(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6124816
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】非消耗電極式アーク溶接機における電極の消耗量の測定方法、及びこの測定方法を含むグロープラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/24 20060101AFI20170424BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20170424BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20170424BHJP
F23Q 7/00 20060101ALI20170424BHJP
B23K 9/167 20060101ALN20170424BHJP
【FI】
B23K9/24
B23K9/00 501C
B23K31/00 K
F23Q7/00 S
!B23K9/167 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-25241(P2014-25241)
(22)【出願日】2014年2月13日
(65)【公開番号】特開2015-150575(P2015-150575A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097434
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和久
(72)【発明者】
【氏名】梶田 雄一朗
【審査官】
篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−314333(JP,A)
【文献】
特開2002−035933(JP,A)
【文献】
特開平04−000119(JP,A)
【文献】
実用新案登録第2501906(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/24
B23K 9/00
B23K 31/00
F23Q 7/00
B23K 9/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非消耗電極式アーク溶接機における電極であって、その先細りテーパをなす先端部位を、溶接対象に対して所定の放電間隔を保持した状態の下で、その溶接対象をアーク溶接するに当り、
溶接工程の前又は後に、前記電極の先端部位の突出状態をその外周面側から撮影して画像データとし、
この画像データにおける前記先端部位の前記テーパの両側においてその母線に接するか又は沿うように直線を引き、この2の直線の交点を仮想頂点としてコンピュータ制御により検出すると共に、この画像データにおける前記電極の先細りテーパをなす先端部位の実際の頂点の位置をコンピュータ制御により検出し、
前記画像データにおける、前記仮想頂点と前記実際の頂点との高低差をコンピュータ制御により検出し、その高低差から前記電極の先端部位の消耗量をコンピュータ制御により測定することを特徴とする、非消耗電極式アーク溶接機における電極の消耗量の測定方法。
【請求項2】
溶接工程ごと、毎回、その溶接前又は後に、前記高低差を検出することを特徴とする、請求項1に記載の、非消耗電極式アーク溶接機における電極の消耗量の測定方法。
【請求項3】
グロープラグ用のヒータチューブであって、直管の先端に先すぼまり部を有し、しかも、この先すぼまり部の先端において先方に突出する突出状口部を有するヒータチューブ内に、発熱用のコイルを配置すると共に、該コイルの先端を前記突出状口部内に挿入し、該コイルの先端と該突出状口部とを非消耗電極式アーク溶接によって溶接してコイル付きヒータチューブを製造する工程において、請求項1又は2に記載の、非消耗電極式アーク溶接機における電極の消耗量の測定方法を用いた前記コイル付きヒータチューブの製造方法を含むことを特徴とする、グロープラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非消耗電極式アーク溶接機における電極の消耗量の測定方法、及び、この測定方法を含むグロープラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非消耗電極式アーク溶接(TIG溶接)について、ディーゼルエンジンの始動促進のための予備加熱に使用されるグロープラグ(メタルグロープラグ)用のヒータ素子の製造において説明する。
図4は、グロープラグ10の概略構成図、及びこれを構成するヒータ素子11の概略構成拡大破断面図である。このうち、ヒータ素子11は、先端23が閉塞された低炭素鋼製の円管(直管部)25からなるヒータチューブ27と、その内部に配置された高融点金属製の発熱用のコイル(以下、単にコイルとも言う)41、さらには、その内部に充填された図示しない絶縁充填材(例えば、MgO粉末)などから形成されている。このヒータ素子11において、コイル41は、ヒータチューブ(以下、単にチューブとも言う)27内で、その先端(
図4の下端)23に溶接されて後方(
図4の上方端)に延びる形で設けられている。このような素子11は、
図5の左図に示したように、先端に先すぼまり部22を有し、その先端において先方に突出する突出状口部24を有する形態のチューブ(チューブ仕掛品。以下、チューブとも言う)27において、その内部にコイル41を配置すると共に、そのコイルの先端(端部)42を、突出状口部24内に挿入するようにして位置決めして、挿入部位において両部位を溶融するように溶接することで、
図5の右図に示したように製造されていた(特許文献1,2参照)。そして、その溶接は、コイル41を挿入した同チューブ27の先端を下にして上下に保持した状態で、同チューブの先端に対し、下方から非消耗電極式アーク溶接(以下、アーク溶接、又は単に溶接ともいう)機の棒状の電極(タングステン)の先端を所定の放電間隔となるように配置することで行われていた。
【0003】
このような非消耗電極式アーク溶接において、一定の溶接状態で高精度の溶接を得るためには適正な放電間隔を、多数の溶接工程中、常に保持することが不可欠である。そして、この溶接において良好なアークの発生が得られるようにするために、溶接機の電極については、その先端部位が先細り状の所定のテーパ(円錐形状)に仕上げられたものが使用される。一方、非消耗電極式とはいえ、この電極の特にテーパの先端(頂点)部分は、溶接における酸化や熱的影響等により、実際には極微量ではあるが、少しずつ消耗(溶損)する。すなわち、そのテーパの頂点部分は、当初は鋭く尖った状態にあるとしても、溶接回数が、100回、200回‥‥と増えるにしたがい、丸みをおび、或いは、アークの発生状況等により偏摩耗状に消耗するなどにより、低位となってしまう。このような消耗を放置すれば放電間隔が適正値を超えることから所望とするアークの発生が得られず、必要な加熱、溶融が得られない。結果、溶接不良を発生させる。こうした溶接不良は、上記したヒータ素子の製造においては、その先端が担う発熱性能に影響を及ぼすことになり、グロープラグの性能を損ねることになってしまう。
【0004】
こうしたことから、上記した溶接では電極のテーパの先端(頂点)部分の消耗量や、消耗状態が如何にあるかについての管理は、溶接工程の進行上、きわめて重要である。このために従来は、その溶接不良の発生状況に基づいて、その消耗量が所定量(許容限界消耗量)になっていると判定されたときは、適宜、電極の先端部位(テーパ)を再研磨等して再生するか、再生不能のときは、新品に交換することが行われていた。一方、このような再生、交換の時期(消耗量が許容値を超えたか否かを判定する時期)は、溶接対象ごとに実施された溶接回数から、経験的に一応の判断をすることができる。このため、従来は溶接回ごとの個別の消耗量を、その溶接ごとに実測することなく、経験的に許容限界消耗量になると認められる溶接回数の経過を基準にして、適宜、溶接状態の抜き取り検査等を併用しながら、その再生又は交換が行われていた。すなわち、許容消耗量の到来時期になる可能性が高いと経験的に認められる溶接回数(例えば、1000回とか、2000回等)を予め設定しておき、その回数の到来を基準に、要すれば、消耗状態の確認や溶接不良の検査を行い、その再生又は交換(以下、単に再生とも言う)の時期を判断していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−65792号公報
【特許文献2】特開2010−164242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電極の先端部位の消耗の度合いは、溶接対象(母材)をなすワーク(グロープラグではヒータチューブ)が同種のものでも、生産ロットごとの製造条件や、その肉厚等のバラツキの異同等によっても微妙に異なる。このため、設定溶接回数を基準に交換時期を決める手法は、必ずしも合理的とはいえない。すなわち、その消耗は交換時期を設定した溶接回数よりも早く進行することがある。一方、設定した溶接回数に至っているとしても、実際には、未だ再生を要するほどの消耗には至っていない場合もあり、この場合には過剰な早期交換となってしまう。また、消耗状態の個別の確認や溶接不良(状態)の個別の検査を行うことは効率的でない。
【0007】
そして、このような電極の先端部位の消耗に基づく課題は、グロープラグ用のヒータ素子の製造における場合に限られるものではない。高精度の溶接が要求される場合に共通する課題である。また、上記した非消耗電極式アーク溶接においては、溶加材として溶接棒(ワイヤ)を供給しない場合で説明したが、上記した電極の消耗は、これを供給して溶接する場合でも生じる。
【0008】
本発明は、如上の問題に鑑みてなされたもので、非消耗電極式アーク溶接機における電極のうち、その先細りテーパをなす先端部位の頂点及びその近傍における消耗量ないし消耗状態(度合い)を、簡易、合理的に知ることができるようにして、その消耗に起因する溶接不良の発生防止を図り、しかも、その先端部位の再生、交換等、溶接作業の効率化が図られるようにすることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明は、非消耗電極式アーク溶接機における電極であって、その先細りテーパをなす先端部位を、溶接対象に対して所定の放電間隔を保持した状態の下で、その溶接対象をアーク溶接するに当り、
溶接工程の前又は後に、前記電極の先端部位の突出状態をその外周面側から撮影して画像データとし、
この画像データにおける前記先端部位の前記テーパの両側においてその母線に接するか又は沿うように直線を引き、この2の直線の交点を仮想頂点と
してコンピュータ制御により検出すると共に、この画像データにおける前記電極の先細りテーパをなす先端部位の実際の頂点の位置を
コンピュータ制御により検出し、
前記画像データにおける、前記仮想頂点と前記実際の頂点との高低差を
コンピュータ制御により検出し、その高低差から前記電極の先端部位の消耗量を
コンピュータ制御により測定することを特徴とする、非消耗電極式アーク溶接機における電極の消耗量の測定方法である。
【0010】
請求項2に記載の本発明は、溶接工程ごと、毎回、その溶接前又は後に、前記高低差を検出することを特徴とする、請求項1に記載の、非消耗電極式アーク溶接機における電極の消耗量の測定方法である。
【0011】
請求項3に記載の本発明は、グロープラグ用のヒータチューブであって、直管の先端に先すぼまり部を有し、しかも、この先すぼまり部の先端において先方に突出する突出状口部を有するヒータチューブ内に、発熱用のコイルを配置すると共に、該コイルの先端を前記突出状口部内に挿入し、該コイルの先端と該突出状口部とを非消耗電極式アーク溶接によって溶接してコイル付きヒータチューブを製造する工程において、請求項1又は2に記載の、非消耗電極式アーク溶接機における電極の消耗量の測定方法を用いた前記コイル付きヒータチューブの製造方法を含むことを特徴とする、グロープラグの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の本発明によれば、当該溶接の前又は後の前記電極における上記高低差の
コンピュータ制御による検出に基づいて、その先端部位の頂点の消耗量を
コンピュータ制御により測定するものであるから、その電極の消耗の度合いを、簡易、合理的に知ることができる。このため、その消耗に起因する、その再生、交換の時期の到来の判定、ひいては、溶接不良の発生防止に極めて有効である。
【0013】
本発明とは別の発明として、上記電極の頂点の高低差(又は消耗量)を画像データに基づいて測定するには、次の手法も考えられる。それは、未使用の電極の先端部位を、外周面側から撮影した画像データをマスター画像(基準データ)として登録しておき、このマスター画像と、現に溶接機に取付けられて溶接に使用されている電極の先端部位の画像データとの比較において、両者の頂点の高低差を検出し、これを消耗量として測定するというものである。しかし、この場合には、マスター画像の事前の登録が必要となる。そればかりか、電極の再生、交換が行われる場合には、その先端部位の位置、又は形状は、当初のマスター画像におけるそれと微妙に相違することがある。このため、この手法の採用においては、測定精度の確保のために、マスター画像は、電極の再生(交換)ごとにその登録をする必要があり、したがって、その再生(交換)に係わる作業が複雑化する。
【0014】
これに対して、本発明では、当該溶接工程に使用されている電極の先端部位の画像データにおけるところの、仮想頂点と実際の頂点との高低差を
コンピュータ制御により検出し、この高低差から前記電極の先端部位の消耗量を
コンピュータ制御により測定するものであるから、こうした作業の複雑化の課題はない。すなわち、電極の消耗は、その先端部位の頂点部分に限られると見てよく、それ以外の部位(テーパの頂点から離れた、中間部位やその裾野の部位)は実質的には消耗しないとみられるから、頂点部位以外の形状には変化が生じないから、上記仮想頂点は安定、かつ容易に得られる。本発明は、この知見に基づきなされたものであり、マスター画像の登録の必要もないから、上記別の手法に比べると、電極の消耗の検出、さらには再生(交換)作業の簡易化を図ることができる。しかも、当該電極自体における上記高低差の
コンピュータ制御による検出に基づいてその消耗量を
コンピュータ制御により測定するものであるから、その消耗の状態をリアルタイムで、簡易、かつ正確に監視することができる。これにより、その測定の質を高めることができる。
【0015】
なお、本発明の適用において、前記高低差が、予め設定した数値(又は前記消耗量)が許容値を超えたときを、電極の再生又は交換の時期が到来したとして、所定の信号を出力させるようにしておくことで、以後の溶接不良の発生を容易に防止することができる。なお、その信号としては、以後の溶接を中断する制御信号があげられる。このように、本発明の適用により、次々とワークを供給して、順次、溶接するような自動溶接ラインにおいてアーク溶接をするような場合にも、溶接不良の発生を未然に、かつ容易に防止することができる。
【0016】
本発明では、前記高低差の検出は、適当数の溶接回数ごと、間隔をおいて行うものとしてもよいが、請求項2に記載のように、溶接工程ごと、毎回、その溶接の前又は後に行うこととしてもよい。このようにすれば、溶接回ごと、微量ではあるが、刻々と消耗する状態の傾向を知ることができるので、許容限界消耗量の到来時期の予測も容易となる。なお、本発明の、非消耗電極式アーク溶接機における電極の先端部位の消耗量の測定方法は、溶接対象に関係なく適用できる。とくに、高精度の溶接が要求される部品(部材)同士の溶接に好適である。このため、請求項3に記載の発明のように、溶接が発熱性能に影響するグロープラグ用のヒータチューブの製造には好適である。すなわち、グロープラグを構成するコイル付きヒータチューブのように、溶接の質、精度が、その溶接後の部品、部材の性能に直結するものにおいては、その溶接不良の発生防止が不可欠であるが、上記本発明の測定方法を適用することで、その発生防止が図られるだけでなく、その製造の効率化にも寄与できるため、その適用には著しい効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明を具体化した実施形態を説明する図であって、非消耗電極式アーク溶接機における電極の先端部位のガスノズルからの突出状態、及び該電極の先細りテーパをなす先端部位を電極の外周面側から撮影するのを説明するための模式図。
【
図2】
図1において、電極の先細りテーパをなす先端部位を撮影したときの画像データを模式図としたものであって、その頂点の消耗がないときの説明図。
【
図3】
図1において、電極の先細りテーパをなす先端部位を撮影したときの画像データを模式図としたものであって、その頂点の消耗が大きくなり、仮想頂点との高低差が顕在化したときの説明図。
【
図4】グロープラグの概略構成図、及びこれを構成するヒータ素子の概略構成拡大破断面図。
【
図5】
図4のヒータ素子を構成するヒータチューブに発熱用のコイルを溶接する工程の説明用断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る電極の先端部位の消耗量の測定方法を具体化した実施の形態例について説明する。ただし、本例では
図4に示したグロープラグ10におけるヒータ素子11の製造のため、
図5に示した、ヒータチューブ(仕掛品)27に、発熱用のコイル41を溶接する場合で説明する。すなわち、この溶接では、上記したように直管の先端に先すぼまり部22を有し、かつ、この先すぼまり部22の先端において先方に突出する突出状口部24を有するヒータチューブ27内にコイル41を配置すると共に、該コイル41の先端42を同チューブ27の先端の突出状口部24内に挿入する(
図5の左図参照)。そして、この状態においてそのコイル41の先端42と突出状口部24とを溶接する。この溶接では、
図5の右図に示したように、その両部位の溶融、固化過程で、チューブの先端23は凸となす半球面状になる設定とされている。
【0019】
図1は、非消耗電極式アーク溶接機(電極の先端部位のみ図示)100に付設された、母材(ワーク)供給用のチャック200にて、上記したコイル挿入後のチューブ27が保持され、先端を下に、鉛直にして溶接用の筒状ジグ250の内側に上方から内挿され、位置決めされている状態を示している。このチャック200によるその供給、取り出しは、アーム210を平面視、揺動し、かつ、上下動させる駆動をすることによるものとされている。また、この位置決めにおいては、チューブ27の突出状口部24の先端が、筒状ジグ250の下端より下方に所定量突出した状態となるように設定されている。なお、
図1に示したチューブ27に挿入されているコイル41の後端(上端)には、グロープラグとして組立てられたとき、コイル41への通電をなすべき軸部材50が固着されている。そして、この軸部材50の下端寄り部位はチューブ27内に適量内挿されており、チャック200は、チューブ27の後端寄り部位と、この軸部材50を保持してなされている。
【0020】
このように位置決めされたチューブ27の突出状口部24の先端(下端)の下方には、非消耗電極式アーク溶接機100における電極110の先細りテーパをなす先端部位120が位置するように設定されている。この電極110は、位置決めされたチューブ27と同軸をなし、チューブ27の突出状口部24の先端の下方に配置され、その突出状口部24の先端と、電極110の先細りテーパをなす先端部位120の頂点(円錐テーパの頂点)121との間において所定の放電間隔が保持される設定とされている。なお、電極(タングステン製丸棒)110における先細りテーパをなす先端部位(
図1の上端寄り部位)120は、ガスノズル(シールドガスの吹き付け用ノズル)130の先端(図示上端)133から所定量、上に突出するようにして、ノズル130内に同軸配置で固定されている。
図1では、テーパの略全体がノズル130の先端133から突出されている。
【0021】
このようなアーク溶接機100、及びこれによる溶接工程における電極110の先端部位120の消耗量の測定について説明する。アーク溶接機100には、先細りテーパをなすその電極110の先端部位120の突出状態を、その外周面側から撮影する(正面視、撮影する)カメラ300が設置されており、その撮影による画像データがデスプレイ320に出力(表示)されるよう設定されている。カメラ300の撮影方向(撮影中心軸)は、
図1中の白抜き矢印で示したようであり、電極110の軸線Gに垂直な方向とされ、かつこの軸線Gと交差するように設定されている。これにより、ノズル130より突出するテーパの部位の略全体を正面視して(外周面側から)撮影するようにされている。撮影用の光源(照明)330はその撮影方向から照射するものとしてもよいが、本例では、撮影対象の背面からの照射としている。これは、先細りテーパをなす電極110の先端部位120を正面視したとき、その両側の輪郭であるテーパの母線を検出するのと、その先端部位120の頂点121を検出するには、このような照明とした方がその判別がより明確になるためである。
【0022】
次に、
図2、
図3を参照してこの撮影により得られる画像データに基づいて本例の測定方法を説明する。上記したように、この測定においては、上記カメラ300によって、先細りテーパをなす電極110の先端部位120を正面視して撮影する。そして、本例ではその画像データにおいて、テーパの両側において母線に接するか、沿うようにして直線L1,L1を引いて、この2の直線L1,L1の交点Pを、電極110の先端部位120の仮想頂点Pとして検出し、また、その画像データにおける電極110の先端部位120の実際の頂点(最先端)121を通る水平直線L3を引く画像処理を行う。そして、その仮想頂点Pと、実際の頂点121との高低差を演算、検出して出力する。本例では、これらを実行するプログラムを用いるコンピュータ制御により、その高低差を検出し、これから消耗量を測定することとしている。なお、
図2は、仮想頂点Pと、実際の頂点121とが一致する状態、すなわち、頂点121の消耗がないときの画像である。
【0023】
本例では、溶接作業の開始にあたり、毎回その溶接工程の前又は後に、先細りテーパをなす電極110の先端部位120の突出状態を撮影して画像データとし、上記画像処理を行うと共に、仮想頂点Pと、実際の頂点121との高低差Sを
コンピュータ制御により検出して、この高低差に基づき電極110の先端部位120の消耗量を
コンピュータ制御により測定する。すなわち、
図2に示したように、溶接作業の開始時、例えば、電極110が新品であり、その先端部位120が円錐をなす先細りテーパに仕上げられているとすると、その開始時における画像データにおける実際の頂点121の位置と、仮想頂点Pとにおいて高低差はない。したがって、消耗はない(消耗量は0)ものと測定される。一方、その後、溶接が繰り返され、溶接回数が増加するのに伴い、微量ずつではあるが頂点121の消耗は次第に大きくなる。結果、
図3に示したように、画像データにおける実際の頂点121の位置は低くなり、仮想頂点Pの位置との高低差Sを生じる。本例では、その開始時における画像データにおける実際の頂点121の位置と、仮想頂点Pとにおいて高低差はないから、高低差Sがそのまま、消耗量となる。なお、仮に、開始時における実際の画像データにおける頂点121が、適度に丸められており、仮想頂点Pより低ければ、実際の消耗量は、その分、差し引いたものとなるが、仮想頂点Pの位置は上記したことから明らかなように、変位しないとみてよいため、その分をみこした消耗量として、補正して消耗量を測定するものとしてもよいし、単純にその高低差を消耗量(見かけの消耗量)として求めることとしてもよい。
【0024】
このように、本例方法では、当該溶接工程に使用されている上記電極110の先端部位120の画像データ自体における前記仮想頂点Pと、溶接回数に応じて極微量とはいえ刻々と低位となる前記実際の頂点121との高低差Sを、溶接回ごと、その溶接工程の前又は後に
コンピュータ制御により検出し、この高低差に基づいて前記電極110の先端部位120の消耗量を
コンピュータ制御により測定することとしている。このため、その電極110の消耗の度合い、ないし傾向を、簡易、合理的に知ることができる。すなわち、他の方法のように、未使用の電極110の先端部位120の画像データをマスター画像として予め登録しておき、このデータと、溶接に使用中の実物の電極110の先端部位120を撮影して得られる画像データとの比較において、両者の頂点の高低差を測定する場合には、上記もしたように、測定精度の確保のため、再生又は交換の度に、その登録が必要となり面倒である。これに対して、本例方法ではこうした登録をすることもなく、精度の確保された測定ができるため、再生、交換時における作業、段取りの複雑化を招くこともない。なお、画像は、測定者(作業者)において、電極の消耗が視認できるように拡大表示するのがよい。
【0025】
なお、この測定に際しては、事前に、溶接不良を招くことのない許容最大消耗量(許容限界消耗量)、又は、許容最大高低差を許容限界値として設定しておく。そして、高低差がその設定値になったとき、以後の溶接工程を停止する等の信号を出力する制御を行うことにするとよい。これにより、不適な電極110先端による溶接を防止できるので、溶接不良の発生防止を図ることができる。かくして、その許容最大消耗量に至った時点において、溶接機から電極110を取り出し、その先端部位120を再研磨することが可能であれば、所望とするテーパに再生し、又は、それが不能であれば、新品の電極110に取り替え、電極110を初期の所定の突出状態となるようにリセットし、以後の溶接を再開すればよい。
【0026】
なお、画像データにおいて、上記例ではテーパの母線(輪郭)を判別し、それに接するか、それ接するようにして、直線L1,L1を引き、その交点Pを検出する設定としたが、この2直線は、テーパの両側においてその母線に接することなく、その母線に沿うように引くことで、その交点Pを検出することとしてもよい。ただし、この場合には、母線との間隔に応じた分、仮想頂点の位置にズレが生じるから、実際の頂点121との高低差から消耗量を求める際には、その分の補正をすることになる。また、いずれにおいても、テーパの母線(輪郭)を判別する際には、画像データにおけるテーパのうち、その幅寸法が相対的に大きいテーパの裾野寄り部位(電極110の先端部位120の先細りテーパの始点寄り部位)か、少なくとも、撮影される画像データにおけるテーパの中間部位、すなわち、
図2、
図3中に、鎖線により矩形で示した領域(高さ範囲)K内において存在する母線に基づいて行うのがよい。というのは、上記もしたように、電極110における先端部位120の消耗は、先細りテーパの頂点121、及びその近傍においては発生しがちであるものの、頂点121から離間したテーパの外周面、すなわち、前記裾野寄り部位や中間部位の領域においては、殆ど消耗は生じないか、生じたとしても極めて微量である。このため、このような領域Kに存在する母線を基準とすることで、測定回ごとの仮想頂点Pの位置が変位することを小さくでき、結果、測定誤差を小さくできるためである。
【0027】
上記画像データによる高低差Sの比較は、例えば、50回、又は100回の溶接工程ごとの溶接の前又は後に行うものとしてもよいが、検出精度を高めるためには、上記例におけるように各溶接工程ごと、その溶接の前又は後に毎回行うのがよい。また、上記例では、説明を容易とするため、電極110の先細りテーパをなす先端部位120の撮影を一方向のみからの撮影(正面視撮影)としたが、例えば、平面視、120度間隔の3箇所、又はも90度間隔の4箇所とするなど、複数方向から撮影し、その各画像データにおける上記高低差Sの例えば平均値を、その測定された高低差とし、これに基づいて消耗量を測定するのがよい。このようにすれば、より高い精度で消耗量を測定できるためである。
【0028】
上記においては、
図5に示したグロープラグ10のヒータ素子11を製造するためのチューブ27内に、コイル41を溶接する場合において、本発明に係る電極の消耗量の測定方法を適用した例を説明したが、本発明は、このような溶接対象に限られず適用できることは明らかである。また、上記のようにして溶接して製造したコイル付きのヒータチューブは、上記方法の適用により、溶接の質の向上が効率的に図られる。よって、その適用によって得られたチューブを用いることによることで、発熱性能の安定したグロープラグが得られる。なお、上記溶接工程において、コイル41の先端42を、同チューブ27内において突出状口部24に挿入して溶接した場合には、この両部位の溶融、固化により、
図5の右図に示したように、チューブの先端23は凸となす半球面状になって閉塞される。
【0029】
しかして、このようにして溶接された、コイル付きのヒータチューブ内にはその後、絶縁粉末が充填され、通電用の軸部材50が、同チューブ27と絶縁を保持されてその後端において固定されてヒータ素子となる。そして、このヒータ素子は、その後、グロープラグ本体金具に組み付けられ、軸部材の後端に端子金具が設けられる等の組立製造工程を経ることで、
図5に示したグロープラグ10として製造される。かくして製造されたグロープラグは、発熱部をなすヒータチューブ27の先端23における発熱性能の安定が図られたものとなる。
【0030】
上記例では、ヒータチューブの製造過程での溶接において本発明を適用し、上向き溶接とした場合で説明したが、下向き溶接や横向き溶接でも適用できるなど、本発明において、溶接における向きの限定はない。また、上記例では、母材同士の溶け込み(溶融)による溶接としたが、本発明は、母材が厚く、溶加材が不足するような場合のように、適宜の太さの溶接棒(ワイヤ)を用いて非消耗電極式アーク溶接する場合においても広く適用できる。さらに、溶接母材は低炭素鋼に限られず、溶接できるかぎり、他の素材の溶接においても同様に適用できる。
【符号の説明】
【0031】
10 グロープラグ
22 先すぼまり部
24 突出状口部
27 ヒータチューブ
41 発熱用のコイル
42 コイルの先端
100 非消耗電極式アーク溶接機
110 電極
120 電極の先細りテーパをなす先端部位
121 先端部位の実際の頂点
L1 母線に接するか又は沿うように引いた直線
P 2の直線の交点(仮想頂点)
S 仮想頂点と実際の頂点との高低差