(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記円筒体を融解する処理による前記穴埋め処理は、真空中で、加熱する処理であることを特徴とする請求項2から請求項4のうちいずれか1項に記載の円筒体の製造方法。
前記円筒体を融解する処理による前記穴埋め処理は、摩擦熱によって加熱する処理であることを特徴とする請求項2から請求項5のうちいずれか1項に記載の円筒体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(i)実施形態の概要
本発明の実施形態では、FRP材で製造される円筒形回転部(円筒体)に対して、当該円筒形回転部の製造工程で形成された穴(隙間)に穴埋め処理を施し、その後、耐食表面処理を施す。または、耐食表面処理を施した後に、当該円筒形回転部に形成された穴に対して穴埋め処理を施す。
穴埋め処理としては、塗装、埋め込み、又は融解(加熱処理)を利用し樹脂によって穴を塞ぐ。また、当該樹脂を塗布すべきではない部分、或いは樹脂が塗布されることが所望されない部分には、必要に応じてマスキング処理を施しておく。
【0013】
(ii)実施形態の詳細
以下、本発明の好適な実施の形態について、
図1〜
図10を参照して詳細に説明する。
なお、本実施形態では、真空ポンプの一例として、ターボ分子ポンプ部とねじ溝式ポンプ部を備えた、いわゆる複合型のターボ分子ポンプを用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明の第1実施形態に係るFRPで製造された円筒形回転部9bを備えたターボ分子ポンプ1の概略構成例を示した図である。なお、
図1は、ターボ分子ポンプ1の軸線方向の断面図を示している。
ターボ分子ポンプ1の外装体を形成するケーシング2は、略円筒状の形状をしており、ケーシング2の下部(排気口6側)に設けられたベース3と共にターボ分子ポンプ1の筐体を構成している。そして、この筐体の内部には、ターボ分子ポンプ1に排気機能を発揮させる構造物である気体移送機構が収納されている。
この気体移送機構は、大きく分けて、回転自在に支えられた回転部と筐体に対して固定された固定部から構成されている。
【0015】
ケーシング2の端部には、当該ターボ分子ポンプ1へ気体を導入するための吸気口4が形成されている。また、ケーシング2の吸気口4側の端面には、外周側へ張り出したフランジ部5が形成されている。
また、ベース3には、当該ターボ分子ポンプ1から気体を排気するための排気口6が形成されている。
【0016】
回転部は、回転軸であるシャフト7、このシャフト7に配設されたロータ8、ロータ8に設けられた複数枚の回転翼9a、排気口6側(ねじ溝式ポンプ部)に設けられた円筒形回転部9bなどから構成されている。なお、シャフト7及びロータ8によってロータ部が構成されている。
各回転翼9aは、シャフト7の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜してシャフト7から放射状に伸びたブレードからなる。
また、円筒形回転部9bは、ロータ8の回転軸線と同心の円筒形状をした円筒部材からなる。
【0017】
シャフト7の軸線方向中程には、シャフト7を高速回転させるためのモータ部20が設けられ、ステータコラム10に内包されている。
更に、シャフト7のモータ部20に対して吸気口4側、および排気口6側には、シャフト7をラジアル方向(径方向)に非接触で支えるための径方向磁気軸受装置30、31、シャフト7の下端には、シャフト7を軸線方向(アキシャル方向)に非接触で支えるための軸方向磁気軸受装置40が設けられている。
【0018】
筐体の内周側には、固定部が形成されている。この固定部は、吸気口4側(ターボ分子ポンプ部)に設けられた複数枚の固定翼50と、ケーシング2の内周面に設けられたねじ溝スペーサ60などから構成されている。
各固定翼50は、シャフト7の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して筐体の内周面からシャフト7に向かって伸びたブレードから構成されている。
各段の固定翼50は、円筒形状をしたスペーサ70により互いに隔てられて固定されている。
ターボ分子ポンプ部では、固定翼50と、回転翼9aとが互い違いに配置され、軸線方向に複数段形成されている。
【0019】
ねじ溝スペーサ60には、円筒形回転部9bとの対向面にらせん溝が形成されている。
ねじ溝スペーサ60は、所定のクリアランスを隔てて円筒形回転部9bの外周面に対面しており、円筒形回転部9bが高速回転すると、ターボ分子ポンプ1で圧縮されたガスが円筒形回転部9bの回転に伴ってねじ溝(らせん溝)にガイドされながら排気口6側へ送出されるようになっている。即ち、ねじ溝は、ガスを輸送する流路となっている。ねじ溝スペーサ60と円筒形回転部9bが所定のクリアランスを隔てて対向することにより、ねじ溝でガスを移送する気体移送機構を構成している。
なお、ガスが吸気口4側へ逆流する力を低減させるために、このクリアランスは小さければ小さいほど良い。
ねじ溝スペーサ60に形成されたらせん溝の方向は、らせん溝内をロータ8の回転方向にガスが輸送された場合、排気口6に向かう方向である。
また、らせん溝の深さは、排気口6に近づくにつれて浅くなるようになっており、らせん溝を輸送されるガスは排気口6に近づくにつれて圧縮されるようになっている。このように、吸気口4から吸引されたガスは、ターボ分子ポンプ部で圧縮された後、ねじ溝式ポンプ部で更に圧縮されて排気口6から排出される。
【0020】
上述のように構成された、FRPを用いて製造された円筒形回転部9bを配設するターボ分子ポンプ1は、ハロゲンガス、フッ素ガス、塩素ガス、又は臭素ガスといった様々なプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くある半導体製造用に使用される場合などは、当該ガスが触れる場所(構成部品)に対して、当該ガスによる腐食を防ぐために、無電解ニッケルメッキなどの耐食表面処理が施される。
【0021】
(ii−1)第1実施形態
まず、本発明に係る円筒形回転部9bにおいて、穴埋め処理後に耐食表面処理80を行う第1実施形態について、
図2〜
図8を用いて説明する。
図2には、本発明の第1実施形態に係る、穴埋め処理後に耐食表面処理80を行った円筒形回転部9bの概念図が示されている。
本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプ1では、
図2に示したように、FRP材で製造された円筒形回転部9bに形成された穴(隙間90)に対し、樹脂1000などで穴埋め処理を施した後に、無電解ニッケルメッキなどの耐食表面処理80を施す。
なお、以下に、当該穴埋め処理として、円筒形回転部9bに形成された穴に樹脂で穴埋め処理をする方法を(A)〜(C)に分け、より詳細に説明する。
【0022】
(ii−1−A:塗装による穴埋め処理)
図3は、本発明の第1実施形態に係る塗装を利用した穴埋め方法(A)を説明するための図である。
本発明の第1実施形態に係る塗装を利用した穴埋め方法Aでは、粘度の低い液体状の塗装剤1004と当該塗装剤1004を塗装する塗装具1002を用いて、FRPで製造した円筒形回転部9bの表面の隙間90(穴)を埋める。塗装の方法としては、
図3(a)に示したように、スプレーによる吹きつけ塗装や、又は刷毛による塗装、或いはディップコーターによるディップ・コーティング(浸漬塗装)など様々な方法が考えられる。
なお、この方法において塗装剤1004(穴埋めする材料)は、一般的に塗装に用いられる材料を用いることができ、例えば、繊維を含んでいない樹脂やガラス粒子を塗装する構成にすることができる。つまり、穴埋め処理後に施されるメッキ処理を鑑みて様々な塗装剤1004を選び、目的や状況に合わせて利用することができる。
このように塗装することで、
図3(b)に示したように、FRPで製造した円筒形回転部9bに形成された穴の穴埋め処理をすることができる。
なお、塗装による穴埋め処理は、隙間90(穴)の奥まで完全に穴埋めせず、表面付近を塞ぐだけでも良い。
【0023】
上述した本発明の第1実施形態に係る円筒形回転部9bにおいて、更に、以下の変形例1〜変形例6に記載する構成にすることで、より効率の良い耐食表面処理80を行うことが可能になる。
【0024】
(1)変形例1
本発明の第1実施形態の変形例1に係る穴埋め処理の方法では、穴埋め処理に利用する樹脂1000として、素材樹脂、即ち、円筒形回転部9bを形成するFRP材に使用されている樹脂と類似の樹脂を用いる。例えば、円筒形回転部9bを形成するFRPに使用されている樹脂がエポキシ樹脂の場合は、穴埋め処理に利用する樹脂1000にもエポキシ樹脂を用いる構成にする。
この構成にすることで、埋め込まれた樹脂が硬化して体積収縮が起きた場合に、新たな隙間90や凹凸が残ってしまう可能性を低減させることができる。
また、樹脂が円筒形回転部9bに形成された穴(隙間90)を埋めることで、円筒形回転部9bの強度を向上させる効果を得ることができる。
【0025】
(2)変形例2
本発明の第1実施形態の変形例2に係る穴埋め処理の方法では、前工程(即ち、円筒形回転部9bを樹脂1000で穴埋めする工程)の前までに、当該円筒形回転部9bを加熱しておく構成にする。
この構成にすることで、円筒形回転部9bの表面や隙間90などに付着している余分な水分を飛ばしておくことができ、より効率よく穴埋め処理を行うことができる。
【0026】
(3)変形例3
図4は、本発明の第1実施形態の変形例3に係るマスキング1006を説明するための図であり、円筒形回転部9bにおいて、端面以外の内外周をマスキング1006した図を示している。
ここで、本発明の第1実施形態では、FRPで円筒形回転部9bを製造した後に当該円筒形回転部9bに対して樹脂1000を用いて穴埋め処理を行うので、当該円筒形回転部9bは、塗布される樹脂1000により表面に凹凸が形成される。一方、寸法精度を出すためには、この凹凸は加工される必要があるので、当該凹凸が形成される範囲、即ち、樹脂1000が塗布される範囲は必要最低限に抑えられていることが望ましい。
そこで、本発明の第1実施形態の変形例3に係る穴埋め処理の方法では、
図4に示したように、円筒形回転部9bにおいて穴埋め処理に用いる樹脂1000を付着させたくない、或いは樹脂1000が塗布されることが望ましくない部分(範囲)をマスキング1006する構成にする。
この構成にすることで、樹脂1000は円筒形回転部9bの端面以外には塗布されないので、樹脂1000によって円筒形回転部9bの表面に形成される凹凸を取り除くための加工負担を必要最低限に抑えることができる。
【0027】
(4)変形例4
本発明の第1実施形態の変形例4に係る穴埋め処理の方法では、穴埋め処理に利用する樹脂1000として、硬化後に体積変形の少ない樹脂を使用する構成にする。
この構成にすることで、埋め込まれた樹脂が硬化して隙間90を形成する可能性を低減させることができる。なお、穴埋め剤に用いられる樹脂は、硬化による収縮の割合が5%未満であることが望ましい。
【0028】
(5)変形例5
ここで、一般的に、樹脂の粘度が低くなればなるほど隙間に樹脂が入り込む為に必要な時間は短くなるので、作業効率は向上する。しかし、本発明の第1実施形態では、穴埋め処理に利用する樹脂1000は粘度が低すぎると効率よく穴の表面付近に残留せず、穴埋め剤として機能しなくなってしまう虞がある。
そこで、本発明の第1実施形態の変形例5に係る穴埋め処理の方法では、円筒形回転部9bに形成された穴(隙間90)の表面付近で滞留するくらいの粘度の樹脂材料を使用する構成にする。具体的には、利用する樹脂にもよるが、1〜100[Pa・s]程度が望ましい。
【0029】
(6)変形例6
本発明の第1実施形態の変形例6に係る穴埋め処理の方法では、上述した変形例1〜変形例5に係る穴埋め処理時に、穴埋め処理に利用する樹脂1000を加熱する。具体的には、利用する樹脂にもよるが、加熱温度は、工程上40℃程度が扱いやすく望ましい。樹脂によっては、上記温度での加熱でも、粘度が半分程度にまで低減する。
この構成にすることで、穴埋め処理に利用する樹脂の粘度を所望の粘度にまで低下させることができるので、円筒形回転部9bに形成された隙間90の奥まで樹脂が入り込み易くなり、効率よく穴埋め処理を行うことができる。
【0030】
ここで、FRPで製造した円筒形回転部9bに形成される隙間90は、穴(隙間90)が端面から端面まで繋がっている貫通穴と、穴が途中で留まる留まり穴との2種類がある。貫通穴の場合、塗装などの穴埋め処理では、効率よく穴埋め処理ができない虞がある。
そこで、貫通穴に関しては、本発明の第1実施形態に係る穴埋め方法(A)のディップ・コーティングによる毛細管現象を利用した穴埋め処理方法が有効である。
(ii−1−A−1:ディップ・コーティングによる穴埋め処理(毛細管現象))
図5は、本発明の第1実施形態に係る毛細管現象を利用した穴埋め方法を説明するための図である。
本発明の第1実施形態に係る毛細管現象を利用した穴埋め方法では、FRPで製造した円筒形回転部9bを樹脂槽1001に浸す(
図5(a))。
図5(b)は、
図5(a)におけるα部を拡大した図である。
図5(b)に示したように、FRPで製造した円筒形回転部9bを樹脂槽1001に浸すと、毛細管現象により隙間90部分に樹脂1000が吸引される。
【0031】
(7)変形例7(ディップ・コーティングに係る変形例)
本発明の第1実施形態に係る穴埋め処理のディップ・コーティング方法では、円筒形回転部9bにおいて穴埋め処理時に樹脂槽1001に浸す箇所は、円筒形回転部9bの軸方向下部(即ち、排気口6側)の端面とする。つまり、円筒形回転部9bの全体(全表面)ではなく、円筒形回転部9bの端面のみ、或いは端面側の所望の範囲を樹脂1000と接触させる構成にする。
この構成にすることで、穴埋め処理に利用される樹脂1000は、円筒形回転部9bの端面、或いは端面側のみに樹脂1000が塗布されるので、後工程の加工処理(例えば、円筒形回転部9bの表面処理など)の負担を軽くすることができる。
【0032】
続いて、本発明の第1実施形態に係る気体収縮を利用した穴埋め方法及び真空含浸を利用した穴埋め方法について説明する。
これらの方法では、上述した方法に比べて特殊な設備が必要になるが、比較的高い粘度の樹脂を用いることができる。
【0033】
(ii−1−A−2:ディップ・コーティングによる穴埋め処理(気体収縮))
図6は、本発明の第1実施形態に係る気体収縮を利用した穴埋め方法(A−2)を説明するための図である。
本第1実施形態の穴埋め方法A−2では、
図6(a)に示したように、固体化していない液体状の樹脂1000を入れた樹脂槽1001に、FRPで製造した円筒形回転部9bを、樹脂面に対して垂直に浸す(漬ける)。この時、本第1実施形態の穴埋め方法A−2では、円筒形回転部9bの軸方向下部の端面が樹脂1000に浸かる(接触する)ようにし、円筒形回転部9b全体を樹脂1000に浸す構成にはしていない。当該下部の端面に対する穴埋め処理のあとに、もう片方の端面(軸方向上部の端面)に対する穴埋め処理を行う。なお、穴埋め処理の順番はどちらの面が先であってもよい。
なお、場合によっては円筒形回転部9b全体(全面)が樹脂1000に浸かる構成にしてもよい。
より詳しくは、本発明の第1実施形態に係る気体収縮を利用した穴埋め方法A−2では、まず、FRPで製造した円筒形回転部9bを加熱する(例えば、100〜150℃程度)。
次に、加熱した円筒形回転部9bを、当該加熱後の円筒形回転部9bよりも温度が低い(例えば、40℃程度)樹脂1000が溜まった樹脂槽1001に入れる。
図6(b)及び(c)は、
図6(a)のβ部を拡大した図が示されている。
図6(b)に示したように、樹脂槽1001に入れる前は、FRPで製造した円筒形回転部9bに形成された隙間90には空気1005が存在しているが、上述のように、FRPで製造した円筒形回転部9bと樹脂1000とに温度差を設けて接触させる(樹脂槽1001に円筒形回転部9bを浸す・入れる)と、当該FRPで製造した円筒形回転部9bに形成された隙間90に存在する空気1005は冷却されて体積が収縮する。
このように空気1005の体積が収縮すると、
図6(c)に示したように、当該空気1005が収縮してできた空間に、樹脂1000が吸引される。
このように気体収縮を利用して樹脂1000をFRPで製造した円筒形回転部9bの隙間90に注入することで、円筒形回転部9bに形成された穴(隙間90)の穴埋め処理をすることができる。
【0034】
(気体収縮による穴埋め処理(A−2)に係る変形例)
本発明の第1実施形態に係る穴埋め処理の方法A−2では、塗装による穴埋め処理の方法(A)に記載した第1実施形態の各変形例1〜変形例7の構成を用いることで、より効率の良い耐食表面処理80を行うことが可能になる。
【0035】
(8)変形例8
更に、本発明の第1実施形態に係る穴埋め処理の方法(A−2)では、気体収縮を行うに際し、円筒形回転部9bを温める一方、穴埋め処理に利用する樹脂1000は、温めた円筒形回転部9bよりも低い温度にする構成にする。具体的には、円筒形回転部9bは100℃〜150℃程度に温めることが望ましい。また、樹脂1000は、常温〜40℃程度にしておくことが望ましい。
この構成にすることで、円筒形回転部9bを温めることで当該円筒形回転部9bに形成された隙間90(穴)の中に存在している空気も温められる。そして、当該温められた空気は、当該空気よりも温度の低い樹脂1000と接触することで冷やされる。このように温度差を設けておくことで、円筒形回転部9bの隙間90において効率よく気体収縮を行うことができる。
【0036】
(ii−1−A−3:ディップ・コーティングによる穴埋め処理(真空含浸))
図7は、本発明の第1実施形態に係る真空含浸を利用した穴埋め方法(A−3)を説明するための図である。
本発明の第1実施形態に係る真空含浸を利用した穴埋め方法A−3では、まず、FRPで製造した円筒形回転部9bを樹脂槽1001に浸した状態のまま真空炉に入れ、円筒形回転部9bに形成された隙間90にある空気や水分を真空によって取り除く。次に、当該真空炉を大気状態にする(
図7(a))。
図7(b)は、
図7(a)におけるγ部を拡大した図である。
図7(b)に示したように、円筒形回転部9bを樹脂槽1001に浸した状態で真空状態から大気状態にすることで、円筒形回転部9bに形成された隙間90内と当該隙間90の周囲との間に大きな気圧差が生じ、その気圧差によって隙間90部分に樹脂1000が吸引される。
このように真空含浸を利用して樹脂1000をFRPで製造した円筒形回転部9bの隙間90に注入することで、円筒形回転部9bに形成された穴の穴埋め処理をすることができる。
なお、本第1実施形態の穴埋め方法A−3では、本発明の第1実施形態の変形例7の構成のように、円筒形回転部9bの軸方向下部の端面が樹脂1000に浸かる(接触する)ようにすることもできる。この時、円筒形回転部9bの端面は軸方向の上下にあるので、真空含浸は当該両方の端面に対して別々に行われる。
このように端面からのみ真空含浸を行う構成にすることで、真空含浸を行うための設備を小規模にすることができる。
なお、場合によっては、最初から樹脂槽1001に浸した状態ではなく、円筒形回転部9bに形成された隙間90にある空気や水分を真空によって取り除いてから、円筒形回転部9bを樹脂槽1001浸す構成にすることも可能である。
【0037】
(真空含浸による穴埋め処理(A−3)に係る変形例)
本発明の第1実施形態に係る穴埋め処理の方法A−3では、塗装による穴埋め処理の方法(A)に記載した第1実施形態の各変形例1〜変形例7の構成を用いることで、より効率の良い耐食表面処理80を行うことが可能になる。
【0038】
(ii−1−B:埋め込みによる穴埋め処理)
図8は、本発明の第1実施形態に係る埋め込みによる穴埋め方法(B)を説明するための図である。
本発明の第1実施形態に係る埋め込みによる穴埋め方法Bでは、粘度の高い液体ペースト状の穴埋め剤と、当該穴埋め剤をFRPで製造した円筒形回転部9bに形成された穴(隙間90)に埋め込む道具1003を用いて、FRPで製造した円筒形回転部9bの表面の隙間90を埋める。
埋め込みの方法としては、
図8(a)に示したように、へら等の道具1003を用いて、FRPで製造した円筒形回転部9bの表面の凹凸を埋めるように樹脂1000をFRPで製造した円筒形回転部9bに形成された穴に押し込む。
このように埋め込み処理をすることで、
図8(b)に示したように、FRPで製造した円筒形回転部9bに形成された穴の穴埋め処理をすることができる。
【0039】
(埋め込みによる穴埋め処理(B)に係る変形例)
本発明の第1実施形態に係る穴埋め処理の方法Bでは、塗装による穴埋め処理の方法(A)に記載した第1実施形態の各変形例1〜変形例6の構成を用いることで、より効率の良い耐食表面処理80を行うことが可能になる。
【0040】
(ii−1−C:融解による穴埋め処理)
図9は、本発明の第1実施形態に係る融解による穴埋め方法(C)を説明するための図である。
本発明の第1実施形態に係る融解による穴埋め方法Cでは、FRPで製造した円筒形回転部9bに形成された穴(隙間90)を塞ぐために、当該円筒形回転部9bを加熱処理する。このように加熱することで、
図9(a)に示したように円筒形回転部9bに形成された隙間90の入口(即ち、円筒形回転部9bの軸方向端面)が融解すると同時に隙間90の中に存在していた空気が抜け、抜けた空気の分だけ隙間90内の圧力が低くなって、当該融解した表面部分が隙間90の内側に閉じるように変形する。
表面を融解させる方法としては、円筒形回転部9bの端面をホットプレートなどの高温部材に接触させ、円筒形回転部9bの端面近傍のみを融解する。この方法では、円筒形回転部9b全体を加熱するのではなく、円筒形回転部9bの端面近傍のみを加熱するので、円筒形回転部9b全体が熱で歪むのを起こりにくくすることができる。
他に表面を融解させる方法としては、摩擦熱を利用した方法がある。例えば、円筒形回転部9bを回転させ固定物に押し当てたり、円筒形回転部9bを固定し回転する部材に押し当てたりして、摩擦熱で融解させる。
このように、FRPで製造した円筒形回転部9bに形成された穴(隙間90)付近表面を加熱処理して融解し、当該融解した表面を凝固させることで、
図9(b)に示したように融解部分が密着して固まり、接着させることができ、FRPで製造した円筒形回転部9bに形成された穴の穴埋め処理をすることができる。
【0041】
(融解による穴埋め処理(C)に係る変形例)
本発明の第1実施形態に係る穴埋め処理の方法Cでは、塗装による穴埋め処理の方法(A)に記載した第1実施形態の各変形例2の構成を用いることで、より効率の良い耐食表面処理80を行うことが可能になる。
【0042】
(9)変形例9
更に、本発明の第1実施形態の変形例9に係る穴埋め処理の方法Cでは、前記円筒形回転部9bに用いられる前記繊維強化複合材料は熱可塑性樹脂にする。
この構成により、本発明の第1実施形態の変形例9に係る穴埋め処理では、融解による穴埋め処理の効果がより高まる。
【0043】
(10)変形例10
更に、本発明の第1実施形態の変形例10に係る穴埋め処理の方法Cでは、融解による穴埋め処理を行うに際し、真空中で行う。
この構成により、本発明の第1実施形態の変形例10に係る穴埋め処理では、気体の対流による熱伝達が生じにくくなり、円筒形回転部9b全体が加熱されることが抑制されて、円筒形回転部9b全体が熱で歪むのを起こりにくくすることができる。その結果、必要な部分だけを効率よく融解による穴埋め処理を行うことが出来る。
【0044】
以上、上述した構成により、本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプ1では、繊維強化プラスチック材(FRP材)で形成された円筒形回転部9bに対する耐食表面処理80の品質向上を実現することができる。
また、本発明の第1実施形態及び各変形例に係るターボ分子ポンプ1は、こうした耐食性が向上した繊維強化プラスチック材で製造された円筒形回転部9bを配設することで、繊維強化プラスチック材よりも重さのある金属で製造された円筒形回転部9bを配設した従来の真空ポンプに比べて性能が向上(特に、回転数の高速化)し、且つ、当該円筒形回転部9bの耐食性が向上したことで従来よりも長い期間作動し続けることができる。
【0045】
(ii−2)第2実施形態
次に、本発明に係る円筒形回転部9bにおいて、耐食表面処理80後に穴埋め処理を行う第2実施形態について、
図10を用いて説明する。
図10には、本発明の第2実施形態に係る、耐食表面処理80を施した後に穴埋め処理を行う円筒形回転部9bの概念図が示されている。
本発明の第2実施形態に係るターボ分子ポンプ1では、
図10に示したように、無電解ニッケルメッキなどの耐食表面処理80を行った後に、FRPで製造された円筒形回転部9bに形成された穴(隙間90)に対して穴埋め処理を施す。
なお、穴埋め処理については、上述した第1実施形態の各(A)〜(C)及び各変形例(1)〜(8)を適用することができるので、説明は省略する。
【0046】
また、上述した本発明の第2実施形態のように、耐食表面処理80を施した後に穴埋め処理を行う場合、穴埋め処理に利用する樹脂1000は、望ましくは、母材(FRP)よりも耐食性が高い材料(樹脂)を利用する構成にする。
この構成にすることで、耐食表面処理80を施した後に穴埋め処理を行った場合であっても、耐食表面処理80が届きにくい隙間90から腐食が始まり、耐食性が低下してしまうことを抑えることができる。
【0047】
上述した構成により、本発明の第2実施形態に係るターボ分子ポンプ1では、繊維強化プラスチック材(FRP材)で形成された円筒形回転部9bに対する耐食表面処理80の品質向上を実現することができる。
また、本発明の第2実施形態に係るターボ分子ポンプ1は、こうした耐食性が向上した繊維強化プラスチック材で製造された円筒形回転部9bを配設することで、繊維強化プラスチック材よりも重さのある金属で製造された円筒形回転部9bを配設した従来の真空ポンプに比べて性能(特に、回転数の高速化)が向上し、且つ、当該円筒形回転部9bの耐食性が向上したことで従来よりも長い期間作動し続けることができる。
【0048】
なお、本発明の第1実施形態及び第2実施形態、ならびに各変形例は、以下(i)(ii)のように構成することも可能である。
(i)第1実施形態の各穴埋め処理方法(A)〜(C)は組み合わせることが可能である。例えば、FRPで製造した円筒形回転部9bに対して、融解を利用した穴埋め処理(穴埋め処理方法)を行った後に、更に、へら等の道具1003を用いる穴埋め処理(穴埋め処理B)を行ったり、ディップ・コーティングを利用した穴埋め処理(穴埋め処理A−3)を行う際に、真空炉内で円筒形回転部9bを加熱し、融解を利用した穴埋め処理(穴埋め処理方法C)を行うなど、状況や条件に応じて各種組合せが考え得る。
(ii)充分な耐食性を確保できるのであれば、上述した第1実施形態、第1実施形態の各変形例、又は各変形例の組合せを適用した穴埋め処理において、母材(即ち、円筒形回転部9bを形成するFRP)よりも耐食性の高い材料を穴埋め剤として使用する構成にし、当該穴埋め処理を耐食表面処理80の代替処理として製造工程に組み込む構成にすることが可能である。
【0049】
このように、上述した本発明の各実施形態及び各変形例の構成により、各実施形態及び各変形例に係るターボ分子ポンプ1では、繊維強化プラスチック材(FRP材)で形成された円筒形回転部9bに対する耐食表面処理80の品質向上を実現することができる。
また、本発明の各実施形態及び各変形例に係るターボ分子ポンプ1は、こうした耐食性が向上した繊維強化プラスチック材で製造された円筒形回転部9bを配設することで、繊維強化プラスチック材よりも重さのある金属で製造された円筒形回転部9bを配設した従来の真空ポンプに比べて性能(特に、回転性能)が向上し、且つ、当該円筒形回転部9bの耐食性が向上したことで従来よりも長い期間作動し続けることができる。