(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6125622
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】電子顕微鏡を用い非真空環境中で材料の分析を行うためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/252 20060101AFI20170424BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20170424BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20170424BHJP
G01N 23/225 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
H01J37/252 A
H01J37/20 D
H01J37/28 B
G01N23/225 312
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-515648(P2015-515648)
(86)(22)【出願日】2013年6月5日
(65)【公表番号】特表2015-520495(P2015-520495A)
(43)【公表日】2015年7月16日
(86)【国際出願番号】IL2013050489
(87)【国際公開番号】WO2013183057
(87)【国際公開日】20131212
【審査請求日】2016年6月2日
(31)【優先権主張番号】61/655,567
(32)【優先日】2012年6月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513196614
【氏名又は名称】ビー−ナノ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】シャチャル、ドヴ
(72)【発明者】
【氏名】デ ピッチョット、ラフィ
【審査官】
杉田 翠
(56)【参考文献】
【文献】
特開平7−270346(JP,A)
【文献】
特開平4−130256(JP,A)
【文献】
特開昭55−115252(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0102223(US,A1)
【文献】
特開昭63−281341(JP,A)
【文献】
特開昭60−189146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
37/252
37/28
G01N 23/225
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡を用いて行う方法であって、当該方法は、
材料についての第一の特性スペクトルを生成することを有し、
前記生成は、前記電子顕微鏡からの電子ビームを、第一の非真空環境中の前記材料に向かわせることによって行われ、該第一の非真空環境は、その中において前記電子ビームの第一の量の散乱が発生する環境であり、
前記生成は、前記材料から発せられる第一のX線を収集することによって行われ、
前記生成は、前記第一のX線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、
当該方法は、その後に、
前記材料についての第二の特性スペクトルを生成することを有し、
前記生成は、前記電子顕微鏡からの電子ビームを、第二の非真空環境中の前記材料に向かわせることによって行われ、該第二の非真空環境は、その中で前記電子ビームの第二の量の散乱が発生する環境であり、
前記生成は、前記材料から発せられる第二のX線を収集することによって行われ、
前記生成は、前記第二のX線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、
当該方法は、
前記第一の特性スペクトルと第二の特性スペクトルとを比較すること、および、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークを認識することを有し、
当該方法は、
散乱が増大するにつれて強度が増大するピークのうちの少なくとも1つを除去することによって、前記の第一のおよび第二の特性スペクトルのうちの少なくとも一方から、前記材料についての散乱補正された特性スペクトルを生成することを有する、
前記方法。
【請求項2】
前記散乱補正された特性スペクトルが、散乱が増大するにつれて強度が減少するピークを、少なくとも1つ含む、
請求項1に記載の非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡を用いて行う方法。
【請求項3】
前記第一の非真空環境が第一の気体を有し、かつ、前記第二の非真空環境が第二の気体を有し、該第二の気体が、前記第一の気体の電子ビーム散乱特性とは異なる電子ビーム散乱特性を持っている、
請求項1に記載の非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡を用いて行う方法。
【請求項4】
前記第一の非真空環境が、そこに関係付けられた、前記材料までの第一の電子ビーム移動距離を持っており、前記第二の非真空環境が、そこに関係付けられた、前記材料までの第二の電子ビーム移動距離を持っており、前記第二の電子ビーム移動距離が、前記第一の電子ビーム移動距離とは異なる量の電子ビーム散乱を生じさせる、
請求項1に記載の非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡を用いて行う方法。
【請求項5】
非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡を用いて行うシステムであって、当該システムは、
特性スペクトル発生装置を有し、該特性スペクトル発生装置は、材料についての第一のおよび第二の特性スペクトルを生成するものであり、
前記生成は、前記電子顕微鏡からの電子ビームを、第一のおよび第二の非真空環境のそれぞれの中の前記材料に向かわせることによって行われ、該第一のおよび第二の非真空環境は、それらの中において前記電子ビームのそれぞれの第一の量の散乱および第二の量の散乱が発生する環境であり、
前記生成は、前記第一のおよび第二の非真空環境中の前記材料から発せられるX線を収集することによって行われ、
前記生成は、前記第一のおよび第二の非真空環境中の前記材料からの前記X線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、
当該システムは、
散乱補正された特性スペクトルを発生させる装置を有し、該装置は、
前記第一のおよび第二の特性スペクトルを比較すること、および、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークを認識するように作動し、
散乱が増大するにつれて強度が増大するピークのうちの少なくとも1つを除去することによって、前記の第一のおよび第二の特性スペクトルのうちの少なくとも一方から、前記材料についての散乱補正された特性スペクトルを生成するように作動するものである、
前記システム。
【請求項6】
前記散乱補正された特性スペクトルが、散乱が増大するにつれて強度が減少するピークを、少なくとも1つ含む、
請求項5に記載の非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡を用いて行うシステム。
【請求項7】
当該システムがまた、気体供給コントローラーを有し、該気体供給コントローラーは、第一の気体を前記第一の非真空環境に供給し、かつ、第二の気体を前記第二の非真空環境に供給するように動作し、前記第二の気体が、前記第一の気体の電子ビーム散乱特性とは異なる電子ビーム散乱特性を持っている、
請求項5に記載の非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡を用いて行うシステム。
【請求項8】
当該システムがまた、移動可能な試料取付け台を有し、該移動可能な試料取付け台は、前記第一の非真空環境中の前記材料までの第一の電子ビーム移動距離をおくように位置し、かつ、前記第二の非真空環境中の前記材料までの第二の電子ビーム移動距離をおくように位置するよう作動し、前記第二の電子ビーム移動距離が、前記第一の電子ビーム移動距離とは異なる量の電子ビーム散乱を生じさせる、
請求項5に記載の非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡を用いて行うシステム。
【請求項9】
非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡をベースとする材料分析システムを用いて行うためのコンピュータ処理化された方法であって、当該方法は、前記電子顕微鏡をベースとするシステムと共に使用するためのものであり、ここで、該材料分析システムは、前記電子顕微鏡からの電子ビームを非真空環境中の材料へと向かわせ、該材料から発せられるX線を収集し、かつ、該X線に対してスペクトル解析を行うよう作動するシステムであり、当該方法は、前記電子顕微鏡をベースとする材料分析システムを以下の事項のために作動させることを有し、前記事項は、
材料についての第一の特性スペクトルを生成することであり、ここで、
前記生成は、電子ビームを第一の非真空環境中の材料に向かわせることによって行われ、該第一の非真空環境は、その中において前記電子ビームの第一の量の散乱が発生する環境であり、
前記生成は、前記材料から発せられる第一のX線を収集することによって行われ、
前記生成は、前記第一のX線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、
前記事項は、その後に、
前記材料についての第二の特性スペクトルを生成することであり、ここで、
前記生成は、電子ビームを第二の非真空環境中の材料に向かわせることによって行われ、該第二の非真空環境は、その中において前記電子ビームの第二の量の散乱が発生する環境であり、
前記生成は、前記材料から発せられる第二のX線を収集することによって行われ、
前記生成は、前記第二のX線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、
前記事項は、
前記第一の特性スペクトルと第二の特性スペクトルとを比較すること、および、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークを認識することであり、かつ、
前記事項は、
散乱が増大するにつれて強度が増大するピークのうちの少なくとも1つを除去することによって、前記の第一のおよび第二の特性スペクトルのうちの少なくとも一方から、前記材料についての散乱補正された特性スペクトルを生成することである、
前記コンピュータ処理化された方法。
【請求項10】
前記散乱補正された特性スペクトルが、散乱が増大するにつれて強度が減少するピークを、少なくとも1つ含む、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第一の非真空環境が第一の気体を有し、かつ、前記第二の非真空環境が第二の気体を有し、該第二の気体が、前記第一の気体の電子ビーム散乱特性とは異なる電子ビーム散乱特性を持っている、
請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記第一の非真空環境が、そこに関係付けられた、前記材料までの第一の電子ビーム移動距離を持っており、前記第二の非真空環境が、そこに関係付けられた、前記材料までの第二の電子ビーム移動距離を持っており、前記第二の電子ビーム移動距離が、前記第一の電子ビーム移動距離とは異なる量の電子ビーム散乱を生じさせる、
請求項9に記載の方法。
【請求項13】
コンピュータソフトウェアであって、当該コンピュータソフトウェアは、電子顕微鏡をベースとする材料分析システムの作動を制御することに使用するためのものであり、前記材料分析システムは、前記電子顕微鏡からの電子ビームを非真空環境中の材料に向かわせ、前記材料から発せられるX線を収集し、前記X線に対するスペクトル解析を行うよう作動するものであり、当該コンピュータソフトウェアは、非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡をベースとする前記システムを用いて行うためのコンピュータ処理化された方法に使用するためのものであり、当該コンピュータソフトウェアは、前記顕微鏡をベースとする材料分析システムを以下の事項のために作動させるための命令を有し、前記事項は、
材料についての第一の特性スペクトルを生成することであり、ここで、
前記生成は、電子ビームを第一の非真空環境中の材料に向かわせることによって行われ、該第一の非真空環境は、その中において前記電子ビームの第一の量の散乱が発生する環境であり、
前記生成は、前記材料から発せられる第一のX線を収集することによって行われ、
前記生成は、前記第一のX線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、
前記事項は、その後に、
前記材料についての第二の特性スペクトルを生成することであり、ここで、
前記生成は、電子ビームを第二の非真空環境中の材料に向かわせることによって行われ、該第二の非真空環境は、その中において前記電子ビームの第二の量の散乱が発生する環境であり、
前記生成は、前記材料から発せられる第二のX線を収集することによって行われ、
前記生成は、前記第二のX線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、
前記事項は、
前記第一の特性スペクトルと第二の特性スペクトルとを比較すること、および、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークを認識することであり、かつ、
前記事項は、
散乱が増大するにつれて強度が増大するピークのうちの少なくとも1つを除去することによって、前記の第一のおよび第二の特性スペクトルのうちの少なくとも一方から、前記材料についての散乱補正された特性スペクトルを生成することである、
前記コンピュータソフトウェア。
【請求項14】
前記散乱補正された特性スペクトルが、散乱が増大するにつれて強度が減少するピークを、少なくとも1つ含む、
請求項13に記載のコンピュータソフトウェア。
【請求項15】
前記第一の非真空環境が第一の気体を有し、かつ、前記第二の非真空環境が第二の気体を有し、該第二の気体が、前記第一の気体の電子ビーム散乱特性とは異なる電子ビーム散乱特性を持っている、
請求項13に記載のコンピュータソフトウェア。
【請求項16】
前記第一の非真空環境が、そこに関係付けられた、前記材料までの第一の電子ビーム移動距離を持っており、前記第二の非真空環境が、そこに関係付けられた、前記材料までの第二の電子ビーム移動距離を持っており、前記第二の電子ビーム移動距離が、前記第一の電子ビーム移動距離とは異なる量の電子ビーム散乱を生じさせる、
請求項13に記載のコンピュータソフトウェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
横方向の解像度を改善するための方法(METHOD FOR IMPROVING LATERAL RESOLUTION)と題する、2012年6月5日に出願された米国特許仮出願番号第61/655,567を、ここで参照し、その開示内容は、参照したことによってその全体がここに組み込まれ、その優先権を、37 CFR 1.78(a)(4)および(5)(i)に従って主張する。
【0002】
また、以下の米国特許、特許公報および係属中の特許出願も参照され、それらの内容は、ここで参照したことによって、ここに組み入れられる:
米国特許番号第8,164,057および8,334,510;
「真空引きされたデバイスおよび走査型電子顕微鏡(A Vacuumed Device and A Scanning Electron Microscope)」と題する、2009年9月24日に出願され、公開されたPCT特許出願番号第 WO 2012/007941;および
「電子顕微鏡イメージングシステムおよび方法(Electron Microscope Imaging System and Method)」と題する、2012年8月21日に出願された中国特許出願番号第201210299149.5。
【背景技術】
【0003】
発明の分野
本発明は、概しては、走査型電子顕微鏡に関する。
【0004】
発明の背景
様々な、異なるタイプの走査型電子顕微鏡が知られている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、改良された走査型電子顕微鏡を提供しようとするものである。
【0006】
従って、本発明の好ましい実施形態によれば、非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡を用いて行う方法が提供され、当該方法は、材料についての第一の特性スペクトル(characteristic spectrum、特徴スペクトル)を生成することを含んでおり、前記生成は、前記電子顕微鏡からの電子ビームを、第一の非真空環境中の前記材料に向かわせることによって行われ、該第一の非真空環境は、その中において前記電子ビームの第一の量の散乱が発生する環境であり、前記生成は、前記材料から発せられる第一のX線を収集することによって行われ、前記生成は、前記第一のX線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、当該方法は、その後に、前記材料についての第二の特性スペクトルを生成することを含み、前記生成は、前記電子顕微鏡からの電子ビームを、第二の非真空環境中の前記材料に向かわせることによって行われ、該第二の非真空環境は、その中で前記電子ビームの第二の量の散乱が発生する環境であり、前記生成は、前記材料から発せられる第二のX線を収集することによって行われ、前記生成は、前記第二のX線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、当該方法は、前記第一の特性スペクトルと第二の特性スペクトルとを比較すること、および、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークを認識することを含み、当該方法は、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークのうちの少なくとも1つを除去することによって、前記の第一のおよび第二の特性スペクトルのうちの少なくとも一方から、前記材料についての散乱補正された特性スペクトルを生成することを含む。
【0007】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記散乱補正された特性スペクトルが、散乱が増大するにつれて強度が減少するピークを、少なくとも1つ含む。
【0008】
好ましくは、前記第一の非真空環境が第一の気体を有し、かつ、前記第二の非真空環境が第二の気体を有し、該第二の気体が、前記第一の気体の電子ビーム散乱特性とは異なる電子ビーム散乱特性を持っている。代替的には、または、付加的には、前記第一の非真空環境が、そこに関係付けられた、前記材料までの第一の電子ビーム移動距離を持っており、前記第二の非真空環境が、そこに関係付けられた、前記材料までの第二の電子ビーム移動距離を持っており、前記第二の電子ビーム移動距離が、前記第一の電子ビーム移動距離とは異なる量の電子ビーム散乱を生じさせる。
【0009】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡を用いて行うシステムも提供され、当該システムは、特性スペクトル発生装置を含み、該特性スペクトル発生装置は、材料についての第一のおよび第二の特性スペクトルを生成するものであり、前記生成は、前記電子顕微鏡からの電子ビームを、第一のおよび第二の非真空環境のそれぞれの中の前記材料に向かわせることによって行われ、該第一のおよび第二の非真空環境は、それらの中において前記電子ビームのそれぞれの第一の量の散乱および第二の量の散乱が発生する環境であり、前記生成は、前記第一のおよび第二の非真空環境中の前記材料から発せられるX線を収集することによって行われ、前記生成は、前記第一のおよび第二の非真空環境中の前記材料からの前記X線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、当該システムは、散乱補正された特性スペクトルを発生させる装置を含み、該装置は、前記第一のおよび第二の特性スペクトルを比較すること、および、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークを認識するように作動し、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークのうちの少なくとも1つを除去することによって、前記の第一のおよび第二の特性スペクトルのうちの少なくとも一方から、前記材料についての散乱補正された特性スペクトルを生成するように作動するものである。
【0010】
好ましくは、前記散乱補正された特性スペクトルが、散乱が増大するにつれて強度が減少するピークを、少なくとも1つ含む。
【0011】
本発明の好ましい実施形態によれば、非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡を用いて行う当該システムはまた、気体供給コントローラーを有し、該気体供給コントローラーは、第一の気体を前記第一の非真空環境に供給し、かつ、第二の気体を前記第二の非真空環境に供給するように動作し、前記第二の気体が、前記第一の気体の電子ビーム散乱特性とは異なる電子ビーム散乱特性を持っている。付加的には、または、代替的には、非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡を用いて行う当該システムは、移動可能な試料取付け台を有し、該移動可能な試料取付け台は、前記第一の非真空環境中の前記材料までの第一の電子ビーム移動距離をおくように位置し、かつ、前記第二の非真空環境中の前記材料までの第二の電子ビーム移動距離をおくように位置するよう作動し、前記第二の電子ビーム移動距離が、前記第一の電子ビーム移動距離とは異なる量の電子ビーム散乱を生じさせる。
【0012】
本発明のまた他の好ましい実施形態によれば、非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡をベースとする材料分析システムを用いて行うためのコンピュータ処理化された方法も提供され、当該方法は、前記電子顕微鏡をベースとするシステムと共に使用するためのものであり、ここで、該材料分析システムは、前記電子顕微鏡からの電子ビームを非真空環境中の材料へと向かわせ、該材料から発せられるX線を収集し、かつ、該X線に対してスペクトル解析を行うよう作動するシステムであり、当該方法は、前記電子顕微鏡をベースとする材料分析システムを以下の事項のために作動させることを含み、前記事項は、材料についての第一の特性スペクトルを生成することであり、ここで、前記生成は、電子ビームを第一の非真空環境中の材料に向かわせることによって行われ、該第一の非真空環境は、その中において前記電子ビームの第一の量の散乱が発生する環境であり、前記生成は、前記材料から発せられる第一のX線を収集することによって行われ、前記生成は、前記第一のX線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、前記事項は、その後に、前記材料についての第二の特性スペクトルを生成することであり、ここで、前記生成は、電子ビームを第二の非真空環境中の材料に向かわせることによって行われ、該第二の非真空環境は、その中において前記電子ビームの第二の量の散乱が発生する環境であり、前記生成は、前記材料から発せられる第二のX線を収集することによって行われ、前記生成は、前記第二のX線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、前記事項は、前記第一の特性スペクトルと第二の特性スペクトルとを比較すること、および、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークを認識することであり、かつ、前記事項は、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークのうちの少なくとも1つを除去することによって、前記の第一のおよび第二の特性スペクトルのうちの少なくとも一方から、前記材料についての散乱補正された特性スペクトルを生成することである。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記散乱補正された特性スペクトルが、散乱が増大するにつれて強度が減少するピークを、少なくとも1つ含む。
【0014】
好ましくは、前記第一の非真空環境が第一の気体を含み、かつ、前記第二の非真空環境が第二の気体を含み、該第二の気体が、前記第一の気体の電子ビーム散乱特性とは異なる電子ビーム散乱特性を持っている。付加的には、または、代替的には、前記第一の非真空環境が、そこに関係付けられた、前記材料までの第一の電子ビーム移動距離を持っており、前記第二の非真空環境が、そこに関係付けられた、前記材料までの第二の電子ビーム移動距離を持っており、前記第二の電子ビーム移動距離が、前記第一の電子ビーム移動距離とは異なる量の電子ビーム散乱を生じさせる。
【0015】
本発明のまた他の好ましい実施形態によれば、コンピュータソフトウェアが提供され、当該コンピュータソフトウェアは、電子顕微鏡をベースとする材料分析システムの作動を制御することに使用するためのものであり、前記材料分析システムは、前記電子顕微鏡からの電子ビームを非真空環境中の材料に向かわせ、前記材料から発せられるX線を収集し、前記X線に対するスペクトル解析を行うよう作動するものであり、当該コンピュータソフトウェアは、非真空環境中に存在する場合の材料の分析を電子顕微鏡をベースとする前記システムを用いて行うためのコンピュータ処理化された方法に使用するためのものであり、当該コンピュータソフトウェアは、前記顕微鏡をベースとする材料分析システムを以下の事項のために作動させるための命令を含み、前記事項は、材料についての第一の特性スペクトルを生成することであり、ここで、前記生成は、電子ビームを第一の非真空環境中の材料に向かわせることによって行われ、該第一の非真空環境は、その中において前記電子ビームの第一の量の散乱が発生する環境であり、前記生成は、前記材料から発せられる第一のX線を収集することによって行われ、前記生成は、前記第一のX線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、前記事項は、その後に、前記材料についての第二の特性スペクトルを生成することであり、ここで、前記生成は、電子ビームを第二の非真空環境中の材料に向かわせることによって行われ、該第二の非真空環境は、その中において前記電子ビームの第二の量の散乱が発生する環境であり、前記生成は、前記材料から発せられる第二のX線を収集することによって行われ、前記生成は、前記第二のX線に対してスペクトル解析を行うことによって行われ、前記事項は、前記第一の特性スペクトルと第二の特性スペクトルとを比較すること、および、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークを認識することであり、かつ、前記事項は、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークのうちの少なくとも1つを除去することによって、前記の第一のおよび第二の特性スペクトルのうちの少なくとも一方から、前記材料についての散乱補正された特性スペクトルを生成することである。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記散乱補正された特性スペクトルが、散乱が増大するにつれて強度が減少するピークを、少なくとも1つ含む。
【0017】
好ましくは、前記第一の非真空環境が第一の気体を有し、かつ、前記第二の非真空環境が第二の気体を有し、該第二の気体が、前記第一の気体の電子ビーム散乱特性とは異なる電子ビーム散乱特性を持っている。付加的には、または、代替的には、前記第一の非真空環境が、そこに関係付けられた、前記材料までの第一の電子ビーム移動距離を持っており、前記第二の非真空環境が、そこに関係付けられた、前記材料までの第二の電子ビーム移動距離を持っており、前記第二の電子ビーム移動距離が、前記第一の電子ビーム移動距離とは異なる量の電子ビーム散乱を生じさせる。
【0018】
本発明は、図面を参照して、以下の詳細な説明からより完全に理解および把握されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施形態に従って構築されかつ作動する、非真空環境中に存在するときの材料の分析を行うシステムの単純化された図である。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、それぞれ、単純化されたX線スペクトルであって、第一のおよび第二の、異なる非真空環境中の同一の試料の同一の場所に電子ビームを向かわせることによって得られたものであり、該第一のおよび第二の異なる非真空環境には、異なる気体が存在し、異なる量の電子ビームの散乱を生じさせる。
図2Cは、散乱補正され単純化されたX線スペクトルであって、
図2Aおよび2Bのスペクトルから得られ、散乱が増大するにつれてその強度が増大する少なくとも1つのピークを除去することによって得られたものである。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、それぞれ、単純化されたX線スペクトルであって、第一のおよび第二の、異なる非真空環境中の同一の試料の同一の場所に電子ビームを向かわせることによって得られたものであり、該第一のおよび第二の異なる非真空環境には、異なる電子ビーム経路の長さが存在し、異なる量の電子ビームの散乱を生じさせる。
図3Cは、散乱補正され単純化されたX線スペクトルであって、
図3Aおよび3Bのスペクトルから得られ、散乱が増大するにつれてその強度が増大する少なくとも1つのピークを除去することによって得られたものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ここで
図1を参照し、同図は、本発明の好ましい実施形態に従って構築されかつ作動する走査型電子顕微鏡100を図示している。本発明の好ましい実施形態によれば、当該走査型電子顕微鏡100は、従来のSEMカラム(SEM colum)102を含み、その例としては、ドイツ、オーバーコッツァウのCarl Zeiss SMT GmbHによって市販されているGemini(登録商標)カラムをベースとするSEMの一部を形成するSEMカラムが挙げられ、それは、該SEMカラム102の光軸106に沿って配置されたビームアパーチャ104を有している。該SEMカラム102は、典型的には、真空下に維持される。
【0021】
真空インターフェイス(vacuum interface)108は、通常、導管路109を通じて真空ポンプ(図示せず)に接続された真空エンクロージャの形態をとり、ビームアパーチャ104におけるSEMカラム102の内部と外界との間のインターフェイスとなっており、かつ、真空を維持しビームを透過させ得る膜110で形成されており、該膜は、光軸106に沿って、前記ビームアパーチャ104に位置合わせされている。
【0022】
膜110は、好ましくは、モデル4104SN−BAの膜であり、これは、米国、PA州、ウエストチェスターのSPI Supplies社によって市販されている。本発明の好ましい実施形態によれば、該膜110は、電気的に接地されていない。該膜110の厚さは、ナノメートルの範囲内にあり、一定のスケールで示されていないことに留意されたい。
【0023】
膜110は、典型的には、膜ホルダー112によって、真空インターフェイス108へと支持され、該膜ホルダーは、典型的には、ステンレス鋼といった電気伝導体で形成されたアパーチャ付きディスク(apertured disc)の形態をとる。膜ホルダー112は、電気絶縁体114の下に密封するように横たわり、これもまた、典型的には、アパーチャ付きディスクの形態をとる。電気絶縁体114は、真空インターフェイス108の、内側向きの底部フランジ部分116へと密封するように取り付けられている。
【0024】
試料は、参照符号120で示されており、膜110の下方にかつ膜110から間隔を置いて位置しており、典型的には、500ミクロンまでの距離をおいて位置しており、かつ、光軸106に沿って向けられる電子ビームが該試料に衝突するように位置付けられている。試料120は、好ましくは、試料ホルダー122によって支持される。該試料ホルダー122は、好ましくは、ステンレス鋼またはアルミニウム等、電気伝導体で形成されており、適用によっては、接地されていてもよいし、されていなくてもよい。本発明の好ましい実施形態によれば、試料ホルダー122は、移動可能な試料取付け台(sample mount)126上に支持され、該移動可能な試料取付け台は、矢印128によって示されるように、SEMカラム102に対して上下方向の試料ホルダーの移動をもたらす。該移動可能な試料取付け台126は、SEMカラム102に対する試料120の多種(multiple)の位置決めを提供し、非真空環境内にある試料120への電子ビームの多種(multiple)の移動距離を提供して、異なる量の電子ビーム散乱を生じさせることが理解されよう。
【0025】
好ましくは、ヘリウムまたは窒素といった気体が、典型的には、気体供給コントローラー132に接続されている供給導管路130によって、膜110と試料120との間の空間に注入される。気体供給コントローラー132は、好ましくは、多種(multiple)の気体投入導管路134のうちの1以上から注入するための気体を選択するように作動し、それぞれの気体投入導管路は、異なる気体供給源(図示せず)に連結されている。異なる気体が、異なる電子ビーム散乱特性をもたらし得ることは理解されよう。
【0026】
X線分光器(X-ray spectrometer)150は、試料120から発せられるX線フォトン152を収集し、そこからX線スペクトルを生成するように作動し、該X線スペクトルは、好ましくは、試料120中に存在する要素の定性分析または定量分析といった、材料分析に用いられる。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、走査型電子顕微鏡100は、試料120中の材料についての散乱補正(scattering-compensated)された特性スペクトル(characteristic spectrum)を生成するために使用され、その生成は、散乱が増大するにつれてピークの強度が増大する該ピークのうちの少なくとも1つを除去するために、少なくとも2つのX線スペクトルを比較することによって行われる。
【0028】
このようにして、材料についての第一の特性スペクトルが生成され、その生成は、走査型電子顕微鏡100からの電子ビームを軸線106に沿って第一の非真空環境中の材料に向かわせることによって行われ(該第一の非真空環境では、該軸線106の回りの第一の量の電子ビームの散乱が生じる)、材料から発せられるX線を収集することによって行われ、かつ、該X線にスペクトル解析を実行することによって行われる。材料についての第二の特性スペクトルが生成され、その生成は、走査型電子顕微鏡100からの電子ビームを軸線106に沿って第二の非真空環境中の材料に向かわせることによって行われ(該第二の非真空環境では、軸線106の回りの第二の量の電子ビームの散乱が生じる)、材料から発せられるX線を収集することによって行われ、該X線にスペクトル解析を実行することによって行われる。次に、第一のおよび第二のスペクトルが比較され、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークが認識され、材料についての散乱補正された特性スペクトルが生成され、その生成は、散乱が増大するにつれて強度が増大するピークのうちの少なくとも1つを除去することによって行われる。
【0029】
生成された散乱補正された特性スペクトルが、散乱が増大するにつれてその強度が減少するピークを、少なくとも1つ含み得ることが理解されよう。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、異なる散乱特性を持つ第一のおよび第二の非真空環境が、気体供給コントローラー132を用いて、異なる気体を非真空環境に導入することを含み、該非真空環境では、異なる気体が異なる散乱特性を持つ。
【0031】
本発明の他の好ましい実施形態では、異なる散乱特性を持つ第一のおよび第二の非真空環境が、移動可能な試料取付け台126を用いて、材料までの電子ビーム移動距離を変化させることを含み、該第一のおよび第二の非真空環境では、異なる移動距離が、異なる量の電子ビームの散乱を生じさせる。
【0032】
本発明のまた他の好ましい実施形態では、異なる散乱特性を持つ第一のおよび第二の非真空環境が、気体供給コントローラー132を用いて、異なる気体を非真空環境に導入すること、および、移動可能な試料取付け台126を用いて、材料までの電子ビームの移動距離を変化させることを含む。
【0033】
図2Aおよび2Bは、単純化されたX線スペクトルを図示しており、該X線スペクトルは、第一のおよび第二の、異なる非真空環境中の同一の試料の同一の場所に電子ビームを向かわせることによって得られ、第一のおよび第二の異なる非真空環境には異なる気体が存在し、異なる量の電子ビームの散乱を生じさせる。
図2Cは、散乱補正され単純化されたX線スペクトルを示し、該散乱補正されたX線スペクトルは、散乱が増大するにつれてピークの強度が増大する約1.5kEvを中心とする該ピークを除去することによって、
図2Aおよび2Bのスペクトルから得られたものである。
図2Aおよび2Bの比較からわかるように、X線スペクトルはまた、散乱が増大するにつれてその強度が減少する約1.75kEvを中心とするピークを含み、該ピークは、
図2Cに示された散乱補正され単純化されたX線スペクトルでは除去されていない。
【0034】
図3Aおよび3Bは、単純化されたX線スペクトルを図示しており、該X線スペクトルは、第一のおよび第二の異なる非真空環境中の同一の試料の同一の場所に電子ビームを向かわせることによって得られ、該第一のおよび第二の異なる非真空環境には、異なる電子ビーム経路の長さが存在し、異なる量の電子ビームの散乱を生じさせる。
図3Cは、散乱補正され単純化されたX線スペクトルを示し、該散乱補正されたX線スペクトルは、散乱が増大するにつれてピークの強度が増大する約1.5kEvを中心とする該ピークを除去することによって、
図3Aおよび3Bのスペクトルから得られたものである。
図3Aおよび3Bの比較からわかるように、X線スペクトルはまた、散乱が増大するにつれてその強度が減少する約1.75kEvを中心とするピークを含み、該ピークは、
図3Cに示された散乱補正され単純化されたX線スペクトルでは除去されていない。
【0035】
本発明が、本明細書中、以上において特に示され、説明されたものに限定されないことは、当業者によって理解されるであろう。むしろ、本発明の範囲は、本明細書中で上述した種々の特徴の組み合わせおよび部分的組み合わせの両方、ならびに、上述の説明を読んだ当業者が思い付くであろう、先行技術にはないそれらの変形および改良を含む。