特許第6124767号(P6124767)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6124767
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】歯車装置のシリーズ
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/033 20120101AFI20170424BHJP
   F16H 57/031 20120101ALI20170424BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   F16H57/033
   F16H57/031
   F16H1/32 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-223768(P2013-223768)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-86898(P2015-86898A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】為永 淳
(72)【発明者】
【氏名】志津 慶剛
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−287300(JP,A)
【文献】 特開2002−039287(JP,A)
【文献】 実公昭33−004424(JP,Y1)
【文献】 実公昭50−019095(JP,Y1)
【文献】 特開昭63−297840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/031
F16H 57/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車本体および該内歯歯車本体に配置された複数のピン部材を有すると共に該ピン部材が内歯を構成する内歯歯車と、前記内歯歯車本体に連結されるカバー部材とを備えた、第1歯車装置と第2歯車装置とを含む歯車装置のシリーズであって、
前記第1歯車装置と第2歯車装置は、前記カバー部材が共通とされ、
該カバー部材には、前記ピン部材を保持するための保持溝が設けられ、
前記第2歯車装置は、前記第1歯車装置よりも多くの前記ピン部材を有し、
前記第2歯車装置のピン部材は、前記第1歯車装置のピン部材よりも小径であり、
前記第1歯車装置の前記内歯歯車本体は、前記ピン部材の軸方向の一部の側面全周を保持する保持穴を有し、
前記第1歯車装置のピン部材は、前記カバー部材の保持溝には保持されず、前記内歯歯車本体の前記保持穴に保持され、
前記第2歯車装置の内歯歯車本体には、前記ピン部材の保持穴が設けられず、該第2歯車装置のピン部材は、前記カバー部材の前記保持溝に保持される
ことを特徴とする歯車装置のシリーズ。
【請求項2】
請求項1において、
前記カバー部材の前記保持溝は、無端のリング状に形成される
ことを特徴とする歯車装置のシリーズ。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記カバー部材の前記保持溝の中心円直径は、前記第1歯車装置の前記保持穴の中心円直径よりも大きい
ことを特徴とする歯車装置のシリーズ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記カバー部材は、前記内歯歯車よりも軸方向負荷側に配置される第1カバー部材と、該内歯歯車よりも軸方向反負荷側に配置される第2カバー部材と、を有し、該第1カバー部材および第2カバー部材の両方に前記保持溝が設けられる
ことを特徴とする歯車装置のシリーズ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記ピン部材の外周には、ローラ部材が外嵌され、
前記内歯歯車本体の前記保持穴の形成部の内径が、該ピン部材に外嵌されたローラ部材の最内径よりも大きい
ことを特徴とする歯車装置のシリーズ。
【請求項6】
請求項5において、
前記保持穴は、前記内歯歯車本体の負荷側、反負荷側の両方に形成され、
一方の該保持穴の形成部の内径が、前記ローラ部材の最内径より大きく、
他方の該保持穴の形成部の内径が、前記ローラ部材の最内径より小さい
ことを特徴とする歯車装置のシリーズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置のシリーズに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、外歯歯車が揺動しながら内歯歯車に内接噛合し、該外歯歯車と内歯歯車との相対回転を減速出力として取り出す偏心揺動型の歯車装置が開示されている。
【0003】
この歯車装置における内歯歯車は、内歯歯車本体と、該内歯歯車本体に配置された複数のピン部材とを備え、該ピン部材が、当該内歯歯車の内歯を構成している。
【0004】
内歯歯車本体には、ピン部材を保持するための保持穴が設けられ、ピン部材は、その軸方向の一部の側面全周が、該保持穴に保持される態様で内歯歯車本体に保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平8−6784号公報(図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような内歯歯車を有する歯車装置の減速比は、外歯歯車と内歯歯車の歯数差および歯数に依存して決定される。歯数差が同一の場合、高減速比の歯車装置は、低減速比の歯車装置に比べて、内歯の数(ピン部材の数)が多くなると共にピン部材の径が小さくなる傾向となる。そのため、高減速比の歯車装置は、内歯歯車本体のピン部材を保持する保持穴の加工に当たって、小さい径の保持穴を多数加工しなければならなくなり、加工コストが上昇するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解消するためになされたものであって、低減速比〜高減速比の歯車装置を、より低コストで構成可能な歯車装置のシリーズを提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、内歯歯車本体および該内歯歯車本体に配置された複数のピン部材を有すると共に該ピン部材が内歯を構成する内歯歯車と、前記内歯歯車本体に連結されるカバー部材とを備えた、第1歯車装置と第2歯車装置とを含む歯車装置のシリーズであって、前記第1歯車装置と第2歯車装置は、前記カバー部材が共通とされ、該カバー部材には、前記ピン部材を保持するための保持溝が設けられ、前記第2歯車装置は、前記第1歯車装置よりも多くの前記ピン部材を有し、前記第2歯車装置のピン部材は、前記第1歯車装置のピン部材よりも小径であり、前記第1歯車装置の前記内歯歯車本体は、前記ピン部材の軸方向の一部の側面全周を保持する保持穴を有し、前記第1歯車装置のピン部材は、前記カバー部材の保持溝には保持されず、前記内歯歯車本体の前記保持穴に保持され、前記第2歯車装置の内歯歯車本体には、前記ピン部材の保持穴が設けられず、該第2歯車装置のピン部材は、前記カバー部材の前記保持溝に保持される構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0009】
本発明における歯車装置のシリーズには、ピン部材の数が少なくて(内歯の数が少なくて)径が大きな第1歯車装置と、ピン部材の数が多くて(内歯の数が多くて)径が小さな第2歯車装置が、その構成要素として含まれる。
【0010】
第1歯車装置と第2歯車装置は、内歯歯車本体に連結されるカバー部材が共通とされる。カバー部材にはピン部材を保持するための保持溝が設けられる。そして、本シリーズでは、第1歯車装置の内歯歯車本体にだけ、ピン部材の軸方向の一部の側面全周を保持する保持穴が形成される。
【0011】
その上で、第1歯車装置のピン部材は、カバー部材の保持溝には保持されず、内歯歯車本体の保持穴に保持され、一方、第2歯車装置のピン部材は、カバー部材の保持溝に保持されるように構成する。
【0012】
これにより、第1歯車装置も、また第2歯車装置も、低コストに製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低減速比〜高減速比の歯車装置を、より低コストで構成可能な歯車装置のシリーズを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態の一例に係る歯車装置のシリーズの第1歯車装置の全体構成を示す断面図
図2図1の矢視II−II線に沿う部分拡大断面図
図3図1の内歯歯車の近傍の構成を示す部分拡大断面図
図4】上記歯車装置のシリーズの第2歯車装置の内歯歯車の近傍の構成を示す部分拡大断面図
図5図3の矢視V−V線に沿う断面図
図6図4の矢視VI−VI線に沿う断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例に係る歯車装置のシリーズの構成を詳細に説明する。
【0016】
概略から説明すると、本発明における歯車装置のシリーズには、内歯歯車の内歯がピン部材で構成された第1歯車装置と第2歯車装置が、その構成要素として含まれている。
【0017】
第1歯車装置と第2歯車装置は、内歯歯車の周辺の構造が異なる他は、共通の構成を有しているため、ここでは先ず、第1歯車装置の全体構成を説明し、次いで、第1歯車装置と第2歯車装置の相違に着目して説明することとする。
【0018】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る歯車装置のシリーズの第1歯車装置110の全体構成を示す断面図、図2は、図1の矢視II-II線に沿う部分拡大断面図である。
【0019】
この第1歯車装置110は、2個の偏心体112によって2枚の外歯歯車114を揺動させながら内歯歯車116に内接噛合させ、内歯歯車116と外歯歯車114との間に生じる相対回転を出力として取り出している。
【0020】
第1歯車装置110の入力軸111は、モータ118のモータ軸120と一体化されている。入力軸111には、キー122を介して偏心体軸124が連結されている。偏心体軸124には、前記2つの偏心体112が一体に形成されている。偏心体112の外周には偏心体軸受126を介して外歯歯車114が揺動可能に組み込まれている。外歯歯車114は、揺動しながら内歯歯車116に内接噛合している。
【0021】
すなわち、第1歯車装置110は、偏心体軸124が内歯歯車116の径方向中央に1本のみ存在する中央クランクタイプと称される偏心揺動型の歯車装置である。外歯歯車114を2枚並列に備えているのは、必要な伝達容量の確保および偏心位相をずらすことで回転バランス性の確保を意図したためである。
【0022】
外歯歯車114の歯形は、トロコイド歯形、内歯歯車116の歯形は、円弧歯形である。図3に拡大図示するように、内歯歯車116は、この実施形態では、ケーシング128と一体化された内歯歯車本体117と、該内歯歯車本体117に配置された複数の円柱状のピン部材119とを備え、上記円弧歯形の内歯をピン部材119によって構成している。なお、ピン部材119の外周には、外歯歯車114との間の摺動を円滑に行わせるために、摺動促進部材として、ローラ部材119Sが外嵌されている。したがって、この実施形態では、実質的には、該ローラ部材119Sが内歯歯車116の内歯を構成していると捉えることもできる。このように、本実施形態の第1歯車装置110においては、ローラ部材119Sが外嵌されたピン部材119によって内歯が構成されている。つまり、本発明において、「ピン部材が内歯を構成する」とは、ピン部材自体が直接内歯を構成する場合だけでなく、ピン部材にローラ部材を外嵌し、両者によって内歯を構成する場合も含まれる。
【0023】
内歯歯車116の内歯の数(ピン部材119、あるいはローラ部材119Sの数)は、外歯歯車114の外歯の数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0024】
内歯歯車116の近傍の構成については、後に詳述する。
【0025】
外歯歯車114は、該外歯歯車114を貫通する内ピン孔114Aを備える。内ピン孔114Aには、内ピン132が遊嵌している。内ピン132の外周には、摺動促進部材として内ローラ138が配置されている。内ローラ138と内ピン孔114Aとの間には偏心体112の偏心量の2倍相当の隙間δ1が確保されている。外歯歯車114の軸方向側部にはフランジ体134が配置され、内ピン132は、該フランジ体134の内ピン保持穴134Aに圧入・固定されている。フランジ体134は、出力軸136(図1)と一体化されている。出力軸136は、一対のテーパローラ軸受137に支持されている。
【0026】
次に、本実施形態の歯車装置のシリーズにおける第1歯車装置110と第2歯車装置210について詳細に説明する。なお、第1歯車装置110の各部材については100番台、第2歯車装置210の各部材については200番台の符号を付し、かつ既に説明した第1歯車装置110の部材と対応する第2歯車装置210の部材には、下2桁が同一の符号を適宜付して説明することとする。
【0027】
歯車装置は、ユーザの多様な要求に応えるために、大きさ(伝達容量)および減速比の異なる複数の歯車装置が、「シリーズ」として提供されることが多い。本実施形態に係る歯車装置のシリーズの第1歯車装置110と第2歯車装置210は、減速比が異なっており、第2歯車装置210の方が、高減速比である(入力軸111、211の回転速度に対して、第1歯車装置110の出力軸136の回転速度より、第2歯車装置210の出力軸236の回転速度の方が遅い)。
【0028】
減速比の理解を容易にするために、始めに、第1歯車装置110の減速作用を簡単に説明する。この減速作用は、第2歯車装置210でも同一である。
【0029】
再び図1を参照して、モータ118のモータ軸120の回転によって、該モータ軸120と一体化されている第1歯車装置110の入力軸111が回転すると、キー122を介して入力軸111と連結されている偏心体軸124が回転する。偏心体軸124が回転すると、該偏心体軸124と一体的に形成されている偏心体112が回転し、入力軸111が1回回転する毎に偏心体軸受126を介して外歯歯車114が1回揺動回転する。この結果、外歯歯車114と内歯歯車116の噛合位置が、順次ずれていく現象が発生し、外歯歯車114は、内歯歯車116との歯数差分、すなわち「1歯分」だけ、固定状態にある内歯歯車116に対して相対回転する(自転する)。この自転成分が、内ピン132を介して外歯歯車114の軸方向側部に配置されたフランジ体134に伝達され、フランジ体134と一体化されている出力軸136が回転する。この結果、(内歯歯車116と外歯歯車114の歯数差)/(外歯歯車114の歯数)に相当する減速比の減速を実現することができる。
【0030】
本実施形態に係る歯車装置のシリーズの第1、第2歯車装置110、210においては、歯数差は「1」であるから、結局、減速比は、1/(外歯歯車114、214の歯数)、つまり、1/(内歯歯車116、216の歯数−1)となる。
【0031】
換言するならば、低減速比の第1歯車装置110は、内歯歯車116の内歯の歯数(ピン部材の数)が少なく、かつ歯丈(ピン部材119の径)が大きい。逆に、高減速比の第2歯車装置210は、第1歯車装置110と比較して、内歯歯車216の内歯の歯数が多く、かつ歯丈(ピン部材219の径)が小さい。つまり、高減速比の第2歯車装置210は、低減速比の第1歯車装置110よりもピン部材219を多く有し、また、第2歯車装置210のピン部材219は、第1歯車装置110のピン部材119よりも小径である。
【0032】
従来は、内歯歯車は、内歯歯車本体となる素材に、軸方向に沿ってピン部材が嵌合可能な保持穴を、先ず、貫通孔の形で形成し、次いで、該保持穴の径方向内側部分を、切削等によって削り落として断面半円形状の「ピン溝」とし、削り落とした部分においてピン部材と外歯歯車を噛合させていた。しかし、この製造方法は、高減速比の第2歯車装置の内歯歯車を製造する場合、形成する保持穴の数が多く、また、切削時にピン溝の縁に発生した「ばり」等を取り除く必要があるため、加工工数が非常に多くなり、コストが掛かるという問題が生じていた。
【0033】
これに対し、近年では、ギヤシェーパを用いて内歯歯車本体となる素材に、断面が半円形のピン溝を直接形成するという手法も採用されている。この種の歯車装置において、特に歯数差が「1」の場合は、ピン部材は、ピン溝と外歯歯車との間に配置されることから、この手法でも、ピン部材がピン溝から外れてしまうことはない。しかし、この手法は、単にピン部材がピン溝と外歯歯車との間に配置されるだけであるため、外歯歯車の偏心揺動に伴ってピン部材が径方向に移動し易く、運転時に騒音が発生することがあるという問題があった。
【0034】
そこで、本実施形態に係る歯車装置のシリーズにおいては、第1歯車装置110と第2歯車装置210の、特に内歯歯車116、216を、以下のような構成で形成し(共通化あるいは差別化し)、双方を、簡易にかつ低コストに製造できるようにしている。
【0035】
図3は、既に説明しているように、第1歯車装置110の内歯歯車116の近傍の構成を示す部分拡大断面図、図4は、第2歯車装置210の内歯歯車216の近傍の構成を示す部分拡大断面図である。
【0036】
先ず、第1歯車装置110と第2歯車装置210とで共通化されている構成から説明すると、第1歯車装置110と第2歯車装置210の内歯歯車116、216は、双方とも、内歯歯車本体117、217および該内歯歯車本体117、217に配置された複数のピン部材119、219を有し、該ピン部材119、219が内歯を構成している。
【0037】
そして、内歯歯車本体117、217には、軸方向両側から、カバー部材150、250がボルト152、252を介して連結される。カバー部材150、250は、具体的には、内歯歯車116、216よりも軸方向負荷側に配置される負荷側カバー部材150A、250Aと、該内歯歯車116、216よりも軸方向反負荷側に配置される反負荷側カバー部材150B、250Bとでそれぞれ構成されている。カバー部材150、250は、第1歯車装置110と第2歯車装置210とで共通である。
【0038】
具体的には、第1歯車装置110の負荷側カバー部材150Aと第2歯車装置210の負荷側カバー部材250A同士が共通であり、第1歯車装置110の反負荷側カバー部材150Bと第2歯車装置210の反負荷側カバー部材250B同士が共通である。
【0039】
カバー部材150、250(負荷側カバー部材150A、250Aおよび反負荷側カバー部材150B、250B)には、ピン部材119、219を保持するための保持溝160、260がそれぞれ設けられている。
【0040】
具体的には、第1、第2歯車装置110、210の負荷側カバー部材150A、250Aには、軸方向反負荷側の面150A1、250A1に、反負荷側から切削によって無端のリング状に形成した負荷側保持溝160A、260Aがそれぞれ形成されている。また、第1、第2歯車装置110、210の反負荷側カバー部材150B、250Bには、軸方向負荷側の面150B1、250B1に、負荷側から切削によって無端のリング状に形成した反負荷側保持溝160B、260Bがそれぞれ形成されている。
【0041】
第1、第2歯車装置110、210の負荷側カバー部材150Aと250A、および反負荷側カバー部材150Bと250Bは、当該負荷側保持溝160A、260Aおよび反負荷側保持溝160B、260Bを含めて共通である。
【0042】
内歯歯車本体117、217は、第1、第2歯車装置110、210のケーシング本体を兼ねており、該内歯歯車本体117、217および第1、第2カバー部材150、250とで、第1、第2歯車装置110、210のケーシングが構成されている。これにより、ケーシングを構成する大型の部材(あるいは素材)を共通化できるため、大きなコスト低減効果が得られる。
【0043】
次に、第1歯車装置110および第2歯車装置210の差別化は、以下のようにしてなされている。
【0044】
第1歯車装置110の内歯歯車本体117は、ピン部材119の軸方向の一部119A、119Bの側面全周を保持する保持穴(貫通孔)164を有している。具体的には、外歯歯車114の負荷側に負荷側保持穴164A、外歯歯車114の反負荷側に反負荷側保持穴164Bを有している。第1歯車装置110のピン部材119は、前述した負荷側および反負荷側カバー部材150A、150Bの負荷側および反負荷側保持溝160A、160Bには保持されず、内歯歯車本体117の当該保持穴164(負荷側保持穴164Aおよび反負荷側保持穴164B)に両持ち保持される。
【0045】
なお、本実施形態では、ピン部材119には、摺動促進部材であるローラ部材119Sが外嵌されているため、該ピン部材119の両持ち支持は、中間嵌めとして、より確実に支持するようにしている。しかし、勿論、隙間嵌めとして、ピン部材119自体も回転できるようにしてもよい。
【0046】
一方、図4に拡大図示するように、第2歯車装置210の内歯歯車本体217には、ピン部材219の保持穴は設けられない。ギヤシェーパ等により、ピン部材219の周方向の位置を規制する断面半円形のピン溝215のみが形成される。そして、該第2歯車装置210のピン部材219は、負荷側および反負荷側カバー部材250A、250Bの保持溝260(負荷側保持溝260Aおよび反負荷側保持溝260B)に両持ち保持され、径方向の移動が拘束される。
【0047】
したがって、(ピン部材119の回転が速い傾向のある)第1歯車装置110のピン部材119は、保持穴164(負荷側保持穴164Aおよび反負荷側保持穴164B)によって、軸方向の一部119A、119Bの側面全周が両持ち保持され、径方向にも周方向にも確実に保持される。その結果、外歯歯車114の偏心揺動の状態の如何に関わらず、ピン部材119を確実に保持することができ、運転時の騒音も生じにくい。
【0048】
また、(ピン部材219の数が多い)第2歯車装置210については、ピン部材219の側面全周を保持する貫通孔としての保持穴を設けないため、特に内歯歯車本体217の加工工数を大幅に削減することができる。また、第2歯車装置210のピン部材219は、内歯歯車本体217に形成した断面半円形のピン溝215によって周方向の位置規制がなされると共に、負荷側および反負荷側カバー部材250A、250Bの保持溝260(負荷側保持溝260Aおよび反負荷側保持溝260B)に両持ち保持されることで径方向の移動が拘束されるため、やはり、外歯歯車214の偏心揺動の状態の如何に関わらず、ピン部材219を確実に保持することができる。
【0049】
しかも、この構成は、特に第2歯車装置210のピン部材219の径方向の移動の拘束に当たって、例えば差し輪等によって径方向内側からピン部材を支持する手法のように、「別途の部材」を必要としない。すなわち、差し輪等によってピン部材を径方向内側から支持する場合は、減速比が異なるとピン部材の径が異なるので、減速比毎に専用の差し輪を用意する必要があり、シリーズを構成するための部品点数が大きく増大してしまうが、この構成によれば、部品点数の増大は生じない。
【0050】
なお、この点に関し、もし、ピン部材の最内径が統一されるようにピン部材を組み込むようにすれば、差し輪の種類は1種類で済ませることができるようにはなる。しかし、この場合には、高減速比の第2歯車装置のピン部材のピッチ円直径が、低減速比の第1歯車装置のピン部材のピッチ円直径より小さくなる傾向となって、好ましくない。
【0051】
しかしながら、本シリーズでは、この点に関しても好ましい傾向を得ている。
【0052】
すなわち、本シリーズでは、カバー部材150(負荷側カバー部材150A、250Aおよび反負荷側カバー部材150B、250B)の保持溝160、260(負荷側保持溝160A、260Aおよび反負荷側保持溝160B、260B)の中心円直径(最内周円d1および最外周円d2の中心の直径)d3が、第1歯車装置110の保持穴164の中心円直径d4(内歯歯車116の軸心から保持穴164の中心までの距離の2倍)よりも大きくなるようにしている。これは、換言するならば、保持溝260に係合することになる第2歯車装置210のピン部材219のピッチ円直径Pcd2(≒d3)が、第1歯車装置110のピン部材119のピッチ円直径Pcd1(≒d4)よりも大きいということと、ほぼ同義である(図5図6を合わせて参照)。
【0053】
この構成により、減速比が大きくてより大きなトルクを伝達する上に、径が小さい第2歯車装置210のピン部材219のピッチ円直径Pcd2を、第1歯車装置110のピン部材119のピッチ円直径Pcd1よりも大きくすることができる。そのため、第2歯車装置210のピン部材219の耐久性をより余裕をもって確保することができ、強度面で非常に合理的な傾向を得ることができる。
【0054】
なお、本シリーズでは、既に述べたように、第1歯車装置110のピン部材119の外周には、外歯歯車114との間の摺動を円滑にするために、摺動促進部材として、ローラ部材119Sが外嵌されている。しかし、一方で、第2歯車装置210のピン部材219には、ローラ部材は外嵌されていない。この差別化により、特に、外歯歯車114とピン部材119との摺動が大きくなる傾向のある第1歯車装置110のピン部材119の摺動抵抗を効果的に低減することができ、かつ、摺動が比較的小さく、ピン部材の本数が多い第2歯車装置210では、(ローラ部材を設けないことによって)製造コストを低減することができる。すなわち、摺動抵抗の低減という作用効果の確保とコスト低減とを、合理的に両立させることができている。なお、このローラ部材の外嵌については、摺動抵抗の低減という作用効果を重視する場合には、(差別化せずに)第1、第2歯車装置110、210の双方に採用してもよく、コスト低減を重視する場合には、双方に採用しなくてもよい。
【0055】
なお、本シリーズでは、ピン部材119の外周にローラ部材119Sが外嵌されている第1歯車装置110においては、内歯歯車本体117の負荷側保持穴164Aの形成部117Aの内径D1(内歯歯車116の軸心から形成部117Aの内周までの距離)が、該ピン部材119に外嵌されたローラ部材119Sの最内径D2(内歯歯車116の軸心からローラ部材119Sの外周までの距離の最小値)よりも大きく形成されている。これにより外歯歯車114を、ローラ部材119Sの存在に関わらず、負荷側から容易に組み込むことができる。なお、内歯歯車本体117の反負荷側保持穴164Bの形成部117Bの内径D3については、外歯歯車114の組込の問題は生じないので、ローラ部材119Sの最内径D2よりも小さく形成し、形成部117Bの強度を高めている。この構成は、ローラ部材が外嵌されている歯車装置に特にメリットのある構成である。これにより、この関係が成立している側(保持穴の形成部の内径が、ピン部材に外嵌されたローラ部材の最内径よりも大きく形成されている側:負荷側または反負荷側)から、外歯歯車を、容易に組み込むことができる。なお、形成部117Bの内径D3>ローラ部材119Sの最内径D2>形成部117Aの内径D1とされていてもよい。
【0056】
なお、上記歯車装置のシリーズにおいては、該歯車装置の径方向中央に外歯歯車を偏心揺動させる偏心体軸を有するセンタクランク型の偏心揺動型の減速機構を有する歯車装置が採用されていたが、本発明に係る歯車装置のシリーズの減速機構は、この構成に限定されない。例えば、外歯歯車を揺動させる偏心体を有する偏心体軸を、歯車装置の径方向中央からオフセットした位置に複数備え、各偏心体軸を同期して回転させることによって外歯歯車を揺動させる、いわゆる振り分け型と称される偏心揺動型の歯車装置に適用することもできる。さらには、偏心揺動型の歯車装置でなくても、内歯歯車が、円弧歯形で構成される種々の歯車装置に適用することができる。
【0057】
また、上記歯車装置のシリーズにおいては、外歯歯車の外歯と内歯歯車の内歯の歯数差が、「1」の例が示されていたが、外歯歯車と内歯歯車の歯数差は、例えば2以上であってもよい。上述した構成に係る偏心揺動型の歯車装置の場合、歯数差が2以上のnである場合には、減速比は、n/(内歯歯車の歯数−n)となる。したがって、歯数差が同一に維持されている場合には、減速比が大きいほど、ピン部材の数は多くなり、また、ピン部材は小径となる傾向となるが、歯数差が異なる場合には、減速比とピン部材の数および径との関係は必ずしもこの傾向とはならない。本発明に係る歯車装置のシリーズにおいては、(減速比の如何に関わらず)より多くのピン部材を有し、かつピン部材がより小径である方が、第2歯車装置と定義される。これにより、第1歯車装置も、また、第2歯車装置も低コストで製造することが可能になる。
【符号の説明】
【0058】
110、210…第1、第2歯車装置
114、214…外歯歯車
116、216…内歯歯車
117、217…内歯歯車本体
119、219…ピン部材
150、250…カバー部材
160、260…保持溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6