特許第6126031号(P6126031)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立GEニュークリア・エナジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6126031-放射性廃棄物の固化処理方法 図000002
  • 特許6126031-放射性廃棄物の固化処理方法 図000003
  • 特許6126031-放射性廃棄物の固化処理方法 図000004
  • 特許6126031-放射性廃棄物の固化処理方法 図000005
  • 特許6126031-放射性廃棄物の固化処理方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6126031
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】放射性廃棄物の固化処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/30 20060101AFI20170424BHJP
【FI】
   G21F9/30 519A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-52245(P2014-52245)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2015-175726(P2015-175726A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野下 健司
(72)【発明者】
【氏名】浅野 隆
(72)【発明者】
【氏名】雪田 篤
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−013295(JP,A)
【文献】 特開昭62−165198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/30
G21F 9/16
G21F 9/36
B09B 1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cs−137,Sr−90及びCo−60のうちのいずれか一つである放射性核種を含む放射性廃棄物及びソーダ石灰ガラス、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、リン酸塩ガラス及びバナジウム系ガラスのうちのいずれか一つであるガラス原料のそれぞれを第1容器内に供給し、前記放射性廃棄物及び前記ガラス原料が内部に存在する前記第1容器が、第2容器内の断熱領域に配置され、前記断熱領域内で、前記放射性核種から放出される放射線により発生する熱で、第2容器内の断熱領域に存在する前記第1容器内の前記放射性廃棄物及び前記ガラス原料を加熱し、加熱された前記ガラス原料が溶融して前記放射性廃棄物のガラス固化体が作製されることを特徴とする放射性廃棄物の固化処理方法。
【請求項2】
前記放射性廃棄物及び前記ガラス原料が内部に存在する前記第1容器の前記断熱領域への配置は、前記第1容器を、前記第2容器である断熱容器内に形成される断熱領域に配置することによって行われる請求項1に記載の放射性廃棄物の固化処理方法。
【請求項3】
前記放射性廃棄物及び前記ガラス原料が内部に存在する前記第1容器の前記断熱領域への配置は、前記第1容器を前記第2容器である減圧容器内に配置し、密封された前記減圧容器内の、前記第1容器が配置された空間を減圧して断熱領域にすることによって行われる請求項1に記載の放射性廃棄物の固化処理方法。
【請求項4】
前記第2容器内の前記断熱領域に配置される前記第1容器の温度を測定し、前記第1容器が配置された、前記第2容器内の前記断熱領域に供給するガスの流量を、測定された前記温度に基づいて調節する請求項1または2に記載の放射性廃棄物の固化処理方法。
【請求項5】
前記第2容器内の前記断熱領域に配置される前記第1容器の温度を測定し、前記第1容器が配置された、前記第2容器内の前記断熱領域の圧力を制御する請求項3に記載の放射性廃棄物の固化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃棄物の固化処理方法に係り、特に、放射能レベルの高い高線量の放射性廃棄物を処理するのに好適な放射性廃棄物の固化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設等から発生する放射性廃棄物は、セメントまたはガラスで固化され、貯蔵、輸送及び埋設処分に適した形態に変換されている。これらの固化処理のうち、セメント固化は、放射性廃棄物をセメント及び水を用いて固化する方法であり、安価で処理が容易であるとの特徴がある。しかし、放射能レベルが高い放射性廃棄物をセメントで固化する場合には、生成された固化体に含まれる水分が放射線分解されて水素ガスを発生し、この水素が、固化体そのものに、また埋設処分後の施設に影響を及ぼす可能性がある(特開2007−132787号公報参照)。
このため、特開2007−132787号公報に記載された放射性廃棄物の固化処理方法では、放射性廃棄物とセメント及び水をドラム缶内で混合して固化体を生成し、この固化体の一軸圧縮強度が1.5MPa以上で予定強度の75%以下の段階で、固化体の、加熱または減圧による乾燥を行い、固化体内の水分を除去している。
【0003】
一方、水分を用いないガラス固化では、放射能レベルが高い放射性廃棄物であっても水素ガスが発生する懸念はない。但し、例えば、特開2011−46996号公報に示されるように、ガラス固化では高温での処理が必要となるため、大規模な溶融設備などが必要となる。
【0004】
特開昭62−124499号公報は放射性廃棄物の固化処理方法を記載する。この放射性廃棄物の固化処理方法では、固体または液体の放射性廃棄物が低融点ガラス(融点が400℃〜800℃)と混合され、これらの混合物を成形焼成または加熱溶融して固化体を生成する。
【0005】
特開昭62−165198号公報は高レベル放射性廃棄物の水熱固化処理法を記載する。この高レベル放射性廃棄物の水熱固化処理法では、高レベル放射性廃棄物とガラス・石英粉末を混合し、この混合物にさらに水を混合して混練し、キャニスタ内に充填されたそれらの混練物は、高レベル放射性廃棄物の崩壊熱によって300℃に加熱されて水熱反応により固化体が生成される。この高レベル放射性廃棄物の水熱固化処理法では、崩壊熱によってガラス・石英粉末の表面が溶融して高レベル放射性廃棄物を接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−132787号公報
【特許文献2】特開2011−46996号公報
【特許文献3】特開昭62−124499号公報
【特許文献4】特開昭62−165198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高線量の放射性廃棄物の固化は、放射線による水素発生の問題が生じないガラス固化が望ましい。従来のガラス固化法では、大規模な溶融設備が必要となるとの課題があるが、特開昭62−124499号公報に記載された高レベル放射性廃棄物の水熱固化処理法は、高レベル放射性廃棄物の崩壊熱をガラス・石英粉末の溶融に利用しているので、そのような課題を解決することができる。しかしながら、特開昭62−124499号公報では、高レベル放射性廃棄物は、添加した水を利用した水熱固化処理法で固化される。高レベル放射性廃棄物の崩壊熱を利用しているが、水熱固化処理法を適用しているために、その崩壊熱の一部が添加した水の蒸発に使用され、ガラス・石英粉末の表面のみが溶融されて高レベル放射性廃棄物を固化することになる。生成された固化体は、水及び蒸気を含み不均一な固化体になり、放射性核種が漏えいし易い。
【0008】
本発明の目的は、溶融設備が不要で加熱ムラがなく均一なガラス固化体を得ることができる放射性廃棄物の固化処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、Cs−137,Sr−90及びCo−60のうちのいずれか一つである放射性核種を含む放射性廃棄物及びソーダ石灰ガラス、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、リン酸塩ガラス及びバナジウム系ガラスのうちのいずれか一つであるガラス原料を第1容器内に供給し、放射性廃棄物及びガラス原料が内部に存在する第1容器が、第2容器内の断熱領域に配置され、断熱領域内で、放射性核種から放出される放射線により発生する熱で、第2容器内の断熱領域に存在する第1容器内の放射性廃棄物及びガラス原料を加熱し、加熱されたガラス原料が溶融して放射性廃棄物のガラス固化体が作製されることにある。
【0010】
Cs−137,Sr−90及びCo−60のうちのいずれか一つである放射性核種を含む放射性廃棄物及びソーダ石灰ガラス、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、リン酸塩ガラス及びバナジウム系ガラスのうちのいずれか一つであるガラス原料が内部に存在する第1容器を第2容器内の断熱領域に配置し、断熱領域内において、放射性核種から放出される放射線により発生する熱で、第1容器内のガラス原料を溶融するので、溶融設備が不要で第1容器内における放射性廃棄物及びガラス原料に加熱ムラが生じなく、均一なガラス固化体を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶融設備が不要で放射性廃棄物及びガラス原料に加熱ムラが生じなく均一なガラス固化体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法における処理手順を示すフローチャートである。
図2図1に示す実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法の具体的な内容を示す説明図である。
図3】本発明の他の好適な実施例である実施例3の放射性廃棄物の固化処理方法を示す説明図である。
図4】本発明の他の好適な実施例である実施例4の放射性廃棄物の固化処理方法を示す説明図である。
図5】本発明の他の好適な実施例である実施例5の放射性廃棄物の固化処理方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明者らは、種々の検討を行い、放射性廃棄物及び固化材であるガラス原料の混合物を充填した固化容器を断熱部材で取り囲み、または、固化容器内を真空にするなどにより、その混合物を充填した固化容器を断熱状態にし、固化容器内に充填されたガラス原料を、放射性廃棄物に含まれる放射性核種の崩壊熱を利用して溶融することによって、固化容器内のガラス原料の加熱ムラがなくなって、溶融したガラス原料による均一な放射性廃棄物の固化体を生成することができることを見出した。すなわち、高線量の放射性廃棄物からは多くの放射線のエネルギーが放出されており、その放射線を放射性廃棄物自身及び固化材であるガラス原料が吸収した場合には、放射線のエネルギーから変換された熱エネルギーが放射性廃棄物及びガラス原料に蓄熱される。これにより、固化容器内のガラス原料の温度を、固化容器内の位置に関係なくほぼ一様に、ガラス原料の溶融に必要な温度まで上昇させることができる。
【0014】
したがって、放射性廃棄物及びガラス原料を充填した固化容器内に加熱ムラが生じなく、より均一な、放射性廃棄物の固化体を生成することができる。
【0015】
上記の検討結果を反映した本発明の実施例を、以下に説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の好適な一実施例である実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法を、図1及び図2を用いて説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、高線量の放射性廃棄物としてCs−137を1016Bq含む高線量の放射性廃棄物(例えば、Cs−137を吸着しているゼオライト)100kg、及びガラス原料であるガラス軟化点が約700℃のソーダ石灰ガラス100kgを固化容器に充填して、ガラス固化体を作製した。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、図1に示す手順に沿って説明する。
【0017】
放射性廃棄物及びガラス原料を固化容器に充填する(ステップ1)。金属製(またはセラミック製)の空の固化容器(第1容器)3を、放射性廃棄物が蓄えられた廃棄物タンク1の下方に配置する。廃棄物タンク1内のCs−137を1016Bq含む高線量の放射性廃棄物4を、廃棄物供給管2を通して固化容器内に100kg供給する。本実施例では、固化容器内に充填する放射性廃棄物は、例えば、上記のCs−137を吸着しているゼオライトである。その後、放射性廃棄物4が充填された固化容器3をラス原料タンク20の真下まで移動させる。ラス原料タンク20内のガラス原料6であるソーダ石灰ガラスを、ガラス原料供給管5を通して固化容器内に100kg供給する。固化容器3内に、ガラス原料6を先に充填し、放射性廃棄物4を後から充填してもよし、それらを固化容器3内に同時に充填してもよい。なお、固化容器3内に充填される放射性廃棄物4は、液体放射性廃棄物であっても、放射性固体廃棄物であってもよく、液体放射性廃棄物及び固体放射性廃棄物の混合物であってもよい。
【0018】
放射性廃棄物が充填された固化容器の断熱化処理を行い、ガラス原料を溶融する(ステップS2)。放射性廃棄物4及びガラス原料6を充填した固化容器3は、上端が開放された状態で、断熱容器(第2容器)7内に収納される。断熱容器7は上端部に着脱可能な蓋7Aを有しており、固化容器3を断熱容器7内に収納するときには、この蓋7Aが取り外されて固化容器3が上方に向かって開放されている。この状態で、固化容器3を上方より断熱容器7内に入れる。その後、蓋7Aを断熱容器7の上端部に取り付け、固化容器3を収納している断熱容器7を密封する。断熱容器7及び蓋7Aは、断熱材である、例えば、グラスウールを有している。密封された断熱容器7内にはこの断熱容器7によって断熱された断熱領域が形成され、放射性廃棄物4及びガラス原料6を充填した固化容器3はこの断熱領域に配置される。
【0019】
断熱容器7は、金属製の外側容器(図示せず)及び外側容器内に配置された内側容器(図示せず)の二重構造になっており、グラスウールを、外側容器と内側容器の間の環状の領域及び外側容器の底部と内側容器の底部の間に充填して構成される。外側容器と内側容器の間の環状の領域の上端は、外側容器及び内側容器のそれぞれの上端に取り付けられたリング状の封鎖板によって封鎖されている。蓋7Aは、グラスウールを金属製の中空の筺体(図示せず)内に充填して構成される。
【0020】
その後、密封された断熱容器7内に収納された固化容器3の断熱化処理が実施される。断熱化処理は、固化容器3の熱が外部に逃げることを抑制する処理を意味する。断熱化処理されている固化容器3内において、内部に充填された放射性廃棄物4に含まれるCs−137から放出される放射線に基づいて熱(崩壊熱)が発生する。この崩壊熱は、蓋7Aで密封された断熱容器7によって外部に放熱されることが抑制され、蓋7Aで密封された断熱容器7の内部、すなわち、蓋7Aで密封された断熱容器7に蓄積される。この崩壊熱により、固化容器3内のガラス原料6が加熱されて溶融する。
【0021】
放射性廃棄物4及びガラス原料6が充填された固化容器3は断熱容器7及び蓋7Aによって囲まれているため、その崩壊熱によって加熱される、固化容器3内の断熱容器7に配置された放射性廃棄物4及びガラス原料6のそれぞれの温度は、固化容器3内の位置によって不均一にならなくほぼ一様になる。
【0022】
例えば、放射性廃棄物4に含まれている放射性核種であるCs−137は1壊変当たりに約1.15MeVのエネルギーの放射線を放出する。この放射線が、放射性廃棄物4及びガラス原料(ソーダ石灰ガラス)6に吸収され、熱エネルギー(崩壊熱)に変化する。固化容器3内に充填した放射性廃棄物4は1016BqのCs−137を含んでいるため、それぞれのCs−137から放出される放射線が、すべて、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6に吸収された場合には、1.15MeV×1016Bq=1.15E22eV/s、すなわち、1840J/sの発熱速度の熱エネルギーが得られる。放射性廃棄物(Cs−137を吸着しているゼオライト)4及びガラス原料(ソーダ石灰ガラス)6の混合物の比熱が0.5J/(g・K)であるとき、放射性廃棄物4及びガラス原料6のそれぞれの温度は1時間で約66℃上昇する。この温度上昇により、ガラス原料6であるソーダ石灰ガラスが、溶融して放射性廃棄物4の間の隙間に流入する。好ましくは、後述の実施例4で述べるように、固化容器3内に放射性廃棄物4及びガラス原料6を充填した後、これらを撹拌機により混合すると良い。放射性廃棄物4に液体が含まれている場合には、この液体は、上記した熱により加熱されて蒸気になる。
【0023】
ガラス固化体を作製する(ステップS3)。断熱容器7及び蓋7Aを通して外部にいくらかの熱が逃げるため、実際の固化容器3の内部の温度上昇速度は、66℃/hよりも低下する。しかしながら、時間の経過とともに昇温は継続され、ガラス原料6が全て溶融する。この結果、ガラス原料6の溶融物が、放射性廃棄物4の間の隙間に充填され、放射性廃棄物4が溶融されたガラス原料6により一体化されたガラス固化物8が固化容器3内に存在するガラス固化体9が作製される。ガラス固化体9が作製された後、蓋7Aを取り外すことによって、このガラス固化体9が、断熱容器7から取り出されて蓋(図示せず)を取り付けて密封され、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に保管される。
【0024】
本実施例では、放射性廃棄物4及びガラス原料6が充填された固化容器3を、蓋7Aで密封された断熱容器7で取り囲まれているため、放射性廃棄物4に含まれる放射性核種が崩壊して放出される放射線が断熱容器7内の断熱領域に配置された放射性廃棄物4及びガラス原料6に吸収されて生じる熱エネルギー(崩壊熱)によって、放射性廃棄物4及びガラス原料6が加熱される。このため、断熱領域に存在する放射性廃棄物4及びガラス原料6に加熱ムラが生じなく、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6はより均一な温度になる。このため、固化容器3の高温での腐食及び固化容器3内の放射性廃棄物4に含まれる放射性物質(放射性核種)の揮発が抑えられ、しかも、放射性廃棄物4の均一なガラス固化体が得られる。このガラス固化体は安定である。
【0025】
固化容器3内の放射性物質の崩壊によって生じる放射線の吸収により生じる熱エネルギーによって放射性廃棄物4及びガラス原料6が加熱されるため、本実施例では、特開2011−46996号公報に記載された放射性廃棄物のガラス固化のように、ガラス原料6を溶融する溶融設備が不要になる。すなわち、簡素なシステムで、放射性廃棄物4をガラス原料6により固化することができる。
【0026】
本実施例では、放射性廃棄物4としてCs−137を吸着したゼオライトを固化容器3内に充填してガラス原料6により固化した。本実施例では、放射性廃棄物4としてクリノプチロライト、モルデナイト、チャバサイト、不溶性フェロシアン化物またはチタン酸化合物を固化容器3内に充填し、ガラス原料6を溶融させて固化してしてもよい。
【0027】
また、ガラス原料6としては、ソーダ石灰ガラス以外に、ケイ酸塩ガラス及びホウケイ酸ガラスいずれかを用いてもよい。さらに、ガラス原料6として、ソーダ石灰ガラス、ケイ酸塩ガラス及びホウケイ酸ガラスよりも軟化点が低い鉛ガラス、リン酸塩ガラス及びバナジウム系ガラスの内の一種を用いてもよい。鉛ガラス、リン酸塩ガラス及びバナジウム系ガラスのうちの一種を用いることによって、より低温域でのガラス固化が可能となり、固化容器3内に充填される放射性物質6の崩壊により生じる発熱量が低い条件、及び高い断熱状態が確保できない条件においても、固化容器3内で放射性物質をガラス固化できるようになるとともに、放射性物質の揮発をより低く抑えることが可能となる。
【0028】
本実施例における断熱化処理に用いられる断熱容器7及び蓋7Aに用いられるグラスウールを、繊維系の断熱材であるセルロースファイバー、炭化コルク、ウレタンフォーム、フェノールフォーム及びポリスチレンフォーム、及び多孔質系断熱材であるケイ酸カルシウムボードのいずれかに変えてもよい。このような断熱材は、後述の実施例2及び4において、断熱容器7及び蓋7Aに用いてもよい。
【実施例2】
【0029】
本発明の他の好適な実施例である実施例2の放射性廃棄物の固化処理方法を、図1及び図2を用いて説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、高線量の放射性廃棄物としてSr−90を1016Bq含む高線量の放射性廃棄物(例えば、Sr−90を吸着しているチタン酸塩化合物を主成分とする放射性核種の使用済吸着材(以下、チタン酸塩化合物の吸着剤という))100kg、及びガラス原料であるガラス軟化点が約800℃のホウケイ酸ガラス100kgを固化容器に充填して、ガラス固化体を作製した。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、以下に説明する。
【0030】
本実施例も、実施例1と同様に、ステップS1,S2及びS3の各工程によりガラス固化体9が作製される。
【0031】
ステップS1では、廃棄物タンク1内に蓄えられたSr−90を1016Bq含む高線量の放射性廃棄物4、及びガラス原料タンク20内に蓄えられたガラス原料6であるホウケイ酸ガラスを、それぞれ100kg、固化容器3内に供給した。本実施例において、固化容器3内に供給される放射性廃棄物4は、Sr−90を吸着した、チタン酸塩化合物の吸着剤である。
【0032】
放射性廃棄物4及びガラス原料6を固化容器3内に充填した後、ステップS2の工程が実施される。すなわち、実施例1と同様に、放射性廃棄物4及びガラス原料6を収納した固化容器3は、断熱容器7内に収納され、蓋7Aが取り付けられて断熱容器7が密封される。蓋7A及び断熱容器7で取り囲まれた固化容器3内に存在する放射性廃棄物4に含まれるSr−90の崩壊によって生じる放射線は、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6に吸収されて熱エネルギーに変わる。この熱エネルギーにより、蓋7A及び断熱容器7によって囲まれている放射性廃棄物4及びガラス原料6が加熱されて温度が上昇する。断熱容器7及び蓋7Aによって囲まれた固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6のそれぞれの温度は、固化容器3内の位置によって不均一にならなくほぼ一様になる。密封された断熱容器7内には前述の断熱領域が形成され、本実施例においても、放射性廃棄物4及びガラス原料6を充填した固化容器3はこの断熱領域に配置される。
【0033】
例えば、Sr−90は1壊変当たりに約2.8MeVのエネルギーの放射線を放出する。この放射線が、固化容器3内の放射性廃棄物4とガラス原料6に吸収された場合、熱エネルギーに変化する。その放射性廃棄物4は1016BqのSr−90を含んでいるため、それぞれのSr−90から放出される放射線が、すべて、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6に吸収された場合には、2.8MeV×1016Bq=2.8E22eV/s、すなわち、4520J/sの発熱速度の熱エネルギーが得られる。放射性廃棄物(Sr−90を吸着しているチタン酸塩化合物の吸着剤)4及びガラス原料(ホウケイ酸ガラス)6の混合物の比熱が0.5J/(g・K)であるとき、放射性廃棄物4及びガラス原料6のそれぞれの温度は1時間で約160℃上昇する。この温度上昇により、ガラス原料6であるホウケイ酸ガラスが、溶融して放射性廃棄物4の間の隙間に流入する。
【0034】
ステップS3では、ガラス固化体9が作製される。すなわち、断熱容器7及び蓋7Aを通して外部にいくらかの熱が逃げるため、実際の固化容器3の内部の温度上昇速度は、160℃/hよりも低下する。しかしながら、時間の経過とともに昇温は継続され、ガラス原料6が全て溶融する。この結果、ガラス原料6の溶融物が、放射性廃棄物4の間の隙間に充填され、放射性廃棄物4が溶融されたガラス原料6により一体化されたガラス固化物8が固化容器3内に存在するガラス固化体9が作製される。このガラス固化体9は、断熱容器7から取り出されて蓋(図示せず)を取り付けて密封され、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に保管される。
【0035】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【0036】
ガラス原料6として、ホウケイ酸ガラス以外に実施例1で述べたガラスのうちの一種を用いてもよい。本実施例において、ガラス原料6により固化する放射性廃棄物4は、チタン酸塩化合物の吸着剤以外に、ゼオライト、クリノプチロライト、モルデナイト、チャバサイト、または不溶性フェロシアン化物であってもよい。
【実施例3】
【0037】
本発明の他の好適な実施例である実施例3の放射性廃棄物の固化処理方法を、図1及び図3を用いて説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、高線量の放射性廃棄物としてCs−137を1015Bq含む高線量の放射性廃棄物(例えば、Cs−137を吸着している不溶性フェロシアン化物を主成分とする放射性核種の使用済吸着材(以下、不溶性フェロシアン化物の吸着剤という))100kg、及びガラス原料であるガラス軟化点が約300℃のバナジウム系ガラス100kgを固化容器に充填して、ガラス固化体を作製した。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、以下に説明する。
【0038】
本実施例も、実施例1と同様に、ステップS1,S2及びS3の各工程によりガラス固化体9が作製される。ただし、本実施例におけるステップS2の断熱化処理では、実施例1及び2のステップS2で用いられた断熱容器7の替りに、減圧容器(第2容器)10が用いられる。
【0039】
本実施例では、廃棄物タンク1からの放射性廃棄物4である不溶性フェロシアン化物の吸着剤100kg、及びガラス原料タンク20からのガラス原料6であるバナジウム系ガラス100kgがステップS1においてそれぞれ充填された固化容器(第1容器)3が、ステップS2において、減圧容器10内に収納される。減圧容器10は、蓋10Aを取り付けて密封される。
【0040】
減圧容器10に接続された排気管12が減圧ポンプ11に接続される。さらに、排気管13が減圧ポンプ11に接続されている。ステップS2において、密封された減圧容器10内が、以下のように、減圧される。
【0041】
蓋10Aを減圧容器10に取り付けて減圧容器10を密封した後、減圧ポンプ11を駆動して排気管12に設けられた開閉弁(図示せず)を開き、固化容器3を収納している密封された減圧容器10内のガスを排気管12及び13を通して外部に排気する。減圧容器10内のガスの外部への排気は、密封された減圧容器10内の圧力が大気圧の1/10の圧力まで低下されるまで行われる。この減圧容器10内の圧力が大気圧の1/10の圧力になったとき、減圧ポンプ11が停止され、排気管12に設けられた開閉弁が閉じられる。放射性廃棄物(例えば、不溶性フェロシアン化物の吸着剤)4で及びガラス原料(バナジウム系ガラス)6を充填した固化容器3を取り囲む密封された減圧容器10内の圧力を、大気圧の1/10の圧力まで減圧することにより、断熱性は約10倍に向上する。
【0042】
密封された減圧容器10内を減圧することによって、減圧容器10内に減圧された断熱領域が形成される。放射性廃棄物4及びガラス原料6を充填した固化容器3は、密封された減圧容器10内の断熱領域に配置される。
【0043】
上記した減圧によって固化容器3を断熱することによって、固化容器3内に存在する放射性廃棄物4に含まれるCs−137の崩壊によって生じる放射線は、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6に吸収されて熱エネルギーに変わる。この熱エネルギーにより、蓋10A及び減圧容器10によって囲まれて減圧領域(断熱領域)内に存在する放射性廃棄物4及びガラス原料6が加熱されるため、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6のそれぞれの温度が上昇し、これらの放射性廃棄物4及びガラス原料6の温度は固化容器3内の位置によって不均一にならなくほぼ一様になる。
【0044】
例えば、Cs−137は、実施例1で述べたように、1壊変当たりに約1.15MeVのエネルギーの放射線を放出する。この放射線が、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6に吸収された場合、熱エネルギーに変化する。その放射性廃棄物4は1015BqのCs−137を含んでいるため、それぞれのCs−137から放出される放射線が、すべて、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6に吸収された場合には、1.15MeV×1015Bq=1.15E21eV/s、すなわち、184J/sの発熱速度の熱エネルギーが得られる。放射性廃棄物(Cs−137を吸着している不溶性フェロシアン化物の吸着剤)4及びガラス原料(バナジウム系ガラス)6の混合物の比熱が0.5J/(g・K)の場合、放射性廃棄物4及びガラス原料6のそれぞれの温度は1時間で約6.6℃上昇する。
【0045】
ステップS3では、ガラス固化体9が作製される。すなわち、断熱容器7及び蓋7Aを通して外部にいくらかの熱が逃げるため、実際の固化容器3の内部の温度上昇速度は、6.6℃/hよりも低下する。しかしながら、時間の経過とともに昇温は継続され、ガラス原料6が全て溶融する。この結果、ガラス原料6の溶融物が、放射性廃棄物4の間の隙間に充填され、放射性廃棄物4が溶融されたガラス原料6により一体化されたガラス固化物8が固化容器3内に存在するガラス固化体9が作製される。このガラス固化体9は、減圧容器10から取り出されて蓋(図示せず)を取り付けて密封され、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に保管される。
【0046】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。特に、本実施例では、密封された減圧容器10内の断熱領域に存在する放射性廃棄物4及びガラス原料6に加熱ムラが生じなく、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6はより均一な温度になる。さらに、本実施例では、放射性廃棄物4及びガラス原料6が存在する固化容器3を密封された減圧容器10内に収納して減圧容器10内を減圧するため、減圧の度合いを調節することにより、任意の断熱効果を得ることができる。
【0047】
ガラス原料6として、バナジウム系ガラス以外に実施例1で述べたガラスのうちの一種を用いてもよい。本実施例において、ガラス原料6により固化する放射性廃棄物4は、不溶性フェロシアン化物の吸着剤以外に、ゼオライト、クリノプチロライト、モルデナイト、チャバサイト、またはチタン酸塩化合物であってもよい。
【実施例4】
【0048】
本発明の他の好適な実施例である実施例4の放射性廃棄物の固化処理方法を、図1及び図4を用いて説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、高線量の放射性廃棄物としてCo−60を1015Bq含む高線量の放射性廃棄物(例えば、Co−60を含んでいる鉄酸化物を主成分とする固体状の廃棄物(以下、鉄酸化物という))100kg、及びガラス原料であるガラス軟化点が約700℃のソーダ石灰ガラス100kgを固化容器に充填して、ガラス固化体を作製した。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、以下に説明する。
【0049】
本実施例も、実施例1と同様に、ステップS1,S2及びS3の各工程によりガラス固化体9が作製される。ただし、本実施例におけるステップS1では固化容器3内に充填された放射性廃棄物(例えば、鉄酸化物)4及びガラス原料(ソーダ石灰ガラス)6が撹拌機で混合され、ステップS2の断熱化処理では、実施例1及び2のステップS2で用いられた断熱容器7の替りに、給気ポンプが設けられた給気配管、及び廃棄配管が接続された密封される断熱容器7が用いられる。
【0050】
本実施例では、廃棄物タンク1からの放射性廃棄物4である鉄酸化物100kg、及びガラス原料タンク20からのガラス原料6であるソーダ石灰ガラス100kgが、ステップS1において固化容器3にそれぞれ充填される。その後、ステップS1において、固化容器3内に撹拌機14が挿入され、この撹拌機14により、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6が混合される。
【0051】
放射性廃棄物4及びガラス原料6の混合が終了した後、これらを充填した固化容器3が、ステップS2において、断熱容器7内に収納される。断熱容器7は、蓋7Aを取り付けて密封される。給気ポンプ16及び開閉弁(図示せず)が設けられた給気配管17、及び開閉弁(図示せず)が設けられた排気配管18が、それぞれ、断熱容器7に接続されている。温度計19が断熱容器7に設置される。
【0052】
断熱容器7が密封された状態で、ステップS2の断熱化処理が、放射性廃棄物4及びガラス原料6を充填した固化容器3に対して行われる。密封された断熱容器7によって取り囲まれた固化容器3内に存在する放射性廃棄物4に含まれるCo−60の崩壊によって生じる放射線は、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6に吸収されて熱エネルギーに変わる。この熱エネルギーにより、蓋7A及び断熱容器7によって囲まれている放射性廃棄物4及びガラス原料6が加熱されて温度が上昇する。断熱容器7及び蓋7Aによって囲まれた固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6のそれぞれの温度は、固化容器3内の位置によって不均一にならなくほぼ一様になる。
【0053】
例えば、Co−60は1壊変当たりに約2.5MeVのエネルギーの放射線を放出する。この放射線が、固化容器3内の放射性廃棄物4とガラス原料6に吸収された場合、熱エネルギーに変化する。その放射性廃棄物4は1015BqのCo−60を含んでいるため、それぞれのCo−60から放出される放射線が、すべて、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6に吸収された場合には、2.5MeV×1015Bq=2.5E22eV/s、すなわち、4000J/sの発熱速度の熱エネルギーが得られる。放射性廃棄物(Co−60を含んでいる鉄酸化物)4及びガラス原料(ソーダ石灰ガラス)6の混合物の比熱が0.5J/(g・K)であるとき、放射性廃棄物4及びガラス原料6のそれぞれの温度は1時間で約144℃上昇する。
【0054】
ステップS3では、ガラス固化体9が作製される。すなわち、断熱容器7及び蓋7Aを通して外部にいくらかの熱が逃げるため、実際の固化容器3の内部の温度上昇速度は、144℃/hよりも低下する。しかしながら、時間の経過とともに昇温は継続され、ガラス原料6が全て溶融する。このとき、温度計19により、断熱容器7内の固化容器3の温度を測定する。固化容器3の温度がガラス原料(ソーダ石灰ガラス)6の溶融に適した温度である800℃に上昇したとき、それ以上、固化容器3の温度が上昇しないように、給気配管17に設けた開閉弁及び排気配管18に設けた開閉弁を開いて給気ポンプ16を駆動し、外部のガス(空気)を、給気配管17を通して断熱容器7内に供給し、固化容器3の温度を適切な温度に維持する。断熱容器7内に供給された空気は排気配管18を通して断熱容器7の外部に排出される。固化容器3の温度に基づいた断熱容器7内への空気の供給量は、給気ポンプ16の回転速度を制御することにより調節することができる。
【0055】
この結果、溶融したガラス原料6が、放射性廃棄物4の間の隙間に充填され、放射性廃棄物4が溶融されたガラス原料6により一体化されたガラス固化物8が固化容器3内に存在するガラス固化体9が作製される。このガラス固化体9は、断熱容器7から取り出されて蓋(図示せず)を取り付けて密封され、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に保管される。
【0056】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は、固化容器3内に充填された放射性廃棄物4及びガラス原料6を撹拌機14によって撹拌するので、均一なガラス固化体9をより短時間に作成することができる。さらに、本実施例では、断熱容器7内の固化容器3の測定された温度に基づいて断熱容器7内に供給するガス(例えば、空気)の供給量を調節するため、放射性核種(例えば、Co−60)の崩壊によって熱により固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6のそれぞれの温度が、ガラス固化に必要な温度以上に上昇することを防ぐことができる。このため、放射性廃棄物4に含まれる放射性核種の蒸発を抑制することができる。
【0057】
また、溶融したガラス原料6の固化時においても、固化容器3の測定された温度に基づいて断熱容器7内へのガスの供給量を調節することができるので、
ガラス固化時の温度を測定し、ガスの給気量を制御することで、ガラス原料6の冷却速度を調節することができる。このため、熱歪みによるガラス固化体9の割れを抑制することができる。
【0058】
ガラス原料6として、ソーダ石灰ガラス以外に実施例1で述べたガラスのうちの一種を用いてもよい。本実施例において、ガラス原料6により固化する放射性廃棄物4は、鉄酸化物以外に、ゼオライト、クリノプチロライト、モルデナイト、チャバサイト、不溶性フェロシアン化物またはチタン酸塩化合物であってもよい。
【実施例5】
【0059】
本発明の好適な一実施例である実施例5の放射性廃棄物の固化処理方法を、図5を用いて説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、高線量の放射性廃棄物としてCs−137を1016Bq含む高線量の放射性廃棄物(例えば、Cs−137を吸着しているゼオライト)100kg、及びガラス原料であるガラス軟化点が約700℃のソーダ石灰ガラス300kgを固化容器に充填して、ガラス固化体を作製した。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、以下に説明する。
【0060】
本実施例も、実施例1と同様に、ステップS1,S2及びS3の各工程によりガラス固化体9が作製される。ただし、本実施例におけるステップS1では放射性廃棄物4及びガラス原料6が固化容器3内に同時に供給され、ステップS2の断熱化処理では、実施例3と同様に減圧容器10が用いられる。
【0061】
本実施例では、ステップS1において、廃棄物タンク1からのCs−137を1016Bq含む高線量の、100kgの放射性廃棄物4、及びガラス原料タンク20からの300kgのガラス原料6のそれぞれが、固化容器3内に同時に供給される。放射性廃棄物4はゼオライトを主成分とする、Cs−137を吸着した使用済吸着材であり、ガラス原料6はソーダガラスである。放射性廃棄物4及びガラス原料6は固化容器3内で混合される。混合された放射性廃棄物4及びガラス原料6は、便宜的に、混合充填物15と称する。
【0062】
混合充填物15を充填した固化容器3は、実施例3と同様に、ステップS2において、減圧容器10内に収納される。温度計19が減圧容器10に取り付けられている。減圧容器10は蓋10Aが取り付けられて密封される。その後、実施例3と同様に、減圧ポンプ11を駆動し、密封された減圧容器10内の圧力を、大気圧の1/10の圧力まで低下させる。
【0063】
蓋10A及び減圧容器10によって囲まれて減圧された雰囲気内に、放射性廃棄物4及びガラス原料6を充填した固化容器3を配置した状態で、固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6のそれぞれが、放射性廃棄物4に含まれるCs−137の崩壊で発生する放射線により生じる熱エネルギーによって加熱される。外部と断熱状態にある固化容器3内の放射性廃棄物4及びガラス原料6のそれぞれの温度が上昇し、これらの放射性廃棄物4及びガラス原料6の温度は固化容器3内の位置によって不均一にならなくほぼ一様になる。
【0064】
この状態が保持されることにより、固化容器3内のガラス原料6が溶融し、放射性廃棄物4の間に存在する隙間に浸透する。温度計19によって測定された固化容器3の温度がガラス原料6の溶融に適した温度まで上昇したとき、固化容器3の温度、すなわち、ガラス原料6の温度が溶融に適した温度より高くならないように、減圧ポンプ11により減圧容器10内への給排気を行うことにより、減圧容器10内の圧力を制御する。この結果、ガラス原料6の温度が適切な温度に維持される。
【0065】
例えば、Cs−137は、前述したように、1壊変当たりに約1.15MeVのエネルギーの放射線を放出する。このため、1016BqのCs−137が放射性廃棄物4に含まれる場合、1840J/sの発熱速度発熱速度の熱エネルギーが得られる。そして、放射性廃棄物(Cs−137を吸着しているゼオライト)4及びガラス原料(ソーダ石灰ガラス)6の混合物の比熱が0.5J/(g・K)であるとき、放射性廃棄物4及びガラス原料6のそれぞれの温度は1時間で約33℃上昇する。
【0066】
ステップS3では、ガラス固化体9が作製される。すなわち、時間の経過とともに昇温は継続され、ガラス原料6が全て溶融する。この結果、ガラス原料6の溶融物が、放射性廃棄物4の間の隙間に充填され、放射性廃棄物4が溶融されたガラス原料6により一体化されたガラス固化物8が固化容器3内に存在するガラス固化体9が作製される。このガラス固化体9は、減圧容器10から取り出されて蓋(図示せず)を取り付けて密封され、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に保管される。
【0067】
本実施例は実施例3で生じる各効果を得ることができる。また、本実施例は、ガラス固化時において測定された固化容器3の温度に基づいて、減圧容器10内の減圧状態を制御するため、ガラス固化温度を任意に制御することができる。また、ガラス溶融後の冷却温度を制御することで熱歪みによるガラス固化体の割れを抑制することができる。
【0068】
ガラス原料6として、ソーダ石灰ガラス以外に実施例1で述べたガラスのうちの一種を用いてもよい。本実施例において、ガラス原料6により固化する放射性廃棄物4は、ゼオライト以外に、クリノプチロライト、モルデナイト、チャバサイト、不溶性フェロシアン化物またはチタン酸塩化合物であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…廃棄物タンク、3…固化容器(第1容器)、…放射性廃棄物、20…ガラス原料タンク、6…ガラス原料、7…断熱容器(第2容器)、8…ガラス固化物、10…減圧容器(第2容器)、11…減圧ポンプ、14…撹拌機、16…給気ポンプ、19…温度計。
図1
図2
図3
図4
図5