(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6124706
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】多数のユーザの通信履歴から地図上の動線を抽出する装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
H04W 16/18 20090101AFI20170424BHJP
H04W 24/10 20090101ALI20170424BHJP
H04W 64/00 20090101ALI20170424BHJP
【FI】
H04W16/18
H04W24/10
H04W64/00
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-133049(P2013-133049)
(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-8419(P2015-8419A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2016年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】泉川 晴紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄
【審査官】
青木 健
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/113706(WO,A1)
【文献】
特開2012−217061(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/119948(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/119774(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00 − 99/00
H04B 7/24 − 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯端末を所持した多数のユーザの通信履歴から、地図上におけるユーザの動線を抽出する装置であって、
携帯端末の1通信毎に、通信開始局及び通信終了局を記録したログを保存する接続履歴保存手段と、
各所定時間に、通信開始局毎の通信終了局の出現頻度を算出する通信終了局集計手段と、
前記通信開始局の位置を始点とし、前記通信終了局の位置を終点とし、前記出現頻度を含む有向線分を、ユーザの動線として生成する動線生成手段と、
有向線分の中央位置と、当該有向線分の終点となる通信終了局の出現頻度とに基づいて、複数の有向線分から第1のクラスタリングによって第1のクラスタを生成するクラスタリング手段と、
第1のクラスタ内の複数の有向線分から、始点となる通信開始局の位置と、終点となる通信終了局の位置とを含むエリアとして集計するエリア分割手段と
を有することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記クラスタリング手段は、
所定時間毎に、通信開始局及び通信終了局が同じとなる通信の出現頻度と、当該局の位置情報とに基づいて、複数の有向線分から第2のクラスタを生成する第2のクラスタリングを実行し、
2つ以上の第2のクラスタを包含又は部分的な重なりを有する、当該第2のクラスタと時間帯の異なる第1のクラスタの有無を探索し、
当該第1のクラスタが存在する場合は、2つ以上の第2のクラスタを含む第3のクラスタとして更に抽出する
ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記有向線分を視覚的に識別できるように地図に重畳して出力する地図出力手段を更に有し、
前記動線生成手段は、前記出現頻度が多い有向線分ほど、太く描画する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記通信終了局集計手段は、通信開始局毎の通信終了局の出現頻度として、通信終了局毎の出現回数、又は、所定時間内の全通信終了数に対する当該通信終了局の出現割合、を用いることを特徴とする請求項2又は3に記載の装置。
【請求項5】
前記通信開始局及び前記通信終了局は、複数のセクタに区分して通信するものであり、
前記接続履歴保存手段は、携帯端末の1通信毎に、接続時の通信開始局のセクタとの往復遅延時間と、通信終了時の通信終了局のセクタとの往復遅延時間を更に保存し、
前記動線生成手段は、前記「有向線分」について、
通信開始局のセクタの中心角度方向に、通信開始局位置から前記接続時の往復遅延時間の半分を距離換算した距離だけ移動した点を始点とし、
通信終了局のセクタの中心角度方向に、通信終了局位置から前記通信終了時の往復遅延時間の半分を距離換算した距離だけ移動した点を終点とする
ように生成することを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記動線生成手段は
生成した第1の有向線分の有向方向を中心線として所定範囲内に自身の向きから第1の角度以上を成し、第1の有向線分の終点局の出現回数と所定値以内の出現回数を持つ第2の有向線分を探索し、
第1の有向線分及び第2の有向線分をベクトルと見立てて合成し、新たな第3の有向線分を生成する
ことを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記動線生成手段は、
生成した第1の有向線分の有向方向を中心線として所定範囲内に自身の向きから第1の角度より小さく且つ第2の角度以上を成し、第1の有向線分の終点局の出現回数と所定値以内の出現回数を持つ第2の有向線分を探索し、
第1の有向線分の終点を第2の有向線分上又は第2の有向線分の延長線上に変更することを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記動線生成手段は、所定回数以下しか出現しない通信終了局は終点とせず、当該通信終了局に関しては有向線分を生成しないことを特徴とする請求項2から7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
道路及び/又は路線情報を有する交通情報格納手段を更に有し、
有向線分の有向方向を中心線とし、所定範囲内に道路又は路線が存在する場合は、当該有向線分を前記道路又は路線に合わせること
を特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
装置に搭載されたコンピュータを、携帯端末を所持した多数のユーザの通信履歴から、地図上におけるユーザの動線を抽出するように機能させるプログラムであって、
携帯端末の1通信毎に、通信開始局及び通信終了局を記録したログを保存する接続履歴保存手段と、
各所定時間に、通信開始局毎の通信終了局の出現頻度を算出する通信終了局集計手段と、
前記通信開始局の位置を始点とし、前記通信終了局の位置を終点とし、前記出現頻度を含む有向線分を、ユーザの動線として生成する動線生成手段と、
有向線分の中央位置と、各有向線分の終点となる通信終了局の出現頻度とに基づいて、複数の有向線分から第1のクラスタリングによって第1のクラスタを生成するクラスタリング手段と、
第1のクラスタ内の複数の有向線分から、始点となる通信開始局の位置と、終点となる通信終了局の位置とを含むエリアとして集計するエリア分割手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
携帯端末を所持した多数のユーザの通信履歴から、地図上におけるユーザの動線を抽出する装置のユーザ動線抽出方法であって、
前記装置は、携帯端末の1通信毎に、通信開始局及び通信終了局を記録したログを保存する接続履歴保存部を有し、
前記装置は、
各所定時間に、通信開始局毎の通信終了局の出現頻度を算出する第1のステップと、
前記通信開始局の位置を始点とし、前記通信終了局の位置を終点とし、前記出現頻度を含む有向線分を、ユーザの動線として生成する第2のステップと、
有向線分の中央位置と、各有向線分の終点となる通信終了局の出現頻度とに基づいて、複数の有向線分から第1のクラスタリングによって第1のクラスタを生成する第3のステップと、
第1のクラスタ内の複数の有向線分から、始点となる通信開始局の位置と、終点となる通信終了局の位置とを含むエリアとして集計する第4のステップと
を実行することを特徴とする装置のユーザ動線抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの行動履歴を抽出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通信事業者は、携帯電話網に代表される無線通信サービスを提供するために、サービスエリアを設計する。この設計は、一般的にできるだけ広いサービス圏内となるよう、基地局の設置場所が決定される。また、携帯端末の移動中でも通信の途切れを発生させないように、一方の基地局のサービス圏内とそれに隣接する他方の基地局のサービス圏内とは、一部重複するよう設計される。この重複領域では、ハンドオーバと称される接続先基地局の移行処理によって、移動中の通信サービスの継続を可能にしている。
【0003】
無線通信システムによれば、移動端末と基地局との間の通信品質は、遮蔽物のような周辺通信環境に左右されやすい。そのために、通信事業者としては、そのような遮蔽物の影響等も考慮してエリアが設計される。但し、全ての遮蔽物等の影響を加味した完璧なエリア設計は、現実には技術的及びコスト的にも難しい。
【0004】
また、携帯電話システムによれば、サービスエリアをカバーする多数の通信機器は、一般的に階層的に構成されている。例えば、移動端末と無線を介して接続する基地局を複数束ねて制御する基地局制御装置と、それら複数の基地局制御装置を更に制御する移動体交換局とから構成する技術もある(例えば非特許文献1参照)。例えばハンドオーバを実行する際、処理負荷の集中度は以下のようになる。
負荷集中度:小 同一基地局について異なるセクタ間のハンドオーバ
負荷集中度:中 同一基地局制御装置について異なる基地局間のハンドオーバ
負荷集中度:大 同一移動体交換局について異なる基地局制御装置間のハンドオーバ
【0005】
ここで、携帯端末を所持した多数のユーザは、空間的に一様に分布し、(微視的に見て)ランダムウォークを行っているわけではない。多数のユーザの動線は、例えば以下のようになる。
朝の通勤時間帯:ベッドタウンから都市中心部へ向かう動線
夜の通勤時間帯:都市中心部からベッドタウンへ向かう動線
【0006】
通信事業者としては、通信品質の高い無線通信サービスを提供するためには、この動線を考慮してエリアを設計する必要となる。また、装置の処理負荷の観点からは、動線に沿ったハンドオーバを、なるべく階層の下位の装置で実行できるように階層構成を検討することも必要となる。
【0007】
従来、店舗における顧客の動線を抽出し、顧客の行動パターンを分析する技術がある(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、無線LANやRFID(Radio Frequency IDentification)のような装置を用いて、ユーザの店舗内の位置を測位し、その動線を抽出することができる。
【0008】
また、同じくRFIDのような装置を用いて、ある観測エリア内を移動する歩行者等の移動体の現在位置を常に把握し、移動体の動線を観測するシステムもある(例えば特許文献4参照)。
【0009】
更に、ネットワークカメラを用いて、画像データより監視対象の動線を抽出する監視システムの技術がある(例えば特許文献2参照)。この技術によれば、画像データを分析し、監視対象の動きの方向を検出している。
【0010】
更に、オフィスビルや工場の製造ラインなどの施設を有効利用するために、人の動線を抽出する施設管理技術がある(例えば特許文献3参照)。この技術によれば、ビデオカメラによる画像データやPHS(Personal Handyphone Syste)を用いて、人の動線を抽出している。
【0011】
更に、測位機能付き移動端末から得られる間欠的な測位結果を用いて、当該測位結果の近傍の基準点(道路や路線)情報を用いることで、測位結果間の移動経路を抽出する技術もある(例えば特許文献5参照)。同様に、そのような測位結果を用いて、当該端末を所持するユーザによって利用される路線を推定し、当該路線に係る交通情報を当該ユーザの端末へ配信する技術もある(例えば特許文献6参照)。
【0012】
更に、ある移動端末の通信履歴を集め、接続先基地局の変遷から、当該移動端末の移動経路を抽出する技術もある(例えば特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】再表2005−111880号公報
【特許文献2】特開2002−281487号公報
【特許文献3】特開2003−022309号公報
【特許文献4】特開2005−020081号公報
【特許文献5】特開2012−212320号公報
【特許文献6】特開2011−148415号公報
【特許文献7】特開2012−217061号広報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】McGraw-Hill Processional: Networking Series, 2G Mobile Networks: GSMand HSCSD, pp.182
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述した特許文献1〜7に記載のいずれの技術も、1人のユーザの移動経路を抽出するものである。しかしながら、無線通信サービスにおけるエリア設計は、ユーザ1人1人の動線に応じてなされるものではなく、多数のユーザの動線を考慮したものでなければならない。即ち、特許文献1〜7に記載の技術を用いる場合、全てのユーザの移動経路を推定したのち、それら経路における多重度が大きい経路を抽出する必要がなる。しかしながら、このような方法では、ユーザ数が数千万人などと非常に多い場合は、計算量が莫大になる恐れがある。
【0016】
そこで、本発明によれば、各ユーザの移動経路を抽出することなく、基地局における通信履歴を用いて多数のユーザの動線を抽出する装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、携帯端末を所持した多数のユーザの通信履歴から、地図上におけるユーザの動線を抽出する装置であって、
携帯端末の1通信毎に、通信開始局及び通信終了局を記録したログを保存する接続履歴保存手段と、
各所定時間に、通信開始局毎の通信終了局の出現頻度を算出する通信終了局集計手段と、
通信開始局の位置
を始点とし、通信終了局の位置
を終点とし、出現頻度を含む有向線分を、ユーザの動線
として生成する動線生成手段と、
有向線分の中央位置と、各有向線分の終点となる通信終了局の出現頻度とに基づいて、複数の有向線分から第1のクラスタリングによって第1のクラスタを生成するクラスタリング手段と、
第1のクラスタ内の複数の有向線分から、始点となる通信開始局の位置と、終点となる通信終了局の位置とを含むエリアとして集計するエリア分割手段と
を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
クラスタリング手段は、
所定時間毎に、通信開始局及び通信終了局が同じとなる通信の出現頻度と、当該局の位置情報とに基づいて、複数の有向線分から第2のクラスタを生成する第2のクラスタリングを実行し、
2つ以上の第2のクラスタを包含又は部分的な重なりを有する、当該第2のクラスタと時間帯の異なる第1のクラスタの有無を探索し、
当該第1のクラスタが存在する場合は、2つ以上の第2のクラスタを含む第3のクラスタとして更に抽出することも好ましい。
【0019】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
有向線分を視覚的に識別できるように地図に重畳して出力する地図出力手段を更に有し、
動線生成手段は、出現頻度が多い有向線分ほど、太く描画することも好ましい。
【0020】
本発明の装置における他の実施形態によれば、通信終了局集計手段は、通信開始局毎の通信終了局の出現頻度として、通信終了局毎の出現回数、又は、所定時間内の全通信終了数に対する当該通信終了局の出現割合、を用いることも好ましい。
【0021】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
通信開始局及び通信終了局は、複数のセクタに区分して通信するものであり、
接続履歴保存手段は、携帯端末の1通信毎に、接続時の通信開始局のセクタとの往復遅延時間と、通信終了時の通信終了局のセクタとの往復遅延時間
を更に保存し、
動線生成手段は、「有向線分」について、
通信開始局のセクタの中心角度方向に、通信開始局位置から接続時の往復遅延時間の半分を距離換算した距離だけ移動した点を始点とし、
通信終了局のセクタの中心角度方向に、通信終了局位置から通信終了時の往復遅延時間の半分を距離換算した距離だけ移動した点を終点とする
ように生成することも好ましい。
【0022】
本発明の装置における他の実施形態によれば、動線生成手段は
生成した第1の有向線分の有向方向を中心線として所定範囲内に自身の向きから第1の角度以上を成し、第1の有向線分の終点局の出現回数と所定値以内の出現回数を持つ第2の有向線分を探索し、
第1の有向線分及び第2の有向線分をベクトルと見立てて合成し、新たな第3の有向線分を生成することも好ましい。
【0023】
本発明の装置における他の実施形態によれば、動線生成手段は、
生成した第1の有向線分の有向方向を中心線として所定範囲内に自身の向きから第1の角度より小さく且つ第2の角度以上を成し、第1の有向線分の終点局の出現回数と所定値以内の出現回数を持つ第2の有向線分を探索し、
第1の有向線分の終点を第2の有向線分上又は第2の有向線分の延長線上に変更することも好ましい。
【0024】
本発明の装置における他の実施形態によれば、動線生成手段は、所定回数以下しか出現しない通信終了局は終点とせず、当該通信終了局に関しては有向線分を生成しないことも好ましい。
【0027】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
道路及び/又は路線情報を有する交通情報格納手段を更に有し、
有向線分の有向方向を中心線とし、所定範囲内に道路又は路線が存在する場合は、当該有向線分を道路又は路線に合わせることも好ましい。
【0028】
本発明によれば、装置に搭載されたコンピュータを、携帯端末を所持した多数のユーザの通信履歴から、地図上におけるユーザの動線を抽出するように機能させるプログラムであって、
携帯端末の1通信毎に、通信開始局及び通信終了局を記録したログを保存する接続履歴保存手段と、
各所定時間に、通信開始局毎の通信終了局の出現頻度を算出する通信終了局集計手段と、
通信開始局の位置
を始点とし、通信終了局の位置
を終点とし、出現頻度を含む有向線分を、ユーザの動線
として生成する動線生成手段と、
有向線分の中央位置と、各有向線分の終点となる通信終了局の出現頻度とに基づいて、複数の有向線分から第1のクラスタリングによって第1のクラスタを生成するクラスタリング手段と、
第1のクラスタ内の複数の有向線分から、始点となる通信開始局の位置と、終点となる通信終了局の位置とを含むエリアとして集計するエリア分割手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0029】
本発明によれば、
携帯端末を所持した多数のユーザの通信履歴から、地図上におけるユーザの動線を抽出する装置の
ユーザ動線抽出方法であって、
装置は、携帯端末の1通信毎に、通信開始局及び通信終了局を記録したログを保存する接続履歴保存
部を有し、
装置は、
各所定時間に、通信開始局毎の通信終了局の出現頻度を算出する第1のステップと、
通信開始局の位置
を始点とし、通信終了局の位置
を終点とし、出現頻度を含む有向線分を、ユーザの動線
として生成する第2のステップと、
有向線分の中央位置と、各有向線分の終点となる通信終了局の出現頻度とに基づいて、複数の有向線分から第1のクラスタリングによって第1のクラスタを生成する第3のステップと、
第1のクラスタ内の複数の有向線分から、始点となる通信開始局の位置と、終点となる通信終了局の位置とを含むエリアとして集計する第4のステップと
を
実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の装置、プログラム及び方法によれば、各ユーザの移動経路を抽出することなく、基地局における通信履歴を用いて多数のユーザの動線を抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明におけるユーザ動線抽出装置の機能構成図である。
【
図2】通信終了局集計部によって基地局毎に集計された出現頻度を表すテーブルである。
【
図3】ユーザの動線を表す有向線分を地図に重畳した説明図である。
【
図4】8時台におけるユーザの動線(有向線分)を重畳した地図である。
【
図5】12時台におけるユーザの動線(有向線分)を重畳した地図である。
【
図6】18時台におけるユーザの動線(有向線分)を重畳した地図である。
【
図7】基地局の通信方向が複数のセクタに区分された説明図である。
【
図8】通信終了局集計部によって基地局及びセクタ毎に集計された出現頻度を表すテーブルである。
【
図9】セクタに応じて、基地局42から基地局41への有向線分を表す地図である。
【
図10】セクタに応じて、基地局41から基地局40への有向線分を表す地図である。
【
図11】
図10の2つの有向線分を合成した第3の有向線分を表す地図である。
【
図13】
図11の有向線分56を延長した有向線分58を表す地図である。
【
図14】有向線分を、道路又は路線に重畳させた地図である。
【
図16】第1のクラスタ及び第2のクラスタを表す地図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0033】
図1は、本発明におけるユーザ動線抽出装置の機能構成図である。
【0034】
図1によれば、ユーザ動線抽出装置(サーバ)1が、通信事業者の移動通信網に接続されており、通信事業設備の1つである。移動通信網は、例えば広域をカバーする携帯電話網であって、複数の基地局3a〜3cが接続されている。各基地局3a〜3cは、そのサービスエリア内に位置する携帯端末2a及び2bと通信する。携帯端末2は、例えば携帯電話機やスマートフォンである。本発明におけるユーザ動線抽出装置1は、携帯端末2を所持した多数のユーザの通信履歴から、地図上におけるユーザの動線を抽出するものである。
【0035】
図1によれば、ユーザ動線抽出装置1は、接続履歴保存部10と、通信終了局集計部11と、動線生成部12と、地図出力部13と、交通情報格納部14と、クラスタリング部15と、エリア分割部16とを有する。これら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。また、ユーザ動線抽出装置1は、ユーザの動線を表した地図をオペレータに明示するべく、ディスプレイを備えている。勿論、この地図は、ネットワークを介して端末へ転送されるものであってもよい。
【0036】
[接続履歴保存部10]
接続履歴保存部10は、携帯端末の1通信毎に、接続開始時刻と、通信開始局及び通信終了局とを記録したログ(通信履歴)を保存する。このログは、以下の情報を含む。
(1)携帯端末におけるその1通信の通信開始時刻
(2)通信開始時に接続した基地局識別子(通信開始局の基地局ID)
(3)通信終了時に接続していた基地局識別子(通信終了局の基地局ID)
本発明によれば、各ユーザの移動経路を追跡・抽出する必要がないために、当該ログにも、ユーザを識別する情報を含む必要がない。
【0037】
ここでは、接続履歴保存部10は、1通信のログ毎に、接続開始時刻を記録しているが、それに代えて接続終了時刻を保持してもよいし、接続開始時刻及び接続終了時刻の両方を保持してもよい。
【0038】
尚、通信終了局は、ハンドオーバ先の局であってもよい。この場合、携帯端末がハンドオーバする毎に、1通信としてログが保存される。
また、このログは、各基地局3によって取得されるものであって、携帯端末2から制御パケットを受信して保存するようなものではない。即ち、通信事業者設備の中で逐次記録されていくものである。
【0039】
図1の接続履歴保存部10には、簡単に2つのログが記録されている。
(1)例えば携帯端末2aにおける1通信のログからは、13:40に、基地局3aに接続して通信を開始し(通信開始局=基地局3a)、接続先基地局を変更せずに、基地局3aに接続したまま通信を終了している(通信終了局=基地局3a)。
(2)例えば携帯端末2bにおける1通信のログからは、13:42に、基地局3aに接続して通信を開始し(通信開始局=基地局3a)、移動して、基地局3bへ接続している時に通信を終了している(通信終了局=基地局3b)。
【0040】
[通信終了局集計部11]
通信終了局集計部11は、接続履歴保存部10を用いて、各所定時間に、通信開始局毎の通信終了局の出現頻度を算出する。「出現頻度」とは、単に「出現回数」であってもよいし、「全通信終了数に対する当該通信終了局の出現割合」であってもよい。また、所定時間とは、例えば1時間単位、3時間単位、1日単位であってもよいし、曜日単位や、平日・土日祝祭日等の種別単位であってもよい。この場合、接続履歴保存部10は、ログ毎に、それら曜日情報や種別情報を更に含む。
【0041】
図2は、通信終了局集計部11によって集計された出現頻度を表すテーブルである。
【0042】
図2によれば、各所定時間(例えば1時間毎、13:00〜13:59)について、通信開始局毎の通信終了局の出現回数が表されている。
通信開始局3a->通信終了局3bの出現回数:89回
通信開始局3c->通信終了局3aの出現回数:68回
通信開始局3a->通信終了局3cの出現回数:12回
これら集計されたテーブルは、動線生成部12へ出力される。
【0043】
[動線生成部12]
動線生成部12は、通信開始局の位置を始点とし、通信終了局の位置を終点とする有向線分であって、出現頻度を含めたものを生成する。ここで、出現頻度が高いほど、有向線分の太さが太くなるように生成されることも好ましい。一方で、出現頻度が所定閾値以下となる有向線分は、生成しないようにすることも好ましい。
【0044】
[地図出力部13]
地図出力部13は、有向線分を視覚的に識別できるように地図に重畳して出力する。
【0045】
図3は、ユーザの動線を表す有向線分を地図に重畳した説明図である。
【0046】
図3によれば、出現回数が10回以上となる有向線分(ユーザの動線)のみが表されている。ここで、通信開始局の位置を始点とし、通信終了局の位置を終点とする有向線分は、出現回数に応じた太さで生成する。有向線分の数字は、出現回数を表す。
図3によれば、通信開始局3a->通信終了局3bの有向線分が、最も太く表示されている。
【0047】
図4は、8時台におけるユーザの動線(有向線分)を重畳した地図である。ここでは、鉄道路線を、左から右へ向かう動線が比較的太いと共に、基地局36が存在する駅に向かう動線(有向線分51、52)も太いことが確認できる。
【0048】
図5は、12時台におけるユーザの動線(有向線分)を重畳した地図である。ここでは、ユーザの動線が比較的細い(即ちユーザの動きが小さい)と共に、基地局42から41へ向かう動線(有向線分53)と、基地局41から40へ向かう動線(有向線分54)とが現れていることが確認できる。
【0049】
図6は、18時台におけるユーザの動線(有向線分)を重畳した地図である。ここでは、鉄道路線を、右から左へ向かう動線が比較的太いと共に、基地局36を中心に、基地局38及び40との双方向の動線が発生していることが確認できる。
【0050】
図4〜
図6によれば、鉄道路線沿いに大きな動線があり、基地局42−41、40−36、36−38など、基地局36を中心に縦方向の動線があることが確認できる。
【0051】
図7は、基地局の通信方向が複数のセクタに区分された説明図である。
【0052】
図7によれば、基地局3は、通信方向が3つのセクタに区分され、そのセクタ毎に携帯端末2と通信する。これによって、ユーザ動線抽出装置1の接続履歴保存部10は、携帯端末の1通信毎に、通信開始局のセクタ番号と、通信終了局のセクタ番号も更に記録する。また、携帯端末の1通信毎に、通信開始局のセクタとの往復遅延時間と、通信終了局のセクタとの往復遅延時間を更に保存することも好ましい。
図7によれば、往復遅延時間は、マイクロ秒単位で記録されている。
【0053】
図7のテーブルによれば、以下の1通信が実行されたことが確認できる。
(1)ある携帯端末が、13:40に、基地局3aのセクタ2と通信を開始し、往復遅延時間1.7μsが計測された。携帯端末は、伝搬速度に基づいて、基地局3aから距離255メートル程度離れた場所に位置すると推定される。
その携帯端末は、基地局3aのセクタ2と接続している時に通信を終了し、往復遅延時間が1.6μsが計測された。携帯端末は、伝搬速度に基づいて、基地局3bから距離240メートル程度離れた場所に位置すると推定される。
【0054】
(2)ある携帯端末が、13:42に、基地局3aのセクタ2と通信を開始し、往復遅延時間2.3μsが計測された。携帯端末は、伝搬速度に基づいて、基地局3aから距離345メートル程度離れた場所に位置すると推定される。
その携帯端末は、基地局3bのセクタ3と接続している時に通信を終了し、往復遅延時間が2.8μsが計測された。携帯端末は、伝搬速度に基づいて、基地局3cから距離420メートル程度離れた場所に位置すると推定される。
【0055】
図8は、通信終了局集計部によって基地局及びセクタ毎に集計された出現頻度を表すテーブルである。
【0056】
図8によれば、各所定時間(例えば1時間毎、13:00〜13:59)について、通信開始局毎の通信終了局の出現回数が表されている。
通信開始局3aのセクタ2->通信終了局3bのセクタ2の出現回数:19回
通信開始局3aのセクタ2->通信終了局3bのセクタ3の出現回数:70回
通信開始局3aのセクタ3->通信終了局3cのセクタ1の出現回数:8回
通信開始局3aのセクタ3->通信終了局3cのセクタ2の出現回数:4回
【0057】
図9は、セクタに応じて、基地局42から基地局41への有向線分を表す地図である。
【0058】
ここで、動線生成部12は、有向線分を以下のように生成する。
・通信開始局のセクタの中心角度方向に、通信開始局位置から接続時の往復遅延時間の半分(片道遅延時間)を距離換算した距離だけ移動した点を始点とする。
・通信終了局のセクタの中心角度方向に、通信終了局位置から通信終了時の往復遅延時間の半分を距離換算した距離だけ移動した点を終点とする。
これによって、基地局のセクタ間を単に結んだ有向線分とは異なる。各片道遅延時間は、通信開始基地局のセクタと通信終了基地局のセクタの組毎に、要約統計量(平均値や中央値)として記録される。即ち、基地局のセクタから例えば平均往復遅延時間の半分だけ離れた位置における始点と終点とを結ぶ。
【0059】
図9によれば、有向線分55の始点が、基地局42の対象セクタの中心方向に、片道遅延時間代表値だけ基地局42から離れた点に変更されている。同様に、有向線分の終点が、基地局41の対象セクタの中心方向に、片道遅延時間代表値だけ基地局41から離れた点に変更されている。これによって、更に現実に近いユーザの動線を抽出することができる。
【0060】
図10は、セクタに応じて、基地局41から基地局40への有向線分を表す地図である。
【0061】
図10によれば、連続する2つの有向線分が表されている。
(第1の有向線分)基地局42のセクタから基地局41のセクタへ向かう有向線分55
(第2の有向線分)基地局41のセクタから基地局40のセクタへ向かう有向線分56
【0062】
第1の有向線分55の有向方向を中心線とし、例えば、第1の有向線分55の終点から、所定半径(例えば200m)内に始点を持つ第2の有向線分56を有する。ここで、以下の条件が全て成立する場合、それら有向線分をベクトルと見立てて合成し、新たな第2の有向成分を生成する。
(条件1)第1の有向線分55と第2の有向線分56とが成す角度θが、第1の角度(例えば120度;最大180度)以上である。即ち、できる限り2つの有向線分の角度差が小さいことを意味する。
(条件2)第1の有向線分55と第2の有向線分56との出現頻度(出現回数)の差が、所定値(例えば50)以内である。即ち、移動人数の近しい動線を(有向線分)をまとめて、1つの動線で表す。
【0063】
図11は、
図10の2つの有向線分を合成した第3の有向線分を表す地図である。
【0064】
図12は、
図11の有向線分56の延長を表す地図である。このように、第1の動線(有向線分)の終点の先、所定距離(例えば200m)以内に第2の動線(有向線分)が存在し、その作る角度が第2の角度(例えば120度)以内である場合、第1の動線(有向線分)の終点を第2の動線(有向線分)まで延長することも好ましい。
【0065】
図13は、
図11の有向線分56を延長した有向線分58を表す地図である。
図13によれば、
図11の有向線分56が、有向線分57の始点まで延長され、新たな有向線分58となっている。
【0066】
[交通情報格納部14]
交通情報格納部14は、地図上の道路及び/又は路線情報を有する。これら情報は、地図出力部13によって参照される。
【0067】
図14は、有向線分を、道路又は路線に重畳させた地図である。
【0068】
地図出力部13は、交通情報格納部14を用いて、有向線分の有向方向を中心線とし、所定範囲内に道路又は路線が存在する場合は、当該有向線分を道路又は路線に合わせる。例えば、
図13の有向線分57及び有向線分58は、それぞれ鉄道路線及び道路が所定範囲内に存在するため、
図14の有向線分59及び有向線分60のように、それぞれ鉄道路線及び道路上に重畳されて表示される。所定範囲とは、例えば有向線分に垂直な所定幅であってもよい。
【0069】
[クラスタリング部15]
クラスタリング部15は、有向線分の有向方向と、各有向線分の終点となる通信終了局の出現頻度に基づいて第1のクラスタリングをする。
【0070】
図15は、第1のクラスタを表す地図である。
【0071】
例えば、有向線分の中心(中央)を示す位置(緯度・経度)情報と、各有向線分の終点となる通信終了局の出現数に基づいて有向線分のクラスタリングをする。以下のように出現数に重み付けした2点間のユークリッド距離が算出される。
(x
lat_1−x
lat_2)
2+(y
lng_1−y
lng_2)
2+w*(N
1−N
2)
2
x
lat:緯度方向の座標
y
lng:経度方向の座標
N:出現数
w:重み係数
(wが大きいほど、出現数が似たような有向線分が同一クラスタに分類される)
このユークリッド距離を用いて、重心法によってクラスタリングをする。このようにして、大局的なユーザの流れ、つまり利用者の動線範囲を認識することができる。
【0072】
クラスタリング部15は、以下のように、第2、第3のクラスタを生成してもよい。
図16は、第1のクラスタ及び第2、第3のクラスタを表す地図である。
【0073】
クラスタリング部15は、以下のステップで第2、第3のクラスタを抽出する。
(S1)所定時間毎に通信開始局と通信終了局が同じとなる通信の出現頻度と、当該局の位置情報とに基づいて、第2のクラスタリングを実行する。これにより、ユーザが滞在するエリアを抽出することができる。
(S2)2つ以上の第2のクラスタを包含又は部分的な重なりを有する、当該第2のクラスタとは時間帯の異なる第1のクラスタの有無を探索する。
(S3)当該第1のクラスタが存在する場合は、2つ以上の第2のクラスタを含む第3のクラスタとして更に抽出する。
例えば、
図16によれば、9時台の第2のクラスタ81と、14時台の第2のクラスタ82とがある。これら2つの第2のクラスタ81及び82は、12時台の第1のクラスタ72に包含されている。この場合、第2のクラスタ81及び82を含む第3のクラスタ91を作成する。
図16によれば、第1のクラスタ72は、第2のクラスタ81及び82を「包含」しているため、クラスタ91は、クラスタ72と同一になる。クラスタ72がクラスタ82及び83と部分的に重なっている場合、クラスタ91は、クラスタ72とは別の形のクラスタとなる。これによって、商圏間の動線を確認することができる。
【0074】
[エリア分割部16]
エリア分割部16は、当該クラスタを、クラスタ内の有向線分の始点となる通信開始局の位置と、終点となる通信終了局の位置とを含む「エリア」として集計する。これによって、商圏毎の動線を確認することができる。
【0075】
以上、詳細に説明したように、本発明の装置、プログラム及び方法によれば、各ユーザの移動経路を抽出することなく、基地局における通信履歴を用いて多数のユーザの動線を抽出することができる。これによって、通信事業者は、ユーザの動線が太いほど、重点的にエリア設計をすることができ、ユーザにとって携帯端末の接続性を高めることができる。
【0076】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0077】
1 ユーザ動線抽出装置
10 接続履歴保存部
11 通信終了局集計部
12 動線生成部
13 地図出力部
14 交通情報格納部
15 クラスタリング部
16 エリア分割部