特許第6125631号(P6125631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6125631
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】外部共振器型発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/14 20060101AFI20170424BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20170424BHJP
   G02B 6/124 20060101ALI20170424BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20170424BHJP
   G02B 6/42 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   H01S5/14
   G02B6/12 301
   G02B6/124
   G02B6/122
   G02B6/42
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-521464(P2015-521464)
(86)(22)【出願日】2014年6月4日
(86)【国際出願番号】JP2014064808
(87)【国際公開番号】WO2014196553
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2015年12月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-120999(P2013-120999)
(32)【優先日】2013年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】近藤 順悟
(72)【発明者】
【氏名】山口 省一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉野 隆史
(72)【発明者】
【氏名】武内 幸久
【審査官】 佐藤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−171252(JP,A)
【文献】 特開2003−110193(JP,A)
【文献】 特開2002−050827(JP,A)
【文献】 特開平05−060927(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0099611(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0127538(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0020893(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
G02B 6/12−6/14
G02B 6/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ光を発振する光源、およびこの光源と外部共振器を構成するグレーティング素子を備え、単一モード発振する外部共振器型発光装置であって、
前記光源が、前記半導体レーザ光を発振する活性層を備えており、
前記グレーティング素子が、前記半導体レーザ光が入射する入射面と所望波長の出射光を出射する出射面を有する光導波路、この光導波路内に形成されたブラッググレーティング、および前記入射面と前記ブラッググレーティングとの間に設けられている伝搬部を備えており、前記光導波路がコアからなり、前記コアの横断面が凸図形をなしており、下記式(1)〜式()の関係が満足されることを特徴とする、外部共振器型発光装置。

Δλ ≧0.8nm ・・・(1)
≦500μm ・・・(2)
≦500μm ・・・(3)
≧1.8 ・・・(4)

【数12】

(式(1)において、Δλは、ブラッグ反射率のピークにおける半値全幅である。
式(2)において、Lは、前記ブラッググレーティングの長さである。
式(3)において、Lは、前記活性層の長さである。
式(4)において、nは、前記ブラッググレーティングを構成する材質の屈折率である。
式(5)において、dλG/dTは、ブラッグ波長の温度係数であり、dλTM/dTは、外部共振器レーザの位相条件を満足する波長の温度係数である。)
【請求項2】
前記光源と前記グレーティング素子が直接光学的に接続されており、前記活性層の出射面と反対側の外側端面と前記ブラッググレーティングとの間で前記外部共振器を形成しており、前記活性層の前記外側端面と前記ブラッググレーティングの出射側終点との間の長さが900μm以下であることを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記活性層の前記外側端面と前記ブラッググレーティングの出射側終点との間の長さが700μm以下であることを特徴とする、請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記コアと接するバッファ層を備えており、前記バッファ層の屈折率が前記コアの屈折率よりも0.2以上低いことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の装置。
【請求項5】
前記光源および前記グレーティング素子が共通基板上にマウントされていることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つの請求項に記載の装置。
【請求項6】
下記式(6)〜(8)の関係が満足されることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つの請求項に記載の装置。

WG ≦600μm ・・・(6)
1μm ≦L ≦10μm ・・(7)
20μm≦L ≦100μm ・・(8)

(式(6)において、LWGは、前記グレーティング素子の長さである。
式(7)において、Lは、前記光源の出射面と前記光導波層の前記入射面との距離である。
式(8)において、Lは、前記伝搬部の長さである。)
【請求項7】
前記ブラッググレーティングの反射率が、前記光源の出射端の反射率、前記グレーティング素子の入射面の反射率、および前記グレーティング素子の出射面の反射率よりも大きいことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つの請求項に記載の装置。
【請求項8】
前記ブラッググレーティングの前記材質が、ガリウム砒素、ニオブ酸リチウム単結晶、酸化タンタル、酸化亜鉛および酸化アルミナからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つの請求項に記載の装置。
【請求項9】
前記光導波路上に設けられたバッファ層を有することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つの請求項に記載の装置。
【請求項10】
前記ブラッググレーティングの長さLが300μm以下であり、前記活性層の長さLが300μm以下であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つの請求項に記載の装置。
【請求項11】
前記光源が、GaAs系レーザまたはやInP系レーザであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一つの請求項に記載の装置。
【請求項12】
前記コアが前記バッファ層中に埋設されていることを特徴とする、請求項11のいずれか一つの請求項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部共振器型発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザは、一般的に、活性層の両端面に形成したミラーで挟まれた光共振器を構成した、ファブリ−ペロー(FP)型が利用されている。しかしながら、このFP型レーザは、定在波条件が成立する波長で発振するために、縦モードが多モードになりやすく、とくに電流や温度が変化すると発振波長が変化し、それにより光強度が変化する。
【0003】
このため、光通信やガスセンシングなどの目的では、波長安定性の高い単一モード発振のレーザが必要である。このため、分布帰還型(DFB)レーザや分布反射型(DBR)レーザが開発された。これらのレーザは、半導体中に回折格子を設け、その波長依存性を利用して特定の波長のみを発振させるものである。
【0004】
DBRレーザは、活性層の導波路の延長上の導波路面に凹凸を形成しブラッグ反射によるミラーを構成し、共振器を実現している(特許文献1(特開昭49-128689):特許文献2(特開昭56-148880))。このレーザは、光導波層の両端に回折格子が設けられているので、活性層で発光した光は光導波層を伝搬し、この回折格子で一部が反射され、電流注入部に戻り、増幅される。回折格子から決められた方向に反射するのは、一つの波長の光だけであるので、レーザ光の波長は一定になる。
【0005】
また、この応用として、回折格子を、半導体とは異なる部品とし、外部で共振器を形成する、外部共振器型半導体レーザが開発されている。このタイプのレーザは、波長安定性、温度安定性、制御性がよいレーザとなる。外部共振器は、ファイバ・ブラッグ・グレーティング(FBG)(非特許文献1)や、ボリューム・ホログラム・グレーティング(VHG)(非特許文献2)がある。回折格子を、半導体レーザとは別部材で構成するので、反射率、共振器長を個別に設計できるという特徴があり、電流注入による発熱による温度上昇の影響を受けないので、波長安定性をさらに良くすることができる。また、半導体の屈折率の温度変化が異なるので共振器長と合わせて設計することにより、温度安定性を高めることができる。
【0006】
特許文献6(特開2002-134833)には、石英ガラス導波路に形成したグレーティングを利用した外部共振器型レーザが開示されている。これは温度コントローラなしで室温が大きく(例えば30℃以上)変化する環境で使える、周波数安定化レーザを提供しようとするものである。また、モードホッピングが抑圧され、かつ発振周波数の温度依存性がない温度無依存レーザを提供することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】電子情報通信学会論文誌 C‐II Vol.J81, No.7 pp.664-665, 1998年7月
【非特許文献2】電子情報通信学会技術研究報告 LQE, 2005年 105巻 52号 pp.17-20
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭49-128689
【特許文献2】特開昭56-148880
【特許文献3】WO2013/034813
【特許文献4】特開2000-082864
【特許文献5】特開2006-222399
【特許文献6】特開2002-134833
【発明の概要】
【0009】
非特許文献1には、温度上昇に伴う波長安定性を損なうモードホップのメカニズムと、その改善策について言及している。温度による外部共振器レーザの波長変化量δλsは、半導体の活性層領域の屈折率変化△na、活性層の長さLa、FBG領域の屈折率変化△nf、長さLf、それぞれの温度変化δTa、δTfに対して、定在波条件より下式により表される。
【数1】


ここで、λ0は初期状態でのグレーティング反射波長を表す。
また、グレーティング反射波長の変化δλGは、下式で表される。
【0010】
【数2】

【0011】
モードホップは、外部共振器の縦モード間隔△λが波長変化量δλsとグレーティング反射波長の変化量δλGの差に等しくなったときに発生するので、次式が成立する。
【0012】
【数3】

【0013】
縦モード間隔△λは、近似的に下式となる。
【数4】

【0014】
式(C)と式(D)より、式(E)が成立する。
【数5】

【0015】
モードホップを抑制するためには、△Tall以下の温度内で使用する必要があり、ペルチェ素子にて温度制御している。式(E)では、活性層とグレーティング層の屈折率変化が同じ場合(△na/na=△nf/nf)、分母が零になり、モードホップが生じる温度が無限大になり、モードホップがなくなることを示している。しかしながら、モノリシックDBRレーザでは、レーザ発振させるために、活性層は電流注入がなされるために、活性層とグレーティング層の屈折率変化は一致させることができないので、モードホップが生じてしまう。
【0016】
モードホップは、共振器内の発振モード(縦モード)が、あるモードから違うモードに移る現象である。温度や注入電流が変化すると、ゲインや共振器の条件が異なり、レーザ発振波長が変化し、キンクといわれる、光パワーが変動するという問題を生じる。したがって、FP型のGaAs半導体レーザの場合、通常、波長が0.3nm/℃の温度係数で変化するが、モードホップが生じると、これよりも大きな変動が起こる。それと同時に、出力が5%以上変動する。
【0017】
このため、モードホップを抑制するために、ペルチェ素子を用いて温度制御している。しかし、このために部品点数が増え、モジュールが大きくなり、コストが高くなる。
【0018】
特許文献6では、温度無依存にするために、従来の共振器構造はそのままで光導波路層に応力を与えることで、熱膨張に起因する温度係数を補償することにより、温度無依存性を実現している。このため、素子に金属板を貼りつけ、さらに導波路中に温度係数を調整する層を付加させている。このため共振器構造が、さらに大きくなるという問題がある。
【0019】
本発明の課題は、ペルチェ素子を使用することなく、モードホップを抑制し、波長安定性を高くし、光パワー変動を抑制できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、半導体レーザ光を発振する光源、およびこの光源と外部共振器を構成するグレーティング素子を備え、単一モード発振する外部共振器型発光装置であって、
前記光源が、前記半導体レーザ光を発振する活性層を備えており、
前記グレーティング素子が、前記半導体レーザ光が入射する入射面と所望波長の出射光を出射する出射面を有する光導波路、この光導波路内に形成されたブラッググレーティング、および前記入射面と前記ブラッググレーティングとの間に設けられている伝搬部を備えており、光導波路がコアからなり、コアの横断面が凸図形をなしており、下記式(1)〜式()の関係が満足されることを特徴とする。

Δλ ≧0.8nm ・・・(1)
≦500μm ・・・(2)
≦500μm ・・・(3)
≧1.8 ・・・(4)
(式(1)において、Δλは、ブラッグ反射率のピークにおける半値全幅である。
式(2)において、Lは、前記ブラッググレーティングの長さである。
式(3)において、Lは、前記活性層の長さである。
式(4)において、nは、前記ブラッググレーティングを構成する材質の屈折率である。)
【0021】
【数6】

(式(5)において、dλG/dTは、ブラッグ波長の温度係数である。
TM/dTは、外部共振器レーザの位相条件を満足する波長の温度係数である。)
【0022】
好適な実施形態においては、下記式(6)〜(8)の関係が満足される。
WG ≦600μm ・・・(6)
1μm ≦L ≦10μm ・・(7)
20μm≦L ≦100μm ・・(8)
【0023】
(式(6)において、LWGは、前記グレーティング素子の長さである。
式(7)において、Lは、前記光源の出射面と前記光導波層の前記入射面との距離である。
式(8)において、Lは、前記伝搬部の長さである。)
【0024】
本発明によれば、ペルチェ素子を使用することなく、モードホップを抑制し、波長安定性を高くし、光パワー変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、外部共振器型発光装置の模式図である。
図2図2は、グレーティング素子の横断面図である。
図3図3は、グレーティング素子を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、他のグレーティング素子の横断面図である。
図5図5は、従来例によるモードホップの形態を説明する図である。
図6図6は、従来例によるモードホップの形態を説明する図である。
図7図7は、本発明例によるモードホップの形態を説明する図である。
図8図8は、従来構造における反射特性(ゲイン条件)および位相条件を示す。
図9図9は、本発明構造における反射特性(ゲイン条件)および位相条件を示す。
図10】(a)、(b)、(c)は、それぞれ、細長いストライプ状の光導波路20、20Aを用いたグレーティング素子21A、21B、21Cの横断面を示す模式図である。
図11】(a)、(b)は、それぞれ、細長いストライプ状の光導波路20、20Aを用いたグレーティング素子21D、21Eの横断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に模式的に示す外部共振器型発光装置1は、半導体レーザ光を発振する光源2と、グレーティング素子9とを備えている。光源2とグレーティング素子9とは、共通基板3上にマウントされている。
【0027】
光源2は、半導体レーザ光を発振する活性層5を備えている。本実施形態では、活性層5は基体4に設けられている。基体4の外側端面には反射膜6が設けられており、活性層5のグレーティング素子側の端面には無反射層7Aが形成されている。
【0028】
図1図3に示すように、グレーティング素子7には、半導体レーザ光Aが入射する入射面11aと所望波長の出射光Bを出射する出射面11bを有する光導波路11が設けられている。Cは反射光である。光導波路11内には、ブラッググレーティング12が形成されている。光導波路11の入射面11aとブラッググレーティング12との間には、回折格子のない伝搬部13が設けられており、伝搬部13が活性層5と間隙14を介して対向している。7Bは、光導波路11の入射面側に設けられた無反射膜であり、7Cは、光導波路11の出射面側に設けられた無反射膜である。本例では、光導波路11はリッジ型光導波路であり、基板10に設けられている。光導波路11は、ブラッググレーティング12と同一面に形成されていてもよく、相対する面に形成されていてもよい。
【0029】
好適な実施形態においては、ブラッググレーティングの反射率が、光源の出射端の反射率、グレーティング素子の入射面の反射率、およびグレーティング素子の出射面の反射率よりも大きい。この観点からは、光源の出射端の反射率、グレーティング素子の入射面の反射率、およびグレーティング素子の出射面の反射率は、0.1%以下が好ましい。また、無反射層7A、7B、7Cの反射率は、グレーティング反射率よりも小さい値であればよく、さらに0.1%以下が好ましい。
【0030】
図2に示すように、本例では、基板10上に接着層15、下側バッファ層16を介して高屈折率層11が形成されており、高屈折率層11上に上側バッファ層17が形成されている。高屈折率層11には例えば一対のリッジ溝19が形成されており、リッジ溝の間にリッジ型の光導波路18が形成されている。この場合、ブラッググレーティングは平坦面11a面に形成していてもよく、11b面に形成していてもよい。ブラッググレーティング、およびリッジ溝の形状ばらつきを低減するという観点では、ブラッググレーティングを11a面上に形成することによって、ブラッググレーティングとリッジ溝19とを基板の反対側に設けることが好ましい。
【0031】
また、図4に示す素子9Aでは、基板10上に接着層15、下側バッファ層16を介して高屈折率層11が形成されており、高屈折率層11上に上側バッファ層17が形成されている。高屈折率層11の基板10側には、例えば一対のリッジ溝19が形成されており、リッジ溝19の間にリッジ型の光導波路18が形成されている。この場合、ブラッググレーティングは平坦面11a側に形成していてもよく、リッジ溝のある11b面に形成していてもよい。ブラッググレーティング、およびリッジ溝の形状ばらつきを低減するという観点では、ブラッググレーティングを平坦面11a面側に形成することによって、ブラッググレーティングとリッジ溝19とを基板の反対側に設けることが好ましい。また、上側バッファ層17はなくてもよく、この場合、空気層が直接グレーティングに接することができる。これによりグレーティング溝が有る無しで屈折率差を大きくすることができ、短いグレーティング長で反射率を大きくすることができる。
【0032】
光源としては、高い信頼性を有するGaAs系やInP系材料によるレーザが好適である。本願構造の応用として、例えば、非線形光学素子を利用して第2高調波である緑色レーザを発振させる場合は、波長1064nm付近で発振するGaAs系のレーザを用いることになる。GaAs系やInP系のレーザは信頼性が高いため、一次元状に配列したレーザアレイ等の光源も実現可能である。スーパールミネッセンスダイオードや半導体光アンプ(SOA)であってもよい。また、活性層の材質や波長も適宜選択できる。
【0033】
リッジ型の光導波路は、例えば外周刃による切削加工やレーザアブレーション加工することによって物理的に加工し、成形することによって得られる。
【0034】
バッファ層は、光導波路のクラッド層として機能することができる。この観点からは、バッファ層の屈折率は、高屈折率層の屈折率よりも低いことが好ましく、その屈折率差は0.2以上が好ましく、0.4以上が更に好ましい。
【0035】
ブラッググレーティングは以下のようにして物理的、あるいは化学的なエッチングにより形成することができる。
【0036】
具体例として、Ni、Tiなどの金属膜を高屈折率基板に成膜し、フォトリソグラフィーにより周期的に窓を形成しエッチング用マスクを形成する。その後、反応性イオンエッチングなどのドライエッチング装置で周期的なグレーティング溝を形成する。最後に金属マスクを除去することにより形成できる。
【0037】
高屈折率層中には、光導波路の耐光損傷性を更に向上させるために、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、スカンジウム(Sc)及びインジウム(In)からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有させてもよく、この場合、マグネシウムが特に好ましい。また結晶中には、ドープ成分として、希土類元素を含有させることができる。希土類元素としては、特にNd、Er、Tm、Ho、Dy、Prが好ましい。
【0038】
接着層の材質は、無機接着剤であってよく、有機接着剤であってよく、無機接着剤と有機接着剤との組み合わせであってよい。
また、光学材料層11は、支持基体上に薄膜形成法によって成膜して形成してもよい。こうした薄膜形成法としては、スパッタ、蒸着、CVDを例示できる。この場合には、上述した接着層は不要となる。
【0039】
支持基体の具体的材質は特に限定されず,ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、石英ガラスなどのガラスや水晶、Siなどを例示することができる。
【0040】
無反射層の反射率は、グレーティング反射率以下である必要があり、無反射層に成膜する膜材としては、二酸化珪素、五酸化タンタルなどの酸化物で積層した膜や、金属類も使用可能である。
【0041】
また、光源素子、グレーティング素子の各端面は、それぞれ、端面反射を抑制するために斜めカットしていてもよい。また、グレーティング素子と支持基板の接合は、図2の例では接着固定だが、直接接合でもよい。
【0042】
以下、式(1)〜式(8)の条件の意味について更に述べる。
ただし、数式は抽象的で理解しにくいので、最初に、従来技術の典型的な形態と本発明の実施形態とを端的に比較し、本発明の特徴を述べる。次いで、本発明の各条件について述べていくこととする。
【0043】
まず、半導体レーザの発振条件は、下式のようにゲイン条件×位相条件で決まる。
【数7】

【0044】
ゲイン条件は、(2-1)式より下式となる。

【数8】

【0045】
ただし、αa、αbは、それぞれ、活性層、グレーティング層の損失係数であり、La、Lbは、それぞれ、活性層、グレーティング層の長さであり、r1、r2は、ミラー反射率(r2はグレーティングの反射率)であり、Coutは、グレーティング素子と光源との結合損失であり、ζt gthは、レーザ媒体のゲイン閾値であり、φ1は、レーザ側反射ミラーによる位相変化量であり、φ2は、グレーティング部での位相変化量である。
【0046】
(2-2)式より、レーザ媒体のゲインζt gth(ゲイン閾値)が損失を上回れば、レーザ発振することを表す。レーザ媒体のゲインカーブ(波長依存性)は、半値全幅は50nm以上あり、ブロードな特性をもっている。また、損失部(右辺)は、グレーティングの反射率以外はほとんど波長依存性がないので、ゲイン条件はグレーティングにより決まる。このため、比較表では、ゲイン条件はグレーティングのみで考えることができる。
【0047】
一方、位相条件は(2-1)式から、下式のようになる。ただし、φ1については零となる。
【数9】

【0048】
外部共振器型レーザは、外部共振器として、石英系ガラス導波路、FBGを用いたものが製品化されている。従来の設計コンセプトは、表1および図5図6に示すように、グレーティングの反射特性は△λg=0.2nm程度、反射率10%となっている。このことから、グレーティング部の長さは1mmとなっている。一方、位相条件については、満足する波長は離散的になり、△λg内に、(2-3)式が2〜3点あるように設計されている。このため、レーザ媒体の活性層長さが長いものが必要になり、1mm以上のものが使用されている。
【0049】
【表1】
【0050】
ガラス導波路やFBGの場合、λgの温度依存性は非常に小さく、dλG/dT=0.01nm/℃程度となる。このことから、外部共振器型レーザは、波長安定性が高いという特徴をもつ。
【0051】
しかし、位相条件を満足する波長の温度依存性は、これに比してdλs/dT=0.05nm/℃と大きく、その差は0.04nm/℃となる。
【0052】
一般的に、モードホップが起こる温度Tmhは、非特許文献1より下式のように考えることができる(Ta=Tfとして考える)。
ΔGTMは、外部共振器レーザの位相条件を満足する波長間隔(縦モード間隔)である。
【0053】
【数10】

【0054】
これより従来の場合、Tmhは5℃程度となる。このためモードホップが起こりやすい。したがって、モードホップが起こってしまうと、グレーティングの反射特性に基づきパワーが変動し、5%以上変動することになる。
【0055】
以上から、実動作において、従来のガラス導波路やFBGを利用した外部共振器型レーザは、ペルチェ素子を利用して温度制御を行っていた。
【0056】
これに対し、本発明は、前提条件として(2-4)式の分母が小さくなるグレーティング素子を使用するものである。(2-4)式の分母は、0.03nm/℃以下にすることが必要であり、具体的な材料としては、ガリウム砒素(GaAs)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミナ(Al2O3)が好ましい。例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)を利用する場合、△λGを1.3nm程度に設計し、位相条件を満足する波長を△λG内に2点となるように活性層の長さを250μmに設定すると、△GTMは例えば1.2nmとなり、Tmhは60℃となり、動作温度範囲を広くすることができる。図7にこの例を示す。
【0057】
すなわち、本発明構造は、温度変化に対して、発振波長はグレーティングの温度特性に基づき0.05nm/℃で変化するが、モードホップは起こりにくくすることが可能である。本願構造は、△λGを大きくするためにグレーティング長Lbは100μmとし、△GTMを大きくするためにLaは250μmとしている。
【0058】
なお、特許文献6との相違についても補足する。
本願は、グレーティング波長の温度係数と縦モードの温度係数を近づけることで温度無依存を実現するもので、このために共振器構造をコンパクトにでき、かつ付加するものが不要である。特許文献6では、各パラメータは以下のように記載されており、いずれも従来技術の範疇となっている。
△λG=0.4nm
縦モード間隔△GTM=0.2nm
グレーティング長Lb=3mm
LD活性層長さLa=600μm
伝搬部の長さ=1.5mm
【0059】
以下、本発明の各条件について更に述べる。
ブラッグ反射率のピークにおける半値全幅Δλを0.8nm以上とする(式1)。λはブラッグ波長である。すなわち、図5図6図7に示すように、横軸にブラッググレーティングによる反射波長をとり、縦軸に反射率をとったとき、反射率が最大となる波長をブラッグ波長とする。またブラッグ波長を中心とするピークにおいて、反射率がピークの半分になる二つの波長の差を半値全幅Δλとする。
【0060】
ブラッグ反射率のピークにおける半値全幅Δλを0.8nm以上とするのは、図7に示すように反射率ピークをブロードにするためである。この観点からは、半値全幅Δλを1.2nm以上とすることが好ましく、1.5nm以上とすることが更に好ましい。また、半値全幅Δλを2nm以下とすることが好ましい。
【0061】
ブラッググレーティングの長さLは500μm以下とする(式2)。ブラッググレーティングの長さLは、光導波路を伝搬する光の光軸の方向におけるグレーティング長である。ブラッググレーティングの長さLを500μm以下と従来に比べて短くすることは、本発明の設計思想の前提となる。この観点からは、ブラッググレーティングの長さLを300μm以下とすることが更に好ましい。
【0062】
活性層の長さLも500μm以下とする(式3)。活性層の長さLを従来と比べて短くすることも、本発明の設計思想の前提である。この観点からは、活性層の長さLを300μm以下とすることが更に好ましい。また、活性層の長さLは、150μm以上とすることが好ましい。
【0063】
ブラッググレーティングを構成する材質の屈折率nは1.8以上とする(式4)。従来は石英などの、より屈折率の低い材料が一般的であったが、本発明の思想では、ブラッググレーティングを構成する材質の屈折率を高くする。この理由は、屈折率が大きい材料は屈折率の温度変化が大きいからであり、(2-4)式のTmhを大きくすることができるからである。この観点からは、nは1.9以上であることが更に好ましい。また、nの上限は特にないが、グレーティングピッチが小さくなりすぎて形成が困難になることから4以下が好ましい。
【0064】
その上で、式(5)に示す条件が重要である。
式(5)において、dλG/dTは、ブラッグ波長の温度係数である。
また、dλTM/dTは、外部共振器レーザの位相条件を満足する波長の温度係数である。
ここで、λTMは、外部共振器レーザの位相条件を満足する波長であり、つまり前述した(2.3式)の位相条件を満足する波長である。これを本明細書では「縦モード」と呼ぶ。
【0065】
以下、縦モードについて補足する。
(2.3)式は、φ2+2βLa=2pπ、かつ、β=2π/λなので、これを満足するλがλTMとなる。φ2は、ブラッググレーティングの位相変化であり、下式で算出する。
【0066】
【数11】

【0067】
△GTMは、外部共振器レーザの位相条件を満足する波長間隔(縦モード間隔)である。λTMは、複数存在するので、複数のλTMの差を意味する。
【0068】
したがって、式(5)を満足することで、モードホップが起こる温度を高くし、事実上モードホップを抑制することができる。式(5)の数値は、0.025以下とすることが更に好ましい。
【0069】
グレーティング素子の長さLWGも600μm以下とする(式6)。これもLbと同様に短くすることが本発明の前提となる。この観点からは、LWGは400μm以下が好ましく、300μm以下が更に好ましい。また、LWGは50μm以上が好ましい。
【0070】
光源の出射面と光導波層の入射面との距離Lは、1μm以上、10μm以下とする(式(7))。これによって安定した発振が可能となる。
伝搬部の長さLは、20μm以上、100μm以下とする(式8)。これによって安定した発振が可能となる。
【0071】
好適な実施形態においては、光源とグレーティング素子が直接光学的に接続されており、活性層の出射面と反対側の外側端面とブラッググレーティングとの間で共振器構造を形成しており、活性層の外側端面とブラッググレーティングの出射側終点との間の長さが900μm以下である。グレーティング部では光は徐々に反射されていくために反射ミラーのように明確な反射点を観測することはできない。実効的な反射点は数学的に定義することはできるが、ブラッググレーティングの出射側終点よりレーザ側に存在する。このようなことから本願では、出射側の終点で共振器の長さを定義している。本発明によれば、非常に短い共振器長であっても、高い効率で目的波長の光を発振させることができる。この観点からは、活性層の外側端面とブラッググレーティングの出射側終点との間の長さが800μm以下であることが更に好ましく、700μm以下であることが特に好ましい。また、レーザの出力を高めるという観点からこの共振器の長さは、300μm以上であることが好ましい。
【0072】
上述の各例では、光導波路が、リッジ部と、このリッジ部を成形する少なくとも一対のリッジ溝からなるリッジ型光導波路である。この場合には、リッジ溝の下に高屈折率材料が残されており、かつリッジ溝の外側にもそれぞれ高屈折率材料からなる延在部が形成されている。
【0073】
しかし、リッジ型光導波路において、リッジ溝の下にある高屈折率材料を除去してしまうことで、ストライプ状の細長いコアを形成することもできる。この場合には、リッジ型光導波路が、光学材料からなる細長いコアからなり、コアの横断面が凸図形をなしている。このコアの周りには、バッファ層(クラッド層)や空気層が存在しており、バッファ層や空気層がクラッドとして機能する。
凸図形とは、コアの横断面の外側輪郭線の任意の二点を結ぶ線分が、コアの横断面の外側輪郭線の内側に位置することを意味する。このような図形としては、三角形、四角形、六角形、八角形などの多角形、円形、楕円形などを例示できる。四角形としては、特に、上辺と下辺と一対の側面を有する四角形が好ましく、台形が特に好ましい。
【0074】
図10図11は、この実施形態に係るものである。
図10(a)のグレーティング素子21Aでは、支持基板10上にバッファ層16が形成されており、バッファ層16上に光導波路20が形成されている。光導波路20は、前述したような屈折率1.8以上の高屈折率材料からなるコアからなる。光導波路の横断面(光伝搬方向と垂直な方向の断面)形状は台形であり、光導波路は細長く伸びている。本例では、光導波路20の上側面が下側面よりも狭くなっている。光導波路20内には、前述したような入射側伝搬部、ブラッググレーティング、出射側伝搬部が形成されている。
【0075】
図10(b)のグレーティング素子21Bでは、支持基板10上にバッファ層22が形成されており、バッファ層22内に光導波路20が埋設されている。光導波路の横断面(光伝搬方向と垂直な方向の断面)形状は台形であり、光導波路は細長く伸びている。本例では、光導波路20の上側面が下側面よりも狭くなっている。バッファ層22は、光導波路20上の上側バッファ22b、下側バッファ22aおよび光導波路20の側面を被覆する側面バッファ22cを含む。
【0076】
図10(c)のグレーティング素子21Cでは、支持基板10上にバッファ層22が形成されており、バッファ層22内に光導波路20Aが埋設されている。光導波路20Aは、前述したような屈折率1.8以上の高屈折率材料からなるコアからなる。光導波路の横断面(光伝搬方向と垂直な方向の断面)形状は台形であり、光導波路は細長く伸びている。本例では、光導波路20Aの下側面が上側面よりも狭くなっている。
【0077】
図11(d)のグレーティング素子21Dでは、支持基板10上にバッファ層16が形成されており、バッファ層16上に光導波路20が形成されている。そして、光導波路20が、別のバッファ層23によって包含され、埋設されている。バッファ層23は、上側バッファ23aおよび側面バッファ23bからなる。本例では、光導波路20の上側面が下側面よりも狭くなっている。
【0078】
図11(e)のグレーティング素子21Eでは、支持基板10上にバッファ層16が形成されており、バッファ層16上に光導波路20Aが形成されている。そして、光導波路20Aが、別のバッファ層23によって包含され、埋設されている。バッファ層23は、上側バッファ23aおよび側面バッファ23bからなる。本例では、光導波路20Aの下側面が上側面よりも狭くなっている。
なお、光導波路の幅Wmは、光導波路の横断面における幅のうち最も狭い部分の幅とする。
【実施例】
【0079】
(実施例1)
図1図3に示すような装置を作製した。
具体的には、z板MgOドープのニオブ酸リチウム結晶基板にNiを成膜して、フォトリソグラフィー技術によりy軸方向にグレーティングパターンを作製した。その後、Niパターンをマスクにして反応性イオンエッチングにより、ピッチ間隔Λ180nm、長さLb100μmのグレーティング溝を形成した。グレーティングの溝深さは300nmであった。また、y軸伝搬の光導波路を形成するために、エキシマレーザにて、グレーティング部に、幅Wm3μm、Tr0.5μmの溝加工を実施した。さらに、溝形成面にSiO2からなるバッファ層17をスパッタ装置で0.5μm成膜し、支持基板としてブラックLN基板を使用してグレーティング形成面を接着した。
【0080】
次に、ブラックLN基板側を研磨定盤に貼り付け、グレーティングを形成したLN基板の裏面を精密研磨して1μmの厚み(Ts)とした。その後、定盤からはずし研磨面をスパッタにてSiO2からなるバッファ層16を0.5μm成膜した。
【0081】
その後、ダイシング装置にてバー状に切断し、両端面を光学研磨し、両端面を0.1%以下のARコートを形成し、最後にチップ切断を行いグレーティング素子を作製した。素子サイズは幅1mm、長さLwg 500μmとした。
【0082】
グレーティング素子の光学特性は、広帯域波長光源であるスーパ・ルミネッセンス・ダイオード(SLD)を使用して、グレーティング素子に光を入力して出力光を光スペクトルアナライザで分析することにより、その透過特性から反射特性を評価した。その結果、x軸方向の偏光(常光)に対して中心波長800nm、最大反射率は3%で、半値全幅△λGは1.3nmの特性を得た。
【0083】
次に、このグレーティング素子を使用した外部共振器型レーザの特性評価のために、図1に示すようにレーザモジュールを実装した。光源素子としてGaAs系レーザ構造を有し、片端面には高反射膜、もう一方の端面は反射率0.1%のARコートを成膜したものを用意した。
【0084】
光源素子仕様:
中心波長: 800nm
レーザ素子長 250μm
実装仕様:
Lg: 3μm
Lm: 20μm
【0085】
モジュール実装後、ペルチェ素子を使用することなく電流制御(ACC)で駆動したところ、中心波長800nm、出力50mWのレーザ特性であった。また動作温度範囲を評価するために恒温槽内にモジュールを設置し、レーザ発振波長の温度依存性、モードホップが起こる温度、出力変動を測定した。その結果、発振波長の温度係数は0.05nm/℃、モードホップ温度60℃、パワー出力変動は1%以内であった(図5図7)。
【0086】
(比較例)
実施例1と同様に、z板MgOドープのニオブ酸リチウム結晶基板にNiを成膜して、フォトリソグラフィー技術によりy軸方向にグレーティングパターンを作製した。その後、Niパターンをマスクにして反応性イオンエッチングによりピッチ間隔Λ180nm、長さLb1000μmのグレーティング溝を形成した。グレーティングの溝深さは300nmであった。また、y軸伝搬の光導波路を形成するためにエキシマレーザにてグレーティング部に幅Wm3μm、Tr 0.5μmの溝加工を実施した。
【0087】
さらに、溝形成面にSiO2からなるバッファ層17をスパッタ装置で0.5μm成膜し、支持基板としてブラックLN基板を使用してグレーティング形成面を接着した。
【0088】
次に、ブラックLN基板側を研磨定盤に貼り付け、グレーティングを形成したLN基板の裏面を精密研磨して1μmの厚み(Ts)とした。その後、定盤からはずし研磨面をスパッタにてSiO2からなるバッファ層16を0.5μm成膜した。その後、ダイシング装置にてバー状に切断し、両端面を光学研磨し、両端面を0.1%以下のARコートを形成し、最後にチップ切断を行いグレーティング素子を作製した。素子サイズは幅1mm、長さLwg 1500μmとした。
【0089】
グレーティング素子の光学特性は、広帯域波長光源であるスーパ・ルミネッセンス・ダイオード(SLD)を使用して、グレーティング素子に光を入力して出力光を光スペクトルアナライザで分析することにより、その透過特性から反射特性を評価した。その結果、x軸方向の偏光(常光)に対して中心波長800nm、最大反射率は10%で、半値全幅△λGは0.2nmの特性を得た。
【0090】
次に、このグレーティング素子を使用した外部共振器型レーザの特性評価のために、別図のようなレーザモジュールを実装した。光源素子としてGaAs系レーザ構造を有し、片端面には高反射膜、もう一方の端面は反射率0.1%のARコートを成膜したものを用意した。
【0091】
光源素子仕様:
中心波長: 800nm
レーザ素子長: 1000μm
実装仕様:
Lg: 3μm
Lm: 20μm
【0092】
モジュール実装後、ペルチェ素子を使用することなく電流制御(ACC)で駆動したところ、中心波長800nm、出力50mWのレーザ特性であった。また動作温度範囲を評価するために恒温槽内にモジュールを設置し、レーザ発振波長の温度依存性、モードホップが起こる温度、出力変動を測定した。その結果、発振波長の温度係数は0.05nm/℃、モードホップ温度6℃、パワー出力変動は10%であった。
【0093】
(実施例2)
実施例1と同様にして、図1図3に示すような装置を作製した。ただし、グレーティング素子21Dの横断面形状は、図11(a)に示す形状とした。
【0094】
具体的には、石英からなる支持基板10にスパッタ装置にて下側クラッド層になるSiO2層16を0.5μm成膜し、またその上にTa2O5を1.2μm成膜して高屈折率層を形成した。次に、Ta2O5上にTiを成膜して、EB描画装置によりグレーティングパターンを作製した。その後、Tiパターンをマスクにしてフッ素系の反応性イオンエッチングにより、ピッチ間隔Λ238.5nm、長さLb 100μmのブラッググレーティングを形成した。グレーティングの溝深さtdは40nmとした。
【0095】
さらに光導波路20を形成するために、上記と同様な方法で反応性イオンエッチングし、幅Wm3μm、両サイドは光導波路20を残して高屈折率層を完全に切り込むようにエッチングした。光導波路20の厚さTsは1.2μmである。
最後に、上側クラッドとなるSiO2からなるバッファ層23を光導波路20を覆うように2μmスパッタにて形成した。
【0096】
その後、ダイシング装置にてバー状に切断し、両端面を光学研磨し、両端面を0.1%のARコートを形成し、最後にチップ切断を行いグレーティング素子を作製した。素子サイズは幅1mm、長さLwg 500μmとした。
【0097】
グレーティング素子の光学特性は、広帯域波長光源であるスーパ・ルミネッセンス・ダイオード(SLD)を使用して、グレーティング素子にTEモードの光を入力して出力光を光スペクトルアナライザで分析することにより、その透過特性から反射特性を評価した。
測定したグレーティング素子の反射中心波長は、975nmであり、反射率は18%、半値全幅△λGは2nmの特性を得た。
【0098】
次に、図1に示すようにレーザモジュールを実装した。光源素子は通常のGaAs系レーザで出射端面にはARコートなしとした。
光源素子仕様:
中心波長: 977nm
出力: 50mW
半値幅: 0.1nm
レーザ素子長 250μm
実装仕様:
Lg: 1μm
Lm: 20μm
【0099】
モジュール実装後、ペルチェ素子を使用することなく電流制御(ACC)で駆動したところ、グレーティングの反射波長に対応した中心波長975nmで発振し、出力はグレーティング素子がない場合よりも小さくなるが40mWのレーザ特性であった。また動作温度範囲を評価するために恒温槽内にモジュールを設置し、レーザ発振波長の温度依存性、出力変動を測定した。その結果、発振波長の温度係数は0.03nm/℃、モードホップによる出力変動が大きくなる温度域は40℃、この温度域でのパワー出力変動はモードホップが起こっても1%以内であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11