【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)研究集会名 2012年度環境都市系(計画系)修士論文公聴会 (2)主催社名 立命館大学 (3)公開日 平成25年2月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
道路(R)にその長手方向に適宜の間隔で形成したピット(2)内に位置する分岐配管(5)に接続され、道路(R)に面する建物に向って散水する延焼防止用散水ノズル(1)であって、前記延焼防止用散水ノズル(1)は、上方が閉塞された縦向きの円筒状に形成され、中心部に下方が開放されて上方へ向うに従って先細りと成るテーパ状の導水穴(1a)を有すると共に、上端面及び外周面の両方にそれぞれ導水穴(1a)に連通する複数の散水口(1b)を形成したノズル本体(1′)を備え、前記ノズル本体(1′)の複数の散水口(1b)は、延焼防止用散水ノズル(1)と対向する建物の少なくとも壁面全体、軒先及び軒裏に散水できるようにその角度、口径及び数がそれぞれ設定されていることを特徴とする延焼防止用散水ノズル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、散水効果により火災の輻射熱を遮断し、且つ建物の壁面を冷却して発火点以下に抑えることができると共に、歴史的価値のある建物に手を加えることなく歴史的な町並みや文化財を延焼火災から守ることができ、また、歴史的な町並みのある地域に多い狭小道路に設置できて消防隊の活動が困難な環境下であっても有効な延焼防止効果を発揮できるようにした延焼防止用散水ノズル及びこれを用いた街路壁面用散水システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1の延焼防止用散水ノズルは、道路にその長手方向に適宜の間隔で形成したピット内に位置する分岐配管に接続され、道路に面する建物に向って散水する延焼防止用散水ノズルであって、前記延焼防止用散水ノズルは、
上方が閉塞された縦向きの円筒状に形成され、中心部に下方が開放されて上方へ向うに従って先細りと成るテーパ状の導水穴を有すると共に、上端面及び外周面の両方にそれぞれ導水穴に連通する複数の散水口を形成したノズル本体を備え、前記ノズル本体の複数の散水口は、延焼防止用散水ノズルと対向する建物の少なくとも壁面全体、軒先及び軒裏に散水できるようにその角度、口径及び数がそれぞれ設定されていることに特徴がある。
【0011】
本発明の請求項2の延焼防止用散水ノズルは、請求項1の発明に於いて、
上方が閉塞された縦向きの円筒状に形成され、中心部に下方が開放されて上方へ向うに従って先細りと成るテーパ状の導水穴を有すると共に、上端面及び外周面の両方にそれぞれ導水穴に連通する複数の散水口を形成したノズル本体と、ピット内の分岐配管に鉛直姿勢で接続され、水圧の加圧、減圧によりノズル本体を昇降自在に支持する昇降支持機構とを備えており、前記ノズル本体の複数の散水口は、延焼防止用散水ノズルと対向する建物の少なくとも壁面全体、軒先及び軒裏に散水できるようにその角度、口径及び数がそれぞれ設定され、また、前記昇降支持機構は、水圧の減圧時にノズル本体がその自重により下降してピット内に収納される収納位置と、水圧の加圧時にノズル本体が水圧により上昇して複数の散水口の全てがピットの開口よりも上方に位置する散水位置とを取り得るようにノズル本体を前記収納位置と散水位置とに亘って昇降自在に支持する構成としたことに特徴がある。
【0012】
本発明の請求項3の延焼防止用散水ノズルは、請求項1又は請求項2に記載の発明に於いて、
ノズル本体の複数の散水口(1b)が、二階建て又は平屋建ての建物の壁面よりも軒先及び軒裏への散水量が多くなるようにその角度、口径及び数がそれぞれ設定されていることに特徴がある。
【0013】
本発明の請求項4の延焼防止用散水ノズルは、請求項1又は請求項3に記載の発明に於いて、
ノズル本体を、差し込み式又はねじ込み式の接続金具によりピット内の分岐配管(5)に着脱自在に接続する配管固定式としたことに特徴がある。
【0014】
本発明の請求項5の延焼防止用散水ノズルは、請求項2又は請求項3記載の発明に於いて、
昇降支持機構を、差し込み式又はねじ込み式の接続金具によりピット内の分岐配管に着脱自在に接続する構成としたことに特徴がある。
【0015】
本発明の請求項6の延焼防止用散水ノズルは、請求項2、請求項3又は請求項5記載の発明に於いて、
昇降支持機構が、ピット内の分岐配管に鉛直姿勢で接続された円筒状又は角筒状のカバー体と、カバー体内に昇降自在に収納支持され、ノズル本体の下端部に接続される円筒状又は角筒状の昇降体と、カバー体と昇降体との間に設けられ、カバー体と昇降体との間をシールするシール部材と、ノズル本体を廻り止めした状態で昇降させると共に、ノズル本体を散水位置に位置決めする位置決め手段とから成り、水圧の加圧時に昇降体がシール部材によりシールされながらノズル本体と一緒に上昇する構成としたことに特徴がある。
【0016】
本発明の請求項7の街路壁面用散水システムは、
道路にその長手方向に適宜の間隔で形成した複数のピットと、各ピットの上方開口を開閉する開閉蓋と、道路にその長手方向に沿って埋設され、上流側端部が水道本管に接続されると共に、下流側部分が各ピット内に位置する分岐配管と、水道本管に最も近いピット内の分岐配管に介設された一斉開放弁と、一斉開放弁を開放操作する起動手段と、水道本管に最も近いピットを除くその他の全てのピット内に配設され、ピット内の分岐配管に接続された請求項1、請求項3又は請求項4の何れかに記載の延焼防止用散水ノズルとから構成したことに特徴がある。
【0017】
本発明の請求項8の街路壁面用散水システムは、
道路にその長手方向に適宜の間隔で形成した複数のピットと、各ピットの上方開口を開閉する開閉蓋と、道路にその長手方向に沿って埋設され、上流側端部が水道本管に接続されると共に、下流側部分が各ピット内に位置する分岐配管と、水道本管に最も近いピット内の分岐配管に介設された一斉開放弁と、一斉開放弁を開放操作する起動手段と、水道本管に最も近いピットを除くその他の全てのピット内に配設され、ピット内の分岐配管5に接続された請求項2、請求項3、請求項5又は請求項6の何れかに記載の延焼防止用散水ノズルとから構成されており、水道本管に最も近いピットの開閉蓋を除くその他の全ての開閉蓋は、昇降自在なノズル本体が通過可能なノズル用昇降口3aを有すると共に、当該ノズル用昇降口を開閉する昇降口用蓋を備え、ノズル本体が水圧により上昇する際に昇降口用蓋が押し上げられてノズル用昇降口が開放される構成としたことに特徴がある。
【0018】
本発明の請求項9の街路壁面用散水システムは、請求項7又は請求項8記載の発明に於いて、
各ピットを道路の幅方向中央位置にそれぞれ形成し、各ピット内に配設した延焼防止用散水ノズルを交互に180度向きを変え、道路の両側の建物へ向ってそれぞれ散水できる構成としたことに特徴がある。
【0019】
本発明の請求項10の街路壁面用散水システムは、請求項7、請求項8又は請求項9記載の発明に於いて、
水道本管に最も近いピット内の分岐配管5に点検用の開閉弁を介設したことに特徴がある。
【発明の効果】
【0021】
本発明の延焼防止用散水ノズル及び街路壁面用散水システムは、次のような優れた効果を奏することができる。
(1)即ち、本発明の延焼防止用散水ノズル及び街路壁面用散水システムは、道路に適宜の間隔で形成した複数のピット内にそれぞれ配設した延焼防止用散水ノズルから道路に面する全ての建物の少なくとも壁面全体、軒先及び軒裏に散水できるため、歴史的な町並みを延焼火災から守ることができる。
(2)本発明の延焼防止用散水ノズル及び街路壁面用散水システムは、延焼防止用散水ノズルを用いて道路側から建物へ向って散水するようにしているため、散水効果により火災の輻射熱を遮断し、且つ建物の壁面を冷却して発火点以下に抑えることができる。即ち、散水により得られる水幕によって、輻射熱の遮断効果と建物の壁面の冷却効果を有することになり、延焼の抑止、防止効果がより効果的に得られる。
特に、本発明の延焼防止用散水ノズル及び街路壁面用散水システムは、下から上へ向けての散水となるため、熱気が溜まり易く、早く発火点に到達する傾向にある建物の軒下の冷却効果を有することになり、延焼の抑止、防止効果がより得られ易くなる。
(3)本発明の延焼防止用散水ノズル及び街路壁面用散水システムは、延焼防止用散水ノズルを構成するノズル本体が複数の散水口を備えており、当該複数の散水口は、その角度、口径及び数が二階建て又は平屋建ての建物の壁面よりも軒先及び軒裏への散水量が多くなるようにそれぞれ設定しているため、建物の延焼の可能性が高い軒下部分(この部分は高温になり易いので延焼し易い)の延焼を抑止、防止することができる。
特に、建物が二階建ての場合、二階の軒先、軒裏に散水された水は、二階の壁面を伝って一階の軒瓦へ流れ、また、一階の軒先、軒裏に散水された水は、一階の壁面を伝って地面へ流れるため、建物の壁面への散水量が少なくても、散水効果と伝い水とにより壁面全体も冷却され、延焼を抑止、防止することができる。
(4)本発明の延焼防止用散水ノズル及び街路壁面用散水システムは、延焼防止用散水ノズルを構成するノズル本体又は昇降支持機構を、差し込み式又はねじ込み式の接続金具によりピット内の分岐配管に着脱自在に接続する構成としているため、ピット内の分岐配管からの延焼防止用散水ノズルの取り外しを簡単且つ容易に行え、延焼防止用散水ノズルの点検作業が容易となる。
(5)本発明の延焼防止用散水ノズル及び街路壁面用散水システムは、道路に埋設状態で設置しているため、歴史的価値のある建物に手を加えることなく歴史的な町並みや文化財を延焼火災から守ることができる。
また、一斉開放弁を開放操作する起動手段もピットや自立した格納箱に収納することができるので、起動手段を建物に設置する必要がなく、歴史的価値のある建物に手を加える必要もなくなる。
(6)本発明の延焼防止用散水ノズル及び街路壁面用散水システムは、延焼防止用散水ノズルを、ノズル本体とノズル本体を水圧の加圧、減圧により昇降自在に支持する昇降支持機構とから構成し、また、ピットの上方開口を開閉する開閉蓋に、ノズル本体が通過可能なノズル用昇降口を形成すると共に、ノズル用昇降口を開閉する昇降口用蓋を設ける構成とした場合、ノズル本体が水圧により上昇する際に昇降口用蓋を押し上げてノズル用昇降口が自動的に開放されることなり、散水のために開閉蓋を一々手で開ける必要もなく、迅速な散水を行える。
(7)本発明の延焼防止用散水ノズル及び街路壁面用散水システムは、道路に複数のピットを形成し、各ピット内に位置する分岐配管に延焼防止用散水ノズルを接続する構成としているため、設置スペースが小さくて済み、道路に常設可能となる。その結果、震災時に道路が寸断されて消防隊の到着が遅れたり、火災が各所で発生したり、或いは消火活動が困難になった場合でも、街路壁面用散水システムを作動させることにより火勢を抑えられると共に、有効な延焼防止効果を発揮することができ、住民の避難や救助が可能となる。
また、延焼防止用散水ノズル及び街路壁面用散水システムを道路の幅方向中央位置に設置し、延焼防止用散水ノズルを交互に180度向きを変えた場合、道路の両側に位置する建物に向って散水することができるので、延焼を抑止、防止できることは勿論のこと、火災が発生した建物自体の火勢を抑制し、遮炎効果も得られる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜
図9は本発明の実施形態に係る延焼防止用散水ノズル1及びこれを用いた街路壁面用散水システムを示し、当該延焼防止用散水ノズル1及び街路壁面用散水システムは、木造住宅等が密集する歴史的な町並みのある地域の道路Rに設置されており、火災発生時に道路Rに所定の間隔で埋設設置した延焼防止用散水ノズル1から道路Rに面する建物の壁面、軒先及び軒裏へ向って散水することによって、火災の輻射熱を遮断し、且つ建物の壁面を冷却して発火点以下に抑え、歴史的な町並みや文化財を延焼火災から守るようにしたものである。
【0024】
即ち、前記街路壁面用散水システムは、
図1に示す如く、道路Rにその長手方向に適宜の間隔で形成した複数のピット2と、各ピット2の上方開口を開閉する開閉蓋3と、道路Rにその長手方向に沿って埋設され、上流側端部が水道本管4に接続されると共に、下流側部分が各ピット2内に位置する分岐配管5と、水道本管4に最も近いピット2内の分岐配管5に介設された一斉開放弁6と、水道本管4に最も近いピット2に設けられ、一斉開放弁6を開放操作する起動手段7と、水道本管4に最も近いピット2内の分岐配管5に介設された点検用の開閉弁8と、水道本管4に最も近いピット2を除くその他の全てのピット2内に配設され、ピット2内の分岐配管5に接続されて道路Rに面する建物の少なくとも壁面全体、軒先及び軒裏へ向って散水する延焼防止用散水ノズル1とから構成されている。
【0025】
具体的には、前記各ピット2は、木造住宅が密集する歴史的な町並みのある地域の道路Rの幅方向中央位置に形成されており、道路Rにコンクリート材及び金属製の枠材等から成る四角筒状のブロック体9を埋設することにより形成されている。
また、各ピット2は、延焼防止用散水ノズル1の散水能力に応じて道路Rにその長手方向に一定の間隔で形成されている。
この実施形態においては、ピット2は、延焼防止用散水ノズル1に散水幅が10mのものを使用しているため、道路Rに10m間隔で形成されている。
【0026】
尚、上記の実施形態においては、各ピット2の形状を平面視において四角形としたが、他の実施形態に於いては、各ピット2の形状を平面視において円形としても良い。
また、上記の実施形態においては、ピット2を道路Rに10m間隔で形成したが、ピット2の間隔はこれに限定されるものではなく、延焼防止用散水ノズル1の散水能力(散水幅)に応じて変わることは勿論である。
【0027】
前記開閉蓋3は、
図2〜
図4に示す如く、金属製の板材及び板材の裏面に固着した補強用の格子状枠材により平面視において四角形状に形成されており、ピット2を形成するブロック体9の上面に載せたり、ブロック体9の上面から取り外したりすることによって、ピット2の上方開口を開閉するものである。
また、水道本管4に最も近いピット2の開閉蓋3を除くその他の全ての開閉蓋3の中央部には、後述する延焼防止用散水ノズル1のノズル本体1′が通過可能な円形のノズル用昇降口3aが形成されている。
更に、開閉蓋3のノズル用昇降口3aの内周縁部には、ノズル用昇降口3aを開閉する円形の昇降口用蓋3bが支持軸3cにより上下方向へ揺動自在に取り付けられている。この昇降口用蓋3bは、延焼防止用散水ノズル1を構成するノズル本体1′が水圧により上昇する際に押し上げられ、ノズル用昇降口3aを開放するようになっている。
【0028】
前記分岐配管5は、道路Rにその長手方向に沿って埋設されており、上流側端部が水道本管4に接続されていると共に、下流側部分が各ピット2を貫通する状態で且つ各ピット2内に水平姿勢で配置されている。
また、各ピット2内(水道本管4に最も近いピット2を除く)に位置する分岐配管5には、延焼防止用散水ノズル1を分岐配管5へ接続するためのチーズ管10が介設されている。
【0029】
前記一斉開放弁6は、
図1に示す如く、水道本管4に最も近いピット2内の分岐配管5に介設されており、常時閉止状態になっている。この一斉開放弁6は、後述する起動手段7を操作することにより開放され、消火に必要な区域の全ての延焼防止用散水ノズル1に送水するものである。
この実施形態においては、一斉開放弁6に減圧型の一斉開放弁6を使用している。
【0030】
尚、上記の実施形態においては、一斉開放弁6に減圧型の一斉開放弁6を使用したが、他の実施形態においては、一斉開放弁6に加圧型の一斉開放弁6を使用するようにしても良く、或いは電動型又は電磁型の一斉開放弁6を使用するようにしても良い。
【0031】
前記起動手段7は、
図1に示す如く、一端部が一斉開放弁6に接続され、他端部がピット2外に位置して排水口になっている起動配管7aと、起動配管7aのピット2外に位置する部分に介設した手動式の起動弁7b(例えば、手動式のコック)とから成り、火災発生時に起動弁7bを開放操作すると、一斉開放弁6内の水が起動配管7aを通して排水口から排水され、一斉開放弁6内が減圧されて開放されるようになっている。
【0032】
尚、上記の実施形態においては、手動式の起動手段7を使用しているが、他の実施形態においては、図示していないが、スプリンクラーヘッドや温度センサー等で電磁弁や電動弁を開放する自動式の起動手段7を使用するようにしても良い。
また、上記の実施形態においては、起動手段7を水道本管4に最も近いピット2に設けるようにしたが、他の実施形態においては、ピット2とは別の自立した格納箱(図示省略)内に収納するようにしても良い。この格納箱は、人や自転車、自動車の通行の邪魔にならないような位置に設置することは勿論である。
【0033】
前記点検用の開閉弁8は、
図1に示す如く、水道本管4に最も近いピット2内に配置されて一斉開放弁6の上流側に接続されており、常時開放状態になっている。この点検用の開閉弁8は、街路壁面用散水システムを点検する際に手動により閉じられ、街路壁面用散水システムへの送水を停止するものである。
この実施形態においては、点検用の開閉弁8に常開型の仕切り弁を使用している。
【0034】
前記延焼防止用散水ノズル1は、
図2及び
図4に示す如く、対向する建物の少なくとも壁面全体、軒先及び軒裏に散水できる複数の散水口1bを備えたノズル本体1′と、ピット2内の分岐配管5に介設したチーズ管10に後述する差し込み式の接続金具11を介して鉛直姿勢で接続され、水圧の加圧、減圧によりノズル本体1′を昇降自在に支持する昇降支持機構1″とから構成されている。
【0035】
具体的には、前記ノズル本体1′は、
図5〜
図7に示す如く、金属材により上方が閉塞された円筒状に形成されており、中心部には、下方が開放されたテーパ状の導水穴1aが形成されていると共に、上端面及び外周面には、それぞれ導水穴1aに連通する複数の散水口1bが形成されている。
また、ノズル本体1′の複数の散水口1bは、必要な散水方向(建物の少なくとも壁面全体、軒先及び軒裏に散水できる方向)が得られるようにその角度、口径及び数がそれぞれ設定されている。
この実施形態においては、ノズル本体1′の複数の散水口1bは、0.25MPa程度の低い水圧で約460リットル/minの散水量を持ち、且つ幅が約10m、高さが約7mの散水エリアをカバーでき、更に、二階建ての建物の壁面よりも二階の軒先、軒裏高さ5m〜6m部分と、一階の軒先、軒裏高さ2m〜3m部分への散水量が多くなるようにその角度、口径及び数がそれぞれ設定されている。
【0036】
尚、
図5において、1cはノズル本体1′の下端部外周面に形成され、ノズル本体1′の下端部を昇降支持機構1″の部材(昇降体)に接続するためのノズル本体1′よりも小径の雄ネジ、1dはノズル本体1′の上端部に形成され、ノズル本体1′が水圧の加圧により上昇する際に昇降口用蓋3bと干渉しないようにしたカット面、1eはノズル本体1′の上端面中央位置に設けられ、ノズル本体1′が水圧の加圧により上昇する際に昇降口用蓋3bの裏面に当接してこれを押し上げる蓋当りである。
【0037】
一方、前記昇降支持機構1″は、
図2及び
図4に示す如く、水圧の減圧時にノズル本体1′がその自重により下降してピット2内に収納される収納位置(
図2に示す位置)と、水圧の加圧時にノズル本体1′が水圧により上昇して複数の散水口1bの全てがピット2の開口よりも上方に位置する散水位置(
図4に示す位置)とを取り得るようにノズル本体1′を前記収納位置と散水位置とに亘って昇降自在に支持するものであり、ピット2内の分岐配管5に介設したチーズ管10に後述する差し込み式の接続金具11を介して鉛直姿勢で接続される円筒状のカバー体12と、カバー体12内に昇降自在に収納支持され、ノズル本体1′の下端部に接続される円筒状の昇降体13と、カバー体12と昇降体13との間に設けられ、カバー体12と昇降体13との間をシールするシール部材14と、ノズル本体1′を廻り止めした状態で昇降させると共に、ノズル本体1′を散水位置に位置決めする位置決め手段15とから成る。
【0038】
即ち、前記カバー体12は、
図5及び
図7に示す如く、昇降体13を収納してこれを昇降自在に支持する円筒状の昇降体用カバー12′と、昇降体用カバー12′の上端部に螺着され、ノズル本体1′を収納してこれを昇降自在に支持する円筒状のノズルガイド用カバー12″とから成り、昇降体用カバー12′の下端部内周面には、差し込み式の接続金具11が接続される雌ネジ12aが形成され、また、ノズルガイド用カバー12″の下端部内周面には、水圧の減圧時にノズル本体1′を収納位置に保持する環状の段部12bが形成されている。
【0039】
前記昇降体13は、
図5及び
図7に示す如く、円筒状に形成されてカバー体12の昇降体用カバー12′内に昇降自在且つ摺動自在に収納支持されており、その上端部内周面には、ノズル本体1′の雄ネジ1cに螺着される雌ネジ13aが形成されている。
【0040】
前記シール部材14は、
図5及び
図7に示す如く、カバー体12の昇降体用カバー12′の段部12b内周面に形成した環状溝12cに嵌合されており、昇降体13がカバー体12の昇降体用カバー12′内を昇降する際にカバー体12と昇降体13との間をシールするものである。このシール部材14には、U型のパッキンが使用されている。
【0041】
前記位置決め手段15は、
図5及び
図7に示す如く、ノズル本体1′の外周面に軸線方向に沿って形成され、下端部が閉塞された一対の昇降用キー溝1fと、カバー体12の昇降体用カバー12′の上端部に半径方向へ挿着され、前記昇降用キー溝1fに摺動自在に嵌合される一対の停止用ビス15aとから成り、水圧の加圧時、減圧時にノズル本体1′を廻り止めした状態で昇降自在に支持すると共に、ノズル本体1′が水圧により上昇したときに停止用ビス15aが昇降用キー溝1fの下端内面に当接してノズル本体1′を散水位置に位置決めするようになっている。
【0042】
そして、上述した昇降支持機構1″は、
図1に示す如く、そのカバー体12が差し込み式の接続金具11によりピット2内の分岐配管5に介設したチーズ管10に着脱自在に接続されており、分岐配管5から取り外して点検できるようになっている。
前記差し込み式の接続金具11には、昇降支持機構1″のカバー体12に螺着された差し込み式の雌型金具11aと、チーズ管10に接続されて雌型金具11aに着脱自在に差し込まれる雄型金具11bとから成る従来公知の消防用の町野式(登録商標)の接続金具が使用されている。
【0043】
尚、前記延焼防止用散水ノズル1は、
図8(A)及び(B)に示す如く、道路Rに10mで間隔で設置し、道路Rの片側に位置する建物へ向けて散水するようにしても良く、また、
図9(A)及び(B)に示す如く、道路Rに5mで間隔で設置し、一つ置きごとに180度向きを変え、道路Rの両側に位置する建物に向ってそれぞれ散水するようにしても良く、或いは、図示していないが、延焼防止用散水ノズル1を10mで間隔で且つ二列の状態で道路Rに設置し、道路Rの両側に位置する建物に向ってそれぞれ散水するようにしても良い。
【0044】
次に、上述した延焼防止用散水ノズル1及び街路壁面用散水システムを用いて木造住宅等が密集する歴史的な町並みを延焼火災から守る場合について説明する。
【0045】
尚、平常時には、延焼防止用散水ノズル1及び一斉開放弁6等を収納するピット2の上方開口が開閉蓋3により閉鎖されており、人や自転車、自動車の通行に支障を来たさないようにしている。また、一斉開放弁6及び起動手段7の起動弁7bは、閉鎖状態になっていると共に、点検用の開閉弁8は、開放状態になっている。
【0046】
そして、建物に火災が発生した場合、使用者は水道本管4に最も近いピット2に設けた起動手段7の起動弁7bを開放する。そうすると、一斉開放弁6が開放され、水道本管4から分岐配管5に水が送られると共に、道路Rに10m間隔で設けた各ピット2内に収納した延焼防止用散水ノズル1へ送水が開始される。
【0047】
延焼防止用散水ノズル1へ送水が開始されると、水圧により昇降支持機構1″内のノズル本体1′が収納位置から上昇し、開閉蓋3の昇降口用蓋3bを押し上げると共に、散水位置まで上昇してその位置で位置決め手段15より位置決めされ、この状態でノズル本体1′から道路Rに面する建物の壁面全体、軒先及び軒裏へ向って散水が開始される。
【0048】
このとき、ノズル本体1′は、0.25MPa程度の低い水圧で約460リットル/minの散水量を持ち、且つ幅が約10mで高さが約7mの散水エリアへ散水できるように設定されていると共に、道路Rに10m間隔で設置されているため、町並みを構成する各建物の道路Rに面する壁面全体、軒先及び軒裏に散水することができ、町並みを延焼火災から守ることができる。
また、ノズル本体1′の散水パターンは、二階建ての建物の壁面よりも二階の軒先、軒裏高さ5m〜6m部分と、一階の軒先、軒裏高さ2m〜3m部分への散水量が多くなるように設定されているため、延焼の可能性が高い部分の延焼を抑止、防止することができる。
特に、二階の軒先、軒裏に散水された水は、二階の壁面を伝って一階の軒瓦へ流れ、また、一階の軒先、軒裏に散水された水は、一階の壁面を伝って地面へ流れるため、建物の壁面への散水量が少なくても、散水効果と伝い水とにより壁面全体も冷却され、延焼を抑止、防止することができる。
【0049】
このように、上述した延焼防止用散水ノズル1及び街路壁面用散水システムは、道路Rに適宜の間隔で形成した複数のピット2内にそれぞれ配設した延焼防止用散水ノズル1から道路Rに面する全ての建物の少なくとも壁面全体、軒先及び軒裏に散水できるため、歴史的な町並みを延焼火災から守ることができる。
また、延焼防止用散水ノズル1及び街路壁面用散水システムは、道路Rに埋設状態で設置しているため、歴史的価値のある建物に手を加えることなく歴史的な町並みや文化財を延焼火災から守ることができる。しかも、一斉開放弁6を開放操作する起動手段7も水道本管4に最も近いピット2に設けているので、建物に設置する必要がなく、歴史的価値のある建物に手を加える必要もなくなる。
更に、延焼防止用散水ノズル1及び街路壁面用散水システムは、延焼防止用散水ノズル1を、ノズル本体1′とノズル本体1′を水圧の加圧、減圧により昇降自在に支持する昇降支持機構1″とから構成し、また、ピット2の上方開口を開閉する開閉蓋3に、ノズル本体1′が通過可能なノズル用昇降口3aを形成すると共に、ノズル用昇降口3aを開閉する昇降口用蓋3bを設ける構成としているため、ノズル本体1′が水圧により上昇する際に昇降口用蓋3bが押し上げられてノズル用昇降口3aが自動的に開放されることになり、散水のために開閉蓋3を一々手で開ける必要もなく、迅速な散水を行える。
そのうえ、延焼防止用散水ノズル1及び街路壁面用散水システムは、延焼防止用散水ノズル1を用いて道路R側から建物へ向って散水するようにしているため、散水効果により火災の輻射熱を遮断し、且つ建物の壁面を冷却して発火点以下に抑えることができる。即ち、散水により得られる水幕によって、輻射熱の遮断効果と建物の壁面の冷却効果を有することになり、延焼の抑止、防止効果がより効果的に得られる。
特に、下から上へ向けての散水となるため、熱気が溜まり易く、早く発火点に到達する傾向にある建物の軒下の冷却効果を有することになり、延焼の抑止、防止効果がより得られ易くなる。
加えて、延焼防止用散水ノズル1及び街路壁面用散水システムは、道路Rに複数のピット2を形成し、各ピット2内に位置する分岐配管5に延焼防止用散水ノズル1を接続する構成としているため、設置スペースが小さくて済み、道路Rに常設可能となる。その結果、震災時に道路Rが寸断されて消防隊の到着が遅れたり、火災が各所で発生したり、或いは消火活動が困難になった場合でも、街路壁面用散水システムを作動させることにより火勢を抑えられると共に、有効な延焼防止効果を発揮することができ、住民の避難や救助が可能となる。
特に、延焼防止用散水ノズル1及び街路壁面用散水システムを道路Rの幅方向中央位置に設置し、延焼防止用散水ノズル1を交互に180度向きを変えた場合、道路Rの両側に位置する建物に向って散水することができるので、延焼を抑止、防止することは勿論のこと、火災が発生した建物自体の火勢を抑制し、遮炎効果も得られる。
【0050】
ところで、本件発明者及び本件出願人は、歴史的な木造密集市街地を延焼火災から守るため、延焼防止用散水ノズル1及びこれを用いた街路壁面用散水システムの開発を行うと共に、開発した延焼防止用散水ノズル1と実物大の町屋模型16を用いて様々な延焼抑止実験を行った。
【0051】
即ち、延焼防止用散水ノズル1による町屋模型16への壁面散水量の測定、散水の有無による町屋模型16の温度変化、加熱位置ごとのそれぞれの温度変化、軒下の防火対策(耐火ボード)の有無による温度変化等をそれぞれ実験により調べた。
【0052】
開発した延焼防止用散水ノズル1は、延焼抑止に必要な散水量(安全率を見込んで2リットル/m
2・分の散水量)が得られるようにし、また、散水方式を固定式とし、更に、散水荷重による破壊の可能性を考慮せず、一つのノズルに噴出口を多数設けて散水効率を向上させると同時にコンパクト化を図った。
【0053】
壁面散水量の測定としては、先ず、建物の必要壁面に均一な散水量が得られる延焼防止用散水ノズル(図示省略)を用いて実物大の二階建て町屋模型16に散水実験を行った。
このときの延焼防止用散水ノズルは、実物大の町屋模型16から5m離れた位置の地面に設置し、散水幅を10m、散水高さを6m、壁面散水量を2リットル/m
2・分以上、放水水量を500リットル/分以上、放水圧力を0.25MPaにそれぞれ設定した。
【0054】
散水実験の結果、建物の必要壁面に均一な散水量が得られる延焼防止用散水ノズルを用いた場合、実物大の町屋模型16の二階及び一階の軒裏に水がほぼかかっていないことが目視により確認された。これにより、軒の高さに重点的に散水が必要なことが判明した。
【0055】
次に、建物の二階の軒裏と一階の軒裏へ重点的に散水を行える延焼防止用散水ノズル1(
図5〜
図7に示す延焼防止用散水ノズル1のノズル本体1′)を用いて実物大の二階建ての町屋模型16に散水実験を行い、壁面1m
2当たりに対する散水量を計測した。
【0056】
図10は前記散水実験を示す概略説明図であり、この散水実験は、実物大の二階建ての町屋模型16の前方位置にやぐら17を建て、このやぐら17に水量測定機器18を取り付け、地面に設置したノズル本体1′から町屋模型16に向って散水し、前記水量測定機器18で散水量を測定するようにしたものである。
【0057】
尚、計測時間は、1分間とした。また、ノズル本体1′を二つ使用すると共に、ノズル本体1′の距離間隔を10mとし、二つのノズル本体1′のほぼ中間位置を散水量の測定位置とした。更に、ノズル本体1′は、一つにつき約460リットル/分の放水量とした。そして、二つのノズル本体1′は、水量測定機器18から5m離れた位置の地面に設置し、散水幅を10m、散水高さを6m、壁面散水量を2リットル/m
2・分以上、放水圧力を0.25MPaにそれぞれ設定した。
【0058】
下記の表1は、実物大の二階建て町屋模型16における壁面散水量の測定結果を示すものであり、また、図は表1の結果をグラフ化したものである。
【0060】
前記表1の実験結果からも明らかなように、建物の一階の軒裏及び二階の軒裏に対応する2m、3m、5mの高さに対して他の高さよりも多くの壁面散水量が得られた。その結果、建物の軒裏への重点的な散水が行えていることが判明した。
また、必要壁面散水量が2リットル/m
2・分以上の箇所が建物の2m〜6mの高さ部分に多く得られた。
更に、建物の幅10m、高さ6mの範囲、ほぼ全ての位置で必要散水量を満たしていることが判明した。
従って、本発明では、表1の壁面散水量が得られる
図5〜
図7に示す延焼防止用散水ノズル1(ノズル本体1′)を採用した。
【0061】
次に、実物大の二階建ての町屋模型16と、開発した延焼防止用散水ノズル1(
図5〜
図7に示す延焼防止用散水ノズル1のノズル本体1′)と、二階建ての町屋模型16を加熱する加熱機器19とを用い、実物大の二階建ての町屋模型16に対し、加熱機器19により実際の火災環境下を想定した加熱を行いながら、ノズル本体1′により散水を行うことで、実物大サイズの建物に対しての延焼抑止効果を調べた。
即ち、実験により二階建ての町屋模型16への散水の有無による温度変化、加熱位置ごとのそれぞれの温度変化、軒下の防火対策(耐火ボード)の有無による温度変化をそれぞれ調べた。
尚、延焼抑止効果の評価に関しては、実物大の二階建ての町屋模型16の木材表面に熱電対20を設置し、熱電対20で測定した温度変化により評価した。
【0062】
図12は実物大の町屋模型16を用いた実験によるノズル本体1′の延焼抑止効果を確かめるための実験を示す概略説明図であり、この実験は、実物大の二階建ての町屋模型16の前方位置にやぐら17を建て、このやぐら17に加熱機器19を取り付けて加熱機器19により町屋模型16を加熱し、町屋模型16に取り付けた熱電対20により地面に設置したノズル本体1′からの散水の有無による町屋模型16の温度変化、加熱位置ごとのそれぞれの温度変化、軒下の防火対策の有無による温度変化をそれぞれ測定するようにしたものである。
【0063】
図12の実験に用いる加熱機器19としては、延焼環境の再現のため、防火性能試験に近い加熱温度を再現できるものを使用した。
この実験においては、加熱機器19には、約850℃で加熱を行える性能を有するもの、即ち、プロパンガスを燃料とする9個のガスバーナーを縦横350mmの間隔で田の字状に配置して成る加熱機器19を使用し、この加熱機器19を実物大の二階建ての町屋模型16の前方に設置したやぐら17に取り付けた。
尚、ガスの圧力は、0.35MPaで一定とした。また、加熱機器19と試験体である二階建ての町屋模型16との距離(水平距離)は、約850℃の温度が得られる80cmに設定した。
【0064】
また、
図12の実験に用いるノズル本体1′は、実物大の二階建ての町屋模型16から5m離れた地上0mの位置に設置し、放水圧力を0.25MPaに設定した。
このノズル本体1′は、散水幅を10mに設定していることから、二個使用し、二つのノズル本体1′を10m間隔で、且つその中央の位置に実物大の二階建て町屋模型16が位置するように配置した。
【0065】
更に、
図12の実験に用いる実物大の二階建ての町屋模型16は、伝統的な木造構造物の特徴、例えば、軒や窓枠格子、外壁の板張り(下見板張り)等を備えた実物大の二階建ての模型外壁面を作製し、これを二階建て町屋模型16としている。
また、火災に対して脆弱である軒裏の防火対策として、軒裏に耐火ボードを張った実物大の二階建ての町屋模型16も用意した。
【0066】
更に、
図12の実験に用いる熱電対20は、実物大の二階建ての町屋模型16の木材の表面温度の変化を確認するため、木材の表面に接着により取り付けた。
【0067】
尚、実験の順序としては、次の(1)〜(7)に示す順序で行った。
(1)町屋模型16の試験箇所、例えば、町屋模型16の上段部分(二階の軒下部分)、中段部分(二階の壁面部分)、下段部分(一階の軒下部分)にそれぞれ熱電対20を設置する。
(2)ノズル本体1′から町屋模型16に向かって放水し、その放水圧力、放水流量を調節する。
(3)ノズル本体1′からの放水を一度停止する。
(4)加熱機器19を形成するガスバーナーに着火する。
(5)ノズル本体1′からの放水を再開する。
(6)加熱機器19を取り付けているやぐら17を設定位置(ガスバーナーの先端と町屋模型16のとの水平距離が80cmになる位置)まで移動させる。
(7)温度上昇が収束するまで加熱機器19により町屋模型16の上段部分又は中段部分若しくは下段部分を加熱する(加熱時間の上限は7分とする)。
【0068】
上述した実験の結果、散水の有無による温度変化を見ると、散水ありでは、一時的に木材の着火限界温度(約260℃)を越える測定点があったが、着火することはなかった。また、散水なしでは、明らかに着火限界温度を超えている測定点があり、このことから散水することで温度の上昇を抑制し、着火に至らないことが判明した。
【0069】
また、実験の結果、加熱位置ごとの温度変化を見ると、上段部分(二階の軒下部分)では、二階軒下が高温になり易く、温度が着火限界温度(約260℃)を超えている測定点があった。
しかし、着火限界温度を超えた測定点の周囲に散水が行われていることから、着火まで至らず、若しくは着火してもすぐに散水により消火されていることが目視により確認された。
また、中段部分(二階の壁面部分)では、加熱位置に軒下等の高温になり易い部分が存在しないため、ほぼ100℃を超えない値が継続することが判明した。
その結果、壁面への延焼抑止効果は明らかである。
更に、下段部分(一階の軒下部分)では、上段部分と同じく軒下が高温になり易く、温度が着火限界温度である約260℃を前後している測定点があることが確認された。
そのため、万が一の危険性を考慮し、他の防火対策と組み合せるのが望ましい。
【0070】
更に、実験の結果、軒下の防火対策(耐火ボード)の有無による温度変化を見ると、耐火ボートの有無により軒裏の測定点に違いが表れており、耐火ボードのある方では、温度上昇の抑制が見られた。
その結果、耐火ボードにより軒裏の温度上昇が抑えられていることが判明した。
【0071】
このように、本発明の延焼防止用散水ノズル1(ノズル本体1′)は、広範囲に散水でき、且つ延焼火災に脆弱な軒下に対して重点的に散水を行えるため、上述した実験からも明らかなように延焼抑止効果があることが実証された。
【0072】
尚、上記の実施形態においては、延焼防止用散水ノズル1を、複数の散水口1bを備えたノズル本体1′と、ノズル本体1′を昇降自在に支持する昇降支持機構1″とから構成し、送水時にノズル本体1′が上昇して散水するようにしたが、他の実施形態に於いては、延焼防止用散水ノズル1を、複数の散水口1bを備えたノズル本体1′から構成し、配管固定式(ノズル本体1′が昇降しない方式)としても良い。
【0073】
図13お呼び
図14は配管固定式の延焼防止用散水ノズル1を示し、当該延焼防止用散水ノズル1は、ノズル中心部に下方が開放されたテーパ状の導水穴1aを有すると共に、上端面及び外周面にそれぞれ導水穴1aに連通する複数の散水口1bを備えた円筒状のノズル本体1′から成り、前記複数の散水口1bは、必要な散水方向が得られるようにその角度、口径及び数がそれぞれ設定されている
【0074】
具体的には、前記ノズル本体1′は、
図13及び
図14に示す如く、金属材により上方が閉塞された円筒状に形成されており、中心部には、下方が開放されたテーパ状の導水穴1aが形成されていると共に、上端面及び外周面には、それぞれ導水穴1aに連通する複数の散水口1bが形成されている。
また、ノズル本体1′の複数の散水口1bは、必要な散水方向(建物の少なくとも壁面全体、軒先及び軒裏に散水できる方向)が得られるようにその角度、口径及び数がそれぞれ設定されている。
更に、ノズル本体1′の導水穴1aの下端部内周面には、差し込み式の接続金具11の雌型金具11aが螺着される雌ネジ1gが形成されている。
この実施形態においては、ノズル本体1′の複数の散水口1bは、0.25MPa程度の低い水圧で約460リットル/minの散水量を持ち、且つ幅が約10m、高さが約7mの散水エリアをカバーでき、更に、二階建ての建物の壁面よりも二階の軒先、軒裏高さ5m〜6m部分と、一階の軒先、軒裏高さ2m〜3m部分への散水量が多くなるようにその角度、口径及び数がそれぞれ設定されている。
【0075】
また、
図15は上述した配管固定式の延焼防止用散水ノズル1(ノズル本体1′)を用いた街路壁面用散水システムを示し、当該街路壁面用散水システムは、道路Rにその長手方向に適宜の間隔で形成した複数のピット2と、各ピット2の上方開口を開閉する開閉蓋3と、道路Rにその長手方向に沿って埋設され、上流側端部が水道本管4に接続されると共に、下流側部分が各ピット2内に位置する分岐配管5と、水道本管4に最も近いピット2内の分岐配管5に介設された一斉開放弁6と、水道本管4に最も近いピット2に設けられ、一斉開放弁6を開放操作する起動手段7と、水道本管4に最も近いピット2内の分岐配管5に介設された点検用の開閉弁8と、水道本管4に最も近いピット2を除くその他の全てのピット2内に配設され、ピット2内の分岐配管5に接続されて道路Rに面する建物の少なくとも壁面全体、軒先及び軒裏へ向って散水する延焼防止用散水ノズル1(ノズル本体1′)とから構成されている。
【0076】
尚、前記街路壁面用散水システムは、開閉蓋3のノズル用昇降口3a及び昇降口用蓋3bを省略すると共に、延焼防止用散水ノズル1をノズル本体1′から形成し、当該ノズル本体1′を差し込み式の接続金具11を介して分岐配管5のチーズ管10に接続したこと以外は、
図1に示す街路壁面用散水システムと同様構造に構成されているため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0077】
この延焼防止用散水ノズル1及び街路壁面用散水システムも、
図1〜
図7に示す延焼防止用散水ノズル1及び街路壁面用散水システムと同様の作用効果を奏することができる。
但し、延焼防止用散水ノズル1が配管固定式となっているため、散水時には、開閉蓋3を手動で開放する必要がある。また、ピット2の開口面積及びピット2内の延焼防止用散水ノズル1の高さは、開閉蓋3を開けたときに延焼防止用散水ノズル1から建物へ向って散水できるようにそれぞれ設定されている。
【0078】
尚、上記の各実施形態においては、延焼防止用散水ノズル1を形成するノズル本体1′を円筒状に形成したが、他の実施形態においては、ノズル本体1′を角筒状に形成するようにしても良い。この場合、昇降支持機構1″のカバー体12及び昇降体13も角筒状に形成することは勿論である。
【0079】
また、上記の各実施形態においては、延焼防止用散水ノズル1を差し込み式の接続金具11により分岐配管5に介設したチーズ管10に接続するようにしたが、他の実施形態においては、延焼防止用散水ノズル1をねじ込み式の接続金具(図示省略)によりチーズ管10に接続するようにしても良い。