特許第6125890号(P6125890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6125890
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】液体フィルター用基材
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/26 20060101AFI20170424BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20170424BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20170424BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   B01D71/26
   C08J9/00 ACES
   C08J9/28
   C08L23/02
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-97634(P2013-97634)
(22)【出願日】2013年5月7日
(65)【公開番号】特開2014-217800(P2014-217800A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】古谷 幸治
(72)【発明者】
【氏名】大野 隆央
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−222237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/26
C08J 9/00
C08J 9/28
C08L 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微多孔膜からなる液体フィルター用基材であって、
前記ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィンは、重量平均分子量が90万以上である超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量が20万〜80万で密度が0.92〜0.96g/cmである高密度ポリエチレンとを混合させたポリエチレン組成物であり、かつ、該高密度ポリエチレンのポリエチレン組成物中の割合は20〜87重量%であり、
前記ポリオレフィン微多孔膜のクッション率が30%超65%以下である、液体フィルター用基材。
【請求項2】
前記ポリオレフィン微多孔膜の130℃で1時間熱処理を行った後の幅方向の熱収縮率が20%以上である、請求項1に記載の液体フィルター用基材。
【請求項3】
前記ポリオレフィン微多孔膜の孔閉塞温度が140℃よりも高いものである、請求項1または2に記載の液体フィルター用基材。
【請求項4】
前記ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイントが0.40MPa以上0.80MPa以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の液体フィルター用基材。
【請求項5】
前記ポリオレフィン微多孔膜の厚さが4〜35μmである、請求項1〜4のいずれかに記載の液体フィルター用基材。
【請求項6】
前記ポリオレフィン微多孔膜の空孔率が46〜60%である、請求項1〜5のいずれかに記載の液体フィルター用基材。
【請求項7】
前記ポリオレフィン微多孔膜の透水性能が0.10〜2.90ml/min・cmである、請求項1〜6のいずれかに記載の液体フィルター用基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体フィルター用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ますます電子機器の小型、高性能化が進んでおり、特にパーソナルコンピューター、スマートフォンを代表とするデジタル機器、携帯端末は飛躍的な進化を遂げている。それを牽引、サポートするさまざまな技術の中でも半導体産業の技術革新が大きな役割を果たしているのは周知の事実である。半導体産業において、技術ロードマップが指し示す重要特性である配線パターン寸法は20nmを下回る領域での開発競争となっており、各社最先端製造ラインの構築を急いでいる。
【0003】
リソグラフィ工程は、半導体部品製造にてパターンを形成する工程であり、近年のパターン微細化と共に、使用する薬液そのもの性状のみならず、ウェハー上へ塗布するまでの薬液取扱いも非常に高度な技術が要求されるようになってきている。
高度に調製された薬液はウェハー上へ塗布する直前に、パターン形成、歩留りに大きな影響を与えるパーティクルを除去されるべく、緻密なフィルターで濾過される。最先端の20nmを下回るパターン形成においては、10nm前後のパーティクルを捕集できることが要求され、フィルターメーカー各社は、精力的に開発を進めているところである。
【0004】
また、これまでの先端領域である20nmを超える配線パターン寸法の領域(例えば、30nm〜100nm)においては、配線パターンを形成するために必要な薬液に対する要求として、従来の外部からの微小な混入異物の排除に加えて、薬液自体の高反応性に伴うゲル化によるゲル状物の排除や高純度に精製された薬液純度の維持、すなわち薬液の汚染防止が求められるようになってきた。
【0005】
フィルターは、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ナイロン、ポリプロピレン等の樹脂からなる多孔質膜を基材として、カートリッジ形体に加工されて販売、使用されるのが一般的である。基材は、薬液との相性、それぞれの多孔質構造による捕集性能並びに処理能力、寿命等の観点から、半導体部品製造工場に選別使用されている。最近では特に基材由来の溶出物を低減させることが重視されており、基材の中でも最先端領域では捕集性能、低溶出の点で優れるポリエチレンフィルターの使用が増大している。
【0006】
ポリエチレンフィルター用の基材の代表的な製造方法は相分離法が用いられ、これは高分子溶液の相分離現象により細孔を形成する技術である。相分離が熱により誘起される熱誘起相分離や、高分子の溶媒に対する溶解度特性を利用した非溶媒誘起相分離法などがあるが、両方の技術を組み合せたり、さらには延伸により孔構造の形、大きさ等のバリエーションを増大させる技術がある。
【0007】
熱相転換法は例えば特許文献1にあるように、良溶媒中にポリエチレンを分散させた液を、加熱し、溶媒分の加熱蒸発、貧溶媒に浸漬することで相転換させ、シート状に賦形成膜する方法である。延伸法は例えば特許文献2,3にあるように、なんらかの方法でシート状に賦形製膜されたポリエチレンシートを速度、倍率、温度等の延伸条件の組み合わせを駆使して、結晶構造中の非晶質部分を引き伸ばし、ミクロフィブリルを形成しながらラメラ層の間に微細孔を形成する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−251545号公報
【特許文献2】特開2010−053245号公報
【特許文献3】特開2010−202828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、液体フィルターの長期の使用において、ポリオレフィン微多孔膜に繰り返し圧力がかかることで、多孔質構造が変化して多孔膜の一部が損傷し、破膜耐性が徐々に低下していく場合がある。このような場合、液体フィルターを長期に亘り使用した場合、所望サイズの粒子の捕集性能が低下したり、一定の稼働条件で液体フィルターを使用し続けられないといった不具合が生じる可能性がある。しかしながら、特許文献1〜3のような従来技術においては、長期使用において安定した破膜耐性を実現させた提案はなされていない。
そこで、本発明では、上述した課題を解決すべく、長期使用において安定した破膜耐性を有する液体透過性を有する液体フィルター用基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用する。
1.ポリオレフィン微多孔膜からなる液体フィルター用基材であって、前記ポリオレフィン微多孔膜のクッション率が30%超65%以下である、液体フィルター用基材。
2.前記ポリオレフィン微多孔膜の130℃で1時間熱処理を行った後の幅方向の熱収縮率が20%以上である、上記1に記載の液体フィルター用基材。
3.前記ポリオレフィン微多孔膜の孔閉塞温度が140℃よりも高いものである、上記1または2に記載の液体フィルター用基材。
4.前記ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイントが0.40MPa以上0.80MPa以下である、上記1〜3のいずれかに記載の液体フィルター用基材。
5.前記ポリオレフィン微多孔膜の厚さが4〜35μmである、上記1〜4のいずれかに記載の液体フィルター用基材。
6.前記ポリオレフィン微多孔膜の空孔率が46〜60%である、上記1〜5のいずれかに記載の液体フィルター用基材。
7.前記ポリオレフィン微多孔膜の透水性能が0.10〜2.90ml/min・cmである、上記1〜6のいずれかに記載の液体フィルター用基材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期使用において安定した破膜耐性を有する液体フィルター用基材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明するが、これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。なお、本明細書全体において、数値範囲で「〜」を用いた場合、各数値範囲にはその上限値と下限値を含むものとする。また、ポリオレフィン微多孔膜に関し、「長手方向」とは、長尺状に製造されるポリオレフィン微多孔膜の長尺方向を意味し、「幅方向」とは、ポリオレフィン微多孔膜の長手方向に直交する方向を意味する。以下、「幅方向」を「TD」とも称し、「長手方向」を「MD」とも称する。
【0013】
[液体フィルター用基材]
本発明の液体フィルター用基材は、ポポリオレフィン微多孔膜からなる液体フィルター用基材であって、前記ポリオレフィン微多孔膜のクッション率が30%超65%以下である。
このような本発明によれば、長期使用において安定した破膜耐性を有する液体フィルター用基材を提供することができる。以下、各構成の詳細について説明する。
【0014】
(クッション率)
本発明の液体フィルター用基材であるポリオレフィン微多孔膜は、長期使用において安定した破膜耐性を有することを特徴とする。当該ポリオレフィン微多孔膜のクッション率は30%よりも大きいことが必要であり、上限値として65%以下であることが必要であり、35〜60%であることがさらに好ましい。本発明において、ポリオレフィン微多孔膜のクッション率が30%以下であると、フィルター内の濾過圧力変化による衝撃を吸収できず、例えば、長期の使用において破膜耐性に問題が生じ得る。一方、ポリオレフィン微多孔膜のクッション率が65%を超えると、濾過圧力変化により過度に厚み変化が発生し、膜厚方向の連通孔を維持できずに、透水性能が不安定になる問題が生じ得る。
【0015】
なお、本発明においてクッション率の制御方法は特に制限されるものではないが、例えば、ポリオレフィン樹脂の平均分子量、複数のポリオレフィン樹脂を混合して使用する場合はその混合比率、原料中のポリオレフィン樹脂濃度、原料中に複数の溶剤を混合して使用する場合はその混合比率、押出シート状物内部の溶剤を絞り出すための加熱温度、押し圧力、延伸倍率や延伸後の熱処理(熱固定)温度、抽出溶媒への浸漬時間、アニール処理温度や処理時間等によって制御し得る。
【0016】
(熱収縮率)
本発明の液体フィルター用基材であるポリオレフィン微多孔膜は、130℃の温度下で1時間放置した後の幅方向(TD)の収縮率が20%以上であることが好ましく、さらに好ましくは20〜35%であり、22〜32%であることが特に好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率が20%以上である場合、ポリオレフィン微多孔膜の加工での熱処理を受ける状況下の搬送において、弛みが発生することなく良好な搬送性を得られやすくなるため好ましい。一方、ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率が35%以下である場合、ポリオレフィン微多孔膜の加工時に熱処理を受ける状況下の搬送において、蛇行やシワが発生することなく良好な搬送性を得られやすくなるため好ましい。
【0017】
(孔閉塞温度)
本発明の液体フィルター用基材であるポリオレフィン微多孔膜は、孔閉塞温度が140℃よりも高いことが好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の孔閉塞温度が140℃よりも高い場合、ポリオレフィン微多孔膜の加工時の熱接着工程の高温処理部付近もしくは高温体接触部の付近において、ポリオレフィン微多孔膜の多孔性が失われることなく、透水性能が維持され、加工後においても予定したろ過面積を得られやすくなるため好ましい。
【0018】
(バブルポイント)
本発明の液体フィルター用基材であるポリオレフィン微多孔膜は、バブルポイントが0.40〜0.80MPaであることが好ましく、0.40〜0.75MPaであることがさらに好ましく、0.42〜0.75MPaであることが特に好ましい。本発明において、ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイントが0.40MPa以上である場合、粒径数nm〜100nm程度の微小な粒子を高度に捕集しやすくなるため好ましい。一方、ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイントが0.80MPa以下である場合、微小な粒子を非常に高度に捕集しやすくなるだけでなく、十分な透液性能を得られやすくなるため好ましい。例えば、該ポリオレフィン微多孔膜を基材とするフィルターを介した送液が適度な送液圧力のもとで安定することにより、無理に送液圧力を高める必要がなくなるため、フィルター寿命が延びたり、濾過物の漏れ出し等を抑制することが可能になる。
【0019】
(厚み)
本発明の液体フィルター用基材であるポリオレフィン微多孔膜は、その厚みは4〜35μmであることが好ましく、さらに好ましくは5〜30μmである。ポリオレフィン微多孔膜の膜厚が4μm以上である場合、十分な力学強度が得られやすく、ポリオレフィン微多孔膜の加工時等におけるハンドリング性やフィルターカートリッジの長期使用における耐久性が得られやすくなるため好ましい。一方、厚みが35μm以下である場合、該微多孔膜単膜で十分な透水性能を得られやすくなるばかりでなく、所定の大きさのフィルターカートリッジにおいて、より多くのろ過面積を得られやすくなり、ポリオレフィン微多孔膜の加工時のフィルターの流量設計や構造設計がし易くなるため好ましい。
【0020】
例えば、同じ大きさのハウジングにフィルターカートリッジを収めることを想定した場合、濾材(フィルター用基材を含む構成材全体)の厚みが薄いほど、濾材面積を大きくすることができるため、液体フィルターとして好ましい高流量・低ろ過圧力の設計が可能になる。すなわち、液体フィルターとして、同じ流量を維持したい場合にはろ過圧力が低くなり、同じろ過圧力を維持したい場合には流量が高くなるように設計することが可能になる。特に、ろ過圧力が低くなることによって、一旦捕集された異物が、濾材内部でろ過圧力に継続して曝されることにより、時間の経過とともに濾材内部からろ過液とともに押し出されて漏れ出す確率が著しく低下することや、ろ過する液体中に溶存するガスが、ろ過前後での圧力差(ろ過後の圧力低下)によって微小な気泡となって現れる確率が著しく低下すること等の好ましい効果が期待でき、薬液等のろ過対象物のろ過歩留が向上することや、それらの品質を長時間に渡って高度に維持する効果が期待できる。
その一方で、濾材の厚みが薄いほど、濾材の強度や耐久性能が低下するが、例えば、フィルター設計において可能であれば、粗目の高強度支持体と複合化する(例えば、重ね合せて折込む等の加工を行う)ことで補強しながら、耐久性と流量の設計を調整することも可能になる。
【0021】
(空孔率)
本発明の液体フィルター用基材であるポリオレフィン微多孔膜の空孔率は46〜60%であることが好ましく、より好ましくは47%〜58%である。該ポリオレフィン微多孔膜の空孔率が46%以上である場合、透液性能が良好なものとなる点で好ましい。一方、空孔率が60%以下である場合、ポリオレフィン微多孔膜の力学強度が良好なものとなりハンドリング性も向上する点で好ましい。ここで、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率(ε)は、下記式により算出する。
ε(%)={1−Ws/(ds・t)}×100
Ws:ポリオレフィン微多孔膜の目付け(g/m
ds:ポリオレフィンの真密度(g/cm
t:ポリオレフィン微多孔膜の膜厚(μm)
【0022】
(透水性能(水流量))
本発明の液体フィルター用基材であるポリオレフィン微多孔膜は、90kPaの差圧下における透水性能が0.10〜2.90ml/min・cmであることが好ましく、0.10〜2.80ml/min・cmであることがさらに好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の透水性能が0.10ml/min・cm以上である場合、液体フィルターとしての十分な透水性能を得られるだけでなく、例えば、約5nmまたはそれ以上の大きさのパーティクルを高度に捕集しやくなるため好ましい。一方、ポリオレフィン微多孔膜の透水性能が2.90ml/min・cm以下である場合、例えば、約100nmまたはそれ以下のパーティクルを高度に捕集しやすくなるため、さらには、液体フィルターとしての透水性能を十分に得られやすくなるばかりでなく、フィルターを介した送液の安定性(例えば、一定の送液量を維持するための動力負荷の安定性や一定の送液圧力(一定の動力負荷)下での送液量の安定性)が長期に渡って得られやすくなるため好ましい。
【0023】
(ポリオレフィン)
本発明の液体フィルター用基材であるポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンを含んで構成された微多孔膜である。ここで、微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。ポリオレフィン微多孔膜において、ポリオレフィンは90重量部以上含まれていることが好ましく、残部として本発明の効果に影響を与えない範囲で有機または無機のフィラーや界面活性剤等の添加剤を含ませてもよい。
【0024】
ポリオレフィンとしては、例えばポリエチレンやポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン等の単独重合体あるいは共重合体、またはこれらの1種以上の混合体が挙げられる。この中でも、ポリエチレンが好ましい。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレンや、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの混合物等が好適である。また、ポリエチレンとそれ以外の成分を組み合わせて用いてもよい。ポリエチレン以外の成分としては、例えばポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリプロピレンとポリエチレンとの共重合体などが挙げられる。また、ポリオレフィンとして性質の相互に異なるポリオレフィンを用いる、すなわち相互に相溶性の乏しい重合度や分岐性の異なる、換言すれば結晶性や延伸性・分子配向性を異にするポリオレフィンを組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明に用いるポリオレフィンとしては、重量平均分子量が90万以上である超高分子量ポリエチレンを5重量%以上含むポリエチレン組成物を用いることが好ましく、超高分子量ポリエチレンを7重量%以上含む組成物であることがさらに好ましく、特に超高分子量ポリエチレンを13〜80重量%含む組成物であることが好ましい。また、2種以上のポリエチレンを適量配合することによって、延伸時のフィブリル化に伴うネットワーク網状構造を形成させ、空孔発生率を増加させる効用がある。2種以上のポリエチレンを配合した後の重量平均分子量は35万〜450万であることが好ましい。特に、上述した重量平均分子量が90万以上である超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量が20万〜80万で密度が0.92〜0.96g/cmである高密度ポリエチレンとを混合させたポリエチレン組成物が好ましく、その場合、該高密度ポリエチレンのポリエチレン組成物中の割合は95重量%以下であることが好ましく、93重量%以下であることがさらに好ましく、87〜20重量%であることが特に好ましい。
【0026】
なお、重量平均分子量は、ポリオレフィン微多孔膜の試料をo-ジクロロベンゼン中に加熱溶解し、GPC(Waters社製 Alliance GPC 2000型、カラム;GMH6−HTおよびGMH6−HTL)により、カラム温度135℃、流速1.0mL/分の条件にて測定を行うことで得られる。
【0027】
[液体フィルター]
上述した本発明の液体フィルター用基材は、薬液との親和性付与加工が適宜行われた上で、カートリッジ形体に加工され、液体フィルターとして用いることができる。液体フィルターは、有機物および/または無機物からなる粒子を含む、もしくは、含んでいる可能性がある被処理液から、当該粒子を除去するための器具である。粒子は被処理液中において固体状あるいはゲル状で存在する。本発明は、粒径が数nm程度の非常に微細な粒子から約100nm前後の微粒子を除去する場合に好適である。また、液体フィルターは半導体の製造工程のみならず、例えばディスプレイ製造や研磨等の他の製造工程においても用いることができる。
【0028】
液体フィルター用基材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等の多孔質基材が良く知られている。上述した本発明のポリオレフィン微多孔膜からなる基材を液体フィルター用基材として用いた場合、ポリテトラフルオロエチレン多孔質基材と比べると、薬液との親和性が良いために、例えば、フィルターの薬液との親和性付与加工が容易になることや、フィルターハウジング内にフィルターカートリッジを装填して薬液のろ過を開始する際のフィルター内への薬液充填の際に、フィルターカートリッジ内に空気溜りが出来にくく、薬液のろ過歩留りが良くなる等の効果が発現する他、ポリエチレン樹脂そのものがハロゲン元素を含まないため、使用済みのフィルターカートリッジの取扱いが容易であり、環境負荷を低減できる等の効果がある。
【0029】
[ポリオレフィン微多孔膜の製造方法]
本発明の液体フィルター用基材であるポリオレフィン微多孔膜は、下記に示す方法で好ましく製造することができる。即ち、
(I)ポリエチレン組成物と溶剤とを含む溶液において、少なくとも大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤を含む溶液を調整する工程、
(II)これを溶融混練し、得られた溶融混練物をダイより押出し、冷却固化してゲル状成形物を得る工程、
(III)ゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸する前に、ゲル状成形物から予め一部の溶剤を絞り出す工程、
(IV)ゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸する工程、
(V)延伸した中間成形物の内部から溶剤を抽出洗浄する工程、を順次実施することにより、好ましく製造することができる。
【0030】
工程(I)ではポリオレフィン組成物と溶剤とを含む溶液を調整するが、少なくとも大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤を含む溶液を調整する。ここで溶液は好ましくは熱可逆的ゾル・ゲル溶液であり、すなわち該ポリオレフィンを該溶剤に加熱溶解させることによりゾル化させ、熱可逆的ゾル・ゲル溶液を調整する。工程(I)における大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤としてはポリオレフィンを十分に膨潤できるもの、もしくは溶解できるものであれば特に限定されないが、テトラリン、エチレングリコール、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチレンジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等の液体溶剤が好ましく挙げられ、これらは単独でも2種以上を組み合わせて用いても良い。なかでもデカリン、キシレンが好ましい。
また、本溶液の調整においては、上記の大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤以外に、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油などの沸点が210℃以上の不揮発性の溶剤を含ませることもできる。
【0031】
工程(I)の溶液においては、ポリオレフィン微多孔膜の液体透過性能と濾材としての除去性能を制御する観点から、ポリオレフィン組成物の濃度を10〜45重量%とすることが好ましく、さらには12〜40重量%が好ましい。ポリオレフィン組成物の濃度を低くすると、力学強度が低くなる傾向にあるためハンドリング性が悪くなり、さらには、ポリオレフィン微多孔膜の製膜において切断の発生頻度が増加する傾向にある。また、ポリオレフィン組成物の濃度を高くすると空孔が形成され難くなる傾向がある。
【0032】
工程(II)は、工程(I)で調整した溶液を溶融混練し、得られた溶融混練物をダイより押出し、冷却固化してゲル状成形物を得る。好ましくはポリオレフィン組成物の融点乃至融点+65℃の温度範囲においてダイより押出して押出物を得、ついで前記押出物を冷却してゲル状成形物を得る。
【0033】
成形物としてはシート状に賦形することが好ましい。冷却は水溶液または有機溶媒へのクエンチでもよいし、冷却された金属ロールへのキャスティングでもどちらでもよいが、一般的には水またはゾル・ゲル溶液時に使用した揮発性溶媒へのクエンチによる方法が使用される。冷却温度は10〜40℃が好ましい。なお、水浴の表層に水流を設け、水浴中でゲル化したシートの中から放出されて水面に浮遊する混合溶剤がシートに再び付着しないようにしながらゲル状シートを作製することが好ましい。
【0034】
工程(III)はゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸する前にゲル状成形物内の溶媒の一部を予め絞り出す工程である。工程(III)の工程では、例えば、上下2つのベルトやローラーの間隙を通過させる等の方法により、ゲル状成形物の面に圧力をかけることにより、好適に実施することが可能である。絞り出す溶媒の量は、ポリオレフィン微多孔膜に要求される液体透過性能や濾過対象物の除去性能により、調整する必要があるが、その調整は上下のベルトやローラー間の押し圧力や絞り出し工程の温度、押し回数により適正な範囲に調整することができる。なお、ゲル状成形物が受ける圧力が、ベルト等の面状体で行う場合は0.1〜2.0MPaとなるように調整することが好ましく、ローラー等で行う場合は、2〜45kgf/mで実施することが好ましい。絞り出し温度は40〜100℃であることが好ましい。また、押し回数は、設備の許容スペースによるため、特に制限なく実施することは可能である。なお、必要に応じて、溶媒の絞り出し前に一段または複数段の予備加熱を行い、一部の揮発性溶媒をシート内から除去してもよい。その場合、予備加熱温度は50〜100℃が好ましい。
【0035】
工程(IV)は、ゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸する工程である。ここで工程(IV)の延伸は、二軸延伸が好ましく、縦延伸、横延伸を別々に実施する逐次二軸延伸、縦延伸、横延伸を同時に実施する同時二軸延伸、いずれの方法も好適に用いることが可能である。また縦方向に複数回延伸した後に横方向に延伸する方法、縦方向に延伸し横方向に複数回延伸する方法、逐次二軸延伸した後にさらに、縦方向および/または横方向に1回もしくは複数回延伸する方法も好ましい。
【0036】
延伸倍率(縦延伸倍率と横延伸倍率の積)は、ポリオレフィン微多孔膜の液体透過性能と濾過対象物の除去性能を制御する観点から、好ましくは40〜120倍であり、より好ましくは50〜100倍である。延伸倍率を大きくすると、ポリオレフィン微多孔膜の製膜において切断の発生頻度が増加する傾向がある。また、延伸倍率を低くすると厚み斑が大きくなる傾向がある。延伸は、溶媒を好適な状態に残存させた状態で行うことが前述したように好ましい。延伸温度は80〜125℃が好ましい。
【0037】
また(IV)の延伸工程に次いで熱固定処理を行っても良い。熱固定温度は、ポリオレフィン微多孔膜の液体透過性能と濾過対象物の除去性能を制御する観点から、110〜143℃であることが好ましい。熱固定温度を高くすると、ポリオレフィン微多孔膜の濾過対象物の除去性能が顕著に悪化する傾向があり、熱固定温度を低くすると液体透過性能が顕著に小さくなる傾向がある。
【0038】
工程(V)は延伸した中間成形物の内部から溶媒を抽出洗浄する工程である。ここで、工程(V)は、延伸した中間成形物(延伸フィルム)の内部から溶媒を抽出するために、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素やヘキサン等の炭化水素の溶媒で洗浄することが好ましい。溶媒を溜めた槽内に浸漬して洗浄する場合は、20〜150秒の時間を掛けることが、溶出分が少ないポリオレフィン微多孔膜を得るために好ましく、より好ましくは30〜150秒であり、特に好ましくは30〜120秒である。さらに、より洗浄の効果を高めるためには、槽を数段に分け、ポリオレフィン微多孔膜の搬送工程の下流側から、洗浄溶媒を注ぎ入れ、工程搬送の上流側に向けて洗浄溶媒を流し、下流槽における洗浄溶媒の純度を上流層のものよりも高くすることが好ましい。また、ポリオレフィン微多孔膜への要求性能によっては、アニール処理により熱セットを行っても良い。なお、アニール処理は、工程での搬送性等の観点から50〜150℃で実施することが好ましく、50〜140℃がさらに好ましい。
この製法により、優れた液体透過性能と優れた濾過対象物の除去性能を併せ持ち、かつ、低溶出のポリオレフィン微多孔膜を提供することが可能になる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例、比較例および各種測定方法について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
[測定方法]
(クッション率)
ダイアルゲージ(三豊製作所製)に直径10mm平型の標準測定子を取り付け、ポリオレフィン微多孔膜の厚みを測定するに当たり、50g荷重を加えた場合の厚みT1(μm)と500g荷重を加えた場合の厚みT2(μm)を測定し、下記式によりクッション率を求めた。
クッション率(%)=(1−T2/T1)×100
なお、厚み測定は荷重を加えた後、30秒後に測定を行った。この測定は測定位置を変えて10点を測定し、その平均値を用いた。
【0041】
(熱収縮率)
ポリオレフィン微多孔膜を各辺が長手方向(MD)と幅方向(TD)に平行になるように100mm四方の大きさに切出し、温度を130℃に調節したオーブン内に1時間放置した後の幅方向(TD)の収縮率(寸法変化率)を下記式により算出した。
熱収縮率(%)=(|熱処理前寸法−熱処理後寸法|/熱処理前寸法)×100
【0042】
(孔閉塞温度)
非イオン性界面活性剤(花王社製;エマルゲン210P)を3重量%溶解したメタノール溶液に切り出したポリオレフィン微多孔膜基材を浸漬し、風乾した。風乾したサンプルを所定の大きさのSUS板に挟み、電解液である1MのLiBF プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1重量比)を含浸させた。これを2032型コインセルに封入した。コインセルからリード線をとり、熱電対を付けてオーブンの中に入れ、昇温速度1.6℃/分で昇温させながら、交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて、該セルの抵抗を測定した。抵抗値が1000Ω・cmに達した時点の温度を孔閉塞温度とした。
【0043】
(バブルポイント)
ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイントは、ASTM E−128−61に準拠し、測定溶媒にエタノールを用いて測定した。
【0044】
(厚さ)
接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にてポリオレフィン微多孔膜の膜厚を20点測定し、これらを平均することで求めた。ここで接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。測定圧は0.1Nとした。
【0045】
(空孔率)
ポリオレフィン微多孔膜の空孔率(ε)は、下記式により算出した。
ε(%)={1−Ws/(ds・t)}×100
Ws:ポリオレフィン微多孔膜の目付け(g/m
ds:ポリオレフィンの真密度(g/cm
t:ポリオレフィン微多孔膜の膜厚(μm)
なお、ポリオレフィン微多孔膜の目付けは、サンプルを10cm×10cmに切り出し、その質量を測定し、質量を面積で割ることで目付を求めた。
【0046】
(透水性能(水流量))
予めポリオレフィン微多孔膜をエタノールに浸漬し、室温下で乾燥した。このポリオレフィン微多孔膜を、直径37mmのステンレス製の透液セル(透液面積Scm)にセットした。透液セル上の該ポリオレフィン微多孔膜を少量(0.5ml)のエタノールで湿潤させた後、90kPaの差圧で予め計量した純水V(100ml)を透過させて、純水全量が透過するのに要した時間Tl(min)を計測した。その純水の液量と純水の透過に要した時間から、90kPa差圧下における単位時間(min)・単位面積(cm)当たりの透水量Vsを以下の式より計算し、これを透水性能(ml /min・cm) とした。測定は室温24℃ の温度雰囲気下で行った。
Vs=V/(Tl×S)
【0047】
(捕集性能)
下記粒子(1)〜(3)のいずれかを含有する水溶液100mlを、差圧10kPaでポリオレフィン微多孔膜を介してろ過を行った。ろ過前の粒子を含む水溶液100mlの質量(M1)とポリオレフィン微多孔膜を通過したろ液の質量(M2)との差から、下記(式1)または(式2)により粒子の捕集率を求めた。(式1)は、粒子(1)を用いた場合の捕集率の計算式である。(式2)は、粒子(2)または粒子(3)を用いた場合の捕集率の計算式である。なお、捕集率が90%以上である場合を最良(◎)、80%以上90%未満の場合を良好(○)、80%未満の場合を不良(×)と判定した。
粒子(1)金コロイド 平均粒子径 3nm 粒子濃度0.0045質量%
粒子(2)ポリスチレン粒子 平均粒子径30nm 粒子濃度0.1質量%
粒子(3)ポリスチレン粒子 平均粒子径70nm 粒子濃度0.1質量%
捕集率(%)=((M1−M2)/(M1×45×10−6))×100 …(式1)
捕集率(%)=((M1−M2)/(M1×0.1×10−2))×100…(式2)
【0048】
(透水量変化率(送液安定性))
予めポリオレフィン微多孔膜をエタノールに浸漬し、室温下で乾燥した。このポリオレフィン微多孔膜を、直径37mmのステンレス製の透液セル(透液面積Scm)に0.5mm間隔に5枚を重ねてセットし、透液セル上の該ポリオレフィン微多孔膜を少量(0.5ml)のエタノールで湿潤させた後、40kPaの差圧下で純水200mlを透過させ、全量が透過するのに要した時間(T1)を計測し、その後直ちに差圧状態を開放した。引き続き同一サンプルを使って、40kPaの差圧下で純水200mlを透過させ、直ちに差圧を開放する操作を100回繰り返した。100回目の純水200mlの透過に要した時間(T100)を計測して、以下の式より計算し、透水量変化率(%)とした。なお、透水量変化率が10%以下である場合を最良(◎)、10%超15%以下の場合を良好(○)、15%超の場合を不良(×)と判定した。
透水量変化率(%)= (T100−T1)/Tl × 100
【0049】
(破膜耐性)
予めポリオレフィン微多孔膜をエタノールに浸漬し、室温下で乾燥した。このポリオレフィン微多孔膜を、直径37mmのステンレス製の透液セル(透液面積Scm)に1.0mm間隔に3枚を重ねてセットし、30kPaの差圧下でエタノール100mlを透過させ、全量透過後直ちに差圧を開放した。引き続き同一サンプルを使って、30kPaの差圧下でエタノール100mlを透過させ、直ちに差圧を開放する操作を200回繰り返した。その間に破膜が発生しなかったものを破膜耐性が良好(○)と判断し、その間に破膜が発生したものを破膜耐性が不良(×)と判断した。
【0050】
(耐溶出性)
ポリオレフィン微多孔膜を塩化メチレンに所定の時間浸漬した後に、ポリオレフィン微多孔膜を取り除き、浸漬後の塩化メチレン溶液の重量を計測した。これとは別に前述した計測した重量と継続同重量の新品の塩化メチレンを準備し、各々から塩化メチレンを蒸発させて完全に溶媒を除去した(乾固)後に、各々の重量を測定した。新品の塩化メチレンを完全に除去した後の重量増分を基準として、ポリオレフィン微多孔膜を浸漬した後の塩化メチレン溶液を乾固させた後の重量増分の比を算出し、1.05倍以下を耐溶出性が良好(ろ液汚染なし、○)と判断し、1.05倍を超える場合を耐溶出性が不良(×)と判断した。
【0051】
(実施例1)
重量平均分子量が460万の超高分子量ポリエチレン(PE1)6重量部と、重量平均分子量が56万の高密度ポリエチレン(PE2)22重量部とを混合したポリエチレン組成物を用いた。ポリエチレン樹脂総量の濃度が28重量%となるようにして、予め準備しておいた流動パラフィン69重量部とデカリン(デカヒドロナフタレン)3重量部の混合溶剤と混ぜ、ポリエチレン溶液を調製した。
このポリエチレン溶液を温度160℃でダイよりシート状に押出し、ついで前記押出物を水浴中で25℃で冷却するとともに、水浴の表層に水流を設け、水浴中でゲル化したシートの中から放出されて水面に浮遊する混合溶剤がシートに再び付着しないようにしながら、ゲル状シート(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを55℃で10分、さらに、95℃で10分乾燥してデカリンをベーステープ内から除去した後、引き続き、85℃に加熱したローラー上を20kgf/mの押圧を掛けながら搬送させて、ベーステープ内から流動パラフィンの一部を除去した。その後、該ベーステープを長手方向に温度100℃にて倍率5.8倍で延伸し、引き続いて幅方向に温度100℃にて倍率14倍で延伸し、その後直ちに118℃で熱処理(熱固定)を行った。
次にこれを2槽に分かれた塩化メチレン浴にそれぞれ30秒間ずつ連続して該ベーステープを浸漬させながら、流動パラフィンを抽出した。なお、浸漬を開始する側を第1槽とし、浸漬を終了する側を第2槽とした場合の洗浄溶媒の純度は(低)第1層<第2槽(高)とした。その後、45℃で塩化メチレンを乾燥除去し、110℃に加熱したローラー上を搬送させながらアニール処理をすることでポリオレフィン微多孔膜を得た。
得られたポリオレフィン微多孔膜は、粒径3nmの金コロイド粒子の捕集率が90%以上の優れた捕集性能を有し、優れた送液安定性を有し、かつ優れた破膜耐性を有するポリオレフィン微多孔膜であった。
上記の製造条件を表1に示し、得られたポリオレフィン微多孔膜の物性を表2に示す。なお、以下の実施例および比較例についても同様に、表1,2にまとめて示す。
【0052】
(実施例2)
実施例1において、ベーステープを40℃に加熱したローラー上で40kgf/mの押圧を掛けながら搬送させて、ベーステープ内から流動パラフィンの一部を除去した後、長手方向に温度90℃にて倍率5.8倍で延伸し、引き続いて幅方向に温度90℃にて倍率14倍で延伸し、その後直ちに124℃で熱処理(熱固定)を行った以外は同様にポリオレフィン微多孔膜を得た。
得られたポリオレフィン微多孔膜は、粒径3nmの金コロイド粒子の捕集率が80%以上の優れた捕集性能を有し、優れた送液安定性を有し、かつ優れた破膜耐性を有するポリオレフィン微多孔膜であった。
【0053】
(実施例3)
実施例1において、重量平均分子量が460万の超高分子量ポリエチレン(PE1)8重量部と、重量平均分子量が56万の高密度ポリエチレン(PE2)22重量部とを混合したポリエチレン組成物を用いて、ポリエチレン樹脂総量の濃度が30重量%となるようにして、予め準備しておいた流動パラフィン55重量部とデカリン(デカヒドロナフタレン)15重量部の混合溶剤と混ぜ、ポリエチレン溶液を調製し、押出により得られたゲル状シートを長手方向に4倍、横方向に15倍で延伸した以外は同様にポリオレフィン微多孔膜を得た。
得られたポリオレフィン微多孔膜は、粒径3nmの金コロイド粒子の捕集率が90%以上の優れた捕集性能を有し、優れた送液安定性を有し、かつ優れた破膜耐性を有するポリオレフィン微多孔膜であった。
【0054】
(実施例4)
重量平均分子量が460万の超高分子量ポリエチレン(PE1)12重量部と、重量平均分子量が56万の高密度ポリエチレン(PE2)8重量部とを混合したポリエチレン組成物を用いた。ポリエチレン樹脂総量の濃度が20重量%となるようにして、予め準備しておいた流動パラフィン55重量部とデカリン(デカヒドロナフタレン)25重量部の混合溶剤と混ぜ、ポリエチレン溶液を調製した。
このポリエチレン溶液を温度160℃でダイよりシート状に押出し、ついで前記押出物を水浴中で25℃で冷却するとともに、水浴の表層に水流を設け、水浴中でゲル化したシートの中から放出されて水面に浮遊する混合溶剤がシートに再び付着しないようにしながら、ゲル状シート(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを55℃で10分、さらに、95℃で10分乾燥してデカリンをベーステープ内から除去した後、引き続き、85℃に加熱したローラー上を20kgf/mの押圧を掛けながら搬送させて、ベーステープ内から流動パラフィンの一部を除去した。その後、該ベーステープを長手方向に温度100℃にて倍率5倍で延伸し、引き続いて幅方向に温度100℃にて倍率14倍で延伸し、その後直ちに128℃で熱処理(熱固定)を行った。
次にこれを2槽に分かれた塩化メチレン浴にそれぞれ30秒間ずつ連続して浸漬させながら、流動パラフィンを抽出した。なお、浸漬を開始する側を第1槽とし、浸漬を終了する側を第2槽とした場合の洗浄溶媒の純度は(低)第1層<第2槽(高)である。その後、45℃で塩化メチレンを乾燥除去し、110℃に加熱したローラー上を搬送させながらアニール処理をすることでポリオレフィン微多孔膜を得た。
得られたポリオレフィン微多孔膜は、粒径30nmのポリスチレン粒子の捕集率が90%以上の優れた捕集性能を有し、優れた送液安定性を有し、かつ優れた破膜耐性を有するポリオレフィン微多孔膜であった。
【0055】
(実施例5)
重量平均分子量が460万の超高分子量ポリエチレン(PE1)6.5重量部と、重量平均分子量が56万の高密度ポリエチレン(PE2)18.5重量部とを混合したポリエチレン組成物を用いた。ポリエチレン樹脂総量の濃度が25重量%となるようにして、予め準備しておいた流動パラフィン50重量部とデカリン(デカヒドロナフタレン)25重量部の混合溶剤と混ぜ、ポリエチレン溶液を調製した。
このポリエチレン溶液を温度160℃でダイよりシート状に押出し、ついで前記押出物を水浴中で25℃で冷却するとともに、水浴の表層に水流を設け、水浴中でゲル化したシートの中から放出されて水面に浮遊する混合溶剤がシートに再び付着しないようにしながら、ゲル状シート(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを55℃で10分、さらに、95℃で10分乾燥してデカリンをベーステープ内から除去した後、引き続き、95℃に加熱したローラー上を10kgf/mの押圧を掛けながら搬送させて、ベーステープ内から流動パラフィンの一部を除去した。その後、該ベーステープを長手方向に温度100℃にて倍率6倍で延伸し、引き続いて幅方向に温度100℃にて倍率12倍で延伸し、その後直ちに136℃で熱処理(熱固定)を行った。
次にこれを2槽に分かれた塩化メチレン浴にそれぞれ30秒間ずつ連続して浸漬させながら、流動パラフィンを抽出した。なお、浸漬を開始する側を第1槽とし、浸漬を終了する側を第2槽とした場合の洗浄溶媒の純度は(低)第1層<第2槽(高)である。その後、45℃で塩化メチレンを乾燥除去し、110℃に加熱したローラー上を搬送させながらアニール処理をすることでポリオレフィン微多孔膜を得た。
得られたポリオレフィン微多孔膜は、粒径70nmのポリスチレン粒子の捕集率が90%以上の優れた捕集性能を有し、優れた送液安定性を有し、かつ優れた破膜耐性を有するポリオレフィン微多孔膜であった。
【0056】
(比較例1)
重量平均分子量が460万の超高分子量ポリエチレン(PE1)32重量部と、重量平均分子量が56万の高密度ポリエチレン(PE2)8重量部とを混合したポリエチレン組成物を用いた。ポリエチレン樹脂総量の濃度が40重量%となるようにして、予め準備しておいた流動パラフィン60重量部と混ぜ、ポリエチレン溶液を調製した。
このポリエチレン溶液を温度160℃でダイよりシート状に押出し、ついで前記押出物を水浴中で25℃で冷却するとともに、水浴の表層に水流を設け、水浴中でゲル化したシートの中から放出されて水面に浮遊する混合溶剤がシートに再び付着しないようにしながら、ゲル状シート(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを55℃で10分、さらに、95℃で10分乾燥してデカリンをベーステープ内から除去した後、引き続き、85℃に加熱したローラー上を20kgf/mの押圧を掛けながら搬送させて、ベーステープ内から流動パラフィンの一部を除去した。その後、該ベーステープを長手方向に温度100℃にて倍率5.8倍で延伸し、引き続いて幅方向に温度100℃にて倍率14倍で延伸し、その後直ちに105℃で熱処理(熱固定)を行った。
次にこれを2槽に分かれた塩化メチレン浴にそれぞれ30秒間ずつ連続してベーステープを浸漬させながら、流動パラフィンを抽出した。なお、浸漬を開始する側を第1槽とし、浸漬を終了する側を第2槽とした場合の洗浄溶媒の純度は(低)第1層<第2槽(高)である。その後、45℃で塩化メチレンを乾燥除去し、110℃に加熱したローラー上を搬送させながらアニール処理をすることでポリオレフィン微多孔膜を得た。
得られたポリオレフィン微多孔膜は、クッション率が過度に低く、粒径70nmのポリスチレン粒子の捕集率が90%以上の優れた捕集性能を有したが、破膜耐性が不十分であり、液体フィルター用基材として適さなかった。
【0057】
(比較例2)
重量平均分子量が460万の超高分子量ポリエチレン(PE1)2重量部と、重量平均分子量が56万の高密度ポリエチレン(PE2)28重量部とを混合したポリエチレン組成物を用いた。ポリエチレン樹脂総量の濃度が30重量%となるようにして、予め準備しておいた流動パラフィン45重量部とデカリン(デカヒドロナフタレン)25重量部の混合溶剤と混ぜ、ポリエチレン溶液を調製した。
このポリエチレン溶液を温度148℃でダイよりシート状に押出し、ついで前記押出物を水浴中で20℃で冷却し、ゲル状シート(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、さらに、95℃で15分乾燥してデカリンをベーステープ内から除去した。その後、該ベーステープを長手方向に温度90℃にて倍率5.5倍で延伸し、引き続いて幅方向に温度105℃にて倍率11倍で延伸し、その後直ちに130℃で熱処理(熱固定)を行った。
次にこれを塩化メチレン浴に10秒間浸漬させながら、流動パラフィンを抽出した。その後、50℃で塩化メチレンを乾燥除去し、120℃に加熱したローラー上を搬送させながらアニール処理をすることでポリオレフィン微多孔膜を得た。
得られたポリオレフィン微多孔膜は、クッション率が過度に高く、粒径70nmのポリスチレン粒子の捕集率が80%未満であり捕集性能が不十分であり、かつ送液安定性が不十分であり、液体フィルター用基材として適さなかった。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】