【文献】
Liu Bo et al.,Expression of TAT-Smad7-HA fusion protein and validation of its transduction activity,Di-San Junyi Daxue Xuebao,2008年,Vol.30, No.23,p.2198-2202.(abstract),CAPLUS[online];[retrieved on 19 August 2015]Retrieved from:STN International, Accession no.2009:1376218
【文献】
Wound Repair and Regeneration,2004年,Vol.12, No.2,p.A11, No.036
【文献】
Japanese Journal of Ophthalmology ,2008年,Vol.52, No.3,p.204-210
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
組換えSmad7(mothers against decapentaplegic homolog 7)タンパク質を含み、該Smad7タンパク質がタンパク質導入ドメイン(PTD)と融合しており、かつ核に移行し、in vivoにおいて機能性である、炎症状態を処置または予防するための医薬の調製において使用するための組成物であって、前記炎症状態が口腔粘膜炎、乾癬、潰瘍、慢性創傷、皮膚炎、または口腔炎である、組成物。
前記医薬が、パッチ、ゲル状組成物、マイクロスフェア、マイクロビーズ、またはそれらの組み合わせに製剤化されている、請求項1または2のいずれかに記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
例示的な態様の詳細な説明
上述のように、80%を超える口腔癌患者が放射線照射により処置され、これらの個体の少なくとも80%が口腔粘膜炎を発症する。さらに、標準的な化学療法計画または上半身への放射線照射により処置される個体の少なくとも40%、最大70%が、口腔粘膜炎を発症する。例えば、およそ70%の結腸癌患者が、反復化学療法のために重度口腔粘膜炎を発症する。従って、口腔粘膜炎のための処置は、米国のみで数百万人の患者に関連しているであろう。現在のところ、癌患者における口腔粘膜炎のための真に有効な治療は、未だ存在しない。その他の炎症性疾患状態は、改良された治療のため、類似の必要性を有する。
【0018】
以下に開示されるSmad7治療は、口腔粘膜炎、およびその他の慢性、急性、または周期性/間欠性炎症状態に対して有意な治療効果を有するであろう。このタンパク質は、現行の処置(例えば、Kepivance(登録商標))と比較して、はるかに強力な効果を炎症に対して有し、創傷治癒をよりよく促進するため、そして外用処置、例えば(患者による口腔用の溶液、ゲル、またはパッチの適用)は、ユーザーフレンドリーであり得るため、これらの処置は相当の進歩を表す。実際、重度口腔粘膜炎患者は、しばしば、栄養管、脱水、および疼痛管理のためのオピオイド投与を管理するため、長期入院を必要とするため、本明細書に記載された態様は、患者の生活の質を改善し、医療費の負担を有意に低下させるための実質的な機会を表す。
【0019】
口腔粘膜炎のための治療剤としてSmad7を使用するこのアプローチは、完全に独特である。具体的には、Smad7タンパク質が、容易に組換え作製され得、直接使用されてもよいし、または標的細胞に導入して生理活性を発揮するパッチ、溶液、およびゲルなどの送達媒体に封入されてもよいことを、本発明者らは提唱する。さらに、この型のSmad7送達は、ほとんど副作用なしに、治療効力を示すはずである。しかしながら、ウイルスベクター送達、ならびにSmad7のインビボの誘導および活性化も、企図される。
【0020】
本発明の様々な態様により、当技術分野の技術の範囲内にある従来の分子生物学、微生物学、および組換えDNA技術が利用され得る。そのような技術は、文献中に完全に説明されている。例えば、Sambrook et al.(1990)を参照のこと。
【0021】
A. Smad7組成物
mothers against decapentaplegic homolog 7(Smad7)は、以下のものを含む数種の機序によるTGFβシグナル伝達のアンタゴニストとして以前に同定された:(a)TGFβ受容体により媒介されるリン酸化およびシグナリングSmadの核移行の阻止;(b)特定のユビキチン-プロテアソーム経路を通した、TGFβ受容体およびシグナリングSmadの分解の増加、ならびに(c)Smad結合要素(SBE)との結合についてのシグナリングSmadの阻害。Smad7は、NF-κB経路のようなその他のシグナリング経路にも拮抗する。
【0022】
Smad7タンパク質は、SMAD7遺伝
子によりコードされる。その他の多くのTGFβファミリーメンバーと同様に、Smad7は細胞シグナリングに関与している。TGFβ 1型受容体アンタゴニストである。TGFβ1およびアクチビンの受容体との会合を阻止し、Smad2へのアクセスを阻止する。阻害性Smad(I-SMAD)であり、SMURF2により増強される。Smad7は、筋肉分化も増強する。
【0023】
一つの態様において、本発明は、Smad7タンパク質組成物に関する。完全Smad7分子に加えて、本発明は、抗炎症活性を保持しているポリペプチドの断片にも関する。断片は、コード領域内の翻訳停止部位の遺伝子操作により生成され得る(後述)。プロテアーゼとして公知のタンパク質分解酵素によるSmad7分子の処理によって、多様なN末端断片、C末端断片、および内部断片が産生される。これらの断片を、沈殿(例えば、硫酸アンモニウム)、HPLC、イオン交換クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ(イムノアフィニティクロマトグラフィを含む)、または様々なサイズ分離(沈降、ゲル電気泳動、ゲルろ過)のような公知の方法によって精製することができる。
【0024】
Smad7のバリアントも企図される。これらは、置換バリアント、挿入バリアント、または欠失バリアントであり得る。欠失バリアントは、活性にとって必須でないネイティブタンパク質の1個または複数個の残基を欠き、上記の短縮変異体を含む。置換バリアントは、典型的には、タンパク質内の1個または複数個の部位に、あるアミノ酸の別のアミノ酸への交換を含有しており、その他の機能または特性の損失なしに、タンパク質切断に対する安定性のような、ポリペプチドの1種または複数種の特性をモジュレートするために設計され得る。この種類の置換は、好ましくは、保存的であり、即ち、あるアミノ酸が、形および電荷が類似したものに交換される。保存的置換は、当技術分野において周知であり、例えば、各アミノ酸が異なるアミノ酸に交換または置換され得る。置換バリアントの作成においては、ハイドロパシックインデックス、親水性、電荷、およびサイズが、通常、考慮される。
【0025】
特殊な種類のバリアントが、融合タンパク質である。この分子は、一般に、第2のポリペプチドの全部または一部と、N末端またはC末端において連結された、ネイティブ分子の全部または実質的な部分を有する。例えば、融合体は、異種宿主におけるタンパク質の組換え発現を可能にするため、他の種に由来するリーダー配列を利用してもよい。別の有用な融合には、融合タンパク質の精製を容易にするための、抗体エピトープのような機能的に活性なドメインの付加が含まれる。別の型の融合には、リガンドを活性化または不活化するための標的として機能することができ、それにより、対象へ送達された後、融合タンパク質の機能の制御を可能にするドメインの付着が含まれる。そのようなドメインには、例えば、ステロイドリガンド結合ドメインを独特に活性化することができ、かつ/または自然界に存在せず、従って、これらの低分子の存在によるSmad7機能の完全な制御を可能にするであろう低分子、例えば、4-ヒドロキシルトマキシフェン(tomaxifen)またはRU486により活性化され得るステロイドリガンド結合ドメイン(例えば、ER、PR、GR)が含まれる。
【0026】
本発明において特に利用可能である融合タンパク質の別の特定の型は、細胞送達ドメインまたは細胞導入ドメインとも呼ばれるタンパク質導入ドメイン(PTD)を含む融合体である。そのようなドメインは、当技術分野において記載されており、一般に、短い両親媒性または陽イオン性のペプチドおよびペプチド誘導体として特徴決定され、複数のリジン残基およびアルギニン残基をしばしば含有している(Fischer,2007)。おそらく、最も周知のPTDは、HIV由来のTATタンパク質、およびHSV VP16である。その他の例は、下記表1に示される。
【0028】
B. 核酸、ベクター、および組換え発現
本発明は、別の態様において、Smad7をコードする遺伝子も提供する。同定されたSMAD7遺伝
子に加えて、本発明が、本明細書に開示された特定の核酸に限定されないことは明らかであるべきである。下記のように、「Smad7遺伝子」は、多様な異なる塩基を含有していても、本明細書に開示されたヒト遺伝子と機能的に識別不可能であり、いくつかの場合において、構造的に同一である、対応するポリペプチドを産生することができる。
【0029】
1. Smad7をコードする核酸
本発明に係る核酸は、完全Smad7遺伝子、腫瘍抑制機能を発現するSmad7のドメイン、または本明細書に示されたSmad7配列のその他の断片を表し得る。核酸は、ゲノムDNAに由来するもの、即ち、特定の生物のゲノムから直接クローニングされたものであり得る。しかしながら、好ましい態様において、核酸は相補的DNA(cDNA)を含むであろう。cDNA+天然イントロンまたは別の遺伝子に由来するイントロンも企図され;そのような操作された分子は、時に「ミニ遺伝子」と呼ばれる。少なくとも、これらおよびその他の本発明の核酸は、例えば、ゲル電気泳動において分子量標準として使用され得る。
【0030】
「cDNA」という用語は、メッセンジャーRNA(mRNA)を鋳型として使用して調製されたDNAをさすものとする。ゲノムDNA、またはプロセシングされていないかもしくは部分的にプロセシングされたゲノムRNA鋳型から重合されたDNAとは対照的に、cDNAを使用する利点は、cDNAが、対応するタンパク質のコード配列を主に含有しているという点である。最適の発現のために非コード領域が必要とされる場合、またはアンチセンス戦略においてイントロンのような非コード領域が標的とされる場合のように、完全なまたは部分的なゲノム配列が好ましい場合もあり得る。
【0031】
本願において使用されるように、「Smad7をコードする核酸」という用語は、全細胞核酸から単離された核酸分子をさす
。「機能的に等価なコドン」という用語は、アルギニンまたはセリンのための6種のコドンのような、同一のアミノ酸をコードするコドンをさすために本明細書において使用され、以下の頁に記述されるような、生物学的に等価なアミノ酸をコードするコドンもさす。
【0032】
遺伝暗号の縮重を可能にして、
Smad7配列と同一のヌクレオチドを、少なくとも約50%、一般的には、少なくとも約60%、より一般的には、約70%、最も一般的には、約80%、好ましくは、少なくとも約90%、最も好ましくは、約95%、有する配列。
Smad7と本質的に同一である配列は、標準的な条件の下で、
Smad7の相補鎖を含有している核酸セグメントにハイブリダイズすることができる配列として機能的に定義されてもよい。
【0033】
本発明のDNAセグメントには、上記のような、生物学的に機能的な等価なSmad7タンパク質およびSmad7ペプチドをコードするものが含まれる。そのような配列は、核酸配列およびそれによりコードされるタンパク質に天然に存在することが公知である、コドンの重複およびアミノ酸の機能的等価性の結果として発生し得る。あるいは、交換されるアミノ酸の特性の考慮に基づき、タンパク質構造の変化を操作することができる、組換えDNAテクノロジーの適用を介して、機能的に等価なタンパク質またはペプチドを作出することもできる。下記のように、人間により設計された変化は、部位特異的変異誘発技術の適用を通して導入されてもよいし、または無作為に導入され、その後、所望の機能についてスクリーニングされてもよい。
【0034】
2. クローニング、遺伝子移入、および発現のためベクター
ある種の態様において、発現ベクターを、Smad7ポリペプチド産物を発現させるために利用し、次いで、それを様々な使用のために精製することができる。他の態様において、発現ベクターは、遺伝子治療において使用される。発現は、宿主細胞における関心対象の遺伝子の発現を駆動するウイルス起源および哺乳動物起源のエンハンサー/プロモーターのような、様々な調節要素を含む、適切なシグナルがベクター内に提供されることを必要とする。宿主細胞におけるメッセンジャーRNAの安定性および翻訳可能性を最適化するために設計された要素も定義される。薬物選択マーカーの発現をポリペプチドの発現と関係付ける要素のような、産物を発現している永久安定細胞クローンを確立するための多数のドミナント薬物選択マーカーの使用のための条件も、提供される。
【0035】
本願の全体にわたって、「発現構築物」という用語は、核酸コード配列の一部または全部が転写可能な、遺伝子産物をコードする核酸を含有している任意の型の遺伝子構築物を含むものとする。転写物は、タンパク質に翻訳されてもよいが、翻訳されなくてもよい。ある種の態様において、発現には、遺伝子の転写およびmRNAの遺伝子産物への翻訳の両方が含まれる。他の態様において、発現には、関心対象の遺伝子をコードする核酸の転写のみが含まれる。
【0036】
「ベクター」という用語は、核酸配列を、それが複製可能な細胞への導入のため、挿入することができる担体核酸分子をさすために使用される。核酸配列は、「外因性」であってもよい。「外因性」とは、それが、ベクターが導入される細胞に対して外来性であること、または配列が、細胞内の配列と相同であるが、その配列が普通は見出されない宿主細胞核酸内の位置にあることを意味する。ベクターには、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルス、および植物ウイルス)、ならびに人工染色体(例えば、YAC)が含まれる。両方とも参照により本明細書に組み入れられる、Sambrook et al.(1989)およびAusubel et al.(1994)に記載されている標準的な組換え技術を通して、ベクターを構築することは、当業者には容易であろう。
【0037】
「発現ベクター」という用語は、転写可能な遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含有しているベクターをさす。いくつかの場合において、RNA分子は、次いで、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドへ翻訳される。他の場合において、例えば、アンチセンス分子またはリボザイムの生成において、これらの配列は翻訳されない。発現ベクターは、多様な「制御配列」を含有していてよい。「制御配列」とは、プロモーターおよびエンハンサーを含む、特定の宿主生物における、機能的に連結されたコード配列の転写および恐らくは翻訳のために必要な核酸配列をさす。転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターは、転写終結シグナルおよびポリアデニル化部位のような、その他の機能を果たす核酸配列を含有していてもよい。
【0038】
細胞に効率的に感染または進入し、宿主細胞ゲノムへ組み込まれ、ウイルス遺伝子を安定的に発現する、ある種のウイルスベクターの能力は、多数の異なるウイルスベクター系の開発および適用をもたらした(Robbins et al.,1998)。ウイルス系は、エクスビボおよびインビボの遺伝子移入のためのベクターとして使用するため現在開発されている。例えば、アデノウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルスベクターは、癌、嚢胞性繊維症、ゴーシェ病、腎疾患、および関節炎のような疾患の処置のため現在評価されている(Robbins and Ghivizzani,1998;Imai et al.,1998;米国特許第5,670,488号)。様々なウイルスベクターは、特定の遺伝子治療適用に依って、特定の長所および短所を示す。
【0039】
本発明において使用するためのオルガネラ、細胞、組織、または生物の形質転換のための核酸送達のための適当な非ウイルス法には、本明細書に記載されるような、または当業者に公知であろう、オルガネラ、細胞、組織、または生物へ核酸(例えば、DNA)を導入することができる事実上任意の方法が含まれると考えられる。そのような方法には、微量注入(参照により本明細書に組み入れられる、Harland and Weintraub,1985;米国特許第5,789,215号)を含む、注射(各々参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,994,624号、第5,981,274号、第5,945,100号、第5,780,448号、第5,736,524号、第5,702,932号、第5,656,610号、第5,589,466号、および第5,580,859号)によるもののようなDNAの直接送達;電気穿孔(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,253号);リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb,1973;Chen and Okayama,1987;Rippe et al.,1990);DEAEデキストラン後のポリエチレングリコールの使用(Gopal,1985);直接音波負荷(Fechheimer et al.,1987);リポソームにより媒介されるトランスフェクション(Nicolau and Sene,1982;Fraley et al.,1979;Nicolau et al.,1987;Wong et al.,1980;Kaneda et al.,1989;Kato et al.,1991);微粒子銃(各々参照により本明細書に組み入れられる、PCT出願番号WO94/09699および95/06128;米国特許第5,610,042号;第5,322,783号、第5,563,055号、第5,550,318号、第5,538,877号、および第5,538,880号);炭化ケイ素繊維による撹拌(各々参照により本明細書に組み入れられる、Kaeppler et al.,1990;米国特許第5,302,523号および第5,464,765号);またはプロトプラストのPEGにより媒介される形質転換(各々参照により本明細書に組み入れられる、Omirulleh et al.,1993;米国特許第4,684,611号および第4,952,500号);脱水/阻害により媒介されるDNA取り込み(Potrykus et al.,1985)が含まれるが、これらに限定されない。これらのような技術の適用を通して、オルガネラ、細胞、組織、または生物は、安定的にまたは一時的に形質転換され得る。
【0040】
5. 発現系
上述の組成物の少なくとも一部または全部を含む多数の発現系が存在する。核酸配列またはその同族のポリペプチド、タンパク質、およびペプチドを作製するため、本発明において使用するために、原核生物および/または真核生物に基づく系を利用することができる。多くのそのような系が、広く市販されている。
【0041】
両方とも参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,871,986号および第4,879,236号に記載されたような、昆虫細胞/バキュロウイルス系は、異種核酸セグメントの高レベルのタンパク質発現を作製することができ、例えば、INVITROGEN(登録商標)からMAXBAC(登録商標)2.0の名称で、CLONTECH(登録商標)からBACPACK(商標)BACULOVIRUS EXPRESSION SYSTEMの名称で、購入可能である。
【0042】
発現系のその他の例には、合成エクジソン誘導可能受容体を含むSTRATAGENE(登録商標)のCOMPLETE CONTROL(商標)Inducible Mammalian Expression System、または大腸菌(E.coli)発現系であるそのpET Expression Systemが含まれる。誘導可能な発現系の別の例は、全長CMVプロモーターを使用する誘導可能哺乳動物発現系であるT-REX(商標)(テトラサイクリンにより調節される発現(tetracycline-regulated expression))Systemを保持しているINVITROGEN(登録商標)から入手可能である。INVITROGEN(登録商標)は、メチロトローフ酵母ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)における組換えタンパク質の高レベルの産生のため設計されている、Pichia methanolica Expression Systemと呼ばれる酵母発現系も提供する。核酸配列、またはその同族のポリペプチド、タンパク質、もしくはペプチドを作製するため、発現構築物のようなベクターを発現させる方法は、当業者には公知であろう。
【0043】
初代哺乳動物細胞培養物は、様々な方式で調製され得る。インビトロで発現構築物と接触させながら、細胞を生存可能に維持するためには、細胞が、正確な比率の酸素および二酸化炭素ならびに栄養素との接触を維持し、微生物混入から防御されることを確実にすることが必要である。細胞培養技術はよく実証されている。
【0044】
上記の一つの態様は、タンパク質の産生のための、細胞を不死化するための遺伝子移入の使用を含む。関心対象のタンパク質のための遺伝子を、上記のようにして適切な宿主細胞へ移入し、続いて、適切な条件の下で細胞を培養することができる。事実上任意のポリペプチドのための遺伝子を、この様式で利用することができる。組換え発現ベクターの生成、およびその中に含まれる要素は、上述されている。あるいは、産生されるタンパク質は、当該細胞により通常合成される内因性タンパク質であってもよい。
【0045】
有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、Vero細胞、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞株、W138細胞、BHK細胞、COS-7細胞、293細胞、HepG2細胞、NIH3T3細胞、RIN細胞、およびMDCK細胞である。さらに、挿入された配列の発現をモジュレートするか、または所望の様式で遺伝子産物を修飾しプロセシングする宿主細胞株を選ぶこともできる。タンパク質産物のそのような修飾(例えば、グリコシル化)およびプロセシング(例えば、切断)は、タンパク質の機能にとって重要であり得る。異なる宿主細胞は、タンパク質の翻訳後のプロセシングおよび修飾のための特徴的な特定の機序を有する。発現された外来タンパク質の正確な修飾およびプロセシングを確実にするため、適切な細胞株または宿主系を選ぶことができる。
【0046】
それぞれ、tk-細胞、hgprt-細胞、またはaprt-細胞における、HSVチミジンキナーゼ遺伝子、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むが、これらに限定されない、多数の選択系を使用することができる。また、耐性を付与するdhfr;ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt;アミノグリコシドG418に対する耐性を付与するneo;およびハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygroについての選択の基礎として、抗代謝物耐性を使用することもできる。
【0047】
本明細書において使用されるように、「細胞」、「細胞株」、および「細胞培養物」という用語は、交換可能に使用され得る。後続のあらゆる世代である子孫も、これらの用語全てに含まれる。計画的なまたは偶発性の変異のため、全ての子孫が同一であるとは限らないことが理解される。異種核酸配列の発現に関して、「宿主細胞」とは、原核細胞または真核細胞をさし、それには、ベクターを複製しかつ/またはベクターによりコードされた異種遺伝子を発現することができる任意の形質転換可能な生物が含まれる。宿主細胞は、ベクターのためのレシピエントとして使用され得、使用されている。宿主細胞は、「トランスフェクト」または「形質転換」され得、それらは、外因性の核酸が宿主細胞へ移入されるかまたは導入される過程をさす。形質転換細胞には、第一の主細胞およびその子孫が含まれる。
【0048】
宿主細胞は、所望の結果が、ベクターの複製であるか、それともベクターによりコードされた核酸配列の一部または全部の発現であるかに依って、原核生物または真核生物に由来し得る。多数の細胞株および培養物が、宿主細胞として使用するために利用可能であり、それらは、生存している培養物および遺伝材料のアーカイブとして機能する機関であるAmerican Type Culture Collection(ATCC)(atcc.org)を通して入手され得る。適切な宿主は、ベクター骨格および所望の結果に基づき、当業者により決定され得る。プラスミドまたはコスミドは、例えば、多くのベクターの複製のため、原核宿主細胞へ導入され得る。ベクターの複製および/または発現のための宿主細胞として使用される細菌細胞には、DH5α、JM109、およびKC8、ならびにSURE(登録商標)Competent CellsおよびSOLOPACK(商標)Gold Cells(Stratagene(登録商標),La Jolla)のような多数の市販の細菌宿主が含まれる。あるいは、大腸菌LE392のような細菌細胞が、ファージウイルスのための宿主細胞として使用され得る。
【0049】
ベクターの複製および/または発現のための真核宿主細胞の例には、HeLa、NIH3T3、Jurkat、293、Cos、CHO、Saos、およびPC12が含まれる。様々な細胞型および生物に由来する多くの宿主細胞が利用可能であり、当業者に公知であろう。同様に、ウイルスベクターは、真核宿主細胞または原核宿主細胞のいずれか、具体的には、ベクターの複製または発現を許容するものと共に使用され得る。
【0050】
いくつかのベクターは、原核細胞および真核細胞の両方において複製されかつ/または発現されることを可能にする制御配列を利用し得る。当業者は、それらを維持し、かつベクターの複製を許容するための、上記の宿主細胞の全てをインキュベートするための条件をさらに理解しているであろう。ベクターの大規模作製、ならびにベクターによりコードされた核酸、およびその同族のポリペプチド、タンパク質、またはペプチドの作製を可能にするであろう技術および条件も、理解されており公知である。
【0051】
C. 炎症性疾患状態
1. 慢性創傷
慢性創傷とは、大部分の創傷のように、秩序立った一連の段階で、予測可能な長さの時間で治癒することがない創傷であり;3ヶ月以内に治癒しない創傷が、しばしば慢性と見なされる。慢性創傷は、創傷治癒の段階のうちの一つまたは複数において停滞していると考えられる。例えば、慢性創傷は、しばしば、炎症段階に過剰に長く留まる。急性創傷においては、コラーゲンのような分子の生成と分解との間に正確なバランスが存在するが;慢性創傷においては、このバランスが失われ、分解が過大の役割を果たしている。
【0052】
慢性創傷は、決して治癒しないかもしれないし、または治癒に数年かかるかもしれない。これらの創傷は、患者に重度の感情的および身体的なストレスを引き起こし、さらに、患者および保険医療システム全体に相当の経済的負担を作出する。急性創傷および慢性創傷は、異なる速度で治癒に向かって進行する創傷治癒型のスペクトルの反対の端にある。慢性創傷の大部分は、静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、および褥瘡という3種のカテゴリーに分類され得る。これらのカテゴリーに属さない少数の創傷は、放射線中毒または虚血のような原因によるものであり得る。
【0053】
静脈性潰瘍および動脈性潰瘍。一般的には脚において起こる静脈性潰瘍は、慢性創傷の約70%〜90%を占め、主として高齢者に影響を与える。それらは、血液が逆流するのを防止するために静脈に存在する弁の不適切な機能により引き起こされる静脈高血圧によると考えられている。虚血は、機能障害に起因し、再灌流傷害と組み合わさって、創傷をもたらす組織損傷を引き起こす。
【0054】
糖尿病性潰瘍。慢性創傷の別の主因、糖尿病の有病率は増加中である。糖尿病患者は、慢性潰瘍による切断のリスクが、一般集団より15%高い。糖尿病はニューロパチーを引き起こし、それが侵害受容および痛覚を阻害する。従って、患者は、脚および足への小さな創傷に初期には気付かない場合があり、従って、感染および反復的な傷害を予防し得ない場合がある。さらに、糖尿病は、免疫不全および小血管への損傷を引き起こし、組織の充分な酸素負荷を防止し、そのことによって慢性創傷を引き起こす場合がある。圧力も、糖尿病性潰瘍の形成において役割を果たす。
【0055】
褥瘡。慢性創傷の別の主要な型は、踵、肩甲骨、および仙骨のような、一般的に圧力がかかる身体部分の移動を阻害する麻痺のような状態を有する人々において一般的に起こる褥瘡である。褥瘡は、組織に対する圧力が、毛細管内の圧力より大きくなり、それにより、その区域への血流が制限される場合に起こる虚血によって引き起こされる。皮膚より多くの酸素および栄養素を必要とする筋肉組織は、長期的な圧力からの最悪の効果を示す。その他の慢性潰瘍と同様に、再灌流傷害は組織に損傷を与える。
【0056】
慢性創傷は、表皮および真皮にのみ影響する場合もあるし、または筋膜までの全ての組織に影響する場合もある。それらは、手術もしくは事故による外傷のような、急性創傷を引き起こすのと同じ事象によって最初は形成される場合もあるし、または全身感染、血管、免疫、もしくは神経の機能障害、もしくは新生物もしくは代謝障害のような併存症の結果として形成される場合もある。創傷が慢性化する理由は、反復的な外傷、継続的な圧力、虚血、または疾病のような因子が、損傷に対処する身体の能力を上回ることである。
【0057】
慢性創傷の研究においては、最近、大きな前進が達成されたが、それらの治癒の研究における進歩は期待より遅れている。これは、部分的には、動物は慢性創傷を得ないため、動物研究が困難であるためである。動物は、一般的に、迅速に収縮する疎性の皮膚を有し、通常、十分に高齢にならないか、またはニューロパチーもしくは慢性消耗性疾病のような寄与する疾患を有しないためである。にも関わらず、現在、研究者らは、虚血、再灌流傷害、および細菌コロニー形成を含む、慢性創傷をもたらす主因のいくつかを理解している。
【0058】
虚血。虚血は、特に、(一般的にそうであるように)反復的に起こった場合、または患者の高齢と組み合わさった場合、創傷の形成および持続における重要な因子である。虚血は、組織に炎症を起こさせ、インターロイキン、ケモカイン、ロイコトリエン、および補体因子のような好中球を誘引する因子を細胞に放出させる。
【0059】
好中球は、病原体に対抗するが、細胞に損傷を与える炎症性サイトカインおよび酵素も放出する。それらの重要な任務の一つは、細菌を死滅させるために活性酸素種(ROS)を産生することであり、そのためにミエロペルオキシダーゼと呼ばれる酵素を使用する。好中球およびその他の白血球が産生した酵素およびROSは、DNA、脂質、タンパク質、ECM、および治癒を加速するサイトカインに損傷を与えることにより、細胞に損傷を与え、細胞増殖および創傷閉鎖を妨げる。好中球は、急性創傷より長く、慢性創傷に残存し、慢性創傷がより高レベルの炎症性サイトカインおよびROSを有するという事実に寄与する。慢性創傷からの創傷液は、過剰のプロテアーゼおよびROSを有するため、液体自体が、細胞成長を阻害し、ECM内の増殖因子およびタンパク質を分解することにより、治癒を阻害することができる。
【0060】
細菌コロニー形成。創傷環境におけるより多くの酸素は、白血球が細菌を死滅させるためのROSを産生することを可能にするため、不充分な組織酸素負荷を有する患者、例えば、手術中に低体温に罹患した者は、より高い感染のリスクを有する。細菌の存在に対する宿主の免疫応答は、炎症を延長し、治癒を遅延させ、組織に損傷を与える。感染は、慢性創傷のみならず、感染した肢の壊疽、喪失、および患者の死亡ももたらす場合がある。
【0061】
虚血と同様に、細菌によるコロニー形成および感染は、より多数の好中球を創傷部位に侵入させることにより、組織に損傷を与える。慢性創傷を有する患者においては、抗生物質に対する耐性を有する細菌が、発達する時間を有する可能性がある。さらに、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)のような薬剤耐性菌株を保有している患者は、より多くの慢性創傷を有する。
【0062】
増殖因子およびタンパク質分解酵素。慢性創傷は、エラスターゼのようなタンパク質分解酵素のレベルについても、急性創傷とは構成が異なる。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)はより高く、血小板由来増殖因子およびケラチノサイト増殖因子のような増殖因子の濃度はより低い。
【0063】
増殖因子(GF)は適時の創傷治癒に不可避であるため、不充分なGFレベルは、慢性創傷形成における重要な因子となり得る。慢性創傷においては、増殖因子の形成および放出が防止される場合があり、因子が隔離され、代謝上の役割を果たすことができないか、または細胞もしくは細菌のプロテアーゼにより過剰に分解される場合がある。
【0064】
糖尿病性潰瘍および静脈性潰瘍のような慢性創傷は、繊維芽細胞による充分なECMタンパク質の産生の失敗、およびケラチノサイトによる創傷の上皮化の失敗によっても引き起こされる。慢性創傷における繊維芽細胞の遺伝子発現は、急性創傷と異なる。
【0065】
全ての創傷が、適切な治癒のために、ある程度のレベルのエラスターゼおよびプロテアーゼを必要とするが、過度に高い濃度は損傷を与える。創傷区域における白血球は、エラスターゼを放出し、それが、炎症を増加させ、組織、プロテオグリカン、およびコラーゲンを破壊し、増殖因子、フィブロネクチン、およびプロテアーゼを阻害する因子に損傷を与える。エラスターゼの活性は、慢性創傷に見出される最も豊富なタンパク質であるヒト血清アルブミンにより増加する。しかしながら、不充分なアルブミンを有する慢性創傷は、治癒しない可能性が特に高く、従って、創傷のそのタンパク質のレベルを調節することは、将来、慢性創傷の治癒において有益であると判明する可能性がある。
【0066】
白血球により放出される過剰のマトリックスメタロプロテイナーゼも、創傷の慢性化を引き起こし得る。MMPは、ECM分子、増殖因子、およびプロテアーゼ阻害剤を分解し、従って、構築を低下させながら分解を増加させ、生成と分解との間の微妙な折衷のバランスを崩す。
【0067】
2. 急性創傷/外傷
身体的外傷とは、肢の除去のような、重篤な、身体を改変する身体的傷害である。鈍力外傷は、非鋭利物体からまたは非鋭利物体により加えられた衝撃またはその他の力により引き起こされる身体的外傷の型であり、穿通性外傷は、皮膚または組織に物体が穿通する身体的外傷の型である。外傷は、事故のような非計画的なもの、または手術の場合の計画的なものとしても記載される。両方とも、軽度〜重度の組織損傷、失血、および/またはショックを特徴とし、両方とも、敗血症を含む続発性感染をもたらし得る。本発明は、(医学的手技の場合の)前処置および外傷性傷害が起こった後の処置の両方を含む、外傷の処置を提供する。
【0068】
手術。手術は、身体の機能もしくは外観の改善を助けるため、または時にはその他の何らかの理由のため、疾患または傷害のような病理学的状態を調査しかつ/または処置するため、患者に対して手動および機器による手術技術を使用する。本発明は、以下にさらに定義されるような、手術に起因する外傷に取り組むことができる。
【0069】
概して、手技は、患者の組織を切ることまたは以前に被た創傷の閉鎖を含む場合、外科的と見なされる。血管形成術または内視鏡検査のような、この規定に必ずしも入らないその他の手技も、無菌環境、麻酔、消毒条件、典型的な外科用機器、および縫合またはステープリングの使用のような、一般的な外科的な手技または設定を含む場合、手術と見なされ得る。手術の全ての型が侵襲性手技と見なされ;いわゆる非侵入性手術とは、一般的に、取り組まれている構造に穿通しない切除(例えば、角膜のレーザーアブレーション)または放射線外科的手技(例えば、腫瘍の照射)をさす。手術の所要時間は、数分〜数時間であり得る。
【0070】
外科的手技は、緊急性、手技の型、含まれる身体系、侵襲性の程度、および特別の機器によって一般的に類別される。待機手術は、生命を脅かすものではない状態を補正するために行われ、患者の要求により実施され、外科医および手術施設の利用可能性によって左右される。緊急手術は、生命、肢、または機能的能力を救助するため、迅速に行われなければならない手術である。探索手術は、診断を補助または確認するために実施される。治療的手術は、以前に診断された状態を処置する。
【0071】
切断は、身体の一部、一般的には、肢または指を切り離すことを含む。再移植は、切断された身体の一部を再び付着させることを含む。再建手術は、傷害を受けた、離断された、または変形した身体の一部の再構築を含む。美容外科は、他の面では正常である構造の外観を改善するために行われる。切除は、患者からの臓器、組織、またはその他の身体の一部の切り出しである。移植手術は、異なるヒト(または動物)からの臓器または身体の一部の、患者への挿入による、臓器または身体の一部の交換である。移植において使用するための、生存しているヒトまたは動物からの臓器または身体の一部の摘出も、手術の一種である。
【0072】
手術は、一つの臓器系または構造に対して実施される場合、含まれる臓器、臓器系、または組織によって分類され得る。例には、(心臓に対して実施される)心臓手術、(消化管およびその付属臓器において実施される)胃腸手術、ならびに(骨および/または筋肉に対して実施される)整形外科手術が含まれる。
【0073】
低侵襲手術は、腹腔鏡手術または血管形成術のように、体腔または構造へ小型機器を挿入するための、より小さな外側の切開を含む。対照的に、開放性外科的手技は、関心対象の区域にアクセスするための大きな切開を必要とする。レーザー手術は、メスまたは類似の外科用機器の代わりに、組織を切るためのレーザーの使用を含む。顕微手術は、外科医が小さな構造を見るための手術用顕微鏡の使用を含む。ロボット手術は、外科医の指示の下で機器を制御するため、Da VinciまたはZeusの手術システムのような手術用ロボットを使用する。
【0074】
3. 自己免疫疾患/炎症性疾患
本発明は、脊椎関節症、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、反応性関節炎、腸炎性関節炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸疾患、炎症性腸疾患、慢性関節リウマチ、若年性関節リウマチ、家族性地中海熱、筋萎縮性側索硬化症、シェーグレン症候群、初期関節炎、ウイルス性関節炎、多発性硬化症、または乾癬のような、多様な自己免疫疾患および/または炎症性疾患の状態の処置を企図する。これらの疾患の診断および処置は、文献中によく実証されている。
【0075】
4. 化学療法、放射線療法、およびサイトカイン療法の毒性
化学療法、放射線照射、およびサイトカインを含む、様々な型の癌治療が、癌患者における毒性、時には、重度の毒性に関連している。毒性がヒストンの細胞外作用により少なくとも一部分引き起こされるという点で、本発明は、本発明の薬学的組成物を使用して、この毒性を低下させ、それにより、患者の一部における不快を低下させるかまたは軽減させ、さらに、より高用量の治療を可能にすることを求める。
【0076】
世界で6番目に一般的な癌である口腔癌は、頭頸部癌の亜型であり、口腔内に位置する癌性の組織成長である。口腔組織のいずれかにおいて生じた原発巣として発生する場合もあるし、遠位の起源部位からの転移により発生する場合もあるし、または鼻腔のような隣接する解剖学的構造からの拡張により発生する場合もあり、口腔癌は、口の組織のいずれにおいても生じる可能性があり、以下のような多様な組織学的型であり得る:奇形腫、大小の唾液腺に由来する腺癌、扁桃組織もしくはその他のリンパ組織からのリンパ腫、または口腔粘膜の色素産生細胞からの黒色腫。数種の型の口腔癌が存在するが、約90%が、口および唇を裏打ちする組織において生じる扁平上皮癌である。口腔癌または口腔内癌は、舌を含むことが最も一般的である。口腔底、頬の裏打ち、歯肉(歯ぐき)、唇、または口蓋(口腔の上壁)にも起こり得る。大部分の口腔癌は、顕微鏡下で極めて類似して見え、扁平上皮癌と呼ばれる。これらは、悪性であり、急速に蔓延する傾向を有する。
【0077】
80%を超える口腔癌患者が放射線療法により処置され、これらの個体の少なくとも75%が口腔粘膜炎を発症する。口腔粘膜炎は、慢性の口腔潰瘍形成である。この疾患は、放射線照射により処置された全ての型の癌患者、臓器移植のため(移植片の拒絶を排除するため)に放射線照射により処置された患者、およびルーチンの化学療法を受けている患者において高頻度に起こる。重度口腔粘膜炎は、激烈な疼痛を伴い、食物/液体摂取を損ない、従って、しばしば、癌治療の最も重度の合併症である。口腔粘膜炎は、頭頸部への放射線照射および化学療法の可能な最大用量を決定するための主要な因子であり;癌処置を有意に複雑にし、入院を延長し、生活の質を減少させ、費用を増加させる場合がある。現在、重度口腔粘膜炎を効果的に処置するための治療は確立されていない。現在のことろ、ヒトケラチノサイト増殖因子(KGF)の組換えタンパク質であるKepivance(登録商標)が、骨髄移植患者における重度口腔粘膜炎のための、i.v.注射を通した唯一のFDA認可薬であり、癌患者におけるその使用は未だ決定されていない。従って、この薬物は、リスクを有する集団のわずか4%のためにしか利用可能でない。また、i.v.経路のため、医療サービス提供者の必要性という問題も有する。その他の可能性のある治療には、ビスカス2%リドカインリンス、重曹溶液、生理食塩水溶液、またはカクテル溶液、例えば、BAX(リドカイン、ジフェンヒドラミン、ソルビトール、およびミランタ)が含まれる。その他の調査的または粘膜防御的な補助療法には、βカロテン、トコフェロール、レーザー照射、硝酸銀による口腔粘膜の予防的ブラッシング、ミソプロストール、ロイコボリン、全身的KGF、ペントキシフィリン、アロプリノール口腔洗浄剤、全身的スクラルファート、クロルヘキシジングルコン酸塩、および凍結療法が含まれるが、これらに限定されない。
【0078】
化学療法および放射線照射により誘導される腸管粘膜炎は、急速に分裂している腸上皮細胞の急性の死滅の結果として発生する炎症状態である。単独で、薬物の組み合わせとして、または放射線照射と共に、固形腫瘍の処置のために使用される大部分の化学療法薬が、多数の腸上皮細胞の死滅をもたらすであろう。続いて起こる粘膜炎の臨床所見には、悪心および嘔吐、重篤な下痢のような消化器症状、急性の体重減少および消耗が含まれる。これは、多くの癌患者のための化学療法の適用について、制限因子のうちの一つに確実になっている。Tat-Smad7の、化学療法剤、放射線照射、またはそれらの組み合わせのいずれかから腸上皮細胞を防御する能力は、癌治療の望ましくない副作用を有意に減少させ、既存のツールによって疾患を治療するためのより侵襲性の方式を可能にするであろう。
【0079】
骨髄機能不全症候群は、造血幹細胞コンパートメントが損なわれ、正常な細胞型を生成することができない場合に発生する一連の状態である。骨髄機能不全は、遺伝性の遺伝子異常、毒素、化学物質、またはウイルスのような有害物質への曝露の結果として起こる。後天性の骨髄機能不全の発症をもたらし得る環境因子の性質および同一性は、まだ完全には理解されていないが、マスタードガス、電離放射線、および内臓リーシュマニア症またはアフリカトリパノソーマ症のような感染性病原体への曝露を含む、少数の因子が、軍人における後天性骨髄機能不全の発症と関係付けられている。残存している常在BM HSCの相当数が、これらのストレスから逃れ、造血コンパートメントを再生息させるよう助長されない限り、骨髄機能不全症候群の管理のための最適のアプローチは、未だHSCの移植である。本明細書に記載されるSmad7のモジュレーションは、骨髄機能不全と一致する臨床徴候を示す患者において、残存する常在HSCの慎重な防御を可能にするはずである。
【0080】
5. 組み合わせ抗炎症治療
複数の治療モダリティにより疾患を処置することは、医学の多くの領域において一般的であり、しばしば「組み合わせ治療」と呼ばれる。炎症性疾患も例外でない。本発明の方法および組成物を使用して炎症性障害を処置するためには、一般に、標的の細胞、臓器、または対象を、Smad7タンパク質、発現構築物、または活性化因子、および少なくとも1種のその他の治療と接触させるであろう。これらの治療は、1種または複数種の疾患パラメーターの低下を達成するために有効な組み合わせ量で供給されるであろう。この過程は、例えば、両方の薬剤を含む単一の組成物もしくは薬理学的製剤を使用して、細胞/対象を両方の薬剤/治療と同時に接触させることを含んでいてもよいし、または細胞/対象を2個の別々の組成物もしくは製剤(一方の組成物はSmad7剤を含み、他方は他の薬剤を含む)と同時に接触させることを含んでいてもよい。
【0081】
あるいは、Smad7剤は、数分〜数週間の範囲の間隔で、他の処置に先行するかまたは後続してもよい。一般に、治療が、細胞/対象に対して、有利に組み合わせられた効果を発揮することができるよう、各送達の時点の間には有意な期間が過ぎないことが確実にされるであろう。そのような事例において、相互の約12〜24時間以内、相互の約6〜12時間以内、または約12時間のみの遅延時間で、細胞を両方のモダリティと接触させることが企図される。しかしながら、いくつかの情況において、処置のための期間を有意に延長し、数日(2日、3日、4日、5日、6日、または7日)〜数週間(1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、または8週間)が、それぞれの投与の間に経過することが望ましい場合もある。
【0082】
Smad7剤または他の治療のいずれかの複数回投与が望まれることも考えられる。Smad7剤を「A」、他の治療を「B」として、以下に例示されるような、様々な組み合わせが利用され得る。
【0083】
その他の組み合わせも企図される。炎症性障害に対する組み合わせ治療において使用するために適当なその他の薬剤には、ステロイド、グルココルチコイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID;COX-1阻害剤およびCOX-2阻害剤を含む)、アスピリン、イブプロフェン、ならびにナプロキセンが含まれる。鎮痛薬は、一般的に、抗炎症薬に関連しているが、抗炎症効果を有しない。一例は、米国においてアセトアミノフェンと呼ばれ、Tylenolの商品名で販売されているパラセタモールである。COX酵素を阻害することにより疼痛および炎症を低下させるNSAIDSとは対照的に、パラセタモールは、内在性カンナビノイドの再取り込みを阻止し、それにより、疼痛のみを低下させることが最近示された。それが、炎症に対しては最小限の効果を有することの、可能性の高い説明である。組み合わせ使用のための具体的な薬剤は、抗TGFβ抗体である。
【0084】
当業者は、"Remington's Pharmaceutical Sciences" 15th Edition,chapter 33,1990、特に、624〜652頁を参照すること。投薬量のある程度の変動が、処置されている対象の状態に依って必然的に起こるであろう。投与を担う者が、いずれにせよ、個々の対象のための適切な用量を決定するであろう。さらに、ヒトへの投与の場合、調製物は、FDA Office of Biologicsの基準により必要とされる、無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきである。
【0085】
上記の治療のいずれかが、炎症の処置において単独で有用であると判明し得ることも、指摘されるべきである。
【0086】
6. 癌治療との組み合わせ
上述のように、本発明は、ある種の抗癌治療に起因するDNA損傷および/または炎症の処置に特に関連している。従って、特に、本発明は、癌治療との組み合わせとして適用され得る。癌治療は、癌に取り組むが、残念ながら、重篤な副作用を引き起こす。従って、本発明のSmad7剤を、そのような癌治療と組み合わせて有利に使用することができる。この過程は、細胞、臓器、もしくは患者を、薬剤/治療と同時に接触させること、例えば、細胞、臓器、もしくは患者を、両方の薬剤を含む単一の組成物もしくは薬理学的製剤と接触させるか、または2個の別々の組成物もしくは製剤(一方の組成物はSmad7剤を含み、他方は他の薬剤を含む)と同時に接触させることを含み得る。あるいは、上に示されたチャートと類似して、組成物は、一方または両方の薬剤の反復投与を含め、異なる時点で送達されてもよい。
【0087】
組み合わせ治療において使用するために適当な薬剤または因子には、細胞へ適用された場合にDNA損傷を誘導する任意の化学的化合物または処置法が含まれる。そのような薬剤および因子には、照射、マイクロ波、電子放射等のような、DNA損傷を誘導する放射線および波が含まれる。「化学療法薬」または「遺伝毒性剤」とも記載される多様な化学的化合物が、本明細書に開示された組み合わせ処置法において使用され得るものとする。本発明による癌の処置においては、腫瘍細胞を、発現構築物に加えて、薬剤と接触させるであろう。これは、局所的な腫瘍部位を照射することにより達成されてもよいし;あるいは、治療的に有効な量の薬学的組成物を対象に投与することにより、腫瘍細胞を薬剤と接触させてもよい。
【0088】
様々なクラスの化学療法剤が、本発明のペプチドと組み合わせて使用するために企図される。例えば、タモキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン(アフィモキシフェン)、ファルソデックス(Falsodex)、ラロキシフェン、バゼドキシフェン、クロミフェン、フェマレル(Femarelle)、ラソフォキシフェン、オルメロキシフェン(Ormeloxifene)、およびトレミフェンのような選択的エストロゲン受容体アンタゴニスト(「SERM」)。
【0089】
使用され得ることが企図される化学療法剤には、例えば、カンプトテシン、アクチノマイシンD、マイトマイシンCが含まれる。本発明は、X線とシスプラチンとの使用、またはシスプラチンとエトポシドとの使用のような、放射線に基づく化合物であっても、または実際の化合物であってもよい、1種または複数種のDNA損傷剤の組み合わせの使用も包含する。薬剤は、上記のように、それをMUC1ペプチドと組み合わせることにより、組み合わせ治療用組成物またはキットとして調製され使用され得る。
【0090】
熱ショックタンパク質90は、多くの真核細胞に見出される調節タンパク質である。HSP90阻害剤は、癌の処置において有用であることが示されている。そのような阻害剤には、ゲルダナマイシン、17-(アリルアミノ)-17-デメトキシゲルダナマイシン、PU-H71、およびリファブチンが含まれる。
【0091】
DNAを直接架橋するかまたは付加体を形成する薬剤も予想される。シスプラチンおよびその他のDNAアルキル化剤のような薬剤が使用され得る。シスプラチンは、癌を処置するために広く使用されており、臨床適用において使用される有効用量は、3週間毎に5日間、20mg/m
2のコースを計3回というものである。シスプラチンは、経口では吸収されず、従って、注射を介して、静脈内、皮下、腫瘍内、または腹腔内に送達されなければならない。
【0092】
DNAに損傷を与える薬剤には、DNA複製、有糸分裂、および染色体分離に干渉する化合物も含まれる。そのような化学療法化合物には、ドキソルビシンとしても公知のアドリアマイシン、エトポシド、ベラパミル、ポドフィロトキシン等が含まれる。新生物の処置のために臨床設定において広く使用されている、これらの化合物は、ドキソルビシンについては、21日間隔で25〜75mg/m
2の範囲の用量でボーラス注射を通して静脈内投与され、エトポシドについては、35〜50mg/m
2で静脈内投与されるか、または静脈内用量の2倍で経口投与される。タキサンのような微小管阻害剤も企図される。これらの分子は、イチイ(Taxus)属の植物により産生されるジテルペンであり、パクリタクセルおよびドセタキセルを含む。
【0093】
Iressaのような上皮増殖因子受容体阻害剤、FK506結合タンパク質12-ラパマイシン関連タンパク質1(FRAP1)としても公知のmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)は、細胞成長、細胞増殖、細胞運動性、細胞生存、タンパク質合成、および転写を調節するセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。従って、ラパマイシンおよびその類似体(「ラパログ(rapalogs)」)は、本発明による組み合わせ癌治療において使用するために企図される。
【0094】
特許請求の範囲に記載されたペプチドとの別の可能な組み合わせ治療は、全身炎症に関与しているサイトカインであって、急性期反応を刺激するサイトカイン群のメンバーであるTNFα(腫瘍壊死因子α)である。TNFの主な役割は、免疫細胞の調節にある。TNFは、アポトーシス細胞死を誘導し、炎症を誘導し、腫瘍形成およびウイルス複製を阻害することもできる。
【0095】
核酸の前駆物質およびサブユニットの合成および忠実度を破壊する薬剤も、DNA損傷をもたらす。従って、多数の核酸前駆物質が開発されている。特に有用であるのは、広範な試験を受けており、容易に入手可能な薬剤である。従って、5-フルオロウラシル(5-FU)のような薬剤は、新生物組織により優先的に使用されるため、この薬剤は、新生物細胞へのターゲティングのために特に有用である。極めて毒性である5-FUは、外用を含む広範囲の担体で適用可能であるが、3〜15mg/kg/日の範囲の用量による静脈内投与が、一般的に使用されている。
【0096】
広範に使用されている、DNA損傷を引き起こすその他の因子には、γ線、X線として一般的に公知であるもの、および/または腫瘍細胞へ向けた放射性同位体の送達が含まれる。マイクロ波およびUV照射のような、その他の型のDNA損傷因子も企図される。これらの因子は、全て、DNA、DNAの前駆物質、DNAの複製および修復、ならびに染色体の組み立ておよび維持に対して広範囲の損傷をもたらす可能性が最も高い。X線の線量範囲は、長期的な(3〜4週間)50〜200レントゲンの1日線量から、2000〜6000レントゲンの単一線量にわたる。放射性同位体の投薬量範囲は、広く変動し、同位体の半減期、放射される放射線の強度および型、ならびに新生物細胞による取り込みに依る。
【0097】
当業者は、"Remington's Pharmaceutical Sciences"15th Edition,chapter 33,1990、特に、624〜652頁を参照のこと。投薬量のある程度の変動が、処置されている対象の状態に依って必然的に起こるであろう。投与を担う者が、いずれにせよ、個々の対象のための適切な用量を決定するであろう。さらに、ヒトへの投与の場合、調製物は、FDA Office of Biologicsの基準により必要とされる、無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきである。
【0098】
Smad7治療の化学療法および放射線療法との組み合わせに加えて、免疫治療、ホルモン療法、毒素療法、および手術との組み合わせも企図される。特に、Avastin、Erbitux、Gleevec、Herceptin、およびRituxanのような標的療法を利用することができる。
【0099】
他の態様において、口腔粘膜炎に関するSmad7の役割および機序を査定するため、特に口腔上皮におけるSmad7トランスジーン発現のレベルおよび持続時間の制御を可能にするため、「遺伝子スイッチ」トランスジェニックマウスモデルが開発された。これらの態様によると、これらのモデルは、口腔上皮および口腔粘膜に対する効果について、他の遺伝子または下流分子を試験するために使用され得る。従って、これらのモデルは、口腔創傷治癒生物学のさらなる分析および口腔創傷治癒のための治療アプローチの試験のために使用され得るが、これらに限定されない。これらの研究において同定される分子的なSmad7標的は、口腔粘膜炎に罹患している対象のための付加的な治療標的を提供することができる。本明細書において開発されたモデルおよびリソースは、Smad7の過剰発現および制御に関連したバイオマーカーおよび治療標的を同定するための分析的研究のための独特のツールを提供することができ、例えば、Smad7により活性化されるかまたは結合される下流分子を、口腔粘膜炎、乾癬、ならびにTGFβ活性およびNFκB活性により悪化するその他の状態を処置するための付加的な治療標的として同定することができる。
【0100】
D. 製剤および送達の経路
臨床適用が企図される場合、意図された適用のために適切な形態で、薬学的組成物(タンパク質、発現ベクター、ウイルスストック、タンパク質、および薬物)を調製することが必要であろう。一般に、これは、発熱性物質、およびヒトまたは動物にとって有害であり得るその他の不純物を本質的に含まない組成物を調製することを要するであろう。
【0101】
送達ベクターを安定化し、標的細胞による取り込みを可能にするため、適切な塩および緩衝液を利用することが一般に望まれるであろう。組換え細胞が患者へ導入される場合にも、緩衝液が利用されるであろう。本発明の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体の中に溶解または分散した有効量のベクターまたは細胞を含む。そのような組成物は、接種物とも呼ばれる。「薬学的にまたは薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトに投与された場合に有害反応、アレルギー反応、またはその他の不要な反応を生じない分子的実体および組成物をさす。本明細書において使用されるように、「薬学的に許容される担体」には、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤等が含まれる。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が、本発明のベクターまたは細胞と非適合性でない限り、治療用組成物において使用されることが企図される。補足的な活性成分が、組成物に組み込まれてもよい。
【0102】
本発明の活性組成物には、古典的な薬学的調製物が含まれ得る。本発明に係るこれらの組成物の投与は、標的組織がその経路を介して利用可能である限り、任意の一般的な経路を介するであろう。これには、経口、経鼻、頬、直腸、膣、または外用が含まれる。あるいは、投与は、正所注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、または静脈内注射によってもよい。そのような組成物は、通常、前記の薬学的に許容される組成物として投与されるであろう。特に興味深いのは、直接腫瘍内投与、腫瘍の灌流、または腫瘍への局所的もしくは局部的な投与、例えば、局所的もしくは局部的な血管系もしくはリンパ系への投与、もしくは切除された腫瘍床への投与である。
【0103】
遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースのような界面活性剤と適当に混合された水で調製され得る。グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物、ならびに油において、分散物が調製されてもよい。保管および使用の普通の条件の下で、これらの調製物は、微生物の成長を防止するための保存剤を含有している。
【0104】
注射可能な使用のために適当な薬学的形態には、無菌の水性溶液または分散物、および無菌の注射可能な溶液または分散物の即時調製のための無菌粉末が含まれる。全ての場合において、形態は、無菌でなければならず、容易な注射可能性が存在する程度に液体でなければならない。製造および保管の条件の下で安定していなければならず、細菌および真菌のような微生物の混入作用に対して保存されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、それらの適当な混合物、ならびに植物油を含有している溶媒または分散媒であり得る。適切な流動度は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用、分散物の場合、必要とされる粒径の維持、および界面活性剤の使用により維持され得る。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によってもたらされ得る。多くの場合において、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射可能組成物の遷延性の吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に使用することによってもたらされ得る。
【0105】
無菌注射可能溶液は、必要とされる量の活性化合物を、上に列挙された様々な他の成分と共に、適切な溶媒に組み込み、必要に応じて、続いてろ過減菌することにより調製される。一般に、分散物は、様々な滅菌された活性成分を、基本的な分散媒および上に列挙されたもののうち必要とされる他の成分を含有している無菌媒体へ組み込むことにより調製される。無菌注射可能溶液の調製のための無菌粉末の場合において、好ましい調製の方法は、以前に無菌ろ過されたその溶液から、活性成分+付加的な所望の成分の粉末を与える真空乾燥および凍結乾燥の技術である。
【0106】
本明細書において使用されるように、「薬学的に許容される担体」には、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤等が含まれる。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が、活性成分と非適合性でない限り、治療用組成物中に使用されることが企図される。補足的な活性成分が、組成物に組み込まれてもよい。
【0107】
本発明の組成物は、中性または塩の形態で製剤化され得る。薬学的に許容される塩には、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等のような有機酸により形成される(タンパク質の遊離アミノ基により形成される)酸付加塩が含まれる。遊離カルボキシル基により形成される塩も、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第二鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等のような有機塩基に由来し得る。
【0108】
製剤は、多様な剤形で容易に投与される。投薬量のある程度の変動が、処置されている対象の状態に依って必然的に起こるであろう。投与を担う者が、いずれにせよ、個々の対象のための適切な用量を決定するであろう。さらに、ヒトへの投与の場合、調製物は、FDA Office of Biologicsの基準により必要とされる、無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきである。
【0109】
経口投与の場合、本発明のポリペプチドは、賦形剤と共に組み込まれ、非摂取可能な口腔洗浄剤および歯磨剤の形態で使用され得る。口腔洗浄剤は、ホウ酸ナトリウム溶液(ドーベル液)のような適切な溶媒に、必要とされる量の活性成分を組み込んで、調製され得る。あるいは、活性成分は、ホウ酸ナトリウム、グリセリン、および重炭酸カリウムを含有している消毒洗浄剤に組み込まれてもよい。活性成分は、ゲル、ペースト、粉末、およびスラリーを含む歯磨剤に分散させられてもよい。活性成分は、水、結合剤、研摩剤、風味剤、気泡剤、および湿潤剤を含んでいてよいペースト歯磨剤へ、治療的に有効な量で添加されてもよい。
【0110】
これらの態様によると、口腔送達材料には、本明細書に開示された状態の処置および/または予防のための、対象の口腔および/または皮膚への送達のための、クリーム、膏薬、軟膏、パッチ、リポソーム、ナノ粒子、微粒子、徐放性製剤、および当技術分野において公知のその他の材料が含まれ得る。ある種の態様は、生分解性の口腔パッチ送達システムまたはゲル状材料の使用に関する。これらの組成物は、液体製剤であってもよいし、またはこれらの組成物の製剤により処理された薬学的に許容される送達システムであってもよく、活性化剤/誘導剤を含んでいてもよい。
【0111】
ある種の態様において、本明細書において企図されるパッチは、徐々に溶解する、または徐放性のパッチであり得る。これらの態様によると、徐々に溶解するパッチは、アルギン酸パッチであり得る。ある種の例において、パッチは、検出可能な指示色素または蛍光剤のような薬剤を含有していてもよい。他の態様において、タグ(例えば、ビオチンまたは蛍光タグ付き薬剤のような検出可能タグ)が、対象への送達の後に分子を検出するため、処置分子に会合していてもよい。ある種の態様において、1種または複数種の口腔送達パッチまたは本明細書において企図されるその他の処置は、医療専門家により査定された対象の必要性に依って、1日3回、1日2回、1日1回、隔日、週1回等で対象に投与され得る。本明細書において企図されるパッチは、口腔内生分解性パッチ、または分解性であってもよいしもしくは分解性でなくてもよい外用パッチであり得る。本明細書において企図されるパッチは、必要性に依って、1mm、2mm、3mm、4mm〜5mm、またはそれ以上のサイズであり得る。さらに、乾癬に罹患している対象において使用するため、皮膚パッチが本明細書において企図される。乾癬および慢性創傷の処置において、Smad7は、グリセロール、カルボキシメチルセルロースのような媒体を使用して外用に送達され得る。(例えば、3Mから市販されている)経皮系を、送達のために使用することもできる。(通常の生理食塩水またはPBSでの)病変部への皮下注射を使用することもできる。
【0112】
当技術分野において公知の任意の分子生物学、細胞生物学、または生化学的技術が、本明細書において企図される処置を生成しかつ/または試験するために使用され得ることが企図される。さらに、本明細書において開発されたモデル系(例えば、マウスモデル系)において、処置の利用可能性を査定するため、タンパク質化学技術が企図される。
【0113】
E. キット
ある種の態様において、本明細書において企図されるキットは、口腔粘膜炎または乾癬のような、本明細書において企図される状態を有する対象を処置するための上述の組成物を含み得る。キットは、治療用組成物を含有している1個または複数個の容器を含み得る。いずれのキットも、一般に、少なくとも1個のバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、注射器、または組成物が好ましくはかつ/もしくは適当に分注され得るその他の容器を含むであろう。本明細書におけるキットには、本明細書において企図される状態に寄与する生物学的標的の査定のためのキットも含まれ得る。
【実施例】
【0114】
F. 実施例
以下の実施例は、様々な態様を例示するために含まれている。以下の実施例に開示される技術は、特許請求の範囲に記載された方法、組成物、および装置の実施において良好に機能することが発見された技術を表すことが、当業者によって認識されるべきである。しかしながら、本開示を考慮すれば、開示された具体的な態様に多くの変化を施しても、本発明の本旨および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似の結果を得ることが可能であることを、当業者は認識するべきである。
【0115】
Smad7の複数の機能を有するSmad7トランスジェニックマウスが記載されている。このマウスモデルは、Smad7が口腔粘膜炎において強力な効果を有することを理解するために重要である。Smad7は、口腔創傷の治癒を促進する。これらの所見に基づき、Smad7が口腔粘膜炎からの防御を提供し得るか否かを査定することができる。Smad7トランスジェニックマウスおよびその同腹仔を、放射線に曝露した。非トランスジェニック同腹仔においては、全てが、経口摂取の喪失に関連した脱水および飢餓のため、10日以内に、口腔粘膜炎により死亡した。対照的に、Smad7トランスジェニックマウスは、いずれも、口腔粘膜炎を形成しなかった(
図1)。このデータに基づき、Smad7の局所的薬理学的送達は、口腔粘膜炎を処置するために使用され得る。その他の態様において、複製欠損ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターのいずれかを用いたSmad7発現プラスミドが、口腔粘膜炎を処置するために使用され得る。
【0116】
予備データは、Smad7が、主として、創部への上皮細胞遊走の促進、およびDNA損傷に対する細胞の防御を通して、治癒を促進することを示している(
図1)。後者は腫瘍抑制性である。Smad7は癌転移を阻害することが示されており、未公表のデータは、マウスにおけるSmad7過剰発現が癌に対する感受性を増加させないことを示している。未消散の炎症は、口腔粘膜炎における治癒の失敗の主因のうちの一つであるため、Smad7の強力な効果は、口腔粘膜炎の治癒を有意に促進することができる。一つの例示的な実施例において、重度の皮膚乾癬を有するトランスジェニックマウスを生成した。これらのマウスは、重度のそう痒関連消耗症候群のため、6ヶ月以内に死亡する。これらの乾癬マウスを、Smad7トランスジェニックマウス(
図1における放射線照射により誘導される口腔粘膜炎に対する耐性を示したものと同一)と交配したところ、皮膚炎は存在せず、マウスは正常な寿命だけ生存した(
図2)。興味深いことに、いずれの場合にも(
図1〜2)、Smad7トランスジーン発現レベルは、内因性Smad7の2倍に過ぎず、このことは、低用量のSmad7が治療効果のために十分であることを示唆している。最小限の全身効果を有するSmad7口腔パッチ/ゲルが、患者によって投与され得る。
【0117】
本発明者らは、タンパク質が細胞膜を透過し、数秒で核に到達することを可能にするN末端Tatタグを有する組換えヒトSmad7(マウスSmad7との98%の相同性)(Tat-Smad7)を生成した(Cardarelli et al.,2008;Kalvala et al.,2010;Brooks et al.,2005)。細菌タンパク質産生のためにコドンを最適化するため、ヒトSmad7 cDNAヌクレオチド配列を改変し、5'Tatタグ(9aa)を付加した。Tat.Smad7を、大腸菌におけるタンパク質産生のため、pET101タンパク質発現ベクター(Invitrogen)へクローニングした。ベクターは、V5抗体を使用したタンパク質同定のためのV5エピトープ、およびタンパク質精製のための6×Hisタグを、Tat-Smad7タンパク質の3'に含有している。本発明者らは、7.5μg/mlの濃度で、精製されたTat-Smad7タンパク質の導入を試験した。Tat-Smad7への曝露の後、5分未満で、細胞のほぼ100%が核Tat-Smad7を示し(
図3)、それは、導入後の最初の2時間、少なくとも保持された。その後、Tat-Smad7は、細胞質にも検出され(
図3)、そのことは、核と細胞質との間を移動する能力と一致している(Zhang et al.,2007)。細胞質Smad7が、TGFβ受容体により媒介されるSmadリン酸化を阻止しかつ/またはSmad分解を増加させるという以前の報告(Massague et al.,2005)に関して、Tat-Smad7導入ケラチノサイトは、Smad2リン酸化を抑止し(
図3)、そのことから、それが機能的に完全であることが示唆された。長い半減期と一致して、Tat-Smad7は、5分間のTat-Smad7処置の中止後、36時間目に、まだ細胞内に検出可能であった(示されない)。これが、インビボでTat-Smad7が口腔粘膜に浸透するために十分に迅速であるか否かを決定するため、本発明者らは、5匹のマウスを10μgのTat-Smad7を含む10μlリン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液により、1回、経口処置し、処置後1時間、食物/水を制限し、処置後24時間目にTat-Smad7検出のため口腔粘膜を切除した。Tat-Smad7は、口腔粘膜の上皮細胞および間質細胞に均一に検出された(
図4)。これらのデータは、局所的なTat-Smad7送達が、細胞による取り込みを迅速に達成し、1日1回より多い適用を必要としないはずであることを示唆している。
【0118】
本発明者らは、精製過程において内毒素除去工程を有しているが、Tat-Smad7がインビボで機能性であるか否か、そして細菌における産生からの可能性のある内毒素混入が毒性リスクを与えるか否か、をさらに査定した。本発明者らは、重度皮膚炎を示すK5.TGFβ1マウス(Li et al.,2004)へ、Tat-Smad7(10μg/マウス、3回/週)をs.c.注射した。このパイロット実験において、3匹全てのK5.TGFβ1マウスにおいて、Tat-Smad7処置が皮膚炎を有意に軽減し(
図5)、明白な副作用は観察されなかった。V5抗体を使用した免疫蛍光染色は、s.c.注射されたTat-Smad7タンパク質が真皮および表皮全体に蓄積されたことを示す(
図5)。Tat-Smad7導入K5.TGFβ1皮膚は、表皮および間質の両方において、低下したpSmad2およびNFκB p50を示した(
図5)。
【0119】
Tat-Smad7が、経口送達を通して、放射線照射により誘導される口腔粘膜炎を処置し得るか否かを試験するため、本発明者らは、マウス頭蓋顔面区域に照射し、その後、Tat-Smad7によりマウスを処置した。7〜9週齢C3H雌マウスに麻酔をかけ、RS2000 X線照射器を用いて、16Gy、20Gy、または25Gyの頭部照射に曝露した。照射後5日目、50%グリセロール/PBSに溶解した10μg Tat.Smad7、または50%グリセロール/PBS(対照)のいずれかにより、毎日、マウスを処置した。各群は4匹のマウスを含有しており、口腔粘膜における組織損傷が起こった照射後5日目に開始された。肉眼的には、16Gyまたは20Gyの照射時、Tat-Smad7処置マウスは、対照マウスより迅速に体重を回復し(
図6);25Gyの照射時には、対照マウスを、人道的理由のため全て安楽死させたため、体重回復をモニタリングすることができなかった。組織学は、20Gyまたは25Gyの放射線照射後9日目までに、対照マウスが口腔粘膜炎(開放性潰瘍、
図7)を発症したことを示す。対照的に、Tat-Smad7処置マウスは、上皮層が薄くなった、損傷を受けた口腔粘膜を有していたが、潰瘍は形成されなかった(
図7)。13日目までのTat-Smad7による20Gy照射マウスの連続的な処置は、修復を加速した。対照マウスにおける口腔粘膜炎潰瘍が再上皮化をちょうど終了した14日目までに、Tat-Smad7処置マウスにおける口腔上皮は、正常な形態学へとほぼ完全に回復し、ほんの少数の損傷を受けた上皮細胞およびいくつかの浸潤白血球を有していた(
図7)。16Gy照射時、組織損傷は対照マウスにおいて9日目に最も重度であり、上皮層が薄くなり混乱していたが(
図7)、この線量の放射線照射は、口腔粘膜炎を引き起こすのには不十分であり、5日目〜8日目にTat-Smad7により経口処置されたマウスは、本質的に正常な上皮を保持していた(
図7)。
【0120】
Tat-Smad7のV5タグに対する抗体を使用した免疫染色は、Tat-Smad7タンパク質が主として口腔上皮細胞へ送達されたことを示す(
図8)。DNA損傷マーカーであるpH2AXについて陽性の細胞は、Tat-Smad7処置口腔粘膜において有意に低下した(
図8)。観察されたDNA損傷と一致して、Tunelアッセイにより決定されたアポトーシス細胞も、Tat-Smad7処置口腔粘膜において有意に低下した(
図8)。CD45染色により同定された浸潤白血球は、媒体対照により処置された照射された口腔粘膜において顕著であったが、Tat-Smad7処置粘膜においては有意に低下した(
図8)。血管を強調するためのCD31染色は、媒体対照により処置された、照射された口腔粘膜においては、拡大した血管を示したが、Tat-Smad7処置口腔粘膜においては、正常な血管サイズを示した(
図8)。
【0121】
総合すると、これらのデータは、Tat-Smad7の局所送達が、組織損傷を防止し、上皮治癒を改善し、間質における炎症および血管損傷を低下させることにより、重度口腔粘膜炎を処置し得ることを示す。
【0122】
本発明の上記の記述は、例示および説明の目的のために提示された。上記のものは、本明細書に開示された形態へ本発明を制限するためのものではない。本発明の説明は、一つまたは複数の態様ならびにある種の変動および修飾の説明を含むが、その他の変動および修飾も、例えば、本開示を理解した後、当業者の技術および知識の範囲内にあり得るように、本発明の範囲内にある。そのような、別の、交換可能な、かつ/または等価な構造、機能、範囲、または工程が、本明細書に開示されているか否かに関わらず、また、特許可能な主題を公に捧げることは意図されず、別の、交換可能な、かつ/または等価な構造、機能、範囲、または工程を含む、別の態様を、許容される範囲で、特許請求の範囲に記載されたものに含める権利を入手することが意図される。
【0123】
G. 参照
以下の参照は、本明細書に示されたものを補足する例示的な手順またはその他の詳細を提供するという点で、参照により具体的に本明細書に組み入れられる。