特許第6125301号(P6125301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6125301導電性高分子製造用酸化剤溶液及びそれを用いた固体電解コンデンサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6125301
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】導電性高分子製造用酸化剤溶液及びそれを用いた固体電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/028 20060101AFI20170424BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   H01G9/02 331G
   H01G9/02 331H
   C08G61/12
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-80882(P2013-80882)
(22)【出願日】2013年4月9日
(65)【公開番号】特開2014-204049(P2014-204049A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】カーリットホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷 志杰
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 章範
(72)【発明者】
【氏名】石北 義人
(72)【発明者】
【氏名】金本 和之
【審査官】 多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−238149(JP,A)
【文献】 特開平6−77093(JP,A)
【文献】 特開平5−217808(JP,A)
【文献】 特開平11−312626(JP,A)
【文献】 特開2010−31160(JP,A)
【文献】 特開2011−122133(JP,A)
【文献】 特開2003−197468(JP,A)
【文献】 特開2014−192423(JP,A)
【文献】 特開2000−216061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 2/00−2/38
C08G 61/00−61/12
H01G 9/00−9/022
H01G 9/028−9/042
H01G 9/048−9/06
H01G 9/08−9/14
H01G 9/15−9/18
H01G 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中に有機スルホン酸第二鉄塩を含有する導電性高分子製造用酸化剤溶液であって、有機スルホン酸第二鉄塩に含まれる有機スルホン酸として、
下記一般式(1)で表されるアルキルベンゼンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸を含有し、有機スルホン酸全体に対する下記一般式(1)で表されるアルキルベンゼンスルホン酸の含有量が60〜99モル%、ベンゼンスルホン酸の含有量が1〜40モル%であり、アルコール溶媒を主溶媒とすることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤溶液。
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【請求項2】
アルコール溶媒が、メタノール、エタノール及びブタノールからなる群より選ばれる1種又は2種類以上である請求項1に記載の導電性高分子製造用酸化剤溶液。
【請求項3】
水分含有量が5質量%未満である請求項1又は2に記載の導電性高分子製造用酸化剤溶液。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の導電性高分子製造用酸化剤溶液を用いて重合性モノマーを化学酸化重合反応させて形成された導電性高分子層を有することを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項5】
重合性モノマーと酸化剤溶液との混合液をコンデンサ素子に含浸させることにより、又は重合性モノマー溶液と酸化剤溶液とをコンデンサ素子に含浸させることにより、重合性モノマーと酸化剤を化学酸化重合反応させて導電性高分子層をコンデンサ素子に形成する工程を含む固体電解コンデンサの製造方法において、酸化剤溶液として、請求項1から3のいずれか一項に記載の導電性高分子製造用酸化剤溶液を用いることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性高分子製造用酸化剤液に関し、より詳しくは固体電解コンデンサの固体電解質として好適な導電性高分子層の形成時に使用し、高容量かつ低等価直列抵抗(以下、「ESR」と表す。)を示す固体電解コンデンサの製造に資する導電性高分子製造用酸化剤溶液に関する。さらに、該酸化剤溶液を使用してなる固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、高い導電性を有するため、例えば、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ等の固体電解質として有用である。
【0003】
前記導電性高分子としては、例えば、ピロール又はその誘導体あるいはチオフェン又はその誘導体等の重合性モノマーを化学酸化重合又は電解酸化重合することによって得られたものが知られている。
【0004】
前記ピロール又はその誘導体あるいはチオフェン又はその誘導体の化学酸化重合を行う際のドーパントとしては主に有機スルホン酸が用いられ、その中でも、芳香族スルホン酸を用いることが知られている。また、重合用の酸化剤としてはそれら芳香族スルホン酸の遷移金属塩が用いられ、その中でも第二鉄塩を用いることが知られている。
【0005】
例えば特許文献1には、芳香族スルホン酸第二鉄塩であるp−トルエンスルホン酸第二鉄塩を酸化剤として使用し、重合性モノマーを重合して形成された導電性高分子層を固体電解質とするコンデンサが開示されている。
【0006】
また特許文献2には、溶媒としてエチルアルコール、プロピルアルコールを使用することによって、粘度の上昇を抑制しながらp−トルエンスルホン酸第二鉄塩を高濃度で含有させた酸化剤溶液が開示されており、この酸化剤溶液を使用して導電性高分子層を形成させることにより、固体電解コンデンサのESRを低下できることが記載されているが、十分に高い耐電圧が得られない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平02−015611号公報
【特許文献2】特開2003−272953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、高い耐電圧を有する固体電解コンデンサが求められており、本発明は、そのような固体電解コンデンサを得ることが可能な導電性高分子製造用酸化剤液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、酸化剤である有機スルホン酸第二鉄塩に含まれる有機スルホン酸として、一般式(1)で表されるアルキルベンゼンスルホン酸と、ベンゼンスルホン酸と、を特定量で組合せた酸化剤溶液を用いて導電性高分子を形成させることによって、高い耐電圧を有する固体電解コンデンサが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下に示すものである。
【0011】
第一の発明は、溶媒中に有機スルホン酸第二鉄塩を含有する導電性高分子製造用酸化剤溶液であって、有機スルホン酸第二鉄塩に含まれる有機スルホン酸として、下記一般式(1)で表されるアルキルベンゼンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸を含有し、有機スルホン酸全体に対する下記一般式(1)で表されるアルキルベンゼンスルホン酸の含有量が60〜99モル%、ベンゼンスルホン酸の含有量が1〜40モル%であり、アルコール溶媒を主溶媒とすることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤溶液である。
【0012】
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【0013】
第二の発明は、アルコール溶媒が、メタノール、エタノール及びブタノールからなる群より選ばれる1種又は2種類以上である第一の発明に記載の導電性高分子製造用酸化剤溶液である。
【0014】
第三の発明は、水分含有量が5質量%未満である第一又は第二の発明に記載の導電性高分子製造用酸化剤溶液である。
【0015】
第四の発明は、第一から第三の発明のいずれか一項に記載の導電性高分子製造用酸化剤溶液を用いて重合性モノマーを化学酸化重合反応させて形成された導電性高分子層を有することを特徴とする固体電解コンデンサである。
【0016】
第五の発明は、重合性モノマーと酸化剤溶液との混合液をコンデンサ素子に含浸させることにより、又は重合性モノマー溶液と酸化剤溶液とをコンデンサ素子に含浸させることにより、重合性モノマーと酸化剤を化学酸化重合反応させて導電性高分子層をコンデンサ素子に形成する工程を含む固体電解コンデンサの製造方法において、酸化剤溶液として、第一から第三の発明のいずれか一項に記載の導電性高分子製造用酸化剤溶液を用いることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の導電性高分子製造用酸化剤溶液を用いて作製した固体電解コンデンサは、高い耐電圧を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(導電性高分子製造用酸化剤溶液)
本発明の導電性高分子製造用酸化剤溶液(以下、単に「酸化剤溶液」ということがある)は、酸化剤の有機スルホン酸第二鉄塩として、下記一般式(1)で表されるアルキルベンゼンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸の第二鉄塩を含有する。アルキルベンゼンスルホン酸アニオン及びベンゼンスルホン酸アニオンからなる有機スルホン酸アニオンと第二鉄カチオンとのモル比は特に限定されるものではないが、2.00〜3.50:1が好ましく、2.50〜3.30:1がより好ましく、2.95〜3.20:1が特に好ましい。このようなモル比の範囲にすることで、より耐熱性に優れた導電性高分子層を形成することができる。
【0019】
【化2】
【0020】
一般式(1)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。
【0021】
炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基が挙げられる。
【0022】
一般式(1)の具体例としては、p−トルエンスルホン酸、p−エチルベンゼンスルホン酸、p−プロピルベンゼンスルホン酸、p−ブチルベンゼンスルホン酸、p−イソプロピルベンゼンスルホン酸、p−イソブチルベンゼンスルホン酸が挙げられる。これらの中でも、p−トルエンスルホン酸が、重合速度が速い点より好ましく挙げられる。
【0023】
本発明の酸化剤溶液中に、上述した一般式(1)で表されるアルキルベンゼンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸とは異なる有機スルホン酸の第二鉄塩を含有させて用いてもよい。このような有機スルホン酸としては、メトキシベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、カルボキシベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0024】
本発明の酸化剤溶液は、有機スルホン酸第二鉄塩に含まれる有機スルホン酸全体に対して、一般式(1)で表されるアルキルベンゼンスルホン酸を60〜99モル%、好ましくは70〜95モル%含有し、より好ましくは80〜90モル%含有し、ベンゼンスルホン酸を1〜40モル%、好ましくは5〜30モル%含有し、より好ましくは10〜20モル%含有するものである。
また、アルキルベンゼンスルホン酸とベンゼンスルホン酸のモル比は、99:1〜60:40とすることが好ましく、95:5〜70:30とすることがより好ましく、90:10〜80:20とすることが特に好ましく挙げられる。このような範囲であれば、十分に高い耐電圧を有する固体電解コンデンサを得ることができる。
【0025】
本発明の酸化剤溶液中のアルキルベンゼンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸の第二鉄塩の含有量は特に限定されないが、合計で30〜80質量%の範囲が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。この範囲外であると、容量出現率に劣る場合もある。
【0026】
本発明の酸化剤溶液に用いる溶媒は、アルコール溶媒を主溶媒とするものである。アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アミルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコールが挙げられ、1種で又は2種以上併用して使用することができる。これらの中でも、有機スルホン酸第二鉄塩を、例えば60質量%以上の高濃度で含有させた場合にも保存安定性に優れることから、メタノール、エタノール、ブタノール及びこれらの2種以上の混合溶媒が好適であり、特にブタノールとメタノールの混合溶媒、ブタノールとエタノールの混合溶媒が好ましい。これらの混合溶媒においてブタノールと、メタノール又はエタノールとの質量比は、80:20〜20:80が好ましく、60:40〜40:60がより好ましい。この範囲にあると重合速度が最適化されるため、より電気特性に優れた固体電解コンデンサを製造できるという点で好適である。
【0027】
溶媒には、上記アルコール溶媒以外に、保存安定性等を損なわない限度において副溶媒を添加することもできる。副溶媒としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール類等のグリコール類等を挙げることができる。
【0028】
溶媒中のアルコール溶媒の含有量は、50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上である。この範囲であると、誘電体酸化皮膜を有する弁作用金属に対する含浸性が高くなるため、よりESRに優れた固体電解コンデンサを製造できるという点で好ましく挙げられる。
【0029】
また一般に、導電性高分子層の形成において、重合性モノマーの重合効率を向上させ、導電性高分子層の電気伝導度を高めることによって、固体電解コンデンサのESRを低下できることが知られているが(特許文献2)、本発明の酸化剤溶液に含有される水分の量を一定の範囲に調整することによって、重合速度を適切に制御し、重合効率を向上することができる。酸化剤溶液中の水分含有量は、好ましくは5質量%未満であり、より好ましくは0.01〜4質量%であり、特に好ましくは0.1〜3質量%である。水分含有量が5質量%以上の場合、重合効率が低下する場合がある。
【0030】
次に、本発明の導電性高分子製造用酸化剤溶液の製造方法について説明する。
【0031】
アルキルベンゼンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸の水溶液に、酸化第二鉄を加え、撹拌後、ろ過により、未反応酸化鉄及び不純物を除去した後、水を除去し目的とするアルキルベンゼンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸の第二鉄塩を得る。反応に用いる水溶液中の有機スルホン酸の濃度は任意であるが、50〜80質量%の濃度に調整して用いることが好ましい。また、酸化鉄は、ベンゼンスルホン酸及びアルキルベンゼンスルホン酸に対し、概ね当量加える。通常、100〜120℃にて5〜72時間反応を行うことにより、目的とするアルキルベンゼンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸の第二鉄塩を生成させることができる。
【0032】
反応終了後、得られた反応液をろ過し、ろ液を濃縮、脱水する。脱水工程中に酸化剤溶液の溶媒であるブタノール等を添加し、濃縮することによってアルキルベンゼンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸の第二鉄塩の濃度を調整することができる。さらに、脱水工程中に、エーテル化合物等の低沸点溶媒を加え、水、アルコール、エーテル化合物の混合物として共沸させながら脱水してもよい。この脱水工程を複数回繰り返すことで、酸化剤溶液中の水分含有量を所望の範囲に調整することができる。
【0033】
(固体電解コンデンサ)
次に、本発明の酸化剤溶液を用いて作製する固体電解コンデンサ及びその製造方法について説明する。
【0034】
巻回型コンデンサの場合を例にとると、まずアルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン等からなる弁作用金属表面に酸化皮膜を形成した帯状の陽極箔及び対向陰極となる金属製の帯状の陰極箔とを、帯状の絶縁性のセパレータを介して巻回して作製された巻回部を具備したコンデンサ素子を準備する。
【0035】
このコンデンサ素子の巻回部に、本発明の酸化剤溶液と重合性モノマーとの混合液を含浸させ、コンデンサ素子内で化学酸化重合反応させて、適宜乾燥することによって、コンデンサ素子に導電性高分子層が形成される。コンデンサ素子部へ含浸させるにあたっては、重合性モノマーと酸化剤溶液とを混合することなく、重合性モノマー溶液と、酸化剤溶液とをそれぞれ含浸させても良い。なお、この含浸、乾燥工程は繰り返し行っても良い。
【0036】
重合性モノマーとしては、チオフェン系の導電性高分子材料、ピロール系又はアニリン系の導電性高分子材料が使用され、より好ましくは3,4−エチレンジオキシチオフェンが用いられる。
【0037】
重合反応は通常45〜150℃にて行い、反応時間は0.5〜5時間とする。重合後、重合残渣や余剰の重合性モノマーと酸化剤を取り除くために洗浄を行っても良い。その後、金属製ケースに封入し、必要に応じてエージング等の処理を行い、巻回型コンデンサを完成する。
【0038】
次にチップ型コンデンサの場合を例にとり説明する。アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン等の弁作用金属の板状箔又は焼結体を準備し、この陽極体表面を酸化し誘電体酸化皮膜を形成させた陽極体を準備する。この陽極体に導電性高分子層、導電性カーボンを含有するカーボン層、銀ペースト等からなる陰極引き出し層が順次形成されコンデンサ素子が構成される。陽極体に導電性高分子層を形成するにあたって、上記巻回型コンデンサの場合と同様にして本発明の酸化剤溶液を使用して重合反応させればよい。陽極体の一端面に植立された陽極リード部材に陽極端子が接続され、陰極引き出し層に陰極端子が接続され、コンデンサ素子がエポキシ樹脂等の外装樹脂によって被覆密封され、チップ型コンデンサを完成する。
【0039】
かくして得られる本発明の固体電解コンデンサは、高い耐電圧を有するものであり、例えば、耐電圧が、40V以上が好ましく、43V以上がより好ましく、46V以上が特に好ましく挙げられる。
【0040】
その理由は明らかではないが、本発明で酸化剤として用いられる有機スルホン酸第二鉄塩を構成するベンゼンスルホン酸及びアルキルベンゼンスルホン酸は、有機スルホン酸全体における平均分子量が小さいため、適切な重合速度をとることができ、その結果、平滑な導電性高分子からなる固体電解質が形成されるとともに、誘電体酸化皮膜を有する弁作用金属の細孔部にまで深く入り込むことができることから、高い耐電圧を有する固体電解コンデンサを製造することができると考えられる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例等に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0042】
(製造例1)
酸化剤溶液の調製:
p−トルエンスルホン酸一水和物(和光製薬)50.00g、ベンゼンスルホン酸一水和物(和光製薬)0.47g(p−トルエンスルホン酸とベンゼンスルホン酸のモル比=99:1)に水3.28gを加え、酸化第二鉄7.60gを撹拌しながら混合し、温度100℃で3時間撹拌還流した。その後、水を留去し、ブタノールとメタノールの混合溶媒(質量比1:1)を50ml加えた。得られたベンゼンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸の第二鉄塩のブタノール・メタノール混合溶液について、ベンゼンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸の第二鉄塩の濃度を0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定して求め、その後、これらの合計の濃度が60質量%となるようブタノールとメタノール混合溶液(質量比1:1)を添加し、酸化剤溶液を調製した(酸化剤溶液1)。また、酸化剤溶液中の水分含有量をカールフィッシャー法によって測定したところ1.0質量%であった。
【0043】
(製造例2〜6)
有機スルホン酸全体に対するp−トルエンスルホン酸とベンゼンスルホン酸の含有量が表1に示す値となるようにそれぞれの添加量を変更した以外は、製造例1と同様にして酸化剤溶液を調製した(酸化剤溶液2〜6)。各酸化剤溶液について製造例1と同様にして水分を測定したところいずれも1.0質量%であった。
【0044】
(比較製造例1、2)
有機スルホン酸全体に対するp−トルエンスルホン酸とベンゼンスルホン酸の含有量が表1に示す値となるようにそれぞれの添加量を変更した以外は、製造例1と同様にして酸化剤溶液を調製した(酸化剤溶液7、8)。各酸化剤溶液について製造例1と同様にして水分を測定したところいずれも1.0質量%であった。
【0045】
(比較製造例3〜5)
製造例1で用いたベンゼンスルホン酸の代わりにp−メトキシベンゼンスルホン酸を用い、有機スルホン酸全体に対するp−トルエンスルホン酸とp−メトキシベンゼンスルホン酸の含有量が表2に示す値となるようにそれぞれ添加量を変更した以外は、製造例1と同様にして酸化剤溶液を調製した(酸化剤溶液9〜11)。各酸化剤溶液について製造例1と同様にして水分を測定したところいずれも1.0質量%であった。
【0046】
(実施例1)
固体電解コンデンサの作製:
製造例1で調製した酸化剤溶液1に、重合性モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを質量比2.5:1(酸化剤溶液:重合性モノマー)となるように加え、18℃に設定したサーモプレート上で攪拌し重合溶液を準備した。この重合溶液に巻回型アルミニウム固体電解コンデンサ素子を1分間含浸させた。その後45℃で1時間、次いで100℃で10分重合反応させ、さらに150℃で10分、200℃で10分乾燥し、巻回型コンデンサに導電性高分子層を形成させて固体電解コンデンサを作製した。
【0047】
(実施例2〜6)
酸化剤溶液1を、製造例2〜6で調製した酸化剤溶液2〜6に代えた以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを作製した。
【0048】
(比較例1、2)
酸化剤溶液1を、比較製造例1、2で調製した酸化剤溶液7、8に代えた以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを作製した。
【0049】
(比較例3〜5)
酸化剤溶液1を比較製造例3〜5で調製した酸化剤溶液9〜11に代えた以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0050】
(試験例1)
固体電解コンデンサの評価:
実施例1〜6及び比較例1〜5により得られた固体電解コンデンサについて、ADVANTEST社製DIGITAL MULTIMETERを用いて耐電圧(V)を測定した。結果を表1、2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1、2から、実施例1〜6の酸化剤溶液を用いて導電性高分子層を形成させた固体電解コンデンサは、いずれも高い耐電圧を示した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の導電性高分子製造用酸化剤溶液を用いて製造した固体電解コンデンサは優れた電気特性を有するため、高周波領域で使用される様々なデジタル機器等に適用できる。