特許第6125349号(P6125349)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6125349
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】熱硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/42 20060101AFI20170424BHJP
【FI】
   C08G59/42
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-132278(P2013-132278)
(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-7165(P2015-7165A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2016年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高松 広明
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭子
(72)【発明者】
【氏名】竹口 港
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−156178(JP,A)
【文献】 特公昭46−009425(JP,B1)
【文献】 特開2006−070266(JP,A)
【文献】 特開2005−099404(JP,A)
【文献】 特開2001−350010(JP,A)
【文献】 特開2004−339333(JP,A)
【文献】 特開2009−041028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と硬化剤とを含有する熱硬化性組成物において、エポキシ樹脂として下記一般式(1)で示される2,4,6−トリ(グリシジルオキシ)−1,3,5−トリアジン、硬化剤として下記一般式(2)で示されるブロックカルボン酸とを含むことを特徴とする熱硬化性組成物。
【化1】
[上記一般式(2)中、R及びRは置換若しくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基を示す。]
【請求項2】
上記一般式(2)において、Rが置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基を示す、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、熱硬化性組成物にはエポキシ樹脂や硬化剤等が含まれている。熱硬化性組成物から得られる樹脂硬化物は、優れた耐熱性を示すため、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)を収納するためのパッケージ材料に代表される様々な分野で用いられている。
【0003】
特許文献1では、エポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化触媒等を混合し熱硬化性組成物が得られることを開示している。しかしながら、例えば実施例で例示されているエポキシ樹脂として1,3,5−トリス(2,3−エポキシプロピル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、硬化剤としてヘキサヒドロ無水フタル酸、硬化触媒としてテトラ−n−ブチルスルホニウム−o,o−ジエチルホスホロジチオエートを用いた場合、それらから作製した熱硬化性組成物が25℃程度の常温で貯蔵した際に、徐々に硬化反応が進行するという問題があった。すなわち、貯蔵安定性を改善する必要がある。
【0004】
特許文献2では熱硬化性組成物の貯蔵安定性の向上のためにブロックカルボン酸を使用することを開示している。しかしながら本発明者らが、一般的なエポキシ樹脂である1,3,5−トリス(2,3−エポキシプロピル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオンと、ブロックカルボン酸とを含む熱硬化性組成物を検討したところ、硬化時間が長いため、製造効率の点で改善の余地があることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−242772号公報
【特許文献2】特開2004−292706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記を鑑みて、本発明は貯蔵安定性に優れ、かつ硬化時間の短い熱硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明はエポキシ樹脂や硬化剤等を含む熱硬化性組成物において、前記エポキシ樹脂として2,4,6−トリ(グリシジルオキシ)−1,3,5−トリアジン[下記一般式(1)]と、前記硬化剤として下記一般式(2)で示されるブロックカルボン酸とを含有することを特徴とするものである。
【0008】
【化1】
[上記一般式(2)中、R及びRは置換若しくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基又は、置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基を示す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、貯蔵安定性に優れ、かつ硬化時間の短い熱硬化性組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<エポキシ樹脂>
本発明の熱硬化性組成物は、エポキシ樹脂として、2,4,6−トリ(グリシジルオキシ)−1,3,5−トリアジン(上記一般式(1))を含有することを特徴とする。かかるエポキシ樹脂と特定の硬化剤を
用いることで、熱硬化性組成物は硬化時間が短くなる。
【0011】
<硬化剤>
本発明の熱硬化性組成物は、硬化剤として上記一般式(2)で示されるブロックカルボン酸を含有することを特徴とする。上記一般式(2)で示される硬化剤は、分子内にカルボキシル基を2個含有するジカルボン酸とビニルエーテルとを付加反応させることにより得られるブロックカルボン酸である。上記一般式(2)において、Rはジカルボン酸由来の置換基であり、Rはビニルエーテル由来の置換基である。従って、ジカルボン酸とビニルエーテルとを適宜選択することにより一般式(2)におけるR及びRへ種々の置換基を導入することができる。かかるブロックカルボン酸と上記一般式(1)で示される特定のエポキシ樹脂を用いることで、熱硬化性組成物は貯蔵安定性が向上する。
【0012】
上記一般式(2)のRが置換若しくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基を有する場合のジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。上記一般式(2)のRが置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基を有する場合のジカルボン酸としては、1,9−ノナンジカルボン酸、1,1−シクロプロパンジカルボン酸、1,1−シクロブタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、3−メチルヘキサヒドロフタル酸、4−メチルヘキサヒドロフタル酸、2,3−ノルボルナンジカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸等が挙げられる。
【0013】
上記一般式(2)のRが置換若しくは無置換の炭素数1〜10の直鎖状脂肪族炭化水素基を有する場合のビニルエーテルとしては、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。上記一般式(2)のRが置換若しくは無置換の炭素数3〜10の脂環式脂肪族炭化水素基を有する場合のビニルエーテルとしては、シクロヘキシルビニルエーテル、ノルボルニルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0014】
一般式(2)で表される硬化剤は、前記ジカルボン酸の少なくとも1種と前記ビニルエーテルの少なくとも1種とを、溶媒中、60〜100℃の温度で反応させることにより得られる。
【0015】
本発明の熱硬化性組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を使用することができる。例えば添加剤として、硬化促進剤、無機充填剤、酸化防止剤、可塑剤等が挙げられる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0017】
(製造例1)
脱イオン水中にHN−5500(日立化成社製)を添加し混合液を作製する。混合液の温度を60℃に調整し4時間攪拌した。混合液をろ過し、白色固体を取り出した。減圧乾燥により白色固体中の水分を除き、メチルヘキサヒドロフタル酸を得た。
【0018】
(製造例2)
MIBK溶媒に、製造例1のメチルヘキサヒドロフタル酸を1当量、n−プロピルビニルエーテル(日本カーバイド工業社製)を3当量加え、65℃で4時間反応した。分液抽出及び減圧留去により、溶媒及び未反応の化合物を除き硬化剤Aを作製した。このときの収率は約90%であった。
【0019】
(製造例3)
n-プロピルビニルエーテルの代わりにシクロヘキシルビニルエーテル(日本カーバイド工業社製)を用いた以外は、製造例2と同様にして硬化剤Bを作製した。このときの収率は約90%であった。
【0020】
(製造例4)
メチルヘキサヒドロフタル酸の代わりにアジピン酸(和光純薬工業社製)を用いた以外は、製造例2と同様にして硬化剤Cを作製した。このときの収率は約90%であった。
【0021】
(実施例1〜3、比較例1〜4)
表1に示した組成の通りにエポキシ樹脂と硬化剤とを配合し、さらに均一に混合し、熱硬化性組成物を得た。
【0022】
前記実施例1〜3及び比較例1〜4で得られた熱硬化性組成物の物性は、以下の手法で評価した。
【0023】
(2)硬化時間の測定
実施例1〜3、及び比較例1〜4の熱硬化性組成物について、180℃におけるゲル化時間をJISC2161により測定した。ここではゲル化時間の3倍の時間を硬化時間とした。
【0024】
【表1】
表中の「−」は未配合を示す。
【0025】
表1中の略号は以下の通りである。
TGC:トリグリシジルシアヌレート(2,4,6−トリ(グリシジルオキシ)−1,3,5−トリアジン、日本カーバイド工業社製)
TEPIC−S:トリグリシジルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3−エポキシプロピル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、日産化学社製)
硬化剤A:製造例2の化合物
硬化剤B:製造例3の化合物
硬化剤C:製造例4の化合物
硬化剤D:リカシッドMH−700(メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、新日本理化社製)
硬化剤E:リカシッドCHDA(1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、新日本理化社製)
【0026】
表1の結果より、実施例1〜3における貯蔵安定性は、いずれも比較例1〜4における貯蔵安定性よりも優れていることが分かった。また、硬化時間についても、実施例1〜3の硬化時間は比較例1〜4の硬化時間より短いことが分かった。従って、本発明の熱硬化性組成物は、貯蔵安定性に優れ、短時間で効率よく樹脂硬化物を得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の熱硬化性組成物は、貯蔵安定性に優れるため長時間保存することができ、短時間で効率よく硬化することから、光半導体素子を収納するためのパッケージ材料等に用いることが可能であり、パッケージ等の生産性に優れるものである。