(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6125512
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】モジュール式組織固定システム
(51)【国際特許分類】
A61B 17/04 20060101AFI20170424BHJP
A61L 17/00 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
A61B17/04
A61L17/00
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-533622(P2014-533622)
(86)(22)【出願日】2012年9月21日
(65)【公表番号】特表2014-528799(P2014-528799A)
(43)【公表日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】US2012056577
(87)【国際公開番号】WO2013048901
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年6月18日
(31)【優先権主張番号】13/247,713
(32)【優先日】2011年9月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512080321
【氏名又は名称】エシコン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ethicon, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】リンド・デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ルソー・ロバート
【審査官】
吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−529643(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0176875(US,A1)
【文献】
独国特許出願公開第10245076(DE,A1)
【文献】
特表2002−506376(JP,A)
【文献】
特表2011−502549(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0144539(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/04
A61L 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織固定のためのシステムであって、
a)遠位端と近位端とを含み、貫通した組織を固定するための繊維であって、該遠位端が、更に遠位コネクターを含み、かつ該近位端が、更に近位コネクターを含む、繊維と、
b)遠位端と近位端とを含む曲線状の針であって、該遠位端が、更に組織穿刺面を含み、かつ該近位端が、コネクターを含み、該コネクターが、前記繊維の前記遠位コネクターと解放自在に係合可能である、針と、
c)近位端と遠位端とを含む直線状の組織通し器であって、該遠位端が、組織穿刺先端を含み、前記繊維の前記遠位コネクター及び近位コネクターと解放自在に係合可能である、組織通し器と、
を含む、システム。
【請求項2】
前記繊維の遠位又は近位コネクターが、通し穴、かかり、フック、及びオスの戻り止めからなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記繊維の前記コネクターが、円錐形かかり又は平面かかりである、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記針の前記コネクターが、通し穴、かかり、フック、及びオスの戻り止めからなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記かかりが円錐形かかり又は平面かかりである、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記組織通し器の前記遠位端が、通し穴、かかり、フック、及びオスの戻り止めからなる群から選択される形状を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記繊維の、前記遠位コネクター及び前記近位コネクターが通し穴であり、前記針の前記近位端及び前記組織通し器の前記遠位端が、前記繊維の該通し穴と解放自在に係合可能であるオスの戻り止めを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記組織通し器の前記遠位端が、前記繊維の前記通し穴と解放自在に係合可能であるかかりを含む、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記組織通し器の前記遠位端が、前記繊維の前記通し穴と解放自在に係合可能であるフックを含む、請求項7に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般に、組織を固定するためのシステムに関し、より具体的には、閉塞性睡眠時無呼吸症の治療に用いるための組織固定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA:Obstructive Sleep Apnea)は、気道の閉塞によって引き起こされ、通常は、睡眠中に喉の軟組織が虚脱して閉鎖したときに発生する。National Institutes of Healthによれば、OSAは1200万人を越える米国人が罹患している。それぞれの無呼吸事象の間、脳はこの病人を短時間覚醒させて呼吸の再開を開始させる。しかしながら、この種の睡眠は、極めて断片化されており、質が低い。治療せずに放置すると、OSAは、高血圧、心臓血管疾患、体重増加、性交不能症、頭痛、記憶障害、仕事への支障、及び/又は自動車事故を引き起こす場合がある。OSAの重篤性にも関わらず、公衆及び医療専門家の間での一般的な認識の欠如により、大多数のOSA患者が未診断及び未治療のままとなっている。
【0003】
人体において、鼻腔と喉頭との間の空気で満たされた空隙は、上気道と呼ばれる。睡眠障害を伴う上気道の最も重要な部分は咽頭である。咽頭は3つの異なる解剖学的レベルを有する。上咽頭は、鼻腔の後部に位置する咽頭の上部部分である。中咽頭は、軟口蓋、喉頭蓋、及び舌の後部の曲線を含む、咽頭の中間部分である。下咽頭は、中咽頭の軟組織の下に位置する咽頭の下部である。中咽頭は、軟組織構造の高率発生に起因して虚脱する可能性が最も高い咽頭部分であり、この虚脱により空気流のための空隙が少なくなる。下咽頭は、喉頭の開口の下方かつ喉頭の後方に位置し、食道まで延びる。
【0004】
当業者にはよく知られているように、軟口蓋及び舌は共に、柔軟性のある構造体である。軟口蓋は、鼻腔と口との間に障壁を提供する。多くの場合、軟口蓋は必要以上に長く、舌の後部と咽頭後壁との間において相当の距離にわたって延びる。
【0005】
睡眠中は体全体の筋肉が弛緩するが、呼吸器系の筋肉のほとんどは活性状態を維持する。吸入時に、横隔膜は収縮し、陰圧を引き起こして空気を鼻腔及び口の中まで引き込ませる。次に、空気は、咽頭を越え、気管を通って肺の中まで流れる。陰圧は、上気道の組織をわずかに変形させ、これにより気道経路が狭くなる。無呼吸の患者では、軟口蓋、舌、及び/又は喉頭蓋は、虚脱して咽頭後壁に当たり、気管の中への空気流を遮断する。気道が狭くなると、咽頭を通る空気流は乱流となり、これが軟口蓋を振動させる原因となり、一般にいびきとして知られる音を生成する。
【0006】
睡眠中、人は、典型的には、空気流の短時間の閉塞及び/又は気管及び肺の中に入る空気流の量のわずかな低下を経験する。10秒を超える空気流の閉塞は、無呼吸と見なされる。50%を超える空気流の減少は、呼吸低下と見なされる。睡眠障害の重症度は、睡眠1時間の間に発生する無呼吸及び呼吸低下の回数で判断される。
【0007】
無呼吸又は呼吸低下が1時間に5回を超えて発生する場合、ほとんどの医療関係者は、その個人が上気道の抵抗問題を有していると診断する。これらの患者の多くは、日中の眠気、抑うつ症、及び集中力の欠如などの睡眠障害に関連した症状を呈することが多い。
【0008】
睡眠1時間の間に10回以上の無呼吸又は呼吸低下の症状を発現する個人は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を有すると正式に分類される。気道が閉塞すると、個人は、無理に吸入するための試みを繰り返し行う。これらの症状の発現の多くは無音であり、個人が無理に空気を肺の中に引き込むときの腹部及び胸壁の動きによって特徴付けられる。典型的には、無呼吸の症状の発現は1分以上続く可能性がある。この間、血中の酸素濃度は低下する。最終的に、閉塞は、個人が大きな音のいびきを引き起こすことによって、又は息苦しい感覚によって目覚めることによって、克服される。
【0009】
個人が覚醒しているときは、舌の後部及び軟口蓋は、舌の後部及び軟口蓋のそれぞれの内部筋肉により、それらの形状及び緊張を維持している。その結果、咽頭を通る気道は開いたままであり、かつ遮るものはない。しかしながら睡眠中は、筋肉の緊張が低下し、舌後面及び軟口蓋がより柔軟かつ膨張性となる。舌後面及び軟口蓋の形状を維持し、単独で又は群としてそれらを定位置に維持する正常な筋肉の緊張がなくなり、舌の後面、喉頭蓋及び軟口蓋が容易に虚脱して気道を遮断する傾向がある。
【0010】
米国特許第7367340号は、睡眠時無呼吸症を治療するための一アプローチを記述しており、これは、下顎に係留されて舌内に力を印加することができ、これにより睡眠中に舌が虚脱するのを防ぐことができるエレメントの使用を目的としている。本明細書に記述される実施形態において、デバイスは、堅固な固定点を得るために、下顎のドリル孔を通して下顎に取り付けられるエレメントを含んでいる。この取付け方法は、下顎内にある歯の解剖学的構造及び神経構造を損傷するリスクがある。
【0011】
InfluENT(Concord,NH)によって商標「REPOSE(商標)」として販売されているインプラントシステムは、口腔底の下顎骨の後面に挿入されるチタン製骨用ネジを使用する。縫合糸のループを舌根に通し、下顎骨ネジに取り付ける。REPOSE(商標)手技は、舌根の懸吊又はハンモックの状態を達成して、睡眠中に舌根が脱出しないようにする。しかしながら、覚醒時には舌が活発に活動するため、このデバイスの縫合糸コンポーネントが舌の中で切断器として作用することがあり、デバイスの転置、及び最終的に処置の効果の喪失が起こり、後で除去が必要になることがある。加えて、この繊維は、無菌的アプローチと非無菌的アプローチの両方の組み合わせにより、舌の中に配置される。ネジを配置する下顎の下方領域にアクセスを提供するため、オトガイ下空間内に切開が行われる。ネジを下顎に取り付けた後、繊維エレメントを、オトガイ下筋肉組織を通し、オトガイ舌筋を通して、舌の中に通し、繊維エレメントが舌の粘膜面から出て、汚染した口腔内に入る。この経路は、繊維を把持する直線設計の縫合糸通し器を使用し、ジョー様のエレメントを使用し、かつこれを直線の経路で舌に通すことによって達成される。口腔内に出ると、この繊維は粘膜下を横方向に通され、曲線の縫合糸通し器(本質的に通し穴のある針)により形成された元の穿刺穴を通過する。
【0012】
通し穴のある針を使用することによって、針の通し穴近くで繊維を半分に折ることになり、これによって、デバイスの差込み直径/切開断面が、不規則な様相で増大する。この差込み切開面の増大により、組織経路内に配置される単繊維に必要な穴よりも大きな穴が生じる。
【0013】
更に、ジョー型の直線縫合糸通し器を使用すると、差込み断面切開面の増大も生じる。繊維はジョー内に配置され、クランプされる。最善の場合において、ジョーの結果として生じる差込み切開組織面は、直線縫合糸通し器のシャフトの断面積と共に配置された繊維の断面積を含む。
【0014】
もう1つの市販されている舌懸吊デバイスは、ASPIRE Medicalによって開発されたADVANCEシステムと呼ばれるものである。これは、下顎内の骨ネジを利用して舌根に用いるREPOSE縫合糸懸吊システムに類似しているが、調節可能であるという利点がある。このデバイスは、ひっかけ鉤に似た形状の、舌の中における柔軟な形状記憶アンカーを利用して、組織を舌根内に係合させる。これはオトガイ下領域の小さな切開を通して配置され、縫合糸は下顎に取り付けられたスプール様のコンポーネントに取り付けられる。治癒から2〜4週間後に、顎の下に小さな切開を行い、ねじを回して縫合糸を引き締め、これによりデバイスが前方向に引っ張られる。このデバイスは無菌領域内での単純化された設置技法を提供するが、舌筋肉組織内の負荷により、アンカーが高率でデバイス破損及び故障を起こしやすい可能性がある。加えて、歯又は歯の神経根に損傷を与えるリスクは、RESPOSE骨ネジと同様である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
舌懸吊デバイスには上述のような利点があるけれども、繊維の通過を可能にし、かつ繊維の横断に形成される切開トンネルの大きさ増加を最小限に抑えた、舌懸吊方法及び縫合糸通し器デバイスのニーズが依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、全般的に、組織を固定するための次のものを含むシステムに関する:
a)遠位端及び近位端を含む固定繊維であって、この遠位端が更に遠位コネクターを含み、かつこの近位端が更に近位コネクターを含む、固定繊維と、
b)遠位端及び近位端を含む針であって、この遠位端が更に組織穿刺面を含み、かつこの近位端がコネクターを含み、このコネクターがこの繊維の遠位コネクターと解放自在に係合可能である、針と、
c)近位端及び遠位端を含む組織通し器であって、この遠位端が、この繊維の遠位及び近位コネクターと解放自在に係合可能である、組織通し器。
【0017】
本発明はまた、全般的に、次の段階を含む組織固定方法に関する:
a)固定繊維に取り付けられている、近位端及び遠位端を有する針を、第1の穿刺点において組織に差し込む段階であって、該固定繊維は第1端及び第2端を有し、該固定繊維の第1端と針の近位端で針が繊維に取り付けられている、段階と、
b)第2の穿刺点において、この針及び固定繊維が組織から出る段階と、
c)この固定繊維の第1端及び第2端が、第1の穿刺点及び第2の穿刺点において組織の外側に留まった状態で、この固定繊維から針を解放する段階と、
d)繊維通し器を、第1の侵入点から組織に通し、第1の穿刺点で組織から出す段階と、
e)繊維通し器の遠位先端を、第1の穿刺点で組織の外側にある繊維の第2端に取り付ける段階と、
f)繊維通し器を、取り付けられた繊維と共に第1の侵入点を通して外に引っ張ることによって、第1の穿刺点において組織を通して繊維通し器に取り付けられた繊維を引き出す段階と、
g)繊維通し器から繊維を解放する段階と、
h)繊維通し器を、第2の侵入点から組織を通して、第2の穿刺点において組織の外に通す段階と、
i)繊維通し器の遠位先端を、第2の穿刺点で組織の外側にある繊維の第1端に取り付ける段階と、
j)繊維通し器を、取り付けられた繊維と共に第2の侵入点を通して外に引っ張ることによって、第2の穿刺点において組織を通して繊維通し器に取り付けられた繊維を引き出す段階と、
k)繊維通し器から繊維を解放する段階と、
l)第1の侵入点及び第2の侵入点にある繊維の端を、少なくとも1つのアンカーに取り付けるか、又は、繊維の端を互いに結び合わせる段階。
【0018】
好ましい実施形態において、本発明のシステム及び方法は、舌の固定に関する。
【0019】
本発明のシステム及び方法は、少なくとも下記の利点を提供する。繊維の端のコネクター機構により、解放自在な針の使用が可能になり、これによって係蹄/通し穴付き針タイプの構成に縫合糸を通す必要がなくなり、かつ、後で組織に通す繊維の繊維経路直径を最小限に抑えることができる。繊維通し器上のフック型エレメントにより、組織の引きずり又は外傷を最小限に抑えながら組織を貫通することが可能になり、繊維の端のコネクター機構に手早く接続することが可能になり、また、繊維のコネクター機能と組み合わせることで、繊維を折り畳むことなく繊維の経路配置を確保することにより組織内経路の直径を最小限に抑える。解放自在な針により、繊維を容易に取り付け/取り外すことが可能になり、これにより、繊維を折り畳むことのない繊維の経路配置で、組織内経路の直径を最小限に抑えることを確実にする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1a】直線縫合糸通し器の通し穴に繊維を通し、その通した繊維を組織内に通過させることを特に目的とした、組織固定システムの一方法の要素を示す。
【
図1b】直線縫合糸通し器の通し穴に繊維を通し、その通した繊維を組織内に通過させることを特に目的とした、組織固定システムの一方法の要素を示す。
【
図1c】直線縫合糸通し器の通し穴に繊維を通し、その通した繊維を組織内に通過させることを特に目的とした、組織固定システムの一方法の要素を示す。
【
図2】繊維の末端に取り付けられる、通し穴のあるコネクターを備えた、本発明の繊維コンポーネントの一実施形態を示す。
【
図3a】本発明のシステムと共に使用するのに好適な、解放自在に接続可能な針及び縫合糸通し器の実施形態を示す。
【
図3b】本発明のシステムと共に使用するのに好適な、解放自在に接続可能な針及び縫合糸通し器の実施形態を示す。
【
図4】処置を受ける組織にアプローチする、解放自在に係合した針及び繊維を示す。
【
図5】組織に貫通し組織から出る、解放自在に係合した針及び繊維を示す。
【
図6】固定繊維から解放された後の、
図5の解放自在に係合した針を示す。
【
図7】固定繊維のコネクター端を係合させるための、舌の筋肉組織を通って配置される繊維通し器の使用を示す。
【
図8】組織を通して係合繊維を引っ張る前の、固定繊維端の一方にコネクターを備えた、繊維通し器の係合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、最小限の組織外傷で配置することが可能な組織固定システムに関する。このシステムは、3つの主要な機能コンポーネントからなる。このシステムは、改変された末端を有する懸吊繊維、解放自在な針、及び直線縫合糸通し器を含む。この解放自在な針及び直線縫合糸通し器は、懸吊繊維の改変された末端と係合するよう設計されている。
【0022】
本明細書で使用される用語「縫合糸」及び「繊維」は、互換可能に使用され得る。加えて、用語「縫合糸通し器」、「繊維通し器」及び「組織通し器」は、互換可能に使用されるものとして意図される。
【0023】
図1a〜1cは、改変されていない繊維20及び縫合糸通し器30からなる、組織10(この場合は舌)を固定するための懸吊システムを示す。この縫合糸通し器30は、通し穴を備えた、先端が先細のロッドを含む。
図1aに示すように、使用中、口腔内において、縫合糸通し器30の通し穴に繊維20が手作業で通される。
図1bは、組織10を通って縫合糸通し器30を引っ張り始めたときの繊維20を示す。
図1cは、
図1bの断面図であり、縫合糸通し器30が組織10を通って引っ張られる際に繊維20が通る経路の別角度から見た図である。口腔内の限られた容積内で繊維を通し穴に通すのは、縫合糸通し器の動きが限られるため、器用さと忍耐力を必要とする。加えて、繊維を通し穴近くで繊維を半分に折ることになり、これによって、組織内に引き込まれたときのデバイスの合計断面積が増大し、これは、倍の太さの繊維が組織内を引っ張られることによる追加外傷の原因となる。
【0024】
図2は、通し穴付きコネクター22が取り付けられた、組織固定システムの繊維コンポーネント20の一実施形態を示す。コネクター22は、任意の従来式方法によって繊維20に取り付けることができ、この方法には、コネクターを繊維にクリンプする方法、又は、コネクター及び/又は繊維に接着剤を適用する方法が挙げられるがこれらに限定されない。図には通し穴付きコネクター22が示されているが、解放自在な針及び縫合糸通し器と係合する形状を含む別のコネクターも使用可能であることが当業者には理解されよう。別のコネクターの非限定的な例としては、円錐形かかり、平面かかり、オスの戻り止め、フック状形状、磁石、又は例えば円錐形末端と受容体形状などの位置合わせ機能と組み合わせた磁石が挙げられる。
【0025】
コネクター22は、上述の繊維の末端に固定される別個のエレメントとして追加することができる一方、コネクター22は、任意の数の手段によって繊維の端に直接形成することが可能であることも当業者には理解されよう。この手段には次の段階が含まれるがこれらに限定されない:i)繊維の端を折り曲げ、その繊維と繊維とを結んで、通し穴を形成するか、又は、マルチフィラメント繊維の場合は、そのマルチフィラメント繊維の端を折り曲げ、繊維の端から十分な距離の位置で繊維のフィラメント内に撚り継ぎすることにより、通し穴を形成する段階、ii)例えば機械加工、切断、折り曲げなどの機械的手段により繊維の端を再形成する段階、あるいは、iii)例えば高周波チッピング、熱圧縮成形、超音波成形、及びその他の類似方法などのエネルギー式成型の使用により、繊維の端を適切な形状に形成する段階。例えば、熱可塑性樹脂系繊維の場合、縫合糸通し器との係合のために、繊維の先端を円錐形かかり形状又は通し穴形状に形成することが望ましい可能性がある。繊維の自由端は、最終的に望ましい形状に形成された成形型空洞内に配置される。繊維に圧力を印加すると、熱可塑性樹脂がその材料の融点を超え、最終的空洞形状に再形成される。繊維材料を融点より下の温度まで冷ます十分な時間が経過してから、繊維を型から取り出す。熱硬化性樹脂、又はその他の非成形可能材料の場合は、繊維を必要以上に大きな形状に製造することができる。この繊維を次に打ち抜きダイに配置し、関連するコネクター及び形状に合わせて、この繊維を最終形状に打ち抜くことができる。
【0026】
本発明に有用な繊維20コンポーネントの好適な材料は、非吸収性生体適合性縫合繊維材料の任意のものである。本発明での使用に好適な非吸収性材料としては、綿、麻、絹、ポリアミド(ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)及びポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン61)のコポリマー及びこれらの混合物)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチルテレフタレート、コポリマー、及びこれらの混合物)、フルオロポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン及びポリフッ化ビニリデン)ポリ(ヘキサフルオロプロピレン−VDF)、ポリアリールエーテルケトン、ポリオレフィン(例えば、アイソタクチック及びシンジオタクチックポリプロピレン及びこれらの混合物を含むポリプロピレン、並びに、主にヘテロタクチックポリプロピレンと混合されたアイソタクチック及びシンジオタクチックポリプロピレンからなる混合物(例えば、1985年12月10日に出願された米国特許第4,557,264号に記載され、参照により本明細書に記述され、Ethicon,Inc.に譲渡されているものなどであり、この全体が参照により本明細書に組み込まれる))、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
一時的な懸吊が望ましい場合、例えば、舌及び関連組織の腫脹を起こし得る外傷又は過激な外科的介入の場合、あるいは尿道懸吊などの他の部位の場合には、浮腫/腫脹が軽減するまでの一時的なサポートを提供するのが望ましいことがある。単繊維及び/又は撚糸として使用する好適な吸収性材料としては、脂肪族ポリエステルが挙げられるがこれに限定されず、脂肪族ポリエステルには、ラクチド(乳酸、d−、l−及びメソラクチドを含む)、グリコリド(グリコール酸を含む)、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン(1,4−ジオキサン−2−オン)、トリメチレンカーボネート(1,3−ジオキサン−2−オン)、トリメチレンカーボネートのアルキル誘導体、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレート、1,4−ジオキセパン−2−オン(この二量体1,5,8,12−テトラオキサシクロテトラデカン−7,14−ジオンを含む)、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2−オンのホモポリマー及びコポリマー、並びにこれらのポリマー混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
図3a及び3bは、曲線針40及び直線縫合糸通し器30が、通し穴付きコネクター22を有する繊維20と解放自在に係合可能な、好ましい実施形態を示す。より具体的には、
図3aは、曲線針40の全体的形状が、針40の近位端の拡大図と共に示されており、本実施形態では、この近位端は、通し穴コネクターと解放自在に係合可能な戻り止め42を備えた凹部を含んで示されている。同様に、
図3bに示すように、縫合糸通し器30は、その遠位先端の拡大図と共に示されている。縫合糸通し器30の遠位先端は、組織穿刺先端と、戻り止め32を含んだ凹部とを含んでいる。通し穴付きコネクター22を有する繊維20と共に使用した場合、縫合糸通し器30の戻り止め32は、コネクター22と解放自在に係合可能であり、よって組織を通して繊維20を引き出すことができる。
【0029】
上記で開示されている繊維コネクター端に利用可能な縫合糸通し器先端設計の非限定的な例としては、通し穴末端を有する繊維と接合するための円錐形かかり、平面かかり、メスの戻り止めポケット、通し穴、フック状形状、クイック接続型のスリーブ配置、バキュームウェル/表面、ジョー様形状、受動的磁石先端、エネルギー式磁石先端、又は例えば円錐形末端と受容体形状などの位置合わせ機能と組み合わせた磁石が挙げられる。
【0030】
使用中、本発明のシステムは、様々なタイプの組織を固定するのに使用することができ、同時に、従来技術の組織固定システムに比べ、組織への外傷を最小限に抑えることができる。
【0031】
本発明のシステムを使用した組織固定方法は、下記の図に示されている。下記の方法は、舌懸吊処置における舌の固定について記述されているが、当業者には、記述されている方法が他のタイプの組織の固定又は懸吊にも同等に適用可能であることが理解されよう。
【0032】
図4を参照し、舌懸吊処置は、処理をする舌の領域の標的を定めることから始める。この場合、懸吊繊維の横方向経路は、正中溝/有郭乳頭にほぼ揃った位置で舌を通して標的が定められ、解放自在な針40の使用により舌の粘膜面を貫通するよう差し込まれる。
図4は、この舌の表面へのアプローチを示す。具体的には、コネクター22により繊維20に係合している解放自在な針40が、舌10にアプローチしている。
【0033】
図5は、舌10を通る針40の経路を示す。針40は、正中線位置から横約1cmの位置で舌10に入り(P
1)、正中線位置から反対側に横約1cmの位置で舌10から出る(P
2)ことにより、2つの穿刺(P
1及びP
2)を形成する。この実施形態において、繊維20の近位側コネクター22は、まだ引っ張られておらず、依然として舌10の外側にある。
【0034】
図6は、繊維コネクター22からの針40の解放を示す。解放した後、繊維20はこれで、遠位側及び近位側のコネクター22で舌10の粘膜下組織を固定する更なる段階に進む用意ができたことになる。
【0035】
図7は、ヒト頭部50の部分断面図と、本発明の方法を実施する更なる段階を示す。より具体的には、繊維通し器30が、オトガイ下切開52内を通過して舌10の顎舌骨及びオトガイ舌筋を通過し、繊維20の一方の端によって形成された同じ穿刺P
1内に配置する出口に至る。ここで
図8を参照し、繊維20のコネクター端22の一方が、繊維通し器30の末端にある係合エレメント32と係合している。この実施形態において、係合エレメント32は、繊維通し器30の先端にフック状の凹部が形成されている。エレメント32が繊維20と係合した後、繊維通し器30を引いて、懸吊繊維20の自由端を、舌の筋肉組織を通り、オトガイ下切開52から出て、舌10の穿刺P
1内へと引き込む。この段階は、穿刺P
2を通る繊維20の第2端についても繰り返す。懸吊繊維20の自由端は、オトガイ下切開52内にある、剛性又は非剛性のいずれのアンカーエレメントを介しても、直接引っ張ることができ、あるいは別の方法として、繊維通し器30との係合を外した後、アンカーに繊維を通すことができる。
【0036】
したがって、繊維20の両方の端が筋肉組織を通って引っ張られ、オトガイ下切開52から出た後、
図9に示すように、コネクター端22が切断又は除去される。
【0037】
コネクター22が除去された後、繊維20の自由端に張力を印加し、舌の適切な懸吊を行う。繊維20の自由端は、それら同士で結ぶか、少なくとも1つのアンカーに結ぶか、あるいは、クランプ/クリップ構造に係合させることができる。繊維20の自由端の一般的なアンカー点には、骨又は軟組織が挙げられるが、これらに限定されない。舌懸吊の場合、REPOSE及びADVANCEにおいてなされているような下顎骨へのアンカー固定が想到される。また、軟組織に埋め込まれたメッシュに、繊維の少なくとも一方の端をアンカー固定することが想到される。
【0038】
本発明の上述の開示及び説明は、解説及び例示目的であり、寸法、形状及び材料、並びに好ましい実施形態の説明におけるさまざまな変更が、本発明の趣旨から逸脱することなくなされ得ることが理解されよう。
【0039】
〔実施の態様〕
(1) 組織固定のためのシステムであって、
a)遠位端と近位端とを含む繊維であって、該遠位端が、更に遠位コネクターを含み、かつ該近位端が、更に近位コネクターを含む、繊維と、
b)遠位端と近位端とを含む針であって、該遠位端が、更に組織穿刺面を含み、かつ該近位端が、コネクターを含み、該コネクターが、前記繊維の前記遠位コネクターと解放自在に係合可能である、針と、
c)近位端と遠位端とを含む組織通し器であって、該遠位端が、前記繊維の前記遠位コネクター及び近位コネクターと解放自在に係合可能である、組織通し器と、
を含む、システム。
(2) 前記繊維の遠位又は近位コネクターが、通し穴、かかり、フック、及びオスの戻り止め(male detent)からなるコネクター群から選択される、実施態様1に記載のシステム。
(3) 前記繊維の前記コネクターが、円錐形かかり又は平面かかりである、実施態様2に記載のシステム。
(4) 前記針の前記コネクターが、通し穴、かかり、フック、及びオスの戻り止めからなる群から選択される、実施態様1に記載のシステム。
(5) 前記かかりが円錐形かかり又は平面かかりである、実施態様4に記載のシステム。
【0040】
(6) 前記組織通し器の前記遠位端が、通し穴、かかり、フック、及びオスの戻り止めからなる群から選択される形状を含む、実施態様1に記載のシステム。
(7) 前記遠位及び近位繊維コネクターが通し穴であり、前記針の前記近位端及び前記組織通し器の前記遠位端が、前記繊維の該通し穴と解放自在に係合可能であるオスの戻り止めを含む、実施態様1に記載のシステム。
(8) 前記組織通し器の前記遠位端が、前記繊維の前記通し穴と解放自在に係合可能であるかかりを含む、実施態様7に記載のシステム。
(9) 前記組織通し器の前記遠位端が、前記繊維の前記通し穴と解放自在に係合可能であるフックを含む、実施態様7に記載のシステム。
(10) 組織を固定するための方法であって、
a)固定繊維に取り付けられている、近位端及び遠位端を有する針を、第1の穿刺点において前記組織に差し込む段階であって、該繊維は、第1端及び第2端を有し、該繊維の該第1端と該針の該近位端で該針が該繊維に取り付けられている、段階と、
b)第2の穿刺点において、前記針及び前記固定繊維を組織から出す段階と、
c)前記繊維の前記第1端及び第2端が前記第1の穿刺点及び第2の穿刺点において前記組織の外側に確かに留まっている間に、前記針を前記固定繊維から解放する段階と、
d)繊維通し器を、第1の侵入点から前記組織に通し、前記第1の穿刺点で前記組織から出す段階と、
e)前記繊維通し器の遠位先端を、前記第1の穿刺点において前記組織の外側の前記繊維の前記第2端に取り付ける段階と、
f)前記繊維通し器を、取り付けられた繊維と共に前記第1の侵入点を通して外に引っ張ることによって、前記第1の穿刺点において前記組織を通して前記繊維通し器に取り付けられた前記繊維を引き出す段階と、
g)前記繊維を前記繊維通し器から解放する段階と、
h)前記繊維通し器を、第2の侵入点から前記組織を通して前記第2の穿刺点において前記組織の外に通す段階と、
i)前記繊維通し器の遠位先端を、前記第2の穿刺点で前記組織の外側にある前記繊維の前記第1端に取り付ける段階と、
j)前記繊維通し器を、取り付けられた繊維と共に前記第2の侵入点を通して外に引っ張ることによって、前記第2の穿刺点において前記組織を通して前記繊維通し器に取り付けられた前記繊維を引き出す段階と、
k)前記繊維通し器から前記繊維を解放する段階と、
l)前記第1の侵入点及び前記第2の侵入点において前記繊維の端を、少なくとも1つのアンカーに取り付けるか、又は、前記繊維の端を互いに結び合わせる段階と、
を含む、方法。
【0041】
(11) 前記繊維の前記第1端及び第2端が、解放自在に係合可能であるコネクターを含む、実施態様10に記載の方法。
(12) 前記コネクターが、通し穴、かかり、フック、及びオスの戻り止めからなる群から選択される、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記コネクターが、通し穴である、実施態様12に記載の方法。
(14) 前記繊維通し器の前記遠位端と、前記針の前記近位端とが、解放自在に係合可能である戻り止めを含む、実施態様13に記載の方法。
(15) 前記繊維通し器の前記遠位端が、かかりを含む、実施態様13に記載の方法。
【0042】
(16) 前記繊維通し器の前記遠位端が、フックを含む、実施態様13に記載の方法。
(17) 前記組織が舌である、実施態様10に記載の方法。
(18) 前記第1及び第2の穿刺点が、前記舌の正中線のいずれかの側に生じる、実施態様17に記載の方法。
(19) 前記繊維通し器の前記第1の侵入点が、第1の位置でのオトガイ下切開で生じ、前記舌の顎舌骨(mylohoid)及びオトガイ舌筋を通過し、前記第1の穿刺点から外に出る、実施態様18に記載の方法。
(20) 前記繊維通し器の前記第2の侵入点が、第2の位置での前記オトガイ下切開で生じ、前記舌の顎舌骨及びオトガイ舌筋を通過し、前記第2の穿刺点から出る、実施態様19に記載の方法。