【実施例】
【0111】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において遺伝子操作に関する各操作は特に明示がない限り、「モレキュラークローニング(Molecular Cloning)」(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.およびManiatis,T.著,Cold Spring Harbor Laboratory Pressより1989年に発刊)に記載の方法により行うか、または、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って使用した。
【0112】
[実施例1]ラット抗ヒトOrai1抗体の作製
1)−1 免疫
1)−1−1 ヒトOrai1発現ベクター(pcDNA3.1−hOrai1)の構築
ヒトOrai1の遺伝子配列はpDONR221(Life Technologies社)にクローニングされたUltimate ORF clone (Clone No. IOH40869、Life Technologies社)を購入して使用した。遺伝子配列を配列表の配列番号1に、またアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。また、pcDNA3.1(+)をGateway Vector Conversion System(Life Technologies社)によりDestination Vectorに改変したpcDNA3.1−DESTを作製した。Gateway LR Clonase Enzyme mix(Life Technologies社)を用いて,pcDNA3.1−DESTとatt配列内を組み換え、ヒトOrai1発現ベクターpcDNA3.1−hOrai1を作製した。ヒトOrai1発現ベクターの大量調製には、EndoFree Plasmid Giga Kit(QIAGEN社)を用いた。
【0113】
1)−1−2 ラット免疫
免疫にはWKY/Izmラットの雌(日本エスエルシー社)を使用した。まずラット両足下腿部をHyaluronidase(SIGMA−ALDRICH社)にて前処理後、同部位にpcDNA3.1−hOrai1を筋注した。続けて、ECM830(BTX社)を使用し、2ニードル電極を用いて、同部位にインビボエレクトロポレーションを実施した。二週間に一度、同様のインビボエレクトロポレーションを繰り返した後、ラットのリンパ節を採取しハイブリドーマ作製に用いた。
【0114】
1)−2 ハイブリドーマ作製
リンパ節細胞とマウスミエローマSP2/0−ag14細胞とをHybrimune Hybridoma Production System(Cyto Pulse Sciences社)を用いて電気細胞融合し、ClonaCell−HY Selection Medium D(StemCell Technologies社)に希釈して培養した。出現したハイブリドーマコロニーを回収することでモノクローンハイブリドーマを作製した。回収された各ハイブリドーマコロニーを培養し、得られたハイブリドーマ培養上清を用いて抗ヒトOrai1抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングを行った。
【0115】
1)−3 Cell−ELISA法による一次スクリーニング
1)−3−1 Cell−ELISA用抗原遺伝子発現細胞の調製
HEK293細胞を10% FBS含有DMEM培地中7.5x10
5細胞/mLになるよう調製した。それに対し、Lipofectamine 2000を用いた形質移入手順に従い、pcDNA3.1−hOrai1もしくはコントロールとしてpcDNA3.1―DESTを導入し、96−well plate(Corning社)に50μlずつ分注し、10% FBS含有DMEM培地中で37℃、5% CO
2の条件下で二晩培養した。得られた導入細胞を接着状態のまま、Cell−ELISAに使用した。
【0116】
1)−3−2 Cell−ELISA
実施例1)−1−1で調製した発現ベクター導入HEK293細胞の培養上清を除去後、pcDNA3.1−hOrai1またはpcDNA3.1−DEST導入HEK293細胞のそれぞれに対しハイブリドーマ培養上清を添加し、4℃で1時間静置した。well中の細胞を5% FBS含有PBSで1回洗浄後、5% FBS含有PBSで500倍に希釈したAnti−Rat IgG−Peroxidase antibody produced in rabbit(SIGMA社)を加えて、4℃で1時間静置した。well中の細胞を5% FBS含有PBSで6回洗浄した後、OPD発色液(OPD溶解液(0.05 M クエン酸3ナトリウム、0.1M リン酸水素2ナトリウム・12水 pH4.5)にo−フェニレンジアミン二塩酸塩(和光純薬社)、H
2O
2をそれぞれ0.4mg/mL、0.6%(v/v)になるように溶解)を25μL/wellで添加した。時々攪拌しながら発色反応を行い、1M HClを25μL/wellを添加して発色反応を停止させた後、プレートリーダー(ENVISION:PerkinElmer社)で490nmの吸光度を測定した。細胞膜表面上に発現するヒトOrai1に特異的に結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択するため、コントロールのpcDNA3.1−DEST導入HEK293細胞と比較し、pcDNA3.1−hOrai1発現ベクター導入HEK293細胞の方でより高い吸光度を示す培養上清を産生するハイブリドーマを抗ヒトOrai1抗体産生陽性として選択した。
【0117】
1)−4 フローサイトメトリーによる二次スクリーニング
1)−4−1 フローサイトメトリー解析用抗原遺伝子発現細胞の調製
HEK293T細胞を5×10
4細胞/cm
2になるよう225平方cmフラスコに播種し、10% FBS含有DMEM培地中で37℃、5% CO
2の条件下で一晩培養した。翌日、pcDNA3.1−hOrai1とコントロールとしてpcDNA3.1−DESTをそれぞれHEK293T細胞にLipofectamine 2000を用いて導入し、37℃、5% CO
2の条件下でさらに二晩培養した。翌日、発現ベクター導入HEK293T細胞をTrypLE Express(Life Technologies社)で処理し、10% FBS含有DMEMで細胞を洗浄した後、5% FBS含有PBSに懸濁した。得られた細胞懸濁液をフローサイトメトリー解析に使用した。
【0118】
1)−4−2 フローサイトメトリー解析
実施例1)−3のCell−ELISAで陽性と判定されたハイブリドーマが産生する抗体のヒトOrai1に対する結合特異性をフローサイトメトリー法によりさらに確認した。実施例1)−4−1で調製したHEK293T細胞懸濁液を遠心し、上清を除去した後、pcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞およびpcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞のそれぞれに対しハイブリドーマ培養上清を加えて懸濁し、4℃で1時間静置した。5% FBS含有PBSで1回洗浄した後、5% FBS含有PBSで500倍に希釈したAnti−Rat IgG FITC conjugate(SIGMA社)を加えて懸濁し、4℃で1時間静置した。5% FBS含有PBSで3回洗浄した後、2μg/mL 7−aminoactinomycin D(Molecular Probes社)を含む5% FBS含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(FC500:BeckmanCoulter社)で検出を行った。データ解析はFlowjo(TreeStar社)で行った。7−aminoactinomycin D陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞のFITC蛍光強度のヒストグラムを作成した。コントロールであるpcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞の蛍光強度ヒストグラムに対しpcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞のヒストグラムが強蛍光強度側にシフトしているサンプルを産生するハイブリドーマを抗ヒトOrai1抗体産生ハイブリドーマとして取得した。結果として有意にシフトしたハイブリドーマが225個取得された。
【0119】
1)−5 抗体のアイソタイプ決定
1)−4で取得されたラット抗ヒトOrai1抗体産生ハイブリドーマの中から、強くヒトOrai1に結合することが示唆されたR118およびR198を選抜し、抗体アイソタイプを同定した。アイソタイプは、Rat monoclonal isotyping test kit(AbD Serotec社)により決定された。その結果、ラット抗ヒトOrai1モノクローナル抗体R118およびR198のアイソタイプはともにIgG2a、κ鎖であることが示された。
【0120】
1)−6 ラット抗ヒトOrai1抗体の調製
ラット抗ヒトOrai1モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養上清から精製した。
【0121】
まず、R118およびR198産生ハイブリドーマをClonaCell−HY Selection Medium Eで十分量まで増殖させた後、Ultra Low IgG FBS(Life Technologies社)を20%添加したHybridoma SFM(Life Technologies社)に培地交換し、5日間培養した。本培養上清を回収し0.45μmのフィルターを通して滅菌した。
【0122】
抗体は、上記のハイブリドーマ上清からProteinGアフィニティークロマトグラフィー(4〜6℃下)1段階工程で精製した。ProteinGアフィニティークロマトグラフィー精製後のバッファー置換工程は4〜6℃下で実施した。最初に、PBSで平衡化したProteinG(GE Healthcare Bioscience社)が充填されたカラムにハイブリドーマの培養上清をアプライした。培養上清液がカラムに全て入ったのち、カラム容量2倍以上のPBSでカラムを洗浄した。次に0.1 Mグリシン/塩酸水溶液(pH2.7)で溶出し、抗体の含まれる画分を集めた。集めた画分に1M Tris−HCl(pH9.0)を加えてpH7.0〜7.5に調製した後に、Centrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量UF30K、Sartorius社,4〜6℃下)にてPBSへのバッファー置換を行うとともに濃縮を行い、抗体濃度を0.2mg/mL以上に調製した。最後にMinisart−Plus filter(Sartorius社)でろ過し、精製サンプルとした。
【0123】
[実施例2]ラット抗ヒトOrai1抗体のin vitro評価
2)−1 フローサイトメトリーによるラット抗ヒトOrai1抗体の結合能評価
Orai1に対する結合特異性を評価するため、1)−4−1で示す方法により作製したpcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞懸濁液あるいはpcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞懸濁液を遠心し、上清を除去した後、それぞれに対し1)−6で作製したラット抗ヒトOrai1モノクローナル抗体であるR118、R198あるいはラットIgGコントロール抗体(Beckman Coulter社)を加えて懸濁し、4℃で30分静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、5% FBS含有PBSで320倍に希釈したAnti−Rat IgG FITC conjugateを加えて懸濁し、4℃で30分静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、1μg/mL Propidium iodide(Life Technologies社)を含む5% FBS含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(FC500)で検出を行った。データ解析はFlowjoで行った。Propidium iodide陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞のFITC蛍光強度のヒストグラムを作成し、平均蛍光強度(MFI)を算出した。R118およびR198は、pcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞には結合せず、
図1に示すとおりにpcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞にのみ濃度依存的に結合したことから、特異的にヒトOrai1に結合することが示された。一方、ラットIgGコントロール抗体では結合は観察されなかった。
【0124】
2)−2 ラット抗ヒトOrai1抗体のT細胞活性化抑制作用
ヒトT細胞株であるJurkat細胞を、10% FBS、100U/mL Penicillinおよび100μg/mL Streptomycin(Life Technologies社)を含むRPMI1640(Life Technologies社)で1.5x10
6cells/mLの濃度に調製し、96−wells細胞培養プレートに80μLずつ播種し、ラット抗ヒトOrai1モノクローナル抗体であるR118、R198、あるいはラットIgG コントロール抗体を10μL/well添加して37℃、5% CO
2下で60分間前処置した。その後、100ng/mL PMA(SIGMA社)および1μg/mL A23187(SIGMA社)を10μL/well添加し(最終濃度10ng/mL PMAおよび100ng/mL A23187)、よく攪拌した後、約16時間37℃、5% CO
2下で培養した。プレートをよく攪拌した後、600gにて3分間遠心し、上清に含まれるインターロイキン−2(IL−2)濃度をELISA法(R&D社)で測定した 。
図2は取得したラット抗ヒトOrai1モノクローナル抗体がPMAおよびA23187処理されたJurkat細胞からのIL−2の放出を添加濃度依存的に抑制することを示す。R118およびR198はJurkat細胞からのIL−2の放出を添加濃度依存的に阻害した。一方、ラットIgGコントロール抗体では阻害は観察されなかった。
【0125】
[実施例3]ラット抗ヒトOrai1抗体の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列の決定
3)−1 cDNA合成
R118およびR198の各抗体産生ハイブリドーマの細胞溶解液(50mM Tris−HCl(pH7.5)、250mM LiCl、5mM EDTA(pH8)、0.5%ドデシル硫酸Li(LiDS)、2.5mM dithiothreitol(DTT))を、オリゴdT25が結合した磁気ビーズ(Dynabeads mRNA DIRECT Kit、Invitrogen社)と混合し、mRNAを磁気ビーズに結合させた。次に磁気ビーズをmRNA洗浄溶液A(10mM Tris−HCl(pH7.5)、0.15M LiCl、1mM EDTA、0.1% LiDS、0.1% TritonX−100)とcDNA合成用溶液(50mM Tris−HCl(pH8.3)、75mM KCl、3mM MgCl
2、5mM DTT、0.5mM dNTP、0.2% TritonX−100、1.2unit RNase inhibitor(Life Technologies社)で1回ずつ洗浄した後、12unit SuperScriptIII Reverse Transcriptase(Life Technologies社)を加えたcDNA合成用溶液でcDNA合成を行った。続いて3’テーリング反応溶液(50mM リン酸カリウム、4mM MgCl
2、0.5mM dGTP、0.2% TritonX−100、1.2unit RNase inhibitor(Life Technologies社))で洗浄した後、48unit Terminal Transferase, recombinant(Roche社)を加えた反応溶液で3’テーリング反応を行った。
【0126】
3)−2 ラット免疫グロブリン重、軽鎖可変領域遺伝子断片の増幅および配列決定
磁気ビーズをTE溶液(10mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.1% TritonX−100)にて洗浄後、5’−RACE PCR法を用いてラット免疫グロブリン重鎖および軽鎖遺伝子の増幅を行った。即ち、磁気ビーズをPCR反応溶液(0.2μM プライマー、0.2mM dNTP、0.25unit PrimeSTAR HS DNA Polymerase(TAKARA社))に移し、94℃30秒−68℃90秒の反応を35サイクル行った。用いたプライマーセットは下記の通り。
【0127】
PCRプライマーセット(重鎖用)
5’−GCTAGCGCTACCGGACTCAGATCCCCCCCCCCCCCDN−3’(Nhe−polyC−S)(配列番号3)
5’−TCACTGAGCTGGTGAGAGTGTAGAGCCC−3’(rIgγ−AS1)(配列番号4)
5’−TCACCGAGCTGCTGAGGGTGTAGAGCCC−3’(rIgγ−AS2)(配列番号5)
PCRプライマーセット(軽鎖用)
5’−GCTAGCGCTACCGGACTCAGATCCCCCCCCCCCCCDN−3’(Nhe−polyC−S)(配列番号6)(重鎖用と同じ)
5’−TCAGTAACACTGTCCAGGACACCATCTC−3’(rIgκ−AS)(配列番号7)
上記PCR反応により増幅した断片について、塩基配列のシーケンス解析を実施した。重鎖用シーケンスプライマーとして5’−CTGGCTCAGGGAAATAGCC−3’(rIgγ−seq)(配列番号8)、軽鎖用シーケンスプライマーとして5’−TCCAGTTGCTAACTGTTCC−3’(rIgκ−seq)(配列番号9)の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをそれぞれ用いた。
シークエンス解析は遺伝子配列解析装置(「ABI PRISM 3700 DNA Analyzer;Applied Biosystems」あるいは「Applied Biosystems 3730xl Analyzer;Applied Biosystems」)を用いて実施し、シークエンス反応は、Dye Terminator Cycle Sequencing System with AmpliTaq DNA polymerase(Life Technologies社)およびGeneAmp 9700(Applied Biosystems社)を用いた。
【0128】
決定されたR118およびR198の重、軽鎖の可変領域をコードするヌクレオチド配列を配列表の配列番号10(R118軽鎖)、12(R118重鎖)配列番号14(R198軽鎖)および16(R198重鎖)にそれぞれ示した。また、該可変領域のアミノ酸配列を、配列表の配列番号11(R118軽鎖)、13(R118重鎖)、配列番号15(R198軽鎖)および17(R198重鎖)にそれぞれ示した。配列番号10および11は
図14に、配列番号12および13は
図15に、配列番号14および15は
図16に、配列番号16および17は
図17に、それぞれ記載されている。
【0129】
[実施例4]ヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体の作製
4)−1 キメラ化およびヒト化軽鎖発現ベクターpCMA−LKの構築
プラスミドpcDNA3.3−TOPO/LacZ(Life Technologies社)を制限酵素XbaIおよびPmeIで消化して得られる約5.4kbのフラグメントと、配列表の配列番号18に示されるヒトκ鎖分泌シグナルおよびヒトκ鎖定常領域をコードする配列を含むDNA断片をIn−Fusion Advantage PCRクローニングキット(CLONTECH社)を用いて結合して、pcDNA3.3/LKを作製した。
【0130】
pcDNA3.3/LKを鋳型として、下記プライマーセットでPCRを行い、得られた約3.8kbのフラグメントをリン酸化後セルフライゲーションすることによりCMVプロモーターの下流にシグナル配列、クローニングサイト、およびヒトκ鎖定常領域を持つ、キメラおよびヒト化抗体軽鎖発現ベクターpCMA−LKを構築した。
プライマーセット
5‘−TATACCGTCGACCTCTAGCTAGAGCTTGGC−3’(配列番号19:プライマー 3.3−F1)
5‘−GCTATGGCAGGGCCTGCCGCCCCGACGTTG−3’(配列番号20:プライマー 3.3−R1)
4)−2 キメラ化およびヒト化IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA−G1の構築
pCMA−LKをXbaIおよびPmeIで消化してκ鎖分泌シグナルおよびヒトκ鎖定常領域を取り除いたDNA断片と、配列表の配列番号21に示されるヒト重鎖シグナル配列およびヒトIgG1定常領域のアミノ酸をコードする配列を含むDNA断片をIn−Fusion Advantage PCRクローニングキットを用いて結合して、CMVプロモーターの下流にシグナル配列、クローニングサイト、ヒトIgG1重鎖定常領域をもつキメラおよびヒト化抗体IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA−G1を構築した。
【0131】
4)−3 ヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体軽鎖発現ベクターの構築
4)−3−1 ヒトキメラ化R118軽鎖cR118_L発現ベクターの構築
実施例3)−2で得られたR118軽鎖の可変領域を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。キメラ化およびヒト化抗体軽鎖発現汎用ベクターpCMA−LKを制限酵素XbaIおよびPmeIで切断して得た約3.4kbのDNA断片に、R118軽鎖の可変領域を含むDNA断片を同様の制限酵素で切断して得た約0.7kbのDNA断片をLigation High ver.2(TOYOBO社)を用いて挿入することにより、ヒトキメラ化R118軽鎖(cR118_L)発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−LK/cR118_L」と命名した。ヒトキメラ化cR118軽鎖をコードするヌクレオチド配列および該軽鎖のアミノ酸配列を、配列表の配列番号22および23(
図18)にそれぞれ示す。
【0132】
4)−3−2 ヒトキメラ化R198軽鎖cR198_L発現ベクターの構築
実施例3)−2で得られたR198軽鎖の可変領域を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。キメラ化およびヒト化抗体軽鎖発現汎用ベクターpCMA−LKを制限酵素XbaIおよびPmeIで切断して得た約3.4kbのDNA断片に、R198軽鎖の可変領域を含むDNA断片を同様の制限酵素で切断して得た約0.7kbのDNA断片をLigation High ver.2(TOYOBO社)を用いて挿入することにより、ヒトキメラ化R198軽鎖(cR198_L)発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−LK/cR198_L」と命名した。ヒトキメラ化cR198軽鎖をコードするヌクレオチド配列および該軽鎖のアミノ酸配列を、配列表の配列番号24および25(
図19)にそれぞれ示す。
【0133】
4)−4 ヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体重鎖発現ベクターの構築
4)−4−1 ヒトキメラ化R118重鎖cR118_H発現ベクターの構築
実施例3)−2で得られたR118重鎖の可変領域を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。キメラ化およびヒト化IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA−G1を制限酵素BlpIで切断して得た約4.5kbのDNA断片に、R118重鎖の可変領域を含むDNA断片を同様の制限酵素で切断して得た約0.3kbのDNA断片をLigation High ver.2を用いて挿入することにより、ヒトキメラ化R118重鎖(cR118_H)発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G1/cR118_H」と命名した。ヒトキメラ化cR118重鎖をコードするヌクレオチド配列および該重鎖のアミノ酸配列を、配列表の配列番号26および27(
図20)にそれぞれ示す。
【0134】
4)−4−2 ヒトキメラ化R198重鎖cR198_H発現ベクターの構築
実施例3)−2で得られたR198重鎖の可変領域を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。キメラ化およびヒト化IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA−G1を制限酵素BlpIで切断して得た約4.5kbのDNA断片に、R198重鎖の可変領域を含むDNA断片を同様の制限酵素で切断して得た約0.3kbのDNA断片をLigation High ver.2を用いて挿入することにより、ヒトキメラ化R198重鎖(cR198_H)発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G1/cR198_H」と命名した。ヒトキメラ化cR198重鎖をコードするヌクレオチド配列および該重鎖のアミノ酸配列を、配列表の配列番号28および29(
図21)にそれぞれ示す。
【0135】
4)−5 ヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体の調製
4)−5−1 ヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体の生産
FreeStyle 293F細胞(Life Technologies社)はマニュアルに従い、継代、培養を行った。
【0136】
対数増殖期の10
7個のFreeStyle 293F細胞(Life Technologies社)を30mLボトル(Thermo Fisher社)に播種し、FreeStyle293 expression medium (Life Technologies社)で希釈して9mLに調製したのちに、37℃、8% CO
2インキュベーター内にて135rpmで一時間振とう培養した。Polyethyleneimine(Polyscience #24765)30μgをOpti−Pro SFM(Life Technologies社)500μLに溶解し、次にQIAGEN Plasmid Maxi Kit(QIAGEN社)を用いて調製したヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体重鎖発現ベクター(4μg)およびヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体軽鎖発現ベクター(6μg)を500μLのOpti−Pro SFMに懸濁した。Polyethyleneimine/Opti−Pro SFM混合液500μLに、発現ベクター/Opti−Pro SFM混合液500μLを加え穏やかに攪拌し、さらに5分間放置した後にFreeStyle 293F細胞に添加した。37℃、8% CO
2インキュベーターで5−7日間、95rpmで振とう培養して得られた培養上清を0.22μmマイレクスフィルター(Millipore社)でろ過した。
【0137】
pCMA−G1/cR118_HとpCMA−LK/cR118_Lとの組合せによって取得されたヒトキメラ化R118を「cR118」と命名した。同様にpCMA−G1/cR198_HとpCMA−LK/cR198_Hとの組合せによって取得されたヒトキメラ化R198を「cR198」と命名した。
【0138】
4)−5−2 ヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体の精製
4)−5−1で得られた培養上清を、rProteinAアフィニティークロマトグラフィー一段階工程で精製した。最初に、培養上清10mLを、PBSで平衡化したMabSelectSuRe(GE Healthcare Bioscience社)にアプライした。培養液がカラムに全て入ったのち、PBS 7mLでカラムを洗浄した。次に2M Arginine−HCl pH4.0 5mLで溶出し、その溶出液を、PD−10脱塩カラム(GE Healthcare Bioscience社)でヒスチジンバッファー(25mM Histidine、5% Sorbitor、pH6.0) 4mLに置換した。最後にAmicon Ultracel 30K(分画分子量30K,Millipore社)にて約100μLに濃縮し、精製サンプルとした。
【0139】
[実施例5]ヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体のin vitro活性
5)−1 フローサイトメトリーによるヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体の抗原結合活性
ヒトOrai1に対する結合特異性を評価するため、1)−4−1で示す方法により作製したpcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞懸濁液あるいはpcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞懸濁液を遠心し、上清を除去した後、それぞれに対し4)−5で作製した、ヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体であるcR118、cR198、あるいはヒトIgGコントロール抗体(Jackson Immunoresearch社)を加えて懸濁し、4℃で30分静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、5% FBS含有PBSで100倍に希釈したAnti−human IgG FITC conjugate(Jackson Immunoresearch社)を加えて懸濁し、4℃で30分静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、1μg/mL Propidium iodide(Invitrogen社)を含む5% FBS含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(FC500)で検出を行った。データ解析はFlowjoで行った。Propidium iodide陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞のFITC蛍光強度のヒストグラムを作成し、平均蛍光強度(MFI)を算出した。cR118およびcR198は、pcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞には結合せず、
図3に示すとおりpcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞にのみ濃度依存的に結合したことから、特異的にヒトOrai1に結合することが示された。一方、ヒトIgGコントロール抗体では結合は観察されなかった。
【0140】
5)−2 ヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体のヒトT細胞株活性化抑制作用
ヒトT細胞株であるJurkat細胞を、10% FBS、100U/mL Penicillinおよび100μg/mL Streptomycinを含むRPMI1640で1.5x10
6cells/mLの濃度に調製し、96−wells細胞培養プレートに80μLずつ播種し、ヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体であるcR198およびcR118と親抗体のR198、R118、あるいはヒトIgG コントロール抗体を10μL/well添加して37℃、5% CO
2下で60分間前処置した。その後、100ng/mL PMAおよび1μg/mL A23187を10μL/well添加し、よく攪拌した後、約16時間37℃、5% CO
2下で培養した。プレートをよく攪拌した後、600gにて3分間遠心し、上清に含まれるIL−2濃度をELISA法で測定した 。
図4は作製したヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体がPMAおよびA23187処理されたJurkat細胞からのIL−2の放出を添加濃度依存的に抑制することを示す。cR118およびcR198はJurkat細胞からのIL−2の放出を添加濃度依存的に阻害し、その阻害強度は親抗体であるR198と同等であった。一方、ヒトIgGコントロール抗体では阻害は観察されなかった。
【0141】
[実施例6]ヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体cR198のヒト化バージョンhR198の設計
6)−1 R198の可変領域の分子モデリング
cR198の可変領域の分子モデリングは、相同性モデリングとして一般的に公知の方法(Methods in Enzymology,203,121−153,(1991))によって実行された。Protein Data Bank(Nuc.Acid Res.28,235−242(2000))に登録されるヒト免疫グロブリンの可変領域の1次配列(X線結晶構造から誘導される三次元構造が入手可能である)を、上で決定されたR198の可変領域と比較した。結果として、1AJ7が、cR198の軽鎖の可変領域に対して最も高い配列相同性を有するとして選択された。また、1XGYが、cR198の重鎖の可変領域に対して最も高い配列相同性を有するとして選択された。フレームワーク領域の三次元構造は、cR198の軽鎖および重鎖に対応する1AJ7および1XGYの座標を組み合わせて、「フレームワークモデル」を得ることによって作製された。cR198のCDRは、Thornton et al.(J.Mol.Biol.,263,800−815,(1996))の分類に従って、CDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1およびCDRH2は、それぞれクラスター11A、7A、9A、10A、10Aに割り当てられた。CDRH3は、H3ルール(FEBS letter 399,1−8(1996))を使用して、k(6)−に分類された。次いで、それぞれのCDRについての代表的なコンホメーションがフレームワークモデルに組み込まれた。
【0142】
最後に、エネルギーの点でcR198の可変領域の可能性のある分子モデルを得るために、不利な原子間接触を除くためのエネルギー計算を行った。上記手順を、市販の蛋白質立体構造予測プログラムPrimeおよび配座探索プログラムMacroModel(Schrodinger,LLC)を使用して行った。
【0143】
6)−2 ヒト化R198に対するアミノ酸配列の設計
ヒト化R198抗体の構築を、CDRグラフティング(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029−10033(1989))として一般的に公知の方法によって行った。アクセプター抗体は、フレームワーク領域内のアミノ酸相同性に基づいて選択された。
【0144】
cR198のフレームワーク領域の配列を、抗体のアミノ酸配列のKabatデータベース(Nuc.Acid Res.29,205−206(2001))の全てのヒトフレームワークと比較し、結果として、1C10’CL抗体がフレームワーク領域についての71%の配列相同性に起因して、アクセプターとして選択された。1C10’CLについてのフレームワーク領域のアミノ酸残基を、cR198についてのアミノ酸残基と整列させ、異なるアミノ酸が使用される位置を同定した。これらの残基の位置は、上で構築されたcR198の三次元モデルを使用して分析され、そしてアクセプター上にグラフティングされるべきドナー残基が、Queen et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029−10033(1989))によって与えられる基準によって選択された。
【0145】
選択されたいくつかのドナー残基をアクセプター抗体に移入することによって、ヒト化R198配列を以下の実施例に記載されるように構築した。
【0146】
また、cR198の各CDR、FR中の1乃至5個のアミノ酸残基をcR118のアミノ酸残基に置換したCDR改変ヒト化R198配列についても以下の実施例に記載されるように構築した。
【0147】
6)−3 ヒト化R198軽鎖hR198_Lの設計
6)−3−1 hR198_L1タイプ軽鎖:
配列表の配列番号25に示されるcR198軽鎖のアミノ酸番号30番目のトレオニン残基をセリン残基に、32番目のプロリン残基をセリン残基に、35番目のロイシン残基をバリン残基に、37番目のグルタミン酸残基をアスパラギン酸残基に、42番目のセリン残基をトレオニン残基に、61番目のアスパラギン酸残基をグリシン残基に、62番目のグリシン残基をリシン残基に、63番目のセリン残基をアラニン残基に、64番目のバリン残基をプロリン残基に、92番目のセリン残基をトレオニン残基に、94番目のセリン残基をトレオニン残基に、96番目のトレオニン残基をセリン残基に、99番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基に、100番目のセリン残基をプロリン残基に、120番目のトレオニン残基をグルタミン残基に、124番目のロイシン残基をバリン残基に、126番目のロイシン残基をイソロイシン残基に、127番目のアルギニン残基をリシン残基に、129番目のアラニン残基をトレオニン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198軽鎖を「hR198_L1タイプ軽鎖」と命名した。
【0148】
hR198_L1タイプ軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号30であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖をコードするのはヌクレオチド番号61乃至702であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号61乃至378である。また、hR198_L1タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号31であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖はそのアミノ酸番号21乃至234からなり、可変領域はそのアミノ酸番号21乃至126からなる。さらに、配列番号30および31の配列は、それぞれ
図22にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0149】
6)−3−2 hR198_L2タイプ軽鎖:
配列表の配列番号25に示されるcR198軽鎖のアミノ酸番号アミノ酸番号30番目のトレオニン残基をセリン残基に、32番目のプロリン残基をセリン残基に、35番目のロイシン残基をバリン残基に、37番目のグルタミン酸残基をアスパラギン酸残基に、42番目のセリン残基をトレオニン残基に、61番目のアスパラギン酸残基をグリシン残基に、62番目のグリシン残基をリシン残基に、63番目のセリン残基をアラニン残基に、92番目のセリン残基をトレオニン残基に、94番目のセリン残基をトレオニン残基に、96番目のトレオニン残基をセリン残基に、99番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基に、100番目のセリン残基をプロリン残基に、120番目のトレオニン残基をグルタミン残基に、124番目のロイシン残基をバリン残基に、126番目のロイシン残基をイソロイシン残基に、127番目のアルギニン残基をリシン残基に、129番目のアラニン残基をトレオニン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198軽鎖を「hR198_L2タイプ軽鎖」と命名した。
【0150】
hR198_L2タイプ軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号32であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖をコードするのはヌクレオチド番号61乃至702であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号61乃至378である。また、hR198_L2タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号33であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖はそのアミノ酸番号21乃至234からなり、可変領域はそのアミノ酸番号21乃至126からなる。さらに、配列番号32および33の配列は、それぞれ
図23にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0151】
6)−3−3 hR198_L3タイプ軽鎖:
配列表の配列番号25に示されるcR198軽鎖のアミノ酸番号アミノ酸番号30番目のトレオニン残基をセリン残基に、32番目のプロリン残基をセリン残基に、35番目のロイシン残基をバリン残基に、37番目のグルタミン酸残基をアスパラギン酸残基に、42番目のセリン残基をトレオニン残基に、61番目のアスパラギン酸残基をグリシン残基に、62番目のグリシン残基をリシン残基に、63番目のセリン残基をアラニン残基に、64番目のバリン残基をプロリン残基に、92番目のセリン残基をトレオニン残基に、94番目のセリン残基をトレオニン残基に、96番目のトレオニン残基をセリン残基に、99番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基に、100番目のセリン残基をプロリン残基に、114番目のチロシン残基をフェニルアラニン残基に、120番目のトレオニン残基をグルタミン残基に、124番目のロイシン残基をバリン残基に、126番目のロイシン残基をイソロイシン残基に、127番目のアルギニン残基をリシン残基に、129番目のアラニン残基をトレオニン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198軽鎖を「hR198_L3タイプ軽鎖」と命名した。
【0152】
hR198_L3タイプ軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号34であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖をコードするのはヌクレオチド番号61乃至702であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号61乃至378である。また、hR198_L3タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号35であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖はそのアミノ酸番号21乃至234からなり、可変領域はそのアミノ酸番号21乃至126からなる。さらに、配列番号34および35の配列は、それぞれ
図24にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0153】
6)−3−4 hR198_L4タイプ軽鎖:
配列表の配列番号25に示されるcR198軽鎖のアミノ酸番号アミノ酸番号30番目のトレオニン残基をセリン残基に、32番目のプロリン残基をセリン残基に、35番目のロイシン残基をバリン残基に、37番目のグルタミン酸残基をアスパラギン酸残基に、42番目のセリン残基をトレオニン残基に、61番目のアスパラギン酸残基をグリシン残基に、62番目のグリシン残基をリシン残基に、63番目のセリン残基をアラニン残基に、92番目のセリン残基をトレオニン残基に、94番目のセリン残基をトレオニン残基に、96番目のトレオニン残基をセリン残基に、99番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基に、100番目のセリン残基をプロリン残基に、114番目のチロシン残基をフェニルアラニン残基に、120番目のトレオニン残基をグルタミン残基に、124番目のロイシン残基をバリン残基に、126番目のロイシン残基をイソロイシン残基に、127番目のアルギニン残基をリシン残基に、129番目のアラニン残基をトレオニン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198軽鎖を「hR198_L4タイプ軽鎖」と命名した。
【0154】
hR198_L4タイプ軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号36であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖をコードするのはヌクレオチド番号61乃至702であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号61乃至378である。また、hR198_L4タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号37であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖はそのアミノ酸番号21乃至234からなり、可変領域はそのアミノ酸番号21乃至126からなる。さらに、配列番号36および37の配列は、それぞれ
図25にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0155】
6)−4 ヒト化R198重鎖hR198_Hの設計
6)−4−1 hR198_H1タイプ重鎖:
配列表の配列番号29に示されるcR198重鎖のアミノ酸番号24番目のグルタミン残基をバリン残基に、30番目のロイシン残基をバリン残基に、31番目のアラニン残基をリシン残基に、35番目のセリン残基をアラニン残基に、37番目のメチオニン残基をバリン残基に、39番目のイソロイシン残基をバリン残基に、56番目のイソロイシン残基をバリン残基に、57番目のリシン残基をアルギニン残基に、59番目のトレオニン残基をアラニン残基に、60番目のトレオニン残基をプロリン残基に、86番目のリシン残基をアルギニン残基に、95番目のセリン残基をトレオニン残基に、99番目のフェニルアラニン残基をチロシン残基に、101番目のグルタミン残基をグルタミン酸残基に、106番目のトレオニン残基をアルギニン残基に、107番目のプロリン残基をセリン残基に、108番目のアスパラギン酸残基をグルタミン酸残基に、110番目のセリン残基をトレオニン残基に、130番目のバリン残基をトレオニン残基に、131番目のメチオニン残基をロイシン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198重鎖を「hR198_H1タイプ重鎖」と命名した。
【0156】
hR198_H1タイプ重鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号38であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖をコードするのはヌクレオチド番号58乃至1398であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号58乃至408である。また、hR198_H1タイプ重鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号39であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖はそのアミノ酸番号20乃至466からなり、可変領域はそのアミノ酸番号20乃至136からなる。さらに、配列番号38および39の配列は、それぞれ
図26にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0157】
6)−4−2 hR198_H2タイプ重鎖:
配列表の配列番号29に示されるcR198重鎖のアミノ酸番号24番目のグルタミン残基をバリン残基に、30番目のロイシン残基をバリン残基に、31番目のアラニン残基をリシン残基に、35番目のセリン残基をアラニン残基に、37番目のメチオニン残基をバリン残基に、39番目のイソロイシン残基をバリン残基に、57番目のリシン残基をアルギニン残基に、59番目のトレオニン残基をアラニン残基に、60番目のトレオニン残基をプロリン残基に、86番目のリシン残基をアルギニン残基に、95番目のセリン残基をトレオニン残基に、99番目のフェニルアラニン残基をチロシン残基に、101番目のグルタミン残基をグルタミン酸残基に、106番目のトレオニン残基をアルギニン残基に、107番目のプロリン残基をセリン残基に、108番目のアスパラギン酸残基をグルタミン酸残基に、110番目のセリン残基をトレオニン残基に、130番目のバリン残基をトレオニン残基に、131番目のメチオニン残基をロイシン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198重鎖を「hR198_H2タイプ重鎖」と命名した。
【0158】
hR198_H2タイプ重鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号40であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖をコードするのはヌクレオチド番号58乃至1398であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号58乃至408である。また、hR198_H2タイプ重鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号41であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖はそのアミノ酸番号20乃至466からなり、可変領域はそのアミノ酸番号20乃至136からなる。さらに、配列番号40および41の配列は、それぞれ
図27にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0159】
6)−4−3 hR198_H3タイプ重鎖:
配列表の配列番号29に示されるcR198重鎖のアミノ酸番号24番目のグルタミン残基をバリン残基に、30番目のロイシン残基をバリン残基に、31番目のアラニン残基をリシン残基に、35番目のセリン残基をアラニン残基に、37番目のメチオニン残基をバリン残基に、39番目のイソロイシン残基をバリン残基に、50番目のセリン残基をアラニン残基に、56番目のイソロイシン残基をバリン残基に、57番目のリシン残基をアルギニン残基に、59番目のトレオニン残基をアラニン残基に、60番目のトレオニン残基をプロリン残基に、67番目のイソロイシン残基をバリン残基に、70番目のバリン残基をイソロイシン残基に、81番目のグルタミン酸をアラニン残基に、82番目のリシン残基をアルギニン残基に、86番目のリシン残基をアルギニン残基に、95番目のセリン残基をトレオニン残基に、99番目のフェニルアラニン残基をチロシン残基に、101番目のグルタミン残基をグルタミン酸残基に、106番目のトレオニン残基をアルギニン残基に、107番目のプロリン残基をセリン残基に、108番目のアスパラギン酸残基をグルタミン酸残基に、110番目のセリン残基をトレオニン残基に、130番目のバリン残基をトレオニン残基に、131番目のメチオニン残基をロイシン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198重鎖を「hR198_H3タイプ重鎖」と命名した。
【0160】
hR198_H3タイプ重鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号42であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖をコードするのはヌクレオチド番号58乃至1398であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号58乃至408である。また、hR198_H3タイプ重鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号43であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖はそのアミノ酸番号20乃至466からなり、可変領域はそのアミノ酸番号20乃至136からなる。さらに、配列番号42および43の配列は、それぞれ
図28にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0161】
6)−4−4 hR198_H4タイプ重鎖:
配列表の配列番号29に示されるcR198重鎖のアミノ酸番号24番目のグルタミン残基をバリン残基に、30番目のロイシン残基をバリン残基に、31番目のアラニン残基をリシン残基に、35番目のセリン残基をアラニン残基に、37番目のメチオニン残基をバリン残基に、39番目のイソロイシン残基をバリン残基に、50番目のセリン残基をアラニン残基に、57番目のリシン残基をアルギニン残基に、59番目のトレオニン残基をアラニン残基に、60番目のトレオニン残基をプロリン残基に、67番目のイソロイシン残基をバリン残基に、70番目のバリン残基をイソロイシン残基に、81番目のグルタミン酸をアラニン残基に、82番目のリシン残基をアルギニン残基に、86番目のリシン残基をアルギニン残基に、95番目のセリン残基をトレオニン残基に、99番目のフェニルアラニン残基をチロシン残基に、101番目のグルタミン残基をグルタミン酸残基に、106番目のトレオニン残基をアルギニン残基に、107番目のプロリン残基をセリン残基に、108番目のアスパラギン酸残基をグルタミン酸残基に、110番目のセリン残基をトレオニン残基に、130番目のバリン残基をトレオニン残基に、131番目のメチオニン残基をロイシン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198重鎖を「hR198_H4タイプ重鎖」と命名した。
【0162】
hR198_H4タイプ重鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号44であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖をコードするのはヌクレオチド番号58乃至1398であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号58乃至408である。また、hR198_H4タイプ重鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号45であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖はそのアミノ酸番号20乃至466からなり、可変領域はそのアミノ酸番号20乃至136からなる。さらに、配列番号44および45の配列は、それぞれ
図29にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0163】
[実施例7]ヒト化抗ヒトOrai1抗体の作製
7)−1ヒト化抗ヒトOrai1抗体軽鎖hR198_L発現ベクターの構築
7)−1−1 hR198_L1発現ベクターの構築
配列表の配列番号30に示されるhR198_L1のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号38乃至402に示されるhR198_L1の可変領域をコードする配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。合成したDNA断片を制限酵素AvaIおよびEcoRVで切断し、キメラおよびヒト化抗体軽鎖発現ベクターpCMA−LKを同じ制限酵素で切断した箇所に挿入することによりhR198_L1発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−LK/hR198_L1」と命名した。
【0164】
7)−1−2 hR198_L2発現ベクターの構築
配列表の配列番号32に示されるhR198_L2のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号38乃至402に示されるL2の可変領域をコードする配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。合成したDNA断片をテンプレートとして、KOD−Plus−(TOYOBO社)でL2の可変領域をコードする配列を含むDNA断片を増幅して制限酵素BsiWIで切断し、キメラおよびヒト化抗体軽鎖発現ベクターpCMA−LKを制限酵素BsiWIで切断した箇所に挿入することによりL2発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−LK/L2」と命名した。
【0165】
7)−1−3 hR198_L3およびhR198_L4発現ベクターの構築
配列表の配列番号36に示されるhR198_L4のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号38乃至402に示されるhR198_L4の可変領域をコードする配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。実施例7−1−2)と同様の方法によりhR198_L4発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−LK/hR198_L4」と命名した。
【0166】
pCMA−G1/hR198_L4をテンプレートにして、QuikChange Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)を用いて、アミノ酸番号64番目のバリン残基をプロリン残基に置き換える変異を導入した。配列表の配列番号34に示されるヌクレオチド配列を含む得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hR198_L3」と命名した。
【0167】
7)−2 ヒト化抗ヒトOrai1抗体重鎖hR198_H発現ベクターの構築
7)−2−1 hR198_H1およびhR198_H2発現ベクターの構築
抗Orai1抗体重鎖hR198のヒト化候補とした配列表の配列番号111に示されるH0のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至425に示されるH0の可変領域をコードする配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。合成したDNA断片をテンプレートとして、KOD−Plus−でH0の可変領域をコードする配列を含むDNA断片を増幅し、キメラおよびヒト化抗体IgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA−G1を制限酵素BlpIで切断した箇所にIn−Fusion HD PCRクローニングキット(CLONTECH社)を用いて挿入することによりH0発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G1/R198_H0」と命名した。H0のアミノ酸配列は、配列番号112に示されている。
【0168】
次にpCMA−G1/R198_H0をテンプレートにして、KOD −Plus− mutagenesis kit(TOYOBO社)を用いて、アミノ酸番号66番目のトリプトファン残基をチロシン残基に置き換える変異を導入した。配列表の配列番号40に示されるヌクレオチド配列を含む得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hR198_H2」と命名した。
【0169】
次にpCMA−G1/R198_H2をテンプレートにして、QuikChange Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)と下記プライマーセットを用いてアミノ酸番号56番目のイソロイシン残基をバリン残基に置き換える変異を導入した。配列表の配列番号38に示されるヌクレオチド配列を含む得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hR198_H1」と命名した。
【0170】
7)−2−2 hR198_H3およびhR198_H4発現ベクターの構築
抗Orai1抗体重鎖hR198のヒト化候補とした配列表の配列番号113に示されるH5のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至425に示されるH5の可変領域をコードする配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。実施例7)−2−1と同様の方法でH5発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hR198_H5」と命名した。H5のアミノ酸配列は、配列番号114に示されている。
【0171】
次にpCMA−G1/H5をテンプレートにして、KOD −Plus− mutagenesis kitを用いて、アミノ酸番号66番目のトリプトファン残基、67番目のイソロイシン残基をそれぞれチロシン残基、バリン残基に置き換える変異を導入した。配列番号44に示されるヌクレオチド配列を含む得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hR198_H4」と命名した。
【0172】
次にpCMA−G1/hR198_H4をテンプレートにして、実施例7)−2−1と同様の方法でアミノ酸番号56番目のイソロイシン残基をバリン残基に置き換える変異を導入し、配列表の配列番号44に示されるヌクレオチド配列を含む得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hR198_H3」と命名した。
【0173】
7)−3 ヒト化抗ヒトOrai1抗体hR198の調製
4)−5−1と同様の方法によって、ヒト化抗ヒトOrai1抗体重鎖発現ベクターとヒト化抗ヒトOrai1抗体軽鎖発現ベクターをFreeStyle 293F細胞に遺伝子導入し、抗体を含む培養上清を得た。
【0174】
pCMA−G1/hR198_H1とpCMA−LK/hR198_L1、pCMA−G1/hR198_H2とpCMA−LK/hR198_L2、pCMA−G1/hR198_H3とpCMA−LK/hR198_L3、pCMA−G1/hR198_H4とpCMA−LK/hR198_L4との組合せによって取得されたヒト化抗ヒトOrai1抗体をそれぞれ、「hR198_H1/L1」、「hR198_H2/L2」、「hR198_H3/L3」、「hR198_H4/L4」と命名した。
【0175】
4)−5−2と同様の方法によって、得られた培養上清をrProteinAアフィニティークロマトグラフィーで精製し、精製抗体サンプルを得た。
【0176】
[実施例8]ヒト化抗ヒトOrai1抗体のin vitro活性
8)−1 フローサイトメトリーによるヒト化抗ヒトOrai1抗体の抗原結合活性
ヒトOrai1に対する結合特異性を評価するため、1)−4−1で示す方法により作製したpcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞懸濁液あるいはpcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞懸濁液を遠心し、上清を除去した後、それぞれに対し7)−5で作製したヒト化抗Orai1抗体hR198_H1/L1、hR198_H2/L2、hR198_H3/L3、hR198_H4/L4と、親抗体のcR118、cR198を加えて懸濁し、4℃で30分静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、5% FBS含有PBSで100倍に希釈したAnti−human IgG FITC conjugateを加えて懸濁し、4℃で30分静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、1μg/mL Propidium iodideを含む5% FBS含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(FC500)で検出を行った。データ解析はFlowjoで行った。Propidium iodide陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞のFITC蛍光強度のヒストグラムを作成し、平均蛍光強度(MFI)を算出した。ヒト化抗ヒトOrai1抗体hR198_H1/L1、hR198_H2/L2、hR198_H3/L3、hR198_H4/L4は親抗体のcR118、cR198と同様、pcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞には結合せず、
図5に示すとおりpcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞にのみ濃度依存的に結合したことから、特異的にヒトOrai1に結合することが示された。
【0177】
8)−2 ヒト化抗ヒトOrai1抗体のヒトT細胞株活性化抑制作用
ヒトT細胞株であるJurkat細胞を、10% FBS、100U/mL Penicillinおよび100μg/mL Streptomycinを含むRPMI1640で1.5x10
6cells/mLの濃度に調製し、96−wells細胞培養プレートに80μLずつ播種し、ヒト化抗ヒトOrai1抗体であるhH1/L1、hH2/L2、hH3/L3、hH4/L4、およびヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体であるcR118およびcR198を10μL/well添加して37℃、5% CO
2下で60分間前処置した。その後、100ng/mL PMAおよび1μg/mL A23187を10μL/well添加し、よく攪拌した後、約16時間37℃、5% CO
2下で培養した。プレートをよく攪拌した後、600gにて3分間遠心し、上清に含まれるIL−2濃度をELISA法で測定した 。
図6はヒト化抗ヒトOrai1抗体がPMAおよびA23187処理されたJurkat細胞からのIL−2の放出を添加濃度依存的に抑制することを示す。ヒト化抗ヒトOrai1抗体はJurkat細胞からのIL−2の放出を添加濃度依存的に阻害し、hH1/L1およびhH2/L2の阻害活性はヒトキメラ化抗ヒトOrai1抗体cR118およびcR198と同等であった。一方hH3/L3およびhH4/L4は、cR118およびcR198よりも低濃度で阻害活性を示した。
【0178】
[実施例9]リボソームディスプレイによる活性増強変異の同定
9)−1 H鎖およびL鎖ライブラリーの作製
ヒト化抗ヒトOrai1抗体hR198_H4/L4を鋳型として、H鎖またはL鎖に変異を導入したライブラリーを構築し、リボソームディスプレイによる活性増強変異の同定に供した。
9)−1−1 H鎖ライブラリーの作製
hR198_H4遺伝子を鋳型にして以下のプライマーセットとrTaq DNA polymerase(TOYOBO社)を用いて80サイクルのPCRを行い、当該遺伝子領域にランダムに変異を導入した。
プライマーセット
5’−ATGCAAGTCCAACTGGTTCAATC−3’ (配列番号46:プライマー Orai1 HF)
5’−TGACGGAGCCAGCGGGAAGAC−3’ (配列番号47:プライマー Orai1 CH FR)
次にランダムに変異を導入したH鎖遺伝子とT7プロモーターを含む5’UTR部位、および5’側にc−Mycを3’側にSecM配列を付加したTolA遺伝子断片を鋳型にして、以下のプライマーセットを用いてオーバーラップPCRを行い、H鎖ライブラリーを調製した。
プライマーセット
5’−CAGGAAACAGCTATGACCATG−3’ (配列番号48:プライマー M13 rev long)
5’−CTCGAGTTATTCATTAGGTGAGGCGTTGAGG−3’ (配列番号49:プライマー SecM Stop R)
9)−1−2 L鎖ライブラリーの作製
hR198_L4遺伝子を鋳型にして以下のプライマーセットとrTaq DNA polymeraseを用いて80サイクルのPCRを行い、当該遺伝子領域にランダムに変異を導入した。
プライマーセット
5’−ATGGACATTCAACTGACCCAAAGC−3’ (配列番号50:プライマー Orai1 Lc F)
5’−GATAAAAACACTCGGGGCCGCCAC−3’ (配列番号51:プライマー Orai1 CL−FR)
9)−1−1の記載と同様にランダムに変異を導入したL鎖遺伝子と上記2つの遺伝子断片を鋳型にして、オーバーラップPCRを行い、L鎖ライブラリーを調製した。
【0179】
9)−1−3 H鎖遺伝子断片の作製
hR198_H4遺伝子を鋳型にして以下のプライマーセットとKOD−Plus−を用いてPCRを行い、H鎖遺伝子領域を増幅した。
プライマーセット
5’−ATGCAAGTCCAACTGGTTCAATC−3’ (配列番号46:プライマー Orai1 HF)
5’−TCATTATTTGTCATCGTCATCTTTATAGTCGAATTCTTCGCCACGATTAAAGGATTTGGTGAC−3’ (配列番号52:プライマー Orai1 HR−FLAG R)
次に当該遺伝子断片とT7プロモーターを含む5’UTR部位鋳型にして以下のプライマーセットを用いてオーバーラップPCRを行い、H鎖遺伝子断片を調製した。
プライマーセット
5’−CAGGAAACAGCTATGACCATG−3’ (配列番号48:プライマー M13 rev long)
5’−TCATTATTTGTCATCGTCATCTTTATAGTCGAATTCTTCGCCACGATTAAAGGATTTGGTGAC−3’ (配列番号52:プライマー Orai1 HR−FLAG R)
9)−1−4 L鎖遺伝子断片の作製
hR198_L4遺伝子を鋳型にして以下のプライマーセットとKOD−Plus−を用いてPCRを行い、L鎖遺伝子領域を増幅した。
プライマーセット
5’−ATGGACATTCAACTGACCCAAAGC−3’ (配列番号50:プライマー Orai1 Lc F)
5’−TCATTATTTGTCATCGTCATCTTTATAGTCGAATTCTTCGCCACGATTAAAGGATTTGGTGAC−3’ (配列番号53:プライマー Orai1 CL−FLAG R)
次に9)−1−1の記載と同様にオーバーラップPCRを行い、L鎖遺伝子断片を調製した。
プライマーセット
5’−CAGGAAACAGCTATGACCATG−3’ (配列番号48:プライマー M13 rev long)
5’−TCATTATTTGTCATCGTCATCTTTATAGTCGAATTCTTCGCCACGATTAAAGGATTTGGTGAC−3’ (配列番号53:プライマー Orai1 CL−FLAG R)
9)−1−5 mRNAの調製
実施例9)−1−1乃至9)−1−4にて作製したライブラリーおよび遺伝子断片を鋳型にして、T7 RiboMax Express Large Scale RNA Production System(Promega社)でそれぞれのmRNAを合成した。
【0180】
9)−2 リボソームディスプレイによるスクリーニング
H鎖ライブラリーとL鎖遺伝子断片を組み合わせてH鎖リボソームディスプレイFabを、L鎖ライブラリーとH鎖遺伝子断片を組み合わせてL鎖リボソームディスプレイFabを調製した。PUREfrex反応液(GeneFrontier社)に20 pmolのH鎖(またはL鎖)ライブラリーmRNAと100 pmolのリボソームを加えて、30℃で45分間保温した。同様にPUREfrex反応液に40pmolのL鎖(またはH鎖)mRNAと200pmolのリボソームを加えて、30℃で45分間インキュベートした。次にH鎖(またはL鎖)ライブラリーおよびL鎖(またはH鎖)の翻訳後の反応液を混ぜ合わせ、30℃でさらに90分間保温することにより、H鎖(またはL鎖)リボソームディスプレイFabを調製し、その後4℃に冷却することで反応を停止した。続いて当該反応液に抗原を加え、4℃で1時間ゆるやかに攪拌することでFabと抗原との結合を行った。なお、抗原としては、1)−1−1で作製したpcDNA3.1−hOrai1を利用して樹立したヒトOrai1恒常発現CHO細胞をホルマリン固定処理したサンプル、もしくは以下に示されるビオチンPEG化ヒトOrai1ループ領域ペプチド(SIGMA社)を用いた。
【0181】
ビオチンPEG化ヒトOrai1ループ領域ペプチド
Biotin−PEG−SGSGFLPLKKQPGQPRPTSKPPASGAAANVSTSGITPGQAAAIASTTI (配列番号115)
抗原と結合したリボソームディスプレイFabをNonolink Streptavidin magnetic beads (SoluLink社)にて回収した。続いて抗原を50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、15mM Mg(OAc)
2、0.05% Tween20、1mg/mL yeast RNAおよび50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、15mM Mg(OAc)
2、0.05% Tween20にて洗浄した。その後抗原に50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、15mM Mg(OAc)
2、50 mM EDTAを添加し、室温で10分間静置後遠心によってmRNAを含む上清を回収した。回収したmRNAはTranscriptor High Fidelity cDNA Synthesis Kit(Roche社)によってcDNAとした後、下記プライマーセットおよびKOD −Plus−を用いてPCRを行ないDNAとして増幅した。当該DNAを鋳型にしてmRNAを合成し、さらに同様のスクリーニングに供した。当該スクリーニングサイクルを複数回実施することにより、抗原に強く結合する抗体遺伝子を選抜した。
プライマーセット
5’−ATGGACATTCAACTGACCCAAAGC−3’ (配列番号50:プライマー Orai1−LcF)
5’−CAGATCCTCCTCAGAGATCAGCTTCTGCTC−3’ (配列番号54:プライマー Myc−R)
9)−3 Fab蛋白質の調製
選抜した遺伝子を大腸菌発現用ベクターにサブクローニングし、ヒトOrai1恒常発現CHO細胞に対する結合性が向上したクローンをCell ELISAにてスクリーニングした。まず選抜後のDNAを制限酵素EcoRVおよびXhoIで切断し、同じ酵素で切断したFab発現用ベクター(GeneFrontier社)に挿入後大腸菌BL21(DE3)に導入した。当該形質転換体を丸底96wellプレート上で、1 wellあたり150μLのカルベニシリ/0.1% グルコース/2xYTで37℃にて4−5時間培養した。次にプレートを4℃まで冷やした後、終濃度0.5mMになるようにIPTGを添加し、30℃で一晩振とう培養した。次に遠心により菌体を回収した後、Lysis buffer(2.5mg/mL Lysotyme、100U DNaseI)を加え、室温にて60分間振とうした。続いて遠心により上清を回収し、Fab検体とした。
【0182】
9)−4 Cell ELISAによるスクリーニング
ヒトOrai1発現細胞を384プレートにフルシートに培養後、洗浄バッファー(PBS(−)、20mM MgSO
4、2.5% FBS)にて洗浄した。次にFab検体を当該プレートに加え、4℃で1時間振とうした。洗浄バッファーにて4回洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトF(ab’)
2ヤギ抗体(Jackson Immuno Research社)を加え、4℃で30分間振とうした。洗浄バッファーにて3回洗浄後、PBS(−)、20mM MgSO
4にて3回洗浄した。その後発色試薬(0.4mg/mL Tetramethyl−benzimine、 200mM 酢酸ナトリウム(pH3.4)、0.01% 過酸化水素水)を加え、室温で15分間振とうした。その後2N HClを加えた後、OD
450を測定した。コントロールのCHO細胞と比較し、ヒトOrai1恒常発現CHO細胞の方でより高いOD
450を示すFab検体を選抜した。
【0183】
9)−5 フローサイトメトリーによる抗ヒトOrai1抗体Fabの抗原結合活性
ヒトOrai1に対する結合特異性を評価するため、1)−4−1で示す方法により作製したpcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞懸濁液あるいはpcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞懸濁液を遠心し、上清を除去した後、それぞれに対し9)−4で選抜された軽鎖変異クローンLCDR60、LCDR67、LCDR83、CE151、PE057ならびに重鎖変異クローンHCDR046、HCDR047、HEP087、HEP124、HEP237と、親抗体FabのhR198_H4/L4―Fabを加えて懸濁し、4℃で30分静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、5% FBS含有PBSで100倍に希釈したAnti−human IgG FITC conjugateを加えて懸濁し、4℃で30分静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、1μg/mL Propidium iodideを含む5% FBS含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(FC500)で検出を行った。データ解析はFlowjoで行った。Propidium iodide陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞のFITC蛍光強度のヒストグラムを作成し、平均蛍光強度(MFI)を算出した。軽鎖変異クローンLCDR60、LCDR67、LCDR83、CE151、PE057ならびに重鎖変異クローンHCDR046、HCDR047、HEP087、HEP124、HEP237は親抗体FabのhR198_H4/L4―Fabと同様、pcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞には結合せず、
図7に示すとおりpcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞に対しては、親抗体Fabと比べて同等以上にヒトOrai1に結合する傾向が見られた。
【0184】
[実施例10]ヒト化抗ヒトOrai1抗体のアフィニティマチュレーション抗体の作製
実施例9)により選択された軽鎖変異クローンLCDR60、LCDR67、LCDR83、CE151、PE057ならびに重鎖変異クローンHCDR046、HCDR047、HEP087、HEP124、HEP237で認められた活性を増強する変異のうち、いくつかをhR198_H3/L3に移入することによって、100種類以上の改変hR198_H3/L3抗体を作製し、結合親和性、in vitro活性、生産性、ヒトに対する異種抗原性の観点から評価した。結果として、以下に示す抗体を選抜した。
【0185】
10)−1 ヒト化抗ヒトOrai1抗体のアフィニティマチュレーション抗体の設計
10)−1−1 hR198_LG1タイプ軽鎖:
配列表の配列番号35に示されるhR198_L3軽鎖のアミノ酸番号51番目のアスパラギン残基をグリシン残基に、113番目のトレオニン残基をイソロイシン残基に、117番目のトレオニン残基をセリン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198軽鎖を「hR198_LG1タイプ軽鎖」と命名した。
【0186】
hR198_LG1タイプ軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号55であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖をコードするのはヌクレオチド番号61乃至702であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号61乃至378である。また、hR198_LG1タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号56であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖はそのアミノ酸番号21乃至234からなり、可変領域はそのアミノ酸番号21乃至126からなる。さらに、配列番号55および56の配列は、それぞれ
図30にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0187】
10)−1−2 hR198_LG2タイプ軽鎖:
配列表の配列番号35に示されるhR198_L3軽鎖のアミノ酸番号44番目のアルギニン残基をヒスチジン残基に、48番目のセリン残基をアスパラギン残基に、51番目のアスパラギン残基をグリシン残基に、70番目のセリン残基をロイシン残基に、75番目のグルタミン酸残基をアスパラギン酸残基に、76番目のセリン残基をトリプトファン残基に、113番目のトレオニン残基をイソロイシン残基に、117番目のトレオニン残基をセリン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198軽鎖を「hR198_LG2タイプ軽鎖」と命名した。
【0188】
hR198_LG2タイプ軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号57であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖をコードするのはヌクレオチド番号61乃至702であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号61乃至378である。また、hR198_LG2タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号58であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖はそのアミノ酸番号21乃至234からなり、可変領域はそのアミノ酸番号21乃至126からなる。さらに、配列番号57および58の配列は、それぞれ
図31にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0189】
10)−1−3 hR198_LG3タイプ軽鎖:
配列表の配列番号35に示されるhR198_L3軽鎖のアミノ酸番号44番目のアルギニン残基をヒスチジン残基に、47番目のグルタミン残基をアルギニン残基に、48番目のセリン残基をアスパラギン残基に、51番目のアスパラギン残基をグリシン残基に、70番目のセリン残基をロイシン残基に、73番目のトレオニン残基をセリン残基に、75番目のグルタミン酸残基をアスパラギン酸残基に、76番目のセリン残基をトリプトファン残基に、113番目のトレオニン残基をイソロイシン残基に、117番目のトレオニン残基をセリン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198軽鎖を「hR198_LG3タイプ軽鎖」と命名した。
【0190】
hR198_LG3タイプ軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号59であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖をコードするのはヌクレオチド番号61乃至702であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号61乃至378である。また、hR198_LG3タイプ軽鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号60であり、シグナル配列が切除された成熟軽鎖はそのアミノ酸番号21乃至234からなり、可変領域はそのアミノ酸番号21乃至126からなる。さらに、配列番号59および60の配列は、それぞれ
図32にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0191】
10)−1−4 hR198_HG1タイプ重鎖:
配列表の配列番号43に示されるhR198_H3重鎖のアミノ酸番号78番目のアスパラギン残基をアスパラギン酸残基に、123番目のバリン残基をアラニン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198重鎖を「hR198_HG1タイプ軽鎖」と命名した。
【0192】
hR198_HG1タイプ重鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号61であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖をコードするのはヌクレオチド番号58乃至1398であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号58乃至408である。また、hR198_HG1タイプ重鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号62であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖はそのアミノ酸番号20乃至466からなり、可変領域はそのアミノ酸番号20乃至135からなる。さらに、配列番号61および62の配列は、それぞれ
図33にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0193】
10)−1−5 hR198_HG2タイプ重鎖:
配列表の配列番号43に示されるhR198_H3重鎖のアミノ酸番号48番目のバリン残基をイソロイシン残基に、78番目のアスパラギン残基をアスパラギン酸残基に、81番目のアラニン残基をグリシン残基に、123番目のバリン残基をアラニン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198重鎖を「hR198_HG2タイプ軽鎖」と命名した。
【0194】
hR198_HG2タイプ重鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号63であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖をコードするのはヌクレオチド番号58乃至1398であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号58乃至408である。また、hR198_HG2タイプ重鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号64であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖はそのアミノ酸番号20乃至466からなり、可変領域はそのアミノ酸番号20乃至135からなる。さらに、配列番号63および64の配列は、それぞれ
図34にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0195】
10)−1−6 hR198_HG3タイプ重鎖:
配列表の配列番号43に示されるhR198_H3重鎖のアミノ酸番号48番目のバリン残基をイソロイシン残基に、78番目のアスパラギン残基をアスパラギン酸残基に、81番目のアラニン残基をメチオニン残基に、123番目のバリン残基をアラニン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化R198重鎖を「hR198_HG3タイプ軽鎖」と命名した。
【0196】
hR198_HG3タイプ重鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列表の配列番号65であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖をコードするのはヌクレオチド番号58乃至1398であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号58乃至408である。また、hR198_HG3タイプ重鎖のアミノ酸配列は、配列表の配列番号66であり、シグナル配列が切除された成熟重鎖はそのアミノ酸番号20乃至466からなり、可変領域はそのアミノ酸番号20乃至135からなる。さらに、配列番号65および66の配列は、それぞれ
図35にも記載されている。各CDR配列および対応する配列番号は
図38に示されている。
【0197】
10)−2 ヒト化抗ヒトOrai1抗体のアフィニティマチュレーション抗体発現ベクターの作製
10)−2−1 hR198_LG1タイプ軽鎖発現ベクターの構築
pCMA−LK/hR198_L3をテンプレートにして、KOD−Plus−mutagenesisを用いて、アミノ酸番号51番目のアスパラギン残基をグリシン残基に、113番目のトレオニン残基をイソロイシン残基に、117番目のトレオニン残基をセリン残基に置き換える変異を導入した。配列表の配列番号55に示されるヌクレオチド配列を含む得られた発現ベクターを「pCMA−LK/hR198_LG1」と命名した。
【0198】
10)−2−2 hR198_LG2およびLG3タイプ軽鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号59に示されるLG3のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号38乃至402に示されるhR198_LG3の可変領域をコードする配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。合成したDNA断片を制限酵素EcoRVおよびAvaIで切断し、同じ制限酵素で切断したpCMA−LK/hR198_LG1に挿入することによりhR198_LG3発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−LK/hR198_LG3」と命名した。
【0199】
pCMA−LK/hR198_LG3をテンプレートにして、KOD−Plus−mutagenesisを用いて、アミノ酸番号47番目のアルギニン残基をグルタミン残基に、73番目のセリン残基をトレオニン残基に置き換える変異を導入した。配列表の配列番号57に示されるヌクレオチド配列を含む得られた発現ベクターを「pCMA−LK/hR198_LG2」と命名した。
【0200】
10)−2−3 hR198_HG1タイプ重鎖発現ベクターの構築
pCMA−G1/hR198_H3をテンプレートにして、KOD−Plus−mutagenesisを用いて、アミノ酸番号78番目のアスパラギン残基をアスパラギン酸残基に、123番目のバリン残基をアラニン残基に置き換える変異を導入した。配列表の配列番号61示されるヌクレオチド配列を含む得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hR198_HG1」と命名した。
【0201】
10)−2−4 hR198_HG2タイプ重鎖発現ベクターの構築
pCMA−G1/hR198_HG1をテンプレートにして、KOD−Plus−mutagenesisを用いて、アミノ酸番号48番目のバリン残基をイソロイシン残基に、81番目のアラニン残基をグリシン残基に置き換える変異を導入した。配列表の配列番号63に示されるヌクレオチド配列を含む得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hR198_HG2」と命名した。
【0202】
10)−2−5 hR198_HG3タイプ重鎖発現ベクターの構築
pCMA−G1/hR198_HG2をテンプレートにして、KOD−Plus−mutagenesisを用いて、アミノ酸番号81番目のグリシン残基をメチオニン残基に置き換える変異を導入した。配列表の配列番号65に示されるヌクレオチド配列を含む得られた発現ベクターを「pCMA−G1/hR198_HG3」と命名した。
【0203】
10)−3 ヒト化抗ヒトOrai1抗体のアフィニティマチュレーション抗体の調製
4)−5−1と同様の方法によって、10)−2で作製したヒト化抗ヒトOrai1抗体重鎖発現ベクターとヒト化抗ヒトOrai1抗体軽鎖発現ベクターをFreeStyle 293F細胞に遺伝子導入し、抗体を含む培養上清を得た。
【0204】
鋳型としたpCMA−G1/hR198_H3、変異を導入したpCMA−G1/hR198_HG1、pCMA−G1/hR198_HG2、pCMA−G1/hR198_HG3と、pCMA−LK/hR198_LG1、pCMA−LK/hR198_LG2、pCMA−LK/hR198_LG3との組合せによって取得されたヒト化抗ヒトOrai1抗体をそれぞれ、「hR198_H3/LG1」、「hR198_HG1/LG1」、「hR198_HG1/LG2」、「hR198_HG1/LG3」、「hR198_HG2/LG1」、「hR198_HG3/LG1」と命名した。
【0205】
4)−5−2と同様の方法によって、得られた培養上清をrProteinAアフィニティークロマトグラフィーで精製し、精製抗体サンプルを得た。
【0206】
[実施例11]アフィニティマチュレーション抗体のin vitro活性
11)−1 フローサイトメトリーによるアフィニティマチュレーション抗体の結合能評価
ヒトOrai1に対する結合特異性を評価するため、1)−4−1で示す方法により作製したpcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞懸濁液あるいはpcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞懸濁液を遠心し、上清を除去した後、それぞれに対し10)−3で作製したアフィニティマチュレーション抗体のhR198_H3/LG1、hR198_HG1/LG1、hR198_HG1/LG2、hR198_HG1/LG3、hR198_HG2/LG1、hR198_HG3/LG1と、親抗体のhR198_H3/L3、hR198_H4/L4を加えて懸濁し、4℃で30分静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、5% FBS含有PBSで100倍に希釈したAnti−human IgG FITC conjugateを加えて懸濁し、4℃で30分静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、1μg/mL Propidium iodideを含む5% FBS含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(FC500)で検出を行った。データ解析はFlowjoで行った。Propidium iodide陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞のFITC蛍光強度のヒストグラムを作成し、平均蛍光強度(MFI)を算出した。アフィニティマチュレーション抗体hR198_H3/LG1、hR198_HG1/LG1、hR198_HG1/LG2、hR198_HG1/LG3、hR198_HG2/LG1、hR198_HG3/LG1は、親抗体であるhR198_H3/L3、hR198_H4/L4と同様、pcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞には結合せず、
図8に示すとおりpcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞に対しては、親抗体と比べて同等以上にヒトOrai1に結合する傾向が見られた。
【0207】
11)−2 アフィニティマチュレーション抗体のT細胞活性化抑制作用
ヒトT細胞株であるJurkat細胞を、10% FBS、100U/mL Penicillinおよび100μg/mL Streptomycinを含むRPMI1640で1.5x10
6cells/mLの濃度に調製し、96−wells細胞培養プレートに80μLずつ播種し、アフィニティマチュレーション抗体であるhR198_H3/LG1、hR198_HG1/LG1、hR198_HG1/LG2、hR198_HG1/LG3、hR198_HG2/LG1、hR198_HG3/LG1、ヒト化抗ヒトOrai1抗体であるhR198_H3/L3、hR198_H4/L4を10μL/well添加して37℃、5% CO
2下で60分間前処置した。その後、100ng/mL PMAおよび1μg/mL A23187を10μL/well添加し、よく攪拌した後、約16時間37℃、5% CO
2下で培養した。プレートをよく攪拌した後、600gにて3分間遠心し、上清に含まれるIL−2濃度をELISA法で測定した 。
図9はアフィニティマチュレーション抗体がPMAおよびA23187処理されたJurkat細胞からのIL−2の放出を添加濃度依存的に抑制することを示す。アフィニティマチュレーション抗体はJurkat細胞からのIL−2の放出を添加濃度依存的に阻害し、その阻害活性はいずれも親抗体であるヒト化抗ヒトOrai1抗体hH3/L3、hH4/L4を上回るものであった。
【0208】
[実施例12]アフィニティマチュレーション抗体のエフェクター活性低減改変体の作製
hR198_HG1の定常領域の2個のアミノ酸残基を置換した定常領域改変hR198_HG1−LALA配列を以下の実施例に記載されるように構築した。
12)−1 LALAタイプ重鎖発現ベクターの設計
正常のヒトOrai1発現細胞への細胞傷害を回避するために、抗体のエフェクター活性は低いことが望ましい。エフェクター活性は抗体のサブクラスによって異なることが知られている。IgG4はADCC、CDC活性が低く、IgG2はCDC活性を有するが、ADCC活性は低い、などの特徴が見られる。この特徴より、IgG1の定常領域の一部の配列をIgG2,4を参考にして置換することにより、ADCC、CDC活性が低減されたIgG1抗体を作製することが可能である。一例として、Marjan Hezareh et. al. Journal of Virology, 75(24):12161−12168(2001)によれば、IgG1の234番目、235番目のロイシン残基(数字はKabatらによるEUインデックス)をそれぞれアラニン残基に置換すると、ADCC、CDC活性が低下することが示されている。そこで、10)−1で作製されたhR198_HG1タイプ重鎖に対して、アミノ酸番号253番目のロイシン残基をアラニン残基に、254番目のロイシン残基をアラニン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化抗ヒトOrai1抗体重鎖を「hR198_HG1−LALAタイプ重鎖」と命名した。
【0209】
12)−2 LALAタイプ重鎖発現ベクターの構築
12)−2−1 hR198_HG1−LALAタイプ重鎖発現ベクターの構築
7)−2で作製された、hR198_H4タイプ重鎖pCMA−G1/hR198_H4をテンプレートとし、KOD −Plus− Mutagenesis Kitを用いて、変異を導入することによりhR198_H4−LALAタイプ重鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G1−LALA/hR198_H4」と命名した。hR198_H4−LALAタイプ重鎖をコードするヌクレオチド配列および該重鎖のアミノ酸配列を、配列表の配列番号67および68(
図36)にそれぞれ示す。
【0210】
pCMA−G1−LALA/hR198_H4を制限酵素PstIおよびXbaIで消化して得られる約4.2kbのDNA断片に、10)−2で作製されたpCMA−G1/hR198_HG1を同様の制限酵素で消化して得られる抗体可変領域を含む約0.6kbのDNA断片を、Ligation High ver.2を用いて挿入することにより、hR198_HG1−LALAタイプ重鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G1−LALA/hR198_HG1」と命名した。hR198_HG1−LALAタイプ重鎖をコードするヌクレオチド配列および該重鎖のアミノ酸配列を、配列表の配列番号69および70(
図37)にそれぞれ示す。
【0211】
12)−3 アフィニティマチュレーション抗体のエフェクター活性低減改変体の調製
12)−3−1 アフィニティマチュレーション抗体のエフェクター活性低減改変体の生産
FreeStyle 293F細胞(Life Technologies社)はマニュアルに従い、継代、培養をおこなった。対数増殖期の1.2×10
9個のFreeStyle 293F細胞(Life Technologies社)を3L Fernbach Erlenmeyer Flask(CORNING社)に播種し、FreeStyle293 expression medium (Invitrogen社)で希釈して1.0×106細胞/mLに調製したのちに、37℃、8%CO
2インキュベーター内で90rpmで一時間振とう培養した。Polyethyleneimine(Polyscience #24765)3.6mgをOpti−Pro SFM(Life Technologies社)20mLに溶解し、次にPureLink HiPure Plasmidキット(Life Technologies社)を用いて調製した軽鎖発現ベクター(0.8mg)および重鎖発現ベクター(0.4mg)を20mLのOpti−Pro SFM(Life Technologies社)に添加した。Polyethyleneimine/Opti−Pro SFM混合液20mlに、発現ベクター/Opti−Pro SFM混合液20mLを加え穏やかに攪拌し、さらに5分間放置した後にFreeStyle 293F細胞に添加した。37℃、8%CO
2インキュベーターで7日間、90rpmで振とう培養して得られた培養上清をDisposable Capsule Filter (ADVANTEC社 #CCS−045−E1H)でろ過した。hR198_HG1/LG1はpCMA−G1/hR198_HG1とpCMA−LK/hR198_LG1との組合せにより生産し、hR198_HG1−LALA/LG1はpCMA−G1−LALA/hR198_HG1とpCMA−LK/hR198_LG1との組合せにより生産した。
【0212】
12)−3−2 アフィニティマチュレーション抗体のエフェクター活性低減改変体の二段階工程精製
実施例12)−3−1で得られた培養上清から抗体を、rProteinAアフィニティークロマトグラフィー(4−6℃下)とセラミックハイドロキシアパタイト(室温下)の二段階工程で精製した。rProteinAアフィニティークロマトグラフィー精製後とセラミックハイドロキシアパタイト精製後のバッファー置換工程は4−6℃下で実施した。PBSで平衡化したMabSelectSuRe(GE Healthcare Bioscience社、HiTrapカラム)に培養上清をアプライした。培養上清がカラムに全て入ったのち、カラム容量2倍以上のPBSでカラムを洗浄した。次に2Mアルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で溶出し、抗体の含まれる画分を集めた。その画分を透析(Thermo Scientific社、Slide−A−Lyzer Dialysis Cassette)によりPBSに置換した後、5mMリン酸ナトリウム/50mM MES/pH7.0のバッファーで5倍希釈した抗体溶液を、5mM NaPi/50mM MES/30mM NaCl/pH7.0のバッファーで平衡化されたセラミックハイドロキシアパタイトカラム(日本バイオラッド社、Bio−Scale CHT Type―1 Hydroxyapatite Column)にアプライした。塩化ナトリウムによる直線的濃度勾配溶出を実施し、抗体の含まれる画分を集めた。その画分を透析(Thermo Scientific社,Slide−A−Lyzer Dialysis Cassette)によりHBSor(25mM ヒスチジン/5% ソルビトール、pH6.0)への液置換を行った。Centrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量UF10K,Sartorius社、4℃下)にて濃縮し、IgG濃度を5mg/mL以上に調製した。最後にMinisart−Plus filter(Sartorius社)でろ過し、精製サンプルとした。
【0213】
[実施例13]ヒト抗ヒトOrai1抗体2C1.1および5H3.1の発現ベクターの作製
2C1.1抗体および5H3.1抗体はWO2011063277A1に記載されている軽鎖、および重鎖のアミノ酸配列をもとに作製した。
13)−1 キメラ化およびヒト化IgG2タイプ重鎖発現ベクターpCMA−G2の構築
pCMA−LKをXbaIおよびPmeIで消化してκ鎖分泌シグナルおよびヒトκ鎖定常領域を取り除いたDNA断片と、配列表の配列番号71に示されるヒト重鎖分泌シグナルおよびヒトIgG2定常領域のアミノ酸をコードする配列を含むDNA断片をIn−Fusion Advantage PCRクローニングキットを用いて結合して、CMVプロモーターの下流にシグナル配列、クローニングサイト、ヒトIgG2重鎖定常領域をもつキメラおよびヒト化IgG2タイプ重鎖発現ベクターpCMA−G2を構築した。
【0214】
13)−2 2C1.1抗体重鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号72に示される2C1.1抗体重鎖をコードするヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至434に示される2C1.1抗体重鎖の可変領域をコードする配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。合成したDNA断片をテンプレートとして、KOD−Plus−で2C1.1抗体重鎖の可変領域をコードする配列を含むDNA断片を増幅し、キメラおよびヒト化抗体IgG2タイプ重鎖発現ベクターpCMA−G2を制限酵素BlpIで切断した箇所にIn−Fusion HD PCRクローニングキットを用いて挿入することにより2C1.1抗体重鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G2/2C1.1」と命名した。
【0215】
2C1.1抗体重鎖のアミノ酸配列を配列表の配列番号73に示した。
【0216】
13)−3 2C1.1抗体軽鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号74に示される2C1.1抗体軽鎖をコードするヌクレオチド配列のヌクレオチド番号38乃至739に示される2C1.1抗体軽鎖の可変領域と定常領域(λ鎖)をコードする配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。合成したDNA断片をテンプレートとして、KOD−Plus−で2C1.1抗体軽鎖の可変領域と定常領域をコードする配列を含むDNA断片を増幅し、キメラおよびヒト化抗体軽鎖発現ベクターpCMA−LKを制限酵素BsiWIおよびPmeIで切断した箇所にIn−Fusion HD PCRクローニングキットを用いて挿入することにより2C1.1抗体軽鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−L/2C1.1」と命名した。
【0217】
2C1.1抗体軽鎖のアミノ酸配列を配列表の配列番号75に示した。
【0218】
13)−4 5H3.1抗体重鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号76に示される5H3.1抗体重鎖をコードするヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至434に示される5H3.1抗体重鎖の可変領域をコードする配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。実施例13)−2と同様の方法で5H3.1抗体重鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−G2/5H3.1」と命名した。
【0219】
5H3.1抗体重鎖のアミノ酸配列を配列表の配列番号77に示した。
【0220】
13)−5 5H3.1抗体軽鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号78に示される5H3.1抗体軽鎖をコードするヌクレオチド配列のヌクレオチド番号38乃至742に示される5H3.1抗体軽鎖の可変領域と定常領域をコードする配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。実施例13)−3と同様の方法で5H3.1抗体軽鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA−L/5H3.1」と命名した。
【0221】
5H3.1抗体軽鎖のアミノ酸配列を配列表の配列番号79に示した。
【0222】
13)−6 2C1.1抗体および5H3.1抗体の調製
13)−6−1 2C1.1抗体および5H3.1抗体の生産
実施例12)−3−1と同様の方法で、抗体を生産した。2C1.1抗体はpCMA−G2/2C1.1とpCMA−L/2C1.1との組合せにより生産し、5H3.1抗体はpCMA−G2/5H3.1とpCMA−L/5H3.1との組合せにより生産した。
【0223】
13)−6−2 2C1.1抗体および5H3.1抗体の二段階工程精製
実施例12)−3−2と同様の方法で、実施例13)−6−1で生産された培養上清について抗体の二段階工程精製を行った。
【0224】
[実験例14]マウス抗ヒトOrai1抗体10F8、14F74、および17F6の作製
10F8抗体、14F74抗体、および17F6抗体はWO2013091903A1に記載されている軽鎖、および重鎖のアミノ酸配列をもとに作製した。
14)−1 10F8抗体重鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号80に示される10F8抗体重鎖をコードするヌクレオチド配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。合成したDNA断片をテンプレートとして、KOD−Plus−で10F8抗体重鎖をコードする配列を含むDNA断片を増幅し、キメラおよびヒト化抗体軽鎖発現ベクターpCMA−LKを制限酵素XbaIおよびPmeIで消化してκ鎖分泌シグナルおよびヒトκ鎖定常領域を取り除いた箇所にIn−Fusion HD PCRクローニングキットを用いて挿入することにより10F8抗体重鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA /10F8H」と命名した。
【0225】
10F8抗体重鎖のアミノ酸配列を配列表の配列番号81に示した。
【0226】
14)−2 10F8抗体軽鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号82に示される10F8抗体軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社Strings DNA Fragments)。合成したDNA断片を、キメラおよびヒト化抗体軽鎖発現ベクターpCMA−LKを制限酵素XbaIおよびPmeIで消化してκ鎖分泌シグナルおよびヒトκ鎖定常領域を取り除いた箇所にIn−Fusion HD PCRクローニングキットを用いて挿入することにより10F8抗体軽鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA /10F8L」と命名した。
【0227】
10F8抗体軽鎖のアミノ酸配列を配列表の配列番号83に示した。
【0228】
14)−3 14F74抗体重鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号84に示される14F74抗体重鎖をコードするヌクレオチド配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。実施例14)−1と同様の方法により14F74抗体重鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA /14F74H」と命名した。
【0229】
14F74抗体重鎖のアミノ酸配列を配列表の配列番号85に示した。
【0230】
14)−4 14F74抗体軽鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号86に示される14F74抗体軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社Strings DNA Fragments)。実施例14)−2と同様の方法により14F74抗体軽鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA /14F74L」と命名した。
【0231】
14F74抗体軽鎖のアミノ酸配列を配列表の配列番号87に示した。
【0232】
14)−5 17F6抗体重鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号88に示される17F6抗体重鎖をコードするヌクレオチド配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。実施例14)−1と同様の方法により17F6抗体重鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA /17F6H」と命名した。
【0233】
17F6抗体重鎖のアミノ酸配列を配列表の配列番号89に示した。
【0234】
14)−6 17F6抗体軽鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号90に示される17F6抗体軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含むDNA断片を合成した(GENEART社Strings DNA Fragments)。実施例14)−2と同様の方法により17F6抗体軽鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA /17F6L」と命名した。
【0235】
17F6抗体軽鎖のアミノ酸配列を配列表の配列番号91に示した。
【0236】
14)−7 10F8抗体、14F74抗体、および17F6抗体の調製
14)−7−1 10F8抗体、14F74抗体、および17F6抗体の生産
実施例12)−3−1と同様の方法で生産した。10F8抗体はpCMA /10F8HとpCMA /10F8Lとの組合せにより生産し、14F74抗体はpCMA /14F74HとpCMA /14F74Lの組み合わせにより生産し、17F6抗体はpCMA /17F6HとpCMA /17F6Lの組み合わせにより生産した。
【0237】
14)−7−2 10F8抗体、14F74抗体、および17F6抗体の二段階工程精製
実施例12)−3−2と同様の方法で、実施例14)−7−1で得られた培養上清について抗体の二段階工程精製を行った。
【0238】
[実施例15]アフィニティマチュレーション抗体のエフェクター活性低減改変体とその他の抗ヒトOrai1抗体のin vitro活性比較
15)−1 フローサイトメトリーによる抗ヒトOrai1抗体の抗原結合活性
1)−1−1で構築したヒトOrai1発現ベクターを1)−4−2で示す方法によりHEK293T細胞に導入した細胞懸濁液を遠心し、上清を除去した後、pcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞およびpcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞のそれぞれに対し、12)−3で作製したhR198_HG1/LG1、hR198_HG1/LG1−LALA、13)−6で作製した2C1.1、5H3.1、14)−7で作製した10F8、14F74、17F6、およびコントロールとしてヒトIgGコントロール抗体とマウスIgGコントロール抗体を加えて懸濁し、4℃で30分静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、ヒト抗体に関しては、5% FBS含有PBSで100倍に希釈したAnti−human IgG FITC conjugate、マウス抗体に関してはAnti−mouse IgG FITC conjugate(Cappel社)を加えて懸濁し、4℃で30分静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、1μg/mL Propidium iodideを含む5% FBS含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(FC500)で検出を行った。データ解析はFlowjoで行った。Propidium iodide陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞のFITC蛍光強度のヒストグラムを作成し、平均蛍光強度(MFI)を算出した。hR198_HG1/LG1、hR198_HG1−LALA/LG1、2C1.1、5H3.1、10F8、14F74、17F6はpcDNA3.1−DEST導入HEK293T細胞には結合せず、
図10(ヒト抗体)、
図11(マウス抗体)に示すとおり、pcDNA3.1−hOrai1導入HEK293T細胞に対しては、結合が見られたことから、いずれの抗体も特異的にヒトOrai1に結合することが示された。一方、マウスIgGコントロール抗体では結合は観察されなかった。
【0239】
15)−2 抗ヒトOrai1抗体のヒトT細胞株活性化抑制作用
ヒトT細胞株であるJurkat細胞を、RPMI1640(10% FBS、100U/mL Penicillinおよび100μg/mL Streptomycinを含む)で1.5x10
6cells/mLの濃度に調製し、96−wells細胞培養プレートに80μLずつ播種し、hR198_HG1/LG1、hR198_HG1−LALA/LG1、2C1.1、5H3.1、10F8、14F74、17F6を10μL/well添加して37℃、5% CO
2下で60分間前処置した。その後、100ng/mL PMAおよび1μg/mL A23187を10μL/well添加し(最終濃度10ng/mL PMAおよび100ng/mL A23187)、よく攪拌した後、約16時間37℃、5% CO
2下で培養した。プレートをよく攪拌した後、600gにて3分間遠心し、上清に含まれるIL−2濃度をELISA法で測定した 。
図12は抗ヒトOrai1抗体がPMAおよびA23187処理されたJurkat細胞からのIL−2の放出を添加濃度依存的に抑制することを示す。
図13は抗体非添加時のIL−2濃度を100%とした時の、hR198_HG1/LG1、hR198_HG1−LALA/LG1、2C1.1、5H3.1、10F8、14F74、17F6の半数阻害濃度(IC
50)および80%阻害濃度(IC
80)を示す。先行技術の抗体のIC
50は80ng/mL以上である一方で、本発明の代表的な抗体のIC
50は10ng/mL以下である。また先行技術の抗体のIC
80は60000ng/mL以上である一方で、本発明の代表的な抗体のIC
80は200ng/mL以下である。
【0240】
15)−3 アフィニティマチュレーション抗体のエフェクター活性低減改変体とその他の抗ヒトOrai1抗体のヒト末梢血単核球活性化抑制作用
ヒト末梢血単核球(PBMC)はCellular Technology社から凍結品として購入し、指示書に従って解凍して使用した。10% FBS、100U/mL Penicillinおよび100μg/mL Streptomycinを含むRPMI1640で2.0x10
6cells/mLの濃度に調製したPBMCを96−wells細胞培養プレートに80μLずつ播種し、各種抗ヒトOrai1抗体を10μL/well添加して37℃インキュベーター内で60分間前処置した。その後、100ng/mL PMAおよび1μg/mL A23187を10μL/well添加し、よく攪拌した後、約16時間37℃、5% CO
2下で培養した。プレートをよく攪拌した後、600gにて3分間遠心し、上清に含まれるIL−2濃度およびインターフェロンガンマ(IFN−γ)濃度(MABTECH社)をELISA法で測定した 。
図51は抗ヒトOrai1抗体がPMAおよびA23187処理されたヒトPBMCからのIL−2の放出を添加濃度依存的に抑制することを示す。
図52は抗体非添加時のIL−2濃度を100%とした時の、hR198_HG1/LG1、hR198_HG1−LALA/LG1、2C1.1、5H3.1、10F8、14F74、17F6の半数阻害濃度(IC
50)および80%阻害濃度(IC
80)を示す。先行技術の抗体のIC
50は100ng/mL以上である一方で、本発明の代表的な抗体のIC
50は20ng/mL以下である。また先行技術の抗体のIC
80は17000ng/mL以上である一方で、本発明の代表的な抗体のIC
80は400ng/mL以下である。
図53は抗ヒトOrai1抗体がPMAおよびA23187処理されたヒトPBMCからのIFN−γの放出を添加濃度依存的に抑制することを示す。
図54は抗体非添加時のIFN−γ濃度を100%とした時の、hR198_HG1/LG1、hR198_HG1−LALA/LG1、2C1.1、5H3.1、10F8、14F74、17F6の半数阻害濃度(IC
50)および80%阻害濃度(IC
80)を示す。先行技術の抗体のIC
50は800ng/mL以上である一方で、本発明の代表的な抗体のIC
50は40ng/mL以下である。また先行技術の抗体のIC
80は300000ng/mL以上である一方で、本発明の代表的な抗体のIC
80は2000ng/mL以下である。
【0241】
[実施例16]hR198_HG1/LG1のin vivo活性
16)−1 ヒトPBMC移入マウス移植片対宿主病モデルに対するhR198_HG1/LG1の投与効果
重度複合免疫不全マウスであるNSGマウス(NOD.Cg−Prkdc<scid>Il2rg<tm1Wjl>/SzJ)にヒトPBMCを移入することで、ヒト移植片対宿主病様の反応が誘導できることが知られている(Clinical and Experimental Immunology, 157:104−118(2009))。日本チャールス・リバー社から購入した6週齢の雄性NSGマウス17匹に2.0GyのX線を照射した後(日立X線照射装置 MBR−1520R−4)、マウスを2匹の1群と5匹の3群に分割した。HBSor(25mM hystidine/5% sorbitol,pH6.0)にて3mg/mLおよび6mg/mLとなるよう調製したhR198_HG1/LG1を10mL/kg、即ち30mg/kgおよび60mg/kgとなるよう2群(n=5)のマウスに尾静脈内投与した。1群(n=5)はVehicle群としてHBSorのみを投与した。翌日、凍結ヒトPBMC(Cellular Technology社)をCTL−antiaggrigate(Cellular Technology社)を用いてプロトコールに従って解凍し、3百万個のヒトPBMCを200μLのPBSに浮遊させて3群(n=5)のマウスに移入、1群(n=2)はヒトPBMCを移入せずX線照射コントロール群として経過を観察した。投与群においては、X照射後第0日、7日、14日、21日に同用量のhR198_HG1/LG1もしくはHBSorを投与した。各マウスの体重は第0日、1日、4日、7日、9日、10日、11日と13日以降の毎日計測し、第0日の体重を100%として体重変化をパーセント換算し、各群の平均体重変化を
図55に示した。Vehicle投与群の平均体重の減少は第16日くらいから観察され始めた。実験はVehicle投与群の平均体重が80%を下回った第21日に終了した。この時点において、ヒトPBMCを移入しなかったX線照射コントロール群は体重減少を示さなかった。hR198_HG1/LG1を30mg/kgおよび60mg/kg投与したマウスも体重は減少せず、平均体重はヒトPBMC非移入マウスと同等であった。本系においてヒトPBMCの活性化による移植片対宿主病の症状を顕著に抑制したhR198_HG1/LG1(抗Orai1抗体)には、ヒト移植片対宿主病に対する治療および/または予防効果が期待される。
【0242】
16)−2 Human Orai1ノックインマウスを用いたhR198_HG1/LG1のin vivo活性評価
16)−2−1 Human Orai1ノックインマウスの作出
マウスOrai1の第2細胞外ループドメインのアミノ酸配列をヒトOrai1配列に置換したHuman Orai1ノックインマウスは、遺伝子改変マウス作製の定法に従って株式会社特殊免疫研究所で作出された。概要を記すと、マウスOrai1遺伝子座を含むBACクローンのコード領域のDNA配列をヒトOrai1遺伝子座に置換するとともに、loxP配列で挟まれたネオ耐性遺伝子を導入し、ヒトOrai1遺伝子のノックインターゲティングベクターを構築した。このターゲティングベクターをマウスES細胞に導入し、G418耐性株を樹立した。サザンハイブリダイゼ
?ション法により、標的遺伝子座が特異的に組み換えられたES細胞株をスクリーニングした。さらに、Cre発現ベクターを導入してセレクションマーカーを除去し、そのES細胞株を利用してキメラF1マウスを作出した。サザンハイブリダイゼーションでジェノタイピングを行ない、F1マウスの中からヘテロ変異体個体を選別し、このF1ヘテロ変異体個体の交配により、F2ホモ変異体であるHuman Orai1ノックインマウスを作出した。
【0243】
16)−2−2 hR198_HG1/LG1の受動皮膚アナフィラキシー(PCA)反応抑制効果
マウスPCA反応は、定法に従って行った。特殊免疫研究所で生産された8週齢のHuman Orai1ノックインマウスあるいは野生型の同腹兄弟マウスを保定器にて保定後、HBSorにて6mg/mLとなるよう調製したhR198_HG1/LG1を10mL/kg、即ち60mg/kgとなるように尾静脈内投与した。Vehicle群にはHBSorのみを投与した。翌日イソフルラン(ファイザー社)吸入麻酔下、生理食塩水にて10ug/mLに調整したMonoclonal anti−OVA IgE(chondrex社)を10μLずつ耳介皮内に投与した。24時間後、2mg/mLのOVA(Albumin from chicken egg white、SIGMA社)および20mg/mLのEvans blue(Merck社)を含む生理食塩水を、5mg/kgOVAおよび100mg/kgEvans blueとなるように尾静脈内投与した。30分後にイソフルラン深麻酔下、放血致死させて耳介を切除し、0.5mLのDMSOに浸し、Evans blueを抽出した(37℃°、72時間)。Evans blueが抽出されたDMSO溶液は、200μLずつ96ウェルマイクロプレートに移し、O.D.650nmをマイクロプレートリーダー(Molecular devices社、SpectraMax M5e)で測定した。浸出したEvans blueの吸光度は以下の計算法に従い、Vehicle投与群の平均値を100%として表した。Blankには、DMSO溶液の吸光度を求めた。%=(OD650sample−OD650blank)/(OD650vehicle−OD650blank)。
図56は、Human Orai1ノックインマウスに誘導したPCA反応をhR198_HG1/LG1が抑制することを示している。マウスPCA反応はヒトのI型アレルギー反応であるアナフィラキシーを再現した即時型アレルギーの基本的なモデル系であり、本系が抗アレルギー薬の評価に使用可能であることが知られている(Archives internationales de pharmacodynamie et de therapie, 165:92−102(1967)、International archives of allergy and applied immunology, 78:113−117(1985))。本系においてIgE依存的なマスト細胞脱顆粒に対する抑制活性が認められたhR198_HG1/LG1(抗Orai1抗体)には、既存のマスト細胞脱顆粒阻害薬に認められる気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、さらに同じヒトのI型アレルギー疾患、例えばアレルギー性喘息などに対する治療および/または予防効果が期待される。
【0244】
16)−2−3 hR198_HG1/LG1の遅延型過敏(DTH)反応抑制効果
マウスDTH反応は、定法に従って行った。特殊免疫研究所で生産された8週齢のHuman Orai1ノックインマウスあるいは野生型の同腹兄弟マウスを保定機にて保定後、HBSorにて6mg/mLとなるよう調製したhR198_HG1/LG1を10mL/kg、即ち60mg/kgとなるように尾静脈内投与した。Vehicle群にはHBSorのみを投与した。翌日生理食塩水にて5mg/mLに希釈したmBSA(Albumin Bovine Methylated,SIGMA社)とFreund‘s Complete Adjuvant(DIFCO社)を等量混合して調製したエマルジョン50μLずつを両腋下に皮下投与し免疫を行った。6日後、再びhR198_HG1/LG1を60mg/kgとなるように尾静脈内投与した。翌日生理食塩水にて0.5mg/mLに調製したmBSAと生理食塩水をそれぞれイソフルラン吸入麻酔下方肢に皮内投与し、投与後6、24、48時間後の肢の腫れをダイアルゲージにて測定した。肢の腫れは0時間を0(10
−2mm)とし、経時的に変化する腫れの厚みを計算し、Vehicle投与群の平均値を100%とし求めた。
図57は、Human Orai1ノックインマウスに誘導したDTH反応を、抗原投与後6時間(A)24時間(B)48時間(C)の各時点でhR198_HG1/LG1が抑制していることを示す。マウスDTH反応はT細胞依存的な免疫の成立と応答を見る系であり、本系において活性を示した薬剤が強力な免疫抑制剤として開発されたことは良く知られている(Clinical and Experimental Immunology, 52:599−606(1983))。本系においてT細胞免疫の抑制活性が認めれたhR198_HG1/LG1(抗Orai1抗体)には、T細胞活性に起因するヒトの生体反応や疾患、例えば移植物の拒絶、免疫疾患、炎症性疾患に対する治療および/または予防効果が期待される。
【0245】
16)−2−4 抗Orai1抗体の皮膚炎に対する抑制活性の検討
皮膚炎は以下のいずれかの方法で惹起する。すなわちマウスの腹腔内にアルブミン抗原液を0.5mL投与し、さらに2週間後に同量の抗原で追加免疫を施した後、アルブミン抗原液を耳(20μL)または背部(100μL)に3日〜2週間ごとに3〜6回繰り返し塗布する。あるいはダニ抗原クリームを耳(20μL)または背部(100μL)に3日〜2週間ごとに3〜6回繰り返し塗布する。あるハプテンであるピクリルクロライドまたはDinitrofluorobenzeneをプロトコールに従い調製し、耳(20μL)または背部(100μL)に週1回または2回、最大8週間塗布する。あるいは皮膚反応誘発物質であるHistamine、Compound 40/80、5−(and 6−)carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester、Fluorescein isothiocyanate、Bombesin様ぺプチドを耳(20μL)、背部(100μL)、脊髄内(5μL)に投与する。抗Orai1抗体は皮膚炎誘導の前日もしくは1時間から4時間前に静脈内もしくは皮下に投与する。その後、投与頻度を7日から28日間隔として抗体投与を継続する。皮膚炎誘発後、経時的にダイアルシックネスゲージを用いて耳介の厚さの測定や皮膚炎の肉眼的スコア化を行う。また試験期間終了後、血液や組織中の抗体・サイトカイン・血中バイオマーカー濃度の定量、皮膚・末梢血・胸腺・脾臓・リンパ節・骨髄から得た細胞の増殖活性やサイトカイン産生能、表面抗原などの検討や、病理組織解析などを実施し、抗Orai1抗体の皮膚炎に対する抑制活性を判定する。
【0246】
16)−2−5 抗Orai1抗体の乾癬に対する抑制活性の検討
Imiquimodを用いる場合は、耳介両側または片面(5〜30mg)および剃毛済み背部(50〜100mg)に塗布し乾癬性皮膚炎を誘導する。あるいは10mg/mLのZymosanリン酸緩衝液中懸濁液を200uL腹腔内投与して皮膚炎を誘導する。起炎物質としてサイトカイン(IL−23など)を用いる場合は、1〜5%イソフルラン深麻酔下で、マウス耳介片面へサイトカイン0.1〜2μg含む溶液を20〜50μL皮内投与し乾癬性皮膚炎を誘導する。抗Orai1抗体は皮膚炎誘導の前日もしくは1時間から4時間前に静脈内もしくは皮下に投与する。その後、投与頻度を7日から28日間隔として抗体投与を継続する。皮膚炎誘発後、経時的にダイアルシックネスゲージを用いて耳介の厚さ測定や皮膚炎の肉眼的スコア化を行う。また試験期間終了後、炎症部位の重量およびその部位に浸潤した好中球のミエロペルオキシダーゼ活性、浸潤した細胞のフローサイトメトリー解析、遺伝子解析、サイトカイン濃度測定などをし、抗Orai1抗体の乾癬抑制活性を判定する。
【0247】
16)−2−6 抗Orai1抗体の多発性硬化症に対する抑制活性の検討
Myelin oligodendrocyte glycoproteinまたはそのペプチド抗原を生理食塩水で4mg/mLに調整し、生理食塩水で8mg/mLに調整したフロイントの完全アジュバントと等量混合して乳化させ、この混合液200μLをマウスの脇腹または腹部の皮内に投与、その直後に同マウスに2μg/mLの百日咳毒素水溶液を100μL尾静脈から投与する。さらに2日後に上述の百日咳毒素液を再度尾静脈から投与することで実験的脳脊髄炎を誘導する。実験開始1週間から2週間後より脳脊髄炎が発症し、尾から下肢、前肢へと麻痺が拡大していく。この麻痺の程度を四肢・尾の動きを肉眼的に観察することによりスコア化する。抗Orai1抗体は脳脊髄炎誘導の前日もしくは1時間から4時間前に静脈内もしくは皮下に投与する。その後、投与頻度を7日から28日間隔として抗体投与を継続し、抗Orai1抗体の多発性硬化症に対する投与効果を判定する。
【0248】
16)−2−7 抗Orai1抗体の関節炎に対する抑制活性の検討
2mg/mLのウシII型コラーゲンとフロイントの完全アジュバントを体積比1:1.3で混合し乳化したものを、1mLの注射筒とツベルクリン針を用いてマウスの尾根部皮内に100μL投与する。2〜3週間後に同じ処置を実施し、その後の四肢の関節腫脹をの肉眼的あるいはダイアルシックネスゲージを用いてスコア化する。試験期間終了時には、血液や組織中の抗体・サイトカイン・血中バイオマーカー濃度、皮膚・末梢血・胸腺・脾臓・リンパ節・骨髄から得た細胞の増殖活性・サイトカイン産生能・表面抗原などを測定する。抗Orai1抗体は関節炎誘導の前日もしくは1時間から4時間前に静脈内もしくは皮下に投与する。その後、投与頻度を7日から28日間隔として抗体投与を継続し、抗Orai1抗体の関節炎に対する投与効果を判定する。
【0249】
16)−2−8 抗Orai1抗体の大腸炎に対する抑制活性の検討
Human Orai1ノックインマウスのリンパ節と脾臓から採取し精製したリンパ球を、抗CD4抗体GK1.5、抗CD25抗体PC61.5、抗CD45R抗体C363.16A(いずれもeBioscience社)を用いてセルソーターにより単離する。この方法で得られた細胞が純度95%以上のCD4+CD25−CD45RBhi T−cellsであることをフローサイトメーターで確認したのち、0.5百万個を12から16週齢のRag2−/−マウスの腹腔内に移入する。その後12週間、体重測定と下痢などの症状を観察し、観察期間終了後に剖検により腸管の肥厚度、ポリープの個数と大きさ、病理的特徴の有無を検討する。また血液や組織中の抗体・サイトカイン・血中バイオマーカー濃度の定量、腸管・末梢血・胸腺・脾臓・リンパ節・骨髄から得た細胞の増殖活性やサイトカイン産生能、表面抗原などを解析する。抗Orai1抗体は細胞移入の前日もしくは1時間から4時間前に静脈内もしくは皮下に投与する。その後、投与頻度を7日から28日間隔として抗体投与を継続し、抗Orai1抗体の大腸炎に対する投与効果を判定する。
【0250】
16)−2−9 抗Orai1抗体の骨髄細胞移植系に対する作用の検討
Human Orai1ノックインマウスの大腿骨および脛骨を摘出し、針付き注射筒を用いて骨端から10%FBS−RPMI1640培地1〜5mLを注入して骨髄内の細胞を押し出し、セルストレイナー処理後の遠沈回収で骨髄細胞を回収、10mMHEPES、0.5mMEDTA、0.5%Penicillin/Streptomycinを含有するInjection bufferに200μL中10百万個の骨髄細胞が含まれるよう調整する。同時にHuman Orai1ノックインマウスの脾臓より定法に従って脾細胞を採取する。レシピエントである10〜13週齢のBALB/cマウスに2.0〜8.0GyのX線を照射した後、200μLのドナー骨髄細胞に0〜4百万個のドナー脾臓細胞を加え、この細胞混合液をレシピエントの尾静脈から注入する。その後、4から16週間の体重変化や生存率、試験終了時のレシピエントマウスの血液や組織中の抗体・サイトカイン・血中バイオマーカー濃度、腸管・末梢血・胸腺・脾臓・リンパ節・骨髄から得た細胞の表面抗原・増殖活性・サイトカイン産生能を測定する。抗Orai1抗体は骨髄移植の前日もしくは1時間から4時間前に静脈内もしくは皮下よりレシピエントマウスに投与する。その後、投与頻度を7日から28日間隔として抗体投与を継続し、抗Orai1抗体の移植細胞の生着や移植片対宿主病の発生率に対する作用を判定する。
【0251】
[実施例17]アフィニティマチュレーション抗体とその他の抗ヒトOrai1抗体との物理化学的性質の比較
m−VROCによる粘度測定
10)−3で作製したhR198_HG1/LG1、hR198_H3/LG1、12)−3で作製したhR198_HG1−LALA/LG1、および13)−6で作製した2C1.1を、VIVAPORE 5(Sartorius社)で150mg/mL以上に濃縮後、HBSorで90、120および150mg/mLに調製した。m−VROC(RheoSense社)を用いて25℃における粘度を各濃度3回測定し、平均Viscosity(mPa・s)を算出した。結果を
図58および表1に示す。hR198_HG1/LG1、hR198_H3/LG1、hR198_HG1−LALA/LG1の粘度はいずれの濃度においても2C1.1の粘度よりも低かった。特に、150mg/mLでは、hR198_HG1/LG1、hR198_H3/LG1、hR198_HG1−LALA/LG1の粘度はそれぞれ11.4、10.0、10.8mPa・sであるのに対し、2C1.1は21.0mPa・sであり、2C1.1と比較して、アフィニティマチュレーション抗体は高濃度化しても粘度が低いことが示された。
【0252】
【表1】