【文献】
JAMES DAYLON,NATURE BIOTECHNOLOGY,2010年 2月,V28 N2,P161-166
【文献】
BAKRE M M,JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2007年10月26日,V282 N43,P31703-31712
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
段階(a)の多能性培地が、タンパク質キナーゼのRho結合コイルドコイル形成タンパク質セリン/スレオニンキナーゼファミリーの阻害剤(ROCKキナーゼ阻害剤)を補給した無血清培地である、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
ROCKキナーゼ阻害剤が、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン、N-ベンジル-2-(ピリミジン-4-イルアミノ)チアゾール-4-カルボキサミド、および(+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロ-ヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリドの群から選択される、請求項7記載の方法。
誘導培地が、VEGF-A(血管内皮増殖因子)または胎盤様増殖因子1(PLGF-1)および低分子アデニラートシクラーゼアクチベーターを補給した無血清培地である、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
低分子アデニラートアクチベーターが、フォルスコリン((3R)-(6aαH)ドデカヒドロ-6β,10α,10bα-トリヒドロキシ-3β,4aβ,7,7,10aβ-ペンタメチル-1-オキソ-3-ビニル-1H-ナフト[2,1-b]ピラン-5β-イルアセタート)、8-ブロモ-cAMP(8-ブロモアデノシン-3',5'-環状一リン酸)、およびアドレノメジュリンを含む群から選択される、請求項11記載の方法。
誘導培地が、TGFβシグナル伝達およびPDGFシグナル伝達のアクチベーターを補給した血清代替培地または無血清培地である、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
【背景技術】
【0002】
ヒトの身体のほぼすべての組織は、血液供給に依存する。内皮細胞は、血管の内層を形成し、血液と組織との間に選択的透過性障壁を提供する。さらに、血管平滑筋細胞は、血管の壁内に見出され、血管の血管収縮の制御において重要な役割を果たす。内皮細胞の傷害、活性化、または機能不全は、多くの疾患の病態生理の主要な特徴である。
【0003】
従って、血管生物学の基本原理の理解は、多くの患者を処置する新規アプローチを発見するために最も重要である。例えば、2型糖尿病を患う患者は、冠状動脈疾患(CAD)ならびに、腎症および網膜症などの末梢血管合併症のはるかにより高い発生率を有する。従って、血管合併症は、この患者集団において相当に増加する死亡率および罹患率の主要な原因である。腎臓における内皮細胞の機能不全は、血管平滑筋細胞およびメサンギウム細胞の増殖および血管収縮の増強をもたらし、びまん性糸球体硬化症を結果として生じ、続いて重症の腎不全を引き起こす。糖尿病性網膜症においては、高血糖症が、損傷をもたらす血管平滑筋細胞死を誘導し、網膜毛細血管の内皮細胞の増殖の増加が、網膜の病態生理学的増殖を結果として生じ、続いて視力の障害または完全な消失さえももたらす。従って、血管合併症を研究するため、ならびに2型糖尿病患者において血管合併症を処置する適切な新たな標的および戦略を特定するために、患者特異的なインビトロ血管床細胞モデルが必要である。
【0004】
内皮細胞は、例えば、慢性低酸素症または組織虚血などの病理学的状態に応答して、血管新生および脈管形成において中心となる。血管内皮増殖因子(VEGF)などの増殖因子は、細胞増殖および新たな管形成を結果として生じる内皮シグナル伝達カスケードを活性化し得る。内皮前駆細胞(EPC)は、最近、血管再生医療において可能性のある治療的処置として注目されている:後肢、心筋、および脳虚血についてEPC移植により誘導される有効な新血管形成が、慢性および急性冠状動脈疾患における虚血性心臓血管疾患の処置のための、多くの前臨床研究および臨床治験において評価されている(Yamahara K, Itoh H., Ther Adv Cardiovasc Dis. 2009 Feb;3(1):17-27;Kawamoto A, Asahara T., Catheter Cardiovasc Interv. 2007 Oct 1;70(4):477-84;Marsboom G, Janssens S., Expert Rev Cardiovasc Ther. 2008 Jun;6(5):687-701)。細胞ベースの療法における自己EC/EPCの可能性のある応用についての主要な欠点の1つは、その限定された拡大能力および入手可能性である。
【0005】
薬物誘導毒性は、頻繁に、肝臓および肺などの主要な器官の傷害を引き起こす。毒性薬物またはその代謝物は、標的細胞の生態に直接影響を及ぼすか、または器官内の免疫応答を惹起する。肝臓の洞様血管内皮細胞および肺内皮細胞が薬物誘導毒性により影響を受ける時、肝不全または呼吸困難をもたらし得る重症の組織浮腫が発生する。患者特異的なインビトロ内皮細胞モデルの開発により、インビトロの薬物毒性を評価すること、および組織浮腫を引き起こす危険性が減少した薬物の開発を促進することが可能になるであろう。
【0006】
胚性幹(ES)細胞および患者特異的な人工多能性幹細胞(iPSC)は、血管再生医療用の大規模な内皮細胞および内皮前駆細胞の産生のための可能性のある供給源である。人工多能性幹細胞(iPSC)技術(Takahashi, K. & Yamanaka, S., "Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors", Cell 126, 663-676 (2006))で、4種の定義された因子(Sox2、Oct4、Klf4、c-Myc)の導入により体細胞をリプログラミングしてiPSCにすることができる。iPSC技術により、患者特異的な内皮細胞へ分化することができる患者特異的なiPSCの生成が可能になる。これらの患者特異的な内皮細胞は、例えば、2型糖尿病と関連する血管合併症の病態生理のインビトロモデリングにおいて、または薬物毒性の評価のために有用である。
【0007】
そのようなインビトロ疾患モデリングを試みるための1つの重要な前提条件は、効率的、堅牢、かつ拡大縮小可能な分化システムの実行である(Grskovic et al., 2011;Tiscornia et al., 2011;Zhu et al., 2011)。ヒトPSCを血管床細胞へ分化させるこれまでの努力は、創薬推進事業または再生細胞療法に妥当な規模および有効性に達していない。ヒト多能性幹細胞(胚性幹細胞およびiPSC)を内皮細胞へ分化させるためのいくつかの方法が公表されている。多能性幹細胞に由来する内皮細胞は、CD31およびCD144などの発現表面マーカーの最小必要条件により、およびマトリゲルでコーティングしたプレートにおいて管を形成する能力により定義される。James et al.(Nature Biotech 28, 161-167, 2010)は、胚性幹細胞に由来する胚様体培養物から内皮細胞を分化させた。その中で、胚様体は、骨形成タンパク質4、アクチビンA、繊維芽細胞増殖因子2、およびVEGF-Aなどの様々な増殖因子で順次刺激された。筆者は、内皮細胞分化の収率および再現性を増大させるために、TGFb阻害剤低分子(例えば、SB431542)を使用した。しかしながら、この方法は主要な欠点を有する:第1に、内皮細胞の絶対収率は10%未満のみであり、第2に、多能性幹細胞を内皮細胞へ分化させるために必要とされる全体の時間は最低でも10日であった。最近、Tatsumi et al.(Cell Transplantation, 2010)は、ヒト胚性幹細胞由来の内皮細胞の分化のための新たなアプローチで、これらの限界のいくつかを回避している。5μMのグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3b(GSK-3b)阻害剤((2'Z, 3'E)-6-ブロモインジルビン-3'-オキシム、「BIO」と呼ばれる)を補給した化学的に定義された無血清培地中での3日のインキュベーション、および、血管内皮増殖因子(VEGF)を補給した培地中での2日のインキュベーションの段階的な組み合わせからなる分化法を用いて、内皮細胞を5日で、表面マーカーCD144を発現する内皮細胞(CD144+細胞とさらに示される)により判定される約20%の効率で誘導する。CD144+内皮細胞を次に、磁気活性化細胞選別(MACS)分離を用いて選別し、VEGF補給培地中で異なる継代にわたって拡大する。その後、分化した内皮細胞を、内皮細胞の証明となる特徴のいくつか:毛細血管様管の形成、1',1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドカルボシアニン標識アセチル化低密度リポタンパク質(DiI-Ac-LDL)の取込み、ならびにマーカーCD31、CD34、CD144、およびVEGFR-2の発現について試験している。この方法では、内皮細胞の分化に必要とされる全体の時間が5日のみであったが、内皮細胞の絶対収率(約20%)がわずかに増大しただけであった。このアプローチは、さらなる欠点を有する:最初の段階において、未分化のヒト胚性幹細胞を小さな細胞凝集塊に解離させ、I型コラーゲンでコーティングしたディッシュ上にプレーティングする。小さな胚性幹細胞凝集塊の使用のために、開始条件が十分に定義されず、再現性にマイナスの影響を有する。
【0008】
要約すると、すべての公知の分化法の主要な欠点は、血清、馴化培地、マウスOP9間質細胞またはフィーダー層との共培養、細胞凝集物または胚様体の不均一の性質などの定義されない要因の必要である(James et al., 2010、Sumi et al., 2008;Vodyanik et al., 2005;Wang et al., 2007;Levenberg et al., 2002 PNAS;Kane et al., 2010;Tatsumi et al., 2010)。
【発明の概要】
【0009】
多能性幹細胞の血管床細胞への分化のための、容易に利用できかつ再現性を有する方法の必要性が残っている。本発明は、減少した量の時間(5日)でおよび有意に増大した収率(マーカーCD144を発現する細胞により判定した際、最大85%)で、多能性幹細胞を内皮細胞へ分化させるための改善された方法を提供し、かつ全体的に再現され得る。新たな方法は、多能性幹細胞から胚様体または小さな細胞凝集塊を得る必要性を軽減し、当技術分野において公知である方法の低い再現性および標準化の主要な欠点を除去する。さらに、この高効率性(マーカーCD144を発現する内皮細胞の最大85%の収率)により、創薬および薬物安全性において、再生医療応用において、ならびに製薬産業におけるインビトロ疾患モデリングにおいて、これらの内皮細胞を大規模で使用することが今回可能になる。さらに、新たな方法は、内皮細胞(約85%)または血管平滑筋細胞(約90%)のいずれかへ優勢に分化系列決定(lineage commitment)をシフトすることができる、血管前駆細胞の選択的調節を可能にする。
【0010】
以下の段階を含む、多能性幹細胞を血管床細胞へ分化させるための方法が、本明細書において提供される:
(a)多能性培地中に単層の多能性幹細胞を提供する段階、
(b)β-カテニン(カドヘリン結合タンパク質、β1;ヒト遺伝子名称CTNNB1)経路および/またはWnt受容体シグナル伝達経路および/またはヘッジホッグ(HH)シグナル伝達経路を活性化する低分子を補給した刺激培地中で前記細胞をインキュベートする段階、
(c)誘導培地中で前記刺激された細胞をインキュベートすることにより、分化を誘導する段階。
【0011】
好ましくは、培地を各段階の間に交換し、これは、第2の培地を細胞に添加する前に、例えば吸引により第1の培地を廃棄することを意味する。
【0012】
本明細書において使用される「単層の多能性細胞」とは、多層の細胞の固体塊が接着性基材に付着した種々の三次元構成体を形成する細胞の凝集塊または胚様体の培養とは対照的に、多能性幹細胞が、1枚の単一の薄膜の接着性基材に付着している単一細胞の状態で提供されることを意味する。
【0013】
最初の段階において単層の多能性幹細胞を提供することは、方法の再現性および効率のために重要であり、血管床細胞の分化のためのいかなる方法においても以前には記載されていない。1つの態様において、単層の多能性幹細胞は、細胞を酵素により単一細胞に解離させ、プレコーティングしたマトリゲルプレート(例えば、BD BioscienceのBD Matrigel hESC-qualified、InvitrogenのGeltrex hESC-qualified、CorningのSynthemax)などの接着性基材上にそれらを持ってくることにより、産生することができる。単一細胞への解離に適する酵素の例は、Accutase(Invitrogen)、トリプシン(Invitrogen)、TrypLe Express(Invitrogen)を含む。1つの態様において、cm
2あたり20000〜60000個の細胞を、接着性基材上にプレーティングする。本明細書において使用される培地は、単層の単一細胞としての多能性幹細胞の付着および増殖を促進する多能性培地である。本明細書において使用される「多能性培地」とは、多能性幹細胞の多能性を維持しながら単層上に単一細胞として多能性幹細胞を付着させるのに有用な、任意の化学的に定義された培地を指し、当技術分野において周知である。「多能性培地」とは、以下の増殖因子:塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF、また繊維芽細胞増殖因子2、FGF2とも示される)およびトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)の少なくとも1つを含有する培地を指す。1つの態様において、多能性培地は、タンパク質キナーゼのRho結合コイルドコイル形成タンパク質セリン/スレオニンキナーゼ(ROCK)ファミリーの低分子阻害剤(本明細書においてROCKキナーゼ阻害剤と呼ばれる)を補給した無血清培地である。
【0014】
従って、1つの態様において、上記の方法の段階(a)は、ROCKキナーゼ阻害剤を補給した無血清培地である多能性培地中に単層の多能性幹細胞を提供する段階を含む。
【0015】
付着に適する無血清培地の例は、Stem Cell TechnologiesのmTeSR1またはTeSR2、ReproCELLの霊長類ES/iPS細胞用培地、およびInvitrogenのStemPro hESC SFM、LonzaのX-VIVOである。本明細書において有用なROCKキナーゼ阻害剤の例は、ファスジル(1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン)、チアゾビビン(N-ベンジル-2-(ピリミジン-4-イルアミノ)チアゾール-4-カルボキサミド)、およびY27632((+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロ-ヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリド、例えば、Tocris bioscienceのカタログ番号:1254)である。1つの態様において、多能性培地は、2〜20μM Y27632、好ましくは5〜10μM Y27632を補給した無血清培地である。別の態様において、多能性培地は、2〜20μMファスジルを補給した無血清培地である。別の態様において、多能性培地は、0.2〜10μMチアゾビビンを補給した無血清培地である。
【0016】
1つの態様において、上記の方法の段階(a)は、多能性培地中に単層の多能性幹細胞を提供する段階、および、1日間(24時間)、多能性培地中で該単層を増殖させる段階を含む。別の態様において、上記の方法の段階(a)は、多能性培地中に単層の多能性幹細胞を提供する段階、および、18時間〜30時間、好ましくは23〜25時間、多能性培地中で該単層を増殖させる段階を含む。
【0017】
別の態様において、上記の方法の段階(a)は、ROCKキナーゼ阻害剤を補給した無血清培地である多能性培地中に単層の多能性幹細胞を提供する段階、および、1日間(24時間)、多能性培地中で該単層を増殖させる段階を含む。別の態様において、上記の方法の段階(a)は、ROCKキナーゼ阻害剤を補給した無血清培地である多能性培地中に単層の多能性幹細胞を提供する段階、および、18時間〜30時間、好ましくは23〜25時間、多能性培地中で該単層を増殖させる段階を含む。
【0018】
本明細書において使用される、「刺激培地」とも示される「刺激に適する培地」とは、内皮細胞に向かう多能性幹細胞の刺激のために有用な任意の化学的に定義された培地を指す。本明細書において使用される際、「刺激培地」とは、β-カテニン(カドヘリン結合タンパク質、β1;ヒト遺伝子名称CTNNB1)経路および/またはWnt受容体シグナル伝達経路および/またはヘッジホッグ(HH)シグナル伝達経路を活性化し、中胚葉の誘導活性を促進する低分子などの、少なくとも1つの因子を含有する培地を指す。刺激培地中でのインキュベーション時に、多能性幹細胞は、経時的に細胞形態を変化させ始め、細胞増殖が増加する。「刺激」段階は、中胚葉移行に関与する特異的な遺伝子およびマーカー(例えば、GATA2、ビメンチン、SMA、HAND1、FOXa2(低発現)、KDR)の発現、ならびに多能性関連遺伝子およびマーカー(例えば、OCT4(POU5F1)、NANOG、SOX2、REX1(ZFP42)、LEFTY1、LEFTY2、TDGF1、DNMT3B、GABRB3、GDF3、TERT)の下方制御により定義される。
【0019】
1つの態様において、β-カテニン(カドヘリン結合タンパク質、β1;ヒト遺伝子名称CTNNB1)経路および/またはWnt受容体シグナル伝達経路および/またはヘッジホッグ(HH)シグナル伝達経路を活性化する前記低分子は、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(Gsk3a-b)の低分子阻害剤、CDC様キナーゼ1(Clk1-2-4)の低分子阻害剤、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ15(Mapk15)の低分子阻害剤、二重特異性チロシン-(Y)-リン酸化調節キナーゼ(Dyrk1a-b 4)の低分子阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ16(Pctk1-3 4)の低分子阻害剤、スムーズンド(Smoothened)(SMO)アクチベーター、ならびに、β-カテニン(またはγ-カテニン)とコアクチベータータンパク質であるCBP(CREB結合タンパク質)およびp300(E1A結合タンパク質p300)との間の相互作用の調節剤からなる群より選択される。
【0020】
好ましくは、前記グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(Gsk3a-b)阻害剤は、ピロリジンジオンベースのGSK3阻害剤である。本明細書において使用される「ピロリジンジオンベースのGSK3阻害剤」は、低いIC
50値を有するGSK3αおよびGSK3βの選択的細胞透過性ATP競合的阻害剤に関連する。
【0021】
1つの態様において、前記ピロリジンジオンベースのGSK3阻害剤は、3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(SB216763)、3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(SB415286)、N
6-{2-[4-(2,4-ジクロロ-フェニル)-5-イミダゾール-1-イル-ピリミジン-2-イルアミノ]-エチル}-3-ニトロ-ピリジン-2,6-ジアミン 2HCl、3-イミダゾ[1,2-a]ピリジン-3-イル-4-[2-(モルホリン-4-カルボニル)-1,2,3,4-テトラヒドロ-[1,4]ジアゼピノ[6,7,1-hi]インドール-7-イル]-ピロール-2,5-ジオン、9-ブロモ-7,12-ジヒドロ-インドロ[3,2-d][1]ベンザゼピン-6(5H)-オン(ケンパウロン)、9-ブロモ-7,12-ジヒドロ-ピリド[3',2':2,3]アゼピノ[4,5-b]インドール-6(5H)-オン(CHIR99021)、および3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン(CP21R7、本明細書において「化合物21」とも呼ばれる;例えば、L. Gong et al; Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 20 (2010), 1693-1696を参照されたい)を含む群から選択される。
【0022】
1つの態様において、前記CDC様キナーゼ1(Clk1-2-4)阻害剤は、ベンゾチアゾールおよび3-フルオロ-N-[1-イソプロピル-6-(1-メチル-ピペリジン-4-イルオキシ)-1,3-ジヒドロ-ベンゾイミダゾール-(2E)-イリデン]-5-(4-メチル-1H-ピラゾール-3-スルホニル)-ベンズアミドを含む群から選択される。
【0023】
1つの態様において、前記マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ15(Mapk15)阻害剤は、4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルフィニルフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール(SB203580)および5-イソキノリンスルホンアミド(H-89)を含む群から選択される。
【0024】
1つの態様において、前記二重特異性チロシン-(Y)-リン酸化調節キナーゼ(Dyrk1a-b 4)阻害剤は、6-[2-アミノ-4-オキソ-4H-チアゾル-(5Z)-イリデンメチル]-4-(テトラヒドロ-ピラン-4-イルオキシ)-キノリン-3-カルボニトリルを含む群から選択される。
【0025】
1つの態様において、前記スムーズンドアクチベーターは、プルモルファミン(2-(1-ナフトキシ)-6-(4-モルホリノアニリノ)-9-シクロヘキシルプリン)である。
【0026】
β-カテニン(またはγ-カテニン)とコアクチベータータンパク質であるCBP(CREB結合タンパク質)およびp300(E1A結合タンパク質p300)との間の相互作用の調節剤の例は、IQ-1(2-(4-アセチル-フェニルアゾ)-2-[3,3-ジメチル-3,4-ジヒドロ-2H-イソキノリン-(1E)-イリデン]-アセトアミド)、およびICG-001((6S,9aS)-6-(4-ヒドロキシ-ベンジル)-8-ナフタレン-1-イルメチル-4,7-ジオキソ-ヘキサヒドロ-ピラジノ[1,2-a]ピリミジン-1-カルボン酸ベンジルアミド)(国際公開公報第2007056593号)である。
【0027】
1つの態様において、前記刺激培地は、インスリン、トランスフェリン、およびプロゲステロンを補給した無血清培地である。1つの態様において、該無血清培地には、10〜50μg/ mlインスリン、10〜100μg/ mlトランスフェリン、および10〜50 nMプロゲステロン、好ましくは、30〜50μg/ mlインスリン、20〜50μg/ mlトランスフェリン、および10〜30 nMプロゲステロンを補給する。刺激に適する無血清培地の例は、N2B27培地(N2B27は、N2およびB27(両方ともGibco由来)を補給したDMEM/F12(Gibco, Paisley, UK)の1:1混合物である)、N3培地(DMEM/F12(Gibco, Paisley, UK)、25μg/ mlインスリン、50μg/ mlトランスフェリン、30 nM亜セレン酸ナトリウム、20 nMプロゲステロン、100 nMプトレッシン(Sigma)から構成される)、またはNeuroCult(登録商標)NS-A Proliferation培地(Stemcell Technologies)である。1つの態様において、前記刺激培地は、インスリン、トランスフェリン、プロゲステロン、ならびに、β-カテニン(カドヘリン関連タンパク質、β1;ヒト遺伝子名称CTNNB1)経路および/またはWnt受容体シグナル伝達経路および/またはヘッジホッグ(HH)シグナル伝達経路を活性化する低分子を補給した無血清培地である。好ましくは、該低分子は、3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(SB216763)、3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン(SB415286)、N
6-{2-[4-(2,4-ジクロロ-フェニル)-5-イミダゾール-1-イル-ピリミジン-2-イルアミノ]-エチル}-3-ニトロ-ピリジン-2,6-ジアミン 2HCl、3-イミダゾ[1,2-a]ピリジン-3-イル-4-[2-(モルホリン-4-カルボニル)-1,2,3,4-テトラヒドロ-[1,4]ジアゼピノ[6,7,1-hi]インドール-7-イル]-ピロール-2,5-ジオン、9-ブロモ-7,12-ジヒドロ-インドロ[3,2-d]-[1]ベンザゼピン-6(5H)-オン(ケンパウロン)、9-ブロモ-7,12-ジヒドロ-ピリド[3',2':2,3]アゼピノ[4,5-b]インドール-6(5H)-オン(CHIR99021)、3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン(CP21R7、本明細書において「化合物21」とも呼ばれる)、ベンゾチアゾール、3-フルオロ-N-[1-イソプロピル-6-(1-メチル-ピペリジン-4-イルオキシ)-1,3-ジヒドロ-ベンゾイミダゾール-(2E)-イリデン]-5-(4-メチル-1H-ピラゾール-3-スルホニル)-ベンズアミド、4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルフィニルフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール(SB203580)、5-イソキノリンスルホンアミド(H-89)、6-[2-アミノ-4-オキソ-4H-チアゾル-(5Z)-イリデンメチル]-4-(テトラヒドロ-ピラン-4-イルオキシ)-キノリン-3-カルボニトリル、2-(1-ナフトキシ)-6-(4-モルホリノアニリノ)-9-シクロヘキシルプリン(プルモルファミン)、2-(4-アセチル-フェニルアゾ)-2-[3,3-ジメチル-3,4-ジヒドロ-2H-イソキノリン-(1E)-イリデン]-アセトアミド(IQ-1)、およびICG-001((6S, 9aS)-6-(4-ヒドロキシ-ベンジル)-8-ナフタレン-1-イルメチル-4,7-ジオキソ-ヘキサヒドロ-ピラジノ[1,2-a]ピリミジン-1-カルボン酸ベンジルアミド)を含む群から選択される。
【0028】
1つの好ましい態様において、刺激培地は、0.5〜4μM CP21R7(3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン)を補給した、10〜50μg/ mlインスリン、10〜100μg/ mlトランスフェリン、および10〜50 nMプロゲステロンを含有する無血清培地である。
【0029】
1つの態様において、前記刺激培地は、組換え骨形成タンパク質-4(BMP4)をさらに含む。
【0030】
1つの好ましい態様において、刺激培地は、0.5〜4μM CP21R7(3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン)および10〜50 ng/ ml組換え骨形成タンパク質-4(BMP4)を補給した、10〜50μg/ mlインスリン、10〜100μg/ mlトランスフェリン、および10〜50 nMプロゲステロンを含有する無血清培地である。
【0031】
1つの態様において、上記の方法の段階(b)は、少なくとも3日間(72時間)、刺激培地中で前記細胞をインキュベートする段階を含む。
【0032】
1つの態様において、上記の方法の段階(b)は、2〜4日間(48時間〜96時間)、刺激培地中で前記細胞をインキュベートする段階を含む。
【0033】
別の態様において、上記の方法の段階(b)は、CP21R7(3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン)を補給した無血清培地である刺激培地中で前記細胞をインキュベートする段階を含む。好ましくは、該刺激培地に、0.5〜4μM CP21R7(3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン)、最も好ましくは1〜2μM CP21R7(3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン)を補給する。
【0034】
1つの態様において、前記刺激培地は、組換え骨形成タンパク質-4(BMP4)をさらに含む。
【0035】
別の態様において、上記の方法の段階(b)は、CP21R7(3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン)を補給した無血清培地である刺激培地中で前記細胞をインキュベートする段階、および、3日間(72時間)、前記細胞をインキュベートする段階を含む。
【0036】
1つの態様において、前記刺激培地は、組換え骨形成タンパク質-4(BMP4)をさらに含む。
【0037】
別の態様において、上記の方法の段階(b)は、CP21R7(3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン)を補給した無血清培地である刺激培地中で前記細胞をインキュベートする段階、および、2〜4日間(48時間〜96時間)、前記細胞を増殖させる段階を含む。
【0038】
1つの態様において、前記刺激培地は、組換え骨形成タンパク質-4(BMP4)をさらに含む。
【0039】
本明細書において使用される「誘導培地」とは、刺激された細胞の、CD144陽性(CD144+)内皮細胞、またはPDGF受容体β陽性(CD140b+)血管平滑筋細胞、または単層上の共通の前駆細胞タイプへの誘導のために有用な、任意の化学的に定義された培地を指す。
【0040】
内皮細胞の優勢な誘導のために、前記誘導培地に、VEGF(=血管内皮増殖因子)または胎盤様増殖因子1(PLGF-1)および低分子アデニラートシクラーゼアクチベーターを補給する。1つの態様において、該低分子アデニラートシクラーゼアクチベーターは、PKA/PKIシグナル伝達経路の活性化をもたらす。1つの態様において、該低分子アデニラートアクチベーターは、フォルスコリン((3R)-(6aαH)ドデカヒドロ)-6β,10α,10bα-トリヒドロキシ-3β,4aβ,7,7,10aβ-ペンタメチル-1-オキソ-3-ビニル-1H-ナフト[2,1-b]ピラン-5β-イルアセタート)、8-ブロモ-cAMP(8-ブロモアデノシン-3',5'-環状一リン酸)、およびアドレノメジュリンを含む群から選択される。1つの態様において、前記誘導培地は、ヒト血清アルブミン、エタノールアミン、トランスフェリン、インスリン、およびヒドロコルチゾンを補給した無血清培地である。誘導に適する無血清培地の例は、StemPro-34(Invitrogen、主成分:ヒト血清アルブミン、Human Ex-Cyte(登録商標)およびエタノールアミンまたはそれらの混合物などの脂質剤、ヒト亜鉛インスリン、ヒドロコルチゾン、鉄飽和トランスフェリン、2-メルカプトエタノール、およびD,L-酢酸トコフェロール、またはそれらの誘導体もしくは混合物)、ならびにX-VIVO 10および15(Lonza)である。
【0041】
1つの態様において、前記誘導培地は、ヒト血清アルブミン、エタノールアミン、トランスフェリン、インスリン、およびヒドロコルチゾン、ならびに、1〜10μMフォルスコリンおよび5〜100 ng/ml VEGF-Aを補給した無血清培地である。別の態様において、誘導培地は、VEGF-A 30〜70 ng/mlまたは胎盤様増殖因子1(PLGF-1)30〜70 ng/mlを補給したStemPro-34(Invitrogen)を含む。
【0042】
1つの態様において、上記の方法の段階(c)は、VEGF-Aまたは胎盤様増殖因子1(PLGF-1)、ならびに、フォルスコリン、8-ブロモ-cAMP、およびアドレノメジュリンの群から選択される低分子アデニラートシクラーゼアクチベーターを補給した誘導培地中で前記刺激された細胞をインキュベートすることにより、内皮細胞への分化を誘導する段階を含む。
【0043】
別の態様において、上記の方法の段階(c)は、1日間、VEGF-Aまたは胎盤様増殖因子1(PLGF-1)および低分子アデニラートシクラーゼアクチベーターを補給した誘導培地中で前記刺激された細胞をインキュベートすることにより、内皮細胞への分化を誘導する段階を含む。
【0044】
別の態様において、上記の方法の段階(c)は、18時間〜48時間、好ましくは22時間〜36時間、VEGF-Aまたは胎盤様増殖因子1(PLGF-1)および低分子アデニラートシクラーゼアクチベーターを補給した誘導培地中で前記刺激された細胞をインキュベートすることにより、内皮細胞への分化を誘導する段階を含む。
【0045】
別の態様において、上記の方法の段階(c)は、1日間、VEGF-Aまたは胎盤様増殖因子1(PLGF-1)、ならびに、フォルスコリン、8-ブロモ-cAMP、およびアドレノメジュリンの群から選択される低分子アデニラートシクラーゼアクチベーターを補給した誘導培地中で前記刺激された細胞を1日間インキュベートすることにより、内皮細胞への分化を誘導する段階を含む。
【0046】
本発明において提示される方法で、最大85%の収率で多能性幹細胞から内皮細胞を分化させることが今や可能である(
図2)。段階(c)の生成物は、細胞培養物においてCD144+細胞として容易に同定することができる。
【0047】
血管平滑筋細胞の優勢な誘導のために、上記の方法の段階(c)は、18〜48時間、好ましくは22〜36時間の、VSMC誘導培地中での前記刺激された細胞のインキュベーションを含む。VSMC誘導培地は、血管平滑筋細胞の形成および生存を増強する増殖因子および/または低分子を補給した、化学的に定義された培地である。
【0048】
1つの態様段階において、誘導培地は、化学的に定義された血清代替培地(SR培地)である。SR培地は、化学的に定義された血清代替物(2〜15%)、例えば、InvitrogenのKnock-out serum replacement、カタログ番号10828028を補給した基礎培地(例えば、RPMI培地、Invitrogen、カタログ番号11835-063、またはDMEM培地)から構成される。それは、安定なグルタミン、非必須アミノ酸、およびβ-メルカプトエタノールをさらに含んでもよい。
【0049】
別の態様において、誘導培地に、1〜5μMの範囲のIWR1(Wnt応答1(Wnt response 1)の阻害剤)を補給する。
【0050】
別の態様において、誘導培地は、2〜20 ng/mlの血小板由来増殖因子(PDGF)シグナル伝達経路のアクチベーター、および2〜10 ng/mlのTGFβシグナル伝達経路のアクチベーターを補給した無血清培地から構成される。PDGFシグナル伝達のアクチベーターの例は、例えば、PDGF-AA、PDGF-BB(例えば、RnD、カタログ番号220-BB)、およびPDGF-ABを含む。TGFβシグナル伝達の1つの例示的なアクチベーターは、アクチビンA(例えば、RnD、カタログ番号338-AC)である。誘導に適する無血清培地の例は、N2B27培地(N2B27は、N2およびB27(両方とも供給元はGibco)を補給したDMEM/F12(Gibco, Paisley, UK)の1:1混合物である)、StemPro-34(Invitrogen、主成分:ヒト血清アルブミン、例えばHuman Ex-Cyte(登録商標)およびエタノールアミンもしくはそれらの混合物などの脂質剤、ヒト亜鉛インスリン、ヒドロコルチゾン、鉄飽和トランスフェリン、2-メルカプトエタノール、ならびにD,L-酢酸トコフェロール、またはそれらの誘導体もしくは混合物)、ならびにX-VIVO 10および15(Lonza)である。好ましい態様において、血管平滑筋細胞の広く行き渡る誘導のために有用な前記無血清培地は、N2B27培地である。
【0051】
別の態様において、誘導培地は、2〜20 ng/mlの血小板由来増殖因子(PDGF)シグナル伝達経路のアクチベーターおよび2〜10 ng/mlのTGFβシグナル伝達経路のアクチベーターを補給した無血清培地から構成され、ヒト血清アルブミン、エタノールアミン、トランスフェリン、インスリン、およびヒドロコルチゾンをさらに含む。
【0052】
別の態様において、上記の方法の段階(c)は、1日間、上記の誘導培地中で前記刺激された細胞をインキュベートすることにより、血管平滑筋細胞への分化を誘導する段階を含む。
【0053】
別の態様において、上記の方法の段階(c)は、18時間〜48時間、好ましくは22時間〜36時間、上記の誘導培地中で前記刺激された細胞をインキュベートすることにより、血管平滑筋細胞への分化を誘導する段階を含む。
【0054】
本発明において提示される方法で、90%の収率で多能性幹細胞から血管平滑筋細胞を分化させることが今や可能である。段階(c)の生成物は、細胞培養物においてCD140b+細胞として容易に同定することができる。
【0055】
さらなる態様において、前記方法は、
(d)内皮細胞または血管平滑筋細胞の増殖に適する条件下で、段階(c)の生成物をインキュベートする段階
をさらに含む。
【0056】
好ましくは、内皮細胞の増殖に適する前記条件は、前記CD144+細胞の収集、および化学的に定義された拡大培地中でのそれらの拡大を含む。本明細書において使用される「収集」とは、酵素による、接着性基材からの細胞の解離、およびその後の新たな培地中での再懸濁に関連する。1つの好ましい態様において、細胞を、収集後に選別する。細胞選別は、当技術分野において公知である方法を通して、例えば、磁気活性化細胞選別(MACS)(
図3)またはフローサイトメトリー活性化細胞選別(FACS)分離により達成することができる。本明細書において使用される「拡大培地」とは、単層上でのCD144+内皮細胞の拡大および継代のために有用な、任意の化学的に定義された培地を指す。1つの態様において、該拡大培地は、VEGF-Aを補給した無血清培地である。内皮細胞の拡大に適する無血清培地の例は、8ng/ml FGF-2、50 ng/ml VEGF、および10μM SB431542(4-(4-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-5-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンズアミド)を補給したStemPro-34(Invitrogen)、EGM2(Lonza)、およびDMEM/F12(Invitrogen)である。好ましくは、内皮細胞を、接着培養条件において培養する。1つの態様において、拡大培地に、5〜100 ng/ml VEGF-Aを補給する。別の態様において、拡大培地は、5〜100 ng/ml VEGF-Aを補給したStemPro-34である。
【0057】
本明細書において記載される方法により得られる内皮細胞は、いくつかの継代にわたって拡大することができ、培養は十分に特徴決定されている。本明細書において記載される方法により得られる内皮細胞のアリコートを、再現性良く凍結および解凍することが可能である。
【0058】
好ましくは、VSMCの増殖のための前記条件は、前記CD140b+細胞の収集、および化学的に定義された拡大培地中でのそれらの拡大を含む。本明細書において使用される「収集」とは、酵素による、接着性基材からの細胞の解離、およびその後の新たな培地中での再懸濁に関連する。1つの好ましい態様において、細胞を、収集後に、CD140b+ VSMCについてのポジティブセレクションまたはCD144+内皮細胞の除去のいずれかにより選別する。細胞選別は、当技術分野において公知である方法を通して、例えば、磁気活性化細胞選別(MACS)(
図3)またはフローサイトメトリー活性化細胞選別(FACS)分離により達成することができる。本明細書において使用される「拡大培地」とは、単層上でのCD140b+ VSMCの拡大および継代のために有用な、任意の化学的に定義された培地を指す。1つの態様において、該拡大培地は、記載されたVSMC誘導培地と同一である。別の態様において、拡大培地は、EGF(5〜20ng/ml)およびFGF2(5〜20ng/ml)を補給した無血清培地である。VSMCの拡大に適する無血清培地の例は、StemPro-34(Invitrogen)、DMEM/F12(Invitrogen)、およびDMEM(Invitrogen)、または前記のN2B27である。別の態様において、拡大培地は、前記SR培地である。好ましくは、VSMCを、接着培養条件において培養する。
【0059】
本明細書において記載される方法により得られるVSMCは、いくつかの継代にわたって拡大することができ、培養は十分に特徴決定されている。
【0060】
本発明の1つの態様において、患者特異的または健康な個体特異的な血管床細胞を生成するための方法が提供される。この目的に向けて、患者または健康な個体から得られたヒト人工多能性幹細胞(iPSC)を、本明細書において記載される方法中で使用する。該患者特異的ヒトiPSCは、患者または健康な個体から得られた体細胞をリプログラミングして多能性幹細胞にすることによって、当技術分野において公知である方法により得ることができる。例えば、繊維芽細胞、ケラチノサイト、または脂肪細胞を、処置を必要とする個体から、または健康な個体から皮膚生検によって取得し、当技術分野において公知である方法によりリプログラミングして人工多能性幹細胞にしてもよい。人工多能性幹細胞の供給源として適する他の体細胞は、血液試料から得られる白血球細胞、または尿試料から得られる上皮細胞もしくは他の細胞である。患者特異的な人工多能性幹細胞を、次に、本明細書において記載される方法により、患者特異的または健康な個体特異的な内皮細胞または血管平滑筋細胞へ分化させる。本発明の別の局面において、前述の方法のいずれかにより産生される内皮細胞または血管平滑筋細胞の集団が提供される。好ましくは、内皮細胞または血管平滑筋細胞の集団は、患者特異的、すなわち、罹患個体から得られたiPSCに由来する。別の態様において、内皮細胞または血管平滑筋細胞の該集団は、健康な個体から得られる。
【0061】
患者由来の内皮細胞および血管平滑筋細胞は、2型および1型糖尿病、メタボリック症候群、および重症の肥満などの疾患についての血管合併症の病態生理を研究するための疾患関連インビトロモデルを提示する。1つの態様において、本方法により得られる内皮細胞および/または血管平滑筋細胞を、内皮細胞の機能不全によって引き起こされる血管合併症、例えば、2型および1型糖尿病、メタボリック症候群、重症の肥満、高コレステロール血症、高血圧症、冠状動脈疾患、腎症、網膜症、腎不全、組織虚血、慢性低酸素症、アテローム性動脈硬化症、および薬物誘導毒性が原因の組織浮腫によって引き起こされる血管合併症を逆転、阻害、または予防する化合物のスクリーニングのために使用する。好ましくは、本明細書において記載される本発明の方法により得られる該内皮細胞および/または血管平滑筋細胞は、罹患対象に由来する。別の態様において、本方法により得られる内皮細胞および/または血管平滑筋細胞を、薬物誘導性組織浮腫のスクリーニングおよび評定のために使用する。好ましくは、本明細書において記載される本発明の方法により得られる該内皮細胞および/または血管平滑筋細胞は、特異体質薬物誘導性組織浮腫による影響を受けた個体に由来する。罹患対象から内皮細胞および/または血管平滑筋細胞を分化させることは、ヒト背景パラダイムにおいて薬物安全性を早期に評定する無比の機会を提示する。別の態様において、本方法により得られる内皮細胞を、血液脳障壁のインビトロモデルとして使用する。
【0062】
本発明は、両方とも異種を含まない条件で得られた、患者特異的な血管床細胞、または移植に適する同一のHLA型を有する健康な個体由来の適合細胞を供給するための、高効率の方法を提供する。「異種を含まない培養条件」とは、ヒトおよび組換え起源の成分のみを含有する、培地および付着用の基材を指す。従って、異種病原体(xenopathogen)での汚染の危険性が回避され、内皮細胞は、再生医療における使用のために安全である。本明細書において記載される方法を用いた、患者特異的な人工多能性幹細胞(iPSC)の患者特異的な内皮細胞および/または血管平滑筋細胞の分化は、自己供給源の内皮細胞および血管平滑筋細胞を生成するための、容易に利用できかつ再現性を有する技術を提示する。細胞療法における自己細胞および/または適合細胞の使用は、免疫学的拒絶の対象となる可能性が高い非自己細胞の使用を上回る大きな利点をもたらす。対照的に、自己細胞は、有意な免疫学的応答を誘発する可能性が低い。
【0063】
本発明のさらなる好ましい局面において、患者特異的な内皮細胞および/または血管平滑筋細胞のバイオバンクの作製が想定される。1つの態様において、健康な個体および/または患者から得られた内皮細胞および/または血管平滑筋細胞の様々な集団を含むバイオバンクが作製される。本明細書において使用される「バイオバンク」という用語は、様々な個体または種から採取された生物学的試料のライブラリを意味する。検体および関連データの保管された収集物は、血管合併症と関連する疾患に対処することを目指す研究目的が意図される。別の態様において、該バイオバンクは、血管再生医療アプローチのために使用される。
【0064】
別の局面において、本発明は、前述の方法のいずれかにより産生される内皮細胞および/または血管平滑筋細胞を含むか、または前述の細胞集団のいずれかを含む治療用組成物を提供する。好ましくは、治療用組成物は、例えば、5%ヒト血清アルブミンを伴うリン酸緩衝生理食塩水を含む、生理学的に適合性の溶液をさらに含む。該治療用組成物を、例えば、2型および1型糖尿病、メタボリック症候群、重症の肥満、高コレステロール血症、高血圧症、冠状動脈疾患、腎症、網膜症、腎不全、組織虚血、慢性低酸素症、アテローム性動脈硬化症、および薬物誘導毒性が原因の組織浮腫によって引き起こされる血管合併症などの、血管合併症と関連する疾患を処置、予防、もしくは安定化するため、卒中後の機能を回復するため、または因子を血中に分泌する担体として、使用することができる。例えば、繊維芽細胞、ケラチノサイト、または脂肪細胞を、処置を必要とする個体から、または健康な個体から皮膚生検によって取得し、当技術分野において公知である方法("Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors." Takahashi et al., 2007, Cell 131, 861-72)によりリプログラミングして人工多能性幹細胞にしてもよい。人工多能性幹細胞の供給源として適する他の体細胞は、血液試料から得られる白血球細胞、または尿試料から得られる上皮細胞もしくは他の細胞である。患者特異的な人工多能性幹細胞を、その後、本明細書において記載される方法により内皮細胞へ分化させ、収集し、個体に導入して状態を処置する。本発明の方法により産生される内皮細胞および/または血管平滑筋細胞は、罹患組織または損傷した組織の正常な機能を置換するかまたは補助するために使用されてもよい。
【0065】
本発明の別の態様は、血管合併症と関連する疾患の治療のための、内皮細胞および/または血管平滑筋細胞のバイオバンクの使用である。バイオバンクは、好ましくは、患者またはいくつかのHLA型を有する健康な個体から得られた内皮細胞および/または血管平滑筋細胞を含む。健康なドナーから得られた細胞を適合性HLA型を有する処置を必要とする個体に移植することは、異種細胞移植に通常付随する拒絶反応の有意な問題を除去する。従来、拒絶は、シクロスポリンなどの免疫抑制剤または抗拒絶薬物の投与により、予防または低減される。しかしながら、そのような薬物は、有意な有害副作用、例えば、免疫抑制、発癌特性、腎毒性を有し、かつ非常に高価である。本発明は、シクロスポリン、imulan、FK-506、グルココルチコイド、およびラパマイシン、ならびにそれらの誘導体などの抗拒絶薬物の必要性を排除するか、または少なくとも有意に低減する。
【0066】
本発明の治療法に関しては、哺乳動物への内皮細胞および/または血管平滑筋細胞の投与が、特定の投与の様式、投薬量、または投薬の頻度に限定されることは意図されず;本発明は、筋肉内、静脈内、関節内、病変内、皮下、または疾患を予防もしくは処置するために妥当な用量を提供するのに十分な任意の他の経路を含む、すべての投与の様式を企図する。内皮細胞および/または血管平滑筋細胞を、単一用量または複数用量で哺乳動物に投与してもよい。複数用量を投与する時、用量と用量との間を、例えば、1週間、1か月、1年、または10年空けてもよい。細胞を特定の細胞タイプに向けてさらに偏らせるために、1つまたは複数の増殖因子、ホルモン、インターロイキン、サイトカイン、低分子、または他の細胞も、細胞の投与の前、間、または後に投与してもよい。
【0067】
本明細書において使用される際、「分化させる」、「分化」という用語は、より分化していない細胞を体細胞へ変換するため、例えば、多能性幹細胞を血管床細胞へ変換するための、1つまたは複数の段階を指す。多能性幹細胞の血管床細胞、すなわち内皮細胞および/または血管平滑筋細胞への分化は、本明細書において記載される方法により達成される。
【0068】
本明細書において使用される「幹細胞」という用語は、自己複製のための能力を有する細胞を指す。本明細書において使用される「未分化幹細胞」とは、多様な範囲の細胞タイプへ分化する能力を有する幹細胞を指す。本明細書において使用される際、本明細書において使用される「多能性幹細胞」とは、複数の細胞タイプの細胞を生じさせ得る幹細胞を指す。多能性幹細胞(PSC)は、ヒト胚性幹細胞(hESC)およびヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)を含む。ヒト人工多能性幹細胞は、当技術分野において公知である方法により、例えば、4種の定義された因子(Sox2、Oct4、Klf4、c-Myc)の導入によりリプログラミングされた体細胞に由来し得る。該ヒト体細胞は、健康な個体から、または患者から取得することができる。これらのドナー細胞は、任意の適当な供給源から容易に取得することができる。ヒトの身体に対する侵襲性手順無しでドナー細胞の単離を可能にする供給源、例えば、ヒト皮膚細胞、血液細胞、または尿試料から取得可能な細胞が、本明細書において好ましい。ヒト多能性幹細胞が好ましいが、方法はまた、霊長類、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、ウサギ)、およびイヌ多能性幹細胞などの、非ヒト多能性幹細胞にも応用可能である。
【0069】
本明細書において使用される際、「血管床細胞」とは、インビボで血管を形成する細胞である。血管は、内皮細胞により形成される脈管内膜層と名付けられる内層、および平滑筋細胞により形成される中膜と呼ばれる隣接層から成る。血管床細胞の例は、内皮細胞(CD144+)および血管平滑筋細胞(CD140b+)である。
【0070】
本明細書において使用される際、「内皮細胞」とは、特異的な表面マーカーCD144(分化抗原群(Cluster of Differentiation)144、カドヘリン5、2型、または血管内皮(VE)-カドヘリンとしても公知である、公式記号CDH5)を発現し、かつ内皮細胞の特徴、すなわち、毛細血管様管の形成、ならびに、CD31(分化抗原群31、公式記号PECAM1)、vWF(フォン・ウィルブランド因子、公式記号VWF)、CD34(分化抗原群34、公式記号CD34)、CD105(分化抗原群105、公式記号ENG)、CD146(分化抗原群34、公式記号MCAM)、およびVEGFR-2(キナーゼ挿入ドメイン受容体(III型受容体チロシンキナーゼ)、公式記号KDR)の群から選択される1つまたは複数のさらなる表面マーカーの発現を保有する細胞である。
【0071】
本明細書において使用される際、「血管平滑筋細胞」とは、特異的な表面マーカーCD140b(分化抗原群140b、PDGF受容体βとしても公知である)を発現し、かつ血管平滑筋細胞の特徴、すなわち、収縮性および/または分泌機能、ならびに、SMA(α-平滑筋アクチン)、SM22α、平滑筋ミオシン重鎖、CRBP1、およびSmembの群から選択される1つまたは複数のさらなるタンパク質の発現を保有する細胞である。本明細書において使用される際、「血管合併症と関連する疾患」は、内皮細胞および/または血管平滑筋細胞の傷害、活性化、または機能不全によって引き起こされる任意の疾患に関連する。血管合併症と関連する疾患についての例は、2型および1型糖尿病、メタボリック症候群、重症の肥満、高コレステロール血症、高血圧症、冠状動脈疾患、腎症、網膜症、腎不全、組織虚血、慢性低酸素症、アテローム性動脈硬化症、および薬物誘導毒性が原因の組織浮腫である。
[本発明1001]
以下の段階を含む、多能性幹細胞を血管床細胞へ分化させるための方法:
(a)多能性培地中に単層の多能性幹細胞を提供する段階、
(b)グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(Gsk3a-b)の低分子阻害剤、CDC様キナーゼ1(Clk1-2-4)の低分子阻害剤、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ15(Mapk15)の低分子阻害剤、二重特異性チロシン-(Y)-リン酸化調節キナーゼ(Dyrk1a-b 4)の低分子阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ16(Pctk1-3 4)の低分子阻害剤、スムーズンド(Smoothened)(SMO)アクチベーター、ならびに、β-カテニン(またはγ-カテニン)とコアクチベータータンパク質であるCBP(CREB結合タンパク質)およびp300(E1A結合タンパク質p300)との間の相互作用の調節剤の群より選択される、β-カテニンおよび/またはWntシグナル伝達および/またはヘッジホッグ(HH)シグナル伝達を活性化する低分子を補給した刺激培地中で前記細胞をインキュベートする段階、
(c)誘導培地中で前記刺激された細胞をインキュベートすることにより、分化を誘導する段階。
[本発明1002]
多能性幹細胞を内皮細胞へ分化させるための、本発明1001の方法。
[本発明1003]
多能性幹細胞を血管平滑筋細胞へ分化させるための、本発明1001の方法。
[本発明1004]
段階(a)が、18時間〜30時間、多能性培地中で前記細胞をインキュベートする段階をさらに含む、本発明1001〜1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
段階(b)が、2〜4日間、刺激培地中で前記細胞をインキュベートする段階をさらに含む、本発明1001〜1004のいずれかの方法。
[本発明1006]
段階(c)が、18時間〜48時間、誘導培地中で前記細胞をインキュベートする段階をさらに含む、本発明1001〜1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
段階(a)の多能性培地が、タンパク質キナーゼのRho結合コイルドコイル形成タンパク質セリン/スレオニンキナーゼファミリーの阻害剤(ROCKキナーゼ阻害剤)を補給した無血清培地である、本発明1001〜1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
ROCKキナーゼ阻害剤が、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン、N-ベンジル-2-(ピリミジン-4-イルアミノ)チアゾール-4-カルボキサミド、および(+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロ-ヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリドの群から選択される、本発明1007の方法。
[本発明1009]
段階(b)の刺激培地が、インスリン、トランスフェリン、およびプロゲステロンを補給した無血清培地である、本発明1001〜1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
段階(b)のβ-カテニンおよび/またはWntシグナル伝達および/またはヘッジホッグ(HH)シグナル伝達を活性化する低分子が、3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオンである、本発明1001〜1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
段階(b)の刺激培地が、組換え骨形成タンパク質-4(BMP4)をさらに含む、本発明1001〜1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
誘導培地が、VEGF-A(血管内皮増殖因子)または胎盤様増殖因子1(PLGF-1)および低分子アデニラートシクラーゼアクチベーターを補給した無血清培地である、本発明1001〜1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
低分子アデニラートアクチベーターが、フォルスコリン((3R)-(6aαH)ドデカヒドロ-6β,10α,10bα-トリヒドロキシ-3β,4aβ,7,7,10aβ-ペンタメチル-1-オキソ-3-ビニル-1H-ナフト[2,1-b]ピラン-5β-イルアセタート)、8-ブロモ-cAMP(8-ブロモアデノシン-3',5'-環状一リン酸)、およびアドレノメジュリンを含む群から選択される、本発明1012の方法。
[本発明1014]
誘導培地が、TGFβシグナル伝達およびPDGFシグナル伝達のアクチベーターを補給した血清代替培地または無血清培地である、本発明1001〜1011のいずれかの方法。
[本発明1015]
多能性幹細胞が人工多能性幹細胞である、本発明1001〜1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
人工多能性幹細胞がヒト細胞である、本発明1015の方法。
[本発明1017]
人工多能性幹細胞が、血管合併症と関連した疾患を患う対象から得られたものである、本発明1015または1016の方法。
[本発明1018]
(d)内皮細胞または血管平滑筋細胞の増殖に適する条件下で、段階(c)の生成物をインキュベートする段階
をさらに含む、本発明1001〜1017のいずれかの方法。
[本発明1019]
本発明1001〜1018のいずれかの方法により得られた、内皮細胞または血管平滑筋細胞。
[本発明1020]
本発明1001〜1018のいずれかの方法により得られた内皮細胞または血管平滑筋細胞の、バイオバンク。
[本発明1021]
血管合併症と関連した疾患のためのインビトロモデルとしての、本発明1001〜1018のいずれかの方法により得られた、または本発明1020のバイオバンクの、内皮細胞または血管平滑筋細胞の使用。
[本発明1022]
本発明1001〜1018のいずれかの方法により得られた、または本発明1020のバイオバンクの内皮細胞を含む、治療用組成物。
[本発明1023]
本質的に本明細書において記載されるような、方法および使用。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【
図1】ヒト多能性幹細胞(PSC)を内皮細胞CD144+へ分化させるための方法の概略図。0日目:ヒトPSCを酵素により解離させ、多能性培地(Y27631 10μMを含むmTeSR2)中で35000細胞/cm
2の濃度を用いて、プレコーティングしたマトリゲルプレート上にプレーティングした。1日目:新鮮な刺激培地(化合物21(CP21R7)2μMを含むN2B27)で培地交換。4日目:新鮮な誘導培地(フォルスコリン5μMおよびVEGF-A 50 ng/mlを含むStemPro-34)で培地交換。5日目に、CD144+内皮細胞が示され、さらなる拡大のためにMACSにより選別する。
【
図2】(a):画像ベースのハイコンテントアナリシス(HCA)によるCD144+幹細胞由来の内皮細胞の定量化。ヒト胚性幹細胞を、単層条件において様々な低分子と共に分化させた。上および中間のパネル:1日目に様々な化合物を含む刺激培地;4日目に誘導培地+VEGF-A 50 ng/ml。担体N2B27単独(上のパネル、左);刺激培地に添加したWnt3a 150 ng/ml(上のパネル、右);刺激培地に添加したSB216763 6μM(中央のパネル、左)、刺激培地に添加したCHIR 9902 2μM(中央のパネル、右)。下のパネル:1日目に2μM化合物21(CP21R7)を含む刺激培地;4日目に誘導培地+VEGF-A 50 ng/ml(下のパネル、左)および4日目に誘導培地+VEGF-A 50 ng/ml+フォルスコリン5μM(下のパネル、右)。DAPI(細胞核)CD144(膜染色)。(b):定量化グラフ:CD144+陽性細胞のパーセント。
【
図3】多能性幹細胞由来のCD144+内皮細胞のフローサイトメトリー解析。単層条件において(刺激培地2μM CP21R7、誘導培地VEGF-A 50 ng/mlおよびフォルスコリン5μM)分化させた内皮細胞を、MACS選別の前および後にCD144+発現について解析した。MACS選別前は32.5% CD144+内皮細胞、MACS選別後は96.5% CD144+内皮細胞。
【
図4】血管新生アッセイにおける管形成。hESCおよびhiPSCを単層条件において分化させ(刺激培地2μM CP21R7、誘導培地VEGF-A 50 ng/mlおよびフォルスコリン5μM)、MACS選別後に、血管新生アッセイにおいて管形成を試験した。管構造を有するウェルの到達範囲:hESC由来の内皮細胞は90%、hiPSC由来の内皮細胞は80%(定量化グラフ)。管構造の代表的な写真:hESC由来の内皮細胞(左の写真)、hiPSC由来の内皮細胞(右の写真)。
【
図5】選別後の単層で分化させたhPSC由来の内皮細胞の特徴決定。hESCおよびhiPSCを単層条件において分化させ(刺激培地2μM CP21R7、誘導培地VEGF-A 50ng/mlおよびフォルスコリン5μM)、MACS選別後に、免疫細胞化学解析およびフローサイトメトリー解析により、内皮細胞マーカーであるCD31、vWF、CD144、VEGFR-2(KDR)の発現について試験した。定量化グラフ:hESC由来の内皮細胞(黒色のバー)、hiPSC由来の内皮細胞(黒色と白色のバー)。代表的な写真、CD31/vWF/DAPI免疫細胞化学:hiPSC由来の内皮細胞(左の写真)、hESC由来の内皮細胞(右の写真)。
【
図6】hESCを内皮細胞CD144+へ分化させるためのBIO対CP21R7の直接比較。hESCを、単層条件において並行して、BIOについてまたは化合物21(CP21R7)について1日目に異なる濃度(0μM、0.5μM、1μM、2μM)を担体培地N2B27に対する補給物として使用し、その後4日目にすべての条件について誘導培地VEGF-A 50ng/mlおよびフォルスコリン5μMで、分化させた。0.5μMのBIOを使用して、CD144の最大発現(5%)に到達することができ、他の濃度は細胞にとって毒性であった。CP21R7は、CD144発現に関して明らかな用量反応を示し(最大35%)、試験した濃度において任意の毒性を示した。
【
図7】冷凍保存したPSC由来の内皮細胞の生存率。1×10
6個のhESC由来の内皮細胞を、CD144発現についてのMACS選別後5日目に冷凍保存した。8×10
5個のhESC由来の内皮細胞(全凍結細胞数の80%)が、解凍後に生存していた。
【
図8】内皮細胞分化法の再現性。6日目でのCD144+幹細胞由来の内皮細胞のフローサイトメトリーによる定量化。2種のヒト胚性幹細胞系(CellartisのSA001およびSA167)ならびに2種の人工多能性幹細胞系(SBI System bioscienceおよびLife technologies)を分化させ、その平均効率は60〜80%の間のCD144+内皮細胞であった。
【
図9】分化における時間の経過にわたる、マーカーOct4(多能性)、ブラキュリ(Brachyury)/T(全中胚葉)、CD31およびCD144(内皮細胞)の発現解析。多能性幹細胞は、刺激培地中で分化して(2〜4日目)、Oct4を失い(白色のバー)、かつブラキュリ/T(灰色のバー)発現を得ることにより、中胚葉前駆細胞になる。EC誘導培地での培地交換時に(4日目)、中胚葉前駆細胞はさらに分化して内皮細胞になり、CD31(濃い灰色のバー)およびCD144(黒色のバー)発現を上方制御する。これらの知見は、全ゲノム発現プロファイリングにより確認された(データは示されていない)。
【
図10】分化法の5日目での内皮細胞特異的(CD31)および血管平滑筋細胞特異的(CD140b)マーカー発現のフローサイトメトリー解析。最初に刺激培地で、その後EC誘導培地(VEGF 200 ng/mlおよびフォルスコリン2μMを含むStemPro-34)またはVCMC誘導培地(10% Knockout Serum Replacementを含むRPMI)のいずれかで分化させた細胞の、EC(黒色のバー)およびVSMC(灰色のバー)の比率をここに示す。ECおよびVSMCの比率は、分化システムの微調整により調節することができ、内皮細胞(約70%)または血管平滑筋細胞(約90%)のいずれかへ優勢に、分化系列決定をシフトすることが可能になる。
【
図11】ヒト多能性幹細胞(PSC)を内皮細胞(A)または血管平滑筋細胞(B)へ分化させるための方法の概略図。0日目から4日目まで、両方の標的細胞用のプロトコルは同一である。0日目:ヒトPSCを酵素により解離させ、多能性培地(Y27631 10μMを含むTeSR2)中で35000細胞/cm
2の濃度を用いて、プレコーティングしたマトリゲルプレート上にプレーティングした。1日目:新鮮な刺激培地(化合物21(CP21R7)1μMおよび組換え骨形成タンパク質-4(BMP4)25ng/mlを含むN2B27)で培地交換。(A)4日目:内皮細胞用の新鮮なEC誘導培地(フォルスコリン2μMおよび200 ng/ml VEGFを含むStemPro-34)で培地交換。6日目に、内皮細胞(CD144+)をMACS調製により精製する。選別した内皮細胞をプレコーティングしたフィブロネクチンプレート上にプレーティングし、EC拡大培地(50ng/ml VEGFを含むStemPro-34)中で維持する。(B)4日目、血管平滑筋細胞(VSMC)用の新鮮なVSMC誘導培地(10% Knockout Serum Replacementを含むRPMI)で培地交換。6日目に、細胞を酵素により解離させ、VSMC拡大培地(EGF 10ng/mlおよびFGF2 10ng/mlを含むRPMI)中でプレコーティングしたフィブロネクチンプレート上にプレーティングする。
【
図12】SC由来のECの特徴決定。MACSで精製したCD144+細胞をコンフルエントになるまで増殖させ、その後フローサイトメトリーにより解析した。細胞は、全体的な内皮特異的発現パターン;CD31、CD34、CD105、CD144、CD146、KDR、vWF(フォン・ウィルブランド因子)について陽性、ならびに造血幹細胞系列マーカーCD43およびCD45について陰性、を保有する。
【
図13】血管床細胞の細胞相互作用アッセイ。初代ヒト脳周皮細胞(血管平滑筋細胞)および幹細胞由来の内皮細胞を、管形成アッセイにおいて共培養する。周皮細胞は、SC由来のECにより形成された管様構造に結合した。周皮細胞の播種した数の94%が、SC由来の内皮細胞の周りに整列するか、または巻きついた(定量化グラフ)。
【
図14】アセチル化低密度リポタンパク質(Ac-LDL)の細胞取込みアッセイ。内部移行を、蛍光体結合C(AlexaFluor594- AlexaFluor594)の使用によりモニタリングした。インキュベーション後、SC由来のECの98%が、増殖培地から蛍光体結合Ac-LDLを内部移行した(定量化グラフ)。
【
図15】炎症誘発性サイトカイン応答アッセイ。SC由来のECは、炎症誘発性サイトカイン投与時に、ICAM1およびE-セレクチンなどの接着分子の発現を上方制御する。細胞ベースELISAを使用して、1 nM TNFαに対する応答におけるSC由来の内皮細胞の活性化を測定した。ICAM1およびE-セレクチンは両方とも、有意に上方制御された(定量化グラフ)。
【
図16】白血球-内皮接着アッセイ。活性化された内皮細胞は、白血球の動員のための接着分子を提示する。1 nM TNFαに対する応答を、カルセインで染色したHL60細胞をSC由来のECと共培養することにより研究した。HL60細胞の内皮細胞への接着を、蛍光強度を測定することにより定量化した。HL60白血球の動員は、SC由来のECをTNF-αで刺激した時に有意に増強された(定量化グラフ)。
【
図17】スクラッチアッセイ。SC由来のVSMCの壁細胞特性を、遊走/創傷治癒において確かめた。時間と共にSC由来のVCMCは、遊離の単一細胞として創傷の端へ伸長した(写真パネル)。スクラッチの幅を4つの異なる点(0、6、24、および30時間)で測定し、平均値を使用してスクラッチ閉鎖を判定した(定量化グラフ)。
【
図19】化合物選択。ヒトPA-1レポーター細胞におけるTCF/LEFレポーターアッセイ(DeAlmeida et al., 2007)。示された濃度のGSk3阻害剤でのレポーター細胞の処置後に、β-カテニン媒介TCF/LEF転写活性をルシフェラーゼ活性として測定した。化合物Cp21R7は、3μMの濃度で最高のルシフェラーゼ活性を誘導した。
【発明を実施するための形態】
【0073】
材料および方法
細胞培養:
多能性培地:Y27632 ROCKキナーゼ阻害剤(市販、例えば、Tocris bioscienceのカタログ番号:1254)を補給したTeSR2。
【0074】
刺激培地:ピロリジンジオンベースのGSK3阻害剤である化合物21(CP21R7)を補給したN2B27(N2B27は、N2およびB27(両方とも供給元はGibco)を補給したDMEM/F12(Gibco, Paisley, UK)の1:1混合物である)。
【0075】
CP21R7:3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン(本明細書において「化合物21」とも呼ばれる;例えば、L. Gong et al; Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 20 (2010), 1693-1696を参照されたい)。
【0076】
内皮細胞誘導培地:フォルスコリンおよびVEGF-Aを補給したStemPro-34 SFM(Invitrogen)。
【0077】
内皮細胞拡大培地:VEGF-Aを補給したStemPro-34(Invitrogen)。
【0078】
VSMC誘導培地:10% Knockout Serum Replacement(Invitrogen)を補給したRPMI培地1640(Invitrogen)。
【0079】
VSMC拡大培地:10% Knockout Serum Replacement(Invitrogen)およびEGFおよびFGF-2を補給したRPMI培地1640(Invitrogen)。
【0080】
ヒトESC:SA001、ロットCA001は、2001年3月20日に、Goteborg UniversityおよびCellartis AB Arvid Wallgrens Backe 20, SE-413 46 Goteborg, SWEDENで単離され、スウェーデンにおけるすべての適用可能な法律に従い、かつGoteborg UniversityおよびUppsala UniversityのLocal Research Ethics Committeeにより承認されている。胚供給源:IVF由来の凍結余剰分。ドナー機密性:ドナーのプライバシーおよび機密性を保護するため、胚のドナーと関連するすべての識別名は除去されている。従って、ドナーについての情報は何も利用できない。特に、寄付は、ドナーのためにいかなる金銭的な利得も生じなかった。
【0081】
ヒトiPSC:SBI System Biosciencesのカタログ番号:SC101A-1、ロット番号110218-FF/Life technologies Gibco(登録商標)Episomal hiPSC Lineのカタログ番号:A13777。
【0082】
hESCからのヒト血管床細胞の派生。本発明者らは、hESCを扱う仕事をすること、ならびに様々な細胞系(例えば:血管床細胞、心筋細胞、肝細胞、および脂肪細胞)を派生させることの承認を受けている。担当の倫理委員会(Ethikkommission beider Basel)およびFederal office of public healthが、本発明者らの研究プロジェクトを承認している。(Ref-No: R-FP-S-1-0002-0000)。
【0083】
プロトコル:
ヒト多能性幹細胞は慣例的に、TeSR2培地(Stem cell Technologies)中でhESC-qualified Matrigel(BD Bioscience)上で培養する。培養物を、StemPro Accutase(Invitrogen)を用いて4〜6日毎に継代する。生存率の増大のために、酵素による解離の1時間前に、TeSR2培地に10μM ROCK阻害剤を補給する。
【0084】
1.多能性幹細胞の血管床細胞への分化のための方法
(i)PSCの付着および刺激:StemPro Accutase(Invitrogen)を用いるhPSCコロニーの酵素による解離の前に、細胞を1時間、10μM ROCK阻害剤Y27632と共にプレインキュベートする。cm
2あたり35.000個の単一hPSCを、10μM ROCK阻害剤を補給したTeSR2培地中で、増殖因子を低減させMatrigel(BD bioscience)でコーティングした細胞培養プレート上にプレーティングする。1日目に、付着培地を(a)2μM化合物21(CP21R7)または(b)1μM化合物21(CP21R7)および25 ng/ml BMP4(R&D Systems)を補給したN2B27(Gibco)培地に交換する。培地交換せずにさらに3日間、細胞を培養する。
【0085】
(ii)ECの誘導:4日目に、刺激培地を(a)50 ng/ml VEGFおよび5μMフォルスコリンまたは(b)200 ng/ml VEGFおよび2μMフォルスコリンを補給したStemPro-34 SFM培地(Invitrogen)と置換する。5日目に、誘導培地を取り除き、細胞をCD144+細胞のMACS分離に使用する。
【0086】
2.MACS精製
全プロトコルの間、細胞を低温に保ち、あらかじめ冷却した溶液を使用した。培地を廃棄した後、細胞を5 ml PBS(Ca
2+およびMg
2+を含まない)で洗浄した。次に、細胞を2〜4分間37℃で、3 mlのあらかじめ温めたStemPro Accutase(Invitrogen)中でインキュベートした。細胞を穏やかに上下へピペッティングすることにより、3 mlのStemPro-34培地(Invitrogen)に再懸濁した。細胞数および生存率を、トリパンブルーで対比染色することにより判定した。
【0087】
細胞をその後、1000 rpmで4分間遠心分離した。細胞をMACS緩衝液(PBS中0.5% BSA+2mM EDTA)に再懸濁し、1×10
6細胞あたり20μlのα-CD144-PE抗体(BD bioscience)を添加し、15分間4℃でインキュベートした。8 ml StemPro-34培地の添加後、細胞を1000 rpmで4分間遠心分離した。細胞沈殿物をMACS緩衝液(PBS中0.5% BSA+2mM EDTA)に再懸濁し、1×10
7細胞あたり100μlの抗PEマイクロビーズ(Miltenyie Biotech)を添加し、15分間4℃でインキュベートした。次に、8 ml StemPro-34培地を添加し、細胞を1000 rpmで4分間遠心分離した。細胞をStemPro-34培地LS(mlあたり1×10
7まで)に再懸濁し、細胞懸濁液を濾過した。次に、懸濁液をPre-Separationfilters 30μm(Miltenyi Biotech)を用いて濾過した。LSカラム(Miltenyi Biotech)を、3 ml StemPro-34培地でリンスすることによりあらかじめ調製した。濾過した細胞懸濁液をカラムにアプライし(カラムあたり約1×10
7細胞)、カラムを3 ml StemPro-34培地で3回洗浄した。細胞を、5 ml StemPro-34培地+50ng/ml VEGF(Preprotech)を用いて溶出した。細胞を、ヒトフィブロネクチン(BD Bioscience)でコーティングした組織培養ディッシュ上に播種した。
【0088】
図2は、1日目に様々な低分子を刺激培地に添加し;かつ4日目に誘導培地+VEGF-A 50 ng/mlに交換した、CD144陽性幹細胞由来の内皮細胞の定量化を示す。刺激培地N2B27単独では、核領域面積の0.5%がCD144陽性であり;刺激培地に添加したWnt3a 150 ng/mlは、0.8% CD144+細胞を結果として生じ;刺激培地に添加したSB216763 6μMは、0.5% CD144+細胞を結果として生じ;刺激培地に添加したCHIR9902 2μMは、14.6% CD144+細胞を結果として生じ;刺激培地に添加した2μM化合物21(CP21R7)は、40.2% CD144+細胞を結果として生じ、ならびに、刺激培地に添加した2μM化合物21(CP21R7)に加えた、誘導培地へのフォルスコリン5μMの添加、4日目誘導培地+VEGF-A 50 ng/ml(下のパネル、左)および4日目誘導培地は、54.6% CD144+細胞を結果として生じた。
【0089】
図4は、hESCおよびhiPSCから分化した細胞が、毛細血管様管構成体を形成できることを示す(hESC由来:90%/hiPSC由来:80%)。
【0090】
図5は、hESCおよびhiPSCから分化した細胞が、CD31、vWF、CD144、VEGFR-2について陽性であり、かつ従って内皮細胞として適格であることを示す。
【0091】
図6は、先行技術の方法(Tatsumi et al)と本発明の方法との比較を示す。Tatsumi et alの方法は、N2B27への補給物として様々な濃度のBIO阻害剤を使用する。Tatsumi et al.は、多能性幹細胞が約20%の効率で内皮細胞へ分化した(表面マーカーCD144を発現する内皮細胞により判定された)と記載しているが、本発明者らはそのような結果を再現できなかった。さらに、BIO阻害剤の強力な細胞毒性が、既に1μMの濃度で観察された。
【0092】
1μM CPと共に25 ng/ml BMP4を伴う刺激段階(ii)、および2μMフォルスコリンと共に200 ng/ml VEGFを伴う誘導段階(iii)の連続的な補給は、迅速に、6日目に細胞の最大85%においてCD144発現を誘導した。分化プロトコルの全体的な堅牢性および再現性が、様々なヒトESCおよびiPSC系において観察された(
図8)。
【0093】
創薬プログラムおよび臨床応用のための高度に機能的な内皮細胞の派生は、多数の品質管理された細胞集団を必要とする。この点に対処するために、磁気活性化細胞選別(MACS)を使用して、細胞をCD144
+およびCD144
-細胞分画に分離した。陽性標識された細胞の高ストリンジェント単離のために設計された分離設定を用いて、CD144
+細胞の、95%よりも高い純度が達成された(
図20)。
【0094】
3.冷凍保存プロトコル:
1×10
6細胞を1 ml冷凍保存培地(90% FBSおよび10% DMSO)に懸濁し、冷凍バイアル中に移す。-80℃で保存する時に-1℃/分の冷却速度を達成するように、冷凍バイアルをNalgene Cryo 1℃ Freezing Containerに置く。凍結容器を-80℃で24時間保存する。長期保存のためには、細胞をその後、液体窒素中に移す。
【0095】
図7は、冷凍保存したPSC由来のECの8×10
5個(全凍結細胞数の80%)が、解凍後に生存していることを示す。解凍した細胞の大多数が一晩でフィブロネクチンでコーティングしたディッシュに付着し、次の日には接着して増殖する。非常にわずかな浮遊(死)細胞しか観察されない。冷凍保存したPSC-ECの純度および同一性は、内皮特異的マーカー発現(CD31、CD34、CD144、KDR)に関して維持されていた。
【0096】
(表1)多能性幹細胞の内皮細胞への分化のための方法の再現性
【0097】
4.GSK3βの薬理学的阻害による内皮誘導
最も広く使用される市販のGSK3β阻害剤およびCP21R7の、ヒトPA-1レポーター細胞においてβ-カテニン媒介TCF/LEF転写を活性化する可能性(DeAlmeida et al., 2007)を評定した。使用した化合物を
図18に示す。用量反応アッセイにより、最も強力なGSK3阻害剤のすべて、すなわち、CP21R7(CP)、6-ブロモインジルビン-3'-オキシム(BIO)、CB36155、およびCHIR-99021(CHIR)は、協同的結合を示唆する、急勾配の活性化曲線を呈することが明らかになった(
図19)。改変されていないPA-1細胞を使用して、ATPレベルを介して細胞生存率を測定し、GLI-ルシフェラーゼ応答性レポーターPA-1細胞をカウンタースクリーンとして、全般的な転写活性における変化をモニタリングする。全体的に解析したGsk3β阻害剤は、全般的な転写活性において有意でない上昇を示した(データは示されていない)。BIOの処置でGLI媒介ルシフェラーゼ活性において3倍の増加が観察され、BIOは10μMの濃度で非常に毒性であった(データは示されていない)。CB361549およびCB361556(MeBIO)ならびにフォルスコリン(陰性対照)は、ルシフェラーゼ発現を誘導しなかった。CPの濃度依存的投与により、3μMで最高のルシフェラーゼ活性を有するベル形曲線が明らかになった。566倍増加したルシフェラーゼ活性の最高値は、細胞増殖の少なめの増加および全般的な転写活性の軽微な増大のみを伴った。以前に記載されたGSK3β阻害剤SB216763の濃度依存的投与は、無視可能なβ-カテニン媒介TCF/LEFルシフェラーゼ発現を結果として生じた。β-カテニンレポーターアッセイの結果に基づき、3種のGSk3β阻害剤、すなわちBIO、CHIR、およびCPを、ヒトPSCの血管分化系列決定を駆動する可能性のため利用した。列挙した阻害剤に加えて、そのCPに対する構造類似性のために、SB216763(SB)を含める(
図18を参照されたい)。多能性幹細胞を、上記の1(i)および(ii)で概説したように、(i)Rhoキナーゼ阻害剤であるY-27632を補給したmTeSR1培地上で単一細胞としてプレーティングし(Watanabe et al., 2007);(ii)刺激培地(GSK3β阻害剤を補給したN2B27培地)中でインキュベートし、かつ(iii)誘導培地(血管内皮増殖因子(VEGF;Sumi et al., 2008)を補給したStemPro SFM 34培地)中でインキュベートした。
【0098】
以下のGSK3阻害剤を使用した:
CHIR99021 GSK3阻害剤:Merck Millipore、カタログ番号:361559
SB216763 GSK3阻害剤:Merck Millipore、カタログ番号:361566
BIO GSK3阻害剤:Merck Millipore、カタログ番号:3 361550
CP21R7:3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン(本明細書において「化合物21」とも呼ばれる;例えば、L. Gong et al; Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 20 (2010), 1693-1696を参照されたい)。
【0099】
血管床細胞への増殖は、5日目に検出された。血管同一性を、血管内皮カドヘリン(VE-カドヘリン)の発現により確認する。血管床細胞を誘導する能力を、5日目のVE-カドヘリン(CD144)発現により判定した(
図19)。フローサイトメトリー解析により、CPがはるかに最も強力なGSK3β阻害剤であると特定された。濃度依存的処置により、急勾配を有するベル形曲線が結果として生じ、TCF/LEF-ルシフェラーゼレポーターアッセイの以前の知見を確認した。著しく、最大35%の細胞が、1μMの最適濃度で5日目以降CD144を発現した。小化合物BIOは、単一細胞に対して毒性であるように見られた(データは示されていない)。CPよりも分岐した化学構造を有するCHIRも、6μMで最適に達する放物線状曲線でCD144発現を誘導した。TCF/LEF-ルシフェラーゼレポーターアッセイと一致して、SBを分化プラットフォームに投与した後にCD144発現は観察されなかった(
図19)。SBおよびCPは同一の化学的バックボーンを共有するが、分岐部分が化学的特性、例えば、細胞透過性または溶解性に影響を及ぼし得る。担体で処置した細胞において、VE-カドヘリン発現は検出されなかった(
図19)。
【0100】
5.分化動態
WNT/β-カテニンシグナル伝達は、原始線条形成を誘導する基礎となる(Tam and Loebel, 2007)。この理由で、中胚葉前駆細胞の一時的な出現を解析した。ゲノム全般にわたる遺伝子発現解析により、CPおよびBMP4の組み合わされた処置24時間で、NANOG、UTF1、およびSOX2などの多能性マーカーが下方制御されることが明らかになった(データは示されていない)。代表的なマーカー:MIXL1、T/ブラキュリ、FGF4、およびEOMESの上方制御により、細胞分化系列決定が同一の時間枠内で中胚葉に向けられていることが示された。分化の経過において、神経外胚葉および内胚葉と整合するマーカーの上昇した遺伝子発現は観察されなかった(データは示されていない)。内胚葉形成の開始についてのマーカーである遺伝子SOX17は、5日目以降に高発現した。この知見は、発生途中および成体の脈管構造におけるSOX17のインビボ発現パターンと一致する(Engert et al., 2009)。ESX1およびSOX7などの関連遺伝子が検出されなかったように、栄養外肺葉または内蔵内胚葉への分化系列決定は観察されなかった(データは示されていない)。
【0101】
SOX17、OCT4、T-ブラキュリ、PECAM-1、およびVE-カドヘリンの免疫染色は、トランスクリプトームデータを支持する(
図9に定量化が示される)。全中胚葉マーカーであるT-ブラキュリのタンパク質発現は、中間PS様細胞期を確認する。CPおよびBMP4での処置は、1日後に迅速にT-ブラキュリ発現を誘導した。細胞の大部分は、3日目にT-ブラキュリのピークの発現に達した。4日目に発現は減少して消滅し、それによりその特異的な胚性発現パターンを模倣した(Tam and Loebel, 2007)。多能性の消失は、OCT4発現の時間依存的低下によりモニタリングした。CP21単独でのGSK3βの薬理学的阻害は、PSCを3日目にSOX17
+細胞の白と黒が入り混じった染色パターンへ分化させ;他方、CPおよびBMP4の組み合わされた適用は、内胚葉SOX17
+細胞の出現を妨害した(
図9)。内皮細胞同一性の誘導は、血小板-内皮細胞接着分子-1(PECAM1)およびVE-カドヘリンの共発現により判定した。内皮マーカー発現は、4日目のVEGFの投与時に検出された(
図9)。この知見は、内皮マーカーであるCD34、PECAM1、CDH5、およびvWFのトランスクリプトーム解析により完結され、それらはそれぞれ、VEGFで最初の24時間以内に100倍より大きく上方制御された(データは示されていない)。本発明者らの分化システムにより、原始線条細胞の一過性出現を通して5日以内に内皮細胞のハイスループットの派生が可能になる。
【0102】
6.PSCのVSMCへの分化のためのプロトコル
上記の分化プロトコルを使用した時、VEGFを補給したStemPro培地中へ選別されていない細胞を移した後に、2種の別個の細胞集団が出現した。細胞タイプは、形態およびマーカー発現により異なった。密接な細胞間接触を有する丸石様細胞は、内皮特異的マーカーであるVE-カドヘリンを発現した。平坦かつ紡錘体様形状の細胞は、平滑筋アクチン(αSMA)について陽性染色であり、血管平滑筋細胞(VSMC)同一性を示した。フローサイトメトリー解析において、細胞は、CD31
+/CD140
-細胞の多量分画およびCD31
-/CD140b
+細胞の微量分画に分離した(
図10)。
【0103】
0.5μM IWR(Wnt応答化合物1の阻害剤)を含むRPMI培地による、段階(ii)の誘導培地の置換により、CD31
+/CD140b
-およびCD31
-/CD140b
+細胞の逆転した分布が結果として生じた。
【0104】
適合した分化システムは、最大90%の細胞においてPDGFRβ発現を誘導した。SM22aおよびαSMAの免疫染色により、CD31
-/CD140b
+細胞のVSMC同一性が確認された(
図10)。
【0105】
この新たなプロトコルで、内皮細胞または血管平滑筋細胞のいずれかを優勢に誘導することが今や可能である。異なるプロトコルの概要を
図11に示す。
【0106】
MACSで精製したCD144
+細胞のさらなる特徴決定により、内皮表現型が保証された。CD144
+細胞は、均一な丸石様形態を有し、内皮特異的発現パターン;CD31、CD34、CD105、CD146、KDR、PECAM1、VE-カドヘリン、vWF(フォン・ウィルブランド因子)、ZO1(密着帯(zona occludens)1)について陽性、ならびに造血幹細胞系列マーカーCD43およびCD45について陰性、を提示する(
図12)。幹細胞由来のEC(SC由来のEC)は、少なくとも5継代までは増殖能力を依然として有し、ID1およびc-Kitについて陽性染色であり、細胞の前駆型状態を示す(データは示されていない)。CD144
+の精製した細胞をコンフルエントになるまで培養し、その後冷凍保存した。幹細胞由来の内皮細胞のバンクは、創薬推進事業に必要とされるハイスループットのアプローチに適用可能である。
【0107】
7.幹細胞由来の血管床細胞の機能的特徴決定
Ac-LDL-取込み:細胞を、Molecular Probes/Invitrogenの2.5μg/mL Alexa Fluor 594アセチル化低密度リポタンパク質(AlexaFluor594-Ac-LDL)を含有する培地中で4時間、37℃でインキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、4% PFAで10分間固定した。Alexaflor594-Ac-LDLの取り込みを、蛍光顕微鏡で可視化した。
【0108】
周皮細胞結合アッセイ:ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)を、ScienCell Research Laboratoriesから購入した。HBVPを、周皮細胞培地(ScienCell Research Laboratories)中で増殖させた。機能的管形成および結合アッセイのために、SC-ECおよびHBVPを、AMS biotechnologyのインビトロ血管新生キットを用いて増殖させた。機能的アッセイのための播種の直前に、InvitrogenのCell Tracker色素を用いて製造業者の指示書に従い、HBVPを赤色に染色し、SC-ECを緑色に染色した。機能的アッセイのために、同数(2×104/cm2)の両方の細胞タイプを、EC拡大培地(VEGFを含むStemPro-34)中で増殖させた。
【0109】
細胞ベースELISAプロトコル:20 000個の幹細胞由来の内皮細胞/ウェルを96ウェルプレート上に播種し、2日間EGM-2培地(Lonza)中でコンフルエントになるまで培養した。培地を、1 nM TNFα(R&D Systems)を補給したEGM-2培地と交換した。24時間のインキュベーション後、SC由来のECを短時間PBSで洗浄し、PFAで固定した。ヒト抗ICAMおよび抗E-セレクチンの一次抗体を、R&D Systemsから購入した。二次抗体として抗マウスIgG/ビオチン化(Amersham)、およびストレプトアビジン/ペルオキシダーゼ複合体(Amersham)を使用した。発光を、マイクロプレートリーダーにおいて定量化した。
【0110】
白血球接着アッセイ:2×10
4個の幹細胞由来の内皮細胞/ウェルを96ウェルプレート上に播種し、2日間EGM-2培地(Lonza)中でコンフルエントになるまで培養した。培地を、1 nM TNFα(R&D Systems)を補給したEGM-2培地と交換した。SC由来のECを、4時間TNFαで刺激した。その後、1.5×10
5個のカルセインで標識したHL60細胞を各96ウェルに添加した。1時間のインキュベーション後、培地を除去し、Sc-ECをPBSで洗浄した。プレートを、1% NP-40界面活性剤溶液で15分間溶解した。上清をoptiplate中に移し、蛍光をマイクロプレートリーダーにおいて測定した。
【0111】
HL60白血球(Collins et al., 1977; Nature, 270, 347)は、10%FCSを含むRPMI-1640培地(Invitrogen)中で増殖させた。
【0112】
内皮表現型をより深く定義するために、血管新生潜在能力である、DiIアセチル化低密度リポタンパク質(DiI-ac-LDL)を取込む能力を評価し、障壁機能の動的調節をモニタリングした。管形成アッセイのために、SC由来のECをMatrigelマトリクス上に播種した。
【0113】
SC由来のECは、参照内皮細胞と同様のパターンを有するネットワーク様構造を迅速に形成した(データは示されていない)。
【0114】
スルフォラファンおよび抗VEGFモノクローナル抗体などの血管新生阻害剤の処置により、管形成がかき乱され、結節の数および管の長さが低減する(データは示されていない)。興味深いことに、SC由来のECと壁との細胞相互作用が、それ自身を、高度に組織化された管様構造に自己配置した。
【0115】
ヒト脳血管周皮細胞(HBVP)は、管構造に寄与するSC由来のECに主として結合した。HBVP細胞は、管の周りにその細胞体を巻きつけることによりSC由来の内皮細胞を包むように見られた(
図13)。HBVP単独では、Matrigelマトリクス上に管構造を形成することができない。SC由来のECの存在または血小板由来増殖因子(PDGF)の添加のいずれかが、血管壁細胞の管形成を指示するために必要とされる(データは示されていない)。SC由来のVSMCを壁細胞供給源として使用した時に、同様の自己配置が観察された(データは示されていない)。SC由来のVSMCの壁細胞特性はまた、遊走/創傷治癒アッセイにおいて確信され、SC由来のVCMCが遊離の単一細胞として創傷の端へ伸長した(Gottlieb and Spector, 1981)(データは示されていない)。
【0116】
単層形成、およびトロンビンにより誘導される透過性、その後続く障壁回復の動的モニタリングは、xCeLLigence RT-CAシステムで測定した(Atienza et al., 2006; Solly et al., 2004)。システムは、SC由来のECの密度依存的増殖および生存率の無標識リアルタイムモニタリングを提供する。ECと微小電極との相互作用が、細胞数および形態ならびに細胞付着の密接性に比例するインピーダンスにおける変化をもたらす(Atienza et al., 2006)。本発明者らのデータは、ログ増殖期後、SC由来のECが、数日間大きな変動なく取得できるプラトーに達することを示す(データは示されていない)。SC由来のECは、最初の付着、延展、および増殖後、VE-カドヘリン、およびとりわけ密着結合/接着結合タンパク質を通した動的方式で互いと相互作用することにより、密接な単層を達成した(データは示されていない)。観察されるSC由来のECの血管作用剤トロンビンに対する迅速かつ可逆的な効果は、細胞円形化および内皮間の間隙形成に付随する(データは示されていない)。内皮細胞のトロンビン刺激は、VE-カドヘリンおよび結合カテニンの一過性変化を引き起こし(Marie-Josephe et al., 1996)、透過性特性の可逆的破壊を結果として生じる(データは示されていない)。SC由来のECは、管様構造および密接な単層を形成することとは別に、増殖培地からDiI-Ac-LDLを取り込む(
図14)。全体的にSC由来のECは、行われたインビトロアッセイにおいて内皮様機能性を呈する。
【0117】
8.SC由来のECの炎症誘発性サイトカインに対する機能的応答
炎症誘発性刺激に対する応答において、ECは、細胞内接着分子-1(ICAM1)およびE-セレクチンを含む細胞接着分子(CAM)を発現する。活性化されたECは、CAMを介して白血球を捕捉し、炎症の部位へそれらを繋ぎ止めることが可能である(Rao et al., 2007;Galkina et al., 2007)。血管炎症は、アテローム班形成の開始および進行において中心的な役割を果たす(Losis, 2000)。
【0118】
分化システムが真正のECを生成するか否かを判定するために、SC由来のECを炎症誘発性サイトカインでチャレンジし、免疫細胞遊走のエフェクターの活性化された発現について解析した。免疫蛍光解析は、TNF-α処置時のICAM1の発現の増加を明らかに示した(
図15)。さらに、フローサイトメトリーにより、TNF-αおよびIL-1β刺激時にICAM1およびE-セレクチンの存在を確認した(
図16)。HLA-ABC発現が、炎症誘発性サイトカインに対する全般的かつ細胞タイプ非特異的な応答を解析するための対照としての役割を果たした。また、細胞ベースELISAを行って、TNF-αに対して用量反応のICAM1およびE-セレクチンの活性化を測定した。SC由来のECは、初代ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)に匹敵する発現レベルでICAM1およびE-セレクチンを提示する(データは示されていない)。次に、HL60白血球との共培養においてSC由来のECを用いて、活性化されたSC由来のECの接着分子が生物学的機能を呈するか否かを調査した。HL60白血球の接着は、SC由来のECがTNF-αで刺激された時に有意に増強されたことが判明した(
図16)。接着が特異的に媒介されるか否かを評価するために、SC-ECを抗ICAMモノクローナル抗体で共処置した。実際に、ICAM1の阻害は、濃度依存的様式でHL60の接着を妨害することができた(
図16)。HUVECと共に静的接着アッセイを行って、抗ICAM1抗体処置により阻害され得る、内皮特異的特性としてのHL60白血球接着を確認した(データは示されていない)。
【0119】
スクラッチアッセイ:幹細胞由来の血管平滑筋細胞(SC由来のVSMC)を、コンフルエントになるまで増殖させた。200μlピペットチップを用いて、VSMC単層のスクラッチを取り除いた。スクラッチ後にスクラッチ閉鎖を判定するために、同一領域の画像を撮影した。