(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示に用いられるバラ科カリンは、その種類や産地は特に限定されない。日本においてカリンと称される植物にはいくつかの種が存在する。また植物学的分類上においてもいくつかの説があるが、これらを全て用いることが可能である。具体的にはカリンと称される植物はバラ科ボケ属、カリン属、マルメロ属の全ての種にわたっており、これら全体を含む概念である。これらは共通して新梢の先端に1つの花を付け、芳香を有する黄色で洋梨形の果実は強い酸味、硬い繊維質と石細胞のため生食はできないという特徴がある。この果実は果実酒、シロップ漬け、あめ、ジャム等に加工される他に、木瓜(モッカ)、和木瓜(ワモッカ)、メイサといった生薬名で咳止め、利尿等に用いられる。
植物学的にボケ属(Choenomeles)植物として、和名ボケ 英名Flowering Quince、学名Chaenomeles speciosa(又はC. lagenaria)、和名クサボケ 英名Japanese quince 学名Chaenomeles japonica、和名カリン 学名Chaenomeles sinensis (Thouin)Koehne 又はChaenomeles
sinensisなどがある。カリン属(Pseudocydonia)植物はC. K. Schneider による分類で1属1種であり、和名カリン 学名Pseudocydonia
sinensisが含まれる。マルメロ属(Cydonia)は和名マルメロ 英名Quince 学名Cydonia oblonga Miller、和名カリン 学名Cydonia sinensis Thouinなどがあげられる。
これらのバラ科植物のうち、学名Chaenomeles
sinensis (Thouin)Koehne、Chaenomeles sinensis、Pseudocydonia sinensis、Cydonia
sinensis Thouinのいずれかであらわされるカリンが好ましい。
【0011】
前記バラ科カリンの使用する部位は、いずれの部位を用いてもよい。当該部位として、例えば、葉、茎、花弁、果実、種子、根茎、根、幹等から選ばれる1種又は2種以上のものを用いることができる。このうち、果実が好ましい。
【0012】
前記バラ科カリンの調製法は特に限定はされず、例えばバラ科カリンの花、葉、木部、果実、根などのうち何れか1ヶ所以上(以下、「原体」という)を乾燥又は乾燥せずに裁断した後、低温(例えば4℃未満)若しくは常温(例えば4〜40℃)〜加温(例えば40〜100℃)下で溶媒により抽出することにより得られる。
【0013】
抽出に使用する溶媒としては、一般的には水、低級1価アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等)、低級エステル類(酢酸エチル等)、炭化水素(ベンゼン、ヘキサン、ペンタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジプロピルエーテル)、アセトニトリル等が挙げられる。なお、「低級」における炭素の数は1〜4であるのが好ましい。
好ましい抽出方法の例としては、含水濃度0〜100vol%(好適には含水濃度50〜100vol%)のエチルアルコール又は1,3−ブチレングリコールを用い、室温(4〜40℃程度)にて1〜5日間抽出を行ったのち濾過し、得られたろ液をさらに1週間ほど放置して熟成させ、再びろ過を行う方法が挙げられる。ろ過の際に、活性炭等のろ過剤を用いて夾雑物や着色物等の不純物を除去してもよい。なお、含水濃度100vol%とは水のことである。
【0014】
前記バラ科カリンの抽出物は、そのまま有効成分として用いてもよいし、必要に応じて、抽出溶媒の除去、ろ過やイオン交換樹脂等の脱臭、脱色等の精製処理を施した後に使用してもよい。さらに液体クロマトグラフィー等の分離精製手段を用いて、活性の高い画分等を得ることも可能である。
【0015】
前記バラ科カリンの抽出物は、抽出液単独で又は異なる抽出方法にて得られた抽出液を混合して、そのまま用いるか、又は当該抽出物を希釈、濃縮又は乾燥させて、液状、粉末状又はペースト状に調製して用いることもできる。
【0016】
ところで、樹状突起は細胞間の何らかの受け渡しに関与していると考えられるため、医薬分野及び化粧分野においても樹状突起形成の仕組が研究されている。樹状突起を有する細胞として、例えばプルキンエ細胞やメラノサイト等が知られているが、これらの樹状突起を制御することで、この樹状突起が形成されることによって発生する症状又は状態の予防、治療又は改善等に利用することができる。
例えば、プルキンエ細胞は神経系に関与する細胞であるが、プルキンエ細胞の樹状突起を制御することができる剤があれば、その剤を神経細胞の再生等に利用することも可能である。また、メラニン生成が増大した場合には、メラノサイトの樹状突起を負制御することで、ケラチノサイトへのメラニンの移行を抑制することができ、最終的にシミ、ソバカス等のような色素沈着を抑制する剤に使用することも可能である。
【0017】
そして、後記実施例に示すように、樹状突起形成抑制試験及び樹状突起形成後の樹状突起退縮試験において、本開示のバラ科カリンの抽出物が、樹状突起形成抑制作用、樹状突起退縮作用等といった樹状突起の負制御が可能であることが認められた。
従って、本開示のバラ科カリンの抽出物は、樹状突起負制御(例えば、樹状突起形成抑制作用、樹状突起退縮作用等)を有するため、当該バラ科カリンの抽出物を含有させて有効成分とする樹状突起負制御剤(例えば、樹状突起形成抑制剤、樹状突起退縮剤等)として使用することが可能である。
本開示のバラ科カリンの抽出物は、樹状突起負制御(例えば、樹状突起形成抑制作用、樹状突起退縮作用等)のために使用してもよく、また樹状突起負制御剤(例えば、樹状突起形成抑制剤、樹状突起退縮剤等)等の上述のような使用を目的とした各種製剤に使用することができ、これら各種製剤を製造するために使用することも可能である。
本開示のバラ科カリンの抽出物は、樹状突起負制御(樹状突起形成抑制作用、樹状突起退縮作用等)を有し、樹状突起形成による各種症状や状態を、予防、改善及び/又は治療を図るための方法に使用することができる。よって、本開示のバラ科カリンの抽出物は、ヒトを含む動物に摂取又は投与して、樹状突起形成による各種症状や状態等の予防、改善及び/又は治療を図るための方法に使用することが可能である。
【0018】
よって、本開示のバラ科カリンの抽出物は、樹状突起負制御(樹状突起形成抑制作用、樹状突起退縮作用等)のために、皮膚外用剤、化粧料(好適には美白化粧料)、医薬品、医薬部外品、食品や機能性食品(例えば特定保健用食品等)等に配合することが可能であり、本開示の製剤は、これら皮膚外用剤、化粧品等として有用である。
本開示のバラ科カリンの抽出物は、特に皮膚外用剤、化粧料(好適には美白化粧料)、医薬部外品、医薬品等に用いるのが好適であり、皮膚に塗布など接触させる製剤が好適である。皮膚外用剤、化粧料として、例えば化粧水、乳液(水中油型等)、クリーム(油中水型等)、パック化粧料、リキッドファンデーション、軟膏剤、養毛剤等が挙げられる。
【0019】
本開示のバラ科カリンの抽出物の含有量は、製剤中に、乾燥固形分として好ましくは0.00001〜5質量%であり、より好ましくは0.0001〜2質量%である。この範囲内であれば、該植物抽出物を安定に配合することができ、かつ優れた樹状突起負制御作用を発揮することができる。また、抽出液を使用する場合は、溶質である乾燥固形分の含有量が上記範囲内であれば、その抽出液濃度は何ら限定されるものではない。
【0020】
本開示のバラ科カリンの抽出物抽出物は、チロシナーゼ阻害剤、メラニン生成抑制剤、抗炎症剤、メラニン排出促進剤等の樹状突起制御以外の作用機序により美白効果を発揮する薬剤と併用するのが好ましい。これにより、相乗的な美白効果を発揮させることが可能となる。
チロシナーゼ阻害剤及びメラニン生成抑制剤の例としては、L−アスコルビン酸及びその誘導体、並びにそれらの塩(アスコルビン酸−2−グルコシド、リン酸アスコルビルマグネシウム、リン酸アスコルビルナトリウム、3−O−エチルアスコルビン酸等)、ハイドロキノン及びその誘導体(アルブチン等)、トラネキサム酸及びその誘導体(トラネキサム酸セチル、トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸メチルアミド等)、サリチル酸及びその誘導体(4−メトキシサリチル酸等)並びにそれらの塩、エラグ酸及びその誘導体、コウジ酸及びその誘導体、アデノシン−1−リン酸、リノール酸、5,5’−ジプロピル−ビフェニル2,2’−ジオール、4−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノール又はその誘導体、レゾルシンおよびその誘導体(4−n−ブチルレゾルシノール等)、胎盤抽出物、カミツレエキス,ニコチン酸アミド等が挙げられるが、アスコルビン酸−2−グルコシド、3−O−エチルアスコルビン酸、又はアルブチンが好ましい。抗炎症剤としては、トラネキサム酸及びその誘導体、グリチルリチン酸ジカリウム等のグリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸ステアリル等のグリチルレチン酸誘導体、サリチル酸及びその誘導体、カミツレエキス等が挙げられるが、トラネキサム酸、グリチルレチン酸ジカリウム又はグリチルレチン酸ステアリルが好ましい。メラニン排出促進剤としてはニコチン酸アミド等のニコチン酸誘導体やアデノシン−1−リン酸及びその誘導体等があげられるが、ニコチン酸アミド又はアデノシン−1−リン酸が好ましい。
【0021】
なお、前記製剤には、本開示のバラ科カリンの抽出物の他、必要に応じて任意の成分を組み合わせて使用してもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であればよく、例えば、細胞賦活剤、抗酸化剤、保湿剤、紫外線防止剤、溶剤(水、アルコール類等)、油剤、界面活性剤、増粘剤、粉体、キレート剤、pH調整剤、乳化剤、安定化剤、着色剤、光沢剤、矯味剤、矯臭剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、香料等が挙げられ、これらを目的とする製剤に応じて配合すればよい。
また、前記製剤の形態は、特に限定されず、液状、ペースト状、ゲル状、固形状、粉末状等の何れの形態でもよい。
【0022】
また、本開示のバラ科カリンの抽出物は樹状突起制御方法に使用することができ、当該樹状突起制御方法は、樹状突起制御試験に使用することも可能であり、また動物から採取した樹状突起を有する細胞を原材料として、医薬品(細胞医薬等);医療材料(人工的代用品又は代替物等);これらの中間段階の生産物を製造するための方法又はこれらを分析するための方法に使用することも可能である。
【0023】
また、本開示のバラ科カリンの抽出物は、樹状突起を負制御することから、前記カリン抽出物を、樹状突起を正制御することが可能な剤のスクリーニング方法に使用することができる。これにより、樹状突起制御剤又は樹状突起制御作用を有する物質をスクリーニング又は樹状突起制御の評価を行うことが可能である。また、被験物質及びカリン抽出物の添加タイミングを同時期又は別々にすることで異なる作用機序の物質を探索することも可能である。
【0024】
本開示のバラ科カリンの抽出物と被験物質を添加した状態と、樹状突起が形成されていない状態又は樹状突起が負制御されている状態と比較して、樹状突起が伸長した場合、又は樹状突起の形成が促進された場合等の樹状突起が正制御された場合には、被験物質を樹状突起正制御剤として判断することができる。なお、本開示のバラ科カリンの抽出物と既知の樹状突起正制御剤を添加することで、樹状突起が負制御されている状態にすることも可能である。
また、本開示のバラ科カリンの抽出物と既知の樹状突起正制御剤を添加した際の樹状突起形成状態と、当該樹状突起正制御剤と被験物質を添加した際の樹状突起の形成状態とを対比し、本開示のバラ科カリンの抽出物を添加したときよりも樹状突起が負制御されていた場合には、被験物質を良好な樹状突起負抑制剤として判断することができる。
【0025】
前記判断方法は、特に限定されないが、以下にその一例を挙げる。
例えば、位相差顕微鏡(オリンパス社製)で細胞形態の写真を撮影し、樹状突起保有細胞(双極性の細胞から新たに1箇所以上の樹状突起の形成が確認された細胞)の数を数えて、樹状突起保有細胞数/総細胞数×100%を算出する。対照との対比により被験物質の樹状突起制御の正負を判断する。
【0026】
以下に、本開示のバラ科カリンの抽出物を用いた樹状突起正制御剤の探索方法の好適な一例を挙げる。
本開示のバラ科カリンの抽出物の存在下で、メラノサイトを培養し、これに被験物質を加え、メラノサイトの樹状突起の形態変化を観察することにより、樹状突起形成促進剤をスクリーニングすることができる。
このとき、メラノサイト活性化因子を添加してもよい。メラノサイト活性化因子として、例えばα−メラノサイト刺激ホルモン(α−MSH:melanocyte stimulating hormome)、幹細胞増殖因子(SCF:Stem
cell factor)、エンドセリン−1(Endothelin-1)等が挙げられる。
メラノサイトの場合には、ケラチノサイトへのメラノソームへの移行が促進されるため、白髪改善等の物質探索に応用することができる。
【0027】
上記樹状突起制御方法、樹状突起制御剤のスクリーニング方法及び樹状突起制御の評価方法における培養条件は、使用する樹状突起を有する細胞に応じた公知の培養条件、培地条件等で行えばよい。
例えば、正常メラノサイトを使用する場合には、正常メラノサイトを培養可能な公知の培養条件で行えばよい。培養増殖用培地として、市販のメラノサイト用培地等を使用してもよい。
培養温度は、使用するメラノサイトの由来に対応する培養可能な温度であればよく、例えばヒト由来の場合20℃〜40℃、好ましくは37℃程度であればよい。二酸化炭素濃度は、5vol%程度であればよい。
【0028】
また、プルキンエ細胞を用いる場合には、本開示のバラ科カリンの抽出物の存在下で、プルキンエ細胞を公知の培養方法にて培養し、樹状突起が正制御されるのを評価することで、神経再生促進等の物質探索に応用することができる。
【0029】
なお、本技術は、以下の構成を採用することも可能である。
〔1〕 バラ科カリンの抽出物を有効成分とする樹状突起負制御剤。
〔2〕 バラ科カリンの果実からの抽出物である前記〔1〕記載の樹状突起負制御剤。
〔3〕 前記抽出物が、水、アルコール類、含水アルコール類から選ばれるもので抽出されたものである前記〔1〕又は〔2〕記載の樹状突起負制御剤。
〔4〕 前記樹状突起負制御が、メラノサイト樹状突起負制御である前記〔1〕〜〔3〕の何れか1項記載の樹状突起負制御剤。
〔5〕 前記樹状突起負制御は、樹状突起形成抑制、樹状突起退縮、又は樹状突起活性化抑制である前記〔1〕〜〔4〕の何れか1項記載の樹状突起負制御剤。
〔6〕 バラ科カリンの抽出物を適用することを特徴とする樹状突起制御方法。
〔7〕 前記〔1〕〜〔3〕の何れか1項記載のバラ科カリンの抽出物である前記〔6〕記載の樹状突起制御方法。
〔8〕 バラ科カリンの抽出物を用いる樹状突起制御剤のスクリーニング方法。
〔9〕 前記〔1〕〜〔3〕の何れか1項記載のバラ科カリンの抽出物である前記〔8〕記載の樹状突起制御剤のスクリーニング方法。
【実施例】
【0030】
以下、実施例、参考例、比較例、試験例、製造例等を挙げ、本発明(本技術)をさらに具体的に説明するが、本発明(本技術)はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0031】
<製造例1:カリン果実50vol%エタノール抽出物の製造>
カリン(Chaenomeles sinensis)の果実乾燥物10gに、50vol%エタノール含むエタノール・水混合溶液100mLを加え、室温にて3日間抽出を行ったのち濾過してカリン50vol%エタノール抽出物を得た。この抽出物の乾燥固形分は3.0%であった。
【0032】
<製造例2:カリン果実精製水抽出物の製造>
カリン(Chaenomeles sinensis (Thouin)Koehne)の果実乾燥物10gに、精製水100mLを加え、室温にて3日間抽出を行ったのち濾過してカリン果実精製水抽出物を得た。この抽出物の乾燥固形分は4.5%であった。
【0033】
<製造例3:カリン果実99.5vol%エタノール抽出物の製造>
カリン(Pseudocydonia sinensis)の未熟果実10gに、99.5vol%エタノール100mLを加え、室温にて3日間抽出を行ったのち濾過してカリン果実99.5vol%エタノール抽出物を得た。この抽出物の乾燥固形分は0.7%であった。
【0034】
<製造例4:マルメロ果実50vol%エタノール含水抽出物の製造>
マルメロ(Cydonia oblonga)の果実乾燥物10gに、50vol%エタノール含むエタノール・水混合溶液100mLを加え、室温にて3日間抽出を行ったのち濾過してマルメロ果実50vol%エタノール抽出物を得た。この抽出物の乾燥固形分は4.4%であった。
【0035】
<製造例5:クサボケ果実50vol%エタノール含水抽出物の製造>
クサボケ(Chaenomeles japonica)の果実乾燥物10gに、50vol%エタノール含むエタノール・水混合溶液100mLを加え、室温にて3日間抽出を行ったのち濾過してマルメロ果実50vol%エタノール抽出物を得た。この抽出物の乾燥固形分は1.2%であった。
【0036】
<製造例6:カリン花50vol%エタノール含水抽出物の製造>
カリン(Chaenomeles sinensis (Thouin) Koehne)の花乾燥物10gに、50vol%エタノール含むエタノール・水混合溶液100mLを加え、室温にて3日間抽出を行ったのち濾過してカリン花50vol%エタノール抽出物を得た。この抽出物の乾燥固形分は2.4%であった。
【0037】
<試験例1:メラノサイト樹状突起形成抑制試験>
〔実施例1:カリン抽出物〕
上記製造例1で製造しカリン抽出物を用いて、メラノサイト樹状突起形成抑制作用を調べた。
詳細には、6穴プレートにHMGS増殖添加剤入りの表皮メラノサイト(メラニン細胞)培地を適量添加し、正常ヒト表皮メラノサイト(メラニン細胞)を1×10
5個播種して、37℃、二酸化炭素濃度5vol%中に静置培養した。培養2日後、HMGS増殖添加剤からBPEを抜いた培地に交換して、製造例1で製造したカリン抽出物を培地中の含有率が0(活性化状態の対照)、0.1,0.3,0.5vol%となるようにした30分後、α−MSHを最終濃度が10
−8mol/Lになるように添加し、混和した。
3日後、位相差顕微鏡(オリンパス社製)で細胞形態の写真を撮影し、樹状突起保有細胞(双極性の細胞から新たに1箇所以上の樹状突起の形成が確認された細胞)の数を数えて、樹状突起保有細胞数/総細胞数×100を算出し、結果を
図1、表1及び
図2に示した。
〔試薬類〕
表皮メラノサイト(メラニン細胞)基礎培地:Medium 254培地;ヒト表皮メラニン細胞培養用の無菌の液体培地M-254-500(Life Technologies社製)
HMGS増殖添加剤:HMGS増殖添加剤分注キットKM-6350 (倉敷紡績株式会社製)
正常ヒト表皮メラノサイト(メラニン細胞):Human Epidermal Melanocytes,
neonatal(HEMn-LP);新生児由来 lightly pigmented donorC-002-5C(Life Technologies社製)
α−MSH:α−メラノサイト刺激ホルモンM4135(シグマ社製)
【0038】
【表1】
【0039】
(比較例1)〔実施例1〕と同様にしてメラノサイト樹状突起形成抑制試験を行った。
但し、試料の「カリン抽出物」を「カシス抽出物」に代え、培地中の含有率が1.0vol%になるように添加した。上記 カシス抽出物は、カシス(Ribes nigrum L.)の果実10gに精製水50gを加え、50℃にて3日間加温抽出したのち濾過して得た。この抽出物の乾燥固形分は3.1%であった。
(比較例2)〔実施例1〕と同様にしてメラノサイト樹状突起形成抑制試験を行った。
但し、試料の「カリン抽出物」を「センプクカ抽出物」に代え、培地中の含有率が1.0vol%になるように添加した。 センプクカ抽出物は、センプクカ:オグルマ(Inula Britannica linne’ var chinensis)の花10gに、50volエタノールを含むエタノール・水混合液500gを加え、室温で3日間抽出を行ったのち濾過して得た。この抽出物の乾燥固形分は0.3%であった。
比較例1及び2の結果を
図3及び4に示す。
【0040】
<試験例2:メラノサイト樹状突起退縮試験>
〔実施例2:カリン抽出物〕
α−MSH・カリン抽出物の添加・観察の順序・スケジュールを変更した以外は、前記試験例1と同様にして行った。活性化剤としてα−MSHを添加した3日後に、メラノサイトの樹状突起が十分に形成されているのを確認してからカリン抽出物を添加し、さらに3日培養してから観察した。その結果を
図5に示す。
細胞の樹状突起が既に活性化して伸長していても、カリン抽出物を添加することで、伸長していた樹状突起を退縮させることが認められた。樹状突起保有細胞数/総細胞数×100を算出した結果を表2及び
図6に示した。
【0041】
【表2】
【0042】
カシス抽出物及びセンプクカ抽出物は、美白効果があることが知られているが、1.0vol%という高濃度まで添加しても樹状突起の形成抑制作用がないことが認められた。これに対し、カリン抽出物は、樹状突起の負制御作用があることが認められた。具体的には、カリン抽出物と同時期に樹状突起活性化剤を添加した場合、樹状突起の形成又は伸長の抑制が認められた。
また、先に樹状突起活性化剤を添加し、樹状突起を活性化させて伸長させた後に、カリン抽出物を添加した場合でも、伸長した樹状突起が退縮したことが認められた。特に、伸長した樹状突起を退縮させたことは、メラニン生成量が多くとも美白作用効果を発現させること、また、既に形成された色素沈着を改善することを可能にする。このような樹状突起の負制御は、従来美白効果として探索されていたチロシナーゼ阻害作用、メラニン生成抑制作用、抗炎症作用、メラニン排出促進作用等とは異なる作用と考えられる。
このため、本開示のカリン植物抽出物と、樹状突起制御以外の作用機序により美白効果を発揮する薬剤(例えば、チロシナーゼ阻害剤、メラニン生成抑制剤、抗炎症剤、メラニン排出促進剤等)とを併用することで、相乗的な美白効果を発揮する可能性が高い。
また、樹状突起を介する細胞間の物質の授受を抑制する作用が、新たな化粧用途及び医薬用途等に繋がる可能性がある。従来のようなメラニンの合成量を抑制する方向性でないことも、新たな美白剤や白髪改善剤、神経再生促進剤等の探求方法として有望と考えられる。
【0043】
〔処方例1:可溶化型化粧水〕
(成分) (質量%)
1.POE(40モル)硬化ヒマシ油 0.5
2.POE(12モル)ジオレエート 0.3
3.アスタキサンチン 0.05
4.1,3−ブチレングリコール 2.0
5.グリセリン 2.0
6.エタノール 15.0
7.トラネキサム酸 2.0
8.製造例1のカリン抽出物 0.1
9.乳酸ナトリウム 0.2
10.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
11.精製水 残 量
(製造方法)
A.成分1〜6を混合溶解する。
B.成分7〜11を混合溶解する。
C.BにAを加え、化粧水を得た。
【0044】
〔処方例2:乳化化粧水〕
(成分) (質量%)
1.大豆由来水素添加リン脂質 0.5
2.セトステアリルアルコール 0.1
3.ポリオキシエチレン(10モル)コレステロールエーテル 0.2
4.酢酸−dl−α−トコフェロール 0.1
5.スクワラン 0.1
6.ヒドロキシエチルセルロース 0.03
7.精製水 残量
8.グリチルレチン酸ステアリル 0.25
9.製造例2のカリン抽出物 0.02
10.リン酸一水素二ナトリウム 0.1
11.リン酸二水素一ナトリウム 0.1
12.グリセリン 3.0
13.ジプロピレングリコール 2.0
14.エタノール 7.0
15.香料 適量
(製造方法)
A.成分1〜5を75℃に加熱し、均一に混合溶解する。
B.成分6、7を75℃に加熱し、均一に混合溶解する
C.AにBを添加し、乳化する。
D.Cを冷却し、成分8〜15を添加し、乳化型化粧水を得た。
【0045】
〔処方例3:乳液〕
(成分) (質量%)
1.モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン 1.0
2.セスキオレイン酸ソルビタン 0.5
3.トリオクタン酸グリセリル 0.5
4.ホホバ油 0.5
5.スクワラン 0.5
6.精製水 残量
7.エデト酸二ナトリウム 0.1
8.メチルパラベン 0.2
9.フェノキシエタノール 0.5
10.グリセリン 5.0
11.プロパンジオール 1.0
12.プロピレングリコール 2.0
13.乳酸ナトリウム 0.5
14.2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸(注1) 1.0
15.製造例3のカリン抽出物 0.005
16.キサンタンガム 0.05
17.精製水 10.0
18.エタノール 3.0
19.香料 適量
(注1):株式会社林原 社製
(製造方法)
A:成分16を70℃に加熱した成分17で膨潤する。
B:成分1〜5を70℃で加熱混合する。
C:成分6〜13を70℃で加熱溶解後、Bに添加し、乳化する。
D:Cを室温まで冷却後、成分14、15、18とAを添加し、美容液を得た。
本処方例3の乳液は、肌に潤いを与え、長時間にわたって皮膚の乾燥を防ぎ、保湿効果に優れたものであった。
【0046】
〔処方例4:養毛料〕
(成分) (質量%)
1.スエルチアニン 1.5
2.イチョウエキス 0.5
3.トラネキサム酸 1.0
4.製造例4のマルメロ抽出物 1.0
5.グリセリン 2.0
6.精製水 残量
7.D−パントテニルアルコール 0.3
8.ヒノキチオール 0.02
9.セファランチン 0.001
10.酢酸トコフェロール 0.01
11.L−メントール 0.2
12.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.2
13.エタノール 60
(製造方法)
A.成分1〜6を混合溶解する。
B.成分7〜11を混合溶解する。
C.AにBを加え、養毛料を得た。
【0047】
〔処方例5:軟膏A〕
(配合成分) (質量%)
1.ステアリルアルコール 18.0
2.モクロウ 20.0
3.ポリオキシエチレン(20)モノオレイン酸エステル 0.25
4.グリセリンモノステアリン酸エステル 0.3
5.ワセリン 40.0
6.精製水 残量
7.グリセリン 10.0
8.アデノシン−1−リン酸 0.5
9.製造例5のクサボケ抽出物 1.0
(製造方法)
A.1〜5を70℃で均一に混合する。
B.6〜8を70℃に加温する。
C.AにBを加え、乳化する。
D.Cを冷却し、9を添加し、軟膏を得た。