特許第6124912号(P6124912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6124912病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌を検出するための培地および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6124912
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌を検出するための培地および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20170424BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   C12N1/20 A
   C12Q1/04
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-542888(P2014-542888)
(86)(22)【出願日】2012年11月28日
(65)【公表番号】特表2014-533517(P2014-533517A)
(43)【公表日】2014年12月15日
(86)【国際出願番号】EP2012073802
(87)【国際公開番号】WO2013079513
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2015年10月15日
(31)【優先権主張番号】1160876
(32)【優先日】2011年11月28日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】501358161
【氏名又は名称】ランバック、アラン
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ランバック、 アラン
【審査官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−514902(JP,A)
【文献】 特表2008−529514(JP,A)
【文献】 特表2002−513288(JP,A)
【文献】 米国特許第05447849(US,A)
【文献】 特開昭63−141600(JP,A)
【文献】 Weagant, S.D.,A new chromogenic agar medium for detection of potentially virulent Yersinia enterocolitica,J Microbiol Methods,2008年,Vol.72, No.2,pp.185-190
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
C12Q 1/00−3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出しようとする細菌の増殖に必要な栄養分、および
少なくとも1種のアセチルグルコサミニダーゼの色素産生剤基質
を含む、病原性エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)細菌の検出のための培養培地。
【請求項2】
アセチルグルコサミニダーゼの色素産生剤基質がインドキシル-β-グルコサミニドである、請求項1記載の培地。
【請求項3】
インドキシル-β-グルコサミニドが、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-N-アセチル-β-D-グルコサミニドおよび6-クロロ-3-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニドおよび6-フルオロ-インドキシル-N-アセチル-β-D-グルコサミニドからなる群より選択され、好ましくは5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-N-アセチル-β-D-グルコサミニドである、請求項2記載の培地。
【請求項4】
β-グルコシダーゼの色素産生剤基質をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の培地。
【請求項5】
β-グルコシダーゼの色素産生剤基質が5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-グルコシドである、請求項4記載の培地。
【請求項6】
ゲロース培養培地である、請求項1〜5のいずれか一項記載の培養培地。
【請求項7】
0.01〜0.5 g/l、好ましくは0.05〜0.2 g/lの間の濃度でアセチルグルコサミニダーゼの色素産生剤基質を含む、請求項1〜6のいずれか一項記載の培養培地。
【請求項8】
0.01〜0.5 g/lの間、好ましくは0.05〜0.2 g/lの間の濃度でβ-グルコシダーゼの色素産生剤基質を含む、請求項4〜7のいずれか一項記載の培養培地。
【請求項9】
5-クロロ-2-(2,4-ジクロロフェノキシ)フェノールを含む、請求項1〜8のいずれか一項記載の培養培地。
【請求項10】
以下の連続的な工程を含む、試料中の病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌の直接検出のための方法:
a)前記請求項のいずれか一項記載のように定義された培養培地に該試料を接種する工程、
b)病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌の増殖を促す条件下で、該培養培地をインキュベーションする工程、および
c)病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌に対応する、該培養培地上に形成されたコロニーを検出する工程。
【請求項11】
病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌の直接検出および区別のための、請求項1〜9のいずれか一項記載のように定義された培養培地の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のアセチルグルコサミニダーゼの色素産生剤基質を含む、病原性エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)細菌の検出のための培養培地、そのような培地を用いる検出法、および病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌の検出のためのそのような培地の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
エルシニア属(Yersinia)は、動物およびヒトにとって病原性の株を含有する3種、すなわち、エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis)、エルシニア・エンテロコリチカ、およびエルシニア・シュードツベルクローシス(Yersinia pseudotuberculosis)、ならびに通常非病原性である種、エルシニア・フレデリクセニイ(Yersinia frederiksenii)、エルシニア・クリステンセニイ(Yersinia kristensenii)、エルシニア・インターメディア(Yersinia intermedia)、エルシニア・アルドバーエ(Yersinia aldovae)、エルシニア・モラレッティイ(Yersinia mollaretii)、エルシニア・ベルコビエリ(Yersinia bercovieri)、およびエルシニア・ローデイ(Yersinia rodhei)から現在構成されている、腸内細菌である。
【0003】
エルシニア・エンテロコリチカは、全腸炎の原因である。これは通常小児において報告されており、その症候は、下痢、発熱、腹痛、および時に嘔吐である。
【0004】
エルシニア属についての研究は、多くの培養培地の開発をもたらしている。特に病原性の特徴を保存するため、発現して保存するために通常30℃の温度でインキュベーションされるこれらの培地は、例えば、カルシウム欠乏培地上での増殖の低減、およびこの種にとって異常である37℃のより高い温度でのクリスタルバイオレットによるより強い発色を同定することによる、病原性株を特徴決定するための方法の開発をもたらしている。
【0005】
先行技術による分離培地は、エルシニア属を検出するための、pHの変化および有色指示薬により明らかとなるマンニトールの特徴を用いるCIN寒天培地(Schiemann DA, Synthesis of a selective agar medium for Yersinia enterocolitica, Can. J Microbiol., 1979(非特許文献1))、pHの変化および有色指示薬により明らかとなるセロビオースの特徴を用いるCAL寒天培地(Dudley et al., Medium for isolation of Yersinia enterocolitica, Journal of Clinical Biology, 1979(非特許文献2))を含む。
【0006】
さらに、コロニーの周囲の黒色ハロー拡散により非病原体を識別するエスクリンの特徴を用いるVYE寒天培地も産生されている(Fukushima, New Selective Agar Medium for Isolation of Virulent Yersinia enterocolitica, Journal of Clinical Biology, 1987(非特許文献3))。Weagantは、マンニトールをセロビオースに置き換え、X-グルコシド(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイル-β-D-グルコピラノシド)を添加することにより、CIN寒天に由来する培地を開発している(Weagant, A new chromogenic agar medium for detection of potentially virulent Yersinia enterocolitica, Elsevier, 2008(非特許文献4))。
【0007】
Garcia-Aguayoらは、β-ガラクトシダーゼの特徴を用いる5-ブロモ 6-クロロ-3-インドキシル-β-ガラクトシドを有するキシロース-ガラクトシダーゼ培地を1999年に開発した(Garcia-Aguayo et al., Evaluation of Xylose-Galactosidase Medium, a new Plate for the Isolation of Salmonella, Shigella, Yersinia and Aeromonas Species, Eur J Clin Microbio Infect Dis., Volume 18, 1999(非特許文献5))。
【0008】
しかしながら、そのような培地は、十分な感度を与えることができず、かつまた、結果の信頼性を限定する偽陽性をもたらす。
【0009】
従って、エルシニア・エンテロコリチカの異なる病原性株間を迅速に区別する一方で、食品および/もしくは病院の衛生を試験するために、試験をできる限り単純化して、迅速にかつ大量に行うことができるように、または自動化さえできるように、良好な感度および良好な特異性および特に使いやすさを組み合わせた、これらの細菌の検出のためのツールおよび方法を有することが重要である。
【0010】
従って、結果を得るために必要な時間を増大させ、かつ寄生虫の汚染または誤りの危険性、および細菌の拡散の危険性を増大させるいくつかの試験の組み合わせを回避する一方で、病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌の異なる株を区別することができる、より単純な、より特異的な、より直接的な、かつより安価な検出技術を有することに実際的な必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Shiemann DA, Synthesis of a selective agar medium for Yersinia enterocolitica, Can. J Microbiol., 1979
【非特許文献2】Dudley et al., Medium for isolation of Yersinia enterocolitica, Journal of Clinical Biology, 1979
【非特許文献3】Fukushima, New Selective Agar Medium for Isolation of Virulent Yersinia enterocolitica, Journal of Clinical Biology, 1987
【非特許文献4】Weagant, A new chromogenic agar medium for detection of potentially virulent Yersinia enterocolitica, Elsevier, 2008
【非特許文献5】Garcia-Aguayo et al., Evaluation of Xylose-Galactosidase Medium, a new Plate for the Isolation of Salmonella, Shigella, Yersinia and Aeromonas Species, Eur J Clin Microbio Infect Dis., Volume 18, 1999
【発明の概要】
【0012】
インドキシル-β-ガラクトシドを含む培地を試験した。エルシニア・エンテロコリチカの発色が観察されているが、それはゆっくり起こる。また、非常に多数のエルシニア属ではない種の株上でも発色した。
【0013】
驚くべきことに、かつ予想外に、本発明者は、ヘキソサミニダーゼ、および特にアセチルグルコサミニダーゼの色素産生基質の使用により、病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌を迅速に、感度よく、かつ特異的に単離することが可能になることを実証した。特に、本発明者により開発された検出法は、固体ゲロース培地上で用いると、例えば、食品試料からまたは患者から、この試料中に存在する異なる株を単離する予備的な工程を必要とすることなく、直接行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従って、本発明の1つの目的は、病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌の検出のための培養培地であって、検出しようとする細菌の増殖に必要な栄養分、および少なくとも1種のアセチルグルコサミニダーゼの色素産生剤基質を含む、培養培地である。
【0015】
「培養培地」とは、検出しようとする細菌の増殖を可能にする培地を意味する。培養培地は、検出しようとする細菌の増殖に必要な栄養分を提供する。
【0016】
「病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌」とは、バイオタイプ1B、2、3、4、および5からなる群より選択されるバイオタイプを有するエルシニア・エンテロコリチカ細菌を意味する。バイオタイプ1Aのエルシニア・エンテロコリチカはよく見られ、ヒトおよび動物にとって病原性とは認識されていない。
【0017】
「検出しようとする細菌の増殖に必要な栄養分」とは、増殖のために必要な基本培地の組成を意味する。当業者は、そのような培地の組成を完全に熟知しており、必要であれば、特定の微生物の特異性または本発明のいくつかの場合に関連し得る制約(例えば培地の透明度)に従ってそれを適合させることができるであろう。これらの栄養分は、特に、炭素、窒素、硫黄、リン、ビタミン、増殖誘導物質、炭水化物、塩(例えば、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ナトリウム、カリウム)、栄養複合体(例えば、アミノ酸、血液、血清、アルブミン)、ならびにペプトン、ならびに動物および植物組織由来の抽出物を含む群から選択される。
【0018】
本発明の目的で使用される培養培地は、固体形態、半固体形態、液体形態、または凍結乾燥形態であってもよい。好ましくは、培養培地は、例えば寒天に基づき得るゲロース培地である。使用され得る培養培地の外見は、微生物がその上で発生するペトリ皿を含む。
【0019】
「色素産生剤」または「色素産生基質」とは、特異的酵素による加水分解後に放出される発色団を保持する化合物を指す。このように放出される発色団は、該酵素を含むコロニーにその色を与える。好ましくは、発色団基質は、沈殿発色団である。
【0020】
本発明によると、アセチルグルコサミニダーゼとは、加水分解によりN-アセチル-D-グルコサミン残基を放出することができる酵素を指す。
【0021】
色素産生基質は、好ましくは、0.01〜0.5 g/lの間、好ましくは0.05〜0.2 g/lの間の濃度で使用される。1つの特に好ましい濃度は、約0.1 g/lである。
【0022】
好ましくは、発色団は、インドキシルの誘導体、ハロゲノ-インドキシル(ブロモ-インドキシル、クロロ-インドキシル、フルオロ-インドキシル、ヨウド-インドキシル、ジクロロ-インドキシル、クロロ-ブロモ-インドキシル、トリ-クロロ-インドキシル)、メチル-インドキシル、およびヒドロキシ-キノリンからなる群より選択される。特に好ましい誘導体は、以下の誘導体からなる群より選択される:6-クロロ-インドキシル、5-ブロモ-インドキシル、3-ブロモ-インドキシル、6-フルオロ-インドキシル、5-ヨウド-インドキシル、4,6-ジクロロ-インドキシル、6,7-ジクロロ-インドキシル、5-ブロモ-4-クロロ-インドキシル、5-ブロモ-6-クロロ-インドキシル、4,6,7-トリクロロ-インドキシル、N-メチル-インドキシル、および8-ヒドロキシ-キノリン。
【0023】
有利には、アセチルグルコサミニダーゼの色素産生基質は、好ましくは、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、6-クロロ-3-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、および6-フルオロ-インドキシル-N-アセチル-β-D-グルコサミニドからなる群より選択されるインドキシル-β-グルコサミニドであり、より好ましくは、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-N-アセチル-β-D-グルコサミニドである。
【0024】
あるいは、アセチルグルコサミニダーゼは、その色素産生基質として、インドリル-β-グルコサミニド、好ましくは5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニドを用いる。
【0025】
1つの特に好ましい態様において、本発明による培地は、β-グルコシダーゼの色素産生剤基質をさらに含み、好ましくは、色素産生剤は、アセチルグルコサミニダーゼの色素産生剤基質の加水分解後に放出され得る発色団とは別個の色を有する発色団を加水分解後に放出する。
【0026】
好ましくは、β-グルコシダーゼの色素産生剤基質は、本発明による培地中のアセチルグルコサミニダーゼの色素産生剤基質が、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、6-クロロ-3-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、および6-フルオロ-インドキシル-N-アセチル-β-D-グルコサミニドからなる群より選択される時、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-グルコシド(X-グルコシドとも呼ばれる)である。
【0027】
好ましくは、β-グルコシダーゼの色素産生剤基質は、本発明による培地中のアセチルグルコサミニダーゼの色素産生剤基質が5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニドである時、8-ヒドロキシ-キノリン-β-D-グルコシド(X-グルコシドとも呼ばれる)である。
【0028】
β-グルコシダーゼの色素産生剤基質は、好ましくは、0.01から0.5 g/lまで、好ましくは0.05から0.2 g/lまで変動する濃度で使用される。1つの特に好ましい濃度は、約0.1 g/lである。
【0029】
1つの特に好ましい態様において、本発明による培地は、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-N-アセチル-β-D-グルコサミニドおよび5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-グルコシドを含む。
【0030】
当業者は、一般的な知識および以下の実施例において記載される結果に基づいて、本発明による培地中の色原体の有効量を容易に調整するであろう。
【0031】
本発明による培養培地は、場合により、1種またはいくつかの抗微生物剤、特に、1種またはいくつかの抗生物質および1種またはいくつかの抗真菌剤を含有してもよい。
【0032】
抗微生物剤は、検出しようとする少なくとも1種の特定の微生物以外の微生物の増殖を制限することができる。
【0033】
使用されるべき抗微生物剤の有効量は、当業者が一般的な知識に基づいて単純に決定することができる。
【0034】
有利には、本発明による培地は、イルガサン(Irgasan)をさらに含む。
【0035】
本発明によると、イルガサンとは、5-クロロ-2-(2,4-ジクロロフェノキシ)フェノールの式を有する化合物(CAS番号:3380-34-5)を指す。
【0036】
好ましくは、本発明による培地は、5-クロロ-2-(2,4-ジクロロフェノキシ)フェノールを、0.0005〜0.01 g/lの間、好ましくは0.001〜0.005 g/lの間、好ましくは0.001〜0.003 g/lの間、さらにより好ましくは約0.002 g/lの濃度で含む。
【0037】
本発明の別の局面は、生物学的試料中の病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌の直接検出のための、以下の連続的な工程を含む方法に関する:
a)上記で定義された培養培地に該試料を接種する工程、
b)病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌の増殖を促す条件下で、該培養培地をインキュベーションする工程、および
c)病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌に対応する、該培養培地上に形成されたコロニーを検出する工程。
【0038】
有利には、本発明による方法は、特定の細菌の株が存在するか否かを、形成されたコロニーの色に応じて結論づけるための工程d)をさらに含む。その結果、これは、前記試料中の病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌を同定するための工程d)である。
【0039】
「生物学的試料」とは、例えば、食品材料の採取試料(乳製品、肉など)、土壌の採取試料、哺乳動物、好ましくはヒトについての採取試料(皮膚、粘膜など)、または、そのような試料に由来する前培養などのその誘導体の1つのような、任意のタイプの微生物学的試料を意味する。
【0040】
有利には、生物学的試料は、唾液、血液、もしくは尿などの液体生物学的試料、大便もしくは食物製品などの固体生物学的試料、または、そのような液体もしくは固体生物学的試料の前培養などの液体もしくは固体生物学的試料の誘導体である。
【0041】
また有利には、生物学的試料は、別個の種またはさらに別個の属に属してもよい異なる微生物を含む。例えば、生物学的試料は、少なくとも2種の異なる微生物、好ましくは少なくとも5種の異なる微生物、さらにより好ましくは少なくとも10種の異なる微生物を含む。
【0042】
「接種」とは、生物学的試料のすべてまたはいくつかと共に培養培地を培養し始めること、および接種された培養培地のインキュベーションを意味する。
【0043】
当業者は、一般的な知識に応じ、培養培地、生物学的試料、および検出しようとする特定の微生物に応じてインキュベーション条件を適合させるであろう。
【0044】
インキュベーション工程は、0℃〜44℃の間、好ましくは20℃〜43℃の間、より好ましくは28〜32℃の間、さらにより好ましくは30℃の温度で行うことができる。
【0045】
好ましくは、インキュベーション工程は、16〜36時間の間、好ましくは18〜24時間の間の期間、続く。
【0046】
しかしながら、当業者は、利用可能な手段に依存し、一般的な知識に基づいて、このインキュベーション工程の温度および持続期間を適合させてもよい。
【0047】
「直接検出法」とは、試料中に存在する異なる細菌株を単離する予備的な工程を含まない方法、好ましくは、試料中に存在する各細菌株を単離する予備的な工程を含まない方法を意味する。
【0048】
本発明による方法は、それに対してより正確な確認試験を後に行うことができる候補細菌コロニーを単離する工程を必要としない。従って、細菌の混合物を含み得る未処理の試料に適用可能である。
【0049】
好ましくは、本発明による方法は、試料中に存在する異なる細菌株を単離する予備的な工程を含まない。
【0050】
本発明者により開発された方法は、以前の方法とは異なり、病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌の高速直接検出を可能にする。
【0051】
本発明の別の局面は、病原性エルシニア・エンテロコリチカ細菌の直接検出および区別のための、上記で定義された培養培地の使用に関する。
【0052】
以下の実施例は、例証目的で提供され、本発明の範囲を限定するようには意図されない。
【実施例】
【0053】
実施例1:本発明による培地のCIN寒天培地との比較
使用したBecton Dickinson社のCIN寒天培地は、以下の構成要素をg/Lで含む:ペプトン 17.0、プロテオースペプトン 3.0、酵母エキス 2.0、D-マンニトール 20.0、デソキシコール酸ナトリウム 0.5、コール酸ナトリウム 0.5、ピルビン酸ナトリウム 2.0、硫酸マグネシウム7水和物 0.01、塩化ナトリウム 1.0、ニュートラルレッド 0.03、クリスタルバイオレット 0.001、イルガサン 0.004、ゲロース 13.5、セフスロジン 0.015、ノボビオシン 0.0025。
【0054】
本発明による培地は、以下の構成要素をg/Lで含む:ペプトン 20、塩化ナトリウム 5、寒天 15、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-グルコシド 0.1、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド 0.1、イルガサン 0.002、Tween 80 0.5。
【0055】
異なる細菌株を、本発明による培地およびCIN寒天培地上で単離する。ペトリ皿を、30℃で24時間インキュベーションする。
【0056】
下記の表1は、得られた結果を提示する。
【0057】
【表1】
NC:細菌の増殖無し。
【0058】
表1は、2種の培地は、病原性エルシニア・エンテロコリチカを検出することができるが、伝統的なCIN寒天培地を用いて検出される多くの種が、実際には偽陽性、すなわち、非病原性エルシニア・エンテロコリチカ株であるかまたはエルシニア・エンテロコリチカでないかのいずれかであり、本発明による培地にはこれが当てはまらないことを示す。
【0059】
驚くべきことに、本発明の培地に類似しているが、インドキシル-β-グルコサミニドが別のヘキソサミニダーゼ基質であるインドキシル-β-ガラクトサミニドに置き換えられた培地は、病原性エルシニア・エンテロコリチカ株の発色を可能にしない。従って、そのような培地は、病原性エルシニア・エンテロコリチカを他の細菌から区別することができず、従って驚くべきことに、グルコサミニジンタイプの基質のみが良好な特異性および良好な感度で病原性エルシニア・エンテロコリチカ株を検出できることを実証する。
【0060】
実施例2:本発明の特徴とβ-グルコシダーゼの特徴との比較
配合は、g/lである。
【0061】
本発明による培地A:ペプトン 20、塩化ナトリウム 5、寒天 15、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド 0.1。
【0062】
培地B:ペプトン 20、塩化ナトリウム 5、寒天 15、IPTG 0.04、5-ブロモ 6-クロロ 3-インドキシル-β-ガラクトシド 0.1。
【0063】
ペトリ皿を、30℃で24時間インキュベーションする。
【0064】
下記の表2は、結果を示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に提示される結果は、培地Bが、本発明による培地とは異なり、偽陽性を排除できないことを示す。
【0067】
従って、本発明による培地は、より良好な感度および特異性を有し、予備的な単離工程またはその後の区別工程を必要とすることなく、単一の培養工程におけるより容易な検出を可能にする。その結果、関連する費用が低減され、より良好な効率が得られる。