特許第6125810号(P6125810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6125810ナノ粒子を含む三成分熱電材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6125810
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】ナノ粒子を含む三成分熱電材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/16 20060101AFI20170424BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   H01L35/16
   H01L35/34
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-255219(P2012-255219)
(22)【出願日】2012年11月21日
(65)【公開番号】特開2013-118372(P2013-118372A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2015年4月7日
(31)【優先権主張番号】13/309,294
(32)【優先日】2011年12月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ポール ロウ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ リ キン
【審査官】 梶尾 誠哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−114419(JP,A)
【文献】 特開2007−214285(JP,A)
【文献】 特開2008−147625(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/099146(WO,A2)
【文献】 特開2009−141128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/16
H01L 35/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(BiSe)2Te3三成分主族半導体材料、及び
ZnOナノ粒子
を含み、前記ナノ粒子が三成分主族半導体材料のマトリックス中に分散している熱電組成物であって、150℃から200℃の温度範囲にかけて電気伝導率が低下し、150℃から200℃の温度範囲にかけてゼーベック係数が一定となる熱電組成物
【請求項2】
前記ZnOナノ粒子が単峰型粒度分布を有する、請求項1記載の熱電組成物。
【請求項3】
前記ZnOナノ粒子が三成分主族半導体材料の総重量に対して40重量%以下の量で熱電組成物中に存在する、請求項1記載の熱電組成物。
【請求項4】
前記ZnOナノ粒子が三成分主族半導体材料の総重量に対して60重量%以上の量で熱電組成物中に存在する、請求項1記載の熱電組成物。
【請求項5】
前記ZnOナノ粒子が0.95〜0.99の球形度を有する、請求項1記載の熱電組成物。
【請求項6】
N型熱電材料の製造方法であって、
金属粉末の形態の金属を1種以上の還元剤と水中で反応させることにより、混合前に少なくとも2種の還元された金属化合物を形成すること、次いで
還元された金属化合物を酸化された化合物の形態の少なくとも1種の金属と混合することを含、前記混合が主族金属の少なくとも3種の異なる金属化合物を混合することを含み、前記混合が水中において式MO(式中、Mは周期表の2族元素又は12族元素である)の材料のナノ粒子の存在下において行う方法。
【請求項7】
水溶液及び有機溶液からなる群より選ばれる少なくとも1種と混合することにより形成される沈殿を洗浄することをさらに含む、請求項記載の方法。
【請求項8】
洗浄した沈殿を乾燥させ、次いで
この洗浄した沈殿をプレス成形し、そして
圧縮した洗浄した沈殿を焼結して、ナノ粒子を含む焼結した三成分N型熱電材料を形成すること、
をさらに含む、請求項記載の方法。
【請求項9】
前記還元された金属化合物が、アルカリ性水性媒体中においてテルル金属とセレン金属の混合物をホウ化水素ナトリウムと反応させることにより形成される、請求項記載の方法。
【請求項10】
酸化された金属化合物がハロゲン化物、アルコキシド、カルボキシレート又はこれらの混合物の少なくとも1種の形態である、請求項記載の方法。
【請求項11】
第1の電気伝導性層と接触している熱源、第1の電気伝導性層と接触している第1及び第2の熱電材料、第1及び第2の熱電材料と接触している第1及び第2の電気接触、及び熱シンクを含む熱電デバイスであって、前記第1の熱電材料が請求項1記載の熱電組成物を含む熱電デバイス。
【請求項12】
請求項1記載の熱電組成物の製造方法であって、
還元された形態のTe及びSe金属化合物を混合して混合物を形成すること、及び
この混合物を400℃及び100MPaにおいて4時間焼結することを含み、前記混合をZnOナノ粒子の存在下において行う方法。
【請求項13】
混合する前に、金属粉末の形態のTe及びSe金属を1種以上の還元剤及び水と反応させることにより還元されたTe及びSe金属化合物を形成することをさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
水溶液及び有機溶液からなる群より選ばれる少なくとも1種と混合することにより形成される沈殿を洗浄することをさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項15】
洗浄した沈殿を乾燥させ、次いで
この洗浄した沈殿をプレス成形し、そして
圧縮した洗浄した沈殿を焼結して、ZnOナノ粒子を含む焼結した三成分N型熱電材料を形成すること、
をさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記還元された金属化合物が、アルカリ性水性媒体中においてテルル金属とセレン金属の混合物をホウ化水素ナトリウムと反応させることにより形成される、請求項12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三成分主族マトリックス材料及びナノ粒子及び/又はナノ内包物を含む熱電材料、及びその熱電材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱勾配から電気エネルギーを得るために熱電材料及びデバイスが用いられる。現在の熱電材料は、下式で規定される熱電変換効率が限られている。
ZT=S2γT/κ
上記式中のZTもしくは性能指数は、ゼーベック係数S、電気伝導率γ及び熱伝導率κを含む材料の巨視的輸送パラメータに関連している。
【0003】
熱電変換効率を向上させるためには、ゼーベック係数および電気伝導率を高め、熱伝導率を低下させればよい。しかしながら、3つのパラメータS、γ及びκが相互に関係しているため、ZTを高めることは困難である。例えば、特定の材料をドーピングすることは電気伝導率を高めるが、ゼーベック係数を低下させ、熱伝導率を高めることになる。従って、従来の材料よりもZTが向上した材料に対する要求が当該分野において存在する。また、ゼーベック係数及び電気伝導率を高めもしくは維持しつつ熱伝導率を低下させることにより熱電変換を高める要求が当該分野において存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱電ナノ粒子及び熱電複合材料用の材料を製造するためにナノ構造材料が用いられる。しかしながら、そのようなナノ構造材料は製造困難でありかつ高価であり、また複合材料を形成するため加工することが困難である。従来の熱電ナノ構造材料及びその製造方法は熱電変換効率の高いものを与えることができない。さらに、従来の熱電ナノ粒子の製造方法はコスト的に有効ではなく、あるいは拡張性がなく、従来の熱電ナノ粒子及び熱電複合材料に伴う技術的問題を解決する、特性の向上した熱電複合材料を形成しない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、本発明は、三成分マトリックス材料及びナノ粒子内包物を含む熱電材料を包含する。ナノ粒子の例は、式MO及び/又はM(式中、Mは2+酸化状態の2族もしくは12族元素である)を有する材料の粒子を含む。マトリックス材料は三成分主族又はカルコゲニド半導体材料であり、好ましくは元素Bi、Se及びTeを含み、好ましくは式BixSeyTez(式中xは1〜3であり、yは0〜3.2であり、zは0〜3.3であり、x、y及びzはBi、Se及びTeの総モル数を基準としたモル比を表す)を有する材料であり、より好ましくはBi2(SeTe)3を有する材料である。他の例において、半導体マトリックス材料はテルル化ビスマスと他の元素(例えば高い導電性を与える元素)との合金、又は適切な熱電効果を有する他の材料であってよい。本発明の例は、変換効率の高い熱電デバイスに用いることのできる、高い性能指数を有する熱電材料を含む。
【0006】
本発明の他の態様は、熱電材料の製造方法を包含する。この方法は、ナノ粒子の存在下において、金属前駆体を1種以上の他の金属前駆体と混合することを含む。この金属前駆体の混合物は、1種以上の還元された金属及び1種以上の酸化された金属を含んでもよい。還元された及び酸化された金属を混合すると、ナノ粒子が分散した主族金属の三成分混合物を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】熱電材料がBi2(SeTe)3であり、ナノ粒子がZnOである、本発明の態様のゼーバック係数及び電気伝導率を示す。
図2】本発明の態様の熱電材料の熱伝導率を示す。
図3】本発明の例に係る、改良された熱電材料を用いる熱電デバイスの形状を示す。
図4】熱電対を示す。
図5A】本発明の態様における熱電材料の形成に含まれる合成段階の流れ図を示す。
図5B】本発明の態様における熱電材料の形成に含まれる合成段階の流れ図を示す。
図6Bi2(SeTe)3マトリックス及びZnOナノ粒子を含む、本発明の熱電材料のSEMを示す。
図7Bi2(SeTe)3マトリックス及びZnOナノ粒子を含む、本発明の熱電材料におけるZnのEDSマッピングを示す。
図8Bi2(SeTe)3マトリックス及びZnOナノ粒子を含む、本発明の熱電材料におけるOのEDSマッピングを示す。
図9Bi2(SeTe)3マトリックス及びZnOナノ粒子を含む、本発明の熱電材料におけるBiのEDSマッピングを示す。
図10Bi2(SeTe)3マトリックス及びZnOナノ粒子を含む、本発明の熱電材料におけるTeのEDSマッピングを示す。
図11Bi2(SeTe)3マトリックス及びZnOナノ粒子を含む、本発明の熱電材料におけるSeのEDSマッピングを示す。
図12】マトリックス材料としてBi2(SeTe)3を含み、このマトリックスにZnOナノ粒子が分散した、本発明の態様のXRDを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで図面を参照し、同じ参照番号は同じ部材を示す。
本発明は、三成分主族マトリックス材料及びナノ粒子及び/又はナノ内在物を含む熱電材料を包含する。ナノ粒子の例は、式MO及び/又はM(式中、Mは2+酸化状態又は金属形態の2族もしくは12族元素である)を有する材料の粒子を含む。マトリックス材料は三成分主族又はカルコゲニド半導体材料であり、好ましくは元素Bi、Se及びTeを含み、好ましくは式Bi2(SeTe)3を有する材料である。半導体マトリックス材料はテルル化ビスマスとセレンのような他の元素(例えば高い導電性を与える元素)との合金、又は適切な熱電効果を有する他の材料であってよい。この熱電材料は、変換効率の高い熱電デバイスに用いることのできる、高い性能指数を有する材料を含む。
【0009】
本発明は、熱電材料の製造方法をさらに包含する。この方法は、ナノ粒子の存在下において、1種以上の金属前駆体を1種以上の他の金属前駆体により還元することを含む。この方法は、入手容易な、所望により水安定な、金属、金属化合物及び反応体により水性媒体中で行われる。
【0010】
用語「塊熱電材料」は、均質な塊形態において検知できる熱電挙動を有する材料を意味する。そのような材料は熱電材料に含めてもよい。特に示さない限り、用語「熱電材料」は本発明の態様に係る熱電材料を意味する。そのような熱電材料は請求の範囲に規定されているものである。
【0011】
用語「セラミック」は、無機非金属材料、典型的には電気絶縁体もしくは半導電体を意味し、アルミニウムと酸素(例えばアルミナ、Al23)、カルシウムと酸素(例えば酸化カルシウム、CaO)のような金属と非金属元素の間で形成された化合物を含む。セラミックはまた、ケイ素と窒素(例えば窒化ケイ素、Si34)、ケイ素と酸素(例えばシリカ、SiO2)、及びケイ素と炭素(例えば炭化ケイ素)の間に形成された化合物を含む。ここで用いるように、用語セラミックはガラスも意味する。用語セラミックは焼成工程により形成された材料に限定されない。セラミックは、シリカ(酸化ケイ素)をベースとするマトリックス材料のような様々な例に用いることができる。しかしながら、他の酸化物、窒化物、オキシ窒化物、炭化物、ケイ化物、ホウ化物等のような他の電気絶縁性もしくは低熱電導性材料も用いることができる。
【0012】
用語「ナノ粒子」は、粒子サイズが1〜200nmである粒子を意味する。「ナノ内在物」は、マトリックス材料全体に分散したナノ粒子である。本発明において、ナノ内在物は、熱電マトリックス全体に分散したセラミックナノ粒子を意味する。
【0013】
「ドーパント」は半導体材料の電気特性を調節するために半導体材料に加えられるもしくは混合される材料である。ドーパントは、半導体構造に負電荷を加えるn型ドーパントおよび半導体構造に正電荷を加えるp型ドーパントを含む。ドーパントは金属、例えばSb、及び金属錯体もしくはメタ前駆体、例えばアンチモン塩及び有機金属アンチモン塩を含む。
【0014】
用語「半導体」は、ドープされた半導体を含む。三成分半導体は、少なくとも3つの主金属を含み、半導体特性を示す塊構造を有する材料である。
【0015】
本発明の熱電材料の三成分半導体マトリックス材料は、必要な操作温度範囲に基づいて選択される。半導体マトリックス材料は、テルル化ビスマスセレンおよびその合金、ビスマス−セレン−テルル化合物(これはビスマス−セレン−テルル合金もしくはテルル化ビスマスセレンとも呼ばれる)、及び他の三成分テルル化物(ときには金属ドープ三成分テルル化物とも呼ばれる)を含む。半導体マトリックス材料は、所望により、半導体性アンチモン化物もしくはテルル化物を少量、例えば半導体マトリックス材料の総重量を基準として50wt%未満の量含む。
【0016】
本発明の一態様において、熱電材料は、他の金属でドープされた三成分半導体マトリックス材料を含む。ドープ金属は好ましくは電気伝導性金属である。ドープ金属は、金属の三成分混合物の3種の金属の1種として存在してもよく、又は半導体マトリックス材料の主要部分を構成する3種の金属に加えて存在してもよい。
【0017】
ナノ粒子を含む熱電材料は、半導体マトリックス材料の塊サンプルの性能指数と比較して、向上した熱電性能指数を与える。その向上は低熱伝導性、高電気伝導性、及び高ゼーベック係数の組み合わせによるものである。
【0018】
熱電材料の性能指数Zは、ゼーベック係数(S)、電気伝導率(σ)、及び熱伝導率(κ)を用いてZ=S2σ/κと規定される。他の無次元性能指数はZTであり、Zは温度によって変化する。典型的な均質塊熱電材料、例えばテルル化ビスマスとアンチモンの合金においては、ZTは1以下である。性能指数はS及び/又はσを高め、及び/又はκを低下させることにより向上する。しかしながら、均質塊熱電材料において、熱伝導率及び電気伝導率はしばしば相関があり、電気伝導率を高めると熱伝導率が低下し、両者を高めると性能指数において相殺する傾向にある。
【0019】
ある種のコアシェル粒子の制限された寸法による量子封じ込めは、本発明の熱電材料の性能指数をさらに高める。従って、本発明に係る熱電材料は、コアシェル粒子をさらに含んでもよい。そのようなコアシェル粒子は、例えばU.S.2008/00087314に記載されている。
【0020】
本発明に係る熱電材料は、コアシェル粒子のような相互に連結する半導体ネットワーク(又は金属のような他の電気伝導体)により、高い電気伝導率(σ)を有していてもよい。所望により、この熱電材料は、量子閉じ込め効果から生ずるフェルミレベル付近の状態密度の増大によるゼーベック係数(S)の高い値を有してもよい。この熱電材料は同時に、例えばマトリックス材料と比較してコア材料の低い熱伝導率のために、マトリックス材料の塊均質サンプルと比較して熱伝導率κの値が低くてもよい。熱伝導率は、ナノ粒子及び/又はナノ内在物、さらに材料中に存在する相もしくは結晶転移のような境界による高いフォノン散乱のためにさらに低下してもよい。従って、ナノ内在物もしくは他の内在物を含むナノ複合熱電材料は、この材料の塊サンプルよりも高い性能指数ZTを有するであろう。
【0021】
従来の熱電材料は、典型的には塊中1未満の無次元性能指数ZTを有しており、そのような材料は本発明の例における材料として用いてよい。
【0022】
図1は、三成分半導体材料がBi2(SeTe)3であり、ナノ粒子がZnOである本発明の態様のゼーベック係数及び電気伝導率を示している。図1に記載の熱電材料は、400℃、100MPaで4時間焼結したものである。図1は、150℃を超える温度においてゼーベック係数が低下し及び/又は水平となることを示している。同時に、電気伝導率は温度上昇に伴い低下する。このように、本発明の熱電材料は150℃を超える温度においてゼーベック係数が突然低下し、温度上昇に伴い電気伝導率が低下する。
【0023】
図2は本発明の熱電材料の熱伝導率を示している。図2に示す三成分半導体材料は式Bi2(SeTe)3を有するものである。この熱電材料中に存在するナノ粒子はZnOである。この熱電材料は沈殿を400℃、100MPaにおいて4時間焼結することにより製造した。図2に示す本発明の熱電材料の熱伝導率は温度の上昇に伴い上昇する。
【0024】
一態様において、熱電材料は、ナノ粒子の周囲に配置された三成分半導体マトリックス材料のナノ構造ネットワークを含む。例えば、三成分半導体マトリックスはビスマス、テルルとセレン、及び/又は塊において約1の無次元性能指数を有する他の材料との合金であってよい。ナノ粒子は好ましくは低い熱伝導率を有し、例えば電気絶縁体又は低電気伝導体であってよい。ナノ粒子は熱電材料又は半導体材料である必要はなく、すなわち第二の材料の塊サンプルは塊サンプルにおいて有効な(もしくは許容できる)熱電効果を示す必要はない。
【0025】
例えば、三成分半導体マトリックスはナノ構造ネットワークであってよい。このナノ構造ネットワークは、例えばナノワイヤを含む相互接続ネットワーク中のナノワイヤを含む。相互接続ネットワークは3次元であってもよい。その例は、セラミックマトリックス内の六方晶もしくは立方体半導体ナノワイヤもしくはナノメッシュ配列を含むナノ構造塊熱電材料を含む。
【0026】
ナノ構造は、粒子、又はナノメートル(もしくはナノスケール)、例えば約0.5〜1000nm、例えば2〜20nmの範囲の形状サイズ(例えばナノワイヤもしくはナノ粒子直径)を有する他の構造をも含む。全ての範囲の所定の限界を含む。本明細書において用いる用語メソスケール、メソポア、メソポーラス等は5nm〜100nmの範囲の形状サイズを有する構造を意味する。ここで用いる用語メソスケールには、特定の空間組織もしくは製造方法は含まれない。従って、メソポーラス材料は、5nm〜100nmの直径を有するポア(これは規則的もしくはランダムに分布したものであってよい)を含み、一方ナノポア材料は0.5〜1000nmの直径を有するポアを含む。
【0027】
ナノ粒子は、式MO(式中、Mは、2族もしくは12族元素(すなわちBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Zn、Cd及び/又はHg)である)を有するものより形成される粒子である。このナノ粒子は好ましくは、均質な特性であり、及び/又は所望により異なる組成の材料の外部層を含む。
【0028】
本発明の好ましい態様において、ナノ粒子は単峰型粒度分布を有している。本発明の他の態様において、ナノ粒子は多様な粒子分布を有している。ナノ粒子は、第一の平均粒度を有する第一のナノ粒子と第二の平均粒度を有する第二のナノ粒子を含んでよい。第一及び第二の粒子の粒度は0.1〜5、0.5〜2.5、1〜1.5で変化してよく、ここでこの範囲の上限は、大きい粒子を得るために小さい粒子の粒子直径を拡大しなければならない倍数を表す。前記範囲の下限は、小さなサイズの粒子の粒度を得るために大きな直径の粒子の粒度に掛ける倍数を表す。
【0029】
半導体マトリックス材料中に分散したナノ粒子は幾何学的に、例えば形状が異なっていてもよい。一態様において、ナノ粒子は、ワデル(Wadell)の式P=(B1/3(6Vp)2/3)/Ap(式中、Vpはナノ粒子の容積であり、Apは粒子の表面積である)に従い測定される球形度を有する球形である。ナノ粒子の球形度は好ましくは0.95〜0.99であり、例えば0.90〜0.99であってもよい。ナノ粒子はまた、長円形、四面体、立方体もしくは他の多角形体のような不規則な形状であってもよい。
【0030】
本発明の他の態様において、ナノ粒子は、物理的もしくは化学的処理により表面処理されている。物理的処理は、例えば平滑化もしくは粗面化処理を含む。平滑化は、研磨粒子の存在下においてキャリア流体中のナノ粒子のスラリーを形成し、処理によってナノ粒子の表面が平滑化されるように行われる。そのような処理は、球形度が大きなナノ粒子を形成するためと同様に用いられる。表面処理は、コロナにより又はプラズマとのナノ粒子の接触により形成されるような、高強度放電によるナノ粒子の処理を含む。
【0031】
ナノ粒子は、三成分材料の総重量に対して(例えば、式BixSeyTezの材料の総重量を基準として)主要量もしくは少量存在してよい。一態様において、ナノ粒子の総量は50wt%以下、好ましくは40wt%以下、好ましくは30wt%以下、好ましくは20wt%以下、好ましくは10wt%以下、好ましくは5wt%以下である。ナノ粒子が主要量存在する本発明の態様において、ナノ粒子は50wt%以上、好ましくは60wt%以上、好ましくは70wt%以上、好ましくは80wt%以上、好ましくは90wt%以上、好ましくは100wt%以上、好ましくは150wt%以上、好ましくは200wt%以上存在する。本発明の他の態様において、三成分半導体材料の総重量とナノ粒子の重量比は、10:1〜1:10、好ましくは9:1〜1:9、好ましくは8:1〜1:8、好ましくは7:1〜1:7、好ましくは6:1〜1:6、好ましくは5:1〜1:5、好ましくは4:1〜1:4、好ましくは3:1〜1:3、好ましくは2:1〜1:2、又は1:1である。
【0032】
本発明の他の態様において、熱電材料及び/又は半導体マトリックス材料は、ナノ粒子に加えて1種以上の充填剤を含んでもよい。充填剤材料の例は、導電性強化及び/又は低下材料、例えば安定な固体材料、金属、セラミック、炭素、ポリマー、又はこれらの組み合わせを含む。充填剤材料はまた、空気もしくはボイド(例えば空気充填半導体マトリックス、中空シェル、もしくは多数のボイドを有するフォーム状の半導体マトリックス)を含む。
【0033】
本発明の態様に係る熱電デバイスの例は、第1の電気接点、第2の電気接点、及び第1の電気接点と第2の電気接点の間の電気通路内に配置された熱電材料を含む。熱電材料は、マトリックス材料中に分散されたナノ粒子を含む。
【0034】
図3は、本発明の例に係る改良された熱電材料を用いる熱電デバイスの形状を示している。
【0035】
このデバイスは、熱源10、第1の電気伝導性層12、第1の熱電材料14、第2の熱電材料16、第1の電気接触18、第2の電気接触20、熱シンク22、及びリード線26を通して熱電デバイスに接続された負荷抵抗24を含んでいる。熱源により熱が加えられると(TH>TC)、図3に示す方向に電流が発生する。従って、この熱電デバイスはゼーベック熱電デバイスであり、ヒートインプットから電気アウトプットを生ずる。
【0036】
この例において、第1の熱電材料はn型半導体を含み、第2の熱電材料はp型半導体を含む。第1の熱電材料及び/又は第2の熱電材料は、MOナノ粒子のようなナノ内在物を含む熱電ナノ複合体を含む。第1の熱電材料がナノ粒子を含む例においては、半導体マトリックス材料はn型半導体を含んでよく、第2の熱電材料がナノ粒子を含む例においては、半導体マトリックス材料はp型半導体を含んでよい。
【0037】
第1の電気接触と第2の電気接触の間に電位を加えてデバイスに熱勾配を発生させるペルチェ加熱もしくは冷却を得るために同様の形状を用いてよい。簡潔にするため、本明細書ではゼーベック効果(熱インプットから得られる電気)を説明するが、一般に性能指数ZTのような同じ考察はペルチェデバイスにも適用される。
【0038】
性能指数の改良は、熱電材料を含む熱電デバイスの特性に影響を与える。典型的な熱電デバイスはいくつかのユニカップル(これは通常1対の熱伝導性p型及びn型半導体である)から構成されている。これらのユニカップルは電気的に直列に、そして熱的に並列に接続されている。理論的に、電気エネルギーへの熱エネルギーの最大変換効率は下式で示される。
【数1】
上式中、Tave=(TH+TC)/2は平均温度であり、Zは、Z=S2σ/κで規定される性能指数である。性能指数Zは材料の巨視的輸送パラメータ、すなわちゼーベック係数(S)、電気伝導率(σ)、及び熱伝導率(κ)に依存している。大きな性能指数は大きなゼーベック係数、高い電気伝導率、及び低い熱伝導率を有する熱電材料により得られる。
【0039】
図4は熱電デバイスを示しており、ここで熱電ユニカップルは、熱源と熱により通じて配置されている第1のセラミック層40、金属層42、44のようなニッケル電気パッドを有する第1及び第2熱電材料46及び48、第1及び第2の電気接触52及び54、及び熱シンクと熱により通じて配置されている第2のセラミック層56を含んでいる。各熱電材料は半導体マトリックス材料を含み、そこには多くのナノ粒子もしくはナノ内在物が存在し、この図で示す伝導性ネットワークを形成する。
【0040】
図4はまた、熱電レッグUTEを通って熱受容器UHから冷受容器UCに熱を伝える熱抵抗を含むユニカップルに相当する熱回路66を示している。UTE=L/σAであり、ここでLはレッグの長さであり、Aは断面積であり、σは熱伝導率である。UH及びUCはセラミックプレートの熱抵抗を含み、熱い側から冷受容器への熱移動の係数を有している。
【0041】
本発明の熱電材料の半導体マトリックス材料は、組成に関して本質的に均一である。ナノ粒子は好ましくは半導体マトリックス材料中に均一に分散している。ナノ粒子は、均一に分散している場合、ナノ粒子及び/又はナノ内在物の外観に関して本質的に均一である熱電材料を形成する。半導体マトリックス材料中のナノ粒子の均一な分散は、エネルギー分散X線分光分析(例えばEDX、EDAX、EDS)により確認できる。同様に、熱電材料中のZnのコントラスト解像により、熱電材料中のナノ粒子の凝集がないもしくは最小であることを確認する(図7−11参照)。
【0042】
本発明の一態様において、熱電材料は、ナノ粒子を半導体マトリックス材料中に分散させることにより、及び/又は半導体マトリックス材料中に混入させることにより製造される。ナノ粒子は好ましくは湿潤化学法を用いて、例えば材料の水性及び/又は有機溶液もしくは懸濁液を用いて半導体マトリックス材料内に分散される。
【0043】
好ましい態様において、熱電材料の合成は、界面活性剤及び/又は分散剤のような有機添加剤及び/又は有機溶媒を実質的に存在させずに水性媒体中においてのみ行われる。
【0044】
本発明の好ましい態様において、1種以上の還元された金属前駆体、例えばテルル化物及び/又はセレン化物のような金属化物を、金属、例えばテルル及び/又はセレンを半導体マトリックス材料の他の成分と混合する前に形成する。テルル化物は、負電荷が金属中心上にあるTe金属の錯体である。セレン化物は、負電荷が金属中心上にあるSe金属の錯体である。テルル化物及びセレン化物は、金属、例えばテルル金属及び/又はセレンを還元剤と反応させて中間体材料、例えばNaTeBH4、NaTeH(すなわち、テルル化水素ナトリウム)、NaSeBH4、及び/又はNaSeHを形成することにより形成してよい。他の態様において、テルル及びセレン金属以外のテルル及び/又はセレン前駆体を還元剤と反応させて金属化物を形成してもよい。他のテルル前駆体は、テルルの酸化物、ハロゲン化物、カルコゲニド、水酸化物、及び/又はアルコキシドを含む。他のセレン前駆体は、セレンの酸化物、ハロゲン化物、カルコゲニド、水酸化物、及び/又はアルコキシドを含む。本発明の好ましい態様において、テルル金属粉末及びセレン金属粉末の両者がアルカリ性水性条件において還元剤と反応され、テルル化物及びセレン化物を含む混合物を形成する。例えば、テルル及びセレン金属の混合物を水(NaOHのような塩基と混合することによりアルカリ性pHに調整)のようなアルカリ性媒体に懸濁する。次いで還元剤をテルル/セレン金属及び/又はテルル/セレン前駆体と混合する。
【0045】
好ましくは、還元剤はテルル金属及び/又はテルル前駆体及び/又はセレン金属及び/又はセレン前駆体に加えられ、テルル化物/セレン化物混合物を形成する。還元剤は好ましくは、ホウ化水素ナトリウムである。本発明の他の態様において、テルル化物/セレン化物は、テルル及びセレン前駆体の混合物を還元剤、例えばヒドラジン、水素ガス、リチウム−アルミニウムヒドリド、ホウ化水素リチウム、水素化ナトリウム等により還元することによって形成される。金属化物混合物を形成するための還元は、好ましくは周囲条件において還元剤と反応しないもしくは還元されない水生分散媒体中で行われる。
【0046】
本発明の他の態様において、テルル化物及びセレン化物は、テルルの混合物を還元剤、例えばヒドラジン、水素ガス、リチウム−アルミニウムヒドリド、ホウ化水素リチウム、水素化ナトリウム等により別々に還元することにより別々に形成される。セレン金属及び/又はセレン前駆体を含む他の混合物はテルル金属の不存在下において還元される。それぞれの金属化物を形成するための還元は、好ましくは周囲条件において還元剤と反応しないもしくは還元されない水性分散媒体中で行われる。金属化物の別々の還元の後、得られたテルル化物及びセレン化物は混合され、混合された金属化物を形成する。
【0047】
金属化物、例えばテルル化物及び/又はセレン化物を、ビスマス及び/又はアンチモン化物の化合物(各々+1以上の酸化状態を有する)の水性分散液もしくは溶液と混合することが特に好ましい。この態様において、テルル化物及び/又はセレン化物はビスマス及び/又はアンチモン材料を還元し、テルル/セレンをベースとするビスマス/アンチモン含有半導体マトリックス材料を形成するように作用する。この還元は、望ましい熱伝導率及び熱電特性を有する半導体マトリックス材料を形成するためにナノ粒子の存在下において行ってよい。
【0048】
本発明の特定の態様において、テルル及びセレン金属粉末の混合物を、好ましくはテルル及びセレン金属粉末のみ(又は他の金属粉末)、水及びアルカリ剤、例えばNaOHを含む反応混合物からなる水性媒体に懸濁する。ホウ化水素ナトリウムのような還元剤を不活性ガス雰囲気において反応混合物と混合する。得られた懸濁液を周囲温度において混合させる。好ましくは、テルル/セレン金属懸濁液を還元剤と混合する前に冷却する。テルル/セレン金属粉末混合物への還元剤の混合は発熱反応を起こし、沈殿を形成し、水素ガスを発生する。
【0049】
本発明の最も好ましい態様において、熱電マトリックス材料は1種以上の高酸化状態前駆体を還元して1種以上の三成分半導体マトリックス材料の元素を形成することにより形成される。さらに好ましくは、この還元は半導体マトリックス材料の各成分が還元の間に存在するように行われる。最も好ましくは、半導体マトリックス材料の各成分は還元の間、さらにはナノ粒子が存在する間存在する。この態様において、+1以上の酸化状態を有する金属錯体の還元は1段階で、例えば金属化物をすべての金属錯体と1つの反応器内で混合することにより行われる。
【0050】
金属化物の形成とは別に、1種、2種もしくは複数の三成分半導体材料の他の成分の前駆体(例えば、+1以上の酸化状態を有する金属の錯体)を含む前駆体混合物を混合し、アルカリ性水性媒体中の懸濁液もしくは溶液を形成し、それにより第2の、もしくは第3の前駆体混合物を形成する。この前駆体混合物は好ましくは三成分半導体マトリックスの他の成分のすべての前駆体を含み、望ましくは脱気され、不活性ガス雰囲気に維持される。好ましい前駆体は、アルコキシド及びカルボキシレート化合物、例えばクエン酸ビスマス及び所望により酒石酸アンチモンカリウムを含む。この前駆体は半導体マトリックス材料の望ましい組成に対応するモル比で用いてよい。好ましくは、この前駆体混合物はナノ粒子を含み、さらに好ましくは熱電材料のナノ粒子のすべての量が前駆体混合物中に存在する。
【0051】
前駆体混合物と還元された金属混合物(金属化物、例えばテルル化物及びセレン化物の混合物)を混合すると、前駆体、例えばクエン酸ビスマス前駆体化合物のような金属錯体を還元する。この還元はテルル化物及び/又はセレン化物、及び所望により還元された金属化物に存在する残留量の還元剤とビスマス前駆体との反応により行われる。副反応生成物は塩及び可溶性有機化合物、例えばクエン酸及び酒石酸を含む。還元された金属混合物と前駆体混合物との反応は、ナノ粒子の存在下において行われる。得られる反応混合物は周囲温度及び/又は約50℃までの高温において反応される。
【0052】
前駆体混合物を還元された金属前駆体と混合する前に、還元された金属前駆体は望ましくはろ過され、デカントされ、及び/又は洗浄されて、あらゆる沈殿、及び/又は未反応テルル及び/又はセレン金属を分離する。
【0053】
第1及び第2の前駆体混合物の還元反応により形成した半導体マトリックス材料は、還元された金属による前駆体の還元の際に固体材料として沈殿する。クエン酸、酒石酸及び塩のような副反応生成物は、得られた沈殿を水又はアルカリ性洗浄剤、例えば極性有機材料を含む水性組成物及び塩基、例えば水酸化アンモニウムによりデカント及び洗浄することによって反応混合物から除去される。半導体マトリックス材料は所望により、沈降及び/又は遠心によって上清液体からさらに分離される。洗浄し、集め、さらに所望により乾燥した沈殿をさらに精製するため、例えば水性アルコール及び/又は水性アルカリ性溶液による抽出工程を行う。好ましくは、この抽出及び洗浄は少なくとも一部、不活性雰囲気においてソックスレー抽出装置で行う。
【0054】
本発明の好ましい態様において、第1の還元された金属、前駆体混合物及び/又はこれより生ずるあらゆる反応混合物には懸濁剤もしくは分散剤は存在しない。
【0055】
洗浄され、抽出された半導体材料はその後、例えば乾燥窒素もしくは不活性ガス流のもとで、さらに好ましくは超音波作用により乾燥される。望ましい粒度を得るために、得られた流動性粉末の所望の篩い分け工程を行ってもよい。好ましくは、篩い分けは50ミクロン、好ましくは35ミクロンのふるいを通過する流動性粉末を得るために行う。
【0056】
得られた篩い分けられた材料は、酸素の不存在下において、500℃以下、好ましくは450℃以下、400℃以下、350℃以下、もしくは300℃以下の温度で焼結する。この焼結は半導体マトリックス材料に化学的及び/又は物理的変化をもたらし、構造がアニールされ及び/又は結晶構造配向もしくは再配向が起こる。
【0057】
得られた焼結した材料は金属物品の外観を有し、表面酸化されても安定である。1,000〜200,000S/mの電気伝導率を有する、輝く、脆い金属様材料が得られる。
【0058】
図5A及び5Bは本発明の熱電材料の製造方法の流れ図を示す。本発明の方法を、本発明の一態様における熱電材料の形成に含まれる合成工程の流れ図を示す図5Aを参照して説明する。図5Aにおいて、還元も酸化もされていない元素金属をM#0とする。還元され及び酸化された金属をそれぞれM#-及びM#+とする。還元され及び酸化された金属は、それぞれ−1、−2、−3、−4、及び+1、+2、+3、+4の酸化状態を有する。
【0059】
図5A及び5Bのフローチャートは、ナノ粒子を含む三成分カルコゲニド半導体マトリックス材料をベースとする熱電材料の合成を示している。三成分半導体マトリックス材料は少なくとも3種の元素、すなわちM1、M2及びM3を含むとされている。本発明の好ましい態様において、金属M1、M2及びM3の各々は周期表の13、14、15及び/又は16族の主族金属である。本発明の特に好ましい態様において、金属M1、M2及びM3は、それぞれテルル、セレン及びビスマスである。本発明の他の態様において、本発明の熱電材料の製造に用いられる工程は、図5及び6における流れ図に示す工程のいずれかにおける金属M1、M2及びM3と共に、アルカリ土類金属及び遷移金属のような追加金属を含む。
【0060】
一態様において、第1の金属M1と第2の金属M2の混合物が還元され、還元された金属組成物を形成する。本発明の一態様において、金属M1及びM2は水をベースとする分散媒体に懸濁される。この水をベースとする分散媒体は、好ましくは水及びアルカリ剤、例えばNaOHのみを含み、有機溶媒、界面活性剤及び/又は分散剤を含まないアルカリ性水性マトリックスである。金属M10及びM10は少量の対応する酸化されたカウンターパートを含んでもよい。例えば、金属M1及び/又はM2は金属粉末、すなわち金属の粒子(これは表面酸化の層を有していてもよい)の形態で用いてよい。そのような金属粉末はM#0と記載される。それは、これが主にその元素及び未酸化及び/又は未還元形態の金属からなるからである。例えば、金属元素の主要部は酸化状態が0である生来の金属状態にある。好ましくは、水をベースとするアルカリ性分散媒体に懸濁された際に、金属M#の少なくとも80モル%、90モル%、もしくは95モル%はその金属未酸化及び/又は未還元状態にある。アルカリ性分散媒体中の金属M10及びM20の分散は、好ましくは金属M10及びM20の間、及び/又は金属と水もしくはアルカリ剤との間に反応を起こさない。好ましくは、この分散は、還元及び/又は分散の間に酸素が存在しないような、不活性雰囲気下において行われる。
【0061】
その後の工程において、還元剤がM10/M20水性分散液と混合される。還元剤は、M10及び/又はM20の金属のすべてを負電荷、すなわちM1-及び/又はM2-に還元するに十分な量で混合される。本発明において、還元された金属M#はHM#X(XはNa+のような対イオンである)のような錯体の形態で存在してもよい金属である。金属粉末を還元剤と混合することにより形成される生成物は、図5A及び5BにおいてM1-及び/又はM2-と示される還元された金属粉末である。こうして形成された還元された金属組成物は、好ましくは上澄液をデカントし、還元工程の間に形成された沈殿から還元された金属M1-及び/又はM2-を分離することにより沈殿から単離される。上記のように、M#0金属の還元は、好ましくはアルカリ性分散媒体中で行われる。
【0062】
還元された金属及び/又は金属M#-は所望によりナノ粒子と混合される。このナノ粒子は、金属M#-が完全に還元された形態となり、沈殿からろ過された後に1種以上の還元された金属M#-と混合される。又は、還元剤をM#0金属の分散液に加える前もしくは加えると同時に、M#0の分散液にナノ粒子が存在してもよい。好ましくは、このナノ粒子は還元された金属と、還元された金属及び還元剤がナノ粒子を還元しない条件において混合される。このナノ粒子は本明細書に記載のいずれのナノ粒子材料であってよい。本発明の一態様において、ナノ粒子は、アルカリ性もしくはわずかにアルカリ性の水性分散液の形態でM#-分散液に加えられる。
【0063】
熱電材料の製造方法のさらなる工程において、還元された金属M#-及び所望によりナノ粒子を含む分散液が、三成分半導体マトリックス材料を形成する金属を含む1種以上の他の金属もしくは化合物の分散液(好ましくはナノ粒子を含む)と混合される。還元されたM#-分散液は金属M3に独立に加えてもよい。好ましい態様において、M1-及びM2-を含む還元された金属が金属M3の水性分散液を含む混合物に加えられる(M3金属は+1以上の酸化状態を有する1種以上の化合物として存在する)。図5A及び5Bに示す本発明の好ましい態様において、金属M3は酸化された形態、すなわちM3+にある。還元された金属分散液M#-は、好ましくはM3を含む1つの水性分散液に加えられる。好ましくは、金属M3の金属すべては酸化された状態で存在する。M#+で示される酸化された状態において、コア金属は+1、+2、+3、又は+4の酸化状態にあるか、又は前記酸化状態の混合物の状態にある。還元された金属混合物M#-は、所望の三成分半導体マトリックス材料の化学量論に相当するモル量でM3の水性分散液に加えられる。例えば、所望の半導体マトリックス材料が式(M23)2(M1)3を有するものである場合、3モル当量のM1-及び2モル当量のM2-が2モル当量の金属M3と独立にもしくは同時に混合される。
【0064】
金属M3は好ましくはM#-のリガンドと比較して同じであるかもしくは異なるリガンド(L)の錯体である。このリガンドは金属M1、M2及び/又はM3のいずれかと共有もしくはイオン結合してよい。本発明の他の態様において、リガンドLは共有もしくはイオン結合し、さらにルイス酸/塩基錯体のようにM1、M2及び/又はM3の金属中心に配位している。
【0065】
好ましくは、M3金属を含む前駆体組成物の1つもしくはすべてがナノ粒子を含む。本発明の他の態様において、ナノ粒子は金属化物混合物及び/又は金属化物の1種と、LM3金属錯体との反応前に混合される。
【0066】
ナノ粒子の存在下における酸化された金属M3と還元された金属混合物M#-との混合は、ナノ粒子が分散した沈殿した三成分半導体マトリックスを形成する。この形態において、三成分半導体マトリックスは、アルカリ性である水性媒体に懸濁され、還元された金属M1及び/又はM2による金属M3の還元の副生成物を含む。この副生成物は、例えば遠心により沈殿を溶液から沈降させ、上澄液をデカンタすることにより除去される。こうして形成された沈殿は、さらに水、アルカリ性媒体、及び/又は極性有機溶媒により洗浄される。こうして形成された熱電材料の洗浄及び単離は、金属M1、M2及び/又はM3の再酸化を避けるために不活性雰囲気で行われる。
【0067】
この還元により形成した沈殿は通常、粉形態である。しかしながらこの粉末は粒度が均一ではないかもしれない。この沈殿は、たとえば周囲温度において不活性ガス流に、真空下においてさらす、及び/又は加熱することにより乾燥される。次いで、乾燥された沈殿は好ましくは篩い分けされ、大きな及び/又は凝集した沈殿は、細かい粉末から分離される。こうして篩い分けされた沈殿は、圧縮成形され、高温において焼結され、熱電材料を形成する。
【0068】
金属M1及び/又はM2を還元し、金属M3を水性媒体に懸濁し、酸化された金属M3を還元された金属混合物M#-により還元する工程は、好ましくは有機溶媒及び/又は界面活性剤の実質的に不存在下において水性アルカリ性媒体中で行われる。これらの工程は同様に好ましくは、還元された金属M1、M2及び/又はM3が周囲酸素により酸化されないように不活性雰囲気において行われる。
【実施例】
【0069】
例1
酸素を含まないフラスコに5.611gの200メッシュテルル粉末、0.184gの100メッシュセレン粉末及び103mLの水を加えた。この混合物を不活性ガスで脱気し、氷水槽中で冷却した。6.360gのホウ化水素ナトリウムを少しずつ加えた。危険な熱の発生及び水素ガスの発火を防ぐために、ホウ化水素ナトリウムは一度に加えなかった。
【0070】
反応体をゆっくり室温にもどし、室温において不活性ガス下で激しく撹拌しながら少なくとも10時間反応させた。
【0071】
260mLの水及び150mLの28%NH4OH/H2Oをフラスコに加えた。12.290gのクエン酸ビスマスをこの水/アンモニア反応溶液に溶解させた。反応フラスコを不活性ガスで脱気し、撹拌した。
【0072】
酸化亜鉛ナノ粒子の4g/120mL水性分散液68mLを反応フラスコに加えた。添加前、添加の間、及び添加後、反応フラスコを撹拌し、不活性ガス下に保った。
【0073】
NaTeH/NaSeHが空気中で酸化することを避けるために、不活性ガス下でNaTeH/NaSeH溶液をろ過した。ろ過したNaTeH/NaSeH溶液を撹拌反応体に滴下した。NaTeH/NaSeH溶液の添加の間、反応体の撹拌を続け、その後10分間続けた。
【0074】
次いで粗Bi2(SeTe)3+ZnO複合ナノ粒子反応生成物を遠心により集めた。Bi2(SeTe)3+ZnO複合ナノ粒子の酸化を最小にするため、生成物をできるだけ不活性雰囲気下に保った。
【0075】
集めた粗生成物を、水/28%水酸化アンモニウム水/メタノール(35/0.8/165容積比)の溶液で洗浄した。反応副生成物が除去されるまで生成物をこの溶液で洗浄した。
【0076】
次いで、洗浄した複合ナノ粒子を、最小量のメタノールを用いて集め、乾燥させるためにフラスコに移した。吸入の危険性及び酸化を避けるため、乾燥した粉末はグローブボックス中において取り扱い、保存した。
【0077】
最終精製工程として、粉末をホットプレスする前に、乾燥粉末を昇華条件にする。
【0078】
粉末を400℃において2時間焼成した。次いで、微粉末に粉砕し、100MPa、400℃において4時間ホットプレスした。焼結工程はアルゴン環境において行った。
【0079】
図6は、本発明の熱電材料の走査電子顕微鏡像を示す。図7−11は、ZnOナノ粒子を含む式Bi2(SeTe)3の本発明の熱電材料のSEM−EDS(走査電子顕微鏡エネルギー分散X線分光分析)プロフィールである。このSEM−EDSプロフィールは、マトリックス材料の原子(すなわちBi、Se及びTe)及びナノ粒子の原子(すなわちZn及びO)が熱電材料中に均一に分散していることを示している。
【0080】
上記教示に基づき、本発明の多くの変形及び改良が可能である。従って、請求の範囲内において本発明は実施されることが理解されるであろう。発明の実施態様の一部を以下の項目[1]−[13]に記載する。
[1]
三成分主族半導体材料、及び
式MO(式中、Mは2族元素及び12族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である)の金属酸化物のナノ粒子
を含み、前記ナノ粒子が三成分主族半導体材料のマトリックス中に分散している熱電組成物。
[2]
前記半導体材料がBi、Te及びSeを含む、項目1記載の熱電組成物。
[3]
前記半導体材料がBi2(SeTe)3を含む、項目1記載の熱電組成物。
[4]
前記半導体材料が、この半導体材料の総重量を基準として少なくとも50wt%の量のBi2(SeTe)3を含む、項目1記載の熱電組成物。
[5]
前記半導体材料がBi2(SeTe)3を含み、前記ナノ粒子がZnOナノ粒子を含む、項目1記載の熱電組成物。
[6]
前記半導体材料が、この半導体材料の総重量を基準として少なくとも50wt%の量のBi2(SeTe)3を含み、前記ナノ粒子の総重量を基準として少なくとも50wt%がZnOの粒子である、項目1記載の熱電組成物。
[7]
還元された化合物の形態の少なくとも1種の金属を酸化された化合物の形態の少なくとも1種の金属と混合することを含む、N型熱電材料の製造方法であって、前記混合が主族金属の少なくとも3種の異なる金属化合物を混合することを含み、前記混合が水中において式MO(式中、Mは周期表の2族元素又は12族元素である)の材料のナノ粒子の存在下において行う方法。
[8]
金属粉末の形態の金属を1種以上の還元剤と水中で反応させることにより、混合前に少なくとも2種の還元された金属化合物を形成することをさらに含む、項目7記載の方法。
[9]
水溶液及び有機溶液からなる群より選ばれる少なくとも1種と混合することにより形成される沈殿を洗浄することをさらに含む、項目7記載の方法。
[10]
洗浄した沈殿を乾燥させ、次いで
この洗浄した沈殿をプレス成形し、そして
圧縮した洗浄した沈殿を焼結して、ナノ粒子を含む焼結した三成分N型熱電材料を形成すること、
をさらに含む、項目9記載の方法。
[11]
前記還元された金属化合物が、アルカリ性水性媒体中においてテルル金属とセレンの混合物をホウ化水素ナトリウムと反応させることにより形成される、項目7記載の方法。
[12]
酸化された金属化合物を含む水性組成物を2種の還元された金属の混合物と混合することを含む、項目7記載の方法。
[13]
酸化された金属化合物がハロゲン化物、アルコキシド、カルボキシレート又はこれらの混合物の少なくとも1種の形態である、項目12記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12