【実施例】
【0085】
新規コレステロール代謝物、5-コレステン-3β,25-ジオール
ジスルファート(25HCDS)は、in vitro及びin vivoにおいて脂質生合成を減少させ、炎症応答を抑制する
はじめに
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)における脂質代謝の異常調節が蔓延しており、また特に、コレステロール代謝の大幅な摂動も存在することが示されている。そのような摂動が核受容体シグナル伝達を介してNAFLDに繋がり得る潜在的機序は、依然不明確である。本研究において、新規コレステロール代謝物、5-コレステン-3β,25-ジオール
ジスルファート(25HCDS)が、初代ラットの肝細胞中で特定された。本発明に記載のとおり、25HCDSが現在、化学合成され、その生物学的機能の研究が為されてきた。25HCDS(25μM)をヒトのTHP-1マクロファージ及びHepG2細胞に、またin vivoでマウスのNAFLD動物モデルに投与したところ、PPARγ及びPPARγ活性化補助因子1アルファ(PGC-1α)の発現が増加し、脂質生合成及び炎症性応答に関係する主要なタンパク質の発現が減少した。この投与は肝臓脂質レベルを著しく減少させ、炎症応答を抑制した。定量的RT-PCR及びウェスタンブロット分析の結果、25HCDSはSREBP-1/2のmRNA濃度を大幅に減少し、またACC、FAS及びHMG-CoAレダクターゼを含むそれらの応答遺伝子の発現を抑制し、IκBのmRNA濃度を上昇させ、TNF-α及びIL-βのmRNA濃度を低下させた。これらの結果は、SREBP信号伝達の阻害を介して、またPPARγ、PGC-1α及びIκBの発現増加を介した炎症応答の抑制を介して、脂質生合成阻害が発生したことを示唆する。肝組織中での脂質プロファイルを分析したところ、25HCDSを3日おきに6週間にわたり投与した結果、総コレステロール、遊離脂肪酸及びトリグリセリドがそれぞれ30%、25%及び20%と著しく減少したことが分かった。このように、25HCDSは脂質代謝及び炎症応答に対する強力な調節薬である。
【0086】
材料及び方法
材料:
細胞培養試薬及び補給品をGIBCO BRL(ニューヨーク州Grand Island)から;25-ヒドロキシコレステロールをNew England Nuclear(マサチューセッツ州Boston)から購入した。THP-1及びHepG2細胞をAmerican Type Culture Collection(メリーランド州Rockville)から調達した。リアルタイムRT-PCR用試薬をAB Applied Biosystems(Warrington WA1 4 SR、英国)から調達した。本研究で使用した化学物質の調達元はSigma Chemical Co.(モンタナ州St. Louis)又はBio-Rad Laboratories(カリフォルニア州Hercules)である。SREBP1、SREBP-2及びHMG-CoAレダクターゼに対する多クローン性ウサギ抗体を、Santa Cruz Biotechnology(カリフォルニア州Santa Cruz)から購入した。溶媒は全て、別途記載のない限り、Fisher(ニュージャージー州Fair Lawn)から調達した。増感化学発光(ECL)試薬を、Amersham Biosciences(ニュージャージー州Piscataway)から購入した。テストステロン及び27-ヒドロキシコレステロールを、Research Plus Inc.(ニュージャージー州Bayonne)から購入した。LK6 20 x 20 cm薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートを、Whatman Inc.(ニュージャージー州Clifton)から購入した。
【0087】
方法:
5-コレステン-3β,25-ジオール
ジスルファートの化学合成
全般的手順:前述の方法(Ogawaら、Steroids、74:81-87頁)により、コレステロールから25-ヒドロキシコレステロールを製造した。JASCO(東京都、日本)製FT-IR 460 plus分光計上のKBrディスクでIRスペクトルを取得した。
1H及び
13CのNMRスペクトルを、Varian 500 Inova(AS500)測定器上で、それぞれ499.62MHz及び125.64MHzにて取得した。エレクトロスプレーイオン化(ESI)プローブを装備したThermo Scientific TSQ Quantum Ultra MSにより、陰イオンモード下で、フローインジェクション低解像度質量(LR-MS)スペクトルを記録した。ESIプローブを装備したThermo Scientific LTQ Qrbitrap Discovery MSを使用して、陰イオンモード下で、高解像度質量(HR-MS)スペクトルを測定した。逆相TLCを、メタノール-水-酢酸混合物(容積比90:10:1)を展開溶媒として使用して、被覆済みRP-18F254Sプレート上で実施した。スポットを50%のH
2SO
4用い、110℃で加熱して可視化した。Bond Elute C18カートリッジ(10 g; Varian)を、試料精製に使用した。OXONE(登録商標)(ペルオキシ一硫酸カリウム)及びアセトンをSigma-Aldrich Co.(モンタナ州St. Louis、米国)から購入し、他に使用した試薬は全て、HPLCグレードの有機溶媒を除き、最高グレードであった。
【0088】
5-コレステン-3β,25-ジオール
ジスルファート(25HCDS)の合成:無水ピリジン(300μL)中の25-ヒドロキシコレステロール溶液(30mg、0.07mmol)に対して三酸化硫黄トリメチルアミン錯体(45mg)を添加し、懸濁物を50℃で1時間撹拌した。反応混合物に対して0.1NのメタノールNaOH(100μL)を添加し、混合物を、メタノール(10mL)と水(10mL)で下処理済みのSep Pak C18カートリッジに入れた。カートリッジをPBS(25mL)と水(25mL)で連続洗浄し、次いで保持された25HCDSを60%のメタノール(10mL)で溶出した。アセトニトリルで10倍に希釈した後、溶媒を40℃以下のN
2流の下で乾燥状態まで蒸発させ、25HCDSを粉末形態で得た。収量は25mg(60%)であった。
【0089】
細胞培養
ヒトのTHP-1単球及びHepG2細胞をAmerican Type Culture Collection(ATCC、バージニア州Manassas)から購入し、供給業者の手順書に従って維持した。100nMのフォルボール12-ミリスチン13-酢酸(PMA)の添加によって、THP-1単球をマクロファージへと分化させた。細胞が90%コンフルエンスに達した時点で、エタノール中の25HCDS(媒体中のエタノールの最終濃度は0.1%であった)を添加した。タンパク質、mRNA及び脂質の分析向けに、指示された時間に細胞を回収した。
【0090】
HMG CoA発現調節の研究のために、HepG2又はPHHを、メビノリン(50μM)及びメバロン酸(0.5μM)が存在する状態又は存在しない状態で、前述の媒体中で培養した。48時間培養した後、オキシステロールを添加してさらに6時間培養し、次いでmRNA及びタンパク質の濃度を判定するため細胞を採取した。
【0091】
TLC及びHPLCによるコレステロール生合成の判定
示される通りの様々な濃度の25HCDSを含有する媒体中でTHP-1マクロファージ又はHepG2細胞を6時間培養した後、60 mmの皿に入れた細胞に、5μCiの[1-
14C]酢酸を含有する同じ新しい媒体3mlを加えた。37℃で2時間培養した後、媒体を除去し、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、記載のラバーポリスマンで採取し、微小遠心管中に回収した。細胞を遠心分離により沈殿させ、ペレットを3回、再懸濁及び沈殿によって3回洗浄した。細胞内留分(ミクロソーム、シトソル及び核)を、前述のとおり単離した(2)。細胞又は細胞内ペレットを、0.3mlのPBS中で再懸濁させた。各試料に対して、1.5μのテストステロンを内部基準として添加した。総脂質を抽出し、3倍量のクロロホルム:メタノール(1:1)の添加によって分離した。[
14C]コレステロールとヒドロキシコレステロールをクロロホルム相へと単離し、TLC(トルエン:アセチル酢酸、容積比2:3)上で分離した。[1-
14C]酢酸誘導体を、前述の(1)富士フィルム製イメージリーダーBAS-1800 IIにより可視化した。
【0092】
非標識化ステロール生成物の分析向けに、抽出した脂質を2単位のコレステロールオキシダーゼを使用して37℃で20分間培養した。1.5mlのメタノールに続いて0.5mlの飽和KClの添加により、酸化反応を終了させた。3mlのヘキサンを使用して2回、ステロールを抽出した。ヘキサン相を回収し、窒素流下で蒸発させた。前述のとおり(3)、HPLC分析のため、残留物を移動相溶媒中に溶解させた。
【0093】
クロロホルム相中の[1-
14C]酢酸誘導体をHPLCにより、HP Series 1100溶媒送達システム(Hewlett Packard)を流速1.3ml/分で使用して、シリカカラム(5μx4.6mmx25cm;Beckman、米国)上で分析した。カラムを平衡化させ、移動相としてのヘキサン:イソプロパノール:氷酢酸(容積比965:25:10)の溶媒系内を通した。指示のある場合を除き、流出物を0.5分おきに回収した(留分当たり0.65ml)。[
14C]酢酸誘導体中のカウントを、シンチレーション計数により判定した。カラムを[
14C]コレステロール、[
3H]25-ヒドロキシコレステロール及び[
14C]27-ヒドロキシコレステロールに合わせて較正した。
【0094】
リアルタイムRT-PCRによるmRNA濃度の判定
DNase処理を含め、SV全RNA単離キット(Promega、ウィスコンシン州Madison)を使用して全RNAを単離した。全RNA、2μgを、製造者(Invitrogen、カリフォルニア州Carlsbad)からの推奨とおり、第1ストランドcDNA合成に使用した。ABI 7500高速リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems、カリフォルニア州Foster City)上での指標として適切な染料を使用して、リアルタイムRT-PCRを行った。リアルタイムPCR用のプライマー/プローブセットは全て、TaqMan遺伝子発現アッセイであった(Applied Biosystems、カリフォルニア州Foster City)。β-アクチン及びグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の増幅を、内部対照として使用した。相対的なメッセンジャーRNA(mRNA)発現を、比較周期閾値(Ct)法により定量化し、2
-ΔΔCtとして表わした。増幅のための適切なプライマーの配列は、例えばRenら、2007年(1)に記載されている。
【0095】
ウェスタンブロット分析
ミクロソーム分画を、前述のとおり単離した(4)。処理後の細胞から抽出したミクロソームタンパク質又は総タンパク質を、7.5%のSDS-ポリアクリルアミド変性ゲル上で分離した。SDS-PAGEに続き、タンパク質を電気泳動的にポリビニリデンフルオライド(PVDF)膜(Millipore)へ移した。次いで膜をブロッキング溶液[PBS、pH7.4、0.1%のTWEEN(登録商標)20(膜タンパク質溶解性非イオン性界面活性剤、C
58H
114O
26)、5%の脱脂粉乳]中で25℃にて60分間ブロッキングした。次いでタンパク質を4℃で終夜、ヒトのSREBP1、SREBP-2又はHMG-CoAレダクターゼに対するウサギ多クローン性IgGを使用して培養した。PBSで洗浄後、洗浄溶液中のpH7.4、0.05%のTWEEN(登録商標)20を含有する、ヤギの抗ウサギIgG-セイヨウワサビペルオキシダーゼ複合体、1:2500を添加し、60分間培養した。Amersham ECL plus Kitを使用して、タンパク質バンドを検出した。正のバンドを、Advanced Image Data Analyzer(Aida Inc.、Straubenhardt、ドイツ)によって定量化した。
【0096】
動物実験
動物実験はMcGuire Veterans Affairs Medical Centerの施設内動物飼育・使用委員会から承認され、ヘルシンキ宣言、実験動物の飼育及び使用に関する指針、並びに適用可能な全ての規制に従って実施された。血清及び肝臓における食事誘導性脂質蓄積に対する25HCDSの効果を検証するため、8週齢のメスのC57BL/6Jマウス(チャールズリバー、マサチューセッツ州Wilmington)に、42%のkcalを脂肪から、43%のkcalを炭水化物から、15%のkcalをタンパク質から、及び0.2%のコレステロールを含有する高脂肪食(HFD)(Harlan Teklad、ウィスコンシン州Madison)を、10週にわたり給餌した。全てのマウスを無菌施設内の同一条件下に収容し、水と餌に自由にアクセスできるようにした。各期間の終了時、マウスにビヒクル溶液(エタノール/PBS;ビヒクル)、又は25HCDS(25mg/kg)を3日おきに6週間にわたり腹腔内注射し、終夜絶食させ、血液試料を採取した。血清トリグリセリド、総コレステロール、高比重リポタンパクコレステロール、グルコース、アルカリ性ホスファターゼ(ALK)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)を、McGuire Veterans Affairs Medical Center附属臨床試験所内で標準的な酵素技法を用いて測定した。血清中のリポタンパク質プロファイルを、下記のとおり、HPLCにより分析した。
【0097】
肝臓脂質の定量化
肝組織を均質化し、脂質をクロロホルムとメタノールの混合物(2:1)で抽出し、濾過した。0.2mlの抽出物を乾燥状態まで蒸発させ、コレステロールアッセイについては10%のTRITON(商標)X-100(C
14H
22O(C
2H
4O)n)、非イオン性界面活性剤)を含有する100μlのイソプロパノール(Wako Chemicals USA、バージニア州Richmond)、遊離脂肪酸アッセイについてはNEFA溶液(0.5gのEDTA-Na
2、2gのTRITON(商標)X-100、0.76mlの1N NaOH、及び1l当たり0.5gのアジ化ナトリウム、pH6.5)(Wako Chemicals USA、バージニア州Richmond)、又はトリグリセリドアッセイについてはイソプロパノールのみ(Fisher Scientific、ペンシルバニア州Pittsburgh)に溶解させた。アッセイは全て、各製造者の指示に従って行った。個々の脂質濃度を肝臓重量に対して正規化した。
【0098】
統計
データは平均±標準偏差として報告される。記載のある場合、データはt検定分析の対象とされ、p<0.05であれば有意な差があると判定された。
【0099】
結果
初代ラットの肝細胞核における新規コレステロール代謝物の検出
肝細胞核における新規コレステロール代謝物の存在を判定するため、核分画を初代ラットの肝細胞から単離した。各分画のメタノール/水相中のオキシステロールを、LC-MSにより分析した。結果は、主要な分子イオン、m/z561及びm/z583(561+Na)の2つは分子、5-コレステン-3β,25-ジオール
ジスルファートに十分適合することを示している(
図1)。分子はSULT2B1b及びSULT2B1aにより合成される可能性が最も高い。
【0100】
核オキシステロール、5-コレステン-3β,25-ジオール
ジスルファートの化学合成
その構造を確認し、細胞の脂質恒常性及び炎症反応におけるその役割を研究するため、25HCDSを上記のとおり化学合成し、精製した。
【0101】
合成化合物のMS分析は、基準の核オキシステロールと同じ分子質量イオンであるm/z561及びm/z583(+Na)を示し、また精製された生成物は出発材料の25-ヒドロキシコレステロールであるm/z401は混在していなかった。LR-MS(ESI-ネガティブ), m/z: 583.4(M+Na-2H, 88%), 561.3(M-H, 46%), 481.4(M-SO
3-H, 11%), 463.4(M-H
2SO
4-H, 34%), 431.82(14%), 381.27(100%)(
図2).
1H NMR(CD
3OD) δ: 0.72(3H, s, 18-CH
3), 0.97(3H, d, J 5.0Hz, 21-CH
3), 1.03(3H, s, 19-CH
3), 1.14(6H, s, 26-及び27-CH
3), 4.14(1H, br. m, 3α-H), 5.39(1H, br. s, 6-H)(
図3).
13C NMR(CD
3OD) δ: 12.45, 19.37, 19.90, 21.82, 22.29, 25.45, 25.51, 27.05, 27.12, 29.39, 29.44, 30.13, 33.16, 33.37, 37.26, 37.32, 37.50, 38.60, 40.52, 41.27, 43.65, 51.78, 57.71, 58.37, 79.98, 85.93, 123.44, 141.71(
図4).結果は、合成された分子が5-コレステン-3β,25-ジオール
ジスルファート(25HCDS)であり、肝細胞核分画において記載の分子に「適合」することを示している。
【0102】
25HCDSは、SREBP信号伝達を介した、ACC、FAS及びHMG-CoAレダクターゼのmRNA濃度の減少により、脂質生合成を阻害する
25HCDSが脂質生合成をどのように阻害するか調査するため、全RNAを処理済みTHP-1マクロファージから単離した。トリグリセリド合成のためのACC及びFAS、並びにマクロファージ及びhepG2細胞におけるコレステロール合成のためのHMG-CoAレダクターゼのmRNA濃度を、リアルタイムRT-PCRにより判定した。
図5に示されているように、培地中の細胞に25HCDSを添加した後の、ACC及びFASのmRNA濃度の減少(
図5A)、並びにHMG-CoAレダクターゼのmRNA濃度の減少(
図5B)は、示されているように濃度依存、及び時間依存(データ不記載)であった。これらの減少は、
図5A及び5Bに記載のSREBP1/2の発現減少と整合的であった。これらの結果は、25HCDSがSREBPシグナル伝達を減少させることにより、脂質生合成を減少させることを示す。興味深いことに、25HCDSは直線的にPPARγのmRNA濃度を増加させたと同時に、IκBα発現も早い段階かつ低濃度で増加させた。これらの結果は、25HCDSが25HC3S同様、PPARγ/IκBαシグナル伝達経路を介して炎症応答を抑制することを示唆する。
【0103】
25HCDSの投与がHFD給餌マウスにおける脂質恒常性に及ぼす効果
25HCDSによる長期治療が脂質恒常性に及ぼす効果を研究するため、8週齢のメスのC57BL/6JマウスにHFDを10週間にわたり給餌し、その後、2つの群に分けた。1つの群に25HCDSを、もう1つの群にはビヒクルを、腹膜注射によって3日おきに6週間にわたり施した。治療期間中、マウスにHFDを給餌し、体重とカロリー摂取を観察した。これら2つのパラメータ間に有意な差は観察されなかった(データ不記載)。注射の6週間後、マウスを終夜絶食させ、と殺した。マウスの肝臓重量は、食事に関係なく、有意な差を示さなかった(データ不記載)。
【0104】
25HCDSが肝臓脂質代謝に及ぼす効果を研究するため、肝臓脂質レベル及び関連遺伝子発現レベルを判定した。既に報告されているように、HFD給餌マウスは通常の餌のマウスに比べ、肝臓におけるトリグリセリド、総コレステロール、遊離脂肪酸及びトリグリセリドの濃度上昇を示した(データ不記載)。これらの増加は25HCDS投与によって有意に、
図6に示されているように、それぞれ例えば30%、20%及び18%(p<0.05)低減された。加えて、遺伝子発現分析は、表1に示されているように、25HCDS投与は遊離脂肪酸、トリグリセリド及びコレステロール合成に関係する鍵酵素及び受容体の発現を有意に減少させることを示した。
【0105】
脂質代謝の異常調節はしばしば炎症性疾患に関連する。25HCDS治療はTNFα及びIL1βの発現をそれぞれ、有意に50%及び36%抑制した(表2)。これらの結果は、25HC3Sが肝臓炎症応答を抑制し、肝臓損傷及び血清中のアルカリ性ホスファターゼ活性を減少させることを示した肝機能アッセイと整合的である(データ不記載)。興味深いことに、25HCDSは肝臓におけるPGC-1αの発現を倍増させた。このように、25HCDSは、LXR、PPARγ及びPGC-1αのシグナル伝達を介して脂質代謝及び炎症応答を調節すると見られる。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
論考
コレステロール及びトリグリセリド代謝は密接に関連している。オーファン核受容体は、多数の生物学的事象の重要な調節因子である主要な標的遺伝子の発現を調節するリガンド活性化転写因子である。脂肪酸受容体(PPAR)、オキシステロール受容体(LXR)、レチノイン酸受容体(RXR)及びSREBPは、細胞脂質レベルのセンサーの役割を果たし、遺伝子発現の変化を生じさせることにより、脂質恒常性を維持し、脂質蓄積による損傷から細胞を保護する。しかし、受容体活動間のクロストークは依然として不明瞭である。本発明で示されているように、コレステロール代謝物、25HCDSはin vitro及びin vivoにおけるSREBP-1cの発現、処理及び活性を阻害し、PPARγ及びPGC-1αの発現を増加させる。SREBPは脂質生合成を制御し、PPARγは炎症応答を調節し、PGC-1αはエネルギー恒常性を制御することは、十分に実証されている。このように、結果は、25HCDSがこれらのプロセスの強力な調節薬であり、肝臓の脂質恒常性及び炎症応答の維持に重要な役割を果たすことを示す。25HC3Sの投与は、核PPARγタンパク質濃度を高め、炎症応答を抑制するが、PPARγのmRNAはごくわずかに増加させる程度である。対照的に、25HCDSはPPARγ及びPGC-1αのmRNA発現を、時間依存及び濃度依存の形で有意に増加させ、25HCDSは25HC3Sに比べ、脂質代謝及び炎症応答の調節における能力が強いことを示している。
【0109】
25HCDS生合成及びオキシステロール硫酸化の反応は、肝細胞における核受容体活性を仲介する新規の調節経路に相当する。この経路の主要要素は以下のように要約される:1)細胞内コレステロール濃度が上昇する場合、ミトコンドリアコレステロール送達タンパク質、StARがコレステロールをミトコンドリアに送達し、そこで25HCなどの調節オキシステロールがCYP27A1によって合成される。これらのオキシステロールが次いでLXRを活性化する結果、脂肪酸及びトリグリセリドの生合成に関係する標的遺伝子の発現を上方調節する。加えて、25HCはLXRを活性化し、新たに合成されるコレステロール合成をHMGR発現阻害によって下方調節し、ABCA1の仲介による細胞からのコレステロール分泌を増加させる(HDL形成)。2)25HC3S及び25HCDSはLXRを不活性化し、SREBP-1cの処理を抑制し、これらの硫酸化オキシステロールが合成阻害によって細胞内脂質レベルを減少させることを示す。3)25HCが脂質代謝に及ぼす効果は、25HC3Sや25HCDSの効果と反対である。このように、細胞内オキシステロール硫酸化は、脂質代謝及びNAFLD発症に関係する新規の調節機構に相当する。
【0110】
マウスのNAFLDモデルを25HCDSで治療したところ、肝臓脂質レベルが減少した。多数のNAFLD治療が研究されてきた。多くはアラニントランスアミナーゼレベルなど生化学的マーカーを改善すると見られる一方、大部分は、組織学的異常性を逆転させ、又は臨床的エンドポイントを低減させることが示されたわけではない。25HCDSは核受容体LXR及びSREBPの活性化阻害を介して転写レベルでの脂質生合成に関係する主要遺伝子の発現を抑制し、HFDによって誘発される炎症性サイトカインを抑制し、PGC1aを介してエネルギー恒常性を制御する。このように、25HCDSは肝臓脂質レベルを効果的に低減する強力な調節薬の役割を果たし、相応に、NAFLD及びその他の脂質代謝関連疾患の治療のための新規の薬剤に相当する。
【0111】
参考文献
1. Ren,S.、Li,X.、Rodriguez-Agudo,D.、Gil,G.、Hylemon,P.及びPandak,W.M.、2007年、「硫酸化オキシステロール、25HC3Sは、ヒト肝細胞における脂質代謝の強力な調節薬である(Sulfated oxysterol, 25HC3S, is a potent regulator of lipid metabolism in human hepatocytes)」、Biochem. Biophys. Res. Commun.、360:802〜808頁。
2. Ren,S.、Hylemon, P.、Zhang,Z.P.、Rodriguez-Agudo,D.、Marques,D.、Li,X.、Zhou,H.、Gil,G.及びPandak,W.M.、2006年、「肝細胞核及びミトコンドリアにおける新規の硫酸化オキシステロール、5-コレステン-3β,25-ジオール三硫酸塩の特定(Identification of a novel sulfonated oxysterol, 5-cholesten-3beta, 25-diol 3-sulfonate, in hepatocyte nuclei and mitochondria)」、J. Lipid Res.、47:1081〜1090頁。
3. Pandak,W.M.、Ren,S.、Marques,D.、Hall,E.、Redford,K.、Mallonee,D.、Bohdan,P.、Heuman,D.、Gil,G.及びHylemon,P.、2002年、「ミトコンドリアへのコレステロール輸送は、初代ラット肝細胞における代替的経路を介した胆汁酸合成の場合、速度が制限される(Transport of cholesterol into mitochondria is rate-limiting for bile acid synthesis via the alternative pathway in primary rat hepatocytes)」、J. Biol. Chem.、277:48158〜48164頁。
4. Ren,S.、Hylemon,P.、Marques,D.、Hall,E.、Redford,K.、Gil,G.及びPandak,W.M.、2004年、「コレステロール輸送因子(StAR、MLN64及びSCP-2)の発現増加が胆汁酸合成に及ぼす効果(Effect of increasing the expression of cholesterol transporters (StAR, MLN64, and SCP-2) on bile acid synthesis)」、J. Lipid Res.、45:2123〜2131頁。
【0112】
本発明は、その好適な実施形態に関して記載されている一方、当業者は、本発明が添付の請求項の精神と範囲において修正を加えて実践され得ることを認識することになる。相応に、本発明は上記の実施形態に限定されるべきではなく、本発明の精神及び記載の範囲においてあらゆる修正及びそれに相当するものをさらに含むべきである。
本発明は以下の発明を包含する。
(1) 医薬品として使用するための、(i)式
【化12】
の5-コレステン-3β,25-ジオール
ジスルファート(25HCDS)又は(ii)製薬上許容されるその塩である化合物。
(2) 前記化合物が
【化13】
である、(1)に記載の使用のための化合物。
(3) 脂質の低減が必要な対象におけるその低減方法、コレステロール及び脂質の生合成の低減が必要な対象におけるその低減方法、炎症の低減が必要な対象におけるその低減方法、糖尿病の治療が必要な対象におけるその治療方法、高脂血症の治療が必要な対象におけるその治療方法、アテローム性動脈硬化症の治療が必要な対象におけるその治療方法、脂肪性肝疾患の治療が必要な対象におけるその治療方法、又は炎症性疾患の治療が必要な対象におけるその治療方法において使用するための、(1)又は(2)に記載の化合物。(4) 脂質の低減が必要な対象におけるその低減、コレステロール及び脂質の生合成の低減が必要な対象におけるその低減、炎症の低減が必要な対象におけるその低減、糖尿病の治療が必要な対象におけるその治療、高脂血症の治療が必要な対象におけるその治療、アテローム性動脈硬化症の治療が必要な対象におけるその治療、脂肪性肝疾患の治療が必要な対象におけるその治療、又は炎症性疾患の治療が必要な対象におけるその治療のための医薬品を製造するための、(1)又は(2)に記載の化合物の使用。
(5) 対象を治療する方法であって、(1)又は(2)に記載の化合物の有効量を前記対象に投与するステップを含み、脂質の低減が必要な対象におけるその低減方法、コレステロール及び脂質の生合成の低減が必要な対象におけるその低減方法、炎症の低減が必要な対象におけるその低減方法、糖尿病の治療が必要な対象におけるその治療方法、高脂血症の治療が必要な対象におけるその治療方法、アテローム性動脈硬化症の治療が必要な対象におけるその治療方法、脂肪性肝疾患の治療が必要な対象におけるその治療方法、及び炎症性疾患の治療が必要な対象におけるその治療方法から選択される、方法。
(6) - 前記化合物が前記対象の体重に基づき0.1mg/kgから100mg/kgの範囲の量で投与されるか、若しくは前記化合物が前記対象の体重に基づき1mg/kgから10mg/kgの範囲の量で投与され、及び/又は
- 投与が経口投与、腸内投与、舌下投与、経皮投与、静脈内投与、腹膜投与、非経口投与、注射、皮下注射及び筋肉注射による投与のうち少なくとも1つを含む、
(5)に記載の方法。
(7) (1)又は(2)に記載の化合物。
(8) 単離された化合物である、(7)に記載の化合物。
(9) 実質的に純粋である、(7)又は(8)に記載に化合物。
(10) 固形である(7)から(9)のいずれかに記載の化合物。
(11) - 粉末形態、及び/又は
- 凍結乾燥形態
である、(10)に記載の化合物。
(12) (i)(1)又は(2)に記載の化合物、及び(ii)生理学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体を含む医薬組成物。
(13) 前記組成物が単位投与形態で製剤化されている、(12)に記載の医薬組成物。(14) 前記組成物が固形である、(12)又は(13)に記載の医薬組成物。
(15) - 前記組成物が散剤、錠剤、カプセル剤又はトローチ剤の形態であるか、又は
- 前記組成物が増量剤と一緒に凍結乾燥形態で化合物を含み、前記組成物が場合により、密封されたバイアル、アンプル、注射器若しくは袋中に存在する、
(14)に記載の医薬組成物。
(16) 液体である担体を含む、(12)又は(13)に記載の医薬組成物。
(17) - 化合物が前記液体中に溶解若しくは分散されている、及び/又は
- 前記液体が水性である、及び/又は
- 前記液体が注射用滅菌水若しくはリン酸緩衝生理食塩水である、及び/又は
- 前記組成物がバイアル、アンプル、注射器若しくは袋に密封されている
(16)に記載の医薬組成物。
(18) 25-ヒドロキシコレステールを三酸化硫黄の供給源と反応させるステップと、場合により、得られた5-コレステン-3β,25-ジオール
ジスルファート(25HCDS)から製薬上許容される塩を形成するステップとを含む、(1)又は(2)に記載の化合物の製造方法。
(19) 三酸化硫黄の供給源が三酸化硫黄アミン錯体である、(18)に記載の方法。
(20) 前記化合物と前記の生理学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体とを組み合わせるステップを含む、(12)から(17)のいずれかに記載の医薬組成物の製造方法。