(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6124807
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】高融点フルオロポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 214/18 20060101AFI20170424BHJP
C08F 214/22 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
C08F214/18
C08F214/22
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-558158(P2013-558158)
(86)(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公表番号】特表2014-508209(P2014-508209A)
(43)【公表日】2014年4月3日
(86)【国際出願番号】US2012029168
(87)【国際公開番号】WO2012125786
(87)【国際公開日】20120920
【審査請求日】2015年2月10日
(31)【優先権主張番号】61/453,352
(32)【優先日】2011年3月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ラミン・アミン−サナイェイ
(72)【発明者】
【氏名】カイピン・リン
【審査官】
渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/005757(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/138647(WO,A1)
【文献】
米国特許第02970988(US,A)
【文献】
特開平07−018002(JP,A)
【文献】
特表2003−514036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F6−246
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
15〜65重量パーセントの2,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマー単位と35〜85重量パーセントのフッ化ビニリデンモノマー単位とを有するコポリマーを含む制御された微細構造のコポリマー組成物の製造方法であって、
前記コポリマーが、初期仕込みにおける2,3,3,3−テトラフルオロプロペン対フッ化ビニリデンの比率が、後からのフィードにおけるモノマー比率の0.25〜0.75倍である、セミバッチ式のプロセスによって形成される、前記方法。
【請求項2】
前記初期仕込みにおける前記2,3,3,3−テトラフルオロプロペン対フッ化ビニリデンの比率が、前記後からのフィードにおけるモノマー比率の0.5〜0.75倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コポリマーが、50〜500nmの粒径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記コポリマーが、100〜350nmの粒径を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コポリマーが、ASTM−D3835に従って測定して、キャピラリー・レオメトリーで230℃、100sec-1で測定して、0.5〜60キロポワズの溶融粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記コポリマーが、2〜50キロポワズの溶融粘度を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コポリマーが、2〜40キロポワズの溶融粘度を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ノニオン性界面活性剤をさらに含むが、フルオロ界面活性剤を含まず、前記コポリマーの重合においてフルオロ界面活性剤が使用されない、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化重合プロセスによって、低い結晶化度レベルであっても、予想できないほど高い溶融温度を有する、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとフッ化ビニリデンとのコポリマーを作製するための方法に関する。本発明には、制御された重合によってコポリマーの微細構造を調節して、ユニークな性質を備えた制御された微細構造のコポリマー、たとえば高い溶融温度と低い結晶化度を備えたものを得ることが含まれる。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデンをベースとするポリマー(一括してVDF−コポリマー)は、ユニークな化合物で、可能な限りの最も広い範囲の加工の選択肢を与えて、高濃度の炭素−フッ素結合に伴う改良された使用温度、耐薬品性による有益な性質を有する物品が得られる。VDFのホモポリマーは、160℃を超え、さらには170℃に近い高い溶融温度を与える。そのPVDFの主鎖の中に取り入れるコモノマーの含量が高くなるにつれて、溶融温度が低下することは一般的に知られている。このことは、PVDFのような半晶質のポリマーでは予想されることであるが、その理由は、コモノマー含量が高くなるにつれて、(溶融温度と並行して)結晶化度が一般的に低下するからである。たとえば、米国特許第6586547号明細書には、約30重量%を超えるコモノマーを含むコポリマーは、結晶化度がゼロであるか、または溶融温度を示さないことが開示されている。
【0003】
VDFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマーは、コモノマー濃度、結晶化度、および溶融温度の間で、予想された通りの関係を示す。米国特許第3,051,677号明細書には、フッ化ビニリデンと、30〜70重量パーセントのヘキサフルオロプロピレンモノマーとを共重合させるための、バッチ式エマルションプロセスおよび連続式エマルションプロセスが記載されている。いずれの反応条件の組合せの下でも、比較的低い結晶化度および低い溶融温度が、例示された性質からも確認されている。
【0004】
米国特許第3,178,399号明細書には、85〜99モルパーセントの間のVDFと、1〜15モルパーセントの間のHFPとを有するHFP−VDFコポリマーを調製するための、バッチ式および連続式両方のエマルションプロセスの記載がある。この場合もまた、記載されている合成技術では、高い結晶化度においてさえも比較的低い溶融温度を有するコポリマーが、必然的に生成する。
【0005】
2,3,3,3−テトラフルオロプロペンのポリマーおよびフッ化ビニリデンと共重合させたコポリマーは、当業者には公知である。それらの重合は、バッチ式のモードで実施することができる(米国特許第2,970,988号明細書、米国特許第3,085,996号明細書)。それらの重合は、セミバッチ式のモードで実施することも可能であるが(米国特許第6,818,258号明細書、米国特許第7,803,890号明細書、米国特許出願公開第2008153977号明細書)、それら特許のそれぞれにおいて、初期仕込みにおけるコモノマーの比率が、後ほどのフィードにおけるコモノマーの比率と同じであることが開示されている。国際公開第10005757号パンフレットにおいては、初期仕込みと後ほどのフィードでのモノマー比率が同じであるか、またはそうでなければ、初期にはVDFのみを仕込んで、最初にPVDFホモポリマーを作らせる反応をさせる、セミバッチ式の重合プロセスが開示されている。
【0006】
米国特許第2,970,988号明細書には、ポリマー全体における(バッチ式反応における初期仕込み)2,3,3,3−テトラフルオロプロペン対VDFの比率が、そのコポリマーのマクロ構造の物理的性質を決定するということが開示されている。
【0007】
PVDFをベースとするポリマーのポリマー鎖の微細構造は、ポリマーの結晶質および非晶質の領域に関連する。結晶質相の量と共に、非晶質領域と結晶質領域との間の関係が、そのコポリマーの機械的性質に影響し、得られる樹脂組成物の究極の用途が決まってくる。そのスペクトルの一方の端には完全に非晶質な熱可塑性ポリマーが存在し、その反対側の端には高度に結晶質なポリマーが存在する。ポリマー鎖の微細構造が、所定の結晶質含量における溶融温度を決定する。この性質は、結晶質相のタイプと量、およびコポリマーの微細構造によって制御される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
コポリマー(マクロ構造)中における2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとVDFコモノマーとの総合的な比率が重要な考慮要素ではあるものの、そのコポリマーの微細構造を調節することによって、同一の総合的なコモノマー比率の中でも、広い範囲の特性を与えることが可能であることがここで見出された。このことによって、思いがけないことには、同一のマクロ構造のモノマー比率から、低い結晶化度と共に極めて高い融点を有する、または高い結晶化度と共に低い融点を有するコポリマーを作り出すことが可能となった。
【0009】
本発明の、より興味深く、そして予想もされなかった、制御された微細構造の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン/VDFコポリマーの一つは、高い溶融温度および高い可撓性(低い結晶化度)を有するものであり、この群のコポリマーの究極的な末端用途が興味深い。溶融温度をより高くしていくことには、通常は、半晶質ポリマー中での結晶性がより高くなることが伴うので、低い結晶化度を有しながらも溶融温度が高いポリマーを作り出すことは、予想もされなかった。本発明の高融点エラストマーは、末端用途におけるユニークな可能性を提供する。これらの性質を有する、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン/VDFコポリマーは当業者には知られていないが、優れた可撓性、高い溶融温度、高い透明性、および溶融安定性などをユニークに組み合わせた性能を有するフッ素化熱可塑性プラスチックを提供する。
【0010】
本発明は、1〜99重量パーセントの2,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマー単位および1〜99重量パーセントのフッ化ビニリデンモノマー単位を有するコポリマーを含む制御された微細構造のコポリマー組成物に関するが、前記コポリマーは、初期仕込みにおける2,3,3,3−テトラフルオロプロペン対フッ化ビニリデンの比率が、定常状態のモノマー比率の0.1〜0.9倍、または1.1〜10倍であるような、セミバッチ式のプロセスによって形成される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、制御された微細構造を有する、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとフッ化ビニリデンとのコポリマーに関する。その微細構造は、初期仕込みにおけるコモノマーの比率と後からのフィードにおけるコモノマーの比率に特定の差を与えることにより、意のままに調節することができる。後からのフィードは一般的に、重合を開始させた後に、連続的に添加されるが、所定の間隔で数回に分けて(in shots)少量のフィード物を添加してもよい。
【0012】
本明細書で使用するとき、「コポリマー」という用語は、0.5〜90重量パーセントの2,3,3,3−テトラフルオロプロペンモノマー単位と、10〜99.5重量パーセントのフッ化ビニリデンモノマー単位とを含むポリマーを意味している。2,3,3,3−テトラフルオロプロペンのレベルが2〜60重量パーセントであるのが好ましい。2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとVDFしか含まないコポリマーが好ましい。
【0013】
コポリマー中における2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとフッ化ビニリデンとの比率は、1〜99重量%、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは15〜65の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、99〜1重量%、好ましくは95〜20重量%、より好ましくは85〜35重量パーセントのフッ化ビニリデンとの範囲とすることができる。コモノマーの総合的な比率がコポリマーのマクロ構造に影響し、そのコポリマーの物理的性質に影響を与える。驚くべきことには、本発明のコポリマーの所定のマクロ構造の中で、その微細構造を調節し、意のままにすることによって、広い範囲の特性を得ることが可能であることが判明した。この微細構造の調節は、初期仕込みのコモノマーの間の比率を、後ほどのフィードにおけるモノマーの比率とは異なるにすることによって達成される。ポリマーの微細構造は、その半晶質のコポリマーの非晶質領域および結晶質領域の量、サイズおよび分布に関係する。微細構造の影響は、溶融温度、または%結晶化度において見ることができる。
【0014】
コポリマーのために使用される2,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびフッ化ビニリデンモノマーに加えて、ターポリマーを形成させるための1種または複数のモノマー、好ましくはフルオロモノマーを、全モノマー仕込量を基準にして、10重量パーセントまでの低レベルで含んでいるのも本発明の範囲の内である。しかしながら、追加されるモノマーは一般的に結晶化度を下げるので、そのポリマーの中に他のモノマーが含まれていないのが好ましい。
【0015】
初期フィードにおけるコモノマーの比率は、定常状態におけるコモノマーの比率とは異なっていて、初期仕込みにおける2,3,3,3−テトラフルオプロペン/VDFの比率が、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン/VDFの定常状態における比率の0.1〜0.9倍と低い比率とするか、またはそうでなければ、初期仕込みにおける2,3,3,3−テトラフルオロプロペン/VDFの比率が、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン/VDFの定常状態における比率の1.1〜10倍の高い比率とするか、のいずれかである。初期仕込みと後ほどのフィードのいずれもが、両方のコモノマーを所定の比率で含んでいる。1種のみのモノマーからなる初期仕込みを有する場合は、最初にホモポリマーが生成するので、本発明の範囲外である。
【0016】
本発明の好ましい実施態様においては、初期仕込みにおける2,3,3,3−テトラフルオプロペン/VDFの比率を、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン/VDFの定常状態における比率の0.5〜0.75倍とする。
【0017】
本発明のフッ化ビニリデン/2,3,3,3−テトラフルオロプロペンのコポリマーは、乳化重合プロセスによって都合よく作製することができるが、懸濁プロセスおよび溶液プロセスを使用してもよい。乳化重合プロセスにおいては、反応器に、脱イオン水、重合の際に反応剤およびポリマーを乳化させることが可能な水溶性界面活性剤を仕込み、その反応器およびその内容物を、撹拌しながら脱酸素させる。その反応器および内容物を加熱して所望の温度とし、フッ化ビニリデン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、ならびに任意選択で、コポリマーの分子量を調節するための連鎖移動剤を、選択した量および比率で添加する。所望の反応圧力に達したら、重合開始剤を添加して、反応を開始させ、維持する。
【0018】
その重合に使用する反応器は、撹拌器および加熱調節手段を備えた、加圧重合反応器、好ましくは水平式重合反応である。重合の温度は、使用した重合開始剤の特性に応じて変化させることが可能であるが、典型的には50℃〜135℃の間、最も都合よくは70℃〜120℃の間である。しかしながら、温度はこの範囲に限定される訳ではなく、高温用または低温用の重合開始剤が使用されるような場合には、より高く、またはより低くしてよい。重合の圧力は、典型的には1380〜8275kPaの間であるが、その装置がより高い圧力でも運転できるのならば、より高くすることも可能である。圧力を3450〜5520kPaの間とするのが、最も好都合である。
【0019】
重合において使用する乳化剤は、水溶性であって、ハロゲン化界面活性剤、特にフッ素化界面活性剤であるが、その例としては以下のものが挙げられる:過フッ素化もしくは部分フッ素化アルキルカルボキシレート、過フッ素化もしくは部分フッ素化モノアルキルホスフェートエステル、過フッ素化もしくは部分フッ素化アルキルエーテルもしくはポリエーテルカルボキシレート、過フッ素化もしくは部分フッ素化アルキルスルホネート、および過フッ素化もしくは部分フッ素化アルキルスルフェートのアンモニウム塩、置換アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、またはアルカリ金属塩。
【0020】
本発明において使用するのに好適な乳化剤は、好ましくは、非フッ素化乳化剤である。それらの非フッ素化乳化剤としては以下のものが挙げられるが、それらに限定される訳ではない:
i)次式のノニオン性ブロックコポリマー;
T
1−[(CH
2−CH
2−O−)
X]
m−[(CH
2−C(CH
3)−O−)
Y]
n−[(CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−O−)
Z]
k−T
2
[式中、X、Y、およびZは、2〜200の間であり、m、n、kは0〜5であり、T
1およびT
2は、水素、ヒドロキシル、カルボキシル、エステル、エーテルおよび/または炭化水素から選択される末端基であるが、ここで、前記フルオロポリマーには、フルオロ界面活性剤は含まれない。]
ii)アルキルホスホン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸、およびそれらの塩;
iii)C7〜C20の直鎖状1−アルカンスルホネート、C7〜C20の直鎖状2−アルカンスルホネート、C7〜C20の直鎖状1,2−アルカンジスルホネート、およびそれらの混合物から選択されるアルカンスルホネート;
iv)アルキルスルフェート界面活性剤、たとえばR−SO
4M、およびMO
4S−R−SO
4M[式中、Rは、炭化水素基であり、Mは、選択された一価のカチオンである。]。
【0021】
例は、ラウレル硫酸ナトリウム、ラウレル硫酸カリウム、ラウレル硫酸アンモニウム、およびそれらの混合物である。
【0022】
界面活性剤の仕込量は、使用する全モノマー重量の0.05%〜5重量%であり、界面活性剤仕込量が0.1%〜2重量%であれば最も好ましい。
【0023】
必要に応じて、パラフィン系防汚剤を採用してもよく(ただし、それは好ましいことではない)、各種の長鎖、飽和、炭化水素ワックスまたはオイルが使用できる。反応器へのパラフィンの仕込量は、使用する全モノマー重量の0.01%〜0.3重量%としてよい。
【0024】
無機ペルオキシド、酸化剤と還元剤との「レドックス」の組合せ、および有機ペルオキシドを含む、フッ素化モノマーの重合用として公知の各種適切な重合開始剤を添加することによって、反応を開始させ、維持させることができる。典型的な無機ペルオキシドの例は、過硫酸塩のアンモニウムまたはアルカリ金属塩であり、それらは、65℃〜105℃の温度範囲で有用な活性を有している。「レドックス」系は、さらに低い温度で機能することが可能であり、その例としては、酸化体たとえば、過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、または過硫酸塩と、還元体たとえば、還元金属塩、特に鉄(II)塩の組合せ、任意選択で活性化剤たとえばホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、またはアスコルビン酸と組み合わせたものが挙げられる。重合のために使用することが可能な有機ペルオキシドとしては、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシエステル、およびペルオキシジカーボネートのタイプが挙げられる。ジアルキルペルオキシドの例は、ジ−t−ブチルペルオキシド、ペルオキシエステルの例は、t−ブチルペルオキシピバレートおよびt−アミルペルオキシピバレート、ならびにペルオキシジカーボネートの例は、ジ(n−プロピル)ペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ(sec−ブチル)ペルオキシジカーボネート、およびジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、およびジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネートである。重合のために必要とされる重合開始剤の量は、その活性と重合に使用される温度とに関係する。使用する重合開始剤の全量は、一般的には、使用した全モノマーの重量の0.05%〜2.5重量%である。典型的には、最初は、反応を開始させるために十分な重合開始剤を添加し、次いで任意選択で、重合反応を維持させる目的で、都合のよい速度で追加の重合開始剤を添加してもよい。
【0025】
反応が進行するにつれて、フッ化ビニリデンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとのモノマー混合物を、初期仕込みとは異なる所定の比率でフィードし、モノマーを合計したものが定常状態のコモノマーの比率になるようにする。反応圧力を維持するために、モノマーをフィードする。フッ化ビニリデン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、ならびに任意選択で重合開始剤および連鎖移動剤のフィードを、所望の反応器内容物(reactor fill)が得られるまで続ける。モノマーのフィードを完了してから、反応を短時間、約10〜20分間続け、その後、可能な限り迅速に反応器を冷却する。周囲温度に達したら、未反応モノマーを放出させ、反応によって製造されたラテックスを抜き出す。
【0026】
本発明の分散体は、15〜70重量パーセント、好ましくは20〜65重量パーセントの固形分レベルを有している。その分散体の中のフルオロポリマー粒子は、50〜500nm、好ましくは100〜350nmの範囲の粒径を有している。
【0027】
乾燥樹脂を得るためには、慣用される方法によってラテックスをコアグレートさせ、そのコアグラムを分離するが、その分離されたコアグラムを洗浄してもよい。粉体を得るためには、当業者公知の手段、たとえば噴霧乾燥法または凍結乾燥法によって、そのコアグラムを乾燥させる。
【0028】
最終的なコポリマーの性質は、コポリマーの微細構造の決定要因である、定常状態のモノマー比率に比較した、初期のモノマー仕込み比率と、さらには、コポリマーのマクロ構造の決定要因である、総合的なコモノマー比率に依存する。以下の例で示されているが、総合的な2,3,3,3−テトラフルオロプロペン/VDFレベルが同一の場合、初期仕込みにおけるコモノマー比率を変化させることによって、高い溶融温度−低い結晶化度のポリマー、または低い溶融温度−より高い結晶化度のポリマーを製造することが可能となる。
【0029】
初期仕込みにおける2,3,3,3−テトラフルオプロペン/VDFの比率の、定常状態における2,3,3,3−テトラフルオロプロペン/VDFの比率に対する比が1未満であるような、一つの好ましい実施態様においては、優れた物理的性質を有する高い溶融温度で、高い溶融粘度のポリマーが製造される。これらのポリマーの溶融粘度は、0.5〜60キロポワズ、好ましくは2〜50キロポワズ、より好ましくは2〜40キロポワズである(ASTM−D3835の方法に従って、230℃、100sec
-1でのキャピラリー・レオメトリーにより測定)。この高い溶融温度は、広い範囲の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン/フッ化ビニリデンの総合的な組成比にわたって観察された。Mn/Mw比、すなわち多分散性比は、初期仕込みにおける場合と後からのフィードとで同一のコモノマー比率を用いて形成させたコポリマーよりも低い。これら低い結晶化度を有するコポリマーは、高温用エラストマーであって、高い温度環境において使用することが可能である。
【0030】
高い溶融温度を有する2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、フッ化ビニリデンコポリマーという用語は、そのようなコポリマーが、所定の結晶化度では、従来技術に従って製造されたコポリマーよりも、測定可能なより高い溶融温度を有しているということを意味している。結晶化度は、融解熱から計算されるが、融解熱はさらに、示差走査熱量計(DSC)のスキャンにおいて検出される各種の吸熱量から計算される。溶融温度は、吸熱量のピークに対応づけられる。
【0031】
結晶質含量を測定するためのDSCスキャンは、ASTM D 451−97に従い、Intercooler II付属品を備えた、Perkin Elmer 7 DSC装置を使用して実施する。その装置にはドライボックスが備わっていて、そのドライボックスを通過させてN
2パージしている。9〜10mgの試験片を使用し、アルミニウムパンの中に畳み込む。DSCの試験は、3段のサイクルで実施する。そのサイクルは、−125℃で開始し、次いで10℃/分の昇温速度で210℃まで上昇させ、10分間保持する。次いで、そのサンプルを10℃/分の速度で−125℃にまで冷却し、次いで10℃/分の速度で非加熱(unheated)して210℃とする。
【0032】
本発明はさらに、初期仕込みにおける2,3,3,3−テトラフルオプロペン/VDFの比率の、定常状態における2,3,3,3−テトラフルオロプロペン/VDFの比率に対する割合が1を超えるような、コポリマーにも関するにも関する。形成されるコポリマーは、低い溶融温度、低い溶融粘度、および高い結晶化度を有している。Mn/Mw比、すなわち多分散性比は、初期仕込みと後からのフィードとで同一のコモノマー比率を用いて形成させたコポリマーよりも高い。これらのポリマーは、コーティングにおいて有用であり、固いコーティングを形成するが、それでもなお、溶媒に容易に溶解して溶液を形成する。
【0033】
以下の例において、本発明を実施するにあたって本願発明者らが考え得るベストモードをさらに説明するが、それらは説明のためと受け取るべきであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0034】
1.7リットルの撹拌式オートクレーブ反応器に、1リットルのDI水と共に、1.5gの非フッ素化ノニオン性ブロックコポリマー界面活性剤(ポリプロピレングリコール−ブロック−ポリエチレングリコール−ブロック−ポリプロピレングリコール:PLURONIC 31R1、BASF製)を添加した。アルゴンまたは窒素を用いてその混合物をパージしてから、加熱して、所望の温度の83℃とした。次いでその反応器に、VDFと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとを、所定の比率(重量比:2,3,3,3−テトラフルオロプロペンのg数/VDFのg数)で仕込み、所望の圧力である4510kPaに達するようにした。重合開始剤の溶液は、1%の過硫酸カリウム(EMD Chemicals製、ACSグレード)と、1%の酢酸ナトリウム三水和物(Mallinckrodt Chemicals製、ACSグレード)との水溶液であった。その反応物に重合開始剤水溶液を連続的にフィードして、十分な重合比率を得るが、その圧力は、必要に応じて、VDFと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとを特定の比率(2,3,3,3−テトラフルオロプロペンのg数/VDFのg数)で添加することによって、4480kPaに維持した。反応器中のVDFの量が予め決めておいた量に達したら、モノマーおよび重合開始剤の添加を停止し、反応器内の圧力が200〜300psiに低下するまで、その反応を続けた。室温にまで冷却してから、反応器のガス抜きをし、反応によって製造されたラテックスを、適切な受器の中に抜き出した。凍結も含めて、慣用される方法によって、そのラテックスをコアグレートさせた。真空濾過によって樹脂を捕集し、洗浄し、対流オーブン中110℃で乾燥させた。
【0035】
樹脂の溶融粘度の測定は、ASTM−D3835に従い、DYNISCO LCR−7000を用い、キャピラリー・レオメトリーで230℃、100sec
-1で実施した。熱的特性は、ASTM D 451−97に従い、Intercooler II付属品を取り付けたPerkin Elmer 7 DSC装置を用いて測定した。
【0036】
2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(yf)およびフッ化ビニリデンのエマルションを形成させ、その性質を測定した。それらの結果を表1および2に示す。例
4では、初期仕込みにおける場合とフィードの場合のコモノマーの比率が等しいが、これは比較例である。初期仕込みパーセントyfは、初期仕込みにおけるyf/VDF重量パーセントを、定常状態におけるyf/VDFの重量パーセントで割り算することによって、計算した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】