特許第6125789号(P6125789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6125789粘着剤組成物、粘着シート及び光学用積層シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6125789
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、粘着シート及び光学用積層シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/14 20060101AFI20170424BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20170424BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20170424BHJP
   C09J 7/00 20060101ALI20170424BHJP
   C08F 220/26 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   C09J133/14
   C09J133/04
   C09J11/06
   C09J7/00
   C08F220/26
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-222464(P2012-222464)
(22)【出願日】2012年10月4日
(65)【公開番号】特開2014-74122(P2014-74122A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】安田 直人
(72)【発明者】
【氏名】西田 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏人
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−331697(JP,A)
【文献】 特開2013−129789(JP,A)
【文献】 特開2013−122035(JP,A)
【文献】 特開2013−256559(JP,A)
【文献】 特開2012−246477(JP,A)
【文献】 特表2011−511853(JP,A)
【文献】 特開2013−108049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 133/14
C09J 133/04
C09J 7/00
C09J 11/06
C08F 220/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数12以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)を5質量%以上、
炭素数1以上8以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(B)を5質量%以上70質量%以下、及び、
水酸基を有する単量体に由来の構成単位(C)を14質量%以上30質量%以下含み、
前記構成単位(A)、前記構成単位(B)及び前記構成単位(C)の総含有量が80質量%以上であり、
前記構成単位(A)に対する前記構成単位(C)の含有比率〔構成単位(C)の含有量(質量%)/構成単位(A)の含有量(質量%)〕が0.10以上4.00以下である(メタ)アクリル系ポリマー
を含有する粘着剤組成物。
【請求項2】
前記炭素数12以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−10℃以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記構成単位(A)が炭素数12以上のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来する、請求項1又は請求項2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
更に架橋剤を含有する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の粘着剤組成物が架橋反応して形成された架橋構造を含む粘着剤層を有する粘着シート。
【請求項6】
シート状の光学部材と、
前記光学部材の少なくとも片面に設けられ、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の粘着剤組成物が架橋反応して形成された架橋構造を含む粘着剤層と、
を有する光学用積層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物、粘着シート及び光学用積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル端末のタッチパネルや、画像表示装置の液晶ディスプレイパネル及びプラズマディスプレイパネルにおいては、光学フィルム等のシート状部材の貼り合せにOCA(Optical Clear Adhesive)テープが使用されており、OCAテープを構成する粘着剤組成物には、タッチパネルやディスプレイパネルの機能に対応した特性が要求される。
【0003】
例えば、タッチパネルに適用する粘着剤組成物および粘着剤層には、まず、被接着部材であるITO層の劣化を引き起こしにくいこと(低ITO劣化性)が求められる。
また、タッチパネルが高温高湿の環境に曝された場合、水分が粘着剤層に入り込んで粘着剤層が白化する現象が知られているが、この白化現象が起こりにくいこと(耐湿熱白化性)が求められる。
さらには、タッチパネルが高温環境に曝されて被接着部材である樹脂製フィルムからガスが発生した場合でも、粘着剤層の発泡や膨れが起こりにくいこと(耐ガス浮き性)が求められる。
【0004】
OCAテープ用の粘着剤組成物として、従来、(メタ)アクリル系ポリマーを含む粘着剤組成物が広く用いられている。(メタ)アクリル系ポリマーを含む粘着剤組成物としては、例えば、特許文献1〜4に開示の粘着剤組成物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−504512号公報
【特許文献2】特開2010−163591号公報
【特許文献3】特開2008−308633号公報
【特許文献4】特開2007−161909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の粘着剤組成物および粘着剤層は、低ITO劣化性に優れ、さらに、耐湿熱白化性および耐ガス浮き性に優れるとは言い難い。
【0007】
本発明は、上記状況のもとになされた。
本発明は、高温高湿環境に曝されても白化しにくく且つ高温環境に曝されても発泡や膨れが起こりにくい粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示には、下記の実施形態が含まれる。本開示は、課題を解決するためのより具体的な手段として、下記<3>及び下記<3>を直接に又は間接に引用する下記<4>〜<8>を提供する。
<1> 炭素数12以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)を5質量%以上、炭素数1以上8以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(B)を5質量%以上、及び、水酸基を有する単量体に由来の構成単位(C)を2質量%以上30質量%以下含み、前記構成単位(A)、前記構成単位(B)及び前記構成単位(C)の総含有量が80質量%以上である(メタ)アクリル系ポリマーを含有する粘着剤組成物。
<2> 前記(メタ)アクリル系ポリマーは、前記構成単位(A)に対する前記構成単位(C)の含有比率〔構成単位(C)の含有量(質量%)/構成単位(A)の含有量(質量%)〕が0.05以上4.00以下である、前記<1>に記載の粘着剤組成物。
<3> 炭素数12以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)を5質量%以上、炭素数1以上8以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(B)を5質量%以上70質量%以下、及び、水酸基を有する単量体に由来の構成単位(C)を14質量%以上30質量%以下含み、前記構成単位(A)、前記構成単位(B)及び前記構成単位(C)の総含有量が80質量%以上であり、前記構成単位(A)に対する前記構成単位(C)の含有比率〔構成単位(C)の含有量(質量%)/構成単位(A)の含有量(質量%)〕が0.10以上4.00以下である(メタ)アクリル系ポリマーを含有する粘着剤組成物。
> 前記炭素数12以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−10℃以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
> 前記構成単位(A)が炭素数12以上のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来する、前記<1>〜<>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
> 更に架橋剤を含有する、前記<1>〜<>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
> 前記<1>〜<>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物が架橋反応して形成された架橋構造を含む粘着剤層を有する粘着シート。
> シート状の光学部材と、前記光学部材の少なくとも片面に設けられ、前記<1>〜<>のいずれか1項に記載の粘着剤組成物が架橋反応して形成された架橋構造を含む粘着剤層と、を有する光学用積層シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温高湿環境に曝されても白化しにくく且つ高温環境に曝されても発泡や膨れが起こりにくい粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の粘着シートを備えた両面粘着テープの構成を示す概略断面図である。
図2】実施例で作製した評価用試料の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0012】
本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示すものとする。
【0013】
本明細書中において、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルを意味する。
【0014】
<粘着剤組成物>
本発明の粘着剤組成物は、構成単位(A)を5質量%以上、構成単位(B)を5質量%以上、及び構成単位(C)を2質量%以上30質量%以下含み、構成単位(A)、構成単位(B)及び構成単位(C)の総含有量が80質量%以上である(メタ)アクリル系ポリマー(以下「特定(メタ)アクリル系ポリマー」と称する。)を含有する。ここで、構成単位(A)は、炭素数12以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位であり、構成単位(B)は、炭素数1以上8以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位であり、構成単位(C)は、水酸基を有する単量体に由来する構成単位である。
本発明の粘着剤組成物は、かかる構成により、高温高湿環境に曝されても白化しにくく且つ高温環境に曝されても発泡や膨れが起こりにくい粘着剤層を形成し得る。
また、本発明の粘着剤組成物は、かかる構成により、ITO層に接着する粘着剤層を形成した際に該ITO層の劣化を引き起こしにくい。
【0015】
特定(メタ)アクリル系ポリマーは、ポリマー分子中に、構成単位(A)を5質量%以上、構成単位(B)を5質量%以上、及び構成単位(C)を2質量%以上30質量%以下含み、且つ、これら3種の構成単位をその総含有量が80質量%以上となるように含む。
特定(メタ)アクリル系ポリマーが、かかる割合で構成単位(A)、構成単位(B)及び構成単位(C)を含むことにより、本発明の粘着剤組成物が形成する粘着剤層は疎水性と親水性とのバランスがよく、したがって、粘着剤層への水分の浸入を抑制しつつ、水分が浸入した場合でも浸入した水分を粘着剤層に相溶させ得るので、高温高湿環境に曝されても白化現象が起こりにくい。
【0016】
特定(メタ)アクリル系ポリマー中、構成単位(A)の含有量は5質量%以上である。炭素数12以上という長鎖のアルキル基を有する構成単位(A)を5質量%以上含むことにより、特定(メタ)アクリル系ポリマーは、粘着剤層を適度に疎水化する。構成単位(A)の含有量が5質量%未満であると、粘着剤層が親水性に傾き、水分の浸入を抑制できず、粘着剤層の白化現象が起きやすい。構成単位(A)の含有量は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。
構成単位(A)の含有量の上限としては、65質量%以下が好ましい。65質量%以下であると、接着剤層の疎水性が高くなり過ぎず、水分が浸入した場合でも該水分が粘着剤層に相溶し得、粘着剤層の白化現象が起こりにくい。構成単位(A)の含有量は、より好ましくは60質量%以下であり、更に好ましくは40質量%以下である。
【0017】
特定(メタ)アクリル系ポリマー中、構成単位(B)の含有量は5質量%以上である。構成単位(B)の含有量が5質量%未満であると、その代わりに、比較的炭素数の多いアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル又はその他の(メタ)アクリル酸エステル類を(メタ)アクリル系ポリマーの重合成分とすることになり、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度を適度な範囲に制御することが難しく、粘着剤層の凝集力不足や密着性の低下により、粘着剤層の発泡や膨れが起きやすくなる。構成単位(B)の含有量は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上であり、更に好ましくは50質量%以上である。
構成単位(B)の含有量の上限としては、75質量%以下が好ましい。75質量%以下であると、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が低すぎず、接着剤層の耐ガス浮き性が良好である。構成単位(B)の含有量は、より好ましくは70質量%以下であり、更に好ましくは65質量%以下である。
【0018】
特定(メタ)アクリル系ポリマー中、構成単位(C)の含有量は2質量%以上30質量%以下である。
構成単位(C)の含有量が2質量%未満であると、接着剤層に水分が浸入した場合に該水分が粘着剤層に相溶しにくく、粘着剤層の白化現象が起きやすい。構成単位(C)の含有量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。
他方、構成単位(C)の含有量が30質量%超であると、粘着剤層への水分の浸入を抑制できず、ITO層が被接着部材である場合にITO層を劣化させやすい。構成単位(C)の含有量は、好ましくは25質量%以下である。
【0019】
特定(メタ)アクリル系ポリマー中、構成単位(A)、構成単位(B)及び構成単位(C)の総含有量は80質量%以上である。該総含有量が80質量%未満であると、これら以外のその他の構成単位が20質量%超含まれるのでその影響が大きく、粘着剤層の疎水性と親水性とのバランスがくずれて疎水性又は親水性に傾き、粘着剤層の白化現象やITO層の劣化が起きやすい。さらに、粘着剤の凝集力不足や密着性の低下により、粘着剤層の発泡や膨れも起きやすくなる。
構成単位(A)、構成単位(B)及び構成単位(C)の総含有量は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、更に好ましくは100質量%である。
【0020】
以下に、本発明の粘着剤組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0021】
〔特定(メタ)アクリル系ポリマー〕
特定(メタ)アクリル系ポリマーは、少なくとも、構成単位(A)、構成単位(B)及び構成単位(C)を含むポリマーである。
即ち、特定(メタ)アクリル系ポリマーは、少なくとも、炭素数12以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(「単量体(A)」とも称する。)と、炭素数1以上8以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(「単量体(B)」とも称する。)と、水酸基を有する単量体(「単量体(C)」とも称する。)とを共重合させて得られるポリマーである。
【0022】
[構成単位(A)、単量体(A)]
構成単位(A)は、炭素数12以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(単量体(A))に由来する。単量体(A)は、好ましくは、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0023】
C=C(R)COOR ・・・一般式(1)
一般式(1)において、Rは、直鎖状又は分岐状の炭素数12以上のアルキル基を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
【0024】
一般式(1)中、Rで表されるアルキル基は、特定(メタ)アクリル系ポリマーを適度に疎水化するために炭素数12以上であり、ポリマーの合成の容易さ及びポリマーの取扱いの容易さの点で、炭素数20以下が好ましい。
で表されるアルキル基としては、例えば、ラウリル基、イソラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、イソミリスチル基、ペンタデシル基、パルミチル基、イソパルミチル基、マルガリル基、ステアリル基、イソステアリル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基等が挙げられる。
【0025】
一般式(1)中、Rは、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度を高める点で、水素原子が好ましい。即ち、一般式(1)で表される単量体は、炭素数12以上のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。
【0026】
単量体(A)の具体例としては、例えば、ラウリル(メタ)アクリレート、イソラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
中でも、炭素数12〜20のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましく、炭素数12〜18のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルがより好ましい。
単量体(A)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0027】
単量体(A)は、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−10℃以上であることが好ましい。このような単量体(A)を重合成分とすることで、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が高くなり、その結果、粘着剤層の凝集力が向上し、耐ガス浮き性が向上する。単量体(A)は、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が0℃以上であることがより好ましく、10℃以上であることが更に好ましい。
ここでいう「ホモポリマーとしたときのガラス転移温度」とは、L.E.ニールセン著、小野木重治訳「高分子の力学的性質」(化学同人刊)第11〜35頁に記載されているホモポリマーのガラス転移温度である。
【0028】
ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−10℃以上である単量体(A)としては、炭素数12以上のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル(「単量体(A−1)」と称する。)が挙げられる。
炭素数12以上のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルは、同じアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルに比べて、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が高く、ホモポリマーとしたときのガラス転移温度が−10℃以上である。
したがって、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度を高め、粘着剤層の凝集力を向上させ、耐ガス浮き性を向上させる観点で、構成単位(A)は、その総質量の80質量%以上が、単量体(A−1)に由来の構成単位(「構成単位(A−1)」と称する。)であることが好ましい。即ち、特定(メタ)アクリル系ポリマーの合成に供する単量体(A)の総質量の80質量%以上が、単量体(A−1)であることが好ましい。
構成単位(A)の総質量に占める構成単位(A−1)の総質量は、90質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0029】
[構成単位(B)、単量体(B)]
構成単位(B)は、炭素数1以上8以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(単量体(B))に由来する。単量体(B)は、好ましくは、下記一般式(2)で表される化合物である。
【0030】
C=C(R)COOR ・・・一般式(2)
一般式(2)において、Rは、直鎖状又は分岐状の炭素数1以上8以下のアルキル基を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
【0031】
一般式(2)中、Rで表されるアルキル基は、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度を適度な範囲に制御しやすい点で、炭素数1以上8以下であり、炭素数1以上6以下が好ましく、炭素数2以上6以下がより好ましい。
で表される炭素数1以上8以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基等が挙げられる。
【0032】
一般式(2)中、Rは、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度を適度な範囲に制御する点で、水素原子が好ましい。即ち、一般式(2)で表される単量体は、炭素数1以上8以下のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。
【0033】
単量体(B)の具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、t−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、イソヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。
中でも、炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルがより好ましく、炭素数2〜6のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが更に好ましい。
単量体(B)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0034】
構成単位(B)は、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度を適度な範囲に制御する点で、その総質量の80質量%以上が、炭素数1以上8以下のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(「構成単位(B−1)」と称する。)であることが好ましい。
即ち、特定(メタ)アクリル系ポリマーの合成に供する単量体(B)の総質量の80質量%以上が、炭素数1以上8以下のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル(「単量体(B−1)」と称する。)であることが好ましい。
構成単位(B)の総質量に占める構成単位(B−1)の総質量は、90質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0035】
[構成単位(C)、単量体(C)]
構成単位(C)は、水酸基を有する単量体(単量体(C))に由来する。
単量体(C)の具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート〔「(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル」とも称する。〕;アリルアルコール、メタリルアルコール;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート:などのヒドロキシル基含有単量体が挙げられる。
中でも、炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
単量体(C)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0036】
構成単位(A)に対する構成単位(C)の含有比率〔構成単位(C)の含有量(質量%)/構成単位(A)の含有量(質量%)〕は、0.05〜4.00が好ましい。前記含有比率がこの範囲にあると、粘着剤層の疎水性と親水性とのバランスがよく、高温高湿環境に曝されても粘着剤層の白化現象が起こりにくい。
前記含有比率は、0.10〜3.50がより好ましく、0.40〜2.50が更に好ましく、0.50〜2.00が特に好ましい。
【0037】
[その他の構成単位、その他の単量体]
特定(メタ)アクリル系ポリマーは、構成単位(A)、構成単位(B)及び構成単位(C)以外のその他の構成単位を、ポリマーの総質量に対し20質量%以下の範囲で含んでいてもよい。
即ち、特定(メタ)アクリル系ポリマーは、単量体(A)、単量体(B)及び単量体(C)以外のその他の単量体を、単量体の総質量に対し20質量%以下の範囲で共重合させたポリマーであってよい。
【0038】
その他の単量体は、疎水性の単量体が好ましく、例えば、炭素数9以上11以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられ、具体例としては、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ウンデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0039】
特定(メタ)アクリル系ポリマーは、本発明の効果を損なわない限りにおいて、単量体(C)以外の、その他の親水性の単量体を重合成分として含んでいてもよいが、粘着剤層の低ITO劣化性を確保する観点から、その他の親水性の単量体を含まないことが好ましい。
【0040】
その他の構成単位は、特定(メタ)アクリル系ポリマーの総質量に対し20質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、0質量%(含まれていないこと)が特に好ましい。
【0041】
[特定(メタ)アクリル系ポリマーの特性]
特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、耐ガス浮き性及び凹凸や段差に対する追従性の観点から、30万〜100万が好ましく、40万〜80万がより好ましい。
特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、5〜10が好ましい。
なお、特定(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量測定(ポリスチレン換算)で得られる値である。測定方法の詳細は、実施例に記載のとおりである。
【0042】
特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度は、粘着剤層の凝集力を向上させ、耐ガス浮き性を向上させる観点から、−50℃以上が好ましく、−40℃以上がより好ましく、−35℃以上が更に好ましい。
特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度の上限としては、被接着部材との密着性を向上させ、耐ガス浮き性を向上させる観点から、−10℃以下が好ましく、−20℃以下がより好ましい。
本発明において、特定(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、以下の式により求められるモル平均ガラス転移温度である。
1/Tg=m/Tg+m/Tg+・・・・・・+m/Tg
上記式中のTg、Tg、・・・・・・及びTgは、成分1、成分2、・・・・・・及び成分nそれぞれのホモポリマーのガラス転移温度であり、絶対温度(K)に換算して上記式に代入する。m、m、・・・・・・及びmは、成分1、成分2、・・・・・・及び成分nそれぞれのモル分率である。ここでいう「ホモポリマーのガラス転移温度」には、L.E.ニールセン著、小野木重治訳「高分子の力学的性質」(化学同人刊)第11〜35頁に記載されているホモポリマーのガラス転移温度が適用される。上記式では、Tgが絶対温度(K)の単位で算出されるので、式「摂氏温度=絶対温度−273.15」により摂氏温度(℃)に換算する。
【0043】
特定(メタ)アクリル系ポリマーの溶解性パラメーター(SP値、(J/cm1/2)は、10〜30が好ましく、15〜25がより好ましい。SP値は、例えば、Fedorの推算法により算出する。
【0044】
[特定(メタ)アクリル系ポリマーの合成方法]
特定(メタ)アクリル系ポリマーは、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などの公知の重合方法で合成し得る。工程が比較的簡単で且つ短時間で行える点で、溶液重合が好ましい。
【0045】
溶液重合は、一般に、重合槽内に有機溶媒、単量体、重合開始剤を仕込み、窒素気流中で又は有機溶媒の還流下で、撹拌しながら数時間加熱反応させることにより行われる。
有機溶媒としては、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、エステル類、ケトン類、グリコールエーテル類、アルコール類などを使用してよい。
重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物などを使用してよい。重合開始剤の使用量は、通常は、単量体の合計量100質量部に対して0.01〜2質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。
重合温度としては、一般に30℃〜150℃が好ましく、50℃〜120℃がより好ましい。
【0046】
〔架橋剤〕
本発明の粘着剤組成物は、特定(メタ)アクリル系ポリマーと反応して架橋構造を形成し得る官能基を(好ましくは2個以上、より好ましくは2〜5個)有する架橋剤を含有していてもよい。
【0047】
架橋剤としては、例えば、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、メラミン化合物、金属塩、金属キレート化合物が挙げられる。これらの中でも、イソシアネート化合物が好ましい。架橋剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0048】
イソシアネート化合物は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物が好ましく、例えば、トリレンジイソシアネート、クロルフェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添されたジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物の2量体若しくは3量体;ジイソシアネート化合物を各種の2価以上のアルコール化合物等に付加反応させたイソシアネート化合物若しくはイソシアヌレート化物;などが挙げられる。
【0049】
粘着剤組成物中の架橋剤の含有量は、架橋剤の反応性官能基の種類にもより、特に限定されるものではない。例えば、架橋剤としてイソシアネート化合物を用いる場合、耐ガス浮き性及び凹凸や段差に対する追従性の観点から、特定(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.05〜1質量部が好ましく、0.1〜0.5質量部がより好ましい。
【0050】
〔その他の成分〕
本発明の粘着剤組成物は、さらに、光学用の粘着剤組成物に通常配合される成分、例えば、耐候性安定剤、タッキファイヤー、架橋促進剤、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機充填剤などを含有していてもよい。
【0051】
本発明の粘着剤組成物は、特定(メタ)アクリル系ポリマーを固形分換算で、30〜60質量%含むことが好ましい。
本発明の粘着剤組成物の粘度は、塗布性の観点から、2000mPa・s〜6000mPa・sが好ましい。
【0052】
<粘着シート>
本発明の粘着シートは、粘着剤層を有し、該粘着剤層は、既述の本発明の粘着剤組成物が架橋反応して形成された架橋構造を含む。該粘着剤層は、高温高湿環境に曝されても白化現象が生じにくく、高温環境に曝されても発泡や膨れが起こりにくい。また、該粘着剤層は、ITO層が被接着部材である場合にITO層の劣化を引き起こしにくい。
【0053】
本発明の粘着シートにおいて、粘着剤層の厚さは、例えば20μm〜300μmの範囲で用途に応じて選択される。
従来、20μm〜60μm程度の厚さの粘着剤層は、それ以上の厚さの粘着剤層に比較して、高温高湿環境に曝された場合に白化現象が起こりやすいが、本発明の粘着シートは、粘着剤層が20μm〜60μm程度の厚さであっても、耐湿熱白化性が良好である。
【0054】
粘着剤層のゲル分率は、40〜90質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましく、55〜75質量%が更に好ましい。粘着剤層のゲル分率が40質量%以上であると、接着性と凹凸や段差に対する追従性が良好であり、90質量%以下であると、耐ガス浮き性が良好である。
なお、粘着剤層のゲル分率は、酢酸エチルを抽出溶媒に用いて測定される、溶媒不溶分の割合である。測定方法の詳細は、実施例に記載のとおりである。
【0055】
粘着剤層は、透明であることが好ましく、例えば可視光波長領域における全光線透過率(JIS K 7361)が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
粘着剤層のヘイズ(JIS K 7136)は、1.0%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。
【0056】
本発明の粘着シートは、例えば、架橋剤を含有する本発明の粘着剤組成物を剥離シート等に塗布し、乾燥させ、架橋反応を起こすことによって粘着剤層を形成し作製する。
【0057】
本発明の粘着シートは、剥離シートによって粘着剤層が保護された両面粘着テープとして作製してよい。剥離シートは、粘着シートを実用に供するまでの間、粘着剤層の表面を保護する保護シートとして保持したままでよい。両面粘着テープは、基材を有しないタイプ(無基材タイプ)でも、基材(例えば透明基材)を有するタイプ(有基材タイプ)でもよい。
【0058】
無基材タイプの両面粘着テープは、例えば、剥離シートの剥離処理面に粘着剤組成物を塗布し、この塗布層上に別の剥離シートを剥離処理面が接するように重ね、架橋反応を起こすことによって粘着剤層を形成する方法により作製し得る。
剥離シートとしては、粘着剤層からの剥離が容易に行なえるものであれば特に制限はなく、例えば、剥離処理剤を用いて少なくとも片面に剥離処理が施された樹脂フィルム(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルム)が挙げられる。剥離処理剤としては、フッ素化合物、シリコーン化合物、長鎖アルキル化合物などが挙げられる。
【0059】
有基材タイプの両面粘着テープは、例えば、基材の両面に粘着剤組成物を塗布し、この両塗布層上にそれぞれ剥離シートを剥離処理面が接するように重ね、架橋反応を起こすことによって作製することができる。ほかに、剥離シートの剥離処理面に粘着剤層を形成し、この剥離シート付きの粘着剤層を基材の両面に接着させる方法により作製することができる。
基材としては、樹脂フィルム(例えば、PET等のポリエステルフィルム)が挙げられる。基材の厚さは、特に限定されないが、耐久性の観点から5μm〜100μmが好ましい。
【0060】
剥離シートや基材に粘着剤組成物を塗布する方法としては、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等を用いた公知の方法が挙げられる。
【0061】
本発明の粘着シートの実施形態の一例を図1に示す。
図1は、本発明の粘着シートを備えた両面粘着テープの構成を示す概略断面図である。
図1に示す両面粘着テープ10は、粘着剤層11(粘着シート)を備え、粘着剤層11の一方の面にPETフィルム13(剥離シートの一例)を、他方の面にPETフィルム15(剥離シートの一例)を備える。
PETフィルム13及びPETフィルム15の粘着剤層11に接する側の面には剥離処理が施されて剥離層17が設けられており、粘着剤層11は、剥離層17を介してPETフィルム13及びPETフィルム15と接着している。
両面粘着テープ10は、PETフィルム13及びPETフィルム15を剥離層17で剥離することができ、2枚のPETフィルムを剥がすことで、粘着剤層11からなる粘着シートとなる。
【0062】
本発明の粘着シートは、タッチパネルやディスプレイパネル等における光学フィルムの実装に用いるOCA用粘着剤として好適である。即ち、本発明の粘着シートは、例えば、偏光板、位相差板、反射防止フィルム、視野角拡大フィルム、輝度上昇フィルム、透明導電性フィルム(ITOフィルム等)等の光学フィルムと、電極、液晶セル、ガラス基板、保護フィルム等との貼り合わせに好適に用い得る。また、本発明の粘着シートは、例えば、上記の光学フィルム間の貼り合わせに好適に用い得る。
【0063】
本発明の粘着シートは、下記の光学用積層シートに適用することができる。
【0064】
<光学用積層シート>
本発明の光学用積層シートは、シート状の光学部材と、前記光学部材の少なくとも片面に設けられた粘着剤層とを有し、該粘着剤層は、既述の本発明の粘着剤組成物が架橋反応して形成された架橋構造を含む。該粘着剤層は、高温高湿環境に曝されても白化現象が生じにくく、高温環境に曝されても発泡や膨れが起こりにくい。したがって、本発明の光学用積層シートは、白化現象が生じにくく、発泡や膨れが起こりにくい。
【0065】
本発明の光学用積層シートにおいて、粘着剤層の厚さは、例えば20μm〜300μmの範囲で用途に応じて選択される。
本発明の光学用積層シートにおける粘着剤層のゲル分率、全光線透過率、ヘイズは、既述の粘着シートの粘着剤層におけるゲル分率、全光線透過率、ヘイズと同様の範囲が好ましい。
【0066】
シート状の光学部材としては、例えば、偏光板、位相差板、反射防止フィルム、視野角拡大フィルム、輝度上昇フィルム、透明導電性フィルム(ITOフィルム等)等の光学フィルム;光学フィルム等の保護に用いる保護フィルム;これらを含む積層シート;などが挙げられる。
シート状の光学部材の素材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン樹脂;アクリル樹脂;ポリカーボネート樹脂;酢酸セルロース;などが挙げられる。
シート状の光学部材の厚さは、特に制限されないが、通常20μm〜150μmであり、用途に応じて選択される。
【0067】
本発明の光学用積層シートは、例えば、剥離シート上に形成した粘着剤層をシート状の光学部材の片面又は両面に貼り合わせることで作製される。剥離シートは、光学用積層シートを実用に供するまでの間、粘着剤層の表面を保護する保護シートとして保持したままでもよい。
また、本発明の光学用積層シートは、シート状の光学部材の片面又は両面に直接、粘着剤層を形成することによっても作製される。この場合、粘着剤層の表面に剥離シートを貼り合わせ、光学用積層シートを実用に供するまでの間、保護シートとしてもよい。
【0068】
本発明の光学用積層シートの具体例としては、偏光板、位相差板、反射防止フィルム、視野角拡大フィルム、輝度上昇フィルム、透明導電性フィルム(ITOフィルム等)等の光学フィルムの片面又は両面に粘着剤層を備えた積層体;光学フィルム等の保護に用いる保護フィルムの片面又は両面に粘着剤層を備えた積層体;等が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない
以下において、特に断りがない限り、「部」は質量基準である。
【0070】
<(メタ)アクリル系ポリマーの製造>
〔ポリマー(1)の製造〕
(単量体混合物)
・ラウリルアクリレート 150部
・n−ブチルアクリレ−ト 1050部
・2−ヒドロキシエチルアクリレート 300部
攪拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応装置に、上記単量体混合物300部(単量体混合物の20質量%)と、酢酸エチル350部(重合用有機溶媒)とを入れて加熱し、還流温度で10分間還流を行った。
次いで、還流温度条件下で、上記単量体混合物の残り1200部(単量体混合物の80質量%)と酢酸エチル32部と2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.12部とを、120分間にわたって逐次滴下し、更に30分間重合反応を行った。
その後、酢酸エチル15部とt−ブチルパーオキシピバレート0.13部の混合液を、40分間にわたって逐次滴下し、更に150分間重合反応を行った。
反応終了後、酢酸エチルにて固形分42%に希釈し、ポリマー(1)を含むポリマー溶液(1)を得た。
ポリマー(1)の重量平均分子量(Mw)、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比、及びガラス転移温度(Tg)を表1に示す。
【0071】
〔ポリマー(2)〜(12)の製造〕
組成を表1に示すとおりに変更し、ポリマー(1)の重合反応と同様にして、ポリマー(2)〜(12)を合成した。そして、酢酸エチルにて固形分42質量%に希釈し、ポリマー(2)〜(12)をそれぞれ含むポリマー溶液(2)〜(12)を得た。
ポリマー(2)〜(12)の重量平均分子量(Mw)、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比、及びガラス転移温度(Tg)を表1に示す。
【0072】
〔ポリマー(C1)〜(C10)の製造〕
組成を表2に示すとおりに変更し、ポリマー(1)の重合反応と同様にして、ポリマー(C1)〜(C10)を合成した。そして、酢酸エチルにて固形分42質量%に希釈し、ポリマー(C1)〜(C10)をそれぞれ含むポリマー溶液(C1)〜(C10)を得た。
ポリマー(C1)〜(C10)の重量平均分子量(Mw)、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比、及びガラス転移温度(Tg)を表2に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
(メタ)アクリル系ポリマーの合成に供した単量体の詳細は、下記のとおりである。
・LA:ラウリルアクリレート、アルキル基の炭素数12、ホモポリマーのガラス転移温度15℃
・LM:ラウリルメタクリレート、アルキル基の炭素数12、ホモポリマーのガラス転移温度−65℃
・SA:ステアリルアクリレート、アルキル基の炭素数18、ホモポリマーのガラス転移温度30℃
・BA:n−ブチルアクリレート、アルキル基の炭素数4、ホモポリマーのガラス転移温度−57℃
・2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート、アルキル基の炭素数8、ホモポリマーのガラス転移温度−76℃
・i−OA:イソオクチルアクリレート、アルキル基の炭素数8、ホモポリマーのガラス転移温度−58℃
・MA:メチルアクリレート、アルキル基の炭素数1、ホモポリマーのガラス転移温度5℃
・2−HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート、ホモポリマーのガラス転移温度−15℃
・4−HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート、ホモポリマーのガラス転移温度−32℃
・INAA:イソノニルアクリレート、アルキル基の炭素数9、ホモポリマーのガラス転移温度−58℃
・2−MEA:2−メトキシエチルアクリレート、ホモポリマーのガラス転移温度−50℃
【0076】
(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、下記(1)〜(3)の手順で測定した。
(1)ポリマーの溶液を剥離紙に塗布し、100℃で2分間乾燥させ、フィルム状のポリマーを得る。
(2)フィルム状のポリマーを、テトラヒドロフランに固形分0.2質量%になるように溶解する。
(3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、下記条件にて、分子量測定(ポリスチレン換算)を行う。
[条件]
・GPC :東ソー社製HLC−8220
・カラム :東ソー社製TSK−GEL GMHXL、4本
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
・流速 :0.6ml/min
・カラム温度:40℃
【0077】
<実施例1>
〔粘着剤溶液の調製〕
以下の手順にしたがって、粘着剤溶液(粘着剤組成物)を調製した。
ポリマー溶液(1)100部(固形分換算)と、架橋剤(イソシアネート化合物、三井化学社製タケネートD−110N)0.2部(固形分換算)とを混合し、粘着剤溶液を調製した。
【0078】
〔両面粘着テープ及び試験用シートの作製〕
片面に剥離処理が施されたPETフィルムP(厚さ75μm)の剥離処理面に、粘着剤溶液を、乾燥後の厚さが約50μmとなるように塗布し、100℃で2分間加熱乾燥させて粘着剤層を形成した。
次いで、PETフィルムP上の粘着剤層に、片面に剥離処理が施された軽剥離性のPETフィルムQ(厚さ38μm)をその剥離処理面が接触するように重ね、加圧ニップロールを通して圧着し、貼り合せた。
その後、温度23℃/相対湿度50%の環境下で4日間養生を行い、図1に示すように、粘着剤層の両面にそれぞれ剥離層を介してPETフィルムが設けられた両面粘着テープを得た。この両面粘着テープは、両面のPETフィルムを剥がすことで基材のない粘着剤層(粘着シート)となる。
この両面粘着テープのPETフィルムQを剥離し、露出した粘着剤層に、剥離処理が施されていないPETフィルムR(厚さ100μm)(東洋紡績社製A4100)を重ね、加圧ニップロールを通して圧着し、貼り合せることで試験用シートを得た。
【0079】
<実施例2〜7、参考例8及び実施例9〜12>
実施例1において、ポリマー溶液(1)を表3に示すとおり他のポリマー溶液に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜7、参考例8及び実施例9〜12の粘着剤溶液を調製した。
そして、各実施例又は参考例の粘着剤溶液を用いて、実施例1と同様にして、両面粘着テープ及び試験用シートを作製した。
【0080】
<比較例1〜10>
実施例1において、ポリマー溶液(1)を表4に示すとおり他のポリマー溶液に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜10の粘着剤溶液を調製した。
そして、各比較例の粘着剤溶液を用いて、実施例1と同様にして、両面粘着テープ及び試験用シートを作製した。
【0081】
<評価>
各実施例、参考例及び各比較例の両面粘着テープ及び試験用シートについて、下記の方法により物性の測定及び性能の評価を行なった。その結果を表3及び表4に示す。
【0082】
〔ゲル分率〕
下記(1)〜(3)の操作を行ない、下記式からゲル分率(質量%)を算出した。
ゲル分率(質量%) =[(Z−X)/(Y−X)]×100
ここに、X:金網の質量(g)、Y:抽出用試料の質量(粘着剤及び金網の総質量)(g)、Z:浸漬後、乾燥させた抽出用試料の質量(金網及び粘着剤の不溶分の総質量)(g)。
【0083】
[操作]
(1)精秤した250メッシュの金網(100mm×100mm)に、両面粘着テープの両面のPETフィルムを剥離して粘着剤層約0.5gを添付し、金網で包み、抽出用試料とした。この抽出用試料の質量(粘着剤及び金網の総質量)を精密天秤にて測定した。
(2)抽出溶媒として酢酸エチル80gが入ったガラス瓶の中に、抽出用試料を入れて3日間浸漬した。
(3)浸漬終了後、抽出用試料を取り出して少量の酢酸エチルで洗浄し、120℃で24時間乾燥させた。この乾燥後の抽出用試料の質量(金網及び粘着剤の不溶分の総質量)を精密天秤にて測定した。
【0084】
〔耐湿熱白化性〕
試験用シートを80mm×60mmに切り出し、PETフィルムPを剥離し、露出した粘着剤層を厚さ1.8mmのガラス板(松浪硝子工業社製、光学ソーダガラス)に重ね、卓上ラミネート機を用いて圧着し、試験用試料とした。
この試験用試料のヘイズ(%)を、分光測色計(コニカミノルタ社製CM−3500d)にて、PETフィルムR側から光束を入照して測定した。
次いで、試験用試料を温度85℃/相対湿度90%の環境下に168時間置き、この環境から取り出した直後、同様にしてヘイズ(%)を測定した。
試験環境への投入前後のヘイズ(%)の差(ΔH)を算出し、下記の評価基準にしたがって評価した。
[評価基準]
A:ΔHが1.00未満
B:ΔHが1.00以上2.00未満
C:ΔHが2.00以上
【0085】
〔耐ガス浮き性〕
試験用シートを80mm×90mmに切り出し、PETフィルムPを剥離し、露出した粘着剤層を厚さ2.0mmのポリカーボネート板(三菱ガス化学社製ユーピロンMR58)に重ね、卓上ラミネート機を用いて圧着し、試験用試料とした。
この試験用試料を温度85℃の環境下に24時間置いた後、PETフィルムR側から目視にて観察し、粘着剤層に認められた気泡の個数を数え、下記の評価基準にしたがって評価した。
[評価基準]
A:気泡が0個〜2個
B:気泡が3個〜5個
C:気泡が6個以上
【0086】
〔低ITO劣化性〕
下記(1)〜(5)の手順で、試験用試料を作製した。手順(1)〜(5)を図2を参照して説明する。
[手順]
(1)PETフィルム上にITO層を有するITOフィルム101(尾池工業社製テトライトTCF KB 300N03−125−U3/P。300mm×125mm)を用意し、一方の125mm辺から55mmの幅を空けて該辺に平行にマスキングテープ102(幅65mm)を貼り、同じく他方の125mm辺から55mmの幅を空けて該辺に平行にマスキングテープ102(幅65mm)を貼った(図2(A)参照)。
(2)マスキングしたITOフィルム101に銀ペースト103(藤倉化成社製ドータイトFA−401CA)を薄く塗った(図2(B)参照)。次いで、2枚のマスキングテープ102を剥がし、温度140℃で15分間乾燥させ銀ペースト層104を形成した。
(3)銀ペースト層104を形成したITOフィルム101を、銀ペースト層104の領域において、125mm辺に平行に切り(図2(C)参照)、90mm×125mmの大きさにした。
(4)試験用シートを72mm×100mmに切り出して、PETフィルムPを剥離し、粘着剤層を露出させた光学用積層シート105を用意した。光学用積層シート105を、銀ペースト層104を形成したITOフィルム101に、銀ペースト層104の間(幅65mm)を埋めるように重ね、オートクレーブ処理(0.5MPa/40℃/30分)を施して貼り合わせた(図2(D)参照)。
(5)光学用積層シート105を貼り合わせたITOフィルム101を、幅20mmの短冊状に切り、ITOフィルム101、銀ペースト層104、粘着剤層106、及びPETフィルムR(保護フィルム)がこの順に積層した試験用試料を得た(図2(E)参照)。
【0087】
この試験用試料の抵抗値を、温度23℃/相対湿度50%の環境下で、試験用試料の両端に露出している銀ペースト層に抵抗値測定器の電極を当て測定した。
次いで、試験用試料を温度60℃/相対湿度90%の環境下に250時間置き、この環境から取り出した直後、温度23℃/相対湿度50%の環境下で、同様にして抵抗値を測定した。
試験環境への投入前後の抵抗値の変化率(%)、即ち[(投入後の抵抗値−投入前の抵抗値)/投入前の抵抗値]×100(%)を算出し、下記の評価基準にしたがって評価した。
[評価基準]
A:抵抗値の変化率10%未満
B:抵抗値の変化率10%以上20%未満
C:抵抗値の変化率20%以上
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
表3及び表4から明らかなとおり、実施例1〜7、参考例8及び実施例9〜12は、ITO層の劣化を引き起こしにくい上に、高温高湿環境に曝されても粘着剤層が白化しにくく、且つ、高温環境に曝されても粘着剤層の発泡が起こりにくかった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、タッチパネルやディスプレイパネル等における光学フィルムの実装に用いるOCA用粘着剤として好適である。
【符号の説明】
【0092】
10 両面粘着テープ
11 粘着剤層(粘着シート)
13 PETフィルム(剥離シート)
15 PETフィルム(剥離シート)
17 剥離層
【0093】
101 ITOフィルム
104 銀ペースト層
105 光学用積層シート
106 粘着剤層
R PETフィルム(保護フィルム)
図1
図2