(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上翼板(21)と下翼板(22)の前端部同士が連結柱(23)により連結され、前記上下翼板(21,22)間の前記連結柱(23)側の肩口(26)から前記連結柱(23)とは反対側の後口(27)まで連通するY字状のエレメント案内路(28)が配されたスライダー胴体(2)と、
前記スライダー胴体(2)を操作するための本体部(51)と、前記本体部(51)の一端側から延設した一対のアーム部(52)と前記一対のアーム部(52)同士を連結する連結杆(53)とを備える引手(5)と、
前記上翼板(21)に配され、一端に爪部(61)と、一端と他端との間に前記引手(5)の前記連結杆(53)の少なくとも一部を覆うカバー部(63)と、を備えた停止爪体(6)と、
を有し、
前記引手(5)は 前記上翼板(21)に前記連結杆(53)が回動可能に保持され、
前記停止爪体(6)は他端部が前記スライダー胴体(2)に固定され、
前記引手(5)は、前記スライダー胴体(2)の前記肩口(26)側及び前記後口(27)側に倒伏した倒伏位置と、前記連結杆(53)の回動動作により前記引手(5)が倒伏位置から起立した起立位置となる回転領域を備え、
前記引手(5)の回転領域内において、前記停止爪体(6)が弾性変形することで前記カバー部(63)が移動され、前記カバー部(63)の移動にともない前記爪部(61)が前記エレメント案内路(28)に挿入・抜出可能なように配されてなるスライドファスナー用スライダー(1)であって、
前記引手(5)は、前記スライダー胴体(2)に対して前記肩口(26)側及び前記後口(27)側に完全に倒伏させたときから、前記停止爪体(6)に対して無負荷にそれぞれ所定の角度回転可能な領域を有し、
前記引手(5)の前記連結杆(53)には、基端側から先端側に向けて突出するカム部(56)が形成され、
前記カム部(56)は、前記引手(5)の表面側及び裏面側に第1傾斜面(56a)及び第2傾斜面(56b)を有し、
前記第1傾斜面(56a)及び前記第2傾斜面(56b)は、基端側から先端側にかけて各傾斜面が接近する方向に傾斜しており、
前記引手(5)を前記スライダー胴体(2)に対して前記後口(27)側に完全に倒伏させたときには、前記カム部(56)の前記第1傾斜面(56a)と前記停止爪体(6)の前記カバー部(63)の天板部(63a)の下面(63b)との間に、所定の角度が形成され、
前記引手(5)を前記スライダー胴体(2)に対して前記肩口(26)側に完全に倒伏させたときには、前記カム部(56)の前記第2傾斜面(56b)と前記停止爪体(6) の前記カバー部(63)の天板部(63a)の下面(63b)との間に、所定の角度が形成される
ことを特徴とするスライドファスナー用スライダー。
前記スライダー胴体(2)に対して前記後口(27)側に完全に倒伏させた倒伏位置における前記カム部(56)の前記第1傾斜面(56a)と前記停止爪体(6)の前記カバー部(63)の前記天板部(63a)の前記下面(63b)との間の角度αは、10°<α≦35°であって、
前記スライダー胴体(2)に対して前記肩口(26)側に完全に倒伏させたときの前記カム部(56)の前記第2傾斜面(56b)と前記停止爪体(6)の前記カバー部(63)の前記天板部(63a)の前記下面(63b)との間の角度βは、10°<β≦35°である
請求項1乃至4のいずれか1つに記載のスライドファスナー用スライダー。
前記引手(5)は、前記スライダー胴体(2)に対して前記引手(5)の長手方向が前記上翼板(21)上面と平行にあるときの起立位置から、倒伏位置側に0°以上5°以下の範囲で回転可能である
請求項5に記載のスライドファスナー用スライダー。
上翼板(21)と下翼板(22)の前端部同士が連結柱(23)により連結され、前記上下翼板(21,22)間の前記連結柱(23)側の肩口(26)から前記連結柱(23)とは反対側の後口(27)まで連通するY字状のエレメント案内路(28)が配されたスライダー胴体(2)と、
前記スライダー胴体(2)を操作するための本体部(51)と、前記本体部(51)の一端側から延設した一対のアーム部(52)と前記一対のアーム部(52)同士を連結する連結杆(53)とを備える引手(5)と、
前記上翼板(21)に配され、一端に爪部(61)、一端と他端との間に前記引手(5)の前記連結杆(53)の少なくとも一部を覆うカバー部(63)とを備えた停止爪体(6)と、
を有するスライドファスナー用スライダーの製造方法において、
前記引手(5)が、前記スライダー胴体(2)の前記肩口(26)側及び前記後口(27)側に倒伏した倒伏位置と、前記連結杆(53)の回動動作により前記引手(5)が倒伏位置から起立した起立位置となる回転領域を備え、
前記引手(5)の回転領域内において、前記停止爪体(6)が弾性変形することで前記カバー部(63)が移動される第1回転領域と、
前記第1回転領域と肩口側倒伏位置の間であって、前記停止爪体(6)に対して無負荷にそれぞれ所定の角度回転可能な第2回転領域と、
前記第1回転領域と後口側倒伏位置の間であって、前記停止爪体(6)に対して無負荷にそれぞれ所定の角度回転可能な第3回転領域を有するように
前記スライダー胴体(2)に前記引手(5)及び前記停止爪体(6)を組み付ける組付工程と、
前記組付工程で前記スライダー胴体(2)、前記引手(5)及び前記停止爪体(6)が組み付けられたスライドファスナー用スライダーを表面処理する表面処理工程と、
を有することを特徴とするスライドファスナー用スライダーの製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、スライドファスナーに用いられるスライダーとして、スライドファスナーを開閉した後に、引手の操作を解除するとスライダーに装着された停止爪体が自動的に作用してスライダーの停止位置を保持し、引手を操作しないかぎりスライダーの摺動停止状態を保持することが可能な自動停止機構付きのスライダーが知られている。また、このような自動停止機構を備えたスライダーの具体例が、特開2013−31691号公報(特許文献1)などに開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているスライダーは、その上翼板に、停止爪体が挿入される挿入溝と、上翼板の後口側端縁部に同上翼板の上面側からエレメント案内路に貫通するように穿設された爪孔と、上翼板の前端部にて前記挿入溝の左右両側に立設された加締め用の突起部と、引手を保持するための左右の引手保持部とが設けられている。
【0004】
また、特許文献1における停止爪体には、スライダー胴体の爪孔に挿通される爪部が同停止爪体の一端部に配され、スライダー胴体の挿入溝に嵌入されるフック部が同停止爪体の他端部に配され、爪部とフック部との間には、引手の連結杆を覆うカバー部が設けられている。
【0005】
さらに、特許文献1の引手は、引手本体部と、引手本体部から延設された左右のアーム部と、左右のアーム部の先端部間を連結する円柱状の連結杆とを有している。また、連結杆の左右方向における中央部には、連結杆の断面を半円状とする凹部が形成されている。
【0006】
そして、特許文献1において、前述の引手及び停止爪体をスライダー胴体に組み付ける場合、まず、引手の連結杆をスライダー胴体の引手保持部に挿入し、同引手保持部を加締めることにより、引手をスライダー胴体に回動可能に保持する。続いて、引手を保持したスライダー胴体の挿入溝に、爪部がスライダー胴体の爪孔に挿通するように位置合わせをして停止爪体を挿入する。これによって、停止爪体がスライダー胴体の所定位置に配置される。
【0007】
その後、スライダー胴体の突起部を加締めることにより、停止爪体の他端部を所定のクリアランスをもって加締め固定する。これにより、特許文献1のスライダーが組み立てられる。
【0008】
このようにして組み立てられた特許文献1のスライダーにおいて、引手が後口側に倒伏している状態のときには、停止爪体のカバー部が引手の凹部に嵌り込み、スライダー胴体に対する停止爪体の相対的な位置が下がるため、同停止爪体の爪部がスライダー胴体の爪孔からエレメント案内路内に挿入される。
【0009】
一方、引手を起立させたときや、スライダーの前端側に倒伏させたときには、停止爪体のカバー部が、回動する引手の連結杆によって持ち上げられるため、停止爪体の爪部がエレメント案内路から抜出される。この場合、停止爪体の他端部は、前述のように、所定のクリアランスをもって固定されている。このため、引手を倒伏・起立操作したときに、停止爪体の他端部がそのクリアランスを利用して挿入溝内を移動することが可能となり、それによって、エレメント案内路に対する爪部の挿入・抜出動作を円滑に行うことが可能となる。
【0010】
従って、スライダーを用いてスライドファスナーを構成したときに、例えば引手の操作を解除して引手を後口側に倒伏させた場合には、停止爪体の爪部をエレメント案内路に突出させてエレメント列に係合させることができる。このため、スライダーをエレメント列に対して停止させて、その停止位置を保持することができる。一方、スライダーを操作するために引手を起立させた場合には、爪部がエレメント案内路から抜出されて、爪部とエレメント列との係合が解除されるため、スライダーをエレメント列に沿って円滑に摺動させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載されているスライダーは、前述のように、スライダー胴体の前端部に停止爪体を固定するための加締め用の突起部又は固定部が設けられている。このため、停止爪体を上翼板の挿入溝に挿入して配置した後、その加締め部を加締めることにより、又は固定部を上翼板の所定位置に固着することにより、停止爪体の爪部をエレメント案内路に挿入・抜出することが可能なように、停止爪体をスライダー胴体の上翼板に固定することができる。
【0013】
しかしながら、このようにして停止爪体及び引手をスライダー胴体の上翼板に固定する構造の場合、胴体に停止爪体と引手を組み立てた状態で鍍金や塗装等の表面処理を行うと、引手が停止爪体のバネの弾性力によって胴体に対して付勢され、引手と胴体が密着している箇所では、表面処理剤が浸入できず、表面処理を行うことが困難な場合があった。
【0014】
そのため、このような構造のスライダーは、胴体と引手を組み立てた状態で表面処理をおこなった後に、停止爪体を組み込んでいた。したがって、スライダーを組み立てるために、引手をスライダー胴体に組み付ける工程と停止爪体をスライダー胴体に組み付ける工程を分けて行うことが必要となり、各工程を行うための各装置を購入するための費用、各装置を配置するスペース、及び各工程における作業時間が必要であった。
【0015】
また、停止爪体は、表面処理をしない構成となっていた。そのため、組み立てられたスライダーは、胴体及び引手と停止爪との見栄えが異なり、装飾性の点においてはいまだ改善の余地があった。
【0016】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、スライダーの胴体、停止爪体、及び引手の組立工程をまとめて行い、また必要な装置の省スペース化、作業時間短縮による低コスト化で素早く組み立てることが可能であると共に、より装飾性の高いスライドファスナー用スライダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明にかかるスライドファスナー用スライダーは、
上翼板と下翼板の前端部同士が連結柱により連結され、前記上下翼板間の前記連結柱側の肩口から前記連結柱とは反対側の後口まで連通するY字状のエレメント案内路が配されたスライダー胴体と、
前記スライダー胴体を操作するための本体部と、前記本体部の一端側から延設した一対のアーム部と前記一対のアーム部同士を連結する連結杆とを備える引手と、
前記上翼板に配され、一端に爪部と、一端と他端との間に前記引手の前記連結杆の少なくとも一部を覆うカバー部と、を備えた停止爪体と、
を有し、
前記引手は、前記上翼板に前記連結杆が回動可能に保持され、
前記停止爪体は他端部が前記スライダー胴体に固定され、
前記引手は、前記スライダー胴体の前記肩口側及び前記後口に倒伏した倒伏位置と、前記連結杆の回動動作により前記引手が倒伏位置から起立した起立位置となる回転領域を備え、
前記引手の回転領域内において、前記停止爪体が弾性変形することで前記カバー部が移動され、前記カバー部の移動にともない前記爪部が前記エレメント案内路に挿入・抜出可能なように配されてなるスライドファスナー用スライダーであって、
前記引手は、前記スライダー胴体に対して前記肩口側及び前記後口側に完全に倒伏させたときから、前記停止爪体に対して無負荷にそれぞれ所定の角度回転可能な領域を有する
ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかるスライドファスナー用スライダーでは、
前記引手の前記連結杆には、基端側から先端側に向けて突出するカム部が形成され、
前記カム部は、前記引手の表面側及び裏面側に第1傾斜面及び第2傾斜面を有し、
前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面は、基端側から先端側にかけて各傾斜面が接近する方向に傾斜しており、
前記引手を前記スライダー胴体に対して前記後口側に完全に倒伏させたときには、前記カム部の前記第1傾斜面と前記停止爪体の前記カバー部の天板部の下面との間に、所定の角度が形成され、
前記引手を前記スライダー胴体に対して前記肩口側に完全に倒伏させたときには、前記カム部の前記第2傾斜面と前記停止爪体の前記カバー部の天板部の下面との間に、所定の角度が形成される。
【0019】
また、本発明にかかるスライドファスナー用スライダーでは、
前記カム部は、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面を連結する円弧状の先端部を備えてなり、
前記カム部の基端側の回転中心を通り、前記引手の長さ方向に延びる直線と、前記カム部の先端側の径中心と基端側の回転中心を通る直線は、交差するように形成される。
【0020】
また、本発明にかかるスライドファスナー用スライダーでは、
前記上翼板の上面には前記上翼板の上面よりも高い上面を備える載置部が形成されており、
前記引手の前記連結杆は、前記載置部上面に当接するように前記スライダー胴体に設置されている。
【0021】
また、本発明にかかるスライドファスナー用スライダーでは、
前記上翼板の前記後口部側の側端部上面に段差面を有する段差部が形成され、
前記段差部は、前記上翼板の上面よりも低い段差部底面を備えてなり、
前記引手が前記後口側に倒伏した倒伏位置にある場合、前記引手と前記スライダー胴体とは、前記上翼板の上面に当接し、前記段差部底面と前記引手との間に隙間が空くような関係にある。
【0022】
また、本発明にかかるスライドファスナー用スライダーでは、
前記スライダー胴体に対して前記後口側に完全に倒伏させた倒伏位置における前記カム部の前記第1傾斜面と前記停止爪体の前記カバー部の前記天板部の前記下面との間の角度αは、10°<α≦35°であって、
前記スライダー胴体に対して前記肩口側に完全に倒伏させたときの前記カム部の前記第2傾斜面と前記停止爪体の前記カバー部の前記天板部の前記下面との間の角度βは、10°<β≦35°である。
【0023】
また、本発明にかかるスライドファスナー用スライダーでは、
前記引手は、前記スライダー胴体に対して前記引手の長手方向が前記上翼板上面と平行にあるときの起立位置から、倒伏位置側に0°以上5°以下の範囲で回転可能である。
【0024】
また、本発明にかかるスライドファスナー用スライダーでは、
前記スライダー胴体、前記引手、及び前記停止爪体は、同一の表面処理が施された表面を有する。
【0025】
また、本発明にかかるスライドファスナー用スライダーの製造方法は、
上翼板と下翼板の前端部同士が連結柱により連結され、前記上下翼板間の前記連結柱側の肩口から前記連結柱とは反対側の後口まで連通するY字状のエレメント案内路が配されたスライダー胴体と、
スライダー胴体を操作するための本体部と、前記本体部の一端側から延設した一対のアーム部と前記一対のアーム部同士を連結する連結杆とを備える引手と、
前記上翼板に配され、一端に爪部、一端と他端との間に前記引手の連結杆の少なくとも一部を覆うカバー部とを備えた停止爪体と、
を有するスライドファスナー用スライダーの製造方法において、
前記引手が、前記スライダー胴体の前記肩口側及び前記後口側に倒伏した倒伏位置と、前記連結杆の回動動作により前記引手が倒伏位置から起立した起立位置となる回転領域を備え、
前記引手の回転領域内において、前記停止爪体が弾性変形することで前記カバー部が移動される第1回転領域と、
前記第1回転領域と肩口側倒伏位置の間であって、前記停止爪体に対して無負荷にそれぞれ所定の角度回転可能な第2回転領域と、
前記第1回転領域と後口側倒伏位置の間であって、前記停止爪体に対して無負荷にそれぞれ所定の角度回転可能な第3回転領域を有するように、
前記スライダー胴体に前記引手及び前記停止爪体を組み付ける組付工程と、
前記組付工程で前記スライダー胴体、前記引手及び前記停止爪体が組み付けられたスライドファスナー用スライダーを表面処理する表面処理工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかるスライドファスナー用スライダーによれば、スライダーの胴体、停止爪体、及び引手の組立工程をまとめて行い、また必要な装置の省スペース化、作業時間短縮による低コスト化で素早く組み立てることが可能であると共に、より装飾性の高いスライドファスナー用スライダーを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1は、本実施形態のスライドファスナー用スライダーを構成する部品が分離した状態を示す斜視図である。
図2は、本実施形態のスライダーが組み立てられた状態を示す斜視図である。
図3は、本実施形態のスライダーにおいて、引手が上翼板の上面に平行に後口側に倒伏した状態を示す側面図である。
図4は、本実施形態のスライダーにおいて、引手が上翼板の上面に平行に後口側に倒伏した状態を示す前後方向の断面図である。
図5は、本実施形態のスライダーにおいて、引手が完全に後口側に倒伏した状態を示す左右方向の断面図である。
【0030】
なお、本発明に係るスライドファスナー用スライダー1において、スライダー1がエレメント列を噛合させるように摺動する向きを前方とし、エレメント列を分離させるように摺動する向きを後方とする。また、上下翼板21,22に直交する方向を上下方向とし、上下翼板21,22に平行で、スライダー1の摺動方向に直交する方向を左右方向として規定する。
【0031】
本実施形態に係るスライダー1は、
図1に示したように、スライダー胴体2と、スライダー胴体2に一端部が回動可能に保持される引手5と、スライダー胴体2に配される停止爪体6とを有している。本実施形態のスライダー1において、スライダー胴体2及び引手5は、アルミニウム合金、亜鉛合金、銅合金などの金属材料を使用してダイキャスト成形又はプレス成形によって作製されている。また、停止爪体6は、ステンレスや銅合金等の弾性率の高い金属材料を使用してプレス成形により作製されている。
【0032】
スライダー胴体2は、上翼板21と、下翼板22と、この上下翼板21,22の前端部間を連結する連結柱23とを有している。上翼板21の左右側部には、上翼板21に直交する方向に上フランジ部24が垂設され、下翼板22の左右側部には、下翼板22に直交する方向に下フランジ部25が立設されている。
【0033】
また、スライダー胴体2は、連結柱23の左右両側に配された肩口26と、後端に配された後口27とを有しており、上下翼板21,22の間には、左右の肩口26と後口27とを連結するY字形のエレメント案内路28が形成されている。
【0034】
スライダー胴体2の上翼板21は、引手5の一端を回動可能に保持する左右の引手保持部31と、上翼板21の上面の左右方向中央部に配され、停止爪体6を挿入する挿入溝32と、上翼板21の前端部に凹設された凹陥部33と、凹陥部33の底面部から立設された左右一対の固定部34と、引手保持部31と凹陥部33との間に且つ挿入溝32の左右両側に配され、上翼板21の上面から隆起した隆起部35と、とを有している。
【0035】
なお、固定部34は、後述するように、互いに近接する方向に加締めることによって、停止爪体6をスライダー胴体2に固定するためのものであるが、必ずしも加締めによって固定しなくてもよい。例えば、特許文献2の
図3及び
図4に代表的に開示されているように、停止爪体は案内柱に設けた孔の内壁に形成された固定部に停止爪体の先端を弾性的に係合させることによって固定しても良い。
【0036】
引手保持部31は、挿入溝32の後口27側且つ左右両側に突設された前後一対の突起31aと、左右の突起31aの間で引手5の一部を載置する載置部31bと、を有している。引手5のうち後述する連結杆53を前後の突起31a間に挿入し、載置部31bに載置した後、この前後一対の突起31aを互いに近づける方向へ屈曲させて加締めることにより、引手5の連結杆53を引手保持部31に回動可能に保持することができる。なお、載置部31bは、上翼板21の上面よりも隆起した上面を備えており、載置部31bの上面に引手5の連結杆53の一部が載置される。
【0037】
挿入溝32は、停止爪体6を安定して挿入できるように停止爪体6の左右方向の寸法と同等の溝幅、又は同幅寸法よりも少し大きな溝幅を有している。また、同挿入溝32の後口27側には、停止爪体6の形状に対応した段差が挿入溝32の長さ方向に階段状に設けられている。
【0038】
凹陥部33は、上翼板21の連結柱23が連結されている前端部の挿入溝32の上面側に凹設されている。凹陥部33には、停止爪体6のフック部62が当接して支持される。
【0039】
本実施形態のスライダー1における固定部34は、上翼板21の底面から立設されている。左右の固定部34は、上翼板21の挿入溝32に停止爪体6が挿入された後、内側に向けて屈曲させて加締められる。
【0040】
隆起部35は、挿入溝32の左右両側に上翼板21の上面から盛り上がるように配されている。このような隆起部35が配されていれば、例えば停止爪体6が挿入溝32に配置され、さらに引手5の操作によって同停止爪体6が挿入溝32内で上下動したときに、同停止爪体6の一部が上翼板21の上面よりも上方に移動しても、停止爪体6が挿入溝32内から飛び出さないように隆起部35によって停止爪体6を左右側方から隠して見え難くすることができ、これによって、スライダー1の見栄えを向上させることができる。
【0041】
さらに、左右の引手保持部31の間であって、スライダー1の後口27側には、挿入溝32内に停止爪体6を配置したときに同停止爪体6の後述する爪部61を挿通することが可能な爪孔36が穿設されている。
【0042】
また、
図3に示すように、凹陥部33の前半部を取り囲む部分には、上翼板21の上面と凹陥部33の底面部との間の高さ位置に第1段差面37aを有する第1段差部37が形成されている。
【0043】
一方、上翼板21の後口部27側の上フランジ部24が形成されている部位の上面に段差底面38aを有する第2段差部38が形成されている。第2段差部38は、上翼板21の上面よりも低く形成された段差底面38aを有しており、引手5が後口27側に完全に倒伏した状態の場合、
図5に示すように、引手5とスライダー胴体2とは、第2段差部38に当接する。このとき、引手5とスライダー胴体2との当接部分は、上翼板21の上面のうち、第2段差部38側の角部の面取りされた部分に点接触あるいは、線接触しており、段差底面38aと引手5との間に隙間が空いている。
【0044】
この空間を形成することで、後述する表面処理工程において表面処理材の空間内への浸入が容易になり、表面処理不良を低減することが可能となる。また、上翼板21に形成された載置部32bに引手5の連結杆53が載置され、かつ引手5が上翼板21の上面のうち面取りされた部分に当接するので、引手5を後口27側に倒伏したときに、引手5は、載置部31b側から第2段差部38側に向けて下方へ傾斜して配置することが可能となる。
【0045】
本実施形態における引手5は、引手本体部51と、引手本体部51の一端から平行に延設された左右のアーム部52と、左右のアーム部52の先端部を連結する連結杆53とを有している。また、引手本体部51における表裏面の中央部分には、表裏方向に貫通する矩形状の開口窓部54が設けられている。開口窓部54は、引手5を後口27及び肩口26側に倒伏した際に、突起31aのうち、後口側に形成された突起31aが貫通するように形成される。
【0046】
引手5の連結杆53は、円形断面を有するように円柱状に形成されており、連結杆53の中央部には、連結杆53と、左右のアーム部52と、引手本体部51の一端縁とにより形成される開口内に突出するカム部56が一体的に設けられている。
【0047】
このカム部56は、軸部側の基端側と、軸部から最も離れた先端側を備えている。カム部56は引手5の表面側に第1傾斜面56a、裏面側に第2傾斜面56bを有し、第1傾斜面56aと第2傾斜面56bは、基端側から先端側にかけて各傾斜面が近接する方向に傾斜している。そして、引手5をスライダー胴体2に対して後口27及び肩口26側に完全に倒伏させたときには、カム部56の第1傾斜面56a及び第2傾斜面56bと停止爪体6の後述するカバー部63の天板部63aの下面63bとの間に、上下方向において、所定の角度を形成することが可能となる。また、カム部56は、第1傾斜面56aと第2傾斜面56bを連結する円弧状の先端部を備えてなり、カム部56の基端側の回転中心を通り、引手5の長さ方向に延びる直線Aと、カム部56の先端側の径中心と基端側の回転中心を通る直線Bは、所定の角度で交差するように形成される。
【0048】
本実施形態における停止爪体6は、弾性を備えており、スライダー胴体2の爪孔36を介してエレメント案内路28内に挿入・抜出可能な爪部61をその一端部に有する。また、スライダー胴体2の挿入溝32の凹陥部33に嵌入されるフック部62をその他端部に有している。また、同停止爪体6の爪部61とフック部62との間には、引手5の連結杆53及びカム部56を上方から覆うように配される断面略U字状のカバー部63が設けられている。さらにカバー部63は、停止爪体6の一端部と他端部の間にカム部56と接触可能な天板部63aを備えており、天板部63aに対してカバー部63の一端部と他端部はそれぞれ屈曲している。
【0049】
停止爪体6のカバー部63は、スライダー胴体2に配された左右の引手保持部31間の間隔よりも小さく、且つ、スライダー胴体2に形成した挿入溝32の溝幅よりも大きい幅寸法を有している。また、停止爪体6のカバー部63よりも他端側の部位は、スライダー胴体2に形成した挿入溝32の溝幅よりも小さい幅寸法を有している。
【0050】
次に、上述のようなスライダー胴体2、引手5、及び停止爪体6より構成される本実施形態のスライドファスナー用スライダー1の製造方法について説明する。
【0051】
まず、スライドファスナー用スライダー1の組付工程について説明する。
【0052】
スライダー胴体2の左右の引手保持部31がそれぞれ有する前後の突起31a間に引手5の連結杆53を挿入し、引手5をスライダー胴体2の後口27側に倒伏させた状態にて、前後の突起31aを互いに近づける方向へ屈曲させて加締める。これにより、引手5がスライダー胴体2に対して連結杆53を中心に回動可能に保持される。
【0053】
続いて、引手5を保持したスライダー胴体2に、停止爪体6を設置する。この際、同停止爪体6の爪部61がスライダー胴体2の爪孔36に挿通し、フック部62を凹陥部33に嵌入させ、且つ、同停止爪体6のカバー部63が引手5の連結杆53及びカム部56を上方から覆うように配置する。これによって、停止爪体6がスライダー胴体2の所定位置に配置される。
【0054】
その後、スライダー胴体2に配した固定部34を内側に屈曲させて加締めることにより、停止爪体6の爪部61が爪孔36に挿通した状態で、同停止爪体6の他端部が所定のクリアランスをもって固定部34によって加締め固定される。このような作業を行うことにより、
図2に示したような本実施形態のスライドファスナー用スライダー1が組み立てられる。
【0055】
次に、スライドファスナー用スライダー1の表面処理工程について説明する。
【0056】
本実施形態では、胴体2と引手5及び停止爪体6を組み立てた状態で表面処理としての鍍金をおこなうことができる。本実施形態の表面処理工程は、胴体2と引手5及び停止爪体6を組み立てた状態の複数のスライドファスナー用スライダー1を複数の小さな孔を開けたバレルに入れ、メッキ液に浸漬し、バレルを回転させながら鍍金することで行う。
【0057】
なお、表面処理は鍍金に限らず、塗装等でもよい。
【0058】
次に、上述のように組み立てた本実施形態のスライダー1の作動について説明する。
【0059】
図6は、第1実施形態のスライダーにおいて、引手が完全に後口側に倒伏した状態のカム部付近を示す前後方向の拡大断面図である。
【0060】
スライダー1は、
図6及び
図8に示すように、スライダー胴体2に固定された引手5が、スライダー胴体2の肩口26側及び後口27側に倒伏した倒伏位置と、引手5の連結杆53の回動動作により引手5が倒伏位置から起立した起立位置と、からなる回転領域を備える。なおここで、起立位置とは、引手5が回動可能な範囲の任意の位置を指し、完全に倒伏された倒伏位置とは異なり、特定の位置を指しているものではない。
図6においては、引手5をスライダー胴体2の後口27側に倒伏させることによって、引手5の連結杆53に形成したカム部56を上翼板21の上面に対して略平行な方向に向かせることができる。なお、肩口26側とは、連結杆53に対して
図3に示した肩口26のある方向、後口27側とは、連結杆53に対して
図3に示した後口27のある方向とする。
【0061】
また、本実施形態では、スライダー胴体2に対して後口27側に完全に倒伏させた倒伏位置にあるときのカム部56の第1傾斜面56aとカバー部63の天板部63aの下面63bとの間の角度αを10°≦α≦35°と設定した。なお、スライダー胴体2に対して後口27側に完全に倒伏させたときのカム部56の第1傾斜面56aとカバー部63の天板部63aの下面63bとの間の角度αは、10°≦α≦25°に設定してもよい。
【0062】
この角度αが上記設定範囲より小さいと、表面処理剤が引手と胴体との間に浸入しにくくなり、表面処理不良が起こる可能性がある。一方、角度αが上記範囲より大きいと、停止爪体6の可動範囲が小さくなるので、操作性が低下する。
【0063】
なお、上記角度αは、言い換えれば、引手5が後口27側に倒伏した倒伏位置から停止爪体6に第1傾斜面56aに当接した直後の状態(すなわち
図7の状態)までの回転可能な角度であって第2回転領域ともいう。
【0064】
ここで、角度αを大きく設定し、停止爪体6の可動領域を小さくしてしまうと、停止爪体6の爪部61の抜き差し動作が遅くなってしまう。そこで、停止爪体6の可動領域を小さくしないように上記角度αをより広く設定する手段の一つとして、本実施形態では、上翼板21の上面に平行に引手を配置した時を0°とし、上翼板21の後口27側の上面に対して、引手5は、下方側に5°〜6°程度回転することが可能に形成されていることが好ましい。
【0065】
このような構成とすることで、引手5は、スライダー胴体2に対して後口27側に完全に倒伏させた倒伏位置にあるときから、爪部61が作動を始めるまで、無負荷にそれぞれ所定の角度回転可能な領域である遊び領域として、最大約35°自由に回転することが可能に形成されている。
【0066】
このとき、引手5は、停止爪体6のカバー部63に対して、連結杆53の一部が当接するのみであり、カム部56は、停止爪体6のカバー部63とは干渉しない。すなわち、カム部56の第1傾斜面56aと停止爪体6のカバー部63との間に遊び領域が形成されている。この遊び領域は、前述の第1傾斜面56aとカバー部63の天板部63aの下面63bの角度αによって設定されている。
【0067】
そのため、引手5が遊び領域内で回転したとしても、停止爪体6のカバー部63はカム部56によって持ち上げられることはない。そして、同停止爪体6の爪部61は、爪孔36を介して
図3に示したエレメント案内路28内に突出した状態のままでいる。
【0068】
したがって、本実施形態のスライダー1をファスナーチェーンのエレメント列に挿通させてスライドファスナーを構成したときに、引手5をスライダー胴体2の後口27側に倒伏させることにより、停止爪体6の爪部61が
図3に示したエレメント案内路28内に突出してエレメント列に係着し、エレメント列に対するスライダー1の停止位置を保持することができる。
【0069】
図7は、第1実施形態のスライダーにおいて、引手が完全に後口側に倒伏した倒伏位置から引手を起立させた起立位置でカム部と停止爪体が当接した状態のカム部付近を示す前後方向の拡大断面図である。なお、
図7における引手の起立位置は、カム部と停止爪体6が当接した直後の状態であって、停止爪体6に対して無負荷な状態である。
【0070】
図6に示した状態から引手5を少し持ち上げた場合、停止爪体6に対して無負荷に所定の角度回転可能な遊び領域で引手5を回動させるのであれば、停止爪体6の爪部61がエレメント案内路28から抜け出すことはない。すなわち、
図6に示した引手5が後口側に倒伏した倒伏位置から、
図7に示したカム部56の第1傾斜面56aと停止爪体6のカバー部63とが当接する状態になる起立位置までの遊び領域の間、引手5は、自由に回転可能な状態となっている。
【0071】
続いて、
図7に示したカム部56の第1傾斜面56aと停止爪体6のカバー部63とが当接した状態から、さらに引手5を持ち上げて、上翼板21に対して直交する方向へ起立させると、引手5は、上翼板21の上面に対して所定の傾斜角度以上に傾くことになる。すると、引手5のカム部56が停止爪体6のカバー部63に干渉して、前記停止爪体6が弾性変形し、停止爪体6のカバー部63がカム部56の第1傾斜面56aによって持ち上げられ、停止爪体6の爪部61が
図3に示したエレメント案内路28から抜き出される。その結果スライダー1は、図示しないエレメント上を移動可能な状態となる。
【0072】
図8は、第1実施形態のスライダーにおいて、引手が完全に肩口側に倒伏した状態のカム部付近を示す前後方向の拡大断面図である。
【0073】
スライダー1は、
図8に示すように、引手5をスライダー胴体2の
図1に示した肩口26側に倒伏させることによって、引手5の連結杆53に形成したカム部56を上翼板21の上面に対して略平行な方向に向かせることができる。
【0074】
また、本実施形態では、スライダー胴体2に対して肩口26側に完全に倒伏させた倒伏位置にあるときのカム部56の第2傾斜面56bとカバー部63の天板部63aの下面63bとの間の角度βを10°≦β≦35°と設定した。なお、スライダー胴体2に対して肩口26側に完全に倒伏させた倒伏位置にあるときのカム部56の第2傾斜面56bとカバー部63の天板部63aの下面63bとの間の角度βは、10°≦β≦25°に設定してもよい。
【0075】
この角度βが上記設定範囲より小さいと、表面処理剤が引手と胴体との間に浸入しにくくなり、表面処理不良が起こる可能性がある。一方、角度βが上記範囲より大きいと、停止爪体6の可動範囲が小さくなるので、操作性が低下する。
【0076】
なお、上記角度βは、言い換えれば、引手5が肩口26側に倒伏した倒伏位置から停止爪体6に第2傾斜面56b当接した直後の状態(すなわち
図9の状態)までの回転可能な角度であって、第3回転領域ともいう。なお、第3回転領域と第2回転領域の間であって、カム部56によってカバー部63が移動する領域を第1回転領域という。
【0077】
さらに、本実施形態では、角度αの時の同様の理由で、上翼板21の上面を0°とし、上翼板21の肩口26側の上面に平行に引手を配置した時に対して、引手5は、下方側に2°〜3°程度回転することが可能に形成されていることが好ましい。すなわち、引手5は、スライダー胴体2に対して肩口26側に完全に倒伏させた倒伏位置から、爪部61が作動を始めるまで、遊び領域として、約35°自由に回転することが可能に形成されている。
【0078】
このとき、引手5は、停止爪体6のカバー部63に対して、連結杆53の一部が当接するのみであり、カム部56は、停止爪体6のカバー部63とは干渉しない。すなわち、カム部56の第2傾斜面56bと停止爪体6のカバー部63との間に遊び領域が形成されている。そのため、引手5が遊び領域内で回転したとしても、停止爪体6のカバー部63がカム部56によって持ち上げられることはない。そして、同停止爪体6の爪部61が爪孔36を介して
図3に示したエレメント案内路28内に突出した状態のままとなる。
【0079】
したがって、本実施形態のスライダー1をファスナーチェーンのエレメント列に挿通させてスライドファスナーを構成したときに、引手5をスライダー胴体2の後口27側に倒伏させることにより、停止爪体6の爪部61がエレメント案内路28内に突出してエレメント列に係着し、エレメント列に対するスライダー1の停止位置を保持することができる。
【0080】
図9は、第1実施形態のスライダーにおいて、引手が完全に肩口側に倒伏した倒伏位置から引手を起立させてカム部と停止爪体が接触した状態のカム部付近を示す前後方向の拡大断面図である。なお、
図9における引手5の起立位置はカム部と停止爪体6は当接した直後の状態であって、停止爪体6に対して無負荷な状態である。
【0081】
図8に示した状態から引手5を少し持ち上げた場合、停止爪体6に対して無負荷に所定の角度回転可能な遊び領域で引手5を回動させるのであれば、停止爪体6の爪部61がエレメント案内路28から抜け出すことはない。すなわち、
図8に示した引手5が肩口26側に倒伏した倒伏位置から、
図9に示したカム部56の第2傾斜面56bと停止爪体6のカバー部63とが当接する状態になる起立位置までの遊び領域の間、引手5は、自由に回転可能な状態となっている。
【0082】
続いて、
図9に示したカム部56の第1傾斜面56aと停止爪体6のカバー部63とが当接した状態から、さらに引手5を持ち上げて、上翼板21に対して直交する方向へ起立させると、引手5は、上翼板21の上面に対して所定の傾斜角度以上に傾くことになる。すると、引手5のカム部56が停止爪体6のカバー部63に干渉して、前記停止爪体6が弾性変形し、停止爪体6のカバー部63がカム部56の第2傾斜面56bによって持ち上げられ、停止爪体6の爪部61が
図3に示したエレメント案内路28から抜き出される。その結果スライダー1は、図示しないエレメント上を移動可能な状態となる。
【0083】
以上のように、本実施形態のスライダー1は、上翼板21と下翼板22の前端部同士が連結柱23により連結され、上下翼板21,22間の連結柱23側の肩口26から連結柱23とは反対側の後口27まで連通するY字状のエレメント案内路28が配されたスライダー胴体2と、スライダー胴体2を操作するための本体部51と、本体部51の一端側から延設した一対のアーム部52と一対のアーム部52同士を連結する連結杆53とを備える引手5と、上翼板21に配され、一端に爪部61と、一端と他端との間に引手5の連結杆53の少なくとも一部を覆うカバー部63と、を備えた停止爪体6と、を有し、引手5は上翼板21に前記連結杆53が回動可能に保持され、停止爪体6は他端部がスライダー胴体2に固定され、引手5は、スライダー胴体2の肩口26側及び後口27側に倒伏した倒伏位置と、連結杆53の回動動作により引手5が倒伏位置から起立した起立位置となる回転領域を備え、引手5の回転領域内において、停止爪体6が弾性変形することで前記カバー部63が移動され、カバー部63の移動にともない爪部61がエレメント案内路28に挿入・抜出可能なように配されてなるスライドファスナー用スライダーであって、引手5がスライダー胴体2に対して肩口26側及び後口27側に完全に倒伏させたときから、停止爪体6に対して無負荷にそれぞれ所定の角度回転可能な領域を有するので、胴体2に停止爪体6と引手5を組み立てた状態で表面処理を行ったとしても、遊び領域内で引手5が胴体2から離間し、表面処理剤が引手5と胴体2の間に浸入することできるので、的確に表面処理を行うことが可能となる。
【0084】
また、引手5の連結杆53には、基端側から先端側に向けて突出するカム部56が形成され、カム部56は、引手5の表面側及び裏面側に第1傾斜面56a及び第2傾斜面56bを有し、第1傾斜面56a及び第2傾斜面56bは、基端側から先端側にかけて各傾斜面が接近する方向に傾斜しており、引手5をスライダー胴体2に対して後口27側に完全に倒伏させたときには、カム部56の第1傾斜面56aと停止爪体6のカバー部63の天板部63aの下面63bとの間に、所定の角度が形成され、引手5をスライダー胴体2に対して肩口26側に完全に倒伏させたときには、カム部56の第2傾斜面56bと停止爪体6のカバー部63の天板部(63a)の下面(63b)との間に、所定の角度が形成されるので、より的確に表面処理を行うことが可能となる。
【0085】
また、カム部56の基端側の回転中心を通り、引手5の長さ方向に延びる直線と、カム部56の先端側の径中心と基端側の回転中心を通る直線を、交差するように形成するので、引手5の遊び領域を大きくすることができ、より的確に表面処理を行うことが可能となる。
【0086】
また、上翼板21の上面には上翼板(21)の上面よりも高い上面を備える載置部31bが形成されており、引手5の連結杆53は、載置部31b上面に当接するようにスライダー胴体2に設置されているので、停止爪体6の弾性変形領域、すなわち爪部61がエレメント案内路28内に抜き差しできる領域を大きく保つことができるので、引手5の遊び領域を大きくするとともに、停止爪体6による停止機能を損なわないスライダーを提供することができる。
【0087】
また、上翼板21の後口27部側の側端部上面に段差面38aを有する段差部38が形成され、段差部38は、上翼板21の上面よりも低い段差部底面38aを備えてなり、引手5が後口27側に倒伏した倒伏位置にある場合、引手5とスライダー胴体2とは、上翼板21の上面に当接し、段差部底面38aと引手5との間に隙間が空くような関係にあるので、停止爪体6の弾性変形領域、すなわち爪部61がエレメント案内路28内に抜き差しできる領域を大きく保つことができるので、引手5の遊び領域を大きくするとともに、停止爪体6による停止機能を損なわないスライダーを提供することができる。
【0088】
また、スライダー胴体2に対して後口27側に完全に倒伏させた倒伏位置におけるカム部56の第1傾斜面56aと停止爪体6のカバー部63の天板部63aの下面63bとの間の角度αは、10°<α≦35°であって、スライダー胴体2に対して肩口26側に完全に倒伏させたときのカム部56の第2傾斜面56bと停止爪体6のカバー部63の天板部63aの下面63bとの間の角度βは、10°<β≦35°なので、組み立て工程後に表面処理を行った時に表面処理不良が起きにくいスライダーを提供することができる。さらにそのスライダーは停止爪体6の可動範囲を確保しているので、操作性は良好である。
【0089】
また、引手5は、スライダー胴体2に対して引手5の長手方向が上翼板21上面と平行にあるときの起立位置から、倒伏位置側に0°以上5°以下の範囲で回転可能なので、停止爪体6の可動範囲を確保することができる。
【0090】
さらに、本実施形態のスライドファスナー用スライダーの製造方法は、上翼板21と下翼板22の前端部同士が連結柱23により連結され、上下翼板21,22間の連結柱23側の肩口26から連結柱23とは反対側の後口27まで連通するY字状のエレメント案内路28が配されたスライダー胴体2と、スライダー胴体2を操作するための本体部51と、本体部51の一端側から延設した一対のアーム部52と一対のアーム部52同士を連結する連結杆53とを備える引手5と、上翼板21に配され、一端に爪部61、一端と他端との間に引手5の連結杆53の少なくとも一部を覆うカバー部63とを備えた停止爪体6と、を有するスライドファスナー用スライダーの製造方法において、引手5が、スライダー胴体2の肩口26側及び後口27側に倒伏した倒伏位置と、連結杆53の回動動作により引手5が倒伏位置から起立した起立位置となる回転領域を備え、引手5の回転領域内において、停止爪体6が弾性変形することでカバー部63が移動される第1回転領域と、第1回転領域と肩口側倒伏位置の間であって、停止爪体6に対して無負荷にそれぞれ所定の角度回転可能な第2回転領域と、第1回転領域と後口側倒伏位置の間であって、停止爪体6に対して無負荷にそれぞれ所定の角度回転可能な第3回転領域を有するように、スライダー胴体2に引手5及び停止爪体6を組み付ける組付工程と、組付工程でスライダー胴体2、引手5及び停止爪体6が組み付けられたスライドファスナー用スライダーを表面処理する表面処理工程と、を有する。
【0091】
したがって、胴体2と引手5及び停止爪体6を組み立てた状態で表面処理をおこなうことができ、引手をスライダー胴体に組み付ける工程と停止爪体をスライダー胴体に組み付ける工程を1つにまとめておこなうことが可能となる。そのため、各工程を行うための各装置を購入するための費用、各装置を配置するスペース、及び各工程における作業時間が必要なくなる。
【0092】
また、停止爪体6を胴体2及び引手5と共に表面処理することができる。そのため、胴体2、引手5及び停止爪6の見栄えが同一となり、装飾性が良好なものとすることが可能である。
【0093】
さらに、本実施形態では、停止爪体6を胴体2及び引手5と共に加締め後に一度に表面処理することができるので、突起31a及び固定部34を加締めた際に生じてしまった傷等を表面処理により覆うことができ、胴体2、引手5及び停止爪6の見栄えが同一となり、装飾性が良好なものとすることが可能である。
【0094】
つまり、本実施形態によれば、スライダーの胴体2、停止爪体6、及び引手5の組立を省スペース、低コストで素早く行うことが可能であると共に、より装飾性の高いスライドファスナー用スライダー1を提供することが可能となる。
【0095】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態のみに限られるものではなく、それぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせて構成した実施形態も本発明の範疇となるものである。