(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の圧力緩衝器においては、圧力緩衝膜は通常、熱プレス溶着又は超音波溶着によって圧力緩衝器本体に溶着される。
【0005】
しかしながら、熱プレスにより圧力緩衝膜を溶着する場合、予め圧力緩衝膜の融点以上に加熱された熱プレス治具と本体との間に圧力緩衝膜を挟むことにより接合する。このため、熱プレス治具と圧力緩衝膜との接触面から加熱されることになり、圧力緩衝膜と本体との接触面が加熱されて接合するまでに、圧力緩衝膜が過度に加熱されるという問題がある。このため、熱プレスによる圧力緩衝膜の溶着では、接合するときの過度な熱によって、圧力緩衝膜に皺及び剥れといった不良が起こりやすいという問題がある。このため、熱プレス溶着による圧力緩衝器の製造では、不良品が生じやすく、歩留りが非常に悪くなるという問題がある。
【0006】
また、圧力緩衝膜をコルゲート形状にして、得られる弾性によって圧力の緩衝を行なう場合があるが、圧力緩衝膜に設けられた形状を維持し、弾性を確保するためには、圧力緩衝膜を厚くする必要がある。しかし、この圧力緩衝膜を、加熱した熱プレス治具によって熱圧着すると、表面だけ溶けてしまい、本体側に熱が伝わらないので、溶着が上手くいかなかったり、圧力緩衝膜の形状が崩れて弾性が劣化したりするという問題もある。
【0007】
また、超音波溶着により圧力緩衝膜を溶着する場合、超音波振動の摩擦によって筐体及び圧力緩衝膜の樹脂から粉塵が生成され、圧力緩衝器の内部に異物として残留するという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、歩留りよく圧力緩衝機器を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係る圧力緩衝器の製造方法は、凹部を有する筐体と、当該凹部を覆うための圧力緩衝膜とにより形成された圧力室を備える圧力緩衝器の製造方法であって、上記筐体と、押さえ部材との間に、上記圧力緩衝膜を挟持する挟持工程と、上記筐体と上記圧力緩衝膜との接触面に、上記押さえ部材を介してレーザ光を照射して接合する接合工程とを包含していることを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、透明な樹脂層側からレーザ光を照射することによって筐体と圧力緩衝膜との接触面に熱を発生させることができるため、熱プレス溶着による接合のように、圧力緩衝膜を過度に加熱することなく、筐体と圧力緩衝膜とを接合することができる。従って、筐体と圧力緩衝膜とを接合するときに圧力緩衝膜の皺及び剥れといった不良の発生を抑えることができる。従って、圧力緩衝器を歩留りよく製造することができる。
【0011】
また、圧力緩衝膜の形状を維持し、弾性を確保するために、圧力緩衝膜を厚くした場合でも、筐体と圧力緩衝膜との接触面を効率よく加熱することができるため、溶着不良が生じにくく、かつ、圧力緩衝膜の形状が崩れて弾性が劣化することを防ぐことができる。
【0012】
さらに、接合するときに振動によって摩擦を生じないため、筐体と圧力緩衝膜との樹脂から粉塵を生成することがない。このため、内部に異物を混入させることなく圧力緩衝器を製造することができる。
【0013】
また、本発明に係る圧力緩衝器の製造方法において、上記圧力緩衝膜の厚さは、30μm以上、2000μm以下であることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、圧力緩衝膜の厚さを上記範囲内した場合でも、レーザ光により圧力緩衝膜と筐体との接触面を加熱することができるので、圧力緩衝膜を過度に加熱する必要がなく、熱ムラによる圧力緩衝膜の変形を抑えることができる。また、形状を維持し、弾性を確保するために厚くした圧力緩衝膜であっても、その形状及び弾性を維持して筐体に接合することができる。
【0015】
また、本発明に係る圧力緩衝器の製造方法において、上記圧力緩衝膜は、少なくとも一部にコルゲート形状を有していることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、過度に圧力緩衝膜を加熱することがないため、コルゲート形状を有する圧力緩衝膜を、熱によって変形させることなく筐体に接合することができる。すなわち、コルゲート形状が維持された圧力緩衝膜を好適に筐体に接合することができる。
【0017】
また、本発明に係る圧力緩衝器の製造方法において、上記レーザ光の波長は、700nm以上、12000nm以下であることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、筐体と圧力緩衝膜との接触面に好適にレーザ光を照射することができる。
【0019】
本発明に係る圧力緩衝器の製造方法において、上記圧力緩衝膜と上記筐体とは、同一の材料により形成されていることが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、筐体と圧力緩衝膜とは溶着しやすくなる。従って、筐体と圧力緩衝膜とを速やかにかつ確実に接合することができる。
【0021】
本発明の圧力緩衝器において、上記圧力緩衝膜は、レーザ光の少なくとも一部を透過することが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、圧力緩衝膜に吸収されずに透過したレーザ光が、筐体と圧力緩衝膜との接触面に好適に照射される。このため、効率よく、圧力緩衝膜と筐体とを接合することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、圧力緩衝膜を過度に加熱することなく、筐体と圧力緩衝膜とを接合することができるため、熱による圧力緩衝膜の皺及び剥れ等の不良の発生を抑えることができ、歩留りよく圧力緩衝器を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1及び
図2を用いて本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器の製造方法について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造される圧力緩衝器10の概略について説明する断面図である。
【0026】
<圧力緩衝器10>
圧力緩衝器10は、本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器の製造方法によって製造される圧力緩衝器の一例であり、インクジェット記録装置において、液体をインクタンクからインクジェットヘッドに供給する経路の一部に設けられるものである。液体経路内において、圧力緩衝器10は、インク容器からインクジェットヘッドに供給される液体の供給圧力の変動を緩衝し、インクジェットヘッドからの液体の吐出量を安定させる。
【0027】
圧力緩衝器10は、
図1に示す通り、筐体1、圧力緩衝膜2、圧力室3、弁体4、供給室5、付勢部材6、シール部材7、及び押圧部材8を備えている。
【0028】
筐体1は、その底面に貫通孔1aが設けられた凹部と、凹部の底面側に隣接し、貫通孔1aを介して凹部に連通する供給室5とを備えている。凹部の開口面は、圧力緩衝膜2に覆われており、凹部と圧力緩衝膜2とにより圧力室3が形成されている。
【0029】
圧力緩衝膜2は、筐体1の凹部を覆うように設けられており、圧力室3内のインクの増減に伴う圧力の変動によって撓む弾性を有している。これによって圧力緩衝膜2は、圧力室3の負圧の増大に伴い筐体1の凹部の底面に近づく方向に変位し、圧力室3内の圧力の増大に伴い筐体1の凹部の底面から離れる方向に変位する。
【0030】
なお、圧力緩衝膜2は、コルゲート形状2aを有している。圧力緩衝膜2にコルゲート形状2aが設けられていることによって、圧力室3内の圧力が変動したときに、圧力緩衝膜2が変位する方向に付勢力が付与される。すなわち、圧力緩衝膜2にコルゲート形状2aが設けられていることによって、圧力室3内の圧力変動に伴って、より効果的に圧力緩衝膜2を変位させることができる。このように本発明に係る圧力緩衝器の製造方法に用いられる圧力緩衝膜は、少なくとも一部にコルゲート形状を有していることが好ましい。
【0031】
本明細書において、コルゲート形状には、蛇腹形状及び波形形状が含まれ、圧力緩衝膜の弾性力を高める形状であることが意図される。
図1に示すように、圧力緩衝膜2の厚さ方向の断面において、コルゲート形状2aが形成されている部分は、波形形状である。また、圧力緩衝膜2を上面から見たとき、当該波形形状の山折り線と谷折り線とが、同心形状を形成するように設けられていてもよい。なお、圧力緩衝膜2により均一に付勢力を付与するという観点から、コルゲート形状2aは、圧力緩衝膜2を上面から見たときに、波形形状の山折り線と谷折り線とが同心円を形成するように設けられていることがより好ましい。
【0032】
圧力室3は、筐体1が有している凹部を圧力緩衝膜2が覆うことにより形成された空間である。圧力室3の内部は液体が貯留できるようになっている。圧力室3の側面には、貫通孔1cが設けられており、貫通孔1cを介して、インクジェットヘッド(図示せず)に連通している。そして、貫通孔1aを介して圧力室3に供給された液体が、貫通孔1cを介してインクジェットヘッドに供給される。
【0033】
弁体4は、貫通孔1aを貫いて圧力室3内から供給室5内まで延伸するように設けられており、圧力室3内のインクの増減に伴う圧力の変動による圧力緩衝膜2の変位に伴って、貫通孔1aを開閉するようになっている。弁体4は、供給室5側の位置に突起形状を有しており、供給室5の貫通孔1aに連通する壁面に当該突起形状が当接することによって、貫通孔1aを塞ぎ、当該壁面から当該突起形状が離れることにより、貫通孔1aを開放するように構成することができる。
【0034】
供給室5は、その側面に設けられた貫通孔1bを介してインクチューブ又はインク容器(図示せず)に連通している。これにより、インクチューブ又はインク容器からの液体が貫通孔1bを介して供給室5に供給される。そして、供給室5に供給された液体は、貫通孔1aを介して圧力室3に供給される。
【0035】
付勢部材6は、供給室5において貫通孔1aに連通する面に対向する面に設置されており、弁体4に貫通孔1aを塞ぐ方向の付勢力を付与する。付勢部材6は、弁体4に対して、圧力緩衝膜2の変位により弁体4に付与される付勢力とは反対方向の付勢力を付与する。付勢部材6としては、バネ等を用いることができる。
【0036】
シール部材7は、供給室5側において貫通孔1aの開口部を囲うように配置され、弁体の突起形状部分が供給室5の壁面に当接したときに、弁体4と供給室5との間に位置し、これらの間を密閉する。シール部材7としては、例えば、ゴム、シリコーン等によって形成されたOリング又はパッキン等を用いることができる。
【0037】
押圧部材8は、圧力緩衝膜2の圧力室3に面する側に設けられている。押圧部材8は、圧力緩衝膜2が凹部の底面に近づく方向に変位した時に、弁体4に当接し、弁体4を押圧する。圧力緩衝膜2に押圧部材8を設けることによって、圧力緩衝膜2が凹部の底面に近づく方向に変位するときに、圧力緩衝膜2が直接弁体4に当接して撓むことを防止できる。このため、押圧部材8は、圧力緩衝膜2の付勢力によって弁体4を好適に押圧することができる。
【0038】
(圧力緩衝器10の動作)
本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器10の動作の概略を説明する。貫通孔1cを介して圧力室3内の液体がインクジェットヘッドに供給されると、液体の減少に伴い圧力室3内の負圧が増大する。これによって、圧力緩衝膜2が筐体1の凹部の底面に近づく方向に変位し、押圧部材8が弁体4に当接し、弁体4を押圧する。弁体4に対する圧力緩衝膜2の付勢力が付勢部材6の付勢力より大きくなると、弁体4は貫通孔1aを開く方向に変位する。これにより、供給室5内の液体が貫通孔1aを介して圧力室3に流入する。
【0039】
圧力室3に液体が流入すると、圧力室3内の圧力が増大する。これにより、圧力緩衝膜2は凹部の底面から離れる方向に変位する。これにより、圧力緩衝膜2の付勢力が付勢部材6の付勢力より小さくなると、弁体4は貫通孔1aを閉じる方向に変位する。これにより供給室5から圧力室3への液体の流入が停止する。
【0040】
これら一連の動作によって、圧力緩衝器10は、インクチューブ又はインク容器からインクジェットヘッドに供給される液体の供給圧力の変動を緩衝することができる。従って、インクジェットヘッドから安定した量の液体を吐出することができる。
【0041】
<圧力緩衝器の製造方法>
図2を参照して、本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器の製造方法を説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る製造方法の概略を説明する模式図である。
【0042】
図2に示す通り、本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器の製造方法は、凹部を有する筐体1と、当該凹部を覆うための圧力緩衝膜2とにより形成された圧力室3を備える圧力緩衝器10の製造方法であって、筐体1と、押さえ板(押さえ部材)9との間に、圧力緩衝膜2を挟持する挟持工程(
図2の(a)及び(b))と、筐体1と圧力緩衝膜2との接触面に、押さえ板9を介してレーザ光を照射して接合する接合工程(
図2の(c)及び(d))とを包含している。
【0043】
このように、レーザ光を照射することによって筐体1と圧力緩衝膜2との接触面に熱を発生させることができる。このため、熱プレス溶着による接合方法のように、圧力緩衝膜2と熱プレス治具の接触面から圧力緩衝膜2を過度に加熱することなく、筐体1と圧力緩衝膜2とを接合することができる。従って、筐体1と圧力緩衝膜2とを接合するときに圧力緩衝膜2の皺及び剥れといった不良の発生を抑えることができる。
【0044】
また、圧力緩衝膜2の形状を維持し、弾性を確保するために、圧力緩衝膜2を厚くした場合でも、筐体1と圧力緩衝膜2との接触面を効率よく加熱することができるため、溶着不良が生じにくく、かつ、圧力緩衝膜2の形状が崩れて弾性が劣化することを防ぐことができる。
【0045】
さらに、接合するときに振動によって摩擦を生じないため、筐体1と圧力緩衝膜2との樹脂から粉塵を生成することがない。このため、内部に異物を混入させることなく圧力緩衝器10を製造することができる。
【0046】
本発明の一実施形態における圧力緩衝器の製造方法で用いる、圧力緩衝膜2、筐体1、及び、押さえ板9について以下に説明する。
【0047】
(圧力緩衝膜2)
本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器の製造方法においては、厚さ30μm以上、2000μm以下の圧力緩衝膜2を用いてもよい。
【0048】
圧力緩衝膜2の厚さを上記の範囲内とした場合でも、レーザ光により圧力緩衝膜と筐体との接触面を加熱することができるので、圧力緩衝膜2を過度に加熱する必要がなく、熱ムラによる圧力緩衝膜2の変形を抑えることができる。従って、圧力緩衝膜2が厚くても、圧力緩衝器10の製造において不良品の発生を抑えることができ、歩留りよく圧力緩衝器10を製造することができる。
【0049】
また、膜厚が上記の範囲内より薄い場合よりも圧力緩衝膜2の材料が有している材料的な特性を十分に生かすことができる。つまり、圧力緩衝膜2の形状を維持し、弾性を確保するために、圧力緩衝膜2を厚くしても、筐体1に確実に接合することができる。
【0050】
また、本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器の製造方法では、圧力緩衝膜2は、コルゲート形状2aを有している。
【0051】
コルゲート形状等の形状は、圧力緩衝膜が薄いと形成しづらいため、このような形状を形成する圧力緩衝膜は、厚くする必要がある。上述の通り、本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器10の製造方法では、厚い圧力緩衝膜2であっても、好適に筐体1に接合することができる。よって、コルゲート形状等の形状が形成されている圧力緩衝膜2であっても、好適に筐体1に接合することができる。
【0052】
また、熱プレス溶着による接合のように、圧力緩衝膜2を過度に加熱する必要がないため、圧力緩衝膜2に形成されたコルゲート形状2aを熱により変形させることがない。
【0053】
圧力緩衝膜2は、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、メタアクリル樹脂、ポリスチレン、並びに、ポリ塩化ビニリデンなどの材料を用いて成型することができる。また、異なる材料を含んだ複数の層を積層させたシートを用いて成型することもできる。例えば、耐溶剤性の高いポリオレフィンを含む層とガスバリア性の高いエチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン及びポリ塩化ビニリデンなどを含む層とを積層させたシートを用いて圧力緩衝膜2を成型してもよい。
【0054】
なお、本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器の製造方法では、レーザ光の少なくとも一部を透過する圧力緩衝膜2を用いることが好ましい。圧力緩衝膜2がレーザ光の少なくとも一部を透過することによって、圧力緩衝膜2に吸収されずに透過したレーザ光が、筐体1と圧力緩衝膜2との接触面に好適に照射される。このため、効率よく、圧力緩衝膜2と筐体1とを接合することができる。また、圧力緩衝膜2がレーザ光によって過度に加熱されることを防止することができる。
【0055】
(筐体1)
本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器の製造方法において、筐体1としては、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィンなどにより形成されたものを用いることができる。
【0056】
また筐体1は、圧力緩衝膜2と同一の材料により形成されていてもよい。ここで、レーザ光に対する透明度が高い圧力緩衝膜2と、レーザ光に対する透明度が圧力緩衝膜2より低い筐体1とを同一の材料により形成することによって、圧力緩衝膜2と筐体1とは、レーザ光の照射によって溶着しやすくなる。従って、筐体1と圧力緩衝膜2とを速やかにかつ確実に接合することができるようになる。
【0057】
また、筐体1は、着色されていることが好ましい。筐体1は、染料又は顔料などの種々の着色剤によって着色するとよい。筐体1を着色することによって、筐体1はレーザ光を吸収しやすくなる。なお、筐体1を着色する色は特に限定されないが、黒色であることが特に好ましい。筐体1を黒色に着色することによって、より好適に筐体1にレーザ光を吸収させることができる。
【0058】
圧力緩衝膜2がレーザ光の少なくとも一部を透過するようになっており、筐体1が着色されている場合、筐体1が圧力緩衝膜2よりもレーザ光を吸収しやすくすることができる。このため、筐体1と圧力緩衝膜2と接触面においてレーザ光の照射による熱が発生しやすくなる。従って、圧力緩衝膜2に過度に熱を加えることなく、圧力緩衝膜2と筐体1とを接合することができる。また、例えば、圧力緩衝膜2にポリエチレンを用い、筐体1にポリエチレンより融点の高いポリプロピレンを用いた場合でも、着色された筐体1の方がレーザ光の照射によって熱を生じ易くなっているため、圧力緩衝膜2に過度に熱を加えることなく圧力緩衝膜2と筐体1とを接合することができる。
【0059】
また、筐体1と圧力緩衝膜2との接合面の幅は、0.5mm以上、1.0mm以下の範囲内であってもよい。本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器の製造方法では、熱プレス溶着のように過度の熱を生じることがない。このため、厚さが30μm以上、2000μm以下(0.03mm以上、0.2mm以下)の圧力緩衝膜2を0.5mm以上、10mm以下の幅の筐体1の接合面に、好適に接合することができる。
【0060】
(押さえ板9)
押さえ板9は、筐体1の凹部を覆うように載置された圧力緩衝膜2を、筐体1との間に挟持する部材である。これによって、圧力緩衝膜2は筐体1に接触する位置に固定される。また、後の接合工程において、圧力緩衝膜2と筐体1との接着面に隙間ができないように押さえることができる。これによって、後の接合工程において、圧力緩衝膜と筐体1との接合不良を防ぐことができる。
【0061】
押さえ板9は、圧力緩衝膜2と筐体1とを接合するためのレーザ光を透過する材料により形成されていればよい。このような材料として、石英ガラスなどの耐熱ガラス及びパイレックス(登録商標)などが挙げられる。レーザ光を透過する材料により形成された押さえ板9を用いることによって、圧力緩衝膜2を筐体1上に固定しつつ、押さえ板9を介して圧力緩衝膜2と筐体1との接触面にレーザ光を照射することができる。
【0062】
ここで、押さえ板9はレーザ光を透過するため、レーザ光により過度に加熱されない。したがって、押さえ板9の熱によって、押さえ板9と圧力緩衝膜2とが接合することはない。このため、圧力緩衝膜2と押さえ板9との接合を防止するために、圧力緩衝膜2の押さえ板9に接する側の面に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート等の離型性のよいシート、又は、ポリエチレンテレフタレート(PET)シートのような融点の高いシートをラミネート加工によって備えておく必要がない。
【0063】
〔挟持工程〕
図2の(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器の製造方法に包含される挟持工程について説明する模式図である。ここで、
図2の(a)は、圧力緩衝膜2を筐体1と押さえ板9との間に配置して、挟持する前の状態を説明する図であり、
図2の(b)は、圧力緩衝膜2が、筐体1と押さえ板9とによって挟持された状態を説明する図である。
【0064】
挟持工程は、筐体1の凹部を覆うように筐体1上に載置された圧力緩衝膜2を、押さえ板9と筐体1との間に挟持する工程である。まず、筐体1を、凹部が上を向くように配置する。そして、圧力緩衝膜2を、筐体1の凹部を覆うように、筐体1上に配置する(
図2の(a))。次に、押さえ板9を、筐体1と圧力緩衝膜2との位置がずれないように、圧力緩衝膜2上に配置し、筐体1と押さえ板9との間に圧力緩衝膜2を挟持する(
図2の(b))。
【0065】
〔接合工程〕
図2の(c)及び(d)は、本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器の製造方法に包含される接合工程を説明する模式図である。ここで、
図2の(c)は、筐体1と圧力緩衝膜2との接合面に押さえ板9を介してレーザ光を照射している状態を説明する図であり、
図2の(d)は、レーザ光の照射後、押さえ板9を圧力緩衝器10から取り外した状態を説明する図である。
【0066】
接合工程は、筐体1と押さえ板9との間に圧力緩衝膜2を挟持した状態で、筐体1と圧力緩衝膜2との接触面に押さえ板9を介してレーザ光を照射して接合する工程である。
【0067】
接合工程において照射するレーザ光は、単軸光であってもよいが、複数軸又は帯状のレーザ光によって照射してもよい。複数軸又は帯状のレーザ光を照射することによって、一度にレーザ光を照射できる面積を広くすることができ、効率的にレーザ光を照射することができる。
【0068】
接合工程におけるレーザ光の照射時間は、筐体1と圧力緩衝膜2とを好適に接合できるように調整すればよいが、0.05秒以上、10秒以下の範囲内であることが好ましい。
【0069】
接合工程におけるレーザ光の照射は、例えば、筐体1と押さえ板9との間に圧力緩衝膜2を挟持したものを移動させながら行ってもよい。この場合、筐体1と押さえ板9との間に圧力緩衝膜2を挟持したものの移動速度を調整することによって、レーザ光の照射時間を調整することができる。これによって、熱プレスによる溶着方法よりも短時間で筐体1と圧力緩衝膜2とを接合することができる。
【0070】
また、本発明の一実施形態に係る圧力緩衝器の製造方法では、接合工程において照射するレーザ光の波長は、700nm以上、12000nm以下であることが好ましい。これによって、筐体1と圧力緩衝膜2との接触面に好適にレーザ光を照射することができる。
【0071】
また、レーザ光の出力については、レーザ光の照射時間、並びに、筐体1及び圧力緩衝膜2の材料の融点などを考慮して適宜調整すればよい。
【0072】
筐体1と圧力緩衝膜2との接触面に押さえ板9を介してレーザ光を照射した後、押さえ板9を取り外すことによって接合工程は完了する(
図2の(d))。
【0073】
〔付記事項〕
圧力緩衝器10の製造方法は、凹部を有する筐体1と、当該凹部を覆うための圧力緩衝膜2とにより形成された圧力室3を備える圧力緩衝器10の製造方法であって、筐体1と、押さえ板(押さえ部材)9との間に、圧力緩衝膜2を挟持する挟持工程と、筐体1と圧力緩衝膜2との接触面に、押さえ板9を介してレーザ光を照射して接合する接合工程とを包含している。
【0074】
上記構成によれば、透明な樹脂層側からレーザ光を照射することによって筐体1と圧力緩衝膜2との接触面に熱を発生させることができるため、熱プレス溶着による接合のように、圧力緩衝膜2を過度に加熱することなく、筐体1と圧力緩衝膜2とを接合することができる。従って、筐体1と圧力緩衝膜2とを接合するときに圧力緩衝膜2の皺及び剥れといった不良の発生を抑えることができる。従って、圧力緩衝器10を歩留りよく製造することができる。
【0075】
また、圧力緩衝膜2の形状を維持し、弾性を確保するために、圧力緩衝膜2を厚くした場合でも、筐体1と圧力緩衝膜2との接触面を効率よく加熱することができるため、溶着不良が生じにくく、かつ、圧力緩衝膜2の形状が崩れて弾性が劣化することを防ぐことができる。
【0076】
さらに、接合するときに振動によって摩擦を生じないため、筐体1と圧力緩衝膜2との樹脂から粉塵を生成することがない。このため、内部に異物を混入させることなく圧力緩衝器10を製造することができる。
【0077】
また、圧力緩衝器10の製造方法において、圧力緩衝膜2の厚さは、30μm以上、2000μm以下である。
【0078】
上記構成によれば、圧力緩衝膜2の厚さを上記範囲内した場合でも、レーザ光により圧力緩衝膜2と筐体1との接触面を加熱することができるので、圧力緩衝膜2を過度に加熱する必要がなく、熱ムラによる圧力緩衝膜2の変形を抑えることができる。また、形状を維持し、弾性を確保するために厚くした圧力緩衝膜2であっても、その形状及び弾性を維持して筐体1に接合することができる。
【0079】
また、圧力緩衝器10の製造方法において、圧力緩衝膜2は、少なくとも一部にコルゲート形状2aを有している。
【0080】
上記構成によれば、過度に圧力緩衝膜2を加熱することがないため、コルゲート形状2aを有する圧力緩衝膜2を、熱によって変形させることなく筐体1に接合することができる。すなわち、コルゲート形状2aが維持された圧力緩衝膜2を好適に筐体1に接合することができる。
【0081】
また、圧力緩衝器10の製造方法において、上記レーザ光の波長は、700nm以上、12000nm以下である。
【0082】
上記構成によれば、筐体1と圧力緩衝膜2との接触面に好適にレーザ光を照射することができる。
【0083】
また、圧力緩衝器10の製造方法において、圧力緩衝膜2と筐体1とは、同一の材料により形成されている。
【0084】
上記構成によれば、筐体1と圧力緩衝膜2とは溶着しやすくなる。従って、筐体1と圧力緩衝膜2とを速やかにかつ確実に接合することができる。
【0085】
また、圧力緩衝器10において、圧力緩衝膜2は、レーザ光の少なくとも一部を透過する。
【0086】
上記構成によれば、圧力緩衝膜2に吸収されずに透過したレーザ光が、筐体1と圧力緩衝膜2との接触面に好適に照射される。このため、効率よく、圧力緩衝膜2と筐体1とを接合することができる。
【0087】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。