特許第6125762号(P6125762)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6125762テレケリックアイオノマー及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6125762
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】テレケリックアイオノマー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/42 20060101AFI20170424BHJP
【FI】
   C08F8/42
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-111011(P2012-111011)
(22)【出願日】2012年5月14日
(65)【公開番号】特開2013-237758(P2013-237758A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】596056896
【氏名又は名称】株式会社三栄興業
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】澤口 孝志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5946081(JP,B2)
【文献】 特開2002−161142(JP,A)
【文献】 特開平09−003124(JP,A)
【文献】 特開2007−031472(JP,A)
【文献】 特開2011−057727(JP,A)
【文献】 特開2010−013566(JP,A)
【文献】 特開平03−091547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00 − 8/50
JSTPlus(JDreamIII)
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンブロックを有するテレケリックアイオノマーであって、
下記一般式(4)
【化1】

(式中、Mは、Li、Na、K、Mg、Ca、Ba、Zn、Cu、Mn、Co及びAlからなる群から選択された少なくとも1種の金属、NH又は有機アンモニウム、yは、Mイオンの価数、Rは、それぞれ、独立に、H、−CH、−C又は−CHCH(CH、nは、20〜45000の整数を示す。)、又は
下記一般式(5)
【化2】

(式中、Mは、Li、Na、K、Mg、Ca、Ba、Zn、Cu、Mn、Co及びAlからなる群から選択された少なくとも1種の金属、NH又は有機アンモニウム、yは、Mイオンの価数、Rは、それぞれ、独立に、H、−CH、−C又は−CHCH(CH、nは、20〜45000の整数を示す。)であることを特徴とする、テレケリックアイオノマー。
【請求項2】
前記ポリオレフィンブロックは、ポリエチレンブロック、ポリプロピレンブロック、ポリ1−ブテンブロック、プロピレン・エチレン共重合体ブロック、プロピレン・1−ブテン共重合体ブロックまたはエチレン・1−ブテン共重合体ブロックであることを特徴とする、請求項1に記載のテレケリックアイオノマー。
【請求項3】
下記一般式(1)(式中、Rは、それぞれ、独立に、H、−CH、−C又は−CHCH(CH、nは、20〜45000の整数を示す。)で表される両末端二重結合を有するポリオレフィンに対して、チオグリコール酸、チオグリコール酸メチル、メルカプトこはく酸及びメルカプトこはく酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸類を反応させる工程と、金属塩、アンモニア及び有機アミンから選択される少なくとも1種でカルボキシル基をイオン化する工程とを含むテレケリックアイオノマーの製造方法。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なテレケリックアイオノマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アイオノマーとは、高分子に金属イオンを導入することで高分子本来の性質を向上させ、新たな機能を付加した材料である。特に、エチレン系アイオノマーは食品包装、スポーツ用品、化粧品容器や太陽電池部材等へと応用されている。
【0003】
従来のエチレン系アイオノマーはエチレンと(メタ)アクリル酸のラジカル重合により得られるエチレン−(メタ)アクリル酸ランダム共重合体を、Na、K、Zn2+等で中和することにより得られる(例えば、特許文献1,2)。しかし、従来のアイオノマーは、耐熱性の点で十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−194806号公報
【特許文献2】特許4778902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規なテレケリックアイオノマー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、高度制御熱分解により得られた両末端に二重結合を有するポリオレフィンとエン反応、又はチオール・エン反応を行った後に、金属イオン等を導入することにより、テレケリックアイオノマーが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、ポリオレフィンブロックを有するテレケリックアイオノマーであって、前記ポリオレフィンブロックの両末端基が、−CH(COOM1/y)CHCOOM1/y又は−CHCOOM1/y(Mは金属、NH、又は有機アンモニウム、yはMイオンの価数を表す。)であることを特徴とする、テレケリックアイオノマーに関する。
【0008】
また、本発明は、前記ポリオレフィンブロックが、ポリエチレンブロック、ポリプロピレンブロック、ポリ1−ブテンブロック、プロピレン・エチレン共重合体ブロック、プロピレン・1−ブテン共重合体ブロックまたはエチレン・1−ブテン共重合体ブロックであることを特徴とするテレケリックアイオノマーに関する。
【0009】
また、本発明は、下記一般式(1)で表される両末端二重結合を有するポリオレフィンに対して、カルボン酸、カルボン酸無水物及びカルボン酸エステルから選択される少なくとも1種のカルボン酸類を反応させる工程と、金属塩、アンモニア及び有機アミンから選択される少なくとも1種でカルボキシル基をイオン化する工程とを含むテレケリックアイオノマーの製造方法に関する。
【化1】
【0010】
また、本発明は、前記カルボン酸類が、無水マレイン酸、チオグリコール酸、チオグリコール酸メチル、メルカプトこはく酸、又はメルカプトこはく酸メチルであることを特徴とするテレケリックアイオノマーの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規なテレケリックアイオノマー及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】iPP−TVD、iPP−MAc、iPP−MA/Na、iPP−MAoのIRスペクトル
図2】iPP−TVD、iPP−MSA−Me、iPP−MSA/K、iPP−MSAのIRスペクトル
図3】iPP−TVD、iPP−TGA−Me、iPP−TGA/K、iPP−TGAのIRスペクトル
図4】iPP−TVD、iPP−MSA−Me、iPP−TGA−MeのNMRスペクトル
図5】iPP−TVD、iPP−TGA、iPP−MSAのTg測定結果
図6】iPP−TVD、iPP−MA/Na、iPP−MAoの動的粘弾性測定結果
【発明を実施するための形態】
【0013】
(テレケリックアイオノマー)
本発明に係るテレケリックアイオノマーは、ポリオレフィンブロックを有している。ポリオレフィンは、好ましくは下記一般式(2)
−(CH−CHR)−
を構成単位とする。各Rは、H、−CH、−C、および−CHCH(CHからなる群から独立に選択される。すなわち、ポリエチレン(RがすべてH)、ポリプロピレン(Rがすべて−CH)、ポリ1−ブテン(Rがすべて−C)、エチレン・プロピレン共重合体(RがH又は−CH)、プロピレン・1−ブテン共重合体(Rが、−CH又は−C)、エチレン・1−ブテン共重合体(RがH又は−C)又はポリ4−メチル−1−ペンテン(Rがすべて−CHCH(CH)であるもの等が含まれる。なお、共重合体に関してはランダム共重合体およびブロック共重合体の両方を含む。好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体又はエチレン・1−ブテン共重合体である。耐熱性の点で、ポリプロピレンがさらに好ましい。一般式(2)で表される構成単位の繰り返し数は、特に制限はないが、通常20〜45000の整数である。テレケリックアイオノマーの数平均分子量としては、特に制限はないが、好ましくは40〜15000、特に80〜5000の範囲である。重量平均分子量としては、特に制限はないが、好ましくは40〜40000、特に80〜25000の範囲である。
【0014】
ポリオレフィンブロックの両末端基は、−CH(COOM1/y)CHCOOM1/y又は−CHCOOM1/yである。Mは金属、NH又は有機アンモニウムを意味し、yはMイオンの価数を表す。金属は好ましくは、Li,Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属、Zn、Cu、Mn、Co、Al等の遷移金属である。これらの金属は、単独でも複数を組み合わせてもよい。より好ましくはNa、Kである。有機アンモニウムは、カルボキシル基を有機アミンで中和することにより形成され、有機アミンは、一つのアミノ基を有する化合物でも、複数のアミノ基を有する化合物でもよい。有機アミンとして、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン、エチレンジアミン、プトレシン、ヘキサメチレンジアミン、フェニレンジアミン等のジアミン、メラミン等のトリアミン等が挙げられる。
【0015】
本発明のテレケリックアイオノマーの具体的な構造としては、下記一般式(3)〜(5)が特に好ましい。
一般式(3):
【化2】
一般式(4):
【化3】
一般式(5):
【化4】

一般式(3)〜(5)において、R、M、yは、それぞれ上記のとおりである。
【0016】
(テレケリックアイオノマーの製造方法)
本発明に係るテレケリックアイオノマーは、下記一般式(1)で表される両末端二重結合を有するポリオレフィンに対して、カルボン酸、カルボン酸無水物及びカルボン酸エステルから選択される少なくとも1種のカルボン酸類を反応させる工程と、金属塩、アンモニア及び有機アミンから選択される少なくとも1種でカルボキシル基をイオン化する工程とを含む製造工程により製造される。
【化5】
【0017】
両末端二重結合を有するポリオレフィンは、本発明者らが開発した制御熱分解(Macromolecules,28,7973(1995)参照。)によるポリオレフィンの熱分解生成物として得られる。
【0018】
ポリプロピレンを例に説明すると、高度制御熱分解法によって得られるポリプロピレンの熱分解生成物は、数平均分子量Mnが1000〜200000程度、分散度Mw/Mnが1.1〜5.0程度、1分子当たりのビニリデン基の平均数が1.5〜1.8程度であり、分解前の原料ポリプロピレンの立体規則性を保持しているという特性を有している。分解前の原料のポリプロピレンの数平均分子量は、好ましくは1万〜9000万の範囲内、さらに好ましくは10万〜100万の範囲内である。
【0019】
熱分解装置としては、Journal of PolymerScience:Polymer Chemistry Edition, 21, 703(1983)に開示された装置を用いることができる。パイレックス(R)ガラス製熱分解装置の反応容器内にポリプロピレンを入れて、減圧下、溶融ポリマー相を窒素ガスで激しくバブリングし、揮発性生成物を抜き出すことにより、2次反応を抑制しながら、所定温度で所定時間、熱分解反応させる。熱分解反応終了後、反応容器中の残存物を熱キシレンに溶解し、熱時濾過後、アルコールで再沈殿させ精製する。再沈物を濾過回収して、真空乾燥することにより両末端二重結合含有ポリプロピレンが得られる。
【0020】
熱分解条件は、分解前のポリプロピレンの分子量と予め実施した実験の結果を勘案して調整する。熱分解温度は300℃〜450℃の範囲が好ましい。300℃より低い温度では、ポリプロピレンの熱分解反応が充分に進行しない恐れがあり、450℃より高い温度では、熱分解生成物の劣化が進行する恐れがある。
【0021】
両末端二重結合を有するポリオレフィンに対して反応させるカルボン酸類としては、特に制限されないが、例えば、無水マレイン酸、チオグリコール酸、チオグリコール酸メチル、メルカプトこはく酸、メルカプトこはく酸メチルが挙げられる。
【0022】
無水マレイン酸の場合には、例えば、両末端二重結合を有するポリオレフィンと無水マレイン酸とのエン反応により、両末端マレイン化ポリオレフィンが得られる。本発明のテレケリックアイオノマーは、両末端マレイン化ポリオレフィンを開環させると共に、両末端のカルボキシル基をイオン化することにより製造可能である。開環は、例えば、両末端マレイン化ポリオレフィンに水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを作用させることにより行うことができ、両末端のカルボキシル基に、ナトリウムイオン又はカリウムイオンを導入できる。この場合、具体的には、上記一般式(3)において、MがNa又はKで表されるアイオノマーが得られる。
【0023】
チオグリコール酸メチル、メルカプトこはく酸メチルの場合には、例えば、両末端二重結合を有するポリオレフィンと、チオグリコール酸メチル、又はメルカプトこはく酸メチルとのチオール・エン反応により、両末端エステル化ポリオレフィンが得られる。本発明のテレケリックアイオノマーは、両末端エステル化ポリオレフィンのエステルを加水分解し、両末端のカルボキシル基をイオン化することにより製造可能である。加水分解は、例えば、両末端エステル化ポリオレフィンに水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを作用させることにより行うことができ、両末端のカルボキシル基に、ナトリウムイオン又はカリウムイオンを導入できる。この場合、具体的には、上記一般式(4)、(5)において、MがNa又はKで表されるアイオノマーが得られる。
【0024】
上記方法によりナトリウムイオン又はカリウムイオンでイオン化されたアイオノマーは、さらに塩酸等で中和することにより、両末端のカルボキシル基がイオン化していない両末端カルボン酸変性ポリオレフィンを製造することができる。本発明のテレケリックアイオノマーは、このような両末端カルボン酸変性ポリオレフィンに金属イオン、アンモニムイオン、又は有機アンモニウムイオンを導入する方法でも製造可能である。金属イオンは、両末端カルボン酸変性ポリオレフィンに、金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩等を加えることにより導入することができる。金属は、Li,Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属、Zn、Cu、Mn、Co、Al等の遷移金属が好ましく、これらの金属は、単独でも複数を組み合わせてもよい。より好ましくはNaである。また、アンモニウムイオンは、両末端カルボン酸変性ポリオレフィンに、アンモニアを加えることにより導入することができる。また、有機アンモニウムイオンは、両末端カルボン酸変性ポリオレフィンに、有機アミンを加えることにより導入することができる。有機アミンは一つのアミノ基を有する化合物でも、複数のアミノ基を有する化合物でもよい。有機アミンとして、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン、エチレンジアミン、プトレシン、ヘキサメチレンジアミン、フェニレンジアミン等のジアミン、メラミン等のトリアミン等が挙げられる。具体的には、上記一般式(3)、(4)、(5)において、Mが金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムで表されるアイオノマーが得られる。
【0025】
また、チオグリコール酸、メルカプトこはく酸の場合には、例えば、両末端二重結合を有するポリオレフィンと、チオグリコール酸、又はメルカプトこはく酸とのチオール・エン反応により、両末端カルボン酸変性ポリオレフィンが得られる。本発明のテレケリックアイオノマーは、このような両末端カルボン酸変性ポリオレフィンに金属イオン、アンモニムイオン、又は有機アンモニウムイオンを導入する方法でも製造可能である。具体的には、上記一般式(4)、(5)において、Mが金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムで表されるアイオノマーが得られる。
【0026】
本発明により得られるテレケリックアイオノマーは、従来公知のポリエチレン系アイオノマーよりも結晶融解温度が高く、耐熱性に優れている。一般的な無水マレイン酸変性ポリオレフィンは分子鎖のランダムな位置に極性基が存在するため、ポリオレフィンの熱特性や機械特性は損なわれている。それに対して、本発明のテレケリックアイオノマーは分子鎖の末端に極性基を有しているため、ポリオレフィンの耐熱性を損なうことなく、ポリオレフィンの接着性、塗装性などを改善できる。さらに結晶ラメラ間の非晶部での極性基の相互作用による擬似架橋はポリオレフィンの耐熱性と機械特性を向上させる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、各実施例において1H−NMRスペクトルは、JEOL社製JNM−GX400で測定し、IRスペクトルは、Perkin−Elmer6100で測定した。分子量は、GPC分析装置(HLC−8121GPC/HT(東ソー(株)製))で測定した。その際、オルトジクロロベンゼンを移動相として測定し、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
【0028】
(実施例1−1)両末端二重結合ポリプロピレン(iPP−TVD)の合成
熱分解装置として試料量最大5kgのラボスケール高度制御熱分解装置を使用した。市販のイソタクチックポリプロピレン(ノバテックPP(日本ポリプロピレン株式会社製)、グレード:EA9A、メルトフローインデックス(MFR):0.5g/10min)2kgを反応器に仕込み、系内を窒素置換後、2mmHgに減圧して、反応器を200℃に加熱して溶融した。その後、390℃に設定されたメタルバスに反応器を沈め、熱分解を行った。熱分解中は、系内を2mmHg程度の減圧状態に保ち、溶融ポリマーを導入されたキャピラリーから排出される窒素ガスのバブリングによって攪拌した。3時間経過後、反応器をメタルバスからあげ、室温まで冷却した後、反応系を常圧にし、反応器内の残渣を熱キシレンにて溶解した後、メタノールに滴下して再沈殿精製した。得られたiPP−TVDは収率98%、数平均分子量(Mn)が23000、分散度(Mw/Mn)が3.5、一分子当たり末端二重結合の平均数(fTVD)が1.7であった。
【0029】
(実施例1−2)
実施例1−1において、熱分解温度を390℃、攪拌時間を5時間に変更して、同様に反応を行った。反応器外へと排出された揮発性生成物を再沈殿精製して得られたiPP−TVDは収率10%、数平均分子量(Mn)が1000、分散度(Mw/Mn)が1.1、一分子当たり末端二重結合の平均数(fTVD)が1.8であった。
【0030】
(実施例1−3)
小型ガラス製装置(フラスコ容量50mL)にて熱分解を行った。粘度平均分子量80000000のiPPを原料として用い、熱分解温度を350℃、攪拌時間を1時間に変更して、同様に反応を行いiPP−TVDを得た。得られたiPP−TVDは収率99%、数平均分子量(Mn)が178000、分散度(Mw/Mn)が2.9であった。
【0031】
(実施例2−1)無水マレイン酸由来アイオノマー(iPP−MA/Na)の合成
実施例1−2で得られた両末端二重結合ポリプロピレン(iPP−TVD)0.5mmolと、無水マレイン酸20mmol、酸化防止剤BHT0.5mmolを混合し、窒素ガス雰囲気下、デカリン5mL中で190℃に24時間加熱還流した。反応終了後、反応液をアセトン中に注下しポリマーを再沈殿精製して、両末端マレイン化ポリプロピレン(iPP−MAc)を得た。iPP−MAcをメタノールに分散させ、水酸化ナトリウムを加え、室温で1時間攪拌することにより開環させ、無水マレイン酸由来アイオノマー(iPP−MA/Na)を得た。さらに、iPP−MA/Naをメタノールに分散させ、HClで中和することにより、中和体(iPP−MAo)を得た。得られたiPP−MAoは収率94%、数平均分子量(Mn)1000、分散度(Mw/Mn)1.1であった。
【0032】
(実施例2−2)
実施例2−1において、iPP−TVD(実施例1−1で製造)を0.13mmol、無水マレイン酸を10.4mmol、BHTを0.13mmol、デカリンを30mLに変更して、同様に反応を行いiPP−MAcを得た。さらに、iPP−MAcを開環して、無水マレイン酸由来アイオノマー(iPP−MA/Na)を得た。その後、iPP−MA/Naを中和して得られたiPP−MAoは収率99%、数平均分子量(Mn)23000、分散度(Mw/Mn)3.5であった。
【0033】
(実施例2−3)
実施例2−1において、iPP−TVD(実施例1−3で製造)を2.81mmol、無水マレイン酸を5.62mmol、BHTを0.17mmolに変更して、同様に反応を行い、iPP−MAcを得た。さらに、iPP−MAcを開環して、無水マレイン酸由来アイオノマー(iPP−MA/Na)を得た。その後、iPP−MA/Naを中和して得られたiPP−MAoは収率99%、数平均分子量(Mn)178000、分散度(Mw/Mn)2.9であった。
【0034】
(実施例3−1)メルカプトこはく酸メチル由来アイオノマー(iPP−MSA/K)の合成
実施例1−2で得られた両末端二重結合ポリプロピレン(iPP−TVD)0.3mmolとAIBN0.6mmol、o−キシレン3mL、及びメルカプトこはく酸メチル(以下、MSA−Meと記す。)30mmolを混合し、窒素ガス雰囲気下、80℃で8時間撹拌した。反応終了後、過剰量のメタノールで再沈殿精製し、沈殿を吸引ろ過により回収し、減圧乾燥して、両末端メルカプトこはく酸メチル化ポリプロピレン(iPP−MSA−Me)を得た。iPP−MSA−MeをTHFに分散させ、KOH水溶液を加えて3時間加熱還流することにより加水分解して、MSA−Me由来アイオノマー(iPP−MSA/K)を得た。さらに、iPP−MSA/Kをメタノールに分散させ、HClで中和することにより、中和体(iPP−MSA)を得た。得られたiPP−MSAは収率91%、数平均分子量(Mn)1000、分散度(Mw/Mn)1.1であった。
【0035】
(実施例3−2)
実施例3−1において、iPP−TVD(実施例1−1で製造)を0.087mmol、MSA−Meを8.7mmol、AIBNを1.74mmol、o−キシレンを20mL、攪拌温度を110℃に変更して、同様に反応を行い、iPP−MSA−Meを得た。さらに、iPP−MSA−Meを加水分解して、iPP−MSA/Kを得た。その後、iPP−MSA/Kを中和して得られたiPP−MSAは収率97%、数平均分子量(Mn)23000、分散度(Mw/Mn)3.5であった。
【0036】
(実施例4−1)チオグリコール酸メチル由来アイオノマー(iPP−TGA/K)の合成
実施例1−2で得られた両末端二重結合ポリプロピレン(iPP−TVD)5mmolとAIBN1mmol、o−キシレン50mL、及びチオグリコール酸メチル(以下、TGA−Meと記す。)15mmolを混合し、窒素ガス雰囲気下、80℃で8時間撹拌した。反応終了後、過剰量のメタノールで再沈殿精製し、沈殿を吸引ろ過により回収し、減圧乾燥して、両末端チオグリコール酸メチル化ポリプロピレン(iPP−TGA−Me)を得た。iPP−TGA−MeをTHFに分散させ、KOH水溶液を加えて3時間加熱還流することにより加水分解して、TGA−Me由来アイオノマー(iPP−TGA/K)を得た。さらに、iPP−TGA/Kをメタノールに分散させ、HClで中和することにより、中和体(iPP−TGA)を得た。得られたiPP−TGAは収率88%、数平均分子量(Mn)が1000、分散度(Mw/Mn)が1.1であった。
【0037】
(実施例4−2)
実施例4−1において、iPP−TVD(実施例1−1で製造)を0.087mmol、TGA−Meを8.7mmol、AIBNを0.87mmol、o−キシレンを20mL、攪拌温度を110℃に変更して、同様に反応を行い、iPP−TGA−Meを得た。さらに、iPP−TGA−Meを加水分解して、iPP−TGA/Kを得た。その後、iPP−TGA/Kを中和して得られたiPP−TGAは収率97%、数平均分子量(Mn)が23000、分散度(Mw/Mn)が3.5であった。
【0038】
図1に、実施例1−1で得られた両末端二重結合を有するポリプロピレン(iPP−TVD)、実施例2−2で得られたマレイン化ポリプロピレン(iPP−MAc)、無水マレイン酸由来アイオノマー(iPP−MA/Na)、中和体(iPP−MAo)のIRスペクトルを示す。iPP−TVDでは、886cm−1付近に末端ビニリデン基に由来する吸収ピークが出現しているが、iPP−MAcではほとんど消失している。また、iPP−MAcでは、新たに1775cm−1に環状酸無水物に由来する吸収ピークが出現していることにより、iPP−MAcの合成を確認した。また、iPP−MAoでは、環状酸無水物に由来する1775cm−1の吸収ピークが消失し、新たに1720cm−1にカルボン酸C=O結合に由来する吸収ピークが出現していることにより、開環していることを確認した。さらに、iPP−MA/Naでは、カルボン酸C=O結合に由来する1720cm−1のピークが減少し、新たに1575cm−1にアイオノマー形成を示すカルボキシラート(COO)の面外変角振動に由来する吸収ピークが現れ、iPP−MA/Naの生成が確認された。
【0039】
図2に、実施例1−2で得られた両末端二重結合を有するポリプロピレン(iPP−TVD)、実施例3−1で得られた両末端メルカプトこはく酸メチル化ポリプロピレン(iPP−MSA−Me)、MSA−Me由来アイオノマー(iPP−MSA/K)、中和体(iPP−MSA)のIRスペクトル、図3に、実施例1−2で得られた両末端二重結合を有するポリプロピレン(iPP−TVD)、実施例4−1で得られた両末端メルカプトこはく酸メチル化ポリプロピレン(iPP−TGA−Me)、TGA−Me由来アイオノマー(iPP−TGA/K)、中和体(iPP−TGA)のIRスペクトルを示す。iPP−MSA−Me及びiPP−TGA−Meでは、1740cm−1にメチルエステルのC=O結合に由来する吸収ピークが出現していることにより、iPP−MSA−Me及びiPP−TGA−Meの合成を確認した。また、iPP−MSA/K及びiPP−TGA/Kでは、メチルエステルのC=O結合に由来する1740cm−1の吸収ピークが消失し、新たに1575cm−1にアイオノマー形成を示すカルボキシラート(COO)の面外変角振動に由来する吸収ピークが現れ、iPP−MSA/K及びiPP−TGA/Kの生成が確認された。さらに、iPP−MSA及びiPP−TGAでは、カルボキシラート(COO)の面外変角振動に由来する1575cm−1のピークが消失し、新たに1720cm−1にカルボン酸C=O結合に由来する吸収ピークが出現していることにより、iPP−MSA及びiPP−TGAの合成を確認した。
【0040】
図4に、実施例1−2で得られたiPP‐TVD、実施例3−1で得られたiPP−MSA−Me、実施例4−1で得られたiPP−TGA−Meの1H−NMRスペクトルを示す。iPP−TVDの4.6及び4.7ppmの末端二重結合に由来するシグナルeは、チオール−エン反応により消失した。そして、iPP−TGA−Meの結合部のメチレンプロトンのシグナルfが2.2〜2.7ppmに出現した。iPP−TGA−Meでは、TGA−Me由来の3.2ppm、3.7ppmのシグナルg、hが出現したことにより、反応の定量的進行が確認された。また、iPP−MSA−Meの結合部のメチレンプロトンのシグナルjが2.2〜2.7ppmに出現した。また、MSA−Me由来の2.7ppm,3ppm及び3.6−3.8ppmのシグナルi,k,l,mが出現したことにより、反応の定量的進行が確認された。
【0041】
図5に、実施例1−2で得られたiPP−TVD、実施例2−1で得られたiPP−TGA、iPP−MSAのTg測定結果を示す。
【0042】
Tg測定において、iPP−TVDよりもiPP−TGAやiPP−MSAの方が重量減少開始温度が上昇した。これはiPP−TVDよりもiPP−TGAやiPP−MSAの方が熱的に安定であることを示している。
【0043】
図6に、実施例1−1で得られたiPP−TVD、実施例2−2で得られたiPP−MAo、iPP−MA/Naの動的粘弾性(DMA)測定結果を示す。
【0044】
iPP−TVDとiPP−MA、iPP−MA/Naの溶融破断温度やDMA曲線に大きな違いがないことから、原料の熱的性質を保ったまま官能基を導入できたことを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6