーター31は、分解装置6の内部を加熱することで、揮発性有機化合物の分解反応を促進させるものであり、分解装置6の内部に設けられている揮発性有機化合物の分解を行なう部位である分解部(図示せず)に取り付けられている。本実施形態では、このようにヒーター31が分解装置6を加熱して、加熱された分解装置6内に有機化合物を含む気体を導入して分解する場合について説明するが、本発明はこれに限定されない。例えば、加熱手段は、分解手段の外部に取り付けられていてもよく、この場合、有機化合物を含む気体を加熱手段により所定の温度まで加熱した後に分解手段に導入される。
【0042】
揮発性有機化合物の分解には、任意の分解方法を採用することができるが、酸化分解処理法によって揮発性有機化合物を分解することが好ましい。吸着法を用いて、揮発性有機化合物を除去する際には、吸着物の交換が必要になり、長期間安定した除去性能を得ることが難しい。また、冷却凝縮法を用いて、揮発性有機化合物を凝縮する際には、冷却手段を設け、かつ揮発性有機化合物を除去する方法が必要となり、装置が大型化してしまう。一方、酸化分解処理法を採用することにより、他の分解手法に比べて、長期間安定した揮発性有機化合物の除去性能を維持することができる。酸化分解処理法の具体例としては、触媒燃焼方式、バーナー又は電熱線等を使用する直接燃焼方式等が挙げられる。本実施形態においては、触媒燃焼方式について説明する。
【0043】
触媒燃焼方式は、有機成分を例えば350℃程度の低温に加熱し、貴金属等の触媒を用いて当該有機成分を酸化分解させる方式である。触媒燃焼方式は、触媒の表面では酸化反応が低温で進行する触媒反応を利用した燃焼方式であるため、低温で有機成分を酸化分解させることができる。したがって、触媒燃焼方式は直接燃焼方式に比べて高温にする必要がなく、加熱のためのエネルギーを少なくできる利点がある。また、分解時に発生する熱によって継続して触媒を熱活性させることができるため、さらに加熱のためのエネルギーが少なくて済む。
【0044】
揮発性有機化合物の分解には、例えば、触媒として一般的に用いられるプラチナの他に、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化コバルト、酸化セリウム、酸化チタン等の酸化物触媒を使用することができる。これら触媒の温度が200℃以上、500℃以下になるようにヒーター等によってこれら触媒を加熱し、熱活性することが好ましい。これにより、揮発性有機化合物を分解部にて効率的に分解することができる。
【0045】
分解部にて、揮発性有機化合物は、水蒸気、炭酸ガス等に分解され、これらの気体は排気ガスとして、分解装置6から排出される。揮発性有機化合物が排気ガスに分解される際に熱が生じ、排気ガスは揮発性有機化合物を分解する際に生じる熱を有している。ここで、揮発性有機化合物を分解する際に生じる熱には、当該化合物を分解することによる発熱、及びヒーター31から生じた熱が含まれる。
【0046】
本実施形態では、揮発性有機化合物を効率的に分解するために、ヒーター31及び触媒が分解部に設けられているが、ヒーター31は触媒の内部又は触媒よりも上流側(VOCが導入される入り口側)に設置されることが好ましい。触媒の内部にヒーター31を設けることによって、触媒を効率よく加熱することができ、揮発性有機化合物の酸化反応を促進することができる。触媒よりも上流側にヒーター31を設けることによって、触媒の上流側で揮発性有機化合物を高温にすることができ、触媒と揮発性有機化合物とが接触するときに、当該触媒の温度が低下することを防止できる。触媒よりも上流側にヒーター31を設ける場合には、触媒の直前にヒーター31を設けることが好ましい。これにより、揮発性有機化合物は、その温度が低下することなく、触媒と接触する。
【0047】
温度測定部32は、分解装置6の内部の温度を測定するためのものである。後に詳述するように、制御部30は、温度測定部32の測定値に応じてヒーター31の出力を補正する。
【0048】
分解装置6は、第二流路7と接続しており、排気ガスを第二流路7に排出する。
【0049】
また、ヘッド1からインクが吐出される際に霧状のインクが生じるおそれがある。そのため、送風ファン5よりも上流側(第一流路4の入り口側)の第一流路4に霧状のインクを回収するインク回収手段を設けてもよい。これにより、送風ファン5が霧状のインクに汚損されることを抑制でき、かつ、霧状のインクが分解装置6内に付着し、分解装置6の分解機能が低下することを防止できる。インク回収手段としては、例えば、多孔質フィルター、活性炭、不織布等が挙げられる。多孔質フィルターとしては、フィルター目開きが霧状のインクの直径に相当する綾畳みフィルター又はファイバーフィルターであることが望ましい。
【0050】
ここで、分解装置6を用いて、揮発性有機化合物を酸化して分解すると熱が発生するため、分解装置6から排出される気体の温度は200℃を超えることがある。したがって、分解装置6よりも送風ファン5を下流側に設けた場合、耐熱性を有する送風ファンを用いなければならず、高コストである。しかし、
図1に示すように、揮発性有機化合物の移動方向において、分解装置6よりも送風ファン5は上流側に設けられている。そのため、耐熱性を考慮する必要がなく、低コストである。
【0051】
(第二流路7)
第二流路7は、分解装置6と接続しており、分解された気体が分解装置6から第二流路7に排出される。第二流路7に排出された後、分解された気体は、排気口8からインクジェット記録装置100の外部に放出される。
【0052】
(制御部30)
制御部30は、送風ファン5の送風量及び分解装置6が備えるヒーター31の出力を制御する。より詳細には、制御部30は、所定の時間内にヘッド1から吐出されるインクの量に応じて、送風ファン5の送風量及びヒーター31の出力を制御する。
【0053】
所定の時間内にヘッド1から吐出されるインクの量は、印刷状態、印刷データから算出することができる。印刷状態としては、例えば、解像度、パス数、パス幅、印字幅等が挙げられ、印刷データとしては、例えば、液滴の大きさが挙げられる。さらに、溶剤組成、溶剤比率などのインクの組成、印刷領域の湿度、プラテン温度、印刷領域の温度、送風温度等の各温度などのパラメータを用いて、揮発する揮発性有機化合物の量を算出することができる。
【0054】
所定の時間内にヘッド1から吐出されるインクの量に応じて送風ファン5の送風量及びヒーター31の出力を制御することができる。例えば、制御部30がインクの量に応じて送風ファン5の送風量を調整することで、失われる熱量を最低限にし、効率よく揮発性有機化合物を分解装置6まで導くことができる。その結果、送風により失われる熱量を補うためにヒーター31が加えるべき熱量も減少する。したがって、インクジェット記録装置100の消費電力を低減することができる。
【0055】
ここで、オープンループ制御によりヒーターを制御した場合、分解装置の温度が意図した範囲に収まらないことがある。このとき、分解装置の温度が意図した範囲よりも小さい可能性があることを考慮し、ヒーターの出力を高めに設定する必要があるためである。
【0056】
一方、本実施形態において、分解装置6は内部に温度測定部32を備えており、当該内部の温度を測定することができる。よって、温度測定部32の測定値に応じて、制御部30が、ヒーター31の出力を補正し、ヒーター31の出力を高めに設定する必要がない。さらに、分解装置6の内部をVOCの分解に適した温度に保つことができる。したがって、VOCを効率的に分解することができるとともに、インクジェット記録装置100の消費電力をより低減することができる。他にも、分解装置6の内部の温度が上がりすぎていた場合に、送風ファン5の送風量を上昇させて、分解装置6の温度を下げることも可能である。
【0057】
(温度測定部11)
温度測定部11は、ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域における温度を測定するためのものである。温度測定部11の測定値に応じて、制御部30は送風ファン5及びヒーター31の出力を制御する。
【0058】
より具体的には、所定の時間内にヘッド1から吐出されるインクの量、及び温度測定部11の測定値に応じて、揮発するVOCの量を見積もることができる。そして、揮発するVOCの量に応じて、制御部30は送風ファン5の送風量及びヒーター31の出力を制御するため、VOCを効率よく分解することができる。
【0059】
以下において、本実施形態に係るインクジェット記録装置100は少ない電力で発生するVOCを削減可能であることを、詳細に説明する。分解装置6の内部温度を一定に保つためには、下記の各熱量について留意する必要がある。
【0060】
分解装置6が揮発性有機化合物を酸化することによって発生する熱量:Q
1
ヒーター31の加熱による熱量:Q
2
送風ファン5及び第一流路4等により失われる熱量:Q
3
分解装置6からの放熱などによって失われる熱量:Q
4
ここで、Q
1は分解装置6に導入される揮発性有機化合物の量に比例し、Q
3は送風ファン5の送風量に比例する。また、Q
4は分解装置6の構造、材質等と相関する。まず、Q
1−Q
3−Q
4を演算し、その値が負になる場合、制御部30はヒーター31を指示して当該値が0以上になるために必要な熱量Q
2を加える。Q
1−Q
3−Q
4+Q
2が0以上である場合、ヒーター31の出力をオフにする、あるいは、印刷スピードを遅くして分解装置6に導入される揮発性有機化合物の量を低減することが好ましい。
【0061】
なお、Q
1は、分解装置6に導入される揮発性有機化合物の量より算出可能であり、当該揮発性有機化合物の量は、所定の時間内にヘッド1から吐出されるインクの量、及び温度測定部11の測定値から算出可能である。Q
4は、分解装置6の構造、材質等によって定まる値である。
【0062】
インクジェット記録装置100において、Q
1−Q
3−Q
4+Q
2が0付近になるように制御されることにより、分解装置6の内部温度はほぼ一定に保たれ、効率的にVOCを分解することができる。
【0063】
ヒーター31により必要な熱量Q
2を加える場合、Q
1、Q
3、Q
4の算出値のみから必要なQ
2を求めてもよく、本実施形態のように温度検出部32を設けて、より精度よく必要なQ
2を求めてもよい。
【0064】
インクジェット記録装置100において、ヘッド1が吐出するインクの量に応じて、揮発する揮発性有機化合物の量が変動する。そして、制御部30が揮発する揮発性有機化合物を分解装置6に導くために必要な送風ファン5の送風量を調整することにより、送風によって失われる熱量Q
3を最小限にしつつ、効率よく揮発性有機化合物を分解装置6まで導くことができる。その結果、送風により失われる熱量を補うためにヒーター31が加えるべき熱量Q
2も減少する。したがって、インクジェット記録装置100は、少ない電力で発生するVOCを削減することができる。
【0065】
本実施形態に係るインクジェット記録装置100は、送風ファン5により分解装置6まで導かれる揮発性有機化合物の温度を測定する気体温度測定手段(図示せず)をさらに備えていてもよい。上記気体温度測定手段は、送付ファン5よりも上流側の第一流路4内、又は送風ファン5と分解装置6との間の第一流路4内に取り付けられる。
【0066】
また、制御部30は、上記気体温度測定手段の測定値に応じてヒーター31の出力を補正する。
【0067】
分解装置6に導かれるVOCの温度によって、分解装置6の降下温度及び気体におけるVOCの含有量が変化するため、VOCの温度を予め把握することにより、分解装置6の温度変化をさらに精度よく見積もることができ、ヒーター31の出力を好適に補正することができる。よって、インクジェット記録装置100の消費電力を低減することができる。
【0068】
〔インクジェット記録装置100の制御方法〕
以下、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置100の制御方法について、
図4を用いて説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置100を操作したときのシーケンス図である。
【0069】
まず、制御部30はヒーター31の出力を開始する(ステップS1)。そして、ヒーター31は分解装置6の内部を加熱する(ステップS2)。制御部30が送風ファン5を駆動した場合、ヒーター31内の熱が失われるため、このとき送風ファン5は駆動させないことが好ましい。
【0070】
分解装置6内部の加熱と並行して、プラテン3の内部に設けられたヒーター(図示せず)により、プラテン3を加熱する(ステップS3)。
【0071】
次に、ヘッド1よりインクを吐出し、メディア20にインクを吐出する(ステップS4)。
【0072】
プラテン3を加熱することで、ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域の温度も上昇し、当該領域の温度も次第にほぼ一定になる。その後、制御部30は、温度測定部11にヘッド1がメディア20に印刷を行う領域の温度を測定させる(ステップS5)。制御部30は、所定の時間内にヘッド1から吐出されるインクの量及び印刷を行う領域の温度を把握することにより、揮発する揮発性有機化合物の量を見積もることができる。
【0073】
よって、制御部30は、ステップS5の温度測定の結果に基づき、送風ファン5の送風量を制御する(ステップS6、送風制御工程)。そして、制御部30は、温度測定部32に分解装置6の内部の温度を測定させる(ステップS7)。
【0074】
ステップS7の温度測定の結果、分解装置6の内部の温度が所望の値ではないときに、制御部30は、ヒーター31の出力を制御する(ステップS8、出力制御工程)。
【0075】
メディア20に吐出されたインクに含まれる揮発性有機化合物は揮発して第一流路4に導かれた後、送風ファン5を介して、分解装置6に導入される。分解装置6の内部に導入された揮発性有機化合物は、分解部にて分解される(ステップS9)。
【0076】
分解部にて分解されたガスは、排気口8から排出される(ステップS10)。そして、必要に応じてヒーター31の出力の制御、送風ファン5の送風量の制御等を行いながら、ヘッド1がインクを吐出し、分解装置6が当該インクから揮発するVOCを分解する動作を繰り返す。
【0077】
なお、分解装置6の内部の温度測定は適宜行ってもよく、送風ファン5を介して揮発性有機化合物を分解装置6に導入しながら、制御部30はヒーター31の制御を行ってもよい。
【0078】
〔ソフトウェアによる実現例〕
インクジェット記録装置100の制御部30は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0079】
後者の場合、インクジェット記録装置100は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムおよび各種データがコンピュータ(またはCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)または記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(またはCPU)が上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0080】
[第二実施形態]
以下に、本発明の第二実施形態について、
図2を用いて説明する。
図2は、本発明の第二実施形態に係るインクジェット記録装置200を示す図である。なお、第一実施形態と共通の部材については、共通の番号を付し、その説明を省略する。
図2に示すように、本実施形態に係るインクジェット記録装置200は、ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域における気体を流動させる送風ファン(第二の送風手段)9を備えている点で第一実施形態に係るインクジェット記録装置100と異なる。
【0081】
(送風ファン9)
送風ファン9は、送風することによって、ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域における気体を流動させるものである。
【0082】
図2に示すように、制御部30は、送風ファン9の送風量を制御するが、送風ファン9の送風量を送風ファン5の送風量よりも少なくなるように制御することが好ましい。
【0083】
ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域にて、局所的にVOC濃度が上昇し、VOCが液化するおそれがある。しかし、本実施形態のように送風ファン9により印刷を行う領域における気体を流動させることで、局所的にVOC濃度が上昇することを抑制できるため、VOCが印刷を行う領域にて液化することを抑制できる。
【0084】
さらに、送風ファン9の送風量を送風ファン5の送風量よりも少なくなるように制御することで、インクジェット記録装置200の密閉性が低い場合であっても、外部へのVOCの流出を抑制でき、VOCを分解装置6へ導くことができる。また、分解装置6に流入する気体のVOC濃度が安定して、インクジェット記録装置200の制御が安定する。
【0085】
ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域を正圧(陽圧)にしないように調整する。さらに、送風ファン9の送風量を送風ファン5の送風量の0.2倍以上、1.0倍以下に調整することが好ましい。これにより、分解装置6に流入する気体のVOC濃度をより好適に安定させることができる。
【0086】
[第三実施形態]
以下に、本発明の第三実施形態について、
図3を用いて説明する。
図3は、本発明の第三実施形態に係るインクジェット記録装置300を示す図である。なお、第一実施形態と共通の部材については、共通の番号を付し、その説明を省略する。
図3に示すように、本実施形態に係るインクジェット記録装置300は、送風ファン9を備える代わりに、ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域に、分解装置6から排出される気体の少なくとも一部を排出する第三流路(第二の送風手段)10を備えている点で第二実施形態に係るインクジェット記録装置200と異なる。
【0087】
(第三流路10)
第三流路10は、第二流路7と接続しており、その開口部は、ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域に設けられている。また、第三流路10には開閉弁(図示せず)が取り付けられており、開閉弁を開くことにより、分解装置6から排出された気体の一部は、第三流路10の内部を通過し、当該気体はメディア20に印刷を行う領域に排出される。分解装置6から排出される高温の気体(揮発性有機化合物が分解された後の気体)をメディア20に印刷を行う領域に環流させるとインクの乾燥を促進することができる。
【0088】
なお、第三流路10に取り付けられた開閉弁の開閉を制御することによって、印刷を行う領域への気体の供給量を調整できる。また、第二流路7の排気口8を介して、分解装置6から排出された気体を排出せずに、当該気体をすべてメディア20に印刷を行う領域に環流させてもよい。
【0089】
また、第三流路10の内部に水蒸気を除去するための除湿部材を設けてもよい。これにより、分解装置8から排出された気体が水蒸気を含む場合に、当該水蒸気を除去することができ、水の蒸気圧が空気中の分圧を占めることを抑制することができる。よって、インクジェット記録装置300は、意図したインクの乾燥性質を発揮することができる。
【0090】
除湿部材としては、分解装置6から排出される気体が含む水蒸気を除去することができる部材であれば限定されないが、例えば、水蒸気を液化して回収する装置、又は、水分吸着剤等が挙げられる。
【0091】
〔付記事項〕
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置100は、インクをメディア20に吐出するヘッド1と、上記ヘッド1から吐出された上記インクから発生して、当該インク外に放出された有機化合物を分解する分解装置6と、上記放出された有機化合物及び分解装置6のうち少なくとも一方を加熱するヒーター31と、送風することによって、上記放出された有機化合物を分解装置6まで導く送風ファン5と、送風ファン5の送風量及びヒーター31の出力を制御する制御部30とを備え、制御部30は、所定の時間内にヘッド1から吐出されるインクの量に応じて、送風ファン5の送風量及びヒーター31の出力を制御することを特徴とする。
【0092】
所定の時間内にヘッド1から吐出されるインクの量に応じて送風ファン5の送風量及びヒーター31の出力を制御することができる。例えば、制御部30がインクの量に応じて送風ファン5の送風量を調整することで、失われる熱量を最低限にし、効率よく有機化合物を分解装置6まで導くことができる。その結果、送風により失われる熱量を補うためにヒーター31が加えるべき熱量も減少する。したがって、インクジェット記録装置100における消費電力を低減することができる。
【0093】
よって、一実施形態に係るインクジェット記録装置100は、少ない電力で印刷時に発生する有機化合物を低減することができる。
【0094】
インクジェット記録装置100は、分解装置6の内部の温度を測定する温度測定部32をさらに備え、制御部30は、温度測定部32の測定値に応じてヒーター31の出力を補正する。
【0095】
オープンループ制御によりヒーター31を制御した場合、分解装置6の温度が意図した範囲に収まらないことがある。このとき、分解装置6の温度が意図した範囲よりも小さい可能性があることを考慮し、加熱装置6の出力を高めに設定する必要がある。一方、分解装置6の内部の温度を把握できる場合、加熱装置6の出力を高めに設定する必要がなく、消費電力を低減することができる。他にも、分解装置6の内部の温度が上がりすぎていた場合に、送風ファン5の送風量を上昇させて、分解装置6の温度を下げることも可能である。
【0096】
インクジェット記録装置100は、送風ファン5により分解装置6まで導かれる上記放出された有機化合物の温度を測定する気体温度測定手段をさらに備え、制御部30は、上記気体温度測定手段の測定値に応じてヒーター31の出力を補正する。
【0097】
分解装置6に導かれる有機化合物の温度によって、分解装置6の降下温度及び気体における有機化合物の含有量が変化する。有機化合物の温度を予め把握することにより、分解装置6の温度変化をさらに精度よく見積もることができ、ヒーター31の出力を好適に補正することができる。よって、インクジェット記録装置100の消費電力を低減することができる。
【0098】
本発明の他の実施形態に係るインクジェット記録装置200は、送風することによって、ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域における気体を流動させる送風ファン9を有し、制御部30は、送風ファン9の送風量を送風ファン5の送風量よりも少なくなるように制御する。
【0099】
ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域にて、局所的に有機化合物の濃度が上昇し、有機化合物が液化するおそれがある。しかし、送風ファン9により印刷を行う領域における気体を流動させることで、局所的に有機化合物の濃度が上昇することを抑制できるため、有機化合物が印刷を行う領域にて液化することを抑制できる。さらに、送風ファン9の送風量を送風ファン5の送風量よりも少なくなるように制御することで、インクジェット記録装置200外への有機化合物の流出を抑制するとともに、分解装置6に流入する気体における有機化合物の濃度が安定して、インクジェット記録装置100の制御が安定する。
【0100】
本発明の他の実施形態に係るインクジェット記録装置300では、第三流路10は、ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域に、分解装置6から排出される気体の少なくとも一部を排出するものである。
【0101】
分解装置6から排出される高温の気体(有機化合物が分解された後の気体)をメディア20に印刷を行う領域に環流させると、当該領域における気体の飽和量が上昇してインクの乾燥を促進することができる。
【0102】
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置100では、ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域における温度を測定する温度測定部11をさらに備え、制御部30は、温度測定部11の測定値に応じて送風ファン5の送風量及びヒーター31の出力を制御する。
【0103】
ヘッド1がメディア20に印刷を行う領域の温度を測定することにより、吐出手段から吐出されたインクから発生して、当該インク外に放出される有機化合物の量を見積もることができる。そして、放出される有機化合物の量に応じて送風ファン5の送風量及びヒーター31の出力を制御するため、分解装置6にて有機化合物を効率よく分解することができる。
【0104】
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置100の制御方法は、インクをメディア20に吐出するヘッド1と、ヘッド1から吐出されたインクから発生して、当該インク外に放出された有機化合物を分解する分解手段と、上記放出された有機化合物及び上記分解手段のうち少なくとも一方を加熱する加熱手段と、送風することによって、上記放出された有機化合物を分解装置6まで導く送風ファン5とを備えるインクジェット記録装置100の制御方法であって、所定の時間内にヘッド1から吐出されるインクの量に応じて、送風ファン5の送風量を制御する送風制御工程と、ヒーター31の出力を制御する出力制御工程とを包含する。
【0105】
インクジェット記録装置100の制御方法は、インクジェット記録装置100と同様の効果を奏する。
【0106】
本実施形態に係るプログラムは、インクジェット記録装置100としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、コンピュータを上記各手段として機能させる。
【0107】
本実施形態に係るインクジェット記録装置100は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータをインクジェット記録装置100が備える各手段として動作させることによりインクジェット記録装置100をコンピュータにて実現させるプログラムも、本発明の範疇に入る。
【0108】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。