【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、各実施例において1H−NMRスペクトルは、JEOL社製JNM−GX400で測定し、IRスペクトルは、Perkin−Elmer6100で測定した。分子量は、GPC分析装置(HLC−8121GPC/HT(東ソー(株)製))で測定した。その際、オルトジクロロベンゼンを移動相として測定し、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
【0028】
(実施例1−1)両末端二重結合ポリプロピレン(iPP−TVD)の合成
熱分解装置として試料量最大5kgのラボスケール高度制御熱分解装置を使用した。市販のイソタクチックポリプロピレン(ノバテックPP(日本ポリプロピレン株式会社製)、グレード:EA9A、メルトフローインデックス(MFR):0.5g/10min)2kgを反応器に仕込み、系内を窒素置換後、2mmHgに減圧して、反応器を200℃に加熱して溶融した。その後、390℃に設定されたメタルバスに反応器を沈め、熱分解を行った。熱分解中は、系内を2mmHg程度の減圧状態に保ち、溶融ポリマーを導入されたキャピラリーから排出される窒素ガスのバブリングによって攪拌した。3時間経過後、反応器をメタルバスからあげ、室温まで冷却した後、反応系を常圧にし、反応器内の残渣を熱キシレンにて溶解した後、メタノールに滴下して再沈殿精製した。得られたiPP−TVDは収率98%、数平均分子量(Mn)が23000、分散度(Mw/Mn)が3.5、一分子当たり末端二重結合の平均数(fTVD)が1.7であった。
【0029】
(実施例1−2)
実施例1−1において、熱分解温度を390℃、攪拌時間を5時間に変更して、同様に反応を行った。反応器外へと排出された揮発性生成物を再沈殿精製して得られたiPP−TVDは収率10%、数平均分子量(Mn)が1000、分散度(Mw/Mn)が1.1、一分子当たり末端二重結合の平均数(fTVD)が1.8であった。
【0030】
(実施例1−3)
小型ガラス製装置(フラスコ容量50mL)にて熱分解を行った。粘度平均分子量80000000のiPPを原料として用い、熱分解温度を350℃、攪拌時間を1時間に変更して、同様に反応を行いiPP−TVDを得た。得られたiPP−TVDは収率99%、数平均分子量(Mn)が178000、分散度(Mw/Mn)が2.9であった。
【0031】
(実施例2−1)無水マレイン酸由来アイオノマー(iPP−MA/Na)の合成
実施例1−2で得られた両末端二重結合ポリプロピレン(iPP−TVD)0.5mmolと、無水マレイン酸20mmol、酸化防止剤BHT0.5mmolを混合し、窒素ガス雰囲気下、デカリン5mL中で190℃に24時間加熱還流した。反応終了後、反応液をアセトン中に注下しポリマーを再沈殿精製して、両末端マレイン化ポリプロピレン(iPP−MAc)を得た。iPP−MAcをメタノールに分散させ、水酸化ナトリウムを加え、室温で1時間攪拌することにより開環させ、無水マレイン酸由来アイオノマー(iPP−MA/Na)を得た。さらに、iPP−MA/Naをメタノールに分散させ、HClで中和することにより、中和体(iPP−MAo)を得た。得られたiPP−MAoは収率94%、数平均分子量(Mn)1000、分散度(Mw/Mn)1.1であった。
【0032】
(実施例2−2)
実施例2−1において、iPP−TVD(実施例1−1で製造)を0.13mmol、無水マレイン酸を10.4mmol、BHTを0.13mmol、デカリンを30mLに変更して、同様に反応を行いiPP−MAcを得た。さらに、iPP−MAcを開環して、無水マレイン酸由来アイオノマー(iPP−MA/Na)を得た。その後、iPP−MA/Naを中和して得られたiPP−MAoは収率99%、数平均分子量(Mn)23000、分散度(Mw/Mn)3.5であった。
【0033】
(実施例2−3)
実施例2−1において、iPP−TVD(実施例1−3で製造)を2.81mmol、無水マレイン酸を5.62mmol、BHTを0.17mmolに変更して、同様に反応を行い、iPP−MAcを得た。さらに、iPP−MAcを開環して、無水マレイン酸由来アイオノマー(iPP−MA/Na)を得た。その後、iPP−MA/Naを中和して得られたiPP−MAoは収率99%、数平均分子量(Mn)178000、分散度(Mw/Mn)2.9であった。
【0034】
(実施例3−1)メルカプトこはく酸メチル由来アイオノマー(iPP−MSA/K)の合成
実施例1−2で得られた両末端二重結合ポリプロピレン(iPP−TVD)0.3mmolとAIBN0.6mmol、o−キシレン3mL、及びメルカプトこはく酸メチル(以下、MSA−Meと記す。)30mmolを混合し、窒素ガス雰囲気下、80℃で8時間撹拌した。反応終了後、過剰量のメタノールで再沈殿精製し、沈殿を吸引ろ過により回収し、減圧乾燥して、両末端メルカプトこはく酸メチル化ポリプロピレン(iPP−MSA−Me)を得た。iPP−MSA−MeをTHFに分散させ、KOH水溶液を加えて3時間加熱還流することにより加水分解して、MSA−Me由来アイオノマー(iPP−MSA/K)を得た。さらに、iPP−MSA/Kをメタノールに分散させ、HClで中和することにより、中和体(iPP−MSA)を得た。得られたiPP−MSAは収率91%、数平均分子量(Mn)1000、分散度(Mw/Mn)1.1であった。
【0035】
(実施例3−2)
実施例3−1において、iPP−TVD(実施例1−1で製造)を0.087mmol、MSA−Meを8.7mmol、AIBNを1.74mmol、o−キシレンを20mL、攪拌温度を110℃に変更して、同様に反応を行い、iPP−MSA−Meを得た。さらに、iPP−MSA−Meを加水分解して、iPP−MSA/Kを得た。その後、iPP−MSA/Kを中和して得られたiPP−MSAは収率97%、数平均分子量(Mn)23000、分散度(Mw/Mn)3.5であった。
【0036】
(実施例4−1)チオグリコール酸メチル由来アイオノマー(iPP−TGA/K)の合成
実施例1−2で得られた両末端二重結合ポリプロピレン(iPP−TVD)5mmolとAIBN1mmol、o−キシレン50mL、及びチオグリコール酸メチル(以下、TGA−Meと記す。)15mmolを混合し、窒素ガス雰囲気下、80℃で8時間撹拌した。反応終了後、過剰量のメタノールで再沈殿精製し、沈殿を吸引ろ過により回収し、減圧乾燥して、両末端チオグリコール酸メチル化ポリプロピレン(iPP−TGA−Me)を得た。iPP−TGA−MeをTHFに分散させ、KOH水溶液を加えて3時間加熱還流することにより加水分解して、TGA−Me由来アイオノマー(iPP−TGA/K)を得た。さらに、iPP−TGA/Kをメタノールに分散させ、HClで中和することにより、中和体(iPP−TGA)を得た。得られたiPP−TGAは収率88%、数平均分子量(Mn)が1000、分散度(Mw/Mn)が1.1であった。
【0037】
(実施例4−2)
実施例4−1において、iPP−TVD(実施例1−1で製造)を0.087mmol、TGA−Meを8.7mmol、AIBNを0.87mmol、o−キシレンを20mL、攪拌温度を110℃に変更して、同様に反応を行い、iPP−TGA−Meを得た。さらに、iPP−TGA−Meを加水分解して、iPP−TGA/Kを得た。その後、iPP−TGA/Kを中和して得られたiPP−TGAは収率97%、数平均分子量(Mn)が23000、分散度(Mw/Mn)が3.5であった。
【0038】
図1に、実施例1−1で得られた両末端二重結合を有するポリプロピレン(iPP−TVD)、実施例2−2で得られたマレイン化ポリプロピレン(iPP−MAc)、無水マレイン酸由来アイオノマー(iPP−MA/Na)、中和体(iPP−MAo)のIRスペクトルを示す。iPP−TVDでは、886cm
−1付近に末端ビニリデン基に由来する吸収ピークが出現しているが、iPP−MAcではほとんど消失している。また、iPP−MAcでは、新たに1775cm
−1に環状酸無水物に由来する吸収ピークが出現していることにより、iPP−MAcの合成を確認した。また、iPP−MAoでは、環状酸無水物に由来する1775cm
−1の吸収ピークが消失し、新たに1720cm
−1にカルボン酸C=O結合に由来する吸収ピークが出現していることにより、開環していることを確認した。さらに、iPP−MA/Naでは、カルボン酸C=O結合に由来する1720cm
−1のピークが減少し、新たに1575cm
−1にアイオノマー形成を示すカルボキシラート(COO
−)の面外変角振動に由来する吸収ピークが現れ、iPP−MA/Naの生成が確認された。
【0039】
図2に、実施例1−2で得られた両末端二重結合を有するポリプロピレン(iPP−TVD)、実施例3−1で得られた両末端メルカプトこはく酸メチル化ポリプロピレン(iPP−MSA−Me)、MSA−Me由来アイオノマー(iPP−MSA/K)、中和体(iPP−MSA)のIRスペクトル、
図3に、実施例1−2で得られた両末端二重結合を有するポリプロピレン(iPP−TVD)、実施例4−1で得られた両末端メルカプトこはく酸メチル化ポリプロピレン(iPP−TGA−Me)、TGA−Me由来アイオノマー(iPP−TGA/K)、中和体(iPP−TGA)のIRスペクトルを示す。iPP−MSA−Me及びiPP−TGA−Meでは、1740cm
−1にメチルエステルのC=O結合に由来する吸収ピークが出現していることにより、iPP−MSA−Me及びiPP−TGA−Meの合成を確認した。また、iPP−MSA/K及びiPP−TGA/Kでは、メチルエステルのC=O結合に由来する1740cm
−1の吸収ピークが消失し、新たに1575cm
−1にアイオノマー形成を示すカルボキシラート(COO
−)の面外変角振動に由来する吸収ピークが現れ、iPP−MSA/K及びiPP−TGA/Kの生成が確認された。さらに、iPP−MSA及びiPP−TGAでは、カルボキシラート(COO
−)の面外変角振動に由来する1575cm
−1のピークが消失し、新たに1720cm
−1にカルボン酸C=O結合に由来する吸収ピークが出現していることにより、iPP−MSA及びiPP−TGAの合成を確認した。
【0040】
図4に、実施例1−2で得られたiPP‐TVD、実施例3−1で得られたiPP−MSA−Me、実施例4−1で得られたiPP−TGA−Meの1H−NMRスペクトルを示す。iPP−TVDの4.6及び4.7ppmの末端二重結合に由来するシグナルeは、チオール−エン反応により消失した。そして、iPP−TGA−Meの結合部のメチレンプロトンのシグナルfが2.2〜2.7ppmに出現した。iPP−TGA−Meでは、TGA−Me由来の3.2ppm、3.7ppmのシグナルg、hが出現したことにより、反応の定量的進行が確認された。また、iPP−MSA−Meの結合部のメチレンプロトンのシグナルjが2.2〜2.7ppmに出現した。また、MSA−Me由来の2.7ppm,3ppm及び3.6−3.8ppmのシグナルi,k,l,mが出現したことにより、反応の定量的進行が確認された。
【0041】
図5に、実施例1−2で得られたiPP−TVD、実施例2−1で得られたiPP−TGA、iPP−MSAのTg測定結果を示す。
【0042】
Tg測定において、iPP−TVDよりもiPP−TGAやiPP−MSAの方が重量減少開始温度が上昇した。これはiPP−TVDよりもiPP−TGAやiPP−MSAの方が熱的に安定であることを示している。
【0043】
図6に、実施例1−1で得られたiPP−TVD、実施例2−2で得られたiPP−MAo、iPP−MA/Naの動的粘弾性(DMA)測定結果を示す。
【0044】
iPP−TVDとiPP−MA、iPP−MA/Naの溶融破断温度やDMA曲線に大きな違いがないことから、原料の熱的性質を保ったまま官能基を導入できたことを示している。