【実施例】
【0030】
図1は、本願発明の実施の形態に係る損傷診断装置の一例を示す概略ブロック図である。
図2は、
図1の損傷診断装置1の動作の一例を示すフロー図である。
図1及び
図2を参照して、
図1の損傷診断装置1の構成及び動作の一例について説明する。
【0031】
図1の損傷診断装置1は、例えば自動車事故により自動車のドアが変形した場合に、その形状を回復するための修理をするための作業を決定し、さらに、修理工場において、その作業を実際に行う予定の時間を決定することにより、修理工場全体としての最適化を実現するとともに、決定した作業時間を作業時間工程として表示して「見える化」することにより、作業者の意識を変えることをも可能とするものである。さらに、
図1の損傷診断装置1によれば、修理依頼者に対して、見積もりソフトのように請求額を知らせるだけでなく、修理に要する予定期間をも併せて知らせることが可能になる。
【0032】
損傷診断装置1は、入力部3と、形状回復作業決定部5(本願請求項の「形状回復作業決定手段」の一例)と、塗装作業決定部7(本願請求項の「塗装作業決定手段」の一例)と、作業実行時間決定部9(本願請求項の「作業実行時間決定手段」の一例)と、作業時間工程決定部11(本願請求項の「作業時間工程決定手段」の一例)と、表示制御部13(本願請求項の「表示制御手段」の一例)と、表示部15(本願請求項の「表示手段」の一例)と、損傷個所情報記憶部17(本願請求項の「損傷個所情報記憶手段」の一例)と、標準作業記憶部19(本願請求項の「標準作業記憶手段」の一例)と、作業記憶部21と、作業実行時間記憶部23と、作業時間工程記憶部25を備える。
【0033】
入力部3は、損傷診断装置1の利用者によって、修理対象において、形状が変化することにより生じた損傷個所を特定する損傷個所情報が入力されるものである(
図2のステップST1)。損傷個所情報は、例えば、利用者が、実際の損傷個所を見て入力してもよい。また、例えば、損傷個所情報として、損傷が生じている範囲について、損傷個所を撮影したデジタル写真のデータにおいて、部品をメッシュ状に分割し、各部分において損傷が生じているか否かを分析して決定したものなどであってもよい。入力部3は、入力された損傷個所情報を、損傷個所情報記憶部17に記憶する。
【0034】
図3は、入力部3により入力された損傷個所情報と、当該損傷個所情報に基づく診断結果の一例を示す図である。
図3は、3つの損傷個所情報が入力された状態を示す。各損傷個所情報には、番号が付与されている。
図3では、損傷個所情報として、部位と、損傷形状と、損傷範囲と、損傷程度と、鈑金部分形状が入力されている。そして、診断結果として、作業工程と、鈑金工程及び塗装工程における時間が表示されている。
【0035】
損傷個所情報の部位は、損傷個所が生じた部位を示す情報である。例えば、一つ又は複数の部品を基準として特定される。損傷個所情報1、2及び3は、それぞれ、右リアドア、リアクォータ及びリアバンパーに生じたものを対象としている。損傷個所情報の損傷形状は、損傷の形状を示す情報である。
図3では、部品の面状の部分にへこみが生じた場合として、「面状」が指定されている。
【0036】
損傷個所情報の損傷範囲は、損傷が生じた範囲を示す情報である。
【0037】
損傷個所情報の損傷程度は、凹みの程度を示す情報である。損傷程度について、形状の変化が生じておらず、塗膜部分のみが損傷している場合には、形状を回復するための鈑金工程は必要なく、塗膜工程から作業すればよい。形状の変化が生じている場合には、へこみの程度が大きければ、例えば、フレーム修正の作業が必要となったり、凹出し等により凹み修正をする作業が必要となったりする。他方、へこみの程度が小さければ、鈑金パテ等で面出しするだけで足りる。
図3では、作業が必要か否かの基準として、5mmのへこみを採用している。なお、5mmの深さは一例であり、他の深さでもよく、また、他の基準を併せて考慮してもよく、他の基準に代えてもよい。
【0038】
損傷個所情報の鈑金部分形状は、鈑金作業が必要となる場合に、復元する形状を示すものである。例えば、単純になめらかな形状の場合に比べて、ラインが形成されているような部分がある場合には、作業内容も作業時間も複雑になる。
【0039】
例えば凹出し等を行った場合、凹んだ部分のみが修正されるわけではなく、凹んでいない部分も、修正作業によって形状の変化が現れる。鈑金パテなどでも同様である。そのため、パテや塗装作業等の作業範囲は、単に、損傷範囲の情報のみによって定まるものではない。従来の指数は、経験者が、これらの作業に要する時間を独立して決定することにより、調整するものであった。
図1の損傷診断装置1の形状回復作業決定部5及び塗装作業決定部7は、損傷範囲から想定される請求可能額を超えないように、損傷個所情報に基づいて具体的な修理作業を想定することにより、修理工場内で実際に行うべき作業内容を決定する。例えば、広範囲にわたる場合には、作業時間が膨大になる可能性が高い。そのため、面出し等の作業に代えて、部品を交換するようにする。さらに、作業実行時間決定部9は、各作業に必要となる作業時間を決定する。作業時間工程決定部11は、各作業を実際に行う時間を決定して、作業時間工程を決定する。
【0040】
図3を参照して、各損傷個所情報について、決定された作業内容及び作業時間の一例について説明する。
【0041】
損傷個所情報1及び2では、損傷程度が5mm以上である。そのため、形状回復作業決定部5及び塗装作業決定部7は、作業工程としては、凹み修正から行うことを決定する。作業実行時間決定部9は、損傷個所情報1について、作業時間として、鈑金工程の凹み修正及び鈑金パテ並びに塗装工程の塗装パテ、サフ、塗装及び磨きに、25、77、74、47、149、37(分)が必要と決定している。作業実行時間決定部9は、損傷個所情報2について、作業時間として、鈑金工程の凹み修正及び鈑金パテ並びに塗装工程の塗装パテ、サフ、塗装及び磨きに、12、38、29、25、59、15(分)が必要と決定している。形状回復作業決定部5及び塗装作業決定部7は、損傷個所情報3について、塗膜のみの損傷であり、鈑金工程は必要なく、塗装工程のサフから必要と診断されている。作業実行時間決定部9は、損傷個所情報3について、塗装工程のサフ、塗装及び磨きに、25、37、9(分)が必要と決定している。
【0042】
塗装工程については、複数個所の作業を割り当てることにより、作業時間を短縮することができる。
図3では、損傷個所情報3は樹脂のものであり、損傷個所情報1及び2の作業とは別となる。そのため、損傷個所情報1及び2と、損傷個所情報3とを別にして、複数個所を行うこととしている。本実施例では、これらの複数個所に関する作業時間の合計時間に対して、一定の割合をかけて、全体の作業時間を計算している。そのため、塗装パテ、サフ及び塗装は、44、31、88となる。塗装合計時間は、損傷個所情報1及び2については、163(分)とであり、損傷個所情報3については71(分)である。工程作業に着手してから、終了するまでのリードタイムは、152(分)と163(分)を合計して315(分)、樹脂に関しては71(分)となる。なお、損傷個所情報1及び2について、塗装時間に磨き時間を加えて計算するようにしてもよい。
【0043】
図1の標準作業記憶部19は、修理工場における標準的な修理作業の工程を記憶する。
図4は、
図1の標準作業記憶部19に記憶された標準的な修理作業の工程の一例を示す。
図4では、大きく、着工分解工程、鈑金工程、塗装工程、完成検査工程に分かれている。各工程は、具体的な個別作業が定まっている。特に、鈑金工程及び塗装工程においては、具体的な個別作業(本願請求項の「個別作業」の一例)の内容及び順番が定まっている。
図1の形状回復作業決定部5及び塗装作業決定部7は、これらの具体的な個別作業について、それぞれ行うか否かを決定し、行う個別作業の順番を決定する。
【0044】
着工分解工程は、着工分解31を含む。鈑金工程は、カット交換33、凹出し作業35、フレーム修正37、内板骨格修正39、内板骨格カット41及び鈑金パテ・面出し43を含む。塗装工程は、塗装パテ45、サフ47、シーリング49、足付け51、ブース使用・マスキング・塗装53、組付け55、組替え57及び磨き59を含む。完成検査工程は、完成検査61を含む。
【0045】
鈑金工程における順番は、以下のとおりである。カット交換33の後に、凹出し作業35があり、さらに、鈑金パテ・面出し43がある。フレーム修正37の後に、内板骨格修正39及び内板骨格カット41があり、さらに、鈑金パテ・面出し43がある。
【0046】
塗装工程における順番は、以下のとおりである。塗装パテ45の後にサフ47があり、足付け51があり、ブース使用・マスキング・塗装53があり、組付け55があり、磨き59がある。シーリング49が行われた場合には、シーリング49は、ブース使用・マスキング・塗装53の前に行われる。組替え57が行われる場合には、組替え57は、磨き59の前に行われる。
【0047】
修理外再使用63の場合には、部品は交換するものの、当該部品の修理は必要である。そのため、同様の処理となる。樹脂部品単体修理65の場合には、塗装パテ45からの処理となる。新品部品交換部位67の場合には、シーリング49を行う。
【0048】
図1の形状回復作業決定部5は、標準作業記憶部19に記憶された標準的な作業を参照して、損傷個所情報記憶部17に記憶された損傷個所情報により特定される損傷個所の損傷の程度に応じて、修理に必要な形状回復作業の内容を決定する。
図1の形状回復作業決定部5は、決定した形状回復作業における個別作業の内容及び順番を、作業記憶部21に記憶する(
図2のステップST2)。塗装作業決定部7は、形状回復作業により影響を受ける範囲を特定して塗装処理が必要となる塗装部位を特定し、塗装部位に対して塗装処理をするための塗装作業を決定する。
図1の塗装作業決定部5は、決定した塗装作業における個別作業の内容及び順番を、作業記憶部21に記憶する(
図2のステップST3)。
【0049】
例えば、塗膜のみの損傷であれば、形状回復作業決定部5は、形状回復作業が必要ないと決定し、塗装作業決定部7は、損傷個所情報の損傷範囲を含むように塗装部位を決定し、この塗装部位に対する塗装作業を決定する。形状回復作業決定部5は、へこみが小さい場合には、凹出し等の作業は必要でなく、鈑金パテ等で必要となる作業を決定する。形状回復作業決定部5は、へこみが大きい場合には、凹出し等の作業から必要であると判断し、さらに、内板等の修正までも必要か否かを判断し、形状回復作業の内容を決定する。そして、塗装作業決定部7は、その形状回復作業で必要となる塗装部位に基づき、行うべき塗装作業を決定する。塗装作業決定部7は、塗装部位を、例えば、修理の対象となる部品をメッシュ状に分割し、各メッシュ部分に対する形状回復作業による影響を判断して、各メッシュ部分で塗装作業が必要となるか否かを判断して決定する。
【0050】
また、形状回復作業決定部5は、損傷範囲が広範囲にわたる場合には、部品の交換を決定する。指数にあるように、依頼者に請求できる額は、作業が必要となる範囲が大きくなるほど高くなる。そのため、形状回復作業決定部5は、例えば、指数に基づき算定される請求可能額と、修理の対象となる部品をメッシュ状に分割し、各メッシュ部分において、各メッシュ部分において形状回復作業及び塗装作業に必要なコストとを比較して、具体的な形状回復作業及び塗装作業に必要なコストが請求可能額を超えない場合には、具体的に決定した形状回復作業及び塗装作業を行うようにし、具体的な形状回復作業及び塗装作業に必要なコストが請求可能額を超える場合には、部品を交換するようにする。
【0051】
続いて、作業実行時間決定部9は、作業記憶部21に記憶された形状回復作業及び塗装作業の個別作業の内容に基づき、各個別作業に必要となる作業実行時間を決定する(
図2のステップST4)。作業実行時間決定部9は、作業実行時間決定部9は、例えば、部品をメッシュ状に分割し、各メッシュ部位において個別作業に必要となる時間を計算して、総和することにより、作業実行時間を計算する。
【0052】
図1の作業時間工程決定部11は、作業記憶部21に記憶された形状回復作業及び塗装作業の個別作業の順番に基づき、作業実行時間決定部9により決定された各個別作業の作業実行時間について、実際に個別作業を行う作業時間を決定する(
図2のステップST5)。
図5は、他の修理が行われていない状態で作業実行時間を割り当てた作業時間工程の一例を示す図である。実際には、複数の作業が並行して行われている。そのため、他の作業が行われていない時間帯を使って、個別作業を割り当てる必要がある。また、
図3について説明したように、例えば塗装作業においては、複数台割によって、リードタイムを短縮できる場合もある。また、
図4の組付けや組替えは、分解担当者が行った方が早い場合もある。そのため、作業時間工程決定部11は、単に、入力された損傷個所に対する修理を割り当てるだけでなく、以前に求められた他の修理対象の損傷個所の修理を行うための作業時間を修正して、入力された修理対象の損傷個所の修理を行うための作業時間を特定する。これにより、修理工場全体として、修理対象の前記損傷個所の修理だけでなく、前記他の修理対象の損傷個所の修理をも含めて、所定の時間内における作業効率を向上させることが可能になる。
図6は、複数台の自動車修理の作業時間工程の一例を示す図である。
図6(a)は、1日目の作業時間工程を示し、
図6(b)は、2日目の作業時間工程を示す。
【0053】
図1の表示制御部13は、ディスプレイ等の表示部15に対して、
図6の作業時間工程を表示させる(
図2のステップST6)。このような作業時間工程の「見える化」は、若年経験者にとっては、作業全体での自分の役割を把握しつつ、本来、自分がこなすべき目標の作業時間を把握することが可能となる。
【0054】
さらに、個別作業について、例えば、
図4の鈑金パテ・面出し43は、鈑金技能者が基本ではあるものの、塗装技能者が有利な場合もあれば、見習い教育で作業させることもある。そのため、鈑金工程として行われることもあれば、塗装工程として行われる場合もあり、また、若年経験者が、経験者の指導のもとでおこなうこともある。また、塗装パテ45、サフ47、シーリング49及び足付け51も、塗装技能者が原則であるものの、若年経験者でも行うことが可能である。第三者にとって、作業自体ではなく、表示された内容から、どのような作業が行われているかを把握することが可能になる。なお、表示部15には、このような作業が可能な者について、色分けして表示するようにしてもよい。
【0055】
また、経験者が行う作業は、他者からブラックボックス化されていた。そのため、経験者は、いわば気ままに作業することも可能であった。例えば、経験者が残業していても、他者は、経験者が何をしているか不明であった。このように、経験者が、自己満足的な作業になることも可能であった。本願発明によれば、作業時間工程を「見える化」することにより、経験者の作業であっても、現実に行っている作業について、全体の作業工程における位置づけが明らかになる。これにより、経験者の作業効率についても、チェック機能を働かせることが可能になる。本願発明にとって、重要なことは、作業時間工程を「見える化」することにより、修理工場で作業している者が、経験者であっても、若年経験者であっても、意識が変わっていくことである。このような効果は、見積もりソフトでは、不可能なものである。
【0056】
さらに、作業時間工程を使えば、修理期間を見積もることも可能である。そのため、損害保険会社のような依頼者にとって、修理期間の見通しを伝えることが可能になる。